説明

磁性微粒子の製造方法

【課題】磁気特性に優れ、かつ経時による分散性の低下の少ない磁性流体を製造するのに適した磁性微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】アミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とをダブルジェット法を用いて混合、反応する磁性微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性微粒子の製造方法に関する。更に詳しくは、磁気特性と分散性の良好な磁性微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性微粒子を油類や水に分散することにより磁性流体が得られる。磁性流体は磁界がゼロの時は磁性のない単なる液体であるが、外部から磁界を作用させることで磁化し、外部磁界を取り除くことにより磁化が消失する。磁性流体は外部磁界の強さに応じて磁化を自由に変化させることができる性質を利用して、角度センサー、傾斜センサー等のセンサー、回転軸の磁性流体シール、振動系のダンパー、スピーカー等の様々な分野に利用されている。また、医療、バイオテクノロジーの分野、例えば、MRIにおける造影剤、ドラッグデリバリーシステム、タンパク質・DNA・細胞等の分離、更に各種イムノアッセイ、医療診断、ハイパーサーミア等の治療等への応用が期待されている。
【0003】
磁性流体に用いられる磁性微粒子には主としてマグネタイト等のフェライトの微粒子が用いられる。フェライト磁性微粒子の製造方法としては、粉砕法、蒸着法、共沈法など種々の方法が知られているが、純度、粒径制御、生産性等の点から共沈法を用いることが一般的である。共沈法ではフェライトを構成する鉄等の金属を含む金属塩の水溶液をアルカリ水溶液と反応させて共沈物とし水洗、乾燥することによりマグネタイト等の金属酸化物微粒子粉末を合成することができる。しかし、共沈法により形成された磁性微粒子は、水洗、乾燥時に水分や熱による凝集が生じやすいという問題があった。
【0004】
非特許文献1には、ドデシル硫酸ナトリウムの存在下で磁性微粒子を合成する方法が記載されている。特許文献1には、磁性微粒子を合成後、ポリブテニルコハク酸イミドテトラエチレンペンタミンを添加する方法が記載されている。これらの方法では、添加剤を磁性微粒子の合成前、あるいは合成後に添加して磁性微粒子表面に添加剤を吸着させることにより磁性微粒子の凝集を防止することを意図している。しかし、磁性微粒子合成前に添加剤を加える方法では、磁性微粒子の結晶化を阻害し、飽和磁化を低下させる等、磁気特性を低下させるという問題があった。また、磁気粒子の合成後に添加剤を加える方法では、磁性粒子の合成後、添加剤の添加までの間に磁性粒子が凝集、粗大化するという問題があった。特許文献2にはアルカノールアミンの存在下で3価の鉄イオンと2価の鉄イオンを溶解した溶液にアルカリ水溶液をシングルジェット法により添加し、磁性微粒子を合成する方法が、特許文献3の実施例4には、サッカロースの存在下で2価の鉄イオン溶液とアルカリ溶液をダブルジェット法により添加して磁性微粒子を合成する方法が記載されている。しかし、これらの方法で得られる磁性微粒子も分散後、経時に伴い分散安定性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−41316号公報
【特許文献2】特開2004−182526号公報
【特許文献3】特開2002−128523号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本化学会誌1991年9月号、1183〜1187頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、磁気特性に優れ、かつ分散後の経時による分散性の低下の少ない磁性流体を製造するのに適した磁性微粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とをダブルジェット法を用いて混合、反応する磁性微粒子の製造方法により達成された。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁性微粒子の製造方法により、磁気特性に優れ、かつ分散後の経時による分散性の低下の少ない磁性流体が製造できる磁性微粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ダブルジェット混合装置の一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
本発明の磁性微粒子の製造方法は、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とをダブルジェット法を用いて混合、反応する。
【0012】
本発明において、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、ダブルジェット法を用いて混合、反応するとは、ダブルジェット法により混合、反応を開始し、終了するまでの任意の期間に、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物が、反応が進行する混合液中に存在することを意味する。具体的には、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物は、反応開始前に、反応槽中や、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液、あるいはアルカリ水溶液の何れかに予め添加しておくことができる。また、反応槽中や、2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液、あるいは、アルカリ水溶液中に、反応開始後から反応終了までの任意の時期に供給しても良い。更には、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物を含む水溶液を反応開始時から反応終了までの任意の時期に反応槽中に連続的または、断続的に供給することもできる。中でも、アミノ基とカルボキシル基を有する化合物を含有する水溶液を、反応開始前から予め反応槽中に投入しておくことが特に好ましい。
【0013】
図1はダブルジェット法に用いられるダブルジェット混合装置の一例を示す概略図である。図1において、(A)は反応槽を示し、(B)、(C)はそれぞれ、2価と3価の鉄イオンを含む水溶液及びアルカリ水溶液を供給する液供給管を示し、(D)は攪拌手段を示す。本発明においては特に、予めアミノ基とカルボキシル基を有する化合物を含有する水溶液が入った反応槽(A)に、2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とを同時に供給することにより混合、反応が行われることが好ましい。個々の水溶液は図示しない容器から、図示しない定量ポンプ等の液供給装置を用いて液供給管(B)、(C)から反応槽(A)に供給される。反応槽内の溶液は図1では攪拌手段(D)として攪拌プロペラを記載したが、攪拌プロペラの他、マグネチックスターラー、超音波攪拌機等の反応槽(A)の内外に設けられた攪拌手段(D)にて攪拌しても良い。
【0014】
本発明では、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオン含む水溶液とアルカリ水溶液の共沈反応により、一般式Fe1−X1−X2−X3−X4CoX1MnX2CuX3NiX4O・Feで表されるフェライトの磁性微粒子が得られる。ここで、0≦X1≦1、0≦X2≦1、0≦X3≦1、0≦X4≦1、0≦X1+X2+X3+X4≦1である。マグネタイト(FeO・Fe)、コバルトフェライト(CoO・Fe)、マンガンフェライト(MnO・Fe)のような典型的なフェライトや、マンガンニッケルフェライト(Mn0.5Ni0.5O・Fe)等、組み合わせにより様々な磁気特性の磁性微粒子が得られる。これらの磁性微粒子の中で、生体に対する毒性が少ないことから、医療、バイオテクノロジー分野の磁性流体に用いられる磁性微粒子としてマグネタイトが好ましく用いられる。また、高い飽和磁化が得られることから磁性流体シールなど外部とは密閉状態で用いられる磁性流体に用いる磁性微粒子にはコバルトフェライト等が好ましく用いられる他、用途に応じて様々な組成の磁性微粒子を用いることができる。これら磁性微粒子の飽和磁化等の磁気特性は、スピネル型の結晶構造を有するフェライト特有の結晶構造により発現されるものである。スピネル型の結晶構造はX線回折装置、例えば(株)リガク製X線回折装置MiniFlex等により粉末法によるX線回折パターンを測定することにより特定することができる。また、磁性微粒子の磁気特性は磁性粒子の粉末を試料振動型磁力計、例えば東栄工業(株)製の試料振動式磁力計VSM−P7−15型を用いて飽和磁化を測定することにより行うことができ、単位質量あたりの飽和磁化の大きさにより評価することができる。
【0015】
上記の3価の鉄イオン、及び2価の鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる2価の金属イオンの供給源として、これらの金属の塩化物塩、臭化物塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が好ましく用いられる。例えば、塩化鉄(III)六水和物FeCl・6HO、硫酸鉄(II)七水和物Fe(II)SO・7HO、硝酸鉄(III)九水和物Fe(III)(NO・9HO、塩化鉄(II)四水和物FeCl・4HO、塩化コバルト(II)六水和物Co(II)Cl・6HO、酢酸コバルト四水和物(CHCOO)Co・4HO、塩化マンガン四水和物Mn(II)Cl・4HO、塩化亜鉛(II)Zn(II)Cl、硫酸ニッケル六水和物Ni(II)SO・6HO、酢酸ニッケル四水和物(CHCOO)Ni・4HO等である。
【0016】
本発明の鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液中の3価の鉄イオンと2価の金属イオンの比率は、モル比Fe(III)/M(II)で1.8〜2.2の範囲が好ましく、この範囲を超えると磁性微粒子の収率が低下する場合がある。ここで、M(II)は鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンの合計したモル数を意味する。
【0017】
本発明の鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液中の2価の金属イオンの濃度の合計は、0.01〜2モル/Lの範囲、3価の鉄イオンの濃度は0.02〜4.0モル/Lの範囲で用いることが好ましい。
【0018】
本発明の磁性微粒子の製造に用いられるアルカリ水溶液のアルカリ剤として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等の無機塩、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、3−(ジメチルアミノ)−1−プロパノール等の有機化合物を用いることができる。
【0019】
本発明に用いられるアミノ基とカルボキシル基を有する化合物は、その構造中に少なくとも1つのアミノ基とカルボキシル基を有する化合物であり、アミノ基は、アミン、イミン、イミド等を形成するものを含み、カルボキシル基は塩あるいは、アミノ基とベタイン構造を形成しても良く、また、分子内または分子間でエステル構造を形成しても良い。
【0020】
本発明に用いられるアミノ基とカルボキシル基を有する化合物として好ましい化合物として、下記一般式(I)で表されるアルキルベタイン化合物、下記一般式(II)で表される脂肪族アミドプロピルベタイン化合物、下記一般式(III)で表されるN−脂肪酸アシル−L−アミノ酸塩等が挙げられる。
【0021】
【化1】

【0022】
式中、Rは炭素数8から19までのアルキル基を表す。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、Rは炭素数8から19までのアルキル基を表す。
【0025】
【化3】

【0026】
式中、Rは炭素数8から19までのアルキル基、R、Rは水素、ナトリウム、カリウム、または四級塩を表し、xは1または2を表す。
【0027】
本発明に用いられるアミノ基とカルボキシル基を有する一般式(I)で表されるアルキルベタイン化合物としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインやステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられ、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインとして第一工業製薬製(株)製のアモーゲンS、アモーゲンSH、アモーゲンK、東邦化学工業(株)製のオバゾリンLB、オバゾリンLB−SF等が、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインとして花王(株)製のアンヒトール86B等が市販されている。一般式(II)で表される脂肪族アミドプロピルベタイン型化合物としてはラウリン酸アミドプロピルベタイン、オクタン酸アミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン等が挙げられ、ラウリン酸アミドプロピルベタインとしては第一工業製薬(株)製のアモーゲンLB−C、オクタン酸アミドプロピルベタインとしては第一工業製薬(株)製のアモーゲンHB−H、コカミドプロピルベタインとしては花王(株)製のアンヒトール55AB等が市販されている。一般式(III)で表されるN−脂肪酸アシル−L−アミノ酸塩としてはラウロイルアスパラギン酸ナトリウム、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ−2−ヘキシルデシル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ−2−ヘキシルデシル−ラウロイル−L−グルタミン酸ジイソステアリル、ステアロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル等が挙げられ、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウムとして旭化成ケミカルズ(株)製のアミノフォーマーFLMS−PIが、ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウムとして旭化成ケミカルズ(株)製のペリセアL−30、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ−2−ヘキシルデシルとして日本エマルジョン(株)製のAMITER LG−1600、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ−2−ヘキシルデシル−ラウロイル−L−グルタミン酸ジイソステアリルとして日本エマルジョン(株)製のAMITER LG−1800、ステアロイルグルタミン酸ジオクチルドデシルとして日本エマルジョン(株)製のAMITER SG−2000等が市販されている。
【0028】
本発明に用いられるアミノ基とカルボキシル基を有する化合物の使用量は、本発明の磁性微粒子の製造方法によって製造される磁性微粒子の質量の0.001〜10倍の範囲で用いることができる。
【0029】
本発明の磁性微粒子の製造に用いられるダブルジェット法に用いられる反応槽中での反応温度は10℃から90℃の範囲が好ましく、より好ましくは20℃から80℃の範囲である。また反応槽のpHは種々の範囲で変化させることができるが、好ましいpH範囲は5〜14の範囲である。
【0030】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子の平均粒径は、磁性微粒子を水または油中に分散溶解した磁性流体中での平均分散粒径を意味し、1〜50nmが好ましく、より好ましくは1〜30nmの範囲である。本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子の平均粒径は、レーザー散乱粒度分布計、例えば(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−500を用いて磁性流体中の磁性微粒子の溶液分散状態での粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0031】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を水に分散して水溶性磁性流体を製造することができる。本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子の粉体は、例えば、界面活性剤や水溶性ポリマー等の分散剤を加えて再分散を行い、ホモジナイザで混合後、超音波処理を行って分散液とし、この分散液を遠心分離して分散不良粒子や不純物を除去して水溶性磁性流体を得ることができる。
【0032】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を水に分散する際の再分散時に加える分散剤として、界面活性剤や水溶性ポリマーを用いることが好ましい。界面活性剤としてはアルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩等のアニオン界面活性剤、四級アンモニウム塩、アルキルトリメチル型、アルキルジメチルベンジル型等のカチオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤、スルホベタイン型やポスポベタイン型等の両性界面活性剤を用いることが挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を水に分散する際の再分散時に加える分散剤として好ましい水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の合成ポリマーやキサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、タンパク質、DNA等が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を用いた油性の磁性流体に用いられる油性の分散溶剤としてイソパラフィンやアルキルナフタレン等の炭化水素油ベースやフッ素油ベースの分散溶剤を用いることができる。イソパラフィン系溶剤として、日油(株)製NAソルベント・シリーズや出光興産(株)製IPソルベントシリーズ(1016、1620、2028、2835)等が市販されている。アルキルナフタレン系溶剤として楠本化成(株)製NA−LUBE(登録商標)KRシリーズ等が市販されている。フッ素系溶剤として松村石油(株)製バーレルフロロフルードEシリーズやTシリーズ、デュポン(株)製クライトックスGPLシリーズ等が市販されている。
【0035】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を用いた油性の磁性流体には磁性微粒子、分散溶剤と共に、磁性微粒子の表面を疎水化、分散安定化するための分散剤を含有せしめることが望ましい。分散剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルやソルビタン不飽和脂肪酸エステル等の高級脂肪酸塩が好ましく用いられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、花王(株)製レオドールMS−50(グリセロールモノステアレート)、レオドールMO−60(グリセロールモノオレエート)、理研ビタミン(株)製リケマールL−71−D(ジグリセリンラウレート)、リケマールXO−71(ジグリセリンオレエート)、ソルビタン脂肪酸エステルとして、例えば花王(株)製レオドールSP−L10(ソルビタンモノラウレート)、レオドールSP−P10(ソルビタンモノパルミテート)、レオドールSP−S10V(ソルビタンモノステアレート)、レオドールSP−S20(ソルビタンジステアレート)、レオドールSP−S30V(ソルビタントリステアレート)、レオドールSP−O10V(ソルビタンモノオレエート)、レオドールSP−O30V(ソルビタントリオレエート)、レオドールSP−L10(ソルビタンモノラウレート)、レオドールAS−10V(ソルビタンモノステアレート)、レオドールAO−10V(ソルビタンモノオレエート)、レオドールAO−15V(ソルビタンセスキオレエート)等が市販されている。これらの分散剤は本発明のダブルジェット法による磁性微粒子の製造以降、磁性微粒子を疎水性溶剤に分散するまでの任意の時期に用いることができる。一例として本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を水洗、乾燥した磁性微粒子粉末を疎水化界面活性剤を含有する低沸点の親水性溶剤、例えばエチルアルコール中に再分散して、脱溶媒、乾燥後、疎水性の油中に分散する方法がある。あるいは本発明のダブルジェット法による磁性微粒子の形成直後の分散水溶液中に疎水化性界面活性剤を添加し、水洗、脱水後、低沸点の親水性溶剤で洗浄、乾燥後、疎水性油中に分散する方法等もある。
【0036】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子を油中に分散した磁性流体中には酸化防止剤を含有させることができ、酸化防止剤として、ヒンダートフェノール類や芳香族アミン類等が好ましい。ヒンダートフェノール系酸化防止剤としてBASFジャパン(株)製のIRGANOX L109(ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、IRGANOX L115(チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])等が市販されている。芳香族アミン系酸化防止剤としてBASFジャパン(株)製のIRGANOX L06(N−フェニル−1,1,3,3−テトラメチルブチルナフタレン−1−アミン)、IRGANOX L57(N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンの反応生成物)等が市販されている。
【0037】
以下に本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
図1のダブルジェット装置の反応槽(A)に本発明のアミノ基とカルボキシル基を有する化合物としてラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインである東邦化学工業(株)製のオバゾリンLBを含有する下記A1液を投入し、60℃に保温した。攪拌手段(D)により1000rpmで溶液A1を攪拌しながら、液供給管(B)及び(C)から、それぞれ下記B1液及びC1液を2.6ml/分の流速で反応槽(A)に48分間送液し、黒色の沈殿物を得た。B1液及びC1液を送液する前の反応槽のpHは6.5、送液終了時のpHは12.5であった。室温まで冷却、静置後、上澄み液を捨ててデカンテーションし、沈殿物に蒸留水200mlを加えて水洗、デカンテーションを3回行った。更に沈殿物を200mlのエタノールで3回洗浄、デカンテーションした後、沈殿物にアセトン20mlを加えて遠心分離機を用いて10000rpmで30分間遠心分離して上澄み液を捨て、得られた沈殿固形物を100℃で6時間乾燥後、グラインダーで分散、更に100℃で24時間乾燥し磁性微粒子(1)の粉末9.4gを得た。
【0039】
A1液
東邦化学工業(株)製オバゾリンLB 2g
蒸留水 50ml
【0040】
B1液
塩化鉄(II)四水和物 5.96g(0.03モル)
塩化鉄(III)六水和物 16.22g(0.06モル)
1N塩酸 90ml(0.09モル)
【0041】
C1液
25質量%水酸化アンモニウム 126ml(0.9モル)
【0042】
上記の磁性微粒子(1)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0043】
(実施例2)
実施例1のA1液の代わりに下記のA2液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(2)の粉末9.2gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは6.0、送液終了時のpHは12.5であった。
【0044】
A2液
第一工業製薬(株)製アモーゲンLB−C 2g
蒸留水 50ml
【0045】
上記の磁性微粒子(3)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンはマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0046】
(実施例3)
実施例1のA1液の代わりに下記のA3液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(3)の粉末9.7gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは7.0、送液終了時のpHは12.4であった。
【0047】
A3液
日本エマルジョン(株)製AMITER LG−1600 0.7g
蒸留水 50ml
【0048】
上記の磁性微粒子(3)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンはマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0049】
(実施例4)
実施例1のB1液の代わりに下記のB2液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(4)の粉末8.9gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは6.5、送液終了時のpHは12.1であった。
【0050】
B2液
塩化コバルト(II)六水和物 7.14g(0.03モル)
塩化鉄(III)六水和物 16.22g(0.06モル)
1N塩酸 90ml(0.09モル)
【0051】
上記の磁性微粒子(4)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なコバルトフェライト(CoO・Fe)の回折パターンを示した。
【0052】
(実施例5)
実施例1のB1液の代わりに下記のB3液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(5)の粉末9.1gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは6.5、送液終了時のpHは12.3であった。
【0053】
B3液
塩化マンガン(II)四水和物 5.94g(0.03モル)
塩化鉄(III)六水和物 16.22g(0.06モル)
1N塩酸 90ml(0.09モル)
【0054】
上記の磁性微粒子(5)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマンガンフェライト(MnO・Fe3)の回折パターンを示した。
【0055】
(実施例6)
実施例1のB1液の代わりに下記のB4液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(6)の粉末9.1gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは6.2、送液終了時のpHは12.3であった。
【0056】
B4液
塩化亜鉛(II) 4.09g(0.03モル)
塩化鉄(III)六水和物 16.22g(0.06モル)
1N塩酸 90ml(0.09モル)
【0057】
上記の磁性微粒子(6)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的な亜鉛フェライト(ZnO・Fe)の回折パターンを示した。
【0058】
(実施例7)
実施例1のB1液の代わりに下記のB5液を用いる以外は実施例1と同様にして磁性微粒子(7)の粉末9.2gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは6.3、送液終了時のpHは12.4であった。
【0059】
B5液
塩化ニッケル(II)六水和物 7.13g(0.03モル)
塩化鉄(III)六水和物 16.22g(0.06モル)
1N塩酸 90ml(0.09モル)
【0060】
上記の磁性微粒子(7)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なニッケルフェライト(NiO・Fe)の回折パターンを示した。
【0061】
(比較例1)
実施例1の東邦化学工業(株)製オバゾリンLBを用いない以外は実施例1と同様にして比較の磁性微粒子(比1)の粉末9.4gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは7.5、送液終了時のpHは12.5であった。
【0062】
比較の磁性微粒子(比1)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマグネタイト(FeO・Fe3)の回折パターンを示した。
【0063】
(比較例2)
実施例1の2gの東邦化学工業(株)製オバゾリンLBの代わりに、0.6gの和光純薬(株)製ドデシル硫酸ナトリウムを用いる以外は実施例1と同様にして比較の磁性微粒子(比2)の粉末8.9gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは5.7、送液終了時のpHは12.4であった。
【0064】
比較の磁性微粒子(比2)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0065】
(比較例3)
実施例1の2gの東邦化学工業(株)製オバゾリンLBの代わりに、1.0gの東京化成(株)製2−ジメチルアミノエタノールを用いる以外は実施例1と同様にして比較の磁性微粒子(比3)の粉末9.8gを得た。ダブルジェット法による送液前の反応槽のpHは9.5、送液終了時のpHは12.8であった。
【0066】
比較の磁性微粒子(比3)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0067】
(比較例4)
B1液のみを2.6ml/分の流速で反応槽(A)に48分間送液した後、C1液を2.6ml/分の流速で反応槽(A)に添加する以外は実施例1と同様にして比較の磁性微粒子(比4)の粉末10.1gを得た。B1液送液前の反応槽のpHは6.5、B1液送液後のpHは3.2、C1液送液後のpHは12.5であった。
【0068】
比較の磁性微粒子(比4)の粉末のX線回折を(株)リガク製X線回折装置MiniFlexを用いて測定した。得られた回折パターンは典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンを示した。
【0069】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子(1)〜(7)及び比較の磁性微粒子(比1)〜(比4)の粉末の単位質量あたりの飽和磁化を東栄工業(株)製の試料振動式磁力計VSM−P7−15型を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子(1)〜(7)及び比較の磁性微粒子(比1)〜(比4)1gの粉末を1質量%ポリオキシエチレン(4,5)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム水溶液(日光ケミカルズ)5mlに分散し、超音波分散機で120分間分散した後、10,000rpmで15分遠心分離して粗大凝集物を沈殿物として分離、除去し、本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子(1)〜(7)を分散した水分散磁性流体(W1)〜(W7)及び比較の磁性微粒子(比1)〜(比4)を分散した水分散磁性流体(比W1)〜(比W4)を得た。
【0072】
(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布計を用いて、上記の水分散磁性流体の分散直後及び分散後密封容器中で35℃1ヶ月間経時後の平均粒子径及び粒子径分布の標準偏差を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子(1)〜(7)及び比較の磁性微粒子(比1)〜(比4)1gの粉末を1質量%の花王(株)製レオドールMS−50(グリセロールモノステアレート)のアセトン溶液5mlに分散し、超音波分散機で60分間分散後、出光興産(株)製IPソルベント10162を2g添加し、超音波分散機で120分間分散した後、10,000rpmで15分遠心分離して粗大凝集物を沈殿物として分離、除去した後、ロータリーエバポレータによりアセトンを除去して、本発明の製造方法によって得られた磁性微粒子(1)〜(7)を分散した油分散磁性流体(O1)〜(O7)及び比較の磁性微粒子(比1)〜(比4)を分散した油分散磁性流体(比O1)〜(比O4)を得た。
【0075】
(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布計を用いて、上記の油分散磁性流体の分散直後及び分散後密封容器中で60℃1ヶ月間経時後の平均粒子径及び粒子径分布の標準偏差を測定した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
また、磁性微粒子(1)の作成で用いた一般式(I)の化合物(オバゾリンLB)の代わりに、花王(株)製アンヒトール86Bを用いた以外は、磁性微粒子(1)と同様にして磁性微粒子(8)を作成した。水分散性磁性流体(W1)及び油分散性磁性流体(O1)の作成と同様にして、磁性微粒子(8)を用いて水分散性磁性流体(W8)及び油分散性磁性流体(O8)を作成した。
【0078】
上記の磁性微粒子(8)の粉末のX線回折及び飽和磁化の測定を行ったところ、磁性微粒子(1)の粉末と同様の典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンと高い飽和磁化を示した。
【0079】
上記の水分散性磁性流体(W8)及び油分散性磁性流体(O8)の粒度分布を測定したところ、分散性磁性流体(W1)及び油分散性磁性流体(O1)と同様、経時後の平均粒子径及び粒子径分布の標準偏差の変動の少ない、良好な分散性を示した。
【0080】
また、磁性微粒子(2)の作成で用いた一般式(II)の化合物(アモーゲンLB−C)の代わりに、第一工業製薬(株)製アモーゲンHB−Hを用いた以外は、磁性微粒子(2)と同様にして磁性微粒子(9)を作成した。水分散性磁性流体(W2)及び油分散性磁性流体(O2)の作成と同様にして、磁性微粒子(9)を用いて水分散性磁性流体(W9)及び油分散性磁性流体(O9)を作成した。
【0081】
上記の磁性微粒子(9)の粉末のX線回折及び飽和磁化の測定を行ったところ、磁性微粒子(2)の粉末と同様の典型的なマグネタイト(FeO・Fe)の回折パターンと高い飽和磁化を示した。
【0082】
上記の水分散性磁性流体(W9)及び油分散性磁性流体(O9)の粒度分布を測定したところ、分散性磁性流体(W2)及び油分散性磁性流体(O2)と同様、経時後の平均粒子径及び粒子径分布の標準偏差の変動の少ない、良好な分散性を示した。
【0083】
また、磁性微粒子(3)の作成で用いた一般式(III)の化合物(AMITER LG−1600)の代わりに、旭化成ケミカルズ(株)製ペリセアL−30を用いた以外は、磁性微粒子(3)と同様にして磁性微粒子(10)を作成した。水分散性磁性流体(W3)及び油分散性磁性流体(O3)の作成と同様にして、磁性微粒子(10)を用いて水分散性磁性流体(W10)及び油分散性磁性流体(O10)を作成した。
【0084】
上記の磁性微粒子(10)の粉末のX線回折及び飽和磁化の測定を行ったところ、磁性微粒子(3)の粉末と同様の典型的なマグネタイト(FeO・Fe3)の回折パターンと高い飽和磁化を示した。
【0085】
上記の水分散性磁性流体(W10)及び油分散性磁性流体(O10)の粒度分布を測定したところ、分散性磁性流体(W3)及び油分散性磁性流体(O3)と同様、経時後の平均粒子径及び標準偏差の変動の少ない、良好な分散性を示した。
【0086】
以上の結果から、本発明のアミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とをダブルジェット法を用いて混合、反応する磁性微粒子の製造方法により製造された磁性微粒子は、高い飽和磁化を示すと共に、分散後の経時による分散性の低下が生じ難いことが分かる。一方、本発明のアミノ基とカルボキシル基を有する化合物を用いないか、本発明のアミノ基とカルボキシル基を有する化合物を用いてもダブルジェット法を用いて混合、反応を行わない場合には、高い飽和磁化が得られなかったり、経時での分散性の低下が生じることが分かる。
【符号の説明】
【0087】
A 反応槽
B 液供給管
C 液供給管
D 攪拌手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基とカルボキシル基を有する化合物の存在下で、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の2価の金属イオンと3価の鉄イオンを含む水溶液と、アルカリ水溶液とをダブルジェット法を用いて混合、反応する磁性微粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−45816(P2013−45816A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181035(P2011−181035)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】