説明

磁気光学光変調素子

【課題】高速のアナログ光変調が可能で、高周波駆動におけるヒステリシスが非常に小さく、小型化・軽量化を図り、且つ低消費電力で駆動できるようにする。
【解決手段】光路中で偏光子12と検光子13との間に位置し、光が膜面に垂直方向に透過する磁気光学膜14と、該磁気光学膜14に高周波磁界を印加するコイル16とを具備し、コイルによる高周波磁界によって光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調するための磁気光学光変調素子10である。磁気光学膜は非磁性基板18上に成膜され且つ膜面内方向に磁化容易軸を有し、コイルは磁気光学膜の膜面に平行に前記非磁性基板と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光路中で偏光子と検光子との間に位置し、ファラデー効果を利用して透過光の強度あるいは位相を変調するための磁気光学光変調素子に関し、更に詳しく述べると、磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって磁気光学膜の磁化方向を制御する磁気光学光変調素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光変調器は、透過光の強度あるいは位相を変調する光デバイスであり、駆動方式によって、音響光学方式、電気光学方式、及び磁気光学方式などがある。音響光学方式は、原理的には超音波による屈折率分布によって回折格子を形成させるため、消費電力が大きく、相当大きな電源が必要となる。電気光学方式の場合は、電気光学効果を利用するものであり、オン−オフのコントラスト比を大きくするには、電圧を印加する範囲を長くとる(即ち素子の光路長を長くする)必要があり、大型化が避けられない。それらに対して磁気光学方式は、ファラデー効果を利用するもので、光路長の短縮、低コスト化、低消費電力化の可能性があり、他の方式に比べて遙かに有利と考えられている。
【0003】
磁気光学方式の公知例としては、特許文献1に示されているような、光通信で使用する磁気光学光変調器がある。ここでは、多磁区構造を有する磁気光学材料からなる磁気光学素子を使用し、該磁気光学素子に、飽和磁界以上の直流バイアス磁界を印加するための直流磁界発生器と、高周波磁界を印加するための高周波磁界発生器を設けるように構成されている。この磁気光学光変調器は、光通信(赤外線の波長域)での使用を想定しているため、長い光路長が必要となり、基板上に成膜した磁気光学膜を用いる場合には、基板面と平行に光を通すことになる。なお、直流磁界発生器としては、永久磁石あるいは電磁石を用いており、それらは磁気光学素子の磁区を単磁区化する機能を果たしている。
【0004】
ところで、携帯電話機程度のサイズあるいは眼鏡等に装着できる超小型のレーザプロジェクタが開発されている。いずれも小型のレーザと光線走査装置を使って、投影面上で光を高速に動かすことによる残像効果を利用して映像を投影するものである。これらにおいて、カラー映像を投影するためには、当然のことながらRGBの3色の光源を必要とし、それらのうちR(赤色)とB(青色)については発光強度を直接制御できるデバイス(半導体レーザ)が確立している。しかし、G(緑色)については、現在のところ、そのようなデバイスはなく、半導体励起レーザの第2高調波発生(SHG)のレーザを使用することが有望視されている。しかしながら、電源の制御(厳密な素子の温度制御を含む)を行わないと発振効率が著しく低下してしまうため、G(緑色)については、緑色の安定したレーザ発振の後、光源からの光強度を外部光変調器によって変調する方式が採用される。
【0005】
このような用途では、特に小型化・省電力化が要求される。しかし、上記従来構造の磁気光学光変調器では、直流バイアス磁界を印加するための直流磁界発生器を必要とし、永久磁石を用いる場合は小型化・軽量化が難しく、電磁石を用いる場合は消費電力が大きくなり、採用は困難である。
【0006】
【特許文献1】特許第4056726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高速のアナログ光変調が可能で、高周波駆動におけるヒステリシスが非常に小さく、小型化・軽量化を図り、且つ低消費電力で駆動できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光路中で偏光子と検光子の間に位置し、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調する磁気光学光変調素子において、前記磁気光学膜は非磁性基板上に成膜され且つ膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイルは磁気光学膜の膜面に平行に前記非磁性基板と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学光変調素子である。なお本発明において、光が膜面に垂直方向、あるいは高周波磁界の方向が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向とは、ほぼ垂直な方向であることを意味しており、厳密に垂直でなければならないと言うことではない。
【0009】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを偶数層、絶縁膜を介して積層し、パターン端部を順次直列となるように接続した構造とし、該コイルの両方の端末が、共に導電パターンの外周側から引き出されている構造が好ましい。また、磁気光学膜は、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜されており、コイルも、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されている構造が好ましい。
【0010】
凹部に埋め込まれた状態で成膜されている磁気光学膜は、凹部周壁に接する外周部が除去され、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料を埋め込むのが好ましい。間隙部に埋め込む遮光性材料としては、コイル形成材料と同じ材料を用いることが好ましく、その場合、周方向で複数の領域に区分されている構造とする。
【0011】
磁気光学膜上に、透明熱伝導性材料膜を形成してもよい。また、非磁性基板上あるいはコイル上に、磁気光学膜上に形成したのと同じ透明熱伝導性材料膜を形成してもよい。磁気光学膜上の透明熱伝導性材料膜を多層誘電体膜とし、その光路長(屈折率×膜厚)が、入射光の1/4波長の奇数倍に設定するのが好ましい。透明熱伝導性材料としては、例えばアルミナなどがある。
【0012】
磁気光学膜は、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜され、900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したBi置換鉄ガーネット単結晶膜が好ましい。入射光は可視光であって、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は膜厚が1〜9μmであり、且つ光入射面の面積が10000πμm2 以下(半径100μm以下)とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る磁気光学光変調素子は、膜面内方向に磁化容易軸を有する磁気光学膜を使用し、該磁気光学膜の膜面に平行に配置したコイルによって磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に高周波磁界を印加するように構成されているため、直流バイアス磁界のための永久磁石や電磁石が不要となり、装置の小型化・軽量化、並びに低消費電力化を図ることができる。
【0014】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを偶数層、絶縁膜を介して積層し、パターン端部を順次直列になるように接続すると、コイルの両方の端末を、共に導電パターンの外周側から引き出すことができ、外部回路との接続処理などが容易となる。また磁気光学膜を、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜され、コイルも、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成すると、コイルにより発生する高周波磁界を磁気光学膜に効率よく印加することができる。更に磁気光学膜を凹部に埋め込まれた状態で成膜する場合、凹部周壁に接する外周部を除去すると、膜成長の過程で中心部とは磁気特性が異なるようになる外周部の影響を受けないため、変調エリア全体にわたって所望の磁気特性のみの良好な磁気光学膜が得られる。磁気光学膜の外周部を除去すると、凹部周壁との間に間隙部が生じるが、その間隙部に遮光性材料を埋め込むことで不要な漏れ光を防止できる。遮光性材料としてコイル形成材料と同じ材料を用いると、導電パターンと同時に形成できるため、工程数の増加を抑えることができる。その際、周方向で複数の領域に区分した構造にすれば、コイルにより高周波磁界が印加されても渦電流損失の増大を防止できる。
【0015】
磁気光学膜上に透明熱伝導性材料膜を形成したり、非磁性基板上に、磁気光学膜上に形成したのと同じ透明熱伝導性材料膜を形成すると、透過光により生じる発熱やコイルで生じる発熱を発散し、局所的な温度上昇を防止できる。また、磁気光学膜上の透明熱伝導性材料膜を多層誘電体膜とし、その光路長(屈折率×膜厚)を、入射光の1/4波長の奇数倍に設定すると、反射防止膜としても機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示すように、本発明に係る磁気光学光変調素子10は、光路中で偏光子12と検光子13の間に位置し、該磁気光学光変調素子10によって透過光の強度あるいは位相を変調するものである。この磁気光学光変調素子10は、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜14と、該磁気光学膜14に高周波磁界を印加するコイル16とを具備し、該コイル16による高周波磁界によって磁気光学膜14の磁化方向を制御する。これによってファラデー回転角が変化し、透過光の強度あるいは位相を変調する。前記磁気光学膜14は、非磁性基板18上に成膜され、膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイル16は、磁気光学膜14の膜面に平行に前記非磁性基板18と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるように構成されている。
【0017】
磁気光学膜は、典型的には、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜したBi置換鉄ガーネット単結晶膜((BiGdY)3 (FeGa)5 12)を900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したものであり、このアニール処理によって磁化容易軸が膜面に平行となる。
【0018】
ところで、液相エピタキシャル法で成膜したBi置換鉄ガーネット単結晶膜は、通常、成長誘導磁気異方性のために、膜面に垂直方向に磁化容易軸を有し、磁化方向が膜面垂直方向に分かれたストライプ状の磁区が形成される。この場合、光の変調量は磁区の面積比により決定されるが、外部磁界の印加に伴う磁区の変化は磁壁移動により進行するため、高速変調が難しく、更には大きなヒステリシスを有するため制御が困難である。それに対して本発明の構成では、磁気光学膜の磁化容易軸が膜面内方向を向き、殆ど単磁区構造となり、高周波磁界は磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加される。そのため、コイル磁界がゼロのとき、磁化方向は光の進行方向に対して垂直であるので、光の変調は行われない。しかしコイル磁界が増加するのに応じて磁化が膜面に垂直方向を向くので、光の偏波面が回転し、光の変調量が増大する。このとき、磁化の方向は磁界の大きさと共に回転するので、高速で動作しヒステリシスは低減する。このように光の進行方向に対する磁化の向きを外部高周波磁界により任意に変化させることができ、それが磁気光学膜の変調エリア内で均一な磁化回転により行われるため、光の透過量を高速に且つアナログ的に変調することができる。また、直流バイアス磁界のための永久磁石や電磁石が不要となるため、装置の小型化・軽量化、並びに低消費電力化を図ることができる。
【0019】
磁気光学膜は、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜され、凹部周壁に接する外周部が除去されて、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料を埋め込む構造とする。コイルは、渦巻き状の導電パターンを2層、絶縁膜を介して積層し、パターン内周端部を相互に直列となるように接続し、該コイルの両方の端末をパターン外周側から引き出す。コイルの1層目(下層)が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されている構造とするのがよい。これら導電パターンは、例えば銅めっきによって形成する。
【0020】
本発明では、コイルが、磁気光学膜が形成されている非磁性基板と一体に形成されており、コイルの一部が磁気光学膜と同一平面上に形成されているため、コイルを磁気光学膜に可能な限り近づけることができ、高周波磁界の印加効率を高めることができる。また、コイルを構成する渦巻き状の導電パターンを2層にすることにより、コイル端子を導電パターンの外側に設けることが可能となり、端末処理が容易となる。
【0021】
磁気光学膜を、非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜すると、膜は、凹部の底面のみならず凹部の周壁面からも成長し、特に凹部の周壁面近傍では荒れた状態となり、外周部の磁気特性が中央部の磁気特性と異なるものとなる。膜面積が大きければあまり影響はないが、小型化と磁界印加効率を高めるために膜面積を必要最小限まで小さくすると、外周部の影響が顕著となる。そこで、上記のように、外周部をエッチングにより除去すると、膜全体を変調エリアとして使用でき、所望の磁気特性となる。但し、磁気光学膜と凹部周壁と間に間隙部が生じ、入射光の一部が必要なファラデー回転をせずに通過する(レーザ光の強度はガウシアン分布であり分布の裾野が間隙部を通過する)ため、光変調特性の劣化が生じる。そこで、間隙部に遮光性材料を埋め込むと、間隙部を通過する漏洩光を遮断でき、所望の変調量を得ることができるし、空間フィルタとしても機能するため干渉ノイズも除去できる。これによって、より一層の小型化、低消費電力化を図ることができる。導電パターンに使用する銅は遮光性材料であるから、遮光性材料の埋め込みを、導電パターンと同じ銅めっきで行えば、同じ工程で行える。
【0022】
入射光が可視光(例えば緑色のレーザ光)の場合、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は、膜厚を1〜9μm、光入射面の面積を10000πμm2 以下(半径100μm以下)とする。膜厚3μmで約±15度のファラデー回転角が得られる。液相エピタキシャル法により作製したBi置換鉄ガーネット単結晶膜をアニール処理すると、成長誘導磁気異方性が消失するので膜と基板との格子ミスマッチに起因する歪み誘導磁気異方性が支配的となる。そして、SGGG基板などではストリエーション(格子定数の変動(ゆらぎ))があるため、これがエピタキシャル成長した磁気光学膜の磁気特性の変動となって顕著に現れてくる。この変動はヒステリシスの原因となりうる。そこで、基板のストリエーションの周期(数百μm程度)に対して磁気光学膜(変調エリア)のサイズを小さくすることにより、ヒステリシスを低減することが可能となる。
【0023】
このようにして、緑色のレーザ光を高速で且つアナログ的に、低消費電力で変調できる小型・軽量の外部光変調器が得られる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。説明を分かり易くするために、以下の各実施例において同様の部材については、同一符号を付す。
【0025】
図2は、本発明に係る磁気光学光変調素子の一実施例を示す模式図である。非磁性基板20上に磁気光学膜22を形成し、その周囲に1層のコイル24を非磁性基板20上に一体に形成する。該コイル24の外表面を覆うように、フォトレジストなどによるコイル保護膜26を形成する。これは最も簡単な構造である。このようにコイル24が1層構造で済む場合には格別問題は生じない。しかし、この構成を利用して印加磁界の強さを高めるために2層構造にしようとすると、絶縁膜の表面に1層目の導電パターンによる凹凸が残るため、2層目を積層し難い傾向がある。そこで、コイルを2層形式とする場合には、以下に示すように1層目のコイル(導電パターン)を埋め込み、表面を平坦化する構造が好ましい。
【0026】
図3〜図5は、2層形式のコイル(1層当たり3ターン)を設けている例である。図3に示す実施例は、非磁性基板20上の全体にわたって磁気光学膜22を形成し、該磁気光学膜22の変調エリアの外側に渦巻き状の溝を形成し、該溝に導電材料を埋め込み1層目の導電パターン24aを形成する。その上に絶縁膜28を形成し、更に2層目の渦巻き状の導電パターン24bを積層し、保護膜26で覆う。絶縁膜28及び保護膜26は同じフォトレジストでよい。1層目の導電パターン24aと2層目の導電パターン24bは、内周側の端部同士を接続することで6ターンのコイル24となる。図4に示す実施例では、非磁性基板20に凹部30を形成して磁気光学膜22を成膜すると共に、非磁性基板20に渦巻き状の溝32を形成して導電材料(銅など)をめっきにより埋め込み1層目の導電パターン24aを形成している。図5に示す実施例では、非磁性基板20に凹部30を形成して磁気光学膜22を成膜するが、該磁気光学膜の凹部周壁に接する外周部を除去し、それによって磁気光学膜22と凹部周壁との間に間隙部34を形成している。図3〜図5の実施例では、1層目の導電パターン形成後に表面研磨することで平坦化でき、その上に絶縁膜28を介して位置する2層目の導電パターン24bの形成が容易となる。
【0027】
これらの実施例のなかでは、図5に示す構成が最も良好である。この構成は、コイル24の2層化が容易であるし、磁気光学膜22の磁気特性を均一化でき、コイル24で生じる高周波磁界を効率よく磁気光学膜22に印加できるからである。因みに、図3に示す構成は、導電パターンの周囲に磁性材料(磁気光学膜)が存在することになるため、磁気光学膜の透磁率によってコイルで生じる高周波磁界の印加効率が若干低下する恐れがある。
【0028】
図6は、図3〜図5で用いている2層形式のコイルにおける導電パターンの例を示している。Aは、1層目の導電パターン24aであり、外周側の端子部36aから内周側に向かって時計回りに3ターン渦巻き状に形成されている。Bは、2層目の導電パターン24bであり、内周側から外周側の端末部36bに向かって時計回りに3ターン渦巻き状に形成されている。1層目の導電パターン24aの上に、2層目の導電パターン24bを、絶縁膜を介して積層する構造である。積層時、1層目と2層目の導電パターン内周側の端部が互いに接続され、合計6ターンのコイルとなる。
【0029】
次に、図5に示す構造の磁気光学光変調素子の製造手順を図7により説明する。
(A)変調エリア形成
まず、非磁性基板20(例えばSGGG基板)に磁気光学膜を埋め込み成膜するための凹部30をエッチングにより形成する。この凹部30は、例えば、半径100μm程度で、最終的に必要な膜厚(1〜9μm)よりも若干深めの円形とする。
(B)磁気光学膜形成
凹部30が完全に埋まるまで、非磁性基板20上に磁気光学膜22を液相エピタキシャル法により成膜する。磁気光学膜22は、Bi置換鉄ガーネット単結晶((BiGdY)3 (FeGa)5 12)からなる。
(C)研磨
磁気光学膜22が凹部30のみに残るように、非磁性基板20上の磁気光学膜を研磨し除去する。そのとき、凹部内の磁気光学膜が所望の膜厚となるまで非磁性基板の表面も研磨する。
(D)エッチングとアニール
変調エリア周辺(凹部30の壁面に接する磁気光学膜の外周部)にエッチングにより間隙部34を形成すると共に、コイル1層目となる導電パターンを形成するための3ターンの渦巻き状の溝32を、エッチングにより形成する。その後、900〜1200℃のトップ温度で磁気光学膜22をアニール処理し、それによって磁化容易軸を膜面垂直方向から膜面内方向にする。
(E)1層目の導電膜形成
非磁性基板20上に、めっきによりコイルの1層目となる導電膜40を形成する。導電膜は、渦巻き状の溝32が埋まる厚さとし、銅めっきで形成する。
(F)1層目導電パターン形成
研磨により非磁性基板20の表面の余分な導電膜を除去し、渦巻き状の溝内の導電材料のみを残す。これによって1層目の導電パターン24aが形成されると共に、表面が平坦化される。
(G)絶縁膜形成
非磁性基板20及び導電パターン24aの上にフォトレジストなどで絶縁膜28を形成する。このとき、1層目の導電パターン24aの内周端のみ窓部42を開けて導電パターンが露出するようにしておく。
(H)2層目導電パターン形成
フォトリソグラフィー技術により1層目の導電パターン24aの上に絶縁膜28を介して2層目の渦巻き状の導電パターン24bを積層する。そのとき、絶縁膜28に形成した窓部42を通じて1層目の導電パターン24aと2層目の導電パターン24bとが導通し、2層6ターンのコイル24が形成される。
(I)保護膜形成
表面にフォトレジストなどで保護膜26を形成して、2層目導電パターン24bの露出面を覆い、コイル24を保護する。
【0030】
図8は、本発明で用いる磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図である。基本的な構成は図5と同様であるので、対応する部分に同一符号を付し、それらについての説明は省略する。この実施例では、磁気光学膜22と凹部周壁との間隙部34に遮光性材料50を埋め込む。遮光性材料50を設けることによって、間隙部を通過する漏洩光を遮断でき、所望の変調量を得ることができるし、干渉や回折による悪影響も除去できる。また、磁気光学膜22の表面(上面)に反射防止膜52を形成すると共に、非磁性基板20の下面(磁気光学膜形成面とは反対側の面)にも反射防止膜54を形成している。これによって、光が通過する両面での反射を防止できることになる。遮光性材料としてコイルと同じ導電材料を用いれば、1層目の導電パターン形成と同じ工程でに遮光性材料の埋め込みができる。なお、遮光性材料として導電材料を用いる場合には、円周方向で複数の領域に区分するように設ければ、コイル24からの高周波磁界による渦電流損を低減できる。
【0031】
図9は、本発明で用いる磁気光学光変調素子の更に他の実施例を示す模式図である。図8と異なる部分のみ説明する。ここでは、遮光性材料56は間隙部全体を埋め、非磁性基板20の上面と面一にする。そして、非磁性基板20の上面全体に反射防止膜58を形成する。この反射防止膜58は、1層目導電パターン24aの上では絶縁膜としての機能を果たすことになる。
【0032】
ここで反射防止膜を、アルミナのような透明熱伝導性材料膜で構成すると、磁気光学膜での光通過による発熱、あるいはコイルにおける発熱を発散し、局所的な温度上昇を抑える効果が得られる。
【0033】
図8に示す構造の磁気光学光変調素子を試作した。磁気光学膜により形成される変調エリアは、直径20μm、膜厚3μmである。銅めっきによる2層合計6ターンのコイルは、内周径30μmである。
【0034】
このような図8に示す構造の磁気光学光変調素子について、ファラデー回転角の変化を測定した。測定結果を図10に示す。測定波長は532nmである。横軸は電流であり、飽和したときの電流に対する比率を表し、縦軸はファラデー回転角であり、最大値に対する比率を表している。この磁気光学膜は、膜厚3μmでファラデー回転角は±15度変化する。−側から+側へ向かって電流を変えていった場合のファラデー回転角の変化(黒丸印でプロット)と、+側から−側へ向かって電流を変えていった場合のファラデー回転角の変化(白抜き三角印でプロット)のカーブが重なっており、ヒステリシスの無い変調が可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る磁気光学光変調素子の使用状態を示す説明図。
【図2】本発明に係る磁気光学光変調素子の一実施例を示す模式図。
【図3】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図4】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図5】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図6】2層形式のコイルにおける導電パターンの例を示す説明図。
【図7】磁気光学光変調素子の製造手順の一例を示す工程図。
【図8】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図9】本発明に係る磁気光学光変調素子の他の実施例を示す模式図。
【図10】電流に対するファラデー回転角の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0036】
10 磁気光学光変調素子
12 偏光子
13 検光子
14 磁気光学膜
16 コイル
18 非磁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路中で偏光子と検光子の間に位置し、光が膜面を垂直方向に透過する磁気光学膜と、該磁気光学膜に高周波磁界を印加するコイルとを具備し、該コイルによる高周波磁界によって光の進行方向に対する磁気光学膜の磁化方向を制御することにより、透過光の強度あるいは位相を変調する磁気光学光変調素子において、
前記磁気光学膜は非磁性基板上に成膜され且つ膜面内方向に磁化容易軸を有し、前記コイルは磁気光学膜の膜面に平行に前記非磁性基板と一体に形成され、それによって高周波磁界が磁気光学膜の磁化容易軸に対して垂直方向に印加されるようにしたことを特徴とする磁気光学光変調素子。
【請求項2】
コイルは、渦巻き状の導電パターンを偶数層、絶縁膜を介して積層し、パターン端部を順次直列となるように接続した構造であり、該コイルの両方の端末が、共に導電パターンの外周側から引き出されている請求項1記載の磁気光学光変調素子。
【請求項3】
磁気光学膜は、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている凹部に埋め込まれた状態で成膜されており、コイルも、その少なくとも一部が非磁性基板に形成されている渦巻き状の溝に埋め込まれた状態で形成されている請求項1又は2記載の磁気光学光変調素子。
【請求項4】
凹部に埋め込まれた状態で成膜されている磁気光学膜は、凹部周壁に接する外周部が除去され、それによって生じる磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に遮光性材料が埋め込まれている請求項3記載の磁気光学光変調素子。
【請求項5】
磁気光学膜と凹部周壁との間隙部に埋め込まれている遮光性材料が、コイル形成材料と同じ材料であり、周方向で複数の領域に区分されている請求項4記載の磁気光学光変調素子。
【請求項6】
磁気光学膜上に、透明熱伝導性材料膜が形成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の磁気光学光変調素子。
【請求項7】
非磁性基板上あるいはコイル上に、磁気光学膜上に形成したのと同じ透明熱伝導性材料膜が形成されている請求項6記載の磁気光学光変調素子。
【請求項8】
磁気光学膜上の透明熱伝導性材料膜は、多層誘電体膜であって、その光路長(屈折率×膜厚)が、入射光の1/4波長の奇数倍に設定されている請求項6又は7記載の磁気光学光変調素子。
【請求項9】
磁気光学膜が、非磁性基板上に液相エピタキシャル法で成膜され、900℃〜1200℃のトップ温度でアニール処理したBi置換鉄ガーネット単結晶膜である請求項1乃至8のいずれかに記載の磁気光学光変調素子。
【請求項10】
入射光は可視光であって、Bi置換鉄ガーネット単結晶膜は膜厚が1〜9μmであり、光入射面の面積を10000πμm2 以下とした請求項9記載の磁気光学光変調素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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