説明

磁気ヘッド検査装置及び磁気ヘッド検査方法

【課題】微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの検査において、熱ドリフトや熱膨張の影響を回避して、安定したサーボ制御を実現すること。
【解決手段】磁気ヘッド検査装置10は、磁気ヘッド4を磁気ディスク1上の所望の位置に位置決めする微動ステージ7と、微動アクチュエータの移動特性を測定するデータ処理回路15と、データ処理回路15の測定結果に基づいて磁気ヘッド4を磁気ディスク1上のサーボトラックに追従させるサーボ制御回路11を備える。サーボ制御回路11は、微動アクチュエータの移動量が許容範囲を超えるとき、微動ステージ7を駆動して磁気ヘッド4を移動させ、微動アクチュエータの移動量が許容範囲内に収まるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ヘッドの検査装置及び検査方法に係り、特に微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドのサーボ追従技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ヘッド検査装置では、磁気ディスクに書き込まれたサーボ信号に従って検査用磁気ヘッドを所定トラックに追従させ、検査用データの書込みと読出しを行い、磁気ヘッドの性能を検査するようにしている。一方、記録密度の増大を図るため、磁気ヘッドにはトラックに対して高精度の位置決めが要求される。そのため、磁気ヘッドの位置決めを粗動制御と微動制御を組み合わせて行う2段階制御が採用されている。
【0003】
これに関し特許文献1には、粗動ステージと微動ステージを利用してサーボ情報を連続的に記録する場合において、磁気ヘッドアッセンブリを交換する都度磁気ディスクにサーボ情報を書き込まなくとも済み、検査処理のスループットを向上させることを目的とするサーボ情報書込み技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、磁気ヘッドスライダの位置を修正するためのマイクロアクチュエータをサスペンション上に搭載した磁気ヘッドにおいて、低駆動電圧によるマイクロアクチュエータの移動性能試験方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−080923号公報
【特許文献2】特開2009−016030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ヘッド検査装置における2段階サーボ制御技術では、磁気ディスク上に書き込まれたサーボ信号に従い磁気ヘッドを追従させる際、第1段階としてサーボトラック間隔に対して広範囲に移動できるアクチュエータを使用し、第2段階として、特許文献2に記載されたように磁気ヘッドに内蔵した微動アクチュエータにより微細なトラックへの位置決めを行うことができる。微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドは、DSA(デュアル・ステージ・アクチュエータ)ヘッドとも呼ばれ、アクチュエータの制御対象の質量が小さく、高速の制御が可能である。その反面DSAヘッドでは、可動範囲が狭くなってしまうため、熱ドリフト等の外乱要因により移動量が所定量を超えるとサーボ追従ができなくなってしまうという問題がある。
【0007】
また特許文献2の移動性能試験方法では、DSAヘッドで磁気ディスク上に初期トラックデータを書き込み、次にDSAヘッドのマイクロアクチュエータに所定の電圧を加えた状態でトラックデータを書込み、当該トラックデータを読み出すことでマイクロアクチュエータの移動量を算出するものである。この方法だと、トラックデータを書き込む際のライト電流による発熱や、検査時間による磁気ディスクの熱膨張によりトラック位置が相対的に変位(ドリフト)する恐れがあり、高精度の試験が困難である。また、マイクロアクチュエータの検査とリード・ライト検査を別々に行うことになり、DSAヘッドの総合的な検査を行うことができない。
【0008】
本発明の目的は、微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの検査において、熱ドリフトや熱膨張の影響を回避して、安定したサーボ制御を実現する磁気ヘッド検査装置及び磁気ヘッド検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの特性を検査する磁気ヘッド検査装置において、磁気ヘッドを磁気ディスク上の所望の位置に位置決めする微動ステージと、微動アクチュエータの移動特性を測定するデータ処理回路と、データ処理回路の測定結果に基づいて磁気ヘッドを磁気ディスク上のサーボトラックに追従させるサーボ制御回路を備え、サーボ制御回路は、微動アクチュエータの移動量が測定結果による許容範囲を超えるとき、微動ステージを駆動して磁気ヘッドを移動させ、微動アクチュエータの移動量が許容範囲内に収まるように制御する。
【0010】
本発明は、微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの特性を検査する磁気ヘッド検査方法において、磁気ヘッドに内蔵された微動アクチュエータの移動特性を測定し、移動量の許容範囲を求めるステップと、微動アクチュエータを移動させて磁気ヘッドを磁気ディスク上のサーボトラックに追従させるステップと、微動アクチュエータの移動量が許容範囲を超えるとき、磁気ヘッドを搭載した微動ステージを移動させて、微動アクチュエータの移動量が許容範囲内に収まるように制御するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの検査において、熱ドリフトや熱膨張の影響を回避して、安定したサーボ制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による磁気ヘッド検査装置の一実施例を示す構成図。
【図2】磁気ディスク上のサーボパターンと磁気ヘッドの軌跡を示す図。
【図3】磁気ヘッドの移動特性(DSA特性)を示す図。
【図4】本実施例による2段階サーボ制御の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明による磁気ヘッド検査装置の一実施例を示す構成図である。ここでは、圧電素子などの微動アクチュエータを内蔵したDSA型磁気ヘッド(以下、単に磁気ヘッドという。)を検査対象とするものである。
【0014】
磁気ヘッド検査装置10は、機械動作を行う機構部で構成される検査用キャリッジ3とそれに繋がる電気回路部11〜17を備える。検査用キャリッジ3には、磁気ディスク1を回転させるスピンドルモーター2と、磁気ヘッド4を磁気ディスク1上へ位置決めするための機構5〜9がある。X軸粗動ステージ8とY軸粗動ステージ9は磁気ヘッド4を磁気ディスク1外から磁気ディスク1上へ移動させるもので、X軸粗動ステージ8は磁気ディスク1の半径方向へ、Y軸粗動ステージ9は磁気ディスク1の円周方向へ移動させる。X軸粗動ステージ8とY軸粗動ステージ9の上には微小位置決め可能な微動ステージ7が搭載される。微動ステージ7上にはカートリッジ取付けベース6を介して、検査対象の磁気ヘッド4を実装したヘッドカートリッジ5が取り付けられる。この磁気ヘッド4には、図示しない磁気ヘッド内蔵の微動アクチュエータを含んでいる。そして、微動ステージ7を駆動して磁気ヘッド4を磁気ディスク1上の所望のトラック位置に位置決めし、磁気ヘッド4のリード・ライト特性を測定する(パラメトリック測定ともいう)。なお、磁気ヘッド4の位置決めのため、微動ステージ7の代わりにヘッドカートリッジ5に微動アクチュエータを装着した構成でも良い。
【0015】
電気回路部11〜17の構成を説明する。データ処理・制御回路15は、各回路に対し動作条件等の必要なパラメータを発行する。モータ制御回路17は、データ処理・制御回路15からの命令に従い適切な速度でスピンドルモーター2の回転制御を行う。ヘッドアクセス制御回路14は、X軸粗動ステージ8とY軸粗動ステージ9と微動ステージ7を動作させ、磁気ヘッド4を磁気ディスク1上へロードさせる。
【0016】
書込みデータ・信号発生回路16とサーボ信号・データ書込み回路12は、磁気ヘッド4により磁気ディスク1上へパラメトリック測定用のデータとサーボ信号の書込みを行う。サーボ信号は、磁気ヘッド4が磁気ディスク1上へサーボ追従するために必要な情報であり、データ処理・制御回路15より生成される情報に従いサーボパターン100として形成する。
【0017】
サーボ制御回路11は、磁気ヘッド4により読み出された磁気ディスク1上のサーボパターン100の情報を処理し、微動ステージ7(またはヘッドカートリッジ5)、及び磁気ヘッド4へ制御信号を送ることによりサーボ追従を行う。制御信号には、磁気ヘッド4の微動アクチュエータへの駆動信号も含む。サーボ追従を行う際の指令はデータ処理・制御回路15から発行される。データ検出回路13は、磁気ヘッド4により読み出された磁気ディスク1上のデータを検出し、このデータはデータ処理・制御回路15に送られて磁気ヘッド4の測定データとして処理される。
【0018】
次に本実施例の磁気ヘッド検査装置の動作について説明する。
図2は、磁気ディスク上のサーボパターンと磁気ヘッドの軌跡を示す図である。
ヘッドアクセス制御回路14によりX軸粗動ステージ8とY軸粗動ステージ9と微動ステージ7を動作させ、磁気ヘッド4を磁気ディスク1上の任意の位置へロードさせる。そしてサーボ制御回路11により微動ステージ7(またはヘッドカートリッジ5)を駆動して、磁気ディスク1上のサーボパターン100へ追従させる動作を行う。その際、磁気ヘッド4の微動アクチュエータには制御電圧を加えず磁気ヘッド4の位置を固定させた状態、すなわち磁気ヘッドとしての機能を停止させた状態とする(あるいは、微動アクチュエータに一定電圧を与えた状態でも良い)。このサーボパターン100は、磁気ディスク1上の位置情報が判断できるパターンであれば、他の磁気ヘッドにより予め書き込まれたパターンでも、あるいは検査対象の磁気ヘッド4で書き込まれたパターンでもよい。
【0019】
サーボ追従の確認ができたら、次に磁気ヘッド4の移動特性(以下、DSA特性)を測定する。DSA特性を測るために一度サーボ追従を切り、磁気ヘッド4の微動アクチュエータに、一定振幅の正弦波信号(SIN波)を重畳する。この時のSIN波信号の周波数Fmは、式(1)〜式(4)から決定する。
Fm=Fs・Nsin/Np (1)
Fs=Nsect・Nd (2)
Nsin=2m−1 (3)
Np=4n (4)
ここに、Fs:サンプリング周波数、Nsin:SIN波数、Np:測定ポイント数、Nsect:セクタ数、Nd:ディスク回転数、m:任意の正の整数、n:任意の正の整数である。
【0020】
上記のようにSIN波の周波数Fmを設定することで、磁気ディスク1の回転に同期しているサーボパターン100の位置で、SIN波の最大・最小値をサンプリングすることができる。磁気ヘッド4に上記の条件のSIN波信号を加えることにより、磁気ヘッド4は磁気ディスク1上を半径方向に変位し、サーボパターン100の範囲内にヘッド軌跡200を描くことになる。磁気ヘッド4の半径方向の移動距離はサーボパターン100から読み取ることができ、磁気ヘッド4の移動特性(DSA特性)を求めることができる。
【0021】
図3は、磁気ヘッドの移動特性(DSA特性)を示す図であり、印加電圧と移動距離の関係を示す。ここでは印加電圧をV0を中心にV1からV2の範囲で変化させ、移動距離の変化(S1からS2)を測定したものである。DSA特性は磁気ヘッド4の種類により2タイプがあり、印加電圧と移動距離が比例関係となる比例タイプ201と、反比例関係となる反比例タイプ202に分かれる。
【0022】
DSA特性は微動アクチュエータのヒステリシス特性により、電圧V0においてヒステリシスΔS0を有する。またDSA特性の勾配(DSA感度)は印加電圧と移動距離の比として式(5)から求める。
DSA感度=移動距離(S2−S1)/印加電圧(V2−V1) (5)
なお、DSA感度の符号は、DSA特性の比例/反比例タイプに応じて正負を与える。
【0023】
次に、上記で求めたDSA特性を反映させ検査用磁気ヘッド4のサーボ追従動作(2段階サーボ制御)を行う。
図4は、本実施例による2段階サーボ制御の動作を説明する図である。
磁気ヘッド4のサーボ制御は、微動ステージ7(またはヘッドカートリッジ5)による制御と、磁気ヘッド4に内蔵した微動アクチュエータによる制御を組み合わせた2段階サーボ方式で行う。通常の制御は図4(a)で示すように、磁気ヘッド4の微動アクチュエータによりサーボトラック101に追従させる。磁気ヘッド4のリード・ライト特性測定中に、磁気ヘッド4からの発熱や磁気ディスク1の熱膨張などのドリフト要因により、磁気ヘッド4とサーボトラック101のずれ量が大きくなると、微動アクチュエータの移動量(オフセット量)Sofsも大きくなる。そして、オフセット量Sofsが微動アクチュエータの飽和領域に達すると、安定したサーボ制御が不可能になる。そこで本実施例では、微動アクチュエータのオフセット量Sofsを磁気ヘッド4への印加電圧により監視し、印加電圧(移動量)が許容範囲を超えないように制御する。ここに印加電圧の許容範囲は、図3のDSA特性が未飽和領域で動作するよう中心電圧V0の両側の所定領域に設定する。
【0024】
そして、磁気ヘッド4への印加電圧が許容範囲を超える場合には、図4(b)で示すように、微動ステージ7(またはヘッドカートリッジ5)を駆動して、磁気ヘッド4を矢印方向にオフセット量Sofsだけ移動させる。これにより、微動アクチュエータに溜まっているオフセット量Sofsを解消させ、微動アクチュエータのオフセット量Sofsを許容範囲内に収めることができる。その後(a)に戻り、微動アクチュエータによるサーボ制御を再開する。このように、磁気ヘッド4(微動アクチュエータ)への印加電圧を監視して、印加電圧が許容範囲を超える場合には微動ステージ7(またはヘッドカートリッジ5)により磁気ヘッド4を移動させることで、ドリフト要因により磁気ヘッド4の移動量が飽和状態になることを回避し、安定したサーボ制御を実現させる。
【0025】
本実施例によれば、サーボトラックへの追従を磁気ヘッドのDSA機能を用いて行い、ドリフト成分に対する制御を微動ステージ(またはヘッドカートリッジ)を用いて行う2段階制御とすることで、磁気ヘッド検査中のサーボ追従を安定化させ、検査データの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
1…磁気ディスク、
2…スピンドルモーター、
3…検査用キャリッジ、
4…磁気ヘッド(DSAヘッド)、
5…ヘッドカートリッジ、
6…カートリッジ取付けベース、
7…微動ステージ、
8…X軸粗動ステージ、
9…Y軸粗動ステージ、
10…磁気ヘッド検査装置、
11…サーボ制御回路、
12…サーボ信号・データ書込み回路、
13…データ検出回路、
14…ヘッドアクセス制御回路、
15…データ処理・制御回路、
16…書込みデータ・信号発生回路、
17…モータ制御回路、
100…サーボパターン、
101…サーボトラック、
200…ヘッド軌跡、
201…DSA特性(比例タイプ)、
202…DSA特性(反比例タイプ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの特性を検査する磁気ヘッド検査装置において、
前記磁気ヘッドを磁気ディスク上の所望の位置に位置決めする微動ステージと、
前記微動アクチュエータの移動特性を測定するデータ処理回路と、
前記データ処理回路の測定結果に基づいて前記磁気ヘッドを磁気ディスク上のサーボトラックに追従させるサーボ制御回路を備え、
該サーボ制御回路は、前記微動アクチュエータの移動量が前記測定結果による許容範囲を超えるとき、前記微動ステージを駆動して前記磁気ヘッドを移動させ、前記微動アクチュエータの移動量が前記許容範囲内に収まるように制御することを特徴とする磁気ヘッド検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気ヘッド検査装置において、
前記データ処理回路は、前記微動アクチュエータに一定振幅の正弦波電圧を印加し、磁気ディスク上のサーボパターンを読み取ることで該微動アクチュエータの移動特性を測定するものであって、
印加する前記正弦波電圧の周波数は、正弦波の最大・最小点が前記磁気ディスク上のサーボパターンの位置に同期するよう設定することを特徴とする磁気ヘッド検査装置。
【請求項3】
微動アクチュエータを内蔵した磁気ヘッドの特性を検査する磁気ヘッド検査方法において、
前記磁気ヘッドに内蔵された前記微動アクチュエータの移動特性を測定し、移動量の許容範囲を求めるステップと、
前記微動アクチュエータを移動させて前記磁気ヘッドを磁気ディスク上のサーボトラックに追従させるステップと、
前記微動アクチュエータの移動量が前記許容範囲を超えるとき、前記磁気ヘッドを搭載した微動ステージを移動させて、前記微動アクチュエータの移動量が前記許容範囲内に収まるように制御するステップと、
を備えることを特徴とする磁気ヘッド検査方法。
【請求項4】
請求項3記載の磁気ヘッド検査方法において、
前記微動アクチュエータの移動特性を測定するステップは、該微動アクチュエータに一定振幅の正弦波電圧を印加し、磁気ディスク上のサーボパターンを読み取ることで移動量を測定するものであって、
印加する前記正弦波電圧の周波数は、正弦波の最大・最小点が前記磁気ディスク上のサーボパターンの位置に同期するよう設定することを特徴とする磁気ヘッド検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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