説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 より好適に傾斜磁場コイルを冷却することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】 一部が傾斜磁場コイル(2)に近接され、中に冷媒を流すことにより傾斜磁場コイル(2)に発生した熱を冷却する冷媒流路(6)と、冷媒流路(6)の途中に設けられ冷媒流路(6)内に流す冷媒を循環させる循環ポンプ(4)を備えた磁気共鳴イメージング装置において、冷媒流路(6)の途中に設けられ冷媒流路(6)内を流れる冷媒が傾斜磁場コイルの発する熱によって気化するように冷媒流路内の圧力を調整する圧力調整弁(3)と、冷媒流路(6)の途中に設けられ傾斜磁場コイル(2)に発生した熱によって冷媒流路(6)内で気化された冷媒を再び液体に戻す復水器(5)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という。)に係り、特に、傾斜磁場コイルの好適な冷却技術に関する。
【0002】
MRI装置は、均一な静磁場内に置かれた被検者に電磁波を照射したときに、被検者を構成する原子の原子核に生じる核磁気共鳴現象を利用し、被検者からの核磁気共鳴信号(以下、NMR信号という。)を検出し、このNMR信号を使って画像を再構成することにより、被検者の物理的性質をあらわす磁気共鳴画像(以下、MR画像という。)を得るものである。このイメージングの位置情報を与えるために、静磁場に重畳して傾斜磁場が印加される。
【0003】
MRI装置は、装置を設置した検査室内に、被検者の水素原子核(プロトン)のスピンの向きを整列させるための静磁場を計測空間内に発生するための静磁場発生源と、被検者の位置情報を与えるために、X,Y,Zの3軸方向に位置エンコーディングを行う3チャンネルの傾斜磁場コイルと、プロトンの共鳴周波数をもつ電磁波を放射する高周波送信コイルと、プロトンからのNMR信号を受信する高周波受信コイルと、更に、発生する静磁場および傾斜磁場を補正するためのシムコイルなどを備えている。
【0004】
通常3チャンネルの傾斜磁場コイルはFRP(繊維補強樹脂)などで作られた絶縁性の保持部材に収容され一体化されていて、静磁場発生装置の発生する静磁場内に配置される。これらの傾斜磁場コイルは静磁場の方向によって形状が異なり、静磁場方向が被検体の体軸方向と平行な場合には円筒状の傾斜磁場コイルが、静磁場方向が被検体の体軸方向と直交する方向の場合には平板状の傾斜磁場コイルが一般的に採用されている。
【0005】
また、3チャンネルの傾斜磁場コイルはそれぞれが電源装置に接続され、MRI装置の検査条件に応じて、適当なタイミング及び電圧で電源装置によってパルス状電流が印加され、駆動される。近年、より短時間に高S/Nの画像を得るために、大電流を供給することができる電源を用いて傾斜磁場を発生させる事が多くなってきた。傾斜磁場コイルに供給する電流量が大きい場合、傾斜磁場コイルから発生する熱量は電流量の2乗に比例して増大する。傾斜磁場コイルから発生する熱量が増大すると、被検体の収容空間の温度上昇をきたしたり、静磁場均一度の悪化や静磁場発生源の容器の温度上昇を招くことになる。従って、従来よりMRI装置には傾斜磁場コイルを冷却するための水冷方式や空冷方式の冷却手段が組み込まれている。
【0006】
傾斜磁場コイルの発生する熱量を冷やす水冷方式の従来技術として、特許文献1に記載されたものがある。本方式は、中空のコイル導体や、冷却専用のパイプの中に水を流し、傾斜磁場コイルの熱を外へ逃がそうというものであるため、構造的には比較的容易に実現できる。
【特許文献1】特開2001-149337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本方式は冷媒としての水の温度上昇を用いて熱を逃がすという原理であるため、冷媒入口と出口での温度の差が生じてしまう、あるいは傾斜磁場コイルへの通電時と非通電時に温度差が生じてしまうといった問題があった。例えば、傾斜磁場コイルからの発熱量が10KWである場合を仮定した場合、10 l/minの水を用いて熱を引き出そうとすると、入口と出口での温度差は14.25℃以上となってしまう。また、冷却水の温度を発熱量にあわせて細かく制御するのは困難であるので、例えば、傾斜磁場コイルへの通電時と非通電時との温度差が14.25℃程度生じてしまう。このような空間的、時間的な温度の変化あるいは変動が、傾斜磁場コイルに近接して配置された永久磁石や鉄シム等の、温度に依存して発生する磁場の特性が変わるものに伝わると、静磁場に空間的あるいは時間的な歪みが生じてしまうという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、より好適に傾斜磁場コイルを冷却することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の特徴によれば、一部が傾斜磁場コイルに近接され、中に冷媒を流すことにより前記傾斜磁場コイルに発生した熱を冷却する冷媒流路と、前記冷媒流路の途中に設けられ前記冷媒流路内に流す冷媒を循環させる循環手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記冷媒流路の途中に設けられ前記冷媒流路内を流れる冷媒が傾斜磁場コイルの発する熱によって気化するように冷媒流路内の圧力を調整する圧力調整手段と、前記冷媒流路の途中に設けられ前記傾斜磁場コイルに発生した熱によって冷媒流路内で気化された冷媒を再び液体に戻す手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【0010】
本発明の第2の特徴によれば、前記冷媒流路の一部で前記傾斜磁場コイルに近接された部分には、前記冷媒を溜めるためるための容器が接続されていることを特徴とする本発明の第1の特徴を併せ持つ磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より好適に傾斜磁場コイルを冷却することが可能な磁気共鳴イメージング装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、一般的なMRI装置のシステム構成を図4により詳細に説明する。
被検体の配置される空間に静磁場を発生する静磁場発生源1と、該空間に傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル2と、該空間に高周波磁場を発生する送信コイル11と被検体が発生するMR信号を検出する受信コイル12がある。傾斜磁場コイル2は、X,Y,Zの3方向の傾斜磁場コイルで構成され、傾斜磁場電源13からの信号に応じてそれぞれ傾斜磁場を発生する。送信コイル11はシンセサイザ14によって制御されるRFアンプ15からの信号に応じて高周波磁場を発生する。受信コイル12で検出した信号は、プリアンプ16で増幅されてからさらにRF増幅器17で増幅されてA/D変換器18で変換されて画像処理装置19にとりこまれ、画像処理装置19における計算により画像信号に変換される。画像信号はモニタ20によって表示される。傾斜磁場電源13、シンセサイザ14はシーケンサ21によって制御され、制御のタイムチャートは一般にパルスシーケンスと呼ばれている。現在MRIの撮影対象は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質、プロトンである。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和現象の空間分布を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮影する。
【0013】
次に、撮影方法を説明する。傾斜磁場により異なる位相エンコードを与え、それぞれの位相エンコードで得られるエコー信号を検出する。位相エンコードの数は通常1枚の画像あたり128,256,512等の値が選ばれる。各エコー信号は通常128,256,512,1024個のサンプリングデータからなる時系列信号として得られる。これらのデータを2次元フーリエ変換して1枚のMR画像を作成する。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の実施例1を図1を用いて具体的に説明する。ただし、図1では、説明のために最低限必要な構成部品のみ示す。1はMRI装置における静磁場を発生させる静磁場発生源であり、これに沿って傾斜磁場コイル2が配置されている。傾斜磁場コイル2は少なくともx,y, zの3方向の傾斜磁場を発生させる3チャンネルのコイルを含み、それぞれは図示していない傾斜磁場電源と接続されて、MR撮影を行う際にはパルス状の電流が通電される。
【0015】
本実施例では、傾斜磁場コイル2内と圧力調整弁3と循環ポンプ4と復水器5を回るように冷媒流路6が形成されている。圧力調整弁3は冷媒流路6内の圧力を調整するためのものであり、循環ポンプ4は冷媒流路6内の冷媒を循環させるような働きをするためのポンプであり、復水器5は気化した液体を再度液体に戻すためのものである。更に本実施例では、圧力調整弁3には真空ポンプ7が接続されていて、それらにより冷媒流路6内の気圧を低くする。これにより、冷媒流路6内に流される冷媒の相変化温度を通常より低くする。例えば、冷媒が水であれば通常液体から気体への相変化の温度は約100℃であるが、本実施例では、それより低く50℃ぐらいになるように冷媒流路6内の圧力を調整するとよい。なお、流される冷媒の量と冷媒流路内の圧力は傾斜磁場コイルの発熱量によって適宜決められる。そのため、傾斜磁場コイル2内の冷媒流路の冷媒入口と冷媒入口の近傍には温度センサ8a,8bを設け、その出力をコントローラ9へ入力し、コントローラ9が温度センサ8a,8bの出力に基いて、圧力調整弁3、循環ポンプ4、真空ポンプを制御するようにするとよい。この制御方法としては、傾斜磁場コイル2内の冷媒入口と冷媒出力との間の全ての経路において、冷媒の気化が生じるようにする。
【0016】
冷媒流路6は、図示されているように、傾斜磁場コイル内に近い「蒸発部」と、復水器内に近い「凝縮部」と、蒸発部と凝縮部を結ぶ「断熱部」とで構成し、「蒸発部」では傾斜磁場コイルから伝わってくる熱によって冷媒が液体から気体へ蒸発され、「凝縮部」では蒸発された気体が液体へと戻されるようになっている。本実施例では、冷媒流路6内に流される冷媒が液体から気体へ相変化して気化熱により傾斜磁場コイルの発生する熱を冷却するので、傾斜磁場コイル側で最も温度が高いところと復水器側で最も温度が低いところの温度差を小さくすることができる。また、傾斜磁場コイルの通電時と非通電時の温度差もほとんど生じなくなる。
【0017】
本実施例において、圧力調整弁3と循環ポンプ4と復水器5と真空ポンプ7は、MR撮影に影響がないようにシールドルームの外に配置するのが望ましい。また、冷媒流路6は陰圧の下で冷媒を流すために固い管が適当であり、更に「蒸発部」及び「凝縮部」では外部との間で熱のやりとりをするので熱伝導性の良いものが適当であり、例えば銅パイプが望ましい。更に銅パイプを冷媒流路6の一部として用いた場合等には、外部との間で接触する部分には熱伝導性の良い接着剤、樹脂等を用いることが望ましい。また、特許文献1で示されているように、中空のコイル導体の中を冷媒流路として用いて、傾斜磁場コイル導体と冷媒流路とを兼ねても良いし、専用の冷媒流路を別に設ける方式でも良い。
【0018】
冷媒としては、傾斜磁場コイルの動作温度で加圧、もしくは減圧した場合、気化するような冷媒であればどのようなものでも使用可能である。例えば、水以外に、アンモニア、アルコール、フロンなどが使用可能である。ただし、傾斜磁場コイルの動作温度で加圧することにより沸騰するような液体を用いる場合には、図1で真空ポンプの代わりに加圧ポンプを用いる。例えば水を冷媒として用いた場合、傾斜磁場コイル動作時の上昇温度が25℃の場合、この温度で沸騰させるためには3/100気圧程度に減圧すればよい。この時、蒸発潜熱は約583kcal/kgなので、10KWの熱を引き出すためには0.25 l/minぐらいの量の水を循環させれば十分である。
【0019】
復水器としては、汎用の熱交換機を用いる事ができる。例えば、空冷式の熱交換機を用いることも可能である。また、図2の様に復水器を2段構造(5aと5b)とする事も可能である。図2の様に2段とした場合、2段目の冷媒流路6b内は減圧した冷媒を用いる必要が無く、また、冷媒流路6b側は汚れに敏感な循環ポンプを用いる必要がない場合がある。冷媒流路6b側に汚れに敏感な循環ポンプを用いない場合には、冷媒流路6b側は比較的汚れた冷媒を用いても良いといった利点がある。
【実施例2】
【0020】
次に、本発明の実施例2を図2を用いて具体的に説明する。実施例2では傾斜磁場コイル内に冷媒流路がパイプ状に配置されているのではなく、傾斜磁場コイル内に冷媒溜り8を設け、ここに冷媒が蓄えられるようにしたものである。このような場合でも、真空ポンプ7を用いて減圧することにより、冷媒溜り8は傾斜磁場コイルが動作した場合に上昇する程度の温度付近で沸騰することになり、実施例1と同様の効果が得られる。
【0021】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施できる。例えば、本発明の原理は、傾斜磁場コイルの形状によらず適用が可能であり、現在、使用されている円筒型、平板型に限らず、任意の形状の傾斜磁場コイルに対して適用可能である。メインコイル、シールドコイルを備えたアクティブシールド型傾斜磁場コイルであっても適用可能であるし、シールドコイルを備えない傾斜磁場コイルであっても適用可能であることは言うまでもない。また、冷媒流路の近傍に設けるセンサとしては温度センサのみならず、圧力センサも設ければ、圧力を調整するために更に好適になることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1を説明するための図。
【図2】復水器を2段構造とした図。
【図3】本発明の実施例2を説明するための図。
【図4】MRI装置のシステム構成図。
【符号の説明】
【0023】
1 静磁場発生源
2 傾斜磁場コイル
3 圧力調整弁
4 循環ポンプ
5 復水器
6 冷媒流路
7 真空ポンプ
8 温度センサ
9 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部が傾斜磁場コイルに近接され、中に冷媒を流すことにより前記傾斜磁場コイルに発生した熱を冷却する冷媒流路と、前記冷媒流路の途中に設けられ前記冷媒流路内に流す冷媒を循環させる循環手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、前記冷媒流路の途中に設けられ前記冷媒流路内を流れる冷媒が傾斜磁場コイルの発する熱によって気化するように冷媒流路内の圧力を調整する圧力調整手段と、前記冷媒流路の途中に設けられ前記傾斜磁場コイルに発生した熱によって冷媒流路内で気化された冷媒を再び液体に戻す手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記冷媒流路の一部で前記傾斜磁場コイルに近接された部分には、前記冷媒を溜めるためるための容器が接続されていることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−43077(P2006−43077A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227457(P2004−227457)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】