説明

硬貨識別装置

【課題】装置全体の小型化を図りながら、ゴミ等の付着による硬貨と磁気検知ユニットとの相対的な位置関係の変化を許容して硬貨の外径を良好に検出することができる硬貨識別装置を提供すること。
【解決手段】硬貨通路1に磁界を生じさせる第1励磁コイル111、硬貨(C)が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群を備えた第1磁気センサ11と、硬貨通路1に磁界を生じさせる第2励磁コイル121、硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群を備えた第2磁気センサ12と、第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12の少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号により硬貨の材質を検出する材質検出部312と、第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12のそれぞれの励磁コイル111,121のインピーダンス変化に応じた信号により硬貨の外径を検出する外径検出部312とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬貨識別装置に関し、より詳細には、投入された硬貨が通過する硬貨通路の近傍に配置された磁気検知ユニットを備え、この磁気検知ユニットを通じて硬貨通路を通過する硬貨の識別を行う硬貨識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、投入された硬貨が通過する硬貨通路の近傍に配置された磁気検知ユニットを備え、この磁気検知ユニットを通じて硬貨通路を通過する硬貨の識別を行う硬貨識別装置として次のようなものが知られている。
【0003】
例えば、磁気検知ユニットとしての外径センサ及び材質センサが硬貨通路の近傍において、硬貨の通過方向に沿って順に配置されてなるものである。外径センサは、硬貨通路を通過する硬貨の外径を検知するためのものであり、その幅は、該硬貨通路を通過する可能性のあるすべて硬貨の外径よりも十分に大きくしてある。材質センサは、硬貨通路を通過する硬貨の材質を検知するものである。
【0004】
このような磁気検知ユニットを有する硬貨識別装置では、外径センサの幅を通過可能性のあるすべての硬貨の外径よりも十分に大きくしてあるので、硬貨の周縁にゴミ等が付着することにより起因する外径センサと硬貨との相対的な位置関係の変化を許容して該硬貨の外径を良好に検出することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001−513232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した特許文献1に提案されている硬貨識別装置においては、外径センサの幅を通過可能性のあるすべての硬貨よりも十分に大きくしてあるので、装置全体の大型化を招来し、更に材質センサのような他のセンサとの相互の磁気的干渉を低減させる必要があることから、硬貨識別装置全体が大型化してしまう虞れがある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、装置全体の小型化を図りながら、ゴミ等の付着による硬貨と磁気検知ユニットとの相対的な位置関係の変化を許容して硬貨の外径を良好に検出することができる硬貨識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る硬貨識別装置は、投入された硬貨が通過する硬貨通路の近傍に配置された磁気検知ユニットを備え、該磁気検知ユニットを通じて前記硬貨通路を通過する硬貨の識別を行う硬貨識別装置において、前記磁気検知ユニットは、前記硬貨通路の所定個所近傍に配置され、該所定個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、前記励磁コイルの内部に配設され、前記所定個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第1磁気センサと、前記第1磁気センサよりも前記硬貨の通過方向に沿って下流となる前記硬貨通路の下流側個所近傍に配置され、該下流側個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、前記励磁コイルの内部に配設され、前記下流側個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第2磁気センサとを有してなり、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号により前記硬貨の材質を検出する材質検出手段と、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサのそれぞれの励磁コイルのインピーダンス変化に応じた信号により前記硬貨の外径を検出する外径検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る硬貨識別装置は、上述した請求項1において、前記材質検出手段は、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の和、並びに該検知コイル群のいずれかの構成要素が検知した磁界変化の信号のいずれか一方により前記硬貨の材質を検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る硬貨識別装置は、上述した請求項1又は請求項2において、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサのいずれかの検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の和、並びに該検知コイル群のいずれかの構成要素が検知した磁界変化の信号のいずれか一方により前記硬貨の厚みを検出する材厚検出手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る硬貨識別装置は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の差により前記硬貨表面の凹凸を検出する凹凸検出手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る硬貨識別装置は、上述した請求項4において、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの一方の励磁コイルは、他方の励磁コイルと異なる周波数で励磁を行うものであり、前記凹凸検出手段は、周波数の高い励磁コイルを備える磁気センサの検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の差により前記硬貨表面の凹凸を検出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に係る硬貨識別装置は、上述した請求項1〜5のいずれか一つにおいて、前記磁気検知ユニットは、前記第1磁気センサと前記第2磁気センサとの間隙を21mm以下の大きさにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬貨識別装置によれば、磁気検知ユニットが硬貨通路の所定個所近傍に配置され、該所定個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、励磁コイルの内部に配設され、所定個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第1磁気センサと、第1磁気センサよりも硬貨の通過方向に沿って下流となる硬貨通路の下流側個所近傍に配置され、該下流側個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、励磁コイルの内部に配設され、下流側個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第2磁気センサとを有してなり、材質検出手段が、第1磁気センサ及び第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号により硬貨の材質を検出し、外径検出手段が第1磁気センサ及び第2磁気センサのそれぞれの励磁コイルのインピーダンス変化に応じた信号により硬貨の外径を検出するので、従来のように個別に外径を検知するセンサを必要としないばかりか、第1磁気センサ及び第2磁気センサの幅を硬貨通路を通過する可能性のあるすべて硬貨の外径よりも十分に大きくする必要がなく、装置の小型化を図ることができる。しかも、硬貨の周縁にゴミ等が付着することにより起因する磁気センサと硬貨との相対的な位置関係の変化を吸収することにより許容でき、該硬貨の受付率に影響を与えない。従って、装置全体の小型化を図りながら、ゴミ等の付着による硬貨と磁気検知ユニットとの相対的な位置関係の変化を許容して硬貨の外径を良好に検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施の形態である硬貨識別装置の要部の回路構成を模式的に示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示した磁気検知ユニットの配置及び構成を模式的に示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示した磁気検知ユニットの配置及び構成を上方から見た場合を模式的に示す平面図である。
【図4】図4は、図2に示した第1磁気センサの縦断面図である。
【図5】図5は、図2に示した第1磁気センサの横断面図である。
【図6】図6は、図2に示した第1磁気センサと第2磁気センサとの位置関係を模式的に示す模式図である。
【図7】図7は、図2に示した第2磁気センサの縦断面図である。
【図8】図8は、図2に示した第2磁気センサの横断面図である。
【図9】図9は、硬貨が硬貨通路を通過した場合における第3検知コイル及び第4検知コイルの出力電圧の変化を時間の関数として示したものであり、50円硬貨が通過した場合を示す図表である。
【図10】図10は、硬貨が硬貨通路を通過した場合における第3検知コイル及び第4検知コイルの出力電圧の変化を時間の関数として示したものであり、500円硬貨が通過した場合を示す図表である。
【図11】図11は、複合材硬貨の構成を示す縦断面図である。
【図12】図12は、複合材硬貨を適用対象とした場合における磁気検知ユニットの配置及び構成を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る硬貨識別装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である硬貨識別装置の要部の回路構成を模式的に示す模式図である。ここで例示する硬貨識別装置は、磁気検知ユニット10及び制御部30を備えて構成してある。
【0018】
磁気検知ユニット10は、図2及び図3に示すように、図示せぬ投入口より投入された硬貨Cが通過する硬貨通路1の近傍に配置してあり、第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12を備えている。尚、図3に示すように、第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12は、それぞれ硬貨通路1を挟んで磁気センサが対向配置してなる一対のものであるが、対向配置された磁気センサの構成は第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12のそれぞれと同様の構成を有していることから、本実施の形態では、これら対向配置された磁気センサの説明は割愛する。
【0019】
第1磁気センサ11は、第1励磁コイル111、第1検知コイル112及び第2検知コイル113を備えて構成してある。
【0020】
第1励磁コイル111は、図4及び図5に示すように環状をなしており、発振回路21aから与えられる発振周波数に応じて硬貨通路1に磁界(例えば20kHz程度)を生じさせるものである。
【0021】
このような第1励磁コイル111により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第1励磁コイル用検出回路22aでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0022】
第1検知コイル112は、図4及び図5に示すように、第1励磁コイル111の径内側に設けられた検知コイル群を構成し、コの字型の鉄芯2の一方のロッド部2aに巻回されて配設してある。この鉄芯2は、例えばパーマロイ、珪素鋼板、鉄等を剪断加工した板状の断片を単数枚や複数枚を積層して構成したもの、あるいはフェライト等を焼結させて構成したものである。尚、ここで例示した鉄芯2はコの字型を有するものであったが、本発明ではこれに限定されないことはいうまでもない。
【0023】
この第1検知コイル112は、硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの第1励磁コイル111により形成された磁界の変化を検知するものである。このような第1検知コイル112により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第1検知コイル用検出回路23aでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0024】
第2検知コイル113は、上述した第1検知コイル112と同様に検知コイル群を構成し、上記鉄芯2の他方のロッド部2bに巻回されて配設してあり、第1検知コイル112よりも硬貨通路1の下流側に位置している。この第2検知コイル113は、硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの第1励磁コイル111により形成された磁界の変化を検知するものである。このような第2検知コイル113により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第2検知コイル用検出回路24aでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0025】
第2磁気センサ12は、第2励磁コイル121、第3検知コイル122及び第4検知コイル123を備えて構成してある。この第2磁気センサ12は、第1磁気センサ11よりも硬貨Cの通過方向に沿って下流側であって、第1磁気センサ11との間隙(図2に示す距離L)が21mm以下となる個所に配置してある。ここで21mmとは、もっとも外径の小さい50円硬貨の外径の大きさであり、これにより図6に示すように、硬貨通路1を通過する可能性のあるすべての硬貨、すなわち50円硬貨C1、100円硬貨C2、10円硬貨C3及び500円硬貨C4のいずれかが硬貨通路1を通過する場合に、必ず第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12に対して同時に重なるタイミングが生じる。
【0026】
尚、図6においては、第1磁気センサ11の第1励磁コイル111、第2磁気センサ12の第2励磁コイル121にハッチングを付しているが、これは説明の便宜のためであり、断面を示しているわけではない。
【0027】
第2励磁コイル121は、図7及び図8に示すように環状をなしており、上述した第1励磁コイル111と同じ大きさを有している。この第2励磁コイル121は、発振回路21bから与えられる発振周波数に応じて硬貨通路1に磁界を生じさせるもので、本実施の形態では、第1励磁コイル111よりも高い周波数(例えば120〜140kHz程度)の磁界を硬貨通路1に生じさせるものである。
【0028】
このような第2励磁コイル121により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第2励磁コイル用検出回路22bでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0029】
第3検知コイル122は、図7及び図8に示すように、第2励磁コイル121の径内側に設けられた検知コイル群を構成し、コの字型の鉄芯3の一方のロッド部3aに巻回されて配設してある。この鉄芯3は、例えばパーマロイ、珪素鋼板、鉄等を剪断加工した板状の断片を単数枚や複数枚を積層して構成したもの、あるいはフェライト等を焼結させて構成したものである。尚、ここで例示した鉄芯3はコの字型を有するものであったが、本発明ではこれに限定されないことはいうまでもない。
【0030】
この第3検知コイル122は、硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの第2励磁コイル121により形成された磁界の変化を検知するものである。このような第3検知コイル122により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第3検知コイル用検出回路23bでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0031】
第4検知コイル123は、上述した第3検知コイル122と同様に検知コイル群を構成し、上記鉄芯3の他方のロッド部3bに巻回されて配設してあり、第3検知コイル122よりも硬貨通路1の下流側に位置している。この第4検知コイル123は、硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの第2励磁コイル121により形成された磁界の変化を検知するものである。このような第4検知コイル123により硬貨通路1を硬貨Cが通過したことによるインピーダンスの変化は、第4検知コイル用検出回路24bでアナログ信号として出力され、AD変換器25を通じて該信号がデジタル信号に変換されて制御部30に与えられる。
【0032】
制御部30は、例えばCPUであり、図示せぬメモリに予め記憶されたプログラムやデータに基づいて種々の演算や判定を行うものであり、本実施の形態において特徴的な構成要素として、検出部31及び判定部32を備えて構成してある。
【0033】
検出部31は、硬貨通路1を通過する硬貨Cの4つの要素を検出するものであり、外径検出部311、材質検出部312、材厚検出部313及び凹凸検出部314を備えている。
【0034】
外径検出部311は、硬貨Cの外径を検出するものである。この外径検出部311では、第1励磁コイル用検出回路22aから与えられたデジタル変換済の信号と、第2励磁コイル用検出回路22bから与えられたデジタル変換済の信号とを入力し、これら入力した信号と、予めメモリ等に記憶された外径用閾値とを比較して、当該硬貨Cの外径が50円硬貨、100円硬貨、10円硬貨、500円硬貨のいずれの大きさに相当するものであるかを検出するものである。
【0035】
材質検出部312は、硬貨Cの材質を検出するものである。この材質検出部312は、第1検知コイル用検出回路23aから与えられたデジタル変換済の信号を入力し、入力した信号と、予めメモリ等に記憶された材質用閾値とを比較して、当該硬貨Cが50円硬貨及び100円硬貨の材質である「白銅」に相当するものか、500円硬貨の材質である「ニッケル黄銅」に相当するものか、10円硬貨の材質である「青銅」に相当するものであるかを検出するものである。
【0036】
材厚検出部313は、硬貨Cの厚み(材厚)を検出するものである。この材厚検出部313は、第1検知コイル用検出回路23a及び第2検知コイル用検出回路24aのそれぞれから与えられたデジタル変換済の信号を入力してこれらの変化電圧の和を算出し、算出した変化電圧の和と、予めメモリ等に記録された材厚用閾値とを比較して、当該硬貨Cの厚みが50円硬貨、100円硬貨、10円硬貨、500円硬貨のいずれの大きさに相当するものであるかを検出するものである。ここで変化電圧とは、硬貨Cがある状態とない状態との差の電圧のことである。
【0037】
凹凸検出部314は、硬貨Cの表面の凹凸を検知するものである。この凹凸検出部314は、第3検知コイル用検出回路23b及び第4検知コイル用検出回路24bのそれぞれから与えられたデジタル変換済の信号を入力してこれらの変化電圧の差を時間の関数として算出し、これにより該硬貨Cの表面の凹凸の有無を検出するものである。
【0038】
この凹凸検出部314による硬貨Cの表面における凹凸の有無の検出について具体例を示して説明する。
【0039】
図9及び図10は、それぞれ硬貨Cが硬貨通路1を通過した場合における第3検知コイル122及び第4検知コイル123の出力電圧の変化を時間の関数として示したものであり、図5は50円硬貨が通過した場合、図6は500円硬貨が通過した場合を示す図表である。
【0040】
図5において、(イ)は第3検知コイル122と第4検知コイル123との変化電圧の差を示している。この(イ)において、a及びbは、50円硬貨の周縁部のエッジを検知したものであり、cは、50円硬貨の中央部に形成された孔を検知したものである。
【0041】
図6において、(ロ)は第3検知コイル122と第4検知コイル123との変化電圧の差を示している。この(ロ)において、a及びbは、500円硬貨の周縁部のエッジを検知したものである。ところで、500円硬貨には50円硬貨のように中央部に孔が形成されていないから、図5に示すようなcの部分が検知されない。
【0042】
このことから、第3検知コイル122と第4検知コイル123との変化電圧の差により硬貨Cの表面の凹凸を良好に検知することができることが明らかである。
【0043】
判定部32は、検出部31による各検知結果を入力して硬貨Cの種別及び真贋を判定するものである。ここでは具体的な判定手法について詳細には述べないが、判定部32は、硬貨通路1を硬貨Cが通過することにより、外径検出部311により50円硬貨の外径に相当する大きさを有するものと検出され、材質検出部312により白銅に相当するものと検出され、材厚検出部313により50円硬貨の厚みに相当するものと検出され、更に凹凸検出部314により図9に示すような凹凸(a部分、b部分及びc部分)を検出された場合には、当該硬貨Cは50円硬貨であると判定する。その一方、4つの検知要素のうち1つでも50円硬貨に相当しない検出がなされた場合、具体的には、凹凸検出部314により図9に示すような凹凸(c部分)が検出されない場合には、当該硬貨Cは偽と判定する。
【0044】
かかる判定部32により識別及び真贋の判定がなされると、制御部30は、図示せぬ硬貨C振分用ソレノイドや硬貨Cカウンターを駆動させ、偽と判定した硬貨Cの返却、真として識別された硬貨Cの収納を行うことになる。
【0045】
以上説明したような本実施の形態である硬貨識別装置においては、硬貨通路1に磁界を生じさせる第1励磁コイル111と、該第1励磁コイル111の内部に配設され、かつ該硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの磁界変化を検知する第1検知コイル112及び第2検知コイル113とを備えた第1磁気センサ11、並びに硬貨通路1に磁界を生じさせる第2励磁コイル121と、該第2励磁コイル121の内部に配設され、かつ該硬貨通路1を硬貨Cが通過するときの磁界変化を検知する第3検知コイル122及び第4検知コイル123とを備えた第2磁気センサ12を、該第2磁気センサ12が第1磁気センサ11よりも硬貨Cの通過方向に沿って下流側となる態様で配設してある。そして、制御部30の材質検出部312が、第1検知コイル112により検知された硬貨Cの通過によるインピーダンス変化の信号に基づき該硬貨Cの材質を検出し、制御部30の外径算出部311が、第1励磁コイル111により検知された硬貨Cの通過によるインピーダンス変化の信号、並びに第2励磁コイル121により検知された同硬貨Cの通過によるインピーダンス変化の信号に基づき該硬貨Cの外径を検出している。
【0046】
そのため従来のように個別に外径を検知するセンサを必要としないばかりか、それぞれのセンサ11,12の幅を、硬貨通路1を通過する可能性のあるすべて硬貨Cの外径よりも十分に大きくする必要がない。これにより装置全体の小型化を図ることができる。
【0047】
また、2つの磁気センサ11,12における第1励磁コイル111及び第2励磁コイル121を用いて通過する硬貨Cの外径を検出するので、該硬貨Cの周縁にゴミ等が付着することにより起因する磁気センサ11,12と硬貨Cとの相対的な位置関係の変化を吸収することにより許容でき、該硬貨Cの受付率に影響を与えない。
【0048】
従って、本実施の形態である硬貨識別装置によれば、装置全体の小型化を図りながら、ゴミ等の付着による硬貨Cと磁気検知ユニット10との相対的な位置関係の変化を許容して硬貨Cの外径を良好に検出することができる。
【0049】
上記硬貨識別装置によれば、第1検知コイル112及び第2検知コイル113のそれぞれにより検知されたインピーダンス変化の信号の和、すなわち変化電圧の和に基づき材厚検出部313で該硬貨Cの厚みを検出しているので、第1励磁コイル111及び検出コイル112,113を材質及び材厚の検出項目毎に別個に設ける必要なく、共通化させることができる。
【0050】
また、上記硬貨識別装置によれば、第3検知コイル122及び第4検知コイル123のそれぞれにより検出されたインピーダンス変化の信号の差、すなわち変化電圧の差に基づき凹凸検出部314で該硬貨Cの表面の凹凸を検出しているので、通過する硬貨Cの材質、外径、材厚及び凹凸の4要素をそれぞれの要素毎に励磁コイル111,121や検出コイル112,113,122,123を設ける必要がなく、共通化させることができる。
【0051】
そのため本実施の形態である硬貨識別装置によれば、励磁コイル111,121及び検出コイル112,113,122,123の共通化させることができるので、装置全体の小型化だけでなく、部品点数の削減によるコストの低減化を図ることができる。
【0052】
特に、通過する硬貨Cの表面の凹凸を検出する場合には、第1磁気センサ11よりも周波数が高い(例えば120〜140kHz程度)磁界を生ずる第2磁気センサ12の第3検知コイル122及び第4検知コイル123の検知結果を利用するので、より表面の凹凸の検出を簡易かつ良好に行うことができる。
【0053】
更に、上記硬貨識別装置によれば、磁気検知ユニット10を構成する第1磁気センサ11と第2磁気センサ12との間隔を21mm以下の大きさにしてあるので、硬貨通路1を通過する可能性のあるすべての硬貨C、すなわち50円硬貨C1、100円硬貨C2、10円硬貨C3及び500円硬貨C4のいずれかが硬貨通路1を通過する場合に、必ず第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12に対して同時に重なるタイミングが生じることになり、これによりすべての硬貨Cについて良好に4要素の検出、並びに識別を行うことができる。
【0054】
以上本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
【0055】
上述した実施の形態における硬貨識別装置は、50円硬貨、100円硬貨、10円硬貨及び500円硬貨のような通常用いられている硬貨Cを適用対象とするものであったが、本発明においては、このような硬貨Cに限定されず、図11に示すような複合材硬貨40を適用対象としてもよい。以下に複合材硬貨40を適用対象とする場合についての硬貨識別装置について述べる。尚、上述した実施の形態である硬貨識別装置と同様の構成を有するものについての説明は省略する。
【0056】
まず複合材硬貨40について説明する。複合材硬貨40とは、例えば記念硬貨のようなものであり、円環状のリング部分41と、そのリング部分41の中空部分に適合する円板状のコア部分42とを有してなるものであり、リング部分41とコア部分42との材質が異なるものである。また、コア部分42は、表層部分421と中層部分422とで材質が異なるいわゆるサンドイッチ構造を有するものである。
【0057】
このような複合材硬貨40を適用対象とする硬貨識別装置においては、第1磁気センサ11及び第2磁気センサ12のそれぞれの外径、すなわち第1励磁コイル111及び第2励磁コイル121のそれぞれの外径は、図12に示すようにリング部分41の幅と同等、あるいはそれ以下の大きさであることが好ましい。
【0058】
また、制御部30の材質検出部312は、上述した実施の形態における硬貨識別装置のように第1検知コイル用検出回路23aから与えられたデジタル変換済の信号を入力するだけでなく、第3検知コイル用検出回路23bから与えられたデジタル変換済の信号を入力し、これら2つの信号と、メモリ等に予め記憶された材質用閾値とを比較して複合材硬貨40の材質を検出することが好ましい。
【0059】
ここで、第1検知コイル112の検知結果だけでなく、第3検知コイル122の検知結果も利用するのは、第1検知コイル112で検知できるのは第1励磁コイル111により生じる磁界(例えば20kHz程度)の変化、すなわち複合材硬貨40全体を透過する磁界の変化であるのに対し、第3検知コイル122で検知できるのは、第2励磁コイル121により生じる磁界(例えば120〜140kHz程度)の変化、すなわち複合材硬貨40の表層を透過する磁界の変化であるため、リング部分41だけでなく、サンドイッチ構造を有するコア部分42の材質を良好に検出することができるからである。
【0060】
このような構成を有する硬貨識別装置によれば、装置全体の小型化を図りながら、ゴミ等の付着による硬貨Cと磁気検知ユニット10との相対的な位置関係の変化を許容して硬貨Cの外径を良好に検出することができ、更に記念硬貨のような複合材硬貨40についても材質を良好に検出することができる。
【0061】
また、上述した実施の形態である硬貨識別装置では、材質検出部312が第1検知コイル用検出回路23aから与えられたデジタル変換済の信号に基づき硬貨Cの材質を検出していたが、本発明においては、材質検出部312は、第2検知コイル用検出回路24aから与えられたデジタル変換済の信号に基づき硬貨Cの材質を検出してもよいし、第1検知コイル用検出回路23a及び第2検知コイル用検出回路24aのそれぞれから与えられたデジタル変換済の信号を入力してこれらの変化電圧の和を算出し、算出した変化電圧の和に基づき硬貨Cの材質を検出してもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態である硬貨識別装置では、材厚検出部313が第1検知コイル用検出回路23a及び第2検知コイル用検出回路24aのそれぞれから与えられたデジタル変換済の信号を入力してこれらの変化電圧の和を算出し、算出した変化電圧の和に基づき硬貨Cの厚みを検出していたが、本発明においては、材厚検出部313は、第1検知コイル用検出回路23aから与えられたデジタル変換済の信号に基づき硬貨Cの厚みを検出してもよいし、第2検知コイル用検出回路24aから与えられたデジタル変換済の信号に基づき硬貨Cの厚みを検出してもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態である硬貨識別装置では、第1磁気センサ11を利用して硬貨Cの材質及び材厚を、第2磁気センサ12を利用して硬貨Cの表面の凹凸を検出していたが、本発明においては、第1磁気センサ11のみで硬貨Cの材質、材厚、表面の凹凸を検出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明に係る硬貨識別装置は、硬貨通路を通過する硬貨の材質及び外径を検出するのに有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 硬貨通路
2,3 鉄芯
10 磁気検知ユニット
11 第1磁気センサ
111 第1励磁コイル
112 第1検知コイル
113 第2検知コイル
12 第2磁気センサ
122 第3検知コイル
123 第4検知コイル
21a,21b 発振回路
22a 第1励磁コイル用検出回路
22b 第2励磁コイル用検出回路
23a 第1検知コイル用検出回路
24a 第2検知コイル用検出回路
23b 第3検知コイル用検出回路
24b 第4検知コイル用検出回路
25 AD変換器
30 制御部
31 検出部
311 外径検出部
312 材質検出部
313 材厚検出部
314 凹凸検出部
32 判定部32
C 硬貨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投入された硬貨が通過する硬貨通路の近傍に配置された磁気検知ユニットを備え、該磁気検知ユニットを通じて前記硬貨通路を通過する硬貨の識別を行う硬貨識別装置において、
前記磁気検知ユニットは、
前記硬貨通路の所定個所近傍に配置され、該所定個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、前記励磁コイルの内部に配設され、前記所定個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第1磁気センサと、
前記第1磁気センサよりも前記硬貨の通過方向に沿って下流となる前記硬貨通路の下流側個所近傍に配置され、該下流側個所に磁界を生じさせる環状の励磁コイルと、前記励磁コイルの内部に配設され、前記下流側個所を硬貨が通過するときの磁界変化を検知する検知コイル群とを備えた第2磁気センサと
を有してなり、
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号により前記硬貨の材質を検出する材質検出手段と、
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサのそれぞれの励磁コイルのインピーダンス変化に応じた信号により前記硬貨の外径を検出する外径検出手段と
を備えたことを特徴とする硬貨識別装置。
【請求項2】
前記材質検出手段は、前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の和、並びに該検知コイル群のいずれかの構成要素が検知した磁界変化の信号のいずれか一方により前記硬貨の材質を検出することを特徴とする請求項1に記載の硬貨識別装置。
【請求項3】
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサのいずれかの検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の和、並びに該検知コイル群のいずれかの構成要素が検知した磁界変化の信号のいずれか一方により前記硬貨の厚みを検出する材厚検出手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬貨識別装置。
【請求項4】
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの少なくとも一方における検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の差により前記硬貨表面の凹凸を検出する凹凸検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の硬貨識別装置。
【請求項5】
前記第1磁気センサ及び前記第2磁気センサの一方の励磁コイルは、他方の励磁コイルと異なる周波数で励磁を行うものであり、
前記凹凸検出手段は、周波数の高い励磁コイルを備える磁気センサの検知コイル群の構成要素が検知した磁界変化の信号の差により前記硬貨表面の凹凸を検出することを特徴とする請求項4に記載の硬貨識別装置。
【請求項6】
前記磁気検知ユニットは、前記第1磁気センサと前記第2磁気センサとの間隙を21mm以下の大きさにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の硬貨識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−218156(P2010−218156A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63347(P2009−63347)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】