説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】より高精度に水等の信号収集対象となる物質の共鳴周波数を検出することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、スペクトル収集手段、共鳴周波数取得手段及びイメージング手段を備える。スペクトル収集手段は、特定の物質からの信号の抑制又は強調効果を変えて被検体から複数の磁気共鳴信号の周波数スペクトルを収集する。共鳴周波数取得手段は、前記複数の周波数スペクトル間における前記特定の物質又は他の物質からの信号の強度の相違を表す指標に基づいて、前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数を求める。イメージング手段は、中心周波数が前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数に設定された高周波パルスを用いてイメージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR: magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
MRIでは、RFパルスの中心周波数が信号の収集対象である水の共鳴周波数に合わせられる。このため、物質ごとに異なる共鳴周波数のピークを検出するために、イメージングスキャンに先立って信号の周波数スペクトルを収集するためのプレスキャンが実行される。水の共鳴周波数は脂肪の共鳴周波数に対して約3.5ppm(parts per million)だけ相対的にシフトしている。従って、プレスキャンでは、通常、周波数スペクトルの脂肪に対応する周波数においてピークが現れないように脂肪抑制パルスが印加される。脂肪抑制パルスは、脂肪からの信号を抑制するRFパルスである。
【0004】
そして、プレスキャンによって収集された周波数スペクトルのピークが検出され、検出されたピークに対応する周波数が水の共鳴周波数としてRFパルスの中心周波数に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−270327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特に胸部におけるイメージングを行う場合のように撮像領域に脂肪成分が多いと、脂肪抑制効果が不十分となる。この結果、周波数スペクトルの形状が乱れ、精度よくピークに対応する周波数を検出することが困難となる。場合によっては、脂肪の共鳴周波数において水よりも大きなピークが出現する場合がある。このため、誤って脂肪の共鳴周波数を水の共鳴周波数として認識してしまう恐れがある。
【0007】
一方、水の共鳴周波数の検出及びRFパルスの中心周波数の設定は自動化できることが望ましい。従って、ユーザが周波数スペクトルを目視して水の共鳴周波数を検出し、RFパルスの中心周波数を水の共鳴周波数に合わせる場合はもちろん、自動的に水の共鳴周波数の検出及びRFパルスの中心周波数の設定を行う場合においても、確実に水の共鳴周波数を十分な精度で検出することが重要である。
【0008】
これは、水以外の物質の共鳴周波数にRFパルスの中心周波数を設定し、特定の物質からのMR信号を発生させて映像化するmolecular imagingを行う場合においても同様である。
【0009】
本発明は、より高精度に水等の信号収集対象となる物質の共鳴周波数を検出することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、スペクトル収集手段、共鳴周波数取得手段及びイメージング手段を備える。スペクトル収集手段は、特定の物質からの信号の抑制又は強調効果を変えて被検体から複数の磁気共鳴信号の周波数スペクトルを収集する。共鳴周波数取得手段は、前記複数の周波数スペクトル間における前記特定の物質又は他の物質からの信号の強度の相違を表す指標に基づいて、前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数を求める。イメージング手段は、中心周波数が前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数に設定された高周波パルスを用いてイメージングを行う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示すパルスシーケンス設定部において設定されるシーケンスの第1の例を示す図。
【図4】図2に示すパルスシーケンス設定部において設定されるシーケンスの第2の例を示す図。
【図5】図2に示すパルスシーケンス設定部において設定されるシーケンスの第3の例を示す図。
【図6】図2に示す周波数スペクトル生成部において生成された2つの周波数スペクトルの第1の例を示す図。
【図7】図2に示す周波数スペクトル生成部において生成された2つの周波数スペクトルの第2の例を示す図。
【図8】図1に示す磁気共鳴イメージング装置によりRFパルスの中心周波数を水の共鳴周波数に合わせてイメージングを行う際の流れの一例を示すフローチャート。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置において実行される水の共鳴周波数の検出処理の流れを示すフローチャート。
【図10】図9に示すステップS20及びステップS21において収集され得る第1の周波数スペクトルと第2の周波数スペクトルの組合せを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0014】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0015】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0016】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0017】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0018】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0019】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0020】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0021】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0022】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0023】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0024】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0025】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として、記憶装置36はk空間データ記憶部42及び画像データ記憶部43として、それぞれ機能する。また、撮像条件設定部40は、パルスシーケンス設定部40A、周波数スペクトル生成部40B、ピーク検出部40C、検出精度判定部40D、差分値計算部40E、共鳴周波数検出部40F及び中心周波数設定部40Gを有する。
【0026】
撮像条件設定部40は、パルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力して制御する機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、イメージング用の撮像条件に加え、MR信号の周波数スペクトルを収集するためのプレスキャン用の撮像条件を設定する機能を備えている。周波数スペクトルは、通常シムコイル電源28からシムコイル22に供給すべき電流を決定するシミング用のプレスキャンにおいて収集される。そして、収集された周波数スペクトルは、イメージング用の撮像条件の1つであるRFパルスの中心周波数の設定に用いられる。
【0027】
また、撮像条件設定部40は、水や脂肪等の特定の物質からの信号の抑制効果又は強調効果を変えて収集された互いに異なる複数の周波数スペクトル間における特定の物質又は他の物質からのMR信号の強度の相違を表す指標に基づいて、特定の物質又は他の物質の共鳴周波数を求める機能を備えている。
【0028】
パルスシーケンス設定部40Aは、イメージングスキャン用のパルスシーケンスの他、特定の物質からの信号の抑制効果又は強調効果を変えて被検体Pから互いに異なる複数のMR信号の周波数スペクトルを収集するプレスキャン用のパルスシーケンスを設定する機能を有する。以下、2つの周波数スペクトルを収集する場合について説明する。
【0029】
図3は、図2に示すパルスシーケンス設定部40Aにおいて設定されるシーケンスの第1の例を示す図である。
【0030】
図3において横軸は時間を示す。図3(A)に示すように、脂肪抑制パルスの印加後にデータ収集を行う第1のシーケンスと、図3(B)に示すように脂肪抑制パルスを印加せずにデータ収集を行う第2のシーケンスを用いて、2回プレスキャンを行うと、脂肪抑制効果の異なる2セットのMRデータを収集することができる。従って第1のシーケンスにより収集された第1のMRデータから第1の周波数スペクトルを生成し、第2のシーケンスにより収集された第2のMRデータから第2の周波数スペクトルを生成すると、第1の周波数スペクトルにおける脂肪信号の抑制効果は第2の周波数スペクトルにおける脂肪信号の抑制効果と異なる効果となる。
【0031】
図4は、図2に示すパルスシーケンス設定部40Aにおいて設定されるシーケンスの第2の例を示す図である。
【0032】
図4において横軸は時間を示す。図4(A)に示すように、フリップ角(FA: flip angle)がα°の脂肪抑制パルスの印加後にデータ収集を行う第1のシーケンスと、図4(B)に示すようにFAがα°と異なるβ°の脂肪抑制パルスの印加後にデータ収集を行う第2のシーケンスを用いて、2回プレスキャンを行うことによっても、脂肪抑制効果の異なる2セットのMRデータを収集することができる。従って、脂肪抑制効果が異なる2つの周波数スペクトルを取得することができる。
【0033】
尚、図4(B)に示すβ°をゼロとした場合が図3のケースに相当する。つまり、脂肪抑制パルスのFA又は脂肪抑制パルスを印加するか否かを変えることによって脂肪抑制効果が異なる2つの周波数スペクトルを収集することができる。
【0034】
図5は、図2に示すパルスシーケンス設定部40Aにおいて設定されるシーケンスの第3の例を示す図である。
【0035】
図5において横軸は時間を示す。図5に示すように脂肪抑制パルスの印加後に第1のMRデータ及び第2のMRデータを連続収集するマルチエコーデータ収集シーケンスによっても脂肪抑制効果が異なる2つの周波数スペクトルを取得することができる。すなわち、図5に示すシーケンスでプレスキャンを行うと、第1のMRデータ及び第2のMRデータは、脂肪抑制パルスの印加時刻から互いに異なる経過時間後において収集される。従って、第1のMRデータ及び第2のMRデータは、脂肪抑制効果が互いに異なるデータとなる。このため、第1及び第2のMRデータからそれぞれ第1及び第2の周波数スペクトルを生成すると、第1及び第2の周波数スペクトルは互いに異なる脂肪抑制効果を呈する。
【0036】
すなわち、脂肪等の特定の物質からの信号抑制又は信号強調に影響を与える撮像条件のパラメータを変えて2回MRデータを収集すれば、異なる信号抑制効果又は信号強調効果を示す2つの周波数スペクトルを収集することができる。従って、上述の例では、プリパルスとして印加される脂肪抑制パルスに関する条件を変えたが、他の物質の信号を抑制する抑制パルス又は強調する励起パルスの条件を変えたり、抑制パルス又は励起パルスの印加を伴わずに特定の物質を選択的に抑制又は強調する撮像法の条件を変えてもよい。
【0037】
脂肪抑制パルスとしては、短時間反転回復(STIR: short TI inversion recovery)パルス、化学シフト選択(CHESS :chemical shift selective) パルス、SPIR (spectral presaturation with inversion recovery)パルス、SPAIR (Spectral Attenuated Inversion Recovery)パルスなどが知られている。また、複数の同一又は異なる脂肪抑制パルスを印加する脂肪抑制法も知られている。更に、プリパルスを印加せずに水からの信号を強調するシーケンスとしてPASTA (polarity alterd spectral-selective acquisition)が知られている。この他、シリコーンや水からの信号を抑制する撮像法も知られている。
【0038】
多くのケースでは、イメージングスキャンにおけるRFパルスの中心周波数が水の共鳴周波数に合わせられる。この場合、周波数スペクトルは、水の共鳴周波数を検出するために収集される。従って、以降では、RFパルスの中心周波数を水の共鳴周波数に合わせるために、周波数スペクトルから水の共鳴周波数を検出する場合について説明する。
【0039】
水の共鳴周波数と誤認識する可能性が高いのは、水の共鳴周波数に対して相対的に負方向に3.5ppmだけ離れている脂肪の共鳴周波数である。従って、従来、周波数スペクトルを収集するプレスキャンでは、周波数スペクトルにおいて脂肪信号のピークが抑制されるように脂肪抑制パルスが印加される。
【0040】
尚、データ収集領域にシリコーンが存在すると、水の共鳴周波数に対して約5ppmだけ負側にシフトした周波数においてシリコーンからの信号のピークが周波数スペクトルに現れる。この場合には、シリコーン抑制パルスを印加してもよい。
【0041】
これに対して、パルスシーケンス設定部40Aでは、収集される2つの周波数スペクトルにおいて、水信号に相当するピークが明瞭かつ同等となる一方、脂肪信号に相当する分布形状がなるべく異なる形状となるようにプレスキャン用の撮像条件が設定される。そのためには、静磁場の不均一性の影響が少ないSTIRパルスを脂肪抑制パルスとして印加する第1のシーケンスとSTIRパルスを印加しない第2のシーケンスをプレスキャン用の撮像条件とすることが好適である。
【0042】
STIRパルスの印加を伴うSTIRシーケンスは、180°RFパルスとしてSTIRパルスを印加することによってデータ収集部位における縦磁化を一旦反転させ、縦(T1)緩和によって脂肪の縦磁化が回復してゼロになるタイミングで90°RF励起パルスを印加してMRデータを収集するスピンエコー(SE: spin echo)法によるシーケンスである。すなわち、水のT1緩和時間は、脂肪のT1緩和時間よりも長いため、脂肪の縦磁化がゼロとなるタイミングで励起パルスを印加してデータを収集すれば、水信号を選択的に収集することができる。
【0043】
同様に、物質ごとにT1緩和時間が異なるため、特定の物質と他の物質とのT1緩和時間の相違に基づいて、特定の物質からのMR信号を抑制又は強調することができる。従って、STIRパルスの印加の有無やFA等の条件を変えることによって、特定の物質と他の物質とのT1緩和時間の相違に基づいて、特定の物質からの信号の抑制又は強調効果の度合いの異なる複数の周波数スペクトルを収集することができる。
【0044】
周波数スペクトル生成部40Bは、プレスキャンによって収集されたMRデータに基づいて周波数スペクトルを生成する機能を有する。従って、2つの周波数スペクトルを生成するための第1及び第2のMRデータが収集された場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが生成される。プレスキャンによって収集されたMRデータは、データ処理部41から与えられる。
【0045】
ピーク検出部40Cは、周波数スペクトル生成部40Bにおいて生成された周波数スペクトルのピーク及びピークに対応する周波数を検出する機能を有する。また、ピーク検出部40Cは、複数のピークが検出された場合には、ピーク間のシフト量及び最大値を求めるように構成される。尚、ピーク検出部40Cが、最初に検出されたピークに対応する周波数を3.5ppmだけ正方向又は負方向にシフトさせた周波数において別のピークが検出されるか否かを判定するようにしてもよい。
【0046】
検出精度判定部40Dは、脂肪抑制を伴って収集された周波数スペクトルから検出されたピークの検出精度を判定し、検出精度が所定の精度であり十分であると判定された場合には、脂肪抑制を伴わずに周波数スペクトルを収集するプレスキャンを実行しないように撮像条件設定部40を制御する機能を有する。例えば、検出精度判定部40Dがパルスシーケンス設定部40Aに脂肪抑制を伴わずに周波数スペクトルを収集するプレスキャンのシーケンスを生成しないように制御するようにしてもよい。
【0047】
すなわち、脂肪抑制を伴って収集された周波数スペクトルが水の共鳴周波数において明瞭なピークを呈し、十分な精度で水の共鳴周波数を検出できる場合には、更に周波数スペクトルを収集しなくてもRFパルスの中心周波数を設定することができる。そこで、無用なプレスキャンが実行されないように検出精度判定部40Dによって撮像条件設定部40が制御される。特に脂肪の少ない部位からデータが収集された場合には、十分な精度で水の共鳴周波数を検出できる場合が多い。
【0048】
このため、検出精度判定部40Dにおいて、脂肪抑制効果が大きい側の周波数スペクトルを用いて水の共鳴周波数が所定の精度で求められたか否かを判定し、水の共鳴周波数が所定の精度で求められたと判定された場合には、脂肪抑制効果が小さい側の周波数スペクトルが収集されないように周波数スペクトルの収集を制御することができる。
【0049】
差分値計算部40Eは、周波数スペクトル生成部40Bにおいて生成された2つの周波数スペクトルの脂肪信号及び水信号の一方又は双方に相当する分布形状の相違を表す指標を計算する機能を有する。この指標としては、例えば2つの周波数スペクトル間における脂肪信号又は水信号に相当するピーク値の差又は比、ある周波数の範囲における信号の積分値の差又は比を用いることができる。
【0050】
図6は、図2に示す周波数スペクトル生成部40Bにおいて生成された2つの周波数スペクトルの第1の例を示す図である。
【0051】
図6(A), (B)において横軸は周波数fを示し、縦軸は周波数fにおける各信号強度S1(f), S2(f)を示す。STIRパルスの印加を伴う第1のシーケンスにより第1のMRデータを収集して第1の周波数スペクトルを生成すると、脂肪信号が抑制されているため、図6(A)に示すように1つのピークが第1の周波数スペクトルに現れる。従って、ピーク検出部40Cにより検出された第1の周波数スペクトルの1つのピークが水の共鳴周波数であると容易に判定することができる。
【0052】
そして、ピーク検出部40Cにより1つのピークに対応する周波数が十分な精度で検出された場合には、上述したように検出精度判定部40Dにおいてピークの検出精度が十分であると判定される。ピークの検出精度が十分であるか否かの判定は、例えば、信号強度が閾値以上となる周波数の範囲が閾値以下であるか否かの判定や標準偏差等の統計的指標の閾値判定によって行うことができる。
【0053】
ただし、図6(A)のように、1つのピークがピーク検出部40Cにより検出されたとしても、精度が十分でないと検出精度判定部40Dにおいて判定された場合には、例えばSTIRパルスの印加を伴わない第2のシーケンスにより第2のMRデータが収集される。そうすると、第2のMRデータには脂肪抑制効果がないため、第2のMRデータから第2の周波数スペクトルを生成すると、図6(B)に示すように脂肪の共鳴周波数及び水の共鳴周波数にそれぞれ対応する2つのピークが第2の周波数スペクトルに現れる。
【0054】
脂肪の共鳴周波数は水の共鳴周波数に対して負側に3.5ppmだけシフトしている。このため、2つのピークに対応する周波数のうち高い周波数が水の共鳴周波数に相当し、低い周波数が脂肪の共鳴周波数に相当する。図6(B)に示す例では、高い周波数側のピークの方が、信号強度が大きい。従って、少なくともピーク検出部40Cにより第1及び第2の周波数スペクトルの各最大値を検出し、差分値計算部40Eにより各最大値に対応する周波数が同位置となるように第1及び第2の周波数スペクトル間における相対的な位置合わせを行えば、第2の周波数スペクトルにおける2番目のピークを検出しなくても、図6に示すように第1及び第2の周波数スペクトルにおける水の共鳴周波数の相対的な位置を合わせることができる。
【0055】
このため、式(1)に示すように、脂肪信号に相当するピーク値の差Dpを、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数から負側に3.5ppmだけ低い周波数における信号強度P1, P2の差として算出することができる。
Dp = P2-P1 (1)
【0056】
また、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数から負側に3.5ppmだけ低い周波数よりも更に低い周波数f1及び高い周波数f2を所定の周波数差Δfとなるように設定すれば、式(2)に示すように、脂肪信号S1(f), S2(f)の積分値の差Diを算出することができる。
【数1】

【0057】
尚、図6に示すような周波数スペクトルが複数の位置において収集される場合には、信号の積分値は位置方向軸も有する信号分布を表す局面で囲まれた範囲の体積(ボリューム)となり、1つの位置において周波数スペクトルが収集される場合には、信号の積分値は信号分布を表す曲線で囲まれた範囲の面積となる。従って、より高精度に積分値を求めるためには、前処理として第1及び第2の周波数スペクトルのサーフェスフィッティング又はカーブフィッティングを行うことが好適である。
【0058】
また、水信号に相当するピーク値の差及び積分値の差についても第1及び第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数を基準として同様に計算することができる。但し、STIRパルスを印加するか否か等の脂肪抑制条件によって水信号の強度は大きく変化しない。従って、積分範囲Δfを明らかに脂肪及び水の共鳴周波数を含む範囲となるように十分に大きく設定すれば、差分によって水信号がキャンセルされる。このため、積分値の差を脂肪信号の積分値の差とみなすことができる。この場合、第1及び第2の周波数スペクトルにおける周波数の相対的な位置を合わせ処理は不要となる。
【0059】
図7は、図2に示す周波数スペクトル生成部40Bにおいて生成された2つの周波数スペクトルの第2の例を示す図である。
【0060】
図7(A), (B)において横軸は周波数fを示し、縦軸は周波数fにおける各信号強度S1(f), S2(f)を示す。STIRパルスの印加を伴う第1のシーケンスにより胸部等の脂肪成分の多い部位から第1のMRデータを収集して第1の周波数スペクトルを生成すると、脂肪信号が十分に抑制されずに、図7(A)に示すように脂肪及び水の共鳴周波数にそれぞれ対応する不明瞭な2つのピークが相対的に3.5ppmだけシフトした周波数において現れる場合がある。
【0061】
また、STIRパルスの印加を伴わない第2のシーケンスにより脂肪成分の多い部位から第2のMRデータを収集して第2の周波数スペクトルを生成すると、図7(B)に示すように脂肪及び水の共鳴周波数にそれぞれ対応する2つのピークが現れ、かつ脂肪の共鳴周波数において信号強度が最大となる場合がある。
【0062】
更に、図7(A)に示すように第1の周波数スペクトルが水の共鳴周波数において最大の信号強度を呈する場合に第1及び第2の周波数スペクトルの各最大値に対応する周波数の相対的な位置合わせを行うと、図7に示すように第1の周波数スペクトルにおける水の共鳴周波数と第1の周波数スペクトルにおける脂肪の共鳴周波数とが対応してしまう。
【0063】
従って、このような場合には、ピーク検出部40Cにより第1及び第2の周波数スペクトルの2つのピーク及びピーク間の相対的位置を検出し、かつ差分値計算部40Eにより式(1)により脂肪信号に相当するピーク値の差Dpを算出する前に前処理として3.5ppmに相当する周波数の相対的なシフト補正処理を第1及び第2の周波数スペクトルに対して行うことが必要となる。
【0064】
但し、図7に示すように、水と脂肪間における共鳴周波数のシフト量の2倍を超えるような広い積分範囲Δfを設定すれば、脂肪抑制の条件によって水信号の強度が大きく変化しないため、周波数の相対的なシフト補正処理を行わなくても脂肪信号の積分値の差を算出することができる。従って、少なくとも第1及び第2の周波数スペクトルの各最大値を検出すればよい。
【0065】
一方、周波数の相対的なシフト補正処理を行えば、積分範囲を脂肪信号のピークに対応する周波数範囲程度に設定することによって、脂肪信号の積分値の差をより高精度に算出することができる。加えて、水信号の積分値の差を算出することもできる。
【0066】
共鳴周波数検出部40Fは、差分値計算部40Eにおける指標の計算結果に基づいて、2つの周波数スペクトルのいずれに基づいて水の共鳴周波数を検出するのかを決定する機能と、決定した一方の周波数スペクトルに基づいて、必要に応じて脂肪の共鳴周波数を検出することによって、水の共鳴周波数を求める機能を有する。また、検出精度判定部40Dにおいて、水の共鳴周波数が必要な精度で検出されたか否かの判定を行う場合には、共鳴周波数検出部40Fが最初に収集された周波数スペクトルから検出されたピークに基づいて水の共鳴周波数を検出するように構成される。
【0067】
図6(A)に示すように、脂肪抑制を伴って脂肪成分が少ない部位から収集された周波数スペクトルの場合には、水信号に対応するピークの方が脂肪信号に対応するピークよりも明瞭に出現する。このため、水信号のピークから水の共鳴周波数を求めることが精度上望ましい。
【0068】
しかし、図7(B)に示すように、脂肪抑制を伴わずに脂肪成分が多い部位から収集された周波数スペクトルの場合には、脂肪信号に対応するピークの方が水信号に対応するピークよりも明瞭となる場合がある。この場合、脂肪信号に対応するピークから脂肪の共鳴周波数を求め、求めた脂肪の共鳴周波数よりも3.5ppmだけ高い周波数を水の共鳴周波数とみなす方が精度上望ましいと考えられる。
【0069】
更に、脂肪成分の量が中間的な場合には、水信号及び脂肪信号のいずれのピークを用いて水の共鳴周波数を求めれば良いのかという判断をユーザが目視で行うことが困難となり得る。
【0070】
そこで、共鳴周波数検出部40Fは、差分値計算部40Eにおける指標の計算結果に基づいて、画一的に水信号及び脂肪信号のいずれのピークを用いて水の共鳴周波数を求めるのかを決定することができるように構成される。この決定は、指標に対する閾値処理によって行うことができる。
【0071】
例えば、脂肪成分が多い部位では、STIRパルスの印加によって脂肪抑制効果が不十分とはなるものの、脂肪成分が多いため、STIRパルスを印加するか否かによって脂肪信号の強度が大きく変化する。一方、脂肪成分が少ない部位では、STIRパルスの印加によって脂肪信号が抑制されるものの、脂肪成分が多い部位に比べると、STIRパルスを印加するか否かによる脂肪信号の強度の変化量は小さい。また、水信号の強度に着目すると、脂肪成分が少ない部位では、STIRパルスを印加するか否かによる水信号の絶対的な強度の変化量も小さい。
【0072】
そこで、STIRパルスを印加して収集された第1の周波数スペクトルとSTIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルとの間における脂肪信号又は水信号の強度の差又は比を表す指標が閾値よりも小さい場合には、脂肪成分が少ない部位と判定し、STIRパルスを印加して収集された第1の周波数スペクトルのピークに基づいて水の共鳴周波数を算出するように決定することができる。逆に、第1及び第2の周波数スペクトル間における脂肪信号の強度の差又は比を表す指標が閾値よりも大きい場合には、脂肪成分が多い部位と判定し、STIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルにおける脂肪信号のピークに基づいて脂肪の共鳴周波数を算出するように決定することができる。この場合、算出した脂肪の共鳴周波数から水の共鳴周波数が算出される。
【0073】
つまり、共鳴周波数検出部40Fは、脂肪からの信号の強度の相違を表す指標が閾値処理により大きいと判定される場合には、脂肪抑制効果が小さい側の周波数スペクトルを用いて脂肪の共鳴周波数を求め、更に求めた脂肪の共鳴周波数に基づいて水の共鳴周波数を求める一方、指標が閾値処理により小さいと判定される場合には、脂肪抑制効果が大きい側の周波数スペクトルを用いて水の共鳴周波数を求めるように構成される。また、閾値処理の対象となる指標は、脂肪からの信号の強度を表す曲線の積分値の差又は比とすることができる。或いは、脂肪からの信号強度のピークの差又は比を指標とすることもできる。
【0074】
尚、周波数スペクトルのピークから共鳴周波数を求める方法としては、信号の極大値に対応する周波数を共鳴周波数とする方法の他、周波数スペクトルにおける信号強度分布の重心に対応する周波数を共鳴周波数とする方法や信号強度分布の半値幅の中心に対応する周波数を共鳴周波数とする方法などがある。
【0075】
中心周波数設定部40Gは、イメージング用のRFパルスの中心周波数を共鳴周波数検出部40Fにより算出された水の共鳴周波数に設定する機能を有する。
【0076】
データ処理部41は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する機能、シーケンスコントローラ31から周波数スペクトルの生成用のMRデータを受けて周波数スペクトル生成部40Bに与える機能、k空間データ記憶部42からイメージング用のk空間データを取得して、画像再構成処理を含む必要なデータ処理を行うことによって画像データを生成する機能、生成した画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、所望の画像データを画像データ記憶部43から読み込んで必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。
【0077】
以上では、脂肪抑制を行う場合を例に説明したが、水励起を行って相対的に脂肪信号を抑制する場合においても同様に水の共鳴周波数を求めることができる。但し、水励起の場合には、水励起の有無によって水信号の強度が大きく変化する。このため、周波数スペクトル間における水信号の強度分布の相違を表す指標を定義し、水信号についての指標に対する閾値処理によって水の共鳴周波数を求めるための周波数スペクトルを決定するようにしてもよい。
【0078】
また、上述の例では、周波数スペクトルを2つ収集する場合について説明したが、3つ以上の周波数スペクトルを収集してもよい。この場合、所望の方法で信号強度分布の相違を表す指標を定義し、指標に基づいて共鳴周波数の算出に用いる単一又は複数の周波数スペクトルを決定することができる。
【0079】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0080】
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20によりRFパルスの中心周波数を水の共鳴周波数に合わせてイメージングを行う際の流れの一例を示すフローチャートである。ここでは、水の共鳴周波数を求めるために、STIRパルスの印加を伴う第1のシーケンス及びSTIRパルスの印加を伴わない第2のシーケンスにより第1及び第2の周波数スペクトルを収集する場合を例に説明する。
【0081】
まず、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0082】
そして、ステップS1において、STIRパルスの印加を伴う第1のシーケンスにより第1の周波数スペクトルが収集される。すなわち、撮像条件設定部40のパルスシーケンス設定部40Aは、図3(A)に示すようなSTIRパルスの印加後にデータ収集を行う第1のシーケンスをプレスキャン用の撮像条件として設定する。そして、撮像条件設定部40から第1のシーケンスを含むプレスキャン用の撮像条件がシーケンスコントローラ31に出力される。
【0083】
そうすると、シーケンスコントローラ31は、プレスキャン用の撮像条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0084】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からMR信号を受けてデジタルデータのMR信号を生成し、シーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31はMR信号をデータ処理部41に与え、データ処理部41はMR信号を周波数スペクトル生成部40Bに与える。
【0085】
そして、周波数スペクトル生成部40Bは、第1のシーケンスにより収集された第1のMRデータに基づいて第1の周波数スペクトルを生成する。
【0086】
次にステップS2において、ピーク検出部40Cは、第1の周波数スペクトルのピーク及びピークに対応する周波数を検出する。検出されたピークが1つである場合には、共鳴周波数検出部40Fがピークに対応する周波数を水の共鳴周波数と認識する。一方、検出されたピークが2つであり、かつピーク間における周波数シフト量が3.5ppmである場合には、共鳴周波数検出部40Fが高い周波数側のピークに対応する周波数を水の共鳴周波数と認識する。
【0087】
次にステップS3において、検出精度判定部40Dは、水の共鳴周波数が必要な精度で検出されたか否かの判定を行う。そして水の共鳴周波数が必要な精度で検出されていないと判定された場合には、ステップS4において、STIRパルスの印加を伴わない第2のシーケンスにより第2の周波数スペクトルが収集される。
【0088】
すなわち、検出精度判定部40Dがパルスシーケンス設定部40Aに第2のシーケンスの生成指示を与える。そうすると、パルスシーケンス設定部40Aは、図3(B)に示すようなSTIRパルスの印加を伴わない第2のシーケンスをプレスキャン用の撮像条件として設定する。そして、第1の周波数スペクトルの収集と同様な流れで第2の周波数スペクトルが収集される。また、第2の周波数スペクトルのピーク及びピークに対応する周波数がピーク検出部40Cにより検出される。
【0089】
次にステップS5において、差分値計算部40Eは、第1及び第2の周波数スペクトル間における脂肪信号強度の相違を表す指標を計算する。指標としては、式(1)に示す脂肪信号に相当するピーク値P1, P2の差Dp又は比、式(2)に示す脂肪信号S1(f), S2(f)の積分値の差Di又は比を用いることができる。また、図7(B)に示すように、第2の周波数スペクトルにおいて脂肪信号が最大値を呈する場合には、必要に応じて第1及び第2の周波数スペクトル間における周波数シフトが補正される。
【0090】
次にステップS6において、共鳴周波数検出部40Fは、脂肪信号強度の相違を表す指標の閾値判定を行う。そして、指標が閾値以上であると判定された場合には、撮像部位に脂肪成分が多く、脂肪信号に対応するピークの方が水信号に対応するピークよりも明瞭となると考えられる。このため、ステップS7において、共鳴周波数検出部40Fは、脂肪信号に対応するピークから脂肪の共鳴周波数を求める。
【0091】
次にステップS8において、共鳴周波数検出部40Fは、脂肪の共鳴周波数よりも3.5ppmだけ高い周波数を水の共鳴周波数として算出する。これにより、水の共鳴周波数が得られる。
【0092】
また、ステップS3の判定において、検出精度判定部40Dにより、水の共鳴周波数が必要な精度で検出されていると判定された場合には、検出精度判定部40Dがパルスシーケンス設定部40Aに第2のシーケンスを生成しないよう指示を与える。このため、第2の周波数スペクトルの収集は行われない。この場合、ステップS2においてピーク検出部40Cにより検出されたピークに対応する周波数が水の共鳴周波数と認識される。
【0093】
更に、ステップS6の判定において、共鳴周波数検出部40Fにより、脂肪信号強度の相違を表す指標が閾値以上でないと判定された場合には、撮像部位に脂肪成分が少なく、水信号に対応するピークの方が脂肪信号に対応するピークよりも明瞭となると考えられる。この場合にも、ステップS2においてピーク検出部40Cにより検出されたピークに対応する周波数が水の共鳴周波数と認識される。
【0094】
次にステップS9において、中心周波数設定部40Gは、イメージング用のRFパルスの中心周波数を水の共鳴周波数に設定する。また、パルスシーケンスを含む他のイメージング用の撮像条件が撮像条件設定部40により設定される。
【0095】
次にステップS10において、中心周波数が特定の物質又は他の物質の一例に相当する水の共鳴周波数に設定されたRFパルスを用いてイメージングが実行される。すなわち、撮像条件設定部40からイメージング用の撮像条件がシーケンスコントローラ31に出力される。これにより、プレスキャンと同様な流れでイメージング用のMRデータが収集され、収集されたMRデータがデータ処理部41によりk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置される。
【0096】
そして、データ処理部41におけるMRデータに対する画像再構成処理及び画像処理によって表示用の画像データが生成される。さらに生成された画像データが表示装置34に表示される。また、必要な画像データは画像データ記憶部43に保存される。
【0097】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、脂肪等の特定の物質からの抑制又は強調効果が互いに異なる条件でMR信号に関する複数の周波数スペクトルを収集し、特定の物質からの信号強度の周波数スペクトル間における相違を表す指標に応じて選択した周波数スペクトルを用いて特定の物質又は他の物質の共鳴周波数をRFパルスの中心周波数の設定用に検出するようにしたものである。例えば、水信号の共鳴周波数を求める場合であれば、脂肪信号の抑制効果が大きい周波数スペクトルと脂肪信号の抑制効果が小さい周波数スペクトルが収集され、脂肪信号の強度の相違が大きければ脂肪信号の抑制効果が小さい周波数スペクトルから脂肪信号の共鳴周波数が検出される。そして、脂肪信号と水信号間におけるケミカルシフト量に基づいて脂肪信号の共鳴周波数から水の共鳴周波数が算出される。一方、脂肪信号の強度の相違が小さければ脂肪信号の抑制効果が大きい周波数スペクトルから水信号の共鳴周波数が検出される。
【0098】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、水の共鳴周波数を求める場合に撮像部位において脂肪成分が多く、脂肪抑制効果が不十分であっても、より高精度に水の共鳴周波数を求めることができる。従って、脂肪成分が多い胸部におけるイメージングにおいて特に有効である。また、他の物質の共鳴周波数を求める場合においても高精度な検出を行うことができる。
【0099】
この結果、RFパルスの中心周波数をより適切な値に設定することが可能となる。特に、ケミカルシフトを利用して脂肪成分を抑制した画像を収集する場合において、良好に脂肪信号が抑制された画像を得ることができる。
【0100】
また、磁気共鳴イメージング装置20によれば、周波数スペクトルにおいて検出されたピークが水の共鳴周波数に対応するのか脂肪の共鳴周波数に対応するのかの判定精度を向上させ、共鳴周波数の自動検出及びRFパルスの中心周波数の自動設定を容易に行うことができる。
【0101】
(第2の実施形態)
第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置は、共鳴周波数検出部40Fの機能が第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置と相違する。他の構成及び機能は第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置と同等であるため同符号を付して説明を省略し、主として共鳴周波数検出部40Fの機能について説明する。
【0102】
具体的には、第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置の共鳴周波数検出部40Fは、脂肪抑制効果が異なる複数の周波数スペクトルの各最大値に対応する複数の周波数帯域の、複数の周波数スペクトル間における複数の信号変化率及び複数の周波数帯域と複数の周波数帯域からそれぞれ所定の周波数だけ離れた複数の周波数帯域との間における複数の信号変化率の比に基づいて水の共鳴周波数を求める機能を有しいている。
【0103】
すなわち、共鳴周波数検出部40Fは、複数の周波数スペクトル間における水又は脂肪からのMR信号の強度の相違を表す指標として信号量の変化率を用いるように構成されている。そして、共鳴周波数検出部40Fは、複数の周波数スペクトル間及び所定の周波数(3.5ppm)だけ離れた複数の周波数帯域間における信号変化率に基づいて水の共鳴周波数を求めるように構成されている。
【0104】
また、必要に応じて共鳴周波数検出部40Fには、ノイズ判定処理を実行する機能が備えられる。ノイズ判定処理は、脂肪抑制効果が異なる複数の周波数スペクトルの各最大値に対応する周波数帯域から3.5ppmだけ低い周波数帯域における信号量の周波数スペクトル間における変化量に基づいて、信号量の変化率の計算にノイズ成分の信号量が用いられたか否かを判定し、ノイズ成分の信号量が用いられたと判定された場合には、信号量の変化率を定数に補正する処理である。
【0105】
以下、脂肪抑制パルスの一例としてSTIRパルスを印加して収集された第1の周波数スペクトルと、STIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルに基づいて水の共鳴周波数を求める場合を例に説明する。図4に示すように脂肪抑制パルスのFAを変えたり、図5に示すように脂肪抑制パルスの印加時刻からの経過時間を変えた場合も同様である。
【0106】
図9は、本発明の第2の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置において実行される水の共鳴周波数の検出処理の流れを示すフローチャートである。
【0107】
まずステップS20において、STIRパルスを印加して第1の周波数スペクトルが収集される。すなわち、図8のステップS1と同様に、STIRパルスの印加を伴うプレスキャンによって第1の周波数スペクトルの生成用のMR信号が収集される。そして、周波数スペクトル生成部40Bにおいて第1の周波数スペクトルが生成される。
【0108】
次に、ステップS21において、STIRパルスを印加せずに第2の周波数スペクトルが収集される。すなわち、図8のステップS4と同様にSTIRパルスの印加を伴わないプレスキャンによって第2の周波数スペクトルの生成用のMR信号が収集される。そして、周波数スペクトル生成部40Bにおいて第2の周波数スペクトルが生成される。
【0109】
尚、図8と同様に、水の共鳴周波数の検出精度が十分であるか否かの判定を行い、水の共鳴周波数の検出精度が十分である判定された場合には、第2の周波数スペクトルを収集しないようにしてもよい。
【0110】
次に、ステップS22において、ピーク検出部40Cは、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIR, f0を検出する。或いは、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値よりも3.5ppmだけ負側にそれぞれ2番目のピークに相当する極大値が検出された場合には、極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'を検出する。
【0111】
最大値に対応する周波数f0STIR, f0を以後の処理に採用するか極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'を以後の処理に採用するかについては、任意のアルゴリズムに従って決定することができる。例えば、最大値の1/Y(Yは1より大きい正数)以下の極大値が最大値に対応する周波数f0STIR, f0よりも3.5ppmだけ負側の周波数f0'STIR, f0'において検出された場合には、最大値に対応する周波数f0STIR, f0を水の共鳴周波数と仮定して以後の処理に採用する一方、最大値の1/Yよりも大きい極大値が最大値に対応する周波数f0STIR, f0よりも3.5ppmだけ負側の周波数f0'STIR, f0'において検出された場合には、極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'を脂肪の共鳴周波数と仮定して以後の処理に採用するというアルゴリズムが考えられる。
【0112】
次に、ステップS23において、共鳴周波数検出部40Fは、第1及び第2の周波数スペクトルの周波数軸上における位置を合わせる。
【0113】
図10は、図9に示すステップS20及びステップS21において収集され得る第1の周波数スペクトルと第2の周波数スペクトルの組合せを示す図である。
【0114】
図10(A), (B), (C)及び(D)の各上段は、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの例であり、各下段はSTIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルの例である。従って、図10における各横軸は周波数fを示している。また、図10(A), (B), (C)及び(D)は、それぞれ第1及び第2の周波数スペクトルの組合せとなり得る各ケース(CASE1, CASE2, CASE3, CASE4)を示している。
【0115】
頭部のように脂肪が比較的少ない撮像部位についてSTIRパルスを印加せずに周波数スペクトルを収集すると、水の共鳴周波数において最大値となり、脂肪の共鳴周波数において最大値よりも小さい極大値を呈する第2の周波数スペクトルが得られる。この場合、STIRパルスを印加して周波数スペクトルを収集すると、第2の周波数スペクトルよりも脂肪の共鳴周波数において強度が小さくなった第1の周波数スペクトルが得られる。従って、第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルは図10(A)に示すようなCASE1の関係となる。
【0116】
図10(A)に示すような第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルの各最大値に対応する周波数f0STIR, f0をそれぞれ検出すると、最大値に対応する周波数f0STIR, f0は、いずれも水の共鳴周波数となる。
【0117】
一方、脂肪が存在する撮像部位についてSTIRパルスを印加せずに周波数スペクトルを収集すると、脂肪の共鳴周波数において最大値となり、水の共鳴周波数において最大値よりも小さい極大値を呈する第2の周波数スペクトルが得られる場合が多い。この場合、STIRパルスの印加によって脂肪抑制効果が十分に得られた状態で周波数スペクトルを収集すると、水の共鳴周波数において最大値となり、脂肪の共鳴周波数において最大値よりも小さい極大値を呈する第1の周波数スペクトルが得られる。従って、第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルは図10(B)に示すようなCASE2の関係となる。
【0118】
図10(B)に示すような第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルの各最大値に対応する周波数f0STIR, f0をそれぞれ検出すると、第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRは水の共鳴周波数となるが、第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0は脂肪の共鳴周波数となる。図10(B)に示すCASE2は典型的なケースである。
【0119】
また、比較的脂肪が多い撮像部位についてSTIRパルスを印加せずに周波数スペクトルを収集すると、脂肪の共鳴周波数において最大値となり、水の共鳴周波数において最大値よりも小さい極大値を呈する第2の周波数スペクトルが得られる。この場合、STIRパルスを印加しても十分な脂肪抑制効果が得られず、脂肪の共鳴周波数において最大値となり、水の共鳴周波数において最大値よりも小さい極大値を呈する第1の周波数スペクトルが得られる。従って、第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルは図10(C)に示すようなCASE3の関係となる。
【0120】
図10(C)に示すような第1の周波数スペクトル及び第2の周波数スペクトルの各最大値に対応する周波数f0STIR, f0をそれぞれ検出すると、水の共鳴周波数と仮定された最大値に対応する周波数f0STIR, f0は、実際にはいずれも脂肪の共鳴周波数となる。
【0121】
この他、殆ど生じないCASE4として図10(D)に示すケースが考えられる。CASE4は、STIRパルスを印加して収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRが脂肪の共鳴周波数に相当し、STIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0が水の共鳴周波数に相当するケースである。
【0122】
次に、ステップS24において、共鳴周波数検出部40Fは、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRを含む帯域幅W1 [Hz]における信号量S1STIRを算出する。一方、STIRパルスの印加を伴わずに収集された第2の周波数スペクトルの帯域幅W1における信号量S1を算出する。
【0123】
更に、STIRパルスの印加を伴わずに収集された第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0を含む帯域幅W1'における第2の周波数スペクトルの信号量S1'が共鳴周波数検出部40Fにより算出される。一方、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの帯域幅W1'における信号量S1'STIRが共鳴周波数検出部40Fにより算出される。
【0124】
各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'は、図10に示すようにそれぞれ第1及び第2の周波数スペクトルを表す曲線と周波数軸とで囲まれる部分の面積として積分処理によって算出することができる。この場合、帯域幅W1, W1'は、第1及び第2の周波数スペクトルの半値幅等に設定することができる。或いは、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値又は半値幅の中心における信号強度を各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'としてもよい。この場合には、帯域幅W1, W1'は、単位幅となる。但し、各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'を面積とすることが精度上好適である。従って、以下、各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'を面積として求める場合を例に説明する。
【0125】
次に、ステップS25において、共鳴周波数検出部40Fは、第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRから3.5ppmだけ負側の周波数を含む帯域幅W2における信号量S2STIRを算出する。一方、STIRパルスの印加を伴わずに収集された第2の周波数スペクトルの帯域幅W2における信号量S2を算出する。
【0126】
更に、STIRパルスの印加を伴わずに収集された第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0から3.5ppmだけ負側の周波数を含む帯域幅W2'における第2の周波数スペクトルの信号量S2'が共鳴周波数検出部40Fにより算出される。一方、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの帯域幅W2'における信号量S2'STIRが共鳴周波数検出部40Fにより算出される。
【0127】
尚、各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2' については、3.5ppmだけ正側における各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'と同様に算出することができる。帯域幅W2, W2'についても、3.5ppmだけ正側における帯域幅W1, W1' と同様に決定することができる。
【0128】
また、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIR, f0の代わりに、第1及び第2の周波数スペクトルの2番目の極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'が検出されている場合には、2番目の極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'を基準として周波数が低い側における各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2'が算出される一方、極大値に対応する周波数f0'STIR, f0'から3.5ppmだけ正側の周波数を基準として周波数が高い側における各信号量S1STIR, S1, S1'STIR, S1'が算出される。
【0129】
次に、ステップS26において、共鳴周波数検出部40Fは、各帯域幅W1, W1',W2, W2'における第1及び第2の周波数スペクトル間の信号量の変化率R1, R2, R1', R2'を算出する。各変化率R1, R2, R1', R2'は、それぞれ式(3-1)、式(3-2)、式(3-3)及び式(3-4)により計算することができる。
R1 = S1/S1STIR (3-1)
R2 = S2/S2STIR (3-2)
R1' = S1'/S1'STIR (3-3)
R2' = S2'/S2'STIR (3-4)
【0130】
次に、ステップS27において、共鳴周波数検出部40Fは、周波数が低い側における各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2'の、第1及び第2の周波数スペクトル間における変化量A, Bを算出する。各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2'の変化量A, Bは、それぞれ式(4-1)及び式(4-2)により面積間の差分値として計算することができる。
A = S2STIR-S2 (4-1)
B = S2'STIR-S2' (4-2)
【0131】
次に、ステップS28において、共鳴周波数検出部40Fは、ノイズ判定処理を実行する。ノイズ判定処理は、周波数が低い側における信号量の変化率R2, R2'の計算に用いられた各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2'がノイズ成分の信号量であるか否かを判定し、ノイズ成分の信号量が用いられたと判定された場合には、信号量の変化率R2, R2'を定数に設定する処理である。このノイズ判定処理は、周波数が低い側における各信号量S2STIR, S2, S2'STIR, S2'の変化量A, Bに基づくノイズ判定アルゴリズムにより行うことができる。
【0132】
ノイズ判定アルゴリズムは、ノイズ成分の信号量を用いて算出されたと判定された信号量の変化率R2, R2'を強制的に定数C1とする処理である。このノイズ判定アルゴリズムは、例えば式(5)のように定めることができる。
R2 = C1 : |A/B| < TH1
R2' = C1 : TH2 < |A/B|
R2 = R2' = C1 : TH1 ≦ |A/B| ≦ TH2, |B/max(S1STIR, S1')| < TH3
(5)
但し、式(5)においてmax()は、複数の値から最も大きい値を出力する関数である。また、TH1, TH2, TH3は第1、第2、第3及び第4の閾値であり、経験的又はシミュレーション等により適切な値に設定することができる。同様に、定数C1についても経験的又はシミュレーション等により適切な値に設定することができる。
【0133】
式(4-1)で得られる信号の変化量Aの式(4-2)で得られる信号の変化量Bに対する比が第1の閾値TH1よりも小さい場合には、式(4-1)で得られる信号の変化量Aがノイズ成分間における僅かな変化量となっていると判定できる。このため、式(5)に示すように、式(3-2) で得られる変化率R2に定数C1が代入される。
【0134】
逆に、式(4-1)で得られる信号の変化量Aの式(4-2)で得られる信号の変化量Bに対する比が第2の閾値TH1よりも大きい場合には、式(4-2)で得られる信号の変化量Bがノイズ成分間における僅かな変化量となっていると判定できる。このため、式(5)に示すように、式(3-4)で得られる変化率R2'に定数C1が代入される。
【0135】
また、式(4-1)で得られる信号の変化量Aの式(4-2)で得られる信号の変化量Bに対する比が第1の閾値TH1以上第2の閾値TH2以下であり、かつ第1及び第2の周波数スペクトルの各最大値に対応する信号量S1STIR, S1'のうち大きい側の信号量に対する低い周波数側における信号の変化量Bの比が閾値TH3よりも小さい場合には、低い周波数側における信号の変化量A, Bの双方が僅かな変化量となっていると判定できる。このため、式(3-2)及び式(3-4)で得られる双方の変化率R2, R2'にそれぞれ定数C1が代入される。
【0136】
尚、式(5)の閾値判定処理により、周波数が低い側における信号量の変化率R2, R2'の計算にノイズ成分における信号量が用いられていないと判定された場合には、定数C1が代入されることなく式(3-2)及び式(3-4)の計算結果が信号量の変化率R2, R2'がそのまま以後の処理に用いられる。
【0137】
次に、ステップS29において、共鳴周波数検出部40Fは、周波数が低い側における信号量の各変化率R2, R2'の、周波数が高い側における信号量の各変化率R1, R1'に対する比を判定パラメータT, T'として算出する。すなわち、判定パラメータT, T'は、式(6-1)及び式(6-2)に示すように、それぞれ周波数スペクトル間における信号量の変化率R1, R2, R1', R2'の、3.5ppmだけ離れた周波数間における変化率として判定パラメータT, T'を算出する。
T = R2/R1 (6-1)
T' = R2'/R1' (6-2)
【0138】
次に、ステップS30において、共鳴周波数検出部40Fは、各判定パラメータT, T'と閾値εとの比較を行う閾値処理によって、水及び脂肪の共鳴周波数を特定する。水の共鳴周波数の特定は、例えば、以下のような共鳴周波数特定アルゴリズムに従って実行することができる。尚、閾値εは経験的又はシミュレーションによって予め定数として決定することができる。
【0139】
まず閾値判定の結果が、T>εかつT'>εである場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが図10(A)に示すCASE1に該当すると判定することができる。従って、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRを水の共鳴周波数として特定することができる。
【0140】
次に、閾値判定の結果が、T>εかつT'<εである場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが図10(B)に示すCASE2に該当すると判定することができる。従って、この場合にもSTIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRを水の共鳴周波数として特定することができる。
【0141】
つまり、T>εであれば、T'の閾値判定を行わなくても、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRを水の共鳴周波数として特定することが可能である。
【0142】
一方、閾値判定の結果が、T<εかつT'<εである場合には、更に、式(7)に示す閾値判定が実行される。
R1 = S1/S1STIR > X (7)
但し、式(7)においてXは閾値であり、予め経験的又はシミュレーションによって決定することができる。Xは経験的には3より大きい値になることが想定される。
【0143】
式(7)が成立する場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが図10(C)に示すCASE3に該当すると判定することができる。すなわち、第1及び第2の周波数スペクトルの最大値として脂肪の共鳴周波数が検出されたと判定することができる。従って、この場合にはSTIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0から3.5ppmだけ高い周波数を水の共鳴周波数として特定することができる。
【0144】
逆に、式(7)が満たされない場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが図10(A)に示すCASE1に該当すると判定することができる。従って、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRを水の共鳴周波数として特定することができる。
【0145】
更に、閾値判定の結果が、T<εかつT'>εである場合には、第1及び第2の周波数スペクトルが図10(D)に示すCASE4に該当すると判定することができる。尚、CASE4は、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルでは脂肪の共鳴周波数において最大値となる一方、STIRパルスを印加せずに収集された第2の周波数スペクトルでは水の共鳴周波数において最大値となる稀なケースである。この場合には、STIRパルスの印加を伴って収集された第1の周波数スペクトルの最大値に対応する周波数f0STIRが脂肪の共鳴周波数に相当するため、3.5ppmだけ高い周波数を水の共鳴周波数として特定することができる。
【0146】
このような第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置によれば、撮像部位に脂肪が殆ど存在しない場合や水からのMR信号が殆ど収集されない場合など、様々なケースにおいて周波数スペクトルのピークが水の共鳴周波数に対応するのか或いは脂肪の共鳴周波数に対応するのかを高精度に判定することが可能である。すなわち、周波数スペクトルに基づいて、水及び脂肪の共鳴周波数を高精度で検出することができる。この結果、イメージング用のRFパルスの中心周波数を適切に設定するとともに、良好に脂肪抑制効果が得られたMR画像を収集することが可能となる。
【0147】
特に、水の共鳴周波数を特定するために用いられる判定パラメータT, T'の値が限りなく0に近い値になることをノイズ判定処理の実行によって回避することができる。このため、信号変化率を用いた判定パラメータT, T'を安定的な値とし、判定パラメータT, T'に基づく水の共鳴周波数の特定処理についてもエラーを回避して安定的に行うことができる。
【0148】
(第3の実施形態)
第3の実施形態における磁気共鳴イメージング装置は、共鳴周波数検出部の機能が第1及び第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置と相違する。他の構成及び機能は第1及び第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置と同等であるため説明を省略し、共鳴周波数検出部の機能についてのみ説明する。
【0149】
上述した第1及び第2の実施形態では、実際に収集された周波数スペクトルに基づいて水や脂肪等の特定の物質の共鳴周波数を求める方法について説明したが、参照用の周波数スペクトルの形状を特定の物質からの信号の抑制効果又は強調効果の度合いごとに予めモデル化し、モデル化した参照用の周波数スペクトルと実際に収集された周波数スペクトルとに基づいて特定の物質の共鳴周波数を求めるようにすることもできる。
【0150】
具体的には、特定の物質からの信号を抑制又は強調して被検体からMR信号の周波数スペクトルを収集し、実際に収集された周波数スペクトルと参照用の周波数スペクトルとの一致度又は不一致度を表す指標に基づいて、特定の物質又は他の物質の共鳴周波数を求めることができる。換言すれば、カーブフィッティングによって確率論的に水や脂肪等の特定の物質の共鳴周波数を求めることができる。
【0151】
フィッティングの手法としては、相関係数を一致度の指標として相関係数がより1に近づくように周波数スペクトルをシフトさせる方法や2乗誤差を不一致度の指標として最小とする最小2乗法によって周波数スペクトルをシフトさせる方法などが挙げられる。すなわち、実際に収集された周波数スペクトルと参照用の周波数スペクトルとの一致度が最大となるように、実際に収集された周波数スペクトルを周波数方向にシフトさせることによって、実際に収集された周波数スペクトルから検出された各ピークがどの物質の共鳴周波数に相当するのかを自動判定することができる。
【0152】
そこで、図2に示す構成であれば、共鳴周波数検出部40Dに、上述したような参照用の周波数スペクトルと実際に収集された周波数スペクトルとの一致度又は不一致度に基づく共鳴周波数の自動判定機能を設ければよい。
【0153】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0154】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
32 コンピュータ
37 寝台
40 撮像条件設定部
41 データ処理部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
40A パルスシーケンス設定部
40B 周波数スペクトル生成部
40C ピーク検出部
40D 検出精度判定部
40E 差分値計算部
40F 共鳴周波数検出部
40G 中心周波数設定部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の物質からの信号の抑制又は強調効果を変えて被検体から複数の磁気共鳴信号の周波数スペクトルを収集するスペクトル収集手段と、
前記複数の周波数スペクトル間における前記特定の物質又は他の物質からの信号の強度の相違を表す指標に基づいて、前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数を求める共鳴周波数取得手段と、
中心周波数が前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数に設定された高周波パルスを用いてイメージングを行うイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記スペクトル収集手段は、脂肪抑制パルスのフリップアングル又は脂肪抑制パルスを印加するか否かを変えることによって脂肪抑制効果が異なる2つの周波数スペクトルを収集するように構成され、
前記共鳴周波数取得手段は、脂肪からの信号の強度の相違を表す指標が閾値処理により大きいと判定される場合には、脂肪抑制効果が小さい側の周波数スペクトルを用いて脂肪の共鳴周波数を求め、更に求めた前記脂肪の共鳴周波数に基づいて水の共鳴周波数を求める一方、前記指標が前記閾値処理により小さいと判定される場合には、脂肪抑制効果が大きい側の周波数スペクトルを用いて水の共鳴周波数を求めるように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記共鳴周波数取得手段は、前記脂肪からの信号の強度を表す曲線の積分値の差又は比を前記指標とするように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記共鳴周波数取得手段は、前記脂肪からの信号強度のピークの差又は比を前記指標とするように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記脂肪抑制効果が大きい側の周波数スペクトルを用いて前記水の共鳴周波数が所定の精度で求められたか否かを判定し、前記水の共鳴周波数が前記所定の精度で求められたと判定された場合には、前記脂肪抑制効果が小さい側の周波数スペクトルが収集されないように前記スペクトル収集手段を制御する制御手段を更に備える請求項2乃至4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記スペクトル収集手段は、前記特定の物質と他の物質との縦緩和時間の相違に基づいて、前記特定の物質からの信号の抑制又は強調効果の度合いの異なる複数の周波数スペクトルを収集するように構成される請求項1乃至5のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記共鳴周波数取得手段は、脂肪抑制効果が異なる複数の周波数スペクトルの各最大値に対応する複数の周波数帯域の前記複数の周波数スペクトル間における複数の信号変化率及び前記複数の周波数帯域と前記複数の周波数帯域からそれぞれ所定の周波数だけ離れた複数の周波数帯域との間における前記複数の信号変化率の比に基づいて水の共鳴周波数を求めるように構成される請求項1乃至6のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
特定の物質からの信号を抑制又は強調して被検体から磁気共鳴信号の周波数スペクトルを収集するスペクトル収集手段と、
前記周波数スペクトルと参照用の周波数スペクトルとの間における一致度又は不一致度を表す指標に基づいて、前記特定の物質又は他の物質の共鳴周波数を求める共鳴周波数取得手段と、
中心周波数が前記特定の物質又は前記他の物質の共鳴周波数に設定された高周波パルスを用いてイメージングを行うイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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