説明

磁気共鳴分光を使用して痛みおよびその成分を検出するシステム及び方法

【課題】異なる痛み経験成分(侵害的(組織の損傷)、神経的(神経の損傷)、心理学的)と磁気共鳴分光学(MRS)の使用によるそれらの相対的な貢献を識別して、中枢神経系の特別な脳領域または脳の代謝物質の絶対及び相対濃度を測定するシステム及び方法を提供する。
【解決手段】システム及び方法は痛みの経験の異なる特徴の相対的な貢献の評価と、これらの成分の変化を目的する介入に対する応答を監視するための診察ツールとして使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴分光(MRS)を使用して痛みおよびその成分を検出するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性的な痛みはヘルスケアでは主要な問題である。しかしながら慢性的な痛みの評価はその主観的性質と、任意の現在の診察技術が本質的な痛みの存在に関連する何等かの変化を客観的に計量することができないために制限されている。
【0003】
慢性的な痛みは個人の苦痛とヘルスケアリソースの使用による経済的な打撃との両者に関する大きな打撃と、仕事及びその他の活動及び治療に従事する能力の減少を伴う。しかしながら痛みの評価とその後の治療の使用は患者の主観的な報告に大きく依存している。
【0004】
慢性的な痛みは最も普通のものであり、しかも治療が困難な状態の1つである。伝統的に、これは単に病理学の症状として見なされている。この概念は治療が病状の治療を目的とする場合および後に治癒する痛みの解明が存在するときの急性の痛みモデルで役立つ。しかしながらこのモデルは慢性的な痛みの状態では良好に作用しない。この状態では、進行中の病状は関節炎または神経の怪我のように進行中の痛みになり、現在有効な治療法では治療可能ではない。更に困難なことに、多くの状態では永続的な痛みの原因となりうる識別可能な病状のない進行中の痛みが存在する。これらの状態では、特に心理学的要因が進行中の痛みの説明として取り上げられ、それは治療の妨げである。現在、痛みの心理学的起因、即ちヒステリーまたは仮病は稀であることが認識されているが、心理学的要因は任意の痛みの存在で重要な役目を果たしていることも認識されている。痛みは3つの異なるがオーバーラップする成分、即ち、侵害的、神経的、心理学的成分を有している。これらの全ては人の痛みに対する知覚および表現に対する程度を変化する。
【0005】
侵害的痛みは最も普通のタイプの痛みであり、身体の組織の病理から生じる信号によるものと信じられている。したがって、虫垂炎、腎石、関節の炎症は影響を受ける構造からの入力を増加させ、これは痛みとして知覚される。脳および脊髄における生理学的プロセスによりこれらの入力に変化(上昇または下降)が存在するが、基本的に痛みは中枢神経系に到着する入力の増加によるものである。被験者は通常、抑制レベルを増加して入力を減少する神経麻酔、鎮痛薬、抗炎症剤または心理学的治療のように、これらの入力を減少する治療に対応する。
【0006】
侵害的痛みとは異なって、第2の痛み成分である神経的痛みは末梢または中枢神経系に対する損傷の結果として生じる。その厳密な定義では、このタイプの痛みは感覚または運動欠損のような神経学的機能不全の特性の存在によって生じる。これは異なる特性を有し、しばしば、うずく痛み、電気的、焼けるようなまたはショック状の痛みとして説明される。現在の映像技術では病理を検出することが困難である。これは通常、鎮痛薬、抗炎症剤、神経麻酔または切開のように、侵害的な痛みの治療に使用される方法に対して不十分にしか反応しない。このタイプの痛みは神経腫から生じる膿のような神経の損傷による入力を減少する方法または中枢神経系の抑制レベルを増加する薬に対して良好に反応する。
【0007】
第3の痛み成分である心理学的成分は全般的な痛みの経験に関係する。心理学的プロセスは上方または下方の反応において痛みの知覚と痛みの表現(無能)との両者に影響する。例えば、スポーツの試合中、多くの選手は時には重傷にも気づかなかったり、それを無視したりして、それによって痛みや動作の不能は損傷を受けた構造からの非常に大きな入力にかかわらず最小である。反対に、心配或いは気落ちのような気分の変化または不安回避のような学習プロセスは痛みの知覚および関連する動作の不能の両者を強める。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらのプロセスは痛みをもつ人々において作用することが広く認められているが、これらの3つの痛み成分のそれぞれの人の表現に対する相対的な貢献を決定することは現在非常に困難である。これは現在有効な多くの治療が痛みのタイプの正確な診断に依存している事実にもかかわらず存在する。前述したように、侵害的および神経的痛みの治療は非常に困難であり、誤った条件で使用されるときほとんど価値がない。心理学的治療は両タイプの痛みに使用されることができる。しかしながら、現在の心理学的治療は痛みの知覚自体を変化するよりも、痛みに対処する能力のなさ及び能力を解決することを目的とする。しかしながら、心理学的プロセスがアクチブであることに否定的である人々では、この認識は比較的少数派である侵害的及び神経的な焦点に対する研究ではなく、治療をこれらの問題を解決する方向に導く助けをする。
【0009】
したがって、痛みの最良の治療はある人の痛みの感覚に貢献する異なる成分の正確な評価に依存している。現在の診断技術は信頼性がなく限定された情報しか与えない。多くの診断技術は侵害的または神経的痛みになる原因を正確に識別することができない。例えば椎間板または神経根に対する損傷が示されることができても、この構造的な異常さえも痛みにつながることを自信を持って決定することは極めて困難である。心理学的要因の相対的な影響を決定することもまた困難である。痛みの知覚、気分、運動不能および認知を評価できる多数のテストが存在するが、これらの変化が人の痛みの表現に影響している程度を決定することは依然として困難である。
【0010】
それ故、人の痛みに対する各成分の相対的な貢献度を客観的及び正確に評価できるシステム及び方法が非常に必要とされている。現在の機器は主観的な自己報告に大きく依存している。痛みの知覚に関連する変化を確実に検出する客観的方法は、痛みの評価及び治療の両者を強化するであろう。この技術が異なる痛み成分(侵害的、神経的、心理学的)の相対的な貢献度も評価することができるならば、これは痛みの薬学に革命的である。
【0011】
1つの研究は腰の痛みが前頭皮質のグルコースの減少と、視床のグルコースの増加に関連することを報告している(Grachev, I.D., Fredrickson, B.E., Apkarian, A.V.のAbnormal brain chemistry in chronic back pain: an in vivo proton magnetic resonance spectroscopy study. Pain 89:7-18, 2000)。この文献はここで参考文献とされている。
【0012】
別の研究は腰の痛みと、脊髄の怪我を伴う痛みを有する少数の被験者における幾つかの脳の区域の生化学的変化を報告している(Pattany, P.M.のProton magnetic resonance spectroscopy of the thalamus in patients with chronic neuropathic pain after spinal cord injury, Am.J. Neuroradiol., 23:901-905, 2002)。この文献はここで参考文献とされている。
【0013】
しかしながら、痛みの成分またはタイプを検出する客観的手段は現在存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
慢性的な痛みに関連する生化学的変化の検出及び特徴は、慢性的な痛みの病態生理学の理解と、痛みの存在に相関する客観的尺度を提供する利点を有する。
【0015】
MRSは身体組織の化学物質のプロフィールの特徴付けに現在使用されている。これは身体から除去されている胸または前立腺のような組織のサンプル(生体外)と、脳のような依然として身体内である組織のサンプル(生体内)とによって行われることができる。生体内の神経分光は、病理学の範囲に関連する脳の化学物質の変化を記述することができる。生体内の分光学はそれ故、組織の除去または侵襲性手順の実行を必要とせずに、脳の領域の生化学物質のプロフィールを特徴付ける能力を提供する。これは脳腫瘍および感染の診断に有効であることが既に証明されている。しかしながら、更に最近の研究ではMRSはまた癲癇または失読症のような脳の機能障害に関連する変化も検出することが示唆されている。これは眼の光刺激を後続させるグルコースの過渡的な変化のような正常の機能に関連する脳の変化を検出するとも思われる。それ故、MRSは痛みに関連する脳の変化の評価に潜在的に有用なツールを提供する。これらは感覚的入力としての痛みに応答する“正常な”変化、または侵害的または神経障害的痛みを有する永続的な痛みに応答する“異常な”変化である。また痛みの心理学的特徴に関連する変化を検出することも可能であろう。
【0016】
機能的な映像技術を使用する脳の研究は痛みのプロセスに含まれる複数の脳領域を識別する。これらは体性感覚皮質、前部帯状皮質、前部前頭皮質、島状皮質、視床を含んでいる。それ故、痛みに関連する生化学物質の変化はこれらの領域で検出されることができる。慢性的な痛みは幾つかの領域の生化学物質の変化に関連されることができる。その他の痛み状態はこれらの変化を共有し、慢性的な痛みは神経の衰退に関連されることができる。
【0017】
本発明によれば、人間の脳の神経分光は人が痛みを経験しているか否かと、痛みのタイプ及び恐らくその強さを検出でき、痛みに貢献する成分(侵害的、神経的、心理学的)を弁別でき、痛みと起因になる化学種に差を割当て、痛みに関連する異なる生化学的機構および痛みの原因を識別することができる。これらの結果は患者の処置を指導し、患者の成果を監視するために使用されることができる。
【0018】
本発明によれば、被験者が経験する少なくとも1つの痛み成分を検出する方法が提供され、この方法は、痛みを経験している被験者の脳の分光学的データを獲得し、得られた分光学的データを少なくとも2つの異なる痛み成分と相関させてそれらを識別する特性値を有する基準分光データと比較し、被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分の存在を検出するステップを含んでいる。
【0019】
本発明はまた被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分を検出する装置を提供し、この装置は、痛みを経験している被験者の脳の分光学的データを獲得するための磁気共鳴分光計と、少なくとも2つの異なる痛み成分と相関されてそれらを識別する特性値を有する基準分光学的データを記憶するためのメモリ装置と、獲得された分光学的データを基準分光学的データと比較して、被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分の存在を検出するための比較器とを具備している。
【0020】
本発明はまた被験者が侵害的な痛み成分を経験しているか否かを検出する方法を提供し、この方法は、選択された生化学物質の濃度を決定するために被験者の脳領域の分光学的データを獲得し、得られた生化学物質濃度を基準生化学物質濃度と比較するステップを含んでおり、それによって基準生化学物質の濃度に関する選択された生化学物質の濃度の差が侵害的な痛みの存在を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明によれば、被験者が経験する少なくとも1つの痛み成分を検出する方法は、痛みを経験する被験者の脳の分光学的データを獲得し、得られた分光学的データを少なくとも2つの異なる痛み成分と相関させてそれらを識別する特性値を有する基準分光データと比較し、被験者が経験する少なくとも1つの痛み成分の存在を検出するステップを含んでいる。
【0022】
少なくとも2つの異なる痛み成分は侵害的、神経的、心理学的痛み成分のうちの少なくとも2つである。
【0023】
少なくとも2つの異なる痛み成分は侵害的、神経的、心理学的痛み成分の3つ全てを含んでいることが最も好ましい。
【0024】
比較するステップは好ましくは、分光学的データを基準分光学的データと比較して、被験者が経験する前記痛み成分の相対的な貢献度を決定するステップを含んでいる。
【0025】
本発明はさらに、被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分を検出する装置を提供し、この装置は、痛みを経験する被験者の脳の分光学的データを獲得するための磁気共鳴分光計と、少なくとも2つの異なる痛み成分と相関されてそれらを識別する特性値を有する基準分光学的データを記憶するためのメモリ装置と、得られた分光学的データを基準の分光学的データと比較して、被験者が経験する少なくとも1つの痛み成分の存在を検出するための比較器とを具備している。
【0026】
異なる痛み成分は侵害的、神経的、および心理学的痛み成分のうちの少なくとも2つであることが好ましい。
【0027】
異なる痛み成分は侵害的、神経的、および心理学的痛み成分の3つの成分全てを具備していることが最も好ましい。
【0028】
比較器は被験者が経験する各痛み成分の相対的な貢献度を決定することが好ましい。
【0029】
本発明はまた被験者が侵害的痛み成分を経験しているか否かを検出する方法を提供し、この方法は、選択された生化学物質の濃度を決定するために被験者の脳領域の分光学的データを獲得し、得られた生化学物質濃度を基準生化学物質濃度と比較することを含んでおり、それによって基準生化学物質濃度に関する選択された生化学物質濃度の差は侵害的痛みの存在を示している。
【0030】
脳領域は前部前頭皮質であってもよい。選択された生化学物質はグルコースであってもよく、選択された方向は増加である。
【0031】
選択された生化学物質はGABAであってもよく、選択された方向は増加である。
【0032】
選択された生化学物質はN−アセチルアスパラテート(NAA)であってもよく、選択された方向は減少である。
【0033】
選択された生化学物質はコリンであってもよく、選択された方向は増加である。
【0034】
本発明によれば、MRSが異なる痛み成分に対する識別子として使用されることができるか否かを決定するための研究が行われた。その研究は腰の痛みおよび脊髄の怪我を伴う痛みを報告した患者の前部前頭皮質、前部帯状皮質、視床の検査を含んでいる。研究の結果として、異なる痛み成分を弁別することを可能にするパターンが発見された。第1のパターンは前部前頭皮質中のグルコースと、抑制化学物質GABAの相対的な増加である。
【0035】
第2のパターンは前部前頭皮質のグルコースおよびGABAの相対的な減少である。第3のパターンは類似の痛み報告にもかかわらず、グルコースとGABAの比較的小さく、時には僅かな変化である。
【0036】
ここでの観察された変化は、痛みが前部前頭グルコースの減少にのみ関連するというGrachevによる示唆に対応していない。痛みをもつ人々はグルコースの増加または減少のいずれかを示し、それ故、変化の方向(増加または減少)は痛みの存在の決定要素ではない。この発見は、グルコースの増加または減少のいずれかをもつ人が痛みを有し、変化の方向が痛みのタイプを示していることを示している。
【0037】
さらに、2つのグループの試験が他のパターンを明らかにした。前部前頭グルコースの増加を有するグループはまた比較的高い濃度のN−アセチルアスパラテート(NAA)と、低い濃度のコリンを有する。反対に、前部前頭グルコースの減少を有するグループはまた比較的低い濃度のNAAと、高い濃度のコリンを有する。グループはさらに、神経学的発見と、映像形成及び治療に対する反応にしたがって弁別されることができる。増加したグルコースを有する人は広範囲にわたらない、多くは背中に限定される痛みを有し、背中の構造の神経のブロックに反応する。減少した前部前頭グルコースを有する人は神経的欠損、映像に対する神経根の衝突および/または神経的痛みを助ける治療に対してポジチブな反応を有している。それ故、結論として、両グループは痛みを有し、両グループは前部前頭グルコースに変化を有するが、変化の方向(増加または減少)は脳に到達する入力の強さに関連している。神経の怪我及び痛みを持たない人は(通常、侵害的痛みで起こるように)グルコースおよびGABAの増加と共に入力を増加する。神経の怪我及び入力の損失を有する人は(通常神経障害的な痛みで起こるように)前部前頭グルコースおよびGABAの減少を有する。それ故、Grachev氏等の発見の違いの理由と、彼らが痛みがグルコースの減少のためであるということを示唆した理由は、ほとんどの被験者が本質的に有力な神経障害である腰の痛みをもっていたためである。これは全ての被験者が広がりのある痛みを足に感じ、ほとんどが椎間板ヘルニアを有し、手術を受けていた事実によって支持される。
【0038】
前部前頭グルコースまたはGABAにほとんどまたは全く変化のない第3のグループは更に検査された。ほぼ全ての試験者が痛みの強さに線形に関連する気分の変化を示した。しかしながら、ほとんど変化のない人の弁別特性は彼らの気分の機能不全が自ら報告した痛みの過激さに対して不均衡であったことである。それ故、このグループは痛みを有するが、その心理学的要因が彼らの痛みの表現に大きな役割を有していることが分かった。
【0039】
1つの他の重要な発見が行われた。グルコースの変化(正または負)が痛みを有する人で発見されただけでなく、これらの変化は痛みの強さ(視覚アナログスコア)に線形に相関されていた。それ故、この方法は異なる要因が痛みに対する重要な貢献要因であるか否かを弁別することができるだけでなく、また各痛み成分の相対的な貢献度と、痛みの表現におけるそれらの役割の指示を与えることができる。
【0040】
視床の領域における神経分光は高レベルの正確度で痛みの存在を識別することができる。脊髄の怪我を有する少数の被験者の予備研究と共に、腰の痛みを有する被験者のグループ(N=31)は対照標準のグループ(N=35)と比較され、MRSデータを示し、統計的な分類方法(SCS)により解析されるとき96%の正確度を与える。SCSはWallace JC氏その他の文献(文献Classification of 1H MR Spectra of Biopsies from Untreated and Recurrent Ovarian Cancer Using Linear Discriminant Analysis、Magn Reson Med、1997、38:569-76)に記載された基本的なタイプであるか、またはPCT WO 01/28412 A1(PCT/CA00/01238)に記載されているようなさらに頑丈なタイプであり、ここでは相互確認ステップが複数回反復され、それぞれのステップで、スペクトルの異なる部分を選択する。これらの研究は、痛みを有する患者を対照基準、及び異なる痛み状態間で比較したときに検査された脳領域中の神経伝達物質と代謝物質濃度の大きな差が示され、それによって、痛みの起因と強さが同様に記録されることができる。
【0041】
表1は腰の痛みを持つ患者のグループと、背中の痛みのない対照基準の研究結果を示している。以下の表で与えられている感度、特異性、正確性についての明確に区分されたスペクトルだけを用いた6つの領域を使用する。
【表1】

【0042】
患者が痛みを経験する身体中の位置はしばしば患者の報告により識別されることができる。説明した診断技術の価値は1つの領域が識別されると、脳の反応は決定され、生化学物質のプロフィールの変化はこれらの異なる痛み成分の相対的な貢献度を決定するために使用されることができる。これはこれらの異なる成分の貢献度についての客観的評価を医師に提供し、処置についての明白な指導を与える。
【0043】
前述したように、MRSは脳領域の相対濃度を識別することができ、神経的痛みは特定の脳領域の抑制化学物質GABAの濃度の減少に関連されていることが示されている。これはこの化学物質の減少が抑制の減少およびその後の痛み信号の増幅に関連されていると考えられる。このことはこの化学物質の欠損を解決する介入がこの状態を治療するのに効率的であることを示している。それ故、MRSは脳の特別な化学物質の欠損を決定するのに有用な診断ツールであり、この情報は効率的な治療を指示するために使用されることができる。また、MRSは治療が行われるときにその進行を監視するためにも使用されることができることを意味している。
【0044】
慢性的な痛みの評価における非侵襲性で痛みのない“診察”試験としての神経分光学の開発は痛みの客観的な指示子を与えることによって臨床的実施に大きなインパクトを与えるであろう。これは慢性的な痛みの評価に有効であり、整合した治療手順を可能にする。
【0045】
本発明は脳領域のスペクトルデータを得るための分光計10と、得られた分光学的データをメモリ14に記憶されている基準分光学的データと比較し、それによって試験下の被験者の1以上の痛み成分を検出する比較器/コンピュータ12とを示している図1に示されたシステムで実行されることができる。
【0046】
本発明の1実施形態を示し、説明したが、当業者により変更が行われ、本発明は単一の実施形態ではなく特許請求の範囲によって規定される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による装置及び方法の実施に使用されることのできるシステムのコンポーネントを示している概略ブロック図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分を検出する方法において、
痛みを経験している被験者の脳の分光学的データを獲得し、
その得られた分光学的データを少なくとも2つの異なる痛み成分と相関させそれらを識別する特性値を有する基準分光学的データと比較し、前記被験者が経験する少なくとも1つの痛み成分の存在を検出する各ステップを含んでいる方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの異なる痛み成分は、侵害的、神経的、および心理学的な痛み成分のうちの少なくとも2つである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの異なる痛み成分は、侵害的、神経的、および心理学的な痛み成分の3つ全てを含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記比較するステップは分光学的データを基準分光学的データと比較して、前記被験者が経験している前記痛み成分の相対的な貢献度を決定するステップを含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項5】
被験者が経験している少なくとも1つの痛み成分を検出する装置において、
痛みを経験している被験者の脳の分光学的データを獲得するための磁気共鳴分光計と、
少なくとも2つの異なる痛み成分と相関されてそれらを識別する特性値を有する基準分光学的データを記憶するためのメモリ装置と、
前記獲得された分光学的データを前記基準分光学的データと比較して、前記被験者が経験している前記少なくとも1つの痛み成分の存在を検出するための比較器とを具備している装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つの異なる痛み成分は、侵害的、神経的、および心理学的な痛み成分のうちの少なくとも2つである請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも2つの異なる痛み成分は、侵害的、神経的、および心理学的な痛み成分の3つ全てを含んでいる請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記比較器は前記被験者が経験している前記痛み成分のそれぞれの前記相対的な貢献度を決定する請求項5記載の装置。
【請求項9】
被験者が侵害的痛み成分を経験しているか否かを検出する方法において、
選択された生化学物質の濃度を決定するために前記被験者の脳領域の分光学的データを獲得し、
その獲得された前記生化学物質の濃度を基準生化学物質の濃度と比較するステップを含んでおり、それによって前記基準生化学物質の濃度に関する選択された生化学物質の濃度の差が前記侵害的痛みの存在を示している方法。
【請求項10】
前記脳領域は前部前頭皮質である請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記選択された生化学物質はグルコースであり、前記選択された方向は増加である請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記選択された生化学物質はGABAであり、前記選択された方向は増加である請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記選択された生化学物質はN−アセチルアスパラテート(NAA)であり、前記選択された方向は減少である請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記選択された生化学物質はコリンであり、前記選択された方向は増加である請求項9記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−525832(P2006−525832A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504139(P2006−504139)
【出願日】平成16年5月11日(2004.5.11)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000706
【国際公開番号】WO2004/099808
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(302046528)ナショナル・リサーチ・カウンシル・オブ・カナダ (15)
【出願人】(503302883)インスティテュート・フォー・マグネティック・レソナンス・リサーチ (1)
【出願人】(505013103)ノーザン シドニー エリア ヘルス サービス (3)
【Fターム(参考)】