説明

磁性パターン形成方法、磁気記録媒体、磁気記録再生装置

【課題】物理加工を行うことなくガードバンド領域を確保し、記録ビット間の磁気干渉を低減する。
【解決手段】磁性層16を第1及び第2の原子を含むように形成、その磁性層16の特定領域に対して、第1及び第2の原子の少なくとも一方をイオン注入することで、その第1及び第2原子の含有比率を、特定領域30と特定領域以外の外部領域32とで差異を生じさせるようにする。更にその状態で磁性層16を熱処理することで、特定領域30と外部領域32との間の磁気特性に差異を生じさせて、磁性パターンを形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体等に用いられる磁性パターン形成方法に関するものであり、特に、記録情報間の磁気干渉を低減して、高密度記録に適した磁性パターンを形成する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の性能向上に伴って、これらの機器が扱う情報量も増大してきている。ハードディスクドライブ(以下、HDD)等の磁気記録媒体の分野では、情報機器が要求する情報量に対応するために、記録密度の向上を目的とした技術開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、記録層となる磁性薄膜を同心円上のトラック毎に分離加工したディスクリートトラックトラック媒体や、トラック間のみならず、磁性薄膜を記録ビット方向にも分離加工したパターンド媒体などが提案されている。ディスクリートトラック媒体は、トラック間に同心円状の非磁性領域を確保することでトラック間の磁気的な干渉を低減し、より高いトラック密度を実現する。また、パターンド媒体は、1ドット(ビット)を記録する磁性体が独立しているため、この磁性体が一つの磁区(単磁区)になることができ、数十個の磁性粒子に1ビットを記録する現行の磁気記録と比較して、磁化の熱安定性を飛躍的に高めることが可能になる。また、ビットの境界も物理的に明確になるため、信号ノイズを低減させることができる。
【0004】
これらのディスクリートトラック媒体やパターンド媒体を作成する方法としては、その分離形状に従った凹凸形状を非磁性基板に形成し、その凹凸形状に沿って磁性薄膜を形成したり、一旦成膜された磁性薄膜の一部をエッチングによって除去したりすることが一般的に行われている。これらの方法によって作成された磁気記録媒体は、磁化情報を記録する磁性膜が物理的に分離されているので、隣接するドット間或いはトラック間の磁気的な干渉が低減し、再生信号の品質も向上する。
【特許文献1】特開2000−322710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの方法によって製造された磁気記録媒体は、記録層となる磁性薄膜や非磁性基板に凹凸が形成されるため、10ナノメートル前後で浮上しながら記録・再生を行う浮上型ヘッドを用いたHDDへの適用においては、その凹凸の影響で空気流に変動が生じ、浮上特性が劣化するという問題があった。
【0006】
表面の凹凸を低減するには、磁性薄膜における凹凸を非磁性体で充填した後に、表面を平坦加工することが必要となる。その結果、製造プロセスが複雑となって生産性が悪化し、製造コストも増大するという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、磁気特性を改質する手法を用いることで、ディスクリートトラック媒体やパターンド媒体と同等の機能を発揮しうる磁性パターンを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、少なくとも2種類の原子を含有する磁性層を成膜した後にその含有比率を変動させ、特定の領域の磁気特性を適宜変化させることが可能になることを明らかにした。即ち、上記目的は下記の手段によって達成されるものである。
【0009】
(1)第1及び第2の原子を含む磁性層を形成する工程と、前記磁性層の特定領域に対して、前記第1及び第2の原子の少なくとも一方をイオン注入することで、前記第1及び第2原子の含有比率を、前記特定領域と前記特定領域以外の外部領域とで差異を生じさせる工程と、前記磁性層を熱処理することによって、前記特定領域と該外部領域との間の磁気特性に差異を生じさせる工程と、を備えることを特徴とする磁性パターン形成方法。
【0010】
(2)前記第1及び第2の原子は、L10型結晶構造の規則合金を構成可能な原子であることを特徴とする上記(1)記載の磁性パターン形成方法。
【0011】
(3)前記第1及び第2の原子の組み合わせとして、Fe−Pt、Fe−Pd、Co−Ptのいずれかが選択されていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の磁性パターン形成方法。
【0012】
(4)前記第1及び第2の原子の組み合わせがFe−Ptであり、前記特定領域に前記Feをイオン注入することで該特定領域を強磁性にすることを特徴とする上記(3)記載の磁性パターン形成方法。
【0013】
(5)前記イオン注入前の前記磁性層における前記Feの含有量が、20原子%以上且つ35原子%以下であることを特徴とする上記(4)記載の磁性パターン形成方法。
【0014】
(6)前記磁性層において、前記イオン注入後の前記特定領域の前記Fe含有量が38原子%以上且つ60原子%以下であることを特徴とする上記(4)又は(5)記載の磁性パターン形成方法。
【0015】
(7)前記熱処理後の前記特定領域の保磁力が4000 Oe以上であることを特徴とする上記(4)乃至(6)のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【0016】
(8)前記熱処理後の前記特定領域の飽和磁化量が400G以上であることを特徴とする上記(4)乃至(7)のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【0017】
(9)前記特定領域の保磁力に対して、前記外部領域の保磁力が4分の1以下であることを特徴とする上記(4)乃至(8)のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【0018】
(10)イオン注入する際に、ステンシル型マスクを用いることで前記特定領域を設定するようにしたことを特徴とする上記(1)乃至(9)のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【0019】
(11)前記特定領域として、前記第1及び第2原子に基づく第1含有比率を有する第1特定領域と、前記第1含有比率と異なる第2含有比率を有する第2特定領域を備えることを特徴とする上記(1)乃至(10)のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【0020】
(12)上記(1)乃至(11)のいずれか記載の前記磁性パターン形成方法によって作成された磁性層を記録層として備えることを特徴とする磁気記録媒体。
【0021】
(13)非磁性基板と、該非磁性基板上に形成され、L10型結晶構造の規則合金を構成可能な第1及び第2の原子を含む磁性層と、を備える磁気記録媒体であって、前記第1と第2原子の含有比率が、前記磁性層における記録領域と該記録領域以外のガード領域とで異なるように設定され、前記記録領域が強磁性且つ前記ガード領域が常磁性となっていることを特徴とする磁気記録媒体。
【0022】
(14)上記(12)又は(13)に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体に情報を記録する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上で移動させるアームと、を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、物理的な加工を要することなく、ディスクリートトラック媒体やパターンド媒体と同様な機能を発揮し、高密度記録を実現可能な磁性層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。
【0025】
図1には、本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体1が示されている。この磁気記録媒体1は、非磁性となる基板10、軟磁性を有する裏打ち層12、非磁性の中間層14、磁性薄膜によって形成される磁性層16、磁性層16の表面を保護する保護層18がこの順に積層されて構成されている。基板10はアルミやガラスで構成されており、磁気記録媒体1の全体的な強度を確保している。裏打ち層12は、垂直磁気記録を行う際に単磁極型ヘッドから発生する漏れ磁束を磁性層16に効率よく引き込む機能を有している。その為、裏打ち層12では高い飽和磁束密度を持つNiFe等の軟磁性材料が採用され、100ナノメートル前後の厚さで成膜されている。中間層14はMgO等の素材によって2ナノメートル程度の厚みで形成され、磁性層16をエピキャシタル形成するためのバッファ層として機能する。磁性層16は、FePtを主要素材とした、膜厚が5ナノメートルから20ナノメートル程度の薄膜であり、磁気の変化によって情報が記録保持されるようになっている。保護層18は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜や、酸化ケイ素薄膜(SiO2)であり、1〜5ナノメートル程度の膜厚にすることで、密着性が強く且つ高い表面硬度を確保するようにしている。保護層18によって、磁性層16の磨耗や腐食が防止されている。
【0026】
磁性層16に用いられているFePt合金は、成膜直後はfcc−A1型結晶構造であり不規則合金であるが、高温でアニーリング処理(熱処理)を行うことで、L10型結晶構造の高い磁気異方性を有するようになる。なお、これらの結晶構造を調べるには、X線回析装置を用いればよい。この装置によれば、X線を磁性層に照射し、構成原子により生じる回折現象を利用して、磁性層の結晶構造を解析できる。
【0027】
図2に模式的に示されるように、磁性層16には、記録領域となる記録トラック30と、記録トラック30以外の領域となるガード領域32が形成されている。記録領域となる記録トラック30は、磁気記録媒体1の周方向に同心円状に形成され、Feの含有量が少なくとも一部において38原子%以上且つ60原子%以下の範囲、詳細には50原子%程度に設定されている。一方、ガード領域32は、Feの含有量が35原子%以下且つ20原子%以上の範囲、詳細には29原子%程度となるように設定されている。なお、この組成比率を調べるには、エネルギー分散型X線分析装置を用いればよい。この装置によれば、電子ビームを磁性層に照射して、放出する元素固有のX線のエネルギーを検出することで、磁性層に含まれている元素を明らかにし、更に、このエネルギーの強度比率によって組成比率を調べることが出来る。
【0028】
次に図3及び図4の実験結果を参照して、記録トラック30及びガード領域32のFePt含有量の設定方法について説明する。
【0029】
図3の表は、FePtの原子含有比率に応じた結晶構造と磁性について、熱処理前と熱処理後を比較したものである。例えば、Fe:Ptが75:25や50:50の場合、熱処理前はfcc−A1型(立方Cu3Au型)の結晶構造の不規則合金であり軟磁性を有するが、熱処理を行うと、fcc−L12型(立方Cu3Au型)又はfct−L10型(正方CuAuI型)の規則合金に変化して、高保磁力の強磁性素材となる。
【0030】
一方、Fe:Ptが25:75の場合は、熱処理後はfcc−L12型(立方Cu3Au型)の規則合金になり常磁性を有することになる。つまり、Fe:Ptが25:75の場合は、熱処理を行っても磁気記録には極めて不向きな状態となる。このように、含有比率を変動させることで、同じ原子の組み合わせであっても磁気特性を異ならせることが可能である。
【0031】
図4の(A)には、磁性層16の熱処理温度及びFeの含有比率を変化させることで、保磁力が変動する様子が示されている。例えば、600℃の熱処理を行う場合、Feを38原子%未満(おおよそ35原子%以下、確定的には34原子%以下)に設定すると常磁性となることが分かる。反対に、38原子%以上にすると強磁性になることもわかる。
【0032】
また同様に、Fe含有量をおおよそ35原子%以下にすると保磁力が1000(Oe)以下となり、38原子%以上に設定すると保磁力が4000(Oe)以上になる。従って、Feの含有量の多い領域と比較して、Feの含有量の少ない領域の保磁力が4分の1以下となる。つまり、一方を35原子%以下、他方を38原子%以上にすることで、低保磁力側の領域と高保磁力側の領域との間で3000(Oe)以上の保磁力差を確保でき、隣接する記録トラック30間の磁気干渉を大幅に低減することができる。常磁性と強磁性の境界は35原子%程度となっている。なお、保磁力を調べるには振動試料型磁力計を用いればよい。これにより、磁性層におけるスタティックな保磁力を明らかにすることができる。
【0033】
又熱処理温度を400℃で行う場合、Feを44原子%以上にすれば、強磁性となる。一方、Feが38原子%以下の場合は保磁力が増大することはなく常磁性になることがわかる。つまり常磁性と強磁性の境界としては40原子%程度となっている。
【0034】
図4の(B)には、磁性層16の熱処理温度及びFeの含有比率を変化させることで、飽和磁化量が変動する様子が示されている。例えば、600℃の熱処理を行う場合、Fe含有量を34原子%以下にすることで、飽和磁化量を400G以下に設定することができ、一方、Fe含有量を38原子%以上にすると飽和磁化量が400Gを超える状態となる。つまり400Gの飽和磁化量を基準に考えると、35原子%程度が境界となっている。
【0035】
又熱処理温度を400℃で行う場合、Feを29原子%以下にすると飽和磁化量が極端に減少することがわかる。一方、Feが34%以上の場合は、飽和磁化量が低下せず、400Gを大きく上回ることがわかる。つまり、400Gの飽和磁化量を基準に考えると、32原子%程度が境界になると考えられる。
【0036】
またいずれにしろ、Feの含有比率が20原子%未満とすることは現実的ではない。というのも、図4(A)で示したように、強磁性にするためには、20%未満から少なくとも15原子%程度は含有量を増大させて35原子%程度にする必要があり、長時間に亘ってFeのイオン注入作業を行わなければならないからである。また、Feの含有比率を60原子%よりも大きくすることも現実的ではない。それ以上大きく設定した場合には、Fe:Ptが75:25となるL12型の規則合金が形成されてしまい、L10型の規則合金と比較して磁気異方性が低下するからである。
【0037】
以上の分析を整理すると下記(1)(2)が明らかとなる。
【0038】
(1)400℃程度で熱処理をする場合、記録トラック30のFe含有量を少なくとも40原子%以上、好ましくは44原子%以上に設定して、4000(Oe)以上の高保磁力及び400G以上の高飽和磁化量となるようにする。一方、ガード領域32については、Fe含有量を30原子%以下に設定することで、1000(Oe)以下の低保磁力及び400G未満の低飽和磁化量となるように設定する。
【0039】
(2)600℃以上で熱処理が可能な場合は、記録トラック30のFe含有量を約35原子%以上、好ましくは38原子%以上にして、4000(Oe)以上の高保磁力、及び400G以上の高飽和磁化量を確保する。一方、ガード領域32については、Fe含有量を約35原子%未満、好ましくは34原子%以下に設定することで、1000(Oe)以下の低保磁力、及び400G未満の低飽和磁化量となるようにする。なお、600℃の熱処理の方が、両者の含有比差4%で十分な磁性差が得られることから、イオン注入時間も短縮でき生産性が向上する。なお、これらの(1)(2)によって、記録トラック30の保磁力に対して、ガード領域32の保磁力が4分の1以下となり、記録トラック30間の磁気干渉を低減することができる。
【0040】
本実施形態では、上記設定根拠に基づいて、記録トラック30においてはFeが50原子%程度、ガード領域32では29原子%程度に設定されている。従って、400℃以上でアニール処理を行えば、記録トラック30側が強磁性でガード領域32が常磁性となる状態を容易に作り出すことができる。
【0041】
次に、この記録媒体1の製造工程について説明する。なお、磁性層16を除いた各層の成膜工程に関しては従来と略同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0042】
まず、磁性層16を成膜する際のFePtの含有比は、ガード領域32側で求められている含有比、即ちFe:Pt=29:71に設定する。成膜完了後、図5に示されるように、磁性層16内のFePtの含有比率を変化させるために、記録媒体1の記録面側にステンシルマスク50を配置し、イオン注入装置60によって、このステンシルマスク50を介して磁性層16に対してFeをイオン注入する。イオン注入装置60は、イオンを発生するイオン源62、イオン源62からFeイオンを引き出す引出電源64、イオンビームとなってイオンが移動するビームライン66、磁界を用いて必要なイオン(個々ではFeイオン)を選別する分析マグネット68、イオンビームに必要なエネルギーを付与する加速管70、イオンが注入される記録媒体1が格納される真空チャンバ72等を備える。
【0043】
図6には、イオン注入される際のステンシルマスク50及び記録媒体1が拡大して示されている。ステンシルマスク50の素材には、タンタル等の薄膜が用いられており、この薄膜を(電子線)リソグラフィ加工することで、記録トラック30の全体配置と一致する記録領域パターン52が形成されている。従って、記録媒体1の上面にこのステンシルマスク50を介在させた状態でイオン注入することで、記録領域パターン52と一致する領域に対してFeが注入される。なお、このFeのイオンビームは、図中の矢印で示されるように、ステンシルマスク50を経た後で拡散するので、その拡散量を予め想定して、記録領域パターン52を実際の記録トラック30よりも細めに形成しておくことが好ましい。なお、記録トラック30とガード領域32の境界を鮮明にする為にも、ステンシルマスク50を可能な限り記録媒体1に密着させておくことも望ましい。この結果、ステンシルマスク50によって覆われているガード領域32の含有比は成膜時と変わらないが、記録トラック30側には、Feを積極的にイオン注入してFe含有比を向上させ、Fe:Ptが38:72〜60:40の範囲内となるように制御する。具体的に本実施形態ではFe:Ptが50:50となるように設定している。イオン注入が完了したら、特に図示しない急速加熱熱処理(RTA)装置を用いて600℃で約1時間加熱して、記録トラック30とガード領域32の磁気特性を異ならせる。この結果、図1及び図2で示したような記録媒体1が完成する。
【0044】
次に、図7を参照して、この記録媒体1を用いた記録再生装置100について説明する。この記録再生装置100は、スピンドル102、磁気ヘッド104、アーム106、アクチュエータ108、筐体110等を備える。スピンドル102は、複数の記録媒体1を同軸状態で保持しており、特に図示しないスピンドルモータによって、3000rpm〜10000rpmで回転駆動される。磁気ヘッド104は、複数の記録媒体1のそれぞれに対応して配置されており、記録媒体1に情報を書き込むとともに、記録された信号を読み取る。特にここでは、磁気ヘッド104が単磁極型ヘッドとなっており、裏打ち層12を利用することで磁性層16の面方向に対して垂直に磁力線が通過するようにして、垂直型の記録を可能にしている。この磁気ヘッド104はアーム106の先端側に保持されている。アーム106は自らが揺動することで、記録媒体1の特定の記録ビットに磁気ヘッド104を移動させて、信号の読み書きを行うようになっている。アクチュエータ108は、このアーム106を極めて高い精度で制御する。
【0045】
本第1実施形態の記録媒体1によれば、隣接する記録トラック30の間にガード領域32が形成されているので、記録トラック30間の磁気的な干渉を低減することが可能になる。また、エッチング等によって記録媒体1を物理的に加工して分離させる場合と異なり、イオン注入による性質変化によって分離効果を得るようにしているため、製造プロセスが簡便となり、生産性を向上させることができる。
【0046】
特に、L10型結晶構造を構成可能な原子(ここではFePt)であって、且つ、熱処理を行っても強磁性とならない程度の含有比率によって成膜を行いつつ、特定の領域に限定して少量の原子をイオン注入して強磁性にするので、トラックフォーマットに適した磁性パターンを容易に形成可能である。その際に、ステンシルマスク50を用いるので、トラックフォーマットを自在に設定することが出来る。また、イオン注入によって記録トラック32を形成することから、基板10や磁性層16を平坦にできる。その結果、記録ヘッド104が記録媒体1の表面の突部と衝突することを防止でき、浮上ヘッドの場合はその浮上特性を安定させることが可能になる。
【0047】
なお、この記録再生装置100を用いて磁気記録を行う場合、定期的にガード領域32に対してリフレッシュ効果を目的とした書き込みを行ってもよい。つまり、記録トラック30によってガード領域32が何らかの磁気影響を受けている場合であっても、ガード領域32を含めた積極的な書き込み作業によって、隣接する記録トラック30間の分離効果を維持できる。なお、そのときにリフレッシュ用の磁気記録は、ガード領域32が常磁性であることから、極めて弱い磁束で十分であるので、それによって記録トラック30の記録状態に影響を与えることは殆どない。
【0048】
また、本記録媒体1のように、ガード領域32におけるFe含有量を35原子%以下に設定することで、ガード領域32の保磁力を1000(Oe)以下に設定することができるので、記録トラック30との間で大きな保磁力差を確保可能になる。同様に、ガード領域32の飽和磁化量が400G以下に設定されているので、記録トラック30との間で大きな飽和磁化量差を確保することが可能になる。しかも、一度のイオン注入処理によって、保磁力差と飽和磁化量差を同時に確保できることになるという合理的な製造方法となっている。
【0049】
更に、この記録再生装置100では、本記録媒体1を用いていることから媒体表面が平滑であるので、既存の装置構成をそのまま採用することができる。その結果、低コストで高密度の記録再生装置100が得られる。
【0050】
次に、図8を参照して、本発明の第2実施形態の磁気記録媒体200における磁気パターンの形成方法について説明する。なお、第1実施形態の磁気記録媒体1と同一又は類似する部分・部材については、同記録媒体1で示した符号と下二桁を一致させることで、詳細な説明は省略する。
【0051】
ここでは、ステンシルマスク250に形成される記録領域パターン252として、複数の記録ドットパターンが形成されている。従って、ステンシルマスク250を介して磁性層216にFeをイオン注入し、その後に熱処理を行うと、強磁性となる記録ドット230が形成されることになる。記録ドット230の周囲のガード領域232は常磁性となることから、隣接する記録ドット230間での磁気干渉が低減されることになる。従って、磁性層216全体はFePtを主成分としているにも拘らず、特定の領域を占める記録ドット230を一つの磁区(単磁区)にすることができ、高い熱揺らぎ耐性による高密度記録が実現される。更に、イオン注入による磁気特性変化によって記録ドット230を形成していることから、記録媒体200の表面を平滑にでき、記録媒体200の偏磨耗等を防止できる。
【0052】
次に図9を参照して、本発明の第3実施形態の記録媒体300における磁気パターンの形成方法について説明する。なお、第1実施形態の記録媒体1と同一又は類似する部分・部材については、同記録媒体1で示した符号と下二桁を一致させることで、詳細な説明は省略する。
【0053】
ここでは、(A)に示される第1ステップとして、第1ステンシルマスク350Aに形成された第1記録領域パターン352Aに基づいて、Feのイオン注入による第1記録ドット330Aを磁性層316に形成する。その後、(B)に示される第2ステップとして、第2ステンシルマスク350Bに形成された第2記録領域パターン352Bに基づいて、第2記録ドット330Bを磁性層316に形成する。この際、第1記録ドット330Aの一部と、第2記録ドット330Bが重なるようになっている。従って、Feの含有比率は、ガード領域332が最も小さく、ついで第1記録ドット330A、その次に第2記録ドット330Bの順で大きくなっている。その結果、熱処理後は、ガード領域332が常磁性、第1記録ドット330Aが強磁性、第2記録ドット330Bは第1記録ドット330Aを上回る強磁性となっている。従って、通常の信号記録は第1記録ドット330Aを用いるようにし、第2記録ドット330Bは特殊な記録ヘッドでなければ信号の追記録が出来ないようにすることもできる。例えば、工場出荷時のID等を記録しておくROM領域として利用することが可能になる。また、このように複数の記録ドット(記録トラック)間で他段階に磁気特性を設定できることから、「0」、「1」の2値記録以上の多値記録用途として活用することが可能となる。
【0054】
なお、本実施形態では、磁性層の原子組み合わせとしてFe−Ptの場合に限って示したが、本発明はそれに限定されず、2種類以上の原子の組み合わせによる磁性層であって、その中のいずれかの原子をイオン注入によって補充して、磁気特性を変動させることができれば、他の原子を採用してもかまわない。特にL10型結晶構造の規則合金を構成可能な原子組み合わせ(例えばFe−Pt、Fe−Pd、Co−Pt)が好ましく、含有比を調整することで強磁性パターンを自在に形成することが可能となる。
【0055】
また、ここではFeをイオン注入することで記録領域の含有比率を変動させる場合に限って示したが、例えば、ガード領域にPtをイオン注入することで、ガード領域の含有比率を変動させてもかまわない。つまり、予め強磁性となり得る含有比率で磁性層を形成し、イオン注入によって部分的に常磁性にすることも可能である。これは、その原子がイオン注入に適しているか否か等を考慮して、適宜決定することが好ましい。
【0056】
更に本実施形態では、磁性パターンの形成方法を、ディスク型の磁気記録媒体における磁性層に用いた場合に限って示したが、本発明はそれに限定されず、他の磁気記録媒体に用いることも勿論可能である。イオン注入手法も様々であり、本発明は本実施形態で示したイオン注入装置を用いる場合に限定されるものではない。また、ここでは磁性層を構成する第1及び第2の原子のいずれかをイオン注入する場合を示したが、それに加えて第3の原子等をイオン注入することは勿論可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本磁性パターン形成方法等は、例えば、磁気記録カード、磁気記録テープ、磁性層を活用した各種表示媒体等、様々な分野で利用することが可能である。また、MO(Magnet Optical)等の光磁気記録や、磁気と熱を併用する熱アシスト型記録においても本磁性パターンが形成された媒体を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る磁気記録媒体の積層状態を示す断面図
【図2】同磁気記録媒体断面における磁性層の状態を示す斜視図
【図3】同磁気記録媒体で用いるFePtの含有比率に応じた磁性状態を熱処理前後で比較して示す表図
【図4】同磁気記録媒体で用いるFePtの含有比率と熱処理温度に応じた、保磁力及び飽和磁化量の変化を示すグラフ
【図5】同磁気記録媒体に対してイオン注入する際の装置構成を模式的に示す全体図
【図6】同磁気記録媒体に対してイオン注入する際のステンシルマスクを拡大して示す斜視図
【図7】同磁気記録媒体を用いた記録再生装置の構成を示す部分断面図
【図8】本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体のイオン注入工程を示す斜視図
【図9】本発明の第3実施形態に係る磁気記録媒体のイオン注入工程を示す斜視図
【符号の説明】
【0059】
1、200、300 磁気記録媒体
10、210、310 基板
12、212、312 裏打ち層
14、214、314 中間層
16、216、316 磁性層
18、218、318 保護層
30 記録トラック
32、232、332 ガード領域
50、250、350 ステンシルマスク
100 記録再生装置
102 スピンドル
104 記録ヘッド
106 アーム
108 アクチュエータ
230、330 記録ビット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の原子を含む磁性層を形成する工程と、
前記磁性層の特定領域に対して、前記第1及び第2の原子の少なくとも一方をイオン注入することで、前記第1及び第2原子の含有比率を、前記特定領域と該特定領域以外の外部領域とで差異を生じさせる工程と、
前記磁性層を熱処理することによって、前記特定領域と前記外部領域との間の磁気特性に差異を生じさせる工程と、を備えることを特徴とする磁性パターン形成方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の原子は、L10型結晶構造の規則合金を構成可能な原子であることを特徴とする請求項1記載の磁性パターン形成方法。
【請求項3】
前記第1及び第2の原子の組み合わせとして、Fe−Pt、Fe−Pd、Co−Ptのいずれかが選択されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性パターン形成方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の原子の組み合わせがFe−Ptであり、前記特定領域に前記Feをイオン注入することで該特定領域を強磁性にすることを特徴とする請求項3記載の磁性パターン形成方法。
【請求項5】
前記イオン注入前の前記磁性層における前記Feの含有量が、20原子%以上且つ35原子%以下であることを特徴とする請求項4記載の磁性パターン形成方法。
【請求項6】
前記磁性層において、前記イオン注入後の前記特定領域の前記Fe含有量が38原子%以上且つ60原子%以下であることを特徴とする請求項4又は5記載の磁性パターン形成方法。
【請求項7】
前記熱処理後の前記特定領域の保磁力が4000 Oe以上であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【請求項8】
前記熱処理後の前記特定領域の飽和磁化量が400G以上であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【請求項9】
前記特定領域の保磁力に対して、前記外部領域の保磁力が4分の1以下であることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【請求項10】
イオン注入する際に、ステンシル型マスクを用いることで前記特定領域を設定するようにしたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【請求項11】
前記特定領域として、前記第1及び第2原子に基づく第1含有比率を有する第1特定領域と、前記第1含有比率と異なる第2含有比率を有する第2特定領域を備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか記載の磁性パターン形成方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか記載の前記磁性パターン形成方法によって作成された磁性層を記録層として備えることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項13】
非磁性基板と、該非磁性基板上に形成され、L10型結晶構造の規則合金を構成可能な第1及び第2の原子を含む磁性層と、を備える磁気記録媒体であって、
前記第1と第2原子の含有比率が、前記磁性層における記録領域と該記録領域以外のガード領域とで異なるように設定され、前記記録領域が強磁性且つ前記ガード領域が常磁性となっていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に情報を記録する磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上で移動させるアームと、
を備えることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−286085(P2006−286085A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104190(P2005−104190)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】