説明

磁気ディスク装置およびヘッドの制御方法

【課題】 ヘッドのアンロード動作の静粛性を向上することが可能な磁気ディスク装置およびヘッドの制御方法を提供する。
【解決手段】 実施形態の磁気ディスク装置は、情報記憶媒体に対して情報の書き込みと読み出しを行うヘッドと、両端に端子を有するコイルを有し、前記ヘッドを移動させるコイルモータと、前記コイルモータを駆動する駆動回路と、前記コイルの端子間電圧を検出する電圧検出部と、前記端子間電圧を用いて前記コイルの逆起電圧を算出する第1算出部と、前記ヘッドの移動速度の基準値である目標速度を生成する生成部と、前記逆起電圧を用いてサンプル時間ごとに前記ヘッドの第1速度と当該第1速度の誤差を推定し、当該誤差を減少させる方向に1サンプル時間後の第2速度を推定する第1推定部と、前記第2速度を前記目標速度に近づける方向に制御指令を算出する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気ディスク装置およびヘッドの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置におけるヘッドの位置決め制御及び速度制御には、ディスク面上のサーボセクタに含まれるサーボ情報の再生により得られるヘッド位置誤差信号が用いられる。しかし、アンロード動作時に、ヘッドがランプ機構内に入った後にはヘッド位置誤差信号を得ることができない。
【0003】
このため、アンロード動作時には、ランプ機構内においてもヘッドの速度制御を行えるように、ボイスコイルモータに発生する逆起電圧から推定されるヘッド速度を用いたヘッドの速度制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−104710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、逆起電圧にはノイズ成分が含まれることから、ランプ機構への乗り上げの際に、速度制御のためのフィードバックゲインを高くすると、このノイズ成分が増幅され騒音が発生してしまう。
【0006】
そこで、ヘッドのアンロード動作の静粛性を向上することが可能な磁気ディスク装置およびヘッドの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の磁気ディスク装置は、情報記憶媒体に対して情報の書き込みと読み出しを行うヘッドと、両端に端子を有するコイルを有し、前記ヘッドを移動させるコイルモータと、前記コイルモータを駆動する駆動回路と、前記コイルの端子間電圧を検出する電圧検出部と、前記端子間電圧を用いて前記コイルの逆起電圧を算出する第1算出部と、前記ヘッドの移動速度の基準値である目標速度を生成する生成部と、前記逆起電圧を用いてサンプル時間ごとに前記ヘッドの第1速度と当該第1速度の誤差を推定し、当該誤差を減少させる方向に1サンプル時間後の第2速度を推定する第1推定部と、前記第2速度を前記目標速度に近づける方向に制御指令を算出する制御部とを備える。
【0008】
実施形態の磁気ディスク装置におけるヘッド制御方法は、前記電圧検出部が、前記コイルの端子間電圧を検出するステップと、前記第1算出部が、前記端子間電圧を用いて前記コイルの逆起電圧を算出するステップと、前記生成部が、前記ヘッドの移動速度の基準値である目標速度を生成するステップと、前記第1推定部が、前記逆起電圧を用いてサンプル時間ごとにサンプル時間ごとに前記ヘッドの第1速度と当該第1速度の誤差を推定し、当該誤差を減少させる方向に1サンプル時間後の第2速度を推定するステップと、前記制御部が、前記第2速度を前記目標速度に近づける方向に制御指令を算出するステップとを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第一の実施形態に係る磁気ディスク装置の概略構成図。
【図2】第一の実施形態に係る磁気ディスク装置のボイスコイルモータの等価回路図。
【図3】第一の実施形態に係る磁気ディスク装置のMPUのシステム構成図。
【図4】速度目標値の一例を示す図。
【図5】第一の実施形態に係る磁気ディスク装置のMPUの動作を説明するブロック図。
【図6】関数f(d)の一例を示す図。
【図7】アンロード時のマイク出力の時間履歴の実施例及び比較例。
【図8】第一の実施形態の変形例に係る磁気ディスク装置のMPUの動作を説明するブロック図。
【図9】アンロード時のヘッドの速度の時間履歴の実施例及び比較例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明を実施するための実施形態について説明する。
【0011】
(第一の実施形態)
図1は本実施形態に係る磁気ディスク装置の概略構成図、図2は本実施形態に係る磁気ディスク装置のボイスコイルモータ(以下、VCM)4の等価回路図である。
【0012】
図1の磁気ディスク装置は、複数のサーボセクタを有する磁気ディスクなどの情報記憶媒体5に対して情報の書き込みと読み出しを行うヘッド1と、ヘッド1を支持するアーム2と、アーム2を移動させるVCM4と、VCM4を駆動するVCM駆動回路7と、VCM4におけるコイルの端子間電圧を検出する電圧検出部8と、メモリ9と、アンロード時の速度制御を行うMPU10とを有する。
【0013】
ヘッド1は、アーム2の先端に支持されている。VCM4によって、アーム2が回動軸3を中心に回動すると、ヘッド1は、図示しないスピンドルモータにより回転しているディスク5の面上を半径方向に移動することでシーク動作およびフォロイング動作を行う。
【0014】
これにより、ヘッド1は、ディスク5上の任意の場所において情報の書き込みと読み出しを行うことができる。この通常のシーク動作時およびフォロイング動作時には、MPU10が、サーボ情報から得られる位置誤差信号を用いて、ヘッド1の位置決め制御を行っている。
【0015】
また、例えば図示しない衝撃検知センサが本装置に加わる衝撃を検知した際や、ユーザーが電源をオフした際には、MPU10は上記の位置決め制御から速度制御へ制御系を切り替えることで、ヘッド1をランプ機構6へ退避させるためのアンロード動作を行う。
【0016】
逆に、アンロードからの復帰(ロード動作)が指示された際や、ユーザーが電源をオンした際には、MPU10は、シーク動作時およびフォロイング動作時の位置決め制御に代えて、ヘッド1の速度制御を行うことでヘッド1をランプ機構6からディスク5上へ移動させる。
【0017】
VCM4は、例えば基部に固定する磁石と、軸支するアーム2に備えられるコイルとを対向配置するコイルモータであり、コイルに電流を流すことでアーム2に回転力を与える(駆動する)アクチュエータとして機能する。
【0018】
VCM4としては、図2に示す等価回路図を用いて表すことができる。ここで、Lはインダクタンス、Rvcmはコイル抵抗、Rsはセンス抵抗をそれぞれ表す。また、Vbemfは逆起電圧、Ivcmはコイルに流れる電流(以下、コイル電流)、Vmeasは検出可能なコイルの端子間電圧、Vcはコイルとセンス抵抗間の電圧をそれぞれ表す。
【0019】
VCM駆動回路7は、位置決め制御および速度制御のいずれの場合でも、MPU10からの指令電圧を受け取り、コイルに対してコイル電流Ivcmを流すことでアーム2を駆動する。
【0020】
ここで、VCM駆動回路7は、電流フィードバック回路等を含むものである。また、VCM4はVCM駆動回路7と別の構成としているが、実際にはVCM駆動回路7とVCM4とは接続されているので、VCM駆動回路7の一部にVCM4のコイルが含まれるものであってもよい。
【0021】
電圧検出部8は、コイルの端子間電圧Vmeasを検出する。なお、ここでは電圧検出部8を一つの構成として挙げているが、上記のVCM駆動回路7の一部として設けられるものであってもよい。
【0022】

以下、図3乃至5を参照して、本実施形態に係る磁気ディスク装置のMPU10のシステム構成および動作について説明する。なお、本実施形態においては、シーク動作およびフォロイング動作については公知の技術を用いることとし、ここではアンロード動作の説明を行う。
【0023】
図3は、第一の実施形態に係る磁気ディスク装置のMPU10の構成図である。
【0024】
MPU10は、ヘッド1の速度の目標値(以下、速度目標値)を生成する生成部20、コイルの逆起電圧を算出する逆起電圧算出部30、ヘッド1に加わる速度の外乱を推定する外乱推定部40、ヘッド1の速度を推定する速度推定部50、ヘッド1の速度を制御する速度制御部60をモジュールとして備える。
【0025】

(全体)
生成部20は、ヘッド1の速度目標値を制御周期ごとに生成し、後述の速度制御部60に対して入力する。ヘッド1のアンロード動作時の速度目標値は、予めメモリ9に格納しておくことができる。図4はメモリ9に格納される速度目標値の一例である。
【0026】
図4において、ヘッド1は時刻0にアンロード動作を開始し、このときヘッド1はディスク5面上にある。ヘッド1は、一定速度でディスク5の外周へ移動し、時刻t1にランプ機構6に乗り上げる(区間A)。そして、ランプ機構6内をストッパー(図示せず)に向けて移動し、時刻t2にストッパーへ到達する(区間B)。その後、しばらくストッパーに押し付けた後、ヘッド1は静止しアンロード動作を終了する(区間C)。
【0027】
逆起電圧算出部30は、コイル端子間電圧Vmeasと、コイル抵抗値Rvcmとから、コイルの逆起電圧Vbemfを制御周期ごとに算出する。
【0028】
外乱推定部40は、制御周期ごとにヘッド1に加わる外乱を推定し、後述の速度制御における制御帯域を調整するパラメータRkを制御周期ごとに算出する。なお、このパラメータRkは逆起電圧に含まれる外乱をどの程度ヘッド1の速度の推定の際に考慮するかを示している。
【0029】
速度推定部50は、逆起電圧Vmeasと、上記パラメータRkを用いて、ヘッド1の速度とヘッド1に加わる外乱を成分として含むベクトルで表される状態変数を、状態変数の誤差を最小にする方向に制御周期ごとに推定する。
【0030】
速度制御部60は、速度推定部50が推定する状態変数を用いて、ヘッド1の速度を、目標値生成部20が生成するヘッド1の速度目標値に近づける方向に制御指令ukを制御周期ごとに算出する。
【0031】

次に、図5に示すMPU10の動作を説明するブロック図を参照して、それぞれのモジュールについて詳細に説明する。
【0032】
(逆起電圧算出部)
制御周期をインダクタンスによる電圧が減衰するのに十分な時間間隔とすることで、インダクタンス項の影響を排除すると、逆起電圧Vbemfは以下の式で表される。
【数1】

【0033】

また、電流フィードバック回路において、電流フィードバックが十分に効いている条件下では、コイル電流Ivcmと指令電圧Vvcmは比例し、比例係数βを用いてIvcm=βVvcmと表すことができるために、逆起電圧Vbemfは次式に書き換えることができる。
【数2】

【0034】

なお、上式におけるαは、比例係数β×コイル抵抗値Rvcmを置き換えたもので、このαを計算上のコイル抵抗値とみなすことができる。
【0035】
逆起電圧算出部30は、(数2)に従い、電圧検出部8が検出し、AD変換器を通すことで得られるコイル端子間電圧Vmeasから、コイル抵抗値αに指令電圧Vvcmを乗算した値を減算することにより、制御周期ごとに逆起電圧Vbemfを算出する。
【0036】

(外乱推定部)
図3に示すように、外乱推定部40は、ヘッド1に加わる外乱を推定する推定部41、ヘッド1のランプ機構6への到達(乗り上げのタイミング)を検出する検出部42、パラメータRkを算出するパラメータ算出部43を有する。
【0037】
推定部41は、例えば公知の外乱オブザーバを構成することにより、ヘッド1に加わる外乱を推定する。具体的には、逆起電圧算出部30が算出する逆起電圧と、指令電圧を用いて外乱dを制御周期ごとに算出する。
【0038】
検出部42は、推定部41が算出する外乱dを用いて、ヘッド1のランプ機構6への乗り上げタイミングを検出する。具体的には、制御周期ごとに算出される外乱dを逐次観測し、外乱dが予め定められる規定値よりも大きい値となった際に、ヘッド1がランプ機構6へ乗り上げたものと判定し、この時刻を乗り上げの開始タイミングとする。
【0039】
また、開始タイミング後に、外乱dが予め定められる規定値よりも小さい値となった際に、ヘッド1のランプ機構6への乗り上げが完了したものと判定し、この時刻を乗り上げの終了タイミングとする。
【0040】
なお、検出部42は外乱dの時間変化率を逐次算出し、この時間変化率が予め定められる規定値よりも大きい値となった際に、ヘッド1がランプ機構6へ乗り上げたものと判定してもよい。同様に、時間変化率が規定値よりも小さい値となった際に、ヘッド1のランプ機構6への乗り上げが完了したものと判断してもよい。
【0041】
パラメータ算出部43は、検出部42から開始タイミング及び終了タイミングを得て、この開始タイミング‐終了タイミング間(ヘッド1のランプ機構6への乗り上げ時)においては、それ以外の定常時に比べて、パラメータRkを小さく算出する。このパラーメタRkの値が小さければ後述の速度制御の制御帯域は高く、パラメータRkの値が大きければ制御帯域は低くなる。
【0042】
これにより、ランプ機構6への乗り上げ時には、パラメータRkを小さくし、速度制御の制御帯域を高くすることで、速度は低下することなくヘッド1は確実にランプ機構6へ乗り上げることができる。
【0043】
パラメータ算出部43は、具体的には推定部41が算出する外乱dを、例えばパラメータRkの変化に対するヒステリシス特性を有する関数f(d)を通すことでパラメータRkを算出する。
【0044】
図6は、関数f(d)の一例を示す図である。なお、関数f(d)としては、ヘッド1のランプ機構6への乗り上げ時(開始タイミング‐終了タイミング間)において、それ以外の定常時のパラメータRkに比べて、パラメータRkを小さく算出する関数であればよい。
【0045】

(速度推定部)
図3に示すように、速度推定部50は、時変カルマンフィルタのイノベーションゲインを更新するゲイン更新部51、ヘッド1の速度の推定値(以下、速度推定値)を含む状態変数を更新する推定値更新部52、ヘッド1の速度推定値の1サンプル後の予測値を算出する予測値算出部53を有する。
【0046】
コイルの逆起電圧がヘッド1の速度に比例した値となることから、一般にヘッド1のアンロード動作時には、逆起電圧を用いたヘッド1の速度制御が行われる。
【0047】
この際、ヘッド1を確実にランプ機構に乗り上げさせることが要求される。ランプ機構への乗り上げ時には、大きな外力が働くので、速度制御の制御帯域が低いとランプ機構への乗り上げ時の速度低下が大きく、ディスク5の表面を傷つけてしまう可能性や、ランプ機構6への乗り上げに失敗してしまう可能性がある。そのため、速度制御の制御帯域を高くするために、ハイゲインな制御系が構築される。
【0048】
しかしながら、上記の逆起電圧にはノイズが含まれているため、ヘッド1を確実にランプ機構6に乗り上げさせるために、上述のようにハイゲインな制御系を構築すると、逆起電圧に含まれるノイズが増幅されて騒音が発生することになる。
【0049】
そこで、本実施形態では、速度推定部50は時変カルマンフィルタを用いてヘッド1の速度を推定することで、逆起電圧Vbemfのノイズの影響を除去する。また、同時に時変とすることで制御系のゲインを適切に設定することができる。
【0050】
具体的には、時変カルマンフィルタのイノベーションゲインMを適切に設定することで、ノイズを含んだ信号から平均二乗誤差を最小にする状態変数を推定する。なお、観測値としては逆起電圧Vbemfを用いることができる。
【0051】
以下では、制御周期をサンプル時間k(0,1,2,….)で表すものとすると、制御周期kにおける時変カルマンフィルタのイノベーションゲインMkは次式により表される。
【数3】

【0052】

ここで、Pkは状態変数の誤差である。また、Cは制御周期kにおけるシステムの状態と制御周期kにおける観測値ykとを関連付ける係数行列である。
【0053】
イノベーションゲインMkおよび観測値ykを用いて、状態変数xkを次式により推定することができる。なお、本実施形態においては、この観測値ykとしては、逆起電圧Vbemfを、状態変数xkとしては、速度推定値と外乱推定値を含むベクトルを用いることができる。
【数4】

【0054】

また、イノベーションゲインMkを用いて、状態変数の誤差Pkを次式により更新することができる。
【数5】

【0055】


上記(数4)により得られる状態変数の推定値を用いて、1サンプル後の制御周期k+1における状態変数は次式のように予測することができる。
【数6】

【0056】

ここで、ukは制御周期kにおけるVCM4のモデルへの入力である。また、Aは制御周期kにおけるシステムの状態と制御周期k+1におけるシステムの状態とを関連付ける係数行列であり、Bは制御周期kにおける入力ukと制御周期k+1におけるシステムの状態とを関連付ける係数行列である。
【0057】
また、上記(数5)により得られる状態変数の誤差Pkを用いることで、1サンプル後の制御周期k+1における状態変数の誤差Pk+1を次式により予測することができる。
【数7】

【0058】

ここで、Qはプロセスノイズであり、本実施形態では時不変パラメータとして扱うこととする。
【0059】
したがって、上記(数3)乃至(数6)の繰り返し計算を行うことで、制御周期ごとに(数4)で与えられる状態変数を推定することができる。
【0060】
なお、上記の各係数行列A、B、Cとしては、例えば事前の検査等によりVCM4の特性を表すモデルとして得られる状態方程式の各係数行列と同一の行列を用いる。
【0061】
ゲイン更新部51は、時変カルマンフィルタのイノベーションゲインMkを制御周期ごとに更新する。具体的には、予め記憶している係数行列Cをメモリ9から得る。そして、この係数行列C、パラメータ算出部41が算出するパラメータRk、後述の予測値算出部53が1サンプル前に算出する誤差の共分散行列の予測値を用いて、(数3)に従い、イノベーションゲインMkを更新する。
【0062】
推定値更新部52は、状態変数xkを制御周期ごとに算出する。具体的には、予め記憶している係数行列Cをメモリ9から得る。また、ゲイン更新部51が更新するイノベーションゲインMk、逆起電圧算出部30が算出する逆起電圧Vbemf、後述の予測値算出部53が1サンプル前に算出する状態変数の予測値を得る。そして、(数4)に従い、状態変数xkを算出する。
【0063】
また、推定値更新部52は、係数行列C、イノベーションゲインMk、後述の予測値算出部53が1サンプル前に算出する誤差の共分散行列の予測値を用いて、(数5)に従い、誤差の共分散行列Pkを制御周期ごとに算出する。
【0064】
予測値算出部53は、予め記憶している各係数行列A、Bをメモリ9から得る。そして、推定値更新部52が更新する制御周期kにおける状態変数xkと、制御周期kにおける制御指令ukを用いて、(数6)に従い、1サンプル後の状態変数の予測値を算出する。
【0065】
また、予測値算出部53は、係数行列Aおよび予め記憶しているプロセスノイズQをメモリ9から得る。また、推定値更新部52が更新する制御周期kにおける誤差の共分散行列Pkを得る。そして、(数7)に従い、1サンプル後の誤差の共分散行列の予測値を算出する。
【0066】

(速度制御部)
図3に示すように、速度制御部60は、速度目標値と速度推定値との差分を算出する差分算出部61、制御指令ukを算出する制御指令算出部62、外乱抑圧信号を算出する外乱抑圧信号算出部63、VCM駆動回路7に対する駆動指令Vvcmを算出する駆動指令算出部64を有する。
【0067】
差分算出部61は、生成部20が生成する速度目標値を得る。また、推定値更新部52が制御周期ごとに算出する状態変数値xkを得て、状態変数xkから速度推定値の成分xvkを分離する。これには、例えば、行列C1=[1 0]を状態変数xkに乗算することで算出する。
【0068】
そして、差分算出部61は、速度目標値から、速度推定値xvkを減算することで速度差分を算出する。
【0069】
制御指令算出部62は、差分算出部61が算出する速度差分に、予めメモリ9が記憶しているゲインKを乗算した値を制御指令ukとして算出する。なお、このゲインKとしては、例えばヘッド1の速度制御の際に必要な速応性または安定性等の制御特性を決定するパラメータから公知の方法により事前に得ることができる。
【0070】
外乱抑圧信号算出部63は、推定値更新部52が制御周期ごとに算出する状態変数xkを得て、状態変数xkから外乱推定値の成分xdkを分離し、かつマイナスを乗じることで、外乱推定値として推定される外乱を打ち消すための外乱抑圧信号を算出する。これには、例えば、行列C2=[0 −1]を状態変数xkに乗算することで算出する。
【0071】
駆動指令算出部64は、VCM駆動回路7に対して制御指令ukを与える際に、実際にVCM駆動回路7に対して与えられる駆動指令Vvcmを算出する。すなわち、理想状態においては、制御指令ukと駆動指令Vvcmは一致することになるが、実際には外乱によるノイズの影響を打ち消すために、ランプ機構6へ乗り上げる際の外力の補償分等が外乱抑圧信号として駆動指令Vvcmに加わることになる。
【0072】
駆動指令算出部64は、制御指令算出部62が算出する制御指令uk、外乱抑制信号算出部63が算出する外乱抑制信号を得る。そして、制御指令ukと、外乱抑制信号との加算により駆動指令Vvcmを算出する。
【0073】
速度制御部60は、制御周期ごとに、駆動指令算出部64が算出する駆動指令VvcmをVCM駆動回路7に対して与え、速度を目標速度に追従させてヘッド1を移動する。
【0074】
本実施形態では、時変カルマンフィルタを用いることで、速度推定部50がヘッド1の速度推定値を算出する際に、ノイズの影響を除去することができる。そして、速度制御部60は上記の速度推定値を用いて制御指令を算出するために、アンロード動作時の騒音を減らすことができる。これにより、アンロード動作時の静粛性を向上することが可能になる。
【0075】
図7は、アンロード時の騒音を測定した際のマイク出力の時間履歴である。なお、図7(a)は、本実施形態のMPU10を用いた場合、図7(b)は、従来のMPUを用いた場合である。
【0076】
これにより、本実施形態のMPU10を用いることで、ランプ乗り上げ時(A)とストッパー到達時(B)の間の騒音は、従来に比べて低減していることがわかる。
【0077】

(変形例)
図8は、本変形例のMPU10の動作を説明するブロック図である。
【0078】
本変形例では、生成部20が、速度制御部60の差分算出部61が算出する速度推定値xvkを用いて、ヘッド1の速度位置目標値を生成する。
【0079】
以下、生成部20について詳細に説明する。なお、図5と同一の構成については同一の符号を付すことで、その説明は省略する。
【0080】
生成部20は、ヘッド1の位置目標値を制御周期ごとに生成する。このヘッド1の位置目標値は、予めメモリ9に格納しておくことができる。
【0081】
また、生成部20は、差分算出部61が算出する速度推定値xvkを得て、この速度推定値xvkを積分することで、各制御周期におけるヘッド1の位置の推定値である位置推定値xrkを算出する。
【0082】
そして、上記の位置目標値から、位置推定値xrkを減算することで位置差分を算出する。
【0083】
生成部30は、上記の位置差分に対して、例えば定数αを乗じることで速度目標値を算出する。この速度目標値は、速度制御部60に対して入力される。
【0084】
これにより、ヘッド1の速度制御に対して、例えばランプ機構6への乗り上げタイミングや、ストッパーへの衝突のタイミング等のより詳細に反映させることができ、高速なアンロード動作を実現することが可能となる。
【0085】

図9は、アンロード時のヘッド1の速度の時間履歴である。図9(a)は本変形例のMPU10を用いた場合、図9(b)は従来のMPUを用いた場合である。
【0086】
従来のMPUを用いた場合には、ランプ乗り上げの正確なタイミングを知ることができないので、安定したアンロード動作を実現するためにはヘッド1の速度はA−B間で一定とする必要があった。しかし、本変形例のMPU10を用いた場合には、ヘッド1の位置も考慮した速度制御を行っているので、ランプ乗り上げのタイミングを比較的正確に知ることができ、これにより速度を一定に保つ際の時間間隔を、図9(b)のA−B間よりも短くすることができる。
【0087】
したがって、図9からわかるように、本変形例のMPU10を用いることで、従来のMPUを用いた場合に比べアンロード動作に要する時間を短くすることができる。
【0088】

以上説明した少なくとも1つの本実施形態の磁気ディスク装置によれば、ヘッドのアンロード動作時の静粛性を向上することが可能になる。
【0089】
これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
1・・・ヘッド
2・・・アーム
3・・・回動軸
4・・・ボイスコイルモータ
5・・・情報記憶媒体
6・・・ランプ機構
7・・・VCM駆動回路
8・・・電圧検出部
9・・・メモリ
10・・・MPU
20・・・生成部
30・・・逆起電圧算出部
40・・・外乱推定部
41・・・推定部
42・・・検出部
43・・・パラメータ算出部
50・・・速度推定部
51・・・ゲイン更新部
52・・・推定値更新部
53・・・予測値算出部
60・・・速度制御部
61・・・差分算出
62・・・制御指令算出部
63・・・外乱抑圧信号算出部
64・・・駆動指令算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記憶媒体に対して情報の書き込みと読み出しを行うヘッドと、
両端に端子を有するコイルを有し、前記ヘッドを移動させるコイルモータと、
前記コイルモータを駆動する駆動回路と、
前記コイルの端子間電圧を検出する電圧検出部と、
前記端子間電圧を用いて前記コイルの逆起電圧を算出する第1算出部と、
前記ヘッドの移動速度の基準値である目標速度を生成する生成部と、
前記逆起電圧を用いてサンプル時間ごとに前記ヘッドの第1速度と当該第1速度の誤差を推定し、当該誤差を減少させる方向に1サンプル時間後の第2速度を推定する第1推定部と、
前記第2速度を前記目標速度に近づける方向に制御指令を算出する制御部と、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記ヘッドに加わる外乱を推定する第2推定部と、
前記外乱を用いて、前記ヘッドのアンロード動作時に前記ヘッドのランプ機構への到達を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果を用いて前記外乱を調整するパラメータを算出する第2算出部と、
前記パラメータを用いて前記誤差を減少させるゲインを更新する第1更新部と、
前記制御指令を用いて前記第1速度の予測値を算出する第3算出部と、
前記予測値と、前記パラメータとを用いて、前記第2速度の推定値を更新する第2更新部と、
を備える請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記ヘッドに加わる外乱を打ち消す信号を算出する第4算出部と、
前記駆動回路に対する駆動指令を、前記制御指令と、前記信号との加算により算出する第5算出部と、
をさらに備える請求項1または2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記ヘッドの移動速度を用いて前記ヘッドの位置を算出する第6算出部をさらに備え、
前記生成部は、前記位置を用いて前記目標速度を生成する請求項1乃至3いずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項に記載の磁気ディスク装置におけるヘッド制御方法であって、
前記電圧検出部が、前記コイルの端子間電圧を検出するステップと、
前記第1算出部が、前記端子間電圧を用いて前記コイルの逆起電圧を算出するステップと、
前記生成部が、前記ヘッドの移動速度の基準値である目標速度を生成するステップと、
前記第1推定部が、前記逆起電圧を用いてサンプル時間ごとにサンプル時間ごとに前記ヘッドの第1速度と当該第1速度の誤差を推定し、当該誤差を減少させる方向に1サンプル時間後の第2速度を推定するステップと、
前記制御部が、前記第2速度を前記目標速度に近づける方向に制御指令を算出するステップと、
を有するヘッド制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−69358(P2013−69358A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205393(P2011−205393)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】