説明

磁性粉末およびその製造方法ならびにこれを用いたボンド磁石

【課題】 異方性のW型6方晶フェライトを製造するさいに、スピネル化合物およびM型フェライト化合物の含有量の少ないW型フェライト化合物を製造する。
【解決手段】 W型フェライトを製造するにあたり、スピネル型フェライト化合物と平均粒径1.3μm以下のM型フェライト化合物とを、または、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比の原料粉とM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合した混合粉を得、この混合粉を圧粉成形し、焼成し、さらには所望により、粉砕してW型フェライトを得る。W型フェライトは、A〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)の組成を有する化合物であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末およびその製造方法ならびにこれを用いたボンド磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶フェライト系磁石は、コストパフォーマンス、耐環境性等に優れているため電装用モータ等の各種磁性応用製品に多用されているが、昨今の磁性応用製品の小型化のニーズに伴い、フェライト系磁石の高性能化が求められている。
【0003】
六方晶フェライトは、周知のように、Fe23、BaO、MeOを三成分とすると〔但し、BaはCa、Sr、Pbなどで置換可能であり、Meは鉄族遷移族元素の2価イオンもしくはZn、Mg、または1価と3価の組合せ(例えばLi1+とFe3+との組合せ)を表す〕、組成上非常に似通った六方晶構造をもつ化合物群が存在し、それぞれの組成に応じてM、W、X、Y、Z型などと呼ばれている。このうち、M型フェライト化合物が製造性等の点で有利なことから多用されており、その高性能化への努力が続けられてきた結果、その磁気特性は次第にその上限に近づきつつある。
【0004】
このため、さらに高い磁気特性を得るためには、M型フェライトに代わる新たな化合物材料の開発が必要である。飽和磁化の大きな磁性材料としては、M型以外にもW型、X型、Y型などがあり、特にW型フェライトは、M型より10%程度高い飽和磁化を有し、かつM型とほぼ同等の異方性磁界を示すので、近年、新しい磁性材料として注目されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−306716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
W型フェライトはM型フェライトに比べて不安定であり、焼成品を粉砕すると分解し易い。このため、W型フェライトは焼結磁石として得ることができても、W型フェライトの磁性粉末とすることは困難であり、ボンド磁石用のW型フェライトは未だ出現していない。また、通常の粉体原料を混合して焼成する方法では、低温で生成し易いスピネルが始めに形成され、これがW型フェライトの生成を抑制する現象が起こり、磁気特性に大きな影響を及ぼすことになる。
【0006】
本発明はこのような問題の解決を目的としたものであり、スピネル型フェライトおよびM型フェライトの含有量の少ないW型フェライト化合物を安定して提供することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明では、スピネル型フェライト化合物と平均粒径1.3μm以下のM型フェライト化合物とを、または、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比の原料粉とM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で秤量・混合し、この混合物を必要に応じて粉砕し、得られた混合粉を圧粉成形し、次いで焼成する。これによってスピネル型フェライト化合物およびM型フェライト化合物の含有量の少ないW型フェライト化合物主体の磁性材料を得ることができる。この焼成品は粉砕してもW型フェライト化合物の形態を維持する。したがって、スピネル型フェライト化合物およびM型フェライト化合物の含有量の少ないW型フェライト化合物主体の磁性粉末が得られる。
なお、本発明における平均粒径は、レーザー回折法により測定した粒径の50%積算値として求められる数平均粒径をいう(単に、平均粒径という)。
【0008】
本発明のW型フェライトはA〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)の化学組成を有する化合物であることができ、この場合には、配合に使用するスピネル型フェライト原料としては〔Zn(1-x)(LiFe)x/2〕O・Fe23(ただし、x=0〜0.5)の組成を有する化合物またはこの化合物に対応する組成となる量比の原料粉を用い、配合に使用するM型フェライト原料としてはAO・6Fe23(ただし、AはSrまたはBa)の組成を有する化合物を使用するのがよい。
【0009】
このようなSr−Zn−Li系またはBa−Zn−Li系のW型フェライトを本発明に従って合成する場合には、その焼成品を平均粒径50μm以下に粉砕してもW型フェライトの形態を保持している。このため、スピネル型フェライト化合物およびM型フェライト化合物の含有量が少ないW型フェライト化合物主体の平均粒径が50μm以下で、磁場配向時の飽和磁化が70emu/g以上の磁性粉末を得ることができる。
【0010】
この磁性粉末は、コバルト管球をX線源として測定したX線回折パターンにおいて、40〜41°に存在するW型フェライトのピーク強度値をIw、47〜48°に存在するM型フェライトのピーク強度値Im’を3.8倍して得られる強度値をIm、41〜42°に存在するスピネル型フェライトのピーク強度値をIsとし、Rw=Iw/(Iw+Im+Is)としたときに、Rwが70%以上である磁性粉末であって、これを樹脂で固めてボンド磁石を得ることができる。
【0011】
なお、上記X線回折パターンは横軸に回折角の2倍の角度(単に°で表す。)、縦軸に回折線の強度を表したものであって、各ピーク強度値は上記X線回折パターンにおいて上記所定角度範囲内で各フェライトが呈したピーク強度値のうち最大のピーク強度値をいう。
また、各ピーク強度値を求めるにあたって、上記X線回折パターンにおいてW型、M型、スピネル型の各フェライトのピークの影響を受けない34°と48°の強度の平均値をバックグラウンド値とした。
【0012】
さらに、本来M型フェライトの最大のピーク強度値Imは37〜38°に存在するが、この角度はW型フェライトが共存した場合にはW型フェライトのピークと重なってしまう。後述するように、M型フェライトについて上記同様に、コバルト管球をX線源として測定したX線回折パターン(図6)によれば、37〜38°に存在するM型フェライトの最大のピーク強度値Imは(W型フェライトのピークと重ならない)47〜48°に存在するM型フェライトのピーク強度値Im’の3.8倍であり、Imはこの47〜48°に存在するM型フェライトのピーク強度値Im’を3.8倍することによって得られる換算強度値とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、スピネル型フェライトおよびM型フェライトの含有量が少ないW型フェライト化合物を得ることができる。W型フェライトはM型フェライトでは達成できない高い飽和磁化を有するので、M型フェライトでは得られなかった磁場配向時の飽和磁化が70emu/g以上で平均粒径が50μm以下の粒子からなる高性能の磁性材料を提供できる。またW型フェライトにスピネルが共存すると磁気特性が劣化するようになるが、本発明ではスピネルの含有量が少ないので、この点でも優れた磁気特性の磁性材料を提供できる。加えて、本発明によれば、W型フェライトの磁性粉末を安定して得ることができるので、ボンド磁石用のW型フェライト磁性材料が得られる。そして、本発明の製造法は、複雑な雰囲気制御を必要としないので、製造性がよく安価に製造できる点でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、W型フェライトを合成する場合に、その焼成過程でスピネル型フェライト化合物(スピネルまたはスピネル化合物ということがある。)が生成する挙動を種々の試験で調べてきたが、スピネルが生成するとその分、W型フェライトの磁気特性が低下することが明らかとなった。また、この場合には焼成品を微粉砕するとW型フェライトの結晶も崩れやすくなることがわかった。ところが、微細なスピネルを予め合成しておき、これをM型フェライトの粉体と混合したうえで焼成すると、スピネルは焼成の過程で消失しW型フェライトの生成に寄与することを知見した。すなわち、スピネル+M型フェライト→W型フェライトに変性するのである。得られる焼成品はこれを微粉砕してもW型フェライトの結晶構造を維持し、磁気特性の良好な磁性粉末を得ることができる。
【0015】
W型フェライトのうちでも、異方性のSr−Zn−Li系およびBa−Zn−Li系のW型六方晶フェライトは磁気特性が優れることが知られている。本発明はこのSr−Zn−Li系、Ba−Zn−Li系のW型フェライトを製造する場合にも適用可能である。すなわち、一般式がA〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627で表されるW型フェライト化合物(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)を製造する場合に適用可能である。
【0016】
本発明のW型フェライトの製造法は、スピネル型フェライト化合物またはその原料粉とM型フェライト化合物の準備工程、両者の秤量・混合工程、圧粉成形工程、焼成工程、さらに必要に応じて、粉砕工程、アニール工程、解砕工程からなる。以下、前記のSr−Zn−Li系、Ba−Zn−Li系のW型フェライトを製造する場合を例として、本発明の各工程を具体的に説明する。
【0017】
まず、出発原料としてスピネル化合物とあらかじめ平均粒径1.3μm以下に粉砕されたM型フェライト化合物の準備をするが、その準備のために、両化合物を製造することが必要な場合には、両者を別々に製造する。A〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627系W型フェライトの製造の場合は、〔Zn(1-x)(LiFe)x/2〕O・Fe23(ただし、x=0〜0.5)の組成を有するスピネル化合物を別途に製造し、さらにAO・6Fe23(ただし、AはSrまたはBa)の組成を有するM型フェライト化合物を別途に製造するのがよい。それらの製法は、常法に従って、原料をその組成となるように秤量・粉砕し、圧粉成形してフェライトの合成温度で焼成すればよい。
【0018】
なお、スピネル型フェライト化合物と混合されるM型フェライト化合物の平均粒径が1.3μmを超える場合には焼成後のW型フェライト化合物中のM型フェライト化合物含有量が多くなってしまうので、スピネル型フェライト化合物と混合されるM型フェライト化合物の平均粒径が1.3μmを超えている場合にはあらかじめM型フェライト化合物を平均粒径1.3μm以下に粉砕しておく必要がある。また、M型フェライト化合物と混合されるスピネル型フェライト化合物は平均粒径が1.5μm以下が好ましい。
【0019】
また、上記の出発原料に代えて、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合された原料粉とM型フェライト化合物を準備してもよい。この場合、M型フェライト化合物と混合されるスピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合された原料粉は平均粒径を1.5μm以下とすることが好ましい。また、スピネル型フェライト化合物原料粉と混合されるM型フェライト化合物は平均粒径が1.3μm以下であれば一層好ましい。
【0020】
次いで、上記のスピネル型フェライト化合物とあらかじめ平均粒径1.3μm以下に粉砕されたM型フェライト化合物、または、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合された原料粉とM型フェライト化合物、をW型フェライト化合物組成となるような量比で秤量し混合する。混合はロッドミルを用いて行うことにより、原料が粉砕と同時に混合されるので好ましい。
【0021】
得られたW型フェライトに相当する組成割合の混合粉は、プレス機で所望の形状に圧粉成形し、炉に装入して合成温度で焼成する。焼成雰囲気は大気中とし、焼成温度は1100〜1350℃で30〜180分間の保持のあと室温にまで冷却すればよい。この焼成により、新たにW型フェライトが生成する。配合したM型フェライトの残留量は少なく、W型フェライトが主成分の異方性六方晶フェライトが得られる。
【0022】
この焼成品のまま焼結磁石として磁性材料に供することもできる。その場合には、焼成品を所望の形状に切り出すことによって任意の形状の磁石製品とすることができる。
【0023】
本発明に従うW型フェライトを主体とする焼成品は、これを粉砕することによって、ボンド磁石に適した磁性粉末とすることができる。粉砕はボールミルを用いて行うことができるが、まずハンマーミルなどを用いた乾式粉砕で粗粉を製造し、次いでボールミルなどを用いた乾式粉砕もしくは湿式粉砕で微粉化するのがよい。粉砕は平均粒径が100μm以下、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下の微粉が得られるまで行うのが望ましい。
【0024】
粉砕時には機械的な応力が加わり内部歪が残留し、これが磁気特性を劣化させることもある。この内部歪を除去するために、粉体をアニール処理するのがよい。アニール処理は歪除去の目的が達成できるに十分な温度に保持すればよく、通常は、電気炉などで700〜950℃の温度範囲に30〜120分間保持すればよい。雰囲気は大気中とすればよい。この歪取り焼鈍の後では粉体が部分的に凝集して塊状品となり易いが、この塊状品はサンプルミル等で解砕することによって、ほぼもとの粉体に戻すことができる。
【0025】
W型フェライトのHcが低く粉砕時間が短く、そのため粉砕後のアニール処理が不要な場合でも、粉砕によって粉体が部分的に凝集して塊状品となり易いが、この塊状品はサンプルミル等で解砕することによって、ほぼ凝集のない粉体にすることができる。この解砕時に歪が発生することを防止するために、解砕時間は3分間未満で行うのが好ましい。
【0026】
このようにして、本発明によると、A〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)などのW型フェライトが主体でスピネル型フェライトおよびM型フェライトの含有量が少ない磁気特性の優れた磁性粉末、例えば、Rwが70%以上である磁性粉末、さらには、平均粒径が50μm以下で磁場配向時の飽和磁化が70emu/g以上の磁性粉末を得ることができる。このものは、ボンド磁石用の磁性粉末として好適であり、バインダー樹脂に充填するさいに磁場配向することによって、優れた磁気特性を示すようになる。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
(1)スピネル型フェライト化合物の製造
α−Fe23、ZnOおよびLi2CO3を、Zn2LiFe916のスピネル型フェライト化合物の組成に対応する量比で秤量し、ロッドミルで20分間乾式混合した。この混合粉を電気炉に装入し、900℃で1時間、大気中で焼成した。その後に粉砕して平均粒径1.0μm、比表面積(BET法。以下同じ。)2.5m2/gのスピネル型フェライトの微粉を得た。この微粉をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図1のX線回折パターンに示したとおり、スピネル単相であることが確認された。
【0028】
(2)M型フェライトの微粉砕
SrO・6Fe23のM型フェライトをボールミルを用いて6時間湿式微粉砕を行い、平均粒径0.54μm、比表面積11m2/gのM型フェライトの微粉を得た。この微粉をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図6のX線回折パターンに示したとおり、M型フェライト単相であることが確認された。
【0029】
(3)スピネル型フェライト化合物とM型フェライト化合物(微粉砕粉)の混合
前記のスピネル型フェライト化合物とM型フェライト化合物(微粉砕粉)とを、SrZnLi0.5Fe16.527組成に対応する量比で採取し、ロッドミルを用いて乾式で20分間混合・微粉砕を行い、混合粉を得た。
【0030】
(4)混合粉の成形と焼結
前記の混合粉をプレス圧49MPaで、φ15mm×高さ15mmの円柱状の成形体に圧粉成形し、この成形体を電気炉に装入し、大気中、1300℃で2時間焼成した。
【0031】
(5)焼成品の粉砕
得られた焼成品をハンマーミルを用いて粒径1mm以下に粗粉砕したあと、さらにボールミルを用いて15分間平均粒径10μm以下に乾式法で微粉砕した。
【0032】
(6)粉砕品の解砕処理
焼成品を粉砕するさいに発生した凝集塊を除去するために、得られた微粉砕品をサンプルミルを用いて30秒間解砕し、フェライト磁性粉を得た。
【0033】
焼成品を微粉砕した段階でその微粉をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図2に示すX線回折パターンが得られた。図2に見られるように、この微粉はW型フェライト化合物とスピネル型フェライト化合物のピークが観察され、このX線回折パターンにおいて、まず、34°と48°の強度の平均値1.6をバックグラウンド値とした。40〜41°に存在するW型フェライトのピーク強度値Iwは上記バックグラウンド値1.6を差し引くと98.4であった。次に、41〜42°に存在するスピネル型フェライトのピーク強度値Isは上記バックグラウンド値1.6を差し引くと24.8であった。最後に、47〜48°に存在するM型フェライトのピーク強度値Im’は上記バックグラウンド値1.6を差し引くと0.6であり、前述のとおり3.8倍することによって得られる換算強度値Imは0.6×3.8=2.3であった。
【0034】
したがって、本発明においてW型フェライトのX線回折強度の割合をRw=Iw/(Iw+Im+Is)としたときに、Rw=98.4×100/(98.4+2.3+24.8)=78.4%であった。
また、本発明においてM型フェライトのX線回折強度の割合をRm=Im/(Iw+Im+Is)としたとき(以下、同じ。)に、Rm=2.3×100/(98.4+2.3+24.8)=1.8%であった。
さらに、本発明においてスピネル型フェライトのX線回折強度の割合をRs=Is/(Iw+Im+Is)としたとき(以下、同じ。)に、Rs=24.8×100/(98.4+2.3+24.8)=19.8%であった。
表1に上記各値を記載した。
【0035】
【表1】

【0036】
ここで、X線回折の測定条件は、管球:コバルト管球、Goniometer:Ultima+水平ゴニオメータI型、Attachment:ASC−43(縦型)、Monochrometer:全自動モノクロメータ、ScanningMode:2θ/θ、ScanningType:CONTINUOUS、X−Ray:40kV/30mA、発散スリット:’’1/2deg.’’、散乱スリット:’’1/2deg.’’、受光スリット:’’0.15mm’’、測定範囲:10°〜90°である。
【0037】
解砕処理後に得られたフェライト磁性粉の磁気特性を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【0038】
【表2】

【0039】
〔実施例2〕
(1)スピネル組成原料とM型フェライト化合物の混合
Zn2LiFe916のスピネル化合物の組成に対応する量比のα−Fe23(平均粒径0.87μm、比表面積3.29m2/g)、ZnO(平均粒径1.07μm、比表面積2.56m2/g)およびLi2CO3(平均粒径0.96μm、比表面積3.01m2/g)からなる原料粉、平均粒径0.54μm、比表面積11m2/gのSrO・6Fe23のM型フェライト化合物とを、SrZnLi0.5Fe16.527組成に対応する量比で秤取し、ロッドミルを用いて20分間乾式法で混合・微粉砕を行い、混合粉を得た。
【0040】
(2)混合粉の成形と焼結
前記の混合粉をプレス圧49MPaで、φ15mm×高さ15mmの円柱状の成形体に圧粉成形し、この成形体を電気炉に装入し、大気中、1300℃で2時間焼成した。
【0041】
(3)焼成品の粉砕
得られた焼成品をハンマーミルを用いて粒径1mm以下に粗粉砕したあと、さらにボールミルを用いて15分間平均粒径10μm以下に乾式法で微粉砕した。
【0042】
(4)粉砕品の解砕処理
焼成品を粉砕するさいに発生した凝集塊を除去するために、得られた微粉砕品をサンプルミルを用いて30秒間解砕し、フェライト磁性粉を得た。
【0043】
焼成品を微粉砕した段階でその微粉をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図3に示すX線回折パターンが得られた。図3に見られるように、この微粉はW型フェライト化合物、M型フェライト化合物、スピネル型フェライト化合物のピークがいずれも観察され、表1に示すように、W型フェライトのX線回折強度の割合Rwは70.5%、M型フェライトのX線回折強度の割合Rmは14.6%、スピネル型フェライトのX線回折強度の割合Rsは14.9%であった。なお、X線回折の測定条件および得られたX線回折パターンからの各フェライトのX線回折強度の割合の算出法は、実施例1と同じである。
【0044】
粉砕し解砕処理後に得られたフェライト磁性粉の磁気特性を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【0045】
〔比較例1〕
α−Fe23、ZnO、Li2CO3およびSrCO3を、一般式Sr〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627のW型フェライトにおけるx=0.3となる化合物の組成に対応する量比で秤量して配合し、全体の平均粒径0.75μm、比表面積5m2/gの粉体を得た。この配合粉をボールミルで180分間湿式混合し、乾燥後、この混合粉をプレス圧49MPaで、φ15mm×高さ15mmの円柱状の成形体に圧粉成形し、この成形体を電気炉に装入し、大気中、1250℃で1時間焼成した。
【0046】
得られた焼成品からサンプルを採取してコバルト管球をX線源としてX線回折を行ったところ、図4に示すX線回折パターンが得られた。図4に見られるように、この焼成品にはM型フェライト化合物、スピネル型フェライト化合物、W型フェライト化合物のピークがいずれも観察され、表1に示すように、W型フェライトのX線回折強度の割合Rwは50.4%、M型フェライトのX線回折強度の割合Rmは11.5%、スピネル型フェライトのX線回折強度の割合Rsは38.1%であった。なお、X線回折の測定条件および得られたX線回折パターンからの各フェライトのX線回折強度の割合の算出法は、実施例1と同じである。
焼成品を粉砕し解砕処理後に得られたフェライト磁性粉の磁気特性を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【0047】
〔比較例2〕
(1)スピネル型フェライト化合物の製造
α−Fe23、ZnOおよびLi2CO3を、Zn2LiFe916のスピネル型フェライト化合物の組成に対応する量比で秤量し、ロッドミルで20分間乾式混合した。この混合粉を電気炉に装入し、900℃で1時間、大気中で焼成した。その後に粉砕して平均粒径1.0μm、比表面積2.5m2/gのスピネル型フェライトの微粉を得た。得られた焼成品をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図1のX線回折パターンと同様であって、スピネル単相であることが確認された。
【0048】
(2)スピネル型フェライト化合物とM型フェライト化合物の混合
前記のスピネル型フェライト化合物と、平均粒径1.45μm、比表面積1.55m2/gのSrO・6Fe23のM型フェライト化合物とを、SrZnLi0.5Fe16.527組成に対応する量比で採取し、ボールミルを用いて乾式法で4時間混合・微粉砕を行い、混合粉を得た。
【0049】
(3)混合粉の成形と焼結
前記の混合粉をプレス圧49MPaで、φ15mm×高さ15mmの円柱状の成形体に圧粉成形し、この成形体を電気炉に装入し、大気中、1300℃で2時間焼成した。
【0050】
(4)焼成品の粉砕
得られた焼成品をハンマーミルを用いて粒径1mm以下に粗粉砕したあと、さらにボールミルを用いて15分間平均粒径10μm以下に乾式法で微粉砕した。
【0051】
(5)粉砕品の解砕処理
焼成品を粉砕するさいに発生した凝集塊を除去するために、得られた微粉砕品をサンプルミルを用いて30秒間解砕し、フェライト磁性粉を得た。
【0052】
焼成品を微粉砕した段階でその微粉をコバルト管球をX線源としてX線回折したところ、図5に示すX線回折パターンが得られた。図5に見られるように、この微粉はW型フェライト化合物、M型フェライト化合物、スピネル型フェライト化合物のピークがいずれも観察され、W型フェライトのX線回折強度の割合Rwは40.3%、M型フェライトのX線回折強度の割合Rmは48.4%、スピネル型フェライトのX線回折強度の割合Rsは11.3%であった。なお、X線回折の測定条件および得られたX線回折パターンからの各フェライトのX線回折強度の割合の算出法は、実施例1と同じである。
【0053】
解砕処理後に得られたフェライト磁性粉の磁気特性を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
高い飽和磁化の磁性粉末を製造することができ、ボンド磁石材料粉末の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に使用したスピネル型フェライト化合物のX線回折パターンである。ここで、上記X線回折パターンは、コバルト管球をX線源として測定し、横軸(目盛り数字が記載されている軸)に回折角の2倍の角度(単位:°)、縦軸に回折線の強度を表したものである(図2〜6も同じ)。
【図2】実施例1で得られたW型フェライト主体の焼成品(微粉)のX線回折パターンである。
【図3】実施例2で得られたW型フェライト主体の焼成品(微粉)のX線回折パターンである。
【図4】比較例1で得られた焼成品のX線回折パターンである。
【図5】比較例2で得られた焼成品(微粉)のX線回折パターンである。
【図6】本発明に使用したM型フェライトのX線回折パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト管球をX線源として測定したX線回折パターンにおいて、40〜41°に存在するW型フェライトのピーク強度値をIw、47〜48°に存在するM型フェライトのピーク強度値Im’を3.8倍して得られる強度値をIm、41〜42°に存在するスピネル型フェライトのピーク強度値をIsとし、Rw=Iw/(Iw+Im+Is)としたときに、Rwが70%以上である磁性粉末。
【請求項2】
前記磁性粉末が、平均粒径が50μm以下、磁場配向時の飽和磁化が70emu/g以上である、請求項1記載の磁性粉末。
【請求項3】
前記W型フェライトはA〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)の組成を有する化合物である、請求項1または2に記載の磁性粉末。
【請求項4】
W型フェライトを製造するにあたり、スピネル型フェライト化合物と平均粒径1.3μm以下のM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合した混合粉を得、該混合粉を圧粉成形し、次いで焼成することを特徴とするW型フェライトの製造方法。
【請求項5】
W型フェライトを製造するにあたり、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比の原料粉とM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合した混合粉を得、該混合粉を圧粉成形し、次いで焼成することを特徴とするW型フェライトの製造方法。
【請求項6】
W型フェライトを製造するにあたり、スピネル型フェライト化合物と平均粒径1.3μm以下のM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合した混合粉を得、該混合粉を圧粉成形し、焼成し、次いで粉砕することを特徴とするW型フェライトの製造方法。
【請求項7】
W型フェライトを製造するにあたり、スピネル型フェライト化合物に対応する組成となる量比の原料粉とM型フェライト化合物とを、W型フェライト化合物に対応する組成となる量比で配合した混合粉を得、該混合粉を圧粉成形し、焼成し、次いで粉砕することを特徴とするW型フェライトの製造方法。
【請求項8】
前記W型フェライトはA〔Zn2(1-x)(LiFe)x〕Fe1627(ただし、AはSrまたはBa、x=0〜0.5)の組成を有する化合物である、請求項4〜7のいずれかに記載のW型フェライトの製造方法。
【請求項9】
前記スピネル型フェライト化合物は〔Zn(1-x)(LiFe)x/2〕O・Fe23(ただし、x=0〜0.5)の組成を有する化合物であり、前記M型フェライト化合物はAO・6Fe23(ただし、AはSrまたはBa)の組成を有する化合物である、請求項4〜8のいずれかに記載のW型フェライトの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性粉末を樹脂で固めたボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−135238(P2006−135238A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325077(P2004−325077)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【出願人】(595156333)日本弁柄工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】