説明

磁気テープの記録方法及びリニアテープシステム

【課題】磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善する磁気テープの記録方法及びその記録方法を実現するリニアテープシステムを提供する。
【解決手段】非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープにリニア方式でデータ信号を記録する磁気テープの記録方法において、データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きすることにより前記データ信号を消去した後に、新たにデータ信号を記録することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープの記録方法及びリニアテープシステムに関するものであり、とくに斜め蒸着磁気テープに対するリニア方式の記録方法及びその方法によるリニアテープシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータやインターネットの発達に伴い扱う情報量も格段に増加してきているが、これに伴いそれらの情報のバックアップなどデータストレージに用いられる記録装置の高容量化が必要となってきている。ここで記憶装置としてはHDDやストレージテープが挙げられ、その高容量化を促進するためには面記録密度を上げる必要がある。また、この面記録密度を上げるためには記録波長を狭める方法で線記録密度を高めたり、トラックピッチを狭めてトラック方向の密度を上げたりする方法がある。
【0003】
テープストリーマーでは、記録方式としてDDSやAITに見られるビデオタイプと同じヘリカルスキャン方式と、デジタルリニアテープ(DLT)やリニアテープオープン(LTO)などに見られる、磁気ヘッドをテープ幅方向に複数ならべ長尺形状の磁気テープに対して長手方向に摺動させて信号がリニアにデジタル記録されるリニア方式の2種類があるが、データストレージ用途ではリニア方式が採用されている。
【0004】
ところで、高記録密度を実現する磁気テープとしてCo系の斜め蒸着磁気テープが実用化されている。この斜め蒸着磁気テープは線記録密度が飛躍的に高いだけでなく、保存安定性や実用信頼性にも優れ、記録容量も伸びてきている。
【0005】
現在、斜め蒸着磁気テープは、デジタル映像記録機器であるDV方式のムービー等に使用されているが、優れた特性を有するものであるとともに、従来のいわゆる塗布型の磁気テープ(MPテープ)よりも、薄層構造の磁気テープが容易に作製できるので、大容量記録のデータストレージ機器用として好適である。
【0006】
最近では、このような斜め蒸着磁気テープをリニア方式の磁気記録再生装置(リニアテープシステム)に適用可能にする技術がいくつか提案されている。
例えば、斜め蒸着磁気テープに情報の記録を行う磁気ヘッドの2つのコアギャップ部の一方と他方に飽和磁束密度が異なる金属軟磁性層を形成し、磁性層のカラム傾斜方向(磁化容易方向)が傾いている方向と磁気ヘッドが相対的に移動する方向との関係からこれらのコアギャップ部の配置を決定し、磁気ヘッドの走行が逆方向となる場合でも優れたS/N比を確保する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、テープ支持体の両主面それぞれにカラム傾斜方向(磁化容易軸)が相互に逆向きとなるように斜め蒸着磁性層を形成し、それぞれの磁性層に対して磁気ヘッドを配置することにより、該磁気テープの走行において正逆両方向でリニア方式の記録再生ができる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
また、斜め蒸着磁気テープは磁性層の膜厚が60nm以下のメディアであるためオーバーライト特性は塗布型のMPテープよりも優れており、8T信号の消去率は30dBを超えるものである。
【0009】
【特許文献1】特開2003−59007号公報
【特許文献2】特開2003−178414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このように斜め蒸着磁気テープは良好なオーバーライト特性をもっているために、当該磁気テープに一度全面記録を行い、さらに上書きを行った場合に上書きされた信号の品質については議論されていなかった。例えば、斜め蒸着磁気テープのオーバーライト特性として消去率が30dBあってもまだ不十分の場合には上書きされたデータのエラーレートの劣化ということも考えられ、特にデータストレージ用のテープストリーマーシステムにおいては少しのエラーレートの劣化も見過ごされないシステムであるため、問題であった。
【0011】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善する磁気テープの記録方法及びその記録方法を実現するリニアテープシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために提供する本発明は、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープにリニア方式でデータ信号を記録する磁気テープの記録方法において、データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きすることにより前記データ信号を消去した後に、新たにデータ信号を記録することを特徴とする磁気テープの記録方法である(請求項1)。
【0013】
ここで、前記消去信号の周波数は、記録用信号最大周波数の略2倍であることが好ましい。
【0014】
前記課題を解決するために提供する本発明は、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープが正方向に走行する場合にリニア方式でデータ信号を記録する磁気ヘッドAと、前記磁気テープが逆方向に走行する場合にリニア方式でデータ信号を記録する磁気ヘッドBとを備えるリニアテープシステムであって、データ信号が記録された前記磁気テープが正方向に走行する場合には前記磁気ヘッドBを、データ信号が記録された前記磁気テープが逆方向に走行する場合には前記磁気ヘッドAを該磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きして前記データ信号を消去する消去用磁気ヘッドとすることを特徴とするリニアテープシステムである(請求項3)。
【0015】
前記課題を解決するために提供する本発明は、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープについてリニア方式で信号を記録、再生するリニアテープシステムであって、データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きして前記データ信号を消去する消去用磁気ヘッドを備えることを特徴とするリニアテープシステムである(請求項4)。
【0016】
ここで、請求項3または4の発明において、前記消去信号の周波数は、記録用信号最大周波数の略2倍であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気テープの記録方法によれば、斜め蒸着磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善することが可能である。また、従来の最適記録電流より高いS/N比を取ることができ、線記録密度のマージンが増加する。
本発明のリニアテープシステムによれば、斜め蒸着磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善することを実現するための装置を提供することができる。また、リニア方式のテープストリーマーとしての容量を従来よりも増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る磁気テープの記録方法の実施の形態について説明する。
本発明は、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープにリニア方式でデータ信号を記録する磁気テープの記録方法において、データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きすることにより前記データ信号を消去した後に、新たにデータ信号を記録することを特徴とする。
【0019】
本発明で使用される消去信号の出力パターンを図1に示す。消去信号は、記録用信号周波数帯域よりも高周波数側にのみ出力ピークがある出力パターンを呈する。また、出力ピークは複数あってもよいが、1つでもよい。
ここで、消去信号の周波数は、記録用信号最大周波数の略2倍であることが好ましい。例えば、記録用信号周波数帯域はPR4で4〜33MHzであり、この場合の消去信号の周波数は60〜70MHzであればよい。
【0020】
本発明の磁気テープの記録方法により、斜め蒸着磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善することができる。また、従来の最適記録電流より高いS/N比を取ることができ、線記録密度のマージンを増加させることが可能となる。
【0021】
ここで、本発明で使用される斜め蒸着磁気テープ10(図2を参照)は、ベースフィルムである非磁性テープ11の一主面上に情報記録層として磁性層12が斜め蒸着により形成された構成である。
非磁性テープ11は、一般的に磁気記録媒体に使用されるものをいずれも適用できる。プラスチックフィルム単独で構成してもよく、あるいはプラスチックフィルムの一主面、あるいは両主面に所定の材料により形成された任意の下地層を積層形成した構成としてもよい。
【0022】
非磁性テープ11の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート等が挙げられる。また、これらのポリエステルは、ホモポリエステルであってもコポリエステルであってもよい。
【0023】
さらに非磁性テープ11は、各種表面処理や各種装飾を施してもよい。例えば、適宜微細な凹凸形状を形成したり、表面にコロナ放電処理や電子線照射処理等の前処理を施したりしてもよい。また、表面に易接着層を形成して成膜される層との接着性を向上させるようにしてもよい。
また、走行安定性や耐久性の向上を図るために、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、ポリスチレン等の無機フィラーや有機フィラーを内添させてもよい。
【0024】
磁性層12は、真空下で強磁性金属材料を加熱蒸発させ非磁性テープ11上に所定方向に積層させる斜め蒸着技術によって形成され、一定方向にカラムが傾斜した、すなわち磁化容易軸を有するように形成されている。
【0025】
また、磁性層12は、磁気記録媒体用として従来公知の強磁性金属、合金をいずれも適用して形成することができる。例えば、Co、Ni等の強磁性金属、CoNi、FeCo、FeCoNi、CoCr、CoPt、CoPtB、CoCrPt、CoCrTa、CoCrPtTa等の合金材料や、これらの材料を酸素雰囲気中で成膜し、膜中に酸素を含有させたもの、またはこれらの材料に1種類あるいは2種類以上のその他の元素を含有させたもの等が挙げられる。
【0026】
磁性層12の厚みは、60nm以下が好ましい。とくに、MRヘッドで再生する場合には25nm以上、60nm以下であることが好ましく、GMRヘッドで再生する場合には、その範囲よりもさらに薄いことが好ましい。
【0027】
ここで斜め蒸着技術とは、図3に示すように非磁性テープ11に高真空のチャンバーの中でCo金属の蒸気を被着させるものである。
【0028】
具体的には、非磁性テープ11の搬送に関して(図3を参照)、非磁性テープ11は巻き出しロール41から巻き出され、サポートロール42を通過した後、冷却された金属製の円筒であるキャン43の表面に密着した状態で蒸着され、巻き取りロール44の方へ送られる構成となっている。
【0029】
また、蒸着に関しては、マグネシアのるつぼ45に純Coのインゴッド46を入れ、それに電子ビームを当てることにより溶解・蒸発させて非磁性テープ11上に斜め蒸着を行う構成となっている。この時、ある程度Co蒸気47の粒子の方向性を揃えるためマスク48で遮断されており、Co蒸気47はチャンバー内に流される酸素ガスによって酸化されたものが非磁性テープ11に被着する。なお、るつぼ45からの輻射熱や蒸気の熱によって非磁性テープ11が変形または溶け出さないようにキャン43は氷点下以下に冷却されている。
【0030】
また、蒸着された後に、スパッタまたはCVDにてダイヤモンドライクカーボン(DLC)のような保護膜、さらにその上に潤滑剤層、および非磁性テープ11の裏面には走行性を上げるためバック塗料を塗布して、斜め蒸着磁気テープ10とする。
【0031】
図2は、斜め蒸着磁気テープ10と記録用磁気ヘッド20の構成を示す模式図である。
記録用磁気ヘッド20は、リング状の部材の一部が開環してギャップ部Gを形成し、コイル20aが巻き付けられたMIG(Metal In Gap)ヘッドであり、磁気ヘッド20のコアギャップ部には金属軟磁性層21が形成されている。
【0032】
また、磁気ヘッド20は、斜め蒸着磁気テープ10に対して磁気ヘッド20の相対的な動き一方向とその逆の方向の両方向に動くリニア方式の磁気記録再生装置に適用され、例えば、4〜10m/秒程度のリニア速度で斜め蒸着磁気テープ10を移動させ、マルチチャンネルタイプの磁気ヘッドにより、複数のトラックを同時に記録あるいは再生する。
【0033】
コアギャップ部の金属軟磁性層21の材料は、飽和磁束密度を高める材料であり、例えば、CoZrNb、FeAlSi、NiFe、FeGaSiRu、FeGaSiRuO、FeTaC、CiNiFeB,CoFeB,CoNiFeS,CoNiFeC,CoNoFeMoC,FeTaN,FeAlN,FeRhN,FeMoN,FeZrN,FeSiN,FeZrO,FeAlNbNOなどを用いることができる。金属軟磁性層21の材料は、これらの例に限られない。
【0034】
つぎに、本発明の磁気テープの記録方法を実施するためのリニアテープシステムを説明する。
図4は、本発明に係るリニアテープシステムの第1の実施の形態の構成を示す概略図である。
このリニアテープシステム30Aは、非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープについてリニア方式で信号を記録、再生する磁気記録再生装置である。
リニアテープシステム30Aは、斜め蒸着磁気テープ10が収納されているカセット100から該斜め蒸着磁気テープ10を巻き出す巻出しロール31と、巻取りロール32と、これらの中間部に斜め蒸着磁気テープ10に対して所定のテンションを与え、所望の方向に走行させるために所定間隔に配設されたガイドロール33とからなる磁気テープの走行機構とを備える。また、これらガイドロール33間には、斜め蒸着磁気テープ10の主面に形成された磁性層12に対して信号の記録、再生を行うための記録用磁気ヘッド及び再生用磁気ヘッドを有する磁気ヘッドユニット34が配置されており、斜め蒸着磁気テープ10の正逆両方向の走行に対して、記録再生が可能となっている。
【0035】
磁気ヘッドユニット34の詳細な構成を図5に示す。
リニア方式おいては、ヘリカルスキャン方式とは異なりテープの記録方向は一方向だけでなく、双方向記録が求められる。しかし、斜め蒸着磁気テープ10はその磁性層12を構成する結晶のカラムが傾斜しているために記録密度に方向性が存在する。そのため、磁気ヘッドユニット34は、記録方向として斜め蒸着磁気テープ10の磁性層12のカラム傾斜方向に該斜め蒸着磁気テープ10を走行させた場合(磁気テープ走行方向が正方向(テープ巻出し方向)の場合)に磁性層12に記録を行う記録用磁気ヘッド34A1と、該磁性層12のカラム傾斜方向とは逆方向に斜め蒸着磁気テープ10を走行させた場合(磁気テープ走行方向が逆方向(テープ巻取り方)の場合)に磁性層12に記録を行う記録用磁気ヘッド34B1とを備えている。また、磁気ヘッドユニット34は、斜め蒸着磁気テープ10の走行方向が正方向(テープ巻出し方向)の場合の磁性層12に対して信号の再生を行うための再生用磁気ヘッド34A2と、斜め蒸着磁気テープ10の走行方向が逆方向(テープ巻取り方向)の場合の磁性層12に対して信号の再生を行うための再生用磁気ヘッド34B2とを備えている。
【0036】
また、磁気ヘッドユニット34は、テープ巻出し方向に対して記録用磁気ヘッド34A1、再生用磁気ヘッド34A2の順で配置して一対の磁気ヘッドとして、その対となった磁気ヘッドが斜め蒸着磁気テープ10の幅方向に複数配置されたテープ巻出し方向用磁気ヘッド34Aを備えている。また、磁気ヘッドユニット34は、テープ巻取り方向に対して記録用磁気ヘッド34B1、再生用磁気ヘッド34B2の順で配置して一対の磁気ヘッドとして、その対となった磁気ヘッドが斜め蒸着磁気テープ10の幅方向に複数配置されたテープ巻取り方向用磁気ヘッド34Bを、テープ巻出し方向に対してテープ巻出し方向用磁気ヘッド34Aの手前に配置している。
【0037】
記録用磁気ヘッド34A1,34B1は、図2で示した磁気ヘッド20と同じ構成でよく、再生用磁気ヘッド34A2,34B2は、磁気抵抗効果型の磁気ヘッド、例えば異方性磁気抵抗効果型ヘッド(AMRヘッド)若しくは巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)を用いる。
【0038】
リニアテープシステム30Aにおいてテープ巻出し方向に斜め蒸着磁気テープ10が走行する場合の該斜め蒸着磁気テープへの記録の様子を図6に示す。この場合の記録はつぎの手順で行われる。
(S11)データ信号が記録された斜め蒸着磁気テープ10(図中、領域a1の旧記録データの部分)が記録用磁気ヘッド34B1との摺動部分に入ってくる。
(S12)記録用磁気ヘッド34B1にて斜め蒸着磁気テープ10の領域a1に対して、図1に示した信号パターンの消去信号が書き込まれる。これにより、斜め蒸着磁気テープ10の領域a1の旧記録データは消去され、全消去状態(AC消去状態)の領域a2となる。
(S13)斜め蒸着磁気テープ10の領域a2が記録用磁気ヘッド34A1との摺動部分に入ってくる。
(S14)記録用磁気ヘッド34A1にて斜め蒸着磁気テープ10の領域a2に対して、新たなデータ信号が書き込まれ、新記録データが記録された領域a3となる。
【0039】
また、リニアテープシステム30Aにおいてテープ巻取り方向に斜め蒸着磁気テープ10が走行する場合の該斜め蒸着磁気テープへの記録の様子を図7に示す。この場合の記録はつぎの手順で行われる。
(S21)データ信号が記録された斜め蒸着磁気テープ10(図中、領域b1の旧記録データの部分)が記録用磁気ヘッド34A1との摺動部分に入ってくる。
(S22)記録用磁気ヘッド34A1にて斜め蒸着磁気テープ10の領域b1に対して、図1に示した信号パターンの消去信号が書き込まれる。これにより、斜め蒸着磁気テープ10の領域b1の旧記録データは消去され、全消去状態(AC消去状態)の領域b2となる。
(S23)斜め蒸着磁気テープ10の領域b2が記録用磁気ヘッド34B1との摺動部分に入ってくる。
(S24)記録用磁気ヘッド34B1にて斜め蒸着磁気テープ10の領域b2に対して、新たなデータ信号が書き込まれ、新記録データが記録された領域b3となる。
【0040】
このように本発明では、リニアテープシステム30Aにおいて、データ信号の記録に関与しない記録用磁気ヘッドを消去用磁気ヘッドとして活用することを特徴としている。すなわち、図5においてデータ信号が記録された斜め蒸着磁気テープ10がテープ巻出し方向に走行する場合には記録用磁気ヘッド34B1を、テープ巻取り方向に走行する場合には記録用磁気ヘッド34A1を該斜め蒸着磁気テープ10に記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きして前記データ信号を消去する消去用磁気ヘッドとするものである。
【0041】
つぎに、本発明のリニアテープシステムの他の実施の形態を説明する。
図8は、本発明に係るリニアテープシステムの第2の実施の形態の構成を示す概略図である。
図8に示すリニアテープシステム30Bは、第1の実施の形態のリニアテープシステム30Aの構成において、磁気ヘッドユニット34とは別に消去用磁気ヘッドユニット35を備えた構成となっている。また、消去用磁気ヘッドユニット35は、図2で示した磁気ヘッド20と同じ構成の消去用磁気ヘッドが斜め蒸着磁気テープ10の幅方向に複数配置されたものとなっている。
【0042】
リニアテープシステム30Bにおける斜め蒸着磁気テープへの記録は、テープ走行方向に関わらず、まずデータ信号が記録された斜め蒸着磁気テープ10について、消去用磁気ヘッドユニット35にて旧記録データの領域に対して、図1に示した信号パターンの消去信号を書き込むことにより、その旧記録データを消去し、全消去状態(AC消去状態)とする。ついで磁気記録ヘッドユニット34によりその全消去状態の領域に新たなデータ信号を書き込むものである。
【0043】
上記本発明のリニアテープシステムによれば、斜め蒸着磁気テープへデータを上書きする場合のエラーレートの劣化を改善することが可能となり、直接上書きする場合に比べて0.3dBの劣化を除去することができる。また、リニア方式のテープストリーマーとしての容量を従来よりも増加させることができる。
【実施例】
【0044】
磁気テープを用いたデータストリーマーの場合には、通常バックアップやアーカイブの役割を持つため、HDDの様に比較的ランダムにデータを蓄積するのではなく、シーケンシャルにデータを蓄積するものである。テープストリーマーはこのような特徴をもつため、上書きする場合には磁気テープの最初から改めて記録を行うということになる。実際斜め蒸着磁気テープはオーバーライト特性が30dB以上あるが、オーバーライトがデジタルS/N比に影響するのか定かではない。また、デジタルS/N比が劣化するということはエラーレートの劣化にもなり、エラーフリーでなければならないデータストレージ用としてはマージンがかなりあれば良いが、通常S/N比の劣化は許されるものではない。そこで、ここでは斜め蒸着磁気テープに記録再生を行い、オーバーライトによるS/N比の劣化を検証した。
【0045】
(実施例)
(1)供試材
記録再生の際に使用した供試材及び磁気ヘッドを以下に示す。
(i)供試材:斜め蒸着磁気テープ
・非磁性テープ:ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
・磁性層:CoO斜め蒸着膜(膜厚;55nm)
(ii)記録用磁気ヘッド:トラック幅7μm、ギャップ長0.2μm
(iii)再生用磁気ヘッド:AMRヘッド(トラック幅1.9μm、シールド間距離0.18μm)
【0046】
(2)記録再生方法
円筒状のドラムの周面に上記斜め蒸着磁気テープを巻きつけた状態で電磁変換特性を測定できるドラムテスターを用い、上記記録用磁気ヘッド、再生用磁気ヘッドを使用してつぎの手順で記録再生を行った。
(S31)ドラムを回転させた状態で上記記録用磁気ヘッドを斜め蒸着磁気テープに摺動させて、127bitで0が最大で7つ並ぶM系列(ランダム信号)を記録した。
(S32)ついで、同じ記録用磁気ヘッドを用いて、斜め蒸着磁気テープ10のステップS31でデータ記録した領域に対して、図1に示した信号パターンの消去信号を書き込み、その領域の記録データを消去し、全消去状態とした。
(S33)ついで、同じ記録用磁気ヘッドを用いて、斜め蒸着磁気テープ10のステップS32で全消去状態とされた領域に127bitで0が最大で7つ並ぶM系列(ランダム信号)を記録した。
ステップS33終了後、上記再生用磁気ヘッドを斜め蒸着磁気テープに摺動させて再生し、出力された波形データを信号処理によりイコライザー及びEPR4の復調を行った後、検出点の波形のばらつきからデジタルS/N比を求めた。
【0047】
(比較例)
実施例において、記録手順としてステップS32の記録を行わず、ステップS31,S33の順番で記録を行い、それ以外は実施例と同じ条件で記録再生を行った。
【0048】
以上の結果、実施例におけるデジタルS/N比は18.5dBであり、比較例におけるデジタルS/N比は18.2dBであった。
このように、斜め蒸着磁気テープのデータ信号が記録された領域に直接上書きする場合(比較例)よりも、一度図1に示した信号パターンの消去信号を書き込んで全消去状態として記録する場合(実施例)のほうが0.3dB良いことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明で使用される消去信号の出力パターンを示す図である。
【図2】斜め蒸着磁気テープと記録用磁気ヘッドの構成を示す模式図である。
【図3】斜め蒸着装置の構成を示す概略図である。
【図4】本発明に係るリニアテープシステムの第1の実施の形態の構成を示す概略図である。
【図5】図4のリニアテープシステムにおける磁気ヘッドユニットの構成を示す概略図である。
【図6】図4のリニアテープシステムにおいてテープ巻出し方向に斜め蒸着磁気テープが走行する場合の該斜め蒸着磁気テープへの記録状況を示す図である。
【図7】図4のリニアテープシステムにおいてテープ巻取り方向に斜め蒸着磁気テープが走行する場合の該斜め蒸着磁気テープへの記録状況を示す図である。
【図8】本発明に係るリニアテープシステムの第2の実施の形態の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0050】
10…斜め蒸着磁気テープ、11…非磁性テープ、12…磁性層、20,34A1,34B1…記録用磁気ヘッド、20a…コイル、21…金属軟磁性層、30A,30B…リニアテープシステム、31…巻き出しロール、32…巻き取りロール、33…ガイドロール、34…磁気ヘッドユニット、34A…テープ巻出し方向磁気ヘッド、34B…テープ巻取り方向磁気ヘッド、34A2,34B2…再生用磁気ヘッド、35…消去用磁気ヘッド、41…巻き出しロール、42…サポートロール、43…キャン、44…巻き取りロール、45…るつぼ、46…Coインゴット、47…Co蒸気、48…マスク



【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープにリニア方式でデータ信号を記録する磁気テープの記録方法において、
データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きすることにより前記データ信号を消去した後に、新たにデータ信号を記録することを特徴とする磁気テープの記録方法。
【請求項2】
前記消去信号の周波数は、記録用信号最大周波数の略2倍であることを特徴とする請求項1に記載の磁気テープの記録方法。
【請求項3】
非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープが正方向に走行する場合にリニア方式でデータ信号を記録する磁気ヘッドAと、前記磁気テープが逆方向に走行する場合にリニア方式でデータ信号を記録する磁気ヘッドBとを備えるリニアテープシステムであって、
データ信号が記録された前記磁気テープが正方向に走行する場合には前記磁気ヘッドBを、データ信号が記録された前記磁気テープが逆方向に走行する場合には前記磁気ヘッドAを該磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きして前記データ信号を消去する消去用磁気ヘッドとすることを特徴とするリニアテープシステム。
【請求項4】
非磁性テープ上に斜め蒸着により形成された磁性層を有する磁気テープについてリニア方式で信号を記録、再生するリニアテープシステムであって、
データ信号が記録された前記磁気テープに記録用信号周波数帯域よりも高い周波数の消去信号を上書きして前記データ信号を消去する消去用磁気ヘッドを備えることを特徴とするリニアテープシステム。
【請求項5】
前記消去信号の周波数は、記録用信号最大周波数の略2倍であることを特徴とする請求項3または4に記載のリニアテープシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−79673(P2006−79673A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259839(P2004−259839)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】