説明

磁気歯車およびその製造方法

【課題】量産性に優れた磁気歯車の製造方法及び磁気歯車を提供する。
【解決手段】磁気歯車は、周方向において弱磁性部10a’及び強磁性部10b’が交互に連なるリング状の薄板を備え、前記強磁性部10b’は内周側のみに突出して凸部を10b’有しており、前記弱磁性部10a’は非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、前記強磁性部同士は周方向における間隔が一定であり、前記強磁性部10b’において、外周側の端及び内周側の端は一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式の増速ギア又は減速ギアに用いられる磁気歯車、及び磁気歯車の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のために風力発電が注目されている。風力発電機は風車羽の回転数が商用周波数のそれと異なり、直接は電力系統に接続できない。又、風車に接続されている発電機の回転数を上げることにより発電機の小型軽量化を図る等の目的で風車と発電機の間に機械式の増速ギアを挿入することが多い。
【0003】
商用の風力発電機は発電機本体が地上数十メートルの位置に設置してあり、増速ギアを保守するには多大な労力が必要となる。又、この増速ギアは風車による大きなトルクを伝達する必要があるため、磨耗等の問題が発生しやすい。又、機械式の増速ギアが回転することにより騒音の発生が懸念されており、風力発電機立地の制約の一つともなっている。これらの問題点をふまえ、非接触式の歯車の利用が検討されている。
【0004】
上記の機械式増速ギアの非接触化の一つのタイプとして磁気式のギアが提案されている。以下、磁気歯車と呼ぶ。磁気歯車には、例えば英国シェフィールド大学(Sheffield Univ. Prof.Howe)が研究開発を進めているタイプがある(非特許文献1参照)。
【0005】
図10に非特許文献1の磁気歯車の模式的な断面図を示す。この形式の磁気歯車は、アウターローター及びインナーローターに相当する磁極ピッチの異なる磁極列111,112が対向して設けられており、対向する磁極列の間にステーターに相当する強磁性部材列110が配置されている。強磁性部材列110のピッチは、対向する磁極列111,112のいずれのピッチとも異なる。強磁性部材列110を仮に中間ヨークと呼ぶ。この中間ヨークを固定し、一方の磁極列を中間ヨークに対して移動或いは回転させることにより、他方の磁極列が異なる速度或いは回転数で移動或いは回転するものである。この構成での磁気歯車は回転歯車においては磁極列同士を同心円状に配置することも、軸方向に隔てられて配置することも可能である。又、磁極列同士を直線状に配置して、いわゆるリニア駆動歯車としても配置可能である。
【0006】
なお、中間ヨークを固定した場合を上述したが、中間ヨークを回転させることによって双方の磁極列の相対回転或いは移動速度を制御することも可能である。又、一方の磁極列を固定することで、他方の磁極列と中間ヨークとを回転体或いは移動体として用いることも可能である。
【0007】
他の磁気歯車の形式として、例えば大阪大学(平田教授)が研究開発を進めているタイプがある(非特許文献2参照)。図11にその概要を示す。この形式は、同一ピッチの歯車状の2つのヨークの間に永久磁石を挟みこんだ形式の回転子(仮に歯車回転子と呼ぶ。)と、円の両端を切断した形のヨークの間に永久磁石を挟みこんだ形式の回転子(仮にカム状回転子と呼ぶ。)が同心状に設置されており、双方の回転子の間に強磁性部材の列(仮に中間ヨークと呼ぶ。)が前記歯車回転子とは異なるピッチで配置されている。この磁気歯車では、カム状回転子が一回転すると中間ヨークのピッチと歯車回転子のピッチによって計算される回転数で歯車回転子が回転する。
【0008】
これらの磁気歯車はいずれも非接触式であり、風力発電機における機械式歯車の問題点を解決されるものと期待している。又、応用分野は風力発電機に限らず一般の可動機器における非接触式回転数変換機構として広く適用することが考えられる。
【0009】
特許文献1には、複合磁性材を局部的に弱磁性化してモータに用いることが開示されているが、磁気歯車は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−281737号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】K.Atallah、「Design,analysys and realisation of a high−performance magnetic gear」、IEE Proc.−Electr.Power Appl.、Vol.151,No.2,March 2004、p.135−143。
【非特許文献2】村松雅理、「新構造磁気伝達減速機構の提案」、電気学会 リニアドライブ研究会資料、LD−08−64、2008年10月31日発表、p.73−78。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これらの中間ヨークは、非磁性体を介して、複数個の柱状の強磁性体を配列してなり、円筒状の部材として構成される。又、磁気歯車は、大きな交番磁束が印加されると、中間ヨーク内部で渦電流が発生するため、薄板材の積層体として形成されることが望ましい。
【0013】
非特許文献1には、次のような製造工程が示唆されていると考えられる。すなわち、薄い珪素鋼板を加工することにより、図12に示すように、強磁性の凸部310bと前記凸部を繋ぐ細い強磁性の細幅部310aとで構成される強磁性リング310’を得る。ついで、前記凸部310bの中央には貫通孔を形成しておく。同じ形状の強磁性リングを複数個作製したら、所定の高さとなるように、多段に積層する。得られた積層体は、前記凸部310bが連なって柱状となり、凸部同士の間が溝と成るように積層されている。別途、この溝に嵌る形状の弱磁性柱(非磁性柱)312を複数個作製しておく。弱磁性柱312の端面には貫通孔を形成する。ついで、前記積層体の各溝に弱磁性柱312を挿入し、挿入前に塗布していた接着剤により一体の円筒状部材310とする。さらに、前記円筒状部材310を1対の固定リング320で挟む。各固定リング320には、前記凸部及び弱磁性柱の各々の貫通孔と一致するように、多数の貫通孔321が形成されている。下方の固定リングの貫通孔内にはネジがきってあり、ボルトを締結できる。固定リング/円筒状部材/固定リングの順で3段に重ね、ボルト340を上の固定リングの貫通孔に通し、下の固定リングで固定することにより、複合積層体300を得る。この複合積層体300について、固定する前の分解斜視図を図13に示し、固定した後の斜視図を図14に示す。固定リング320の外径は、細幅部310aの内周の曲率半径よりも小さい。最後に、複合積層体の外周面を切削加工して、前記細幅部の1周分を切除することにより、隣り合う強磁性の凸部310b同士は分離されて各々が強磁性柱となり、中間ヨークを得る。
【0014】
中間ヨークを精密に機能させるためには、前記強磁性柱は周方向に沿って一定間隔で配置される必要がある。磁気回路として磁極列から中間ヨークを見たときに、強磁性柱同士に挟まれた部分は磁気抵抗を備える。この磁気抵抗の大きさは、強磁性柱の間隔が一定であれば、ばらつかない。しかし、強磁性柱の間隔に差があると磁気抵抗の大きさにばらつきが生じ、磁気歯車の特性に大きく影響する。もし、非特許文献1に係る強磁性の凸部310b同士の間に、細いとは言え強磁性の細幅部310aが残されたままになっていると、磁極列間の磁気抵抗を大きく低下させることになり、好ましくない。そのために非特許文献1では凸部間の細幅部を切除している。しかし、非特許文献1の中間ヨークを形成する為には、非磁性柱の加工、組立、切削を経るので多大な工数が必要となり、工業的に大量生産を行うには必ずしも効率がよいとは言えない。
【0015】
そこで、本発明は量産性に優れた磁気歯車の製造方法および磁気歯車を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の磁気歯車は、周方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なるリング状の薄板を備え、
前記強磁性部は、内周側のみに突出している凸部を有しており、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向における間隔が一定であり、
前記強磁性部において、外周側の端及び内周側の端は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする。
【0017】
本発明の他の磁気歯車は、周方向において強磁性部及び弱磁性部が交互に連なるリング状の薄板を備え、
前記強磁性部及び弱磁性部は、径方向の幅が一定のリングを為しており、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向におけるピッチが一定であり、
前記強磁性部において、外周側の端及び内周側の端は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする。
弱磁性部と強磁性部の境界は見た目の色合いの違いでも判別できる。前記ピッチは隣合う強磁性部の中心同士の周方向における周期に相当する。
【0018】
前記リング状の薄板は、弱磁性部或いは強磁性部が一致するように多数枚積層して積層体を為していることが好ましい。積層体は、カシメ或いはボルトで相互に固定されていてもよいし、非磁性樹脂のモールドによって一体に固定されていてもよい。
【0019】
弱磁性部は、例えば、フェライトを主体とする金属組織を非溶融で内部から加熱変態させてなる、オーステナイトを主体とする金属組織である。加熱変態させる前の素材としては、Fe−Cr−C系合金を基本組成として2相を有しうる合金を使用する。この合金には、更に、Si、Mn、Ni又はAlが含有されてもよい。例えば、YEP−FA1(日立金属社製)を用いる。或いは、ステンレス鋼として、強磁性母相部の局部に形成された非磁性部の低温安定性が−40℃程度までの素材(例えば、SUS420J2、SUS403等のマルテンサイト系ステンレス鋼)、炭素を主体にして低温安定性を増加させた素材(例えば、SUS440Aに近い組成の合金鋼)、オーステナイト安定化元素として炭素を増やす代わりにニッケルを増加させた素材、及び、非磁性部となったときの低温安定性を重視して炭素及びニッケルの含有量を大幅に増した素材のいずれかを使用してもよい。なお、素材に弱磁性部を形成した後、強磁性部の飽和磁化量は1.2T以上とし、弱磁性部の飽和磁化量は0.5T以下とすることが望ましい。弱磁性部は比透磁率μ≦2であるが好ましい。
【0020】
本発明の磁気歯車の製造方法は、
内周側のみに突出する凸部と前記凸部より径方向幅の小さい細幅部が交互に一定の周期で連なるリング状の強磁性薄板と、主として径が一定のリング状に形成されている高周波加熱コイルとの少なくとも一方を、軸線に沿って相対的に移動させ、
前記高周波加熱コイルからの磁束を前記リング状強磁性体に鎖交させて、前記細幅部を非溶融で内部から加熱変態させることにより、オーステナイトを主体とする金属組織に前記細幅部を変態させることを特徴とする。
前記高周波加熱コイルは、引出し線に相当する支持部を除いて、径がほぼ一定のリング状に形成されている。
【0021】
本発明の他の磁気歯車の製造方法は、
径方向幅が一定であるリング状の強磁性薄板と、径方向において矩形状に一定の周期で屈曲している高周波加熱コイルとの少なくとも一方を、軸線に沿って相対的に移動させ、
前記高周波加熱コイルからの磁束を、前記リング状強磁性体のうち前記高周波加熱コイルに近接する近接部に鎖交させて、前記近接部を非溶融で内部から加熱変態させることにより、オーステナイトを主体とする金属組織に前記近傍部を変態させることを特徴とする。
さらに、前記高周波加熱コイルは、同軸に配置する2つの高周波加熱コイルで構成することもできる。1つ目の高周波加熱コイルはリング状の強磁性板の内周側に近接させるものであり、2つ目の高周波加熱コイルはリング状の強磁性板の外周側に近接させるものである。
【0022】
本発明によれば、歯車の径方向に空隙(磁気ギャップ)を有する増速ギア適用するための磁気歯車に限らず、歯車の軸方向に空隙を有する増速ギアに適用するための磁気歯車も提供できる。直動運動を行うリニアタイプの磁気歯車についても応用できる。
【0023】
本発明の他の磁気歯車は、直線方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なる櫛歯状の薄板を備え、
前記櫛歯状の薄板は、直線状の第1の辺と、前記強磁性部が突出して凸部を為している第2の辺とを有し、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は直線方向における間隔が一定であり、
前記強磁性部において、第1の辺及び第2の辺は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする。
【0024】
本発明の他の磁気歯車は、直線方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なる帯状の薄板を備え、
前記帯状の薄板は平行な2つの辺を有し、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向におけるピッチが一定であり、
前記強磁性部において、前記2つの辺は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする。
弱磁性部と強磁性部の境界は見た目の色合いの違いでも判別できる。前記ピッチは隣合う強磁性部の中心同士の周方向における周期に相当する。
【0025】
前記櫛歯状の薄板又は帯状の薄板は、強磁性部或いは弱磁性部が一致するように多数枚積層して積層体を為していることが好ましい。積層体は、カシメ或いはボルトで相互に固定されていてもよいし、非磁性樹脂のモールドによって一体に固定されていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、量産性に優れた磁気歯車の製造方法及び磁気歯車を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施形態1に係る上面図である。
【図2】実施形態1の概略を示す斜視図である。
【図3】実施形態1に係る複合ヨークの上面図である。
【図4】実施形態4に係る上面図である。
【図5】実施形態4の概略を示す斜視図である。
【図6】実施形態5に係る上面図である。
【図7】実施形態6の概略を示す斜視図である。
【図8】実施形態7の概略を示す上面図である。
【図9】実施形態8の概略を示す上面図である。
【図10】非特許文献1に係る模式的な断面図である。
【図11】非特許文献2に係る模式的な斜視図である。
【図12】非特許文献1に係る強磁性リングの上面図である。
【図13】非特許文献1に係る複合積層体の分解斜視図である。
【図14】非特許文献1に係る複合積層体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、これら実施形態により本発明が必ずしも限定されるものではない。
【0029】
(実施形態1)
ステンレス鋼薄板(YEP−FA1)を加工して、強磁性細幅部10a’を介して強磁性凸部10b’が等間隔で連なっている強磁性リングを得る。強磁性リングは、図12のものとほぼ同じ形状であり、複数枚作製する。これら強磁性リングを所定の厚みとなるように積層し、数箇所をカシメで固定することにより、強磁性リング積層体10’を得る。前記強磁性細幅部が軸方向(積層方向)で一致するよう積層している。後述する図1〜3ではカシメの図示を省略する。
【0030】
つぎに、図1の上面図に示すように、強磁性リング積層体の最上層の強磁性リングが高周波加熱コイル11に取り囲まれるように配置する。高周波加熱コイルは支持部11c,11dで固定され、動かない。高周波加熱コイルに高周波電流の通電を開始したら、円筒状の強磁性リング積層体の軸線上に高周波加熱コイルの軸線が重なる状態を維持しつつ、円筒状の強磁性リング積層体をその軸線で自転させ、且つ軸線に沿って上方に(図1の紙面に垂直で且つ紙面から出る方向)に移動させる。高周波加熱コイルが強磁性リング積層体の最下層の強磁性リングを取り囲む位置となったら、移動の向きを逆にして、下方に移動させる。高周波加熱コイルの近傍を最上層の強磁性リングが通過したら通電を停止し、ついで強磁性リング積層体の移動と自転を停止して処理を終える。
【0031】
処理直後の様子を図2の斜視図に示す。この処理によって、各々の強磁性リングでは、強磁性細幅部が優先的に加熱処理されて弱磁性部10aに変化し、隣り合う強磁性凸部同士が磁気的に分けられて強磁性部10bになる。結果として、強磁性リング積層体10’は、磁気歯車である複合ヨーク10に成る。太い両矢印は、高周波加熱コイルの移動の向きを表わす。なお、軟磁性リング積層体を載せて上下方向に動かす非磁性の台と移動機構、高周波電流供給装置、及び制御装置は図示を省略する。前記台はその径が強磁性リング積層体の径より小さい円板状であり、強磁性リング積層体の内周側を引っ掛けて嵌めるためのノッチを有する。
【0032】
高周波電流を通電した高周波加熱コイル11に近づいていくと、強磁性リングに磁束が鎖交して渦電流が流される。各々の強磁性リングでは、高周波加熱コイルのコイル面と強磁性リングの面が重なる位置で、強磁性リングに印加される磁束が最大となる。強磁性凸部より径方向の幅が狭い強磁性細幅部に渦電流が集中して流れ、渦電流による自己発熱で選択的に加熱される。強磁性リングの外周に発生する誘起電流の浸透深さP(mm)と、最外周からの弱磁性部の幅Wr(mm)は、Wr≦Pの関係となる。
【0033】
P=1.6×{(ρ×10)/(μr×f)}1/2、 Wr≦1.6×(ρ×10/f)1/2、 ここで、ρ:高周波加熱時の素材の電気抵抗率[μΩ・m]、 μr:高周波加熱時の素材の比透磁率、 f:高周波加熱時の周波数[Hz]、である。
【0034】
その結果、強磁性リングは、同一組成の強磁性部と弱磁性部とが共存するものに変化する。強磁性部はフェライト相及び炭化物相を主体とする金属組織である。弱磁性部は非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイト相を主体とする金属組織である。なお、弱磁性部は非磁性部とも称する。
【0035】
図3に得られた複合ヨーク10の上面図を示す。ハッチングで示した部分は弱磁性部10aである。この複合ヨーク10を分解し、各々の処理後の強磁性リングを調べると、元の強磁性細幅部が弱磁性化されて弱磁性部となっていることがわかる。強磁性部10bが積層された領域では、その外周側の面(凸曲面)及び内周側の面(凹曲面)が、一方が磁束流入面となるとき、他方が磁束流出面となる。すなわち、図10の構造の磁気歯車において、強磁性部材列のステーターを図3の複合ヨーク10に置き換えることで、磁気歯車を得る。細幅の弱磁性部によって強磁性部同士が連結されているリング状の一体物なので、図13の中間ヨークのように弱磁性柱を組み付けることもなく、部品点数が低減される。弱磁性部を切削で除去する工程もなく、製造工程が短縮される。機械的結合或いは接着を多用することなく中間ヨークが形成されることから、信頼性の高い磁気歯車が実現できる。高周波加熱コイルを固定すると共にリング状強磁性体を往復運動で出し入れする方式を採用しており、駆動機構の動作が複雑でなくなり、更に処理時間を短縮できる。工業的量産性に優れている。
【0036】
(実施形態2)
実施形態1の構成において、カシメを設ける代りに3個の貫通孔を強磁性リングに形成し、積層後に3本のボルトで固定し、強磁性リング積層体を作製する。実施例1と同様に、高周波加熱コイルを用いる熱処理を施し、複合ヨークを形成する。形成された複合ヨークを、図10の構造の磁気歯車の強磁性部材列のステーターに置き換えることで、磁気歯車を得る。
【0037】
(実施形態3)
まず、実施形態1と同様の強磁性リングを複数個作製する。
つぎに、高周波加熱コイルと1枚の強磁性リングは、強磁性リングの軸線上に高周波加熱コイルの軸線が重なると共に、軸線方向でずらして配置される。ついで、高周波加熱コイルに通電を開始したら、強磁性リング積層体の軸線上に高周波加熱コイルの軸線が重なる状態を維持しつつ、高周波加熱コイルに対して、非磁性の台に載せた強磁性リングを自転させながら近づける。高周波加熱コイルが取り囲む位置まで強磁性リングを移動させたら、移動の向きを逆にする。高周波加熱コイルの近傍から強磁性リングが離れたら通電を停止し、移動と自転を停止して処理を終える。その結果、強磁性リングでは、細幅部が加熱処理されて弱磁性部に変化し、強磁性の凸部同士は分けられて強磁性部になる。各々の強磁性リングについて同様の加熱処理を行った後に、それらを所定の厚みとなるように積層する。数箇所をカシメで固定し、複合ヨークを形成する。形成された複合ヨークを、図10の構造の磁気歯車の強磁性部材列のステーターに置き換えることで、磁気歯車を得る。
【0038】
(実施形態4)
実施形態1〜3の高周波加熱コイルは、支持部を除いてリング状である。これに代えて、更に選択的に高周波の渦電流を発生させる為に、必要な箇所のみ強磁性リングに接近させるための高周波加熱コイル21を用いる。他の製法の条件は実施形態1と同様にする。図4に示す高周波加熱コイル21の外周側は、歯車の外周形状の如く、屈曲している。曲率半径がRoである長径部21bと曲率半径がRiである短径部21aとが連結部21eを介して交互に連なる。Ro>Riであり、連結部21eは径方向に沿っている。
【0039】
高周波加熱コイル21は、その短径部の周期が強磁性細幅部20a’の周期と同じである。径方向で狭幅の強磁性細幅部20a’に対して、近接する短径部21aの発生する磁束が選択的に印加される。長径部21bは、強磁性リングから距離をおいているため、弱磁性化するほどの鎖交磁束を強磁性凸部20b’に施すには至らない。ただし、電流量を増やして磁束密度を増大させる場合には、強磁性細幅部が優先的に非磁性化され次第、高周波加熱コイル21と各強磁性リングを離隔するのが好ましい。
【0040】
図5の斜視図に加熱処理後の様子を示す。複合ヨーク20は、径方向の幅が細い弱磁性部20aと、弱磁性部20aを介して連なる強磁性部20bを有し、磁気歯車用に構成されている。複合ヨーク20の外周面が、周方向で交互に弱磁性部と強磁性部で構成されているが、弱磁性部と強磁性部の境界(色の違い)の図示は省略する。
【0041】
(実施形態5)
図6には、外径の異なる2つの高周波加熱コイルを用いて、径方向の幅が均一な複合ヨーク30を形成する様子の概略を示す。複合ヨーク30は弱磁性部30aと強磁性部30bが交互に連なっており、強磁性部30bのピッチは均一である。実施形態4の製造方法と異なる点は、径方向幅が均一な強磁性リングを積層した強磁性リング積層体を用いること、及び、加熱処理の際に内周用の高周波加熱コイル32を併用していることである。
【0042】
内周用の高周波加熱コイル32及び外周用の高周波加熱コイル31は、軸線を共有し、コイル面を共有し、一体として軸線の向きに移動可能に支持部で支持されている。軸線は同図中の×印で示す両コイルの中心を通る。内周側用の高周波加熱コイルの長径部32aと外周側用の高周波加熱コイルの短径部31aは、それぞれ、形状の周期が強磁性リングに凸部を形成した周期と同じであり、強磁性リングの弱磁性化したい部位に選択的に磁束を印加する。2つのコイルを用いることで、高周波加熱コイル毎に流す電流量を増大しなくても、弱磁性化したい部位に鎖交する磁束密度を高められる。磁束密度向上で強磁性リングに局部的に流れる渦電流密度も高くなり、短時間で必要な熱量を選択的に付与でき、強磁性リング1枚当たりの加熱処理時間を更に短縮できる。径方向幅が均一な強磁性リング或いは強磁性リング積層体を用いるので、実施形態1〜4に比べると、加工し易く、熱処理後の複合ヨーク10における強度の余裕度も大きい。
【0043】
(実施形態6)
図7の製造方法は、2つの高周波加熱コイルの支持部が延在する向きを、強磁性リング積層体の軸線と平行な向きとしている点でのみ、実施形態5の製造方法と異なる。太い両矢印は、加熱処理の工程で高周波加熱コイルを往復移動させる向きを示す。強磁性部30bが積層された領域では、外周側の面(凸曲面)及び内周側の面(凹曲面)が、一方が磁束流入面となるとき、他方が磁束流出面として機能する。形成された複合ヨークを、図10の構造の磁気歯車の強磁性部材列のステーターに置き換えることで、磁気歯車を得る。
【0044】
(実施形態7)
一方の辺に周期的に凸部を形成した軟磁性の櫛歯状薄板を所定の厚みに積層し、直線に展開した高周波加熱コイル41を並置し、高周波電流を通電することで櫛歯状薄板の積層体の細幅部に加熱処理を施す。凸部は櫛の歯に相当する。図8に示すように、加熱処理の結果、リニアの複合ヨーク40を得る。凸部同士の間にある細幅部では、優先的に渦電流が流されて加熱され、弱磁性部40aとなっている。渦電流が集中されない太幅の凸部は金属組織が変化せず、強磁性部40bとなっている。形成されたリニアの複合ヨークを、対向するリニアの移動子の間に所定のギャップを隔てて配置することにより、リニアの磁気歯車を得る。前記移動子は、それぞれが、基体となる強磁性ヨークと複数の磁石列を有し、リニアに駆動するよう支持されている。
【0045】
(実施形態8)
一定の幅を有する軟磁性の帯状薄板を所定の厚みに積層し、一対の高周波加熱コイル51の間に並置し、高周波電流を通電することで帯状薄板の積層体のうち高周波加熱コイルに近接している部分に加熱処理を施す。高周波加熱コイル51は、実施形態7のコイルを矩形波状に屈曲させた形状である。図9に示すように、加熱処理の結果、リニアの複合ヨーク50を得る。高周波加熱コイルに近い領域では、優先的に渦電流が流されて加熱され、弱磁性部50aとなっている。高周波加熱コイルから離隔している領域では、渦電流が集中されないので金属組織が変化せず、強磁性部50bとなっている。形成されたリニアの複合ヨークを、対向するリニアの移動子の間に所定のギャップを隔てて平行移動可能に配置することにより、リニアの磁気歯車を得る。前記移動子は、それぞれが、基体となる強磁性ヨークと複数の磁石列を有し、リニアに可動となるよう支持されている。
【符号の説明】
【0046】
10:複合ヨーク、10a:弱磁性部、10b:強磁性部、
10’:強磁性リング積層体、
10a’:強磁性細幅部、10b’:強磁性凸部、
11:高周波加熱コイル、11c、11d:支持部、
20:複合ヨーク、20a:弱磁性部、20b:強磁性部、
20’:強磁性リング、20a’:強磁性細幅部、20b’:強磁性凸部、
21:高周波加熱コイル、21a:短径部、21b:長径部、
21c,21d:支持部、21e:連結部、
30:複合ヨーク、30a:弱磁性部、30b:強磁性部、
30f:強磁性部と弱磁性部の境界、
31:高周波加熱コイル、
31a:短径部、31b:長径部、31c,31d:コイル支持部、
32:高周波加熱コイル、
32a:長径部、32b:短径部、32c,32d:コイル支持部、
40:複合ヨーク、40a:弱磁性部、40b:強磁性部、
41:高周波加熱コイル、
50:複合ヨーク、50a:弱磁性部、50b:強磁性部、
51:高周波加熱コイル、
110:ステーター、111:アウターローター、
112:インナーローター、
310’:強磁性リング、310a:細幅部、310b:凸部、
300:複合積層体、
310:円筒状部材、311:強磁性リング、312:弱磁性柱、
320:固定リング、321:貫通孔、
340:ボルト、341:ボルト頭部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なるリング状の薄板を備え、
前記強磁性部は、内周側のみに突出している凸部を有しており、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向における間隔が一定であり、
前記強磁性部において、外周側の端及び内周側の端は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする磁気歯車。
【請求項2】
周方向において強磁性部及び弱磁性部が交互に連なるリング状の薄板を備え、
前記強磁性部及び弱磁性部は、径方向の幅が一定のリングを為しており、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向におけるピッチが一定であり、
前記強磁性部において、外周側の端及び内周側の端は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする磁気歯車。
【請求項3】
内周側のみに突出する凸部と前記凸部より径方向幅の小さい細幅部が交互に一定の周期で連なるリング状の強磁性薄板と、主として径が一定のリング状に形成されている高周波加熱コイルとの少なくとも一方を、軸線に沿って相対的に移動させ、
前記高周波加熱コイルからの磁束を前記リング状強磁性体に鎖交させて、前記細幅部を非溶融で内部から加熱変態させることにより、オーステナイトを主体とする金属組織に前記細幅部を変態させることを特徴とする磁気歯車の製造方法。
【請求項4】
径方向幅が一定であるリング状の強磁性薄板と、径方向において矩形状に一定の周期で屈曲している高周波加熱コイルとの少なくとも一方を、軸線に沿って相対的に移動させ、
前記高周波加熱コイルからの磁束を、前記リング状強磁性体のうち前記高周波加熱コイルに近接する近接部に鎖交させて、前記近接部を非溶融で内部から加熱変態させることにより、オーステナイトを主体とする金属組織に前記近傍部を変態させることを特徴とする磁気歯車の製造方法。
【請求項5】
直線方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なる櫛歯状の薄板を備え、
前記櫛歯状の薄板は、直線状の第1の辺と、前記強磁性部が突出して凸部を為している第2の辺とを有し、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は直線方向における間隔が一定であり、
前記強磁性部において、第1の辺及び第2の辺は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする磁気歯車。
【請求項6】
直線方向において弱磁性部及び強磁性部が交互に連なる帯状の薄板を備え、
前記帯状の薄板は平行な2つの辺を有し、
前記弱磁性部は、非溶融で内部から加熱変態させてなるオーステナイトを主体とする金属組織であり、
前記強磁性部同士は周方向におけるピッチが一定であり、
前記強磁性部において、前記2つの辺は、一方が磁束の流入端となるとき、他方が前記磁束の流出端となることを特徴とする磁気歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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