説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】渦磁場の強度及び時定数をより良好な精度で測定することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することである。
【解決手段】 実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段、渦磁場測定手段及びイメージング手段を備える。データ収集手段は、渦磁場を発生させる傾斜磁場の印加を伴って複数の異なるタイミングにおいて磁気共鳴信号を収集する。渦磁場測定手段は、前記複数のタイミングにおいて収集された前記磁気共鳴信号の位相情報に基づいて前記渦磁場の時定数を含む渦磁場情報を取得する。イメージング手段は、前記渦磁場情報に応じた撮像条件又はデータ処理条件でイメージングを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング(MRI: Magnetic Resonance Imaging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRIは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF: radio frequency)信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生する磁気共鳴(MR: nuclear magnetic resonance)信号から画像を再構成する撮像法である。
【0003】
MRIでは、MR信号を収集するために傾斜磁場コイルにより傾斜磁場が印加されるが、傾斜磁場はパルス波として生成される。このため、傾斜磁場コイルの周囲に電気伝導体があると、傾斜磁場の立上り時及び立下り時において電気伝導体に渦電流が発生する。
【0004】
電気伝導体の例としては、静磁場磁石の熱シールドが挙げられる。0.5T以上の静磁場を生成する超伝導磁石が静磁場磁石として用いられる場合、超伝導磁石には熱シールドとして液体ヘリウム封入した金属容器が設けられる。更に、この液体ヘリウム層の周囲には、液体窒素を封入した金属容器など複数の金属容器が配置される。従って、傾斜磁場の印加によって各金属容器には、渦電流が発生する。
【0005】
静磁場磁石に設けられる各金属容器の温度、材質及びサイズは、互いに異なる。従って、各金属容器に生じる渦電流の強度及び減衰の時定数は複数の成分を有する。一般には、渦電流の時定数は0.2msから3ms程度の広い範囲に亘っている。
【0006】
一方、傾斜磁場の印加によって傾斜磁場コイルの線材自体にも自己渦電流が発生する。この自己渦電流によって無視できない磁場歪が生じる場合がある。
【0007】
このような渦電流が発生すると、渦電流に起因して変動する渦磁場が生じ、MRI装置のコントローラから制御値として出力される傾斜磁場の波形に歪を発生させる原因となる。そして、傾斜磁場の歪みは画像のアーチファクトをもたらす。
【0008】
そこで、渦磁場の生成を抑制するアクティブシールド型傾斜磁場コイル(ASGC:Actively Shielded Gradient Coil)が考案されている。また、渦磁場により歪んだ傾斜磁場の波形を補正する渦磁場補償が考案されている。原理的には、ASGCによって渦磁場の強度を大幅に低減することができる。
【0009】
しかしながら、実際には、ASGCの製造誤差やコイル線材の離散配置等の理由で、微小な渦磁場の発生を回避することができない。このため、EPI (EPI: echo planar imaging)法等の高速撮影法を用いる場合には、僅かな渦磁場の存在によって画像にアーチファクトが発生する恐れがある。そこで、ASGCを用いて傾斜磁場を印加する場合であっても、渦磁場の補償を行うことが望ましい。
【0010】
渦磁場を抑制する別の技術としては、渦磁場がキャンセルされるように、パルスシーケンスとして設定される傾斜磁場の波形を調整する方法が考案されている。例えば、拡張強調イメージング(DWI: diffusion weighted imaging)は、MPG (motion probing gradient)パルスの印加を伴うEPIシーケンスによって実行される。MPGパルスは、強力な傾斜磁場パルスであるため、MPGパルスで発生する渦磁場がキャンセルされるようにEPIシーケンスにおける他の傾斜磁場を調整する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−189344号公報
【特許文献2】特開2006−102541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
渦磁場の補償を正確に行うためには、渦磁場の強度、時定数及び空間分布を予め十分な精度で計測することが重要である。例えば、DWIを行う場合には、0.2msから30ms程度の時定数を有する渦磁場を十分な精度で測定することが重要となる。渦磁場の強度及び時定数は、渦磁場の測定用のパルスシーケンスによって収集されたMR信号の位相シフト情報に基づいて求めることができる。
【0013】
一方で、近年、3T以上の静磁場強度を生成することが可能なMRI装置が普及し始めている。このような高磁場下では、横緩和スター(T2*)緩和によるMR信号強度の減衰の影響が無視できない場合がある。すなわち、渦磁場による位相シフトと、T2*減衰による位相シフトの双方がMR信号に生じる。この場合、MR信号の位相シフト量から正確に渦磁場の強度及び時定数を求めることが困難となる。特に、DWIを行う場合には、渦磁場の時定数がT2*減衰の時定数と同程度となり、渦磁場の強度及び時定数を精度良く測定することが一層困難となる。
【0014】
すなわち、従来の技術では、3T以上の高磁場下において、特にT2*減衰の時定数と同程度の0.2msから30ms程度の時定数を有する渦磁場の強度及び時定数を十分な精度で測定することが困難である。また、高磁場下に限らず、渦磁場の強度及び時定数を良好な精度で測定することが望まれる。
【0015】
本発明は、渦磁場の強度及び時定数をより良好な精度で測定することが可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、データ収集手段、渦磁場測定手段及びイメージング手段を備える。データ収集手段は、渦磁場を発生させる傾斜磁場の印加を伴って複数の異なるタイミングにおいて磁気共鳴信号を収集する。渦磁場測定手段は、前記複数のタイミングにおいて収集された前記磁気共鳴信号の位相情報に基づいて前記渦磁場の時定数を含む渦磁場情報を取得する。イメージング手段は、前記渦磁場情報に応じた撮像条件又はデータ処理条件でイメージングを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【図2】図1に示すコンピュータの機能ブロック図。
【図3】図2に示す撮像条件設定部において設定される渦磁場の強度及び時定数の測定シーケンスの一例を示すシーケンスチャート。
【図4】図2に示す撮像条件設定部において設定される渦磁場の強度及び時定数の測定シーケンスの別の一例を示すシーケンスチャート。
【図5】図2に示す撮像条件設定部において設定される渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域の例を示す図。
【図6】図2に示す渦磁場測定部において得られる位相シフト量と時間の関係を表すプロットデータの一例を示す図。
【図7】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により渦磁場の強度及び時定数の測定を伴ってイメージングを実行する際の流れ示すフローチャート。
【図8】図1に示す磁気共鳴イメージング装置により渦磁場の強度及び時定数を測定し、渦磁場補償用の装置パラメータとして保存する際の流れ示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置について添付図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
【0020】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
【0021】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
【0022】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0023】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0024】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
【0025】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0026】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0027】
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0028】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
【0029】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0030】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0031】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0032】
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0033】
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。データ処理部41は、渦磁場測定部41A及び画像データ生成部41Bを有する。また、記憶装置36はk空間データ記憶部42及び画像データ記憶部43として機能する。
【0034】
撮像条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてパルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。特に、撮像条件設定部40は、傾斜磁場の印加によって生じる渦磁場の強度及び減衰の時定数を測定するためのMR信号のデータ収集条件を設定する機能を有する。渦磁場の強度及び減衰の時定数等の渦磁場情報を取得するためのデータ収集条件は、複数のエコー時間(TE: echo time)にそれぞれ対応する複数のパルスシーケンスに従ってMR信号を収集する条件として設定することができる。
【0035】
図3は、図2に示す撮像条件設定部40において設定される渦磁場の強度及び時定数の測定シーケンスの一例を示すシーケンスチャートである。
【0036】
図3(A), (B), (C)及び(D)において横軸は時間を、RFはRF送信パルス及びMR受信エコー信号を、Gは傾斜磁場パルスを、それぞれ示す。撮像条件設定部40では、例えば、図3(A), (B), (C)及び(D)に示す4つのスピンエコー(SE: spin echo)シーケンスを渦磁場の強度及び時定数の測定用のシーケンスとして設定することができる。図3(A), (B), (C)及び(D)に示す4つのシーケンスの実行順序は任意である。
【0037】
図3(A)に示すように、スライス選択用の傾斜磁場とともにRF励起パルスが印加された後、第1のエコー時間TE1の1/2が経過したタイミングでRF反転パルスがスライス選択用の傾斜磁場とともに印加される。そうすると、第1のエコー時間TE1に応じた期間においてMRエコー信号が受信データDATA1(TE1)として収集される。
【0038】
受信データDATA1(TE1)の収集期間は、読出し(RO: readout)傾斜磁場を始めとする傾斜磁場が印加されない期間とされる。更に、受信データDATA1(TE1)の受信期間は、T2*減衰によってMRエコー信号に生じる位相シフトが無視できる期間に設定される。T2*減衰の影響が最も小さくなるタイミングはTEである。
【0039】
従って、受信データDATA1(TE1)の受信期間は、第1のエコー時間TE1の前後における一定の期間内となる。すなわち、RF励起パルスの印加タイミングから第1のエコー時間TE1だけ経過したタイミングを含む期間においてMRエコー信号が受信データDATA1(TE1)として収集される。
【0040】
このときRF反転パルスの印加前後において、渦磁場を発生させるための渦発生傾斜磁場パルスGeddyが印加される。渦発生傾斜磁場パルスGeddyの面積は、RF反転パルスの印加前後において同一とみなせる面積に設定される。従って、図3には、RF反転パルスの印加前後において同一のパルス波形を有する渦発生傾斜磁場パルスGeddyがそれぞれ印加される例を示しているが、面積が同一であれば異なるパルス波形を有する渦発生傾斜磁場パルスGeddyをRF反転パルスの印加前後において印加してもよい。また、面積の総和が同一であれば異なる数の渦発生傾斜磁場パルスGeddyをRF反転パルスの印加前後において印加してもよい。
【0041】
次に、図3(B)に示すように、TEを第1のエコー時間TE1と異なる第2のエコー時間TE2に設定したSEシーケンスが渦磁場の強度及び時定数の測定用のシーケンスとして設定される。すなわち、TEを第1のエコー時間TE1から第2のエコー時間TE2に変えた点以外は、図3(A)に示すSEシーケンスと実質的に同一のSEシーケンスが設定される。従って、図3(B)に示すSEシーケンスを構成する個々のパルスの波形は、図3(A)に示すSEシーケンスを構成する個々のパルスの波形と同一である。
【0042】
この結果、図3(B)に示すSEシーケンスでは、スライス選択用の傾斜磁場とともにRF励起パルスが印加された後、第2のエコー時間TE2の1/2が経過したタイミングでRF反転パルスがスライス選択用の傾斜磁場とともに印加される。そして、第2のエコー時間TE2に応じた期間においてMRエコー信号が受信データDATA1(TE2)として収集される。
【0043】
受信データDATA1(TE2)の収集期間には、RO傾斜磁場を始めとする傾斜磁場は印加されない。更に、受信データDATA1(TE2)の受信期間は、T2*減衰によってMRエコー信号に生じる位相シフトが無視できる期間に設定される。
【0044】
すなわち、受信データDATA1(TE2)の受信期間は、第2のエコー時間TE2の前後における一定の期間内に設定される。換言すれば、RF励起パルスの印加タイミングから第2のエコー時間TE2だけ経過したタイミングを含む期間においてMRエコー信号が受信データDATA1(TE2)として収集される。
【0045】
RF反転パルスの印加前後には、図3(A)に示すSEシーケンスと同一の波形を有する渦発生傾斜磁場パルスGeddyが印加される。渦発生傾斜磁場パルスGeddyとRF反転パルスとの間における相対的な印加時刻の差も、図3(A)に示すSEシーケンスと同一である。
【0046】
この結果、第1のエコー時間TE1及び第2のエコー時間TE2に対応してそれぞれ収集される受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)は、いずれもT2*減衰による位相シフトは無視でき、かつ渦発生傾斜磁場パルスGeddyによって生じる渦磁場の影響によって位相シフトを受ける。更に、各受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)の受信期間の中心時刻は、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加時刻から異なる経過時間だけ経過したタイミングとなる。
【0047】
従って、各受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)を互いに組み合わせれば、T2*減衰による位相シフトが無視でき、かつ仮に1回のRF励起パルスの印加によって収集すればT2*減衰による位相シフトが無視できなくなる期間に亘る受信データDATA1を得ることができる。
【0048】
そこで、第1のエコー時間TE1及び第2のエコー時間TE2は、各SEシーケンスによってそれぞれ収集される受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)を組み合わせて得られる受信データDATA1が、渦発生傾斜磁場パルスGeddyによって生じる渦磁場の時定数を十分な精度で求めることが可能な受信データとなるように決定される。
【0049】
従って、図3(A)及び(B)に示す各SEシーケンスにおける受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)の各受信期間が互いに隣接するように、或いは適切なマージン量だけオーバーラップするように第1のエコー時間TE1及び第2のエコー時間TE2が決定される。図3は、 (A)に示すSEシーケンスにより収集される受信データDATA1(TE1)よりも時間的に後方の受信データDATA1(TE2)が(B)に示すSEシーケンスにより収集されるように、第1のエコー時間TE1よりも第2のエコー時間TE2を、データ受信期間の概ね2倍の期間分だけ長く設定した例を示している。
【0050】
ところで、第1のエコー時間TE1及び第2のエコー時間TE2を含む期間においてそれぞれ収集される受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2)には、T2*減衰及び渦発生傾斜磁場パルスGeddyによる渦磁場以外の静磁場不均一性等の要因に起因する位相シフトが生じ得る。そこで、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの強度を変えたSEシーケンスを実行して収集された受信データと位相の差分を取ることにより、T2*減衰及び渦発生傾斜磁場パルスGeddyによる渦磁場以外の要因に起因する位相シフトをキャンセルすることができる。
【0051】
図3(C)及び(D)は、それぞれ図3(A)及び(B)に示すSEシーケンスにおける渦発生傾斜磁場パルスGeddyの極性を反転させたSEシーケンスを示している。すなわち、図3(C)に示すSEシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングから第1のエコー時間TE1だけ経過したタイミングを含む期間において渦発生傾斜磁場パルス-Geddyによる渦磁場の影響を受けたMRエコー信号が受信データDATA2(TE1)として収集される。一方、図3(D)に示すSEシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングから第2のエコー時間TE2だけ経過したタイミングを含む期間において渦発生傾斜磁場パルス-Geddyによる渦磁場の影響を受けたMRエコー信号が受信データDATA2(TE2)として収集される。
【0052】
図3(C)及び(D)のように渦発生傾斜磁場パルスGeddyの極性を反転させずに、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの強度をゼロとしたり、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの強度の絶対値を変えても良い。図3(A)及び(B)に加え(C)及び(D)に示す各SEシーケンスをデータ収集条件として設定することにより、渦磁場の強度及び減衰の時定数を実用的な精度で測定することができる。
【0053】
尚、3つ以上の異なるTEを設定した複数のSEシーケンスをデータ収集条件としてもよい。すなわち、少なくともTEが互いに異なる2つ以上のSEシーケンスを設定し、RF反転パルス、SS傾斜磁場、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加パターンをTEに関わらず一定にすれば、渦磁場の強度及び減衰の時定数を測定するためのデータを収集することができる。そして、TEの数を多くすれば、より長い時定数を求めることが可能となる。また、RF反転パルス及びSS傾斜磁場による測定への影響が無視可能であれば、RF反転パルス、SS傾斜磁場及び渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加パターンをTEによって若干変えることも当然可能である。
【0054】
また、図3は、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加方向をスライス選択(SS: slice selection)傾斜磁場パルスの印加方向とした例を示しているが、イメージングスキャン用の撮像条件に対応するよう適切な印加方向に渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加して渦磁場の強度及び時定数の測定用のデータ収集を行うことができる。
【0055】
また、図3に示す各SEシーケンスにおいて位相エンコード(PE: phase encode)用傾斜磁場パルスをRF励起パルスとRF反転パルスとの間或いはRF反転パルスの直後に印加し、異なる位相エンコード量でSEシーケンスを繰り返し実行するようにデータ収集条件を設定してもよい。この場合、PE軸方向の各位相エンコード量に対応する受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2), DATA2(TE1), DATA2(TE2)を収集することによって渦磁場の強度及び時定数の空間分布を求めることが可能となる。
【0056】
更に、図3に示す各SEシーケンスにおいてRF反転パルスの後に、自由誘導減衰(FID: free induction decay)信号を除去するためのスポイラ傾斜磁場パルス(クラッシャーパルスともいう)を印加してもよい。これは、T2*減衰の影響を受けずに受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2), DATA2(TE1), DATA2(TE2)を収集することが可能な期間を、スポイラ傾斜磁場パルスを印加しない場合に比べて長くすることに相当する。
【0057】
スポイラ傾斜磁場パルスを印加する場合には、RF反転パルスの印加時刻に対するスポイラ傾斜磁場パルスの相対時刻及びスポイラ傾斜磁場パルスのパルス波形を図3(A), (B), (C)及び(D)に示す各SEシーケンス間において共通にすることが望ましい。これは、受信データDATA1(TE1), DATA1(TE2), DATA2(TE1), DATA2(TE2)のデータ収集条件を共通にして、より高精度に渦磁場の強度及び時定数を求めるためである。
【0058】
一方、より高精度に渦磁場の強度、時定数及び空間分布を求めるために、イメージングスキャン用の撮像条件とできるだけ同一のデータ収集条件を設定することもできる。渦磁場の影響が大きくなる撮像法として代表的なのはDWIである。そこで、DWI用のEPIシーケンスにおいてMPGパルスの印加によって生じる渦磁場の強度、時定数及び空間分布を測定するためのデータ収集シーケンスについて例示する。
【0059】
図4は、図2に示す撮像条件設定部40において設定される渦磁場の強度及び時定数の測定シーケンスの別の一例を示すシーケンスチャートである。
【0060】
図4(A), (B), (C)及び(D)において横軸は時間を、RFはRF送信パルス及びMR受信エコー信号を、GssはSS方向に印加される傾斜磁場パルスを、GroはRO方向に印加される傾斜磁場パルスを、GpeはPE方向い印加される傾斜磁場パルスを、それぞれ示す。
【0061】
図4(A), (B), (C)及び(D)は、いずれもMPGパルスGMPGの印加を伴うDWI用のEPIシーケンスである。すなわち、RF励起パルス及びRF反転パルスがSS傾斜磁場パルスとともに印加される。
【0062】
図4(A)及び(C)に示すEPIシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングから第1のエコー時間TE1iの1/2が経過したタイミングでRF反転パルスが印加され、第1のエコー時間TE1iが経過したタイミングでMRエコー信号のピークが現れる。一方、図4(B)及び(D)に示すEPIシーケンスでは、RF励起パルスの印加タイミングから第2のエコー時間TE2jの1/2が経過したタイミングでRF反転パルスが印加され、第2のエコー時間TE2jが経過したタイミングでMRエコー信号のピークが現れる。
【0063】
また、RF反転パルスの前後には、MPGパルスGMPGが印加される。MPGパルスGMPGは、DWIシーケンスにおける主要な渦発生傾斜磁場パルスGeddyに相当する。RF反転パルスの前後においてMPGパルスGMPGの面積及び印加方向が同一であれば、MPGパルスGMPGのパルス波形やパルス数はRF反転パルスの前後において異なっていてもよい。図4(A), (B), (C)及び(D)は、RF反転パルスの前後においてSS方向に同一のパルス波形を有するMPGパルスGMPGが印加されるようにEPIシーケンスを設定した例を示している。
【0064】
図3に示すSEシーケンスの場合と同様な理由からEPIシーケンスの場合においてもMPGパルスGMPGの強度を変えてデータ収集を行うことが望ましい。図4(C)及び(D)に示すEPIシーケンスは、それぞれ図4(A)及び(B)に示すEPIシーケンスにおけるMPGパルスGMPGの極性を反転させたシーケンスである。但し、実際にイメージングスキャンに用いるEPIシーケンスにおいて印加されるMPGパルスの強度に一致させることが精度上好適である。
【0065】
MPGパルスGMPGの印加後には、RO傾斜磁場パルス及びブリップ状PE傾斜磁場パルスが繰り返し印加される。すなわち、極性を交互に変えて複数のRO傾斜磁場パルス及び同一極性を有する複数のブリップ状PE傾斜磁場パルスがMPGパルスGMPGの印加後に印加される。RO傾斜磁場パルスの印加によって周波数エンコードが実行され、信号に空間周波数が付与される。そして、渦磁場の強度、時定数及び空間分布等の渦磁場情報の取得用のデータ収集は、複数のRO傾斜磁場パルスのうちの一部と同期して実行される。
【0066】
更に、RF励起パルスとRF反転パルスとの間には、ステップ状のパルス波形を有するPE傾斜磁場パルスが印加される。各EPIシーケンスは、それぞれ一定の繰返し時間(TR: repetition time)で繰り返され、各EPIシーケンスが繰り返される度にステップ状PE傾斜磁場パルスの面積が一定の量だけ変化するように装置が制御される。
【0067】
ステップ状PE傾斜磁場パルスの強度は、渦磁場情報の取得用のMRエコー信号を所望の位相エンコード量で位相エンコードして取得することが可能となるように設定される。各タイミングで受信されるMRエコー信号は、受信タイミングより前に印加されたステップ状PE傾斜磁場パルス及びブリップ状PE傾斜磁場パルスの各面積の総和に相当する位相エンコード量だけ位相エンコードされることとなる。従って、ステップ状PE傾斜磁場パルスの強度は、渦磁場情報の取得用のMRエコー信号の受信タイミング、つまり渦磁場情報の取得用のMRエコー信号が受信される前におけるブリップ状PE傾斜磁場パルスの印加回数に応じた強度に設定される。
【0068】
一方、渦磁場情報の取得用のMRエコー信号の発生タイミングが、RF反転パルス後のMPGパルスGMPGの印加終了タイミングから所定の時間だけ経過したタイミングとなるように各EPIシーケンスの撮像パラメータが設定される。具体的には、図4(A)に示すEPIシーケンスでは、EPIシーケンスを繰り返すことによってT2*減衰の影響を無視できる期間内においてMPGパルスGMPGの印加終了タイミングから互いに異なる時間tiだけ経過した各時刻における複数のMRエコー信号が受信データDATA1(ti)として渦磁場情報の取得用に収集されるように撮像パラメータが設定される。
【0069】
また、図4(B)に示すEPIシーケンスでは、EPIシーケンスを繰り返すことによってT2*減衰の影響を無視できる期間内においてMPGパルスGMPGの印加終了タイミングから互いに異なる時間tjだけ経過した各時刻における複数のMRエコー信号が受信データDATA1(tj)として渦磁場情報の取得用に収集されるように撮像パラメータが設定される。
【0070】
そして、MPGパルスGMPGの印加終了タイミングからの経過時間ti, tjに対応する受信データDATA1(ti), DATA1(tj)を組み合わせて得られる受信データDATA1が、MPGパルスGMPGによって生じる渦磁場の時定数を十分な精度で求めることが可能な受信データとなるように経過時間ti, tjが決定される。
【0071】
図4(A)に示すEPIシーケンスにおいて、受信データDATA1(ti)の発生タイミングを調整するための撮像パラメータとしては、第1のエコー時間TE1i及び第1のエコー時間TE1iの経過タイミングと受信データDATA1(ti)の収集タイミングとの間における時間差Δtiが挙げられる。そこで、図4(A)に示すEPIシーケンスでは、第1のエコー時間TE1i及び時間差Δtiの一方又は双方が受信データDATA1(ti)の収集タイミングに合わせて可変設定される。
【0072】
同様に、図4(B)に示すEPIシーケンスでも、第2のエコー時間TE2j及び時間差Δtjの一方又は双方が受信データDATA1(tj)の収集タイミングに合わせて可変設定される。すなわち、図3に示す第1のエコー時間TE1及び第2のエコー時間TE2は固定値であるのに対して図4に示す第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jは可変値とすることができる。
【0073】
図4(A)及び(B)に示す各EPIシーケンスにおいて第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jを一定とする場合には、T2*減衰の影響が無視できる範囲内で時間差Δti, Δtjが可変設定される。すなわち、繰り返されるEPIシーケンスごとに異なる時間差Δti, Δtjが設定される。この場合、TEが第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jの2種類となり、制御を簡略化することができる。
【0074】
時間差Δti, Δtjの可変範囲内において収集される受信データDATA1(ti), DATA1(tj)の数、すなわちEPIシーケンスの繰返し回数はEPIシーケンスのエコー信号列間隔(ETS: echo train space)や空間分解能等の条件に依存する。すなわち、ETSが短ければより多くの受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)を収集して渦磁場の時定数を高精度にすることができる。具体的には、ETSに応じて数個から十数個程度まで受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)を収集することが可能である。
【0075】
逆に、図4(A)及び(B)に示すEPIシーケンスにおいて第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jのみを変更させて時間差Δti, Δtjを常にゼロとしてもよい。この場合、第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jは、ETSに相当する時間間隔で変化させることとなる。この制御により、全ての受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)をT2*減衰の影響が最も小さい第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jにおいて収集することができる。
【0076】
図4は、第1のエコー時間TE1i及び第2のエコー時間TE2jに加え、時間差Δti, Δtjも可変設定した例を示している。すなわち、図4(A)のEPIシーケンスでは、平均的に第2のエコー時間TE2jよりも短い第1のエコー時間TE1iで受信データDATA1(ti)が繰り返し収集される。一方、図4(B)のEPIシーケンスでは、平均的に第1のエコー時間TE1iよりも長い第2のエコー時間TE2jで受信データDATA1(tj)が繰り返し収集される。
【0077】
上述したステップ状PE傾斜磁場パルスの面積は、図4(A)及び(B)に示すEPIシーケンスにより同一の空間位置から収集される各受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)の位相エンコード量が同一となるように調整される。図4(A)及び(B)に示す各EPIシーケンス間では、受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)の受信前に印加されるブリップ状PE傾斜磁場パルスの数が異なる。
【0078】
従って、ブリップ状PE傾斜磁場パルスの面積差分だけステップ状PE傾斜磁場パルスの面積が図4(A)及び(B)に示す各EPIシーケンス間で変えられることとなる。すなわち、図4(A)に示すEPIシーケンスにおけるステップ状PE傾斜磁場パルスの面積及び変化のパターンGiは、図4(B)に示すEPIシーケンスにおけるステップ状PE傾斜磁場パルスの面積及び変化のパターンGjと異なる。また、図4(B)のステップ状PE傾斜磁場パルスの印加タイミングはMPGパルスに近接するように設定されているが、RF励起パルスに近接するように設定することも可能である。
【0079】
図4(A), (B), (C)及び(D)に示すように設定されたEPIシーケンスを実行すると、極性が互いに逆のMPGパルスGMPG ,-GMPGによる渦磁場の影響を受けて位相シフトし、かつT2*減衰の影響を無視することが可能な受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj)を収集することができる。また、ステップ状PE傾斜磁場パルスの制御によって、PE軸方向の各位相エンコード量に対応する受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj) を収集することによって渦磁場の強度及び時定数の空間分布を求めることが可能となる。
【0080】
但し、渦磁場の強度及び時定数の空間分布を求める必要がない場合やデータ収集時間の短縮化を優先させる場合には、図4に示す各EPIシーケンスにおいて、ステップ状PE傾斜磁場パルスの面積を受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj)の受信タイミングに対応する単一の固定値としても良い。すなわち、ステップ状PE傾斜磁場パルスの面積をステップ状に変化させないようにしてもよい。
【0081】
この場合、単一の位相エンコード量の受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj)のみが収集される。これは、PE方向へのイメージングを行わないこと、つまりPE方向への投影データを収集していることに相当する。
【0082】
このようにDWIに実際に使用するEPIシーケンスをベースにして渦磁場情報の取得用のデータ収集条件を設定すれば、実際のDWIにおいて生じる渦磁場を再現することができる。このため、渦磁場情報を一層正確に測定することが可能となる。
【0083】
尚、図4に示すDWIシーケンスは、MPGパルスGMPG ,-GMPGがSS方向に印加されている例であるが、イメージングスキャンに合わせて各種強度のMPGパルスが、印加され得る方向に印加されるデータ収集条件を渦磁場情報の取得用に設定することが高精度化の観点から好適である。
【0084】
撮像条件設定部40は、上述のようなデータ収集条件の設定機能の他、渦磁場測定部41Aにおいて求められた渦磁場情報に基づいてイメージングスキャン用の撮像条件を設定できるように構成される。例えば、渦磁場の強度、時定数及び空間分布に基づいて発生が推定される渦磁場がキャンセルされるように傾斜磁場パルスの波形等の撮像条件を設定することができる。
【0085】
渦磁場をキャンセルさせる方法としては、EPIシーケンス等のパルスシーケンスを調整する方法に限らず、パルスシーケンスは変えずに傾斜磁場電源27に備えられる渦補償回路やシーケンスコントローラ31に傾斜磁場波形の補正情報又は傾斜磁場波形の補正情報を得るための渦磁場情報を出力して制御する方法などもある。
【0086】
撮像条件設定部40には、逆に、イメージング用の撮像条件に基づいて自動的に渦磁場情報の取得用のデータ収集条件を設定する機能を備えることができる。上述したように、より高精度に渦磁場の強度、時定数及び空間分布等の渦磁場情報を求めるためには、イメージング用の撮像条件とできるだけ同一のデータ収集条件を渦磁場情報の取得用に設定することが望ましい。
【0087】
例えば、イメージング用に印加されるRO傾斜磁場と同一のタイミングでRO傾斜磁場を印加し、かつイメージング用に印加されるMPGパルス等のRO傾斜磁場以外の所定の傾斜磁場と同一のタイミングで渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加することによって渦磁場情報の取得用のMR信号を収集するようにデータ収集条件を設定することができる。つまり、イメージング用のパルスシーケンスと渦磁場情報の取得用のパルスシーケンスとの間においてRO傾斜磁場の印加タイミング及び渦磁場の発生に支配的となる傾斜磁場パルスの印加タイミングを共通にすることができる。尚、傾斜磁場の印加タイミングは、RF励起パルスの印加タイミングから傾斜磁場の印加タイミングまでの経過時間や傾斜磁場の印加タイミングからTEまでの時間等で特定することができる。
【0088】
もちろん、この場合においてイメージング用に印加されるRO傾斜磁場同一の強度で渦磁場情報の取得用のMR信号の収集用のRO傾斜磁場を印加し、かつイメージング用に印加される所定の傾斜磁場と同一の強度で渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加する条件を設定することがより好適である。すなわち、イメージング用のパルスシーケンスと渦磁場情報の取得用のパルスシーケンスとの間においてRO傾斜磁場の強度及び渦磁場の発生に支配的となる傾斜磁場パルスの強度を共通にすることができる。
【0089】
他の条件として、イメージング対象となる画像化領域と同一の領域から渦磁場情報の取得用のMR信号が収集されるように渦磁場情報の取得用のデータ収集領域を設定することができる。この場合、撮像条件設定部40が、入力装置33からイメージング用の画像化領域の指定情報が入力された場合に、イメージング用の画像化領域の指定情報に従って自動的に渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域を設定するように構成することができる。
【0090】
このように、イメージング対象となる画像化領域と同一の領域から渦磁場情報の取得用のMR信号を収集することによって、より高精度な渦磁場情報を取得することが可能となる。具体的には、空間軸周辺等の限られた領域から渦磁場情報の取得用のMR信号を収集する場合に比べて渦磁場情報の精度を改善することができる。
【0091】
尚、イメージング対象となる画像化領域と渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域とを同一にする場合であっても、渦磁場情報の取得用のデータの解像度については異なる解像度にすることができる。実用的には、任意軸方向における渦磁場情報の取得用のデータの解像度をイメージングデータの解像度よりも小さくすることができる。これにより、渦磁場情報の取得用に収集すべきデータ量及びデータ収集時間を削減することができる。
【0092】
渦磁場情報の取得用のデータの解像度をイメージングデータの解像度よりも小さくする場合には、イメージング対象となる画像化領域と渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域とが同一ではあるが、MR信号の収集位置は変わることとなる。例えば、渦磁場情報の取得用のMR信号のスライス方向における解像度を低減させる場合には、渦磁場情報の取得用のスライス間隔がイメージング用のスライス間隔よりも広くなる。
【0093】
一方、渦磁場情報の取得用のデータの解像度をイメージングデータの解像度と同一にしても良い。この場合、一層良好な精度で渦磁場情報を取得することができる。尚、少なくともスライス方向において渦磁場情報の取得用のデータの解像度をイメージングデータの解像度と同一にする場合には、各スライスの中心位置及び向きがイメージング用の撮像条件及び渦磁場情報用のデータ収集条件との間において共通となる。
【0094】
渦磁場情報は、各イメージングに先って取得する他、特定のイメージングとは無関係に定期的に取得することもできる。この場合には、イメージング用に設定され得る画像化領域よりも狭い基準となる領域から渦磁場情報の取得用のMR信号が収集されるように渦磁場情報の取得用のMR信号のデータ収集領域を設定することができる。
【0095】
図5は、図2に示す撮像条件設定部40において設定される渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域の例を示す図である。
【0096】
図5(A), (B)においてX軸、Y軸及びZ軸はそれぞれ撮像視野内に設定された空間軸であり、Z軸が静磁場(B0)方向となっている例を示す。図5(A)は、渦磁場情報の取得用のMR信号のデータ収集領域Reddyをイメージング用の画像化領域Rimageと同一となるように設定した例を示す。このように渦磁場情報の取得用のMR信号のデータ収集領域Reddyを設定すれば、画像化領域Rimageに対応する渦磁場情報を高精度に取得することができる。
【0097】
一方、図5(B)は、渦磁場情報の取得用のMR信号のデータ収集領域ReddyをX軸及びZ軸の周辺領域に設定した例を示す。このように基準となる領域のみから渦磁場情報の取得用のMR信号を収集するようにすれば、データ収集時間及びデータ収集量の削減を図ることができる。
【0098】
次にコンピュータ32の他の機能について説明する。
【0099】
データ処理部41は、シーケンスコントローラ31からMR信号を取得して、MR信号にデータ処理を施すことにより渦磁場に関する情報やMR画像データ等の必要なデータを取得する機能を有する。
【0100】
渦磁場測定部41Aは、渦磁場情報の取得用に収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得して、MR信号の位相情報に基づいて渦磁場の強度、時定数及び空間分布等の渦磁場情報を求める機能を有する。
【0101】
渦磁場情報の取得用のMR信号が図3や図4に示すように複数の強度を有する渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応して収集されている場合には、基準となる渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応するMR信号に対する位相の差分データが求められる。例えば、2種類の渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応するMR信号が収集された場合には、位相データの差分値が取得される。
【0102】
これにより、静磁場不均一性等のT2*以外の要因に起因する位相シフト量をキャンセルし、渦磁場に起因する位相シフト量の時間時間変化を求めることができる。そして、位相データの差分値の時間変化に基づいて渦磁場の時定数等の渦磁場情報を求めることが可能となる。
【0103】
図6は、図2に示す渦磁場測定部41Aにおいて得られる位相シフト量と時間の関係を表すプロットデータの一例を示す図である。
【0104】
図6において横軸は時間を、縦軸は異なる渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyに対応するMR信号の位相差Δφを、それぞれ示す。異なる渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyに対応する時系列のMR信号の位相差Δφを求めて時間方向にプロットすると実線で示すような曲線が得られる。
【0105】
例えば図3に示すSEシーケンスのデータ収集条件でMR信号が収集された場合には、極性を反転させた渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyの印加を伴って第1のエコー時間TE1を含む期間において収集された受信データDATA1(TE1) ,DATA2(TE1)間の位相差データΔφ(TE1)と、極性を反転させた渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyの印加を伴って第2のエコー時間TE2を含む期間において収集された受信データDATA1(TE2), DATA2(TE2)間の位相差データΔφ(TE2)が求められる。
【0106】
そうすると、位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)は、極性を反転させた渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddy間の強度差、つまり渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyの面積の2倍の傾斜磁場によって生じた渦磁場による位相シフトの積分量に相当することとなる。そこで、位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)を時間軸方向にそれぞれプロットすると、時間軸方向に減衰する変動曲線が得られる。更にこれらの2つの位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)を組合わせると、図6の実線で示すように時定数を求めるために十分な長さの減衰曲線を得ることができる。
【0107】
図6の点線は、理想的な減衰曲線を示している。仮に1つのTEでMR信号を収集し、十分な長さの減衰曲線を得ようとすると、データ収集期間が長くなる。この場合、MR信号がT2*減衰の影響を受けて位相シフトし、位相差データΔφを時間軸方向にプロットすると一点鎖線で示す曲線のように不正確な曲線となる恐れがある。
【0108】
これに対して、図3に示すようにSEシーケンスで2つのTEを含む期間に分けてデータ収集を行えば、T2*減衰の影響を受けずに、理想曲線に近い減衰曲線を得ることができる。従って、3つ以上のTEを設定してデータ収集が行われた場合には、TEの数の位相差データ列を組み合わせることによって減衰曲線が求められる。
【0109】
位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)の減衰曲線が得られると、減衰曲線の時定数として渦磁場の時定数を求めることができる。位相差と渦磁場強度との関係から渦磁場の強度を求めることもできる。換言すれば、各データ収集時刻における位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)と渦磁場強度の減衰を表す曲線とのカーブフィッティングによって渦磁場の強度及び時定数をそれぞれフィッティングパラメータとして求めることができる。
【0110】
図6は、空間内のあるポイントにおける位相差データΔφ(TE1), Δφ(TE2)の時間変化を表しているが、図3に示すSEシーケンスにおいてPE用傾斜磁場パルスを印加した場合には、PE軸方向の位相差分布が得られる。従って、PE軸方向を含む渦磁場の強度及び時定数の空間情報を得ることができる。
【0111】
また、図4に示すEPIシーケンスによって渦磁場情報の取得用のデータ収集が実行された場合においても同様に、時定数を求めるために十分な長さの位相差データΔφの減衰曲線を求めることができる。
【0112】
すなわち、まず図4(A), (B), (C)及び(D)に示す各EPIシーケンスによってそれぞれ収集されたエコーデータをフーリエ変換(FT: Fourier transform) し、周波数エンコード方向に分解することによって、MPGパルスGMPG ,-GMPGの印加終了タイミングからの経過時間ti, tjに対応するMRデータを得ることができる。EPIシーケンスでは、ステップ状PE傾斜磁場パルスの制御によって位相エンコードが行われている。そこで、経過時間ti, tjに対応するMRデータをPE方向にFTし、MRデータをPE方向に分解すれば、経過時間ti, tj及び各位相エンコード量に対応する受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj)を得ることができる。
【0113】
得られた受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj), DATA2(ti) ,DATA2(tj)は、空間内の各ピクセルに対応する画像データとなる。従って、各ピクセルに対応する位置ごとに渦磁場情報を求めることができる。すなわち、渦磁場の強度、時定数及び空間分布を求めることができる。
【0114】
渦磁場情報の算出は、図3に示すSEシーケンスにより収集された受信データDATA1(TE2), DATA2(TE2)を用いる場合と同様な方法で空間位置ごとに行うことができる。すなわち、正の極性を有するMPGパルスGMPGの印加を伴って収集された受信データDATA1(ti) ,DATA1(tj)と負の極性を有するMPGパルス-GMPGの印加を伴って収集された受信データDATA2(ti) ,DATA2(tj)との間における位相差データΔφ(ti), Δφ(tj)が計算される。そして、MPGパルスGMPG ,-GMPGの印加終了タイミングからの各経過時間ti, tjに対応する位相差データΔφ(ti), Δφ(tj)を組合わせてプロットすることによりPE軸方向の位置ごとに図6に示すような減衰曲線を得ることができる。
【0115】
そして、得られた減衰曲線に基づいてPE軸方向の位置ごとに渦磁場の時定数を求めることができる。また、位相差データΔφ(ti), Δφ(tj)に基づいてPE軸方向の位置ごとに渦磁場の強度の時間変化を求めることができる。
【0116】
一方、単一の強度の渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応する時系列のMR信号列が収集された場合には、各MR信号の位相を渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加時刻からの経過時間順にプロットすることによって図6に示すような減衰曲線を得ることができる。そして減衰曲線に基づいて渦磁場の時定数を求めることができる。また、位相エンコードが実行された場合には、PE軸方向の位置に対応する渦磁場の強度及び時定数の空間分布を求めることができる。
【0117】
画像データ生成部41Bは、イメージング用に収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでFTを含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能及び画像データ記憶部43から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示装置34に表示させる機能を有する。
【0118】
また、必要に応じて画像データ生成部41Bに、渦磁場測定部41Aにおいて求められた渦磁場情報に基づいてイメージングデータ又は画像データの位相補正や歪補正等の補正処理を実行する機能を設けてもよい。
【0119】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
【0120】
まず、イメージング前に、画像化領域からMR信号を収集して空間的な渦磁場の強度及び時定数等の渦磁場情報を取得し、取得した渦磁場情報に応じた撮像条件でイメージングを行う場合について説明する。
【0121】
図7は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により渦磁場の強度及び時定数の測定を伴ってイメージングを実行する際の流れ示すフローチャートである。
【0122】
まずステップS1において、画像化領域が設定される。すなわち、撮像条件設定部40にイメージング用の画像化領域の指定情報が入力される。そうすると、撮像条件設定部40は、指定情報に従って画像化領域を設定する。
【0123】
次にステップS2において、撮像条件設定部40は、例えば、図5(A)に示すように画像化領域と同一の領域を渦磁場情報取得用のMR信号の収集領域に自動設定する。
【0124】
次にステップS3において、渦磁場情報の取得用のMR信号の収集領域に従って、異なる複数のTEでMR信号を収集するパルスシーケンスが撮像条件設定部40において設定される。例えば図3に示すようなTEが異なり、かつ渦発生傾斜磁場パルスGeddy, -Geddyの印加を伴う複数のSEシーケンスが渦磁場情報の取得用に設定される。或いは、図4に示すような少なくともTEが異なり、かつMPGパルスGMPG ,-GMPGの印加を伴う複数のEPIシーケンスが設定される。図4に示すEPIシーケンスの場合には、必要に応じてTEの経過タイミングと受信データの収集タイミングとの間における時間差も変えた複数のEPIシーケンスが設定される。
【0125】
次にステップS4において、渦磁場情報の取得用のパルスシーケンスに従って渦磁場情報の取得用のMR信号が収集される。
【0126】
そのために予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0127】
そして、入力装置33から撮像条件設定部40にデータ収集開始指示が与えられると、撮像条件設定部40はパルスシーケンスを含む撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する。そうすると、シーケンスコントローラ31は、パルスシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0128】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのMR信号である生データを生成する。そして、受信器30は、MR信号をシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、MR信号をコンピュータ32に出力する。
【0129】
次にステップS5において、渦磁場測定部41Aにより渦磁場の強度、時定数及び空間分布等の渦磁場情報が算出される。すなわち、渦磁場測定部41Aは、シーケンスコントローラ31からMR信号を取得する。そして、異なる強度の渦発生傾斜磁場パルスごとに渦磁場情報の取得用のデータが収集されている場合には、渦発生傾斜磁場パルスの強度に対応する受信データ間の位相差データΔφが求められる。
【0130】
次に、異なるTEに対応する位相差データΔφ又は受信データの位相が時間軸方向にプロットされる。これにより図6に示すような減衰曲線が得られる。また、位相エンコードが実行された場合には、PE方向へのFTによってPE軸方向の位置ごとに減衰曲線を得ることができる。そして、減衰曲線の時定数として渦磁場の時定数を求めることができる。また、受信データの位相情報から渦磁場の強度を求めることができる。
【0131】
このように求められた渦磁場情報は、イメージングスキャン用の撮像条件の設定及びデータ処理条件の設定に用いることができる。例えば、イメージングスキャンにおける渦磁場補償のためのパラメータ情報や収集データの渦磁場補正のための参照情報として用いることができる。
【0132】
また、傾斜磁場電源27に備えられる渦補償回路のパラメータとして渦磁場情報を用いることができる。この場合、渦磁場の時定数等の数値が制御パラメータとして渦補償回路に入力され、渦補償回路における渦補償処理のために参照される。
【0133】
次に、ステップS6において、撮像条件設定部40においてイメージングスキャン用の撮像条件が設定される。撮像条件には、必要に応じて渦磁場補償の条件を加えることができる。例えば、傾斜磁場の強度に応じた渦磁場の時定数をパラメータとして渦磁場がキャンセルされるように傾斜磁場が調整された撮像条件をイメージング用に設定することができる。
【0134】
次にステップS7において、イメージングが実行される。すなわちステップS6において設定された撮像条件に従って渦磁場情報の取得用のMRデータの収集と同様な流れでイメージング用のMRデータが収集される。
【0135】
そうすると、画像データ生成部41Bは、イメージング用に収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する。次に、画像データ生成部41Bは、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでFTを含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する。更に、画像データ生成部41Bは、画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる。また、必要に応じて画像データは画像データ記憶部43に保存される。
【0136】
ここで生成された画像データは、T2*減衰の影響が無視できる期間において収集されたデータに基づいて高精度に測定された渦磁場の時定数等の渦磁場情報を用いて渦磁場補償されている。従って、良好な画質の画像データとして取得することができる。
【0137】
次に、定期的な作業として、指定された領域からMR信号を収集して渦磁場情報を取得する場合について説明する。
【0138】
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により渦磁場の強度及び時定数を測定し、渦磁場補償用の装置パラメータとして保存する際の流れ示すフローチャートである。尚、図8において図7に示すステップと同様なステップには同符号を付して説明を省略する。
【0139】
イメージング毎に行われない渦磁場情報の取得の場合には、画像化領域が設定されない。従って、ステップS1'において渦磁場情報用のデータ収集領域が設定される。具体的には、入力装置33から撮像条件設定部40に図5(A)又は(B)に示すような渦磁場情報用のデータ収集領域の指定情報が入力される。そうすると、撮像条件設定部40は指定情報に従って渦磁場情報用のデータ収集領域を設定する。
【0140】
図5(A)に示すように、画像化領域として設定されることが想定される範囲を渦磁場情報用のデータ収集領域として設定すれば、より高精度に渦磁場情報を取得することが可能となる。一方、図5(B)に示すように、限定的な領域から渦磁場情報用のデータを収集し、フィッティング等の計算によって広範囲の渦磁場情報を取得することができる。この場合、より少ないデータ量及びデータ収集時間で渦磁場情報を取得することが可能となる。
【0141】
そして、イメージング前に実行される場合と同様な流れで渦磁場の強度、時定数及び空間分布等の渦磁場情報が取得される。取得された渦磁場情報は、ステップS6'において渦磁場補償用の装置パラメータとして記憶装置36に保存される。
【0142】
記憶装置36に保存された渦磁場補償用の装置パラメータは、傾斜磁場電源27に備えられる渦補償回路やシーケンスコントローラ31における傾斜磁場波形の補正に用いることができる。このため、記憶装置36に保存された渦磁場補償用の装置パラメータは、コンピュータ32から磁気共鳴イメージング装置20の必要な構成要素に直接的又は間接的に出力される。
【0143】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、異なる複数のTEでデータ収集条件を設定することによってT2*減衰の影響が無視できる期間内において複数の時系列のMRデータセットを収集し、収集した複数のMRデータセットを組合わせて得られるデータの位相シフト情報を用いて傾斜磁場の印加による渦電流の時定数等の情報を求めるようにしたものである。
【0144】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、高磁場下であってもT2*減衰の影響を回避して渦磁場の強度、時定数及び空間情報を求めることができる。特に、0.2msから30ms程度の時定数を有する渦磁場の渦磁場情報を精度よく測定することができる。このため、T2*減衰の影響が現れる期間と同程度のデータ収集時間を有するDWIでは、渦磁場情報を効果的に測定することができる。そして、渦磁場情報の精度向上によって画質の向上を図ることができる。
【0145】
(第2の実施形態)
第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置では、撮像条件設定部において設定される渦磁場情報の取得用のデータ収集条件及び渦磁場測定部において実行される渦磁場情報の取得のためのデータ処理方法が第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置20と異なる。他の構成及び作用については、第1の実施形態における磁気共鳴イメージング装置20と同様であるため説明を省略する。
【0146】
第1の実施形態では、複数の異なるTEに対応する複数のパルスシーケンスを用いて渦磁場情報の取得用のMR信号が収集される例について説明したが、単一のTEに対応する単一又は複数のパルスシーケンスを用いて渦磁場情報の取得用のMR信号を収集することもできる。
【0147】
具体的には、90度RF励起パルスの印加タイミングからTE/2だけ経過したタイミングで180度RF反転パルスを印加し、かつ180度RF反転パルスの印加前後において強度が同一とみなせる渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加するパルスシーケンスを渦磁場情報の取得用のデータ収集条件として撮像条件設定部において設定することができる。この条件は、図3又は図4に示す条件においてTEを第1のTE(TE1, TE1i)及び第2のTE(TE2, TE2j)とせずに単一の値に固定した場合に相当する。
【0148】
また、図3及び図4に示す例と同様に、TEを変えずに渦発生傾斜磁場パルスGeddy(MPGパルスGMPGを含む)を反転させるなど、強度の異なる渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加するパルスシーケンスを渦磁場情報の取得用のデータ収集条件として設定することができる。従って、TEを変えずに強度の異なる渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加するパルスシーケンスを設定する場合には、単一のTEに対応する複数のパルスシーケンスが渦磁場情報の取得用に設定されることとなる。一方、強度の異なる渦発生傾斜磁場パルスGeddyを印加しない場合には、単一のTEに対応する単一のパルスシーケンスが渦磁場情報の取得用に設定されることとなる。
【0149】
このようなデータ収集条件を撮像条件設定部において設定し、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加を伴ってデータ収集を行うと、複数の異なるタイミングに対応する時系列の複数のMR信号が収集される。すなわち、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加タイミングからの経過時間が互いに異なる複数のMR信号を収集することができる。
【0150】
そして、複数の強度の渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応する時系列のMR信号が収集された場合には、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの異なる強度に対応する信号間の位相差データΔφが渦磁場測定部において求められる。この位相差データΔφを渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加時刻からの経過時間順にプロットすると、図6の一方のTEに対応する位相差データΔφの減衰曲線が得られる。
【0151】
一方、単一の強度の渦発生傾斜磁場パルスGeddyに対応する時系列のMR信号が収集された場合には、渦発生傾斜磁場パルスGeddyの印加時刻からの経過時間順に各MR信号の位相がプロットされる。これにより、同様な単一のTEに対応する位相の減衰曲線が得られる。
【0152】
従って、位相差データΔφ又は位相の減衰曲線の時定数として渦磁場の時定数を求めることができる。また、位相差又は位相と渦磁場強度との関係から渦磁場の強度を求めることもできる。
【0153】
尚、第1の実施形態と同様に、位相又は位相差データのプロット対象となる各MR信号を、PE量をゼロとして収集すれば、2次元情報として渦磁場情報が取得される。一方、同一のデータ収集タイミングに対してPE量を変えながら複数回MR信号を収集すれば、PE軸方向を含む空間情報として渦磁場情報が取得される。具体例を挙げれば、図4に示すようにRO傾斜磁場パルス及びPE傾斜磁場パルスを印加する条件によってMR信号を収集すれば、空間情報として渦磁場情報を取得することができる。
【0154】
以上のような第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置によれば、TEの値が1つであるため、より短時間で渦磁場情報の取得に必要なMRデータを収集することが可能となる。従って、図5(A)に示すように画像化領域と同一の領域を渦磁場情報の取得用のデータ収集領域として設定しても、データ収集量及びデータ収集時間の増加を抑制することができる。
【0155】
このため、第2の実施形態における磁気共鳴イメージング装置は、T2*減衰の影響が無視できるような場合、特に1.5T程度の磁場下において有効である。すなわち、実用性のあるデータ収集時間で、画像化領域に対応する空間的な渦磁場情報を取得することができる。この結果、渦補償を高精度に行うことが可能となる。
【0156】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0157】
20 磁気共鳴イメージング装置
21 静磁場用磁石
22 シムコイル
23 傾斜磁場コイル
24 RFコイル
25 制御系
26 静磁場電源
27 傾斜磁場電源
28 シムコイル電源
29 送信器
30 受信器
31 シーケンスコントローラ
32 コンピュータ
33 入力装置
34 表示装置
35 演算装置
36 記憶装置
37 寝台
40 撮像条件設定部
41 データ処理部
41A 渦磁場測定部
41B 画像データ生成部
42 k空間データ記憶部
43 画像データ記憶部
P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦磁場を発生させる傾斜磁場の印加を伴って複数の異なるタイミングにおいて磁気共鳴信号を収集するデータ収集手段と、
前記複数のタイミングにおいて収集された前記磁気共鳴信号の位相情報に基づいて前記渦磁場の時定数を含む渦磁場情報を取得する渦磁場測定手段と、
前記渦磁場情報に応じた撮像条件又はデータ処理条件でイメージングを実行するイメージング手段と、
を備える磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記データ収集手段は、複数の異なるエコー時間にそれぞれ対応する複数の異なるタイミングにおいて前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記データ収集手段は、高周波励起パルスの印加タイミングからエコー時間の1/2だけ経過したタイミングで高周波反転パルスを印加し、かつ前記高周波反転パルスの印加前後において強度が同一とみなせる複数の傾斜磁場パルスを前記渦磁場を発生させる傾斜磁場として印加するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記データ収集手段は、前記イメージング用の画像化領域と同一の領域から前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記データ収集手段は、前記イメージング用の画像化領域の指定情報に従って自動的に前記磁気共鳴信号の収集領域を設定するように構成される請求項4記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記データ収集手段は、前記渦磁場を発生させる傾斜磁場としてmotion probing gradientパルスの印加を伴うecho planar imaging法によって前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記データ収集手段は、前記複数のエコー時間の経過タイミングと前記対応する複数の異なるタイミングとの間における時間差を変えて前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記データ収集手段は、スピンエコー法により傾斜磁場が印加されない期間において前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記データ収集手段は、位相エンコード量を変えて前記磁気共鳴信号を収集するように構成され、
渦磁場測定手段は、位相エンコード方向を含む渦磁場の空間分布を取得するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
前記データ収集手段は、前記イメージング用に印加される読出し用の傾斜磁場と同一のタイミングで読出し用の傾斜磁場を印加し、かつ前記イメージング用に印加される前記読出し用の傾斜磁場以外の所定の傾斜磁場と同一のタイミングで前記渦磁場を発生させる傾斜磁場を印加することによって前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
前記データ収集手段は、前記イメージング用に印加される読出し用の傾斜磁場と同一の強度で前記磁気共鳴信号の収集用の前記読出し用の傾斜磁場を印加し、かつ前記イメージング用に印加される前記所定の傾斜磁場と同一の強度で前記渦磁場を発生させる傾斜磁場を印加するように構成される請求項10記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
前記データ収集手段は、前記イメージング用の画像化領域よりも狭い基準となる領域から前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
前記データ収集手段は、前記複数のエコー時間にそれぞれ対応する複数のパルスシーケンスに従って前記磁気共鳴信号を収集するように構成される請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205880(P2012−205880A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−24569(P2012−24569)
【出願日】平成24年2月7日(2012.2.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】