説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】誤差の小さなDC値による適正なDC補正を行うことを可能とする。
【解決手段】制御部107は、記憶部104に記憶された各データを、その直流成分を低減するように補正する。制御部107は、この補正を、各データが属するK空間の全範囲に含まれるデータに基づいて推定したDC値に基づいて行う。この補正は、実部チャネルの直流成分を低減するように補正するとともに、虚部チャネルの直流成分を低減するように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴現象を利用して画像を生成する磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、収集した信号に含まれる直流(DC)成分を低減するためのDC補正を行っている。
【0003】
これは、K空間における四隅の一部の固定の割合に相当するデータが示す値の平均値をDC値として推定し、K空間内の全てのデータからそれぞれDC値を差し引くことで行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−256944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記のようなDC値の推定は、収集された信号の状態によっては誤差が大きくなることがある。そして大きな誤差を持ったDC値によるDC補正を行うと、DCアーチファクトとなる恐れがあった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、誤差の小さなDC値による適正なDC補正を行うことができる磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために本発明は、K空間に含まれる各データをそれぞれ、前記K空間の全範囲に含まれるデータに基づいて直流成分を低減するように補正する補正手段を備えて磁気共鳴イメージング装置を構成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、誤差の小さなDC値による適正なDC補正を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成を示す図。
【図2】DC補正のための図1中の制御部107の処理手順を示すフローチャート。
【図3】図2中のステップSa5にて割り当てる推定用データの範囲とK空間との関係を示す図。
【図4】図2中のステップSa6にて割り当てる推定用データの範囲とK空間との関係を示す図。
【図5】図2中のステップSa6にて割り当てる推定用データの範囲とK空間との関係の変形例を示す図。
【図6】図2中のステップSa6にて割り当てる推定用データの範囲とK空間との関係の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置と称する)の構成を示す図である。この図1に示すMRI装置は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、RFコイルユニット6、送信部7、受信部8、ハイブリッド回路9および計算機システム10を具備する。
【0011】
静磁場磁石1は、中空の円筒形をなし、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
【0012】
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形をなし、静磁場磁石1の内側に配置される。傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされている。傾斜磁場コイル2は、上記の3つのコイルが傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、磁場強度がX,Y,Zの各軸に沿って傾斜する傾斜磁場を発生する。なお、Z軸方向は、例えば静磁場と同方向とする。X,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Geおよびリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応される。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮影断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相をエンコードするために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数をエンコードするために利用される。
【0013】
被検体Pは、寝台4の天板41に載置された状態で傾斜磁場コイル2の空洞(撮影口)内に挿入される。寝台4は、寝台制御部5により駆動され、天板41をその長手方向(図1中における左右方向)および上下方向に移動する。通常、この長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように寝台4が設置される。
【0014】
RFコイルユニット6は、傾斜磁場コイル2の内側に配置される。RFコイルユニット6は、送信部7から高周波パルス(RFパルス)の供給を受けて、高周波磁場を発生する。RFコイルユニット6は、被検体から放射される磁気共鳴信号を受信する。RFコイルユニット6は、送信用コイルおよび受信用コイルを個別に有していても良いし、送受信共用のコイルを有していても良い。また、送信用コイル、受信用コイルおよび送受信共用のコイルは、1つのみが設けられても良いし、送受信範囲や送受信特性が異なる複数種類が並列的に設けられていても良い。
【0015】
送信部7は、発振部、位相選択部、周波数変換部、振幅変調部および高周波電力増幅部(いずれも図示せず)を有している。発振部は、静磁場中における対象原子核に固有の共鳴周波数の高周波信号を発生する。位相選択部は、上記高周波信号の位相を選択する。周波数変換部は、位相選択部から出力された高周波信号の周波数を変換する。振幅変調部は、周波数変調部から出力された高周波信号の振幅を例えばシンク関数に従って変調する。高周波電力増幅部は、振幅変調部から出力された高周波信号を増幅する。そしてこれらの各部の動作の結果として送信部7は、ラーモア周波数に対応するRFパルスをRFコイルユニット6に供給するべく送出する。
【0016】
受信部8は、前段増幅器、位相検波器およびアナログディジタル変換器(いずれも図示せず)を有している。前段増幅器は、ハイブリッド回路9から出力される磁気共鳴信号を増幅する。位相検波器は、前置増幅器から出力される磁気共鳴信号の位相を検波する。アナログディジタル変換器は、位相検波器から出力される信号をディジタル信号に変換する。
【0017】
ハイブリッド回路9は、送信部7から送出される高周波パルスを、送信期間にてRFコイルユニット6へ供給する。ハイブリッド回路9は、RFコイルユニット6から出力される信号を、受信期間にて受信部8へ供給する。送信期間および受信期間は、計算機システム10から指示される。またハイブリッド回路9は、RFコイルユニット6に受信用のコイルが複数設けられている場合に、それらのコイルが出力する信号を選択的に、並列的に、あるいは時分割的に入力する。どのコイルから出力される信号をどのような形態で入力するかは、例えば計算機システム10から指示される。
【0018】
計算機システム10は、インタフェース部101、データ収集部102、再構成部103、記憶部104、表示部105、入力部106および制御部107を有している。
【0019】
インタフェース部101には、傾斜磁場電源3、寝台制御部5、送信部7、受信部8およびハイブリッド回路9等が接続される。インタフェース部101は、これらの接続された各部と計算機システム10との間で授受される信号の入出力を行う。
【0020】
データ収集部102は、受信部8から出力されるディジタル信号を収集する。データ収集部102は、収集したディジタル信号、すなわち磁気共鳴信号データを、記憶部104に格納する。
【0021】
再構成部103は、記憶部104に記憶された磁気共鳴信号データに対して、後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成を実行し、被検体P内の所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを求める。
【0022】
記憶部104は、磁気共鳴信号データと、スペクトラムデータあるいは画像データとを、患者毎に記憶する。
【0023】
表示部105は、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を制御部107の制御の下に表示する。表示部105としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
【0024】
入力部106は、オペレータからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力部106としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
【0025】
制御部107は、図示していないCPUやメモリ等を有しており、本実施形態のMRI装置を総括的に制御する。また制御部107は、MRI装置が一般的に備える機能を実現するための手段としての他に、以下のようないくつかの機能を実現するための手段として働く。この機能の一つは、収集された信号に含まれるDC値を推定する。また上記の機能の一つは、上記の推定したDC値に基づいてDC補正を行う。
【0026】
次に以上のように構成されたMRI装置の動作について説明する。なお、被検体Pの画像を得るための動作は従来通りであるのでここでは説明を省略する。そして以下では、DC補正に係わる処理について説明する。
【0027】
制御部107は、データ収集部102によって収集されて記憶部104に記憶された磁気共鳴信号データについて、DC補正を行う。DC補正は、1つのK空間に属するデータを1単位として行われる。実部チャネルおよび虚部チャネルのそれぞれについても個別に処理される。
【0028】
図2はDC補正のための制御部107の処理手順を示すフローチャートである。なお図2は、1つのK空間に属するデータについてのDC補正を行う処理を示している。従って、実部チャネルおよび虚部チャネルのそれぞれのK空間およびスライスや時相が異なるK空間に属する磁気共鳴信号データに関しては、それぞれに対して同様な処理が行われる。
【0029】
ステップSa1において制御部107は、DWI(Diffusion Weighted Imaging)法を使用して再構成を行うか否かを確認する。当該MRI装置がDWI法を使用するモードに設定されているならば、制御部107はステップSa1からステップSa5へ進むが、そうでなければステップSa2へ進む。
【0030】
ステップSa2において制御部107は、EPI(Echo Planar Imaging)法を使用して再構成を行うか否かを確認する。当該MRI装置がEPI法を使用するモードに設定されているならば、制御部107はステップSa2からステップSa5へ進むが、そうでなければステップSa3へ進む。
【0031】
ステップSa3において制御部107は、信号強度が閾値以下である否かを確認する。信号強度は、処理対象となっているK空間の範囲内での磁気共鳴信号データが表す信号の強度を表す数値である。信号強度としては例えば、処理対象となっているK空間に属する複数のデータが表す信号レベルのうちのピーク値、あるいはK空間に属する全データが表す信号レベルの平均値、または実部および虚部のそれぞれの平均値を適用できる。そして信号強度が閾値以下であるならば、制御部107はステップSa3からステップSa5へ進むが、そうでなければステップSa4へ進む。
【0032】
ステップSa4において制御部107は、ばらつき度が閾値以上であるか否かを確認する。ばらつき度は、処理対象となっているK空間の範囲内での磁気共鳴信号データが表す強度のばらつきの大きさを表す数値である。ばらつき度としては例えば、処理対象となっているK空間に属する複数のデータが表す信号レベルのうちのピーク値以外のレベルの偏差、または実部および虚部のピーク値以外のレベルの偏差を適用できる。そしてばらつき度が閾値以上であるならば、制御部107はステップSa4からステップSa5へ進むが、そうでなければステップSa7へ進む。
【0033】
ステップSa5において制御部107は、処理対象となっているK空間の範囲内の全データをDC値の推定用に割り当てる。こののちに制御部107は、ステップSa7へ進む。このときの推定用データの範囲とK空間との関係は図3に示すようになる。なお図3では、正方形の枠がK空間の外縁を示し、ハッチングした領域が推定用データの範囲を示す。
【0034】
一方、ステップSa6において制御部107は、処理対象となっているK空間の範囲の四隅の一部に相当するデータをDC値の推定用に割り当てる。こののちに制御部107は、ステップSa7へ進む。このときの推定用データの範囲とK空間との関係は図4に示すようになる。なお図4では、外側の正方形の枠がK空間の外縁を示し、ハッチングした領域が推定用データの範囲を示す。図4の例は、従来と同様に推定用データの範囲をK空間の一部の固定の割合の部分としている。このときの推定用データの範囲は、例えば図5や図6にハッチングで示すような範囲としても良い。すなわち、少なくともK空間の中心に相当するデータは、推定用データに割り当てないようにする。また、信号強度の大きさやばらつき度の大きさに応じて推定用データの範囲を変化させても良い。
【0035】
ステップSa7において制御部107は、推定用に割り当てられたデータに基づいてDC値を推定する。
【0036】
ステップSa8において制御部107は、処理対象となっているK空間に含まれる全データから上記の推定したDC値をおのおの差し引く。
【0037】
かくして本実施形態によれば、DWI法を使用する場合には、K空間内の全てのデータに基づいてDC値の推定がなされる。DWI法では、収集される信号の強度が全般的に小さく、かつピーク値も周囲の強度に比べてさほど大きくならないので、多数のデータを参照することでDC値の推定精度が向上する。
【0038】
また、EPI法を使用する場合には、K空間内の全てのデータに基づいてDC値の推定がなされる。EPI法では、信号強度はある程度大きくなるが、信号のばらつきが大きくなることから、多数のデータを参照することでDC値の推定精度が向上する。
【0039】
また、DWI法を使用しない場合でも、信号強度が閾値以下となる程に小さい場合には、K空間内の全てのデータに基づいてDC値の推定がなされる。信号強度が小さいのであるから、多数のデータを参照することでDC値の推定精度が向上する。
【0040】
また、EPI法を使用しない場合でも、信号のばらつき度が閾値を超える程に信号のばらつきが大きいのであれば、K空間内の全てのデータに基づいてDC値の推定がなされる。信号のばらつきが大きいのであるから、多数のデータを参照することでDC値の推定精度が向上する。
【0041】
そして、上記の4つの条件のいずれにも合致しないときには、K空間の中心に相当するデータをDC値の推定のために参照しない。これにより、ピーク値が非常に大きくなっても、DC値の推定を正確に行うことが可能となる。
【0042】
以上のように本実施形態によれば、DC値を常に小さな誤差で推定することができる。そしてこのように誤差の小さなDC値に基づくことにより、適正なDC補正が行える。この結果、DCアーチファクトの発生を抑圧することができる。
【0043】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
ステップSa1乃至ステップSa4の任意の1つ乃至3つの条件判断を省略しても良い。
あるいは、無条件で常にK空間内の全てのデータに基づいてDC値の推定を行うようにしても良い。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…静磁場磁石、2…傾斜磁場コイル、3…傾斜磁場電源、4…寝台、5…寝台制御部、6…RFコイルユニット、7…送信部、8…受信部、9…ハイブリッド回路、10…計算機システム、101…インタフェース部、102…データ収集部、103…再構成部、104…記憶部、105…表示部、106…入力部、107…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K空間に含まれる各データをそれぞれ、前記K空間の全範囲に含まれるデータに基づいて直流成分を低減するように補正する補正手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記K空間の全範囲に含まれる実部チャネルのデータに基づいて実部チャネルの直流成分を低減するように補正するとともに、前記K空間の全範囲に含まれる虚部チャネルのデータに基づいて虚部チャネルの直流成分を低減するように補正することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記補正をスライスが異なる前記k空間のそれぞれについて個別に行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記補正を時相が異なる前記k空間のそれぞれについて個別に行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−189166(P2011−189166A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120865(P2011−120865)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【分割の表示】特願2005−75292(P2005−75292)の分割
【原出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】