説明

磁気冷凍材料およびその製造方法、ならびに、反強磁性材料を強磁性材料に変質させる方法

【課題】一次磁気転移物質であって、強磁性物質である磁気冷凍材料を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含有する磁気冷凍材料。
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料およびその製造方法、ならびに、反強磁性材料を強磁性材料に変質させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の磁気冷凍材料が知られている。例えば特許文献1には、希土類元素の窒化物を含んでなる磁気冷凍材料が開示されている。
ここで作業物質が一次磁気転移を示す場合、磁気転移に際して潜熱を伴うため、冷凍能力が大きくなるので、磁気冷凍物質として優れている。ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶は数少ない一次磁気転移物質として知られているが、反強磁性であるため、磁気冷凍材料として用いることができない。
【0003】
【特許文献1】特開平2005−89740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、一次磁気転移物質であるが、反強磁性であるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を強磁性物質に変換して磁気冷凍材料として用いることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が、鋭意検討した結果、驚くべきことに、ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することにより、反強磁性であるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を強磁性物質に変換することが可能であることが分かった。これは、当業者の技術常識に従えば、特異なことである。特に、微量のFeによって組成の一部を変更することのみによって、反強磁性であるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を強磁性物質に変質できることは極めて特異的である。具体的には、下記手段により、上記課題を解決しうることを見出した。
(1)一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含有する磁気冷凍材料。
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
(2)一般式(1)中のAがTi、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上である、(1)に記載の磁気冷凍材料。
(3)一般式(1)中のMがMg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rh、Pd、Ag、Cd、InおよびSnから選択される1種以上である、(1)または(2)に記載の磁気冷凍材料。
(4)一般式(1)中のNの20モル%以下がH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていている、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の磁気冷凍材料。
(5)一般式(1)において、xが、0.01≦x≦0.1である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の磁気冷凍材料。
(6)ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することを特徴とする、磁気冷凍材料の製造方法。
(7)前記ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶が、下記一般式(2)で表される組成からなることを特徴とする、(6)に記載の製造方法。
一般式(2)
Mn3MN
(一般式(2)中、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
(8)ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上で置換することを特徴とする、(6)または(7)に記載の製造方法。
(9)磁気冷凍材料が、(1)〜(5)のいずれかで表される磁気冷凍材料である、(6)〜(8)のいずれか1項に記載の製造方法。
(10)ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することを特徴とする、反強磁性材料を強磁性材料に変質させる方法。
(11)前記ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶が、下記一般式(2)で表される組成からなることを特徴とする、(10)に記載の方法。
一般式(2)
Mn3MN
(一般式(2)中、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
(12)ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上で置換することを特徴とする、(10)または(11)に記載の方法。
(13)ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更して、下記一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶とすることを特徴とする、(10)〜(12)のいずれか1項に記載の方法。
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
(14)一般式(1)中のAがTi、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上である、(10)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(15)一般式(1)中のMがMg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rh、Pd、Ag、Cd、InおよびSnから選択される1種以上である、(10)〜(14)のいずれか1項に記載の方法。
(16)一般式(1)中のNの20モル%以下がH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていている、(10)〜(15)のいずれか1項に記載の方法。
(17)一般式(1)において、xが、0.01≦x≦0.1である、(10)〜(16)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、一次磁気転移物質である磁気冷凍材料を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明におけるマンガン窒化物は、特に断らない限り、通常の結晶格子(ペロフスカイト型のマンガン窒化物)において生じうる原子の欠陥や過剰がないものをもって記載しているが、この種の結晶格子において通常生じうる欠陥や過剰があっても、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲内に含まれる趣旨である。ここで、この種の結晶格子において通常生じうる欠陥や過剰は、合金の一般論に従う。例えば、窒素などの侵入元素は欠損しやすいことが知られており、このことは、西川精一・新版金属工学入門・アグネ技術センター(2001)、A. H. Cottrell, An Introduction to Metallurgy (Edward Arnold Ltd., 1967) など多数の文献に記載されている。すなわち、窒素などの侵入元素が通常の範囲内で欠損しているものも、本発明の効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれる。
【0009】
本発明の磁気冷凍材料に含まれるマンガン窒化物は、一般式(1)で表される組成からなるマンガン窒化物結晶を含む。ここで、「からなる」とは、一般式(1)で表される組成をマンガン窒化物結晶の主成分とするが、不純物等の微量成分のみを含んでいる場合まで排除する趣旨ではない。
【0010】
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
【0011】
ここで、AはTi、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上であることが好ましく、AはTi、V、CrおよびFeから選択される1種以上であることがより好ましく、少なくともFeであることがさらに好ましい。
MはMg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rh、Pd、Ag、Cd、InおよびSnから選択される1種以上であることが好ましく、Mg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Ag、InおよびSnから選択される1種以上であることがより好ましく、Ni、Cu、Zn、Ga、AgおよびInから選択される1種以上であることがさらに好ましく、Gaであることが最も好ましい。
一般式(1)中のNは、例えば、20モル%以下が、好ましくは10モル%以下が他の原子で置換されていてもよい。ここで、他の原子としては、H、B、CおよびOのいずれか1種以上が挙げられ、BおよびCのいずれか1種以上が好ましい。
【0012】
一般式(1)において、xは、0<x≦0.2であることが好ましく、0.01≦x≦0.1であることがより好ましく、0.02≦x≦0.05であることがさらに好ましく、0.03≦x≦0.04であることが最も好ましい。
【0013】
また、一般式(1)において、窒素原子は、マンガン窒化物の結晶格子の中心に存在することが好ましい。ここでの窒素原子等は、通常のマンガン窒化物において生じうる窒素原子等の欠陥や過剰がなかった場合に中心に存在することをいう。例えば、立方晶系がわずかにひずんだものについては、立方晶系における八面体中心に相当する位置をいう。
【0014】
以下に、本発明で採用する一般式(1)で表される組成の好ましい例を示す。これらの組成であって、さらに、その窒素原子の一部が、他の原子で置換された組成も好ましい。
Mn2.83.2Fe0.050.2Ga0.91.1
【0015】
ここで、一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶は「逆ペロフスカイト」構造を持つことが好ましい。これは代表的な合金であるCu3Au型合金の間隙(中心)に窒素が侵入したもので、侵入型規則合金の1種である。逆ペロフスカイト結晶格子のモデルを示す。この場合、化学式はMn3XNとなる。しかしながら、本発明は下記構造に限定されるものではない。
【化1】

ここで、中央部分には、通常、窒素原子が入る。黒丸部分には、主として、一般式(1)のMに相当するものが入る。白丸部分は、主としてMnまたは一般式(1)のAが入る。
ここで、合金の一般論として、Nの他、H、B、C、O等が侵入元素になり得ることは、例えば、西川精一・新版金属工学入門・アグネ技術センター(2001)、A. H. Cottrell, An Introduction to Metallurgy (Edward Arnold Ltd., 1967) はじめ、多くの文献に記載されている。
本発明のように、Cu3Au型合金の間隙(中心)に窒素などの侵入元素が位置した逆ペロフスカイト構造は元素置換に対して大変に安定となり、さまざまな金属・典型元素をこの結晶構造中に取り込むことができる。この点は、J.-P. Bouchaud, Ann. Chim. 3, 81 (1968) 、D. Fruchart and E. F. Bertaut, J. Phys. Soc. Jpn. 44, 781 (1978) 等、多数の文献に記載されている通り公知である。また、例えば、Mn3(Cu0.5Sn0.5)Nなどの混晶系(固溶系)を、様々な組成について作製可能であることは、国際公開WO2006/011590号パンフレット、日本応用磁気学会第150回研究会資料,7 (2006)、K. Takenaka and H. Takagi, Appl. Phys. Lett. 87, 261902 (2005)、R. Fruchart, R. Madar, M Barberon, E. Fruchart, and M. G. Lorthioir, J. Phys. (Paris) 32 C1, 982 (1971)、G. Lorthioir, E. Fruchart, M. Nardin, P. l'Heritier, and R. Fruchart, Mat. Res. Bull. 8, 1027 (1973), D. Fruchart and E. F. Bertaut, J. Phys. Soc. Jpn. 44, 781 (1978)、Ph. l'Heritier, D. Boursier, R. Fruchart, and D. Fruchart, Mat. Res. Bull. 14, 1203 (1979)など、多数の文献に記載されている。
すなわち、一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶は、該一般式(1)のA、Mとしてさまざまな元素を含ませることは技術上、容易である。
【0016】
本発明の磁気冷凍材料に含まれるマンガン窒化物は、立方晶系、および、立方晶系がわずかにひずんだもの(例えば、六方晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、三方晶系等)のいずれであってもよいが、立方晶系が好ましい。
【0017】
次に、磁気冷凍材料の製造方法について説明する。
本発明の磁気冷凍材料は、公知のペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することにより作製することができる。ここで、組成の一部を変更するとは、公知のペロフスカイト型マンガン窒化物結晶から直接に変更してもよいし、変更後の組成を有するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を改めて製造してもよい。
【0018】
本発明の製造方法において用いる、組成を変更する前のペロフスカイト型マンガン窒化物結晶としては、下記一般式(2)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶であることが好ましい。
一般式(2)
Mn3MN
(一般式(2)中、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
一般式(2)中、Mは、一般式(1)におけるMと同義であり、好ましい範囲も同義である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよく、例えば、20モル%以下の割合で置換されていることが好ましい。また、本発明の製造方法において用いる組成を変更する前のペロフスカイト型マンガン窒化物結晶として、一般式(2)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶であって、N原子以外の部分の一部が置換されている物質も採用することができる。
【0019】
本発明では、ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更するが、好ましくは該組成の20モル%以下、より好ましくは1〜10モル%、さらに好ましくは2〜5モル%を置換することが好ましい。本発明では、このように少量の置換によって、反強磁性物質を強磁性物質に変更できるという極めて特異的な特徴を持っている。
本発明の製造方法では、ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上で置換することが好ましく、Ti、V、CrおよびFeから選択される1種以上で置換することがより好ましく、少なくともFeで置換することがさらに好ましい。
また、本発明の製造方法によって製造される磁気冷凍材料は、上記一般式(1)で表される組成からなる磁気冷凍材料であることが好ましい。
【0020】
さらに、上述した製造方法と同様の手法を採用することによって、反強磁性材料であるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を強磁性材料に変質させることができる。
尚、物質中の磁性に関与する原子もしくは遍歴電子の磁気モーメントが同じ方向に配列し、自発磁化を形成する秩序磁性を強磁性、磁気モーメントが互いに打ち消し合う方向に配列し、自発磁化がゼロとなっている秩序磁性を反強磁性といい、そのような秩序磁性を持つ材料をそれぞれ、強磁性材料、反強磁性材料という。
また、本明細書において、一次磁気転移とは、上述の秩序磁性が出現する温度において、磁化率が不連続的に変化するものをいう。例えば、図1に示すように、強磁性出現と同時に磁化率が不連続的に増大するものをいう。
【0021】
本発明においてペロフスカイト型窒化物結晶は、例えば、原料材料を、焼成する方法により製造される。ここで、原料材料としては、必要な組成を含んでおり、かつ、焼成により、所定の強磁性を実現するペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を形成するものであれば、特に定めるものではない。
例えば、Mn31NおよびMn32N(M1およびM2は、Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族原子のいずれかの原子等)を、焼成して得ることができる。一例として、Mn3GaNおよび/またはMn3GaCと、Mn31N(M1は、Ge、Snなどである)を焼成して得る方法が挙げられる。また、これらと、Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族原子のいずれかの単体またはこれらの窒化物、炭化物、硼化物、Mn33N(M3は、Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族原子)とを焼成して得ることもできる。その他、Mn33C、Mn33Bを焼成して得ることもできる。また、マンガンの窒化物としては、Mn2Nの他、Mn4Nを原料材料とすることもできる。
さらに、金属Mn、Mn2N、Mn4Nのいずれかまたは混合物と原子(Mg、Al、Si、Scおよび周期表第4〜6周期の4〜15族原子等)または該原子の窒化物を原料とし、窒化雰囲気中(例えば窒素ガス1気圧)、500〜980℃で60〜70時間加熱・焼成して得ることもできる。
この他、Mn、上記M1、上記M2を3:(1−x):xのモル比で混合・撹拌した後、窒化雰囲気中(例えば窒素ガス1気圧)で500〜800℃、30〜80時間の加熱を行い、まず粉末を得て、次にそれを窒化雰囲気中(例えば窒素ガス1気圧)で700〜980℃、30〜80時間の加熱を行い、焼成することもできる。この際、出発原料の一部または全部を当該金属・単体の窒化物(例えば、Mn2N、Mn4N、Zn32など)としてもよい。
この他、Mn311-x2xNと単体X(XはB、C)を適当なモル比で混合・撹拌した後、石英管に真空封入し、700〜980℃、60〜80時間焼成することで、Mn311-x2x1-yyを得ることもできる。
【0022】
本発明の磁気冷凍材料は、主として−200℃程度の低温での冷却装置における磁気冷凍作業物質に好ましく用いることができる。より具体的には、液体酸素や液体窒素、液体水素、液化天然ガスなどの製造・貯蔵などに用いることができる。本発明の磁気冷凍物質を用いた冷却では、代替フロンを含むフロンガスを用いないため、環境に対する負荷が著しく小さいことが特長である。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0024】
(1)磁気冷凍材料の作製
Mn2N、Mn4N、Fe4N、GaNを原料として、Mn:Fe:Gaが、3(1−x):3x:1のモル比になるよう秤量・撹拌した後、石英管に真空封入(〜10―3 torr)し、760℃で40〜60時間加熱・焼成して粉末試料を得た。これを、錠剤型に押し固めて、真空封入もしくは窒素ガス1気圧の雰囲気で760〜850℃、60時間の加熱を行い、焼成して、Mn3GaN、(Mn0.97Fe0.033GaN、(Mn0.96Fe0.043GaNを得た。
上記の試料作製において、原料は全て純度99.9%以上の粉末であった。原料粉などの撹拌は全て窒素ガス中で行った。なお、用いた窒素ガスはフィルター(日化精工、DC−A4およびGC−RX)により水分と酸素を除去した。作製した試料は粉末X線回折(デバイ・シェラー法)により評価し、室温で立方晶のペロフスカイト構造であることを確認した。
【0025】
(2)磁化率の測定
磁化率は、磁気特性評価システム(カンタム・デザイン製、MPMS2FC)を用い、5000Oeの磁場のもと、降温過程で測定した。その結果を図1に示した。
【0026】
(3)結果
図1から明らかなとおり、Fe原子で置換していないMn3GaNでは、反強磁性であり、磁化率は測定された全温度で1.3×10-2emu/mol以下であった。これに対し、Fe原子で3%置換した(Mn0.97Fe0.033GaN、および4%置換した(Mn0.96Fe0.043GaNは、それぞれ、80K、120Kで磁化率の不連続的な増大を示した。この不連続的な増大は一次相転移で強磁性に変化することを意味しており、それぞれの温度以下では、高い磁化率を示した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施例における結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶を含有する磁気冷凍材料。
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)中のAがTi、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上である、請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
一般式(1)中のMがMg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rh、Pd、Ag、Cd、InおよびSnから選択される1種以上である、請求項1または2に記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
一般式(1)中のNの20モル%以下が、H、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
一般式(1)において、xが、0.01≦x≦0.1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気冷凍材料。
【請求項6】
ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することを特徴とする、磁気冷凍材料の製造方法。
【請求項7】
前記ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶が、下記一般式(2)で表される組成からなることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
一般式(2)
Mn3MN
(一般式(2)中、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
【請求項8】
ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上で置換することを特徴とする、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
磁気冷凍材料が、請求項1〜5のいずれかに記載の磁気冷凍材料である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更することを特徴とする、反強磁性材料を強磁性材料に変質させる方法。
【請求項11】
前記ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶が、下記一般式(2)で表される組成からなることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
一般式(2)
Mn3MN
(一般式(2)中、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
【請求項12】
ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を、Ti、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上で置換することを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
ペロフスカイト型マンガン窒化物結晶の組成の一部を変更して、下記一般式(1)で表される組成からなるペロフスカイト型マンガン窒化物結晶とすることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
一般式(1)
(Mn1-XX3MN
(一般式(1)中、Aは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Hf、Ta、W、ReおよびOsから選択される1種以上であり(但し、Aの1種がMnであるときは、Aは2種以上である)、Mは、Mg、Al、Si、Sc、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、PbおよびBiから選択される1種以上であり、xは、0<x≦0.2である。Nの一部はH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていてもよい。)
【請求項14】
一般式(1)中のAがTi、V、Cr、Fe、Zr、Nb、Mo、Ru、Hf、Ta、WおよびReから選択される1種以上である、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
一般式(1)中のMがMg、Al、Si、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rh、Pd、Ag、Cd、InおよびSnから選択される1種以上である、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
一般式(1)中のNの20モル%以下がH、B、CおよびOのいずれか1種以上で置換されていている、請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
一般式(1)において、xが、0.01≦x≦0.1である、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−54776(P2009−54776A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219832(P2007−219832)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】