説明

磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子、その製造方法、粒子分散液及び樹脂組成物。

【課題】本発明は、各種溶媒に対して、数十ナノレベルで高分散し、その分散性に持続性がある磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を提供すること。
【解決手段】磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子。
【化1】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性を有する磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子、その製造方法、該コンポジット粉末状粒子を含有する粒子分散液及び樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネタイトなどの強磁性酸化鉄は、化学的に安定で比較的大きな磁性を有する微粒子であることから、これまで磁気記録媒体、磁性流体または磁性トナーなどの様々な用途に広く利用されてきた。
【0003】
近年では、例えば免疫測定における磁気濃縮・分離担体などをはじめとする医療やバイオテクノロジー等の分野に対して磁性酸化鉄粒子を応用する展開が拡大しており、従来の用途ではあまり重要視されていなかった様々な特性が酸化鉄粒子に要求されるようになってきた。例えば、従来に比べて粒子形状または粒子サイズがよく揃っていることや、溶媒によく分散しうることなどの特性が求められるようになってきた。
【0004】
本発明者らは、先に、水、有機溶媒および高分子材料中にナノ乃至ミクロンレベルで分散することができる磁性酸化鉄として、少なくとも親水性基を有する単位を含むオリゴマー骨格を有し、該骨格の末端がポリフルオロアルキル基からなる含フッ素オリゴマーからなる修飾基を含む分散性磁性酸化鉄を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−289794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、更に各種溶媒に対して、数十ナノレベルで高分散し、その分散性に持続性がある磁性酸化鉄について研究を進める中で、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーで該磁性酸化鉄を複合化すると、分散性及び分散持続性が更に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の目的は、各種溶媒に対して、数十ナノレベルで高分散し、その分散性に持続性がある磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子、その工業的に有利な製造方法、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が高分散した粒子分散液及び樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供する第1の発明は、磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子である。
【化1】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0009】
また、本発明が提供する第2の発明は、磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応生成物で複合化されてなることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子である。
【化2】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zはイソシアナート含有基を示す。m3は5〜1000の整数である。m1とm2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0010】
また、本発明が提供する第3の発明は、磁性酸化鉄粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法である。
【0011】
また、本発明が提供する第4の発明は、第一鉄塩と第二鉄塩を含む溶媒に、アルカリを添加して反応を行って磁性酸化鉄を製造する方法において、前記溶媒に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有させて、アルカリを添加し反応を行うことを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法である。
【0012】
また、本発明が提供する第5の発明は、磁性酸化鉄粒子と、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含む溶媒を調製し、次いで前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応を行うことを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法である。
【0013】
また、本発明が提供する第6の発明は、第1の発明と第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液である。
【0014】
また、本発明が提供する第7の発明は、第1の発明と第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各種溶媒に対して、数十ナノレベルの極めて高い分散性を有し、また、分散性に持続性がある磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を提供することが出来る。また、本発明によれば、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1〜6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のFT−IRチャート。
【図2】実施例1〜4で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のX線回折図。
【図3】実施例5〜6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のX線回折図。
【図4】実施例2で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のTEM写真。
【図5】実施例1〜3で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールへ分散させた分散液の吸光度500nmでの光透過率の経時変化を示す図。
【図6】実施例1〜3で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールへ分散させた分散液の吸光度500nmでの相対濁度の経時変化を示す図。
【図7】実施例12〜14で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のFT−IRチャート。
【図8】実施例12〜14で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のX線回折図。
【図9】実施例14で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のTEM写真。
【図10】実施例22で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子のTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明に係る第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とするものである。
【化3】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0018】
また、本発明に係る第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応生成物で複合化されてなることを特徴とするものである。
【化4】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zはイソシアナート含有基を示す。m3は5〜1000の整数である。m1とm2のモル比は1:99〜99:1である。}
【0019】
第1及び第2の発明で用いる磁性酸化鉄粒子は、マグネタイト(Fe)及びγ−マグヘマイト(γ−Fe)が好ましく用いられる。
【0020】
かかる磁性酸化鉄粒子の好ましい諸物性は、ナノ粒子であれば特に制限なく用いることができるが、特に本発明によれば数十ナノレベルでの分散が可能である点で、磁性酸化鉄粒子の平均粒子径は100nm以下、好ましくは1〜100nmの範囲のものが好適に用いられる。なお、該磁性酸化鉄粒子には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の鉄化合物、例えばα−ヘマタイト、水酸化鉄等を含有していてもよい。
【0021】
第1の発明で用いる前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、公知の化合物であり、例えば、下記反応式(A-1)に従って製造することが出来る。
【化5】


(式中、R、R、B、n1、n2及びn3は前記と同義。)
【0022】
即ち、一般式(a1)で表される過酸化フルオロアルカノイル類と、前記一般式(a2)で表されるスルホン酸化合物及び(3a)で表されるアダマンチル基含有化合物とをモル比で通常1:1〜100:1〜100、好ましくは1:1〜50:1〜50で、100℃以下、好ましくは10〜50℃で20時間以内、好ましくは2〜5時間、ハロゲン化脂肪族系の溶媒中で反応を行うことにより目的とする前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを製造することができる(例えば、Langmuir, Vol.23, No.11, 5848−5851p(2007)参照)
【0023】
本発明の第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察では、1個又は2個以上の磁性酸化鉄粒子が前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマー中に包接されて含有されるか、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子表面に吸着されて含有されるか、或いはフルオロアルキル基含有オリゴマーの粒子内部と粒子表面の両方に存在して含有される。
磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の磁性酸化鉄の含有量は1重量%以上、好ましくは2〜95重量%であることが各種用途に適用できる観点から好ましい。
【0024】
本発明の第2の発明で用いるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、前記一般式(2)で表わされる。該フルオロアルキル基含有オリゴマーは架橋反応可能なイソシアナート含有基を有し、本発明の第2の発明では、磁性酸化鉄を複合化するフルオロアルキル基含有オリゴマーは、前記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応生成物である。
【0025】
一般式(2)の式中のZはイソシアナート含有基を示す。該イソシアナート含有基としては、例えば、下記一般式(3)又は(4)で表わされる基を用いることが好ましい。
【化6】


(式中、Bはアルキレン基を示す。A及びAはアルキル基を示す。)
前記一般式(3)の式中のBのアルキレン基としては、炭素数1〜5、好ましくは1〜4のアルキレン基が好ましい。一般式(3)の式中のA及びAのアルキル基としては、炭素数1〜5、好ましくは1〜3のアルキル基が好ましい。A及びAは異なる基であっても同一の基であってもよい。
【0026】
【化7】


(式中、Bはアルキレン基を示す。)
前記一般式(4)の式中のBのアルキレン基としては、炭素数1〜5、好ましくは1〜3のアルキレン基が好ましい。
【0027】
本発明において、特に一般式(2)の式中のZは、前記一般式(3)で表されるイソシアナート含有基が特に好ましく用いられる。
【0028】
前記一般式(2)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーは公知の化合物であり、例えば、下記反応式(A−2)に従って製造することが出来る。
【化8】


(式中、R、R、Z、m1、m2及びm3は前記と同義。)
【0029】
即ち、一般式(a1)で表される過酸化フルオロアルカノイル類と、前記一般式(a4)で表されるイソシアネート基含有化合物とをモル比で通常1:1〜100:1〜100、好ましくは1:1〜50:1〜50で、100℃以下、好ましくは10〜50℃で20時間以内、好ましくは2〜5時間、ハロゲン化脂肪族系の溶媒中で反応を行うことにより目的とする前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを製造することができる(例えば、特開2007−238760号公報、特開2007−239022号公報参照)。
【0030】
本発明の第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察では、1個又は2個以上の磁性酸化鉄粒子が該フルオロアルキル基オリゴマーの架橋反応生成物中に包接されて存在する。磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の磁性酸化鉄の含有量は1重量%以上、好ましくは2〜95重量%であることが各種用途に適用できる観点から好ましい。
【0031】
本発明の第1の発明及び第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子において、他の好ましい物性は、平均粒子径が10〜990nm、好ましくは20〜600nmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、種々の分散溶媒又は樹脂材料等への分散性が良好である点で好ましい。
【0032】
第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、以下の2つの方法により工業的に有利に製造することができる。
(A)磁性酸化鉄粒子と、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させる方法(以下、「A法」と呼ぶ)。
(B)第一鉄塩と第二鉄塩を含む溶媒に、アルカリを添加して反応を行って磁性酸化鉄を製造する方法において、前記溶媒に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有させて、アルカリを添加し反応を行う方法(以下、「B法」と呼ぶ)。
【0033】
前記A法における接触方法は、例えば前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶媒に溶解した溶液に、前記磁性酸化鉄粒子を添加して、攪拌及び/又は超音波処理をすることにより行われる。
A法では、磁性酸化鉄粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子表面に吸着されて複合化されたもが得られやすい。
【0034】
A法に係る溶媒は、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解でき、該フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄に対して不活性な溶媒が用いられる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に好ましい。
【0035】
A法におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解した溶液の濃度は、該フルオロアルキル基含有オリゴマーが溶解可能な濃度であれば、特に制限されるものではないが、通常1〜70重量%、好ましくは2〜50重量%である。
【0036】
A法における磁性酸化鉄の添加量は、フルオロアルキル基含有オリゴマー100重量部に対して100〜80000重量部、好ましくは200〜70000重量部である。
【0037】
A法における接触条件は接触温度が、5〜100℃、好ましくは10〜50℃である。また、接触時間は、0.1時間以上、好ましくは0.5〜10時間である。
【0038】
所定の時間接触させた後、反応液から目的物を回収し、回収物を乾燥して第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。なお、反応溶液から目的物を回収する方法としては、例えば該反応液を遠心分離処理し、未反応の磁性酸化鉄を沈殿物として沈降させ、該沈殿物を反応液から除去し、必要により精製を行って、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0039】
前記B法では、通常、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶媒に溶解した溶液に、第一鉄塩と第二鉄塩を添加し、次いでアルカリを添加し第一鉄塩と第二鉄塩の加水分解反応を行うことにより行われる。
B法では、TEM(透過型電子顕微鏡)観察では、1個又は2個以上の磁性酸化鉄粒子が前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマー中に包接されて含有されて複合化されたもの、或いは磁性酸化鉄粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマーの粒子内部と粒子表面の両方に存在して含有されて複合化されたものが得られやすい。
【0040】
B法に係る溶媒は、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマー及び第一鉄塩と第二鉄塩を溶解できるものであれば特に制限はないが、多くの場合は溶媒として水が用いられる。
【0041】
B法におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解した溶液の濃度は、該フルオロアルキル基含有オリゴマーが溶解可能な濃度であれば、特に制限されるものではないが、通常1〜80重量%、好ましくは5〜50重量%である。
【0042】
第一鉄塩としては、塩化第一鉄(FeCl2)、硫酸第一鉄(FeSO4)、 硝酸第一鉄( Fe(NO3)2) 等が、また第二鉄塩としては、塩化第二鉄(FeCl3)、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3) 、硝酸第二鉄( Fe(NO3)3)等が使用し得るが、塩化第一鉄および塩化第二鉄が特に好ましく用いられる。なお、該第一鉄塩及び第二鉄塩は含水物であっても無水物であってもよい。
【0043】
第一鉄塩と第二鉄塩を用いる反応は、下記反応式(B)が示す如く行われ、マグネタイトが生成される。
2Fe3++Fe2++4OH- →FeO・Fe2 3 +4H+ ・・(B)
【0044】
第一鉄塩の第二鉄塩の添加割合は、第一鉄イオン(Fe2+)及び第二鉄イオン(Fe3+)とを、両者のモル比(Fe2+/Fe3+)で0.1〜10とすることが好ましい。また、第一鉄塩と第二鉄塩のフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解した溶液への添加量は、一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマー100重量部に対して、生成されるマグネタイトが1〜99重量部、好ましくは5〜95重量部となるように添加することが好ましい。
【0045】
使用できるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、或いはアンモニア水等を用いることができる。アルカリの添加量は、反応当量以上で行うことが好ましい。
【0046】
B法における反応温度は5〜50℃、好ましくは10〜40℃で、反応時間は0.5時間以上、好ましくは0.5〜5時間である。
【0047】
反応終了後、反応液から常法により沈殿物を回収し、回収した沈殿物を乾燥して第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0048】
第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、磁性酸化鉄粒子と、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含む溶媒を調製し、次いで前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応を行うことにより製造することが出来る。
【0049】
具体的な反応操作は、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶媒に溶解し、該溶液に磁性酸化鉄を添加し、次いで反応系を加熱してイソシアネート基の架橋反応を行う。
【0050】
前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解する溶媒としては、該フルオロアルキル基含有オリゴマー及び磁性酸化鉄に対して不活性な溶媒であれば特に制限はないが、N,N−ジメチルホルムアミドを用いると未反応の磁性酸化鉄と生成物との反応液からの分離が容易となる点で特に好ましい。
【0051】
前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解した溶液の濃度は、該フルオロアルキル基含有オリゴマーが溶解可能な濃度であれば、特に制限されるものではないが、通常1〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。
【0052】
磁性酸化鉄の添加量は、前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100重量部に対して100〜80000重量部、好ましくは200〜70000重量部である。
【0053】
架橋反応は加熱を行うことにより行われる。加熱温度は100〜150℃、好ましくは110〜130℃で、加熱時間は0.5時間以上、好ましくは1〜5時間である。
【0054】
架橋反応終了後、反応液を遠心分離処理し、未反応の磁性酸化鉄を沈降させ、次いで沈殿物を除去した反応液から溶媒を除去し、必要により再結晶等の精製を行って、本発明の第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を得ることができる。
【0055】
本発明の第1の発明及び第2の発明に係る磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、例えば、磁気テープ、高密度磁気記録媒体、電磁波遮断用材料、バイオ診断薬等の磁性材料の用途に好適に用いることができる。また、磁性酸化鉄として、マグヘマイト粒子を用いたものは、特に600nmの可視光を効果的に吸収する。また、光を吸収し親水性を示す等の特性を有する。従って、該磁性酸化鉄として、マグヘマイト粒子を用いたものは、光触媒や太陽電池の電極の用途に対しても期待できる。
【0056】
本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液は、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されている分散液である。
【0057】
本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、種々の分散溶媒に対して高い分散性を示す。そのため、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を分散溶媒に分散させて得られる分散液、すなわち、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液では、磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が凝集せずに分散しているので、目視において固形物が観察されない。
【0058】
また、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液は、特開2005−289794号公報の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子に比べ、、分散性に持続性がある。即ち、従来のものは、時間の経過とともに徐々に分散状態に変化が見られるが、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液は少なくと12時間以上経過してもその分散状態に変化が認められない。即ち12時間以上も沈殿物が全くと言ってよいほど観察されず、従来のもの以上に磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が溶媒に高分散し、なお且つその分散持続性にも優れている。
【0059】
また、本発明に係る磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液は、遠心分離処理を行っても、沈澱物が僅かに観察されるだけで、遠心分離後も溶媒に高分散している。一方、分散液に永久磁石を近づけると沈殿物が沈降し、綺麗な上澄み液が得られるが永久磁石から遠ざけると自然に均一に再分散する等の特性を有する。
【0060】
本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る分散溶媒としては、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子に不活性で、均一分散可能なものであれば特に制限はなく、水又は有機溶媒のいずれでもよく、また、有機溶媒としては、極性有機溶媒又は非極性有機溶媒のいずれでもよい。本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液に係る有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、tert−ブチルアルコール、水等が挙げられ、特に本発明の第1の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、水、メタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、tert−ブチルアルコールに対して極めて高い分散性を示す。また、本発明の第2の発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、メタノールに対して極めて高い分散性を示す。
【0061】
本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液中、磁性酸化鉄の濃度は、用途や使用方法等を考慮して適宜調整すればよく特に制限されるものではなく、多くの場合、0.1〜90重量%である。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を含有する。言い換えると、本発明の樹脂組成物は、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が、樹脂材料に分散されている。そして、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、微細でありかつ樹脂材料への分散性が高いので、本発明の樹脂組成物は、磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が微細でかつ均一に分散された樹脂組成物である。
【0063】
本発明の樹脂組成物において、磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を分散させる樹脂材料としては、特に限定はなく、ゴムの組成物として用いる場合には、例えば天然ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム(SBR)、アクロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン−プロピレン系ゴム(EPPM)、クロロブチレンゴム(CR)、ポリイソブチレンゴム、アルリルゴム、水素化アクロニトリル−ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴム、クリリスルホン化ゴム、シリコーンゴム及びこれらの変性物等が挙げられ、これらは、2種以上のブレンドゴムであってもよい。また、その他シート、フィルム、容器、繊維等の樹脂成型品を得る場合にマトリックスとなる樹脂類としては、例えばポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリールフタレート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂、アルキド樹脂、メラニン樹脂、グアナジン樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、含フッ素樹脂及びそれらの変性物等が挙げられる。
【0064】
本発明の樹脂組成物中、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の含有量は、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.5〜50重量%である。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物は、他の成分として、ホワイトカーボン、カーボンブラック、ゼオライト、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム等の無機質充填剤、ハイスチレン樹脂、リグニン、フェノール樹脂等の有機質充填剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、体質顔料、分散助剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、軟化剤、老化防止剤、可塑剤等のかかる分野で公知の添加剤を含有することができる。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、例えば、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子と、所望の樹脂材料とを混合し、溶融ブレンド等することにより、樹脂材料に本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を分散させて製造される。また、本発明の樹脂組成物は、例えば、所望の樹脂材料を溶媒に溶解させた樹脂溶液に、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子又は本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子分散液を添加し、混合した後、例えば、フィルム状等所望の形状に成形し、乾燥して、溶媒を蒸発除去することにより製造される。
【0067】
本発明にかかる磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を含有する樹脂組成物は、撥水撥油性を有し、特に電磁波遮断用等の用途で好適に使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
<フルオロアルキル基含有オリゴマーの調製>
(前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「Rf−AMPSオリゴマー」ということもある)の合成))
(合成例A1)
フッ素系溶媒AK−225(商品名:旭硝子社製アサヒクリンAK−225)中、開始剤:過酸化フルオロアルカノイル(RCO[R:−CF(CF3)OC]の2.95mモルを用い、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の2.95mモルおよび3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリラートの17.7mモルを、窒素下45℃で5時間攪拌し、反応を行った。反応後、遠心分離を行って未反応モノマーを除去した後、AK−225で数回洗浄し、さらに遠心分離して、反応生成物を回収した。得られた反応生成物を真空乾燥機で1日間乾燥して、目的のオリゴマーを得た。
得られたオリゴマーのH−NMRで求めた共重合比(モル比)n1:n2=11:89であった。
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(Shodex社製DS−4)で分子量を測定しが、数平均分子量Mnは測定不可であった。
【0070】
(合成例A2〜A6)
各原料の仕込みモル比を変えた以外は、合成例A1と同様な反応操作で目的とするオリゴマーを得た。
【0071】
【表1】

【0072】
(合成例2;前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「Rf−IEMオリゴマー」と略記することもある))
フッ素系溶媒AK−225(商品名:旭硝子社製アサヒクリンAK−225)中、開始剤:過酸化フルオロアルカノイル(RCO[R:−CF(CF3)OC]の11.9mモルを用い、アクリル酸 2−([1’−メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチルの11.9mモルおよび3−ヒドロキシ−1−アダマンチルアクリラートの11.9mモルを、窒素下45℃で5時間攪拌し、反応を行った。反応後、遠心分離を行って未反応モノマーを除去した後、AK−225で数回洗浄し、さらに遠心分離して、反応生成物を回収した。得られた反応生成物を真空乾燥機で1日間乾燥して、目的のオリゴマー15.1gを得た。収率は58%であった。
得られたオリゴマーのH−NMRで求めた共重合比(モル比)m1:m2=21:79であった。
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(Shodex社製DS−4)で分子量を測定した。数平均分子量Mnは9130、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。
【0073】
【表2】

【0074】
(磁性酸化鉄)
実施例で使用した磁性酸化鉄粒子は、以下の市販のものを使用した。なお、平均粒子径はレーザー光散乱法により求めた値である。
(1)マグネタイト(Fe);平均粒子径10nm、戸田工業社製
(2)マグヘマイト(Fe);平均粒子径50nm、戸田工業社製
【0075】
{実施例1〜6}
N,N−ジメチルホルムアミドを溶媒として、上記で調製したフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(B1)1g、表3に示す割合でマグネタイト粒子を加え、2日間超音波を照射した。次いで130℃で1時間、架橋反応を行った。反応終了後、遠心分離により反応液から未反応のマグネタイト粒子を除去した。次いで、反応液を濃縮し、残渣を得た後、得られた残渣をアセトンで再沈殿を行い、デカンテーションし、真空乾燥機で1日間乾燥して磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を得た。
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、いずれの実施例においてもフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(B1)の架橋生成物に起因するピークが観察された(図1参照)。また、得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、Feに由来するピークが観察された(図2、図3参照)。
また、TEM観察により、マグネタイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(B1)の架橋生成物中に取り込まれ、該マグネタイト粒子がカプセル化されていることが確認できた。実施例2で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料のTEM写真を図4に示す。
【0076】
【表3】


注)収率はフルオロアルキル基含有オリゴマーとマグネタイトに基づく収率を示す。
【0077】
<物性評価>
実施例1〜6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料について、マグネタイト粒子の含有量、平均粒子径について評価した。
【0078】
(マグネタイト粒子の含有量の評価)
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子についてTGA測定を行った。TGAカーブからマグネタイト粒子の含有量を求めた。
【0079】
(平均粒子径の評価)
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子をメタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
【0080】
【表4】

【0081】
(溶媒に対する分散性の評価)
(評価1);
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の各分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表5に示す。なお、評価は溶媒5mlに磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観察した。その評価を表5に示す。
なお、表中の記号は以下のことを示す。
×;分散しない
△;一部分散
○;全部分散
◎;良好な分散
【0082】
【表5】


注)AK−225(ClCHCFCFとCClFCFCHClFとの重量比1:1の混合溶媒)、DE(1,2−ジクロロエタン)、THF(テトラヒドロフラン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)
【0083】
(評価2);
実施例1〜3で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を用いて、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.174g/dmの濃度でメタノールに分散させた粒子分散液を調製した。得られた分散液について30℃の恒温槽中で、分散後の分散液の吸光度500nmでの光透過率及び濁度の経時変化を測定した。その結果を図5、図6に示す。
図5、図6の結果より、分散時と比べて、12時間経過後においても光透過率及び濁度に変化がない。従って、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は持続性のある分散が可能で、極めて分散性が高い粒子であることが分かる。
【0084】
(評価3);
実施例3及び実施例6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を用いて、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.02g/Lの濃度でメタノールに分散させた粒子分散液を調製した。得られた分散液を800Gで30分、800Gで60分の条件で遠心分離処理し、遠心分離処理前と処理後の分散状態を目視にて観察した。いずれの実施例の場合も遠心分離後、ほんの僅かな沈殿物が確認できる程度で、遠心分離処理後も該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が高分散していた。
【0085】
(評価4);
実施例3及び実施例6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を用いて、サンプルビンに該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.02g/Lの濃度でメタノールに分散させた粒子分散液を調製した。サンプルビンの底面に永久磁石を置くと、沈殿物が沈降した。更に、永久磁石をサンプルビンの底面から除くとすぐ沈殿物が再分散した。
【0086】
(樹脂組成物)
(評価1);
実施例1、4及び5で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子をメタノール5mlに分散させて分散液を調製した。これとは別に、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)0.99gをジクロロエタン20mlに溶解させた溶液を調製した。次いで、該溶液と分散液とを混合しキャスト法により1%PMMA改質膜(ナノコンポジット粒子10mg配合)及び3%PMMA改質膜(ナノコンポジット粒子30mg配合)を調製した。得られたフィルムの表面及び裏面のドデカンの室温(25℃)での接触角を測定した。
また、得られた3%PMMA改質膜(ナノコンポジット粒子30mg配合)に永久磁石を近づけると、PMMA改質膜は磁石に引きつけられた。
【0087】
【表6】

【0088】
(評価2);
実施例1〜6で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を上記評価1と同様にして3%PMMA改質膜(ナノコンポジット粒子30mg配合)を調製し、得られたフィルムの表面及び裏面のドデカン及び水の室温(25℃)での接触角を測定した。
【0089】
【表7】

【0090】
{実施例7}
メタノール15mlにフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)150mg、マグネタイト粒子15mgを入れ、室温下(25℃)で6時間超音波を照射した。次いで、遠心分離処理して未反応のマグネタイト粒子を反応液から除去した。次に反応液を濃縮し、残渣を得た後、真空乾燥機で1日間乾燥して磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を得た(収率68%)。
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、フルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)に起因するピークが観察された。また、得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、Feに由来するピークが観察された。
また、TEM観察により、マグネタイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の粒子表面に存在し、複合化されていることが確認できた。
【0091】
{実施例8}
メタノール15mlにフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)150mg、マグヘマイト粒子15mgを入れ、室温下(25℃)で6時間超音波を照射した。次いで、遠心分離処理して未反応のマグヘマイト粒子を反応液から除去した。次に反応液を濃縮し、残渣を得た後、真空乾燥機で1日間乾燥して磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を得た(収率68%)。
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、フルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)に起因するピークが観察された。また、得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、Feに由来するピークが観察された。
また、TEM観察により、マグネタイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の粒子表面に存在し、複合化されていることが確認できた。
【0092】
<物性評価>
実施例7〜8で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料について、実施例1〜6と同様にしてマグネタイト粒子又はマグヘマイト粒子の含有量、平均粒子径について評価した。
【表8】

【0093】
<溶媒に対する分散性の評価>
実施例7で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を用い、該該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を4g/Lの濃度でt−ブチルアルコールに分散さた粒子分散液を調製した。得られた分散液について昇温しながら動的光散乱測定を行った。その結果を表9に示す。
【表9】


表7の結果より、本発明の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子は、少なくとも30〜70℃の温度範囲では、安定な分散状態を保持していることが分かる。
【0094】
{実施例9〜21}
水20mlにフルオロアルキル基含有オリゴマー試料40mgを加え、室温(25℃)でマグネチックスターラーを用いて一晩攪拌を行った。次いで、塩化鉄(II)四水和物と塩化鉄(III)六水和物を添加し、超音波で30分間照射した。次に、25%アンモニア水を添加し、室温(25℃)で6時間反応を行った。原料の仕込み量及び収率を表9に示す。
反応終了後、沈殿物をろ過して回収し、回収物を真空乾燥機で1日間乾燥して磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を得た。
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、いずれの実施例においてもフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(Rf−AMPSオリゴマー)に起因するピークが観察された(図7参照)。また、得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、Feに由来するピークが観察された(図8参照)。
また、TEM観察により、マグヘマイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー試料中に取り込まれ、該マグヘマイト粒子がカプセル化されていることが確認できた。実施例14で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料のTEM写真を図9に示す。
【0095】
【表10】

【0096】
(物性評価)
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料について、実施例1〜6と同様にしてマグネタイト粒子の含有量、平均粒子径、ゼータ電位について評価した。
なお、平均粒子径の測定については、分散媒として水及びメタノールを用いた。また、ゼータ電位は得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.01g/Lの濃度で水に分散さた粒子分散液(pH7)を用いて測定した。
【0097】
【表11】

【0098】
(溶媒に対する分散性の評価)
(評価1);
実施例11、15、16、19で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の各分散溶媒に対する分散性を試験した。その結果を表10に示す。なお、評価は溶媒5mlに磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子0.01gを添加し、分散状態を目視で観察した。
なお、表中の記号は以下のことを示す。
×;分散しない
△;一部分散
○;全部分散
◎;良好な分散
【表12】


注)AK−225(ClCHCFCFとCClFCFCHClFとの重量比1:1の混合溶媒)、DE(1,2−ジクロロエタン)、THF(テトラヒドロフラン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)
【0099】
(評価2);
実施例19で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を用いて、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.02g/Lの濃度でメタノールに分散さた粒子分散液を調製した。得られた分散液を800Gで30分、800Gで1時間の条件で遠心分離処理し、遠心分離処理前と処理後の分散状態の目視にて観察した。いずれの実施例の場合も遠心分離後、ほんの僅かな沈殿物が確認できる程度で、遠心分離処理後も該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が高分散していた。
【0100】
(評価3);
実施例19で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を用いて、サンプルビンに該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を0.02g/Lの濃度でメタノールに分散さた粒子分散液を調製した。サンプルビンの底面に永久磁石を置くと、沈殿物が沈降した。更に、永久磁石をサンプルビンの底面から除くとすぐ沈殿物が再分散した。
【0101】
{実施例22〜27}
メタノール15mlにフルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)150mg、表13に示す量のマグネタイト粒子を入れ、室温下(20℃)に6時間超音波を照射した。次いで、遠心分離処理して未反応のマグネタイト粒子を反応液から除去した。次に反応液を濃縮し、残渣を得た後、真空乾燥機で1日間乾燥して磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を得た。
得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をIRで分析した結果、フルオロアルキル基含有オリゴマー試料(A3)に起因するピークが観察された。また、得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料をX線回折分析した結果、Feに由来するピークが観察された。
また、TEM観察により、マグネタイト粒子がフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の粒子表面に存在し、複合化されていることが確認できた。図10に実施例22で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料のTEM写真を示す。
【0102】
【表13】

【0103】
<物性評価>
実施例22〜27で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料について、実施例1〜6と同様にしてマグネタイト粒子の含有量、平均粒子径について評価した。
【表14】

【0104】
<溶媒に対する分散性の評価>
実施例で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を用い、該該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を4g/Lの濃度でt−ブチルアルコールに分散さた粒子分散液を調製した。下記に示す方法で下部臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:「LCST」とも言う)を測定し、また、得られた分散液について昇温しながら動的光散乱測定を行った。その結果を表15に示す。
(下部臨界溶液温度(LCST)の評価)
実施例22、23、25、26及び27で得られた磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子試料を用い、該該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を4g/Lの濃度でt−ブチルアルコールに分散さた粒子分散液を調製した。
次いで、昇温しながら500nmの波長で光透過率を測定し、30℃で光透過率を100とした場合に、50%の光透過率になる温度を下部臨界溶液温度(LCST)とした。なお、Rf−AMPSオリゴマー4g/Lの濃度でt−ブチルアルコールに添加したもの(ブランク)の場合では、下部臨界溶液温度(LCST)は78℃であった。
【0105】
【表15】


注)「−」は測定を行っていないことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、各種溶媒に対して、数十ナノレベルの極めて高い分散性を有し、また、分散性に持続性がある磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を提供することが出来る。また、本発明によれば、該磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を工業的に有利な方法で提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーで複合化されてなることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子。
【化1】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Bは炭素数1〜5のアルキレン基を示す。n3は5〜1000の整数である。n1とn2のモル比は1:99〜99:1である。}
【請求項2】
磁性酸化鉄粒子が、下記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応生成物で複合化されてなることを特徴とする磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子。
【化2】


{式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Zはイソシアナート含有基を示す。m3は5〜1000の整数である。m1とm2のモル比は1:99〜99:1である。}
【請求項3】
一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの式中のZが下記一般式(3)で表される基であることを特徴とする粉末状の磁性酸化鉄コンポジット粉末状粒子。
【化3】


(式中、Bはアルキレン基を示す。A及びAはアルキル基を示す。)
【請求項4】
平均粒子径が10〜900nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項5】
磁性酸化鉄粒子が、マグネタイト粒子又はマグヘマイト粒子であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子。
【請求項6】
磁性酸化鉄粒子と前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーとを溶媒中で接触させることを特徴とする請求項1記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項7】
第一鉄塩と第二鉄塩を含む溶媒に、アルカリを添加して反応を行って磁性酸化鉄を製造する方法において、前記溶媒に前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有させて、アルカリを添加し反応を行うことを特徴とする請求項1記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項8】
磁性酸化鉄粒子と前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーを含む溶媒を調製し、次いで前記一般式(2)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの架橋反応を行うことを特徴とする請求項2記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれか一項記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子が、分散溶媒に分散されていることを特徴とする粒子分散液。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれか一項記載の磁性酸化鉄ナノコンポジット粉末状粒子を含有することを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−235441(P2010−235441A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54863(P2010−54863)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】