説明

磁性を有する繊維シート及び磁性を有する繊維シートを用いた磁気冷凍装置

【課題】熱交換効率が高く、劣化を起さない取り扱い性に優れた磁気繊維シート及び磁気冷凍装置を提供する。
【解決手段】磁気冷凍作業物質として、磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマーからなる磁性繊維を用いたシートを使用する。上記熱可塑性ポリマーとしてポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種類から選択する。前記繊維は芯鞘型複合繊維構造を有する長繊維であり、芯、鞘の少なくとも一方に磁性を有する粒子を含有する。また、磁場印加装置として超電導マグネット7を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性を有する繊維シートに関する。さらに、磁性を有する繊維シートを用いた磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気冷凍方法は、磁化あるいは消磁の際に大きな温度変化を示す磁気熱量効果を有する磁性体を磁気作業物質として使用し、これを磁化して高温側で放熱させ、次に磁化した磁性体を消磁して吸熱を起すサイクルよりなる。即ち、磁化時、消磁時の磁気スピンのエントロピー差を利用するものである。
【0003】
磁気冷凍法はフロンを使用しない、効率がよい、コンパクトである、圧縮機を用いないので振動が少ない、などの長所があり、特に、地球温暖化防止のためにはフロンを使用する必要が無い点は重要である。しかし、例えば常温において磁性材料として用いる常磁性物質に対し、消磁時と磁化時の間に、冷却に十分なエントロピー差を与えるには、高磁場印加が必要であり、そのためには超電導磁石が必要となり、これが短所とされた。そのため、これまで磁気冷凍技術の利用は液体ヘリウム温度以下の極低温領域に限られていた。(特許文献1,2)。
【0004】
しかしながら、超電導技術は発達し、10Tの高磁場を得ることも困難ではなくなった。また一方、ガドリニウムなど常温で使用できる磁気材料を用いた磁気冷凍機の開発も行われ、常温磁気冷凍機は実現可能な技術となった(特許文献1,2)。
【0005】
現在、磁気材料は粒子状(特許文献3)、メッシュ状(特許文献1〜3)、板状(特許文献4)のもので、材料としてはガドリニウム、ディスプロシウムなどが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−106999
【特許文献2】特開2004−361061
【特許文献3】特開2006−283917
【特許文献4】特開2009−520946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁気冷凍機に使用される磁気材料は要求される磁気特性を満たすと同時に熱交換効率が高いことが必要である。同時に熱交換ガス・流体の流れを目詰まり、さらには熱交換ガスの透過による劣化による性能低下を最小限に抑える必要がある。しかしながら、磁性材料が粒子形状の場合、粒子形状が大きい場合、表面積が小さいために熱交換効率が低下する。一方、粒子形状が小さい場合、目詰まりが生じやすく、熱交換ガス・流体の流量が低下する問題があり、また粒子が流体中に混入する可能性が高い。磁気材料をメッシュ状や綿状として使用した場合、熱交換流体によって破損し、性能劣化が起こる可能性がある。またその際、磁気材料が粒子となって熱交換流体に混入する可能性が高い。特に熱交換流体に空気や水を用いる場合、酸化劣化を起す可能性が高い。上記のような問題を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、熱交換効率が高く、劣化を起こしにくく、取り扱い性に優れた磁性を有する繊維シート及び磁性を有する繊維シートを用いた磁気冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁性を有する繊維シートは熱可塑性ポリマー中に磁性粉体が含まれていることが特徴である。このため、空気中や水での酸化劣化を起しにくい。また磁性粉体と熱可塑ポリマーの複合体であるため、本発明に用いる磁性粒子を有する繊維は柔軟であり、折れ・切断などの破損が起こりにくくなる。これにより、本発明の繊維を用いたシートを磁気冷凍装置に用いた場合、設置時さらには使用中に破損を起しにくく、取り扱い性が良好である。また本発明の磁気冷凍性能を有する繊維は柔軟であるため、ニット、平織りなどへの加工が可能である。本発明の磁気冷凍装置に使用される繊維シートは、網、フィルター等、目的に応じたさまざま形態に作製することが可能である。このような特性により、本発明は取り扱い性に優れた磁性を有する繊維シート及びこの繊維シートを用いた磁気冷凍機を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来においては不十分であった、酸化劣化を起こしにくく、取り扱い性に優れた磁性粒子を有する繊維を用い、磁気冷凍用として使用される繊維シートとすることが可能であり、さらにこの繊維シートを用いた磁気冷凍装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の磁気冷凍装置の一実施を示す概略図である。
【図2】芯鞘複合糸を紡糸する際の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは上記問題を解決するために、鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
1.磁性を有する粒子を含有する熱可塑性ポリマーを用いた繊維からなる、磁性を有するシート。
2. 熱可塑性ポリマーがポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、上記1記載のシート。
3.繊維が芯鞘型複合繊維構造を有する長繊維であり、芯、鞘の少なくとも一方に磁性を有する粒子を含有することを特徴とする上記1、2いずれか1つに記載の繊維シート。
4.上記3記載のシートを用いた磁気冷凍装置。
5.超電導磁石を使用することを特徴とする上記4記載の磁気冷凍装置。
【0012】
本発明の磁気冷凍機用繊維シートは、磁性粒子を含有する熱可塑性ポリマーからなる繊維を用いることが特徴である。本発明に用いる磁性粒子としては鉄、コバルト、ニッケルなどの鉄族磁性金属、ネオジウムなどのレアアース磁性金属、マグネタイト、酸化コバルト、マグネタイトなどの酸化物磁性化合物、鉄系ナノ粒子、ガドリニウム、ディスプロシウムなどが挙げられる。特にガドリニウム、ディスプロシウムなどが望ましい。
【0013】
本発明における磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオレフィン、セルロース、たんぱく質、ポリアミド、ポリサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテル、ポリケトン、アクリルなどが挙げられるが、耐久性・成型加工性・金属及び金属酸化物粒子分散性・金属及び金属酸化物粒子密着性からポリオレフィン、ポリエステルが望ましいがこれに限定する必要はなく、これら複数のポリマーの混合体でもよい。また、水中での加水分解を防ぐ為、末端封止剤として、エポキシやカルポジイミドを添加しても良い。さらに、成型加工中の耐熱劣化性や、長期耐熱老化性を上げる為に、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を適宜使用しても良い。
【0014】
本発明における磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーとしては、結晶性ポリマー、非晶性ポリマーのいずれでもよいが、加工時および加工後の取扱いの簡便さから結晶性ポリマーが望ましい。
【0015】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は単一構造からなる繊維でも芯鞘構造からなる複合繊維でもよいが、芯鞘構造からなる複合繊維がより望ましい。これは非磁性繊維部分が繊維強度と靭性を担うことによる。
【0016】
本発明における磁性粒子を含有する繊維が芯鞘構造からなる複合繊維である場合、磁性粒子を含有する熱可塑ポリマーは芯部分を構成していても、鞘部分を構成していても、その両方を構成していてもよいが、鞘部分に含まれる構造がより望ましい。これは磁性粒子と熱交換流体との熱交換効率が高いことによる。
【0017】
本発明における磁性粒子を含有する繊維の製造方法として、磁性粒子と熱可塑ポリマーの混合方法は磁性粒子と熱可塑ポリマーを溶融混合する方法、溶液混合する方法、また鉄族錯塩を熱可塑ポリマーに溶解混合した上で化学反応によって磁性粒子を生成する方法が挙げられるが、そのいずれでもよい。しかし、製造方法の難度を考慮すると、磁性粒子と熱可塑ポリマーを溶融混合する方法が望ましい。また磁性を有する粒子と熱可塑ポリマーの混合後、紡糸しても、紡糸により繊維を作製した後、磁気粉を混入してもよいが、磁性粒子と熱可塑ポリマーの溶融混合法を採用する場合、前者が望ましい。紡糸方法としては溶融紡糸、湿式紡糸、乾式紡糸などあらゆる紡糸方法のいずれでもよい。
【0018】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は公知の方法によりシート化することができる、サーマルボンド法、レジンボンド法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、ニードルパンチ法およびこれらの組合せ、更には単純に繊維を積層したシート、通気性の袋に繊維を詰め込んだものを利用することができる。重要であることは、流体の透過抵抗が低くかつ熱交換の効率が高くなるバランスがよい形状に賦形する必要がある。また、磁性粒子や磁性繊維自体の脱落少ない加工方法が好ましい。
【0019】
本発明における磁性粒子を含有する繊維は磁性粒子を含有しないポリマー繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維などの無機繊維と混合使用してもよい。
【0020】
本発明における磁気冷凍用として用いられる繊維シートは該磁性繊維を含んでなる繊維シートであるが、その形態は平織り、ニット、綾織、繻子織などいずれの形態でもよい。また、これら複数の形態の繊維シートを組み合わせてもよい。
【0021】
本発明における磁気冷凍用として用いられる長繊維シートは該磁性繊維を含んでなる長繊維シートであるが、ガラス繊維、ポリマー繊維、炭素繊維など他の繊維と混合したものでもよい。特に高強度ポリエチレン繊維、高強度ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維など高熱伝導性繊維との組合せは熱交換流体との熱交換効率の向上に寄与する。また該長繊維にはチッカアルミ、チッカホウ素、アルミナ粉末など高熱伝導性無機粒子を含んでいてもよい。これらは熱交換流体との熱交換効率向上に寄与するものである。
【0022】
本発明における磁気冷凍装置は磁性を有する繊維を用いて構成された繊維シートを用いるが、磁場発生装置として永久磁石、電磁石、超電導磁石が利用できる。永久磁石としては鉄、コバルト、ニッケルなど鉄族金属、強磁性合金、ユーロピウム、ガドリニウムなど希土類金属などが挙げられるが、特にネオジウム磁石が望ましい。電磁石、超電導磁石では、そのいずれでも良いが、強磁場を発生する超電導磁石が望ましい。超電導磁石としてはNbTi, NbAl, NbSnなど金属系超電導線材を用いるマグネットコイル、ビスマス系酸化物、イットリウム系酸化物を用いる高温超電導コイル、またはバルク磁石などが上げられるが、これらに特に制限されるものではない。
【0023】
本発明の磁気冷凍装置における熱交換流体は水、エタノールなどの液体及びこれらの混合物、空気、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの気体など適当に選ぶことができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することはすべて本発明の技術範囲に包含される。
【0025】
本発明で用いた実験方法を以下に示す。本発明では超電導マグネットを利用した磁気冷凍装置を作製し、その分離特性の耐久性を測定した。以下にこれを具体的に示す。
【0026】
(1)実験装置
図1に実験装置概略を示す。実験装置は超電導マグネット、低温側熱交換素子(3)、高温側熱交換素子(4)、ポンプ(5)、蓄冷部材(1)からなる磁気冷凍機である。
i)超電導マグネット:コイル内径100mm,コイルボビン外径140mm,コイル高さ12mmのボビンにビスマス系超電導テープ(Bi−2223)線材を巻いてなる高温超電導マグネットを10段積み重ねたものである。これをGifford−Macmahon(GM)冷凍機(住友重機械工業製)にて冷却せしめ、超電導通電時に磁場を発生する。発生磁場は約5Tである。磁場の印加と消磁は蓄冷部材を磁場中と磁場外に移動することによって行う。
ii)蓄冷部材は内径25mm, 深さ70mmの容器に、磁気冷凍作業物質を充填してなる。蓄冷部材は2個設置され、これらは図1に示す様に低温・高温側熱交換素子、ポンプ、流路切替機(6)と熱交換チューブ(2)で結合されている。熱交換流体としては水/エタノール=4/1の混合液を用いた。
(2)測定方法:30℃に設定された状態から0℃に冷却するまでの時間を測定した。さらにその作業を繰り返し6ヶ月実施し、1〜6ヵ月後の冷却時間(単位 時間)を比較した。結果を表1に示す。
【0027】
(実施例1)
ポリプロピレン1kgとマグネタイト(平均直径0.23μm)を3kg混合してなるレジンを芯成分とし、ポリプロピレン・エチレン共重合体を鞘成分とし、芯/鞘断面積比=4/6で直径600ミクロンの糸を作製した。これを用いて、目付け300g/mの平織りシートを作製し、磁性繊維シートとし、これを磁気冷凍作業物質とした。
【0028】
(実施例2)
ポリエチレンテレフタレート3kgにストロンチウムフェライト2kgを混合したものを芯成分とし、ポリブチレンテレフタレートを鞘成分とし、芯/鞘断面積比=5/5で直径600ミクロンの糸を作製した。図3に使用した紡糸装置の略図を示す。これを用いて、ウェル=26本/インチ、コース=21本/インチのニット織物を作製し、これを2枚重ねて磁性長繊維シートとし、磁気冷凍作業物質とした。
【0029】
(実施例3)
ナイロン6を2.5kg, ディスプロシウム粒子(平均直径0.23μm)2.5kgを混合したものを芯成分とし、ポリプロピレンを鞘成分とし、芯/鞘断面積比=5/5で直径600ミクロンの糸を作製した。これを用いて、目付け300g/mの平織りシートを作製し、磁性長繊維シートとし、これを磁気冷凍作業物質とした。図3に使用した紡糸装置の略図を示す。
【0030】
(実施例4)
ポリプロピレン1kgとガドリニウム(平均直径33μm)を3kg混合してなるレジンを芯成分とし、ポリプロピレン・エチレン共重合体を鞘成分とし、芯/鞘断面積比=4/6で直径600ミクロンの糸を作製した。これを用いて、目付け300g/mの平織りシートを作製し、磁性長繊維シートとし、これを磁気冷凍作業物質とした。
【0031】
(比較例1)
直径300ミクロンの磁化した鉄のワイヤーを用いて3mmピッチのメッシュを作製し、これを磁気作業物質として用いた。
【0032】
(比較例2)
直径300ミクロンの磁化したガドリニウムのワイヤーを用いて2mmピッチのメッシュを作製し、これを磁気作業物質として用いた。
【0033】
(比較例3)
直径30ミクロンのガドリニウムのワイヤーの表面に厚み5ミクロンでポリエステルを塗布したものを磁気繊維とし、これを長さ8cmに切ったものを用いて目付け300g/mの不織布を作製して磁気作業物質とした。
【0034】
(比較例4)
直径50ミクロンのネオジウムのワイヤーに厚み5ミクロンでエナメルを塗布したものを磁気繊維とし、これを用いて不織布を作製して磁気作業物質とした。
【0035】
(比較例5)
直径500ミクロンのディスプロシウムからなる5mmピッチのメッシュを作成し、これを磁気作業物質として用いた。
【0036】
(比較例6)
直径500ミクロンのガドリニウム粒子を磁気作業物質として用いた。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の磁性を有する長繊維シート及び磁気冷凍装置は、フロンガスを用いず優れた磁気冷凍性能を有し、且つ耐久性に優れるため、環境改善に貢献するため、産業界に寄与すること大である。
【符号の説明】
【0039】
1:蓄冷部材
2:熱交換チューブ
3:低温側熱交換素子
4:高温側熱交換素子
5:ポンプ
6:流路切替機
7:超電導マグネット
8::芯糸用ポリマー
9:鞘糸用ポリマー
10:芯糸用ノズル孔
11:鞘糸用ノズル孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性を有する粒子を含有する熱可塑性ポリマーを用いた繊維からなる、磁性を有するシート。
【請求項2】
熱可塑性ポリマーがポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1種類から選ばれることを特徴とする、請求項1記載のシート。
【請求項3】
繊維が芯鞘型複合繊維構造を有する長繊維であり、芯、鞘の少なくとも一方に磁性を有する粒子を含有することを特徴とする請求項1、2いずれか1項に記載のシート。
【請求項4】
請求項3記載のシートを用いた磁気冷凍装置。
【請求項5】
超電導磁石を使用することを特徴とする請求項4記載の磁気冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−84712(P2013−84712A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222740(P2011−222740)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】