磁気ディスクおよび磁気ディスク装置
【課題】データの記録における信号品質の均一化およびクロスライトの低減を図る。
【解決手段】磁気ディスクは、周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画されたデータ記録面を有する。第1領域および第2領域のうちの少なくとも第1領域には、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける第2領域での記録可能な部分の幅が第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい。
【解決手段】磁気ディスクは、周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画されたデータ記録面を有する。第1領域および第2領域のうちの少なくとも第1領域には、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける第2領域での記録可能な部分の幅が第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録媒体である磁気ディスクおよびそれを備える磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置は、回転する磁気ディスクに対して浮上するスライダを備え、スライダに設けられた磁気ヘッドによって記録トラックにデータを記録し、または記録トラックからデータを読み取る。記録トラックへのアクセスは、磁気ヘッドが磁気ディスクから僅かに離れた非接触状態で行われる。近年では、スライダと磁気ディスクとの間隔(浮上高さ)が10nm以下にまで狭まっている。
【0003】
このような磁気ディスク装置におけるエラーレートに関わる問題として、1つの記録トラックに複数のセクタにわたってデータを連続的に記録する際に、記録開始から間も無い時期に記録されるセクタとある程度の時間が経過した時点以降に記録されるセクタとで、記録されるデータの信号品質が異なることが知られている。そして、原因が磁気ヘッドの“熱突き出し”であることも知られている。
【0004】
熱突き出しは、磁気ヘッドに記録電流が供給されることにより起こる発熱で磁気ヘッドが熱膨張し、磁極の先端がスライダのディスク対向面から突き出る現象である。記録電流の通電の開始から暫くは昇温にともなって突き出し長さが増大するが、数セクタ程度の記録を終えた頃に磁気ディスクの回転による空冷作用と電流損失の発熱とが均衡して突き出し長さがほぼ一定(1nm程度)になる。磁極の先端が突き出て磁気ディスクに近づくと、記録トラックに印加される記録磁界が強くなる。通常、強い磁界で記録される信号の品質は弱い磁界で記録される信号の品質と比べて良好である。したがって、「記録の初めの時期に記録されるセクタでは、それらより後に記録されるセクタと比べてデータエラーが生じ易い」というエラーレートの不均一が熱突き出しによって生じる。
【0005】
熱突き出しの対策として、特開2004−281012号公報および特開2006−85832号公報において、記録電流を意図的に変化させる方法が開示されている。その方法は、所定長のデータの記録において記録の初期では比較的に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給し、初期より後の期間では比較的に小さな記録電流を磁気ヘッドに供給する。熱突き出しに係る突き出し長さの変化に対応させて記録電流を段階的または連続的に低減することによって、記録トラックには記録の開始から終了までほぼ一定の記録磁界が印加される。
【特許文献1】特開2004−281012号公報
【特許文献2】特開2006−85832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
記録電流を変化させる手法は1つの記録トラックにおけるエラーレートの均一化には有効であるものの、次の問題を生じさせる。
【0007】
磁気ヘッドと磁気ディスクとの距離が比較的に大きい記録の初期に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給することにより、記録トラックに十分な強度の記録磁界が加わるものの、記録電流が小さい場合と比べて実質的に記録幅が拡がるので、当該記録トラックに隣接する記録トラックにも許容できない強さの磁界が加わる。すなわち、隣接した記録トラックに同時にデータが記録される不都合であるクロスライトが生じる。クロスライトが生じない程度に初期の記録電流を設定すると、初期より後の期間(以下、これを定常期という)にはエラーレートを均一にするために初期よりも小さい電流を供給しなければならないので、定常期の記録磁界が本来の最適な磁界よりも弱いものになる。このため、全体的にデータのエラーレートが増加してしまう。
【0008】
本発明は、所定長のデータの記録における信号品質の均一化およびクロスライトの低減に有用な磁気ディスクの提供を目的としている。他の目的は、所定長のデータの全体にわたって信号品質が良好な記録を実現する磁気ディスク装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する磁気ディスクは、同心円状に並びまたは螺旋状に連なる複数の記録トラックが設定され、周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画されたデータ記録面を有する。第1領域および第2領域のうちの少なくとも前記第1領域には、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける第2領域での記録可能な部分の幅が第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい。
【0010】
第1領域では、1つの記録トラックに磁気ヘッドを対向させてデータを記録する際に、記録トラックおよびそれを挟むガードバンドに強い磁界が拡がってもクロスライトが生じない。すなわち、第1領域では第2領域と比べると、クロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が大きい。
【0011】
上記目的を達成する磁気ディスク装置は、上記のガードバンドを有した磁気ディスクと、磁気ディスクを回転させるモータと、記録磁界を発生する磁気ヘッドと、磁気ヘッドに記録電流を供給する回路と、磁気ヘッドを選択された記録トラックに対向させる機構と、回路および機構を制御する制御部とを備える。制御部は、回転する磁気ディスクにおける選択された1つの記録トラックへのデータの記録に際して、当該記録トラックにおける第1領域内の位置から当該記録を開始するとともに、当該記録の初期であって前記磁気ヘッドが前記第1領域と対向する期間には前記磁気ヘッドに第1の値の電流を供給し、前記磁気ヘッドが前記第2領域と対向する期間には前記第1の値よりも小さい値の電流を前記磁気ヘッドに供給する、という制御を行う。
【0012】
磁気ヘッドに供給する電流を初期とその後とで異ならせることにより、熱突き出しによる磁気ヘッドと磁気ディスクとの距離の変化に関わらず、記録トラックに印加される記録磁界の強度が1データの記録期間の全体にわたって均等にすることができる。第1領域を記録開始位置とすることにより、記録の初期に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給して印加磁界を強めてもガードバンドによってクロスライトが防止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定長のデータの記録における信号品質の均一化およびクロスライトの低減を図ることができる。そして、所定長のデータの全体にわたって信号品質が良好な記録を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1のように、第1実施形態の磁気ディスク1は、同心円状に並ぶ多数の記録トラック24が設定された環状のデータ記録面20を有する。
【0015】
データ記録面20は、円環を中心角度の異なる扇形に分割する形式で、第1領域である1つのディスクリート領域21と第2領域である1つの非ディスクリート領域22とに区画されている。図中で斜線を付した部分がディスクリート領域21であり、データ記録面20におけるディスクリート領域21以外が非ディスクリート領域22である。
【0016】
図示の磁気ディスク1の構成は角速度一定(CAV)で回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものであるので、ディスクリート領域21はデータ記録面20の外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0017】
ディスクリート領域21の角度範囲は、後述のセクタの数個分に対応する小範囲である。データ記録面20の大半が非ディスクリート領域22であり、ディスクリート領域21と比べて非ディスクリート領域22が格段に広い。言い換えれば、各記録トラック24におけるディスクリート領域21に対応する部分と比べて、非ディスクリート領域22に対応する部分が十分に長い。
【0018】
図1中の破線で囲まれた部分AAを描いた図2のように、ディスクリート領域21と非ディスクリート領域22との区画と整合させて、データ記録面20は1周を所定角度ずつ分割する形式で複数のユーザデータ領域31と複数のサーボ領域32とに区画されている。図2ではこれら領域の周方向両端縁が直線に描かれているが、実際はディスクリート領域21の端縁と同様に、CAV回転および回動式シーク動作に適合するように曲がっている。
【0019】
ユーザデータ領域31は任意のデータを記憶する領域であり、サーボ領域32はサーボ制御のための情報を記憶する領域である。サーボ制御のための情報は、トラッキングのためのマーク、クロック生成のためのマーク、およびアドレス情報を含む。
【0020】
本例においては、データ長の最小単位(一般に512バイト)に対応する角度範囲の領域であるセクタごとにサーボ領域32が設けられている。1つのセクタに1つのユーザデータ領域31が対応するので、以下においてはユーザデータ領域をセクタという。
【0021】
図2によく示されるとおり、ディスクリート領域21に対応する3個のセクタ31には、隣接した記録トラック24どうしを磁気的に分離するガードバンド41,42,43が形成されている。これに対して、非ディスクリート領域22にはガードバンド41,42,43が形成されていない。したがって、必然的に、各記録トラック24における非ディスクリート領域22での記録可能な部分の幅w20がディスクリート領域21での記録可能な部分の幅w11、w12、w13よりも大きい。
【0022】
ディスクリート領域21の3個のセクタ31にそれぞれ形成されたガードバンド41,42,43の幅は互いに異なる。ディスク回転方向M1の逆であるヘッド走行方向M2の後方側に位置するセクタ31のガードバンド41が最も太く、ヘッド走行方向M2の前方側に位置するセクタ31のガードバンド43が最も細い。したがって、1つの記録トラック24に磁気ヘッドを対向させてデータを記録する際に、ディスクリート領域21の3個のセクタ31の中で最初に磁気ヘッドと対向するセクタ(ヘッド走行方向M2の最も後方のセクタ)31では、他のセクタ31と比べて、クロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が大きい。
【0023】
ヘッド走行方向M2の前方に向かってガードバンド41,42,43が段階的に細くなるので、記録トラック24の記録可能な部分はヘッド走行方向M2の前方に向かって太くなる。そして、ディスクリート領域21から非ディスクリート領域22に移ると、記録トラック24の記録可能な部分の幅(実質的なトラック幅)が広がってトラックピッチ(w20)と等しくなる。データ保持の安定化の上では実質的なトラック幅の広いのが有利である。
【0024】
磁気ディスク1は図3および図4に示されるSFM(Synthetic Ferri Media)構造の磁気記録媒体であり、図5に示される面記録方式の記録に用いられる。
【0025】
図3および図4にのように、磁気ディスク1は、ガラスまたは樹脂からなる基板10とそれに順に積層された下地層11、中間層12、安定化層13、記録層14、および保護膜15とからなる。
【0026】
図3のように、ディスクリート領域21では、記録層14は径方向M3に互いに離れた複数の硬磁性体40とそれらの間を埋める非磁性体からなるガードバンド41,42,43(図3ではガードバンド41のみが描かれている)とで構成される。硬磁性体40およびガードバンド41は図3の紙面の表裏方向に延びており、各硬磁性体40が1つの記録トラック24に対応する。図4のように、非ディスクリート領域22では、記録層14は硬磁性体40のみからなる。
【0027】
記録層14の形成方法は、安定化層13上に例えば硬磁性層として例えばコバルトクロム白金層を積層する工程、インプリントまた一般的なフォトリソグラフィによるマスクを用いて硬磁性層を部分的にエッチングする工程、エッチングで生じた凹部に非磁性体として例えば二酸化珪素を埋め込む工程、および表面を平坦化する工程を含む。非磁性体の埋込みおよび表面平坦化を行うことにより、磁気ディスク1に対して相対移動する磁気ヘッドの浮上状態を安定にすることができる。
【0028】
以上の構成の磁気ディスク1は図6の磁気ディスク装置5に組み込まれる。
【0029】
磁気ディスク装置5は、磁気ディスク1を矢印M1の方向に回転させるスピンドルモータ51、磁気ディスク1にアクセスするためのヘッド部52、ヘッド部52を支持し且つ自身が回動可能なアーム54、アーム54を回動させるアクチュエータであるボイスコイルモータ55、ヘッド部52を駆動するためのヘッド駆動回路56、およびこれらの動作を制御するコントローラ58を備える。
【0030】
ヘッド部52は、図5に示される磁気ヘッド520、磁気ヘッド520を磁気ディスク1に対して浮上させるためのスライダからなる。磁気ヘッド520はライト部およびリード部をもち、スライダにおけるヘッド走行方向M2の後方側端面の例えば外周側の端部に配置されている。そして、アーム54とボイスコイルモータ55とからなるシーク機構53によって、アクセス対象として選択された記録トラック24に対向する位置に配置される。
【0031】
ヘッド駆動回路56は、磁気ヘッド520へ記録電流を供給する電流可変のドライバ、および磁気ヘッド520からのリード信号を増幅する増幅器などを含んでいる。
【0032】
コントローラ58は、プログラムを実行するプロセッサを含むハードウェアと、制御プログラムを含むソフトウェアとによって構成される。コントローラ58の基本動作は、公知のハードディスク装置の制御動作と同様であるが、データの記録に際しては磁気ディスク1に特有の制御を行う。
【0033】
磁気ディスク装置5におけるデータの記録には2つの特徴がある。第1の特徴は、従来と同様に熱突き出しを考慮して記録電流を記録の初期に一時的に大きくする電流制御を行うことである。第2の特徴は、熱突き出しを考慮しなければならない所定長を超えるデータ長のデータについては、ディスクリート領域21から記録を開始することである。
【0034】
本例では、図7(A)のように4以上のn個のセクタにわたってデータを記録する際に、先頭から3番目までのセクタに記録する初期段階では熱突き出しの突き出し長さが記録開始からの時間の経過につれて増大するものの、4番目のセクタへの記録に移る頃には突き出し長さがほぼ飽和値に達し、その後は記録終了までほぼ飽和値のまま一定である。
【0035】
コントローラ58は、記録電流の設定値を先頭のセクタで最も大きく、記録が2番目、3番目、4番目のセクタへと進むにつれて段階的に下げるようヘッド駆動回路56を制御する。4番目以降のセクタに記録する期間、すなわち突き出し長さが変化しない定常期には、記録電流の設定値をあらかじめ決められた最適値に保つようコントローラ58はヘッド駆動回路56を制御する。記録開始時点の記録電流の設定値は定常期の設定値の例えば、1.2倍から1,3倍程度である。記録開始後の設定値の引き下げ量はヘッド構造やディスク回転速度に依存する突き出し長さの変化特性に応じて、磁気ヘッド520と磁気ディスク1との距離に関わらずどのセクタにも設定強度の磁界が加わるように選定される。環境温度や磁気ヘッド520の温度を検知して記録電流を最適化することもできる。
【0036】
なお、図7(A)の破線の曲線は初期においても定常期と同じ値の記録電流を供給した場合の突き出し長さの変化を示している。初期に定常期よりも大きい記録電流を供給することにより、突き出し長さが早期に安定することが図7(A)から分かる。
【0037】
記録の初期に定常期と比べて大きな記録電流を供給することより、磁気ヘッド520と磁気ディスク1との距離が大きいにも関わらず、記録トラック24には十分な強度の磁界が加わって良質の記録状態が得られる。また、大きな記録電流を供給することより図8(A)のように磁界91の幅が記録トラック24の幅w20を多少超えたとしても、磁界の拡がりがガードバンド41の機能する範囲内であればクロスライトは生じない。
【0038】
記録トラック24の非ディスクリート領域22内の部分に記録する定常期には、図8(B)のようにクロスライトが生じない範囲内で記録面を最大限に利用することができる磁界92が記録トラック24に印加される。
【0039】
図9は第2実施形態の磁気ディスク2の領域区分を示す。
【0040】
磁気ディスク2も図1の磁気ディスク1と同様に同心円状に並ぶ多数の記録トラック27が設定された環状のデータ記録面20bを有する。データ記録面20bは、円環を中心角度の異なる扇形に分割する形式で、第1ディスクリート領域25と第2ディスクリート領域26とに交互に区画されており、計4個の等間隔に配置された第1ディスクリート領域25と同じく計4個の等間隔に配置された第2ディスクリート領域26とからなる。図中で斜線を付した部分が第1ディスクリート領域25であり、データ記録面20bにおけるディスクリート領域25以外が第2ディスクリート領域26である。
【0041】
磁気ディスク2の構成もCAV回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものであるので、第1ディスクリート領域25および第2ディスクリート領域26はデータ記録面20bの外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0042】
各第1ディスクリート領域25の角度範囲は、セクタの数個分に対応する小範囲である。データ記録面20bの大半が第2ディスクリート領域26であり、各記録トラック27における第1ディスクリート領域25に対応する部分と比べて、第2ディスクリート領域26に対応する部分が十分に長い。
【0043】
図9中の破線で囲まれた部分BBを描いた図10のように、データ記録面20bも1周を所定角度ずつ分割する形式で最小単位のユーザデータ領域であるセクタ31と複数のサーボ領域32とに区画されている。
【0044】
図10によく示されるとおり、第1ディスクリート領域25に対応する3個のセクタ31には、隣接した記録トラック27どうしを磁気的に分離するガードバンド45,46,47が形成されている。そして、第2ディスクリート領域26にもガードバンド48が形成されている。すなわち、磁気ディスク2は、記録トラック27が全周にわたって磁気的に分離されたディスクリートトラック型の記録媒体である。
【0045】
第1ディスクリート領域25の3個のセクタ31にそれぞれ形成されたガードバンド45,46,47の幅は互いに異なり、かつ第2ディスクリート領域26のセクタ31に形成されたガードバンド48の幅とも異なる。第1ディスクリート領域25の中でヘッド走行方向M2の最も後方に位置するガードバンド45が最も太く、中央に位置するガードバンド46が次ぎに太く、ヘッド走行方向M2の最も前方側に位置するガードバンド47が最も細い。そして、このガードバンド47よりも第2ディスクリート領域26のガードバンド48が細い。第2ディスクリート領域26の中では複数のガードバンド48の幅は均等である。必然的に、各記録トラック27における第2ディスクリート領域26での記録可能な部分の幅w24は第1ディスクリート領域25での記録可能な部分の幅w21、w22、w23よりも大きい。
【0046】
磁気ディスク2においては、第1ディスクリート領域25でのクロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が、第2ディスクリート領域26での上限と比べて大きい。さらに、第1ディスクリート領域25の中でもヘッド走行方向M2の後方側から順に各セクタ31での上限が大きい。
【0047】
したがって、磁気ディスク2においても、上述のようにデータの記録に際して印加磁界強度が均等化されるように熱突き出しを考慮して記録電流を変化させ、かつ第1ディスクリート領域25から記録を開始することにより、クロスライトのない良好な記録を実現することができる。
【0048】
さらに、磁気ディスク2においては、記録開始位置として好適な4個の第1ディスクリート領域25が周方向に等間隔に配置されているので、第1ディスクリート領域25が単一である場合と比べて、磁気ディスク2が回転して磁気ヘッド520が記録開始位置に対向するのを待つ待機時間が短い。磁気ディスク2は上述の磁気ディスク1と比べてアクセスの高速化に適している。
【0049】
以上の第1および第2の実施形態では記録トラック24,27の配置に関して同心円形式を挙げたが、これに限らない。映像や音声といったデータサイズの大きいデータの記録に好適とされる螺旋形式であってもよい。
【0050】
図11に示す第3実施形態の磁気ディスク3は、螺旋状に連なる複数の記録トラック28が設定された環状のデータ記録面20cを有する。複数の記録トラック28を連続した1本の螺旋状トラックとみなすことができるが、ここでいう各記録トラック28は磁気ディスク3の中央の孔を周回する1周分の区画を意味する。
【0051】
データ記録面20cは、第1領域である1つのディスクリート領域21cと第2領域である1つの非ディスクリート領域22cとに区画されている。図中で斜線を付した部分がディスクリート領域21cであり、データ記録面20cにおけるディスクリート領域21以外が非ディスクリート領域22cである。
【0052】
ディスクリート領域21cには図2の例と同様にガードバンド41,42,43が形成されており、非ディスクリート領域22cにはガードバンド41,42,43が形成されていない。したがって、ディスクリート領域21cでのクロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が、非ディスクリート領域22cでの上限と比べて大きい。磁気ディスク3においても、上述のようにデータの記録に際して印加磁界強度が均等化されるように熱突き出しを考慮して記録電流を変化させ、かつディスクリート領域21cから記録を開始することにより、クロスライトのない良好な記録を実現することができる。
【0053】
以上の第1、第2、第3の実施形態において、磁気ディスク1,2,3の構成は例示に限定されない。ディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25の周方向の広さは、突き出し長さが増大する記録の初期に対応するトラック長に応じて適宜選定すべき事項であり、1個のセクタ、2個のセクタまたは4個以上のセクタに対応するものでもよい。ディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25の個数は1以上であればよい。ただし、第2実施形態のように複数にするのが高速のアクセスの上で有利である。ECC(Error Check and Correct)単位のセクタ群ごとにディスクリート領域21,21cまたは第1ディスクリート領域25を設けることができる。例えば、512Bセクタで2kB−ECCの場合は4の倍数のセクタに対して1つの記録開始位置を配置する。
【0054】
必ずしもディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25はデータ記録面20,20b、20cの径方向の全長にわたる必要はない。データ記録面20,20b、20cを径方向に複数のゾーンに区画し、ゾーン間で先頭セクタの周方向位置が異なる場合には、各ゾーンの先頭部をディスクリート領域21,21cまたは第1ディスクリート領域25とするのが好ましい。
【0055】
ガードバンド41,42,43,45,46,47,48の幅はトラックピッチや浮上高さなどの構造条件に応じて適宜選定すべき事項である。例えば、最も太いガードバンド41の幅をトラックピッチの20%程度とし、それを基準に他のガードバンドの幅を選定すればよい。ガードバンドの幅をヘッド走行方向M2の前方に向かって連続的に細くしてもよい。磁気ヘッド520のスキューに応じて、径方向の配置位置によってガードバンド幅を最適化することもできる。データ記録面20,20b、20cの内側または外側に記録開始用のガードバンドをもつタミー記録トラックを設けてもよい。
【0056】
ガードバンド41,42,43,45,46,47,48は非磁性体に限らず、溝(空隙)でもよいし、硬磁性層を局部的に加熱するなどして保磁力を低下させた変質層でもよい。
【0057】
データ記録面20,20b,20cにおいて区画される各領域の形状は、並進移動式アームでのシークを前提とする場合には、直線と円弧で形づくられる扇型となる。ディスク回転を線速度一定(CLV)とする場合は、ディスクリート領域21,21c、第1ディスクリート領域25、セクタ31、サーボ領域32は一定幅の帯状となる。
【0058】
サーボ領域32には、ガードバンド41,42,43の形成と同時に所定の非磁性パターンを形成して、硬磁性体と非磁性体との組み合わせで情報を表すサーボマークを形成してもよい。または、サーボ領域32の層構成を非ディスクリート領域22と同様とし、サーボ領域32内の記録層14に磁気転写または線記録によって第1および第2の磁化方向の組み合わせで情報を表すサーボマークを形成してもよい。
【0059】
基板10の片面に記録層14を配した片面構成を図示したが、基板10の両面に記録層14を配した両面構成であってもよい。磁気ディスク装置5において、複数枚の磁気ディスク1,2,3を組み込んでシリンダを構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、磁気ディスク装置の性能向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【図2】ガードバンドの配置の第1例を示す図である。
【図3】磁気ディスクのディスクリート領域の層構成を示す図である。
【図4】磁気ディスクの非ディスクリート領域の層構成を示す図である。
【図5】磁気記録の形式を示す図である。
【図6】磁気ディスク装置の構成を示す図である。
【図7】熱突き出しに対応する記録電流の制御を示す図である。
【図8】トラック幅と記録磁界の関係を示す図である。
【図9】第2実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【図10】ガードバンドの配置の第2例を示す図である。
【図11】第3実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3 磁気ディスク
22,27,28 記録トラック
20,20b、20c データ記録面
21,21c ディスクリート領域(第1領域)
22,22c 非ディスクリート領域(第2領域)
25 第1ディスクリート領域(第1領域)
26 第2ディスクリート領域(第2領域)
41,42,43 ガードバンド
w11,w12,w13 第1領域での記録可能な部分の幅
w20 第2領域での記録可能な部分の幅
w21,w22,w23 第1領域での記録可能な部分の幅
w24 第2領域での記録可能な部分の幅
5 磁気ディスク装置
51 モータ
52 ヘッド部
520 磁気ヘッド
56 記録電流を供給する回路
53 シーク機構
58 コントローラ(制御部)
【技術分野】
【0001】
本発明は記録媒体である磁気ディスクおよびそれを備える磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置は、回転する磁気ディスクに対して浮上するスライダを備え、スライダに設けられた磁気ヘッドによって記録トラックにデータを記録し、または記録トラックからデータを読み取る。記録トラックへのアクセスは、磁気ヘッドが磁気ディスクから僅かに離れた非接触状態で行われる。近年では、スライダと磁気ディスクとの間隔(浮上高さ)が10nm以下にまで狭まっている。
【0003】
このような磁気ディスク装置におけるエラーレートに関わる問題として、1つの記録トラックに複数のセクタにわたってデータを連続的に記録する際に、記録開始から間も無い時期に記録されるセクタとある程度の時間が経過した時点以降に記録されるセクタとで、記録されるデータの信号品質が異なることが知られている。そして、原因が磁気ヘッドの“熱突き出し”であることも知られている。
【0004】
熱突き出しは、磁気ヘッドに記録電流が供給されることにより起こる発熱で磁気ヘッドが熱膨張し、磁極の先端がスライダのディスク対向面から突き出る現象である。記録電流の通電の開始から暫くは昇温にともなって突き出し長さが増大するが、数セクタ程度の記録を終えた頃に磁気ディスクの回転による空冷作用と電流損失の発熱とが均衡して突き出し長さがほぼ一定(1nm程度)になる。磁極の先端が突き出て磁気ディスクに近づくと、記録トラックに印加される記録磁界が強くなる。通常、強い磁界で記録される信号の品質は弱い磁界で記録される信号の品質と比べて良好である。したがって、「記録の初めの時期に記録されるセクタでは、それらより後に記録されるセクタと比べてデータエラーが生じ易い」というエラーレートの不均一が熱突き出しによって生じる。
【0005】
熱突き出しの対策として、特開2004−281012号公報および特開2006−85832号公報において、記録電流を意図的に変化させる方法が開示されている。その方法は、所定長のデータの記録において記録の初期では比較的に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給し、初期より後の期間では比較的に小さな記録電流を磁気ヘッドに供給する。熱突き出しに係る突き出し長さの変化に対応させて記録電流を段階的または連続的に低減することによって、記録トラックには記録の開始から終了までほぼ一定の記録磁界が印加される。
【特許文献1】特開2004−281012号公報
【特許文献2】特開2006−85832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
記録電流を変化させる手法は1つの記録トラックにおけるエラーレートの均一化には有効であるものの、次の問題を生じさせる。
【0007】
磁気ヘッドと磁気ディスクとの距離が比較的に大きい記録の初期に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給することにより、記録トラックに十分な強度の記録磁界が加わるものの、記録電流が小さい場合と比べて実質的に記録幅が拡がるので、当該記録トラックに隣接する記録トラックにも許容できない強さの磁界が加わる。すなわち、隣接した記録トラックに同時にデータが記録される不都合であるクロスライトが生じる。クロスライトが生じない程度に初期の記録電流を設定すると、初期より後の期間(以下、これを定常期という)にはエラーレートを均一にするために初期よりも小さい電流を供給しなければならないので、定常期の記録磁界が本来の最適な磁界よりも弱いものになる。このため、全体的にデータのエラーレートが増加してしまう。
【0008】
本発明は、所定長のデータの記録における信号品質の均一化およびクロスライトの低減に有用な磁気ディスクの提供を目的としている。他の目的は、所定長のデータの全体にわたって信号品質が良好な記録を実現する磁気ディスク装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する磁気ディスクは、同心円状に並びまたは螺旋状に連なる複数の記録トラックが設定され、周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画されたデータ記録面を有する。第1領域および第2領域のうちの少なくとも前記第1領域には、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける第2領域での記録可能な部分の幅が第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい。
【0010】
第1領域では、1つの記録トラックに磁気ヘッドを対向させてデータを記録する際に、記録トラックおよびそれを挟むガードバンドに強い磁界が拡がってもクロスライトが生じない。すなわち、第1領域では第2領域と比べると、クロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が大きい。
【0011】
上記目的を達成する磁気ディスク装置は、上記のガードバンドを有した磁気ディスクと、磁気ディスクを回転させるモータと、記録磁界を発生する磁気ヘッドと、磁気ヘッドに記録電流を供給する回路と、磁気ヘッドを選択された記録トラックに対向させる機構と、回路および機構を制御する制御部とを備える。制御部は、回転する磁気ディスクにおける選択された1つの記録トラックへのデータの記録に際して、当該記録トラックにおける第1領域内の位置から当該記録を開始するとともに、当該記録の初期であって前記磁気ヘッドが前記第1領域と対向する期間には前記磁気ヘッドに第1の値の電流を供給し、前記磁気ヘッドが前記第2領域と対向する期間には前記第1の値よりも小さい値の電流を前記磁気ヘッドに供給する、という制御を行う。
【0012】
磁気ヘッドに供給する電流を初期とその後とで異ならせることにより、熱突き出しによる磁気ヘッドと磁気ディスクとの距離の変化に関わらず、記録トラックに印加される記録磁界の強度が1データの記録期間の全体にわたって均等にすることができる。第1領域を記録開始位置とすることにより、記録の初期に大きな記録電流を磁気ヘッドに供給して印加磁界を強めてもガードバンドによってクロスライトが防止される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定長のデータの記録における信号品質の均一化およびクロスライトの低減を図ることができる。そして、所定長のデータの全体にわたって信号品質が良好な記録を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1のように、第1実施形態の磁気ディスク1は、同心円状に並ぶ多数の記録トラック24が設定された環状のデータ記録面20を有する。
【0015】
データ記録面20は、円環を中心角度の異なる扇形に分割する形式で、第1領域である1つのディスクリート領域21と第2領域である1つの非ディスクリート領域22とに区画されている。図中で斜線を付した部分がディスクリート領域21であり、データ記録面20におけるディスクリート領域21以外が非ディスクリート領域22である。
【0016】
図示の磁気ディスク1の構成は角速度一定(CAV)で回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものであるので、ディスクリート領域21はデータ記録面20の外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0017】
ディスクリート領域21の角度範囲は、後述のセクタの数個分に対応する小範囲である。データ記録面20の大半が非ディスクリート領域22であり、ディスクリート領域21と比べて非ディスクリート領域22が格段に広い。言い換えれば、各記録トラック24におけるディスクリート領域21に対応する部分と比べて、非ディスクリート領域22に対応する部分が十分に長い。
【0018】
図1中の破線で囲まれた部分AAを描いた図2のように、ディスクリート領域21と非ディスクリート領域22との区画と整合させて、データ記録面20は1周を所定角度ずつ分割する形式で複数のユーザデータ領域31と複数のサーボ領域32とに区画されている。図2ではこれら領域の周方向両端縁が直線に描かれているが、実際はディスクリート領域21の端縁と同様に、CAV回転および回動式シーク動作に適合するように曲がっている。
【0019】
ユーザデータ領域31は任意のデータを記憶する領域であり、サーボ領域32はサーボ制御のための情報を記憶する領域である。サーボ制御のための情報は、トラッキングのためのマーク、クロック生成のためのマーク、およびアドレス情報を含む。
【0020】
本例においては、データ長の最小単位(一般に512バイト)に対応する角度範囲の領域であるセクタごとにサーボ領域32が設けられている。1つのセクタに1つのユーザデータ領域31が対応するので、以下においてはユーザデータ領域をセクタという。
【0021】
図2によく示されるとおり、ディスクリート領域21に対応する3個のセクタ31には、隣接した記録トラック24どうしを磁気的に分離するガードバンド41,42,43が形成されている。これに対して、非ディスクリート領域22にはガードバンド41,42,43が形成されていない。したがって、必然的に、各記録トラック24における非ディスクリート領域22での記録可能な部分の幅w20がディスクリート領域21での記録可能な部分の幅w11、w12、w13よりも大きい。
【0022】
ディスクリート領域21の3個のセクタ31にそれぞれ形成されたガードバンド41,42,43の幅は互いに異なる。ディスク回転方向M1の逆であるヘッド走行方向M2の後方側に位置するセクタ31のガードバンド41が最も太く、ヘッド走行方向M2の前方側に位置するセクタ31のガードバンド43が最も細い。したがって、1つの記録トラック24に磁気ヘッドを対向させてデータを記録する際に、ディスクリート領域21の3個のセクタ31の中で最初に磁気ヘッドと対向するセクタ(ヘッド走行方向M2の最も後方のセクタ)31では、他のセクタ31と比べて、クロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が大きい。
【0023】
ヘッド走行方向M2の前方に向かってガードバンド41,42,43が段階的に細くなるので、記録トラック24の記録可能な部分はヘッド走行方向M2の前方に向かって太くなる。そして、ディスクリート領域21から非ディスクリート領域22に移ると、記録トラック24の記録可能な部分の幅(実質的なトラック幅)が広がってトラックピッチ(w20)と等しくなる。データ保持の安定化の上では実質的なトラック幅の広いのが有利である。
【0024】
磁気ディスク1は図3および図4に示されるSFM(Synthetic Ferri Media)構造の磁気記録媒体であり、図5に示される面記録方式の記録に用いられる。
【0025】
図3および図4にのように、磁気ディスク1は、ガラスまたは樹脂からなる基板10とそれに順に積層された下地層11、中間層12、安定化層13、記録層14、および保護膜15とからなる。
【0026】
図3のように、ディスクリート領域21では、記録層14は径方向M3に互いに離れた複数の硬磁性体40とそれらの間を埋める非磁性体からなるガードバンド41,42,43(図3ではガードバンド41のみが描かれている)とで構成される。硬磁性体40およびガードバンド41は図3の紙面の表裏方向に延びており、各硬磁性体40が1つの記録トラック24に対応する。図4のように、非ディスクリート領域22では、記録層14は硬磁性体40のみからなる。
【0027】
記録層14の形成方法は、安定化層13上に例えば硬磁性層として例えばコバルトクロム白金層を積層する工程、インプリントまた一般的なフォトリソグラフィによるマスクを用いて硬磁性層を部分的にエッチングする工程、エッチングで生じた凹部に非磁性体として例えば二酸化珪素を埋め込む工程、および表面を平坦化する工程を含む。非磁性体の埋込みおよび表面平坦化を行うことにより、磁気ディスク1に対して相対移動する磁気ヘッドの浮上状態を安定にすることができる。
【0028】
以上の構成の磁気ディスク1は図6の磁気ディスク装置5に組み込まれる。
【0029】
磁気ディスク装置5は、磁気ディスク1を矢印M1の方向に回転させるスピンドルモータ51、磁気ディスク1にアクセスするためのヘッド部52、ヘッド部52を支持し且つ自身が回動可能なアーム54、アーム54を回動させるアクチュエータであるボイスコイルモータ55、ヘッド部52を駆動するためのヘッド駆動回路56、およびこれらの動作を制御するコントローラ58を備える。
【0030】
ヘッド部52は、図5に示される磁気ヘッド520、磁気ヘッド520を磁気ディスク1に対して浮上させるためのスライダからなる。磁気ヘッド520はライト部およびリード部をもち、スライダにおけるヘッド走行方向M2の後方側端面の例えば外周側の端部に配置されている。そして、アーム54とボイスコイルモータ55とからなるシーク機構53によって、アクセス対象として選択された記録トラック24に対向する位置に配置される。
【0031】
ヘッド駆動回路56は、磁気ヘッド520へ記録電流を供給する電流可変のドライバ、および磁気ヘッド520からのリード信号を増幅する増幅器などを含んでいる。
【0032】
コントローラ58は、プログラムを実行するプロセッサを含むハードウェアと、制御プログラムを含むソフトウェアとによって構成される。コントローラ58の基本動作は、公知のハードディスク装置の制御動作と同様であるが、データの記録に際しては磁気ディスク1に特有の制御を行う。
【0033】
磁気ディスク装置5におけるデータの記録には2つの特徴がある。第1の特徴は、従来と同様に熱突き出しを考慮して記録電流を記録の初期に一時的に大きくする電流制御を行うことである。第2の特徴は、熱突き出しを考慮しなければならない所定長を超えるデータ長のデータについては、ディスクリート領域21から記録を開始することである。
【0034】
本例では、図7(A)のように4以上のn個のセクタにわたってデータを記録する際に、先頭から3番目までのセクタに記録する初期段階では熱突き出しの突き出し長さが記録開始からの時間の経過につれて増大するものの、4番目のセクタへの記録に移る頃には突き出し長さがほぼ飽和値に達し、その後は記録終了までほぼ飽和値のまま一定である。
【0035】
コントローラ58は、記録電流の設定値を先頭のセクタで最も大きく、記録が2番目、3番目、4番目のセクタへと進むにつれて段階的に下げるようヘッド駆動回路56を制御する。4番目以降のセクタに記録する期間、すなわち突き出し長さが変化しない定常期には、記録電流の設定値をあらかじめ決められた最適値に保つようコントローラ58はヘッド駆動回路56を制御する。記録開始時点の記録電流の設定値は定常期の設定値の例えば、1.2倍から1,3倍程度である。記録開始後の設定値の引き下げ量はヘッド構造やディスク回転速度に依存する突き出し長さの変化特性に応じて、磁気ヘッド520と磁気ディスク1との距離に関わらずどのセクタにも設定強度の磁界が加わるように選定される。環境温度や磁気ヘッド520の温度を検知して記録電流を最適化することもできる。
【0036】
なお、図7(A)の破線の曲線は初期においても定常期と同じ値の記録電流を供給した場合の突き出し長さの変化を示している。初期に定常期よりも大きい記録電流を供給することにより、突き出し長さが早期に安定することが図7(A)から分かる。
【0037】
記録の初期に定常期と比べて大きな記録電流を供給することより、磁気ヘッド520と磁気ディスク1との距離が大きいにも関わらず、記録トラック24には十分な強度の磁界が加わって良質の記録状態が得られる。また、大きな記録電流を供給することより図8(A)のように磁界91の幅が記録トラック24の幅w20を多少超えたとしても、磁界の拡がりがガードバンド41の機能する範囲内であればクロスライトは生じない。
【0038】
記録トラック24の非ディスクリート領域22内の部分に記録する定常期には、図8(B)のようにクロスライトが生じない範囲内で記録面を最大限に利用することができる磁界92が記録トラック24に印加される。
【0039】
図9は第2実施形態の磁気ディスク2の領域区分を示す。
【0040】
磁気ディスク2も図1の磁気ディスク1と同様に同心円状に並ぶ多数の記録トラック27が設定された環状のデータ記録面20bを有する。データ記録面20bは、円環を中心角度の異なる扇形に分割する形式で、第1ディスクリート領域25と第2ディスクリート領域26とに交互に区画されており、計4個の等間隔に配置された第1ディスクリート領域25と同じく計4個の等間隔に配置された第2ディスクリート領域26とからなる。図中で斜線を付した部分が第1ディスクリート領域25であり、データ記録面20bにおけるディスクリート領域25以外が第2ディスクリート領域26である。
【0041】
磁気ディスク2の構成もCAV回転する状態でのアクセスおよび回動式アームによるシーク動作に適合するものであるので、第1ディスクリート領域25および第2ディスクリート領域26はデータ記録面20bの外周に近づくほど拡がり、アーム先端の移動経路に沿うよう湾曲した形状をもつ。
【0042】
各第1ディスクリート領域25の角度範囲は、セクタの数個分に対応する小範囲である。データ記録面20bの大半が第2ディスクリート領域26であり、各記録トラック27における第1ディスクリート領域25に対応する部分と比べて、第2ディスクリート領域26に対応する部分が十分に長い。
【0043】
図9中の破線で囲まれた部分BBを描いた図10のように、データ記録面20bも1周を所定角度ずつ分割する形式で最小単位のユーザデータ領域であるセクタ31と複数のサーボ領域32とに区画されている。
【0044】
図10によく示されるとおり、第1ディスクリート領域25に対応する3個のセクタ31には、隣接した記録トラック27どうしを磁気的に分離するガードバンド45,46,47が形成されている。そして、第2ディスクリート領域26にもガードバンド48が形成されている。すなわち、磁気ディスク2は、記録トラック27が全周にわたって磁気的に分離されたディスクリートトラック型の記録媒体である。
【0045】
第1ディスクリート領域25の3個のセクタ31にそれぞれ形成されたガードバンド45,46,47の幅は互いに異なり、かつ第2ディスクリート領域26のセクタ31に形成されたガードバンド48の幅とも異なる。第1ディスクリート領域25の中でヘッド走行方向M2の最も後方に位置するガードバンド45が最も太く、中央に位置するガードバンド46が次ぎに太く、ヘッド走行方向M2の最も前方側に位置するガードバンド47が最も細い。そして、このガードバンド47よりも第2ディスクリート領域26のガードバンド48が細い。第2ディスクリート領域26の中では複数のガードバンド48の幅は均等である。必然的に、各記録トラック27における第2ディスクリート領域26での記録可能な部分の幅w24は第1ディスクリート領域25での記録可能な部分の幅w21、w22、w23よりも大きい。
【0046】
磁気ディスク2においては、第1ディスクリート領域25でのクロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が、第2ディスクリート領域26での上限と比べて大きい。さらに、第1ディスクリート領域25の中でもヘッド走行方向M2の後方側から順に各セクタ31での上限が大きい。
【0047】
したがって、磁気ディスク2においても、上述のようにデータの記録に際して印加磁界強度が均等化されるように熱突き出しを考慮して記録電流を変化させ、かつ第1ディスクリート領域25から記録を開始することにより、クロスライトのない良好な記録を実現することができる。
【0048】
さらに、磁気ディスク2においては、記録開始位置として好適な4個の第1ディスクリート領域25が周方向に等間隔に配置されているので、第1ディスクリート領域25が単一である場合と比べて、磁気ディスク2が回転して磁気ヘッド520が記録開始位置に対向するのを待つ待機時間が短い。磁気ディスク2は上述の磁気ディスク1と比べてアクセスの高速化に適している。
【0049】
以上の第1および第2の実施形態では記録トラック24,27の配置に関して同心円形式を挙げたが、これに限らない。映像や音声といったデータサイズの大きいデータの記録に好適とされる螺旋形式であってもよい。
【0050】
図11に示す第3実施形態の磁気ディスク3は、螺旋状に連なる複数の記録トラック28が設定された環状のデータ記録面20cを有する。複数の記録トラック28を連続した1本の螺旋状トラックとみなすことができるが、ここでいう各記録トラック28は磁気ディスク3の中央の孔を周回する1周分の区画を意味する。
【0051】
データ記録面20cは、第1領域である1つのディスクリート領域21cと第2領域である1つの非ディスクリート領域22cとに区画されている。図中で斜線を付した部分がディスクリート領域21cであり、データ記録面20cにおけるディスクリート領域21以外が非ディスクリート領域22cである。
【0052】
ディスクリート領域21cには図2の例と同様にガードバンド41,42,43が形成されており、非ディスクリート領域22cにはガードバンド41,42,43が形成されていない。したがって、ディスクリート領域21cでのクロスライトを防ぐ上での印加磁界強度の上限が、非ディスクリート領域22cでの上限と比べて大きい。磁気ディスク3においても、上述のようにデータの記録に際して印加磁界強度が均等化されるように熱突き出しを考慮して記録電流を変化させ、かつディスクリート領域21cから記録を開始することにより、クロスライトのない良好な記録を実現することができる。
【0053】
以上の第1、第2、第3の実施形態において、磁気ディスク1,2,3の構成は例示に限定されない。ディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25の周方向の広さは、突き出し長さが増大する記録の初期に対応するトラック長に応じて適宜選定すべき事項であり、1個のセクタ、2個のセクタまたは4個以上のセクタに対応するものでもよい。ディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25の個数は1以上であればよい。ただし、第2実施形態のように複数にするのが高速のアクセスの上で有利である。ECC(Error Check and Correct)単位のセクタ群ごとにディスクリート領域21,21cまたは第1ディスクリート領域25を設けることができる。例えば、512Bセクタで2kB−ECCの場合は4の倍数のセクタに対して1つの記録開始位置を配置する。
【0054】
必ずしもディスクリート領域21,21cおよび第1ディスクリート領域25はデータ記録面20,20b、20cの径方向の全長にわたる必要はない。データ記録面20,20b、20cを径方向に複数のゾーンに区画し、ゾーン間で先頭セクタの周方向位置が異なる場合には、各ゾーンの先頭部をディスクリート領域21,21cまたは第1ディスクリート領域25とするのが好ましい。
【0055】
ガードバンド41,42,43,45,46,47,48の幅はトラックピッチや浮上高さなどの構造条件に応じて適宜選定すべき事項である。例えば、最も太いガードバンド41の幅をトラックピッチの20%程度とし、それを基準に他のガードバンドの幅を選定すればよい。ガードバンドの幅をヘッド走行方向M2の前方に向かって連続的に細くしてもよい。磁気ヘッド520のスキューに応じて、径方向の配置位置によってガードバンド幅を最適化することもできる。データ記録面20,20b、20cの内側または外側に記録開始用のガードバンドをもつタミー記録トラックを設けてもよい。
【0056】
ガードバンド41,42,43,45,46,47,48は非磁性体に限らず、溝(空隙)でもよいし、硬磁性層を局部的に加熱するなどして保磁力を低下させた変質層でもよい。
【0057】
データ記録面20,20b,20cにおいて区画される各領域の形状は、並進移動式アームでのシークを前提とする場合には、直線と円弧で形づくられる扇型となる。ディスク回転を線速度一定(CLV)とする場合は、ディスクリート領域21,21c、第1ディスクリート領域25、セクタ31、サーボ領域32は一定幅の帯状となる。
【0058】
サーボ領域32には、ガードバンド41,42,43の形成と同時に所定の非磁性パターンを形成して、硬磁性体と非磁性体との組み合わせで情報を表すサーボマークを形成してもよい。または、サーボ領域32の層構成を非ディスクリート領域22と同様とし、サーボ領域32内の記録層14に磁気転写または線記録によって第1および第2の磁化方向の組み合わせで情報を表すサーボマークを形成してもよい。
【0059】
基板10の片面に記録層14を配した片面構成を図示したが、基板10の両面に記録層14を配した両面構成であってもよい。磁気ディスク装置5において、複数枚の磁気ディスク1,2,3を組み込んでシリンダを構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、磁気ディスク装置の性能向上に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【図2】ガードバンドの配置の第1例を示す図である。
【図3】磁気ディスクのディスクリート領域の層構成を示す図である。
【図4】磁気ディスクの非ディスクリート領域の層構成を示す図である。
【図5】磁気記録の形式を示す図である。
【図6】磁気ディスク装置の構成を示す図である。
【図7】熱突き出しに対応する記録電流の制御を示す図である。
【図8】トラック幅と記録磁界の関係を示す図である。
【図9】第2実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【図10】ガードバンドの配置の第2例を示す図である。
【図11】第3実施形態の磁気ディスクの領域区分を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3 磁気ディスク
22,27,28 記録トラック
20,20b、20c データ記録面
21,21c ディスクリート領域(第1領域)
22,22c 非ディスクリート領域(第2領域)
25 第1ディスクリート領域(第1領域)
26 第2ディスクリート領域(第2領域)
41,42,43 ガードバンド
w11,w12,w13 第1領域での記録可能な部分の幅
w20 第2領域での記録可能な部分の幅
w21,w22,w23 第1領域での記録可能な部分の幅
w24 第2領域での記録可能な部分の幅
5 磁気ディスク装置
51 モータ
52 ヘッド部
520 磁気ヘッド
56 記録電流を供給する回路
53 シーク機構
58 コントローラ(制御部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心円状に並びまたは螺旋状に連なる複数の記録トラックが設定されたデータ記録面を有する磁気ディスクであって、
前記データ記録面が周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画され、
前記第1領域および第2領域のうちの少なくとも前記第1領域に、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける前記第2領域での記録可能な部分の幅が前記第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい
ことを特徴とする磁気ディスク。
【請求項2】
前記第1領域および第2領域のうちの第1領域のみに前記ガードバンドが形成された
請求項1に記載の磁気ディスク。
【請求項3】
前記第1領域における周方向の第1端から第2端に向かうにつれて、前記ガードバンドの幅が小さくなる
請求項1または請求項2に記載の磁気ディスク。
【請求項4】
周方向に沿って等間隔に複数の第1領域が配置され、これら第1領域のそれぞれにガードバンドが形成された
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気ディスク。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気ディスクを記録媒体として備える磁気ディスク装置であって、
前記磁気ディスクを回転させるモータと、記録磁界を発生する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドに記録電流を供給する回路と、前記磁気ヘッドを選択された記録トラックに対向させる機構と、前記回路および前記機構を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、回転する前記磁気ディスクにおける選択された1つの記録トラックへのデータの記録に際して、当該記録トラックにおける前記第1領域内の位置から当該記録を開始するとともに、当該記録の初期であって前記磁気ヘッドが前記第1領域と対向する期間には前記磁気ヘッドに第1の値の電流を供給し、前記磁気ヘッドが前記第2領域と対向する期間には前記第1の値よりも小さい値の電流を前記磁気ヘッドに供給する制御を行う
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項1】
同心円状に並びまたは螺旋状に連なる複数の記録トラックが設定されたデータ記録面を有する磁気ディスクであって、
前記データ記録面が周方向に沿って第1領域とそれよりも広い第2領域とに区画され、
前記第1領域および第2領域のうちの少なくとも前記第1領域に、径方向に沿って並ぶ隣接した記録トラックどうしを磁気的に分離するガードバンドが形成され、各記録トラックにおける前記第2領域での記録可能な部分の幅が前記第1領域での記録可能な部分の幅よりも大きい
ことを特徴とする磁気ディスク。
【請求項2】
前記第1領域および第2領域のうちの第1領域のみに前記ガードバンドが形成された
請求項1に記載の磁気ディスク。
【請求項3】
前記第1領域における周方向の第1端から第2端に向かうにつれて、前記ガードバンドの幅が小さくなる
請求項1または請求項2に記載の磁気ディスク。
【請求項4】
周方向に沿って等間隔に複数の第1領域が配置され、これら第1領域のそれぞれにガードバンドが形成された
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の磁気ディスク。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気ディスクを記録媒体として備える磁気ディスク装置であって、
前記磁気ディスクを回転させるモータと、記録磁界を発生する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドに記録電流を供給する回路と、前記磁気ヘッドを選択された記録トラックに対向させる機構と、前記回路および前記機構を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、回転する前記磁気ディスクにおける選択された1つの記録トラックへのデータの記録に際して、当該記録トラックにおける前記第1領域内の位置から当該記録を開始するとともに、当該記録の初期であって前記磁気ヘッドが前記第1領域と対向する期間には前記磁気ヘッドに第1の値の電流を供給し、前記磁気ヘッドが前記第2領域と対向する期間には前記第1の値よりも小さい値の電流を前記磁気ヘッドに供給する制御を行う
ことを特徴とする磁気ディスク装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−198247(P2008−198247A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29532(P2007−29532)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]