説明

磁性粉末およびその製造方法、ならびにその利用

【課題】磁性体が高度に分散された状態で存在する磁性層を容易に形成するための手段を提供すること。
【解決手段】磁性粉末の製造方法。酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液に、カルボキシル基のアルカリ金属塩および水酸基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる置換基を有するアルカリ金属塩化合物を添加することで、上記水系磁性液中で磁性粒子を凝集させること、ならびに、凝集した磁性粒子を捕集して前記磁性粉末を得ること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末およびその製造方法、ならびにその利用に関するものであり、詳しくは、有機溶媒系の磁性層形成用塗布液における分散性が向上するように改質された磁性粉末およびその製造方法、ならびにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報を高速に伝達するための手段が著しく発達し、莫大な情報をもつ画像およびデータ転送が可能となった。このデータ転送技術の向上とともに、情報を記録、再生および保存するための記録再生装置および記録媒体には更なる高密度記録化が要求されている。高密度記録領域において良好な電磁変換特性を得るためには、微粒子磁性体を使用するとともに、微粒子磁性体を高度に分散させ、磁性層表面の平滑性を高めることでスペーシングロスを低減することが有効であることが知られている。
【0003】
磁性体の分散性を高める手段としては、例えば特許文献1に記載されているように、SO3Na基のような極性基を結合剤に含有させる方法、特許文献2に記載されているように磁性層形成用塗布液調製時に添加剤として分散剤を使用する方法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−132531号公報
【特許文献2】特開平1−232530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように結合剤へ極性基を導入することは、分散性改良のための有効な手段であるが、結合剤へ導入される極性基量が過剰になると、逆に分散性が低下するおそれがある。一方、特許文献2に記載されているような分散剤は、磁性粒子表面に吸着し磁性粒子と結合剤や溶媒の親和性を高めることで磁性層形成用塗布液における磁性粒子の分散性を改良するものである。しかし仮に一次粒子径が小さな微粒子磁性体を使用したとしても、微粒子磁性体同士が強固に凝集し粗大な凝集体として磁性層形成用塗布液に添加されてしまうと、強い分散負荷を掛けて磁性体の凝集状態を解砕しない限り、分散剤は凝集体表面を被覆するに過ぎず、結果的に形成される磁性層には磁性体は粗大な凝集体として存在してしまい高い表面平滑性を実現することはできない。他方、微粒子磁性体同士が強固に凝集した凝集体を解砕するために分散条件を強化することも考えられるが、これは分散メディアの磨耗による媒体への異物混入や磁性体の破壊により磁気特性低下を引き起こす可能性があるため好ましくない。
【0006】
そこで本発明の目的は、磁性体が高度に分散された状態で存在する磁性層を容易に形成するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得るに至った。
磁性粒子は、酸性水系溶媒中ではプロトンが吸着することで表面に正電荷を帯びるため、正電荷同士の反発力によって高度な分散状態で存在することができる。したがって、この状態で特許文献2に記載されているような分散剤を磁性粒子表面に吸着させることができれば、粗大な凝集体ではなく微粒子磁性体の状態の磁性粒子表面を被覆することができると考えられる。
しかし、従来使用されていた分散剤は有機溶媒系の磁性層形成用塗布液中で使用することが想定されているため水系溶媒への溶解性に乏しい。したがって、これを水系溶媒中に添加したとしても磁性粒子表面を被覆することは困難である。本発明者らはこの点について更なる検討を重ねた結果、磁性層形成用塗布液の分散剤として従来使用されていた化合物の中で、カルボキシル基(−COOH)または水酸基(−OH)を含有する化合物は、プロトン体の状態では水への溶解性に乏しいものの、カルボキシル基または水酸基がアルカリ金属塩として存在すると水への溶解性が向上することに着目した。そこで、本発明者らが、カルボキシル基または水酸基含有化合物をアルカリ金属塩化合物として酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液に添加したところ、該水系磁性液中で磁性粒子が凝集する現象が確認されたが、驚くべきことに、この凝集体は有機溶媒系の磁性層形成用塗布液中で容易に解砕されるものであった。この点について本発明者らは、上記凝集体は酸性の水系磁性液中で磁性粒子表面に吸着したアルカリ金属塩化合物がプロトン体に転換し水への溶解性が低下したことによって形成されると推察しており、この凝集体が有機溶媒系の磁性層形成用塗布液中で容易に解砕可能である理由は、上記のプロトン体が有機溶媒に良好に溶解することに起因していると考えている。また、水系磁性液中で上記アルカリ金属塩化合物が付着した後に磁性粒子が凝集することは、当該化合物により表面改質された磁性粒子を固液分離によって容易に捕集可能になるという利点もある。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0008】
即ち、上記目的は下記手段によって達成された。
[1]磁性粉末の製造方法であって、
酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液に、カルボキシル基のアルカリ金属塩および水酸基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる置換基を有するアルカリ金属塩化合物を添加することで、上記水系磁性液中で磁性粒子を凝集させること、ならびに、
凝集した磁性粒子を捕集して前記磁性粉末を得ること、
を特徴とする、前記製造方法。
[2]前記アルカリ金属塩化合物として、該化合物のプロトン体が前記酸性水系溶媒に含まれる酸よりも酸性度の弱い化合物を使用する[1]に記載の磁性粉末の製造方法。
[3]前記水系磁性液中での磁性粒子の凝集は、前記アルカリ金属塩化合物が前記磁性粒子表面に付着した後にプロトン体に転換することで生じる[1]または[2]に記載の磁性粉末の製造方法。
[4]前記アルカリ金属塩化合物は、前記置換基を有する芳香族化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の磁性粉末の製造方法。
[5]前記アルカリ金属塩化合物は、桂皮酸のアルカリ金属塩化合物およびジヒドロキシナフタレンのアルカリ金属塩化合物からなる群から選択される[1]〜[4]のいずれかに記載の磁性粉末の製造方法。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により得られた磁性粉末。
[7][1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法により磁性粉末を製造すること、
製造した磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[8]前記有機溶媒はケトン系溶媒を含有する[7]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[9][7]または[8]に記載の方法により得られた磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微粒子磁性体が高度に分散された、優れた電磁変換特性を発揮し得る磁気記録媒体を提供することができる。
更に、微粒子磁性体の分散が容易となるため、製造工程における磁性粒子の分散負荷を大きく軽減することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の磁性粉末の製造方法は、
酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液に、カルボキシル基のアルカリ金属塩および水酸基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる置換基を有するアルカリ金属塩化合物を添加することで、上記水系磁性液中で磁性粒子を凝集させること、ならびに、
凝集した磁性粒子を捕集して前記磁性粉末を得ること、
を含むものである。また本発明によれば、前記方法により得られた磁性粉末も提供される。
磁気記録媒体では、磁性層中で磁性粒子を微粒子状態で存在させることが、電磁変換特性の向上につながる。したがって、電磁変換特性向上のためには微粒子の磁性粒子を高度に分散させた状態で磁性層に存在させることが好ましい。そのためには、磁性層形成用塗布液において、微粒子磁性体を高度に分散させるべきである。ここで本発明では上記工程を経ることで、水系磁性液中では凝集するものの、有機溶媒系の磁性層形成用塗布液では容易に高度に分散可能な磁性粒子からなる磁性粉末を得ることができる。したがって微粒子磁性体に対して上記工程を施すことで、微粒子磁性体が高度に分散した磁性層を形成可能な磁性粉末を得ることが可能となる。
以下、本発明の磁性粉末の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0011】
水系磁性液の調製
上記水系磁性液とは、固相と液相との分離が目視で確認されない程度に、磁性粒子が沈降凝集せず分散した状態にあるものをいい、一態様(以下、「第一の態様」という)では水系溶媒、磁性粒子(以下、「原料磁性粒子」ともいう)、酸成分を同時または順次添加し混合することで得ることができる。上記原料磁性粒子としては、高密度記録用磁気記録媒体形成に適するとの観点から、平均一次粒子サイズが35nm以下のものが好ましい。ここで、磁性粒子の平均一次粒子サイズとは、以下の方法により測定される値とする。
磁性粒子を、日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粒子写真を得る。粒子写真から目的の磁性粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースしカールツァイス製画像解析ソフトKS−400で粒子のサイズを測定する。500個の一次粒子のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。上記方法により測定される粒子サイズの算術平均値を磁性粒子の平均一次粒子サイズとする。
上記平均一次粒子サイズは熱揺らぎがなく安定な磁化を得る観点から10nm以上であることが好ましい。磁化の安定性と高密度記録化を両立する観点から、上記平均粒子サイズは10〜35nmの範囲であることが好ましく、20〜35nmの範囲であることがより好ましい。ただし、原料磁性粒子が微粒子であっても、磁性層中で凝集体として存在するのであれば、凝集体が一つの粗大粒子様に振舞うため、電磁変換特性を向上することは困難となる。そこで本発明では、磁性粒子が高度に分散した磁性層を形成するために、後述するように水系溶媒中での所定のアルカリ金属塩化合物によって磁性粒子表面を改質するための処理(表面改質処理)を行う。該処理については後述する。
【0012】
なお、本発明において、磁性粒子等の粒子ないし粉体のサイズ(以下、「粒子サイズ」と言う)は、(1)粒子の形状が針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、(2)粒子の形状が板状乃至柱状(ただし、厚さ乃至高さが板面乃至底面の最大長径より小さい)場合は、その板面乃至底面の最大長径で表され、(3)粒子の形状が球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
また、該粒子の平均粒子サイズは、上記粒子サイズの算術平均であり、500個の一次粒子について上記の如く測定を実施して求めたものである。
【0013】
第一の態様において使用可能な原料磁性粒子としては、一般に磁気記録媒体の磁性層に使用される六方晶フェライト磁性粒子、強磁性金属磁性粒子等の各種強磁性粒子を用いることができる。
【0014】
前記水系溶媒とは、水を主成分とする溶媒であり、水、または水と水溶性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等との混合溶媒を挙げることができる。
【0015】
前記酸成分は無機酸であっても有機酸であってもよい。使用可能な無機酸の例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、リン酸などが挙げられる。有機酸の例としては、アミノ酸、酢酸、グリコール酸、ジグリコール酸などが挙げられる。これらの中では、取り扱いの容易性の点からは酢酸を用いることが好ましく、少量でpH調整が可能である点からは強酸である塩酸を用いることが好ましい。磁性粒子の表面を十分プラスに帯電させることで水系磁性液中で磁性粒子を高度に分散することができ、この点から酸の使用量は、水系磁性液のpHを5以下に調整し得る量とすることが好ましく、4以下に調整し得る量とすることがより好ましい。また、強酸性条件下では磁性粒子表面が溶解する場合があるため、上記pHは3以上とすることが好ましい。
【0016】
前記水系磁性液は、水系溶媒、原料磁性粒子、酸成分を同時または順次添加し混合し、好ましくは攪拌することで得ることができる。また、磁性粒子の磁気特性を高めるためには、酸性水系溶媒中で磁性粒子に分散処理を施す工程(酸性水系溶媒中での分散処理と固液分離による固形分の回収)を複数回行うことが好ましい。酸による処理によって、磁気特性低下の原因となる異物を粒子表面から除去できるからである。この点について更に説明すると、例えば、後述するガラス結晶化法により得られる六方晶フェライト磁性粒子には、酸処理で除去しきれなかったガラス成分が残留している場合がある。このような残留ガラス成分は磁性粒子の磁気特性を低下させることがあるが、酸性水系溶媒中での分散処理を繰り返すことで、粒子表面から溶解除去することができる。なお帯電した粒子を含有する水スラリーでは電解質濃度(イオン濃度)が分散/凝集状態に影響を及ぼすことが知られている。電解質濃度が低い場合、帯電した粒子の周りに電気二重層が広がり、この電気二重層の重なり合いを避けるように反発力が働き、帯電した粒子は分散し容易に沈降しない。他方、上記水スラリー中に多量のイオン性成分が存在すると、系内のイオンバランスが崩れるため、電気二重層による分散安定化が阻害される結果、磁性粒子は比較的短時間で沈降する。したがって、酸性水系溶媒中での分散処理により溶解し電離した異物が多いほど、系内のイオン性成分は多くなるため磁性粒子の分散安定性は低下し、異物が少なくなるほど磁性粒子は分散安定化し容易に沈降しなくなる。この点から、酸性水系溶媒中での分散処理を磁性粒子が容易に沈降しないほど繰り返すことは、磁性粒子表面から異物を除去し磁性粒子の磁気特性を向上させるために好ましい対応である。また、高度に分散した磁性粒子の表面に表面改質剤を被覆させるためにも、酸性水系溶媒中での分散処理を繰り返すことは好ましい。
【0017】
一方、磁気記録媒体用磁性粉として広く使用されている六方晶フェライト磁性粒子の製造方法としてガラス結晶化法が知られている。一般的なガラス結晶化法は、(1)ガラス形成成分および六方晶フェライト形成成分を含む原料混合物を溶解→(2)急冷固化→(3)固化物の加熱処理(六方晶フェライト磁性粒子が析出)→(4)固化物を酸処理(ガラス成分を溶解除去)→(5)水系溶媒による洗浄、という工程を含む。上記工程(4)は通常、酸性水系溶媒中で行われるため必然的に磁性粒子(六方晶フェライト磁性粒子)を含む水系磁性液が得られることとなる。ここで得られる水系磁性液は、通常そのままでは六方晶フェライト磁性粒子が沈降せず分散した状態にある。分散状態では磁性粒子を捕集し次工程である洗浄工程(5)を行うことが困難であるため、通常は凝集剤(例えばシュウ酸アンモニウム)を使用して凝集させているのであるが、本発明では上記の分散状態を利用し、酸処理工程(4)において得られる水系磁性液に対して、後述するアルカリ金属塩化合物による表面改質処理を行うこともできる。即ち、本発明には、前記水系磁性液をガラス結晶化法により六方晶フェライト磁性粒子を得る工程中、具体的にはガラス結晶化法の酸処理工程中に得る態様(以下、「第二の態様」ともいう。)も包含される。第二の態様におけるガラス結晶化法の上記工程は、ガラス結晶化法については、特開2010−282671号公報、特開2010−235411号公報、特開2010−080608号公報等に記載の公知技術を適用することができる。
【0018】
アルカリ金属塩化合物による表面改質処理
本発明では、上記第一または第二の態様により得られた水系磁性液に、カルボキシル基のアルカリ金属塩および水酸基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる置換基を有するアルカリ金属塩化合物を添加する。該アルカリ金属塩化合物としては、有機溶媒系の磁性層塗布液において分散剤として使用されている各種カルボキシル基含有化合物および水酸基含有化合物(以下、「プロトン型化合物」または「プロトン体」という。)のアルカリ金属塩を使用することができる。先に説明したようにプロトン型化合物は水系溶媒への溶解性に乏しいが、アルカリ金属塩の形態であれば水系溶媒に対して高い溶解性を示すことができる。したがって上記アルカリ金属塩化合物を水系溶液へ添加すれば、当該化合物を溶解させることができる。ここで上記アルカリ金属塩化合物が溶解する水系溶液が、前述のように正電荷同士の反発力により磁性粒子が高度に分散した水系磁性液であれば、粗大な凝集体ではなく微粒子磁性体の状態の磁性粒子表面を上記アルカリ金属塩化合物によって被覆(表面改質)することが可能になる。先に説明したように磁性粒子表面を被覆したアルカリ金属塩化合物は酸性水系溶液中では、水系溶媒への溶解性に乏しいプロトン体に転換すると推察され、これが上記水系磁性液中で磁性粒子の凝集体が形成される理由と考えられる。ただしここで形成された凝集体は有機溶媒において容易に解砕可能である。この理由は、磁性粒子表面に付着しているプロトン体が有機溶媒への溶解性(親和性)に優れるためと考えられる。そして上記のように凝集体を解砕することで、有機溶媒中で磁性粒子を微粒子状態で分散させることができる。即ち本発明では、水系溶液で微粒子状に分散した磁性粒子表面にアルカリ金属塩化合物を付着させる→当該化合物がプロトン体に添加することで微粒子状態でプロトン体が付着した磁性粒子を得る(ただしプロトン体が存在することで磁性粒子は凝集する)→有機溶媒中で凝集が解砕される、とのメカニズムにより有機溶媒中で磁性粒子を容易に微粒状に分散させることができると考えられる。
【0019】
上記アルカリ金属塩化合物とは、置換基として−COOM、−OM(Mはアルカリ金属原子、以下同様)を1つ以上有する化合物をいい、磁性層の分散剤として知られているカルボキシル基含有化合物のカルボキシル基が−COOMである化合物および磁性層の分散剤として知られている水酸基含有化合物のアルカリ金属塩化合物を使用することが好ましい。この点から好ましいアルカリ金属塩化合物としては、ナフタレン骨格、ベンゼン骨格等の芳香環に−COOMおよび−OMからなる群から選ばれる置換基が直接または連結基を介して間接的に置換した化合物を挙げることができる。上記連結基としては、−C−、−C=C−、−O−等の二価の連結基、またはこれらの2種以の組み合わせからなる二価の連結基を上げることができる。水系磁性液への溶解性および有機溶媒における分散性向上効果の点から特に好ましいアルカリ金属塩化合物としては、桂皮酸のアルカリ金属塩化合物およびジヒドロキシナフタレンのアルカリ金属塩化合物を挙げることができる。上記アルカリ金属塩化合物に含まれる−COOMおよび−OMからなる群から選ばれる置換基は少なくとも1つであり、2つまたはそれ以上含まれていてもよい。また上記アルカリ金属塩化合物には、前記置換基に加えて、カルボキシル基、水酸基、アルキル基等の他の置換基が含まれていてもよい。酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液への前記アルカリ金属塩化合物の添加量は、磁性粒子100質量部に対して0.1〜10質量部、水系磁性液総質量100質量部に対して0.0001〜5質量部とすることが、有機溶媒中で容易に高度な分散状態となり得る磁性粉末を得るうえで好ましい。また、上記水系磁性液に前記アルカリ金属塩化合物を添加する際や添加後に攪拌処理を行うことが、アルカリ金属塩化合物を良好に溶解し磁性粒子表面に均一に付着させるために好ましい。
【0020】
先に説明したように、前記水系磁性液へ前記アルカリ金属塩化合物を添加すると磁性粒子が凝集する現象が確認されるが、これは磁性粒子表面に付着したアルカリ金属塩化合物の−COOMが−COOHに、−OHが−OHに転換(プロトン体に転換)することで化合物の溶解性が低下することによって生じる現象であると、本発明者らは推察している。先に説明したように凝集させることで当該化合物により表面改質された磁性粒子を固液分離によって容易に捕集可能になるという利点がある。この凝集を良好に進行させるためには磁性粒子表面に付着したアルカリ金属塩化合物が速やかにプロトン体に転換されることが好ましい。転換を良好に進行させる観点からは、前記アルカリ金属塩化合物として、該化合物のプロトン体が前記酸性水系溶媒に含まれる酸よりも酸性度の弱い化合物を使用することが好ましく、水:テトラヒドロフラン=4:6(体積比)の水系溶媒中(液温25℃)でのpKaとして、前記酸のpKaよりもプロトン体のpKaが0.1〜8程度大きなアルカリ金属塩化合物を使用することがより好ましい。
【0021】
水系磁性液中で形成された磁性粒子の凝集体は沈降するため、上澄みを除去することで水系溶媒中から取り出すことができる。取り出した磁性粒子の凝集体は、必要に応じて塩基を添加し弱酸性〜中性付近のpHに調整した水溶液中でデカンテーション等により洗浄した後に、乾燥処理を施し乾燥粉として得ることができる。なお第二の態様においては、表面改質処理後に磁性粉末を得る工程は、通常のガラス結晶化法における洗浄工程と同様に、またはこれに準じて行うことができる。第一、第二の態様のいずれにおいても、こうして磁性粒子の凝集体として磁性粉末を得ることができるが、先に説明したように、この凝集体は有機溶媒中で容易に解砕可能であるため、分散負荷を高めることなく磁性層形成用の磁性塗料において高度な分散状態を実現することができる。
【0022】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0023】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の磁性粉末の製造方法により磁性粉末を製造すること、製造した磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、を含む。また本発明によれば、前記方法により得られた磁気記録媒体も提供される。
本発明の磁性粉末の製造方法は水系溶媒中で行われるが、水系溶媒を含む磁性塗料を用いて磁性層を形成すると、形成された磁性層は親水性となるため吸湿による可塑化等の弊害が発生することが懸念される。これに対し本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁性層を形成するために有機溶媒系の磁性塗料を使用する。ここで有機溶媒とは非水系の有機溶媒をいうものとするが、磁性塗料中に可塑化等の弊害を生じない程度に微量の水分が残留していることは許容するものとする。
【0024】
磁性塗料に使用する有機溶媒としては、一般に塗布型磁気記録媒体調製のために使用される有機溶媒を挙げることができる。具体的には、任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を使用することができる。中でも、磁気記録媒体に通常使用される結合剤の溶解性および磁性粒子表面への結合剤の吸着の点からはケトン類を含有する有機溶媒(ケトン系有機溶媒)を用いることが好ましい。
【0025】
上記有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0026】
上記有機溶媒との分散処理に付される磁性粉末は、先に説明したように磁性粒子の凝集体として得られるものであって、この凝集体において粒子表面には前記アルカリ金属塩のプロトン体が付着していると推察される。このプロトン体は有機溶媒に対して高い親和性を有するため、磁性層形成のために行われる通常の分散処理によって凝集体を解砕することで高度に分散された磁性粒子を含む磁性塗料を、高い分散負荷を掛けることなく容易に得ることができる。
【0027】
以下、本発明の磁気記録媒体の製造方法の具体的態様について説明する。
【0028】
磁性層
本発明における磁性層は、前記の処理が施された磁性粉末の凝集が解砕された磁性粒子と結合剤を含む層であることができる。磁性層を形成するための磁性塗料に使用される結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから単独または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010−24113号公報段落[0029]〜[0031]を参照できる。また、上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0029】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、カーボンブラックなどを挙げることができる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。なお添加剤として、前記アルカリ金属塩化合物のプロトン体を使用することは分散性の更なる改善に有効である。有機溶媒中で高度に分散した磁性粒子に分散性改善作用を示す上記プロトン体が付着することで、より一層分散性を高めることができるからである。
【0030】
非磁性層
次に非磁性層に関する詳細な内容について説明する。本発明では、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を形成することができる。非磁性層に使用できる非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2010−24113号公報段落[0036]〜[0039]を参照できる。
【0031】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。それらについては、例えば特開2010−24113号公報段落[0040]〜[0042]を参照できる。
【0032】
非磁性支持体
前記方法で調製された磁性塗料は、非磁性層上に直接、または非磁性層等の他の層を介して非磁性支持体上に塗布される。これにより、非磁性支持体上に、必要に応じて非磁性層等の他の層を介して磁性層を有する磁気記録媒体を得ることができる。
【0033】
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。
これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを行ってもよい。また、本発明に用いることのできる非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて中心平均粗さRa3〜10nmが好ましい。
【0034】
層構成
本発明により得られる磁気記録媒体の厚み構成は、非磁性支持体の厚みが、好ましくは3〜80μmである。磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する2層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。
【0035】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、本発明における磁気記録媒体の非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものであり、例えば不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、本発明の効果を示すものであり、本発明における磁気記録媒体と実質的に同一の構成とみなすことができる。なお、実質的に同一とは、非磁性層の残留磁束密度が10mT以下または抗磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であることを示し、好ましくは残留磁束密度と抗磁力を持たないことを意味する。
【0036】
バックコート層
本発明では、非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1〜0.7μmが更に好ましい。
【0037】
製造工程
磁性層形成のための塗布液(磁性塗料)は、本発明の磁性磁性粉末の製造方法により得られた磁性粉末を使用する点以外、通常の磁性層形成用塗布液の調製方法と同様の方法で作製することができる。
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる磁性粒子、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズやその他のビーズを用いることができる。このような分散メディアとしては、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。磁気記録媒体の製造方法の詳細については、例えば特開2010−24113号公報段落[0051]〜[0057]を参照できる。
【0038】
本発明によれば、磁性粒子が高度に分散された磁性層を形成することができる。これにより本発明によれば、優れた電磁変換特性を発揮し得る高密度記録用磁気記録媒体を提供することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、ここに示す成分、割合、操作、順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲で変更し得るものであり、下記の実施例に制限されるべきものではない。以下に記載の「部」、「%」は、「質量部」、「質量%」を示す。
【0040】
[実施例1]
下記バリウムフェライト磁性体100部に水200部を加えた後サンドミルによって磁性粒子を含む水溶液の分散処理を行った。分散液100部を取り、30%酢酸水溶液110部を添加し、84℃で2時間攪拌した。攪拌を停止し、バリウムフェライト磁性体沈降物と上澄み液に分離させた後上澄み液130部を除去した。98℃の水を200L添加し5分攪拌した後、1.5時間静置し、上澄み液160部を除去した。1N−塩酸9部、98℃の水140部を添加し、1時間攪拌した後、3時間静置させた。1N−塩酸1部を添加し、30分攪拌したところ、バリウムフェライト磁性体が容易に沈降せず高度に分散した水分散液(水系磁性液)が得られた。得られた水分散液に、0.25mol/Lのケイ皮酸ナトリウム水溶液10部を滴下し、30分攪拌したところ磁性粒子が凝集、沈降した。その後、静置させて上澄み液を除去して沈降物を得た。得られた沈降物に水150部、10%NaOH水溶液を添加しpHを5〜7に調整しながら攪拌・静置・上澄み除去を10回以上繰り返した。得られたバリウムフェライト磁性体をろ過し、120℃40時間の条件で乾燥処理を施し乾燥粉として磁性粉末(磁性粒子の凝集体)を得た。
バリウムフェライト磁性体
酸素を除く組成(モル比):Ba/Fe/Co/Zn=1/9/0.2/1
Hc:176kA/m(2200Oe)、平均板径:25nm、平均板状比:3
BET比表面積:65m2/g
σs:49A・m2/kg(49emu/g)
pH:7
【0041】
磁性塗料の作製、分散容易性の確認試験
実施例1で作製した磁性粉末2.2質量部、ポリウレタン樹脂1質量部をシクロヘキサノン3.3質量部、メチルエチルケトン(2−ブタノン)4.9質量部、オレイン酸0.033質量部からなる溶液に懸濁させた。懸濁液に0.5mmΦジルコニアビーズ(ニッカトー製)27質量部、を添加し分散させた。分散開始から所定時間経過した磁性塗料から一部を採取し以下の方法で分散粒子径を測定した。
(分散粒子径の測定方法)
磁性塗料を、シクロヘキサノンとメチルエチルケトンを体積比でシクロヘキサノン6.0:メチルエチルケトン9.0の割合で含む混合液で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した(固形分とは磁性粉末およびポリウレタン樹脂の合計質量を表す)。
HORRIBA社製動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500を用いて測定した上記希釈液中の磁性粉末平均粒子径を分散粒子径とした。分散粒子径が小さいほど、磁性粉末が凝集せず分散性が良好であることを意味する。
【0042】
[実施例2]
0.25mol/Lのケイ皮酸ナトリウム水溶液10部を0.25mol/Lの2,3−ジヒドロキシナフタレンナトリウム(2、3−ジヒドロキシナフタレンの2つの水酸基の一方が「−ONa」に転換した塩)の水溶液10部に変更した点以外は実施例1と同様の操作を行い乾燥粉を得た。
得られた磁性粉末2.2質量部を用いて実施例1と同様の方法で磁性塗料の作製および分散容易性の確認試験を行った。
【0043】
pKaの測定
ケイ皮酸、2,3−ジヒドロキシナフタレン、塩酸各60mgを計量し、水:THF=4:6(体積比)からなる混合溶媒に溶解させた。ファクター校正した0.1N−水酸化ナトリウムを用い中和滴定を行い、滴定曲線から中和点における溶液滴下量[ml]を読み取った。溶液滴下量の半分の滴下量におけるpHを、表面改質剤のpKaと定義した。測定されたpKaは、ケイ皮酸:6.50、2,3−ジヒドロキシナフタレン:10.4、塩酸:2.59であった。
【0044】
[比較例1]
0.25mol/Lのケイ皮酸ナトリウム水溶液10部を使用しなかった点以外は実施例1と同様の操作を行い乾燥粉を得た。
得られた磁性粉末2.2質量部を用いて実施例1と同様の方法で磁性塗料の作製および分散容易性の確認試験を行った。
【0045】
以上により得られた分散容易性確認試験の結果を、下記表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1、2は比較例1と比較して同じ分散時間での分散粒子径が小さかったこから、本発明によれば、高度な分散状態で磁性粒子を含む磁性塗料を高い分散負荷を掛けることなく容易に得ることができることが確認された。こうして得られた磁性塗料を用いることで、磁性粒子が高度に分散された磁性層を形成することができ、これにより優れた電磁変換特性を有する磁気記録媒体を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、バックアップテープ等の高密度記録用磁気記録媒体の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末の製造方法であって、
酸性水系溶媒中に磁性粒子が分散してなる水系磁性液に、カルボキシル基のアルカリ金属塩および水酸基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる置換基を有するアルカリ金属塩化合物を添加することで、上記水系磁性液中で磁性粒子を凝集させること、ならびに、
凝集した磁性粒子を捕集して前記磁性粉末を得ること、
を特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属塩化合物として、該化合物のプロトン体が前記酸性水系溶媒に含まれる酸よりも酸性度の弱い化合物を使用する請求項1に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項3】
前記水系磁性液中での磁性粒子の凝集は、前記アルカリ金属塩化合物が前記磁性粒子表面に付着した後にプロトン体に転換することで生じる請求項1または2に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属塩化合物は、前記置換基を有する芳香族化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属塩化合物は、桂皮酸のアルカリ金属塩化合物およびジヒドロキシナフタレンのアルカリ金属塩化合物からなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた磁性粉末。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により磁性粉末を製造すること、
製造した磁性粉末を有機溶媒および結合剤とともに分散処理して磁性塗料を作製し、作製した磁性塗料を用いて磁性層を形成すること、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒はケトン系溶媒を含有する請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法により得られた磁気記録媒体。

【公開番号】特開2013−97820(P2013−97820A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236602(P2011−236602)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】