説明

磁性材料及びコイル部品

【課題】透磁率の向上と抵抗絶縁抵抗の向上を図りつつ、高温負荷、耐湿性、吸水性等の信頼性特性を向上させる磁性材料及びコイル部品の提供。
【解決手段】Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなる複数の金属粒子と、前記金属粒子の表面に形成された前記軟磁性合金の酸化物からなる酸化被膜とを備え、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部および酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部を有し、前記金属粒子の集積により生じた空隙の少なくとも一部には樹脂材料が充填されている、磁性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコイル・インダクタ等において主に磁心として用いることができる磁性材料およびコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、チョークコイル、トランス等といったコイル部品(所謂、インダクタンス部品)は、磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルとを有している。磁性材料の材質としてNi−Cu−Zn系フェライト等のフェライトが一般に用いられてきた。
【0003】
近年、この種のコイル部品には大電流化(定格電流の高値化を意味する)が求められており、該要求を満足するために、磁性体の材質を従前のフェライトからFe系の合金に切り替えることが検討されている。
【0004】
特許文献1には、積層タイプのコイル部品における磁性体部の作製方法として、Fe−Cr−Si合金粒子群の他にガラス成分を含む磁性体ペーストにより形成された磁性体層と導体パターンを積層して窒素雰囲気中(還元性雰囲気中)で焼成した後に、該焼成物に熱硬化性樹脂を含浸させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−027354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の発明では、絶縁性を確保するために、金属粉と樹脂とのコンポジット構造を採っているため、充分な透磁率が得られない。また、樹脂を維持する目的で低温の熱処理を余儀なくされ、Ag電極が緻密化せず、充分なL、Rdc特性が得られない。
【0007】
また、金属磁性体そのものの低絶縁性を考慮して、絶縁処理を施す必要がある。さらに、信頼性特性の向上も望まれる。
【0008】
これらのことを考慮し、本発明は、透磁率の向上と抵抗絶縁抵抗の向上を図りつつ、高温負荷、耐湿性、吸水性等の信頼性特性を向上させる磁性材料及びコイル部品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような本発明を完成した。
本発明の磁性材料は、Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなる複数の金属粒子と、金属粒子の表面に形成された酸化被膜とを備える。この酸化被膜は軟磁性合金自身の酸化物からなる。磁性材料は、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部および酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部を有する。そして、前記金属粒子の集積により生じた空隙の少なくとも一部には樹脂材料が充填されている。
【0010】
好ましくは、この磁性材料の断面図において観察される、前記金属粒子及び酸化被膜の非存在領域の15%以上の面積の領域に樹脂材料が充填されている。別途好ましくは、上記樹脂材料が、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリケート系樹脂、ウレタン系樹脂、イミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリエチレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる。
【0011】
本発明によれば、上述の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高透磁率、高絶縁抵抗を両立し、吸水性が低く、高信頼性の磁性材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。
【図2】本発明の磁性材料の模式断面図である。
【図3】本発明の磁性材料の一例の外観を示す側面図である。
【図4】本発明のコイル部品の一例の一部を示す透視した側面図である。
【図5】図4のコイル部品の内部構造を示す縦断面図である。
【図6】積層インダクタの外観斜視図である。
【図7】図6のS11−S11線に沿う拡大断面図である。
【図8】図6に示した部品本体の分解図である。
【図9】比較例における磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
本発明によれば、磁性材料は所定の粒子が所定の結合様式で集積されてなる粒子成形体からなる。
本発明において、磁性材料はコイル・インダクタ等の磁性部品における磁路の役割を担う物品であり、典型的にはコイルにおける磁心などの形態をとる。
【0015】
図1は本発明の磁性材料の微細構造を模式的に表す断面図である。本発明において、磁性材料1は、微視的には、もともとは独立していた多数の金属粒子11どうしが結合してなる集合体として把握され、個々の金属粒子11はその周囲の少なくとも一部、好ましくは概ね全体にわたって酸化被膜12が形成されていて、この酸化被膜12により磁性材料1の絶縁性が確保される。隣接する金属粒子11どうしは、主として、それぞれの金属粒子11の周囲にある酸化被膜12どうしが結合することにより、一定の形状を有する磁性材料1を構成している。酸化被膜12どうしの結合22に加えて、部分的には、隣接する金属粒子11の金属部分どうしの結合21が存在している。従来の磁性材料においては、硬化した有機樹脂のマトリクス中に単独の磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものや、硬化したガラス成分のマトリクス中に単独の磁性粒子又は数個程度の磁性粒子の結合体が分散しているものが用いられていた。
【0016】
後述のとおり、磁性材料1には樹脂材料が含まれるが、あくまで、金属粒子間の空隙を埋めるように存在するに過ぎず、磁性材料1を形造る結合要素は上述の2種類の結合21、22である。磁性材料1から樹脂材料の存在する部分を除外したとしても、上述の2種類の結合21、22による連続構造を見出すことができる。本発明では、ガラス成分からなるマトリクスは、実質的に存在しないことが好ましい。
【0017】
個々の金属粒子11は特定の軟磁性合金から主として構成される。本発明では、金属粒子11はFe−Si−M系軟磁性合金からなる。ここで、MはFeより酸化し易い金属元素であり、典型的には、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)などが挙げられ、好ましくは、CrまたはAlである。
【0018】
軟磁性合金がFe−Cr−Si系合金である場合におけるSiの含有率は、好ましくは0.5〜7.0wt%であり、より好ましくは、2.0〜5.0wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であり、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0019】
軟磁性合金がFe−Cr−Si系合金である場合におけるクロムの含有率は、好ましくは2.0〜15wt%であり、より好ましくは、3.0〜6.0wt%である。クロムの存在は、熱処理時に不動態を形成して過剰な酸化を抑制するとともに強度および絶縁抵抗を発現する点で好ましく、一方、磁気特性の向上の観点からはクロムが少ないことが好ましく、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0020】
軟磁性合金がFe−Si−Al系合金である場合におけるSiの含有率は、好ましくは1.5〜12wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であり、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0021】
軟磁性合金がFe−Si−Al系合金である場合におけるアルミニウムの含有率は、好ましくは2.0〜8wt%である。CrとAlの違いは以下のとおりである。
【0022】
なお、軟磁性合金における各金属成分の上記好適含有率については、合金成分の全量を100wt%であるとして記述している。換言すると、上記好適含有量の計算においては酸化被膜の組成は除外している。
【0023】
軟磁性合金がFe−Si−M系合金である場合において、SiおよびM以外の残部は不可避不純物を除いて、鉄であることが好ましい。Fe、SiおよびM以外に含まれていてもよい金属としては、マグネシウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅などが挙げられ、非金属としてはリン、硫黄、カーボンなどが挙げられる。
【0024】
磁性材料1における各々の金属粒子11を構成する合金については、例えば、磁性材料1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影し、その化学組成をエネルギー分散型X線分析(EDS)におけるZAF法で算出することができる。
【0025】
本発明の磁性材料は、上述の所定の軟磁性合金からなる金属粒子を成形して熱処理を施すことにより製造することができる。その際に、好適には、原料となる金属粒子(以下、「原料粒子」とも表記する。)そのものが有していた酸化被膜のみならず、原料の金属粒子においては金属の形態であった部分の一部が酸化して酸化被膜12を形成するように熱処理が施される。このように、本発明においては、酸化被膜12は金属粒子11を構成する合金粒子の酸化物からなり、主として金属粒子11の表面部分が酸化してなるものである。好適態様では、金属粒子11が酸化してなる酸化物以外の酸化物、例えば、シリカやリン酸化合物等は、本発明の磁性材料には含まれない。
【0026】
磁性材料1を構成する個々の金属粒子11にはその周囲の少なくとも一部に酸化被膜12が形成されている。酸化被膜12は磁性材料1を形成する前の原料粒子の段階で形成されていてもよいし、原料粒子の段階では酸化被膜が存在しないか極めて少なく、成形過程において酸化被膜を生成させてもよい。酸化被膜12の存在は、走査型電子顕微鏡(SEM)による3000倍程度の撮影像においてコントラスト(明度)の違いとして認識することができる。酸化被膜12の存在により磁性材料全体としての絶縁性が担保される。
【0027】
好適には、酸化被膜12には、鉄元素よりも金属M元素の方が、モル換算において、より多く含まれる。このような構成の酸化被膜12を得るためには、磁性材料を得るための原料粒子に鉄の酸化物がなるべく少なく含まれるか鉄の酸化物を極力含まれないようにして、磁性材料1を得る過程において加熱処理などにより合金の表面部分を酸化させることなどが挙げられる。このような処理により、鉄よりも酸化しやすい金属Mが選択的に酸化されて、結果として、酸化被膜12に含まれる金属Mのモル比率が相対的に鉄よりも大きくなる。酸化被膜12において鉄元素よりも金属M元素のほうが多く含まれることにより、合金粒子の過剰な酸化を抑制するという利点がある。
【0028】
磁性材料1における酸化被膜12の化学組成を測定する方法は以下のとおりである。まず、磁性材料1を破断するなどしてその断面を露出させる。ついで、イオンミリング等により平滑面を出し走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、酸化被膜12をエネルギー分散型X線分析(EDS)におけるZAF法で化学組成を算出する。
【0029】
酸化被膜12における金属Mの含有量は鉄1モルに対して、好ましくは1.0〜5.0モルであり、より好ましくは1.0〜2.5モルであり、さらに好ましくは1.0〜1.7モルである。前記含有量が多いと過剰な酸化の抑制という点で好ましく、一方、前記含有量が少ないと金属粒子間の焼結という点で好ましい。前記含有量を多くするためには、例えば、弱酸化雰囲気での熱処理をするなどの方法が挙げられ、逆に、前記含有量を多くするためには、例えば、強酸化雰囲気中での熱処理などの方法が挙げられる。
【0030】
磁性材料1においては粒子どうしの結合は主として酸化被膜12どうしの結合22である。酸化被膜12どうしの結合22の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。酸化被膜12どうしの結合22の存在により、機械的強度と絶縁性の向上が図られる。磁性材料1全体にわたり、隣接する金属粒子11が有する酸化被膜12どうしが結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。好適には、磁性材料1に含まれる金属粒子11の数と同数またはそれ以上の、酸化被膜12どうしの結合22が存在する。また、後述するように、部分的には、酸化被膜12どうしの結合を介さずに、金属粒子11どうしの結合21も存在していてもよい。さらに、隣接する金属粒子11が、酸化被膜12どうしの結合も、金属粒子11どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態(図示せず)が部分的にあってもよい。
【0031】
酸化被膜12どうしの結合22を生じさせるためには、例えば、磁性材料1の製造の際に酸素が存在する雰囲気下(例、空気中)で後述する所定の温度にて熱処理を加えることなどが挙げられる。
【0032】
本発明によれば、磁性材料1において、酸化被膜12どうしの結合22のみならず、金属粒子11どうしの結合21が存在する。上述の酸化被膜12どうしの結合22の場合と同様に、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する金属粒子11どうしが同一相を保ちつつ結合点を有することを視認することなどにより、金属粒子11どうしの結合21の存在を明確に判断することができる。金属粒子11どうしの結合21の存在により透磁率のさらなる向上が図られる。
【0033】
金属粒子11どうしの結合21を生成させるためには、例えば、原料粒子として酸化被膜が少ない粒子を用いたり、磁性材料1を製造するための熱処理において温度や酸素分圧を後述するように調節したり、原料粒子から磁性材料1を得る際の成形密度を調節することなどが挙げられる。熱処理における温度については金属粒子11どうしが結合し、かつ、酸化物が生成しにくい程度を提案することができる。具体的な好適温度範囲については後述する。酸素分圧については、例えば、空気中における酸素分圧でもよく、酸素分圧が低いほど酸化物が生成しにくく、結果的に金属粒子11どうしの結合が生じやすい。
【0034】
本発明の磁性材料は、所定の合金からなる金属粒子を成形することにより製造することができる。その際に、隣接する金属粒子どうしが主として酸化被膜を介して結合し、そして、部分的に酸化被膜を介さずに結合することにより全体として所望の形状の粒子成形体を得ることができる。
【0035】
本発明の磁性材料の製造において原料として用いる金属粒子(原料粒子)は、好適には、Fe−M−Si系合金、より好ましくはFe−Cr−Si系合金からなる粒子を用いる。原料粒子の合金組成は、最終的に得られる磁性材料における合金組成に反映される。よって、最終的に得ようとする磁性材料の合金組成に応じて、原料粒子の合金組成を適宜選択することができ、その好適な組成範囲は上述した磁性材料の好適な組成範囲と同じである。個々の原料粒子は酸化被膜で覆われていてもよい。換言すると、個々の原料粒子は、中心部分にある所定の軟磁性合金と、その周囲の少なくとも一部にある当該軟磁性合金が酸化してなる酸化被膜とから構成されていてもよい。
【0036】
個々の原料粒子のサイズは最終的に得られる磁性材料における磁性材料1を構成する粒子のサイズと実質的に等しくなる。原料粒子のサイズとしては、透磁率と粒内渦電流損を考慮すると、d50が好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは2〜20μmであり、d50のさらに好適な下限値は5μmである。原料粒子のd50はレーザー回折・散乱による測定装置により測定することができる。
【0037】
原料粒子は例えばアトマイズ法で製造される粒子である。上述のとおり、磁性材料1には酸化被膜12を介しての結合部22のみならず、金属粒子11どうしの結合部21も存在する。そのため、原料粒子には酸化被膜が存在してもよいが過剰には存在しない方がよい。アトマイズ法により製造される粒子は酸化被膜が比較的に少ない点で好ましい。原料粒子における合金からなるコアと酸化被膜との比率は以下のように定量化することができる。原料粒子をXPSで分析して、Feのピーク強度に着目し、Feが金属状態として存在するピーク(706.9eV)の積分値FeMetalと、Feが酸化物の状態として存在するピークの積分値FeOxideとを求め、FeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出することにより定量化する。ここで、FeOxideの算出においては、Fe(710.9eV)、FeO(709.6eV)およびFe(710.7eV)の三種の酸化物の結合エネルギーを中心とした正規分布の重ねあわせとして実測データと一致するようにフィッティングを行う。その結果、ピーク分離された積分面積の和としてFeOxideを算出する。熱処理時に合金どうしの結合部21を生じさせやすくすることによって結果として透磁率を高める観点からは、前記値は好ましくは0.2以上である。前記値の上限値は特に限定されず、製造のしやすさなどの観点から、例えば0.6などが挙げられ、好ましくは上限値は0.3である。前記値を上昇させる手段として、還元雰囲気での熱処理に供したり、酸による表面酸化層の除去などの化学処理等に供することなどが挙げられる。還元処理としては、例えば、窒素中に又はアルゴン中に25〜35%の水素を含む雰囲気下で750〜850℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。酸化処理としては、例えば、空気中で400〜600℃、0.5〜1.5時間保持することなどが挙げられる。
【0038】
上述したような原料粒子は合金粒子製造の公知の方法を採用してもよいし、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF20−F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlなどとして市販されているものを用いることもできる。市販品については上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)の値について考慮されていない可能性が極めて高いので、原料粒子を選別したり、上述した熱処理や化学処理などの前処理を施すことも好ましい。
【0039】
原料粒子から成形体を得る方法については特に限定なく、磁性材料製造における公知の手段を適宜取り入れることができる。以下、典型的な製造方法として原料粒子を非加熱条件下で成形した後に加熱処理に供する方法を説明する。本発明ではこの製法に限定されない。
【0040】
原料粒子を非加熱条件下で成形する際には、バインダとして有機樹脂を加えることが好ましい。有機樹脂としては熱分解温度が500℃以下であるPVA樹脂、ブチラール樹脂、ビニル樹脂などからなるものを用いることが、熱処理後にバインダが残りにくくなる点で好ましい。成形の際には、公知の潤滑剤を加えてもよい。潤滑剤としては、有機酸塩などが挙げられ、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。潤滑剤の量は原料粒子100重量部に対して好ましくは0〜1.5重量部であり、より好ましくは0.1〜1.0重量部であり、さらに好ましくは0.15〜0.45重量部であり、特に好ましくは0.15〜0.25重量部である。潤滑剤の量がゼロとは、潤滑剤を使用しないことを意味する。原料粒子に対して任意的にバインダ及び/又は潤滑剤を加えて攪拌した後に、所望の形状に成形する。成形の際には例えば2〜20ton/cmの圧力をかけることなどや、成形温度を例えば20〜120℃にすることなどが挙げられる。
【0041】
熱処理の好ましい態様について説明する。
熱処理は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。より具体的には、加熱中の酸素濃度は好ましくは1%以上であり、これにより、酸化被膜どうしの結合22および金属どうしの結合21が両方とも生成しやすくなる。酸素濃度の上限は特に定められるものではないが、製造コスト等を考慮して空気中の酸素濃度(約21%)を挙げることができる。加熱温度については、酸化被膜12を生成して酸化被膜12どうしの結合を生成させやすくする観点からは好ましくは600℃以上であり、酸化を適度に抑制して金属どうしの結合21の存在を維持して透磁率を高める観点からは好ましくは900℃以下である。加熱温度はより好ましくは700〜800℃である。酸化被膜12どうしの結合22および金属どうしの結合21を両方とも生成させやすくする観点からは、加熱時間は好ましくは0.5〜3時間である。酸化被膜12を介した結合および金属粒子どうしの結合21が生じるメカニズムは、例えば600℃程度より高温域における、いわゆるセラミックスの焼結と似たようなメカニズムであると考察される。すなわち、本発明者らの新知見によれば、この熱処理においては、(A)酸化被膜が十分に酸化雰囲気に接するとともに金属元素が金属粒子から随時供給されることにより酸化被膜自体が成長すること、ならびに、(B)隣接する酸化被膜どうしが直接接して酸化被膜を構成する物質が相互拡散すること、が重要である。よって、600℃以上の高温域において残存し得る熱硬化性樹脂やシリコーンなどは熱処理の際に実質的に存在しないことが好ましい。
【0042】
得られた磁性材料1には、その内部に空隙30が存在する。この空隙30の少なくとも一部に樹脂材料が充填される。樹脂材料の充填に際しては、例えば、液体状態の樹脂材料や樹脂材料の溶液などといった、樹脂材料の液状物に磁性材料1を浸漬して製造系の圧力を下げたり、上述の樹脂材料の液状物を磁性材料1に塗布して表面近傍の空隙30に染みこませるなどの手段が挙げられる。磁性材料1の空隙30に樹脂材料31を充填させることにより、強度の増加や吸湿性の抑制という利点があり、具体的には、高湿下において水分が磁性材料内に入りにくくなるため、絶縁抵抗が下がりにくくなる。樹脂材料31としては、有機樹脂や、シリコーン樹脂などを特に限定なく挙げることができ、好ましくはシリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリケート系樹脂、ウレタン系樹脂、イミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリエチレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる。
【0043】
好適には、磁性材料内に生じる空隙の所定割合以上を占めるように樹脂材料が充填される。樹脂材料の充填の程度は、測定対象の積層インダクタの鏡面研磨、イオンミリング(CP)の実施、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により定量化する。具体的には、以下のようにして行う。まず、積層体の中心を通り、厚さ方向の断面が露出するように測定対象物を研磨する。得られた断面の製品中央付近を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて3000倍で撮影して、2次電子像と組成像を得る。図2は得られる像の模式図である。観察像では、構成元素の違いにより、組成像にコントラスト(明度)の違いが生じる。明度の高い順に、金属粒子11、酸化被膜(図示せず)、樹脂材料の充填部31、空隙30として同定される。観察像において、金属粒子11および酸化被膜樹の非存在領域に相当する面積に対する、空隙30の面積を算出の割合を算出し、この割合を空隙率と定義する。そして、樹脂充填率(%)を(100−空隙率)として算出する。本発明の効果をより実効あらしめる観点から樹脂充填率は好ましくは15%以上である。
【0044】
本発明によれば、このような磁性材料1からなる磁性材料を種々の電子部品の構成要素として用いることができる。例えば、本発明の磁性材料をコアとして用いてその周囲に絶縁被覆導線を巻くことによりコイルを形成してもよい。あるいは、上述の原料粒子を含むグリーンシートを公知の方法で形成し、そこに所定パターンの導体ペーストを印刷等により形成した後に、印刷済みのグリーンシートを積層して加圧することにより成形し、次いで、上述の条件で熱処理を施すことで、粒子成形体からなる本発明の磁性材料の内部にコイルを形成してなるインダクタ(コイル部品)を得ることもできる。その他、本発明の磁性材料を用いて、その内部または表面にコイルを形成することによって種々のコイル部品を得ることができる。コイル部品は表面実装タイプやスルーホール実装タイプなど各種の実装形態のものであってよく、それら実装形態のコイル部品を構成する手段を含めて、磁性材料からコイル部品を得る手段については、電子部品の分野における公知の製造手法を適宜取り入れることができる。例えば、コイル部品が積層インダクタである形態の例については後述の実施例において紹介される。
【0045】
コイル部品の一例を示す。図3は、本発明による磁性材料の一例の外観を示す側面図である。図4は、コイル部品の一例の一部を示す透視した側面図である。図5は、図4のコイル部品の内部構造を示す縦断面図である。図3に示す磁性材料110は、巻線型チップインダクタのコイルを巻回するための磁心として用いられるものである。ドラム型の磁心111は、回路基板等の実装面に並行に配設されコイルを巻回するための板状の巻芯部111aと、巻芯部111aの互いに対向する端部にそれぞれ配設された一対の鍔部111bを備え、外観はドラム型を呈する。コイルの端部は、鍔部111bの表面に形成された外部導体膜114に電気的に接続されている。
【0046】
このコイル部品としての巻線型チップインダクタ120は、上述の磁心111と図示省略した一対の板状磁心112を有する。この磁心111および板状磁心112は本発明の磁性材料110からなる。板状磁心112は磁心111の両鍔部111b、111b間をそれぞれ連結する。磁心111の鍔部111bの実装面には一対の外部導体膜114がそれぞれ形成されている。また、磁心111の巻芯部111aには絶縁被覆導線からなるコイル115が巻回されて巻回部115aが形成されるとともに、両端部115bが鍔部111bの実装面の外部導体膜114にそれぞれ熱圧着接合されている。外部導体膜114は、磁性材料110の表面に形成された焼付導体層114aと、この焼付導体層114a上に積層形成されたNiメッキ層114b、およびSnメッキ層114cを備える。上述した板状磁心112は、樹脂系接着剤により上記磁心111の鍔部111b、111bに接着されている。外部導体膜114は、磁性材料110の表面に形成されており、外部導体膜114に磁心の端部が接続されている。外部導体膜114は、銀にガラスを添加したペーストを、所定の温度で磁性材料110へ焼き付けてなるものである。
【0047】
このコイル部品製造の際に、好ましくはコイル115の巻回に先立って、磁心111における磁性材料の空隙に樹脂材料が充填される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
[実施例1〜6]
【0049】
(原料粒子)
アトマイズ法で製造されたCr4.5wt%、Si3.5wt%、残部Feの組成をもち、平均粒径d50が6μmである市販の合金粉末を原料粒子として用いた。この合金粉末の集合体表面をXPSで分析し、上述のFeMetal/(FeMetal+FeOxide)を算出したところ、0.25であった。
【0050】
この実施例では、コイル部品としての積層インダクタを製造した。
図6は、積層インダクタの外観斜視図である。図7は、図6のS11−S11線に沿う拡大断面図である。図8は、図6に示した部品本体の分解図である。この実施例で製造した積層インダクタ210は、図6において、長さLが約3.2mmで、幅Wが約1.6mmで、高さHが約0.8mmで、全体が直方体形状を成している。この積層インダクタ210は、直方体形状の部品本体211と、該部品本体211の長さ方向の両端部に設けられた1対の外部端子214及び215とを有している。部品本体211は、図7に示したように、直方体形状の磁性体部212と、該磁性体部212によって覆われた螺旋状のコイル部213とを有しており、該コイル部213の一端は外部端子214に接続し他端は外部端子215に接続している。磁性体部212は、図8に示したように、計20層の磁性体層ML1〜ML6が一体化した構造を有し、長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約0.8mmである。各磁性体層ML1〜ML6の長さは約3.2mmで、幅は約1.6mmで、厚さは約40μmである。コイル部213は、計5個のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する計4個の中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化した構造を有し、その巻き数は約3.5である。このコイル部213は、d50が5μmのAg粒子を原料とする。
【0051】
4個のコイルセグメントCS1〜CS4はコ字状を成し、1個のコイルセグメントCS5は帯状を成しており、各コイルセグメントCS1〜CS5の厚さは約20μmで、幅は約0.2mmである。最上位のコイルセグメントCS1は、外部端子214との接続に利用されるL字状の引出部分LS1を連続して有し、最下位のコイルセグメントCS5は、外部端子15との接続に利用されるL字状の引出部分LS2を連続して有している。各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通した柱状を成しており、各々の口径は約15μmである。各外部端子214及び215は、部品本体211の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に及んでおり、その厚さは約20μmである。一方の外部端子214は最上位のコイルセグメントCS1の引出部分LS1の端縁と接続し、他方の外部端子215は最下位のコイルセグメントCS5の引出部分LS2の端縁と接続している。この各外部端子214及び215は、d50が5μmのAg粒子を原料とする。
【0052】
積層インダクタ210の製造に際しては、ドクターブレードを塗工機として用いて、予め用意した磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルム(図示省略)の表面に塗工し、これを熱風乾燥機を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、磁性体層ML1〜ML6(図8を参照)に対応し、且つ、多数個取りに適合したサイズの第1〜第6シートをそれぞれ作製した。磁性体ペーストとしては、上記原料粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%である。続いて、打ち抜き加工機を用いて、磁性体層ML1に対応する第1シートに穿孔を行い、中継セグメントIS1に対応する貫通孔を所定配列で形成した。同様に、磁性体層ML2〜ML4に対応する第2〜第4シートそれぞれに、中継セグメントIS2〜IS4に対応する貫通孔を所定配列で形成した。
【0053】
続いて、スクリーン印刷機を用いて、予め用意した導体ペーストを磁性体層ML1に対応する第1シートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等を用いて、約80℃、約5minの条件で乾燥して、コイルセグメントCS1に対応する第1印刷層を所定配列で作製した。同様に、磁性体層ML2〜ML5に対応する第2〜第5シートそれぞれの表面に、コイルセグメントCS2〜CS5に対応する第2〜第5印刷層を所定配列で作製した。導体ペーストの組成は、Ag原料が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%である。磁性体層ML1〜ML4に対応する第1〜第4シートそれぞれに形成した所定配列の貫通孔は、所定配列の第1〜第4印刷層それぞれの端部に重なる位置に存するため、第1〜第4印刷層を印刷する際に導体ペーストの一部が各貫通孔に充填させて、中継セグメントIS1〜IS4に対応する第1〜第4充填部を形成した。
【0054】
続いて、吸着搬送機とプレス機(何れも図示省略)を用いて、印刷層及び充填部が設けられた第1〜第4シート(磁性体層ML1〜ML4に対応)と、印刷層のみが設けられた第5シート(磁性体層ML5に対応)と、印刷層及び充填部が設けられていない第6シート(磁性体層ML6に対応)を、図8に示した順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製した。続いて、ダイシング機を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して、加熱処理前チップ(加熱処理前の磁性体部及びコイル部を含む)を作製した。続いて、焼成炉等を用いて、大気の雰囲気下で加熱処理前チップを多数個一括で加熱処理した。この加熱処理は脱バインダプロセスと酸化物膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは約300℃、約1hrの条件で実行され、酸化物膜形成プロセスは約750℃、約2hrの条件で実行した。続いて、ディップ塗布機を用いて、上述の導体ペーストを部品本体211の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉を用いて、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行い、該焼付け処理によって溶剤及びバインダの消失とAg粒子群の焼結を行って、外部端子214及び215を作製した。
【0055】
次いで、各樹脂材料を含む溶液に得られた積層インダクタを浸漬することにより、樹脂材料を空隙に充填し、その後、150℃にて60分間熱処理することにより、樹脂材料を硬化させた。樹脂材料の種類と充填の程度は表1のとおりである。充填の程度のコントロールは樹脂の希釈濃度および粘度調整により行った。表1における「シリコーン系」は下記(1)の基本構造を、「エポキシ系」は下記(2)の基本構造をそれぞれ有する樹脂である。
【0056】
【化1】

【0057】
得られた積層インダクタの断面のSEM観察(3000倍)により、軟磁性合金からなる金属粒子の表面に形成された酸化被膜を介しての結合部と、酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部と、が存在することを確認した。
【0058】
[比較例1]
樹脂材料の充填を行わなかったことを除いて、実施例と同様に積層インダクタを製造した。図6は比較例の磁性材料層の模式断面図である。この磁性材料2では、金属粒子11および酸化被膜12の非存在領域には樹脂材料が充填されず、空隙30になっている。
【0059】
[評価]
各実施例、比較例の積層インダクタについて、L=1.0uH、Q(1MHz)=30、Rdc=0.1Ωにおいて、以下の信頼性試験に供した。(n=100)
(1)高温負荷試験:85℃、0.8A印加、1000時間
(2)加速負荷試験:85℃、1.2A印加、300時間
(3)耐湿負荷試験:60℃、湿度95%、0.8A印加、300時間
各試験終了後、LもしくはQが初期値の70%以下に低下したものを不良とした。
【0060】
さらに、各実施例、比較例の積層インダクタについて、磁性材料部分の吸水率を以下のように測定した。吸水率は、沸騰水中に本試料を3時間浸せきさせたときの吸水質量と全乾質量との差を全乾質量で除して求めた。表1に製造条件、不良発生率および吸水率の測定結果をまとめる。
【0061】
【表1】

【0062】
上記のとおり、樹脂を充填した実施例については吸水率が低く、信頼性向上が認められ、特に、充填率が15%以上のものについてその効果が顕著であった。
【符号の説明】
【0063】
1、2:磁性材料、11:金属粒子、12:酸化被膜、21:金属粒子どうしの結合部、22:酸化被膜を介しての結合部、30:空隙、31:高分子樹脂、110:磁性材料、111、112:磁心、114:外部導体膜、115:コイル、210:積層インダクタ、211:部品本体、212:磁性体部、213:コイル部、214、215:外部端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Si−M系軟磁性合金(但し、MはFeより酸化し易い金属元素である。)からなる複数の金属粒子と、前記金属粒子の表面に形成された前記軟磁性合金の酸化物からなる酸化被膜とを備え、隣接する金属粒子表面に形成された酸化被膜を介しての結合部および酸化被膜が存在しない部分における金属粒子どうしの結合部を有し、前記金属粒子の集積により生じた空隙の少なくとも一部には樹脂材料が充填されている、磁性材料。
【請求項2】
当該磁性材料の断面図において観察される、前記金属粒子及び酸化被膜の非存在領域の15%以上の面積の領域に樹脂材料が充填されている、請求項1記載の磁性材料。
【請求項3】
前記樹脂材料が、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリケート系樹脂、ウレタン系樹脂、イミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂およびポリエチレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1又は2記載の磁性材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性材料と、前記磁性材料の内部または表面に形成されたコイルと、を備えるコイル部品。

【図1】
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【図7】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−238841(P2012−238841A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−68445(P2012−68445)
【出願日】平成24年3月23日(2012.3.23)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】