説明

磁気パターン検出装置

【課題】列方向に配列した複数の磁気センサ素子をスキャンするとともに、磁気センサに対して媒体を相対移動させる方式を採用した場合でも、媒体の全面から確実に磁気パターンを検出することができる磁気パターン検出装置を提供すること。
【解決手段】磁気パターン検出装置100では、列方向に配列した複数の磁気センサ素子40をスキャンするとともに、磁気センサ素子40に対して媒体1を相対移動させる。かかる磁気パターン検出装置100において、媒体1の移動速度をv(mm/μsec)とし、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法をT(mm)とし、列方向における磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数をN回としたとき、
移動速度v、単位時間ta、寸法Tおよびスキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体が取り付けられた物体や磁気インクで印刷が施された紙幣等といった媒体の磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性体が取り付けられたカード等の物体や、磁気インクで印刷が施された紙幣等の媒体から磁気パターンを検出する磁気パターン検出装置では、媒体が通過した際の磁束変化を磁気センサ素子で検出し、磁気センサ素子から出力された信号に基づいて磁気パターンを検出する。ここで、磁気センサ素子は、図11(a)、(b)に示すように、媒体1の移動方向X(行方向)に対して直交する列方向Y(媒体幅方向)に、例えば、チャンネルCH1〜CH20用として20個配列されており、かかる20個の磁気センサ素子40を列方向にスキャンすることにより、媒体1の幅方向全体から磁気パターンを検出するようになっている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
すなわち、図11(a)、(b)に示す複数の磁気センサ素子40を1回スキャンすれば、チャンネルCH1〜CH20の20個の磁気センサ素子40の各々でデータが検出されるので、図11(d)に示すように、磁気センサ素子40がオン状態にあるタイミングに同期させてA/Dコンバータで磁気センサ素子40での検出データデジタル信号に変換すれば、媒体1の1列分の磁気パターンを検出することができる。ここで、磁気センサ素子40は、周波数が500kHzの励磁信号により励磁される。
【0004】
また、媒体1は行方向に移動する。このため、磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域を斜線領域として図11(c)に示すように、媒体1において今回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域(右上がりの斜線を付した領域)に対して移動方向Xとは反対側で隣り合う領域(右下がりの斜線を付した領域)に次回の磁気センサ素子40がオン状態で位置することになる。従って、媒体1全体から磁気パターンを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−241653号公報
【特許文献2】特開2007−241654号公報
【特許文献3】特開2009−163336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、列方向に配列した複数の磁気センサ素子40をスキャンするとともに、媒体1を移動させる方式の磁気パターン検出装置では、媒体1の移動速度、媒体1の移動方向Xにおける磁気センサ素子40の寸法、スキャン速度によっては、図11(c)に示すように、今回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域(右上がりの斜線を付した領域)と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域(右下がりの斜線を付した領域)との間に隙間Gが発生する。例えば、媒体1の移動速度が0.0016mm/μsec、列方向における磁気センサ素子のスキャン時間が200μsecである場合、1回のスキャンが完了するうちに媒体1が0.32mm移動するが、かかる場合に磁気センサ素子1の移動方向における寸法が0.3mmであると、今回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域との間には、0.02mmの隙間Gが発生してしまう。このため、媒体1において隙間Gに相当する領域は、磁気センサ素子40による磁気特性の検出が行なえず、媒体1の全面から磁気パターンを精度よく検出することが困難である。
【0007】
一方、磁気センサ素子40は、通常、媒体1に対する磁気センサ素子40の等倍投影面積以上のセンシング範囲を備えているので、かかるセンシング範囲で隙間Gをカバーできれば、媒体1の全面から磁気パターンを検出することができるが、このような場合でも、媒体1の移動速度、媒体1の移動方向Xにおける磁気センサ素子40のセンシング範囲の寸法、スキャン速度によっては、今回のスキャンの際のセンシング範囲と、次回のスキャンの際のセンシング範囲との間に隙間Gが発生することを避けることは困難である。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、列方向に配列した複数の磁気センサ素子をスキャンするとともに、磁気センサに対して媒体を相対移動させる方式を採用した場合でも、媒体の全面から確実に磁気パターンを検出することができる磁気パターン検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、媒体から磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子に対して前記媒体を相対的に移動させる搬送機構と、を有する磁気パターン検出装置であって、前記磁気センサ素子は、前記媒体の移動方向に対して直交する列方向に複数配列され、前記搬送機構による前記媒体の移動速度をv(mm/μsec)とし、前記磁気センサ素子の前記移動方向における寸法をT(mm)とし、前記列方向における前記磁気センサ素子の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数をN回としたとき、前記移動速度v、前記単位時間ta、前記寸法Tおよび前記スキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、媒体の移動速度v、磁気センサ素子の移動方向における寸法T、列方向における磁気センサ素子の単位時間ta当たりのスキャン回数Nが上記の条件式を満たすように設定されているため、今回のスキャンの際に磁気センサ素子がオン状態で位置していた領域と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子がオン状態で位置していた領域との間に隙間が発生しない。従って、列方向に配列した複数の磁気センサ素子をスキャンするとともに、磁気センサに対して媒体を相対移動させる方式を採用した場合でも、媒体の全面から確実に磁気パターンを検出することができる。
【0011】
本発明において、前記単位時間taは、前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間であり、当該1走査期間中に行なったスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用することができる。すなわち、1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間中に複数のスキャンを行なう。このため、複数回のスキャンにより得られたデータに基づいて1列分の磁気パターンを検出する構成を採用でき、かかる構成によれば、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0012】
本発明において、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、1回のスキャンあるいは複数回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用することができる。このように構成すると、媒体の種類や磁気パターン検出装置に求められる検出精度等に応じて最適な動作を実現することができる。
【0013】
本発明において、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、複数回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることが好ましい。このように構成すると、媒体の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0014】
本発明において、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた全データに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用することができる。このように構成すると、媒体に対して磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで部分的に重なっているので、媒体の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0015】
本発明では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの一部のスキャンにより磁気センサ素子で得られたデータに基づいて媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用してもよい。
【0016】
例えば、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータ、あるいは前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で重ならずに接する2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用してもよい。
【0017】
この場合、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることが好ましい。このように構成すると、媒体に対して磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで部分的に重なっているので、媒体の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0018】
また、前記磁気センサ素子の前記移動方向におけるセンシング範囲が前記磁気センサ素子の前記移動方向における寸法Tより大である場合、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータ、あるいは前記センシング範囲今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で重ならずに接する2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出される構成を採用してもよい。
【0019】
この場合、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることが好ましい。このように構成すると、このように構成すると、センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで部分的に重なっているので、媒体の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0020】
本発明において、前記1走査期間中に前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するにあたっては、当該複数のデータに平均化処理が行なわれることが好ましい。このように構成すると、複数のデータから媒体の1列分の磁気パターンを検出する場合でも簡素な処理で済む。また、複数のデータを平均化処理すれば、磁気センサ素子で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0021】
本発明において、前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、いずれのスキャンの際の前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するかは、可変であることが好ましい。このように構成すると、媒体の種類や磁気パターン検出装置に求められる検出精度等に応じて最適な動作を実現することができる。
【0022】
本発明において、前記磁気センサ素子は、励磁信号により励磁されて信号を出力する場合、当該励磁信号は、1回のスキャン中に前記複数の磁気センサ素子の各々が出力する信号に複数周期分の前記励磁信号による信号成分が含まれる周波数を有していることが好ましい。このように構成すると、1回のスキャン中に複数の磁気センサ素子の各々が出力する信号1つ1つに複数周期分の励磁信号による信号成分が含まれるので、媒体の磁気特性を高い精度で検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、媒体の移動速度v、磁気センサ素子の移動方向における寸法T、列方向における磁気センサ素子の単位時間ta当たりのスキャン回数Nが以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たすように設定されているため、今回のスキャンの際に磁気センサ素子がオン状態で位置していた領域と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子がオン状態で位置していた領域との間に隙間が発生しない。従って、列方向に配列した複数の磁気センサ素子をスキャンするとともに、磁気センサに対して媒体を相対移動させる方式を採用した場合でも、媒体の全面から確実に磁気パターンを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置の構成を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置に用いた磁気センサ装置の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置に用いた磁気センサ素子の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置の電気的構成を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置のスキャン動作等を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置における回路部の動作条件を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置において媒体に形成される各種磁気インクの特性等を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置において種類の異なる磁気パターンが形成された媒体から磁気パターンの有無を検出する原理を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態2に係る磁気パターン検出装置でのスキャン毎の磁気センサ素子の位置を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態3に係る磁気パターン検出装置でのスキャン毎の磁気センサ素子およびそのセンシング範囲の位置を示す説明図である。
【図11】従来の磁気パターン検出装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
[実施の形態1]
(全体構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置の構成を示す説明図であり、図1(a)、(b)は、磁気パターン検出装置の要部構成を模式的に示す説明図、および断面構成を模式的に示す説明図である。
【0027】
図1に示す磁気パターン検出装置100は、銀行券、有価証券等の媒体1から磁気を検知して真偽判別や種類の判別を行なう装置であり、ローラやガイド(図示せず)等によってシート状の媒体1を媒体移動路11に沿って移動させる搬送装置10と、この搬送装置10による媒体移動路11の途中位置で媒体1から磁気を検出する磁気センサ装置20とを有している。本形態において、ローラやガイドは、アルミニウム等といった非磁性材料から構成されている。本形態において、磁気センサ装置20は、媒体移動路11の下方に配置されているが、媒体移動路11の上方に配置されることもある。いずれの場合も、磁気センサ装置20は、センサ面21を媒体移動路11に向けるように配置される。
【0028】
本形態において、媒体1には、磁気インクによって磁性領域1aに付されており、かかる磁気パターンは、残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気インクによる形成されている。例えば、媒体1には、ハード材を含む磁気インキにより印刷された第1の磁気パターンと、ソフト材を含む磁気インキにより印刷された第2の磁気パターンとが形成されている。そこで、本形態の磁気パターン検出装置100は、媒体1における磁気パターン毎の有無を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出する。また、本形態において、かかる2種類の磁気パターンの検出を行なうための磁気センサ装置20は共通である。従って、本形態の磁気パターン検出装置100は、以下の構成を有している。
【0029】
(磁気センサ装置20の構成)
図2は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100に用いた磁気センサ装置20の説明図であり、図2(a)、(b)は、磁気センサ装置20における磁気センサ素子や磁界印加用磁石の等のレイアウトを示す説明図、および磁気センサ素子の向きを示す説明図である。
【0030】
図1および図2(a)に示すように、本形態の磁気パターン検出装置100において、磁気センサ装置20は、媒体1に磁界を印加する磁界印加用磁石30と、磁界を印加した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出する磁気センサ素子40と、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40を覆う非磁性のケース25とを備えている。磁気センサ装置20は、媒体移動路11と略同一平面を構成するセンサ面21と、センサ面21に対して媒体1の移動方向の両側に連接する斜面部22、23とを備えており、かかる形状は、ケース25の形状によって規定されている。
【0031】
磁気センサ装置20は、媒体1の移動方向X(行方向と交差する方向に延在しており、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40は、媒体1の移動方向Xと交差する方向に複数、配列されている。本形態において、磁気センサ装置20は、媒体1の移動方向Xと交差する方向のうち、移動方向Xと直交する列方向Y(媒体幅方向)に延在しており、磁界印加用磁石30および磁気センサ素子40は、移動方向Xと直交する列方向Yに複数、一列に等間隔で配列されている。従って、列方向Yに配列された複数の磁気センサ素子40をスキャンして順次、オン状態にすれば、媒体1の列方向Yの磁気パターンを検出することができる。また、かかるスキャンに並行して媒体1を移動方向Xに移動させれば、媒体1全体の磁気パターンを検出することができる。なお、ここでいう「オン状態」とは、磁気センサ素子40に後述する励磁信号が印加されるとともに、磁気センサ素子40から出力された信号に信号処理が行なわれるアクティブ状態を意味する。
【0032】
本形態において、磁界印加用磁石30は、磁気センサ素子40に対して媒体1の移動方向の両側に磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32として配置されており、矢印X1で示す媒体1の移動方向に沿って、磁界印加用第1磁石31、磁気センサ素子40および磁界印加用第2磁石32がこの順に配置されている。また、矢印X2で示す媒体1の移動方向に沿って、磁界印加用第2磁石32、磁気センサ素子40および磁界印加用第1磁石31がこの順に配置されており、媒体1が矢印X1で示す方向および矢印X2で示す方向のいずれの方向に移動した場合でも、媒体1の磁気特性を検出することができる。ここで、磁気センサ素子40は、磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32との中間位置に配置されており、磁界印加用第1磁石31との磁気センサ素子40との離間距離と、磁界印加用第2磁石32と磁気センサ素子40との離間距離が等しい。なお、磁界印加用第1磁石31、磁気センサ素子40および磁界印加用第2磁石32はいずれも、磁気センサ装置20のセンサ面21に対向するように配置されている。
【0033】
本形態において、磁界印加用磁石30(磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32)は、フェライトやネオジウム磁石等の永久磁石35を備えている。磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32のいずれにおいても、永久磁石35は、センサ面21に位置する側と、センサ面21が位置する側とは反対側とが異なる極に着磁されている。このため、永久磁石35において、センサ面21の側に位置する面が媒体1に対する着磁面350として機能する。すなわち、本形態の磁気パターン検出装置100においては、後述するように、矢印X1で示すように移動する媒体1が磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第1磁石31から媒体1に磁界が印加され、かかる磁界によって着磁された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過する。また、矢印X2で示すように移動する媒体1が磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第2磁石32から媒体1に磁界が印加され、かかる磁界によって着磁された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過することになる。
【0034】
磁界印加用磁石30に用いた複数の永久磁石35はいずれも、サイズや形状は同一であるが、各々は、以下の向きに配置されている。まず、磁界印加用第1磁石31および磁界印加用第2磁石32のいずれにおいても、媒体1の移動方向Xと直交する列方向Yで隣り合う永久磁石35同士は、互いに反対の向きに着磁されている。すなわち、媒体1の移動方向Xと直交する列方向Yに配列された複数の永久磁石35のうち、1つの永久磁石35は、媒体移動路11側に位置する端部がN極に着磁され、媒体移動路11側とは反対側に位置する端部はS極に着磁されているが、この永久磁石35に対して媒体1の移動方向Xと直交する列方向Yで隣り合う永久磁石35は、媒体移動路11側に位置する端部がS極に着磁され、媒体移動路11側とは反対側に位置する端部はN極に着磁されている。なお、本形態では、媒体1の移動方向で対向する磁界印加用第1磁石31の永久磁石35と磁界印加用第2磁石32の永久磁石35とは、磁気センサ素子40を挟んで異なる極が対向している。但し、媒体1の移動方向で対向する磁界印加用第1磁石31の永久磁石35と磁界印加用第2磁石32の永久磁石35とは、磁気センサ素子40を挟んで同じ極が対向するように配置されることもある。
【0035】
(磁気センサ素子40の構成)
図3は、本発明の実施の形態1に係る磁気センサ装置20に用いた磁気センサ素子40の説明図であり、図3(a)、(b)、(c)は、磁気センサ素子40の正面図、この磁気センサ素子40に対する励磁波形の説明図、および磁気センサ素子40からの出力信号の説明図である。なお、図3(a)では、図面に対して垂直な方向で媒体1が移動する状態を示してある。
【0036】
図1(b)に示すように、磁気センサ素子40はいずれも、薄板状であり、幅方向W40のサイズは厚さ方向T40の寸法に比して大である。かかる磁気センサ素子40は、媒体1の移動方向Xに厚さ方向T40を向けて配置されており、媒体1の移動方向Xと直交する列方向Yには幅方向W40が向いている。
【0037】
磁気センサ素子40は、両面がセラミック等からなる薄板状の非磁性部材47により覆われており、非磁性部材47も含めた磁気センサ素子40の厚さ方向全体が磁気センサ素子40の厚さ寸法(後述する寸法T)である。かかる磁気センサ素子40は、磁気シールドケース(図示せず)に収納されていることもある。この場合、磁気シールドケースは、媒体移動路が位置する上方が開口しており、磁気センサ素子40は、媒体移動路11に向けて磁気シールドケースから露出した状態にある。
【0038】
図1(b)、図2(a)、(b)、および図3(a)に示すように、磁気センサ素子40は、センサコア41と、センサコア41に巻回された励磁コイル48と、センサコア41に巻回された検出コイル49とを備えている。本形態において、センサコア41は、磁気センサ素子40の幅方向W40に延在する胴部42と、胴部42から媒体1の媒体移動路11の側に向けて突出する集磁用突部43とを備えている。ここで、集磁用突部43は、胴部42の幅方向W40の両端部から媒体1の媒体移動路11の側に向けて突出した2つの集磁用突部431、432として構成されており、2つの集磁用突部431、432は、幅方向W40で離間している。また、センサコア41は、胴部42から集磁用突部43とは反対側に突出した突部44を備えており、本形態において、突部44は、胴部42の幅方向W40の両端部から媒体1の媒体移動路11の側とは反対側に向けて突出した2つの突部441、442として構成されている。
【0039】
このように構成したセンサコア41に対して、励磁コイル48は、胴部42において集磁用突部431、432で挟まれた部分に巻回されている。また、検出コイル49は、集磁用突部43に巻回されており、本形態において、検出コイル49は、センサコア41の2つの集磁用突部43(集磁用突部431、432)のうち、集磁用突部431に巻回された検出コイル491と、集磁用突部432に巻回された検出コイル492とからなる。ここで、2つの検出コイル491、492は、集磁用突部431、432に対して互いに逆方向に巻回されている。また、2つの検出コイル491、492は、1本のコイル線を集磁用突部431、432に対して連続して巻回してなるため、2つの検出コイル491、492は、直列に電気的に接続されている。なお、2つの検出コイル491、492を各々集磁用突部431、432に巻回した後、直列に電気的に接続してもよい。
【0040】
このように構成した磁気センサ素子40は、幅方向W40および集磁用突部43の突出方向(高さ方向V40)の双方に対して直交する厚さ方向T40が媒体1の移動方向Xに向くように配置されており、磁気センサ素子40において集磁用突部43(集磁用突部431、432)および検出コイル49(検出コイル491、492)が離間する幅方向W40は、媒体1の移動方向Xに対して直交する列方向Yに向いている。
【0041】
磁気センサ素子40において、励磁コイル48には、図4を参照して後述する励磁回路50から交番電流(図3(b)参照)からなる励磁信号が印加される。このため、図3(a)に示すように、センサコア41の周りには、バイアス磁界が形成されるとともに、検出コイル49からは、図3(c)に示す検出波形の信号が出力されることになる。ここで、図3(c)に示す検出波形は、励磁信号により発生する磁束の時間的な微分信号であり、励磁信号の時間的な微分信号に近いものとなる。
【0042】
本形態において、磁気センサ素子40のセンサコア41は、図1(b)に示すように、非磁性の第1基板41aと非磁性の第2基板41bとの間に磁性材料層41cが挟まれた構造になっている。本形態において、磁性材料層41cは、第1基板41aの一方面に接着層(図示せず)によって接着されたアモルファス(非晶質)金属の磁性材料からなる薄板状のアモルファス金属箔からなり、かかる第1基板41aの一方面には、磁性材料層41cを間に挟むように第2基板41bが接着層によって接合されている。かかる接着層はいずれも、ガラスクロス、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維補強材に樹脂材料を含浸してなるプリプレグを固化させてなる層であり、樹脂材料としては、エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系、ポリエステル樹脂系等の熱硬化性樹脂が用いられる。磁性材料層41cとして用いたアモルファス金属箔は、ロールによる圧延によって形成されたものであり、コバルト系としては、Co−Fe−Ni−Mo−B−Si、Co−Fe−Ni−B−Si等のアモルファス合金、鉄系としては、Fe−B−Si、Fe−B−Si−C、Fe−B−Si−Cr、Fe−Co−B−Si、Fe−Ni−Mo−B等のアモルファス合金を例示することができる。第1基板41aおよび第2基板41bとしては、アルミナ基板等のセラミック基板や、ガラス基板等を例示でき、十分な剛性を得られるのであれば、プラスチック基板を用いてもよい。
【0043】
(信号処理部60の構成)
図4は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100の電気的構成を示す説明図であり、図4(a)、(b)は、回路部の要部全体の構成を示す説明図、および複数の磁気センサ素子がスキャンされて順次オン状態となる様子を示す説明図である。
【0044】
本形態において、図4(a)に示す回路部5は、概ね、図3(b)に示す交番電流を励磁コイル48に励磁信号として印加する励磁回路50と、磁気センサ素子40の検出コイル49(図2(b)および図3(a)参照)に電気的に接続された信号処理部60とを備えている。励磁回路50は、図2に示す複数の磁気センサ素子40の各々に対応する複数の励磁用ドライバアンプ51と、複数の励磁用ドライバアンプ51に対して励磁信号を順次供給するためのマルチプレクサ52と、励磁指令信号から励磁信号を生成するアンプ53とを備えており、複数の磁気センサ素子40の励磁コイル48(図2(b)および図3(a)参照)には、励磁用ドライバアンプ51で増幅された後の励磁信号が順次供給される。なお、マルチプレクサ52の後段に複数の磁気センサ素子40に対して共通の励磁用ドライバアンプ51が配置されることもある。
【0045】
信号処理部60は、磁気センサ装置20の検出コイル49から出力されるセンサ出力信号から、残留磁束密度レベルに対応する第1信号S1、および透磁率レベルに対応する第2信号S2を生成し、上位の制御部(図示せず)に出力する。
【0046】
より具体的には、信号処理部60は、磁気センサ素子40から出力されたセンサ出力信号を増幅するアンプ71を備えた増幅部70と、増幅部70から出力された信号からピーク値およびボトム値を抽出する抽出部80と、A/Dコンバータ91を備えたデジタル信号処理部90とを有している。抽出部80は、増幅部70から出力された増幅信号を順次、後段に出力するマルチプレクサ81と、クランプ回路82と、クランプ回路82から出力された信号のオフセット調整を行なうオフセット調整回路83とを備えている。クランプ回路82は、増幅部70から出力された増幅後のセンサ出力信号を整流する第1ダイオード821と、増幅部70から出力された増幅後のセンサ出力信号の極性反転を行なう極性反転回路822と、極性反転回路822において極性反転された信号を整流する第2ダイオード823とを備えている。従って、オフセット調整回路83は、第1ダイオード821からの出力に対する第1オフセット調整回路831と、第2ダイオード823からの出力に対する第2オフセット調整回路832とを備えており、第1オフセット調整回路831および第2オフセット調整回路832は、オフセット調整用基準電圧生成回路831a、832aと、オペアンプ831b、832bとを備えている。なお、マルチプレクサ81の後段に複数の磁気センサ素子40に対して共通のアンプ71が配置されることもある。
【0047】
また、抽出部80は、オフセット調整回路83の後段にホールド回路84を備えており、ホールド回路84の後段にゲイン設定部85を備えている。ホールド回路84は、第1オフセット調整回路831からの出力信号のピーク値をホードする第1ピークホールド回路841と、第2オフセット調整回路832からの出力信号のピーク値をホールドする第2ピークホールド回路842とを備えている。ここで、第2オフセット調整回路832には、増幅部70から出力された信号を極性反転回路822で極性反転した後、第2ダイオード823で整流した後の信号が入力されている。このため、第2ピークホールド回路842は、増幅部70から出力された増幅信号のボトム値をホールドするボトムホールド回路に相当する。
【0048】
ゲイン設定部85は、第1ピークホールド回路841でホールドされた値のゲインを設定するゲイン設定用第1アンプ851と、第2ピークホールド回路842(ボトムホールド回路)でホールドされた値のゲインを設定するゲイン設定用第2アンプ852とを備えており、第1ピークホールド回路841および第2ピークホールド回路842でホールドされた値を所定のゲインに設定してデジタル信号処理部90のA/Dコンバータ91に出力する。
【0049】
デジタル信号処理部90は、A/Dコンバータ91と、第1ピークホールド回路841でホールドされた値と、第2ピークホールド回路842でホールドされた値とを加算して第1信号S1を生成する加算回路92と、第1ピークホールド回路841でホールドされた値と、第2ピークホールド回路842でホールドされた値とを減算して第2信号S2を生成する減算回路93とを備えている。
【0050】
ここで、磁気センサ素子40は、後述するように、媒体1上の1つの領域の磁気特性を確定するのに複数の信号(本形態では4つの信号)を1走査期間中に出力する。従って、デジタル信号処理部90は、A/Dコンバータ91の後段に平均化処理部96を備えている。このため、加算回路92は、第1ピークホールド回路841および第2ピークホールド回路842でホールドされた4つの値をA/Dコンバータ91でデジタル信号した後、4つの値を平均化処理部96で平均化処理した値を用いて加算処理を行なう。また、減算回路93は、第1ピークホールド回路841および第2ピークホールド回路842でホールドされた4つの値をA/Dコンバータ91でデジタル信号した後、4つの値を平均化処理部96で平均化処理した値を用いて減算処理を行なう。
【0051】
また、デジタル信号処理部90は、切替制御信号、励磁指令信号、オフセット制御信号等を出力する制御信号出力部94を備えており、切替制御信号は、マルチプレクサ52、81を制御するとともに、図2(a)、(b)および図3(a)に示すように列方向Yに複数配列された磁気センサ素子40のスキャン動作や、他の回路が動作するタイミングを制御する。
【0052】
このように構成したデジタル信号処理部90からは、上位の制御部(図示せず)に対して第1信号S1および第2信号S2が出力され、上記の制御部では、第1信号S1および第2信号S2に基づいて媒体1の真偽を判定する。より具体的には、上位の制御部には、第1信号S1および第2信号S2を磁気センサ素子40と媒体1との相対位置情報に関係づけて、記録部に予め記録されている比較パターンとの照合を行って媒体1の真偽を判定する判定部を備えており、かかる判定部は、ROMあるいはRAM等といった記録部(図示せず)に予め記録されているプログラムに基づいて所定の処理を行い、媒体1の真偽を判定する。
【0053】
(磁気センサ素子40のスキャン動作)
図5は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100のスキャン動作等を示す説明図であり、図5(a)、(b)、(c)、(d)は、列方向Yに磁気センサ素子40が配列されている様子を平面に示す説明図、磁気センサ素子のレイアウトを拡大して示す説明図、1走査期間中にオン状態の磁気センサ素子がスキャン毎に位置する箇所が媒体1上で移動する様子を示す説明図、および1走査期間中にオン状態の磁気センサ素子がスキャン毎に位置する箇所が媒体1上で移動する様子をさらに拡大して示す説明図である。図6は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100における回路部の動作条件を示す説明図であり、図6(a)、(b)は検出信号の周波数とサンプルホールド動作との関係を示す説明図、およびA/Dコンバータ91と図4(a)に示す平均化処理部96との周波数特性を示す説明図である。
【0054】
図5(a)、(b)に示すように、本形態の磁気パターン検出装置100において、磁気センサ素子40は、媒体1の移動方向Xに対して直交する列方向Y(媒体幅方向)にチャンネルCH1〜CH20用として20個配列されており、かかる20個の磁気センサ素子40を列方向にスキャンすることにより、媒体1の幅方向全体から磁気パターンを検出する。すなわち、複数の磁気センサ素子40を列方向でスキャンすれば、チャンネルCH1〜CH20の20個の磁気センサ素子40の各々でデータが検出される。また、媒体1は、行方向(移動方向X)に移動する。このため、媒体1全体から磁気パターンを検出することができる。
【0055】
このように構成した磁気パターン検出装置100において、本形態では、搬送機構10による媒体1の移動速度をv(mm/μsec)とし、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法をT(mm)とし、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数をN回としたとき、移動速度v、単位時間ta、寸法Tおよびスキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしている。ここで、単位時間taは、媒体1の1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間である。従って、本形態では、1走査期間中に、列方向Yでの磁気センサ素子40のスキャンをN回行ない、かかるN回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた全データに基づいて、1列分の磁気パターンを検出する。
【0056】
より具体的には、本形態の磁気パターン検出装置100において、移動速度v、単位時間ta、寸法Tおよびスキャン回数N等は、例えば、以下の条件
媒体の移動速度v=0.0016mm/μsec
単位時間ta(1走査期間)=200μsec(5kHz)
媒体1の移動方向Xにおける磁気センサ素子40の寸法T(厚さ寸法)=0.3mm
単位時間ta(1走査期間)におけるスキャン回数N=4
に設定されている。従って、1走査期間中の媒体1の移動距離等は、以下の条件
1走査期間中の媒体1の移動距離=0.32mm
1回のスキャン中の媒体1の移動距離=0.08mm
1スキャン当たりの時間=50μsec(20kHz)
1回のスキャンでの磁気センサ素子40のオン時間=2.5μsec
となる。このような条件であれば、以下の設定値
(v×ta)=0.32mm
(T×N)=1.2mm
になるので、以下条件
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を十分満たしている。
【0057】
従って、上記の条件で磁気センサ素子40を列方向にスキャンすると、1回のスキャンが完了するうちに媒体1が0.08mm移動するが、磁気センサ素子1の移動方向における寸法は0.3mmである。このため、媒体1に対して磁気センサ素子40を等倍投影した領域は、今回のスキャンと次回のスキャンとで移動方向Xで部分的に重なる。
【0058】
より具体的には、図5(c)、(d)に示すようになる。図5(c)、(d)には、n回目の走査期間において第1回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域(媒体1に対してオン状態のチャンネルCH1用の磁気センサ素子40を等倍投影した領域)を実線SCH(n,1)で示してある。また、今回の走査期間(n回目)において第2回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域を一点鎖線SCH(n,2)で示してある。また、今回の走査期間(n回目)において第3回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域を点線SCH(n,3)で示してある。今回の走査期間(n回目)において第4回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域を二点鎖線SCH(n,4)で示してある。なお、各スキャンの際に、磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域は、列方向Yで同一の位置を移動するが、図5(c)、(d)には、各領域の位置がわかりやすいように、列方向Yでわずかにずらしてある。また、図5(c)、(d)には、n+1回目の走査期間の際に磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域として、n+1回目の走査期間の際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40が1回目のスキャン時に位置する領域のみを示してある。
【0059】
本形態では、上記の条件式を満たしていることから、1回の走査期間において、第1回目のスキャンの際に磁気センサ素子40が位置する領域と、第2回目のスキャンの際に磁気センサ素子40が位置する領域とが移動方向Xで部分的に重なっている。第2回目のスキャン時と第3回目のスキャン時との間や、第3回目のスキャン時と第4回目のスキャン時との間でも同様であり、今回のスキャンの際に磁気センサ素子40が位置する領域と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子40が位置する領域とが移動方向Xで部分的に重なる。従って、今回のスキャンと次回のスキャンとでは、今回のスキャン時に磁気センサ素子40がオンとなった位置を媒体1に等倍投影した領域と、次回のスキャン時に磁気センサ素子40がオンとなった位置を媒体1に等倍投影した領域との間には隙間が発生しない。なお、他のチャンネル用の磁気センサ素子40についても同様である。
【0060】
また、今回の走査期間(n回目)において第1回目〜第4回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域を合算した領域SCH1(n)は、実線SCH(n,1)で示す領域、一点鎖線SCH(n,2)で示す領域、点線SCH(n,3)で示す領域、二点鎖線SCH(n,2)で示す領域を合算した領域であり、領域SCH1(n)は、次の走査期間(n+1回目の走査期間)において第1回目のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域(実線CH1(n+1,1)で示す領域)と移動方向で部分的に重なっている。従って、今回の走査期間において最後にスキャンした際に磁気センサ素子40がオンとなった位置を媒体1に等倍投影した領域と、次回の走査期間において最初にスキャンした際に磁気センサ素子40がオンとなった位置を媒体1に等倍投影した領域との間には隙間が発生しない。なお、他のチャンネル用の磁気センサ素子40についても同様である。
【0061】
このようなスキャン動作は、図4(b)に示すように表され、1回の走査期間中において、各チャンネルCH1〜CH20の磁気センサ素子40が順次オンになるスキャンが計4回実行され、かかる動作に連動して、図4(a)に示すA/Dコンバータ91は、各磁気センサ素子40がオンになるタイミングに合わせて、50μsecのサンプリング周期(サンプリング周波数=20kHz)で磁気センサ素子40が出力した信号を各CH毎にデジタル信号に変換する。
【0062】
ここで、本形態では、各CH毎の磁気センサ素子40のオン時間を2.5μsecまで短縮した分、図3(b)に示す励磁信号については、周波数を2MHzに設定してある。このため、磁気センサ素子40は、図6(a)に示すように、1回のオン時間(2.5μsec)中に、図3(c)に示す信号成分(センサ出力信号)が複数(本形態では3つ)、図4(a)に示す抽出部80に出力される。すなわち、励磁信号は、1回のスキャン中に複数の磁気センサ素子40の各々が出力する信号に複数周期分の励磁信号による信号成分が含まれる周波数を有しており、それ故、1回のスキャン中に複数の磁気センサ素子40の各々が出力する検出信号の1つ1つに複数の信号成分が含まれている。従って、磁気センサ素子40のオン時間が短くても、図4(a)に示すホールド回路84において、第1ピークホールド回路841および第2ピークホールド回路842は、3回のホールドを行なうことができるので、ピークホールドを確実に行なうことができる。
【0063】
また、本形態では、図4(a)に示すA/Dコンバータ91に入力される信号のうち、必要な帯域は、比較的低周波帯域であることから、図6(b)に実線で示すように、A/Dコンバータ91のサンプリング周波数は、各CH毎に20kHzに設定されており、比較的低周波数に設定されている。このため、磁気センサ素子40が出力した信号をデジタル信号に適正に変換することができる。すなわち、図11を参照して説明した構成のままで、図6(b)に点線で参考例として示すように、A/Dコンバータ91のサンプリング周波数を1MHzに設定して、1回のオン時間中(図6(a)ホールド後の信号の平坦部)に4回サンプリングして平均処理しても、信号帯域(5kHz)より高い周波数成分のノイズ低減の効果は小さいという問題がある。しかるに本形態では、A/Dコンバータ91のサンプリング周波数が20kHzに設定されているため、同じ4回平均処理であっても、5kHzより高い周波数成分のノイズを低減することができる。
【0064】
(検出原理)
図7は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100において媒体1に形成される各種磁気インクの特性等を示す説明図である。図8は、本発明の実施の形態1に係る磁気パターン検出装置100において種類の異なる磁気パターンが形成された媒体1から磁気パターンの有無を検出する原理を示す説明図である。
【0065】
まず、図1および図2に示す矢印X1の方向に媒体1が移動する際に媒体1の真偽を判定する原理を説明する。本形態において、媒体1の磁性領域1aには、残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターンが形成されている。より具体的には、媒体1には、ハード材を含む磁気インキにより印刷された第1の磁気パターンと、ソフト材を含む磁気インキにより印刷された第2の磁気パターンとが形成されている。ここで、ハード材を含む磁気インキは、図7(b1)にヒステリシスループによって、残留磁束密度Brや透磁率μ等を示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは高いが、透磁率μは低い。これに対して、ソフト材を含む磁気インキは、図7(c1)にそのヒステリシスループを示すように、磁界を印加したときの残留磁束密度Brのレベルは低いが、透磁率μは高い。
【0066】
従って、以下に説明するように、残留磁束密度Brと透磁率μとを測定すれば、磁気インキの材質の判別を行なうことができる。より具体的には、透磁率μは保持力Hcと相関性を有しているので、本形態では、残留磁束密度Brと保持力Hcとを測定していることになり、かかる残留磁束密度Brと保持力Hcとの比は、磁気インキ(磁性材料)によって相違する。それ故、磁気インキの材質の判別を行なうことができる。また、残留磁束密度Brおよび透磁率μ(保持力Hc)の測定値は、インキの濃淡や、媒体1と磁気センサ装置20との距離により変動するが、本形態では、磁気センサ装置20が同一位置で残留磁束密度Brおよび透磁率μ(保持力Hc)を測定するため、残留磁束密度Brと保持力Hcとの比によれば、磁気インキの材質を確実に判別することができる。
【0067】
本形態の磁気パターン検出装置100において、媒体1が矢印X1で示す方向に移動して磁気センサ装置20を通過する際、まず、磁界印加用第1磁石31から媒体1に磁界が印加され、磁界が印加された後の媒体1が磁気センサ素子40を通過する。それまでの間、磁気センサ素子40の検出コイル49からは、図7(a3)に示すように、図7(a2)に示すセンサコア41のB−Hカーブに対応する信号が出力される。従って、図4に示す加算回路92から出力される第1信号S1、および減算回路93から出力される第2信号S2は各々、図7(a4)に示す通りである。
【0068】
ここで、フェライト粉等のハード材を含む磁気インキにより第1の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第1の磁気パターンは、図7(b1)に示すように、高レベルの残留磁束密度Brを有する。このため、図8(a1)に示すように、磁界印加用磁石30を媒体1が通過した際、第1の磁気パターンは、磁界印加用磁石30からの磁界により、磁石となる。このため、磁気センサ素子40の検出コイル49から出力される信号は、図7(b2)に示すように、第1の磁気パターンから直流的なバイアスを受けて、図7(b3)および図8(a2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧が矢印A1、A2で示すように、同一の方向にシフトするとともに、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量が相違する。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図4に示す加算回路92から出力される第1信号S1は、図7(b4)に示す通りであり、磁気センサ素子40を媒体1の第1の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ハード材を含む磁気インクにより形成された第1の磁気パターンは、透磁率μが低いため、信号S0のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第1の磁気パターンの残留磁束密度Brだけと見做すことができる。それ故、図4に示す減算回路93から出力される第2信号S2は、磁気センサ素子40を媒体1の第1の磁気パターンが通過しても変動せず、図7(b4)に示す信号と同様である。
【0069】
これに対して、軟磁性ステンレス紛等のソフト材を含む磁気インキにより第2の磁気パターンが媒体1に形成されていると、かかる第2の磁気パターンのヒステリシスループは、図7(c1)に示すように、図7(b1)に示すハード材を含む磁気インクによる第1の磁気パターンのヒステリシスカーブの内側を通り、残留磁束密度Brのレベルが低い。このため、磁界印加用磁石30を媒体1が通過した後も、第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brのレベルが低い。但し、第2の磁気パターンは透磁率μが高いため、図7(b1)に示すように、磁性体として機能する。このため、磁気センサ素子40の検出コイル49から出力される信号は、図8(c2)に示すように、第2の磁気パターンの存在によって透磁率μが高くなっている分、図7(c3)および図8(b2)に示す波形に変化する。すなわち、信号S0のピーク電圧は矢印A3で示すように高い方にシフトする一方、ボトム電圧は、矢印A4で示すように低い方にシフトする。その際、ピーク電圧のシフト量とボトム電圧のシフト量は絶対値が略等しい。しかも、かかる信号S0は、媒体1の移動に伴って変化する。従って、図4に示す減算回路93から出力される第2信号S2は、図8(c4)に示す通りであり、磁気センサ素子40を媒体1の第2の磁気パターンが通過するたびに変動する。ここで、ソフト材を含む磁気インクにより形成された第2の磁気パターンは、残留磁束密度Brが低いため、信号のピーク電圧およびボトム電圧のシフトに影響しているのは、第2の磁気パターンの透磁率μだけと見做すことができる。それ故、図3に示す加算回路92から出力される第1信号S1は、磁気センサ素子40を媒体1の第2の磁気パターンが通過しても変動せず、図7(c4)に示す信号と同様である。
【0070】
このように、本形態の磁気パターン検出装置100では、加算回路92において磁気センサ素子40から出力される信号のピーク値とボトム値とを加算した第1信号S1は、磁気パターンの残留磁束密度レベルに対応する信号であり、かかる第1信号S1を監視すれば、ハード材を含む磁気インキにより形成された第1の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。また、減算回路93において磁気センサ素子40から出力される信号のピーク値とボトム値とを減算した第2信号S2は、磁気パターンの透磁率μに対応する信号であり、かかる第2信号S2を監視すれば、ソフト材を含む磁気インキにより形成された第2の磁気パターンの有無および形成位置を検出することができる。それ故、磁界を印加したときの残留磁束密度Brおよび透磁率μが異なる複数種類の磁気パターンの媒体1における磁気パターン毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて識別することができる。
【0071】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の磁気パターン検出装置100では、媒体1の移動速度v(mm/μsec)、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法T(mm)、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしているため、今回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域と、次回のスキャンの際に磁気センサ素子40がオン状態で位置していた領域との間に隙間が発生しない。従って、列方向Yに配列した複数の磁気センサ素子40をスキャンするとともに、磁気センサ40に対して媒体1を相対移動させる方式を採用した場合でも、媒体1の全面から確実に磁気パターンを検出することができる。
【0072】
また、本形態において、単位時間taは、媒体1の1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間であり、かかる1走査期間中に行なったスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンが検出される。すなわち、1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間中にN回のスキャン(本形態では4回のスキャン)を行なう。このため、複数のスキャンにより得られた複数のデータに基づいて1列分の磁気パターンを検出できるので、磁気センサ素子40で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる。
【0073】
また、本形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた全データに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出するため、媒体1に対して磁気センサ素子40を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで部分的に重なっている。それ故、媒体1の磁気特性を高い精度で検出することができる。
【0074】
また、本形態の磁気パターン検出装置100では、共通の磁気センサ装置20によって、磁気パターン毎の有無および形成位置を残留磁束密度レベルおよび透磁率レベルの双方に基づいて検出するため、残留磁束密度レベルの測定と、透磁率レベルの測定との間に時間差が発生しない。それ故、磁気センサ装置20と媒体1とを移動させながら計測する場合でも、信号処理部60は、簡素な構成で高い精度の検出を行なうができる。また、搬送装置10についても、磁気センサ装置20を通過する箇所のみに走行安定性が求められるだけなので、構成の簡素化を図ることができる。
【0075】
さらに、本形態の磁気パターン検出装置100によれば、ハード材およびソフト材の双方を含む磁気インキにより磁気パターンが形成されている媒体1や、ハード材とソフト材の中間に位置する材料を含む磁気インキにより磁気パターンが形成されている媒体1についても、磁気パターンの検出を行なうことができる。すなわち、磁気特性が第1の磁気パターンと第2の磁気パターンの中間に位置するような磁気パターンについては、図7(d1)に示すように、ヒステリシスループが、図7(b1)に示すハード材の磁気パターンのヒステリシスループと図7(c1)に示すソフト材の磁気パターンのヒステリシスループとの中間に位置するので、図7(d4)に示す信号パターンを得ることができ、かかる磁気パターンについても、有無や形成位置を検出することができる。
【0076】
しかも、本形態の磁気センサ装置20において、磁界印加用磁石30は、磁気センサ素子40に対して媒体1の移動方向の両側に磁界印加用第1磁石31と磁界印加用第2磁石32として配置されている。このため、図1に示すように、矢印X1で示す方向に移動する媒体1を磁界印加用第1磁石31によって着磁し、その後、磁気センサ素子40によって、着磁した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出することができるとともに、矢印X2で示す方向に移動する媒体1を磁界印加用第2磁石32によって着磁し、その後、磁気センサ素子40によって、着磁した後の媒体1にバイアス磁界を印加した状態における磁束を検出することができる。それ故、本形態の磁気パターン検出装置100を入出金機に用いれば、入金された媒体1の真偽を判定することができるとともに、出金される媒体1の真偽を判定することもできる。
【0077】
[実施の形態2]
図9は、本発明の実施の形態2に係る磁気パターン検出装置100でのスキャン毎の磁気センサ素子40の位置を示す説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1同様である。従って、以下の説明では、共通する部分については同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0078】
本形態の磁気パターン検出装置100でも実施の形態1と同様、媒体1の移動速度v(mm/μsec)、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法T(mm)、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしている。このため、図9に示すように、第1回目〜第4回目のスキャンのうち、連続して行なう2回のスキャンでは、磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域が移動方向で部分的に重なっている。ここで、実施の形態1では、1走査期間中に行なった4回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた全データに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出したが、本形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの一部のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0079】
より具体的には、本形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、媒体1に対して磁気センサ素子40を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで媒体1の移動方向Xで部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた複数のデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0080】
例えば、図9に示すように、第1回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域は、第3回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域と移動方向Xで部分的に重なっている。従って、本形態では、第1回目のスキャンの際により磁気センサ素子40で得られたデータと、第3回目のスキャンの際により磁気センサ素子40で得られたデータとに平均化処理を行い、かかる処理結果に基づいて、媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0081】
このような構成を採用した場合も、実施の形態1と同様、今回のスキャン(第1回目のスキャン)と次回のスキャン(第3回目のスキャン)とにおいて、磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域が移動方向Xで部分的に重なっているので、媒体1の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、2回のスキャンにより得られたデータに基づいて1列分の磁気パターンを検出できるので、磁気センサ素子40で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる等の効果を奏する。
【0082】
なお、媒体1の移動速度v、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法T、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数N等によっては、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、媒体1に対して磁気センサ素子40を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで媒体1移動方向Xで重ならずに接している2回以上かつN回未満のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた複数のデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出してもよい。
【0083】
[実施の形態3]
図10は、本発明の実施の形態3に係る磁気パターン検出装置100でのスキャン毎の磁気センサ素子40およびそのセンシング範囲の位置を示す説明図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1同様である。従って、以下の説明では、共通する部分については同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0084】
本形態の磁気パターン検出装置100でも実施の形態1と同様、媒体1の移動速度v(mm/μsec)、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法T(mm)、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしている。このため、図10に示すように、第1回目〜第4回目のスキャンのうち、連続して行なう2回のスキャンでは、磁気センサ素子40がオン状態で位置する領域が移動方向で部分的に重なっている。ここで、実施の形態1では、1走査期間中に行なった4回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた全データに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出したが、本形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの一部のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0085】
より具体的には、図10に示すように、磁気センサ素子40は、媒体1に等倍投影した領域よりも実際のセンシング範囲が広く、媒体1の移動方向Xにおける磁気センサ素子40のセンシング範囲は、移動方向Xにおける寸法Tより大きな寸法S(mm)を有している。そこで、本形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで媒体1の移動方向Xで部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0086】
例えば、図10に示すように、第1回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態になったときのセンシング範囲は、第3回目のスキャンの際にチャンネルCH1用の磁気センサ素子40がオン状態になったときのセンシング範囲と部分的に重なっている。従って、本形態では、第1回目のスキャンの際により磁気センサ素子40で得られたデータと、第3回目のスキャンの際により磁気センサ素子40で得られたデータとに平均化処理を行い、かかる処理結果に基づいて、媒体1の1列分の磁気パターンを検出する。
【0087】
このような構成を採用した場合も、実施の形態1と同様、今回のスキャン(第1回目のスキャン)と次回のスキャン(第3回目のスキャン)とにおいて、磁気センサ素子40によるセンシング範囲が移動方向Xで部分的に重なっているので、媒体1の磁気特性を高い精度で検出することができる。また、2回のスキャンにより得られたデータに基づいて1列分の磁気パターンを検出できるので、磁気センサ素子40で得られたデータのいずれかにノイズ等の影響が含まれている場合でも、かかるノイズの影響を緩和することができる等の効果を奏する。
【0088】
なお、媒体1の移動速度v、磁気センサ素子40の移動方向Xにおける寸法T、列方向Yにおける磁気センサ素子40の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数N等によっては、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで媒体1の移動方向Xで重ならずに接する2回以上かつN回未満のスキャンにより磁気センサ素子40で得られた複数のデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出してもよい。
【0089】
(その他の実施の形態)
上記形態では、媒体1と磁気センサ装置20とを相対移動させるにあたって、媒体1の方を移動させたが、媒体1が固定で磁気センサ装置20が移動する構成を採用してもよい。また、上記形態では、磁界印加用磁石30に永久磁石を用いたが、電磁石を用いてもよい。
【0090】
上記実施の形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、4回あるいは2回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する例を説明したが、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、1回あるいは3回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出してもよい等、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、1回のスキャンあるいは複数回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出すればよい。より具体的には、1走査期間中にN回のスキャンを実施し、そのスキャン毎に磁気センサ素子40を介してデータを取得するが、媒体1の1列分の磁気パターンを確定するにあたっては、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、1回のスキャンあるいは複数回のスキャンにより磁気センサ素子40で得られたデータを用いればよい。
【0091】
また、上記実施の形態では、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、今回のスキャンと次回のスキャンにおいて磁気センサ素子40でのセンシンング範囲が繋がった複数回のスキャンにより得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出する例を説明したが、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、今回のスキャンと次回のスキャンとにおいて磁気センサ素子40でのセンシンング範囲が繋がらず離間した複数回のスキャンにより得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出してもよい。また、今回のスキャンと次回のスキャンにおいて磁気センサ素子40でのセンシンング範囲が繋がったスキャンにより得られたデータと、今回のスキャンと次回のスキャンとにおいて磁気センサ素子40でのセンシンング範囲が繋がらず離間したスキャンにより得られたデータとに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出してもよい。
【0092】
さらに、1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、いずれのスキャンの際に磁気センサ素子40で得られたデータに基づいて媒体1の1列分の磁気パターンを検出するかは、可変になっており、上位の制御部や外部からデジタル信号処理部90への指令により任意に設定されるように構成してもよい。このように構成すると、媒体1の種類や磁気パターン検出装置100に求められる検出精度等に応じて最適な動作を実現することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 媒体
11 媒体移動路
20 磁気センサ装置
40 磁気センサ素子
48 励磁コイル
49 検出コイル
60 信号処理部
100 磁気パターン検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体から磁気特性を検出する磁気センサ素子と、該磁気センサ素子に対して前記媒体を相対的に移動させる搬送機構と、を有する磁気パターン検出装置であって、
前記磁気センサ素子は、前記媒体の移動方向に対して直交する列方向に複数配列され、
前記搬送機構による前記媒体の移動速度をv(mm/μsec)とし、
前記磁気センサ素子の前記移動方向における寸法をT(mm)とし、
前記列方向における前記磁気センサ素子の単位時間ta(μsec)当たりのスキャン回数をN回としたとき、
前記移動速度v、前記単位時間ta、前記寸法Tおよび前記スキャン回数Nは、以下の条件式
(v×ta)≦(T×N)
但し、Nは2以上の整数
を満たしていることを特徴とする磁気パターン検出装置。
【請求項2】
前記単位時間taは、前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するための1走査期間であり、
当該1走査期間中に行なったスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項1に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項3】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、1回のスキャンあるいは複数回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項2に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項4】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうちの、複数回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項3に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項5】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた全データに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項4に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項6】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータ、あるいは前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で重ならずに接する2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項4に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項7】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記媒体に対して前記磁気センサ素子を等倍投影した領域が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項6に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項8】
前記磁気センサ素子の前記移動方向におけるセンシング範囲は、前記磁気センサ素子の前記移動方向における寸法Tより大であり、
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータ、あるいは前記センシング範囲今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で重ならずに接する2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて、前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項4に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項9】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、前記センシング範囲が今回のスキャンと次回のスキャンとで前記移動方向で部分的に重なる2回以上かつN回未満のスキャンにより前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンが検出されることを特徴とする請求項8に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項10】
前記1走査期間中に前記磁気センサ素子で得られた複数のデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するにあたっては、当該複数のデータに平均化処理が行なわれることを特徴とする請求項4乃至9の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項11】
前記1走査期間中に行なったN回のスキャンのうち、いずれのスキャンの際の前記磁気センサ素子で得られたデータに基づいて前記媒体の1列分の磁気パターンを検出するかは、可変であることを特徴とする請求項3乃至10の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。
【請求項12】
前記磁気センサ素子は、励磁信号により励磁されて信号を出力し、
当該励磁信号は、1回のスキャン中に前記複数の磁気センサ素子の各々が出力する信号に複数周期分の前記励磁信号による信号成分が含まれる周波数を有していることを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の磁気パターン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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