説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】 3次元血流画像の計測時間を短縮、画質の劣化を低減する。
【解決手段】 静磁場発生コイルと、傾斜磁場発生コイルと、高周波磁場発生コイルと、受信コイルと、傾斜磁場電源と、高周波磁場電源と、寝台と、傾斜磁場発生コイル、高周波磁場発生コイル、および受信コイルの動作を制御する制御ユニットと、操作卓より構成される磁気共鳴装置において、撮影したい領域を少なくとも2個の異なる方向から投影し、前記投影データから少なくとも2つの2次元画像を再構成し、前記各々の2次元画像の画素の各々を血流信号または背景信号に分類し、前記各々の2次元画像の画素を前記各々の投影方向に分解した3次元画像の画素に配分し、前記3次元画像の画素の配分を、前記各々の2次元画像の画素を満足するように修正し、撮影領域の3次元血流画像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体中の水素や燐等からの磁気共鳴信号を検出し、核の密度分布や緩和時間分布等を画像化する磁気共鳴イメージング技術に関する。特に血流画像を得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置では、被検体組織に含まれるプロトンの角スピンをその共鳴周波数と同じ周波数の高周波磁場で励起し、発生する磁気共鳴信号(エコー)を計測する。特に血流分布を画像化する技術はアンジオグラフィーと呼ばれている。アンジオグラフィーでは、関心領域への血流の流入効果を利用して、血流部信号と背景信号のコントラストを強調するTOF法(タイム オブ フライト法)、血流信号と背景信号の位相差分を強調するPC法(フェイズ コントラスト法)等が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Magnetization Transfer Time of Flight Magnetic Resonance Angiography G.Bruce Pike,Bob S Hu,Gray H Grover,and Dieter R Enzmznn,Magn.Reson Med.25,372-379(1992)
【非特許文献2】Three Dimensional Phase Contrast Angiography C.L.Dumolin,S.P.Souza,M.F.Walker,and W.Wagle,Magn. Reson Med.9,139-149(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の磁気共鳴イメージング装置による被検体の血流計測では、立体的な血流画像を得るために3次元計測が行われている。しかしながら、従来の3次元計測では画像再構成に必要なエコーの数が2次元計測のときと比較すると飛躍的に増大する。この為、3次元計測は2次元計測に対し計測時間が長くなるという課題があった。また、エコーに位置情報を付与する傾斜磁場は、血流信号の位相をかく乱する作用を持つため、3次元計測における傾斜磁場の印加は、血流信号の強度を低下させてしまい、血流画像の画質を劣化させてしまうという課題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、TOF法において、被検体の立体的な血流画像を得るために行う3次元計測の計測時間を短縮し、且つ取得する血流画像の画質劣化を低減することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、被検体を収容する空間に均一な静磁場を発生させる静磁場発生手段と、前記静磁場へ重畳して傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記被検体へ照射する高周波磁場を発生する高周波コイルと、前記被検体から発生するNMR信号を検出する手段と、前記検出された信号を画像化する手段と、を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、被検体の撮影したい領域を少なくとも2つの異なる方向から投影し、前記投影データから少なくとも2つの2次元画像を再構成し、前記各々の2次元画像の画素の各々を血流信号または背景信号に分類し、前記各々の2次元画像の画素を前記各々の投影方向に分解した3次元画像の画素列に配分し、前記各々の3次元画像の画素列と前記各々の2次元画像の画素が交換可能となるように、前記各々の3次元画像の画素列の配分を修正し、撮影したい領域の3次元血流画像を得る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、TOF法において、被検体の立体的な血流画像を得るために行う3次元計測の計測時間を短縮し、且つ取得する血流画像の画質劣化を低減することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の一例の全体概要図。
【図2】実施例を説明するための3次元モデル図。
【図3】実施例を説明するための2次元断面図。
【図4】実施例を説明するための再構成画像図。
【図5】実施例を説明するための2次元投影図。
【図6】実施例を説明するためのフローチャート。
【図7】従来の磁気共鳴イメージング装置におけるパルスシーケンスを示す図。
【図8】実施例を説明するためのパルスシーケンスを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面に従って本発明の磁気共鳴イメージング装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0010】
最初に、本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の一例の全体概要を図1に基づいて説明する。図1は、本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。この磁気共鳴イメージング装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、図1に示すように、磁気共鳴イメージング装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。
【0011】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0012】
傾斜磁場発生系3は、磁気共鳴イメージング装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向に選択励起傾斜磁場パルス27を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス28と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス29を印加して、エコー信号30にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0013】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス26(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0014】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルス26を照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力されたRFパルス26をシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルス26を高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルス26が被検体1に照射される。
【0015】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理系7に送られる。
【0016】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信系6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0017】
操作部25は、磁気共鳴イメージング装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブに磁気共鳴イメージング装置の各種処理を制御する。
【0018】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
現在磁気共鳴イメージング装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を3次元的に撮像する。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の実施例について図2から図5を用いて説明する。
本実施例の磁気共鳴イメージング装置は、血流画像における経験的事実として、以下、3つの特性を利用することで、従来、被検体の立体的な血流画像を取得するのに必要とする数の生データよりも、少ない数の生データから血流画像を求めることができる。
【0020】
(i)血流画像は血流信号と背景部分とのコントラスト差である。
(ii)血流画像の多くの領域は背景部分である。
(iii)血流信号の分布は連続している。
【0021】
図2は本実施例を説明するための3次元モデルである。
図2(a)は、本実施例の磁気共鳴イメージング装置により取得される、被検体1の血流画像における3次元血流モデルSdの一例であり、z方向の長さdの空間内を走行する血流1と血流2の血流信号を示している。図2(b)は、3次元血流モデルSdを4×4×4=64画素で画像再構成した3次元画像Scである。
【0022】
図3は本実施例を説明するための2次元断面図である。
図3(a)は、3次元血流モデルSdを、xz面から見たときの2次元断面図であり、z軸を基準とした回転角度θが0°のときに投影した断面図である。同様に、図3(b)は回転角度θがα°のときに投影した断面図であり、図3(c)は回転角度θが90°のときに投影した断面図である。図3(a)のz軸方向の断面の長さは、3次元血流モデルSdのz方向の長さdに等しく、図3(c)においては、x軸方向の断面の長さが、3次元血流モデルSdのz方向の長さdに等しい。
【0023】
図4は、本実施例を説明するための再構成画像図である。
図4(a)は、3次元画像Scにおいて、回転角度θを0°としたときの断面で再構成した画像Sa1である。また、このとき画像Sa1は、3次元画像Scをz方向に圧縮した画像に等しい。図4(b)は、3次元画像Scにおいて、回転角度θを90°としたときの断面で再構成した画像Sb1である。
また、このとき画像Sb1は、3次元画像Scをx方向に圧縮した画像に等しい。
【0024】
図5は、本実施例を説明するための2次元投影図である。図5(a)は、画像Sa1をz軸方向に投影したときの画像Sa2である。図5(b)は、画像Sb1をx軸方向に投影したときの画像Sb2である。
【0025】
本実施例は、一例として回転角度θが0°のときと、回転角度θが90°のときの断面を用いて計算する。
【0026】
3次元血流モデルSdに示した血流1と血流2の血流信号において、3次元画像Scの画素をSc(xm,yn,zp)(1≦m≦4,1≦n≦4,1≦p≦4)とすると以下の座標を通過している。
血流1の座標は、Sc(x1,y4,z4)、Sc(x2,y3,z4)、Sc(x3,y2,z4)、Sc(x4,y1,z4)
血流2の座標は、Sc(x1,y2,z2)、Sc(x2,y3,z2)、Sc(x3,y4,z2)
また、このとき、図5(a)の画像Sa2をSa2(xm,yn)(1≦m≦4,1≦n≦4)、図5(b)の画像Sb2をSb2(yn,zp)(1≦n≦4,1≦p≦4)とすると、まず、画像Sa2は画像Scのz方向への投影なので、以下の(数式1)の関係が成立する。
【0027】
Sc(xm,yn,z1)+Sc(xm,yn,z2)+Sc(xm,yn,z3)+Sc(xm,yn,z4)=Sa2(xm,yn)・・・(数式1)
但し、(1≦m≦4,1≦n≦4)とする。
【0028】
次に、画像Sb2は画像Scのx方向への投影なので以下の(数式2)の関係が成立する。
Sc(x1,yn,zp)+Sc(x2,yn,zp)+Sc(x3,yn,zp)+Sc(x4,yn,zp)=Sb2(yn,zp)・・・(数式2)
但し、(1≦n≦4,1≦p≦4)とする。
【0029】
ここで、本実施例の動作を図6のフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS801では、画像Sa2の全画素において、血流信号と判定するための画素値brの最大値と最小値から血流信号と背景信号を区別するための閾値thaを、CPU8により設定する。閾値thaと画素値brを比較して画素値brが閾値thaより大きいときは、その画素は血流信号とみなし、反対に画素値brが閾値th以下のときは、その画素を背景信号とみなす。また、同様にして、画像Sb2から見たときの閾値thbを、CPU8により設定する。画素値brが、閾値thbより大きいときは、その画素は血流信号とみなし、反対に画素値brが閾値thb以下のときは、その画素を背景信号とみなす。さらに、これら設定した閾値tha、閾値thbに基づいて、画像Sa2、画像Sb2の全画素において、血流信号と背景信号の切り分けを行う。
【0030】
次に、ステップS802では、ステップS801で、背景信号とみなされた2次元投影図上の画素に基づいて、3次元画像Scにおける背景信号をCPU8により推定する。以下にその内容を説明する。
画像Sa2において、Sa2(x1,y1)は背景信号でありz方向への投影なので、(x1,y1)における画像Scのz方向への各画素は等しい値を持ち、(数式1)を用いて以下の(数式3)から(数式6)のように求められる。
【0031】
Sc(x1,y1,z1)=Sa2(x1,y1)/4・・・(数式3)
Sc(x1,y1,z2)=Sa2(x1,y1)/4・・・(数式4)
Sc(x1,y1,z3)=Sa2(x1,y1)/4・・・(数式5)
Sc(x1,y1,z4)=Sa2(x1,y1)/4・・・(数式6)
【0032】
同様に、画像Scのz方向から見た他の背景部分の画素が求められる。また、画像Sb2よりSb2(y1,z1)は背景信号でありx方向への投影なので、(y1, z1)における画像Scの各画素は等しい値を持ち、(数式2)を用いて以下の(数式7)から(数式10)のように求められる。
【0033】
Sc(x1,y1,z1)=Sb2(y1,z1)/4・・・(数式7)
Sc(x2,y1,z1)=Sb2(y1,z1)/4・・・(数式8)
Sc(x3,y1,z1)=Sb2(y1,z1)/4・・・(数式9)
Sc(x4,y1,z1)=Sb2(y1,z1)/4・・・(数式10)
【0034】
同様に、画像Scのx方向から見た他の背景部分の画素が求められる。(数式3)と(数式7)において、共にSc(x1,y1,z1)に対する関係式であり重複しているが、背景信号は、閾値tha、閾値thbで区別された小さな値なので、どちらを用いても問題無い。このように背景信号を先に求めることにより、消去法的に血流信号の画素を絞り込むことが出来る。
【0035】
次に、ステップS803では、ステップS801で、血流信号とみなされた2次元投影図上の画素に基づいて、3次元画像Scにおける血流信号をCPU8により推定する。まず、画像Sa2よりSa2(x4,y1)は血流信号なので、(数式1)を用いて以下の(数式11)のようになる。
【0036】
Sc(x4,y1,z1)+Sc(x4,y1,z2)+Sc(x4,y1,z3)+Sc(x4,y1,z4)=Sa2(x4,y1)・・(数式11)
ここで、Sa2(x4,y1)の値が、画像Scのz方向から見た各画素に、どのように配分されているかを推定していく。ステップS802の段階でSc(x4,y1,z1)、Sc(x4,y1,z2)、Sc(x4,y1,z3)は背景信号として既知なので、Sc(x4,y1,z4)は以下の(数式12)で求めることが出来る。
【0037】
Sc(x4,y1,z4)=Sa2(x4,y1)-{Sc(x4,y1,z1)+Sc(x4,y1,z2)+Sc(x4,y1,z3)}・(数式12)
ただし、(数式11)において血流画素か背景画素か推定のつかない未知の画素を2個以上含む場合は、血流信号の推定が困難である。そこで画像Sa2における未知の画素に推定値Soaをあてはめていく。(数式12)において、Sc(x4,y1,z1)、Sc(x4,y1,z2)、Sc(x4,y1,z3)、Sc(x4,y1,z4)が未知のとき、(数式12)を満足するような推定値Soa(x4,y1,z1)、Soa(x4,y1,z2)、Soa(x4,y1,z3)、Soa(x4,y1,z4)を初期値として代入し、血流信号を推定する。単位画素の体積は小さく血流信号量は同等とみなせるので、量子化された推定値Soaの、各画素への配分の組み合わせを考えれば良い。推定値Soaは、閾値thaを最小値、画素値brの最大値を最大値として何段階かに量子化した値Δaとする。
【0038】
例えば、量子化の段数が3段階の場合、(数式11)における信号配分の組み合わせは、最大34 = 81通りとなるが、そのうちの1つの組み合わせを初期値として任意に選ぶ。(数式11)に既知の画素を含む場合は、検討すべき組み合わせが低減することは明らかである。なお量子化の段数はこれに限らない。画像Sa2から見た他の血流信号の画素についても同様な方法で推定する。
【0039】
次に、ステップS804では、ステップS803で推定した血流信号の評価をCPU8により行う。ステップS803で推定した血流信号は画像Sa2から見たときの推定であり、正しい血流信号は画像Sb2から見た場合にも対応されなければならない。つまり、2つの異なる方向から投影した2次元画像の画素を、その投影方向に分解した3次元画像の画素に配分する場合、3次元画像の画素はどちらの2次元画像の画素から見ても対応されなければならないと言うことである。
【0040】
そこで、ステップS803で設定した画像Sa2における推定値Soaと同様に、画像Sb2における未知の画素にも推定値Sobを設定し、画像Sa2、画像Sb2双方において、推定した画素値と既知の画素値との誤差を求める。各々の求めた誤差の和により血流信号の推定結果の評価を行う。ここで推定値Sobは、閾値thbを最小値、画像Sb2の全画素における画素値brの最大値を最大値として何段階かに量子化した値Δbとする。画像Sb2から見たときの全画素の誤差平均値εbは、以下の(数式13)によって求められる。
【0041】
εb={1/(n×p)}Σ[Sb2(yn,zp)-{Sob(x1,yn,zp)+Sob(x2,yn,zp)+Sob(x3,yn,zp)+Sob(x4,yn,zp)}]2・・・(数式13)
同様に、画像Sa2から見たときの全画素の誤差平均値εaは、以下の(数式14)によって求められる。
【0042】
εa={1/(n×m)}Σ[Sa2(xm,yn)-{Soa(xm,yn,z1)+Soa(xm,yn,z2)+Soa(xm,yn,z3)+Soa(xm,yn,z4)}]2・・・(数式14)
画像Sb2から見たときの全画素の誤差平均値εbと、画像Sa2から見たときの全画素の誤差平均値εaの和を全体誤差平均値εとすると、全体誤差平均値εは以下の(数式15)によって求められる。
【0043】
ε=εa+εb・・・(数式15)
(数式15)を評価関数とし、全体誤差平均値εが最小となるような推定値Soa、推定値Sobが3次元画像Scにおける血流信号において妥当な結果と判断する。これは、ステップS803の最初の推定値Soa、を別の推定値Soa+Δa、に変更し、ステップS804の評価を行い、その結果、全体誤差平均εが小さくなれば、変更した推定値がより望ましいことを意味している。このように推定と評価の過程を繰り返すことにより、全体誤差平均εが最小値εfに収束していく。さらに考慮すべき点は血流の連続性である。近隣の画素との繋がりは遠方の画素との繋がりよりも高いということである。
【0044】
例えば図5(a)において、画素Sa(x1,y4)、Sa(x2,y3)、Sa(x3,y2)、Sa(x4,y1)を連続した血流と考えるのが妥当である。ステップS803において、見ている画素とその近傍の画素の相関を取り入れることによって、推定値の組み合わせパターンを低減し、計算時間を短縮することができる。
【0045】
以上説明したように、2次元画像から3次元画像を再構成することで、従来、3次元画像を構成するために必要であった計測データよりも少ないデータ数で3次元画像を求めることができる。
【0046】
図7は、従来の磁気共鳴イメージング装置におけるパルスシーケンスを示す図である。
Gz、Gy、Gxはそれぞれスライス傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、周波数エンコード傾斜磁場の軸を表している。被検体1の撮影したい領域を選択励起するために、RFパルス26とGz軸に選択励起傾斜磁場パルス27を同時に印加し、次に、Gy軸に位相エンコード方向傾斜磁場パルス28とGx軸に周波数エンコード方向傾斜磁場パルス29を印加し、エコー信号30でサンプルしている。計測の繰り返し時間はTRである。ここで、Gz軸にスライスエンコード方向傾斜磁場パルス31を印加するステップを追加することで撮影したい領域を3次元画像で再構成することができる。
【0047】
図8は、本実施例を説明するためのパルスシーケンスを示す図である。
図8(a)、図8(b)は、被検体1の撮影したい血流画像の領域において、2つの異なる方向から2次元画像を再構成するためのパルスシーケンスを示す図である。図8(a)は、図7の従来のパルスシーケンスに対して、Gz軸のスライスエンコード方向傾斜磁場パルス31を印加していない。3次元画像を2次元画像で再構成する利点として、スライスエンコード方向傾斜磁場パルス31の印加が不要となるためである。傾斜磁場は、本来エコーに位置情報を付与する作用があるが、血流等のエコーの速度成分に対して位相をかく乱する作用もあり、血流画像の画質の低下を招く。本発明は、スライスエンコード方向傾斜磁場パルス31を印加しないことで、血流画像の画質の低下を防いでいる。また、スライス方向への画像折り返しの問題も回避することができる。
【0048】
図8(b)は図8(a)に対し、GxGz面から見たとき、Gz軸を基準とて90°回転させたときのパルスシーケンスを示す図である。Gx 軸に選択励起傾斜磁場パルス27を印加し、Gz軸に周波数エンコード方向傾斜磁場パルス29を印加している。
【0049】
図7及び図8の位相エンコード方向傾斜磁場パルス28をMステップ、図8のスライスエンコード方向傾斜磁場パルス31をNステップとすると、従来の3次元画像を再構成するために必要な撮影時間TaはTa=M×N×TRとなる。これに対し、本発明の実施例では、3次元画像を再構成するために必要な撮影時間TbはTb=2(M×TR)となるため、撮影時間は従来方式に対して最大N/2倍に短縮される。
【0050】
例えば、M=4、N=4とすると、従来の撮影時間Taは16TRとなるのに対し、本発明の撮影時間Tbは8TRとなり本発明の撮影時間Tbは従来の撮影時間Taに対し1/2に短縮する。
【0051】
また、以上の実施例では位相エンコード傾斜磁場のステップ数が小さい場合であったが、さらに多くのステップ数の場合でも同様の手順が適用できることは明らかである。この時、被検体1の血流信号を推定する画素数が増大するので、投影する方向を3方向以上にすれば推定の精度が向上することは明らかである。
以上、本発明の実施例を述べたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 被検体、2 静磁場発生系、3 傾斜磁場発生系、4 シーケンサ、5 送信系、6 受信系、7 信号処理系、8 中央処理装置(CPU)、9 傾斜磁場コイル、10 傾斜磁場電源、11 高周波発振器、12 変調器、13 高周波増幅器、14a 送信側の高周波コイル(送信コイル)、14b 受信側の高周波コイル(受信コイル)、15 信号増幅器、16 直交位相検波器、17 A/D変換器、18 磁気ディスク、19 光ディスク、20 ディスプレイ、21 ROM、22 RAM、23 トラックボール又はマウス、24 キーボード、25 操作部、26 高周波磁場パルス、27 選択励起傾斜磁場パルス、28 位相エンコード方向傾斜磁場パルス、29 周波数エンコード方向傾斜磁場パルス、30 エコー信号、31 スライスエンコード方向傾斜磁場パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な磁場空間を発生するための静磁場発生コイルと、x、y、zの3軸方向に沿って磁場強度が線形に変化する傾斜磁場を発生するための3組の傾斜磁場発生コイルと、被検体の磁気共鳴を誘起するための高周波磁場発生コイルと、少なくとも2個のチャンネルより構成される被検体の磁気共鳴信号を検出するための受信コイルと、傾斜磁場電源と、高周波磁場電源と、被検体を超伝導コイル内に搬送する寝台と、前記傾斜磁場発生コイル、高周波磁場発生コイル、および受信コイルの動作を制御する制御ユニットと、操作卓より構成される磁気共鳴装置において、撮影領域を少なくとも2つの異なる方向から投影し、前記投影データから少なくとも2つの2次元画像を再構成し、前記各々の2次元画像の画素の各々を血流信号または背景信号に分類し、前記各々の2次元画像の画素を前記各々の投影方向に分解した3次元画像の画素に配分し、前記3次元画像の画素の配分を、前記各々の2次元画像の画素と対応するように修正し、撮影領域の3次元血流画像を得ることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記各々の2次元画像の最大値と最小値の範囲で各々の閾値を設定し、2次元画像の画素の各々の信号強度が閾値以上の場合、その画素は血流信号と分類し、2次元画像の画素の各々の信号強度が閾値以下の場合、その画素は背景信号と分類することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記各々の2次元画像の画素が背景信号の場合、その画素に対応した前記3次元画像の画素列は、背景信号が等分して配分され、画素列の総和が背景信号に等しいことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記各々の2次元画像の画素が血流信号の時、その画素に対応した前記3次元画像の画素列は、血流信号が量子化して配分され、画素列の総和が血流信号に等しいことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記各々の3次元画像の画素列と各々の2次元画像の画素の組み合わせにおいて、3次元画像の画素列と2次元画像の画素の差を評価関数とし、評価関数を最小とするように、3次元画像の画素列の血流信号の配分を変更することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−279537(P2010−279537A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135053(P2009−135053)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】