説明

磁性弾性体とその製造方法

【課題】磁性弾性体とその製造方法において、製造が容易で、磁場に対してより強く応答させることができるものとする。
【解決手段】磁性弾性体1は、多数の空孔20を有する弾性体である母材2と、空孔20の一部に埋め込まれた添加材3に含まれる磁性粒子4とを備えている。磁性粒子4が母材2中ではなく母材2の空孔20中に存在するので、磁性粒子4が母材2そのものの弾性体特性を悪化させることがなく、磁性粒子4の添加量を増やすことができ、磁場強度に対する変形応答をより強くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場に応答して物性や形状が変化する磁性弾性体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁気エネルギを力学的エネルギに変換する機能を有する磁気応答性材料が知られている。この種の磁気応答性材料として、発泡体材料に磁性粒子を混合し、これを発泡させることにより、発泡体の空孔を区画する隔壁中に磁性粒子を分散させた磁性弾性体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−102411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような磁性弾性体やその製造方法においては、磁場に対してより強く応答させるために磁性粒子の充填量を増やすと、隔壁が硬くなって変形しにくくなるという問題があり、磁場に対する応答性の増強に限界がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、製造が容易で磁場に対してより強く応答させることができる磁性弾性体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明の磁性弾性体は、多数の空孔を有する母材としての弾性体と、空孔の一部に埋め込まれた添加材に含まれる磁性粒子と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
この磁性弾性体において、母材としての弾性体を発泡構造の多孔質構造弾性体としてもよい。
【0008】
この磁性弾性体において、母材としての弾性体を網目構造の多孔質構造弾性体としてもよい。
【0009】
この磁性弾性体において、空孔の形状を球形としてもよい。
【0010】
この磁性弾性体において、空孔の形状を一方向に長細い形状としてもよい。
【0011】
この磁性弾性体において、母材としての弾性体に磁性粒子を含有してもよい。
【0012】
この磁性弾性体において、磁性粒子が着磁されていてもよい。
【0013】
また、本発明の磁性弾性体の製造方法は、多数の空孔を有する母材としての弾性体を形成する母材形成工程と、固化して結合材となる液体に磁性粒子を混合した含浸液を作成する液作成工程と、母材形成工程によって形成した弾性体に液作成工程によって作成した含浸液を含浸させる含浸工程と、含浸工程を経た弾性体中の含浸液を固化して磁性粒子を弾性体に結合する固化工程と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
この磁性弾性体の製造方法において、母材形成工程は、弾性体を形成する材料中に磁性粒子を混入させる工程を備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁性弾性体とその製造方法によれば、磁性粒子が母材中ではなく母材の空孔中に存在するので、磁性粒子が母材の弾性体特性を悪化させることがなく、磁性粒子の添加量を増やすことができ、磁場強度に対する変形応答をより強くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る磁性弾性体の斜視図、(b)は同磁性弾性体の拡大断面図、(c)は同磁性弾性体の母材の斜視図、(d)は同母材の拡大断面図、(e)は同母材に含浸させる含浸液の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁性弾性体の製造方法のフローチャート。
【図3】同磁性弾性体、その母材、および比較例の磁性弾性体について歪と弾性率の関係を示すグラフ。
【図4】(a)は同磁性弾性体の他の構成例を示す断面図、(b)は(a)とは異なる方向から見た同構成例の拡大断面図、(c)は同構成例の母材の断面図、(d)は同母材の拡大断面図。
【図5】(a)は同磁性弾性体のさらに他の構成例を示す断面図、(b)は同構成例の母材の断面図。
【図6】(a)は同磁性弾性体のさらに他の構成例を示す断面図、(b)は(a)とは異なる方向から見た同構成例の拡大断面図、(c)は同構成例の母材の断面図、(d)は同母材の拡大断面図。
【図7】(a)は同磁性弾性体のさらに他の構成例を示す断面図、(b)は同構成例の母材の断面図。
【図8】(a)は同磁性弾性体のさらに他の構成例を示す断面図、(b)は同構成例における磁性粒子の着磁方法を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る磁性弾性体とその製造方法について、図面を参照して説明する。図1、図2、図3は、磁性弾性体とその製造方法について示す。本発明の磁性弾性体1は、図1(a)(b)に示すように、母材2と添加材3とを備えて成り、母材2は多数の空孔20を有する弾性体であり、添加材3は磁性粒子4を含有して空孔20の一部に埋め込まれて母材2と一体化されている。母材2は、発泡構造の多孔質構造弾性体であり、球形の空孔20を有している。磁性弾性体1は、図1(c)(d)に示すように多数の空孔20を有する母材2と、図1(e)に示すように磁性粒子4を混合した含浸液30とを用いて形成される。
【0018】
磁性弾性体1の製造は、図2に示すように、母材形成工程(S1)と、液作成工程(S2)と、含浸工程(S3)と、固化工程(S4)とを経て行われる。母材形成工程(S1)では、多数の空孔20を有する多孔質構造弾性体である母材2を形成し、液作成工程(S2)では、固化して結合材となる液体に磁性粒子4を混合した含浸液30を作成する。母材形成工程(S1)と液作成工程(S2)とは、いずれが先でもよく、並行して実施してもよい。含浸工程(S3)では、母材形成工程(S1)によって形成した母材2に液作成工程(S2)によって作成した含浸液30を含浸させ、固化工程(S4)では、含浸工程(S3)を経た母材中の含浸液30を固化して磁性粒子4を母材2に結合する。添加材3は、磁性粒子4を母材2に結合し、母材2の変形に際してその結合を維持するものである。添加材3は、ある空孔20の断面において、その断面を埋め尽くす必要はなく、空孔20の一部に埋め込まれておればよく、添加材3を含まない空孔20が適切に存在している方が好ましい。そこで、母材2に含浸させる含浸液30の量を予め計量する工程や、母材2に充分量の含浸液30を含浸させた後に母材2から余剰の含浸液30を搾り出す工程を、固化工程(S4)の前に備える。また、固化工程(S4)の前に、例えば、含浸液30を含んだ母材2の重量を計量することにより、適切な含浸量を設定でき、添加材3を含まない適量の空孔20を磁性弾性体1内に確保することができる。
【0019】
母材2は、エラストマー、樹脂などの弾性体となる原料、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ブチルゴム、ポリウレタン等を用いて、これらを発泡させて製造した多数の空孔20を有する多孔質構造弾性体である。空孔20の形状は、球形とする他に、任意の方向に伸びた長手空孔や一定方向に長手方向を揃えた長手空孔とすることができる。磁性粒子4は、鉄、カルボニル鉄、フェライトなどの強磁性体材料や、高透磁率材料の粉末などを用いることができる。含浸液30は、磁性粒子4を保持した状態で母材2に含浸された後、固化して磁性粒子4を母材2の空孔20に結合できるものであればよい。含浸液30は、固化した状態で変形容易なものが好ましく、例えば、固化してシリコーン樹脂となる含浸液が用いられる。また、含浸液30は、固化した状態で添加材3そのものが空孔を備えるように、これに発泡剤を混合してもよい。
【0020】
本実施形態の磁性弾性体1によれば、磁性粒子4を含有する添加材3を母材2の空孔20の一部に埋め込んで磁性弾性体を形成したので、母材2そのものの特性を損なうことなく磁性粒子の添加量を増やすことができ、磁場強度に対する変形応答をより強くできる。また、本実施形態の製造方法によれば、磁性粒子4を混合した含浸液30を母材2に含浸させるので、磁性粒子4を母材2に埋め込んでなる磁性弾性体1を容易に製造できる。このような磁性弾性体1は、磁性粒子4を含む添加材3を多孔質構造弾性体の空孔20のみに有するので、添加材3の充填量を増やしても多孔質構造弾性体そのものは硬くならない。また、添加材3を含まない空孔20が存在するので、母材2と空孔20とによって磁性弾性体1全体の柔軟性が維持される。
【0021】
図3は、押圧力によって3種類の弾性体をそれぞれ変形させたときの、歪みに対する弾性率の測定結果を示す。測定値aは、図1(c)(d)に示した母材2の測定値であり、測定値bは、図1(a)(b)に示した磁性弾性体1の測定値であり、測定値cは、比較例であるバルク体による磁性弾性体の測定値である。母材2の測定値aを見ると、歪みの増加に対して歪みが0.7までは弾性率が略一定であり、歪みが0.7を超えると弾性率が増加している。弾性率が略一定の範囲は、母材2の中の空孔20が押し潰されていく段階であって、まだ完全には押し潰されていない状態である。弾性率が増加している範囲は、空孔20が完全に押し潰された後の状態であって、母材2そのものが圧縮されて変形する状態である。
【0022】
磁性弾性体1の測定値bは、歪みが0.4までは母材2の測定値aと同様に略一定の弾性率を示し、その後は、母材2の測定値aと同様の立ち上がり変化を示している。これは、磁性弾性体1において母材2の柔らかさが損なわれずに継承され、添加材3によって充填されていない空孔20が母材2中に存在していることを示している。比較例の測定値cは、歪みの増加に対し一定領域を経過することなく弾性率が立ち上がっている。これは、測定値cの測定対象となったバルク体の磁性弾性体が、空孔を有してなくて潰されにくいことによる。測定値bのように、歪みの増加に対して弾性率が略一定という特性は、磁場印加によって磁性弾性体1が容易に変形することを意味し、比較例の磁性弾性体に比べて、磁性弾性体1の磁場強度に対する変形応答がより強いことを意味する。磁性弾性体1は、内部に空孔20が存在することにより、空孔なしの場合よりも柔らかく、磁場による形状変化や弾性率変化がより大きくなる。
【0023】
図4(a)(b)は磁性弾性体1の他の構成例を示し、図4(c)(d)はその母材2を示す。この磁性弾性体1の母材2は網目構造の多孔質構造弾性体である。網目構造の多孔質構造弾性体は、樹脂、金属、無機物、有機物、これらの複合物などの繊維を用いて織布または不織布を形成することによって形成される。繊維網目構造を有する母材2は、繊維そのものの弾力性や網目接触点の位置変化によって形状変化する。
【0024】
図5(a)は磁性弾性体1のさらに他の構成例を示し、図5(b)はその母材2を示す。母材2従って磁性弾性体1は、一方向に長細い形状の空孔20を有している。空孔20は、例えば、弾性体と成る原料が発泡化している際や、発泡化後の段階における硬化中に、原料に一方向から圧力をかけたり、原料を引っ張ったりすることにより長細形状に形成される。空孔20は、その長手方向を収縮変形方向とすると、磁性弾性体1が収縮変形する際に、長手方向とは直交する方向に広がりながら長手方向に縮むので、球形の空孔の場合よりも縮み代が大きく、より大きな収縮変形量が得られる。多孔性弾性体の応力に対する変形率は、上述の図3に示したように、その内部の空孔20が潰れた時点で急減するものであり、空孔20が収縮変形方向に長手となっている分だけ縮み代が大きくなる。同様の理由により、空孔20の長手方向に直交する方向を伸長変形方向とすると、磁性弾性体1が伸長変形する際に、球形の空孔の場合よりも伸び代が大きく、より大きな伸長変形量が得られる。また、磁性弾性体1を曲げ変形させる場合に、曲げ変形によって収縮する側と伸長する側との中立面の両側で、空孔20の長手方向の分布を互いに直交させた分布にすることにより、より大きな曲げ変形量を実現することができる。さらに、磁性弾性体1をねじり変形させる場合に、空孔20の長手方向の分布を螺旋状などの適宜の空間分布とすることにより、より大きなねじり変形量を実現することができる。
【0025】
図6(a)〜(d)、図7(a)(b)は、それぞれ磁性弾性体1のさらに他の構成例を示す。図6の磁性弾性体1は、上述の図4に示した磁性弾性体において、その母材2に磁性粒子5を含有させたものである。図7の磁性弾性体1は、上述の図1に示した磁性弾性体において、その母材2に磁性粒子5を含有させたものである。磁性粒子5は、磁性粒子4と同じ材料で形成したものでも、異なる材料で形成したものでもよい。このような母材2は、母材形成工程(S1)において、母材2を形成する材料中に磁性粒子5を混入させる工程を備えることにより、形成される。磁性弾性体1は、磁性粒子5を含有させることにより、磁性粒子をより多く含ませることができるので、磁場による形状変化や弾性率変化がより大きくなる。
【0026】
図8は磁性弾性体1のさらに他の構成例を示す。図8(a)の磁性弾性体1は、上述の図7(a)に示した磁性弾性体1における磁性粒子4,5に着磁を行って一方向に磁極を持たせたものである。着磁は、例えば図8(b)に示すように、着磁していない磁性弾性体を磁界発生装置によって発生した磁界中に配置する、周知の方法により行うことができる。上記図7(a)に示したような、着磁していない磁性弾性体1は、磁界の印加によって収縮する変形しか行えず、もとの形状への復帰は、磁界を除いた状態における母材2の弾性力による復元力に基づく。これに対し、着磁された磁性弾性体1は、磁性弾性体1に印加する磁界の向きに応じて、磁性粒子4,5の磁極に作用する引力や斥力が発生するので、これらの力によって収縮変形に加え、伸長変形に基づく変形を行うことができる。
【0027】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。例えば、図8(a)(b)に示した磁性粒子の着磁は、図1、図4乃至図6に示した磁性弾性体1についても行うことができる。また、磁性弾性体1の製造において、母材形成工程(S1)は行わずに、既存の弾性体を母材として用いてもよい。そのような母材となる弾性体は、含浸液30を含浸して固化工程(S4)を実施できるものであれば、任意のものを用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 磁性弾性体
2 母材
20 空孔
3 添加材
30 含浸液
4 磁性粒子
5 磁性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の空孔を有する母材としての弾性体と、
前記空孔の一部に埋め込まれた添加材に含まれる磁性粒子と、を備えていることを特徴とする磁性弾性体。
【請求項2】
前記母材としての弾性体が発泡構造の多孔質構造弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の磁性弾性体。
【請求項3】
前記母材としての弾性体が網目構造の多孔質構造弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の磁性弾性体。
【請求項4】
前記空孔の形状が球形であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の磁性弾性体。
【請求項5】
前記空孔の形状が一方向に長細い形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の磁性弾性体。
【請求項6】
前記母材としての弾性体が磁性粒子を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の磁性弾性体。
【請求項7】
前記磁性粒子が着磁されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の磁性弾性体。
【請求項8】
多数の空孔を有する母材としての弾性体を形成する母材形成工程と、
固化して結合材となる液体に磁性粒子を混合した含浸液を作成する液作成工程と、
前記母材形成工程によって形成した弾性体に前記液作成工程によって作成した含浸液を含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程を経た弾性体中の含浸液を固化して磁性粒子を弾性体に結合する固化工程と、を備えていることを特徴とする磁性弾性体の製造方法。
【請求項9】
前記母材形成工程は、弾性体を形成する材料中に磁性粒子を混入させる工程を備えることを特徴とする請求項8に記載の磁性弾性体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−227411(P2012−227411A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94796(P2011−94796)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】