説明

磁気ディスク装置の制御方法、磁気ディスク装置および磁気ディスク

【課題】磁性要素の配列周期と記録信号の時間周期との位相ずれを簡便かつ迅速に判定することが可能な磁気ディスク装置の制御方法を提供する。
【解決手段】本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、トラック21の一部の区間27bにおける磁性要素21bの配列周期tの位相または記録信号WSの時間周期tの位相を、他の区間27aと異ならせて、情報の書き込みを行い、トラック21から再生信号を読み出し、一部の区間27bから読み出された再生信号RSと、他の区間27aから読み出された再生信号RSとに基づいて、磁性要素21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置の制御方法、磁気ディスク装置および磁気ディスクに関し、特に、ビットパターンドメディアを有する磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気的に分離された複数の磁性ビットが周期的に配列したトラックを有するビットパターンドメディアが提案されている。このビットパターンドメディアには、トラックの境界部分や記録遷移点から生じるノイズを低減できるといった利点や、記録された磁化の熱的緩和を抑制できるといった利点などがある。
【特許文献1】特開2006−164349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ビットパターンドメディアにデータを書き込むには、磁性ビットの配列周期に対して、磁気ヘッドに出力する記録信号の時間周期を対応させる必要がある。
【0004】
特許文献1には、記録信号の時間周期の位相を徐々に変えながら情報の書き込み及び読み出しを繰り返し、ビット誤り率が最小となる位相を探索する方法が開示されている。しかしながら、この従来の方法では、情報の書き込み及び読み出しを相当数繰り返す必要がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであり、磁性要素の配列周期と記録信号の時間周期との位相ずれを簡便かつ迅速に判定することが可能な、磁気ディスク装置の制御方法、磁気ディスク装置および磁気ディスクを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクと、前記トラックに追従し、前記磁性要素の配列周期と対応する時間周期の記録信号を受け入れて、情報の書き込みを行う磁気ヘッドと、を備える磁気ディスク装置の制御方法であって、前記トラックの一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相を、他の区間と異ならせて、前記情報の書き込みを行い、前記トラックから再生信号を読み出し、前記一部の区間から読み出された再生信号と、前記他の区間から読み出された再生信号とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の一態様では、単位時間周期ごとにレベルが反転する前記記録信号により、前記情報の書き込みが行われる。
【0008】
また、本発明の一態様では、前記一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相が、前記他の区間と半周期分異なる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との大小関係に基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する。
【0011】
また、この態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との間に所定以上の差が存在するか否かで、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれの有無を判定してもよい。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との一方が第1の閾値を上回り、かつ他方が前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値を下回るか否かで、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれの有無を判定する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の誤り率と、前記他の区間から読み出された再生信号の誤り率とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記位置ずれが判定されたときに、前記記録信号の時間周期の位相を更新し、前記位相ずれを再び判定する。
【0015】
また、この態様では、更新前の前記再生信号の振幅と、更新後の前記再生信号の振幅との大小関係に基づいて、前記記録信号の時間周期の位相の増減を決定してもよい。
【0016】
また、この態様では、前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との大小関係に応じて、前記記録信号の時間周期の位相の更新量を決定してもよい。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記位相ずれの判定結果に基づいて決定される前記記録信号の時間周期の位相の情報を、記憶部に記憶する。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記記憶部から読み出した情報に基づいて、前記磁気ヘッドに出力すべき前記記録信号の時間周期の位相を設定する。
【0019】
また、本発明の一態様では、複数の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相をそれぞれ異ならせて、前記情報の書き込みが行われた前記トラックから再生信号を読み出し、前記各区間から読み出された再生信号に基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する。
【0020】
また、本発明の磁気ディスク装置は、磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクと、前記トラックに追従し、前記磁性要素の配列周期と対応する時間周期の記録信号を受け入れて、情報の書き込みを行う磁気ヘッドと、一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相を、他の区間と異ならせて、前記情報の書き込みが行われた前記トラックのうちの、前記一部の区間から読み出された再生信号と、前記他の区間から読み出された再生信号とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定した結果、決定される前記記録信号の時間周期の位相の情報を記憶する記憶部と、前記記憶部から読み出した情報に基づいて、前記磁気ヘッドに出力すべき前記記録信号の時間周期の位相を設定する設定手段と、を備える。
【0021】
また、本発明の磁気ディスクは、磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクであって、前記トラックの一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相が、他の区間と異なる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、上記従来の方法ほど情報の書き込み及び読み出しを繰り返さずとも、磁性要素の配列周期と記録信号の時間周期との位相ずれを判定できるので、簡便かつ迅速な判定が可能である。
【0023】
特に、本発明によれば、位相ずれの判定の精度向上を図ることができる。すなわち、図16の例に示されるように、情報の書き込みを行う際に、記録信号の時間周期の位相が磁性要素の配列周期の位相に対して多少ずれたとしても、そこから得られる再生信号の大きさは同じ場合があるが、本発明のように、トラックの一部の区間における磁性要素の配列周期の位相または記録信号の時間周期の位相を、他の区間と異ならせることで、こうした多少のずれも検知することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置1の構成例を表すブロック図である。磁気ディスク装置1の筐体9には、磁気ディスク2及びヘッドアッセンブリ6が収納されている。この磁気ディスク2は、ビットパターンドメディアであり、筐体9の底部に設けられたスピンドルモータ3に取り付けられている。
【0026】
ヘッドアッセンブリ6は、磁気ディスク2の隣で旋回可能に支承されている。ヘッドアッセンブリ6の先端部には、磁気ヘッド4が支持されている。他方、ヘッドアッセンブリ6の後端部には、ボイスコイルモータ7が設けられている。ボイスコイルモータ7は、ヘッドアッセンブリ6を旋回駆動することで、磁気ヘッド4を磁気ディスク2上で略半径方向に移動させる。
【0027】
図2は、磁気ディスク2及び磁気ヘッド4の説明図である。磁気ディスク2は、磁気的に分離された複数の磁性ビット(磁性要素)21bが所定の配列周期tで配列したトラック21を有する。これら磁性ビット21bは、非記録層23上に形成された磁性層がパターニングされることにより形成される。隣り合う磁性ビット21bの間には磁性層が除去されてできた溝(非磁性ビット21c)が形成されており、これにより各磁性ビット21bが磁気的に分離されている。なお、これらの溝を非磁性材料で埋めるようにしてもよい。
【0028】
磁気ヘッド4は、回転する磁気ディスク2上に近接浮上して、トラック21に追従する。この磁気ヘッド4は、トレーリング側の端部に記録素子41及び再生素子43を含んでいる。この記録素子41は、例えば同図に示されるような単磁極型の記録ヘッドであり、主磁極41m及び副磁極41sを含み、磁気ディスク2に対して垂直な記録磁界を主磁極41mの先端から発する。また、再生素子43は、一対の磁気シールド45に挟み込まれて配置されている。
【0029】
図1の説明に戻り、磁気ディスク装置1は、筐体9外の基板に、主制御回路10、リードライトチャネル(R/Wチャネル)13及びモータドライバ17を有している。この主制御回路10は、マイクロプロセッシングユニット(MPU)と、ハードディスクコントローラ(HDC)と、メモリとを含んでいる。主制御回路10は、メモリに格納されたプログラムに基づいて、磁気ヘッド4の位置制御など、種々の制御を実行する。
【0030】
記録処理において、主制御回路10は、磁気ディスク2に記録すべきユーザデータを外部ホストから受信すると、このユーザデータをR/Wチャネル13に出力する。R/Wチャネル13は、このユーザデータを変調して、ヘッドアンプ14に出力する。ヘッドアンプ14は、この変調されたユーザデータを記録信号に変換して、磁気ヘッド4に出力する。磁気ヘッド4は、この記録信号に応じた記録磁界をトラック21に印加して、ユーザデータを書き込む。
【0031】
ここで、R/Wチャネル13は、磁性ビット21bの配列周期tに対応する時間周期の記録信号を生成する。すなわち、記録信号の時間周期は、トラック21に対する磁気ヘッド4の追従速度(磁気ディスク2の回転速度)を乗じたときに、磁性ビット21bの配列周期と同等になるように設定される。
【0032】
再生処理において、磁気ヘッド4は、トラック21から漏れ出る磁界から再生信号を読み出し、この再生信号をヘッドアンプ14に出力する。ヘッドアンプ14は、この再生信号を増幅して、R/Wチャネル13に出力する。R/Wチャネル13は、この増幅された再生信号をデジタルデータに変換し、復調して、主制御回路10に出力する。主制御回路10は、この復調されたユーザデータを外部ホストへ送信する。更に、R/Wチャネル13は、必要に応じて、再生信号振幅を主制御回路10に出力する。
【0033】
また、R/Wチャネル13は、再生信号から所定のサンプリング周期でサーボデータを抽出して、主制御回路10に出力する。
【0034】
以下、主制御回路10において実行される判定処理の各例について説明する。この判定処理では、記録信号の時間周期の位相と、磁性ビット21bの配列周期tの位相との位相ずれが判定される。
【0035】
[判定処理の第1例]
図3は、判定処理の第1例の説明図である。同図では、記録信号WSの時間周期tの位相と、磁性ビット21bの配列周期tの位相との関係を表し、更には、トラック21から読み出される再生信号RSを表す。
【0036】
本例において、トラック21は、磁性ビット21bの配列周期tの位相がトラック21の大半と同じである第1の区間27aと、磁性ビット21bの配列周期tの位相が第1の区間27aとは半周期分異なる(すなわち、逆位相の)第2の区間27bとを含んでいる。こうしたトラック21は、磁気ディスク2のゾーン毎に設けられる。判定処理では、こうしたトラック21に対して、1ビット(単位時間周期)ごとに極性が反転する記録信号により、情報の書き込みが行われる。
【0037】
図3(a)は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが無い場合を示している。すなわち、第1の区間27aでは、記録信号WSの極性が反転するタイミングが、非磁性ビット21cの位置と対応しているのに対し、第2の区間27bでは、記録信号WSの極性が反転するタイミングが、磁性ビット21bの位置と対応している。
【0038】
このため、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅は比較的大きく、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅は比較的小さくなる。このとき、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅と、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅との差が所定以上ある場合に、位相ずれが生じていないと判断される。
【0039】
すなわち、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が、これに適用される第1の閾値E1を上回るとともに、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅が、第1の閾値E1よりも小さな第2の閾値E2を下回るときに、位相ずれが無いと判断される。これら閾値E1,E2は、例えば、直流信号により書き込み処理を行った場合の再生信号の振幅を基に設定される。
【0040】
これに対し、図3(b)は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが有る場合を示している。すなわち、第1の区間27aでは、記録信号WSの極性が反転するタイミングが、磁性ビット21bの位置と対応しているのに対し、第2の区間27bでは、記録信号WSの極性が反転するタイミングが、非磁性ビット21cの位置と対応している。このとき、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が第1の閾値E1を下回るか、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅が第2の閾値E2を上回るので、位相ずれが有ると判断される。
【0041】
図4は、判定処理の第1例のフローチャートである。主制御回路10は、上記図3に示した第1の区間27a及び第2の区間27bを有するトラック21に対し、変調後において極性が1ビットごとに反転する位相Φ(初期位相は0度)の記録信号で、情報の書き込みを行い(S1,S2)、その後、当該トラック21から再生信号を読み出す(S3)。次に、主制御回路10は、第1の区間27aから読み出された再生信号RSの振幅が第1の閾値E1を上回り、かつ第2の区間27bから読み出された再生信号RSの振幅が第2の閾値E2を下回る場合には、位相ずれが無いと判断し、このうち何れかを満たさない場合には、位相ずれが有ると判断する(S4:判定手段としての機能)。
【0042】
位相ずれが無い場合には(S4:YES)、主制御回路10は、このときの位相Φのデータをメモリに記憶する(S5)。こうしてメモリに記憶された位相Φのデータは、R/Wチャネル13における記録信号の位相設定時に読み出される。
【0043】
位相ずれが有る場合には(S4:NO)、主制御回路10は、このときの位相Φにα(例えば10度)を加えた値を、新たな位相Φとして更新し(S6)、再び書き込み及び読み出しを行い、位相ずれを判定する(S2〜S4)。主制御回路10は、こうした処理を位相ずれが無いと判定されるまで繰り返す。
【0044】
ここで、図5に、本例の処理によって好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数と、初期位相差との関係を示す。初期位相差とは、記録信号WSの初期の位相と、好適な位相との差である。また、比較のため、図中には従来例についても示している。この従来例は、上記特許文献1のように、記録信号の位相を全範囲に亘って徐々に変えながら情報の書き込み及び読み出しを繰り返すものである。この図に示されるように、本例の処理では、従来例と比較して、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数が多くの場合で少ないことがわかる。
【0045】
なお、本例では、再生信号の振幅に基づいて位相ずれを判定しているが、これに限られず、ビット誤り率に基づいて位相ずれを判定するようにしてもよい。また、本例では、磁性ビット21bの長さと非磁性ビット21cの長さとを同等としているが、これに限られず、どちらかを長くして、それに応じた閾値を設定するようにしてもよい。また、本例では、αを一定としているが、これに限られず、閾値を複数段階で設け、これに応じてαを可変としてもよい。これらは、以下に説明する他の例についても共通する。
【0046】
[判定処理の第2例]
以下、判定処理の第2例について説明する。なお、上記の例と重複する箇所については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本例において、記録信号WS、トラック21及び再生信号RSは、上記第1例(図3を参照)と同じである。すなわち、磁性ビット21bの配列周期tの位相が、第1の区間27aと第2の区間27bとで半周期分異なっている。
【0047】
図6は、判定処理の第2例のフローチャートである。主制御回路10は、位相ずれが有る場合に(S4:NO)、1巡目については、上記第1例と同様に、位相Φにαを加えた値を新たな位相Φとして更新する。このとき、主制御回路10は、更新前の再生信号の振幅Eaをメモリに記憶する(これを振幅Ecとする。)。
【0048】
次に、2巡目については、主制御回路10は、第1の区間27aから読み出された再生信号の振幅Eaと、メモリに記憶された振幅Ecとを比較し(S42)、振幅Eaの方が大きい場合には(S42:YES)、位相Φにαを加えた値を新たな位相Φとして更新する。そして、3巡目以降も同様に、位相Φにαを加え続ける。他方、振幅Ecの方が大きい場合には(S42:NO)、1巡目よりも2巡目の方が位相ずれが大きくなっているので、主制御回路10は、位相Φからαを引いた値を新たな位相Φとして更新する。そして、3巡目以降も同様に、位相Φからαを引き続ける。
【0049】
このように、1巡目の再生信号RSの振幅と、2巡目の再生信号RSの振幅との大小関係により、位相Φの増減を決定することで、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数をより低減することができる。
【0050】
ここで、図7に、本例の処理によって好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数と、初期位相差との関係を示す。また、上記と同様に、図中には従来例についても示している。この図に示されるように、本例の処理では、従来例と比較して、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数が全ての場合で少ないことがわかる。
【0051】
[判定処理の第3例]
以下、判定処理の第3例について説明する。なお、上記の例と重複する箇所については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。本例において、記録信号WS、トラック21及び再生信号RSは、上記第1例(図3を参照)と同じである。すなわち、磁性ビット21bの配列周期tの位相が、第1の区間27aと第2の区間27bとで半周期分異なっている。
【0052】
図8は、判定処理の第3例のフローチャートである。主制御回路10は、位相ずれがある場合に(S4:NO)、第1の区間27aから読み出した再生信号の振幅Eaと、第2の区間27bから読み出した再生信号の振幅Ebとを比較し(S41)、振幅Eaの方が大きい場合には(S41:YES)、上記第2例と同じ処理(S42)に移る。
【0053】
他方、振幅Ebの方が大きい場合には(S41:NO)、位相ずれが比較的大きいことになるので、主制御回路10は、位相Φの更新量を上記αよりも大きくする。具体的には、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が第2の閾値E2よりも小さく、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅が第1の閾値E1よりも大きいときには(S43:YES)、位相Φに90度を加えて新たな位相Φとして更新する(S63)。他方、この条件を満たさない場合には(S43:NO)、位相Φにαと90度との間の更新量βを加えた値を、新たな位相Φとして更新する(S64)。
【0054】
このように、第1の区間27aから読み出された再生信号RSの振幅と、第2の区間27bから読み出された再生信号RSの振幅との大小関係に応じて、位相Φの更新量を決定することで、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数をより低減することができる。
【0055】
ここで、図9に、αが10度のときの好適な更新量βの探索結果を示す。この図に示されるように、βは60度のときに平均サイクル数が最少となることがわかる。よって、βは60度であることが好ましい。
【0056】
また、図10には、本例の処理によって好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数と、初期位相差との関係を示す。また、上記と同様に、図中には従来例についても示している。この図に示されるように、本例の処理では、従来例と比較して、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数が全ての場合で少ないことがわかる。
【0057】
[判定処理の第4例]
以下、判定処理の第4例について説明する。なお、上記の例と重複する箇所については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図11は、判定処理の第4例の説明図である。同図では、記録信号WSの時間周期tの位相と、磁性ビット21bの配列周期tの位相との関係を表し、更には、トラック21から読み出される再生信号RSを表す。
【0058】
本例では、記録信号WSの時間周期tの位相が、第1の区間27aに対する場合と、第2の区間27bに対する場合とで半周期分異なるようにされる(すなわち、逆位相とされる)。すなわち、記録信号WSは、1ビットごとに極性が反転する信号であり、第2の区間27bに対する場合に、その位相が半周期分ずれることになる。
【0059】
図11(a)は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが無い場合を示している。このとき、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が第1の閾値E1を上回るとともに、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅が第2の閾値E2を下回るので、位相ずれが無いと判断される。
【0060】
これに対し、図11(b)は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが生じている場合を示している。このとき、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が第1の閾値E1を下回るか、第2の区間27bから読み出される再生信号RSの振幅が第2の閾値E2を上回るので、位相ずれが有ると判断される。
【0061】
なお、本例における判定処理には、上記図4、図6及び図8のそれぞれに示したフローチャートの何れを適用してもよい。この場合、各例に応じた効果を得ることができる。
【0062】
[判定処理の第5例]
以下、判定処理の第5例について説明する。なお、上記の例と重複する箇所については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図12は、判定処理の第5例の説明図である。同図では、記録信号WSの時間周期tの位相と、磁性ビット21bの配列周期tの位相との関係を表し、更には、トラック21から読み出される再生信号RSを表す。
【0063】
本例において、トラック21は、磁性ビット21bの配列周期tの位相がそれぞれ異なる複数の区間27a,27b,27cを含んでいる。同図は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが無い場合を示している。なお、同図では、3つの区間を示しているが、これに限られず、4以上の区間であってもよい。また、各区間における磁性ビット21bの配列周期tの位相を、例えば0度、45度、90度・・・というように漸増させてもよい。
【0064】
図13は、判定処理の第5例のフローチャートである。主制御回路10は、トラック21から再生信号が読み出されると(S3)、各区間27a〜27cから読み出される再生信号RSのうち、振幅が最小となる再生信号RSに対して第2の閾値E2を適用するとともに、その区間とは位相が半周期分異なる区間(若しくは、それに最も近い区間)の再生信号RSに対して第1の閾値E1を適用することで、位相ずれの判定を行う(S45)。
【0065】
例えば、図12に示されるように、第1の区間27aから読み出される再生信号RSの振幅が第1の閾値E1を上回り、第3の区間27cから読み出される再生信号RSの振幅が第2の閾値を下回るときには(S45:YES)、主制御回路10は、この第1の区間27aでの位相Φのデータをメモリに記憶する(S5)。他方、この条件を満たさないときは(S45:NO)、主制御回路10は、このときの位相Φにα(例えば15度)を加えた値を、新たな位相Φとして更新し(S6)、再び書き込み及び読み出しを行い(S2,S3)、位相ずれを判定する(S45)。
【0066】
なお、これに限られず、振幅が最大となる再生信号RSに対して第1の閾値E1を適用するとともに、その区間とは位相が半周期分異なる区間の再生信号RSに対して第2の閾値E2を適用するようにしてもよい。また、振幅が最大となる再生信号RSに対して第1の閾値E1を適用するとともに、振幅が最小となる再生信号RSに対して第2の閾値E2を適用するようにしてもよい。
【0067】
ここで、図14に、本例の処理によって好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数と、初期位相差との関係を示す。また、上記と同様に、図中には従来例についても示している。この図に示されるように、本例の処理では、従来例と比較して、好適な位相が見出されるまでに要するサイクル数が全ての場合に少ないことがわかる。
【0068】
[判定処理の第6例]
以下、判定処理の第6例について説明する。なお、上記の例と重複する箇所については、同番号を付すことで詳細な説明を省略する。図15は、判定処理の第6例の説明図である。同図では、記録信号WSの時間周期tの位相と、磁性ビット21bの配列周期tの位相との関係を表し、更には、トラック21から読み出される再生信号RSを表す。
【0069】
本例では、記録信号WSの時間周期tの位相が、複数の区間27a,27b,27cのそれぞれに対する場合で異なるようにされる。同図は、第1の区間27aにおいて、磁性ビット21bの配列周期tと記録信号WSの時間周期tとの位相ずれが無い場合を示している。なお、同図では、3つの区間を示しているが、これに限られず、4以上の区間であってもよい。また、各区間における記録信号WSの時間周期tの位相を、例えば0度、45度、90度・・・というように漸増させてもよい。
【0070】
なお、本例における判定処理には、上記図13に示したフローチャートを適用することができる。この場合、上記第5例と同様の効果を得ることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が当業者にとって可能であるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置の構成例を表すブロック図である。
【図2】磁気ディスク及び磁気ヘッドの説明図である。
【図3】判定処理の第1例の説明図である。
【図4】判定処理の第1例のフローチャートである。
【図5】判定処理の第1例の効果説明図である。
【図6】判定処理の第2例のフローチャートである。
【図7】判定処理の第2例の効果説明図である。
【図8】判定処理の第3例のフローチャートである。
【図9】判定処理の第3例の位相更新量βの探索結果図である。
【図10】判定処理の第3例の効果説明図である。
【図11】判定処理の第4例の説明図である。
【図12】判定処理の第5例の説明図である。
【図13】判定処理の第5例のフローチャートである。
【図14】判定処理の第5例の効果説明図である。
【図15】判定処理の第6例の説明図である。
【図16】記録信号と再生信号との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 磁気ディスク装置、2 磁気ディスク、3 スピンドルモータ、4 磁気ヘッド、6 ヘッドアッセンブリ、7 ボイスコイルモータ、9 筐体、10 主制御回路、13 R/Wチャネル、14 ヘッドアンプ、17 モータドライバ、21 トラック、21b 磁性ビット(磁性要素)、21c 非磁性ビット(溝)、23 非記録層、41 記録素子、41m 主磁極、41s 副磁極、43 再生素子、45 磁気シールド、27a 第1の区間、27b 第2の区間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクと、
前記トラックに追従し、前記磁性要素の配列周期と対応する時間周期の記録信号を受け入れて、情報の書き込みを行う磁気ヘッドと、
を備える磁気ディスク装置の制御方法であって、
前記トラックの一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相を、他の区間と異ならせて、前記情報の書き込みを行い、
前記トラックから再生信号を読み出し、
前記一部の区間から読み出された再生信号と、前記他の区間から読み出された再生信号とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、
ことを特徴とする磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項2】
単位時間周期ごとにレベルが反転する前記記録信号により、前記情報の書き込みが行われる、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項3】
前記一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相が、前記他の区間と半周期分異なる、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項4】
前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項5】
前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との大小関係に基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項6】
前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との間に所定以上の差が存在するか否かで、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれの有無を判定する、
請求項5に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項7】
前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との一方が第1の閾値を上回り、かつ他方が前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値を下回るか否かで、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれの有無を判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項8】
前記一部の区間から読み出された再生信号の誤り率と、前記他の区間から読み出された再生信号の誤り率とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項9】
前記位置ずれが判定されたときに、前記記録信号の時間周期の位相を更新し、前記位相ずれを再び判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項10】
更新前の前記再生信号の振幅と、更新後の前記再生信号の振幅との大小関係に基づいて、前記記録信号の時間周期の位相の増減を決定する、
請求項9に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項11】
前記一部の区間から読み出された再生信号の振幅と、前記他の区間から読み出された再生信号の振幅との大小関係に応じて、前記記録信号の時間周期の位相の更新量を決定する、
請求項9に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項12】
前記位相ずれの判定結果に基づいて決定される前記記録信号の時間周期の位相の情報を、記憶部に記憶する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項13】
前記記憶部から読み出した情報に基づいて、前記磁気ヘッドに出力すべき前記記録信号の時間周期の位相を設定する、
請求項12に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項14】
複数の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相をそれぞれ異ならせて、前記情報の書き込みが行われた前記トラックから再生信号を読み出し、
前記各区間から読み出された再生信号に基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項15】
磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクと、
前記トラックに追従し、前記磁性要素の配列周期と対応する時間周期の記録信号を受け入れて、情報の書き込みを行う磁気ヘッドと、
一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相または前記記録信号の時間周期の位相を、他の区間と異ならせて、前記情報の書き込みが行われた前記トラックのうちの、前記一部の区間から読み出された再生信号と、前記他の区間から読み出された再生信号とに基づいて、前記磁性要素の配列周期と前記記録信号の時間周期との位相ずれを判定した結果、決定される前記記録信号の時間周期の位相の情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部から読み出した情報に基づいて、前記磁気ヘッドに出力すべき前記記録信号の時間周期の位相を設定する設定手段と、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項16】
磁気的に分離された複数の磁性要素が所定の配列周期で配列したトラックを有する磁気ディスクであって、
前記トラックの一部の区間における前記磁性要素の配列周期の位相が、他の区間と異なる、
ことを特徴とする磁気ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−92513(P2010−92513A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258532(P2008−258532)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】