説明

磁性材料解析装置、磁性材料解析方法、及びコンピュータプログラム

【課題】 電気機器に用いられる軟磁性材料の最適な形状を、応力による影響を考慮した当該軟磁性材料の鉄損に基づいて決定するに際し、当該鉄損を高速に且つ精度良く求める。
【解決手段】 各微小領域sにおける「磁束密度ベクトルB」を、応力σが0のB−H曲線に基づいて計算する。次に、各微小領域sにおける「相当応力σξ」を計算する。次に、各微小領域sにおける磁束密度ベクトルBの大きさB0に対応する「磁界の大きさH0」を、応力σが0のB−H曲線に基づいて求める。次に、応力σが相当応力σξであるときのB−H曲線において、磁界の大きさがH0のときの各微小領域sの磁束密度ベクトルBの大きさB1を、「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」として求める。次に、各微小領域sにおける磁束密度の大きさB1からステータコア801の鉄損Wを計算する。このような計算を、中心角γを異ならせて行い、ステータコアの最適な形状を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料解析装置、磁性材料解析方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、電気機器に用いられる軟磁性材料の最適な形状を解析するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
環境問題に対する意識の高まりにより、受配電に使用される変圧器や、空調機・ハイブリット自動車に使用されるモータ等、軟磁性材料を用いて構成される電気機器に対し、鉄損や銅損に代表される損失を低減することの要求が高まっている。軟磁性材料として実用上多く使用されている電磁鋼板は、その圧延方向からの磁束密度の角度や、鋼板内に作用する応力の影響により、励磁特性や鉄損特性といった磁気特性が変化する。角度による磁気特性の変化のことを磁気異方性と呼ぶ。以下では、このような角度による磁気異方性を単に異方性と呼ぶことにする。また、圧粉磁心やアモルファスなど、その他の軟磁性材料の部材においても、当該部材内に作用する応力の影響により磁気特性が変化することや、鋳造方向からの角度により磁気特性が変化する(異方性を有する)ことが知られている。このため、変圧器やモータ等の電気機器の性能を高精度に予測するためには、電気機器に使用している軟磁性材料の異方性や応力の影響による磁気特性の変化を考慮することが望まれる。
【0003】
そこで、従来から、マックスウェル方程式に基づく電磁場解析が、電磁鋼板等の軟磁性材料の鉄損の評価に用いられてきた。以下では、軟磁性材料を代表して、電磁鋼板を例に電磁場解析の手順を示す。非特許文献1に示されるように、電磁場解析には、コンピュータが使用され、電磁鋼板の形状、電磁場の計算のために分割された微小領域の大きさ、磁界の大きさHに対する磁束密度の大きさBのデータ(B−H曲線)、励磁電流の大きさ及び周波数等が、コンピュータによる計算の解を求めるための物理量パラメータ条件として採用される。すなわち、これらの条件を考慮に入れて、マックスウェル方程式の数値解が得られる。そして、マックスウェル方程式の数値解である磁束密度ベクトルから磁束密度の大きさBを求め、この磁束密度の大きさBを、磁束密度の大きさBに対応して測定された鉄損Wのデータ(B−W曲線)に与えることにより鉄損が求められる。
【0004】
ところで、前述したように、圧延方向からの角度や応力の影響により、励磁特性や鉄損特性が変化するので、これらを考慮に入れて鉄損を計算することが望まれる。一方で、鉄損が小さくなるような電磁鋼板の最適な形状を出来るだけ短時間で計算することも望まれる。
そこで、特許文献1には、次のような技術が開示されている。すなわち、まず、解析対象の電磁鋼板の領域を、複数の応力計算用微小領域に分割し、電磁鋼板の形状に係るパラメータ等に基づいて、各応力計算用微小領域に生じる応力を、有限要素法等を用いて解析する。また、解析対象の電磁鋼板の領域を、複数の磁束密度計算用微小領域に分割し、B−H曲線等に基づいて、各磁束密度計算用微小領域に生じる磁束密度を、有限要素法等を用いて解析する。
【0005】
その後、各応力計算用微小領域に生じる応力と、各磁束密度計算用微小領域に生じる磁束密度とに基づいて、各磁束密度計算用微小領域における磁束密度の方向の応力を求める。そして、各磁束密度計算用微小領域における磁束密度と、各磁束密度計算用微小領域における磁束密度方向の応力とを、応力毎に設定されたB−W曲線に適用して、各磁束密度計算用微小領域の鉄損を求め、それらの総和から電気機器に使用される電磁鋼板の鉄損を求める。そして、鉄損を低減すべく、電磁鋼板の形状に係るパラメータを変更し、変更したパラメータに基づいて、応力の解析を繰り返し行う。ここで、磁束密度については1回だけ求め、鉄損を計算する際には、求めた磁束密度を繰り返し使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−52914号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中田高義、高橋則雄、「電気工学の有限要素法」、第2版、森北出版株式会社、1986年4月
【非特許文献2】社団法人日本塑性加工学会編、「非線形有限要素法 −線形弾性解析から塑性加工解析まで」、株式会社コロナ社、1994年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、磁束密度を求めるに際し、電磁鋼板に加わる応力が0であるときのB−H曲線を使用している。このため、電磁鋼板に加わる応力の影響を考慮して磁束密度を求めていない。したがって、磁束密度を正確に求めることができず、磁束密度から求められる鉄損を正確に求めることができなくなる虞があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、電気機器に用いられる軟磁性材料の最適な形状を、異方性や応力による影響を考慮した当該軟磁性材料の鉄損に基づいて決定するに際し、当該鉄損を高速に且つ精度良く求めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁性材料解析装置は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算手段と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算手段と、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算手段により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正手段と、前記磁束密度補正手段により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算手段と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更手段と、前記鉄損計算手段による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定手段と、を有し、前記パラメータ変更手段により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、前記応力計算手段は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、前記磁束密度補正手段は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算手段により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、前記鉄損計算手段は、前記磁束密度補正手段により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とする。
【0010】
本発明の磁性材料解析方法は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算工程と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算工程と、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正工程と、前記磁束密度補正工程により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算工程と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更工程と、前記鉄損計算工程による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定工程と、を有し、前記パラメータ変更工程により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、前記応力計算工程は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、前記磁束密度補正工程は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、前記鉄損計算工程は、前記磁束密度補正工程により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とする。
【0011】
本発明のコンピュータプログラムは、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算工程と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算工程と、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正工程と、前記磁束密度補正工程により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算工程と、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更工程と、前記鉄損計算工程による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定工程と、をコンピュータに実行させ、前記パラメータ変更工程により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、前記応力計算工程は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、前記磁束密度補正工程は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、前記鉄損計算工程は、前記磁束密度補正工程により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度を、当該軟磁性材料の応力に対応する磁束密度に補正し、補正した磁束密度を用いて鉄損を求めるようにした。したがって、軟磁性材料の鉄損を高速に且つ精度良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示し、磁性材料解析装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態を示し、磁束密度計算用微小領域の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示し、磁束密度ベクトルと磁界ベクトルとの関係の一例を概念的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態を示し、B−H曲線の一例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示し、B−θBH曲線の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示し、相当応力に対応する磁束密度の大きさを求める方法の一例を説明する図である。
【図7】本発明の実施形態を示し、B−W曲線の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示し、中心角の一例を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態を示し、磁性材料解析装置の動作の一例を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態を示し、図9のステップS2の処理の詳細を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態の実施例を示し、鉄損比及び保持力比の計算結果を示す図である。
【図12】本発明の実施形態の実施例を示し、鉄損比の最適値を示す図である。
【図13】本発明の実施形態の変形例を示し、磁束密度と時間との関係の一例を示す図である。
【図14】本発明の実施形態の変形例を示し、変形例2におけるステータコアの形状の第1の例を示す図である。
【図15】本発明の実施形態の変形例を示し、変形例2におけるステータコアの形状の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、本実施形態では、磁性材料解析装置100は、モータのステータコア(固定子)の最適な形状を解析する場合を例に挙げて説明する。ここで、このステータコアは、軟磁性材料の一例である電磁鋼板を積層することにより形成されるものであるとする。さらに、ステータコアを固定する方法として焼嵌めを採用するものとし、この焼嵌めによりステータコア内に発生する応力の影響を考慮して鉄損を算出するものとする。
図1は、磁性材料解析装置100の機能的な構成の一例を示す図である。磁性材料解析装置100は、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、キーボードやマウスからなるユーザインターフェース、及びデータ入出力制御装置等を有しており、例えばPC(Personal Computer)で実現することができる。
【0015】
(微小領域分割部101)
微小領域分割部101は、解析対象となる「電磁鋼板の領域」を、例えば格子状の複数の磁束密度計算用微小領域(所謂メッシュ)に分割する。
図2は、磁束密度計算用微小領域の一例を概念的に示す図である。図2に示す例では、電磁鋼板は、1、2、3、・・・、i、i+1、i+2、・・・、j、j+1、j+2、・・・、nの磁束密度計算用微小領域に分割される。
本実施形態では、有限要素法を用いて解析対象の各磁束密度計算用微小領域の磁束密度を求める。ここで、図2に示すようにして分割された各磁束密度計算用微小領域の内部においては、透磁率μ[H/m]及び磁気抵抗率ν(=1/μ)は一定の値であるとする。このようにすれば、有限要素法において、各磁束密度計算用微小領域間の境界では不連続であっても、磁束密度計算用領域内では一様なパラメータをもっていると考えることができる。したがって、異方性・応力の影響や、磁界に対する磁束密度の非直線性を有する電磁鋼板の鉄損の計算においても、予め計算された各磁束密度計算用微小領域の鉄損の総和を求めることによって、解析対象の全体の鉄損を容易に計算することができる。すなわち、解析対象の全体の鉄損W[W]は、以下の(1)式で表される。
【0016】
【数1】

【0017】
ここで、wsは、磁束密度計算用微小領域s(s=1、2、3、・・・、i、i+1、i+2、・・・、j、j+1、j+2、・・・、n)内の鉄損である。また、図2において、磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ΔBsの大きさと、当該磁束密度の圧延方向からの角度θは、磁束密度計算用微小領域sによって異なる(ただし、同じ場合もあり得る)。鉄損Wは、磁束密度Bの大きさが大きい程、大きな値をとるが、鉄損Wと磁束密度Bとの関係は、必ずしも直線関係になるわけではない。また、前述したように、磁束密度計算用微小領域sは、有限要素法が適用されることを前提にしたものとしている。しかしながら、有限要素法以外の方法(例えば差分法)を用いても各磁束密度計算用微小領域の磁束密度を求めることができる。
微小領域分割部101は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより、ユーザによる指示に基づいて、解析対象となる「電磁鋼板の領域」に対して磁束密度計算用微小領域sを設定し、その情報(例えば、大きさ・位置・分割の方法等)をRAM等に記憶することにより実現できる。
【0018】
(磁束密度ベクトル計算部102)
磁束密度ベクトル計算部102は、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度の大きさと、当該磁束密度の圧延方向からの角度θとを計算する。前述したように、本実施形態では、マックスウェルの方程式に基づいて、有限要素法を用いて、これらの計算を行う。以下に、磁束密度ベクトル計算部102が行う処理の一例を説明する。尚、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度を計算することができれば、以下に示す以外の方法で計算してもよい。尚、本実施形態では、時間の経過に伴い磁束密度の値が正弦波状に変化する(すなわち、磁束密度に含まれる周波数は単一である)と仮定して説明を行う。
【0019】
まず、磁束密度ベクトル計算部102は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(2)に示す3つの変数の初期値を設定する。ここで、Aは、磁束密度のベクトルポテンシャルであり、νは、磁気抵抗率であり、Bは、磁束密度である。また、ベクトルポテンシャルAと、∂ν/∂B2は、時間t=0の場合には、以下の(3)式で表され、時間t>0の場合には、以下の(4)式で表される。(4)式に示すように、時間t>0の場合には、一つ前の時間の値を、A、∂ν/∂B2として用いる。
【0020】
【数2】

【0021】
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、収束計算回数kを1に設定する。尚、(3)式、(4)式におけるkは、この収束計算回数であり、この収束計算回数kの初期値としては0が設定されるものとする。
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、変数A、ν、∂ν/∂B2に基づいて、剛性マトリクス[K](=[∂2χ/∂Ai∂Aj])と、荷重ベクトル[F](=[∂χ/∂A1,・・・,∂χ/∂Anu])を計算する。これにより、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(5)式、(6)式に基づいて、δA(k,t)を計算する。
【0022】
【数3】

【0023】
ここで、(5)式について説明する。
まず、ベクトルポテンシャルAを用いて励磁電流密度J0[A/m2]を表すと、以下の(7)式が得られる。尚、励磁電流密度J0は、励磁条件として、磁束密度ベクトル計算部102に入力されるものである。
【0024】
【数4】

【0025】
磁気抵抗率νをテンソル表示し、(7)式を二次元場の式で表すと、以下の(8)式が得られ、これに対応した汎関数χは以下の(9)式で与えられる。
【0026】
【数5】

【0027】
(8)式及び(9)式において、x、yは、磁束密度ベクトルを計算する座標系(以下の説明では、この座標系を必要に応じて「全体座標系」と称する)のx軸とy軸を示すものである。
電磁場解析における汎関数はエネルギーを表す式に等しいので、汎関数χが最小となる条件が実在の物理状態を表すと考えられる。すなわち、汎関数χにおける任意の節点i(磁束密度計算用微小領域sにおける節点)でのベクトルポテンシャルAiの偏微分が0(ゼロ)となるので、以下の(10)式が有限要素法で解くべき方程式となる。
【数6】

【0028】
(10)式において、nuは、未知節点の総数である。ニュートンラプソン法を適用するために(10)式を書きなおすと、前述した(5)式が得られる。
【0029】
δA(k,t)を計算すると、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(11)式により、収束計算回数がk+1回目での節点iでのベクトルポテンシャルの近似解A(k+1)を計算する。
【0030】
【数7】

【0031】
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(12)式により、時間tにおける磁束密度ベクトルB(t)を求める。
【0032】
【数8】

【0033】
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(13)式に従う収束判定条件を満足するか否かを判定する。
【0034】
【数9】

【0035】
(13)式において、εは、予め設定されている定数である。
図3は、磁束密度ベクトルと磁界ベクトルとの関係の一例を概念的に示す図である。
図3において、磁束密度ベクトルBと電磁鋼板の圧延方向RD(rolling direction)とのなす角度をθ[°]とし、磁束密度ベクトルBと磁界ベクトルHとのなす角度(位相差)をθBH[°]とする。また、TD(transversal direction)は、圧延方向RDに直角な方向を示す。このように磁束密度ベクトルBと磁界ベクトルHとは方向が異なる場合がある。また、図4は、B−H曲線(磁束密度の大きさBに対する、磁界の大きさHのデータ)の一例を示す図であり、図5は、B−θBH曲線(磁束密度の大きさBに対する、磁束密度ベクトルBと磁界ベクトルHとの位相差θBHの大きさのデータ)の一例を示す図である。このように、電磁鋼板の材料特性において、圧延方向とのなす角度θによりB−H曲線およびB−θBH曲線は異なる(異方性を有する)場合がある。
【0036】
そこで、本実施形態では、データ記憶部112に、角度θ毎のB−H曲線と、角度θ毎のB−θBH曲線とを記憶しておく。これらの曲線は、解析対象の電磁鋼板と同種のものについて、予め実験を行って求めることができる。
尚、図4に示すように、B−H曲線は、磁束密度ベクトルBと圧延方向とのなす角度θだけでなく、磁束密度ベクトルBの方向における応力σ(の大きさ)にも対応しているが、磁束密度ベクトル計算部102は、この応力σ[MPa]が0(ゼロ)のB−H曲線だけを使用する。また、B−θBH曲線は、応力σが0(ゼロ)であるときのものである。
磁束密度ベクトル計算部102は、(13)式に従う収束判定条件を満足しない場合、計算した磁束密度ベクトルBから、以下の(14)式、(15)式により、最大値Bmax(k,t)と角度θ(k,t)とを求める。
【0037】
【数10】

【0038】
次に、磁束密度ベクトル計算部102は、角度θ(k,t)に対応する(応力σが0の)B−H曲線をデータ記憶部112から読み出す。このとき、角度θ(k,t)に対応するB−H曲線がない場合、磁束密度ベクトル計算部102は、例えば、データ記憶部112に記憶されている求めたい角度θ(k,t)より小さい角度θ1(k,t)およびそれより大きい角度θ2(k,t)のB−H曲線から内挿近似によって級数展開するなどの補間処理を行うことにより、角度θ(k,t)に対応するB−H曲線を求める。そして、磁束密度ベクトル計算部102は、得られたB−H曲線に最大値Bmax(k,t)を与えて、磁界ベクトルHを求める。ここで、磁束密度ベクトルBと圧延方向とのなす角度θによる、磁束密度の大きさBと磁界の大きさHとの関係の変化(異方性)が無視できるほど小さい場合には、上述のように、角度θに対応するB−H曲線を用いる代わりに、角度θによらないB−H曲線をデータ記憶部112に記憶しておき、このB−H曲線を用いて、磁界ベクトルHを求めればよい。
【0039】
また、磁束密度ベクトル計算部102は、角度θ(k,t)に対応するB−θBH曲線を読み出す。このとき、角度θ(k,t)に対応するB−θBH曲線がない場合、磁束密度ベクトル計算部102は、例えば、データ記憶部112に記憶されている求めたい角度θ(k,t)より小さい角度θ1(k,t)およびそれより大きい角度θ2(k,t)のB−θBH曲線から内挿近似によって級数展開するなどの補間処理を行うことにより、角度θ(k,t)に対応するB−θBH曲線を求める。磁束密度ベクトル計算部102は、得られたB−θBH曲線に最大値Bmax(k,t)を与えて、位相差θBHを求める。そして、磁束密度ベクトル計算部102は、求めた磁界ベクトルHと、位相差θBHとを用いて、磁束密度ベクトルBの方向の磁界ベクトルHeff(=HcosθBH)を求める。ここで、磁束密度ベクトルBと磁界ベクトルHとの位相差θBHが無視できるほど小さい場合には、上述のように、角度θに対応するB−θBH曲線をデータ記憶部112に記憶しておく必要はなく、位相差θBHを無視して(θBHをゼロとみなしてHeff=Hとして)磁界ベクトルHを求めればよい。
【0040】
以上により、磁束密度ベクトル計算部102は、以下の(16)式に示す磁気抵抗率ν(k+1,t)、∂ν/∂B2を計算することができる。これらは、剛性マトリクス[K]と荷重ベクトル[F]を求めるのに使用される。そして、磁束密度ベクトル計算部102は、収束計算回数kに1を加算し、段落[0022]に記載の、剛性マトリクス[K]、荷重ベクトル[F]の計算以降の処理を繰り返し、(13)式に従う収束判定条件を満足するまで、磁束密度ベクトルB(t)を計算する。
【0041】
【数11】

【0042】
以上のようにして、収束判定条件を満足すると、磁束密度ベクトル計算部102は、予め設定した解析完了時間tmaxまで処理を行ったか否かを判定する。解析完了時間tmaxまで処理を行っていない場合、磁束密度ベクトル計算部102は、時間tをΔtだけ進めて、段落[0022]以降の処理を繰り返し、その時間における磁束密度ベクトルBを計算する。ここで、解析完了時間tmaxは、磁束密度ベクトルBの時間変化と最大値を評価できる程度に長く設定する必要がある。
【0043】
以上により、全ての磁束密度計算用微小領域sについて、解析完了時間tmaxまで磁束密度ベクトルBを計算する。
本実施形態では、磁束密度ベクトル計算部102は、以上のようにして計算された、解析完了時間tmaxまでの磁束密度ベクトルBから、大きさが1周期における最大値となる磁束密度ベクトルBを採用する。
【0044】
磁束密度ベクトル計算部102は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、磁束密度ベクトルBを計算し、計算した磁束密度ベクトルBをRAM等に記憶することにより実現される。また、データ記憶部112は、例えば、HDDを用いることにより実現される。
【0045】
(微小領域分割部103)
微小領域分割部103は、解析対象となる「電磁鋼板の領域」を、例えば格子状の複数の応力計算用微小領域(所謂メッシュ)に分割する。一般に、応力計算用微小領域は、微小領域分割部101で得られる磁束密度計算用微小領域とは異なるものとなる。
微小領域分割部103は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより、ユーザによる指示に基づいて、解析対象となる「電磁鋼板の領域」に対して応力計算用微小領域を設定し、その情報をRAM等に記憶することにより実現できる。
【0046】
(応力・保持力計算部104)
応力・保持力計算部104は、各応力計算用微小領域における「x軸方向の応力σxと、y軸方向の応力σyと、xy平面におけるせん断応力τxy」を計算する。本実施形態では、解析対象が、モータのステータコア(固定子)であるので、焼き嵌めにより、ステータコアに加わる応力を計算することになる。そこで、応力計算部104は、ステータコアの形状、焼嵌めシェルの厚み、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度を入力し、例えば、有限要素法を用いて、焼嵌め後のステータコア(の各応力計算用微小領域)にかかる応力を計算する。さらに、応力・保持力計算部104は、焼嵌めシェルを締め付けることによりステータコアを保持する力(保持力)も同時に求めることができる。この保持力はステータコアと焼嵌めシェルとの間に発生する圧力を、接触面内で積分することにより求められる。これらの応力および保持力の計算は、例えば、非特許文献2に示されるように、ヤング率やポアソン比などの物性値を入力条件として、有限要素法で解析することにより実現できる。
応力・保持力計算部104は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各応力計算用微小領域における応力σx、σy、τxyを計算し、計算した応力σx、σy、τxyをRAM等に記憶することにより実現される。
【0047】
(応力補間部105)
前述したように、応力計算用微小領域は、微小領域分割部101で得られる磁束密度計算用微小領域とは異なるものである。そこで、応力補間部105は、応力計算部104で得られた「各応力計算用微小領域における「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」」と、微小領域分割部101で得られた「磁束密度計算用微小領域s」とに基づいて、各磁束密度計算用微小領域sにおける「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」のそれぞれの大きさを、例えば内挿の線形近似などの補間処理を行うことにより求める。
応力補間部105は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各磁束密度計算用微小領域における応力σx、σy、τxyを計算し、計算した応力σx、σy、τxyをRAM等に記憶することにより実現される。
【0048】
(換算応力計算部106)
換算応力計算部106は、応力補間部105で得られた「各磁束密度計算用微小領域sにおける「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」」のそれぞれの大きさと、「磁束密度ベクトル計算部102で用いた「全体座標系のx軸」と圧延方向RDとのなす角度η[rad]」と、磁束密度ベクトル計算部102で得られた「磁束密度ベクトルBと圧延方向とのなす角度θ[rad]」と、を以下の(17)式に代入して、相当応力σξ[MPa]を求める。尚、本実施形態では、電磁鋼板を対象としているので、角度θは、磁束密度ベクトルBと圧延方向とのなす角度になるが、角度θは、磁束密度の方向を特定することができればどのようにして定めてもよい。例えば、磁束密度ベクトルBと鋳造方向とのなす角度としてもよい。
【0049】
【数12】

【0050】
この相当応力σξは、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ベクトルBの方向の応力の大きさである。
換算応力計算部106は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各磁束密度計算用微小領域における相当応力σξを計算し、計算した相当応力σξをRAM等に記憶することにより実現される。
【0051】
(磁束密度補正部107)
磁束密度補正部107は、磁束密度ベクトル計算部102で得られた「磁束密度ベクトルB(大きさと角度θ)」と、換算応力計算部106で得られた「相当応力σξ」と、データ記憶部112に記憶されている「角度θ毎、応力σ毎のB−H曲線」とに基づいて、相当応力σξに対応する磁束密度の大きさを、磁束密度計算用微小領域sのそれぞれについて求める。
図6は、相当応力σξに対応する磁束密度の大きさを求める方法の一例を説明する図である。
図6において、磁束密度ベクトル計算部102で得られた「磁束密度ベクトルBの大きさと、角度θ」が、それぞれがB0、θ1であったとする。磁束密度ベクトル計算部102では、応力σが0(ゼロ)であるときの「磁束密度ベクトルBの大きさと、角度θ」を求めている。
【0052】
そこで、磁束密度補正部107は、磁束密度ベクトルBの大きさと、角度θが、それぞれB0、θ1であり、且つ、応力σが0(ゼロ)[MPa]のときの磁界の大きさを、データ記憶部112に記憶されている「角度θ毎、応力σ毎のB−H曲線」から求める。ここでは、磁界の大きさとしてH0が得られたとする。尚、ここでは、磁界の大きさをB−H曲線から求めたが、磁束密度ベクトル計算部102で計算された「磁束密度ベクトルBに対応する磁界ベクトルHの大きさ」を用いるようにしても、B−H曲線から求めたものと同じ結果が得られる。
次に、磁束密度補正部107は、角度θがθ1、応力σがσξに対応するB−H曲線をデータ記憶部112から取得する。このB−H曲線がデータ記憶部112に記憶されていない場合、磁束密度補正部107は、データ記憶部112に記憶されているB−H曲線を用いて、例えば内挿の線形近似などの補間処理を行うことにより、角度θがθ1、応力σがσξに対応するB−H曲線を求める。
【0053】
そして、磁束密度補正部107は、得られたB−H曲線において、磁界の大きさH0に対応する磁束密度B1を求める。本実施形態では、このようにして相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ(図6に示す例ではB1)を求める。
尚、図4、図6等において、応力σが負(マイナス)の値であるのは、圧縮応力であることを示している。
磁束密度補正部107は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各磁束密度計算用微小領域sにおける「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」を計算し、計算した磁束密度の大きさをRAM等に記憶することにより実現される。
【0054】
(微小領域内鉄損計算部108)
微小領域内鉄損計算部108は、各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損ws(の大きさ)[W]を求める。本実施形態では、微小領域内鉄損計算部108は、磁束密度ベクトル計算部102で得られた「磁束密度ベクトルBと圧延方向RDとのなす角度θ」と、換算応力計算部106で得られた「相当応力σξ」と、磁束密度補正部107で得られた「「各磁束密度計算用微小領域sにおける「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」」と、に対応する鉄損を、データ記憶部112に記憶されているB−W曲線から求めることにより、磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損wsを求める。
【0055】
図7は、データ記憶部112に記憶されているB−W曲線の一例を示す図である。尚、角度θ及び相当応力σξに対応するB−W曲線がない場合、微小領域内鉄損計算部108は、データ記憶部112に記憶されているB−W曲線を用いて、例えば内挿の線形近似などの補間処理を行うことにより、角度θ及び相当応力σξに対応するB−W曲線を求める。そして、微小領域内鉄損計算部108は、得られたB−W曲線に「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」を与えて、鉄損wsを求める。
微小領域内鉄損計算部108は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損wsを計算し、計算した鉄損wsの値をRAM等に記憶することにより実現される。
【0056】
(鉄損総和部109)
鉄損総和部109は、微小領域内鉄損計算部108で得られた「各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損ws」の総和を前述した(1)式に従い求め、解析対象となる「電磁鋼板の領域」の鉄損W(の大きさ)[W]を求める。
【0057】
鉄損総和部109は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損wsの総和を、解析対象となる「電磁鋼板の領域」の鉄損Wとして求め、求めた鉄損Wの値を、RAM等に記憶することにより実現される。
【0058】
(最適値決定部110)
最適値決定部110は、ステータコアの最適な形状を決定する。
本実施形態では、ステータコアの形状を表す指標として、中心角γを採用する。図8は、中心角γの一例を説明する図である。図8は、モータを、その回転軸に垂直な方向に切ったときの断面を示す図である。
図8において、ロータ805の外周側に配置されるステータコア801の外周面と、焼嵌めシェル802の内周面とは、60[°]毎に6箇所の非接触領域803a〜803fで接触していない。図8に示す例ではモータの極数が6であるので、非接触領域803a〜803fは、この極数に応じて、60[°]の回転対称となっている。ここで、周方向で相互に隣接する非接触領域(例えば、非接触領域803a、803f)の間に位置する「ステータコア801の外周面と、焼嵌めシェル802の内周面との接触部分」の端部(例えば、端部804a、804l)と、回転軸Oとを結ぶ直線のなす角度を中心角γと定義する。
【0059】
本実施形態では、前述した応力計算部104は、ステータコアの形状の情報の1つとしてこの中心角γの情報を入力する。後述するように、本実施形態では、パラメータ変更部111により、この中心角γを、所定の角度(例えば50[°])から所定の角度間隔ずつ減らしてステータコアの形状の情報を変更する。そして、この変更された中心角γを使って、鉄損Wと保持力とを繰り返し計算する。この変更は、ステータコア801と焼嵌めシェル802との非接触部803の長さが徐々に大きくなることを意味する。
最適値決定部110は、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されたか否かを判定する。そして、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されると、最適値決定部110は、予め定められている必要保持力よりも大きな保持力を選択し、選択した保持力に対応する鉄損Wのうち、最も大きさが小さいものを選択する。
最適値決定部110は、選択した鉄損Wと、当該鉄損Wに対応する保持力と、当該鉄損W及び保持力を計算したときの中心角γとを最適値として決定する。そして、最適値決定部110は、決定した最適値の情報を表示装置に表示する。
最適値決定部110は、例えば、CPUが、HDD等に記憶されたプログラムを実行することにより以上の処理を実行して、最適値を決定し、決定した最適値の情報を表示装置に表示することにより実現される。
【0060】
(パラメータ変更部111)
パラメータ変更部111は、最適値決定部110により、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されていないと判定されると、未選択の中心角γを選択する。前述したように本実施形態では、中心角γを、所定の角度(例えば50[°])から所定の角度間隔ずつ減らすようにしている。応力計算部104は、ステータコアの形状を表すパラメータの1つである中心角γをパラメータ変更部111で変更された値にした上で、各応力計算用微小領域における「x軸方向の応力σxと、y軸方向の応力σyと、xy平面におけるせん断応力τxy」とを計算する。
【0061】
(磁性材料解析装置100の動作フローチャート)
次に、図9のフローチャートを参照しながら、磁性材料解析装置100の動作の一例を説明する。
まず、ステップS1において、微小領域分割部101は、解析対象となる「電磁鋼板の領域」を、例えば格子状の複数の磁束密度計算用微小領域sに分割する。
次に、ステップS2において、磁束密度ベクトル計算部102は、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度の大きさと、当該磁束密度の圧延方向からの角度θとを計算する。このステップS2の処理の詳細については、図10を参照しながら後述する。
次に、ステップS3において、微小領域分割部103は、解析対象となる「電磁鋼板の領域」を、例えば格子状の複数の応力計算用微小領域に分割する。
【0062】
次に、ステップS4において、応力・保持力計算部104は、応力計算条件(ステータコアの形状、焼嵌めシェルの厚み、ステータコアに使用した電磁鋼板や焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度)の情報を取得する。これらの情報は、ユーザによるユーザインターフェースの操作に基づいて磁性材料解析装置100に入力される。また、ステータコアの形状に関する情報には、中心角γの情報が含まれる(図8を参照)。
次に、ステップS5において、応力・保持力計算部104は、ステップS4で入力された応力計算条件を入力条件として、有限要素法に基づく計算を行い、各応力計算用微小領域における「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」のそれぞれの大きさを計算する。また、応力・保持力計算部104は、ステータコアと焼嵌めシェルとの間に発生する圧力を、接触面内で積分することにより、保持力を計算する。
【0063】
次に、ステップS6において、応力補間部105は、ステップS5で得られた「各応力計算用微小領域における「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」」と、ステップS1で得られた「磁束密度計算用微小領域s」とに基づいて、各磁束密度計算用微小領域sにおける「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」を求める。
次に、ステップS7において、換算応力計算部106は、ステップS5で得られた「各磁束密度計算用微小領域sにおける「x軸方向の応力σx、y軸方向の応力σy、及びxy平面におけるせん断応力τxy」」と、ステップS2で用いた「「全体座標系のx軸と圧延方向RDとのなす角度η」と、ステップS2で得られた「磁束密度ベクトルBと圧延方向とのなす角度θ[rad]」」とを(17)式に代入して、相当応力σξを求める。前述したように、この相当応力σξは、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ベクトルBの方向の応力である。
【0064】
次に、ステップS8において、磁束密度補正部107は、ステップS2で得られた「磁束密度ベクトルB(大きさと角度θ)」と、ステップS7で得られた「相当応力σξ」と、データ記憶部112に記憶されている「角度θ毎、応力σ毎のB−H曲線」とに基づいて、相当応力σξに対応する磁束密度の大きさを、磁束密度計算用微小領域sのそれぞれについて求める(図6に示す例ではB1を求める)。
次に、ステップS9において、微小領域内鉄損計算部108は、ステップS2で得られた「磁束密度ベクトルBと圧延方向RDとのなす角度θ」と、ステップS7で得られた「相当応力σξ」と、ステップS8で得られた「「各磁束密度計算用微小領域sにおける「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」」と、に対応する鉄損を、各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損ws(の大きさ)として、データ記憶部112に記憶されているB−W曲線から求める。
次に、ステップS10において、鉄損総和部109は、ステップS9で得られた「各磁束密度計算用微小領域sにおける鉄損ws」の総和を、解析対象となる「電磁鋼板の領域」の鉄損W(の大きさ)として計算する。
【0065】
次に、ステップS11において、最適値決定部110は、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されたか否かを判定する。この判定の結果、全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されていない場合には、ステップS12に進む。ステップS12に進むと、最適値決定部110は、計算に使用する中心角γを変更する。そして、ステップS5に戻り、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されるまで、ステップS5〜S12の処理を繰り返し行う。
【0066】
以上のようにして全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算されると、ステップS13に進む。ステップS13に進むと、最適値決定部110は、予め定められている必要保持力よりも大きな保持力を選択し、選択した保持力に対応する鉄損Wのうち、最も大きさが小さいものを選択する。そして、最適値決定部110は、選択した鉄損W及び保持力を計算したときに使用された中心角γを最適値として決定する。
最後に、ステップS14において、最適値決定部110は、ステップS14で決定した最適値の情報(鉄損W、保持力、中心角γ)を表示装置に表示する。
【0067】
次に、図10のフローチャートを参照しながら、図9のステップS2の処理の詳細を説明する。
まず、ステップS21において、磁束密度ベクトル計算部102は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS22において、磁束密度ベクトル計算部102は、前記(2)に示す3つの変数A、ν、∂ν/∂B2の初期値を設定する。この初期値は、ユーザによるユーザインターフェースの操作に基づいて磁性材料解析装置100に入力される。
【0068】
次に、ステップS23において、磁束密度ベクトル計算部102は、収束計算回数kを1に設定する。
次に、ステップS24において、磁束密度ベクトル計算部102は、変数A、ν、∂ν/∂B2に基づいて、剛性マトリクス[K]と、荷重ベクトル[F]を計算する。
次に、ステップS25において、磁束密度ベクトル計算部102は、(5)式、(6)式により、δA(k,t)を計算する。
次に、ステップS26において、磁束密度ベクトル計算部102は、(11)式により、収束計算回数がk+1回目での節点iでのベクトルポテンシャルの近似解A(k+1)を計算する。
【0069】
次に、ステップS27において、磁束密度ベクトル計算部102は、(12)式により、時間tにおける磁束密度ベクトルB(t)を求める。
次に、ステップS28において、磁束密度ベクトル計算部102は、(13)式に従う収束判定条件を満足するか否かを判定する。この判定の結果、(13)式に従う収束判定条件を満足しない場合には、ステップS29に進む。ステップS29に進むと、磁束密度ベクトル計算部102は、ステップS28で計算した磁束密度ベクトルB(t)から、(14)式、(15)式により、最大値Bmax(k,t)と角度θ(k,t)とを計算する。
次に、ステップS30において、磁束密度ベクトル計算部102は、ステップS29で計算された角度θ(k,t)に対応する(応力σが0の)B−H曲線に、ステップS30で計算された最大値Bmax(k,t)を与えて、磁界ベクトルHを求める。また、磁束密度ベクトル計算部102は、ステップS29で計算された角度θ(k,t)に対応するB−θBH曲線に、ステップS29で計算された最大値Bmax(k,t)を与えて、位相差θBHを求める。そして、磁束密度ベクトル計算部102は、求めた磁界ベクトルHと、位相差θBHとを用いて、磁束密度ベクトルBの方向の磁界ベクトルHeff(=HcosθBH)を求める。磁束密度ベクトル計算部102は、これら求めた情報に基づいて、磁気抵抗率ν(k+1,t)、∂ν/∂B2を計算する。
【0070】
次に、ステップS31において、磁束密度ベクトル計算部102は、収束計算回数kに1を加算する。そして、ステップS24に戻り、(13)式に従う収束判定条件を満足するまで、ステップS24〜S31の処理を繰り返し行う。こうして(13)式に従う収束判定条件を満足すると、ステップS32に進む。
ステップS32に進むと、磁束密度ベクトル計算部102は、解析完了時間tmaxまで処理が行われたか否かを判定する。この判定の結果、磁束密度ベクトル計算部102は、解析完了時間tmaxまで処理を行っていない場合には、ステップS33に進む。ステップS33に進むと、時間tをt+Δtに設定する(現在の時間にΔtを加算する)。そして、ステップS22に戻り、解析完了時間tmaxまで処理が行われるまで、ステップS22〜S33の処理を繰り返し行う。こうして、解析完了時間tmaxまで処理が行われると、ステップS35に進む。
【0071】
最後に、ステップS35において、磁束密度ベクトル計算部102は、以上のようにして計算された、解析完了時間tmaxまでの磁束密度ベクトルBから、大きさが1周期における最大値となる磁束密度ベクトルBを、磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ベクトルBとして求める。
【0072】
(実施例)
次に、実施例について説明する。本実施例では、ステータコアの形状の最適値として中心角γの最適値を求め、その評価を、鉄損比[−]と保持力比[−]とに基づいて行うようにした。ここで、鉄損比と保持力比は、それぞれ以下の(19)式、(20)式で求められるものである。
鉄損比=鉄損/必要保持力に対応する鉄損 ・・・(19)
保持力比=保持力/必要保持力 ・・・(20)
本実施例では、このような鉄損比[−]と保持力比[−]とを以下の条件で計算した。
ステータコア801;外径φ=590[mm]、内径φ=380[mm]、積厚=20[mm]、材質=50A270
ロータ805;外径φ=376[mm]、積厚=20[mm]、極数=6極、コアの材質=50A270
1スロット当たりの励磁電流;1100[ATrms]、50[Hz]の三相交流電流
焼き嵌めシェル802;板厚=3.0[mm]、材質=SS400、焼嵌め代=400[μm](直径)
中心角γの初期値;50[°]
【0073】
図11は、鉄損比及び保持力比の計算結果を示す図である。図11において直線1101は、必要保持力(保持力比=1)を示している。また、実施例とは、本実施形態のように磁束密度補正部107で磁束密度を補正した結果(図6に示す例ではB1を使用した結果)を示す。一方、比較例とは、特許文献1のように磁束密度補正部107で磁束密度を補正しない結果(図6に示す例ではB0を使用した結果)を示す。尚、磁束密度補正部107で磁束密度を補正するか否かは保持力に影響を与えないので、図11に示すように、実施例と比較例とで保持力の値は同じになる。一方、図11に示すように、本実施例では比較例よりも鉄損の値が小さくなった。これは、図6に示すように、応力の影響を考慮して磁束密度が小さくなる方向に補正を行った為である。また、必要な保持力を満たす保持力比1.0以上の範囲で鉄損が最小となる中心角γはγ=25°と求められる。
図12は、図11に示した結果から決定した鉄損比の最適値を示す図である。図12において、実験結果は、実際のモータから得られた鉄損比を示す。ここで、比較例は実験結果より鉄損が大きくなっており、応力が0であるときのB−H曲線を使用している為に実際よりも磁束密度を過大に評価していることが影響していると考えられる。一方、図12に示すように、本実施例の方が比較例よりも実験結果に近い値が得られ、ステータコアの最適な形状における鉄損を正確に求められていることが分かる。
【0074】
以上のように本実施形態では、各磁束密度計算用微小領域sにおける「磁束密度ベクトルB」を、応力σが0のB−H曲線に基づいて計算する。次に、各磁束密度計算用微小領域sにおける「相当応力σξ」を計算する。次に、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ベクトルBの大きさB0に対応する「磁界の大きさH0」を、応力σが0のB−H曲線に基づいて求める。次に、応力σが相当応力σξであるときのB−H曲線において、磁界の大きさがH0のときの各磁束密度計算用微小領域sの磁束密度ベクトルBの大きさB1を、「相当応力σξに対応する磁束密度の大きさ」として求める。次に、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度の大きさB1からステータコア801の鉄損Wを計算する。このような計算を、中心角γを異ならせて行い、ステータコアの最適な形状(中心角γ)を求める。中心角γを異ならせて計算を行う際には、磁束密度ベクトルBの再計算をせずに、相当応力σξと、相当応力σξに対応する磁束密度の大きさとの再計算を行う(すなわち、磁束密度ベクトルBの計算は1回だけである)。ここで、相当応力σξに対応する磁束密度の大きさを計算する時間は、磁束密度ベクトルBを計算する時間に比べると極めて短い。したがって、計算時間を短くしつつ、相当応力σξを考慮した磁束密度に基づき鉄損Wを求めることができる。よって、ステータコアの形状の最適値を決定する為の鉄損を高速に且つ精度良く求めることができる。
【0075】
(変形例1)
図13は、磁束密度と時間との関係の一例を示す図である。
本実施形態では、時間の経過に伴い磁束密度の値が正弦波状に変化するとして説明を行った。しかしながら、磁束密度の値が正弦波状にならず、図13に示すように時間高調波成分を含む場合であっても本実施形態を適用することができる。このようにする場合には、磁気抵抗率νと鉄損wは、複数の周波数を含む関数となるので、周波数毎のB−H曲線、B−θBH曲線を持つようにし、磁束密度ベクトル計算部102において、時間高調波成分を考慮して、各磁束密度計算用微小領域sにおける磁束密度ベクトルBを計算する。このようにすれば、より正確な電磁場解析を行うことができる。
【0076】
(変形例2)
本実施形態では、ステータコアの形状を表すパラメータとして中心角γを用い、この中心角γの最適値を求めるようにした。しかしながら、ステータコアの形状を表すパラメータは中心角γに限定されるものではない。例えば、以下のものを用いるようにすることができる。
図14は、変形例2におけるステータコアの形状の第1の例を示す図である。具体的に図14(a)は、変形例2におけるステータコアの平面図であり、図14(b)は、変形例2におけるステータコアの斜視図である。
図14において、ステータコアのヨーク部の内周面と、ステータコアのティース部の周方向に向いた側面とによって形成される隅角部1401a、1401bの、回転軸に垂直な方向で切ったときの断面形状を円弧状にした場合、当該円弧の曲率半径を、中心角γの代わりに又は中心角γと共に、ステータコアの形状を表すパラメータとして用いることができる。尚、この曲率半径の増大に伴い(隅角部の円弧の形状が緩やかになるのに伴い)、隅角部に加わる応力が緩和される。
【0077】
また、図15は、変形例2におけるステータコアの形状の第2の例を示す図である。具体的に図15は、ステータコア1501を回転軸Oに垂直な方向から切った断面図を示す。
図15において、回転軸Oから、ステータコア1501の外周面の大径当接部位1502a〜1502eまでの距離をR1とし、回転軸Oから、ステータコア1501の外周面の小径当接部位1503a〜1503cまでの距離をR2とする。ここで、R2/R1を99.4〜99.7%にすることにより、ステータコア1501に加わる応力は、大径当接部位1502a〜1502eでは大きく、小径当接部位1503a〜1503cでは小さくなる。そこで、ステータコア1501の周方向の応力が不均一になってステータコア1501の周方向の応力が不均一になってステータコア1501の継鉄部全体に圧縮応力が加わるのが防止され、ステータコアの鉄損の増大を抑制しながら、焼嵌めシェルの変形や騒音の増大を防止できる。
これに対し、R2/R1が99.4より小さいと、焼嵌めシェルの剛性低下に起因して、小径当接部1503a〜1503cが焼嵌めシェルと当接しない、或いは当該当接が不確実になって騒音を増大させる虞がある。一方、R2/R1が99.7%を超えると、焼嵌めによって、大径当接部位1502a〜1502eと小径当接部位1503a〜1503cにかかる応力の差が小さくなって、ステータコア1501の鉄損増大を抑制する効果が小さくなり、また、焼嵌めシェルの変形が大きくなってエアギャップがアンバランスになる虞がある。このように、図15に示す例では、距離R1、R2を調整することにより、ステータコア1501における鉄損を調整する。
以上のように、解析対象物の形状を表すパラメータであれば、どのような情報をパラメータとして用いるようにしてもよい。また、パラメータとして使用する情報は1つであっても、複数であってもよい。
【0078】
(変形例3)
本実施形態では、中心角γを、所定の角度(例えば50[°])から所定の角度間隔ずつ減らすようにし、予め設定された全ての中心角γにおける「鉄損Wと保持力」が計算された後に、計算されたものの中から最適値を決定するようにした。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、まず、中心角γの減少(増加)に伴い、保持力が単調に減少(増加)する関係を利用して、必要保持力からのずれが大きいときには、保持力が必要保持力に近づくように、大きな角度間隔で中心角γを変更する。そして、必要保持力からのずれが小さくなると、保持力が必要保持力に近づくように、小さな角度間隔で中心角γを変更する。その後、保持力が必要保持力になったとき(又は、保持力が、必要保持力以上の所定の範囲の値になったとき)の中心角γを最適値としてもよい。
(変形例4)
本実施形態では、保持力を求めるようにしたが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、相当応力σξそのものを指標にしてステータコアの中心角γの最適値を決定するようにしてもよい。
【0079】
尚、本実施形態では、例えば、微小領域分割部101と磁束密度ベクトル計算部102とを用いることにより磁束密度計算手段の一例が実現される。また、微小領域分割部103、応力計算部104、応力補間部105、及び換算応力計算部106を用いることにより換算応力計算手段の一例が実現される。また、磁束密度補正部107を用いることにより磁束密度補正手段の一例が実現される。また、微小領域内鉄損計算部108と鉄損総和部109とを用いることにより鉄損計算手段の一例が実現される。また、最適値決定部11を用いることにより最適値決定手段の一例が実現される。また、B−H曲線が、軟磁性材料の磁束密度と磁界との関係の一例である。また、ステータコアの形状(中心角γ)が、軟磁性材料の形状を表すパラメータの一例であり、ステータコアに使用した電磁鋼板のヤング率が、軟磁性材料の物性値の一例であり、焼嵌めシェルの厚み、焼嵌めシェルのヤング率、焼嵌め時の温度が、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件の一例である。また、B−θBH曲線が、軟磁性材料の磁束密度と、磁束密度及び磁界の位相差の一例である。
【0080】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施の形態として適用することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。前記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0081】
100 磁性材料解析装置
101 微小領域分割部
102 磁束密度ベクトル計算部
103 微小領域分割部
104 応力・保持力計算部
105 応力補間部
106 換算応力計算部
107 磁束密度補正部
108 微小領域内鉄損計算部
109 鉄損総和部
110 最適値決定部
111 パラメータ変更部
112 データ記憶部
801 ステータコア
802 焼嵌めシェル
803 非接触領域
804 端部
805 ロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算手段と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算手段と、
応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算手段により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正手段と、
前記磁束密度補正手段により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算手段と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更手段と、
前記鉄損計算手段による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定手段と、を有し、
前記パラメータ変更手段により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、
前記応力計算手段は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、
前記磁束密度補正手段は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算手段により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、
前記鉄損計算手段は、前記磁束密度補正手段により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とする磁性材料解析装置。
【請求項2】
前記磁束密度計算手段は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係であって、前記軟磁性材料を製造する際の圧延方向又は鋳造方向と磁束密度の方向とのなす角度毎に設定された磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算し、
前記磁束密度補正手段は、前記応力毎及び前記角度毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算手段により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算手段により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、磁束密度の大きさを補正することを特徴とする請求項1に記載の磁性材料解析装置。
【請求項3】
前記磁束密度計算手段は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、応力が0であるときの前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと、磁束密度ベクトルと磁界ベクトルとの位相差の関係と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性材料解析装置。
【請求項4】
応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算工程と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算工程と、
応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正工程と、
前記磁束密度補正工程により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算工程と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更工程と、
前記鉄損計算工程による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定工程と、を有し、
前記パラメータ変更工程により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、
前記応力計算工程は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、
前記磁束密度補正工程は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、
前記鉄損計算工程は、前記磁束密度補正工程により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とする磁性材料解析方法。
【請求項5】
前記磁束密度計算工程は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係であって、前記軟磁性材料を製造する際の圧延方向又は鋳造方向と磁束密度の方向とのなす角度毎に設定された磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算し、
前記磁束密度補正工程は、前記応力毎及び前記角度毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、磁束密度の大きさを補正することを特徴とする請求項4に記載の磁性材料解析方法。
【請求項6】
前記磁束密度計算工程は、応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、応力が0であるときの前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと、磁束密度ベクトルと磁界ベクトルとの位相差の関係と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算することを特徴とする請求項4又は5に記載の磁性材料解析方法。
【請求項7】
応力が0であるときの軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記軟磁性材料を励磁するときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料が励磁されたときに前記軟磁性材料に発生する磁束密度の大きさと方向とを計算する磁束密度計算工程と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータと、前記軟磁性材料の物性値と、前記軟磁性材料に外力を与えるときの条件と、に基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力の、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の方向における大きさを計算する応力計算工程と、
応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさを補正する磁束密度補正工程と、
前記磁束密度補正工程により補正された磁束密度の大きさに基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を計算する鉄損計算工程と、
前記軟磁性材料の形状を表すパラメータを変更するパラメータ変更工程と、
前記鉄損計算工程による鉄損の複数回の計算の結果に基づいて、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータのうちで、前記鉄損が最小値をとる場合の値を最適値として決定する最適値決定工程と、をコンピュータに実行させ、
前記パラメータ変更工程により、前記軟磁性材料の形状を表すパラメータが変更されると、
前記応力計算工程は、当該変更されたパラメータに基づいて、前記軟磁性材料に外力が与えられたときに前記軟磁性材料に発生する応力を再計算し、
前記磁束密度補正工程は、応力毎に設定された前記軟磁性材料の磁束密度の大きさと磁界の大きさとの関係と、前記磁束密度計算工程により計算された磁束密度の大きさと、当該磁束密度に対応する磁界の大きさと、に基づいて、前記応力計算工程により再計算された応力に対応する磁束密度の大きさに、前記補正した磁束密度の大きさを再補正し、
前記鉄損計算工程は、前記磁束密度補正工程により再補正された磁束密度に基づいて、前記軟磁性材料の鉄損を再計算することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−132828(P2012−132828A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286223(P2010−286223)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】