説明

磁気活性形状記憶金属合金の製造方法

本発明は、ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する磁気活性形状記憶金属合金を製造する方法に関する。本方法では、金属合金のさまざまな成分を溶解し、溶解物を実質的に溶解温度で均質化し、得られた金属合金を鋳造し、鋳造金属合金を上記金属合金の液化温度より低い10〜1000Cで方向性凝固にかける。

【発明の詳細な説明】
【詳細な説明】
【0001】
本発明は、ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する形状記憶合金を鋳造によって製造し、方向性凝固を適用することによって形状記憶合金の結晶構造を大きな結晶にして、所望のように方向性を与える方法に関するものである。
【0002】
磁気活性すなわち制御された形状記憶合金は、これで作られた物体を、外部の可調節磁場の作用によって巻いたり、延ばしたり、曲げたりして、制御された状態に成型する材料である。記憶金属の有様は、例えばフィンランド特許第101,563号に開示されている。この変態は、磁場による材料のマイクロ構造の再配向に基づいている。変態の基本は、双晶になったマルテンサイトマイクロ構造であり、その配向を制御することができる。マルテンサイト構造は、鋳造技法および/または加熱処理によって直接に達成される。さらに、変態を生じさせるため、材料は磁気的に硬性である必要があり、その場合、格子の磁気ベクトルは結晶格子より容易に回転してはならない。したがって内部磁場は、所定の格子配列状態を強力に保ち、内部磁場が回転するにつれて、格子はそれに従って回転する。
【0003】
磁気活性形状記憶金属の見地から重要な量は、マルテンサイトおよびオーステナイト相形成反応の温度であり、これは、両相が形成され始め(MsおよびAs)、この相形成が終了する(MfおよびAf)温度である。さらに、磁気活性形状記憶金属の観点から重要な量は、キューリー点Tcである。強磁性材料の場合、キューリー点は、それより低いと自然磁化が発生し、それより高いと材料が常磁性になる温度である。これらの量によって、なかでも、上記材料もしくは合金の使用温度が定まる。使用温度は、キューリー点より低く(材料が強磁性である必要がある)、マルテンサイトの反応開始温度より低い(材料がマルテンサイト性も有する必要がある)。材料の使用の観点から、上記温度は、できる限り高くて磁気活性形状記憶金属の使用可能範囲が十分に広く、例えば気候条件によって、もしくは使用中に、装置の加熱が可能であるのが有利である。
【0004】
ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する形状記憶金属は、その一般式を以下本明細書ではNiMnGaとするが、これを冷却すると、温度範囲Ms→Mfで冷却する場合はオーステナイト構造が転化してマルテンサイト性になり、反対方向にそれぞれ加熱すると、オーステナイトAs→Afが生成される。このNiMnGa系にはさまざまな相、すなわち、さまざまな等軸晶形相および正方晶形相の常磁性形および強磁性形が生じる。結晶構造と変態温度との間には関連がある。変態温度が700Cより低い合金は、変調5層(5M)正方晶形構造を有する。7層斜方晶形(7M)構造は、温度範囲700C〜TCにおいて可能である。キューリー点より上では、構造は非変調正方晶形(T)マルテンサイトである。
【0005】
欧州特許出願EP866142号は、NiMnGa合金、とくに上記合金の化学式Ni2+xMn1-xGaに関するものであり、ただし、パラメータx(モル単位)は範囲0.10 <= x <= 0.30内で選択する。このような組成の場合、マルテンサイト変態の最終温度を−200Cから700Cの間の所望の温度として選択することができる。これに対してキューリー点は、600Cから850Cの間の所望温度として選択することができる。合金の記憶金属特性において、マルテンサイト変態Ms→Mfと逆変態As→Afが関係している。この欧州特許出願に開示されているNiMnGa合金の代表的な特性は、逆変態がマルテンサイト相において外部磁場によって達成され、その結果、形状記憶が回復することである。欧州特許出願第866,142号には、処理済NiMnGa合金の製造方法が次のように記載されている。すなわち、合金材料を混合し、この混合体をアルゴンアーチ方法で溶解し、これを鋳造してインゴットにすることによって、NiMnGa合金インゴットを製造した。この後、インゴットを粉砕してNiMnGa合金の粉体にした。この粉体を250メッシュ以下の粒径にふるい分け、これをさらに圧縮して5mm径の棒状体にした。この圧縮棒状体を8000Cで48時間、燒結した。得られた合金には、逆変態の最終温度Afおよびキューリー点Tcが画成された。したがって、欧州特許出願第866,142号による合金の製造では、例えば合金の結晶構造、もしくは記憶金属特性における結晶構造の作用は、いずれにしても考慮されていなかった。さらに、欧州特許出願第866,142号による方法では、粉体冶金学を利用しているが、これも製造を困難にし、したがって製造費用が増大する。
【0006】
本発明は、従来技術の欠点のいくつかを解消し、ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する磁気活性形状記憶合金について記憶金属特性に有利な結晶構造を得、例えば粉体冶金工程を回避して合金を生産する改善された方法をより確実な作業で実現することを目的とする。本発明の基本的に新規な構成要件は、添付の特許請求の範囲に記載する。
【0007】
本発明による方法を適用することによって、鋳造によりニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する磁気活性形状記憶合金が製造される。この合金におけるさまざまな組成の含有量を変えて、ニッケル含有量を45〜60原子%の範囲内に、マンガン含有量を15〜35原子%の範囲内に、ガリウム含有量を15〜30原子%の範囲内にすることができる。先ず、本方法に用いられる組成物を調整された環境および圧力で溶解および鋳造して、合金組成の揮散を実質的に防止し、鋳造物の組成を有利に均質化する。鋳造により得られた所望の金属合金は、金属合金の平衡図の液化温度を下回る1050〜12000C、望ましくは1120〜11700C内で方向性凝固によって凝固する。その場合、金属合金の結晶構造は方向性組織構造になるが、これは、磁気活性形状記憶金属の伸長を最大限にするのに、重要である。
【0008】
本発明によれば、金属合金を生成するために、その合金に含有されるニッケル、マンガンおよびガリウムは、望ましくはNi-Mnおよび/またはNi-Gaの母合金に変えられるが、その精度は純金属によって達成される。これらの母合金は有利には、最下部の材料が最低溶解温度(300C)のガリウムであり、この上にマンガン(12460C)が、最上部にニッケル(14550C)が配されて生成される。母合金の溶解は望ましくは、15000Cの温度で誘導的に行なわれ、溶解物はこの温度に約1時間保って合金を均質化させ、この後、これを冷却して粉砕し、湯だまりに入れる。金属合金自体、NiMnGa、は有利には、精度を決める金属が底の最下部に配され、この上に母合金もしくは合金が配されるように生成される。溶解は望ましくは、13000Cの温度で、誘導的に行なわれ、溶解物はこの温度に約1時間保たれて、合金を均質化する。金属合金NiMnGaの鋳造は、約11800Cの温度で行なわれ、方向性凝固の炉の温度は、有利には約11300Cである。マンガンおよびガリウムなどの揮発性成分の揮散は、炉内の負圧を20〜200ミリバール内で調節することによって調整される。
【0009】
本発明による方法により得られた鋳造片は、保護ガス雰囲気において800〜10000Cの温度範囲内で均質化される。この温度範囲において、ニッケル−マンガン−ガリウム合金に含有される、いわゆるヒュースラー相の安定性領域は、好ましい程度に大きい。採用された保護ガスは、有利には、例えばアルゴン、窒素またはこれらの混合体にすることができる。
【0010】
本発明による方法において得られた鋳造片の凝固は、有利には、金属合金の液化温度より低い10〜1000Cで行なわれる。鋳造片の凝固速度は0.1〜50ミリメートル/分、望ましくは1〜20ミリメートル/分の範囲内である。凝固工程では、有利には、温度勾配炉を実質的に標準条件で使用し、この炉において、熱は実質的に鋳造成形物の長手方向から離れる方向へ伝達される。したがって、凝固温度は実質的に滑らかに変化し、凝固した金属合金に得られた結晶構造は、方向性組織構造である。方向性凝固の結果、機械的に脆弱な顆粒境界がこの鋳造物の長手方向に設定されるので、強力な非等方性の鋳造物が達成される。したがって、例えば鋳造物の強度特性は、さまざまな方向において異なる。
【0011】
本発明の方法により生成された金属合金について、マルテンサイトおよびオーステナイトのそれぞれの反応の開始温度(Ms、As)および最終温度(Mf、Af)、ならびにキューリー点(Tc)を測定した。測定結果は下の表に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
上掲の表からは、金属合金のキューリー点は常温よりかなり高いことが分かり、これは、製造された金属合金が常温で強磁性であることを意味している。この表に記載の合金の一部は、マルテンサイト反応変態温度が常温に近く、またオーステナイト反応温度もそうである。したがって、マルテンサイト反応は、実質的に常温で行なわれ、上記合金は、いわゆる常温合金である。組成および構造を調節することによって、変態温度が50〜800Cの範囲内であり作動領域が低温から変態温度までの範囲である、いわゆる高温合金が得られる。同表に掲載した合金の多くは、上記高温合金の範疇にある。
【0014】
本発明による方法によって生成された合金はさらに、伸長および曲げの範囲を画成する試験も受けている。最良の場合、常温で測定した伸長は、正方晶形5M構造については6%、また斜方晶形7M構造では10%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する磁気活性形状記憶金属合金を製造する方法において、該金属合金のさまざまな成分を溶解し、該溶解物を実質的に溶解温度で均質化し、得られた金属合金を鋳造し、鋳造金属合金を該金属合金の液化温度より低い10〜1000Cで方向性凝固にかけることを特徴とする磁気活性形状記憶金属合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ニッケル、マンガンおよびガリウムを含有する金属合金の製造において、使用するマンガンおよびガリウムを先ず溶解してニッケル−マンガンおよび/またはニッケル−ガリウムの母合金にし、これを冷却して粉砕し、該母合金に貴金属を追加して該金属合金自体を製造することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記金属合金自体の溶解は約13000Cの温度で行なうことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の方法において、前記金属合金自体は、該合金を溶解温度に約1時間保つことによって均質化することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属合金自体の製造工程は、不活性ガス雰囲気で行なうことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、揮発性成分、すなわちマンガンおよびガリウムの揮散を防ぐために、前記金属合金自体の製造に用いる炉の負圧は、20〜200ミリバールの範囲内で調節することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、凝固速度は0.1〜50ミリメートル/分の範囲内あることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記凝固速度は1〜20ミリメートル/分の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、鋳造物は800〜10000Cの温度範囲内で均質化することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属合金のニッケル含有量は45〜60原子%の範囲内であることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属合金のマンガン含有量を15〜35原子%の範囲内になることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記請求項のいずれかに記載の方法において、前記金属合金のガリウム含有量は15〜30原子%の範囲内であることを特徴とする方法。


【公表番号】特表2007−515292(P2007−515292A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503325(P2005−503325)
【出願日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【国際出願番号】PCT/FI2003/000538
【国際公開番号】WO2005/002762
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(505232933)オウトクンプ テクノロジー オサケ ユキチュア (19)
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU TECHNOLOGY OY