説明

磁性素子付与装置

【課題】
媒体に付与された磁性素子が所定の磁界を受けることで発する信号を検知することで媒体固有が識別できる磁性素子を必要に応じて媒体に埋め込み、その存在が目立たないように付与する磁性素子付与装置を提供する。
【解決手段】
用紙50上をスライドさせることで用紙50を一定の深さで切削する用紙切削用刀304と、用紙切削用刀304で切削された用紙50の切削部へ磁性ワイヤー1を磁性ワイヤー収納リール306から供給して埋め込み接着し、該埋め込み接着された磁性ワイヤー1を磁性ワイヤー収納リール306から切断分離する磁性ワイヤー切断用刃305とを有する可動部30と、可動部30を支持し、可動部30をスライドさせるとともに可動部30を微小回転させて停止させ、その際に磁性ワイヤー切断刃305が用紙50に埋め込み接着された磁性ワイヤー1を切断するように形成されたレール21を備えたスライド機構40を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁性素子付与装置に関する。より詳しくは、媒体に付与された磁性素子が所定の磁界を受けることで発する信号を検知することで媒体固有が識別できる磁性素子を必要に応じて媒体に埋め込み、その存在が目立たないように付与する磁性素子付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや複合機およびネットワークの普及により、情報をネットワークを介して取得し、取得した情報を印刷及び複写することが容易に行なえるようになっている。
【0003】
また、高精度なスキャナー、プリンタ等の装置の普及により、これらの装置を用いて有価証券等を不正に複写し偽造するという問題が生じてきていることから、複写や持出し等が許可された文書以外は複写禁止、持出し禁止等の処理を施し、機密情報や有価証券等が不正に複写または持ち出されて悪用されることを防止するような情報セキュリティーを強化した種々の装置や方法の提供が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特殊な透かしの製造方法により一見して真贋が見分けられる偽造防止用紙、およびカラー複写機によるコピーや画像処理システムによる複製を試みても原稿(本物)とは全く異なった色調の複写物しか得られない偽造防止用紙の製造方法が提案されている。
【0005】
この提案は、具体的には、少なくとも1層以上の紙層Aと、円網抄紙機による他の紙層Bとを抄き合わせる際に、該円網抄紙機のワイヤーパートに付設した少なくとも1つ以上のエアーノズルにより該紙層B面に圧縮空気を噴射することで、透かし模様又はストリップあるいは糸が窓状に部分的に露出するように構成された偽造防止用紙の製造方法である。
【0006】
また、特許文献2には、偽造防止効果が高く、且つホログラムスレッドを紙に抄き込む際に、ホログラムスレッドが反転し裏返しになっているか否かを容易に検査出来る偽造防止用紙が提案されている。
【0007】
この提案は、具体的には、予め偽造防止効果が高いホログラムスレッドに蛍光発色剤を混入させた接着剤で、表面紙層と接着する側に接着剤層を設けて置き、ホログラムスレッドを抄き込んだ後、表面紙層側より光を照射して発光が認められたか否かに基づきホログラムスレッドが反転し裏返しに抄き込まれていないか否かを判定できるように構成されたものである。
【0008】
また、特許文献3には、マイクロ文字またはマイクロ画像を有するスレッドが、用紙の流れ方向に挿入された、所謂スレッド入り紙タイプの偽造防止用紙が提案されている。
【0009】
この提案は、具体的には、用紙の流れ方向にスレッドを挿入した偽造防止用紙において、スレッドをベースとなるフィルムと、フィルムの表面に形成された金属蒸着層からなる正文字のみのマイクロ文字または正画像のみのマイクロ画像と、金属蒸着層の上に形成された透明インキによる印刷層と、フィルムの裏面に形成された感熱接着剤層とで構成し、印刷層を形成するインキには紫外線の照射で発色する染顔料を添加することで、用紙の表側から見た場合に、正文字のマイクロ文字または正画像のマイクロ画像が見えるようにしたスレッドを用紙に挿入するような構成としたものである。
【特許文献1】特開平11−034474号公報
【特許文献2】特開2000−355182号公報
【特許文献3】特開平10−219597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記提案の特許文献1乃至特許文献3は、透かし模様又はストリップ、スレッド等を用紙に目立つように抄き込む、あるいはホログラムスレッド、マイクロ文字またはマイクロ画像を有するスレッド等を用紙に形成し、これらを視覚的、または光学的変化の情報に基づき用紙の真偽判定を行うようにしたものであり、媒体に磁性素子を付与し、当該磁性素子が所定の磁界を受けて発する信号に基づき媒体の真偽、あるいは媒体固有が識別できる磁性素子を用紙に付与する方法や装置の提案はなされていない。
【0011】
また、上記特許文献1乃至特許文献3に示される提案では、用紙の真偽を識別するための透かし模様又はストリップ、スレッド等を情報を印刷する直前、あるいは印刷後、または印刷中の用紙に形成することは困難である。
【0012】
そこで、この発明は、媒体に付与された磁性素子が所定の磁界を受けることで発する信号を検知することで媒体固有が識別できる磁性素子を必要に応じて媒体に埋め込み、その存在が目立たないように付与する磁性素子付与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、所定の磁界を受けることで信号を発する磁性素子を媒体に付与する磁性素子付与装置において、前記媒体上をスライドさせることで前記媒体を一定の深さで切削する切削手段と、前記切削手段で切削された前記媒体の切削部へ前記磁性素子を供給する磁性素子供給手段と、前記磁性素子供給手段で供給された磁性素子を前記媒体の切削部へ埋め込み接着する磁性素子接着手段と、前記磁性素子接着手段で前記媒体に埋め込み接着された磁性素子を前記磁性素子供給手段から切断して分離する磁性素子切断手段とを有する可動機構と、前記可動機構を支持し、スライドさせるレールを備えたスライド機構とを具備し、前記可動機構が前記スライド機構のレールに誘導されてスライドすることで前記磁性素子が前記媒体に埋め込み接着され、前記可動機構が前記スライド機構に誘導されて停止し、微小回転することで前記磁性素子切断手段が前記媒体に埋め込み接着された磁性素子を前記磁性素子供給手段から切断して分離することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記磁性素子接着手段は、前記磁性素子供給手段で供給された磁性素子に接着剤を塗布しながら該磁性素子を前記媒体の切削部へ埋め込み接着し、前記切削部を含む前記切削部周辺を修復することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記スライド機構は、前記可動機構がスライドすることで前記磁性素子を前記媒体に埋め込み接着するスライド方向とは垂直方向に誘導する落し込み部がレールの途中に形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記可動機構は、前記スライド機構のレールをスライドする車輪を更に具備し、前記スライド機構は、前記可動機構の車輪が前記落し込み部に到達することで前記可動機構がスライドしないようにスライド防止手段を更に具備することを特徴とする。
【0017】
また、請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記スライド機構の落し込み部は、前記可動機構の車輪が前記落し込み部に到達することで前記可動機構が微小回転するように形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6の発明は、請求項3乃至5のいずれかの発明において、前記スライド機構は、前記落し込み部が形成されたレールを前記可動機構がスライドすることで前記磁性素子を前記媒体に埋め込み接着するスライド方向に所望の長さだけスライドさせる第2のスライド機構を更に具備し、前記第2のスライド機構により前記落し込み部が形成されたレールを所望の長さだけスライドさせ前記落し込み部の位置を移動させることで所望の長さの磁性素子を前記媒体に埋め込み接着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明の磁性素子付与装置によれば、磁性素子を必要に応じて媒体に埋め込み、その存在が目立たないように付与するので、情報管理や不正複写または不正持出し等を防止するための、よりセキュリティーが向上した用紙を提供することができる。
【0020】
また、情報を印刷する直前、あるいは印刷後、または印刷中の用紙に当該用紙の識別情報に対応させた磁性素子を必要に応じて付与することができる。
【0021】
また、情報管理や不正複写または不正持出し等を防止するために、予め磁性素子が付与された専用紙を必要としないので大幅なコスト削減ができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明に係わる磁性素子付与装置は、情報漏洩防止、機密保持、あるいは文書管理等を目的として、所定の磁界を受けることで信号を発する磁性素子を検知する磁性素子検知装置を備えた複写機や盗難防止装置等が用紙に付与された磁性素子を検知することで複写禁止あるいは持出し禁止の用紙であると判別し、当該用紙の複写禁止動作や盗難防止動作が行われるように必要に応じて用紙に磁性素子を付与する磁性素子付与装置として用いられる。
【0023】
例えば機密情報が印刷された原稿に磁性素子を付与し、当該原稿が不正に複写されようとした場合は、原稿に形成された磁性素子を複写機が備えた磁性素子検知装置が検知し、複写機が複写禁止動作を行うことで機密情報が印刷された原稿が不正複写されることを防止することができる。
【0024】
用紙に付与する磁性素子は、所定の磁界を与えると磁化反転時に急峻な磁気パルスを発するような、所謂大バルクハウゼン効果の特性を有する磁性素子である。
【0025】
この実施例では、用紙の厚みよりも細い磁性ワイヤーの磁性素子を手動で用紙表面上の任意位置に埋め込み、その存在が目立たないように付与する磁性素子付与装置を例に説明する。
【実施例1】
【0026】
この発明に係わる磁性素子付与装置の一実施例について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、磁性素子付与装置100の一例を概略的に示した構成図である。
【0028】
図1において、図1(a)は、磁性素子付与装置100の特徴を示すように部分的に断面図を含めた概略の正面図、図1(b)は、概略の平面図、図1(c)は、部分的に断面図を含む概略の側面図、図1(d)は、概略の底面図をそれぞれ示している。
【0029】
図1(a)に示すように、磁性素子付与装置100は、筐体部10と、平行スライド部20と、可動部30とから成り、ユーザが可動部30の取手部301を握り、所定方向(図中の矢印方向)へ力を加えることで可動部30が可動部30の左右の前輪302と左右の後輪303とを介して平行スライド部20のレール21上をスライドするように構成されている。
【0030】
筐体部10は、図1(c)に示すように、平行スライド部20が所定の方向へスライド可能なように平行スライド部20が収納される部分の形状が凹状に成形されており、平行スライド部20と筐体部10の平行スライド部20を収納する部分を総称してスライド機構40という。
【0031】
磁性素子付与装置100を用紙50上の任意位置に置き、可動部30を所定の方向へスライドさせることで可動部30の下部に配設された用紙切削用刀304(詳細は図2参照)が用紙50の厚みの半分程度の深さで用紙50をスライド方向へ切削し、磁性ワイヤー1が用紙50の切削部に供給され、可動部30の下部に配設された磁性ワイヤー接着機構350(図2参照)により磁性ワイヤー1が、その存在が目立たないように用紙50に埋め込み接着されて付与される。
【0032】
ここで、前述の磁性素子付与装置100の可動部30と筐体部10及び平行スライド部20との各構成の詳細について図2及び図3を参照し説明する。
【0033】
図2は、可動部30の詳細を示した構成図であり、図2(a)は、可動部30の特徴を示すように部分的に断面図を含めた概略の正面図、図2(b)は、概略の平面図、図2(c)は、部分的に断面図を含む概略の右側面図、図2(d)は、部分的に断面図を含む概略の左側面図、図2(e)は、概略の底面図をそれぞれ示している。
【0034】
図2(a)に示すように、可動部30内には磁性ワイヤー1が巻かれて収納された磁性ワイヤー収納リール306と、磁性ワイヤー接着機構350に供給する接着剤を収納した接着剤収納部307とが配設され、可動部30の下部には、用紙切削用刀304と、磁性ワイヤー収納リール306に収納された磁性ワイヤー1を磁性ワイヤー接着機構350までガイドするガイドパイプ308と、磁性ワイヤー収納リール306から供給された磁性ワイヤー1を用紙50に押さえながら接着させる磁性ワイヤー接着機構350と、磁性ワイヤー切断用刃305と、可動部30が平行スライド部20のレール21上を滑らかにスライドするための左右の前輪302と左右の後輪303とがそれぞれ配設されている。
【0035】
磁性ワイヤー接着機構350は、弾力性を有するローラ351と352とで構成されており、ローラ351は、磁性ワイヤー収納リール306から供給された磁性ワイヤー1に接着剤収納部307から供給される接着剤を塗布しながら用紙切削用刀304が切削した用紙50の切削部へ埋め込み、その上をローラ352が押さえつけて磁性ワイヤー1の存在が目立たないように埋め込みながら用紙50へ接着させる。
【0036】
また、磁性ワイヤー接着機構350は、用紙50を押さえつけた際に用紙50からの押圧に応じて伸縮可能なように弾性を有する構成を成している。
【0037】
磁性ワイヤー切断用刃305は、図中の可動部30が反時計回り微小回転することで用紙50に埋め込まれた磁性ワイヤー1を切断するように用紙切削用刀304や磁性ワイヤー接着機構350等よりかは短く配設されており、用紙50に埋め込まれた磁性ワイヤー1を磁性ワイヤー収納リール306から供給される磁性ワイヤー1から切断して分離する。
【0038】
可動部30を所定方向へスライドさせることで用紙切削用刀304が用紙50の厚みの半分程度の深さでスライド方向へ用紙50を切削し、磁性ワイヤー収納リール306からガイドパイプ308を介して供給される磁性ワイヤー1が磁性ワイヤー接着機構350のローラ351により接着剤が塗布されながら用紙50の切削部に押さえつけられながら埋め込まれ、その上をローラ351が押さえつけることで埋め込まれた磁性ワイヤー1の存在を目立たないように用紙50に付与する動作が可動部30が停止するまで継続的に行われる。
【0039】
用紙50に目立たないように埋め込まれた磁性ワイヤー1は、可動部30が停止する際に反時計回り微小回転することで磁性ワイヤー切断用刃305により磁性ワイヤー収納リール306から供給される磁性ワイヤー1から切断され分離される。
【0040】
図3は、筐体部10と平行スライド部20との詳細の構成図であり、図3(a)は、筐体部60及び平行スライド部21との特徴を示すように部分的に断面図を含めた概略の正面図、図3(b)は、部分的に断面図を含む概略の右側面図、図3(c)は、平行スライド部20のストッパー23が動作するタイミングを示す図である。
【0041】
図3(a)に示すように、平行スライド部20は、可動部30が可動部30の左右の前輪302及び後輪303を介して所定の方向へスライド可能とするように略水平なレール21が左右に形成され、筐体部10は、図3(b)に示すように、平行スライド部20が所定の方向へスライド可能なように凹状の形状に成形した部分に平行スライド部20を収納し、図示せぬ平行スライド部調節装置により平行スライド部20を所望の長さだけスライド可能とするとともに、磁性素子付与装置100の筐体として構成されている。
【0042】
平行スライド部20の左右のレール21の途中には、可動部10が所定の方向へスライドする方向とは垂直な方向へ誘導し、落とすように形成された落とし込み部22とストッパー23とが設けられており、図3(c)に示すように、落とし込み部22に可動部30の後輪303が落ちることで可動部30が反時計回りに微小回転するとともに可動部30がスライドした方向とは逆方向へスライドできないようにストッパー23がレール21上に突き出るように配設されている。
【0043】
なお、ストッパー23は、落とし込み部22に可動部30の後輪303等が存在しない場合は自重により所定位置に収納され、レール21上を可動部30の前輪302等が自由にスライドできるように配設されている。
【0044】
これまで述べたように構成された磁性素子付与装置100が磁性ワイヤー1を用紙50に目立たないように付与する一連の動作について図4を参照しながら説明する。
【0045】
図4において、図4(a)は、用紙50上に置かれた磁性素子付与装置100の初期状態を示す図であり、図4(b)は、可動部30をスライドさせて磁性ワイヤー1を用紙50に目立たないように埋め込みながら接着している状態を示す図、図4(c)は、可動部30の後輪303が平行スライド部20の落とし込み部22に到達し、停止した状態を示す図である。
【0046】
図4(a)に示すように、用紙50上の任意位置に置かれた磁性素子付与装置100の初期状態では、可動部30の後側下部のスロープ部31が筐体部10の可動部受け止め部11のスロープ部111に乗り上げ、後輪303が平行スライド部20のレール21上から持ち上がり、可動部30が時計回りに微小回転した状態で設定される。
【0047】
このような状態では、可動部30の用紙切削用刀304のみが用紙50の厚みの半分程度の深さまで筐体部10から突き出し、用紙50を切削する。
【0048】
この初期設定状態にある可動部10を可動部10の取手部301を握り、所定方向に力を加えてスライドさせると、図4(b)に示すように、用紙切削用刀304が用紙50の厚みの半分程度の深さでスライド方向へ切削しながらスライドし、用紙50に切削部を形成する。
【0049】
また、可動部30のスロープ部31が筐体部10の可動部受け止め部11のスロープ部111を滑りきった所で可動部30の後輪303が平行スライド部20のレール21上に乗り、その時に磁性ワイヤー収納リール306から磁性ワイヤー接着機構350に供給されている磁性ワイヤー1が磁性ワイヤー接着機構350のローラ351により接着剤を塗布されながら用紙50の切削部に押さえつけられながら埋め込まれ、その上をローラ351が押さえつけて磁性ワイヤー1の存在を目立たないように用紙50に付与する。
【0050】
このように用紙切削用刀304による用紙50の切削と、磁性ワイヤー接着機構350による磁性ワイヤー1の埋め込み接着が可動部30のスライド中継続して行われる。
【0051】
可動部30が平行スライド部20のレール21に沿ってスライドし、可動部30の後輪303がレール21の落とし込み部22に達すると、後輪303がスライド方向とは垂直方向に落下し、可動部30が反時計回りに微小回転するとともに停止し、可動部30がスライドした方向とは逆方向へスライドできないようにストッパー23がレール21上に突き出る。
【0052】
また、可動部30が反時計回りに微小回転することで用紙切削用刀304や磁性ワイヤー接着機構350等よりかは短く配設されていた磁性ワイヤー切断用刃305が用紙50の厚み方向に突き出す状態となり、その際に用紙50に埋め込まれた磁性ワイヤー1が切断され磁性ワイヤー収納リール306から磁性ワイヤー接着機構350に供給されている磁性ワイヤー1と分離され、所望の長さの磁性ワイヤー1が用紙50の中に目立たないように付与される。
【0053】
磁性ワイヤー1を用紙50に付与後、可動部30を可動部30のスライド方向とは垂直方向に持ち上げるとレール21の落とし込み部22に落下していた後輪303が持ち上がり、ストッパー23が自重でレール21の所定位置に収納されるので可動部30をスライド方向とは逆方向にスライドさせることが可能となり、前述の図4(a)で示した初期状態に設定することができる。
【0054】
ところで、磁性素子付与装置100は、平行スライド部20を所定の方向へスライド可能とするスライド機構40を構成しており、この構成により所望の長さの磁性ワイヤーを用紙へ目立たないように付与することができる。
【0055】
具体的には、筐体部10の可動部受け止め部11からの平行スライド部20の落とし込み部22の位置を調節することで所望の長さの磁性ワイヤーを用紙へ付与することができる。
例えば、図5は、磁性素子付与装置100が所望の長さの磁性ワイヤーを用紙に目立たないよう付与する動作を説明する図である。
【0056】
図5(a)は、筐体部10の可動部受け止め部11からの平行スライド部20の落とし込み部22の位置をLだけ離間させるように平行スライド部20をスライドさせた状態を示す図であり、図5(b)は、落とし込み部22の位置を可動部受け止め部11からLだけ離間させた場合の用紙51に付与された磁性ワイヤー2を示す図、図5(c)は、落とし込み部22の位置を可動部受け止め部11からMだけ離間させるように平行スライド部20をスライドさせた状態を示す図、図5(d)は、落とし込み部22の位置を可動部受け止め部11からMだけ離間させた場合の用紙52に付与された磁性ワイヤー3を示す図である。
【0057】
図5(a)に示すように、平行スライド部20をスライドさせるスライド機構40の図示せぬ平行スライド部調節装置により筐体部10の可動部受け止め部11からの平行スライド部20の落とし込み部22の位置をLだけ離間させるように調節し、可動部30の初期状態から所定方向へスライドさせると、可動部30の磁性ワイヤー収納リール306から供給される磁性ワイヤーを用紙51に目立たないように埋め込み接着し、可動部30の後輪303が落とし込み部22に到達すると可動部30が停止するとともに、停止した位置で用紙51に埋め込み接着された磁性ワイヤー1が切断されて磁性ワイヤー収納リール306から供給されている磁性ワイヤー1と分離され、図5(b)に示すような筐体部10の可動部受け止め部11からの落とし込み部22の位置Lに対応した長さの磁性ワイヤー2が用紙51に付与される。
【0058】
また、図5(c)に示すように、可動部受け止め部11からの落とし込み部22の位置をMだけ離間させるように平行スライド部20をスライドさせて調節し、可動部30の初期状態から所定方向へスライドさせると、磁性ワイヤー収納リール306から供給される磁性ワイヤー1が用紙52に目立たないように埋め込み接着され、可動部30の後輪303が落とし込み部22に到達すると可動部30が停止するとともに、停止した位置で用紙52に埋め込み接着された磁性ワイヤー1が切断されて磁性ワイヤー収納リール306から供給されている磁性ワイヤー1と分離され、図5(d)に示すような筐体部10の可動部受け止め部11からの落とし込み部22の位置Mに対応した長さの磁性ワイヤー3が用紙52に付与される。
【0059】
このようにスライド機構40の図示せぬ平行スライド部調節装置により筐体部10の可動部受け止め部11からの平行スライド部20の落とし込み部22の位置を調節することで所望の長さの磁性ワイヤーを用紙へ付与することができる。
【0060】
磁性素子付与装置100により所望の長さの磁性ワイヤーが目立たないように付与された用紙から磁性ワイヤーを検知する方法について簡単に説明する。
【0061】
図6は、情報漏洩防止、機密保持、あるいは文書管理を目的として、所定の磁界を受けることで信号を発する磁性素子を検知する磁性素子検知装置を備えた図示せぬ複写機のプラテンガラス63上に置かれた用紙51に形成された磁性ワイヤー2を検知する方法を説明するための説明図である。
【0062】
図6に示すように、プラテンガラス63(破線部分)上に置かれた用紙51には、情報漏洩防止、機密保持、あるいは文書管理を目的として用紙51が複写不可であることを示す磁性ワイヤー2が目立たないように付与されている。
【0063】
この磁性ワイヤー2は、例えば、所望の長さで形成され、所定の磁界を受けることで磁化反転時に急峻な磁気信号を発する。
【0064】
磁性素子検知装置60は、磁性ワイヤー2が形成された用紙51に対して送信コイル61を介して所定の交番磁界601を与え、交番磁界601を受けた用紙51の磁性ワイヤー2が大バルクハウゼン効果により磁化反転時に発する急峻な磁気パルス信号602を受信コイル62を介して検出することにより、用紙51に磁性ワイヤー2が付与されていることを検知し、用紙51が複写不可の用紙であることを複写機が認識し複写禁止動作を行うように構成されている。
【0065】
図7は、用紙51及び用紙52に付与された磁性ワイヤー2及び3が所定の交番磁界601が受けて磁化反転時に急峻なパルス信号を発するような、所謂、大バルクハウゼン効果特性を有する磁性ワイヤ2及び3の特徴を示す図である。
【0066】
図7において、図7(a)は、磁性ワイヤー2及び3が磁性素子付与装置100によりそれぞれ目立たないように付与された用紙51及び52を示す図であり、図7(b)は、各磁性ワイヤーが所定の交番磁界を受けて磁化反転時に発する磁気パルスに対応して検出されたパルス信号を示す図である。
【0067】
図7(a)に示すように、磁性ワイヤ2及び3は、互いに長さが異なり、磁性ワイヤー3の長さが磁性ワイヤー2の長さより長く、線径及び材質は互いに同一であるものとする。
【0068】
磁性ワイヤー2及び3は、例えば、Fe−Co系アモルファス材であり、これらの各磁性ワイヤーが所定の交番磁界601中に置かれると、各磁性ワイヤーが有する固有の保磁力を超える磁界強度の交番磁界601を受けることでそれぞれの磁性ワイヤーが磁化反転し、その際に発する急峻な磁気パルスに対応した信号が検出される。
【0069】
磁性ワイヤー2及び3が有する保磁力は、各磁性ワイヤーの大きさ等によって異なり、例えば用紙51に付与された磁性ワイヤー2の保磁力がH1、用紙52に付与された磁性ワイヤー3の保磁力がH2とすると、これらの各磁性ワイヤーが交番磁界601を受けることにより図7(b)に示すように交番磁界601の磁界強度がH1を超える時間t1の時に磁性ワイヤー2が磁化反転し、その際にパルス信号Aが検出され、磁界強度がH2を超える時間t2の時に磁性ワイヤー3が磁化反転し、その際にパルス信号Bが検出される。
【0070】
このように、用紙51及び52にそれぞれ付与された磁性ワイヤー2及び3に対して所定の交番磁界を与えることにより、各磁性ワイヤーが磁化反転する際の急峻な磁気パルスを検出することで用紙51及び52にそれぞれ付与された磁性ワイヤー2及び3の有無と、用紙51には磁性ワイヤー2が付与され、用紙52には磁性ワイヤー3がそれぞれ付与されていることを検知することができ、複写機に備えられた磁性素子検知装置が用紙51及び52にそれぞれ付与された磁性ワイヤー2及び3の有無を検知することで用紙51及び52が複写不可の用紙であることが認識され、複写禁止動作により不正複写を防止することができるとともに用紙固有も識別可能となる。
【0071】
以上の説明では、用紙の厚みよりも細い磁性ワイヤーの磁性素子を手動で用紙表面上の任意位置に埋め込み、その存在が目立たないように付与する磁性素子付与装置を想定して説明したが、この発明に係わる磁性素子付与装置を複写機や印刷機に配設し、用紙に情報を印刷する際に、印刷前や印刷中、または印刷後に可動部30やスライド機構40を電動制御してスライドさせることで用紙の任意位置に所望の長さの磁性ワイヤーを目立たないように付与するような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】磁性素子付与装置100の一例を概略的に示した構成図
【図2】磁性素子付与装置100の可動部30の詳細を示した構成図
【図3】磁性素子付与装置100の筐体部10と平行スライド部20の詳細の構成図
【図4】磁性素子付与装置100が磁性ワイヤー1を用紙50に付与する一連動作の説明図
【図5】磁性素子付与装置100が所望の長さの磁性ワイヤーを用紙に付与する動作の説明図
【図6】用紙に付与された磁性ワイヤーを検知する方法の説明図
【図7】用紙に付与された磁性ワイヤーが所定の交番磁界が受けて磁化反転時に発する急峻な磁気パルスに対応した信号を示す図
【符号の説明】
【0073】
1、2、3 磁性ワイヤー
10 筐体部
11 可動部受け止め部
20 平行スライド部
21 レール
22 落とし込み部
23 ストッパー
30 可動部
50、51、52 用紙
60 磁性素子検知装置
61 送信コイル
62 受信コイル
63 プラテンガラス
601 交番磁界
602 磁気パルス信号
301 取手部
302 前輪
303 後輪
304 用紙切削用刀
305 磁性ワイヤー切断用刃
306 磁性ワイヤー収納リール
307 接着剤収納部
308 ガイドパイプ
350 磁性ワイヤー接着機構
351、352 ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の磁界を受けることで信号を発する磁性素子を媒体に付与する磁性素子付与装置において、
前記媒体上をスライドさせることで前記媒体を一定の深さで切削する切削手段と、前記切削手段で切削された前記媒体の切削部へ前記磁性素子を供給する磁性素子供給手段と、前記磁性素子供給手段で供給された磁性素子を前記媒体の切削部へ埋め込み接着する磁性素子接着手段と、前記磁性素子接着手段で前記媒体に埋め込み接着された磁性素子を前記磁性素子供給手段から切断して分離する磁性素子切断手段とを有する可動機構と、
前記可動機構を支持し、スライドさせるレールを備えたスライド機構とを具備し、
前記可動機構が前記スライド機構のレールに誘導されてスライドすることで前記磁性素子が前記媒体に埋め込み接着され、
前記可動機構が前記スライド機構に誘導されて停止し、微小回転することで前記磁性素子切断手段が前記媒体に埋め込み接着された磁性素子を前記磁性素子供給手段から切断して分離する
ことを特徴とする磁性素子付与装置。
【請求項2】
前記磁性素子接着手段は、
前記磁性素子供給手段で供給された磁性素子に接着剤を塗布しながら該磁性素子を前記媒体の切削部へ埋め込み接着し、前記切削部を含む前記切削部周辺を修復する
ことを特徴とする請求項1記載の磁性素子付与装置。
【請求項3】
前記スライド機構は、
前記可動機構がスライドすることで前記磁性素子を前記媒体に埋め込み接着するスライド方向とは垂直方向に誘導する落し込み部がレールの途中に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の磁性素子付与装置。
【請求項4】
前記可動機構は、
前記スライド機構のレールをスライドする車輪を更に具備し、
前記スライド機構は、
前記可動機構の車輪が前記落し込み部に到達することで前記可動機構がスライドしないようにスライド防止手段を更に具備する
ことを特徴とする請求項3記載の磁性素子付与装置。
【請求項5】
前記スライド機構の落し込み部は、
前記可動機構の車輪が前記落し込み部に到達することで前記可動機構が微小回転するように形成されている
ことを特徴とする請求項4記載の磁性素子付与装置。
【請求項6】
前記スライド機構は、
前記落し込み部が形成されたレールを前記可動機構がスライドすることで前記磁性素子を前記媒体に埋め込み接着するスライド方向に所望の長さだけスライドさせる第2のスライド機構を更に具備し、
前記第2のスライド機構により前記落し込み部が形成されたレールを所望の長さだけスライドさせ前記落し込み部の位置を移動させることで所望の長さの磁性素子を前記媒体に埋め込み接着する
ことを特徴とする請求項3乃至5記載の磁性素子付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−82406(P2006−82406A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269773(P2004−269773)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】