説明

磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法

【課題】水に対して磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することにより水素ガス(H)と酸素ガス(O)を同時発生させるための方法、すなわち磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法を提供する。
【解決手段】水に対して磁気処理装置4a,4bで磁気処理を施す(例えば、永久磁石あるいは電気磁石による磁束密度300ガウス以上の磁場を水に対して一回もしくは繰り返し与える)ことにより生成された励起活性水素含有水を電気分解原液とし、これを電気分解することで、水素ガスおよび酸素ガスを発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に対して磁気処理を施すことにより生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することにより水素ガスおよび酸素ガスを発生させるための方法に関し、具体的には、水素ガスおよび酸素ガスを非常に効率よく短時間に、低電力で大量に同時発生させることを可能とするとともに、燃料用の水素ガスと酸素ガスの混合ガスを発生させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば給水管に対する防蝕や除錆などを目的として、給水設備に磁気処理装置を設け、供給水に対して磁気処理を施す各種の水処理システムが知られている。しかしながら、このような磁気処理装置を用いて水に磁気処理を施すことにより、処理後の磁気処理水中に励起状の活性水素が含有されるという認識はこれまでなく、当該水中に含有される励起活性水素を確認する手段や方法も確立されていなかった。このため、かかる磁気処理水を電気分解原液とし、当該磁気処理水を電気分解することにより水素ガスおよび酸素ガスを発生させるということが想定されることも、これまで全くなかった。
【0003】
ここで、従来における励起活性水素含有水の製造方法として、特許文献1には、静止した水に対して金属マグネシウムを投入する方法が一例として開示されており、特許文献2には、水に白金および金属コロイドを分散させ、これに水素ガスを注入する方法が一例として開示されている。これらに開示された方法は、いずれも静止した水中に還元物質を注加することによる励起活性水素含有水の製造方法であり、製造された励起活性水素含有水は、飲料水や医薬品用水に用いられている。
また、非特許文献1には、磁気処理装置を用い、その磁場の強さ、並びに流速に応じて発生する起電力と発生電流の発生量について、水が磁場中を一定の流速以上で通過する場合、微弱な起電力と電流が発生し、その際に一種の電子受授反応(弱い電解)が行われていることだけが記載されている。
【0004】
このように、特許文献1、特許文献2、および非特許文献1のいずれにも活性水素を確認することへの認識や手段についての記載はなく、水に対して磁気処理を施すことについては磁気による現象であることに言及するに止まり、活性水素の存在を確認するには至っていなかった。
したがって、これまでは水(一例として、通常の上水道水)に磁気処理を施すことで、給水管内の鉄表面に付着、若しくは発生した赤錆のヘマタイト(FeO(OH))が黒錆のマグネタイト(Fe)に変化し、防錆性の防蝕被膜を形成することが解明されているに止まり、かかる反応が何によって起きているのかは基本的な課題として残されていた。
【0005】
また、特許文献3および特許文献4には、水の電気分解によって水素ガスと酸素ガスを発生させるための方法がそれぞれ開示されている。
特許文献3には、隔膜式多層型電解槽方式により、アルカリ電解液を用いて水素ガスと酸素ガスを発生させるための装置が一例として開示されているが、かかる装置で用いられる方法は、従来の水素ガスおよび酸素ガスの発生方法の代表例を示すものに過ぎない。
一方、特許文献4には、電気分解を行う際の電極板として磁石材を用いた水素ガスと酸素ガスの混合ガスを発生させるための装置が一例として開示されているが、かかる装置においては、電極板間の距離が長く取られているため磁力の働きが弱く、かつ、電極板間を移動する電解液の移動速度が不足しており、磁石材を用いた電解方式には多くの課題があった。
【0006】
このように、特許文献3および特許文献4においては、磁気処理を施した水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することにより水素ガスおよび酸素ガスを発生させるということは全く想定されておらず、そのための具体的な手段などについて一切言及もなされていない。
【特許文献1】登録実用新案第3107624号公報
【特許文献2】特開2004−330146号公報
【特許文献3】特開2007−284730号公報
【特許文献4】登録実用新案第3124750号公報
【非特許文献1】K.W.Bnschet al著 「CORROSION 42 No.4」 NACE 1986年 P211
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような課題に対し、本願発明者らは、水(一例として、通常の上水道水)に磁気処理を施すことで、給水管内の鉄表面に付着、若しくは発生した赤錆のヘマタイト(FeO(OH))が黒錆のマグネタイト(Fe)に変化し、防錆性の防蝕被膜を形成する反応が何に起因するのかを究明し、水中に還元物質として励起状の活性水素が発生するとともに、当該活性水素が含有されていることを確認し、励起・活性水素含有水の製造方法として、特願2007−301065に提案してきた。
この場合、本願発明者らは、水に磁気処理を施すことにより、何らかの還元物質が生成されるのではないか、すなわち、水の各種分子成分が磁気処理によって水素原子を中心に強い磁場の影響を受けて励起活性化された還元物質、具体的には水分子自体(HO)、水素分子(DH=H)、水素イオン(H)、および水素原子(H・)を含有することにより、還元反応が生じるのではないかと考えるに至り、前記励起・活性水素含有水の製造方法を提案した。
【0008】
そして、本発明においては、さらに、かかる磁気処理水は水自体が活性状態を維持し、前記還元物質の他、活性化したヒドロキシルラジカル(OH・)をも生成し、当該磁気処理水を電気分解原液として電気分解すれば、水素ガス(H)および酸素ガス(O)の発生効率の向上を図ることができ、その発生量を増大させることが可能なのではないかと考えるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、上述した課題を解決するためになされており、その目的は、水に対して磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することにより水素ガス(H)と酸素ガス(O)を同時発生させるための方法、すなわち磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法は、水に対して磁気処理を施すことにより生成された励起活性水素含有水を電気分解することで、水素ガスおよび酸素ガスを発生させる。
この場合、前記水に対して施す磁気処理では、永久磁石あるいは電気磁石による磁束密度300ガウス以上の磁場を水に対して一回もしくは繰り返し与えている。
例えば、前記水に対して施す磁気処理では、流水量が毎分25〜100リットル、流速が毎秒0.3m以上の流水を循環させながら、当該流水に対し、磁束密度300〜10000ガウスの磁場を繰り返し与えればよい。
なお、前記励起活性水素含有水には、励起活性水素分子(DH)、励起活性水素イオン(H)、励起活性水素原子(H・)、および励起ヒドロキシルラジカル(OH・)が含有されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法によれば、水に対して磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水を電気分解原液とし、これを電気分解することで、水素ガス(H)と酸素ガス(O)を非常に効率よく短時間に、低電力で大量に同時発生させることができ、結果として、燃料用の水素ガスと酸素ガスの混合ガスを発生させることができる。
すなわち、化石燃料をほとんど使用せず、炭酸ガスを発生させない、水を原料としたクリーンなエネルギー源(水素酸素混合ガス燃料)の電解原料水として、温室効果ガス削減に寄与し、エネルギー産業(例えば、廃棄物処理用エネルギーや動力用エネルギー等)などの地球環境事業へ大いに貢献することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法について、添付図面を参照して説明する。
本発明は、水に対して磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することにより水素ガスおよび酸素ガスを発生させる方法、すなわち磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法に関するものである。
【0013】
本願発明者らは、給水管等に対する防蝕や除錆などを行う際に生じる還元的現象(還元反応)を確認するため、一定量の水(一例として、通常の上水道水)について添加剤を一切加えることなく、図1に示すような磁気処理システムを用いて水に対して循環方式にて繰り返し磁気処理を施し、同じ水に対して磁気処理を重ねることで、一過性の磁気処理水中には微少量しか発生しない還元性物質である励起活性化された各種の水素成分(水素分子(DH、H)、水素イオン(H)、および水素原子(H・)など)が、高濃度に蓄積される実験を試みた。
【0014】
すなわち、一過性の磁気処理水では励起活性水素含有濃度は極めて希薄であるため、当該濃度を測定することも、励起活性水素の含有を確認することも容易とはいえなかった。このため、磁気処理水中の励起活性水素濃度を高める手段として、所定量の水に対して繰り返し磁気処理を施し、磁場への通水回数を多くすることで、磁場への一過性の通水磁気処理水中では捕捉することが困難であった微量の各種励起活性水素を蓄積、高濃縮させ、直接、溶存励起活性水素として捕捉することを可能とした。
【0015】
なお、本実施形態においては、水に対して施す磁気処理として、永久磁石あるいは電気磁石による磁束密度300ガウス以上の磁場を水に対して繰り返し与えることで、磁気処理水(励起活性水素含有水)を生成する場合を一例として想定している。より具体的には、流水量が毎分25〜100リットル、流速が毎秒0.3m以上の流水を循環させながら、当該流水に対し、磁束密度300〜10000ガウスの磁場を繰り返し与える場合を想定する。
【0016】
本発明は、上述したように、磁気処理水中に各種の励起活性水素成分が大量に含有されているという新たに得た知見を基に、励起状態の物質が含有される磁気処理水を電気分解原液として電気分解すれば、水素ガスのみならず、酸素ガスも非常に効率よく短時間に、低電力で大量に発生可能なのではないかとの仮定に基づいて行った磁気処理水の電気分解に、その本源がある。通常の水(未磁気処理水)を電気分解した場合と比較したところ、水素ガスの発生量および酸素ガスの発生量は、いずれも磁気処理水を電気分解した場合の方が40%〜50%増加する(ほぼ1.5倍となる)ことが確認できた。
このように、水に対して磁気処理を施すことにより生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することで、水素ガスと酸素ガスを非常に効率よく短時間に、低電力で大量に発生させることを可能とする磁気処理水の電気分解方法として、本発明を完成するに至った。
【0017】
ここで、本願発明者らは、水に磁気処理を施すことによって励起した活性水素含有水が生成されるメカニズムの一因が、フレミングの右手の法則に基づいて基底状態では極めて微弱な電圧と電流が発生する一種の電子授受反応(類似電解反応)が増幅されているものと考えている。
【0018】
つまり、基底状態での平衡が保持されている水(HO⇔H+OH)が外的なエネルギー、すなわち強力な磁場の作用を受けることにより、平衡状態にある水の各種成分が励起され、励起によって活性化された水(磁気処理水)となり、当該磁気処理水中には励起活性化された水素分子(DH、H)、水素イオン(H)、および水素原子(H・)などの還元性水素、並びに励起ヒドロキシルラジカル(OH・)などが同時生成されており、この結果、水素ガスや酸素ガスが発生されやすい状態となっているものと考えている。
【0019】
ところで、活性水素に関し、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典」(共立出版株式会社(昭和35年))において、発生期状態の水素とは、原子状またはそれに近い状態にあり、化学反応を起こしやすくなった水素をいうと記述されている。
本発明における磁気処理中の励起活性水素含有水中の活性水素についても、原子状または原子状に近い状態にある水素となっていると考えている。
【0020】
水(HO)に対して磁気処理を施すことにより励起活性水素(H・)となり、さらに溶存水素(DH、H)となる過程、並びに励起ヒドロキシルラジカル(OH・)から酸素(O)が発生する過程は、複雑で単純なメカニズムではないが、以下に示す反応式(1)〜(7)により推移するものと推測している。
水に対する磁気処理においては、以下の反応式(1)〜(3)に示す反応が生ずるものと推測される。その際、反応性に富む発生期状態の励起活性水素(H・)同士が共有結合して溶存水素(DH、H)となる。
【0021】
【化1】

【0022】
また、水に対する一般的な電気分解における陽極反応式(+)と、陰極反応式(−)を以下に示す。
【0023】
【化2】

【0024】
磁気処理水の電気分解においては、以下の反応式(4)〜(7)に示す反応が生ずるものと推測される。
【化3】

【0025】
このように、磁気処理中の水中においては、励起活性状態の水素成分が励起活性水素分子(DH、H)、励起活性水素イオン(H)、および励起活性水素原子(H・)と様々な状態で磁気処理水中に溶存し、当該磁気処理水を電気分解した場合、前記励起活性状態の水素成分が水素ガス(H)となり、ヒドロキシルラジカル(OH・)が酸素ガス(O)となって大気中にそれぞれ放出され、これにより水素酸素混合ガスとなるものと考えられる。
【0026】
水素ガスおよび酸素ガスを製造するに当たり、本実施形態においては、図1に示すような磁気処理システムを用いて水に対して循環方式にて繰り返し磁気処理を施し、同じ水に対して磁気処理を重ねることで、電気分解原液となる磁気処理水(励起活性水素含有水)を生成している。
かかる磁気処理システムは、原水あるいは磁気処理水(以下、まとめて水という)を貯めておく水槽2と、水に対して所定の磁気処理を施すための永久磁石を有する磁気処理装置4a,4bと、水槽2から磁気処理装置4a,4bへ水を送出するとともに、当該水を循環させるためのポンプ6を備えて構成されている。
【0027】
なお、図1に示す磁気処理システムにおいて、水槽2、磁気処理装置4a,4bおよびポンプ6は、相互に給水管で連結されて水を循環させる循環系Rを構成しており、当該循環系Rには給水管から磁気処理装置4a,4bへの取水部分および磁気処理装置4a,4bから給水管への出水部分にバルブ8rが設けられ、磁気処理装置4a,4bへの取水量および磁気処理装置4a,4bからの出水量がそれぞれ調整可能となっている。
また、かかる磁気処理システムにおいては、循環系Rから分岐して原水を入水可能とするとともに、当該循環系Rから磁気処理水を放水可能とするための分岐系Bが構成されている。この場合、循環系Rから分岐系Bへ接続される給水管が配管されているとともに、かかる分岐系Bへの放水部分および当該分岐系Bからの入水部分にもバルブ8bが設けられており、外部から分岐系Bを経由した循環系Rへの入水量および循環系Rから分岐系Bを経由した外部への放水量がそれぞれ調整可能となっている。
【0028】
ここでは、磁気処理を施す原水を一例として脱塩素上水とし、当該脱塩素上水を水槽2に23リットル入れ、平均水温を25℃に設定するとともに、毎分45リットルの流速でポンプ6によって循環系Rを循環させ、磁気処理装置4a,4bを通水する度に繰り返し磁気処理を施した。なお、ポンプ6は接続口径20Aのステンレス製とし、給水管はステンレス管を主体として配管した。
また、水に磁気処理を施す本発明の磁気処理装置4a,4bは、当該装置4a,4b内を通過する水に永久磁石によって磁場を与えるとともに、当該磁場中の磁力線の向きに対し水を直角に通過させることが可能な構造を成している。このため、水が磁気処理装置4a,4bを通過する際、微量ながらも起電力と電流が発生し、当該水に対して磁気処理を施すことができる。
【0029】
そして、磁気処理装置4a,4bを通過した水は、給水管を通って水槽2に入った後、ポンプ6によって再び磁気処理装置4a,4bへ送出され、当該磁気処理装置4a,4bを通過する。すなわち、水は磁気処理システムにおいて循環され、磁気処理装置4a,4bを繰り返し通過する。このように、かかる磁気処理システムによれば、水が磁気処理装置4a,4bを繰り返し通過することで、その都度、通水中に微量ながらも起電力と電流を繰り返し発生させることができ、同一の水に対して重ねて磁気処理を施すことができる。
【0030】
なお、磁気処理装置4a,4bは、水に対して所定の磁場を与えることが可能な構造を成していれば、市販されている汎用の磁気処理装置を任意に選択して用いることができる。その際、磁気処理装置4a,4bに配設される磁石は、永久磁石であってもよいし、電気磁石であってもよい。例えば、磁気処理装置4a,4bに永久磁石を配設する場合、当該永久磁石は、所定の磁場(磁束密度300〜10000ガウス程度)を発生可能であれば、ネオジウム、ボロン、サマリウム、コバルト、鉄及びフェライトなどの各種の磁性材を任意に選択して構成すればよい。
【0031】
すなわち、磁気処理装置4a,4bは、磁石が永久磁石であるか電気磁石であるかを問わず、水に対して磁束密度300ガウス以上、より具体的には300〜10000ガウスの磁場を与えることが可能な磁場発生能力を備えていることが好ましい。
一例として、本実施形態においては、図2(a),(b)に示すような厚さ5mm、直径50mmの複数(同図においては32個)の環状の円板フェライト磁石40mを直列に組み合わせてなる磁石体40を内蔵し、当該磁石体40により磁束密度が300〜10000ガウスの磁場を発生するように磁気処理装置4a,4bが構成されている場合を想定している。なお、図2(a)には、各磁石40mの中心部に形成された貫通孔に棒体固定具40sを挿通し、当該棒体固定具40sの両端をそれぞれ締結固定して成る磁石体40の本体構成を例示するとともに、同図(b)には、その外周部に水を螺旋状に旋回させるための旋回手段(一例として、螺旋状のばね部材)40rを配設した磁石体40をハウジング40hに収容した状態の構成を例示する。その際、磁石体40を構成する磁石40m(一例として、フェライト磁石)の大きさや個数は、発生させる磁場の大きさなどに応じて任意に設定すればよい。また、旋回手段40rは、図2(b)に示すような螺旋状のばね部材には限定されず、例えば、螺旋状に連続する羽根部材などであってもよい。
【0032】
そして、図1に示す磁気処理システムにおいては、かかる磁気処理装置4a,4bを循環系Rに対して並列に1つずつ組み込んでいる。
なお、図1には、2つの磁気処理装置4a,4bを循環系Rに対して並列に1つずつ組み込んだ構成を示しているが、磁気処理装置の配設形態はこれに限定されず、例えば、3つ以上の磁気処理装置4a,4bを循環系Rに対して並列に1つずつ、あるいは複数ずつ組み込んだ構成としてもよいし、循環系Rに対して直列に組み込んだ構成としてもよい。また、循環系Rに対して磁気処理装置を1つだけ組み込んだ構成であってもよい。
【0033】
このように、本発明によれば、水に磁気処理を施すことで励起活性水素含有水を生成することができ、かかる生成方法を用いることにより、励起活性水素含有水中における各種の励起活性水素(励起活性状態の水素成分)濃度の計測が可能となる。
ここで、本発明により励起活性水素含有水を生成し、生成した励起活性水素含有水における励起活性水素(励起活性状態の水素成分)の含有量、具体的には励起活性水素分子(DH、H)、励起活性水素イオン(H)、および励起活性水素原子(H・)の生成量を実際にそれぞれ計測した。かかる励起活性水素の生成、並びに当該励起活性水素の生成量の計測結果について、以下に説明する。
【0034】
励起活性水素の生成は、図1に示すような磁気処理システムを用いて行っており、その際、46リットルの水を水槽2に貯水し、当該水をポンプ6によって最大6時間に亘って循環させた。なお、水は、水道局から供給された水道水(通常の上水道水)を使用し、その水温を25℃〜27℃に設定するとともに、流速をポンプ6およびバルブ8b,8rによって50cm/秒、35cm/秒、および20cm/秒にそれぞれ設定した。そして、磁気処理装置4a,4bによって流水に対して磁束密度10000ガウス、5000ガウス、1000ガウス、500ガウス、および300ガウスの磁場をそれぞれ繰り返し与えた。
【0035】
励起活性水素分子(DH、H)の生成量の計測に当たっては、上述した条件で水を循環させ、循環後の溶存水素(H2)の濃度を30分経過ごとに測定した。かかる溶存水素(H2)濃度の計測には、(有)共栄電子研究所製の隔膜型ポーラログラフ式電極が採用された溶存水素測定装置「溶存水素 KKM-2100DH」を用いた。
かかる溶存水素(H)濃度の計測結果を図3(a),(b)に示す。なお、図3(a)には、磁束密度1000ガウスの磁場を流速50cm/秒、35cm/秒、および20cm/秒の水に対して与えた場合の磁気処理循環時間に対する溶存水素(H)濃度が30分経過ごとに示されている。また、図3(b)には、流速50cm/秒の水に対し、磁束密度10000ガウス、5000ガウス、1000ガウス、500ガウス、および300ガウスの磁場をそれぞれ与えた場合における磁気処理循環時間に対する溶存水素(H)濃度が30分経過ごとに示されている。
【0036】
図3(a)から明らかなように、流速20cm/秒の場合、2時間経過時の溶存水素(H)は、0.8〜1.0μg/l程度に止まっており、以後、磁気処理循環時間が6時間となっても溶存水素(H)濃度は同程度に止まった。
これに対し、流速50cm/秒の場合、磁気処理循環時間が2時間経過するまで溶存水素(H)濃度は上昇を続け、2時間経過時には6.0〜7.0μg/l程度に達し、その後、磁気処理循環時間が6時間となるまで、ほぼこの値のまま安定して推移した。
【0037】
すなわち、流速50cm/秒の場合、流速20cm/秒の場合と比較して溶存水素(H)濃度を7〜8倍以上の高濃度に設定可能であることが確認できた。
なお、流速35cm/秒の場合、磁気処理循環時間が2時間経過時の溶存水素(H)濃度は、3.0〜4.0μg/l程度(流速20cm/秒の場合の3〜4倍以上)であり、その後はほぼこの値で推移した。
【0038】
したがって、磁気処理を施す際の水の流速は、毎秒0.3m以上に設定することが好ましく、毎秒0.5m程度に設定することで、非常に効率よく溶存水素(H)を高濃度とできること、換言すれば溶存水素(H)を大量に生成できることが検証された。
【0039】
また、図3(b)から明らかなように、磁束密度300ガウスの磁場を与えた場合、2時間経過時の溶存水素(H)は、0.5μg/l程度であり、以後、磁気処理循環時間が6時間となっても溶存水素(H)濃度は同程度となった。
これに対し、磁束密度5000ガウスの磁場を与えた場合、磁気処理循環時間が1時間経過するまでに溶存水素(H)濃度は急激に上昇し、1時間経過した時点で8.0μg/l近くに達しており、その後、磁気処理循環時間が6時間となるまで、ほぼこの値のまま安定して推移した。また、磁束密度10000ガウスの磁場を与えた場合には、磁気処理循環時間が30分経過するまでに溶存水素(H)濃度はさらに急激に上昇し、30分経過した時点で9.0μg/l近くに達しており、その後、磁気処理循環時間が6時間となるまで、ほぼこの値のまま安定して推移した。
【0040】
すなわち、流速50cm/秒の水に対し、磁束密度5000ガウスの磁場を与えた場合や磁束密度10000ガウスの磁場を与えた場合、磁束密度300ガウスの磁場を与えた場合と比較して溶存水素(H)濃度を16〜18倍の極めて高濃度に設定可能であることが確認できた。
なお、磁束密度500ガウスの磁場を与えた場合、溶存水素(H)濃度は磁気処理循環時間が6時間となるまで緩やかに上昇を続け、6時間経過時には3.0μg/l近くに達した。また、磁束密度1000ガウスの磁場を与えた場合、磁気処理循環時間が2時間経過するまで溶存水素(H)濃度は上昇を続け、2時間経過時には7.0μg/l近くに達し、その後、磁気処理循環時間が6時間となるまで、ほぼこの値のまま安定して推移した。
【0041】
したがって、磁気処理を施す際は、水の流速を毎秒0.5m程度に設定するとともに、与える磁場の強さを磁束密度1000ガウス以上、より好ましくは5000〜10000ガウス程度に設定することで、非常に効率よく、より短時間で溶存水素(H)を高濃度とできること、換言すれば溶存水素(H)を大量に生成できることが検証された。
【0042】
次に、励起活性水素イオン(H)の生成量の計測に当たっては、生体内の電子伝達系反応として知られているNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)からNADHへの反応系を応用した。すなわち、採取した被検処理水中に励起活性水素イオン(H)が生成されていれば、前駆物質のNADを添加して反応させた場合、NADHが特異的に生成される反応系である。その際、NADHの生成量はNADHに関する特異的吸収波長(λ340nm)の吸光度を測定するが、予め測定しておいた吸光度と励起活性水素イオン(H)量に関する検量線から生成された励起活性水素イオン(H)の量を求めた。その結果、磁気処理水中には1リットルあたり21.5μgの励起活性水素イオン(H)が、外挿(補外)法にて検出された。この水素イオン濃度は、基底状態の濃度に比べて約2000倍以上の高濃度に相当する。
【0043】
そして、励起活性水素原子(H・)の生成量の計測に当たっては、流速50cm/秒の水に対して磁束密度1000ガウスの磁場を与え、磁気処理循環時間が3時間経過時の水(磁気処理水)について、DPPHラジカルスペクトルのピーク減少を利用したESR(電子スピン共鳴)法により、還元性物質の確認を行った。すなわち、図4に示すようなラジカルスカベンジャーのDPPHフリーラジカル(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl,λmax=517nm)により捕捉された場合のDPPHへの励起活性水素原子(H・)の付加変換反応を応用した電子スピン共鳴(ESR)法による定量測定を行った。この結果、磁気処理水には1リットルあたり1.1μgの励起活性水素原子(H・)が検出された。
【0044】
かかるESR法による分析の結果、水に磁気処理を施すことにより、DPPHラジカルスペクトルピークの減少があり、還元性物質(H・)が含有されることを確認した。そこで、この結果を基に溶存水素濃度の測定を実施した。
磁気処理水の中に活性水素(H・)が存在すると、DPPH励起部(>N−N−)とH・とが反応し、結果としてDPPHラジカルピークが低くなる。図4には、その際の反応移行が示されている。したがって、水に磁気処理を施すことにより、活性水素の存在をESR法によっても確認することができた。
【0045】
そして、上述した励起活性水素分子(DH)、励起活性水素イオン(H)、および励起活性水素原子(H・)の生成量の計測結果に基づき、水に対して磁気処理を施すことにより生成された励起活性水素含有水を電気分解することで水素ガスおよび酸素ガスを発生させ、その発生量を計測する試験(第1試験および第2試験)を行った。以下、かかる第1試験および第2試験の結果について説明する。
【0046】
かかる試験において、電気分解原液となる励起活性水素含有水(磁気処理水)は、図1に示すような磁気処理システムを用いて生成した。その際、46リットルの水(通常の上水道水)を水槽2に貯水し、かかる水をポンプ6によって流速(通水循環速度)50cm/秒で6時間に亘って循環させるとともに、その循環中、当該水が磁気処理装置4a,4bを通水する度に磁束密度1000ガウスの磁場を与え、磁気処理を繰り返し施した。
【0047】
次いで、このような磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解して水素ガスおよび酸素ガスを発生させ、これらの発生量を所定のガス計量器(図示しない)を用いてそれぞれ計測した。その際、電気分解条件として、電流密度を3.7μA/m、電解電圧を8.03〜7.39V、電解電流を0.01mAにそれぞれ設定し、電解時間を最大3時間として電気分解開始から1時間経過するごとに水素ガスおよび酸素ガスの発生量をそれぞれメスシリンダー法により測定した。この場合、電極は、プラス側およびマイナス側ともにSUS304材製とし、その表面積を5.36cmにそれぞれ設定した。
【0048】
そして、かかる電気分解条件の下で、上述した磁気処理によって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)に、0.1N-NaOHを加えてなる水溶液(以下、本件磁気処理水という)に対して電気分解を行うとともに、同一電気分解条件の下で、磁気処理を施していない水(通常の上水道水)に0.1N-NaOHを加えてなる水溶液(以下、未磁気処理水という)に対して電気分解を行って、水素ガスおよび酸素ガスの発生量を比較した(第1試験)。なお、本件磁気処理水および未磁気処理水は、いずれも同量の0.1N-NaOHを加えてなる水溶液で、いずれも容量を2.5リットル、水温を6〜10℃に設定した。
【0049】
図5には、本件磁気処理水および未磁気処理水を電気分解し、水素ガスおよび酸素ガスを発生させた第1試験の結果が示されている。図5から明らかなように、本件磁気処理水および未磁気処理水からの水素ガスと酸素ガスの発生量は、いずれも電解時間あたりほぼ一定となり、電気分解開始から1時間経過後、2時間経過後、および3時間経過後のいずれにおいても、本件磁気処理水からの水素ガスおよび酸素ガスの発生量が未磁気処理水からの水素ガスおよび酸素ガスの発生量を上回った。3時間経過後における本件磁気処理水からの水素ガスの発生量は、未磁気処理水からの水素ガスの発生量の144.3%(44.3%増)であり、本件磁気処理水からの酸素ガスの発生量は、未磁気処理水からの酸素ガスの発生量の153.8%(53.8%増)であった。
【0050】
すなわち、本件磁気処理水を電気分解することで、未磁気処理水を電気分解した場合よりも、水素ガスおよび酸素ガスをいずれもほぼ1.5倍生成できることが検証できた。
なお、水素ガスと酸素ガスの発生比率は、本件磁気処理水および未磁気処理水のいずれの場合も、ほぼ2対1で推移した。
【0051】
このような第1試験の結果を受けて、当該第1試験における電気分解条件のうち、電解電圧を15.32〜13.90V(第1試験のほぼ2倍)に設定するとともに、電解時間を1時間として本件磁気処理水を電気分解し、水素ガスおよび酸素ガスの発生量を第1試験と比較することで電解電圧効果をさらに検証した(第2試験)。
【0052】
図6には第2試験の結果が示されており、同図から明らかなように、電解電圧をほぼ2倍に設定した第2試験においては、本件磁気処理水からの水素ガスの発生量は第1試験の発生量の233%(133%増)であり、酸素ガスの発生量は第1試験の発生量の214%(114%増)であった。
すなわち、電解電圧をほぼ2倍に設定して電気分解することで、水素ガスおよび酸素ガスをいずれも2倍以上(電解電圧の上昇率以上に)生成できることが検証できた。
【0053】
このように、本実施形態によれば、水に対して磁気処理を施すことによって生成された励起活性水素含有水(磁気処理水)を電気分解原液とし、これを電気分解することで、水素ガス(H)と酸素ガス(O)を非常に効率よく短時間に、低電力で大量に(未磁気処理水(通常の上水道水)と比較してほぼ1.5倍)、同時発生させることができ、結果として、燃料用の水素ガスと酸素ガスの混合ガス(混合比ほぼ2対1)を発生させることができる。
すなわち、化石燃料をほとんど使用せず、炭酸ガスを発生させない水を原料としたクリーンなエネルギー源(水素酸素混合ガス燃料)の電解原料水として、温室効果ガス削減に寄与し、エネルギー産業(例えば、廃棄物処理用エネルギーや動力用エネルギー等)などの地球環境事業へ大いに貢献することを可能とする。
【0054】
なお、上述した本実施形態においては、励起活性水素含有水(磁気処理水)中の各種励起活性水素成分の含有量(励起活性水素分子(DH、H)、励起活性水素イオン(H)、および励起活性水素原子(H・)の生成量)を確認計測するため、励起活性水素含有水(磁気処理水)の生成と、励起活性水素含有水(磁気処理水)に対する電気分解処理とを分離して行ったが、励起活性水素含有水(磁気処理水)の生成(すなわち、水に対する磁気処理)と、励起活性水素含有水(磁気処理水)に対する電気分解処理とを同時に、あるいは並行して行って水素ガスおよび酸素ガスを発生させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素ガスおよび酸素ガス製造方法に用いられる励起活性水素含有水(磁気処理水)を生成するための磁気処理システムの構成を示す図。
【図2】磁気処理装置に内蔵される磁石体の構成を示す図であって、(a)は、磁石体の本体を示す図、(b)は、外周部に水を螺旋状に旋回させるための旋回手段を配設した磁石体をハウジングに収容した状態を示す図。
【図3】磁気処理循環時間に対する溶存水素(H)の濃度の関係を示す図であって、(a)は、磁束密度(1000ガウス)を一定とし、水の流速を変化(50cm/秒,35cm/秒,20cm/秒)させた場合の磁気処理循環時間に対する溶存水素(H)濃度を30分経過ごとに示す図、(b)は、流速50cm/秒の水に対して磁束密度10000ガウス、5000ガウス、1000ガウス、500ガウス、および300ガウスの磁場をそれぞれ与えた場合の磁気処理循環時間に対する溶存水素(H)濃度を30分経過ごとに示す図。
【図4】ESR(電子スピン共鳴)法による励起活性水素原子(H・)の生成量の計測結果を示す図。
【図5】本件磁気処理水および未磁気処理水を電気分解し、水素ガスおよび酸素ガスを発生させた第1試験の結果を示す図。
【図6】第1試験における電気分解条件のうち、電解電圧を第1試験のほぼ2倍に設定するとともに、電解時間を1時間として本件磁気処理水を電気分解し、水素ガスおよび酸素ガスの発生量を第1試験と比較することで電解電圧効果をさらに検証した第2試験の結果を示す図。
【符号の説明】
【0056】
2 水槽
4a,4b 磁気処理装置
6 ポンプ
8b,8r バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対して磁気処理を施すことにより生成された励起活性水素含有水を電気分解することで、水素ガスおよび酸素ガスを発生させることを特徴とする磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法。
【請求項2】
前記水に対して施す磁気処理では、永久磁石あるいは電気磁石による磁束密度300ガウス以上の磁場を水に対して一回もしくは繰り返し与えることを特徴とする請求項1に記載の磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法。
【請求項3】
前記水に対して施す磁気処理では、流水量が毎分25〜100リットル、流速が毎秒0.3m以上の流水を循環させながら、当該流水に対し、磁束密度300〜10000ガウスの磁場を繰り返し与えることを特徴とする請求項2に記載の磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法。
【請求項4】
前記励起活性水素含有水には、励起活性水素分子(DH)、励起活性水素イオン(H)、励起活性水素原子(H・)、および励起ヒドロキシルラジカル(OH・)が含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の磁気処理水を用いた水素ガスおよび酸素ガス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275258(P2009−275258A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127291(P2008−127291)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(504186529)株式会社 日本磁化学研究所 (10)
【出願人】(303003797)
【出願人】(305040363)
【Fターム(参考)】