説明

磁気検出素子およびその製造方法

【課題】反磁界による磁気検出素子の感度の低下を避けるとともに、電流の漏れによる感度の低下や消費電力の増大を抑制する。
【解決手段】一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜(通電部11)およびこの通電部11の長手方向の外側に位置する軟磁性体膜(集磁部12)を非磁性基板上に形成し、その上に、絶縁層を介して、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイル15a,15bを設け、通電部11は、一方のコイル15aの中心部16aと他方のコイル15bの中心部16bとの間の領域に位置し、通電部11と集磁部12との間がギャップ14により電気的に絶縁され、かつ通電部11の長手方向において、渦巻状のコイル15a,15bの中心部16a,16bが通電部11の端部よりも外側に位置し、さらに集磁部12が渦巻状のコイルの中心部16a,16bよりも外側に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略長方形の軟磁性体からなる通電部(磁気コア)に高周波電流またはパルス電流を通電し、長手方向の磁界の印加に対する幅方向の透磁率の変化を検出する磁気インピーダンスセンサや直交フラックスゲートセンサ等の磁気検出素子に関するもので、簡易なプロセスにて感度を損なうことなく、磁気センサと薄膜コイルを集積したものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPDA(携帯情報端末)等のモバイル機器において、小型で高感度な磁気センサに対する要求が高まっている。高感度な磁気センサとして、フラックスゲートセンサや、アモルファスワイヤを用いた磁気インピーダンス効果素子が用いられているが、フラックスゲートセンサはコイルの巻数を要すること、磁気コアの反磁界を小さくするために磁気コアの長さを長くすることが必要であり、小型化が困難である。一方、アモルファスワイヤを用いた磁気インピーダンス効果素子は、ワイヤを用いているため、基板へのはんだ付けやバイアスコイル(ピックアップコイル)の巻き付けに特殊なプロセスが必要となり、製造コストが高いといった問題がある。
【0003】
特許文献1〜3には、軟磁性体膜を用いた薄膜型磁気インピーダンス効果素子が提案されている。また、特許文献4には、磁気コアに直接高周波電流またはパルス電流を通電し、磁気コア周囲に巻かれたピックアップコイルに誘起される誘導起電力の変化を読み取る直交フラックスゲートセンサが提案されている。
これらに対して、バイアスコイル(ピックアップコイル)を薄膜プロセスにて形成する検討がなされており、特許文献5および非特許文献1では、薄膜プロセスを用いて磁気インピーダンス効果素子およびソレノイド型のバイアスコイル、負帰還コイルを集積したセンサが提案されている。また、特許文献6,7には、平面スパイラルコイルにてバイアスコイル(ピックアップコイル)を形成している。
【特許文献1】特許第3210933号公報
【特許文献2】特許第3650575号公報
【特許文献3】特許第3656018号公報
【特許文献4】特許第2617498号公報
【特許文献5】特開平11−109006号公報
【特許文献6】特開2003−163391号公報
【特許文献7】特開2006−201123号公報
【非特許文献1】「マイクロめっき法により作製した薄膜MIセンサ」、電気学会、マグネティクス研究会、資料番号MAG−00−24、2000年、p74−84
【非特許文献2】IEEE Transactions on Magnetics、2003年、第39巻、第1号、第571頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、薄膜プロセスによりソレノイドコイルを形成する場合、下層配線上に絶縁層を介して磁気コアを成膜する必要があるが、下層配線により基板上に凹凸が形成され、この上に磁気コアを形成した場合に磁気特性が劣化することがある。また、構造が複雑であるためコストが高く、上下配線の接続部での導通の信頼性など、信頼性に乏しく、高い歩留まりで作製することが困難である。
【0005】
また、このような問題を解決するために、特許文献6,7等では、平面型スパイラルコイルを磁気コア上に形成している。しかしながら、特許文献6のような構造で、スパイラルコイルをバイアス磁界の印加に使用した場合、コイルからの逆相磁界発生部を避けて軟磁性体膜を成膜する必要があるため、素子のうちで軟磁性体膜の長手方向の長さがこの分だけ短くなり、同一のチップサイズであれば反磁界による感度の低下を招き、同一の感度が必要であればチップサイズを大きくする必要がある。
【0006】
また、特許文献7では、上記の問題を解決するためにスパイラルコイルの中心部に電極を設け、スパイラルコイルの逆相磁界部分の軟磁性体膜に電流を通電しないものとしている。しかしながら、この構造を用いると、通電した高周波電流の一部が、軟磁性体膜において電極より外側の部分に漏れ出すため、電流のロスが発生し、通電効率が悪く、感度の低下や消費電力の増大を招く。
【0007】
また、平面型渦巻きコイルを用いた場合、基板内でバイアス磁界発生に寄与しない部分の面積が大きいため、この部分を避けると通電部の形成できる領域が限られるため、形状異方性による感度の調整が困難であるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、反磁界による感度の低下を避けるとともに、電流の漏れによる感度の低下や消費電力の増大を抑制することが可能な磁気検出素子およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、非磁性基板上に形成され、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部と、前記通電部の端部に形成され、前記通電部への通電を行うための電極と、前記非磁性基板上に形成され、前記通電部の長手方向において前記通電部の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部と、前記通電部および集磁部を覆うように前記非磁性基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成され、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイルとを備え、前記通電部は、前記2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部と他方のコイルの中心部との間の領域において、前記通電部の一端が前記一方のコイルの中心部に近接するとともに前記通電部の他端が前記他方のコイルの中心部に近接して位置しており、前記通電部と前記集磁部との間がギャップにより電気的に絶縁されていることを特徴とする磁気検出素子を提供する。
【0010】
本発明の磁気検出素子においては、前記集磁部は、その幅が前記通電部の幅よりも広く、かつ、前記通電部の端部に近い側から外側に向かって幅が広くなっている形状であることが好ましい。
前記通電部と前記集磁部との間のギャップの大きさは、5〜50μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、非磁性基板上に、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部および前記通電部の長手方向において前記通電部の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部を、通電部と集磁部との間が電気的に絶縁されたギャップを介して形成する工程と、前記通電部に、回転磁場中の熱処理とそれに引き続く静磁場中の熱処理とを行って、前記通電部の幅方向に一軸異方性を付与する工程と、前記通電部の端部に、前記通電部への通電を行うための電極を形成する工程と、前記通電部および集磁部を覆うように絶縁層を前記非磁性基板上に形成する工程と、前記絶縁層上に、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイルを形成する工程とを有する磁気検出素子の製造方法であって、前記2つの渦巻状のコイルは、前記通電部が、前記2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部と他方のコイルの中心部との間の領域において、前記通電部の一端が前記一方のコイルの中心部に近接するとともに前記通電部の他端が前記他方のコイルの中心部に近接して位置しているものとすることを特徴とする磁気検出素子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁界を検出するための軟磁性体膜からなる通電部が、2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部と他方のコイルの中心部との間の領域に配置されているので、これらのコイルからバイアス磁界を印加することができる。そのとき、通電部の長手方向の端部が、それぞれ渦巻状のコイルの中心部に近接して位置しているので、コイルに発生する逆相の磁界の影響を抑制することができる。また、通電部の長手方向の外側には、軟磁性体膜からなる集磁部が設けられているので、コイルの中心部より外側の部分に発生する磁界の集磁構造として働くため、反磁界を小さくすることができる。また、集磁部と通電部との間がギャップを介して電気的に絶縁されているので、通電部に通電した電流またはその一部が集磁部に漏れ出すことがなく、電流のロスを抑制することができる。これにより、感度の低下や消費電力の増大を回避して、磁気検出素子の感度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。図1〜3に、本発明の磁気検出素子の第1形態例を示す。ここで、図1においては、軟磁性体膜からなる通電部および集磁部は、絶縁層の下に隠れて位置するため、これら軟磁性体膜が設けられる位置を一点鎖線にて表示した。図2は、図1に示す磁気検出素子の断面図であり、通電部の長手方向に沿う断面を表すものである。図3においては、非磁性基板上の通電部および集磁部の配置を説明するため、非磁性基板上に通電部および集磁部が設けられた状態の平面図として表した。
【0014】
図1〜図3に示す本形態例の磁気検出素子10は、非磁性基板10a(図2参照)上に形成され、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部11と、通電部11の端部に形成され、通電部11への通電を行うための接続パッド13a、配線13bおよび電極パッド13cと、非磁性基板10a上に形成され、通電部11の長手方向において通電部11の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部12と、通電部11および集磁部12を覆うように非磁性基板10a上に形成された絶縁層10b(図2参照)と、絶縁層10b上に形成され、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイル15a,15bを備えている。非磁性基板10aは、シリコン(Si)、ガラス、セラミックなどの非磁性材料から構成することができる。
【0015】
本形態例の場合、2つのコイル15a,15bを直列接続する接続部15cは、各コイル15a,15bの外周側の端部同士に接続されており、2つのコイル15a,15bと接続部15cとが、絶縁層10b上に形成された1層の導体層15から構成されている。この導体層15は、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の良導体金属の薄膜から構成することができる。
【0016】
これらコイル15a,15bは、電流を通じることで磁界を発生するものである。そこでこれらコイル15a,15bに通電するため、各コイル15a,15bの内周側の端部に接続された配線17a,17bおよびこの配線17a,17bのコイル15a,15b側とは反対側の端部に設けられた電極パッド17c,17dが設けられている。配線17a,17bおよび電極パッド17c,17dは、図3に示すように非磁性基板10a上に形成されており、コイル15a,15bの内周側の端部において絶縁層10bを貫通して相互に導通されている。配線17a,17bおよび電極パッド17c,17dは、例えば銅(Cu)、アルミニウム等の良導体金属の薄膜から構成することができる。
【0017】
なお、本形態例においては、絶縁層10bが電極パッド17c,17dの少なくとも一部を露出する開口部を設け、電極パッド17c,17d上に半田バンプなどを形成して外部との導通を確保することができる。このほか、コイル15a、15bの外側において配線17a,17bが途中で絶縁層10bを貫通する部分を設け、電極パッド17c,17dを絶縁層10bの上に形成しても良い。
【0018】
本形態例の磁気検出素子10において、通電部11は、2つの渦巻状のコイル15a,15bのそれぞれの中心部16a,16bの間の領域、すなわち、一方のコイル15aの中心部16aと他方のコイル15bの中心部16bとの間の領域において、通電部11の一端が一方のコイル15aの中心部16aに近接して位置しているとともに通電部11の他端が他方のコイル15bの中心部16bに近接して位置している。これにより、上述した2つのコイル15a,15bから発生する磁界を、バイアス磁界として通電部11に印加することができる。
【0019】
また、本形態例においては、通電部11と集磁部12との間がギャップ14により電気的に絶縁されている。これにより、通電部11に通電した電流またはその一部が、集磁部12に漏れ出すことがなく、電流のロスが発生することがない。このため、感度の低下や消費電力の増大を回避することができる。通電部11と集磁部12との間のギャップ14の大きさは、例えば5〜50μmとすることができる。また、通電部11がコイルに発生する逆相の影響を受けることがない。
【0020】
なお、図1、図2に示す例では、通電部11を中心としたときに、通電部11の長手方向(図1、図2の左右方向)において、渦巻状のコイル15a,15bの中心部16a,16bが、通電部11の端部よりも外側に位置し、さらに集磁部12が、渦巻状のコイルの中心部16a,16bよりも外側に位置している。すなわち、磁気検出素子10の平面視(図1参照)において、通電部11は、一方のコイル15aの中心部16aと他方のコイル15bの中心部16bとの間の領域にのみ位置しており、通電部11のいずれの端部も、コイルの中心部16a,16bの領域に位置していないものとされている。
なお、本発明においては、通電部11と集磁部12との間がギャップ14により電気的に絶縁されているのであれば、通電部11の端部が、渦巻状のコイル15a,15bの中心部16a,16bの中に位置していてもよく、あるいは、集磁部12の通電部11側の端部が、渦巻状のコイル15a,15bの中心部16a,16bの中に位置していてもよい。
【0021】
本発明の構造を、特許文献7の図1および図2に記載された従来構造と比較すると、従来構造においては、電極から磁性体に流入する電流の一部は、通電部の外側に漏れ出しており、この分は磁気検出素子において有効な通電電流として寄与しないため、通電効率が低下する。これに対して、本発明の構造においては、通電部11のそれぞれの端部からギャップ14を介して集磁部12を設け、通電部の両端に電極を設置して通電すると、通電部端での電流のロスが無く、通電部において均一な電流分布が得られる。すなわち、本発明によれば、非通電部に電流が漏れることがないため、通電部のみを効率的に励磁することが可能となり、かつ集磁部の形状の自由度が向上するため、形状異方性を利用した磁気検出素子の特性の調整が容易である。
【0022】
また、特許文献7の図12に記載された従来構造と比較すると、この従来構造では、通電部11の長手方向における端部に発生する反磁界により感度の低下を伴う問題があった。これに対して、本形態例の磁気検出素子10によれば、透磁率の高い軟磁性体から集磁部12が通電部11の長手方向外側に設けられているので、バイアス磁界に寄与しないコイル15a,15bの中心部16a,16bより外側の部分に発生する磁界の集磁構造として働くため、通電部11の形状による反磁界を小さくすることができる。このため、平面渦巻きコイルを用いた場合に、基板内でバイアス磁界発生に寄与しないコイル中心部より外側の部分の面積が大きく、その部分を避けると通電部の形成できる領域が限られている場合であっても、軟磁性体膜の形状異方性による感度の調整が可能となり、磁気検出素子10の感度を高めることができる。
【0023】
絶縁層10bは、コイル15a,15bを構成する導体層15と、通電部11および集磁部12を構成する軟磁性体膜との間を電気的に絶縁するため、非磁性の絶縁体からなる。絶縁体としては、感光性ポリイミドなどの絶縁性樹脂のほか、SiOやAl等の金属酸化物、SiやAlN等の金属窒化物等が挙げられる。
【0024】
通電部11は、長方形状の軟磁性体膜に一軸異方性を付与したものである。本形態例の場合、一軸異方性の方向は、軟磁性体膜の幅方向(図1、図3の上下方向)である。この軟磁性体膜を構成する軟磁性体としては、一軸異方性を付与できるものであれば特に限定されないが、例えばCo85Nb12Zrが挙げられる。集磁部12となる軟磁性体膜は、通電部11と同様の軟磁性体から構成することができる。集磁部12には、通電部11と同じ方向に一軸異方性が付与されている。
【0025】
通電部11は、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜から構成される。本形態例においては、図3に示すように、長方形状の軟磁性体膜が複数個、長手方向を互いに平行にして配置され、隣接する軟磁性体膜をその端部同士でつづら折り形状になるように導体層(接続パッド)13aを介して、幅方向に電気的に接続したものである。また、複数の軟磁性体膜を直列に接続した両端には、外部と導通するための配線13bおよび電極パッド13cが設けられている。接続パッド13a、配線13bおよび電極パッド13cは、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の良導体金属から構成することができる。また、接続パッド13aを軟磁性体膜から構成しても良く、その場合に、通電部11と接続パッド13aとを一括して形成しても良い。
【0026】
以上説明したように、本形態例の磁気検出素子10によれば、磁界を検出するための軟磁性体膜からなる通電部11が、2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイル15aの中心部16aと他方のコイル15bの中心部16bとの間の領域に配置されているので、これらのコイル15a,15bからバイアス磁界を印加することができる。そのとき、通電部11の長手方向において、通電部11の端部が、渦巻状のコイル15a,15bの中心部16a,16bに近接して位置しているので、コイル15a,15bに発生する逆相の磁界の影響を抑制することができる。また、通電部11の長手方向の外側には、軟磁性体膜からなる集磁部12が設けられているので、コイル15a,15bの中心部16a,16bより外側の部分に発生する磁界の集磁構造として働くため、反磁界を小さくすることができる。また、通電部11と集磁部12との間がギャップ14を介して電気的に絶縁されているので、通電部11に通電した電流またはその一部が集磁部12に漏れ出すことがなく、電流のロスを抑制することができる。これにより、感度の低下や消費電力の増大を回避して、磁気検出素子10の感度を高めることができる。
【0027】
上述した第1形態例の磁気検出素子10においては、集磁部12は、通電部11の長手方向の延長上に、通電部11を構成する軟磁性体膜と略同一の幅の長方形状とし、かつ集磁部12の長手方向で一様な幅として形成されているが、本発明は特にこの態様に限定されるものではなく、発明の効果を損ねない範囲で種々の改変が可能である。例えば、集磁部12における逆相磁界の集磁作用を制御するため、集磁部12の形状を種々の形状とすることができる。
【0028】
図4〜図6に示す磁気検出素子20,30,40は、集磁部22,32,42のほかの形状例である。これらの磁気検出素子20,30,40においても、第1形態例と同様に、通電部21,31,41は、2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイル25a,35a,45aの中心部26a,36a,46aと他方のコイル25b,35b,45bの中心部26b,36b,46bとの間の領域において、通電部21,31,41の一端が一方のコイルの中心部26a,36a,46aに近接するとともに通電部21,31,41の他端が前記他方のコイルの中心部26b,36b,46bに近接して位置しており、通電部21,31,41と集磁部22,32,42との間がギャップ24,34,44により電気的に絶縁されているものとされている。これにより、第1形態例と同様に、コイルに発生する逆相の磁界の影響と軟磁性体膜の内部の反磁界を小さくして感度を高めることができる上、電流のロスを抑制することができる。
【0029】
図4〜図6に示す磁気検出素子20,30,40においては、集磁部22,32,42は、その幅が通電部21,31,41の幅よりも広く、かつ、通電部21,31,41の端部に近い側から外側に向かって幅が広くなっている形状である。ここで、集磁部22,32,42の通電部21,31,41に近い側における幅とは、集磁部22,32,42の通電部に近い側の端部22a,32a,42aにおいて集磁部22,32,42を構成する軟磁性体膜が存在する最大の幅をいい、集磁部22,32,42の外側における幅とは、集磁部22,32,42の外側の端部22b,32b,42bにおいて、集磁部22,32,42を構成する軟磁性体膜が存在する最大の幅をいう。また、集磁部22,32,42の幅が通電部21,31,41の幅よりも広い、とは、集磁部22,32,42における最小の幅寸法が通電部21,31,41の幅よりも大きいことをいう。なお、幅とは、通電部21,31,41の幅方向(図4〜図6の上下方向)に沿う寸法をいい、集磁部22,32,42の内部に軟磁性体膜が存在しない部分が存在している場合には、当該軟磁性体膜が存在しない部分の幅を含むものとする。軟磁性体膜が存在しない部分とは、図6に示すように、通電部21,31,41の外側に通じているスリット状の空間42cであってもよく、あるいは、周囲が通電部21,31,41を構成する軟磁性体膜に囲まれた閉じた空間であっても良い。
通電部21,31,41と集磁部22,32,42との間のギャップ24,34,44の大きさは、例えば5〜50μmとすることができる。
【0030】
次に、上述の磁気検出素子の製造方法の一例について説明する。
まず、シリコンやガラスなどからなる非磁性基板(図2では符号10a)の上に、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部11,21,31,41および前記通電部11,21,31,41の長手方向において前記通電部の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部12,22,32,42を、通電部と集磁部との間が電気的に絶縁されたギャップ14,24,34,44を介して形成する。軟磁性体膜を形成する方法としては、例えばフォトリソグラフィーによりレジストパターンを非磁性基板上に形成し、軟磁性金属のスパッタリング等によって軟磁性体膜を成膜したのち、レジストを除去してリフトオフによりパターニングする方法が挙げられる。あるいは、軟磁性体膜をスパッタリングにより成膜した上に、フォトレジストにより、所望の形状のレジストパターンを形成したのち、ウエットエッチングまたはドライエッチングにより軟磁性体膜をエッチングして所望の形状の軟磁性体膜を形成するようにしても良い。軟磁性体膜の厚さは、例えば1〜5μmとすることができる。本発明においては、通電部11,21,31,41を構成する軟磁性体膜と、集磁部12,22,32,42を構成する軟磁性体膜とを別々の工程で形成することもできるが、一括して形成することが好ましい。
【0031】
次に、軟磁性体膜に対して、通電部11,21,31,41の幅方向に沿う一軸異方性を付与する。一軸異方性の付与方法としては、例えば400℃、3kGの回転磁場中熱処理およびそれに引き続いて400℃、3kGの静磁場中熱処理を行う方法が挙げられる。回転磁場中熱処理では、成膜中に軟磁性体膜に導入された不均一な異方性を緩和することができ、静磁場中熱処理では、軟磁性体膜に印加した磁界の方向に一軸異方性を付与することができる。これにより、一軸異方性が付与された軟磁性体膜からなる通電部11,21,31,41が得られる。このとき、集磁部12,22,32,42となる軟磁性体膜にも同様の一軸異方性が付与されるが、集磁部は電流が通電される部分ではないので、一軸異方性の付与の有無にかかわらず、集磁部としての働きをする。
【0032】
次に、通電部11,21,31,41の両端に設けられる接続パッド13a,23a,33a,43a、配線13b,23b,33b,43bおよび電極パッド13c,23c,33c,43cを導体層により形成する。また、上述の第1から第4の形態例の場合は、コイルのアンダーパス(一方のコイル15a,25a,35a,45aの端部に接続される配線17a,27a,37a,47aおよび電極パッド17c,27c,37c,47cと、他方のコイル15b,25b,35b,45bの端部に接続される配線17b,27b,37b,47bおよび電極パッド17d,27d,37d,47d)についても、この工程において一緒に形成することができる。
【0033】
これら導体層パターンを形成する方法としては、Cr,Ti,TiW等を密着層としたCuシード層をスパッタ等により成膜し、得られた導体層(シード層)の上にフォトリソグラフィーによりレジストフレームを設けた後、レジスト未形成領域へのCuの電解めっきと、ウエットエッチングによるシード層の除去を行うことにより、導体層をパターニングする方法が挙げられる。あるいは、Al,Cu,Au等の良導体をスパッタリングにより成膜した上に、フォトレジストにより、所望の形状のレジストパターンを形成したのち、ウエットエッチングまたはドライエッチングにより良導体層をエッチングして所望の形状の良導体層を形成するようにしても良い。
なお、通電部が1個の軟磁性体膜からなる場合には、複数の軟磁性体膜の間を導通して直列接続するための接続用パッドを省略できる。
【0034】
次に、通電部11,21,31,41および集磁部12,22,32,42を覆うように絶縁層(図2では符号10b)を非磁性基板上に形成する。絶縁層を感光性ポリイミドから作製する場合には、感光性ポリイミドの前駆体を塗布したのち、通電部を接続するための電極と外部とのコンタクト部、および、後に形成される2つの渦巻きコイルの端子とアンダーパスとを接続するための開口部をフォトリソグラフィーにより形成する。続いて、感光性ポリイミドを硬化させるための熱処理を施す。このとき、軟磁性体膜に付与した一軸異方性がポリイミドを硬化させるための熱処理およびポリイミドの熱処理時に加わる応力により乱れるのを防ぐために、静磁場中にて熱処理を行う。
【0035】
次に、絶縁層上に、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイルを有する導体層15,25,35,45を形成する。コイルとなる導体層を形成する方法としては、Cr,Ti,TiW等を密着層としたCuシード層をスパッタ等により成膜し、得られた導体層(シード層)の上にフォトリソグラフィーによりレジストフレームを設けた後、レジスト未形成領域へのCuの電解めっきと、ウエットエッチングによるシード層の除去を行うことにより、導体層をパターニングする方法が挙げられる。
【0036】
本発明の磁気検出素子の製造方法においては、通電部11,21,31,41が、2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部16a,26a,36a,46aと他方のコイルの中心部16b,26b,36b,46bとの間の領域において、通電部の一端が一方のコイルの中心部に近接するとともに通電部の他端が他方のコイルの中心部に近接して位置するものとする。これにより、上述した本発明の磁気検出素子を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の磁気検出素子は、軟磁性体膜からなる通電部に高周波電流またはパルス電流を通電し、長手方向の磁界の印加に対する幅方向の透磁率の変化を検出する磁気インピーダンスセンサや直交フラックスゲートセンサとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の磁気検出素子の第1形態例を示す平面図である。
【図2】図1に示す磁気検出素子の通電部長手方向に沿う断面図である。
【図3】図1に示す磁気検出素子における非磁性基板上の通電部および集磁部の配置を示す説明図である。
【図4】本発明の磁気検出素子の第2形態例を示す平面図である。
【図5】本発明の磁気検出素子の第3形態例を示す平面図である。
【図6】本発明の磁気検出素子の第4形態例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0039】
10,20,30,40…磁気検出素子、10a…非磁性基板、10b…絶縁層、11,21,31,41…通電部、12,22,32,42…集磁部、22a,32a,42a…集磁部の通電部に近い側の端部、22b,32b,42b…集磁部の外側の端部、42c…スリット状の空間、13a,23a,33a,43a…通電部用の接続パッド、13b,23b,33b,43b…通電部用の配線、13c,23c,33c,43c…通電部用の電極パッド、14,24,34,44…ギャップ、15,25,35,45…コイル形成用導体層、15a,25a,35a,45a…一方のコイル、15b,25b,35b,45b…他方のコイル、15c,25c,35c,45c…コイル間の接続部、16a,26a,36a,46a…一方のコイルの中心部、16b,26b,36b,46a…他方のコイルの中心部、17a,27a,37a,47a…一方のコイル側の配線、17b,27b,37b,47b…他方のコイル側の配線、17c,27c,37c,47c…一方のコイル側の電極パッド、17d,27d,37d,47d…他方のコイル側の電極パッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に形成され、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部と、前記通電部の端部に形成され、前記通電部への通電を行うための電極と、前記非磁性基板上に形成され、前記通電部の長手方向において前記通電部の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部と、前記通電部および集磁部を覆うように前記非磁性基板上に形成された絶縁層と、前記絶縁層上に形成され、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイルとを備え、
前記通電部は、前記2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部と他方のコイルの中心部との間の領域において、前記通電部の一端が前記一方のコイルの中心部に近接するとともに前記通電部の他端が前記他方のコイルの中心部に近接して位置しており、
前記通電部と前記集磁部との間がギャップにより電気的に絶縁されていることを特徴とする磁気検出素子。
【請求項2】
前記集磁部は、その幅が前記通電部の幅よりも広く、かつ、前記通電部の端部に近い側から外側に向かって幅が広くなっている形状であることを特徴とする請求項1に記載の磁気検出素子。
【請求項3】
前記通電部と前記集磁部との間のギャップの大きさは、5〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気検出素子。
【請求項4】
非磁性基板上に、一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる通電部および前記通電部の長手方向において前記通電部の各端部よりも外側に位置する軟磁性体膜からなる集磁部を、通電部と集磁部との間が電気的に絶縁されたギャップを介して形成する工程と、
前記通電部に、回転磁場中の熱処理とそれに引き続く静磁場中の熱処理とを行って、前記通電部の幅方向に一軸異方性を付与する工程と、
前記通電部の端部に、前記通電部への通電を行うための電極を形成する工程と、
前記通電部および集磁部を覆うように絶縁層を前記非磁性基板上に形成する工程と、
前記絶縁層上に、巻き方向が逆向きで直列に接続された2つの渦巻状のコイルを形成する工程とを有する磁気検出素子の製造方法であって、
前記2つの渦巻状のコイルは、前記通電部が、前記2つの渦巻状のコイルのうちの一方のコイルの中心部と他方のコイルの中心部との間の領域において、前記通電部の一端が前記一方のコイルの中心部に近接するとともに前記通電部の他端が前記他方のコイルの中心部に近接して位置しているものとすることを特徴とする磁気検出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−14603(P2009−14603A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178410(P2007−178410)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】