説明

磁場中熱処理装置

中心に軸孔が形成された円板状の記録媒体1をチャンバー10内に挿入して、この記録媒体1を磁場中で熱処理を行うための磁場中熱処理装置であって、チャンバー内に磁場を形成するための磁気回路が設けられ、この磁気回路は、軸孔の軸方向に沿って距離をおいて配置され、磁場の向きが対向する一対の磁石4,5と、この一対の磁石4,5の間に配置される第1強磁性体6とを備え、一対の磁石4,5が向かい合う中間位置に、軸孔に第1強磁性体6が挿通された状態で処理対象である記録媒体1が配置されるように構成した。好ましくは、記録媒体1の周囲にリング状の第2強磁性体7を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、中心に軸孔が形成された円板状の記録媒体をチャンバー内に挿入して、この記録媒体を磁場中で熱処理を行うための磁場中熱処理装置に関する。
【背景技術】
ハードディスク等の記録媒体にデータを記録するに際して、垂直磁気記録方式が知られている。垂直磁気記録方式は、長手方向記録方式に比べて記録密度を飛躍的に増大できる可能性があり注目されている技術である。垂直磁気記録方式において使用される磁気ヘッド及び記録媒体の関係の1つの具体例を図5に示す。図5において、記録媒体を挟むように主磁極2と補助磁極3が配置される。記録媒体1は、主磁極側から順に磁性膜1a、軟磁性膜1b、基板1cにより構成される。データが実際に記録されるのは磁性膜1aであり、図示しているように垂直方向(図の上下方向)に磁化される。また、磁気ヘッドによる読み取り性能を上げるために、磁性膜1aと基板1cの間に軟磁性膜1bを設けている。この軟磁性膜1bにおける磁化方向は、磁性膜1aにおける磁化方向に対して垂直(図5の水平方向)である。
かかる垂直磁気記録方式に用いられる記録媒体において、磁性膜1aには、記録媒体の主面に垂直な方向(磁化方向)の磁気異方性が要求され、軟磁性膜1bには、記録媒体の主面に沿った方向の磁気異方性が要求される。そのために、記録媒体に対して磁場中で熱処理を行っている。そのための磁場中熱処理装置を図3に示す。
図3において、中央部にチャンバー10が設けられ、このチャンバー内に記録媒体1が配置される。チャンバー10の外側には、チャンバー10を上下方向から挟むように一対の強磁性体20と電磁コイル21が配置される。チャンバー内に形成される磁場の方向は図示されている通りである。そのため、一対の強磁性体20は、磁場の向きが対向するように電磁コイル21に電圧印加がされる。磁場を形成した状態で、例えば500℃程度の温度で磁場中熱処理を行う。その他、磁場中熱処理装置としては、特開昭61−177630号公報に開示される磁気記録媒体の製造方法や、特開平11−25424号公報に開示される磁場印加装置等が例としてあげられる。
また、上述したように、磁性膜には垂直方向の、軟磁性膜には水平方向の磁気異方性が要求されるため、チャンバー内に形成される磁場についても、記録媒体1が配置される中央位置における磁場の方向は、できるだけ水平にすることが望ましい。
しかし、図3の装置構成では、磁気回路がチャンバー10の外部に設けられるため、軟磁性膜が配置される位置における磁化方向の水平性の精度がよくない。さらに、磁気回路の構成要素をチャンバー10の外側に配置しているため、装置が大型化するという問題点も有している。
そこで、図4に示すように、磁気回路を磁場の向きが対向するように一対の永久磁石22を配置し、これらをチャンバー10内に設置する構成が考えられる。電磁石ではなく永久磁石22を用いることで、磁気回路をチャンバー内に容易に配置することができる。また、一対の永久磁石22を近接させることができるので、磁化方向の水平性の精度が図3の構成に比較して改善される。さらに、チャンバー内に永久磁石22を配置することで、磁気回路を小型化することもできる。
しかしながら、図4に示す磁気回路の構成でも、磁化方向の水平性の精度という点では、まだ不十分であった。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、磁性膜及び軟磁性膜を有する記録媒体を磁場中熱処理するにあたり、記録媒体が配置される位置での磁場方向の水平性の精度を改善した磁場中熱処理装置を提供することである。
【発明の開示】
上記課題を解決するため本発明に係る磁場中熱処理装置は、
中心に軸孔が形成された円板状の記録媒体をチャンバー内に挿入して、この記録媒体を磁場中で熱処理を行うための磁場中熱処理装置であって、
前記チャンバー内に磁場を形成するための磁気回路が設けられ、
この磁気回路は、
前記軸孔の軸方向に沿って距離をおいて配置され、磁場の向きが対向する一対の磁石と、
この一対の磁石の間に配置される第1強磁性体とを備え、
前記一対の磁石が向かい合う中間位置に、前記軸孔に前記第1強磁性体が挿通された状態で処理対象である記録媒体が配置されるように構成したことを特徴とするものである。
この構成による磁場中熱処理装置の作用・効果は、以下の通りである。まず、チャンバー内に磁気回路を構成する構成要素としての一対の磁石が配置され、これらは磁場の向きが対向するように配置されている。そして、これら一対の磁石の間に第1強磁性体が配置される。記録媒体は中心に軸孔が形成された円板状であり、この軸孔に第1強磁性体が挿通された状態で磁場中熱処理が行われる。一対の磁石から出る磁力線は、お互いに反発しあうので、一対の磁石が向かい合う中間位置では、磁場(磁力線)の向きは水平方向になるように作用する。そして、第1強磁性体を配置することで、一対の磁石から出てきた磁力線の多くは、第1強磁性体の内部を通過する方向に作用する。従って、中間位置における磁化方向は、より水平な方向になるように仕向けられる。その結果、磁性膜及び軟磁性膜を有する記録媒体を磁場中熱処理するにあたり、記録媒体が配置される位置での磁場方向の水平性の精度を改善した磁場中熱処理装置を提供することができる。
上記の構成において、前記配置される記録媒体の外周にリング状の第2強磁性体を配置することが好ましい。
かかる第2強磁性体を配置することで、更に、磁化方向の水平性を改善することができる。
前記磁石は、組成にFe,Ni,Co,Al,Tiを含むものが好ましい。熱処理を行うに際してチャンバー内は高温になるが、上記組成の磁石は、かかる高温雰囲気中でも磁気特性を維持することができる。
また、前記第1強磁性体は、飽和磁化が1.5T(テスラ)以上、2.4T以下であることが好ましい。これにより、磁化方向の水平性を改善することができる。1.5T未満では、要求される磁気異方性を得ることができない。
前述のリング状部材を形成するにあたり、前記第2強磁性体が異方性磁石であることが好ましい。
永久磁石とすることで、磁化方向の水平成分を更に増大させることができる。永久磁石としては、特性的な面からアルニコ磁石を使用することが好ましい。
また、熱処理温度が25℃〜300℃程度の場合、Nd−Fe−B系に代表されるR−T−B系磁石やSm−Co磁石を用いてもよい。
リング状部材を形成する場合、単一の部材として形成しても良いが、製造の容易さ等を考慮して、複数のセグメントをリング状に並べて配置することで形成しても良い。
セグメントをリング状に並べて配置する方法としては、ステンレス鋼のような非磁性のリング状容器にセグメントを置く部屋を設け、そのセグメントを部屋に載置し、非磁性材(ステンレス鋼)にて部屋を封止する方法を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、第1実施形態に係る磁場中熱処理装置の構成を示す概念図
図2は、第2実施形態に係る磁場中熱処理装置の構成を示す概念図
図3は、従来技術に係る磁場中熱処理装置の構成を示す図
図4は、従来技術の改善例を示す
図5は、磁気ヘッド及び記録媒体の関係を示す図
図6は、セグメントをリング状に配置する構成例を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る磁場中熱処理装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態に係る磁場中熱処理装置の構成を示す概念図である。
<第1実施形態の構成>
図1において、チャンバー10内に一対の永久磁石4,5が磁場の向き(矢印で図示)が対向するように配置されている。永久磁石4,5は、円筒形を有している。また、一対の永久磁石4,5の間には、同じ円筒形の第1強磁性体6が配置されている。永久磁石4,5の各端面(N極側)と、第1強磁性体6の両端面とは密着した状態となるように配置される。また、永久磁石4,5と第1強磁性体6の円筒軸方向は一致しており、外径寸法も同じにしている。これにより、漏れ磁束が極力少なくなるようにしている。
処理対象である記録媒体1は、図1に想像線で示している。記録媒体1は円板状であり、その中心に軸孔が形成されている。この軸孔に、第1強磁性体6が挿通された状態となっている。記録媒体1の代表的な構造は図5に示した通りである。すなわち、基板と軟磁性膜と磁性膜により構成されている。なお、記録面は片面に限らず両面であってもよい。記録媒体1の軟磁性膜が、一対の永久磁石4,5が向かい合う中間位置に配置されるように設定される。具体的には、N極同士が向かい合っている中間位置に配置される。この中間位置では、磁力線が反発しあい、磁場の方向が水平になるからである。すなわち、N極の近傍では磁場の方向は垂直(記録面に対して直角)であり、これが徐々に曲げられて、記録媒体1の軟磁性膜の位置では水平(記録面に対して平行)となる(図3参照)。磁場の方向も、できるだけ急峻に曲げられる方が好ましい。これにより、記録媒体の軟磁性膜については磁化方向の水平性、磁性膜については磁化方向の垂直性を持たせることができる。
一対の永久磁石4,5は、組成にFe,Ni,Co,Al,Tiを含む材料で形成することが好ましい。例えば、アルニコ磁石を使用することができる。磁場中熱処理では、チャンバー10内の温度は磁性膜の材質によって25℃〜500℃の範囲となるが、かかる温度範囲においてもアルニコ磁石では磁気特性が低下することがない。その他に、サマリウム・コバルト磁石を使用しても良い。以上のような永久磁石を使用することで、チャンバー内に磁石を設置することができる。
また、磁場中熱処理温度が300℃以下の場合、Nd−Fe−B系に代表されるR−T−B系磁石を用いてもよい。R−T−B系磁石は磁束密度も高く、磁気回路がより小型化される。R−Fe−B系希土類磁石の組成及び製造方法は、例えば、米国特許第4,770,723号及び米国特許第4,792,368号に記載されている。
また、第1強磁性体6として、SS400やS15C等の材料を使用することができる。
一対の永久磁石4,5の間に配置される第1強磁性体6の軸方向の厚みは、記録媒体1の磁性膜1aの厚みや軟磁性膜1bの厚みに対して35倍〜45倍にするのがよい。この第1強磁性体6により、漏洩磁束を所定の磁界空間へ集中させることができ、中間位置における磁化方向の水平成分を増大させることができる。また、第1強磁性体6の飽和磁化は1.5T以上、2.4T以下のものを使用することが好ましい。
<第2実施形態の構成>
次に、第2実施形態に係る磁場中熱処理装置の構成を図2により説明する。図1の構成と異なる点は、記録媒体1の外周位置(円板の端面の外側)にリング状の第2強磁性体7が配置されていることである。その他の構成は、第1実施形態と同じである。第2強磁性体7は、第1強磁性体6と同じ材料を使用することができる。また、第2強磁性体7の厚みは、第1強磁性体6の厚みよりも薄くし、第1強磁性体6に対して1/1.5〜1/8程度にすることが好ましい。このリング状の第2強磁性体7により、漏洩磁束を所定の磁場空間内に更に集中させることができる。これにより、中間位置における磁化方向の水平成分を更に増大させることができる。
以上のような構成により、記録媒体1に形成された磁性膜1aの磁気異方性を垂直方向とし、軟磁性膜1bの磁気異方性を水平方向とすることができる。
図1,2,4に示す各構成について、磁界強度を理論計算し比較した。磁界強度Bは、中間位置(原点)におけるXY平面内方向の強度である。XYZ軸の原点は、記録媒体1が配置される中間位置にある。磁界強度Bzは中間位置(原点)におけるZ軸方向(記録媒体の軸方向でもある)の強度である。
比較例(図4)・・・B=125G(ガウス)
Bz=6.6G
第1実施形態(図1)・・・B=210G
Bz=1.7G
第2実施形態(図2)・・・B=278G
Bz=1.4G
第1実施形態では、比較例に対してBの値が大きくなり、かつ、Bzの値がかなり少なくなっている。これにより、中間位置における磁化方向の水平性が高まっていることが分かる。また、中間位置においては、垂直成分Bzがかなり減少している。第2実施形態の場合は、更にその傾向が顕著になる。すなわち、第1強磁性体6や第2強磁性体7を配置することで、磁場特性を改善することが確かめられた。
<作用>
本発明に係る磁場中熱処理装置を用いて記録媒体を製造する場合の工程を簡単に説明する。まず、基板1cの上に磁性膜1aと軟磁性膜1bを形成した記録媒体1を磁場中熱処理装置内の所定位置に設置する。記録媒体1の中心には軸孔が形成されていおり、図1又は図2の磁気回路を予め記録媒体1に対してセットした状態にして、装置内に挿入する。リング状の第2強磁性体7を用いる場合は、記録媒体1の主面と同一水平面上になるように、記録媒体1の外周にセットする。磁場中熱処理装置内に設置した後、装置内の温度を例えば500℃とし、磁性膜1aの磁化方向が所定の方向になるように熱処理を行う。所定時間経過後、冷却することで磁気異方性が固定される。
<別実施形態>
前記の第2実施形態では、リング状の第2強磁性体7を第1強磁性体6と同じ材料とする構成を説明したが、このリング状部材を磁石(永久磁石)で形成しても良い。永久磁石とすることで、軟磁性膜1bの磁化方向の水平成分を増大させることができる。永久磁石を用いる場合、アルニコ磁石を使用することが好ましい。リング状部材を形成する場合には、単一(一体型)の部材ではなく、多数のセグメントをリング状に並べて配置することで形成しても良い。
また、磁場中熱処理の温度が低い場合は、Sm−Co磁石やNd−Fe−B系磁石を用いても良い。
リング状部材を永久磁石で形成する場合は、第1強磁性体6から第2強磁性体7へと向う磁力線が、記録媒体1の中心から放射方向へ向かう方向となるようにリング状部材の磁極が形成される。
ここでセグメントにした磁石をリング状に並べて配置する方法としては、図6に示すように、オーステナイト系ステンレスのような非磁性のリング状容器30にセグメント31を置く部屋30aを設け、そのセグメント31を部屋30aに載置し、非磁性の蓋材32にて部屋を封止する方法を用いるのが好ましい。なお図中矢印は、磁化方向を示す。
本実施形態では、永久磁石のN極同士を対向させているが、S極同士を対向させても良い。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に軸孔が形成された円板状の記録媒体をチャンバー内に挿入して、この記録媒体を磁場中で熱処理を行うための磁場中熱処理装置であって、
前記チャンバー内に磁場を形成するための磁気回路が設けられ、
この磁気回路は、
前記軸孔の軸方向に沿って距離をおいて配置され、磁場の向きが対向する一対の磁石と、
この一対の磁石の間に配置される第1強磁性体とを備え、
前記一対の磁石が向かい合う中間位置に、前記軸孔に前記第1強磁性体が挿通された状態で処理対象である記録媒体が配置されるように構成したことを特徴とする磁場中熱処理装置。
【請求項2】
前記配置される記録媒体の外周にリング状の第2強磁性体を配置したことを特徴とする請求項1に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項3】
前記磁石は、組成にFe,Ni,Co,Al,Tiを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項4】
前記第1強磁性体は、飽和磁化が1.5T以上2.4T以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項5】
前記第2強磁性体が異方性磁石であることを特徴とする請求項2に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項6】
前記2強磁性体がアルニコ磁石であることを特徴とする請求項5に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項7】
前記リング状部材は、複数のセグメントをリング状に並べて配置したものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の磁場中熱処理装置。
【請求項8】
前記複数のセグメントは、リング状の非磁性材からなる容器に収容されていることを特徴とする請求項7に記載の磁場中熱処理装置。

【国際公開番号】WO2004/077413
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502839(P2005−502839)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001813
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【出願人】(302042379)株式会社東栄科学産業 (2)
【Fターム(参考)】