説明

磁気ディスク装置

【課題】プレ・パターンド媒体を用いた磁気ディスク装置において、製造ばらつきによる歩留り低下を抑制する。
【解決手段】使用する磁気ヘッドの記録幅特性に応じて、予め定められた規則に従い、隣接する複数のトラックの組のうち一部のトラックを除いて記録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレ・パターンド媒体記録方法、磁気ディスク装置及びその製造方法に係り、特に磁気ディスク装置、磁気記録ヘッドの歩留まり向上に適した磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置等の磁気ディスク装置では、磁気ディスク上の記録密度を向上して大記憶容量の装置を実現することが望まれている。磁気記録方式としては、面内磁気記録方式と、垂直磁気記録方式とがあり、現在の、高密度ハードディスク装置では後者が用いられる。
【0003】
一方、さらなる高トラック密度を実現するために、ディスクリート・トラックを有する磁気ディスクが特許文献1等に提案されている。この装置では磁気ディスク上の互いに隣接するディスクリート・トラック間には、あらかじめ溝が設けられているため、隣接トラック書き込みの発生を抑制することができる。このようなディスクリート・トラック媒体やさらにビットまで分割するビット・パターンド媒体などを総称してプレ・パターンド媒体と呼んでいる。
【0004】
磁気ディスク上の記録密度を向上するには、トラック密度を高くする必要がある。しかし、トラック密度を高くすると、記録の書きにじみの影響が隣接トラックに及んでいわゆる「隣接トラック書き込み」が発生してしまう可能性がある。隣接トラック書き込みが発生すると、例えば隣接トラックに既に記録されている情報に対して一部上書きが行われてしまい、正常な情報記録を保証できなくなってしまう。
【0005】
他方、トラック密度を高くするには、非常に狭い記録幅を有する記録ヘッドを製造する必要がある。ここで、記録幅はヘッドにより媒体に記録されている幅をあらわす。記録ヘッドの記録幅が狭くなると、製造上のバラツキにより生じる、個々の記録ヘッドの記録幅のバラツキが相対的に大きくなり、その記録特性への影響も大きくなる。また記録ヘッドのヨーク長、シールド形状の変動によっても記録磁界の大きさが変わり、記録幅バラツキの要因となる。このヘッド記録幅は、実現可能な記憶容量に影響を与える。例えば、記録幅Tw1の記録ヘッドを用いた場合に記憶容量T1が得られる磁気ディスクであっても、記録幅Tw2(>Tw1)の記録ヘッドを用いた場合には記憶容量T2(<T1)しか得られないという状況がありうる。従って、設計中心値として記録幅Twと設定した記録ヘッドを製造した場合、製造上のバラツキにより実際に製造されるヘッドの記録幅には例えばTw1とTw2のものがあると、同じ磁気ディスクを用いても組み合わされるヘッドの実際の記録幅によって磁気ディスク装置の記憶容量が異なることになる。また、ヘッドの実際の記録幅が設計値よりかなり広い場合には、上記隣接トラック書き込みの影響が顕著に現れてしまう。
【0006】
上記の、高トラック密度としたときの隣接書き込みの問題は、ディスクリート・トラック媒体を用いた場合にも、やはり起こってくる。ディスクリート・トラックを有する磁気ディスクでは、情報を記録するトラック間を溝で分離してトラックピッチを規定しているために、設計中心値より広いある記録幅よりも更に広い記録幅の場合には書きにじみが隣接トラックへ及んで隣接トラック書き込みが発生し、隣のトラックに記録された情報を破壊してしまう。このようなことが起こると、情報を確実に読み出し可能に記録することができなくなってしまう。また、溝幅を大きくして記録幅のバラツキの影響を緩和しようとすると、その分だけ記録トラック幅が小さくなり、磁気ディスク上に十分な記録領域が確保できなくなってしまうため、記録ヘッドの記録幅の製造バラツキが抑制されない限り、トラック密度を更に向上することは難しい。そこで、ヘッドの記録幅バラツキを許容するために特許文献2では複数の溝幅のディスクを用意することが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−31756号公報
【特許文献2】特開2007−234070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ディスクリート・トラックを有する磁気ディスクでは、溝が一定のピッチであらかじめ決められているため、溝で分離されたトラックも一定のピッチで形成されている。記録ヘッドは、この一定のトラックのピッチに合わせた設計値の記録幅を有するように製造されるが、実際の記録幅は製造バラツキにより個々の記録ヘッド間で異なり、製造される記録ヘッドには、設計値より広い記録幅のものが含まれる。このため、許容最大記録幅より広い記録幅の記録ヘッドは、磁気ディスク装置に搭載することができない。
【0009】
ディスクリート・トラックで許容される記録幅について考える。ディスクリート・トラックに記録する場合、許容される記録幅は[媒体トラック幅+2×溝幅]以内に抑える必要があるが、記録時のヘッドの位置ずれを考慮するとその条件はさらに厳しくなる。例えば、トラック中心位置からトラックピッチの+15%以内のオフトラック量であれば、記録動作を行うという設定により装置を設計する場合、トラック幅/溝幅の比によって使用可能な記録幅の領域が決定される。この場合、溝幅が小さくなるほど許される記録幅は小さくなり、使用可能なヘッドの歩留まりは製造ばらつきにより低下してしまう。
【0010】
他方、許容最大記録幅の値を大きくして磁気ディスク装置に搭載可能な記録ヘッドの記録幅の範囲を広げることで、磁気ディスク装置の歩留りを向上しようとすると、トラックピッチを広げる必要が生じて、トラック密度が低下してしまう。このように、従来のディスクリート・トラックを有する磁気ディスクでは、磁気ディスク装置の歩留りの向上とトラック密度の向上を両立させることが難しいという問題があった。
【0011】
また、特許文献2の方法の場合、複数の規格のディスクを用意する必要があり、ディスク製造のコストが増大するという問題がある。また、記録幅を基準にヘッドを選別し、磁気ディスク装置を組み立てたとしても、装置を組み立てた後で隣接トラック書き込みの問題が明らかになった場合には、対応できないという問題がある。
【0012】
本発明は、プレ・パターンド媒体を用いた磁気ディスク装置に関し、製造ばらつきにより磁気ディスク装置、磁気ヘッドの歩留りが下がり、コストが上がってしまうという問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、プレ・パターンド媒体を用いた磁気ディスク装置において、使用するヘッドの記録幅特性に応じて、予め定められた規則に従い、隣接する複数のトラックの組のうち一部のトラックを除いて記録することにより、前記目的を達成する。
【0014】
すなわち、本発明の磁気ディスク装置は、互いに隣接するトラックが予め磁気的に分離されている磁気ディスクと、磁気ディスクを駆動するディスク駆動部と、記録ヘッドと再生ヘッドを搭載した磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスク上の所定のトラック上に位置決めするためのヘッド駆動部と、制御部とを有し、制御部は、磁気ディスクの少なくとも一部の半径領域において連続するn本のトラックからなる一組のトラック毎に1本ずつ設定される記録に使用しない上書き専用トラック及びオフセット量に関する情報を記憶しており、上書き専用トラックが設定された磁気ディスクの半径領域では、n本からなる一組のトラックのうち上書きトラックを除くn−1本のトラックに対して、トラック中心から上書き専用トラック側にオフセット量だけオフセットさせて記録する。
【0015】
また、そのより効果的な構成として、磁気ディスク装置において、連続する3本のトラックを組にし、その中央のトラックを記録に使用しない上書き専用トラックとし、上書き専用トラックの両隣のトラックに情報を記録する方法を少なくとも一部の記憶領域で用いてもよい。この場合、記録位置をトラック中心から上書き専用トラック側にオフセットさせて中心トラックにのみ上書きするようにする。この方法では3本の連続したトラックのうち中心にあるトラックにはデータを書き込まないため、中心に位置するトラックは上書きされても問題とならない。このため、設計値よりも記録幅の広い記録ヘッドを使う際は中心トラックに上書きすることで、データトラックへの隣接トラック書き込みが生じるという問題を回避することが可能となる。
【0016】
この方法を用いることで、データトラックへの隣接トラック書き込みを防止することができる。これによって、製造バラツキによりヘッドの記録幅が設計値より大きい場合でも、そのヘッドを使用することができるため、磁気ディスク装置、磁気記録ヘッドの歩留まり向上とコスト低減を達成することが可能となる。
【0017】
また、2本の連続するトラックの組に対し、そのトラックのうち1本のトラックをデータトラックとして使用しない上書き専用トラックとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、従来使用できなかった製造ばらつきにより記録幅が広くなってしまったヘッドも活用することができるようになるため、プレ・パターンド媒体を用いた磁気ディスク装置において、磁気記録ヘッド、磁気ディスク装置の歩留まりを向上させコスト削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係る磁気ディスク装置について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明による磁気ディスク装置の一実施例を示す模式図である。図1(a)は平面模式図、図1(b)はそのAA’断面模式図である。本実施例は、垂直磁気記録方式を採用するディスクリート・トラック記録方式の垂直磁気ディスク装置に適用したものである。
【0021】
図1に示す垂直磁気ディスク装置は、磁気ディスク31、磁気ディスク31を回転駆動するスピンドル36、磁気ヘッド32、先端に磁気ヘッド32が取り付けられた支持バネ機構33、支持バネ機構33を保持するヘッドアーム34、ヘッドアーム34を駆動するボイスコイルモータ35、ボイスコイルモータ35を制御して磁気ヘッド32を磁気ディスク31上の所望のトラック上に位置決めするための制御部38がハウジング37内に設けられた構成を有する。この垂直磁気ディスク装置の基本構成自体は周知のものであっても良い。本実施例では、複数の磁気ディスク31がハウジング37内に設けられているので、磁気ディスク31の数に応じた数の磁気ヘッド32、ヘッドアーム34等が設けられている。磁気ヘッド32には記録ヘッドと再生ヘッドが設けられている。記録ヘッドとしては、例えば単磁極ヘッドが用いられ、再生ヘッドとしては例えばTMRヘッドが用いられる。記録ヘッドとして単磁極ヘッドを用いる場合には、磁気ディスクは磁気記録層の下に軟磁性裏打ち層を設けた二層媒体とするのが効果的である。
【0022】
以下、プレ・パターンド媒体の一例としてディスクリート・トラックへの適用を考える。ディスクリート・トラック媒体においては、図2に示すように、媒体の記録層をパターニングしてトラック41を形成する。トラックとトラックの間には記録層を除いた溝42を設ける。トラックの幅43をランド幅、溝の幅44を溝幅と呼ぶ。
【0023】
本発明の記録方式の適用法としてまず、ある程度適当な平均記録幅をもった磁気ヘッドとトラックピッチをもったディスクリート・トラック媒体との組み合わせを考える。具体的な手順の一例として、装置を組みたてた後の検査工程において磁気ディスクの各半径位置で隣接トラック書き込みの影響を調べ、隣接トラック書き込みが問題になった場合に本発明の記録方式を適用する。隣接トラック消去は半径位置によって影響が異なるので、各半径位置で判定を行うこととする。
【0024】
最初に通常のトラックピッチでの使用を試みる。その結果として隣接書き込みが生じてしまう部分に本方式を適用する。図3(a)に示すように、この領域では連続した3本のトラックの内、データトラックとして外側のトラック2本を使用し、中心トラックは上書き領域として使用する。言い換えると、中心トラックはデータを保存しない捨てトラックとする。そのため、外側のデータトラックに記録する際は中心の上書き専用トラック側にオフセットさせて記録することになる。オフセット量は、図4に示すように、記録トラック中心からのずれ量をあらわす。
【0025】
特に内周、外周で磁気ヘッド方向とトラック方向がずれてskew角がついた際に、内周もしくは外周の領域のみに隣接消去が起こる場合も考えられる。その場合は、図3(b)に示すように、ディスクのうち特定の半径領域に部分的に本発明の記録方法を適用することも可能である。
【0026】
以下に、そのオフセット量決定の方法を示す。図5は、オフセット量決定の手順を示すフローチャートである。最初に、磁気ディスクの各半径位置で、通常のトラックピッチで書き込みを行ったとき、隣接トラック消去が生じるか否かを検査する(S11)。隣接トラック消去が生じなければ、通常のトラックピッチを採用する(S12)。
【0027】
隣接トラック消去が生じる場合には、3本のトラックを用いて隣接トラック消去を判定し、最適なオフセット量を決定する。図4に示すように、内周側よりトラックn−1、トラックn、トラックn+1と名づける。まず3本のトラックn−1、トラックn、トラックn+1を交流消去し(S13)、中心トラックnに信号S2を記録する(S14)。次にトラックn−1,n+1にその中心からあるオフセット量1で信号S1,S3を記録する(S15)。そして、磁気ヘッド(再生ヘッド)をオフセットさせながらトラックnのビットエラーレートを測定する(S16)。そのデータからオフトラック許容量を算出し(S17)、オフトラック許容量が規定値を満たしているかどうかを判定する(S18)。
【0028】
オフトラック許容量とは、データを正しく再生できる再生トラックずれの限界値のことである。即ち、再生ヘッドをオフトラックさせながらビットエラーレート測定を実施し、磁気ディスク装置のビットエラーレート規格を満たす範囲を算出する。信号S1,S2記録時のトラックピッチとオフトラック許容量の関係を図6に示す。本実施例では、ビットエラーレート規格として1×10-3を満たすオフトラック許容量を測定した。トラックピッチは所定のステップにて、所定値まで増加させ(S19)、それぞれのトラックピッチでオフトラック許容量を算出している。本実施例では、最適なオフセット位置をオフトラック許容量の低下がない点とした。ディスクリート・トラックのトラックピッチで記録するとオフトラック許容量が低下していていた(トラックn,n−1の中心に書き込んだ場合)。そこでオフトラック許容量が低下していない記録位置をみると、オフセット量は15nmであった。
【0029】
特に、半径位置を変えた場合は、トラックn−1,n+1のオフセット量をそれぞれ変更した方が良い場合がある。この様な場合は図7に示すように、まず、トラックn−1への最適オフセット量1を決定し、次にトラックn+1への最適オフセット量2を決定する。
【0030】
トラックn−1への最適オフセット量1の決定に当たっては、最初に、トラックn−1の中心に信号S2を記録してトラックnに隣接トラック消去が起こるかを検査する(S31)。隣接トラック消去が生じない場合には、トラックn−1のオフセット量を0とする(S32)。隣接トラック消去が生じる場合には、次の手順でトラックn−1の最適オフセット量を決める。まず、トラックn−1,nを交流消去し(S33)、トラックnに信号S2を記録する(S34)。次に、トラックn−1の中心からあるオフセット量1で信号S1を記録する(S35)。その後、磁気ヘッドをオフセットさせながらトラックnのビットエラーレートを測定し(S36)、オフトラック許容量1を算出する(S37)。このオフトラック許容量1が規定の値を満たすかどうかを判断し(S38)、規定の値が満たされていない場合は、信号S1記録時のオフセット量を変更し(S39)、測定を繰り返す。規定値を満たすオフセット量を最適オフセット量1とする(S40)。
【0031】
次に、トラックn+1への最適オフセット量2を決定する。最初に、トラックn+1の中心に信号S2を記録してトラックnに隣接トラック消去が起こるかを検査し(S41)、隣接トラック消去が生じない場合には、トラックn+1のオフセット量を0とする(S42)。トラックnに隣接トラック消去が起こる場合には、トラックn、n+1を交流消去し(S43)、トラックnに信号S2を記録する(S44)。次に、トラックn+1の中心からあるオフセット量2で信号S3を記録する(S45)。その後、磁気ヘッドをオフセットさせながらトラックnのビットエラーレートを測定し(S46)、オフトラック許容量2を算出する(S47)。このオフトラック許容量2が規定の値を満たすかどうかを判断し(S48)、規定の値が満たされていない場合は、信号S3記録時のオフセット量を変更し(S49)、測定を繰り返す。規定値を満たすオフセット量を最適オフセット量2とする(S50)。
【0032】
こうして、トラックn−1,n+1の最適オフセット量1,2をそれぞれ決定する。3n−2(n=1,2…)番目のトラックはトラック中心位置から外周側へ最適オフセット量2移動した位置で書き込み、3n(n=1,2…)番目のトラックでは内周側へ最適オフセット量1移動した位置で書き込むこととする。
【0033】
本方式では許容される許容記録幅は[2×ランド幅+3×溝幅](図8)となるため、使用可能な磁気ヘッドの範囲は大きく拡大する。これは記録磁界が大きな磁気ヘッドも使用できることを意味しており、S/Nの観点からも利得が大きい。
【0034】
図5のフローチャートで求められた最適オフセット量及びそれが適用されるトラック領域の情報、あるいは図7のフローチャートに従って求められた最適オフセット量1,2及びそれが適用されるトラック領域の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録される。情報の記録に当たって、制御部38は、メモリに記録されている最適オフセット量及びそれが適用されるトラック領域の情報を用いて、記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。以上のように、本発明により磁気ヘッド歩留まり、装置歩留まりを大きく改善することが可能となる。
【0035】
また、予め、異なるトラックピッチの磁気ディスクを用意しておく場合にも、装置を組んだ後に隣接トラック書き込みが問題であることがわかった場合に本発明の記録方式を使用することができる。また、本方式は垂直磁気記録に限定されるものではなく、面内磁気記録にも適用可能である。
【実施例2】
【0036】
本発明の実施例2につき、以下に説明する。本実施例の基本的な装置構成は、図1に示した実施例1のものと同様の構成である。本実施例では、装置を組む前段階で意図的に媒体トラックピッチに対して最適値よりも幅広の記録幅を持つ磁気ヘッドを使うように設定する。記録ヘッドの記録幅は測定可能である。製造された記録ヘッドを用いて、磁気記録媒体に書き込み、再生ヘッドでこの磁気記録情報を半径方向に走査して読み出した信号の振幅から、記録幅を推定することができる。
【0037】
まず、隣接消去がどの程度かを判定し、データトラックとして使用しない上書き専用トラックへの許容オフセット量を決定しなければならない。ここでの上書き専用トラックとは、図3(a)にて説明したように、データは書き込まれず、両隣のトラックを記録する際に双方の記録過程で書き込まれるトラックである。また、オフセット量は、図4に示したように、記録トラック中心からのずれ量である。特に内周、外周でskewがついた際にのみ隣接消去が起こる場合も考えられる。その場合は、図3(b)に示したように、部分的にこの方法を使用することも可能である。オフセット量は、実施例1と同様の方法で決定することとする。
【0038】
本方式で記録する場合、円板一枚につき2/3の記録容量になるが、装置に組む際はトータル容量を考慮し、本方式を何面で使用するか決定する。例えば、2枚円板4面中で2面にこの方法を適用した場合のトータル容量は5/6、3面に使用した場合は3/4の容量に調整することが可能となる。この場合には、磁気記録媒体としてトラックピッチの狭いものを標準的に準備し、記録幅が広すぎる磁気ヘッドの場合に実施例1に記載の方法を用いて記録を行うことで媒体コストの低減が可能となる。
【0039】
本記録方式を適用する磁気ディスクの面情報、上書き専用トラック及びオフセット量の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録され、制御部38はその情報を用いて記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。
【実施例3】
【0040】
本実施例では、記録幅が広く、隣接トラック書き込みが生じるような場合に、記録ヘッドへの書き込み電流Iwの調整も組み合わせて使用する。書き込み電流Iwを変更することで、記録幅を調整することができる。本実施例の基本的な装置構成は、図1に示した実施例1のものと同様である。
【0041】
本実施例では、まず、各半径位置で通常通りの記録を行い、その際に隣接トラック消去が生じているかを隣接トラックのエラーレート測定から確認した。例えばskewがつくことで隣接トラック書き込みが生じるような場合は、書き込み電流Iwを小さくし、記録幅の調整も組み合わせて、各半径位置で隣接トラック書き込みを生じない最適書き込み電流Iwを求める。
【0042】
隣接書き込みが起きた場合、図4記載のトラックnに対してまず書き込み電流Iwを変更しながらオフトラック許容量を測定する。この操作において、規定のオフトラック許容量を満たすことができる最小のIw値を最適Iw値とする。最適値Iw値は各半径位置で測定し、各半径位置で最適Iw値を使用する。
【0043】
この時、Iwの調整だけでは十分な記録幅にならないことがあった。Iw調整を用いても隣接消去が発生する場合に、実施例1に記載の方法を用いて最適オフセット量を求めた。
【0044】
最適な書き込み電流の情報、上書き専用トラック及びオフセット量の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録され、制御部38はその情報を用いて書き込み電流を制御すると共に記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。この方式を使うことで、記録容量の減少を最小限に抑えると同時に、ドライブの歩留まり向上を達成することができる。
【実施例4】
【0045】
本実施例の基本的な装置構成は、図1に示した実施例1のものと同様の構成である。
媒体上の欠陥が問題となるような場合は、欠陥が多いトラックを上書き用のトラックとして利用することで実効的な記録容量を増やすことができる。欠陥については事前の調査でどの場所に存在しているか登録する。そのデータから3n−2,3n−1,3n(n=1,2,3…)番目のトラックのうちどのトラックに一番欠陥が多いか判定することが可能である。その中で欠陥が多いトラックを上書き専用トラックとして使用することで記録容量の増加が見込める。
【0046】
まず、各半径位置において、隣接消去をそれぞれ確かめる。3本のトラックを用いて隣接トラック消去を判定し、最適なオフセット量を決定する。図4に示すように、内周側よりトラックn−1、トラックn、トラックn+1と名づける。図5のフローチャートに示したように、まず、3本のトラックのうち中心トラックnに信号S2を記録し、次にトラックn−1,n+1の中心からあるオフセット量1で信号S1,S3を記録する。磁気ヘッドをオフセットさせながらトラックnのビットエラーレートを測定する。そのデータからオフトラック許容量を算出し、規定値を満たしているかどうかを判定する。ここで上書き専用トラックとして、前記の欠陥調査で欠陥が多く見つかったトラックをトラック3n−2,3n−1,3nから一つ選び使用する。最適オフセットの決定は、実施例1と同様の方法で行うこととする。
【0047】
上書き専用トラック及びオフセット量の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録され、制御部38はその情報を用いて記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。ある記録トラックに対し、加工精度の問題のために欠陥トラックが生成されてしまい、意図したプレ・パターンド媒体ができていない場合においても、本手法を用いることで媒体の歩留まりを向上することが可能となる。
【実施例5】
【0048】
本実施例では、図9に示すように、隣接トラック消去に対する耐性を高めるためにトラック2本のうち1本を使用する。本実施例の基本的な装置構成は、図1に示した実施例1のものと同様である。直近の隣接トラックは記録磁界によりエラーレートが劣化し、問題となる場合がある。この場合は2n番目のトラックに書き込みを行うこととし、トラックを一つ飛ばして記録することで信頼性の向上を図ることができる。2本の連続するトラックの組に対し、そのうちの1本をデータトラックとし、残りの1本を上書き専用トラックとする構成である。
【0049】
また、記録する順番を変更することでも隣接トラック消去の影響を低減することができる。例えば実施例1に記載の装置においては、連続するトラックに対してまず、3n−2(n=1,2…)番目のトラックに記録する。この場合データトラックは2本おきに存在するため、隣接消去の影響を大きく低減することができる。2本おきでは容量が不足してきた場合は3n(n=1,2…)番目のトラックに記録することとする。この順番で記録することで隣接書き込みによる影響を最小限に抑えることができる。オフセット量の決定方法は、実施例1と同様とする。
【0050】
いずれの場合にも、上書き専用トラック及びオフセット量の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録され、制御部38はその情報を用いて記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。
【0051】
上記ではディスクリート・トラック媒体について記述したが、本発明は、トラックのみでなく進行方向にもビット単位にて媒体記録層をパターニングする、ビット・パターン媒体に対して適用しても同様の効果が得られる。
【0052】
ここまでは記録ヘッドの製造公差について言及してきたが、円板加工精度のばらつきなどによる位置決め精度の問題についても同様の効果を得ることができる。
【実施例6】
【0053】
ランダム書き込みが必要とされないような場合は、ある本数のトラックに対して、図10(トラック5本の場合)に示すように中心トラックを上書き専用トラックとすることで記録密度をさらに向上させることが可能となる。5本のトラックを使用する場合、データロスは中心の1本のみなので記録容量は全トラックを使用した場合に比べ、4/5になる。書き換え頻度が少ないデータを書き換える場合は、トラック5本を全部書き換える。本実施例の基本的な装置構成は、図1に示した実施例1のものと同様である。
【0054】
本実施例においても、どの程度中心トラックに上書きするかを決定しなければならない。まず、隣接消去がどの程度かを判定し、データトラックとして使用しない上書き専用トラックへの許容オフセット量を決定する。ここでの上書き専用トラックとは、データは書き込まれず、両隣のトラックを記録する際に双方の記録過程で書き込まれるトラックである。また、オフセット量は、図4に示したように、記録トラック中心からのずれ量をあらわす。特に、内周、外周でskewがついた際にのみ隣接消去が起こる場合も考えられる。その場合は、図3(b)に示すように、部分的にこの方法を使用することも可能である。
【0055】
オフセット量は、実施例1と同様の方法で決定することとする。また、記録の順番は、まず、上書き専用トラックnの外側のトラックn−2,n+2に記録し、次にトラックn−1,n+1に記録することとする。上書き専用トラック及びオフセット量の情報はメモリもしくはトラック上の制御情報記録領域に記録され、制御部38はその情報を用いて記録トラックの選択及びオフセット量の制御を行う。
【0056】
この記録方法で一組とするトラック数は5本に限定されるものではない。上書き専用トラックとして使用するトラックは、ある特定の本数からなるトラックの組の中心トラックとしても良いし、任意のn番目のトラックとしても良い。書き換えが少ないデータはこの方法で記録し、書き換えが多いデータについては実施例1の方法を用いて記録した。特に書き換えが少ないデータについては、周速が遅くデータアクセス速度が低い内周側にこの方法を用いて記録するために移動し、書き換えの多いデータはデータアクセス速度が速い外周側に実施例1の記録方式で記録した。
【0057】
書き換え頻度のモニタリングは別途、トラックの組ごとに書き換え回数をモニタリングし、何回書き換えられたかを数え、閾値をこえれば外周側へ書き換えることとする。この場合、データ移動のためのバッファ領域を設定した。この方法は記録幅が極端に広い磁気ヘッドでも適用することができるという利点もある。すなわち大きな記録磁界の磁気ヘッドを利用することができ、S/Nの向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】磁気ディスク装置の模式図。
【図2】ディスクリート・トラック媒体の説明図。
【図3】本発明を適用した磁気記録媒体の全体図。
【図4】オフセット量の説明図。
【図5】オフセット量決定の手順を示すフローチャート。
【図6】オフセット量とオフトラック許容量の関係を示す図。
【図7】オフセット量決定の手順を示すフローチャート。
【図8】許容記録幅の説明図。
【図9】2本の連続するトラックのうち1本をデータトラックとし、残りの1本を上書き専用トラックとする例を示す図。
【図10】5本のトラックの中心トラックを上書き専用トラックとする例を示す図。
【符号の説明】
【0059】
31 磁気ディスク
32 磁気ヘッド
33 支持バネ機構
34 ヘッドアーム
35 ボイスコイルモータ
36 スピンドル
37 ハウジング
38 制御部
41 トラック
42 溝
43 ランド幅
44 溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接するトラックが予め磁気的に分離されている磁気ディスクと、
前記磁気ディスクを駆動するディスク駆動部と、
記録ヘッドと再生ヘッドを搭載した磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気ディスク上の所定のトラック上に位置決めするためのヘッド駆動部と、
制御部とを有し、
前記制御部は、前記磁気ディスクの少なくとも一部の半径領域において連続するn本のトラックからなる一組のトラック毎に1本ずつ設定される記録に使用しない上書き専用トラック及びオフセット量に関する情報を記憶しており、前記上書き専用トラックが設定された磁気ディスクの半径領域では、前記一組のトラックのうち前記上書きトラックを除くn−1本のトラックに対して、トラック中心から前記上書き専用トラック側に前記オフセット量だけオフセットさせて記録することを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ディスク装置において、連続する3本のトラックの中央のトラックを前記上書き専用トラックとし、その両隣のトラックに情報を記録することを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気ディスク装置において、連続する2本のトラックのうち1本を前記上書き専用トラックとすることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気ディスク装置において、別途他の手段で確認した欠陥の多いトラックを前記上書き専用トラックとすることを特徴とする磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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