説明

磁気センサ素子

【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
この発明は、アモルファス磁性合金線を用いて構成した磁気センサ素子に関する。
【従来の技術】
コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)を主成分とするアモルファス磁性合金は高い透磁率、小さな保磁力、優れた高周波特性を有しており、直径が0.13mm以下の細線として製造されることとあいまって、小型で高感度の磁気センサ素子を構成するのに適した材料となっている。
第1図(A)及び(B)は、このようなアモルファス磁性合金を用いた磁気センサ素子の一般的な構造を示すものである。
第1図(A)の磁気センサ素子1は、エナメル電線の巻線2が施されたセラミックやプラスチックなどの絶縁材料からなるパイプ3の中にアモルファス磁性合金線4が配置され、このアモルファス磁性合金線4はパイプ3との間に樹脂5が充填されて固定された構造となっている。
また、第1図(B)の磁気センサ素子1は、アモルファス磁性合金線4に巻線2が直接施され、これがパイプ3の中に配置されて同様に樹脂で固定された構造となっている。
パイプ3は磁気センサ素子1を別の支持体に取り付ける際に、アモルファス磁性合金線4に応力が直接加わらないようにするためのものであるが、更に外乱磁場に対する遮蔽効果を持たせる場合には、パーマロイなどの軟磁性材料で作られることもある。
第2図は上記磁気センサ素子1を用いて、外界の磁場Hexの強さと極性とを測定する場合の回路の一例を示すものである。磁気センサ素子1の巻線2には、高周波電源6から抵抗7を介して高周波電流が流され、巻線2から一定の電圧eが常時出力されている。そして、磁気センサ素子1に磁場Hexが作用すると。その大きさに応じて出力eが減少し、またその極性に応じて出力電圧の位相に電流に対する遅れ、あるいは進みが生じる。
【発明が解決しようとする課題】
このように、磁気センサ素子1は出力電圧波形を読み取って外界の磁場の情報を得るものであり、実用に供するためには出力波形が経時的に変化しないことが信頼性の面から要求される。
一方、一般に磁性材料の磁気特性は応力が加わると変化することが知られているが、アモルファス磁性合金も同じで、応力が加わるとその磁気特性が変化する。したがって、上記磁気センサ素子1においても、アモルファス磁性合金線4に加わる応力は極力小さく、かつ応力状態が経時的に変化しないことが望まれる。
ところで、従来、アモルファス磁性合金線4を固定するためにパイプ3との間にエポキシ系の樹脂を充填しているが、この磁気センサ素子1を高温中で長時間使用すると出力波形が変化するという問題があった。
そこで、この発明は、高温中で長時間使用しても出力波形の変化が小さい磁気センサ素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明は、パイプの中にアモルファス磁性合金線が配置され、このアモルファス磁性合金線と前記パイプとの間に樹脂が充填された磁気センサ素子において、樹脂のゴム硬度をショアA83以下とするものである。
【作用】
樹脂は一般的に硬化の際に体積が変化するが、硬化後の硬度が高い場合には、アモルファス磁性合金線に強い応力が作用し、これにより出力波形が変化することになる。そして、硬化反応が経時的に進行する場合にも、それに伴って出力波形が変化する。また、一般的に樹脂の硬さは温度によって変化するので、出力波形は温度によっても変化することになる。
この発明では、アモルファス磁性合金線とパイプとの間に充填する樹脂をゴム硬度がショアA83以下の軟質のものとしたことにより、上述の各種の要因によって体積が変化しても、アモルファス磁性合金線に作用する応力が小さく、したがって出力波形の変化も小さい。
【実施例】
以下、第1図(B)を参照してこの発明の実施例を説明する。
長さ18mm、直径0.1mmのアモルファス磁性合金線4に、直径0.1mmのウレタン電線を300回巻いて巻線2を形成し、これを内径1.7mm、外形2mm、長さ17mmのパーマロイのパイプ3内に配置した。そして、パイプ3の空隙に各種の樹脂を充填して試料とし、巻線2に100KHz、7mAの電流を流して出力波形をオッシログラフで観察した。
第1表は樹脂充填前の波形を基準にして、樹脂硬化後及び更に80℃で、100時間加熱した後の出力波形を調べた結果を示すものである。


第1表によれば、この発明により軟質の樹脂を用いたものでは、出力波形の変化が見られないことが分かる。
ちなみに、第3図は第1表における従来例の出力電圧を示すオッシロ波形で、第3図(A)は樹脂充填前、第3図R>図(B)は二液性のエポキシ樹脂を常温で硬化させた後、更に80℃で100時間加熱した後のものである。第3図R>図(A)では磁気飽和により3角波状となった出力電圧波形の波頭が、第3図(B)では樹脂からの応力による磁気特性の変化により潰れており、出力電圧波形が変化していることが分かる。
【発明の効果】
この発明によれば、アモルファス磁性合金線とパイプとの固定が軟質の樹脂によって行われるので、樹脂の硬化反応や使用中の温度変化によって樹脂に体積変化が生じても、それによってアモルファス磁性合金線が受ける応力は小さく、長期間にわたって安定した出力波形が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図(A)及び(B)はそれぞれ磁気センサ素子の一般的な構造を示す縦断面図、第2図は第1図の磁気センサ素子を用いて磁場を測定する場合の回路図、第3図(A)は従来の磁気センサ素子の樹脂充填前のオッシロ波形、第3図(B)は同じく樹脂硬化後に更に加熱した後のオッシロ波形である。
1…磁気センサ素子、3…パイプ、4…アモルファス磁性合金線、5…樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】パイプの中にアモルファス磁性合金線が配置され、このアモルファス磁性合金線と前記パイプとの間に樹脂が充填された磁気センサ素子において、樹脂のゴム硬度をショアA83以下としたことを特徴とする磁気センサ素子。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【公告番号】特公平7−82082
【公告日】平成7年(1995)9月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−298555
【出願日】平成1年(1989)11月16日
【公開番号】特開平3−158782
【公開日】平成3年(1991)7月8日
【出願人】(999999999)富士電機株式会社
【参考文献】
【文献】特開平1−155282(JP,A)
【文献】特開平1−284784(JP,A)
【文献】特開昭63−195518(JP,A)
【文献】特開平1−101414(JP,A)
【文献】特開平1−145519(JP,A)