磁性シート及びその製造方法
【課題】電子機器から放出される不要電磁波の低減及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シート、並びにその簡易かつ低コストで効率的な製造方法の提供。
【解決手段】本発明の磁性シート100は、磁性層10と、凹凸形成層20とを有してなり、磁性層10は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、凹凸形成層20は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下である。本発明の磁性シートの製造方法は、磁性層形成工程と、形状転写工程とを少なくとも含む。
【解決手段】本発明の磁性シート100は、磁性層10と、凹凸形成層20とを有してなり、磁性層10は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、凹凸形成層20は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下である。本発明の磁性シートの製造方法は、磁性層形成工程と、形状転写工程とを少なくとも含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能な磁性シート、並びにその低コストで効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性シートの用途としては、ノイズ抑制用途、あるいはRFID用途が挙げられる。
前記ノイズ抑制用途としては、パソコンや携帯電話に代表される電子機器の小型化、高周波数化の急速な進展に伴い、これらの電子機器において、外部からの電磁波によるノイズ干渉及び電子機器内部で発生するノイズ同士の干渉を抑制するために、種々のノイズ対策が行われており、例えば、ノイズ発信源又は受信源近傍に、磁性シート(ノイズ抑制シート)を設置することが行われている。
【0003】
前記磁性シートは、Fe−Si−Al等の合金(磁性粉)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及び揮発性溶剤を含む磁性塗料(磁性シート組成物)を、PETや剥離処理されたPETフィルム等の絶縁性支持体(基材)の表面に塗布し、加熱プレスにより硬化させてシート状に成形したものであり、前記磁性粉が、ノイズを抑制する、所謂ノイズ抑制体としての機能を有する。
【0004】
一方、前記RFID用途としては、近年、RFID(Radio Frequency Identification)と称されるICタグ機能を有する携帯情報端末機に代表されるように、電磁誘導方式によるコイルアンテナを用いる無線通信が普及している。例えば、携帯情報端末機では、その小型化により、送受信用のアンテナ素子の近傍には、例えば、金属筐体、金属部品などの種々の導電体(金属)が配置されている。この場合、前記アンテナ素子近傍の金属の存在により、通信に用いることができる磁界が大きく減衰し、電磁誘導方式におけるRFID通信距離が短くなったり、共振周波数がシフトすることにより無線周波数を送受信することが困難になることがある。そこで、このような電磁障害を抑制するため、前記アンテナ素子と前記導電体との間に、磁性シートを配置することが行われている。
【0005】
例えば、磁性シートを携帯電話に用いる場合、該磁性シートを電池パック部位に配置することがある。しかし、充電の繰り返しによって電池パックが膨張すると共に、磁性シートも厚みが厚くなる方向に変化する場合があり、前記携帯電話の電池パックの蓋部分に癒着して、蓋の開閉が困難になることがある。また、厚みが厚くなるときに、バインダーが磁性粉を保持することができなくなり、粉落ちが生じる場合がある。更に蓋の開閉時に、前記磁性シートが擦れて、粉落ちするという問題がある。
【0006】
これに対し、近年では、磁性層の表面に、粘着剤により絶縁性支持体を接着した磁性シートが提案されている。この磁性シートを用いると、電池パックの蓋と、磁性層との間に、前記絶縁性支持体を介在させることができるので、磁性層が熱により膨張しても、絶縁性支持体が剥離機能を発揮し、電池パック蓋と、磁性層との癒着を防止し、蓋の開閉不良の問題が改善される。
このため、磁性層と絶縁性支持体とが、粘着剤や接着剤を用いて貼り合わされた構造を有する磁性シートが、数多く提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0007】
しかし、これらの磁性シートは、いずれも粘着剤又は接着剤を使用しているため、粘着剤又は接着剤の厚みの分だけ磁性シート(磁性層)を薄くしなければならない。更に、電子機器内が熱を帯びた場合に、粘着剤等が電子機器内に漏れることがあり、電子機器の故障を招くことがある。
また、粘着剤などにより磁性層と絶縁性支持体とを貼り合わされて得られる磁性シートは、その製造工程において、まず、熱プレスなどによる硬化によって磁性シートを作製し、該磁性シート上に粘着層を形成し、更にこの上に絶縁性支持体を積層することが必要である。このため、製造工程が煩雑で、高コスト化を招くという問題がある。また、絶縁性支持体には、蓋の開閉により擦り傷が発生し、外観が悪くなるという問題もある。
【0008】
また、前記磁性シートは、電子機器等に組み込まれるため、耐熱性及び難燃性を有することが要求され、一般的に難燃剤を添加することが行われている。
従来の難燃剤としては、臭素系難燃剤に代表されるようなハロゲン系化合物が主に用いられており、該ハロゲン系化合物は、燃焼すると、環境ホルモンに代表される有害物質を生成することから、環境への負荷が大きく、その使用は削減傾向にある。
しかし、ハロゲンフリーの難燃剤を用いた場合、通常、難燃剤を大量に添加しなければ、十分な難燃性を発揮することはできないが、難燃剤を大量に添加すると、誘磁率が低下することがあるほか、磁性シートが硬くなってしまうことがある。また、ハロゲンフリーの難燃剤としては、一般的にリンを用いることが多く、リンを含まずに、充分な難燃性を発揮することは困難であった。
【0009】
したがって、磁性層と絶縁性支持体との間に粘着剤を用いることなく、簡易かつ低コストで、効率よく磁性シートを製造する方法、及び、粘着層を有さず、表面の滑り性が良好で、難燃剤の使用量が少なくても充分な難燃性を有し、しかも優れたノイズ抑制効果を発揮する磁性シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−165701号公報
【特許文献2】特開2007−123373号公報
【特許文献3】特開2006−301900号公報
【特許文献4】特開2001−329234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シート、並びにその簡易かつ低コストで効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 磁性層と、凹凸形成層とを有してなり、
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、
前記凹凸形成層は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下であることを特徴とする磁性シートである。
該<1>に記載の磁性シートにおいては、前記凹凸形成層のベック平滑度が、20秒/mL以下と低いので、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れ、例えば、携帯電話内部にて、電池パック周辺に収納された場合にも、電池パックの蓋と癒着することなく、蓋の開閉不良の発生を抑制することができる。また、前記磁性シートは、粘着剤等による粘着層を有さず、前記磁性層と前記凹凸形成層とから構成されているので、電子機器内での高温での使用の際に生じる、前記粘着剤の漏れによる前記電子機器の故障の発生が防止される。また、本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層が難燃性を有し、しかも前記磁性層に、前記難燃剤として、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含むので、高い難燃性を有し、磁性粉の粉落ちを抑制可能であり、しかもハロゲンフリーで、環境への負荷が小さい。
<2> 磁性層に、バインダー100質量部に対して、磁性粉を700質量部〜1,300質量部含み、難燃剤を35質量部〜100質量部含み、かつ前記磁性層中の前記磁性粉の含有量が、70wt%〜90wt%である前記<1>に記載の磁性シートである。
<3> 磁性層に、炭素繊維を更に含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁性シートである。
<4> ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径が、1μm以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁性シートである。
該<4>に記載の磁性シートにおいては、前記メラミンシアヌレートの個数平均粒径が、1μm以下と小さいので、前記磁性粉が密に配向するのを阻害せず、大きな粒径の難燃剤を用いる場合に比して、高い透磁率を得ることができる。
<5> 難燃剤が、赤リンを更に含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の磁性シートである。
<6> 磁性層に、バインダー100質量部に対して、赤リンを6質量部〜20質量部含む前記<5>に記載の磁性シートである。
<7> 磁性層に、硬化剤を更に含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の磁性シートである。
該<7>に記載の磁性シートにおいては、前記磁性層に前記硬化剤を更に含むので、高温高湿環境下での前記磁性シートの厚み変化を低減することができる。
<8> バインダーに、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくともいずれかを含む前記<7>に記載の磁性シートである。
該<8>に記載の磁性シートにおいては、前記バインダーにエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくともいずれかを含むので、高温高湿環境下での前記磁性シートの厚み変化を低減することができる。
<9> 磁性層の厚みが、25〜500μmである前記<1>から<8>のいずれかに記載の磁性シートである。
<10> ノイズ抑制体として用いられる前記<1>から<9>のいずれかに記載の磁性シートである。
【0013】
<11> バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする磁性シートの製造方法である。
該<11>に記載の磁性シートの製造方法では、前記磁性層形成工程において、前記バインダーに、前記磁性粉及び前記難燃剤が添加されて調製された前記磁性組成物が、成形されて前記磁性層が形成される。前記形状転写工程において、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材が、前記磁性層側からのこの順に積層配置された後、加熱プレスされることにより、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合される。その結果、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートが得られる。
得られた磁性シートにおいては、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層の表面に転写されているので、該凹凸形成層の表面は粗面化されており、ベック平滑度が低く、滑り性に優れる。
<12> バインダーが、熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでなり、加熱プレス前の前記熱硬化性有機樹脂が、未硬化状態である前記<11>に記載の磁性シートの製造方法である。
<13> 形状転写工程が、磁性層の厚み方向における他方の面に、剥離層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置することを含む前記<11>から<12>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<14> 転写材が、表面に凹凸を有する前記<11>から<13>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<15> 凹凸形成層の表面に、マット処理、及びシリコーン樹脂を用いない剥離処理のいずれかが施された前記<12>から<14>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<16> 加熱プレス前の凹凸形成層のベック平滑度が、200秒/mL以下である前記<11>から<15>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<17> 加熱プレス後の凹凸形成層のベック平滑度が、20秒/mL以下である前記<11>から<16>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決でき、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シート、並びにその簡易かつ低コストで効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その1)である。
【図1B】図1Bは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その2)である。
【図1C】図1Cは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その3)であり、得られた磁性シート(本発明)の一例を示す。
【図2A】図2Aは、実施例1で用いた難燃剤(MC−5F)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図2B】図2Bは、図2Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−20N)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図2C】図2Cは、図2Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−40N)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図3A】図3Aは、磁性粉のトルエン洗浄液の濃縮物のIR測定データを示すグラフである。
【図3B】図3Bは、磁性粉のトルエン洗浄液の濃縮物と、グリセリドとのライブラリー検索における一致結果を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、実施例6で用いた難燃剤(MC−5S)のXRF測定データを示すグラフである。
【図4B】図4Bは、図4Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−20N)のXRF測定データを示すグラフである。
【図4C】図4Cは、図4Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−40N)のXRF測定データを示すグラフである。
【図5】図5は、伝送損失の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、磁性層と凹凸形成層とを有してなる。
【0017】
−磁性層−
前記磁性層は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる、電磁障害を抑制する機能を有する。
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有してなり、好ましくは炭素繊維を含有し、更に必要に応じて適宜選択した、その他の成分を含有してなる。
【0018】
−−バインダー−−
前記バインダーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでいるのが好ましく、例えば、熱硬化性有機樹脂を含むアクリル樹脂が好適に挙げられる。
【0019】
前記熱硬化性有機樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、エポキシ樹脂が好適に挙げられる。分子量の小さいエポキシ樹脂を添加すると、磁性シートの圧縮時(成形時)に、前記バインダーの溶融粘度が、より一層下がるので、磁気特性を向上させることができ、また、例えば、多官能エポキシ樹脂を用いると、硬化後の磁性シートの信頼性をより向上させることができる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、マイクロカプセル化アミン系硬化剤を用いたアニオン硬化系エポキシ樹脂、オニウム塩、スルホニウム塩等を硬化剤に用いたカチオン硬化系エポキシ樹脂、有機過酸化物を硬化剤に用いたラジカル硬化系エポキシ樹脂などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
更に、前記エポキシ樹脂を含有するバインダーは、前記エポキシ樹脂用硬化剤として、潜在性硬化剤を含んでいるのが好ましい。
前記潜在性硬化剤は、特定の温度にて、硬化剤の機能を発揮するものを意味し、該硬化剤としては、例えば、アミン類、フェノール類、酸無水物類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、イソシアネート類などが挙げられる。
【0021】
前記アクリル樹脂は、エポキシ基を有しているのが好ましい。この場合、例えばアルミニウムキレート系硬化剤と併用すると、前記エポキシ基と、前記アルミニウムキレート系硬化剤とが反応することにより、信頼性が向上する。
また、前記アクリル樹脂は、更に水酸基を有しているのが好ましい。該水酸基を有することにより、接着性を向上させることができる。
前記アクリル樹脂の重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塗布性に優れる点で、10,000〜850,000が好ましい。
前記重量平均分子量が、10,000未満であると、磁性組成物(前記バインダーに、前記磁性粉、前記難燃剤等を添加して調製したもの)の粘度が小さくなり、重量の大きな磁性粉を塗布するのが困難となることがあり、850,000を超えると、前記磁性組成物の粘度が大きくなり、塗布し難くなることがある。
また、前記アクリル樹脂のガラス転移温度としては、信頼性の点で、−50℃〜+15℃が好ましい。
前記ガラス転移温度が、−50℃未満であると、高温あるいは高温高湿環境下での信頼性が悪くなることがあり、+15℃を超えると、前記磁性シートが硬くなる傾向がある。
【0022】
−−磁性粉−−
前記磁性粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その形状としては、例えば、扁平形状、塊状、繊維状、球状、不定形状などが挙げられる。これらの中でも、前記磁性粉を所定の方向に容易に配向させることができ、高透磁率化を図ることができる点で、扁平形状が好ましい。
前記磁性粉としては、例えば、軟磁性金属、フェライト、純鉄粒子などが挙げられる。
前記軟磁性金属としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金などが挙げられる。
前記フェライトとしては、例えば、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト等のソフトフェライト、永久磁石材料であるハードフェライトなどが挙げられる。
前記磁性粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
−−難燃剤−−
前記難燃剤を添加することにより、前記磁性シートの難燃性を向上させることができる。
本発明の前記磁性シートにおいては、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含む。
従来の難燃剤としては、ハロゲン系化合物が主に用いられているが、燃焼すると有害物質を生成し、環境への負荷が大きいという問題がある。また、ハロゲンフリーの難燃剤としては、例えば、何ら表面処理がされていないメラミンシアヌレートが知られているが、該メラミンシアヌレートは、バインダーとの親和性が悪く、バインダー中に分散し難いため、硬い磁性シートを得ることを意図する場合において、成形(プレス)直後の磁性シートの機械的強度を低下させる(軟化する)という問題がある。また、機械的強度が大幅に低下してしまうため、前記メラミンシアヌレートの添加量を増大させることは困難であり、充分な難燃性を得ることができない。更に、磁性シートの表面から、磁性粉が脱落する所謂「粉落ち」が生じ易い。
【0024】
ここで、前記メラミンシアヌレートは、メラミン・イソシアヌレート酸付加物であり、メラミンと、イソシアヌレートとが、下記反応式に示すように、付加反応を繰り返すことにより、オリゴマー付加物として形成されたものである。
【0025】
【化1】
【0026】
前記メラミンシアヌレートは、メラミン骨格による剛直性を有し、また、前記付加反応により、水酸基(OH)が発生するため、該水酸基による極性を有することにより、難燃性を発現すると考えられる。しかし、前記水酸基は、分子間で水素結合を形成することが多く、この水酸基による水素結合が、イソシアヌレートの凝集の発生の原因となると推認される。従って、この水素結合を、遮断すること、即ち、一部の水酸基が保護されたメラミンシアヌレートを用いることにより、凝集の発生を抑制し、バインダー中への分散性が改善されると考えられる。
そこで、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート(ケイ素化合物を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート)及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート(脂肪酸を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート)の少なくともいずれかを用いたところ、メラミンシアヌレート(表面処理されていないもの)に比して、より高い難燃性が発現され、また、磁性シート表面からの粉落ちが生じ難く、しかも、バインダーとして、例えば、前記アクリル樹脂を用いた場合に、プレス時のバインダーの硬化を促進させ、高温高湿環境下での厚み変化が抑制された表面平滑性が良好な磁性シートが得られることが判った。
更に、前記難燃剤の粒径についても検討を行った結果、例えば、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートでは、平均粒径が1μmより大きい場合、前記磁性シートの厚み変化が大きくなることがあり、磁気特性も低下することがあることが判った。また、ケイ素原子及びカルボン酸アミドのいずれかを含むメラミンシアヌレート以外の難燃剤では、平均粒径が1μm以下のものを用いても、充分な難燃性を得ることができないことが判った。また、表面処理されていないメラミンシアヌレートを用いた場合、磁性シート中に空気が入ってしまうため、粉落ちが生じ易く、少ない添加量では、充分な難燃性が得られないことが判った。
【0027】
〔ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート〕
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートにおける、該ケイ素原子の存在は、例えば、蛍光X線分析(XRF)により確認することができる。
【0028】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましい。
前記個数平均粒径が、1μmを超えると、前記磁性粉が密に配向するのを阻害し、磁性シートの磁気特性を低下させることがあり、高温あるいは高温高湿環境下での厚み変化が大きくなることがある。
前記個数平均粒径は、例えば、レーザー回折を用いて測定した粒度分布より測定することができる。
【0029】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートは、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、MC−5S(堺化学工業製)などが挙げられる。
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ケイ素化合物を用いてメラミンシアヌレートを表面処理する方法が好適に挙げられる。
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記メラミンシアヌレートと前記ケイ素化合物とを混合攪拌する方法が挙げられる。
【0030】
前記ケイ素化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のオルガノポリシロキサン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルエチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を含むシラン化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、反応性が良好な点で、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
【0031】
〔カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート〕
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートにおける、該カルボン酸アミドの存在は、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)を用いて確認することができる。
【0032】
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましい。
前記個数平均粒径が、1μmを超えると、前記磁性粉が密に配向するのを阻害し、磁性シートの磁気特性を低下させることがあり、高温あるいは高温高湿環境下での厚み変化が大きくなることがある。
前記個数平均粒径は、例えば、レーザー回折を用いて測定した粒度分布より測定することができる。
【0033】
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートは、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、MC−5F(堺化学工業製)などが挙げられる。
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、脂肪酸を用いてメラミンシアヌレートを表面処理する方法が好適に挙げられる。
【0034】
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記メラミンシアヌレートと前記脂肪酸とを混合攪拌する方法が挙げられる。
なお、前記脂肪酸を用いて前記メラミンシアヌレートを表面処理すると、下記式(1)に示すように、前記メラミンシアヌレート中のアミノ基と、前記脂肪酸とが反応して、アミド化合物に変換されると考えられる。このため、前記熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)を用いて分析すると、前記カルボン酸アミドの存在を確認することができる。
−NH2+R−COOH→R−CONH−・・・式(1)
【0035】
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラウリン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、疎水性が高く、分散性が良好な点で、ラウリン酸が好ましい。
【0036】
〔赤リン〕
前記難燃剤は、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートに加えて、更に赤リンを含んでいてもよい。この場合、前記磁性シートの難燃性を、更に向上させることができる。
前記赤リンとしては、特に制限はなく、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよいが、耐湿性に優れ、混合時に自然発火せず、安全性が良好である点で、その表面が、コーティングされているのが好ましい。
前記表面がコーティングされた赤リンとしては、例えば、赤リンの表面を、水酸化アルミニウムを用いて表面処理したものが挙げられる。
【0037】
前記赤リンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、6〜20質量部が好ましい。
前記含有量が、6質量部未満であると、難燃性向上効果が得られないことがあり、20質量部を超えると、前記バインダーに対する前記磁性粉と前記難燃剤との合計量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となるほか、前記磁性シート中の前記磁性粉の含有比率が低下し、透磁率が低下することがある。
また、前記赤リンと、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートとの配合比を調整することにより、高い難燃性と前記磁性粉の粉落ちの抑制とを両立することができる。
【0038】
前記バインダー、前記磁性粉、並びに前記難燃剤(前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれか)の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、前記磁性粉が、700〜1,300質量部であり、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれか(ケイ素原子を含むものとカルボン酸アミドを含むものとを併用する場合には、その合計量)が、35〜100質量部であるのが好ましい。
【0039】
前記磁性粉の含有量が、700質量部未満であると、優れた磁気特性が得られないことがあり、1,300質量部を超えると、前記磁性粉を前記バインダーで繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなったり、前記磁性シートの表面に、前記難燃剤がブリードしたりすることがあるほか、脆くなり、前記磁性シートの端面だけでなく表面からも前記磁性粉が落ちる(粉落ちする)ことや、軟らかい磁性シートを得ることを意図する場合において、前記磁性シートが硬くなってしまうことや、磁性粉が金属粉であることから難燃性が低下してしまうことがある。また、前記磁性粉を大量に添加すれば、透磁率が向上するというものではなく、添加量が多すぎると、磁性シートにおいて多くの空隙が形成されて透磁率が低下してしまうことがある。即ち、磁性粉の添加量には最適範囲がある。磁性シート中の磁性粉の重量が70〜90wt%であることが好ましい。
【0040】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかの含有量が、35質量部未満であると、難燃性が充分に得られないことがあり、100質量部を超えると、前記バインダーに対する前記磁性粉と前記難燃剤との合計量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となるほか、前記磁性シート中の前記磁性粉の含有比率が低下し、透磁率が低下することがある。
【0041】
−−炭素繊維−−
前記磁性層は、炭素繊維を更に含有しているのが好ましい。この場合、ノイズ抑制効果が向上する。また、前記炭素繊維と前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート又は前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートとの組合せにより、前記赤リンを含有しなくても、ハロゲンフリーで高い難燃性を達成することができる。
ここで、ノイズエネルギー減衰の原理は、入射した電磁波エネルギーを、フェライトコアや、磁性粉末を樹脂と混合してシート化した電磁波抑制シートなどといった、電磁波抑制体の内部で、熱エネルギーに変換するというものである。熱エネルギーの変換のメカニズムは、主に、「導電性」、「誘電損失」、及び「磁性損失」の三種に分類され、またこのときの単位体積あたりの電磁波吸収エネルギーP(W/m3)は、電解E、磁界H、及び周波数fを用いて、下記式(2)のように表される。ここで、下記式(2)中、第1項が導電損失を、第2項が誘電損失を、第3項が磁性損失を、それぞれ表す。
P=1/2σ│E│2+πfε’’│E│2+πfμ│H│2・・・式(2)
前記式(2)中、σは導電率を表す。εは複素誘電率を表し、ε=ε’−jε’’である。μは複素誘磁率を表し、μ=μ’−jμ’’である。
前記磁性層に前記炭素繊維を配合すると、前記炭素繊維のフィラーの効果により、前記式(2)における前記導電率σが上昇するため、結果として、前記P(電磁波吸収エネルギー)が上昇し、ノイズ抑制効果が向上する。
なお、前記導電率σが上昇すると、前記磁性層が導電性を有するため、前記磁性シートの用途が制限されることがあるが、本発明の前記磁性シートでは、前記磁性層と前記凹凸形成層とが、一体化されているので、前記磁性シートの表面(凹凸形成層)が絶縁性でありながら、ノイズ抑制効果を向上させることができる。
【0042】
前記炭素繊維としては、特に制限はなく、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、ピッチ系炭素繊維(「ラヒーマR−A301」;帝人製)(繊維径8μm、繊維長200μm、比重2.2g/cc)などが好適に挙げられる。
前記炭素繊維の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、5〜200質量部が好ましい。
前記含有量が、5質量部未満であると、ノイズ抑制及び難燃性向上の効果が小さくなることがあり、200質量部を超えると、磁性組成物調製時に混合し難くなることがある。
【0043】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、前記磁性層の機能を害しない限り特に制限はなく、公知の各種添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができる。
前記磁性層を形成する際の、磁性組成物(前記バインダーに前記磁性粉及び前記難燃剤を添加して調製したもの)の塗布性の向上を目的とした場合には、溶剤を添加することができ、該溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルグリコールアセテート等のエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロフォルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。その他、必要に応じて、分散剤、安定剤、潤滑剤、シラン系やチタネート系カップリング剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤等、各種添加剤を添加してもよい。
【0044】
前記磁性層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高い透磁率が得られる点で、厚いのが好ましく、25〜500μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、透磁率が低くなり、500μmを超えると、狭小部位に適さず、近年における電子機器の小型化の技術動向に沿わなくなるほか、前記厚みの透磁率への影響が小さくなってしまうことがある。なお、前記厚みは、70μm以下になると、透磁率が急激に低くなる傾向がある。
【0045】
−凹凸形成層−
前記凹凸形成層は、本発明の前記磁性シートの使用時に、例えば、電子機器内にて、前記磁性シートを、これと接触する部材から剥離する機能を有する。
前記凹凸形成層は、難燃性を有することが必要である。前記磁性層と前記凹凸形成層とは一体化されているので、前記凹凸形成層が難燃性を有すると、前記磁性層中の前記難燃剤の含有量を低減しても、前記磁性シート全体として難燃性を有するので、前記磁性シートの磁気特性を向上させることができる。
前記難燃性は、例えば、燃焼試験として、UL94VTM試験及びUL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)により評価することができる。
前記UL94VTM試験は、円筒状に巻いたフィルム試験片を鉛直に保持し、これにバーナーの炎を3秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。また、前記UL94V試験は、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。これらの試験の評価結果は以下に示すクラスに分けられる。
本発明の前記磁性シートにおける前記凹凸形成層は、VTM−0又はV−1以上の難燃性を有することが必要である。
−評価クラス−
VTM−0、V−0:各試料の残炎時間が10秒以下で、5試料の全残炎時間が、50秒以下。
VTM−1、V−1:各試料の残炎時間が30秒以下で、5試料の全残炎時間が、250秒以下。
VTM−2、V−2:燃焼時間は、VTM−1又はV−1と同じであるが、有炎滴下物が存在する。
NG :難燃性が低く、UL94VTM又はUL94Vの規格に適合しない。
ここで、前記「残炎時間」とは、着火源を遠ざけた後における、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを意味する。
【0046】
また、前記凹凸形成層は、ベック平滑度が、20秒/mL以下であることが必要である。
前記ベック平滑度が、20秒/mL以下であると、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れ、前記磁性シートと接触する部材からの剥離効果が顕著となる点で、有利である。
前記ベック平滑度は、紙や布などのシート状部材の凹凸を有する表面を、ある特定量の空気が通過するのに要する時間で表される。前記シート状部材表面の凹凸度合いが大きいほど、前記ベック平滑度は小さくなり、いわゆる「滑り性」に優れることを意味する。
前記ベック平滑度の測定は、例えば、ベック式平滑度試験機(テスター産業株式会社製)を用いて行うことができる。
【0047】
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、2〜100μmが好ましい。
前記厚みが、2μm未満であると、作業性が悪くなることがあり、100μmを超えると、加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、合成樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適に挙げられる。
【0048】
前記凹凸形成層は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないPET(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、UL94VTM試験にてVTM−0)、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないPET(「ルミラーZV30」;東レ(株)製、UL94VTM試験にてVTM−0)などが挙げられる。これらは、ハロゲン系及びリン系の化合物を含まない、ハロゲンフリーで、難燃性を有する点で好ましい。
前記凹凸形成層には、文字が印刷されたものを用いてもよい。文字の印刷面は前記磁性層と接する面でもよいし、前記磁性層と接しない面(反対の面)でもよい。
また、前記凹凸形成層は、ハーフカットされていてもよい。この場合、巻きつけて使用する場合の取扱性が良好である。
【0049】
−使用−
本発明の前記磁性シートの使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性シートを、所望の大きさに裁断し、これを電子機器のノイズ源に、前記磁性層側が近接するように配設することができる。
【0050】
−用途−
本発明の前記磁性シートは、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器(RFID機能付携帯電話等)、非接触ICカードなどに好適に使用することができる。
【0051】
本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層を有しているので、高度な絶縁性が求められる場合や、他の電子部品と接触するような設計下(狭小部位)で使用される場合に好適である。なお、前記磁性層における前記磁性粉は、金属であるため、前記バインダーに混合していても、表面抵抗値は、0.01〜1MΩ/□と低く、難燃剤を添加した場合には、更に表面抵抗値が低下する傾向にあるため、難燃性を有する磁性シートは、前記凹凸形成層を有しているのが好ましい。
前記凹凸形成層の存在により、前記磁性層表面からの前記磁性粉の脱落を防止することができる。また、前記磁性層の片面に前記凹凸形成層が接合されているので、前記磁性層における吸湿面積が狭くなり、信頼性が向上する。
また、前記凹凸形成層の表面は、凹凸を有しており、滑り性に優れるため、携帯電話の電池パック部位にも好適に使用可能である。この場合、充電の繰返しによるリチウム電池の発熱に起因する電池パックの膨張が生じても、前記凹凸形成層により、前記電池パックとの癒着が抑制されるため、電池パックの蓋の開閉不良が改善される。
前記凹凸形成層に凹凸転写がなされていない場合には、電池パックの蓋の開閉により表面に擦り傷が形成されるので、外観が悪くなる。前記凹凸転写により、前記凹凸形成層に凹凸が形成されると、凹凸形成層に擦り傷が形成されないという利点がある。
【0052】
本発明の前記磁性シートは、ベック平滑度が、20秒/mL以下であるので、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れる。
また、本発明の前記磁性シートは、従来の磁性シートと異なり、粘着層を有していない。このため、電子機器内での高温での使用の際に生じる、粘着剤の漏れによる前記電子機器の故障の発生を防止することができる。また、従来の磁性シートに比して、前記粘着層の厚みの分だけ、磁性層の厚みを大きく設けることができるため、比重が大きく、優れたノイズ抑制効果を発揮する。
また、本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層が難燃性を有し、しかも前記磁性層に、前記難燃剤として、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含んでいるので、高い難燃性を有し、しかもハロゲンフリーで環境への負荷が小さい。
ここで、本発明の前記磁性シートの難燃性は、前記UL94V試験にて、V−1以上の評価を有することが好ましい。なお、前記UL94V試験及びその評価クラスの詳細については、上述の凹凸形成層の難燃性の評価において記載した通りである。
【0053】
本発明の前記磁性シートの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の本発明の磁性シートの製造方法により好適に製造することができる。
【0054】
(磁性シートの製造方法)
本発明の磁性シートの製造方法は、磁性層形成工程と、形状転写工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0055】
<磁性層形成工程>
前記磁性層形成工程は、バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する工程である。
なお、前記バインダー、前記磁性粉、及び前記難燃剤の詳細については、上述した通りであるが、前記バインダーとしては、前記熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでいるのが好ましく、後述する加熱プレス前は、未硬化状態であるのが好ましい。ここで、加熱プレス前に硬化が進んでいると、前記磁性層の圧縮が充分に行われず、透磁率を大きくすることができない。また、硬化している磁性層を圧縮すると、歪が残り、室温、高温乃至高温高湿環境下にて、繰返し暴露された際に、厚みが厚くなる方向に変化したり、磁気特性が低下したりする。これに対し、前記加熱プレス前の前記バインダーが未硬化状態であると、これらの不具合の発生が抑制される。
【0056】
前記磁性組成物の調製は、前記バインダーに、前記磁性粉及び前記難燃剤を添加し、混合することにより行うことができる。
前記磁性組成物の成形は、例えば、基材上に前記磁性組成物を塗布し、乾燥することにより行うことができる。
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、形成した前記磁性層を容易に剥離可能な点で、剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)などが好適に挙げられる。
また、前記基材としては、マットPET、剥離処理されていないPET、ノンシリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)、シリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)、ハロゲンフリーで難燃性を有するPETを用いてもよい。
以上の工程により、前記磁性組成物が成形されて前記磁性層が形成される。
【0057】
<形状転写工程>
前記形状転写工程は、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する工程である。
【0058】
−凹凸形成層−
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、これらの詳細については、上述した通りである。
【0059】
前記凹凸形成層の表面状態としては、特に制限はなく、その厚み方向における一方の面に、表面処理が施されていてもよいし、何ら表面処理が施されていなくてもよいが、マット処理、シリコーン樹脂を用いない剥離処理、などが施されているのが好ましい。これらの場合、何ら表面処理が施されていないものに比して、滑り性が向上する。また、これらの表面処理の場合、前記シリコーン樹脂を用いないので、高温乃至高温高湿環境下にて、シリコーンオリゴマーがブリードアウトすることがなく、電子機器内部での使用に好適である。
前記マット処理としては、前記凹凸形成層の表面を粗面化することができる限り特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、サンドマット処理、ケミカルマット処理、表面エンボス加工処理などが挙げられる。これらの処理により、前記凹凸形成層の表面に凹凸が形成され、滑り性を向上する。
【0060】
前記凹凸形成層は、難燃性を有するのが好ましく、前記UL94VTM試験にてVTM−0又は前記UL94V試験にてV−1以上であるのが好ましい。
なお、前記UL94VTM試験及び前記UL94V試験並びにこれらの評価クラスの詳細については、上述した通りである。
【0061】
前記凹凸形成層は、後述する加熱プレス前のベック平滑度が、200秒/mL以下であるのが好ましい。
前記加熱プレス前のベック平滑度が、200秒/mLを超えると、前記加熱プレス後のベック平滑度に悪影響を与えることがある。
なお、前記ベック平滑度の詳細については、上述した通りである。
【0062】
−転写材−
前記転写材としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面に凹凸を有しており、通気性が良好であるのが好ましい。この場合、前記転写材の表面の凹凸が、前記凹凸形成層に転写されると、該凹凸形成層の表面に前記凹凸が形成され、前記凹凸形成層のベック平滑度が低下し、滑り性が向上する。
前記転写材表面の凹凸度合いは、前記ベック平滑度の大きさにより評価することができ、前記ベック平滑度が小さいほど、凹凸度合いが大きいことを意味する。
【0063】
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、25〜200μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、ベック平滑度の低い磁性シートを得ることができないことがあり、200μmを超えると、前記加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、例えば、紙、合成繊維、天然繊維などが挙げられる。
【0064】
前記転写材は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、ベック平滑度6.2秒/mL)、クッション紙(「TF190」;東洋ファイバー(株)製、ベック平滑度1.7秒/mL)、ナイロンメッシュ(「N−NO.110S」;東京スクリーン(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、綿布(「かなきん3号」;日本規格協会製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、粘着材用原紙(「SO原紙18G」;大福製紙(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、両面剥離紙(「100GVW(高平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度146秒/mL)、両面剥離紙(「100GVW(低平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度66秒/mL)、などが挙げられる。
【0065】
−積層配置−
前記積層配置の方法としては、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に積層する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記磁性層の厚み方向における他方の面に、剥離層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に更に積層するのが好ましい。前記剥離層を介することにより、後述する加熱プレスの際に、前記磁性層の他方の面を保護して、前記転写材との密着を防止し、前記加熱プレス後に、前記転写材を、前記剥離層と共に前記磁性層から容易に剥離することができる。また、前記転写材の表面形状が、前記剥離層側に位置する前記磁性層の表面にも転写されるが、このとき、前記磁性層における前記磁性組成物中に存在する気泡が抜け易く、得られる磁性シートの信頼性が向上する。前記剥離層側の転写材を用いない場合は、磁性シートの透磁率を向上させることができる。
【0066】
前記剥離層としては、前記加熱プレスの際に、前記磁性層の厚み方向における他方の面と、前記転写材との密着を防止する機能を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記加熱プレス後に、前記磁性層から容易に剥離することができる点で、表面に剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)が好ましい。
【0067】
−加熱プレス−
前記加熱プレスの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性層、前記凹凸形成層及び前記転写材を積層体として、これらを両側からラミネーターやプレスで挟みこんで加熱及び加圧することにより行うことができる。
前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に、前記転写材の表面形状(凹凸形状)が転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが、直接接合される。
【0068】
前記加熱プレスの条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、プレス温度としては、例えば、80〜190℃が好ましく、プレス圧力としては、例えば、5〜20MPaが好ましく、プレス時間としては、例えば、1〜20分間が好ましい。
【0069】
また、前記加熱プレス後の前記凹凸形成層のベック平滑度としては、20秒/mL以下が好ましい。
前記ベック平滑度が、20秒/mLを超えると、前記凹凸形成層表面の滑り性に劣り、前記磁性シートと、これと接触する部材との癒着が生じることがある。
【0070】
以上の工程により、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とが接合される。その結果、前記磁性層と前記凹凸形成層とを有してなる磁性シートが得られる。
このようにして得られた磁性シートは、前記凹凸形成層の表面に、前記転写材の表面形状(表面の凹凸)が転写されて、粗面化されているので、前記ベック平滑度が低く、滑り性に優れる。
【0071】
本発明の前記磁性シートの製造方法によると、前記加熱プレスにより前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されるので、前記凹凸形成層の表面が粗面化されて前記ベック平滑度が低下し、滑り性を向上させることができる。
このため、凹凸形成層もともとのベック平滑度の大きさに制限されることなく、前記凹凸形成層のベック平滑度を所望の程度に調整することができ、前記凹凸形成層の材料選択の余地が広がる。しかも、このベック平滑度の調整は、容易に行うことができる。
また、前記形状転写工程により、前記磁性層に含まれている気泡が、効率よく逃がされるので、前記磁性層の難燃性を向上させることができると共に、前記磁性層と前記凹凸形成層との間に、気泡が残らず、前記難燃剤の量を低減しても、高い難燃性を得ることができる。
更に、前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合されるので、粘着層の形成が不要であり、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートを製造することができ、しかも前記直接接合により、前記凹凸形成層と前記磁性層とが一体化されているので、前記磁性シートを巻きつけて使用しても、粉落ちの発生が抑制される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
−磁性シートの作製−
まず、トルエン270質量部及び酢酸エチル120質量部に、前記バインダーとしての、エポキシ基を有するアクリル樹脂(「SGシリーズ」;ナガセケムテックス(株)製)92質量部、エポキシ樹脂(「エピコート1031S」;ジャパンエポキシレジン(株)製)8質量部、エポキシ硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)8質量部を溶解させて樹脂組成物を調製した。これに、前記磁性粉としての、扁平磁性粉末(Fe−Si−Cr−Ni、「JEM−S」;三菱マテリアル製)900質量部、並びに、前記難燃剤としての、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート(前記脂肪酸としてのラウリン酸を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート、「MC−5F」;堺化学工業製、個数平均粒径0.5μm)90質量部、及び赤リン(「ST−100」;燐化学工業製)10質量部を添加し、これらを混合して磁性組成物を調製した。
得られた磁性組成物を、前記基材としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET;後述する剥離層22に相当)上に塗布し、室温から115℃までの範囲で乾燥させて、磁性層10を作製した。以上が、前記磁性層形成工程である。
【0074】
次いで、図1Aに示すように、磁性層10の厚み方向における前記剥離PET(剥離層22)を有しない側の面に、凹凸形成層20として、難燃性を有し、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、厚み40μm、UL94VTM試験にてVTM−0、ベック平滑度28.2秒/mL)、及び転写材30として、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、厚み100μm、ベック平滑度6.2秒/mL)を、磁性層10側から、凹凸形成層20及び転写材30の順となるように積層した。
また、磁性層10の厚み方向における他方の面に、前記基材として既に積層されている剥離層22(剥離PET(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、転写材30を積層し、積層体40を形成した。
【0075】
次いで、真空プレス(北川精機(株)製)を用いて、プレス温度170℃、プレス時間10分間、プレス圧力9MPaの条件で、図1Bに示すように、積層体40の両側から、プレス板50により挟みこんで、加熱プレスし、転写材30の表面形状を、凹凸形成層20及び磁性層10の表面に転写すると共に、凹凸形成層20と磁性層10とを接合し、厚み109μmの磁性層10を形成させた。以上が、前記形状転写工程である。
加熱プレス後の積層体40を、サンプルサイズ250mm×250mmとなるように裁断した。
その後、図1Cに示すように、凹凸形成層20及び磁性層10から、転写材30及び剥離層22をそれぞれ剥離し、厚み149μmの磁性シート100を得た。
【0076】
<メラミンシアヌレートにおけるカルボン酸アミドの存在確認>
得られた磁性シートをトルエンに浸漬させた後、乳鉢で粉砕させ、得られた粉砕物をトルエンに分散させた。次いで、遠心分離により、前記磁性粉と前記バインダーとを分離し、更に前記バインダー中の各成分を分離して抽出し、前記難燃剤としてのMC−5F(堺化学工業製)について、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)による分析を行った。このPy−GC−MS測定データを、図2Aに示す。また、比較のため、メラミンシアヌレート(表面処理無し)として、MC−20N(堺化学工業製)のPy−GC−MS測定データを図2Bに、MC−40N(堺化学工業製)のPy−GC−MS測定データを図2Cに示す。図2A〜図2Cより、前記MC−5FのPy−GC−MS測定データにのみ、ラウロイルアミドが検出されており、前記MC−5Fが、カルボン酸アミドを含んでいることが確認された。
【0077】
また、前記遠心分離により抽出した前記磁性粉を、トルエンで洗浄し、得られた洗浄液の上澄みを回収し、トルエンをエバポレータにより減圧留去した。次いで、残渣(トルエン洗浄液の濃縮物)について、赤外分光法(IR)による分析を行った。このIR測定データを、図3Aに示す。図3Aより、水酸基に由来するOH伸縮振動が観られなかった。そこで、ライブラリー検索を行ったところ、図3Bに示すように、前記トルエン洗浄液の濃縮物は、脂肪酸エステルの一種であるグリセリド(グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物)であることが判り、前記磁性粉中には、カルボン酸アミドが含まれていないことが確認された。なお、図3B中、実線は、トルエン洗浄液の濃縮物を表し、破線は、ライブラリー(グリセリド)を表す。
【0078】
(実施例2)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表1に示す組成に変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0079】
(実施例3)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表1に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、ハロゲン系及びリン系化合物を含まず難燃性を有するポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、厚み25μm、UL94VTM試験にてVTM−0、ベック平滑度40.6秒/mL)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0080】
(実施例4)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉の配合量、及び前記バインダーの組成を、表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0081】
(実施例5)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉を、Fe−Si−Al(「EMS−10」;三菱マテリアル製)850質量部に代えると共に、前記バインダーの組成及び前記難燃剤の配合量を、表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0082】
(実施例6)
−磁性シートの作製−
実施例4において、前記磁性粉の配合量を、表1に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートを、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート(ケイ素化合物を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート、「MC−5S」;堺化学工業製)に代えた以外は、実施例4と同様にして、磁性シートを作製した。
【0083】
<メラミンシアヌレートにおけるケイ素原子の存在確認>
得られた磁性シートを、トルエンに浸漬させた後、乳鉢で粉砕させ、得られた粉砕物をトルエンに分散させた。次いで、遠心分離により、前記磁性粉と前記バインダーとを分離し、更に前記バインダー中の各成分を分離して抽出し、前記難燃剤としてのMC−5S(堺化学工業製)について、蛍光X線分析(XRF)を行った。このXRF測定データを、図4Aに示す。また、比較のため、メラミンシアヌレート(表面処理無し)として、MC−20N(堺化学工業製)のXRF測定データを図4Bに、MC−40N(堺化学工業製)のXRF測定データを図4Cに、それぞれ示す。図4A〜図4Cより、前記MC−5SのXRF測定データにのみ、ケイ素原子が検出されており、前記MC−5Sが、ケイ素原子を含んでいることが確認された。
【0084】
(実施例7〜8)
−磁性シートの作製−
実施例6において、前記難燃剤の組成を、表2に示すように変えて、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート及びケイ素原子を含むメラミンシアヌレートを併用した以外は、実施例6と同様にして、磁性シートを作製した。
【0085】
(実施例9〜10)
−磁性シートの作製−
実施例5において、前記磁性粉及び前記難燃剤の配合量を、表2に示すように変えた以外は、実施例5と同様にして、磁性シートを作製した。
【0086】
(実施例11〜18)
−磁性シートの作製−
実施例2において、炭素繊維(ピッチ系炭素繊維、「ラヒーマR−A301」;帝人製、繊維径8μm、繊維長200μm、比重2.2g/cc)を表2〜3に示す配合量で添加すると共に、前記バインダー及び前記難燃剤の組成を、表2〜3に示すように変えた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0087】
(比較例1)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、厚み4.5μmの剥離処理されていないPET(「XR30」;東レセハン製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0088】
(比較例2)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、厚み25μmの剥離処理されていないPET(「エンブレット」;ユニチカ製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0089】
(比較例3)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、シリコーン剥離処理が施されたPET(「25GS」;リンテック製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0090】
(比較例4)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、ノンシリコーン剥離処理PET(「フルオロージュRL」;三菱樹脂製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0091】
(比較例5)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表4に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリビニルアルコールで表面処理されたメラミンシアヌレート(「MC610」;日産化学工業製、個数平均粒径1.1μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0092】
(比較例6)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、表面処理されていないメラミンシアヌレート(「MC6000」;日産化学工業製、個数平均粒径2.2μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0093】
(比較例7)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリリン酸メラミン(「PMP100」;日産化学工業製)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0094】
(比較例8)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、水酸化マグネシウム(「MGZ−3」;堺化学工業製、個数平均粒径0.1μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0095】
(比較例9)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリリン酸アンモニウム(「AP462」;クラリアント製)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0096】
(比較例10)
−磁性シートの作製−
実施例1と同様にして、前記基材(前記剥離層)上に、磁性層を形成し、これを加熱プレス(「KVHC−PRESS」;北川精機社製)を用いて、プレス温度170℃、プレス時間10分間、プレス圧力9MPaの条件で、プレスすることにより硬化させて、65μmの磁性層を形成させた。
次いで、硬化した磁性層の表面に、粘着剤(「No.5601」;日東電工社製)を貼り、厚み10μmの粘着層を形成した後、この粘着層上に、前記凹凸形成層として、ハロゲン系及びリン系化合物を含まず難燃性を有するポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」、東レ(株)製、厚み40μm、ベック平滑度28.2秒/mL)を積層した。
次に、実施例1と同様、前記凹凸形成層及び前記剥離層に、前記転写材をそれぞれ積層した後、ハンドローラ(「ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製)を用いて、前記磁性層と前記凹凸形成層とを、前記粘着層を介して接合した。その後、前記転写材及び前記剥離層を剥離し、厚み86μmの磁性シートを得た。
【0097】
実施例1〜18及び比較例1〜10で得られた磁性シートについて、凹凸形成層表面のベック平滑度の測定及び外観の評価、燃焼性試験による難燃性の評価、高温高湿環境下における信頼性試験(磁性層の厚み変化率の測定)、信頼性試験前後における磁性シート表面からの粉落ちの有無の評価、並びにLOSS特性の評価を、下記方法に基づいて行った。結果を表1〜5に示す。
【0098】
〔ベック平滑度〕
前記凹凸形成層表面のベック平滑度は、ベック式平滑度試験機(テスター産業(株)製)を用いて、空気1ccを流したときの値を測定した。
【0099】
〔外観評価〕
前記凹凸形成層表面の外観は、目視により観察し、下記基準に基づいて評価した。
−評価基準−
○:凹凸形成層表面に擦り傷が目視で確認されず、凹凸形成層と磁性層との間にエアーが入っていない
×:凹凸形成層表面に擦り傷が目視で確認され、凹凸形成層と磁性層との間にエアーが入っている
【0100】
〔燃焼試験〕
前記燃焼試験では、前記磁性層と前記凹凸形成層とからなる磁性シートについて、UL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)を行った。該UL94V試験は、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法であり、評価結果は以下に示すクラスに分けられる。
【0101】
−評価クラス−
V−0:各試料の残炎時間が10秒以下で、5試料の全残炎時間が、50秒以下。
V−1:各試料の残炎時間が30秒以下で、5試料の全残炎時間が、250秒以下。
V−2:燃焼時間は、V−1と同じであるが、有炎滴下物が存在する。
NG :難燃性が低く、UL94Vの規格に適合しない。
ここで、前記「残炎時間」とは、着火源を遠ざけた後における、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを意味する。
【0102】
〔信頼性試験〕
−磁性層の厚み変化−
まず、磁性シートの厚みを測定し、該磁性シートの厚みから凹凸形成層の厚みを引いて、磁性層のみの厚みを算出した。
次いで、磁性シートをオーブンに入れ、85℃/60%の条件で96時間加熱し、オーブンから取り出した。この加熱後の磁性シートの厚みを測定し、該磁性シートの厚みから凹凸形成層の厚みを引いて、磁性層のみの厚みを算出することにより、加熱前後の磁性層の厚み変化率を測定した。
【0103】
〔粉落ち〕
前記粉落ちは、上述した信頼性試験の前後において、磁性シート表面を触ったときに、該磁性シート表面から磁性粉が落ちて、該磁性粉が、手に付着するかどうかを観察することにより評価した。
【0104】
〔LOSS特性(伝送損失)の測定方法〕
伝送損失の測定にはインピーダンスZ=50Ωのマイクロストリップラインを使用した。マイクロストリップライン線路は、面実装部品の実装に適した構造と作製のしやすさによって、広く使われている近傍ノイズの伝送損失測定方法である。使用したマイクロストリップラインの形状を図5に示す。伝送損失は、絶縁体基板の表面に直線状の導体路を設け、この導体路上に磁性シート置いて測定したものである。導体路の両端はネットワークアナライザーに接続される。そして、矢印で示す入射波に対して、電磁波吸収材料の載置部位からの反射量(dB)および透過量(dB)を測定し、それらの差をロス量とし、伝送損失(吸収率)を求めた(入射量=反射S11+loss+透過S21)。具体的には、既知の入射量を入射し、測定で、反射量S11及び透過量S21を測定し、算出してロス量を求めた。
マイクロストリップラインの伝送損失は磁性シートの厚みが厚くなるほど高くなる。一般的には、厚みが薄く、かつ高伝送損失の磁性シートが望まれている。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
表1〜5の結果より、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート、及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含み、また凹凸形成層として、難燃性を有するPETを用いた、実施例1〜18の磁性シートは、難燃性が高く、高温高湿環境下での信頼性試験の前後いずれにおいても、磁性シート表面からの粉落ちが生じず、寸法安定性も良好であることが判った。また、LOSS特性評価の結果より、高いノイズ抑制効果を示すことが判った。更に、凹凸形成層表面の外観も良好であった。
また、前記炭素繊維を含有する実施例11〜18の磁性シートでは、ノイズ抑制効果が高く、しかも前記難燃剤の含有量が少なくても、難燃性が高く、特に、実施例17では、前記炭素繊維を100質量部含み、実施例18では、前記炭素繊維を200質量部含んでいるので、赤リンを含有しなくても、「V−0」の評価結果を得ることができた。
【0111】
一方、比較例1〜4では、前記凹凸形成層が難燃性を有しないので、前記磁性層に前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートのいずれかが含まれていても、難燃性の評価結果が悪いことが判った。
また、比較例5〜9では、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートのいずれも含有していないので、難燃性の評価結果を悪いことが判った。ここで、比較例5では、メラミンシアヌレートに、ポリビニルアルコールで表面処理を施したものを使用したが、難燃性の評価結果は、「NG」であり、単に表面処理を施したメラミンシアヌレートでは、高い難燃性を得ることができず、ケイ素原子及びカルボン酸アミドの少なくともいずれかを付与する表面処理を行うことが必要であることが判った。
また、比較例10では、粘着層を有し、前記形状転写工程を行わないので、前記凹凸形成層と前記磁性層との間にエアーが存在し、難燃性の低下を引き起こした。また、前記粘着層の厚みの分だけ、前記磁性層の厚みが薄くなるため、ノイズ抑制効果が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の磁性シートは、例えば、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器(RFID機能付携帯電話等)、非接触ICカードなどに好適に使用することができる。
本発明の磁性シートの製造方法は、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シートを、簡易かつ低コストで効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0113】
10 磁性層
20 凹凸形成層
22 剥離層
30 転写材
40 積層体
50 プレス板
100 磁性シート(本発明)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能な磁性シート、並びにその低コストで効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性シートの用途としては、ノイズ抑制用途、あるいはRFID用途が挙げられる。
前記ノイズ抑制用途としては、パソコンや携帯電話に代表される電子機器の小型化、高周波数化の急速な進展に伴い、これらの電子機器において、外部からの電磁波によるノイズ干渉及び電子機器内部で発生するノイズ同士の干渉を抑制するために、種々のノイズ対策が行われており、例えば、ノイズ発信源又は受信源近傍に、磁性シート(ノイズ抑制シート)を設置することが行われている。
【0003】
前記磁性シートは、Fe−Si−Al等の合金(磁性粉)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及び揮発性溶剤を含む磁性塗料(磁性シート組成物)を、PETや剥離処理されたPETフィルム等の絶縁性支持体(基材)の表面に塗布し、加熱プレスにより硬化させてシート状に成形したものであり、前記磁性粉が、ノイズを抑制する、所謂ノイズ抑制体としての機能を有する。
【0004】
一方、前記RFID用途としては、近年、RFID(Radio Frequency Identification)と称されるICタグ機能を有する携帯情報端末機に代表されるように、電磁誘導方式によるコイルアンテナを用いる無線通信が普及している。例えば、携帯情報端末機では、その小型化により、送受信用のアンテナ素子の近傍には、例えば、金属筐体、金属部品などの種々の導電体(金属)が配置されている。この場合、前記アンテナ素子近傍の金属の存在により、通信に用いることができる磁界が大きく減衰し、電磁誘導方式におけるRFID通信距離が短くなったり、共振周波数がシフトすることにより無線周波数を送受信することが困難になることがある。そこで、このような電磁障害を抑制するため、前記アンテナ素子と前記導電体との間に、磁性シートを配置することが行われている。
【0005】
例えば、磁性シートを携帯電話に用いる場合、該磁性シートを電池パック部位に配置することがある。しかし、充電の繰り返しによって電池パックが膨張すると共に、磁性シートも厚みが厚くなる方向に変化する場合があり、前記携帯電話の電池パックの蓋部分に癒着して、蓋の開閉が困難になることがある。また、厚みが厚くなるときに、バインダーが磁性粉を保持することができなくなり、粉落ちが生じる場合がある。更に蓋の開閉時に、前記磁性シートが擦れて、粉落ちするという問題がある。
【0006】
これに対し、近年では、磁性層の表面に、粘着剤により絶縁性支持体を接着した磁性シートが提案されている。この磁性シートを用いると、電池パックの蓋と、磁性層との間に、前記絶縁性支持体を介在させることができるので、磁性層が熱により膨張しても、絶縁性支持体が剥離機能を発揮し、電池パック蓋と、磁性層との癒着を防止し、蓋の開閉不良の問題が改善される。
このため、磁性層と絶縁性支持体とが、粘着剤や接着剤を用いて貼り合わされた構造を有する磁性シートが、数多く提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0007】
しかし、これらの磁性シートは、いずれも粘着剤又は接着剤を使用しているため、粘着剤又は接着剤の厚みの分だけ磁性シート(磁性層)を薄くしなければならない。更に、電子機器内が熱を帯びた場合に、粘着剤等が電子機器内に漏れることがあり、電子機器の故障を招くことがある。
また、粘着剤などにより磁性層と絶縁性支持体とを貼り合わされて得られる磁性シートは、その製造工程において、まず、熱プレスなどによる硬化によって磁性シートを作製し、該磁性シート上に粘着層を形成し、更にこの上に絶縁性支持体を積層することが必要である。このため、製造工程が煩雑で、高コスト化を招くという問題がある。また、絶縁性支持体には、蓋の開閉により擦り傷が発生し、外観が悪くなるという問題もある。
【0008】
また、前記磁性シートは、電子機器等に組み込まれるため、耐熱性及び難燃性を有することが要求され、一般的に難燃剤を添加することが行われている。
従来の難燃剤としては、臭素系難燃剤に代表されるようなハロゲン系化合物が主に用いられており、該ハロゲン系化合物は、燃焼すると、環境ホルモンに代表される有害物質を生成することから、環境への負荷が大きく、その使用は削減傾向にある。
しかし、ハロゲンフリーの難燃剤を用いた場合、通常、難燃剤を大量に添加しなければ、十分な難燃性を発揮することはできないが、難燃剤を大量に添加すると、誘磁率が低下することがあるほか、磁性シートが硬くなってしまうことがある。また、ハロゲンフリーの難燃剤としては、一般的にリンを用いることが多く、リンを含まずに、充分な難燃性を発揮することは困難であった。
【0009】
したがって、磁性層と絶縁性支持体との間に粘着剤を用いることなく、簡易かつ低コストで、効率よく磁性シートを製造する方法、及び、粘着層を有さず、表面の滑り性が良好で、難燃剤の使用量が少なくても充分な難燃性を有し、しかも優れたノイズ抑制効果を発揮する磁性シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−165701号公報
【特許文献2】特開2007−123373号公報
【特許文献3】特開2006−301900号公報
【特許文献4】特開2001−329234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シート、並びにその簡易かつ低コストで効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 磁性層と、凹凸形成層とを有してなり、
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、
前記凹凸形成層は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下であることを特徴とする磁性シートである。
該<1>に記載の磁性シートにおいては、前記凹凸形成層のベック平滑度が、20秒/mL以下と低いので、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れ、例えば、携帯電話内部にて、電池パック周辺に収納された場合にも、電池パックの蓋と癒着することなく、蓋の開閉不良の発生を抑制することができる。また、前記磁性シートは、粘着剤等による粘着層を有さず、前記磁性層と前記凹凸形成層とから構成されているので、電子機器内での高温での使用の際に生じる、前記粘着剤の漏れによる前記電子機器の故障の発生が防止される。また、本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層が難燃性を有し、しかも前記磁性層に、前記難燃剤として、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含むので、高い難燃性を有し、磁性粉の粉落ちを抑制可能であり、しかもハロゲンフリーで、環境への負荷が小さい。
<2> 磁性層に、バインダー100質量部に対して、磁性粉を700質量部〜1,300質量部含み、難燃剤を35質量部〜100質量部含み、かつ前記磁性層中の前記磁性粉の含有量が、70wt%〜90wt%である前記<1>に記載の磁性シートである。
<3> 磁性層に、炭素繊維を更に含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁性シートである。
<4> ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径が、1μm以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁性シートである。
該<4>に記載の磁性シートにおいては、前記メラミンシアヌレートの個数平均粒径が、1μm以下と小さいので、前記磁性粉が密に配向するのを阻害せず、大きな粒径の難燃剤を用いる場合に比して、高い透磁率を得ることができる。
<5> 難燃剤が、赤リンを更に含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の磁性シートである。
<6> 磁性層に、バインダー100質量部に対して、赤リンを6質量部〜20質量部含む前記<5>に記載の磁性シートである。
<7> 磁性層に、硬化剤を更に含む前記<1>から<6>のいずれかに記載の磁性シートである。
該<7>に記載の磁性シートにおいては、前記磁性層に前記硬化剤を更に含むので、高温高湿環境下での前記磁性シートの厚み変化を低減することができる。
<8> バインダーに、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくともいずれかを含む前記<7>に記載の磁性シートである。
該<8>に記載の磁性シートにおいては、前記バインダーにエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の少なくともいずれかを含むので、高温高湿環境下での前記磁性シートの厚み変化を低減することができる。
<9> 磁性層の厚みが、25〜500μmである前記<1>から<8>のいずれかに記載の磁性シートである。
<10> ノイズ抑制体として用いられる前記<1>から<9>のいずれかに記載の磁性シートである。
【0013】
<11> バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする磁性シートの製造方法である。
該<11>に記載の磁性シートの製造方法では、前記磁性層形成工程において、前記バインダーに、前記磁性粉及び前記難燃剤が添加されて調製された前記磁性組成物が、成形されて前記磁性層が形成される。前記形状転写工程において、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材が、前記磁性層側からのこの順に積層配置された後、加熱プレスされることにより、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合される。その結果、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートが得られる。
得られた磁性シートにおいては、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層の表面に転写されているので、該凹凸形成層の表面は粗面化されており、ベック平滑度が低く、滑り性に優れる。
<12> バインダーが、熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでなり、加熱プレス前の前記熱硬化性有機樹脂が、未硬化状態である前記<11>に記載の磁性シートの製造方法である。
<13> 形状転写工程が、磁性層の厚み方向における他方の面に、剥離層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置することを含む前記<11>から<12>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<14> 転写材が、表面に凹凸を有する前記<11>から<13>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<15> 凹凸形成層の表面に、マット処理、及びシリコーン樹脂を用いない剥離処理のいずれかが施された前記<12>から<14>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<16> 加熱プレス前の凹凸形成層のベック平滑度が、200秒/mL以下である前記<11>から<15>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
<17> 加熱プレス後の凹凸形成層のベック平滑度が、20秒/mL以下である前記<11>から<16>のいずれかに記載の磁性シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決でき、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シート、並びにその簡易かつ低コストで効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その1)である。
【図1B】図1Bは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その2)である。
【図1C】図1Cは、本発明の磁性シートの製造方法の一例を示す工程図(その3)であり、得られた磁性シート(本発明)の一例を示す。
【図2A】図2Aは、実施例1で用いた難燃剤(MC−5F)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図2B】図2Bは、図2Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−20N)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図2C】図2Cは、図2Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−40N)のPy−GC−MS測定データを示すグラフである。
【図3A】図3Aは、磁性粉のトルエン洗浄液の濃縮物のIR測定データを示すグラフである。
【図3B】図3Bは、磁性粉のトルエン洗浄液の濃縮物と、グリセリドとのライブラリー検索における一致結果を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、実施例6で用いた難燃剤(MC−5S)のXRF測定データを示すグラフである。
【図4B】図4Bは、図4Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−20N)のXRF測定データを示すグラフである。
【図4C】図4Cは、図4Aとの比較を目的とした、表面処理無しメラミンシアヌレート(MC−40N)のXRF測定データを示すグラフである。
【図5】図5は、伝送損失の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、磁性層と凹凸形成層とを有してなる。
【0017】
−磁性層−
前記磁性層は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる、電磁障害を抑制する機能を有する。
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有してなり、好ましくは炭素繊維を含有し、更に必要に応じて適宜選択した、その他の成分を含有してなる。
【0018】
−−バインダー−−
前記バインダーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでいるのが好ましく、例えば、熱硬化性有機樹脂を含むアクリル樹脂が好適に挙げられる。
【0019】
前記熱硬化性有機樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、エポキシ樹脂が好適に挙げられる。分子量の小さいエポキシ樹脂を添加すると、磁性シートの圧縮時(成形時)に、前記バインダーの溶融粘度が、より一層下がるので、磁気特性を向上させることができ、また、例えば、多官能エポキシ樹脂を用いると、硬化後の磁性シートの信頼性をより向上させることができる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、マイクロカプセル化アミン系硬化剤を用いたアニオン硬化系エポキシ樹脂、オニウム塩、スルホニウム塩等を硬化剤に用いたカチオン硬化系エポキシ樹脂、有機過酸化物を硬化剤に用いたラジカル硬化系エポキシ樹脂などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
更に、前記エポキシ樹脂を含有するバインダーは、前記エポキシ樹脂用硬化剤として、潜在性硬化剤を含んでいるのが好ましい。
前記潜在性硬化剤は、特定の温度にて、硬化剤の機能を発揮するものを意味し、該硬化剤としては、例えば、アミン類、フェノール類、酸無水物類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、イソシアネート類などが挙げられる。
【0021】
前記アクリル樹脂は、エポキシ基を有しているのが好ましい。この場合、例えばアルミニウムキレート系硬化剤と併用すると、前記エポキシ基と、前記アルミニウムキレート系硬化剤とが反応することにより、信頼性が向上する。
また、前記アクリル樹脂は、更に水酸基を有しているのが好ましい。該水酸基を有することにより、接着性を向上させることができる。
前記アクリル樹脂の重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塗布性に優れる点で、10,000〜850,000が好ましい。
前記重量平均分子量が、10,000未満であると、磁性組成物(前記バインダーに、前記磁性粉、前記難燃剤等を添加して調製したもの)の粘度が小さくなり、重量の大きな磁性粉を塗布するのが困難となることがあり、850,000を超えると、前記磁性組成物の粘度が大きくなり、塗布し難くなることがある。
また、前記アクリル樹脂のガラス転移温度としては、信頼性の点で、−50℃〜+15℃が好ましい。
前記ガラス転移温度が、−50℃未満であると、高温あるいは高温高湿環境下での信頼性が悪くなることがあり、+15℃を超えると、前記磁性シートが硬くなる傾向がある。
【0022】
−−磁性粉−−
前記磁性粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その形状としては、例えば、扁平形状、塊状、繊維状、球状、不定形状などが挙げられる。これらの中でも、前記磁性粉を所定の方向に容易に配向させることができ、高透磁率化を図ることができる点で、扁平形状が好ましい。
前記磁性粉としては、例えば、軟磁性金属、フェライト、純鉄粒子などが挙げられる。
前記軟磁性金属としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金などが挙げられる。
前記フェライトとしては、例えば、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト等のソフトフェライト、永久磁石材料であるハードフェライトなどが挙げられる。
前記磁性粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
−−難燃剤−−
前記難燃剤を添加することにより、前記磁性シートの難燃性を向上させることができる。
本発明の前記磁性シートにおいては、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含む。
従来の難燃剤としては、ハロゲン系化合物が主に用いられているが、燃焼すると有害物質を生成し、環境への負荷が大きいという問題がある。また、ハロゲンフリーの難燃剤としては、例えば、何ら表面処理がされていないメラミンシアヌレートが知られているが、該メラミンシアヌレートは、バインダーとの親和性が悪く、バインダー中に分散し難いため、硬い磁性シートを得ることを意図する場合において、成形(プレス)直後の磁性シートの機械的強度を低下させる(軟化する)という問題がある。また、機械的強度が大幅に低下してしまうため、前記メラミンシアヌレートの添加量を増大させることは困難であり、充分な難燃性を得ることができない。更に、磁性シートの表面から、磁性粉が脱落する所謂「粉落ち」が生じ易い。
【0024】
ここで、前記メラミンシアヌレートは、メラミン・イソシアヌレート酸付加物であり、メラミンと、イソシアヌレートとが、下記反応式に示すように、付加反応を繰り返すことにより、オリゴマー付加物として形成されたものである。
【0025】
【化1】
【0026】
前記メラミンシアヌレートは、メラミン骨格による剛直性を有し、また、前記付加反応により、水酸基(OH)が発生するため、該水酸基による極性を有することにより、難燃性を発現すると考えられる。しかし、前記水酸基は、分子間で水素結合を形成することが多く、この水酸基による水素結合が、イソシアヌレートの凝集の発生の原因となると推認される。従って、この水素結合を、遮断すること、即ち、一部の水酸基が保護されたメラミンシアヌレートを用いることにより、凝集の発生を抑制し、バインダー中への分散性が改善されると考えられる。
そこで、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート(ケイ素化合物を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート)及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート(脂肪酸を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート)の少なくともいずれかを用いたところ、メラミンシアヌレート(表面処理されていないもの)に比して、より高い難燃性が発現され、また、磁性シート表面からの粉落ちが生じ難く、しかも、バインダーとして、例えば、前記アクリル樹脂を用いた場合に、プレス時のバインダーの硬化を促進させ、高温高湿環境下での厚み変化が抑制された表面平滑性が良好な磁性シートが得られることが判った。
更に、前記難燃剤の粒径についても検討を行った結果、例えば、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートでは、平均粒径が1μmより大きい場合、前記磁性シートの厚み変化が大きくなることがあり、磁気特性も低下することがあることが判った。また、ケイ素原子及びカルボン酸アミドのいずれかを含むメラミンシアヌレート以外の難燃剤では、平均粒径が1μm以下のものを用いても、充分な難燃性を得ることができないことが判った。また、表面処理されていないメラミンシアヌレートを用いた場合、磁性シート中に空気が入ってしまうため、粉落ちが生じ易く、少ない添加量では、充分な難燃性が得られないことが判った。
【0027】
〔ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート〕
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートにおける、該ケイ素原子の存在は、例えば、蛍光X線分析(XRF)により確認することができる。
【0028】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましい。
前記個数平均粒径が、1μmを超えると、前記磁性粉が密に配向するのを阻害し、磁性シートの磁気特性を低下させることがあり、高温あるいは高温高湿環境下での厚み変化が大きくなることがある。
前記個数平均粒径は、例えば、レーザー回折を用いて測定した粒度分布より測定することができる。
【0029】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートは、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、MC−5S(堺化学工業製)などが挙げられる。
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレートの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ケイ素化合物を用いてメラミンシアヌレートを表面処理する方法が好適に挙げられる。
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記メラミンシアヌレートと前記ケイ素化合物とを混合攪拌する方法が挙げられる。
【0030】
前記ケイ素化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のオルガノポリシロキサン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルエチルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を含むシラン化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、反応性が良好な点で、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが好ましい。
【0031】
〔カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート〕
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートにおける、該カルボン酸アミドの存在は、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)を用いて確認することができる。
【0032】
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの個数平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましい。
前記個数平均粒径が、1μmを超えると、前記磁性粉が密に配向するのを阻害し、磁性シートの磁気特性を低下させることがあり、高温あるいは高温高湿環境下での厚み変化が大きくなることがある。
前記個数平均粒径は、例えば、レーザー回折を用いて測定した粒度分布より測定することができる。
【0033】
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートは、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、MC−5F(堺化学工業製)などが挙げられる。
前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、脂肪酸を用いてメラミンシアヌレートを表面処理する方法が好適に挙げられる。
【0034】
前記表面処理の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、前記メラミンシアヌレートと前記脂肪酸とを混合攪拌する方法が挙げられる。
なお、前記脂肪酸を用いて前記メラミンシアヌレートを表面処理すると、下記式(1)に示すように、前記メラミンシアヌレート中のアミノ基と、前記脂肪酸とが反応して、アミド化合物に変換されると考えられる。このため、前記熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)を用いて分析すると、前記カルボン酸アミドの存在を確認することができる。
−NH2+R−COOH→R−CONH−・・・式(1)
【0035】
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラウリン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノレン酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、疎水性が高く、分散性が良好な点で、ラウリン酸が好ましい。
【0036】
〔赤リン〕
前記難燃剤は、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートに加えて、更に赤リンを含んでいてもよい。この場合、前記磁性シートの難燃性を、更に向上させることができる。
前記赤リンとしては、特に制限はなく、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよいが、耐湿性に優れ、混合時に自然発火せず、安全性が良好である点で、その表面が、コーティングされているのが好ましい。
前記表面がコーティングされた赤リンとしては、例えば、赤リンの表面を、水酸化アルミニウムを用いて表面処理したものが挙げられる。
【0037】
前記赤リンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、6〜20質量部が好ましい。
前記含有量が、6質量部未満であると、難燃性向上効果が得られないことがあり、20質量部を超えると、前記バインダーに対する前記磁性粉と前記難燃剤との合計量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となるほか、前記磁性シート中の前記磁性粉の含有比率が低下し、透磁率が低下することがある。
また、前記赤リンと、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートとの配合比を調整することにより、高い難燃性と前記磁性粉の粉落ちの抑制とを両立することができる。
【0038】
前記バインダー、前記磁性粉、並びに前記難燃剤(前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれか)の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、前記磁性粉が、700〜1,300質量部であり、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれか(ケイ素原子を含むものとカルボン酸アミドを含むものとを併用する場合には、その合計量)が、35〜100質量部であるのが好ましい。
【0039】
前記磁性粉の含有量が、700質量部未満であると、優れた磁気特性が得られないことがあり、1,300質量部を超えると、前記磁性粉を前記バインダーで繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなったり、前記磁性シートの表面に、前記難燃剤がブリードしたりすることがあるほか、脆くなり、前記磁性シートの端面だけでなく表面からも前記磁性粉が落ちる(粉落ちする)ことや、軟らかい磁性シートを得ることを意図する場合において、前記磁性シートが硬くなってしまうことや、磁性粉が金属粉であることから難燃性が低下してしまうことがある。また、前記磁性粉を大量に添加すれば、透磁率が向上するというものではなく、添加量が多すぎると、磁性シートにおいて多くの空隙が形成されて透磁率が低下してしまうことがある。即ち、磁性粉の添加量には最適範囲がある。磁性シート中の磁性粉の重量が70〜90wt%であることが好ましい。
【0040】
前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかの含有量が、35質量部未満であると、難燃性が充分に得られないことがあり、100質量部を超えると、前記バインダーに対する前記磁性粉と前記難燃剤との合計量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となるほか、前記磁性シート中の前記磁性粉の含有比率が低下し、透磁率が低下することがある。
【0041】
−−炭素繊維−−
前記磁性層は、炭素繊維を更に含有しているのが好ましい。この場合、ノイズ抑制効果が向上する。また、前記炭素繊維と前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート又は前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートとの組合せにより、前記赤リンを含有しなくても、ハロゲンフリーで高い難燃性を達成することができる。
ここで、ノイズエネルギー減衰の原理は、入射した電磁波エネルギーを、フェライトコアや、磁性粉末を樹脂と混合してシート化した電磁波抑制シートなどといった、電磁波抑制体の内部で、熱エネルギーに変換するというものである。熱エネルギーの変換のメカニズムは、主に、「導電性」、「誘電損失」、及び「磁性損失」の三種に分類され、またこのときの単位体積あたりの電磁波吸収エネルギーP(W/m3)は、電解E、磁界H、及び周波数fを用いて、下記式(2)のように表される。ここで、下記式(2)中、第1項が導電損失を、第2項が誘電損失を、第3項が磁性損失を、それぞれ表す。
P=1/2σ│E│2+πfε’’│E│2+πfμ│H│2・・・式(2)
前記式(2)中、σは導電率を表す。εは複素誘電率を表し、ε=ε’−jε’’である。μは複素誘磁率を表し、μ=μ’−jμ’’である。
前記磁性層に前記炭素繊維を配合すると、前記炭素繊維のフィラーの効果により、前記式(2)における前記導電率σが上昇するため、結果として、前記P(電磁波吸収エネルギー)が上昇し、ノイズ抑制効果が向上する。
なお、前記導電率σが上昇すると、前記磁性層が導電性を有するため、前記磁性シートの用途が制限されることがあるが、本発明の前記磁性シートでは、前記磁性層と前記凹凸形成層とが、一体化されているので、前記磁性シートの表面(凹凸形成層)が絶縁性でありながら、ノイズ抑制効果を向上させることができる。
【0042】
前記炭素繊維としては、特に制限はなく、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、ピッチ系炭素繊維(「ラヒーマR−A301」;帝人製)(繊維径8μm、繊維長200μm、比重2.2g/cc)などが好適に挙げられる。
前記炭素繊維の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、5〜200質量部が好ましい。
前記含有量が、5質量部未満であると、ノイズ抑制及び難燃性向上の効果が小さくなることがあり、200質量部を超えると、磁性組成物調製時に混合し難くなることがある。
【0043】
−−その他の成分−−
前記その他の成分としては、前記磁性層の機能を害しない限り特に制限はなく、公知の各種添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができる。
前記磁性層を形成する際の、磁性組成物(前記バインダーに前記磁性粉及び前記難燃剤を添加して調製したもの)の塗布性の向上を目的とした場合には、溶剤を添加することができ、該溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルグリコールアセテート等のエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロフォルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。その他、必要に応じて、分散剤、安定剤、潤滑剤、シラン系やチタネート系カップリング剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤等、各種添加剤を添加してもよい。
【0044】
前記磁性層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高い透磁率が得られる点で、厚いのが好ましく、25〜500μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、透磁率が低くなり、500μmを超えると、狭小部位に適さず、近年における電子機器の小型化の技術動向に沿わなくなるほか、前記厚みの透磁率への影響が小さくなってしまうことがある。なお、前記厚みは、70μm以下になると、透磁率が急激に低くなる傾向がある。
【0045】
−凹凸形成層−
前記凹凸形成層は、本発明の前記磁性シートの使用時に、例えば、電子機器内にて、前記磁性シートを、これと接触する部材から剥離する機能を有する。
前記凹凸形成層は、難燃性を有することが必要である。前記磁性層と前記凹凸形成層とは一体化されているので、前記凹凸形成層が難燃性を有すると、前記磁性層中の前記難燃剤の含有量を低減しても、前記磁性シート全体として難燃性を有するので、前記磁性シートの磁気特性を向上させることができる。
前記難燃性は、例えば、燃焼試験として、UL94VTM試験及びUL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)により評価することができる。
前記UL94VTM試験は、円筒状に巻いたフィルム試験片を鉛直に保持し、これにバーナーの炎を3秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。また、前記UL94V試験は、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。これらの試験の評価結果は以下に示すクラスに分けられる。
本発明の前記磁性シートにおける前記凹凸形成層は、VTM−0又はV−1以上の難燃性を有することが必要である。
−評価クラス−
VTM−0、V−0:各試料の残炎時間が10秒以下で、5試料の全残炎時間が、50秒以下。
VTM−1、V−1:各試料の残炎時間が30秒以下で、5試料の全残炎時間が、250秒以下。
VTM−2、V−2:燃焼時間は、VTM−1又はV−1と同じであるが、有炎滴下物が存在する。
NG :難燃性が低く、UL94VTM又はUL94Vの規格に適合しない。
ここで、前記「残炎時間」とは、着火源を遠ざけた後における、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを意味する。
【0046】
また、前記凹凸形成層は、ベック平滑度が、20秒/mL以下であることが必要である。
前記ベック平滑度が、20秒/mL以下であると、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れ、前記磁性シートと接触する部材からの剥離効果が顕著となる点で、有利である。
前記ベック平滑度は、紙や布などのシート状部材の凹凸を有する表面を、ある特定量の空気が通過するのに要する時間で表される。前記シート状部材表面の凹凸度合いが大きいほど、前記ベック平滑度は小さくなり、いわゆる「滑り性」に優れることを意味する。
前記ベック平滑度の測定は、例えば、ベック式平滑度試験機(テスター産業株式会社製)を用いて行うことができる。
【0047】
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、2〜100μmが好ましい。
前記厚みが、2μm未満であると、作業性が悪くなることがあり、100μmを超えると、加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、合成樹脂が挙げられ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適に挙げられる。
【0048】
前記凹凸形成層は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないPET(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、UL94VTM試験にてVTM−0)、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないPET(「ルミラーZV30」;東レ(株)製、UL94VTM試験にてVTM−0)などが挙げられる。これらは、ハロゲン系及びリン系の化合物を含まない、ハロゲンフリーで、難燃性を有する点で好ましい。
前記凹凸形成層には、文字が印刷されたものを用いてもよい。文字の印刷面は前記磁性層と接する面でもよいし、前記磁性層と接しない面(反対の面)でもよい。
また、前記凹凸形成層は、ハーフカットされていてもよい。この場合、巻きつけて使用する場合の取扱性が良好である。
【0049】
−使用−
本発明の前記磁性シートの使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性シートを、所望の大きさに裁断し、これを電子機器のノイズ源に、前記磁性層側が近接するように配設することができる。
【0050】
−用途−
本発明の前記磁性シートは、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器(RFID機能付携帯電話等)、非接触ICカードなどに好適に使用することができる。
【0051】
本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層を有しているので、高度な絶縁性が求められる場合や、他の電子部品と接触するような設計下(狭小部位)で使用される場合に好適である。なお、前記磁性層における前記磁性粉は、金属であるため、前記バインダーに混合していても、表面抵抗値は、0.01〜1MΩ/□と低く、難燃剤を添加した場合には、更に表面抵抗値が低下する傾向にあるため、難燃性を有する磁性シートは、前記凹凸形成層を有しているのが好ましい。
前記凹凸形成層の存在により、前記磁性層表面からの前記磁性粉の脱落を防止することができる。また、前記磁性層の片面に前記凹凸形成層が接合されているので、前記磁性層における吸湿面積が狭くなり、信頼性が向上する。
また、前記凹凸形成層の表面は、凹凸を有しており、滑り性に優れるため、携帯電話の電池パック部位にも好適に使用可能である。この場合、充電の繰返しによるリチウム電池の発熱に起因する電池パックの膨張が生じても、前記凹凸形成層により、前記電池パックとの癒着が抑制されるため、電池パックの蓋の開閉不良が改善される。
前記凹凸形成層に凹凸転写がなされていない場合には、電池パックの蓋の開閉により表面に擦り傷が形成されるので、外観が悪くなる。前記凹凸転写により、前記凹凸形成層に凹凸が形成されると、凹凸形成層に擦り傷が形成されないという利点がある。
【0052】
本発明の前記磁性シートは、ベック平滑度が、20秒/mL以下であるので、前記凹凸形成層の表面の滑り性に優れる。
また、本発明の前記磁性シートは、従来の磁性シートと異なり、粘着層を有していない。このため、電子機器内での高温での使用の際に生じる、粘着剤の漏れによる前記電子機器の故障の発生を防止することができる。また、従来の磁性シートに比して、前記粘着層の厚みの分だけ、磁性層の厚みを大きく設けることができるため、比重が大きく、優れたノイズ抑制効果を発揮する。
また、本発明の前記磁性シートは、前記凹凸形成層が難燃性を有し、しかも前記磁性層に、前記難燃剤として、前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及び前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含んでいるので、高い難燃性を有し、しかもハロゲンフリーで環境への負荷が小さい。
ここで、本発明の前記磁性シートの難燃性は、前記UL94V試験にて、V−1以上の評価を有することが好ましい。なお、前記UL94V試験及びその評価クラスの詳細については、上述の凹凸形成層の難燃性の評価において記載した通りである。
【0053】
本発明の前記磁性シートの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の本発明の磁性シートの製造方法により好適に製造することができる。
【0054】
(磁性シートの製造方法)
本発明の磁性シートの製造方法は、磁性層形成工程と、形状転写工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0055】
<磁性層形成工程>
前記磁性層形成工程は、バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する工程である。
なお、前記バインダー、前記磁性粉、及び前記難燃剤の詳細については、上述した通りであるが、前記バインダーとしては、前記熱硬化性有機樹脂を少なくとも含んでいるのが好ましく、後述する加熱プレス前は、未硬化状態であるのが好ましい。ここで、加熱プレス前に硬化が進んでいると、前記磁性層の圧縮が充分に行われず、透磁率を大きくすることができない。また、硬化している磁性層を圧縮すると、歪が残り、室温、高温乃至高温高湿環境下にて、繰返し暴露された際に、厚みが厚くなる方向に変化したり、磁気特性が低下したりする。これに対し、前記加熱プレス前の前記バインダーが未硬化状態であると、これらの不具合の発生が抑制される。
【0056】
前記磁性組成物の調製は、前記バインダーに、前記磁性粉及び前記難燃剤を添加し、混合することにより行うことができる。
前記磁性組成物の成形は、例えば、基材上に前記磁性組成物を塗布し、乾燥することにより行うことができる。
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、形成した前記磁性層を容易に剥離可能な点で、剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)などが好適に挙げられる。
また、前記基材としては、マットPET、剥離処理されていないPET、ノンシリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)、シリコーン剥離処理PET(磁性層が形成される面が剥離処理されていない)、ハロゲンフリーで難燃性を有するPETを用いてもよい。
以上の工程により、前記磁性組成物が成形されて前記磁性層が形成される。
【0057】
<形状転写工程>
前記形状転写工程は、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する工程である。
【0058】
−凹凸形成層−
前記凹凸形成層としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、これらの詳細については、上述した通りである。
【0059】
前記凹凸形成層の表面状態としては、特に制限はなく、その厚み方向における一方の面に、表面処理が施されていてもよいし、何ら表面処理が施されていなくてもよいが、マット処理、シリコーン樹脂を用いない剥離処理、などが施されているのが好ましい。これらの場合、何ら表面処理が施されていないものに比して、滑り性が向上する。また、これらの表面処理の場合、前記シリコーン樹脂を用いないので、高温乃至高温高湿環境下にて、シリコーンオリゴマーがブリードアウトすることがなく、電子機器内部での使用に好適である。
前記マット処理としては、前記凹凸形成層の表面を粗面化することができる限り特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、サンドマット処理、ケミカルマット処理、表面エンボス加工処理などが挙げられる。これらの処理により、前記凹凸形成層の表面に凹凸が形成され、滑り性を向上する。
【0060】
前記凹凸形成層は、難燃性を有するのが好ましく、前記UL94VTM試験にてVTM−0又は前記UL94V試験にてV−1以上であるのが好ましい。
なお、前記UL94VTM試験及び前記UL94V試験並びにこれらの評価クラスの詳細については、上述した通りである。
【0061】
前記凹凸形成層は、後述する加熱プレス前のベック平滑度が、200秒/mL以下であるのが好ましい。
前記加熱プレス前のベック平滑度が、200秒/mLを超えると、前記加熱プレス後のベック平滑度に悪影響を与えることがある。
なお、前記ベック平滑度の詳細については、上述した通りである。
【0062】
−転写材−
前記転写材としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表面に凹凸を有しており、通気性が良好であるのが好ましい。この場合、前記転写材の表面の凹凸が、前記凹凸形成層に転写されると、該凹凸形成層の表面に前記凹凸が形成され、前記凹凸形成層のベック平滑度が低下し、滑り性が向上する。
前記転写材表面の凹凸度合いは、前記ベック平滑度の大きさにより評価することができ、前記ベック平滑度が小さいほど、凹凸度合いが大きいことを意味する。
【0063】
前記構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
前記厚みとしては、25〜200μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、ベック平滑度の低い磁性シートを得ることができないことがあり、200μmを超えると、前記加熱プレス時に、熱が前記磁性層に伝わり難く、信頼性が低下することがある。
前記材質としては、例えば、紙、合成繊維、天然繊維などが挙げられる。
【0064】
前記転写材は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、ベック平滑度6.2秒/mL)、クッション紙(「TF190」;東洋ファイバー(株)製、ベック平滑度1.7秒/mL)、ナイロンメッシュ(「N−NO.110S」;東京スクリーン(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、綿布(「かなきん3号」;日本規格協会製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、粘着材用原紙(「SO原紙18G」;大福製紙(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、両面剥離紙(「100GVW(高平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度146秒/mL)、両面剥離紙(「100GVW(低平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度66秒/mL)、などが挙げられる。
【0065】
−積層配置−
前記積層配置の方法としては、前記磁性層の厚み方向における一方の面に、前記凹凸形成層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に積層する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記磁性層の厚み方向における他方の面に、剥離層及び前記転写材を、前記磁性層側からこの順に更に積層するのが好ましい。前記剥離層を介することにより、後述する加熱プレスの際に、前記磁性層の他方の面を保護して、前記転写材との密着を防止し、前記加熱プレス後に、前記転写材を、前記剥離層と共に前記磁性層から容易に剥離することができる。また、前記転写材の表面形状が、前記剥離層側に位置する前記磁性層の表面にも転写されるが、このとき、前記磁性層における前記磁性組成物中に存在する気泡が抜け易く、得られる磁性シートの信頼性が向上する。前記剥離層側の転写材を用いない場合は、磁性シートの透磁率を向上させることができる。
【0066】
前記剥離層としては、前記加熱プレスの際に、前記磁性層の厚み方向における他方の面と、前記転写材との密着を防止する機能を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記加熱プレス後に、前記磁性層から容易に剥離することができる点で、表面に剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)が好ましい。
【0067】
−加熱プレス−
前記加熱プレスの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性層、前記凹凸形成層及び前記転写材を積層体として、これらを両側からラミネーターやプレスで挟みこんで加熱及び加圧することにより行うことができる。
前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に、前記転写材の表面形状(凹凸形状)が転写されると共に、粘着剤等を使用しなくても、前記凹凸形成層と前記磁性層とが、直接接合される。
【0068】
前記加熱プレスの条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、プレス温度としては、例えば、80〜190℃が好ましく、プレス圧力としては、例えば、5〜20MPaが好ましく、プレス時間としては、例えば、1〜20分間が好ましい。
【0069】
また、前記加熱プレス後の前記凹凸形成層のベック平滑度としては、20秒/mL以下が好ましい。
前記ベック平滑度が、20秒/mLを超えると、前記凹凸形成層表面の滑り性に劣り、前記磁性シートと、これと接触する部材との癒着が生じることがある。
【0070】
以上の工程により、前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とが接合される。その結果、前記磁性層と前記凹凸形成層とを有してなる磁性シートが得られる。
このようにして得られた磁性シートは、前記凹凸形成層の表面に、前記転写材の表面形状(表面の凹凸)が転写されて、粗面化されているので、前記ベック平滑度が低く、滑り性に優れる。
【0071】
本発明の前記磁性シートの製造方法によると、前記加熱プレスにより前記転写材の表面形状が、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写されるので、前記凹凸形成層の表面が粗面化されて前記ベック平滑度が低下し、滑り性を向上させることができる。
このため、凹凸形成層もともとのベック平滑度の大きさに制限されることなく、前記凹凸形成層のベック平滑度を所望の程度に調整することができ、前記凹凸形成層の材料選択の余地が広がる。しかも、このベック平滑度の調整は、容易に行うことができる。
また、前記形状転写工程により、前記磁性層に含まれている気泡が、効率よく逃がされるので、前記磁性層の難燃性を向上させることができると共に、前記磁性層と前記凹凸形成層との間に、気泡が残らず、前記難燃剤の量を低減しても、高い難燃性を得ることができる。
更に、前記加熱プレスにより、前記凹凸形成層と前記磁性層とが直接接合されるので、粘着層の形成が不要であり、簡易かつ低コストで効率よく磁性シートを製造することができ、しかも前記直接接合により、前記凹凸形成層と前記磁性層とが一体化されているので、前記磁性シートを巻きつけて使用しても、粉落ちの発生が抑制される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
−磁性シートの作製−
まず、トルエン270質量部及び酢酸エチル120質量部に、前記バインダーとしての、エポキシ基を有するアクリル樹脂(「SGシリーズ」;ナガセケムテックス(株)製)92質量部、エポキシ樹脂(「エピコート1031S」;ジャパンエポキシレジン(株)製)8質量部、エポキシ硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)8質量部を溶解させて樹脂組成物を調製した。これに、前記磁性粉としての、扁平磁性粉末(Fe−Si−Cr−Ni、「JEM−S」;三菱マテリアル製)900質量部、並びに、前記難燃剤としての、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート(前記脂肪酸としてのラウリン酸を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート、「MC−5F」;堺化学工業製、個数平均粒径0.5μm)90質量部、及び赤リン(「ST−100」;燐化学工業製)10質量部を添加し、これらを混合して磁性組成物を調製した。
得られた磁性組成物を、前記基材としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET;後述する剥離層22に相当)上に塗布し、室温から115℃までの範囲で乾燥させて、磁性層10を作製した。以上が、前記磁性層形成工程である。
【0074】
次いで、図1Aに示すように、磁性層10の厚み方向における前記剥離PET(剥離層22)を有しない側の面に、凹凸形成層20として、難燃性を有し、ハロゲン系及びリン系化合物を含まないポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、厚み40μm、UL94VTM試験にてVTM−0、ベック平滑度28.2秒/mL)、及び転写材30として、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、厚み100μm、ベック平滑度6.2秒/mL)を、磁性層10側から、凹凸形成層20及び転写材30の順となるように積層した。
また、磁性層10の厚み方向における他方の面に、前記基材として既に積層されている剥離層22(剥離PET(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、転写材30を積層し、積層体40を形成した。
【0075】
次いで、真空プレス(北川精機(株)製)を用いて、プレス温度170℃、プレス時間10分間、プレス圧力9MPaの条件で、図1Bに示すように、積層体40の両側から、プレス板50により挟みこんで、加熱プレスし、転写材30の表面形状を、凹凸形成層20及び磁性層10の表面に転写すると共に、凹凸形成層20と磁性層10とを接合し、厚み109μmの磁性層10を形成させた。以上が、前記形状転写工程である。
加熱プレス後の積層体40を、サンプルサイズ250mm×250mmとなるように裁断した。
その後、図1Cに示すように、凹凸形成層20及び磁性層10から、転写材30及び剥離層22をそれぞれ剥離し、厚み149μmの磁性シート100を得た。
【0076】
<メラミンシアヌレートにおけるカルボン酸アミドの存在確認>
得られた磁性シートをトルエンに浸漬させた後、乳鉢で粉砕させ、得られた粉砕物をトルエンに分散させた。次いで、遠心分離により、前記磁性粉と前記バインダーとを分離し、更に前記バインダー中の各成分を分離して抽出し、前記難燃剤としてのMC−5F(堺化学工業製)について、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py−GC−MS)による分析を行った。このPy−GC−MS測定データを、図2Aに示す。また、比較のため、メラミンシアヌレート(表面処理無し)として、MC−20N(堺化学工業製)のPy−GC−MS測定データを図2Bに、MC−40N(堺化学工業製)のPy−GC−MS測定データを図2Cに示す。図2A〜図2Cより、前記MC−5FのPy−GC−MS測定データにのみ、ラウロイルアミドが検出されており、前記MC−5Fが、カルボン酸アミドを含んでいることが確認された。
【0077】
また、前記遠心分離により抽出した前記磁性粉を、トルエンで洗浄し、得られた洗浄液の上澄みを回収し、トルエンをエバポレータにより減圧留去した。次いで、残渣(トルエン洗浄液の濃縮物)について、赤外分光法(IR)による分析を行った。このIR測定データを、図3Aに示す。図3Aより、水酸基に由来するOH伸縮振動が観られなかった。そこで、ライブラリー検索を行ったところ、図3Bに示すように、前記トルエン洗浄液の濃縮物は、脂肪酸エステルの一種であるグリセリド(グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物)であることが判り、前記磁性粉中には、カルボン酸アミドが含まれていないことが確認された。なお、図3B中、実線は、トルエン洗浄液の濃縮物を表し、破線は、ライブラリー(グリセリド)を表す。
【0078】
(実施例2)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表1に示す組成に変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0079】
(実施例3)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表1に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、ハロゲン系及びリン系化合物を含まず難燃性を有するポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」;東レ(株)製、厚み25μm、UL94VTM試験にてVTM−0、ベック平滑度40.6秒/mL)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0080】
(実施例4)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉の配合量、及び前記バインダーの組成を、表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0081】
(実施例5)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉を、Fe−Si−Al(「EMS−10」;三菱マテリアル製)850質量部に代えると共に、前記バインダーの組成及び前記難燃剤の配合量を、表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0082】
(実施例6)
−磁性シートの作製−
実施例4において、前記磁性粉の配合量を、表1に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートを、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート(ケイ素化合物を用いて表面処理されたメラミンシアヌレート、「MC−5S」;堺化学工業製)に代えた以外は、実施例4と同様にして、磁性シートを作製した。
【0083】
<メラミンシアヌレートにおけるケイ素原子の存在確認>
得られた磁性シートを、トルエンに浸漬させた後、乳鉢で粉砕させ、得られた粉砕物をトルエンに分散させた。次いで、遠心分離により、前記磁性粉と前記バインダーとを分離し、更に前記バインダー中の各成分を分離して抽出し、前記難燃剤としてのMC−5S(堺化学工業製)について、蛍光X線分析(XRF)を行った。このXRF測定データを、図4Aに示す。また、比較のため、メラミンシアヌレート(表面処理無し)として、MC−20N(堺化学工業製)のXRF測定データを図4Bに、MC−40N(堺化学工業製)のXRF測定データを図4Cに、それぞれ示す。図4A〜図4Cより、前記MC−5SのXRF測定データにのみ、ケイ素原子が検出されており、前記MC−5Sが、ケイ素原子を含んでいることが確認された。
【0084】
(実施例7〜8)
−磁性シートの作製−
実施例6において、前記難燃剤の組成を、表2に示すように変えて、カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート及びケイ素原子を含むメラミンシアヌレートを併用した以外は、実施例6と同様にして、磁性シートを作製した。
【0085】
(実施例9〜10)
−磁性シートの作製−
実施例5において、前記磁性粉及び前記難燃剤の配合量を、表2に示すように変えた以外は、実施例5と同様にして、磁性シートを作製した。
【0086】
(実施例11〜18)
−磁性シートの作製−
実施例2において、炭素繊維(ピッチ系炭素繊維、「ラヒーマR−A301」;帝人製、繊維径8μm、繊維長200μm、比重2.2g/cc)を表2〜3に示す配合量で添加すると共に、前記バインダー及び前記難燃剤の組成を、表2〜3に示すように変えた以外は、実施例2と同様にして、磁性シートを作製した。
【0087】
(比較例1)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、厚み4.5μmの剥離処理されていないPET(「XR30」;東レセハン製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0088】
(比較例2)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、厚み25μmの剥離処理されていないPET(「エンブレット」;ユニチカ製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0089】
(比較例3)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、シリコーン剥離処理が施されたPET(「25GS」;リンテック製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0090】
(比較例4)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記バインダーの組成を、表4に示す組成に変えると共に、凹凸形成層20を、ノンシリコーン剥離処理PET(「フルオロージュRL」;三菱樹脂製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0091】
(比較例5)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表4に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリビニルアルコールで表面処理されたメラミンシアヌレート(「MC610」;日産化学工業製、個数平均粒径1.1μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0092】
(比較例6)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、表面処理されていないメラミンシアヌレート(「MC6000」;日産化学工業製、個数平均粒径2.2μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0093】
(比較例7)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリリン酸メラミン(「PMP100」;日産化学工業製)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0094】
(比較例8)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、水酸化マグネシウム(「MGZ−3」;堺化学工業製、個数平均粒径0.1μm)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0095】
(比較例9)
−磁性シートの作製−
実施例9において、赤リンの配合量を、表5に示すように変えると共に、前記難燃剤としての、前記カルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレート45質量部を、ポリリン酸アンモニウム(「AP462」;クラリアント製)90質量部に代えた以外は、実施例9と同様にして、磁性シートを作製した。
【0096】
(比較例10)
−磁性シートの作製−
実施例1と同様にして、前記基材(前記剥離層)上に、磁性層を形成し、これを加熱プレス(「KVHC−PRESS」;北川精機社製)を用いて、プレス温度170℃、プレス時間10分間、プレス圧力9MPaの条件で、プレスすることにより硬化させて、65μmの磁性層を形成させた。
次いで、硬化した磁性層の表面に、粘着剤(「No.5601」;日東電工社製)を貼り、厚み10μmの粘着層を形成した後、この粘着層上に、前記凹凸形成層として、ハロゲン系及びリン系化合物を含まず難燃性を有するポリエステルフィルム(「ルミラーZV10」、東レ(株)製、厚み40μm、ベック平滑度28.2秒/mL)を積層した。
次に、実施例1と同様、前記凹凸形成層及び前記剥離層に、前記転写材をそれぞれ積層した後、ハンドローラ(「ソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製)を用いて、前記磁性層と前記凹凸形成層とを、前記粘着層を介して接合した。その後、前記転写材及び前記剥離層を剥離し、厚み86μmの磁性シートを得た。
【0097】
実施例1〜18及び比較例1〜10で得られた磁性シートについて、凹凸形成層表面のベック平滑度の測定及び外観の評価、燃焼性試験による難燃性の評価、高温高湿環境下における信頼性試験(磁性層の厚み変化率の測定)、信頼性試験前後における磁性シート表面からの粉落ちの有無の評価、並びにLOSS特性の評価を、下記方法に基づいて行った。結果を表1〜5に示す。
【0098】
〔ベック平滑度〕
前記凹凸形成層表面のベック平滑度は、ベック式平滑度試験機(テスター産業(株)製)を用いて、空気1ccを流したときの値を測定した。
【0099】
〔外観評価〕
前記凹凸形成層表面の外観は、目視により観察し、下記基準に基づいて評価した。
−評価基準−
○:凹凸形成層表面に擦り傷が目視で確認されず、凹凸形成層と磁性層との間にエアーが入っていない
×:凹凸形成層表面に擦り傷が目視で確認され、凹凸形成層と磁性層との間にエアーが入っている
【0100】
〔燃焼試験〕
前記燃焼試験では、前記磁性層と前記凹凸形成層とからなる磁性シートについて、UL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)を行った。該UL94V試験は、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法であり、評価結果は以下に示すクラスに分けられる。
【0101】
−評価クラス−
V−0:各試料の残炎時間が10秒以下で、5試料の全残炎時間が、50秒以下。
V−1:各試料の残炎時間が30秒以下で、5試料の全残炎時間が、250秒以下。
V−2:燃焼時間は、V−1と同じであるが、有炎滴下物が存在する。
NG :難燃性が低く、UL94Vの規格に適合しない。
ここで、前記「残炎時間」とは、着火源を遠ざけた後における、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを意味する。
【0102】
〔信頼性試験〕
−磁性層の厚み変化−
まず、磁性シートの厚みを測定し、該磁性シートの厚みから凹凸形成層の厚みを引いて、磁性層のみの厚みを算出した。
次いで、磁性シートをオーブンに入れ、85℃/60%の条件で96時間加熱し、オーブンから取り出した。この加熱後の磁性シートの厚みを測定し、該磁性シートの厚みから凹凸形成層の厚みを引いて、磁性層のみの厚みを算出することにより、加熱前後の磁性層の厚み変化率を測定した。
【0103】
〔粉落ち〕
前記粉落ちは、上述した信頼性試験の前後において、磁性シート表面を触ったときに、該磁性シート表面から磁性粉が落ちて、該磁性粉が、手に付着するかどうかを観察することにより評価した。
【0104】
〔LOSS特性(伝送損失)の測定方法〕
伝送損失の測定にはインピーダンスZ=50Ωのマイクロストリップラインを使用した。マイクロストリップライン線路は、面実装部品の実装に適した構造と作製のしやすさによって、広く使われている近傍ノイズの伝送損失測定方法である。使用したマイクロストリップラインの形状を図5に示す。伝送損失は、絶縁体基板の表面に直線状の導体路を設け、この導体路上に磁性シート置いて測定したものである。導体路の両端はネットワークアナライザーに接続される。そして、矢印で示す入射波に対して、電磁波吸収材料の載置部位からの反射量(dB)および透過量(dB)を測定し、それらの差をロス量とし、伝送損失(吸収率)を求めた(入射量=反射S11+loss+透過S21)。具体的には、既知の入射量を入射し、測定で、反射量S11及び透過量S21を測定し、算出してロス量を求めた。
マイクロストリップラインの伝送損失は磁性シートの厚みが厚くなるほど高くなる。一般的には、厚みが薄く、かつ高伝送損失の磁性シートが望まれている。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
表1〜5の結果より、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート、及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを含み、また凹凸形成層として、難燃性を有するPETを用いた、実施例1〜18の磁性シートは、難燃性が高く、高温高湿環境下での信頼性試験の前後いずれにおいても、磁性シート表面からの粉落ちが生じず、寸法安定性も良好であることが判った。また、LOSS特性評価の結果より、高いノイズ抑制効果を示すことが判った。更に、凹凸形成層表面の外観も良好であった。
また、前記炭素繊維を含有する実施例11〜18の磁性シートでは、ノイズ抑制効果が高く、しかも前記難燃剤の含有量が少なくても、難燃性が高く、特に、実施例17では、前記炭素繊維を100質量部含み、実施例18では、前記炭素繊維を200質量部含んでいるので、赤リンを含有しなくても、「V−0」の評価結果を得ることができた。
【0111】
一方、比較例1〜4では、前記凹凸形成層が難燃性を有しないので、前記磁性層に前記ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートのいずれかが含まれていても、難燃性の評価結果が悪いことが判った。
また、比較例5〜9では、前記難燃剤として、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートのいずれも含有していないので、難燃性の評価結果を悪いことが判った。ここで、比較例5では、メラミンシアヌレートに、ポリビニルアルコールで表面処理を施したものを使用したが、難燃性の評価結果は、「NG」であり、単に表面処理を施したメラミンシアヌレートでは、高い難燃性を得ることができず、ケイ素原子及びカルボン酸アミドの少なくともいずれかを付与する表面処理を行うことが必要であることが判った。
また、比較例10では、粘着層を有し、前記形状転写工程を行わないので、前記凹凸形成層と前記磁性層との間にエアーが存在し、難燃性の低下を引き起こした。また、前記粘着層の厚みの分だけ、前記磁性層の厚みが薄くなるため、ノイズ抑制効果が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の磁性シートは、例えば、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器(RFID機能付携帯電話等)、非接触ICカードなどに好適に使用することができる。
本発明の磁性シートの製造方法は、表面の滑り性に優れ、高い難燃性及びノイズ抑制効果を有し、しかも環境への負荷が小さい磁性シートを、簡易かつ低コストで効率よく製造することができる。
【符号の説明】
【0113】
10 磁性層
20 凹凸形成層
22 剥離層
30 転写材
40 積層体
50 プレス板
100 磁性シート(本発明)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性層と、凹凸形成層とを有してなり、
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、
前記凹凸形成層は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下であることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
磁性層に、バインダー100質量部に対して、磁性粉を700質量部〜1,300質量部含み、難燃剤を35質量部〜100質量部含み、かつ前記磁性層中の前記磁性粉の含有量が、70wt%〜90wt%である請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
磁性層に、炭素繊維を更に含む請求項1から2のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項4】
バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする磁性シートの製造方法。
【請求項1】
磁性層と、凹凸形成層とを有してなり、
前記磁性層は、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を少なくとも含有し、該難燃剤が、ケイ素原子を含むメラミンシアヌレート及びカルボン酸アミドを含むメラミンシアヌレートの少なくともいずれかを少なくとも含み、
前記凹凸形成層は、難燃性を有し、かつベック平滑度が、20秒/mL以下であることを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
磁性層に、バインダー100質量部に対して、磁性粉を700質量部〜1,300質量部含み、難燃剤を35質量部〜100質量部含み、かつ前記磁性層中の前記磁性粉の含有量が、70wt%〜90wt%である請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
磁性層に、炭素繊維を更に含む請求項1から2のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項4】
バインダーに、磁性粉及び難燃剤を添加して調製した磁性組成物を、成形して磁性層を形成する磁性層形成工程と、
前記磁性層の厚み方向における一方の面に、凹凸形成層及び転写材を、前記磁性層側からこの順に積層配置した後、加熱プレスすることにより、前記転写材の表面形状を、前記凹凸形成層及び前記磁性層の表面に転写すると共に、前記凹凸形成層と前記磁性層とを接合する形状転写工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする磁性シートの製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【公開番号】特開2010−219348(P2010−219348A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65103(P2009−65103)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
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