説明

磁束チャネル式高電流インダクタ

【課題】高いリップル電流および周波数におけるコア損失が低く、かつ、高い飽和電流性能を有するインダクタを提供する。
【解決手段】磁束チャネル式高電流インダクタ30は、インダクタ本体12、14と、インダクタ本体内に延びたコンダクタ32、34とを具備する。コンダクタは、インダクタ本体の断面領域にかけて複数の個別チャネルを備えており、これにより、コンダクタを流れる電流36、40によって誘発された磁束50、52、54、56を2つ以上の断面領域内に誘導し、所与の1領域の磁束密度を低減する。インダクタ本体は、第1強磁性プレート12と第2強磁性プレート14とで形成することができる。インダクタは、単一構成部品の磁気コアで形成でき、インダクタンスを画定する1または複数のスリット16を有する。インダクタは磁性粉末で形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
現在、独特の形状であって、巻回されたコイルの周囲に圧縮成形された鉄粉体を有するフェライトの形で、一般に高さ(profile)が約10mm未満のインダクタとして定義される低背(low profile)インダクタが存在している。フェライトベースの低背インダクタは、フェライトの特性により、比較的低レベルの電流にて磁気飽和するという制限がある。磁気飽和が生じると、インダクタンス値が大幅に低下する。
【背景技術】
【0002】
圧縮成形された鉄インダクタは、フェライトインダクタよりも高い入力電流を許容するが、高周波(例えば、100kHzを超える周波数)において高いコア損失を発生させるという制限が伴う。そこで、高い入力電流を許容する、高周波インダクタンスを提供する効率的な方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の主な目的、特徴、利点は、従来技術を向上させることである。
【0004】
本発明のさらなる目的、特徴、利点は、薄型パッケージ内で、高いリップル電流(>5A)および周波数(>100kHz)におけるコア損失が低く、かつ、鉄粉末の高い飽和電流性能を有するインダクタを提供することである。
【0005】
本発明の別の目的、特徴、利点は、接着膜厚を用いてインダクタンス特性を調整することである。
【0006】
本発明のさらに別の目的、特徴、利点は、磁束を分割する分岐コンダクタ形状を利用して、磁気材料の薄い区画内における磁束密度を低減することである。
【0007】
本発明のさらなる目的、特徴、利点は、高飽和磁気材料の層を採用することで、直流により誘発された磁束を、インダクタンスを増加させる低飽和磁気で、かつ低飽和電流容量の磁気材料の層からチャネリングし、これにより、低飽和フェライト材料を使用して高周波損失を低減させることである。
【0008】
本発明の別の目的、特徴、利点は、薄い接着膜を使用して、その部分のインダクタンスレベルを設定し、強磁性プレート同士を結合させることである。
【0009】
本発明のさらに別の目的、特徴、利点は、複数のコンダクタループを使用して、インダクタンスの画定、および/または飽和電流の増加を行えるようにすることである。
【0010】
本発明のさらなる目的、特徴、利点は、インダクタのインダクタンスを維持しながら、より大きな直流を効率的に処理する能力を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のこれらおよび/または別の目的、特徴、利点のうち1または複数は、以下の本発明の説明から明白になる。
【0012】
本発明の1つの態様によれば、磁束チャネル式高電流インダクタが提供される。このインダクタは、第1端部およびこれに対向した第2端部を有するインダクタ本体と、インダクタ本体を通って延びるコンダクタとを含む。コンダクタは複数の個別チャネルを設けており、この個別チャネルは、インダクタ本体の断面領域を通り、コンダクタを流れる電流によって誘発された磁束を分岐させて、磁束密度を低減する。コンダクタの第1および第2部分が第1端部の一部周囲に巻き付けられることで、第1接触パッドと第2接触パッドが提供され、また、コンダクタの第3部分が第2端部の一部周囲に巻き付けられることで第3接触パッドが提供される。
【0013】
インダクタ本体は、第1強磁性プレートと第2強磁性プレートによって形成できる。あるいは、インダクタ本体を、チャネル間にスリットを有する、またはインダクタの各側部とこれに関連したチャネルとの間に複数のスリットを有する単一構成部品の磁気コアで製造してもよい。もしくは、圧縮成形された磁性粉末でインダクタを形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来技術による、磁束チャネル式でないインダクタの断面図である。
【図2】本発明による磁束チャネル式インダクタの一実施形態の断面図である。
【図3】強磁性プレートが分離された状態にある、本発明による磁束チャネル式インダクタの一実施形態の斜視図である。
【図4】ダブルループコンダクタインダクタの一実施形態の斜視図である。
【図5】シングルループコンダクタインダクタに使用する強磁性プレートの一実施形態の斜視図である。
【図6】本発明の低背高電流インダクタの一実施形態の斜視図である。
【図7】低背高電流インダクタの一実施形態の斜視図である。
【図8】磁束チャネル式の直流シャントインダクタの一実施形態の断面図である。
【図9】磁束チャネル式直流シャントインダクタの完成組み立て品である。
【図10】本発明によるインダクタの一製造方法を示すフローチャートである。
【図11】本発明による側部にギャップを有するインダクタの一実施形態を示す斜視図であり、ここではコンダクタが示されていない。
【図12】本発明による側部にギャップを有するインダクタの一実施形態を示す斜視図であり、ここではコンダクタが示されている。
【図13】本発明の側部にギャップを有するインダクタの一実施形態の正面図である。
【図14】本発明の中心にギャップを有するインダクタの一実施形態の斜視図であり、ここではコンダクタが示されていない。
【図15】本発明の中心にギャップを有するインダクタの一実施形態の斜視図であり、ここではコンダクタが示されている。
【図16】本発明の中心にギャップを有するインダクタの一実施形態の正面図である。
【図17】本発明による圧縮形成された磁性粉末の一実施形態の斜視図であり、ここではコンダクタが示されていない。
【図18】本発明の圧縮形成された磁性粉末の一実施形態の斜視図であり、ここではコンダクタが示されている。
【図19】本発明の方法の一実施形態を示す図である。
【0015】
本発明の1つの態様によれば、磁束チャネル式高電流インダクタが提供される。このインダクタは、第1強磁性プレートと第2強磁性プレートを備える。第1強磁性プレートと第2強磁性プレートの間にはコンダクタが設けられており、このコンダクタは、インダクタの断面領域にかけて複数の個別チャネルを備えることで、コンダクタに流れる電流によって誘発された磁束を分岐させ、これにより磁束密度を低減させている。第1強磁性プレートと第2強磁性プレートの間に、インダクタのインダクタンス特性を画定する厚さを有した接着膜を設けてもよい。
【0016】
本発明の別の実施形態は、高飽和強磁性シートの使用を追加する。第1シート部分は第1強磁性プレート上に配置され、第2シート部分は第2強磁性プレート上に配置される。第1シート部分と第2シート部分のそれぞれは、直流により誘発された磁束が強磁性プレートから離れる方向にシャントされ、シートを通るようにするために、第1、第2強磁性プレートよりも高い透磁率を有することが好ましい。
【0017】
本発明の別の態様は、磁束チャネル式高電流インダクタの製造方法を提供する。この方法は、第1端部およびこれと対向する第2端部を有するインダクタ本体を提供し、コンダクタをインダクタ内を通って延びるよう位置決めし、さらに、インダクタの断面領域にかけて複数の個別チャネルを形成することで、コンダクタを流れる電流によって誘発された磁束を分岐させ、磁束密度を低減させることを含む。この方法はさらに、インダクタ本体の第1端部から延びているコンダクタの第1、第2部分を、第1端部の一部の周囲に巻き付けて、第1接触パッドと第2接触パッドを形成することを含む。またこの方法はさらに、インダクタ本体の第2端部から延びているコンダクタの第3部分を第2端部の一部の周囲に巻き付けて、第3接触パッドを形成することを含むこともできる。インダクタ本体は、第1強磁性プレートと第2強磁性プレートを設けていてよい。インダクタ本体は単一構成部品の磁気コアであってよい。インダクタ本体が単一構成部品の磁気コアである場合には、この方法はさらに、インダクタ本体の中央部分の、複数の個別チャネルのうち2本の間に1本のスリットを切り込むか、または、インダクタ本体の第1側部と第1チャネルの間に第1スリットを切り込み、インダクタ本体の第2側部と第2チャネルの間に第2スリットを切り込むことを含むことができる。インダクタ本体は圧縮形成された磁性粉末インダクタであってもよい。
【0018】
本発明の別の態様によれば、磁束チャネル式高電流インダクタの製造方法が提供される。この方法は、第1強磁性プレートと第2強磁性プレートを提供することと、第1強磁性プレートと第2強磁性プレートの間にコンダクタを配置して、インダクタの断面領域にかけて複数の個別チャネルを形成し、コンダクタに流れる電流によって誘発された磁束を分岐させ、磁束密度を低減させることとを提供する。この方法はさらに、インダクタのインダクタンス特性を画定するために用いられる厚さを有した接着膜を第1強磁性プレートと第2強磁性プレートの間に使用して、これらのプレートを接続させることを備えていてもよい。強磁性プレートのうち少なくとも一方に溝を設け、この溝の内部にコンダクタを位置決めすることができる。この方法はさらに、第1強磁性プレート上に第1シート部分を付加し、第2強磁性プレート上に第2シート部分を付加することを含んでいてよく、この第1シート部分および第2シート部分のそれぞれは、インダクタの作動時、直流により誘発された磁束が第1強磁性プレートおよび第2強磁性プレートから離れる方向にシートにかけてシャントされるようにするために、第1強磁性プレートおよび第2強磁性プレートよりも高い透磁率を有している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、効率的な、低背高電流インダクタを提示する。本発明の一実施形態では、2枚の強磁性プレートを薄型の接着膜によって離間させている。この接着膜は、厳密に制御された厚さに製造された固体Bステージエポキシの層を備えていることが好ましい。この薄型の接着膜の代替形には、ガラス繊維またはKAPTON(ポリイミド)テープのような固体補強がある。この接着膜の使用は、構成部品の有効性において2つの役割を果たす。接着剤の厚さは、部品のインダクタンスを上昇させるか低下させるかに応じて選択される。薄い接着膜を使用すれば、インダクタのインダクタンスレベルが高くなり、厚い接着膜を使用すれば、部品のインダクタンスが低下し、高入力電流に対する磁気飽和の抵抗が増加する。そのため、特定の用途に合わせて部品のインダクタンスを調整するように、接着膜の厚さを選択することができる。この接着剤の第2の役割は、部品同士を永久的に結合させ、この組み立て品に機械負荷に対する耐性を持たせることである。
【0020】
強磁性プレートは、フェライト、モリパーマロイ(MPP)、センダスト、高磁束または鉄粉末のような、軟磁性材料の任意のものから作成できる。フェライトは、高周波でのコア損失が低く、前述の材料のうちで一番安価であることから、好ましい材料はフェライトである。
【0021】
従来技術から、2個のフェライト部品の間に1枚の銅の細片を配置してインダクタを作成できることがわかる。これは値が低く高周波のインダクタを作成する場合に有効であるが、飽和することなく、インダクタが処理できる入力電流の量が制限される。飽和が生じる主な原因は、銅によって誘発された全ての磁束が狭い断面領域を通過するという事実による。図1は、1枚の銅細片インダクタにおける磁束パターンを示す。
【0022】
図1では、インダクタ10は第1強磁性プレート12と、第2強磁性プレート14とを有する。第1強磁性プレート12と第2強磁性プレート14の間には空間16が存在する。1枚の銅コンダクタの細片18を通る電流によって誘発された磁束は、各プレート12、14に分岐される。電流がページに入っていく方向に流れていることを表す表記を用いて入力電流20を示す。矢印22、24、26、28は、コンダクタ18を通る電流20によって誘発された磁束の方向を表す。銅コンダクタ18内の電流によって誘発される全ての磁束は狭い断面22、26領域を通り、これが飽和の主な原因となる。
【0023】
本発明は、2つ以上の断面領域に印加した電流によって生成された磁束をチャネリングすることで、いずれか1つの断面領域の磁場密度を低減する技術を用いる。図2は、本発明のインダクタ30の一実施形態による強磁性コア材料を磁束が通る様子を示している。図2に示すように、コンダクタ29はU字型の形状をしており、第1強磁性プレート12と第2強磁性プレート14の間に位置している。このU字型コンダクタ29は第1チャネル32、第2チャネル34を有する。入力電流36はページに入っていく方向へ向かい、出力電流40はページから出ていく形で示されている。矢印50、52、54および56は、誘発された磁束を示す。このように磁束をチャネリングすると、インダクタに印加できる電流の量が著しく増加する。コンダクタを流れる電流によって誘発された磁束は、インダクタ30のそれぞれの半分へと強制的に分岐される。このチャネリングにより、磁気レベルは1枚の銅の細片の場合の半分になる。インダクタ内にいくつかのコンダクタループを設ければ、任意の1つの断面領域を通る磁束密度をさらに低下させることができる。使用するループが1本であっても複数であっても、コンダクタおよびプレートの形状は、磁束を適切にチャネリングするように選択される。
【0024】
図3は、本発明の別の実施形態を示す。ここでは、2枚の強磁性プレート56、58を、薄い接着膜(図示せず)の厚さによって設定される距離だけ離して結合されている。1枚のプレート58内にチャネル53が設けられ、それによりコンダクタ51が配置される。図3では1個のコンダクタループのインダクタ50を示しているが、本発明によれば、複数のコンダクタループのインダクタを使用することもできる。例えば、電流は左コンダクタ52に入り、構成部品を通って流れ、右コンダクタ54から出る。親指が電流の方向を指す右手ルールを用いて磁束が生成される。右手ルールは、磁束がループ内部には下方強磁性プレート56に向かう磁束があり、磁束はループ外側から出て、上方強磁性プレート58内へ入ることを示す。図からわかるように、上方プレート58と下方プレート56における総磁束が1/2に減少する。部分50のインダクタンスは、コンダクタ51の長さを長くすることや、その形状によって増加する。
【0025】
図4に示すように、インダクタ60は、強磁性プレート66上に、複数のループ形状を有するコンダクタ64を含んでもよい。複数のループ形状により、複数の磁束経路が形成されるため、インダクタンスおよび磁気飽和の処理能力が増加する。
【0026】
図5、図6、図7は、回路基板上で実現するインダクタ70、90の一実施形態を示す。第1強磁性プレート70は、頂部78と底部84を有して示されている。強磁性プレート70には溝74、76が切られている。図5に最も良く示されるように、溝74、76が強磁性プレート70の第1側部80から反対側の第2側部82へ延びている。さらに、強磁性プレート70の対向する第3側部78、第4側部72も示す。
【0027】
コンダクタ86は第1区画92、第2区画88を有し、また、図7に示すように、コンダクタ86は第2強磁性プレート94の周囲で曲げられて、3個の半田面93、95、97を形成している。2個のコンダクタ端子93、95は、インダクタ90に電力を印加する。これらよりも幅広い端子97は、構成部品90を電気基板上の非伝導箇所に半田付けてサポートするためのものである。
【0028】
本発明では、インダクタを構成するために様々な方法の用いることを考慮する。磁束チャネル式高電流インダクタを構成するために、インダクタの片側をTAKフェライト社(Tak Ferrite)のマンガン亜鉛で作成し、固定具内に配置している。固定具内にさらなるフェライト構成部品を配置すれば、少数の構成部品から、150部品以上の大型アレイまでを製造することができる。成形したコンダクタ部分を構成部品の溝内に嵌合させることで、銅コンダクタの細片を、配置したフェライト構成部品の頂部に設置する。デュポン(Dupon)社製のPYRALUX Bondplyのような膜接着剤をコンダクタとフェライト構成部品の上に配置する。この組み立て品内で第2インダクタ構成部品を使用する。これは、TAK Ferrite社製のマンガン亜鉛フェライトである。複数のフェライト構成部品を第2固定具内に配置する。各フェライト構成部品を、別の固定具の第1フェライト構成部品と一体化するように精密配置する。2個のフェライト構成部品が設けられた両方の固定具と、コンダクタおよび膜接着剤とを一体化させる。この固定具組み立て品に負荷を加えて、各部品上に50〜200psiの一体化圧力を作成する。この組み立て品を、最長で1時間の間、約160〜200℃に加熱することで、接着剤中の硬化剤を活性化させて構成部品同士を結合させる。レーザ、剪断、刃物によってアレイから余分な接着剤を切除し、各インダクタ部品上に部品番号を印刷する。コンダクタ/インダクタ部品組み立て品の細片を機械によって除去および供給することで、部品周囲にコンダクタを形成する。次に、この部品の性能を試験し、出荷できるように梱包する。無論、本発明では、特定のインダクタに適切な、もしくは特定の製造環境に適切なように、この処理の応用形を考慮する。
【0029】
直流シャントインダクタ
本発明の別の実施形態により、直流シャントインダクタバージョンの磁束チャネル式インダクタを提供する。磁束チャネル式高電流インダクタにより、インダクタンスを維持しながら、より大きな直流を効率的に処理するインダクタの能力が増加する。
【0030】
非常に効率的な低背高電流インダクタには、図8、図9に示すように、フェライトなどの低飽和(ベース)材料の2枚のプレートを、薄い接着膜で離間させて配置している。好ましくは銅の厚いコンダクタ細片を磁気プレートを介して配置することで、低い直流抵抗を得る。低飽和磁気プレートの上と下にシリコン鉄などの高磁気飽和シートを配置する。高飽和材料は一般的に非常に高伝導性であり、10kHz未満の非常に薄型形態内でしか動作できないので、従来の知識によれば、このようなプレートの追加によって性能が著しく低下するということになるだろう。しかし、実はこの設計では、この性質を用いて性能を拡張させている。
【0031】
図8では、第1強磁性シート208と第2強磁性シート210を有するインダクタ200を示している。強磁性シートは、鉄コバルト、純鉄、炭素スチール、シリコン鉄、ニッケル-鉄合金のような高い飽和特性を持つ軟磁性材料で作成できる。シリコン鉄は、電導性(<500マイクロオームセンチメートル)を有し、透磁性が高く(>4000)、磁気飽和性が高く(>16,000ガウス)、一般に他の材料よりも安価であるため、好ましい材料である。
【0032】
従来技術から、2個のフェライト部品の間に1枚の銅細片を配置してインダクタを作成できることがわかる。これは値が低く高周波インダクタを作成するには有効であるが、飽和することなく、インダクタが処理できる入力電流の量が制限される。飽和の主な原因は、印加した電流により誘発された全ての磁束がフェライトプレートの狭い断面領域を通るという事実からくる。
【0033】
強磁性プレートベース材料202、206の少なくとも2倍の高い磁気飽和特性および相対透磁率を持った強磁性シート208、210を使用する。この高透磁率がコンダクタ252内に直流によって作成された磁束を引き寄せることで、この磁束がベース材料ではなくシートを通るようになる。直流により誘発された磁束が、低飽和ベース材料から離れる方向に効果的にシャントされる。シート材料の性質により、時間変化(高調波、>1kHz)によって誘発された磁束がシート材料を通過することが阻止される。これは、表面に強力な渦電流が誘発されることで、磁束が材料を貫通することが効果的に防止されるためである。そして、高調波磁束は主に低飽和ベース材料に閉じ込められ、一方で、直流によって誘発された磁束は強磁性シートを通る。多くの用途では、インダクタ内に直流としての70%以上のピーク電流を有する。残りの30%のピーク電流は高調波によって生じる。最大でベース材料の10倍以上の磁束チャネリング能力を有するシート材料は、ベース内で直流により誘発された磁束を激減させる。この性質により、磁束伝達型インダクタが従来技術によるインダクタよりも著しく大量の直流をチャネリングできるようになる。この設計のこれ以外の顕著な特徴は、インダクタの直流抵抗が非常に低いことであり、これは、従来技術による類似したサイズの設計よりも最大で10倍低い。
【0034】
好ましい実施形態では、この設計は、ベース透磁率よりも約5〜数百倍大きい相対透磁率を持ったシート材料を使用する。シート材料の透磁率が高いほど、より多くの直流により誘発された磁束を低飽和ベース材料から取り除くことができる。シート材料は、非伝導性であれば有効に使用することができる。非電導性シート材料は電導性シートとほぼ同様に機能するが、誘導値は電導性シートほど一定ではない。電導性シートは、高調波磁束が透磁性の高い材料の内部に結合することを防止することにより、直流入力の範囲にかけてインダクタンスを安定させる。
【0035】
磁束は、コンダクタ内の領域内の強磁性材料を通り、互いに結合することでインダクタンスが増加し、この後、戻り経路によって分岐し、これによりこの部分の磁気飽和が増加する。磁束は効果的に結合および分離されるが、これは、これまでの従来のインダクタでは達成されていなかった。
【0036】
有限要素モデリングを実行して、直流シャントインダクタの性能と同サイズの標準的なインダクタと比較した。以下はこの結果を要約した表である。
【0037】


【0038】
本発明の別の態様によれば、図8、図9に示すインダクタ200のような、直流シャントを有する、磁束チャネル式の高電流インダクタの製造方法を提供する。
【0039】
磁束チャネル式高電流インダクタ直流シャントを製造するには、図10のステップ300に示すように、非常に薄い接着層を有する、シリコン鉄のような透磁率の高い、高飽和材料を固定具内に配置する。次に、ステップ302にて、TAK Ferrite社製のマンガン亜鉛フェライトを高飽和材料の頂部に配置する。ステップ303にて、コンダクタ252をフェライトプレート上に配置する。ステップ304にて、コンダクタおよびフェライトの構成部品上にDupont社製のPYRALUX Bondplyのような接着膜205を配置する。ステップ306にて、極薄の接着層を付加した、シリコン鉄のような高透磁性および高飽和性の材料の薄いシートを第2固定具内に配置する。これ以外の使用できるシート材料の例には、鉄、コバルト、鋼鉄などが含まれる。シート材料は、500マイクロオーム/メートル抵抗未満の電導性を有することが好ましい。ステップ308に示すように、組み立て品内部で第2フェライト構成部品を使用する。これは、TAK Ferrite社製のマンガン亜鉛フェライトであることが好ましい。複数のフェライト構成部品を第2固定具内の、高飽和材料の頂部に配置する。ステップ310で、2個の高飽和およびフェライト構成部品を含有する両方の固定具と、コンダクタと膜状接着剤とを一体化させる。各部品上に50〜200psiの一体化圧力を作成する負荷を固定具組み立て品に加える。ステップ312にて、この組み立て品を約160〜200℃に、最大約1時間加熱し、接着剤中の硬化剤を活性化させることで、構成部品同士を結合する。ステップ314では、余分な接着剤とコンダクタを除去する。レーザ、剪断、刃物によって、アレイから余分な接着剤を切除し、各インダクタ部品上に部品番号を印刷する。コンダクタ部品組み立て品の細片を、余分な銅を除去する機械に通して除去し、この部品の周囲でコンダクタを屈曲させる。部品の性能を試験し、出荷できるように梱包する。
【0040】
図11〜図15に、本発明のさらなる実施形態を開示する。図11は、本発明による側部にギャップのあるインダクタの一実施形態を示す斜視図である。図11のインダクタ400は、単体構成部品の磁気コアで製造される。磁束は、2個の部品からなる磁束チャネル式インダクタと同じ方法でチャネリングされる。部品のインダクタンスを決定するギャップを導入するために、インダクタの側部に2つのスリット408、410を切り込む。図11は、第1区間404と第2区間406とが部品に配置されているコンダクタのための開口を示す。次に、このコンダクタを部品の周囲で曲げて、電気接触パッドを形成することが好ましい。図12にこれを示すが、同図には接触パッド414、416、418が存在する。
【0041】
図13は、側部にギャップを有するインダクタ400の正面図を示す。コンダクタ404の第1区間はコンダクタ406の第2区間から離間している。第1スリット408が、インダクタ400の側部を通ってコンダクタ404の第1区間まで示されている。また、第2スリット410が、インダクタ402の側部を通ってコンダクタ406の第1区間まで示されている。
【0042】
図14〜図16に本発明の別の実施形態を示す。単体構成部品の磁気コア502を有する装置500が示されている。部分504、506を有するコンダクタを部品にわたって配置し、部品の周囲で曲げて、磁気コア502の頂面510の両側上に電気接触パッド514、516、518を形成している。2個の部品からなる磁束チャネル式インダクタと同じ方法で磁束のチャネリングを行う。部品のインダクタンスを決定するギャップを導入するために、インダクタの中央に1つのスリット508を切り込む。図16は正面図を示す。各コンダクタ部分504、506の間に1つのギャップ508が設けられている点に注意する。
【0043】
図17、図18に、本発明の別の実施形態を示す。部品600は、粒状化した磁性粉末を、脚604、606を有するU字型コンダクタの上に注いで製造する。この粉体を圧縮力で加圧して磁気固体を形成する。コンダクタ614を部品の周囲で曲げて、電気接触パッド610、612、614を形成する。2個の部品からなる磁束チャネル式インダクタと同じ方法で磁束のチャネリングを行う。圧縮形成された磁性粉末は、部品インダクタンスを決定するためにギャップと同様に有効に働く粒子同士の間に分布させたギャップからなる。
【0044】
図19は、本発明の方法の一実施形態を示す。ステップ700では、インダクタ本体を提供する。インダクタ本体は、第1、第2強磁性プレートを使用して形成できる。インダクタは単一構成部品の磁気コアであってもよい。インダクタ本体は圧縮成形された磁性粉末で形成することができる。ステップ702では、コンダクタを、インダクタ本体内を通って延びるように位置決めする。ステップ704では、インダクタ本体の対向した両端の周囲にコンダクタの各部を巻き、接触パッドを形成する。インダクタが単一構成部品の磁気コアである場合には、前述したように、インダクタ本体にかけて1つまたは複数のスリットを切り込むことが理解される。
【0045】
したがって、本発明は改善されたインダクタとその製造方法を提供することが明白である。本発明は、使用する材料のタイプ、適用する製造技術における多数の応用形、また、本発明の精神および範囲内に包括されるこれ以外の応用形を考慮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタ本体と、
前記インダクタ本体を通過して延びる只一つのコンダクタと
を備え、
前記インダクタ本体の第1及び第2断面領域の中で、前記インダクタ本体の与えられた一つの領域の磁束密度が減る様に、前記コンダクタを通過する電流で誘導される磁束が互いに逆向きに誘導されるように前記コンダクタの形状を選択し、それによって、インダクタの飽和する電流値を高くすることを特徴とする磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項2】
前記磁束チャネル式高電流インダクタの高さ(profile)は約10ミリメートル未満である請求項1に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項3】
前記インダクタ本体は第1強磁性プレートと第2強磁性プレートとで形成し、前記コンダクタは前記第1強磁性プレートと第2強磁性プレートとの間で形成する請求項1に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項4】
前記第1及び第2強磁性プレートは、互いに距離を持って離してあり、前記距離が前記インダクタのインダクタンス特性を特定する請求項3に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項5】
前記距離が前記第1強磁性プレートと前記第2強磁性プレートとの間に配した接着膜の厚さで定まる請求項4に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項6】
前記インダクタ本体は単一構成部品の磁気コアで製造する請求項1に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項7】
前記インダクタ本体は磁性粉末の圧縮成形で形成する請求項1に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項8】
さらに、前記インダクタ本体内にギャップを設け、前記ギャップが前記インダクタのインダクタンスを決定する請求項1に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。

【請求項9】
インダクタ本体と、
前記インダクタ本体を通過して延びるコンダクタと、
前記インダクタ本体上に配置されるシート部分と
を備え、
前記コンダクタを流れる電流により誘発された磁束を前記インダクタ本体から離してシャントするように前記シート部分が前記インダクタ本体の透磁率よりも高い透磁率を有し、それによって、インダクタの飽和する電流値を高くすることを特徴とする磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項10】
前記コンダクタが前記インダクタ本体を通過して延びる只一つのコンダクタであり、前記インダクタ本体の第1及び第2断面領域の中で、前記インダクタ本体の与えられた一つの領域の磁束密度が減る様に、前記只一つのコンダクタを通過する電流で誘導される磁束が互いに逆向きに誘導されるように前記只一つのコンダクタの形状を選択し、それによって、インダクタの飽和する電流値をさらに高くする請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項11】
前記磁束チャネル式高電流インダクタの高さ(profile)は約10ミリメートル未満である請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項12】
前記インダクタ本体は第1強磁性プレートと第2強磁性プレートとで形成し、前記コンダクタは前記第1強磁性プレートと第2強磁性プレートとの間で形成する請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項13】
前記第1及び第2強磁性プレートは、互いに距離を持って離してあり、前記距離が前記インダクタのインダクタンス特性を特定する請求項12に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項14】
前記距離が前記第1強磁性プレートと前記第2強磁性プレートとの間に配した接着膜の厚さで定まる請求項13に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項15】
前記インダクタ本体は単一構成部品の磁気コアで製造する請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項16】
前記インダクタ本体は磁性粉末の圧縮成形で形成する請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。
【請求項17】
さらに、前記インダクタ本体内にギャップを設け、前記ギャップが前記インダクタのインダクタンスを決定する請求項9に記載の磁束チャネル式高電流インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−69969(P2012−69969A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237853(P2011−237853)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【分割の表示】特願2009−507659(P2009−507659)の分割
【原出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(502021419)ヴィシェイ デイル エレクトロニクス,インコーポレイテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】VISHAY DALE ELECTRONICS,INC.
【住所又は居所原語表記】1122 23RD STREET, COLUMBUS, NE 68602 USA
【Fターム(参考)】