説明

磁性シート

【課題】電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、環境への負荷が小さく、高い難燃性と透磁率とを両立し、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、磁気的特性の低下を抑制した磁性シートの提供。
【解決手段】本発明の磁性シートは、バインダーと、磁性粉と、難燃剤とを少なくとも含有してなり、前記難燃剤が、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含む。該アミド結合を有するリン系化合物が、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムである態様、前記難燃剤が、赤リンを更に含む態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能な磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性シートの使用される用途としては、ノイズ抑制用途あるいは、RFID用途が挙げられる。ノイズ抑制用途としては、パソコンや携帯電話に代表される電子機器の小型化、高周波数化の急速な進展に伴い、これらの電子機器において、外部からの電磁波によるノイズ干渉及び電子機器内部で発生するノイズ同士の干渉を抑制するために、種々のノイズ対策が行われており、例えば、ノイズ発信源又は受信源近傍に、磁性シート(ノイズ抑制シート)を設置することが行われている。
【0003】
前記磁性シートは、Fe−Si−Al等の合金(磁性粉)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂と、揮発性溶剤とを含む磁性塗料(磁性シート組成物)をPETや剥離処理されたPETなどの絶縁性支持体(基材)の表面に塗布し、加熱プレスにより硬化させてシート状に成形したものであり、前記磁性粉が、ノイズを抑制する、所謂ノイズ抑制体としての機能を有する。前記磁性シートのノイズ抑制効果は透磁率の虚数部であるμ’’が大きい方が好ましい。
【0004】
一方、RFID用途としては、近年、RFID(Radio Frequency Identification)と称されるICタグ機能を有する携帯情報端末機に代表されるように、電磁誘導方式によるコイルアンテナを用いる無線通信が普及している。例えば、携帯情報端末機では、その小型化により、送受信用のアンテナ素子の近傍には、例えば、金属筐体、金属部品などの種々の導電体(金属)が配置されている。この場合、前記アンテナ素子近傍の金属の存在により、通信に用いることができる磁界が大きく減衰し、電磁誘導方式におけるRFID通信距離が短くなったり、共振周波数がシフトすることにより無線周波数を送受信することが困難になることがある。そこで、このような電磁障害を抑制するため、前記アンテナ素子と前記導電体との間に、磁性シートを配置することが行われている。RFIDとしての機能としては、透磁率の実数部であるμ’が大きく、虚数部であるμ’’の小さい方が好ましい。
【0005】
前記磁性シートは、耐熱性及び難燃性を有することが要求され、一般的に難燃剤を添加することが行われている。
しかし、従来の難燃剤としては、臭素系難燃剤に代表されるようなハロゲン系化合物が主に用いられており、該ハロゲン系化合物は、燃焼すると、環境ホルモンに代表される有害物質を生成することから、環境への負荷が大きく、その使用は削減傾向にある。
【0006】
そこで、難燃剤を含有するハロゲンフリーの磁性シートが提案されており、例えば、難燃剤として、膨張黒鉛、窒素化合物、金属酸化物等を用いたもの(特許文献1参照)、難燃剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、メラミン等を、難燃助剤として、赤リン、ポリリン酸アンモニウム等をそれぞれ用いたもの(特許文献2参照)、難燃剤として、金属水酸化物系化合物を用いたもの(特許文献3参照)、難燃剤として、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等を用いたもの(特許文献4参照)などが知られている。
しかし、これらのリン系難燃剤及び水酸化物系難燃剤では、難燃性が不充分であり、高い難燃性を得るために大量に添加すると、磁性シートの透磁率が低下するという問題がある。また、耐湿性に劣り、難燃剤が磁性シートの表面にブリードしたり、吸水することにより、磁性シートの厚みや磁気的特性が変化するという問題があり、携帯電話、パソコン等の電子機器に用いるためには、より高い信頼性が要求される。
【0007】
【特許文献1】特開2006−73949号公報
【特許文献2】特開2003−324299号公報
【特許文献3】特開2004−288941号公報
【特許文献4】特開2004−71993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、環境への負荷が小さく、高い難燃性と透磁率とを両立し、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、磁気的特性の低下を抑制した磁性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。即ち、バインダー、磁性粉、及び難燃剤を含有する磁性シートにおける、該難燃剤として、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも用いると、ハロゲンフリーで環境への負荷が小さく、高い難燃性を有し、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、磁気的特性の低下を抑制した磁性シートが得られること知見した。また、前記磁性粉と、前記アミド結合を有するリン系化合物との配合比を調整することにより、高い難燃性と透磁率とを両立することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、本発明者等の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> バインダーと、磁性粉と、難燃剤とを少なくとも含有してなり、前記難燃剤が、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含むことを特徴とする磁性シートである。
該<1>に記載の磁性シートにおいては、ハロゲンフリーであるので、環境への負荷が小さい。また、前記難燃剤が、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含むので、高い難燃性と透磁率とを両立する。しかも、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、磁気的特性の低下を抑制可能である。
<2> アミド結合を有するリン系化合物が、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムである前記<1>に記載の磁性シートである。
<3> バインダー100質量部に対して、磁性粉400〜1,250質量部、及びアミド結合を有するリン系化合物105〜120質量部を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁性シートである。
<4> 難燃剤が、赤リンを更に含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁性シートである。
<5> バインダー100質量部に対して、赤リンを12〜17質量部含む前記<4>に記載の磁性シートである。
<6> バインダーに、エポキシ樹脂を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の磁性シートである。
<7> 磁性粉が、扁平形状を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載の磁性シートである。
<8> RFID機能付電子機器に用いられる前記<1>から<7>のいずれかに記載の磁性シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決でき、電子機器から放出される不要電磁波の低減、及び電子機器内の不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害の抑制が可能で、環境への負荷が小さく、高い難燃性と透磁率とを両立し、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、磁気的特性の低下を抑制した磁性シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(磁性シート)
本発明の磁性シートは、バインダーと、磁性粉と、難燃剤とを少なくとも含有してなり、更に必要に応じて適宜選択した、その他の成分を含有してなる。
【0013】
−難燃剤−
前記難燃剤を添加することにより、前記磁性シートの難燃性を向上させることができる。
本発明の前記磁性シートにおいては、前記難燃剤として、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含む。
従来の難燃剤としては、ハロゲン系化合物が主に用いられているが、燃焼すると有害物質を生成し、環境への負荷が大きいという問題がある。また、ハロゲンフリーの難燃剤としては、耐湿性の向上を実現するものとして、表面をメラミン樹脂やシラン化合物でコーティングされたポリリン酸アンモニウムが知られているが、未だ充分な耐湿性が得られていない。これに対し、前記難燃剤として、前記アミド結合を有するリン系化合物を用いると、環境への負荷が小さく、耐湿性に優れ、特に高温高湿環境下での厚み変化が小さく、磁気的特性の低下が抑制可能な磁性シートが得られる点で、有利である。
【0014】
前記アミド結合を有するリン系化合物は、その分解開始温度が、170℃より高く、270℃より低いのが好ましい。
前記分解開始温度が、170℃以下であると、前記磁性シートの成形時(プレス時)に、前記難燃剤の一部乃至全部が、分解することがあり、270℃以上であると、前記磁性粉や、前記バインダーとして用いられる、アクリルゴム、エポキシ樹脂などが、他の樹脂に比較して燃え易いため、分解温度に到達しない状態で燃え広がってしまうことがある。
【0015】
前記アミド結合の存在確認方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、IRが挙げられる。この場合、1691cm−1のC=O伸縮振動、及び1277cm−1のC−N伸縮振動により確認することができる。
【0016】
前記アミド結合を有するリン系化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐湿性に優れる点で、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムが好適に挙げられる。
【0017】
前記アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムの諸物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、密度としては、1.5g/mL未満が好ましく、融点としては、172〜176℃が好ましく、分解開始温度としては、233℃が好ましい。
前記アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムにおけるリン含有量としては、16〜18質量%が好ましく、窒素含有量としては、30〜32質量%が好ましい。
前記アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムは、例えば、ポリリン酸アンモニウムにおける含有量が90質量%以上のものを使用することができる。
【0018】
前記アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムは、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよい。
前記市販品としては、例えば、PFR(WB Tech社製)が挙げられる。
前記アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムの合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリリン酸アンモニウムと、カルボン酸誘導体とを脱水縮合反応させることにより行うことができる。この場合、下記式(1)に示すように、ポリリン酸アンモニウムにおけるアミノ基(−NH)とカルボン酸誘導体との脱水縮合により、アミド結合が形成される。
−NH+R−COOH→−NH−CO−R+HO・・・式(1)
【0019】
また、前記難燃剤は、前記アミド結合を有するリン系化合物に加えて、更に赤リンを含んでいるのが好ましい。この場合、前記磁性シートの難燃性を、更に向上させることができる点で、有利である。
前記赤リンとしては、特に制限はなく、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよいが、耐湿性に優れ、混合時に自然発火せず、安全性が良好である点で、その表面が、コーティングされているのが好ましい。
前記表面がコーティングされた赤リンとしては、例えば、赤リンの表面を、水酸化アルミニウムを用いて表面処理したものが挙げられる。
【0020】
前記赤リンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記バインダー100質量部に対して、12〜17質量部であるのが好ましい。
前記含有量が、12質量部未満であると、難燃性向上効果が得られないことがあり、17質量部を超えると、前記難燃剤全体の総含有量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなることがある。
【0021】
−バインダー−
前記バインダーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリルゴムが挙げられる。
前記アクリルゴムは、エポキシ基を有しているのが好ましい。この場合、該エポキシ基と硬化剤とが反応することにより、信頼性が向上する。また、前記アクリルゴムは、更に水酸基を有しているのが好ましい。該水酸基を有することにより、接着性を向上させることができる。
前記アクリルゴムの重量平均分子量としては、塗布性に優れる点で、10,000〜800,000が好ましい。
前記重量平均分子量が、10,000未満であると、磁性組成物(前記バインダーに、前記磁性粉、前記難燃剤等を添加して調製したもの)の粘度が小さくなり、重量の大きな磁性粉を塗布するのが困難となることがあり、800,000を超えると、前記磁性組成物の粘度が大きくなり、塗布し難くなることがある。
また、前記アクリルゴムのガラス転移温度としては、信頼性の点で、−50〜+15℃が好ましい。
前記ガラス転移温度が、−50℃未満であると、高温あるいは高温高湿環境下での信頼性が悪くなることがあり、+15℃を超えると、前記磁性シートが硬くなる傾向がある。
【0022】
また、前記バインダーは、有機硬化成分として、エポキシ樹脂を含んでいるのが好ましい。分子量の小さいエポキシ樹脂を添加すると、磁性シートの圧縮時(成形時)に、前記バインダーの溶融粘度が、より一層下がるので、磁気特性を向上させることができ、また、例えば、多官能エポキシ樹脂を用いると、硬化後の磁性シートの信頼性をより向上させることができる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、マイクロカプセル化アミン系硬化剤を用いたアニオン硬化系エポキシ樹脂、オニウム塩、スルホニウム塩等を硬化剤に用いたカチオン硬化系エポキシ樹脂、有機過酸化物を硬化剤に用いたラジカル硬化系エポキシ樹脂などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
更に、前記バインダーは、前記エポキシ樹脂用硬化剤として、潜在性硬化剤を含んでいるのが好ましい。
前記潜在性硬化剤は、特定の温度にて、硬化剤の機能を発揮するものを意味し、該硬化剤としては、例えば、アミン類、フェノール類、酸無水物類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、イソシアネート類などが挙げられる。
【0024】
−磁性粉−
前記磁性粉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その形状としては、例えば、扁平形状、塊状、繊維状、球状、不定形状などが挙げられる。これらの中でも、前記磁性粉を所定の方向に容易に配向させることができ、高透磁率化を図ることができる点で、扁平形状が好ましい。
前記磁性粉としては、例えば、軟磁性金属、フェライト、純鉄粒子などが挙げられる。
前記軟磁性金属としては、例えば、磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金などが挙げられる。
前記フェライトとしては、例えば、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト等のソフトフェライト、永久磁石材料であるハードフェライトなどが挙げられる。
前記磁性粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記バインダー、前記磁性粉及び前記アミド結合を有するリン系化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、磁性シート中の磁性粉の重量比が60〜95%になるようにすればよく、前記バインダー100質量部に対して、前記磁性粉が、400〜1,250質量部であり、前記アミド結合を有するリン系化合物が、105〜120質量部であるのが好ましい。
【0026】
前記磁性粉の含有量が、400質量部未満であると、優れた磁気特性が得られないことがあり、1,250質量部を超えると、前記磁性粉を前記バインダーで繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなったり、高温乃至高温高湿環境下にて、前記磁性シートの表面に、前記難燃剤がブリードしたりすることがあるほか、脆くなり、前記磁性シートの端面だけでなく表面からも、前記磁性粉が落ちる(粉落ちする)ことがある。
【0027】
前記アミド結合を有するリン系化合物の含有量が、105質量部未満であると、難燃性が充分に得られないことがあり、120質量部を超えると、前記バインダーに対する前記磁性粉と前記難燃剤との合計量が大きくなり、前記バインダーにより前記磁性粉及び前記難燃剤を繋ぎとめておくのが困難となり、高温高湿環境下にて、前記磁性シートの厚み変化が大きくなることがあるほか、前記磁性シート中の前記磁性粉の含有比率が低下し、磁気特性が低下することがある。
【0028】
−その他の成分−
前記その他の成分としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、公知の各種添加剤の中から目的に応じて適宜選択することができ、磁性組成物(前記バインダーに、前記磁性粉、前記難燃剤等を添加して調製したもの)の塗布性の向上(粘度の調整)を目的とした場合には、溶剤を添加することができ、該溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチルグリコールアセテート等のエステル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロフォルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素化合物;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、前記バインダー、前記磁性粉及び前記難燃剤の含有量に応じて適宜決定することができる。
【0029】
前記磁性シートの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25〜500μmが好ましい。
前記厚みが、25μm未満であると、透磁率が低くなり、500μmを超えると、狭小部位に適さず、近年における電子機器の小型化の技術動向に沿わなくなるほか、前記厚みの透磁率への影響が小さくなってしまうことがある。なお、前記厚みは、100μm以下になると、透磁率が急激に低くなる傾向がある。
【0030】
−使用−
本発明の前記磁性シートの使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記磁性シートを、所望の大きさに裁断し、これを電子機器のノイズ源に、近接するように配設することができる。
【0031】
−用途−
本発明の前記磁性シートは、前記難燃剤として、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含んでいるので、高い難燃性と透磁率とを両立し、耐湿性、特に高温高湿環境下での寸法安定性に優れ、しかもハロゲンフリーで環境への負荷が小さい。このため、本発明の前記磁性シートは、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID(Radio Frequency Identification)等のICタグ機能を有する電子機器、非接触ICカードなどに好適に使用することができ、特に、RFID機能付携帯電話に好適に使用することができる。
【0032】
本発明の前記磁性シートの製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、以下の方法により好適に製造することができる。
【0033】
−製造方法−
前記磁性シートの製造方法は、磁性組成物を、基材上に塗布し、成形することを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0034】
−磁性組成物−
前記磁性組成物は、バインダー、磁性粉及び難燃剤を少なくとも含有し、更に必要に応じて適宜選択した、その他の成分を含有してなり、前記難燃剤が、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含み、好ましくは、赤リンを更に含む。
なお、前記バインダー、前記磁性粉、前記難燃剤(前記アミド結合を有するリン系化合物)及び前記その他の成分の詳細については、上述した通りである。
【0035】
−基材−
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、形成した前記磁性シートを容易に剥離可能な点で、剥離処理が施されたポリエステルフィルム(剥離PET)などが好適に挙げられる。
【0036】
−塗布−
前記塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ニーダーコート法、カーテンコート法、ブレードコート法、ドクターブレード法などが挙げられる。これらの中でも、塗布効率が良好な点で、ブレードコート法、ドクターブレード法などが好ましい。
【0037】
−成形−
前記成形の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱プレスにより行うことができる。
前記加熱プレスの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記基材上に塗布した前記磁性組成物からなる層の両側から、それぞれ緩衝材を介してプレス板で挟みこんで、加熱及び加圧することにより行うことができる。
前記加熱プレスの条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、プレス温度としては、例えば、80〜190℃が好ましく、プレス圧力としては、例えば、5〜20MPaが好ましく、プレス時間としては、例えば、1〜20分間が好ましい。
【0038】
前記緩衝材としては、その構造、厚み、材質(材料)については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記緩衝材は、市販品であってもよいし、適宜作製したものであってもよいが、前記市販品としては、例えば、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、ベック平滑度6.2秒/mL)、クッション紙(「TF190」;東洋ファイバー(株)製、ベック平滑度1.7秒/mL)、ナイロンメッシュ(「N−NO.110S」;東京スクリーン(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、綿布(「かなきん3号」;日本規格協会製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、粘着材用原紙(「SO原紙18G」;大福製紙(株)製、ベック平滑度0.1秒/mL未満)、両面剥離紙(「100GVW(高平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度146秒/mL)、両面剥離紙(「100GVW(低平滑面)」;王子製紙(株)製、ベック平滑度66秒/mL)、などが挙げられる。
【0039】
なお、前記ベック平滑度は、紙や布などのシート状部材の凹凸を有する表面を、ある特定量の空気が通過するのに要する時間で表される。前記シート状部材表面の凹凸度合いが大きいほど、前記ベック平滑度は小さくなり、いわゆる「滑り性」に優れることを意味する。
前記ベック平滑度の測定は、例えば、ベック式平滑度試験機(テスター産業株式会社製)を用いて行うことができる。
【0040】
以上により、前記磁性組成物が、前記基材上に塗布され、成形されて、磁性シートが製造される。ここで、前記磁性シートは、前記基材(剥離PET)上に積層された状態で得られるが、前記基材を前記磁性シートから剥離して使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
−磁性シートの作製−
まず、トルエン270質量部及び酢酸エチル120質量部に、前記バインダーとしての、エポキシ基を有するアクリルゴム(「SG80H−3」;ナガセケムテックス(株)製、数平均分子量150,000、重量平均分子量350,000)73.5質量部、エポキシ樹脂(「エピコート1031S」;ジャパンエポキシレジン(株)製)20.4質量部、及び潜在性硬化剤(「HX3748」;旭化成ケミカルズ(株)製)6.1質量部を溶解させて樹脂組成物を調製した。これに、前記磁性粉としての扁平磁性粉末(「JEM−S」;三菱マテリアル(株))500質量部、並びに、前記難燃剤としての、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウム(「PFR」;WB Tech社製)109.1質量部、及び赤リン(「ST−100」;燐化学工業製)13.6質量部を添加し、これらを混合して磁性組成物を調製した。
【0043】
ここで、前記難燃剤として使用したPFR(WB Tech社製)のIR測定データを図1に示す。図1より、前記PFRは、1691cm−1のC=O伸縮振動、及び1277cm−1のC−N伸縮振動により、アミド結合を有することが確認された。
【0044】
また、図2Aに、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウム(前記PFR)のTG/DTA(Thermogravimetry/Differential ThermalAnalysis)測定データを示す。また、図2Bに、アミド結合を有しないリン系化合物として、リン酸二アンモニウムのTG/TDA測定データを示す。図2Aより、PFRの重量減少開始点(分解開始温度)が、約200℃であるのに対し、図2Bより、リン酸二アンモニウムの重量減少開始点は、170℃程度であり、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムは、アミド結合を有しない場合に比して、分解開始温度が30℃程度高く、耐熱性が高いことが確認された。また、このことより、高温高湿環境下での劣化が小さいと推認される。
【0045】
次に、得られた磁性組成物を、前記基材としての、剥離処理が表面に施されたポリエステルフィルム(剥離PET)(「38GS」;リンテック製、厚み38μm)上に、バーコーターにより、厚みが185μmとなるように塗布し、バーコーターで塗布した磁性組成物からなる層を4枚積層させた。
次いで、剥離PET及びこれに塗布された磁性組成物からなる層の両面に、それぞれ前記緩衝材として、上質紙(「OKプリンス上質70」;王子製紙(株)製、厚み100μm、ベック平滑度6.2秒/mL)を積層した。そして、真空プレス(北川精機(株)製)を用いて、プレス温度170℃、プレス時間10分間、プレス圧力9MPaの条件で、前記緩衝材を介してプレス板により加熱プレスした。
その後、サンプルサイズ250mm×250mmとなるように裁断し、剥離PETを剥離し、厚みが約500μmの磁性シートを得た。
【0046】
(実施例2〜10)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記磁性粉及び前記難燃剤の配合量を、表1〜2に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0047】
(実施例11)
実施例1において、前記磁性粉としての扁平磁性粉末(「JEM−S」;三菱マテリアル(株))を、扁平磁性粉末(「SP−1」;メイト(株)製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0048】
(実施例12)
−磁性シートの作製−
実施例1において、前記難燃剤として、ポリリン酸アンモニウム(「AP462」;クラリアントジャパン製)9.1質量部を、更に添加した以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0049】
(実施例13)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムの配合量を、109.1質量部から100質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0050】
(実施例14〜18)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウム及び赤リンの配合量を、表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0051】
(実施例19〜22)
−磁性シートの作製−
実施例3において、扁平磁性粉末及びアミド結合を有するポリリン酸アンモニウムの配合量を、表4に示すように変えた以外は、実施例3と同様にして、磁性シートを作製した。
【0052】
(比較例1〜2)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを添加しないで、赤リンの配合量を、表5に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0053】
(比較例3)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを、水酸化マグネシウム(「MGZ−3」;堺化学工業製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0054】
(比較例4)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを、ポリリン酸アンモニウム(「AP462」;クラリアントジャパン製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0055】
(比較例5)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを、ポリリン酸アンモニウム(「FCP−770」;鈴裕化学製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0056】
(比較例6)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを、被覆ポリリン酸アンモニウム(「TERRAJUC80」;ブーデンハイム・イベリカ社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0057】
(比較例7)
−磁性シートの作製−
実施例1において、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを、ポリリン酸アンモニウム(FRCROS486);ブーデンハイム・イベリカ社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、磁性シートを作製した。
【0058】
実施例1〜22及び比較例1〜7で得られた磁性シートについて、下記方法に基づいて、燃焼試験による難燃性の評価、透磁率の測定、並びに高温高湿環境下における信頼性試験(厚み変化及びインダクタンス変化率の測定)を行った。結果を、表1〜表5に示す。
【0059】
〔燃焼試験〕
前記燃焼試験として、UL94V試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)を行った。該UL94V試験は、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法であり、評価結果は以下に示すクラスに分けられる。
【0060】
−評価クラス−
V−0:各試料の残炎時間が10秒以下で、5試料の全残炎時間が、50秒以下。
V−1:各試料の残炎時間が30秒以下で、5試料の全残炎時間が、250秒以下。
V−2:燃焼時間は、V−1と同じであるが、有炎滴下物が存在する。
NG :難燃性が低く、UL94Vの規格に適合しない。
ここで、前記「残炎時間」とは、着火源を遠ざけた後における、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さを意味する。
【0061】
〔透磁率〕
まず、外径7.05mm、内径2.945mmに抜き加工したリング状サンプルを作製し、これに導線を5ターン巻き、端子に半田付けした。ここで、前記端子の根元から前記リング状サンプルの下までの長さを20mmとした。そして、インピーダンスアナライザー(「4294A」;アジレントテクノロジー社製)を用いて、キャリア周波数(13.56MHz)におけるインダクタンスと抵抗値とを測定し、透磁率に換算した。
なお、μ’は、複素透磁率の実数部を表し、μ’’は、複素透磁率の虚数部を表す。
μ’及びμ’’の特性は、磁性シートの使用目的によって異なり、例えば、RFIDデバイスの通信改善の場合には、20MHz以下の周波数で、高μ’かつ低μ’’であるのが好ましい。
【0062】
〔信頼性試験〕
−厚み変化−
まず、磁性シートの厚みを測定した。次いで、磁性シートをオーブンに入れ、85℃/60%の条件で96時間加熱し、オーブンから取り出した後の磁性シートの厚みを測定し、加熱前後の磁性シートの厚み変化率を測定した。
【0063】
−インダクタンス変化−
まず、前記透磁率の測定と同様にして、リング状サンプルに、導線を巻いて端子に半田付けして作製したサンプルのインダクタンス(L)を測定した。次いで、このサンプルをオーブンに入れ、85℃/60%の条件で96時間加熱し、オーブンから取り出した後のインダクタンスを測定し、加熱前後のインダクタンス変化率を測定した。
【0064】
また、以上の測定結果より、下記基準に基づいて、総合評価を行った。
−評価基準−
○:難燃性、透磁率、及び信頼性のいずれも高かった。
△:難燃性、透磁率、及び信頼性の少なくともいずれかが、やや劣っていた。
×:難燃性、透磁率、及び信頼性の少なくともいずれかが、極めて劣っていた。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
表1〜表5の結果より、前記難燃剤として、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを少なくとも含む、実施例1〜22の磁性シートは、難燃性が高く、高温高湿環境下での寸法安定性が良好で、磁気的特性の変化も小さかった。また、13.56MHzにおける初期透磁率が高く、RFID用途に好適に使用することができることが判った。特に、バインダー100質量部に対して、磁性粉の配合量が、400〜1,250質量部、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムの配合量が、105〜120質量部である磁性シートは、難燃性及び磁気的特性に優れることが判った。
一方、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムを含まない、比較例1〜7の磁性シートは、いずれも難燃性が低いことが判った。特に、前記難燃剤として、水酸化マグネシウムを用いた比較例3の磁性シート、並びに、アミド結合を有しないポリリン酸アンモニウムを用いた比較例4、5、及び7の磁性シートは、高温高湿環境下での厚み変化率が大きく、寸法安定性に劣ることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の磁性シートは、例えば、電磁ノイズ抑制体、電波吸収体、磁気シールド材、RFID等のICタグ機能を有する電子機器、非接触ICカードなどに好適に使用することができ、特に、RFID機能付携帯電話に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、実施例1で用いた難燃剤(PFR)のIR測定データを示すグラフである。
【図2A】図2Aは、実施例1で用いた難燃剤(PFR)のTG/DTA測定データを示すグラフである。
【図2B】図2Bは、リン酸二アンモニウムのTG/DTA測定データを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーと、磁性粉と、難燃剤とを少なくとも含有してなり、
前記難燃剤が、アミド結合を有するリン系化合物を少なくとも含むことを特徴とする磁性シート。
【請求項2】
アミド結合を有するリン系化合物が、アミド結合を有するポリリン酸アンモニウムである請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
バインダー100質量部に対して、磁性粉400〜1,250質量部、及びアミド結合を有するリン系化合物105〜120質量部を含む請求項1から2のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項4】
難燃剤が、赤リンを更に含む請求項1から3のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項5】
バインダー100質量部に対して、赤リンを12〜17質量部含む請求項4に記載の磁性シート。
【請求項6】
バインダーに、エポキシ樹脂を含む請求項1から5のいずれかに記載の磁性シート。
【請求項7】
RFID機能付電子機器に用いられる請求項1から6のいずれかに記載の磁性シート。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2009−105384(P2009−105384A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236612(P2008−236612)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】