説明

磁気共鳴イメージング装置および計測プログラム

【課題】適正な計測領域内のピクセルに基づく正確な計測を行うことを可能とする。
【解決手段】ホスト計算機16は、複数の時相のそれぞれについて取得された複数のフロー画像に共通のROIを設定し、複数のフロー画像のROIに含まれた全てのピクセルのうちから正負の最大の流速を示すピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する。ホスト計算機16は、第1のピクセルを含む1つのフロー画像にて、第1のピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出するとともに、第2のピクセルを含む1つのフロー画像にて、第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出する。そしてホスト計算機16は、第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー画像を利用して脳脊髄液(CSF)などの移動体に含まれる核スピンの移動に関する特徴を表す数値を計測することによって上記の移動体の移動に関する特徴を表す数値を計測する磁気共鳴イメージング装置および計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
Phase Shift法(PS法)を用いたフロー画像を利用して、CSFの最大流速、平均流速、あるいは流量などを計測することが従来より行われている。
【0003】
CSFに関するこの種の計測は、一般的に中脳水道に着目して行われる。すなわち、頭部について撮像されたフロー画像のうちで中脳水道付近に設定されたROI(region of interest)の内側に存在するピクセルに基づいて、最大流速、平均流速、あるいは流量などを計測する。具体的には、ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速のうちの最大値として最大流速を計測できる。ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速の平均値として平均流速を計測できる。ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速の総和、あるいは平均値とROIの面積との積として流量を計測することができる。
【特許文献1】特開平7−308302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ROIは、ユーザによって設定される。しかしながら、頭部について撮像されたフロー画像上での中脳水道は非常に小さな領域であるため、中脳水道に正確に合致するROIを設定することは困難である。そこで、中脳水道を含んだ中脳水道よりも広い領域がROIとして設定されることが多い。
【0005】
このようにROIが設定された場合には、中脳水道以外の部位の情報が計測結果に加味されてしまうために、CSFに関する特徴を正しく表す計測結果を得ることができなかった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、より適正な計測領域内のピクセルに基づくことによってより正確な計測を行うことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による磁気共鳴イメージング装置は、核スピンの移動速度に応じたピクセル値をそれぞれ有した多数のピクセルを含むフロー画像を複数の時相のそれぞれについて取得する取得手段と、前記取得手段により取得される複数のフロー画像に共通の関心領域を設定する手段と、前記複数のフロー画像の前記関心領域に含まれた全ての関心ピクセルのうちから互いに異なる第1および第2のピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する選択手段と、前記複数のフロー画像のうちの前記第1のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第1のピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出する手段と、前記複数のフロー画像のうちの前記第2のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出する手段と、前記第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する決定手段と、前記複数のフロー画像の前記計測領域に含まれたピクセルのピクセル値に基づいて前記核スピンの移動に関する特徴を表す数値を計測する計測手段とを備える。
【0008】
本発明の第1の態様による計測プログラムは、磁気共鳴イメージング装置の動作を制御する計算機を、核スピンの移動速度に応じたピクセル値をそれぞれ有した多数のピクセルを含むフロー画像を複数の時相のそれぞれについて取得する取得手段と、前記取得手段により取得される複数のフロー画像に共通の関心領域を設定する手段と、前記複数のフロー画像の前記関心領域に含まれた全ての関心ピクセルのうちから互いに異なる第1および第2のピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する選択手段と、前記複数のフロー画像のうちの前記第1のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第1のピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出する手段と、前記複数のフロー画像のうちの前記第2のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出する手段と、前記第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する決定手段と、前記複数のフロー画像の前記計測領域に含まれたピクセルのピクセル値に基づいて前記核スピンの移動に関する特徴を表す数値を計測する計測手段として機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より適正な計測領域内のピクセルに基づくことによってより正確な計測を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
図1は本実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)100の概略構成を示す図である。
【0012】
このMRI装置100は、被検体200を載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロールおよび画像再構成を担う制御・演算部とを備えている。そしてMRI装置100はこれらの各部の構成要素として、磁石1、静磁場電源2、傾斜磁場コイルユニット6、傾斜磁場電源7、シーケンサ(シーケンスコントローラ)5、ホスト計算機16、RFコイルユニット8、送信器9T、受信器9R、演算ユニット11、記憶ユニット12、表示器13、入力器14、シムコイル3、シムコイル電源4および音声発生器15を有する。またMRI装置100には、被検体200の心時相を表す信号としてのECG信号を計測する心電計測部が接続されている。
【0013】
静磁場発生部は、磁石1と静磁場電源2とを含む。磁石1としては、例えば超電導磁石や常電導磁石が利用可能である。静磁場電源2は、磁石1に電流を供給する。かくして静磁場発生部は、被検体200が送り込まれる円筒状の空間(診断用空間)の中に静磁場H0を発生させる。この静磁場H0の磁場方向は、診断用空間の軸方向(Z軸方向)にほぼ一致する。静磁場発生部には、さらにシムコイル3が設けられている。このシムコイル3は、ホスト計算機16の制御下でのシムコイル電源4からの電流供給によって静磁場均一化のための補正磁場を発生する。
【0014】
寝台部は、被検体200を載せた天板5を、診断用空間に送り込んだり、診断用空間から抜き出したりする。
【0015】
傾斜磁場発生部は、傾斜磁場コイルユニット6および傾斜磁場電源7を含む。傾斜磁場コイルユニット6は、磁石1の内側に配置される。傾斜磁場コイルユニット6は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のそれぞれの傾斜磁場を発生させるための3組のコイル6x,6y,6zを備える。傾斜磁場電源7は、シーケンサ10の制御の下で、コイル6x、コイル6yおよびコイル6zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。傾斜磁場発生部は、傾斜磁場電源7からコイル6x,6y,6zに供給するパルス電流を制御することにより、物理軸である3軸(X軸,Y軸,Z軸)方向のそれぞれの傾斜磁場を合成して、互いに直交するスライス方向傾斜磁場GS、位相エンコード方向傾斜磁場GE、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場GRから成る論理軸方向のそれぞれの傾斜磁場を任意に設定する。スライス方向、位相エンコード方向および読出し方向の各傾斜磁場GS、GE、GRは、静磁場H0に重畳される。
【0016】
送受信部は、RFコイルユニット8、送信器9Tおよび受信器9Rを含む。RFコイルユニット8は、診断用空間にて被検体200の近傍に配置される。送信器9Tおよび受信器9Rは、RFコイルユニット8に接続さる。送信器9Tおよび受信器9Rは、シーケンサ10の制御の下で動作する。送信器9Tは、核磁気共鳴(NMR)を生じさせるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイルユニット8に供給する。受信器9Rは、RFコイルユニット8が受信したエコー信号などのMR信号(高周波信号)を取り込み、これに前置増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅、あるいはフィルタリングなどの各種の信号処理を施した後、A/D変換してデジタルデータ(生データ)を生成する。
【0017】
制御・演算部は、シーケンサ10、演算ユニット11、記憶ユニット12、表示器13、入力器14、音声発生器15およびホスト計算機16を含む。
【0018】
シーケンサ10は、CPUおよびメモリを備えている。シーケンサ10は、ホスト計算機16から送られてきたパルスシーケンス情報をメモリに記憶する。シーケンサ10のCPUは、メモリに記憶したシーケンス情報にしたがって、傾斜磁場電源7、送信器9Tおよび受信器9Rの動作を制御するとともに、受信器9Rが出力した生データを一旦入力し、これを演算ユニット11に転送する。ここで、シーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源7、送信器9Tおよび受信器9Rを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばコイル6x,6y,6zに印加するパルス電流の強度、印加時間および印加タイミングなどに関する情報を含む。シーケンス情報には、SE_EPIシーケンスによる拡散強調撮像を実現するためのものが含まれる。
【0019】
演算ユニット11は、受信器9Rが出力した生データを、シーケンサ10を通して入力する。演算ユニット11は、入力した生データを、内部メモリに設定したk空間(フーリエ空間または周波数空間とも呼ばれる)に配置し、このk空間に配置されたデータを2次元または3次元のフーリエ変換に付して実空間の画像データに再構成する。また演算ユニット11は、画像に関するデータの合成処理や差分演算処理(重付け差分処理も含む)も必要に応じて実行可能である。この合成処理には、ピクセル毎にピクセル値を加算する処理や、最大値投影(MIP)処理などが含まれる。また、上記合成処理の別の例として、フーリエ空間上で複数フレームの軸の整合をとった上で、これら複数フレームの生データを合成して1フレームの生データを得てもよい。なお、加算処理には、単純加算処理、加算平均処理、あるいは重み付け加算処理などが含まれる。
【0020】
記憶ユニット12は、再構成された画像データや、上述の合成処理や差分処理が施された画像データを記憶する。
【0021】
表示器13は、ユーザに提示するべき各種の画像をホスト計算機16の制御の下に表示する。表示器13としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
【0022】
入力器14は、操作者が希望する同期タイミング選択用のパラメータ情報、スキャン条件、パルスシーケンス、画像合成や差分の演算に関する情報などの各種の情報を入力する。入力器14は、入力した情報をホスト計算機16に送る。入力器14としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に備える。
【0023】
音声発生器15は、ホスト計算機16から指令があったときに、息止め開始および息止め終了のメッセージを音声として発する。
【0024】
ホスト計算機16は、計測プログラムとして予め定められたソフトウエア手順を実行することにより実現される各種の機能を有している。この機能の1つは、シーケンサ10にパルスシーケンス情報を指令するとともに、装置全体の動作を統括する。上記の機能の1つは、複数の時相のそれぞれに関する複数の位相画像に共通のROIを設定する。上記の機能の1つは、複数の位相画像のROIに含まれた全てのピクセルのうちから正および負の最大流速を示すピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する。上記の機能の1つは、第1のピクセルを含む1つの位相画像にて、第1のピクセルのピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出し、この第1の領域を表す第1のマスクデータを作成する。上記の機能の1つは、第2のピクセルを含む1つの位相画像にて、第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出し、この第2の領域を表す第2のマスクデータを作成する。上記の機能の1つは、第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する。上記の機能の1つは、複数の位相画像の計測領域に含まれたピクセルのピクセル値に基づいてCSFの最大流速、平均流速および総流量を計測する。
【0025】
心電計測部は、ECGセンサ17およびECGユニット18を含む。ECGセンサ17は、被検体200の体表に付着されており、被検体200のECG信号を電気信号(以下、センサ信号と称する)として検出する。ECGユニット18は、センサ信号にデジタル化処理を含む各種の処理を施した上で、ホスト計算機16およびシーケンサ10に出力する。この心電計測部としては、例えばベクトル心電計を用いることができる。この心電計測部によるセンサ信号は、被検体200の心時相に同期したスキャンを実行するときにシーケンサ10にて必要に応じて用いられる。
【0026】
次に以上のように構成されたMRI装置100の動作について説明する。
【0027】
図2はCSFの流速測定のためのホスト計算機16の処理を表すフローチャートである。
【0028】
ステップSa1においてホスト計算機16は、位相画像の撮像をシーケンサ10および演算ユニット11に指示する。この指示に応じてシーケンサ10は、位相画像の再構成に必要な生データを収集するためのスキャンを例えば周知の手順で実行する。このスキャンは、ECGユニット18の計測結果に従って、心電同期により複数の時相に関して行われる。なお、心電同期に代えて、脈波同期を行っても良い。また演算ユニット11は、シーケンサ10により収集された生データに基づく位相画像の再構成を例えば周知の手順で実行する。これにより、例えば基準時相からの遅延時間が0〜700msecまでの50msec間隔の15時相にそれぞれ関する15枚の位相画像が得られる。なお、ここでの撮像は、中脳水道の断面画像が位相画像中に含まれるようなスライス面について行われる。
【0029】
ステップSa2においてホスト計算機16は、撮像された複数の位相画像のうちの操作者により選択されたものとGUI(graphical user interface)とを含めた画面を表示器13に表示させる。図3はここで表示する画面の一例を示す図である。図3において、左側の画像がGUIであり、右側の画像が位相画像である。ただし図3に示す位相画像は、図面上での視認性の向上のために、実際に表示される画像に対して白黒反転して表している。
【0030】
ステップSa3においてホスト計算機16は、位相画像上にROIを設定する。このROIの設定は、通常は操作者による操作に応じて行われるが、例えば解剖学的な構造を表した別の画像を参照するなどして自動的に行っても良い。操作者による操作に応じてROIを設定する場合にホスト計算機16は、任意の形状およびサイズの枠線301を操作者による操作に応じて位相画像上の任意の位置に配置しておき、GUIに設けられたRunボタン302が押下された際の枠線301の内部に相当する領域をROIとして設定する。なお操作者は、中脳水道が描出されている領域を含むようにROIを指定する。ROIは、中脳水道の周囲の領域を含んでいて構わない。
【0031】
ステップSa4においてホスト計算機16は、全ての時相の位相画像のそれぞれについて、ROI内で最大流速、平均流速および総流量を計測する。ここでの計測は、従来と同様にして行われる。すなわち、ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速のうちの最大値として最大流速を計測する。ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速の平均値として平均流速を計測する。ROI内の各ピクセルがそれぞれ表す流速の総和、あるいは平均値とROIの面積との積として総流量を計測する。なお、ここでは中脳水道におけるCSFの動きを観測しているから、各ピクセルがそれぞれ表す流速は、正負のいずれの値をも取り得る。
【0032】
ステップSa5においてホスト計算機16は、ステップSa4での計測の結果とGUIとを含めた画面を表示器13に表示させる。図4はここで表示する画面の一例を示す図である。図4において、左側の画像がGUIであり、右側の画像が計測結果を表した画像である。図4ではラジオボタン313がオンされていることにより、ホスト計算機16は総流量(Net Flux)についての計測結果を表した画像を表示させている。ラジオボタン311がオンされたときには、ホスト計算機16は平均流速(Mean Velocity)についての計測結果を表した画像を表示するように画面を更新させる。またラジオボタン312がオンされたときには、ホスト計算機16は最大流速(Peak Velocity)についての計測結果を表した画像を表示するように画面を更新させる。そしてこのような画面を表示させた状態においてホスト計算機16は、上記の様な画面の更新のための処理とは別に、ステップSa6およびステップSa7において、CSF分析の実行が要求されるか、あるいは終了指示がなされるのを待ち受ける。
【0033】
上記のように表示された測定結果であっても、CSFの特徴をある程度は把握することが可能である。しかしながら、ROIに中脳水道の周囲の領域を多く含んでいる場合には、その中脳水道以外の領域の影響により、測定結果に大きな誤差が生じていることがある。
【0034】
上記のように表示された測定結果で十分である場合には、操作者は表示中の画面に設けられたクローズボタン314,315を押下するなどして終了指示を行う。そうするとホスト計算機16はステップSa7から待ち受け状態を抜け、当該処理を終了する。しかしながら、より正確な測定結果を望む場合には、操作者は表示中の画面に設けられたチェックボックス316をチェックするなどしてCSF分析の実行を要求する。そうするとホスト計算機16は、ステップSa6からステップSa8へ進む。
【0035】
ステップSa8においてホスト計算機16は、ROI内に関して、正の最大流速を示すピクセル値を持ったピクセルの1つを第1のピクセルとして選択する。ステップSa9においてホスト計算機16は、第1のマスクデータを作成する。第1のマスクデータは、第1のピクセルを含む位相画像にて、第1のピクセルのピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび第1のピクセルが連続して存在する第1の領域内の各ピクセルのピクセル値を「1」とし、その他の各ピクセルのピクセル値を「0」として表したデータである。この第1のマスクデータの作成は、例えば次のような処理により行われる。(1)第1のピクセルを含んだ位相画像を、第1の閾値によって2値化する。(2)2値化された画像から、ピクセル値「1」のピクセルが複数連続して存在するとともに第1のピクセルを含んだピクセル群を検出する。(3)検出されたピクセル群から離れて存在するピクセル値「1」のピクセルのピクセル値を全て「0」に置換する。
【0036】
ステップSa10においてホスト計算機16は、ROI内に関して、負の最大流速を示すピクセル値を持ったピクセルの1つを第2のピクセルを選択する。ステップSa11においてホスト計算機16は、第2のマスクデータを作成する。第2のマスクデータは、第2のピクセルを含む位相画像にて、第2のピクセルのピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび第2のピクセルが連続して存在する第2の領域内の各ピクセルのピクセル値を「1」とし、その他の各ピクセルのピクセル値を「0」として表したデータである。この第2のマスクデータの作成は、第1のマスクデータの作成と同様に行うことができる。
【0037】
なお、第1および第2の閾値は、互いに異なっていても良いし、同一であっても良い。第1および第2の閾値は、例えば第1および第2のピクセルのピクセル値の40%の値とすることが考えられる。つまりこの場合には、第1および第2のマスクデータにおいてピクセル値が「1」とされるピクセルは、第1および第2のピクセルのピクセル値の60%以上のピクセル値を有していたピクセルとなる。第1および第2の閾値は、一定の値であっても良いし、操作者により任意に指定される値であっても良い。
【0038】
ステップSa12においてホスト計算機16は、第1および第2のマスクデータのいずれでもピクセル値が「1」である領域を候補領域として決定する。
【0039】
ステップSa13においてホスト計算機16は、計測領域の決定に関して自動モードが設定されているか否かを確認する。なお自動モードの設定/非設定は、操作者により任意に選択される。自動モードの設定/非設定の操作者による選択は、図2に示す処理の開始以前の任意のタイミングで行われていても良いし、ステップSa13の実行タイミングにて行われても良い。
【0040】
自動モードが設定されていない場合、ホスト計算機16はステップSa13からステップSa14へ進む。ステップSa14においてホスト計算機16は、編集画面を表示器13に表示させる。図5はここで表示する編集画面の一例を示す図である。この編集画面は、図3に示した画面上にこの画面に示された枠線301を隠さないように編集ウィンドウ321を配置して構成される。編集ウィンドウ321には、ROIおよびその周辺の拡大画像322が含まれる。そして拡大画像322中には、候補領域を示す枠線323が表される。ただし図5に示す拡大画像は、図面上での視認性の向上のために、実際に表示される画像に対して白黒反転して表している。そして編集画面を表示させた状態でホスト計算機16は、ステップSa15およびステップSa16において、確定指示または変更指示がなされるのを待ち受ける。
【0041】
候補領域を変更したい場合に操作者は、枠線323を変形させる操作を行う。そうするとホスト計算機16はステップSa16からステップSa17へ進む。ステップSa17においてホスト計算機16は、操作者による操作に応じて、枠線323を変形させるとともに、この枠線323の内部を候補領域とするように変更する。そしてこののちにホスト計算機16は、ステップSa15およびステップSa16の待ち受け状態に戻る。
【0042】
枠線323により表された候補領域が所望の状態であるときに操作者は、編集画面に設けられたOKボタン324を押下するなどして確定指示を行う。そうするとホスト計算機16はステップSa15からステップSa18へ進む。なお、自動モードが非設定であった場合には、ホスト計算機16は、ステップSa15〜ステップSa17を行うことなしに、ステップSa13からステップSa18へ移行する。ステップSa18においてホスト計算機16は、その時点での候補領域を計測領域として決定する。
【0043】
ステップSa19においてホスト計算機16は、全ての時相の位相画像のそれぞれについて、計測領域内で最大流速、平均流速および総流量を計測する。そしてステップSa20においてホスト計算機16は、ステップSa19での計測の結果とGUIとを含めた画面を表示器13に表示させる。図6はここで表示する画面の一例を示す図である。図6において、左側の画像がGUIであり、右側の画像が計測結果を表した画像である。図6ではラジオボタン312がオンされていることにより、ホスト計算機16は最大流速についての計測結果を表した画像を表示させている。ホスト計算機16は、ステップSa4と同様に、ラジオボタン311〜313の状態に応じて画面を更新する。そしてこのような画面を表示させた状態においてホスト計算機16は、画面の更新のための処理とは別に、ステップSa21において、終了指示がなされるのを待ち受ける。
【0044】
なお、図4または図6に示す画面を表示しているときに、セーブボタン317を押下する操作が操作者によって行われたならば、ホスト計算機16は表示中の画面をキャプチャ画像として保存する。
【0045】
操作者は測定結果を確認し終えたならば、表示中の画面に設けられたクローズボタン314,315を押下するなどして終了指示を行う。そうするとホスト計算機16はステップSa21から待ち受け状態を抜け、当該処理を終了する。
【0046】
以上のように本実施形態によれば、CSFの動きが相対的に最も大きいピクセル位置と、その周辺のCSFの動きがある程度に大きいピクセル位置とからなる領域が候補領域として決定される。そして自動モードが設定されているときには、この候補領域がそのまま計測領域に設定され、この計測領域内で最大流速、平均流速および総流量が計測される。従って、ステップSa3におけるROIの操作者による指定が大雑把に行われたとしても、中脳水道である可能性の高い計測領域に対象を絞って最大流速、平均流速および総流量の計測を行うことができ、より正確な計測を行うことが可能である。
【0047】
また、自動モードが非設定であるときには、候補領域を操作者が編集して計測領域を決定することができる。従って、操作者のニーズに応じた計測領域についての計測を行うことが可能である。そして、操作者は自動的に決定された候補領域を編集する操作を行うのみであるから、ステップSa3におけるROIの指定を詳細に行う場合に比べて操作者の負担は大幅に軽減される。
【0048】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
【0049】
血液などの別の移動体を計測の対象とすることも可能である。なお血液の場合はCSFとは異なり一方向への流れである。このような一方向に移動する移動体を計測の対象とする場合には、最大の移動速度を示すピクセル値を持つピクセルを第1のピクセルとし、当該第1のピクセルのみを使用する。すなわち、ステップSa10およびステップSa11の処理を省略し、ステップSa12においては第1のマスクデータにおいてピクセル値が「1」である領域を候補領域として決定すれば良い。なお、CSFのような双方向に移動する移動体についても、いずれか一方向に付いての移動速度に基づいて決定した第1のピクセルのみを使用して、上記のように処理することも可能である。
【0050】
第1および第2のピクセルは、最大または最小のピクセル値ではない任意のピクセル値を持つピクセルとしても良い。例えば、最大のピクセル値より若干小さなピクセル値を持つピクセルを第1または第2のピクセルとしても良い。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態にかかる磁気共鳴イメージング装置100の概略構成を示す図である。
【図2】CSFの流速測定のための図1中のホスト計算機16の処理を表すフローチャート。
【図3】図2中のステップSa2において表示する画面の一例を示す図。
【図4】図2中のステップSa5において表示する画面の一例を示す図。
【図5】図2中のステップSa14において表示する編集画面の一例を示す図。
【図6】図2中のステップSa19において表示する画面の一例を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1…磁石、2…静磁場電源、3…シムコイル、4…シムコイル電源、5…天板、6x,6y,6z…コイル、6…傾斜磁場コイルユニット、7…傾斜磁場電源、8…RFコイルユニット、9R…受信器、9T…送信器、10…シーケンサ、11…演算ユニット、12…記憶ユニット、13…表示器、14…入力器、15…音声発生器、16…ホスト計算機、100…磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)、200…被検体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核スピンの移動速度に応じたピクセル値をそれぞれ有した多数のピクセルを含むフロー画像を複数の時相のそれぞれについて取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される複数のフロー画像に共通の関心領域を設定する手段と、
前記複数のフロー画像の前記関心領域に含まれた全ての関心ピクセルのうちから互いに異なる第1および第2のピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する選択手段と、
前記複数のフロー画像のうちの前記第1のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第1のピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出する手段と、
前記複数のフロー画像のうちの前記第2のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出する手段と、
前記第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する決定手段と、
前記複数のフロー画像の前記計測領域に含まれたピクセルのピクセル値に基づいて前記核スピンの移動に関する特徴を表す数値を計測する計測手段とを具備したことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記取得手段は、往復運動する前記核スピンの移動速度に応じたピクセル値を各ピクセルについて取得し、
前記選択手段は、前記関心ピクセルのピクセル値のうちで前記核スピンの往方向および復方向のそれぞれについての最大のピクセル値を前記第1および第2のピクセル値とすることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記取得手段は、脳脊髄液に含まれる核スピンの移動速度に応じたピクセル値を各ピクセルについて取得することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記取得手段は、片方向運動する前記核スピンの移動速度に応じたピクセル値を各ピクセルについて取得し、
前記選択手段は、前記関心ピクセルのピクセル値のうちで最大および最小のピクセル値を前記第1および第2のピクセル値とすることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記取得手段は、血液に含まれる核スピンの移動速度に応じたピクセル値を各ピクセルについて取得することを特徴とする請求項4に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記決定手段は、前記第1および第2の領域が互いに重複する領域を前記計測領域として決定することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記決定手段は、
前記第1および第2の領域に基づいて定まる候補領域を表示する手段と、
ユーザによる変更指示に応じて前記候補領域を変更する手段と、
ユーザによる確定指示がなされたときにおける前記候補領域を前記計測領域として決定する手段とを具備したことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記計測手段は、最大流速、平均流速および流量のうちの少なくとも1つを計測することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
磁気共鳴イメージング装置の動作を制御する計算機を、
核スピンの移動速度に応じたピクセル値をそれぞれ有した多数のピクセルを含むフロー画像を複数の時相のそれぞれについて取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される複数のフロー画像に共通の関心領域を設定する手段と、
前記複数のフロー画像の前記関心領域に含まれた全ての関心ピクセルのうちから互いに異なる第1および第2のピクセル値を持つ第1および第2のピクセルを1つずつ選択する選択手段と、
前記複数のフロー画像のうちの前記第1のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第1のピクセル値との差が第1の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第1のピクセルが連続して存在する第1の領域を検出する手段と、
前記複数のフロー画像のうちの前記第2のピクセルを含む1つのフロー画像にて、前記第2のピクセル値との差が第2の閾値未満であるピクセル値を有したピクセルおよび前記第2のピクセルが連続して存在する第2の領域を検出する手段と、
前記第1および第2の領域に基づいて計測領域を決定する決定手段と、
前記複数のフロー画像の前記計測領域に含まれたピクセルのピクセル値に基づいて前記核スピンの移動に関する特徴を表す数値を計測する計測手段として機能させることを特徴とする計測プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−245977(P2008−245977A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91781(P2007−91781)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】