説明

磁性ペーストの保存装置およびその保存方法

【課題】 磁性粒子の分散状態を適切に保持でき、長期間の保存の後でも良好な研磨性能を安定に得ることができる磁性ペーストの保存装置およびその保存方法を提供すること
【解決手段】 磁性ペースト1は磁性粒子11および溶媒12等を含んでいる。保存には、まず永久磁石などの磁場発生源3の磁場を磁性ペースト1に対して作用させて着磁し(b)、外部からの磁場が定常的に作用する状態において当該磁性ペースト1の保存を行う(b)。着磁作業には着磁装置を利用することもできる。着磁作業により磁性粒子11が整列するので、保存時において外部からの磁場は必ずしも必要としない。つまり、着磁作業(b)を行った後、外部からの磁場が作用しない状態において当該磁性ペースト1の保存を行うこともよい(c)。着磁作業を行わない従来の場合は(d)、ある程度長く保存すると磁性粒子11が自重により沈殿し、溶媒12と分離してしまう現象が起きる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性ペーストの保存装置およびその保存方法に関するもので、より具体的には、磁性粒子および溶媒等を含む磁性ペーストについて、その成分中の磁性粒子の分散性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
表面処理の技術として、いわゆる磁気研磨法と呼ばれる技術がよく知られている。これは、磁性流体(MF:Magnetic Fluid)や磁気粘性流体(MRF:Magneto Rheological Fluid)を研磨粒子と混合させ、磁場により混合液を運動させることで研磨を行っている。
【0003】
具体的には図1に示すように、研磨バイト(軸バイト)の先端に永久磁石100を備えて磁場の発生源とするものがある。永久磁石100は、球体形状あるいは適宜な曲面を有した曲面体形状に形成し、円柱形状の支持体101の端面に埋め込み設けて略半分が露出する状態とし、その支持体101から一体に延びる軸部102を駆動手段へ連係して回転等の運動動作を行わせている。
【0004】
軸バイトの周りに磁気研磨液(磁性ペースト1)を付着させると、磁気吸引力によりMFやMRF中の強磁性粒子(例えば鉄粒子),マグネタイト粒子が、多数凝集して磁気クラスタを形成する。この磁気クラスタは、磁束に沿うので対象物103に対立して針状に多数が立ち並ぶ態様を採る。これにより、磁性ペースト1が軸バイト(永久磁石100)に付着して磁気ブラシとなる。そして、磁気ブラシあるいは対象物103が回転動作することにより、両者間の相対運動のため磁気ブラシが対象物103の表面を接触した状態で移動する。その結果、対象物103の表面の凹凸は研磨粒子を伴う磁気ブラシが研磨し、より平滑な表面を得ることができ、非接触の流体研磨が行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−313634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、磁性ペーストはある程度長く保存すると、磁性粒子が自重により沈殿してしまい、溶媒と分離してしまう問題がある。このため、磁性ペーストは、ある程度長く保存したものでは、使用する際にかき混ぜ作業を行う必要があり、さらに、保存後は直ちには使用できないことから作業性が悪い。かき混ぜ作業は、手動あるいは攪拌装置などにより行うことになるが、磁性粒子を適切な分散状態に戻すことが難しく、このため、ある程度長く保存した磁性ペーストでは研磨性能が安定せず研磨力の劣化は否めない。
【0007】
また、磁性ペーストにあっては、各成分について適切な分散状態を得るため、界面活性剤などの分散剤を混合させて化学的に分散させる手法を採っている。これは磁性粒子の平均粒径が1μm程度では有効であるが、平均粒径が5μmを越える場合はさほど効果がなく、磁性粒子の自重のため溶媒と分離して固化してしまう現象を起こす。そこで一つには分散剤の添加をさらに増やす対策もあるが、分散剤を増量すると粘度が上がり、表面処理の際は磁場の拘束力が加わることから意図しない高粘度になってしまい、所望の研磨性能を得ることができない問題がある。このため、分散剤の添加はむやみと増量することは短所が多く、有効な対策にはならない。さらには、分散剤を多量に添加しても、長期間の保存では磁性粒子が溶媒と分離する現象は防止できなく、研磨性能の低下が起きるという各種の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る磁性ペーストの保存装置は、非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存装置であって、(1)磁性ペーストは磁性粒子および溶媒等を含んでおり当該磁性ペーストをしまい入れる容器と、永久磁石などの磁場発生源とを備え、磁場発生源を容器へ付設する構成にした。
【0009】
(2)容器はチューブ容器とし、磁場発生源は薄い帯板形状の永久磁石である構成にするとよい。(3)永久磁石よりも大型サイズの樹脂フィルムを永久磁石の表裏に貼り付けて被覆する構成にするとよい。(4)磁場発生源は、ネオジム磁石,サマリウムコバルト磁石,フェライト磁石などの永久磁石である構成にするとよい。(5)磁場発生源が発生する磁束密度が100mTから800mT程度である構成にするとよい。
【0010】
また、本発明に係る保存方法は、(6)非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存方法であって、磁性ペーストは磁性粒子および溶媒等を含んでおり、着磁装置あるいは永久磁石などの磁場発生源の磁場を磁性ペーストに対して作用させて着磁し、外部からの磁場が定常的に作用する状態において当該磁性ペーストの保存を行うことにした。
【0011】
(7)非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存方法であって、磁性ペーストは磁性粒子および溶媒等を含んでおり、着磁装置あるいは永久磁石などの磁場発生源の磁場を磁性ペーストに対して作用させて着磁し、外部からの磁場が作用しない状態において当該磁性ペーストの保存を行うことにするとよい。
【0012】
また、磁性ペーストの保存方法において、(8)磁場発生源は、ネオジム磁石,サマリウムコバルト磁石,フェライト磁石などの永久磁石である方法を採り、(9)磁場発生源が発生する磁束密度が100mTから800mT程度である方法を採るとよい。
【0013】
本発明では、磁性ペーストの保存に際して、まず着磁作業を行うので、磁性粒子が磁束に沿って整列し、溶媒はそれら整列した磁性粒子の相互間の狭間に浸透して満たす状態になる。このため、磁性粒子を適切に分散した状態におくことができる。
【0014】
そして、保存時には外部からの磁場が定常的に作用する状態を保つので、これは磁性粒子の並び列に対して静的な拘束力になる。つまり、磁場の作用は静的なので着磁状態の磁性粒子の並び列にはこれを保持する拘束力に作用し、磁性粒子の並び列が動かない。
【0015】
また、保存時において外部からの磁場は必ずしも必要とせず、着磁状態の磁性粒子は、互いの磁場により互いを拘束する状態で整列しているので乱れて動くことがなく、並び列が自己拘束によりその状態を安定に保持する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、磁性ペーストの保存に際して、まず着磁作業を行うので、磁性粒子が磁束に沿って整列し、それら磁性粒子を適切に分散した状態におくことができる。そして、保存時には外部からの磁場が定常的に作用する状態を保つので、これは磁性粒子の並び列に対して静的な拘束力になり、磁性粒子の並び列が動かない。また、保存時において外部からの磁場は必ずしも必要とせず、着磁状態の磁性粒子は、並び列が自己拘束によりその状態を安定に保持する。
【0017】
したがって、磁性粒子の分散状態を適切に保つことができ、長期間の保存の後でも良好な研磨性能を安定に得ることができる。その結果、長期間の保存の後でもかき混ぜ作業は必要なく便利性が良好であり、表面処理を高い研磨力で安定に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】非接触による微細な削り作用の表面処理を説明する側面図である。
【図2】本発明に係る保存装置の第1の実施形態であり、(a)は着磁作業を示す斜視図、(b)は保存時の状態を示す斜視図、(c)は保存後の使用時の状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る保存方法を説明する模式図であり、(a)は製造完了後における磁性ペーストの状態を示し、(b)は磁性ペーストの着磁作業および保存時の状態を示し、(c)は磁場発生源を除外した保存時の状態を示し、(d)は本発明方法を適用しない保存時の状態を示している。
【図4】本発明に係る保存装置の第2の実施形態であり、(a)は着磁作業を示す正面図、(b)は保存時の状態を示す正面図、(c)は保存後の使用時の状態を示す斜視図である。
【図5】磁場発生源の他例であり、(a)は正面図および(b)は断面図である。
【図6】図5の磁場発生源を適用した保存装置を示す正面図であり、(a)は着磁作業を示し、(b)は保存時の状態を示している。
【図7】評価試験の結果を示す表面粗さのグラフであり、(a)は算術平均粗さRaを示し、(b)は最大粗さRyを示し、(c)は十点平均粗さRzを示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図2は本発明の第1の実施形態を示している。本形態において磁性ペーストの保存装置は、磁性ペースト1をしまい入れる容器2と、磁場発生源3とを備え、磁場発生源3を容器2へ付設する構成になっている。
【0020】
磁性ペースト1は、磁性粒子および溶媒との2成分を含む組成とし、溶媒には植物油脂などを用いる。この磁性ペースト1は、非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため、図1に示すように対象物103と軸バイト(永久磁石100)との狭間へ供給手段により供給する。
【0021】
磁性粒子には、フェライト粒子などの軟磁性焼結体や鉄粉等の金属粒子などを用いることができる。フェライト粒子は酸化鉄を主成分とするセラミックスであり大半が強磁性を示し、磁化を持つため磁場を作用させることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。鉄粉等の磁化し得る金属粒子でも同様であり、磁場を作用させることで当該粒子は磁気クラスタを形成する。そして、フェライト粒子や鉄粉等の金属粒子は、対象物に対しては十分に硬い。したがって研磨のための砥粒として機能させることができ、磁気クラスタそのものが、微細な削り作用による表面処理を行うための磁気ブラシとなる。
【0022】
磁性ペースト1には樹脂粒子をさらに混在させることもよい。この場合、樹脂粒子は溶媒に溶解しない不溶解性で低融点の樹脂材料から形成し、樹脂粒子の形状は例えば球形状とすればよく、あるいは繊維状等の非球形状に形成することでもよい。植物油脂に溶解しない樹脂材料には、例えばポリエチレン(PE),ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリ塩化ビニル(PVC)などが利用できる。この樹脂粒子の形状は、球形の他に繊維状等の非球形粒子でもよい。
【0023】
容器2は樹脂材料などから円筒形状のものに形成し、蓋4を有している。この容器2は底面を平坦に成形してあり、当該底面へ磁場発生源3を密着状態に連係させるようになっている。
【0024】
磁場発生源3は、円盤形状に形成した永久磁石であり、容器2の底面に連係させるようになっている。永久磁石には、例えばネオジム磁石,サマリウムコバルト磁石,フェライト磁石などを用いることができる。磁場発生源3が発生する磁束密度は、100mTから800mT程度が好ましい。
【0025】
磁性ペースト1の保存には、まず着磁作業を行う。これは図2(a)に示すように、磁性ペースト1を容器2へ注入してその蓋4をセットし、磁場発生源3の上に載せる。これにより、磁性ペースト1が着磁するので、図2(b)に示すように、磁場発生源3を容器2へ付設したそのままの状態で保存を継続する。つまり、磁性ペースト1に対して、外部からの磁場(磁場発生源3)が定常的に作用する状態で保存を行う。そして、磁性ペースト1を使用する際は、図2(c)に示すように、容器2を磁場発生源3の上から外して外部からの磁場を断ち、容器2から磁性ペースト1を適宜,適量に取り出すことになる。
【0026】
図3は、本発明に係る保存方法を説明する模式図であり、(a)は製造完了後における磁性ペーストの状態を示し、(b)は磁性ペーストの着磁作業および保存時の状態を示し、(c)は磁場発生源を除外した保存時の状態を示し、(d)は本発明方法を適用しない保存時の状態を示している。
【0027】
図3に示すように、磁性ペースト1は磁性粒子11および溶媒12等を含んでおり、本発明に係る保存方法では、磁場発生源3の磁場を磁性ペースト1に対して作用させて着磁し{図3(b)}、外部からの磁場が定常的に作用する状態において当該磁性ペースト1の保存を行うことにする{図3(b)}。着磁作業において、永久磁石などの磁場発生源3を利用することはもちろん好ましく、あるいはまた、着磁装置を利用することもできる。
【0028】
磁性ペースト1を着磁することでは、磁性粒子11が整列するので、保存時において外部からの磁場を必ずしも必要としない場合がある。そこで本発明に係る保存方法の第2方法として、磁場発生源3の磁場を磁性ペースト1に対して作用させて着磁し{図3(b)}、外部からの磁場が作用しない状態において当該磁性ペースト1の保存を行うようにしてもよい{図3(c)}。
【0029】
磁性ペースト1に対して着磁作業を行わない従来の場合は{図3(d)}、ある程度長く保存すると磁性粒子11が自重により沈殿してしまい、溶媒12と分離してしまう現象が起きる。
【0030】
本発明にあっては、磁性ペースト1の保存に際して、まず着磁作業を行うので、磁性粒子11が磁束に沿って整列し、溶媒12はそれら整列した磁性粒子11の相互間の狭間に浸透して満たす状態になる。このため、磁性粒子11を適切に分散した状態におくことができる。そして、保存時には外部からの磁場(磁場発生源3)が定常的に作用する状態を保つので、これは磁性粒子11の並び列に対して静的な拘束力になり、つまり、磁場の作用は静的なので着磁状態の磁性粒子11の並び列にはこれを保持する拘束力に作用し、磁性粒子11の並び列が動かない。
【0031】
したがって、磁性粒子11の分散状態を適切に保つことができ、長期間の保存の後でも良好な研磨性能を安定に得ることができる。その結果、長期間の保存の後でもかき混ぜ作業は必要なく便利性が良好であり、表面処理を高い研磨力で安定に行うことができる。
【0032】
また、保存時において外部からの磁場は必ずしも必要としない。つまり、着磁状態の磁性粒子11は、互いの磁場により互いを拘束する状態で整列しているので乱れて動くことがなく、並び列が自己拘束によりその状態を安定に保持する。このため、磁性粒子11の分散状態を安定に保持でき、長期間の保存の後でも良好な研磨性能を安定に得ることができる。
【0033】
図4は本発明の第2の実施形態を示している。本形態において磁性ペーストの保存装置は、基本的には第1の実施形態と同様であり、磁場発生源(永久磁石6)を容器(チューブ容器5)へ付設する構成を採る。第1の実施形態と同様な構成には同一符号を付してあり、その説明を省略する。
【0034】
本形態では、磁性ペースト1をしまい入れる容器および磁場発生源の形状等を変更した構成にしている。つまり、磁性ペースト1をしまい入れる容器はチューブ容器5とし、磁場発生源は薄い帯板形状の永久磁石6とし、永久磁石6をチューブ容器5の表面へ貼り付けて連係させる構成にしている。チューブ容器5は蓋7を有している。
【0035】
この場合も磁性ペースト1の保存には、まず着磁作業を行う。これは図4(a)に示すように、磁性ペースト1をチューブ容器5へ注入してその蓋7をセットし、そして当該チューブ容器5の表面へ永久磁石6を貼り付ける。これにより、磁性ペースト1が着磁するので、図4(b)に示すように、永久磁石6をチューブ容器5へ付設したそのままの状態で保存を継続する。つまり、磁性ペースト1に対して、外部からの磁場(永久磁石6)が定常的に作用する状態で保存を行う。そして、磁性ペースト1を使用する際は、図4(c)に示すように、チューブ容器5から永久磁石6を外して外部からの磁場を断ち、チューブ容器5から磁性ペースト1を適宜,適量に取り出すことになる。
【0036】
また、薄い帯板形状の永久磁石6については、図5に示すように、ラミネート加工する構成を採ることができる。つまり、永久磁石6よりも大型サイズの樹脂フィルム8を永久磁石6の表裏に貼り付けて被覆する構成にすることも好ましい。この場合、永久磁石6の外縁が柔軟な樹脂フィルム8になるので、手作業の際に持ちやすく、ハンドリングが容易になる。したがって、図6(a)に示す着磁作業の際にチューブ容器5の表面へ貼り付ける作業が容易に行える。そして磁性ペースト1を使用する際には、図6(b)に示す保存状態のチューブ容器5から永久磁石6を引き剥がす作業が容易に行えるようになり便利性を向上できる。
【0037】
このように、チューブ容器5による構成であっても、作用は第1の実施形態と同様であり、磁性ペースト1の保存に際して、まず着磁作業を行うので、磁性粒子が磁束に沿って整列し、それら磁性粒子を適切に分散した状態におくことができる。そして、保存時には外部からの磁場が定常的に作用する状態を保つので、これは磁性粒子の並び列に対して静的な拘束力になり、磁性粒子の並び列が動かない。また、保存時において外部からの磁場は必ずしも必要としなく、着磁状態の磁性粒子は、並び列が自己拘束によりその状態を安定に保持する。したがって、磁性粒子の分散状態を適切に保つことができ、長期間の保存の後でも良好な研磨性能を安定に得ることができる。
【実施例1】
【0038】
本発明の効果を実証するため、図1に示すような構成により試料の表面処理(研磨)を行った。つまり、先端に球体形状の永久磁石を設けた軸バイトにより試料の表面処理(研磨)を行い、それら試料について表面粗さ(算術平均粗さRa,最大粗さRy,十点平均粗さRz)を評価した。
【0039】
試料は厚さ10mmのA7000系アルミからなる板片(サイズ15×15mm)であり、表面処理を行う以前の粗さ(初期粗さと呼ぶことにする)は、算術平均粗さRa=2.918μm,最大粗さRy=34.722μm,十点平均粗さRz=24.717μmのものを使用した。
【0040】
表面処理の条件は、軸バイトの永久磁石は直径15mmとし、永久磁石と対象物との非接触の隙間を0.5mmとし、軸バイトの回転数は1000rpmとし、走査動作は移動速度500mm/minで移動ピッチ0.1mmとした。磁性ペースト1は磁性粒子75%,潤滑油(植物油脂)25%に調製したものとし、1回の表面処理につき7gを使用した。
【0041】
磁性ペースト1の保存は、本発明に係る保存については、着磁作業を行った後、外部から角型形状のネオジウム磁石(寸法 縦30mm 横15mm 厚み2mm 着磁方向2mm方向 表面磁束密度100mT)を用い、定常的に磁場を作用させた状態で保存を継続した。そして比較例は、着磁作業は行わなく、外部からの磁場も作用させない状態で保存を継続した。表面処理には、製造を完了した当日(0日目),保存が15日目,保存が30日目,保存が45日目,保存が60日目のものをそれぞれ使用し、それら試料について表面粗さを測定した。
【0042】
以上により表1に示す結果を得た。そして、図7は表1に示す結果のグラフであり、図7(a)は算術平均粗さRaを示し、図7(b)は最大粗さRyを示し、図7(c)は十点平均粗さRzを示している。
【0043】
【表1】

【0044】
同図から明らかなように、本発明に係る保存にあっては、長期間の保存の後でも、算術平均粗さRaは0.5μm程度であり保存が0日目とほとんど変わりなく、良好な仕上げ面を得ることができており、良好な研磨性能を安定に得られることを確認した。これは、磁性粒子の分散状態を適切に保つことができていることの結果であると言える。
【0045】
また、製造を完了した当日(0日目)よりも、保存が15日目以降の方が最大粗さRy,十点平均粗さRzが低値であり、より高品質な仕上げ面が得られる傾向を確認した。これは、製造を完了した当日(0日目)は、表面処理に使用するまでの短時間の放置期間に経時変化があり、製造直後ではあってもわずかながら磁性粒子の分離が進んでいることの影響と見ている。これに対して、保存が15日目以降の磁性ペーストでは、外部からの磁場の作用期間が長いため着磁状態が安定化していて、磁性粒子の分散状態が良好で経時変化が起こり難くなっていると考えている。
【符号の説明】
【0046】
1 磁性ペースト
2 容器
3 磁場発生源
4,7 蓋
5 チューブ容器
6 永久磁石
8 樹脂フィルム
11 磁性粒子
12 溶媒
100 永久磁石
101 支持体
102 軸部
103 対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存装置であって、
前記磁性ペーストは磁性粒子および溶媒を含んでおり当該磁性ペーストをしまい入れる容器と、磁場発生源と、を備え、
前記磁場発生源を前記容器へ付設することを特徴とする磁性ペーストの保存装置。
【請求項2】
前記容器はチューブ容器とし、前記磁場発生源は薄い帯板形状の永久磁石であることを特徴とする請求項1に記載の磁性ペーストの保存装置。
【請求項3】
前記永久磁石よりも大型サイズの樹脂フィルムを前記永久磁石の表裏に貼り付けて被覆することを特徴とする請求項2に記載の磁性ペーストの保存装置。
【請求項4】
前記磁場発生源は、永久磁石であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の磁性ペーストの保存装置。
【請求項5】
前記磁場発生源が発生する磁束密度が100mTから800mT程度であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の磁性ペーストの保存装置。
【請求項6】
非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存方法であって、
前記磁性ペーストは磁性粒子および溶媒等を含んでおり、着磁装置あるいは永久磁石などの磁場発生源の磁場を前記磁性ペーストに対して作用させて着磁し、外部からの磁場が定常的に作用する状態において当該磁性ペーストの保存を行うことを特徴とする磁性ペーストの保存方法。
【請求項7】
非接触による微細な削り作用の表面処理を行うため対象物の周辺に存在させる磁性ペーストの保存方法であって、
前記磁性ペーストは磁性粒子および溶媒等を含んでおり、磁場発生源の磁場を前記磁性ペーストに対して作用させて着磁し、外部からの磁場が作用しない状態において当該磁性ペーストの保存を行うことを特徴とする磁性ペーストの保存方法。
【請求項8】
前記磁場発生源は、永久磁石であることを特徴とする請求項6あるいは7の何れか1項に記載の磁性ペーストの保存方法。
【請求項9】
前記磁場発生源が発生する磁束密度が100mTから800mT程度であることを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載の磁性ペーストの保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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