説明

磁気ディスクの評価方法及び磁気ディスクの製造方法並びに磁気ディスク

【課題】磁気ディスク表面のカーボン保護膜や潤滑剤の性質を簡便に評価することができる評価方法、とりわけ磁気ディスク表面とヘッドとの相互作用に対する厳しい要求に対応できるような磁気ディスク表面の性質を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供する。
【解決手段】熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出した状態で、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態でヘッドをシークさせることにより、磁気ディスクの表面に形成されたカーボン膜又は潤滑剤の性質を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの評価方法に関し、詳しくは磁気ディスク上に形成されたカーボン膜や潤滑剤の磁気ヘッドへの移着量の評価方法、及び磁気ディスクの製造方法並びに磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDD(ハードディスクドライブ)の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気記録媒体が提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。このような垂直磁気記録媒体としては、特開2002-74648号公報(特許文献1)に記載されたような、基板上に軟磁性体からなる軟磁性下地層と、硬磁性体からなる垂直磁気記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録ディスクが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−74648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、高密度化に好適な垂直磁気記録ディスクの信頼性保証のため、実際のHDDを用いてロードアンロード試験および定点浮上試験などが行われている。この評価は、通常、一週間〜一ヶ月間の試験期間を経て、カーボン保護膜の強度(耐性)、磁気ヘッド(特にABS(AirBearing Surface)面)への汚れ、特に潤滑剤の移着の有無および移着量の結果についてフィードバックされている。しかし、従来のロードアンロード試験および定点浮上試験では結果がフィードバックされるまでに、長い時間を要してきた。また、その結果についてもバラツキがみられ、本来知りたいはずの特性を見出せていない可能性が高かった。
【0006】
近年、磁気ヘッドにおいては、素子内部に備えた薄膜抵抗体に通電して発熱させることで磁極先端部を熱膨張させるDynamic Flying Height(DFH)技術の導入でスペーシングの低減が急速に進んでおり、今後はDFH素子のバックオフマージン1nmを満足させる媒体開発が必要となっている。上記を達成させるためには、現状の評価手法では判断が難しく、新たな評価手法が求められてくる。
【0007】
本発明者は、熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出した状態で、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態で磁気ヘッドをシークさせることで、従来の評価手法よりも、短時間でかつ、より正確なカーボン保護膜の性質や磁気ヘッドへの潤滑剤移着量を検出できることを突き止めた。
以上の事情から、製造した磁気ディスク表面のカーボン保護膜や潤滑剤の性質を簡便に、しかも正確に評価することができればその有用性は極めて高いことは明らかである。
【0008】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、磁気ディスク表面のカーボン膜や潤滑剤の性質を簡便に評価することができる評価方法、とりわけ磁気ディスク表面の保護膜や潤滑層とヘッドとの相互作用に対する厳しい要求に対応できるような磁気ディスク表面のカーボン膜や潤滑剤の性質を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法、及び該評価方法を利用した磁気ディスクの製造方法並びに磁気ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有する発明である。
(構成1)
熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出した状態で、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態で磁気ヘッドをシークさせることにより、磁気ディスクの表面に形成されたカーボン膜又は潤滑剤の性質を評価することを特徴とする磁気ディスクの評価方法である。
【0010】
(構成2)
測定時の前記ヘッド素子部の突き出し量は、0.1nm〜10nmの範囲であることを特徴とする構成1に記載の磁気ディスクの評価方法である。
(構成3)
測定時の前記ヘッド素子部の接触半径は、磁気ディスクの内周エッジ部から1mm以内、外側エッジ部から0.1mm以降を除く領域であることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスクの評価方法である。
【0011】
(構成4)
測定時の前記ヘッド素子部の接触時間は、30秒以上であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法である。
(構成5)
測定時のシークスピードは、0.1m/s〜3.0m/sの範囲であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法である。
【0012】
(構成6)
測定時の磁気ディスク回転数は、100rpm〜20000rpmの範囲であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法である。
(構成7)
構成1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法による評価結果に基づいて、潤滑層の製造条件を決定し、決定した製造条件により、磁気ディスクの表面に潤滑層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【0013】
(構成8)
構成1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法による評価結果に基づいて、カーボン保護層の製造条件を決定し、決定した製造条件により、磁気ディスクの表面にカーボン保護層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
(構成9)
構成1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法により、合格と判定された磁気ディスクである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気ディスクの表面に形成されたカーボン膜や潤滑剤の性質を簡便に評価することができる評価方法、とりわけ磁気ディスク表面とヘッドとの相互作用に対する厳しい要求に対応できるような磁気ディスク表面の性質を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供することができる。
また、本発明によれば、本発明の磁気ディスクの評価方法に基づいて、カーボン保護層又は潤滑層の製造条件を決定し、決定した製造条件によりカーボン保護層又は潤滑層を形成する工程を含む磁気ディスクの製造方法を提供することができる。
また、本発明の磁気ディスクの評価方法により合格と判定された磁気ディスクは、ドライブ信頼性試験も合格することができ、高い信頼性性能を兼ね備えた磁気ディスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1における液状コンタミの評価結果を示す図である。
【図2】比較例における液状コンタミの評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明は、構成1にあるように、熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出して、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態で、磁気ヘッドをシークさせることにより、磁気ディスクの表面に形成されたカーボン膜又は潤滑剤の性質を評価することを特徴とする磁気ディスクの評価方法である。
【0017】
上記ヘッド素子部(DFH素子)は、素子内部に備えた薄膜抵抗体に通電して発熱させることで磁極先端部を熱膨張させる。DFH技術に関しては、例えば、特開2003−168274号公報に記載がある。これにより磁気ヘッドではスライダ浮上量を保ちつつ磁気的スペーシングの低減が可能になった。現在では、磁気ディスク表面からDFH素子のRW素子までの距離は数nmにまで低減されている。
【0018】
本発明においては、測定時のディスク表面にDFH素子が接触した後の突き出し量は、構成2にあるように、例えば0.1nm〜10nmの範囲であることが好ましい。本発明の評価方法においては、磁気ディスクを回転させて磁気ディスクの上方に、熱膨張によって突出するDFH素子を備えた磁気ヘッドを浮上させる。その後、DFHパワーを徐々に増加させて、磁気ヘッドのDFH素子部を突き出して、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させる。接触したポイントから、さらに、DFH素子部を規定量突き出した状態で磁気ディスク表面上をシークさせる。
【0019】
磁気ディスク表面にDFH素子が接触したポイントを検出する方法としては、例えばヘッドサスペンションまたはその付近にAE出力を検出するAEセンサーを取り付けておき、このセンサーの出力をモニターすることにより検出することが可能である。
【0020】
本発明においては、構成3にあるように、測定時の前記ヘッド素子部の接触半径は、例えば磁気ディスクの内周エッジ部から1mm以内、外側エッジ部から0.1mm以降を除く領域であることが好ましい。
また、本発明においては、構成4にあるように、測定時の前記ヘッド素子部の接触時間は、少なくとも30秒以上であることが好ましく、例えば5分〜360分の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、構成5にあるように、測定時のシークスピードは、例えば0.1m/s〜3.0m/sの範囲であることが好ましい。
また、本発明においては、構成6にあるように、測定時の磁気ディスク回転数は、例えば100rpm〜20000rpmの範囲であることが好ましい。
【0022】
なお、本発明において、磁気ディスクの表面に形成された潤滑剤が磁気ヘッド(特にABS面)へ移着した量の検出は、例えば磁気ヘッドのABS面の光学顕微鏡観察によって行うことができる。または、数nmの微小領域に対して原子層レベルでの有機物分析が可能なTOF-SIMS(Time OF Flight Secondary Ion Mass Spectrometer)によっておこなうことができる。
【0023】
本発明によれば、磁気ディスク表面のカーボン膜や潤滑剤の性質を簡便に評価することができ、とりわけ磁気ディスク表面と磁気ヘッドとの相互作用に対する厳しい要求に対応できるような磁気ディスク表面のカーボン膜や潤滑剤の性質を正確に評価するのに好適である。
本発明による磁気ディスクの評価方法によって、具体的には以下の特性の良否判断が可能となる。
すなわち、カーボン膜に関しては、例えばカーボン保護膜の種類、カーボン保護膜膜厚(カーボン保護膜が例えばある膜厚よりも薄くなるとピックアップしやすい)など、潤滑剤に関しては、例えば潤滑剤の種類、潤滑剤の精製方法、潤滑剤膜厚(潤滑剤膜厚が例えばある膜厚よりも厚くなるとピックアップ発生しやすい)など、の評価が可能となる。
【0024】
本発明による評価方法、つまりDFH素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出した状態で、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態で磁気ヘッドをシークさせるということは、通常、潤滑剤層の主表面のみにDFH素子を点接触で摺動させるよりも、初期接触から、さらにDFH素子をある一定量突き出して、潤滑剤膜中、或いはカーボン層まで一定時間線接触させることで、まったく新しいDFHの接触状態での潤滑剤およびカーボン膜の性質についての評価が可能となり、より正確な良否判断が可能となる。
【0025】
本発明による評価方法を用いて磁気ディスク表面のカーボン膜の性質や潤滑剤移着量などの評価をおこなう磁気ディスクは、磁気ディスク用基板の上に少なくとも磁性層、保護層、潤滑層等を形成して製造される。なお、本発明に好適な磁気ディスクのサイズとしては、特に制約はなく、例えば0.85〜3.5インチサイズの磁気ディスクのいずれにも本発明を適用することができる。
【0026】
磁気ディスク用基板としては、ガラス基板が好ましい。ガラス基板を構成するガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなガラス基板は表面を鏡面研磨することにより平滑な鏡面に仕上げることができる。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO2が58重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上23重量%以下、Li2Oが3重量%以上10重量%以下、Na2Oが4重量%以上13重量%以下を主成分として含有するアルミノシリケートガラス(ただし、リン酸化物を含まないアルミノシリケートガラス)を用いることができる。例えば、SiO2 が62重量%以上75重量%以下、Al23が5重量%以上15重量%以下、Li2 Oが4重量%以上10重量%以下、Na2 Oが4重量%以上12重量%以下、ZrO2が5.5重量%以上15重量%以下を主成分として含有するとともに、Na2O/ZrO2 の重量比が0.5以上2.0以下、Al23 /ZrO2 の重量比が0.4以上2.5以下であるリン酸化物を含まないアモルファスのアルミノシリケートガラスとすることができる。
【0027】
磁気ディスク用ガラス基板は、少なくともガラス基板の鏡面研磨処理と洗浄処理により、ガラス基板の表面は、最大粗さRmaxが6nm以下である鏡面とされることが好ましい。このような鏡面状態は、鏡面研磨処理と洗浄処理をこの順で行うことにより実現することができる。
【0028】
なお、洗浄処理工程の後に、化学強化処理を施してもよい。化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上400度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。
【0029】
磁気ディスク用基板上に形成する磁性層の材料としては、異方性磁界の大きな六方晶系であるCoPt系強磁性合金を用いることができる。磁性層の形成方法としてはスパッタリング法、例えばDCマグネトロンスパッタリング法によりガラス基板の上に磁性層を成膜する方法を用いることができる。またガラス基板と磁性層との間に、下地層を介挿することにより磁性層の磁性グレインの配向方向や磁性グレインの大きさを制御することができる。例えば、RuやTiを含む六方晶系下地層を用いることにより、磁性層の磁化容易方向を磁気ディスク面の法線に沿って配向させることができる。この場合、垂直磁気記録方式の磁気ディスクが製造される。下地層は磁性層同様にスパッタリング法により形成することができる。
【0030】
また、磁性層の上には、カーボン保護層を形成する。カーボン保護層としてはアモルファスの水素化カーボン保護層が好適である。例えばプラズマCVD法により保護層を形成することができる。保護層の膜厚としては、10オングストロームから70オングストロームが好ましい。
【0031】
また、保護層の上にさらに潤滑層を形成する。潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に官能基を有する潤滑剤、とりわけ極性官能基として水酸基を末端に備えるパーフルオロポリエーテル化合物を主成分とすることが好ましい。潤滑層の膜厚は5オングストロームから15オングストロームとすることが好ましい。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
【0032】
また、本発明は、上述の本発明に係る磁気ディスクの評価方法による評価結果に基づいて、カーボン保護層および潤滑層の製造条件を決定し、決定した製造条件によりカーボン保護層および潤滑層を形成する工程を含む磁気ディスクの製造方法についても提供するものである。たとえば、あらかじめカーボン膜厚やカーボン種が判っているサンプルを用意し、本発明によるこれらサンプルの評価結果から、望ましいカーボン膜厚、カーボン種の保護層を備える製品を決定することができる。また、あらかじめ潤滑層密着率(ボンデッド率)、固着していない潤滑層膜厚(これらの評価方法については後述の実施例において説明する)の数値が判っているサンプルを用意し、本発明によるこれらサンプルの評価結果から、望ましい潤滑層密着率(ボンデッド率)、固着していない潤滑層膜厚の潤滑層を備える製品を決定することができる。また、あらかじめカーボン保護層あるいは潤滑層の製造条件(温度、時間、組成等)が判ったサンプルを用意し、本発明によるこれらサンプルの評価結果から、望ましいカーボン保護層、潤滑層の製造条件を決定することができる。そして、この決定した望ましい製造条件に基づき、カーボン保護層や潤滑層を形成することにより、好ましい特性を備える磁気ディスクを得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例)
本実施例では、まず、溶融ガラスから上型、下型、胴型を用いたダイレクトプレスにより直径66mmφ、厚さ1.5mmの円盤状のアルミノシリケートガラスからなるガラス基板を得、これに粗ラッピング工程(粗研削工程)、形状加工工程、精ラッピング工程(精研削工程)、端面鏡面加工工程、第1研磨工程、第2研磨工程を順次施すとともに、次いで化学強化を施すことにより、磁気ディスク用ガラス基板を製造した。このガラス基板は、主表面、端面ともに鏡面研磨加工されている。
【0034】
上記化学強化及びその後の洗浄を終えたガラス基板表面の目視検査及び精密検査を実施した結果、ガラス基板表面に付着物による突起や、傷等の欠陥は発見されなかった。また、上記工程を経て得られたガラス基板の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)にて測定したところ、Rmax=2.13nm、Ra=0.20nmと超平滑な表面を持つ磁気ディスク用ガラス基板を得た。また、ガラス基板の外径は65mm、内径は20mm、板厚は0.635mmであった。
【0035】
次に、得られた磁気ディスク用ガラス基板上に枚葉式スパッタリング装置を用いて、Ti系合金薄膜(膜厚100Å)からなる付着層、Co系合金薄膜(膜厚600Å)からなる軟磁性層、Pt系合金薄膜(膜厚70Å)からなる第1下地層、Ru系合金薄膜(膜厚400Å)からなる第2下地層、CoPtCr合金膜(膜厚200Å)からなる磁性層を順次成膜し、次いでプラズマCVD法により炭素系保護層を形成した。この磁気ディスクは垂直磁気記録方式用の磁気ディスクである。
上記保護層は、ダイヤモンドライク炭素保護層とし、プラズマCVD法により成膜した。
【0036】
上記保護層上に形成する潤滑層としては、パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の末端に極性官能基として水酸基を備えるパーフルオロポリエーテル化合物を主成分とする潤滑剤を用いた。潤滑層の膜厚は10オングストロームから16オングストロームまで膜厚を変化させた9種類のサンプルを用意した。潤滑層はディップ法により塗布形成することができる。
以上のようにして作製したサンプルを磁気ディスク1〜9とする。
【0037】
以上の磁気ディスク1〜9について、本発明の方法に従って磁気ディスク上に形成された潤滑剤の磁気ヘッドABS面への移着量の評価をおこなった。
具体的には、磁気ディスク1〜9の表面を半径12.5mm〜31.5mmの範囲内でDFH素子を備えた磁気ヘッドを60分間シークさせて、ヘッドへの潤滑剤移着量を調査した。この時のDFH素子の初期接触後の追加突き出し量は0.5nmとした。また、ディスク回転数は5400rpmとした。さらに、シークスピードは1.5m/sとした。
【0038】
本発明によるDFH素子接触による試験方法で得られた潤滑剤ピックアップ(移着)の結果と潤滑剤の膜厚、潤滑層密着率(ボンデッド(bonded)率)、固着していない潤滑層(以下、流動層と呼ぶ)膜厚との関係を調査した。流動層膜厚の値が低いということは、フリーな状態の潤滑剤も少なくなるので、潤滑剤ピックアップが改善できると推測できる。また、潤滑剤のピックアップ量の評価は、試験後のヘッドのABS面の光学顕微鏡観察を行い、その汚れの程度によって、「良好=ランク1・・・ヘッド素子部およびABSへの汚れ無し」、「軽微汚れ=ランク2・・・ヘッド素子部への一部付着」「中量汚れ=ランク3・・・ヘッド素子部への大量付着」、「中量汚れ大=ランク4・・・ヘッド素子部への大量付着およびABSへの少量付着」「酷い汚れ=ランク5・・・ヘッド素子部への大量付着およびABSへの大量付着」の5段階で評価した。
【0039】
また、上記潤滑層の密着性評価は以下の試験により行った。
予め、磁気ディスクの潤滑層膜厚をFTIR(フーリエ変換型赤外分光光度計)法で測定する。次に、磁気ディスクを溶媒(ディップ法に用いた溶媒)に1分間浸漬させる。溶媒に浸漬させることで、付着力の弱い潤滑層部分は溶媒に分散溶解してしまうが、付着力の強い部分は保護層上に残留することができる。磁気ディスクを溶媒から引き上げ、再び、FTIR法で潤滑層膜厚を測定する。溶媒浸漬前の潤滑層膜厚に対する、溶媒浸漬後の潤滑層膜厚の比率を潤滑層密着率(ボンデッド率)と呼ぶ。ボンデッド率が高ければ高いほど、潤滑層の付着性能(密着性)が高いと言える。
【0040】
図1は本実施例の液状コンタミの評価結果である。液状コンタミが磁気ヘッドABS面に付着してしまうと、ヘッド浮上が不安定となり、実際のハードディスクドライブでヘッドライト時にデータ書き換えができないといった不具合が生じてしまう。また長時間浮上させると、最悪ヘッドクラッシュなどの原因ともなる。
図1に示す結果から、本発明の評価方法による評価結果に基づき、合格と判定された磁気ディスクには潤滑剤のピックアップは確認されていないことがわかった(潤滑剤ピックアップ量が良好)。その一方で不合格と判定された磁気ディスクでは磁気ヘッドABS面への潤滑剤移着が確認された。
【0041】
たとえば具体的には、潤滑層密着率(ボンデッド(bonded)率:BR)が例えば82.5%以上で、且つ潤滑剤流動層膜厚が例えば2.5Å以下となるような製造条件で潤滑層を形成することで、潤滑剤の磁気ヘッドへのピックアップ耐性を改善できる磁気ディスクを得ることができる。
なお、上記の潤滑層密着率と潤滑剤流動層膜厚の数値は試験ヘッド(形状・浮上量など)、試験条件(ヘッドのシーク条件、ディスク回転数、気圧、温湿度など)により変化することはいうまでもない。
以上説明したように、このような本発明による評価方法(評価結果)を用いれば、磁気ディスクの潤滑剤ピックアップ耐性が良好であるか否かを判断することが可能となる。
【0042】
(比較例)
なお、本発明の評価方法に対する比較例として、従来のロードアンドード試験にて、上記実施例で作製した磁気ディスクの評価を行った。図2に本比較例の液状コンタミの評価結果を示す。図2に示すように、ロードアンロード試験後の潤滑剤ピックアップ(移着)の結果と潤滑剤の膜厚、潤滑層密着率(ボンデッド(bonded)率)、流動層膜厚との関係を調査した結果からは、一部のサンプルの磁気ディスクにおいて、ヘッドABS面への潤滑剤ピックアップが確認されているが、潤滑層密着率(ボンデッド(bonded)率)、流動層膜厚との関係がみられていないことが判明した。また、従来の定点浮上でのCFT試験により同様の評価を行ったが、磁気ディスクのいずれにおいても潤滑剤ピックアップ現象がみられなかった。
【0043】
要するに、従来の評価方法によれば合格基準であっても、本発明の評価方法によれば、不合格と判定される場合があり、短時間でかつ、より正確な磁気ディスクの評価方法を提供することができる。
以上説明したように、本発明の評価方法によれば、磁気ディスク表面のカーボン保護膜や潤滑剤の性質を簡便かつ的確に評価することができ、とりわけ磁気ディスク表面と磁気ヘッドとの相互作用に対する厳しい要求に対応できるような磁気ディスク表面の性質を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供することができる。本発明の磁気ディスクの評価方法により合格と判定された磁気ディスクは、ドライブ信頼性試験も合格することができ、高い信頼性性能を兼ね備えた磁気ディスクを得ることができる。
【0044】
(実施例1,2及び比較例1,2)
次に他の実施例として、潤滑剤の膜厚を、小、中、大と3通りに変化させて評価をおこなった。ただし、カーボン保護膜厚:中とした。
結果は下記表1の通りである。なお、表1中、液状コンタミの付着ランクは、1:小、3:中 5:大とし、5段階で評価した。また、表1中のPushoutは、DFH素子の初期接触後の追加突き出し量であり、「+」の数値は、潤滑層内部側への突き出し量であることを示している。
【0045】
【表1】

【0046】
潤滑剤に関しては、比較例1および2では殆ど有意差がなかったが、実施例1のPushOutプラス1nmで潤滑層膜厚大のサンプルの液状コンタミが大きくなっていることがわかる。実施例2のPushOutプラス2nmはコンタミ量は増加傾向であるが、膜厚による差がみえにくくなる。
【0047】
(実施例3,4及び比較例3,4)
次にその他の実施例として、カーボン保護膜の膜厚を、小、中、大と3通りに変化させて評価をおこなった。ただし、潤滑層膜厚:中とした。
結果は下記表2の通りである。なお、表2中、粒状コンタミの付着ランクは、1:小、3:中 5:大とし、5段階で評価した。
【0048】
【表2】

【0049】
カーボン保護膜に関しては、比較例3および4では殆ど有意差がなかったが、実施例3および4では膜厚による有意差が検出された。特に実施例4のPushOutプラス2nmでは膜厚による粒状コンタミの差が顕著にみえている。
【0050】
以上の実施例1〜4および比較例1〜4の結果から下記の知見を得た。
1.Pushoutプラス(押込)をすると、潤滑剤の厚さ限界が、Pushoutゼロ(接触)で評価するより、明確に検出可能である。
2.Pushoutプラス(押込)をすると、Pushoutゼロ(接触)で評価するより、保護膜厚さ限界が、明確に検出可能である。
3,Pushoutの量は、評価の目的によって選定することが有効である。例えば、潤滑剤ピックアップは保護膜の摩耗よりも、Pushout量を小さくすることで良好な評価が可能となる。
【0051】
なお、以上の実施例の評価環境は大気圧で実施したが、減圧環境での組み合わせによる評価も可能である。また、温度(高温、低温)や湿度との組み合わせによる評価にも可能である。また、評価条件として、シーク中にロードアンロード動作を加えても可能である。また、シークせずに定点浮上での評価にも可能である。また、シークアンドストップシーク(ある特定の半径をシークしてある特定の半径で一定時間定点浮上、その後、再度、特定の半径をシークさせる)での評価にも可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドの前記素子部を突き出した状態で、回転する磁気ディスク表面上の所定の半径位置に接触させた後、さらに前記素子部を規定量突き出した状態で磁気ヘッドをシークさせることにより、磁気ディスクの表面に形成されたカーボン膜又は潤滑剤の性質を評価することを特徴とする磁気ディスクの評価方法。
【請求項2】
測定時の前記ヘッド素子部の突き出し量は、0.1nm〜10nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項3】
測定時の前記ヘッド素子部の接触半径は、磁気ディスクの内周エッジ部から1mm以内、外側エッジ部から0.1mm以降を除く領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項4】
測定時の前記ヘッド素子部の接触時間は、30秒以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項5】
測定時のシークスピードは、0.1m/s〜3.0m/sの範囲であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項6】
測定時の磁気ディスク回転数は、100rpm〜20000rpmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法による評価結果に基づいて、潤滑層の製造条件を決定し、決定した製造条件により、磁気ディスクの表面に潤滑層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法による評価結果に基づいて、カーボン保護層の製造条件を決定し、決定した製造条件により、磁気ディスクの表面にカーボン保護層を形成する工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれかに記載の磁気ディスクの評価方法により、合格と判定された磁気ディスク。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−210304(P2011−210304A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75291(P2010−75291)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】