説明

磁性誘電体材料

【課題】GHz周波数帯域でも優れた磁気特性を有する新規な磁性誘電体材料を提供する。
【解決手段】誘電体中に磁性体を含有する磁性誘電体材料100において、単磁区構造を有する磁性体粒子111が凝集した異方形状を有する集合体110を、誘電体材料120中で略同一方向に配向分散させる。これにより、GHz周波数帯域でも優れた磁気特性を有する新規な磁性誘電体材料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体中に磁性体を含有する磁性誘電体材料に関し、特に、GHz帯の高周波領域で機能する高周波電子部品用の磁性誘電体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁性材料の磁気特性(比透磁率)は、0.1GHzを超えると周波数の増加に従って低下する(スネークの法則)。このため、磁性体を利用した電子部品は0.1GHz以下の周波数帯域でのみ使用されてきた。
【0003】
一方、携帯電話等の通信機器では、1GHz以上の高周波帯域が使用されている。近年では、機器の高性能化や高機能化に伴い、使用される電子部品にも小型化及び高性能化が一層求められている。さらに今後は、使用される周波数の高周波化や、複数の通信方式に対応できるマルチバンド化の需要が増大すると考えられることから、電子部品の高周波化及び広帯域化が希求されている。そして、これらの要求を満たすために、GHz周波数帯域でも比透磁率が低下しない磁性材料を使用した電子部品が必要とされている。
【0004】
これに対して、高周波での磁気特性を得るために、扁平形状の磁性体粒子を樹脂中に分散させた磁性材料(例えば、特許文献1を参照)や、樹脂中に分散した球状の磁性体粒子を含む磁性材料に対して着磁処理を施すことにより低損失化を実現する技術(例えば、特許文献2を参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−181905号公報
【特許文献2】特開2011−86846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2の磁性材料はいずれも、ある程度の高周波化や広帯域化は達成されるものの、1GHz周辺の周波数帯域で使用される電子部品に用いることを想定しており、携帯電話等の通信機器で用いると、依然として磁気特性が低下してしまう。このように、これまでは、GHz周波数帯域でも比透磁率が低下しない磁性材料は得られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであって、GHz周波数帯域でも優れた磁気特性を有する新規な磁性誘電体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、それ自身は磁気異方性を有していない磁性体粒子を誘電体材料中に分散させた磁性誘電体材料に対して所定の大きさの磁場を付与することにより、磁性誘電体材料自体には磁気異方性を持たせることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のある観点によれば、単磁区構造を有する磁性体粒子が凝集した異方形状を有する集合体が、誘電体材料中で略同一方向に配向分散している、磁性誘電体材料が提供される。
【0010】
ここで、前記磁性誘電体材料において、前記集合体の長短軸比(長軸/短軸)が、2以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単磁区構造を有する磁性体粒子が凝集した異方形状を有する集合体を誘電体材料中で略同一方向に配向分散させることにより、磁性誘電体材料に磁気異方性を持たせることができるので、この磁気異方性を活かしたGHz周波数帯域でも優れた磁気特性を有する新規な磁性誘電体材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料の磁場方向に平行な方向の断面を観察結果の一例を示す顕微鏡写真である。
【図3】本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料の製造方法の各工程の流れを示す説明図である。
【図4】図3の製造方法に用いる製造装置の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例1の試料の高さ方向の微細構造を示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例1の試料のヒステリシス曲線を示すグラフである。
【図7】一般的な磁性体材料の透磁率μと損失tanδ/μの周波数特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(1.磁性体材料の一般的性質)
初めに、本発明の好適な実施の形態に係る磁性誘電体材料について説明する前に、図7を参照しながら、その前提となる磁性体材料の一般的性質とその問題点について述べる。図7は、一般的な磁性体材料の透磁率μと磁気損失tanδ/μの周波数特性の一例を示すグラフである。
【0015】
図7に示すように、一般的な磁性体材料は、周波数が0.1GHzを超えると、1GHz以下の周波数で、周波数の増加に従って磁気特性(透磁率μ)が低下し、磁気損失tanδ/μが増加する(スネークの法則)。例えば、図7では、Mn−Zn系磁性体材料(図のA,B,C)、Ni−Zn系磁性体材料(図のD,E)、フェロクスプレナー(図のF)の磁気特性を示しているが、いずれの磁性体材料も、1GHz以下の周波数で透磁率μが低下し、磁気損失tanδ/μが増加している。このため、従来は、磁性体を利用した電子部品は0.1GHz以下の周波数帯域でのみ使用されてきた。
【0016】
一方、上述したように、近年、電子部品の高周波化及び広帯域化が希求されており、これらの要求を満たすために、GHz周波数帯域でも比透磁率が低下しない磁性材料を使用した電子部品が必要とされている。
【0017】
これに対して、高周波での磁気特性を得るために、樹脂等の誘電体材料に透磁率を付与するフィラーとして添加する磁性ナノ粒子が提案されている。磁性ナノ粒子とは、ナノメートルオーダーの粒子径を有する磁性体粒子である。磁性体粒子の粒子径をこのようなナノサイズ(例えば、400nm以下)にすることで、高周波(例えば、UHF帯)においては表皮効果のみとなるため渦電流損失が低減される。さらに、磁区サイズよりも小さくなるため、磁壁の移動に伴うヒステリシス損失も低減される。しかし、さらにナノ粒子化をすすめて粒子径を200nm未満にすると、磁性に寄与が少ない粒子最表面原子の数が多くなってしまうことと、格子の熱振動による超常磁性状態が発現するため、磁性が弱くなってしまう。したがって、この技術においても、粒子径をあまり小さくすることができないため、ある程度の磁気特性の向上は見られるものの、GHz周波数帯域では磁気特性が低下してしまうものと考えられる。
【0018】
また、上述したように、特許文献1では、扁平形状の磁性体粒子を樹脂中に分散させた磁性材料が提案されている。この技術では、磁性ナノ粒子を扁平形状に制御することで、磁性体ナノ粒子に透磁率の異方性が生じ、この異方性を活用して、比透磁率を向上させることとしている。しかし、特許文献1の技術のように、磁性ナノ粒子の形状異方性を利用して比透磁率を向上させたとしても、せいぜい数GHz程度までしか磁性を発現することはできなかった。
【0019】
さらに、特許文献2では、樹脂中に分散した球状の磁性体粒子を含む磁性材料に対して着磁処理を施すことにより低損失化を実現する技術が提案されている。この技術では、粒子径が1μm程度の多磁区構造を有する磁性体粒子を誘電体材料中に分散させ、着磁処理を施すことで、磁区内の磁化の向きをそろえることにより、磁気損失を低減させることとしている。しかしながら、特許文献1の技術でも、磁気損失は低減されるものの、GHz周波数帯域で使用可能な磁気特性を有することはできなかった。
【0020】
このように、従来の磁性材料はいずれも、ある程度の高周波化や広帯域化は達成されるものの、1GHz以上(特に、5GHz以上)の周波数帯域で使用される携帯電話等の通信機器で用いると、依然として、GHz周波数帯域でも磁気特性が低下しない磁性材料は得られていなかった。
【0021】
(2.高透磁率化の検討)
ここで、図7に示すように、一般の磁性体材料には、磁性を発現するための周波数に限界があり(いわゆるスネークの限界則)、磁性を発現する限界周波数fは、次式(1)で表される。
【0022】
【数1】

【0023】
式(1)において、γは磁気回転比、Hは磁場の大きさを示す。すなわち、磁性を発現する限界周波数fは磁場の大きさに比例する。
【0024】
また、式(1)における磁場の大きさHは、次式(2)で表される。
【0025】
【数2】

【0026】
式(2)において、それぞれ、Hexは外部磁場の大きさ、Hdipは双極子磁場の大きさ、Hは反磁場の大きさ、Hは異方性磁場の大きさ、h(t)は交流磁場の大きさを示す。
【0027】
以上の式(1)及び式(2)より、磁性を発現する限界周波数fは、外部磁場の大きさ、双極子磁場の大きさ、反磁場の大きさ、異方性磁場の大きさ、及び交流磁場の大きさの合計に比例することがわかる。
【0028】
以上の理論に基づき、本発明者らは、磁性をより高周波帯域で発現させるために、磁気異方性に相当するHを増加させることにより、磁性が発現する限界周波数(共鳴周波数)を高周波化し、これにより、一般的な磁性体粒子よりも広い周波数帯域で磁性を保持させることができる、ということを見出した。さらに、本発明者らは、磁性体粒子の磁性誘電体材料中への充填率を高めることにより、Hdip(磁気双極子相互作用)の効果も利用でき、更に高周波領域で磁性を発現させることが可能となることも知見した。
【0029】
ただし、上記特許文献1の技術のように、磁性ナノ粒子自体の形状に異方性を持たせるだけでは、GHz周波数帯域の広い領域で磁性を発現できない。また、上述したように、比透磁率を上げることに加え、磁気損失を低減させることも必要であるが、そのためには、磁性ナノ粒子を利用して、表皮効果のみとして磁気損失を低減させる必要がある。
【0030】
そこで、本発明者らは、上記で得られた知見を基に鋭意検討を行った結果、それ自身は磁気異方性を有していない磁性体粒子、すなわち、単磁区構造を有する磁性体粒子を、樹脂等の誘電体材料中に分散させた磁性誘電体材料に対して、磁場を印加することにより、磁性体粒子が凝集した異方形状を有する集合体を誘電体材料中に形成し、これにより磁気異方性を発現させることを見出すに至った。磁性誘電体材料がこのような構造を有することにより、磁気損失を低減させる磁性ナノ粒子を用いた場合でも、磁性誘電体材料自体には磁気異方性を持たせることができ、更には、異方形状を有する集合体を形成することにより、磁性誘電体材料に従来よりも遥かに大きな磁気異方性を持たせることができる。したがって、上記磁性誘電体材料を用いれば、磁気異方性を活かしたGHz帯高周波領域で使用可能な高性能な電子部品を得ることができる。以下、本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料について詳細に説明する。
【0031】
(3.磁性誘電体材料の構成)
まず、図1を参照しながら、本発明に係る磁性誘電体材料の構成について説明する。図1は、本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料の構成を示す説明図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る磁性誘電体材料100は、磁性体粒子111が凝集して形成された異方形状を有する集合体110が、誘電体材料120中で略同一方向に配向分散している構造を有している。
【0033】
(磁性体粒子111)
磁性体粒子111は、単磁区構造を有する磁性ナノ粒子である。磁性体粒子111の材料としては、磁性を有するものであれば特に限定はされないが、例えば、Fe、FeCo、FeNi、Co、Fe等を使用できる。また、磁性体粒子111自体は、磁気異方性を有しておらず、単磁区構造を有する略球状の粒子であるが、その粒子径は、例えば、6nm以上50nm以下であることが好ましい。磁性体粒子111の粒子径が6nm未満であると、各粒子の飽和磁化等の磁気特性が小さすぎて、かつ、粒子の表面活性が高く凝集し易いために、磁性体粒子111を誘電体材料120中に均一に分散させることが困難となり、磁気損失の低減等の要求特性を満足できない場合がある。一方、磁性体粒子111の粒子径が50nmを超えると、粒子が多磁区構造となり、高周波帯域での磁気損失が増大し、磁気損失の低減等の要求特性を満足できない場合がある。
【0034】
(集合体110)
集合体110は、誘電体材料120中に分散している磁性体粒子111に磁場を印加することで形成される、磁性体粒子111の凝集体である。ここで、本明細書における「凝集」とは、磁性体粒子111が接触している状態を示しているわけではなく、近接して分布している状態を意味している。すなわち、集合体110において、磁性体粒子111同士は接触していない。ここで、磁性体粒子111の表面を、有機物や表面酸化層のような非磁性で絶縁性の材料で被覆することにより、磁性体粒子111同士を直接接触させずに孤立させながら分布させることができる。この状態を保持しながら磁性体粒子111を誘電体材料120中に高密度に分布させることにより、高周波磁気特性の優れた磁性誘電体材料100を製造することができる。仮に、磁性体粒子111の表面に形成された層も磁気特性を保有する材料の場合、集合体110は、みかけ上大きな磁性体粒子と同じ状態となり、高周波領域では、渦電流による磁気損失が増大し、磁気特性が悪化することになる。
【0035】
また、集合体110は、異方形状を有している。ここでいう「異方形状」とは、磁性誘電体材料100に印加する磁場方向に平行な断面において、集合体110の長軸(集合体110の配向方向の軸)の長さと短軸(集合体110の配向方向に垂直な方向の軸)の長さとが異なる形状を有するものである。すなわち、集合体110の形状としては、長軸の長さと短軸の長さとが異なる任意の形状が含まれるが、具体例としては、針状、棒状、柱状、回転楕円体等の形状が挙げられる。これにより、磁性体粒子111自体は単磁区構造であるために磁気異方性を有しないが、集合体110には磁気異方性を持たせることができる。
【0036】
以上のように、集合体110は異方形状を有するものであるが、集合体110の長短軸比(長軸の長さ/短軸の長さ)は、2以上であることが好ましい。長短軸比が2未満である場合には、集合体110の磁気異方性が小さく、共鳴周波数(限界周波数)の高周波化が不十分であるために、GHz周波数帯域の広い領域で磁気特性を発現するという要求特性を満足できないことがある。一方、集合体110の長短軸比は大きいほど共鳴周波数がより高周波化するため、特に上限値は定めず、磁性誘電体材料100の製造条件等に応じて適宜定めればよい。
【0037】
また、集合体110が複数存在する場合には、各集合体110は、誘電体材料120中で、略同一方向に配向分散している。集合体110の配向方向は、後述するように、磁性誘電体材料100を製造する際に印加する磁場の方向と平行な方向である。ここで、本発明における「配向分散」とは、各集合体110の長軸方向が略同一の方向になるとともに、各集合体110が、誘電体材料120中に分散して分布していることを意味している。
【0038】
(誘電体材料120)
誘電体材料120としては、一般的な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を使用することができ、例えば、ポリエポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ABS樹脂、等が挙げられる。
【0039】
(磁性体粒子111の充填率)
また、Hdip(磁気双極子相互作用)の効果も利用して、更に高周波領域で磁性を発現させるという観点から、磁性体粒子111の誘電体材料120中への充填率を高めることが好ましい。具体的には、磁性体粒子111の誘電体材料120中への充填率は、10体積%以上とすることが好ましい。磁性体粒子111の充填率が10体積%未満の場合、磁性体粒子111の含有量が少なすぎるため、磁性誘電体材料100の透磁率が小さくなり、GHz周波数帯域の広い領域で磁気特性を発現するという要求特性を満足できないことがある。一方、磁性体粒子111の充填率が高すぎると、磁性誘電体材料100中に磁性体粒子111を均一に分散することが困難となり、磁性誘電体材料100の機械的強度が小さくなるという問題がある。この観点から、磁性体粒子111の充填率は、50体積%以下とすることが好ましい。
【0040】
以上のような構成により、本実施形態に係る磁性誘電体材料100では、磁気共鳴周波数を高周波化できるため、この磁性誘電体材料100を用いることにより、GHz帯域でより広帯域化が可能な電子部品を提供できる。
【0041】
(磁性誘電体材料100の構造の確認方法)
磁性体粒子111により異方形状を有する集合体110が形成されており、この集合体110が誘電体材料120中で略同一方向に配向分散していることは、例えば、磁性誘電体材料100に印加した磁場方向に平行な方向の断面と垂直な方向の断面を、顕微鏡等を用いて観察することにより確認することができる。
【0042】
ここで、参考までに、本発明に係る磁性誘電体材料100の磁場方向に平行な方向の断面を顕微鏡観察した結果を図2に示す。図2に示すように、誘電体材料120中に分散している粒子径が10nm程度の略球状の磁性体粒子111(図2の例ではFe粒子)に対し、所定の磁場を印加することにより、磁性体粒子111が集合した針状の集合体110(針の直径が100〜150nm、長短軸比(アスペクト比)〜5)が形成されることがわかる。
【0043】
(4.磁性誘電体材料の製造方法)
以上、本発明の好適な実施形態に係る磁性誘電体材料100の構成について詳細に説明したが、続いて、図3及び図4を参照しながら、上述した構成を有する磁性誘電体材料100の製造方法について詳細に説明する。なお、図3は、本実施形態に係る磁性誘電体材料100の製造方法の各工程の流れを示す説明図であり、図4は、図3の製造方法に用いる製造装置の一例を示す説明図である。
【0044】
(第1工程)
図3に示すように、磁性誘電体材料100製造の第1工程では、上述した磁性体粒子111(例えば、Fe粒子)と、誘電体材料120と、硬化剤(図示せず。)とを混合し、誘電体材料120中に磁性体粒子111と硬化剤が分散した分散体を調製する。なお、第1工程で用いる硬化剤は、誘電体材料120として用いられる樹脂等の種類に応じて適宜選定すればよい。
【0045】
(第2工程)
次に、第1工程で調製された分散体(混合物)に、所定の大きさの磁場Hfixを印加することにより、磁性体粒子111を印加した磁場Hfix方向に配向させ、整列させる。このとき、印加する磁場Hfixの大きさとしては、異方形状を有する集合体110が形成されるように、磁性体粒子111を配向・整列させることができる程度であればよいが、具体的には、1kOe以上であることが好ましい。このように磁場Hfixの大きさを制御することにより、長短軸比が2以上の集合体110を形成することができる。以上の工程により、磁性体粒子111を、誘電体材料120中で略同一方向(磁場Hfix方向)に配向分散するように分布させることができる。なお、Hfixの上限値に関しては、特に規定する必要はなく、磁場を印加する装置の能力に依存する。
【0046】
(第3工程)
さらに、第2工程で印加した磁場Hfixを印加したまま、分散体(混合物)を加熱して誘電体材料120を重合固化させる。このときの加熱温度及び加熱時間は、誘電体材料120を重合固化させ、第2工程で配向分散された磁性体粒子111の位置を固定することができる程度であればよい。例えば、誘電体材料120としてポリスチレン樹脂を用いた場合には、上記分散体を25℃〜100℃で12時間〜48時間程度加熱することが好ましい。
【0047】
以上の第1〜第3工程を経ることにより、誘電体材料120中に、磁性体粒子111が集合した異方形状を有する集合体110が配向分散された、磁性誘電体材料100を製造することができる。
【0048】
(製造装置)
上述した磁性誘電体材料100の製造は、図4に示すようなチューブ状の装置を用いて実施することができる。すなわち、図4に示すように、磁性誘電体材料100の製造装置は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂製のチューブ11を用いることができる。チューブ11内部は、磁性体粒子111と誘電体材料120と硬化剤の混合物を充填可能なロッド13を構成している。そして、この状態で、チューブ11の中心軸方向に磁場H3Tを印加し、さらに、チューブ11全体を所定条件(例えば、80℃で20時間)で加熱することにより、磁性誘電体材料100が製造される。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明が、以下の実施例により限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜3)
実施例1〜3では、磁性体粒子としてFe粒子を使用した。Fe粒子としては、ペンタカルボニル鉄を出発素材として、1−オクタデセン有機溶媒中での熱分解法によって作製したものを使用した。下記表1に示す粒子径のFe粒子と、誘電体材料としてのポリスチレンと、硬化剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AlBN)とを、表1に示すFe粒子の充填率となるように混合し、内径3mmのPTFE製チューブ(図4を参照)に注入した。硬化剤は、Fe粒子とポリスチレンに対して2質量%添加した。直流磁場を高さ方向(チューブの中心軸方向)に30kOe印加しながら、80℃で20時間硬化処理した。硬化後、高さ方向に磁場配向された、外径3mm、高さ8mmの円柱状試料(磁性誘電体材料)を得た。実施例1の試料の高さ方向の微細構造を図5に示す。実施例1の試料は、粒子径6.7nmのFe粒子が、長短軸比500以上の針状集合体を形成し、ポリスチレン樹脂中に1方向に配向しながら分布していることが確認できる。
【0051】
続いて、上記で得られた円柱状試料のヒステリシスを計測した。ヒステリシス計測は、硬化時の磁場配向方向に平行と垂直方向、それぞれについて行った。ヒステリシス曲線の形状差に相当する部分の面積から、異方性磁界Hkを算出した。図6に、実施例1の試料のヒステリシス曲線を示す。
【0052】
ヒステリシス計測後、長さ方向が磁場配向方向に平行となるように長さ4mm、幅3mm、厚さ1mmの角板試料を切り出して、高周波磁気特性を計測した、計測は凌和電子製高周波透磁率計測装置PMM−9G1を使用して、1MHz〜9GHzの周波数範囲で行った。透磁率虚部の共鳴周波数及び3GHzでの透磁率実部の値を表1に示した。
【0053】
(比較例1〜3)
硬化処理時の直流磁場印加を行わない以外は、実施例1と同様に試料作製及び計測を行った。実験条件及び計測値を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
硬化処理時の直流磁場を1kOeにする以外は、実施例1と同様に試料作製及び計測を行った。実験条件及び計測値を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、本発明を適用した磁性誘電体材料(実施例1〜4)は、透磁率虚部の共鳴周波数が、より高周波側に存在していた。これにより、本発明に係る磁性誘電体材料は、GHz周波数帯域を含む広帯域で高性能な高周波用電子部品に有効に適用可能であることがわかる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0058】
100 磁性誘電体材料
110 集合体
111 磁性体粒子
120 誘電体材料



【特許請求の範囲】
【請求項1】
単磁区構造を有する磁性体粒子が凝集した異方形状を有する集合体が、誘電体材料中で略同一方向に配向分散していることを特徴とする、磁性誘電体材料。
【請求項2】
前記集合体の長短軸比(長軸/短軸)が、2以上であることを特徴とする、請求項1に記載の磁性誘電体材料。



【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45859(P2013−45859A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182162(P2011−182162)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】