説明

磁気浮上装置

【課題】電磁石の浮上制御電流には主にセンシングキャリア周波数より低い周波数の成分が含まれているので、電磁石電流からセンシングキャリア成分のみを抽出して増幅したとしても、位置検出用信号のSN比を上げることは困難であった。
【解決手段】電磁石MGの駆動信号中に混入されているセンシングキャリア成分を検出することにより被支持体12と電磁石MGとの距離xを検出するに際し、電磁石駆動回路6の電源端子間に接続されているバイパスコンデンサCに流れるセンシングキャリア成分を検出する。このことにより、位置検出信号のSN比を上げることができる。これは、高い周波数を持つセンシングキャリア成分は主にバイパスコンデンサCから供給されるという点に着目したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサレス型の磁気浮上装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られているセンサレス型の磁気浮上装置では、電磁石のコイルに流れるキャリア信号成分を抽出することにより、浮上対象物である被支持体の位置を検出することが知られている。
特許文献1では、電磁石コイルに流れる電磁石電流を可変制御するためにパルス幅変調(PWM)型の電源が用いられ、電磁石コイルに流れるリップル電流成分を測定することにより被支持体の位置を検出している。
特許文献2では、PWM電流制御パワーアンプから供給された電磁石電流をCTで検出し、検出した電磁石電流を微分した後にサンプル/ホールドし、サンプル/ホールドした電圧の差分を求めることにより被支持体と電磁石の距離を検出している。この手法は、PWMのキャリヤ周波数によるスイッチングリップル電流を微分したリップル電圧は電磁石のコア間距離に対応する自己インダクタンスに反比例しており、且つ、トランジスタのON,OFFで電圧Eの極性が反転していることを利用したものである。
また、位置検出用のセンシングキャリア信号を外部から供給することも広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−118329号公報
【特許文献2】特開平11−82511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電磁石のDCバイアス電流は勿論のこと、浮上制御電流にはセンシングキャリア周波数より低い周波数の成分が主に含まれているので、電磁石電流からセンシングキャリア成分のみを抽出して増幅したとしても、位置検出用信号のSN比を上げることは困難であり、その結果として被支持体に対する制御性が悪いという問題があった。しかも、電磁石が大型化してコイルのインダクタンスが大きくなるほど、この問題点が顕著になるという傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分を検出することにより、被支持体と前記電磁石との距離を検出する磁気浮上装置において、前記電磁石を駆動する電磁石駆動回路の電源端子間に接続されているコンデンサと、前記電磁石の駆動に伴って前記コンデンサに流れる前記信号成分を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された前記信号成分に基づいて前記被支持体の浮上位置を演算する位置演算手段と、前記位置演算手段により演算された前記浮上位置に基づいて前記電磁石駆動回路の電磁石駆動電流を制御する制御手段とを備えている。
請求項2の発明は、請求項1に記載の磁気浮上装置において、前記電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分として、前記電磁石をPWM駆動する際に生じるリップル成分を用いる。
請求項3の発明は、請求項1に記載の磁気浮上装置において、前記電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分として、前記電磁石駆動回路の外部から注入されたセンシングキャリア成分を用いる。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、前記電磁石駆動回路は、前記被支持体を挟んで対向配置された一対の電磁石コイルをそれぞれ駆動する一対の電磁石駆動回路であって、前記一対の電磁石コイルにそれぞれ流れる前記信号成分の差分を検出する差分検出手段をさらに備える。
請求項5の発明は、請求項4に記載の磁気浮上装置において、前記差分検出手段は、前記一対の電磁石駆動回路の電源端子間にそれぞれ接続されている各コンデンサの電流差成分を検出する電流トランスと、前記一対の電磁石駆動回路にそれぞれ設けられている電源端子を介して流出入する電流成分のうち前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段とを備える。
請求項6の発明は、請求項4に記載の磁気浮上装置において、前記一対の電磁石コイルにそれぞれ流れる前記信号成分は同一周波数であって逆の位相関係を有し、前記差分検出手段は、前記一対の電磁石駆動回路にそれぞれ設けられているプラス側電源端子とマイナス側電源端子を共通電位とするための並列接続手段と、前記並列接続手段と電源側との間に接続されており、前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段と、前記接続手段を介して接続されている前記一対の電磁石駆動回路と並列に接続されたコンデンサに流れる電流を検出する電流検出用抵抗を備える。
請求項7の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、同一の電源に対して複数の前記電磁石駆動回路が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路における前記信号成分が前記電源側に流出しないように、前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段を、それぞれの電磁石駆動回路に接続する。
請求項8の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、同一の電源に対して複数の前記電磁石駆動回路が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路における前記信号成分の周波数を異ならせる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る磁気浮上装置によれば、電磁石駆動回路の電源端子間に接続されているバイパスコンデンサに流れる信号成分(スイッチング駆動により生じたリップル成分、または外部から供給されたセンシングキャリア成分)を検出することにより、位置検出信号のSN比を上げることができる。この請求項1は、電磁石電流のうちDCバイアス電流成分および比較的低周波の浮上制御電流成分は、バイパスコンデンサの有無とは関係なく電源から直接供給されるのに対して、より高周波の信号成分(スイッチング駆動により生じたリップル成分、または外部から供給されたセンシングキャリア成分)は主にバイパスコンデンサから供給されるという点に着目したものである。その結果として、位置検出信号のSN比を向上させ、もって被支持体の浮上位置制御をより正確に行うことができる。
請求項2に係る磁気浮上装置によれば、電磁石をPWM駆動する際に生じたリップル成分を検出するので、センシングキャリア成分を外部から供給することなく位置検出信号のSN比を向上させることができる。
請求項3に係る磁気浮上装置によれば、外部からセンシングキャリア成分を供給するので、適切な周波数のキャリア信号を選択することができる。
請求項4に係る磁気浮上装置によれば、簡易な回路構成にも拘わらず位置検出信号のSN比を向上させることができる。
請求項5に係る磁気浮上装置によれば、電流トランス(CT)を用いて所定周波数の信号の差成分を直接検出することができるので、被支持体が目標浮上位置から外れた際の状況を的確に表す位置信号を得ることができる。
請求項6に係る磁気浮上装置によれば、電流検出用抵抗を用いて信号の差成分を直接検出することができるので、被支持体が目標浮上位置から外れた際の状況を的確に表す位置信号を得ることができる。
請求項7および請求項8に係る磁気浮上装置によれば、複数の電磁石を駆動する際に、同一の電源に対して複数の前記電磁石駆動回路を並列に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した磁気浮上装置の全体構成図である。
【図2】電流検出用抵抗を用いた実施の形態1を示すブロック図である。
【図3】電流トランスを用いた実施の形態1を示すブロック図である。
【図4】電磁石駆動回路を複数備えた実施の形態2を示すブロック図である。
【図5】実施の形態2で用いるターボ分子ポンプの全体構成を示すブロック図である。
【図6】図5に示したターボ分子ポンプ本体の詳細な断面構成図である。
【図7】図5に示したターボ分子ポンプの5軸制御型磁気軸受について説明するための摸式図である。
【図8】対向配置された電磁石を駆動するために電流トランスを用いた実施の形態2を示すブロック図である。
【図9】対向配置された電磁石を駆動するために一つのバイパスコンデンサと一つの電流検出用抵抗を用いた実施の形態2を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0009】
<実施の形態1>
図1は、本発明を適用した磁気浮上装置の全体構成図である。この磁気浮上装置では、被支持体12を浮上させる電磁石MG(電磁石コイル8とヨーク10から成る)の駆動信号にセンシングキャリア成分を重畳しておき、電磁石駆動回路6の電源端子間に接続されているバイパスコンデンサCに流れるセンシングキャリア成分を検出することにより、被支持体12と電磁石MGの間の距離xを検出する。
【0010】
図1において、電磁石駆動回路6の電源端子T(+)およびT(−)には、直流電源である電源回路2が接続されている。この電源端子T(+)およびT(−)には、いわゆるバイパスコンデンサCが接続されており、電磁石駆動回路6に対して瞬時に変動する電力成分を供給する。より具体的には、センシングキャリア発生回路14により発生されたセンシングキャリア成分を電磁石電流に重畳させるための電力が、主としてバイパスコンデンサCから供給されることに着目して、本実施の形態では、バイパスコンデンサCに流れる電流(すなわち、センシングキャリア成分)を電流検出回路4により検出している。
【0011】
本実施の形態では、いわゆる二象限駆動電流アンプを含むPWM生成器を電磁石駆動回路6として用いている。しかしながら、電磁石駆動回路6としては、いわゆる単象限駆動電流アンプあるいは二象限駆動電流アンプのみならず、その他のレギュレータ(例えば、入力電圧を降下させて出力電圧を得るドロッパ型レギュレータなど)など、従来から知られている様々な電磁石駆動回路を用いることができる。センシングキャリア発生回路14から供給されたセンシングキャリア成分は、電磁石駆動回路6に含まれている加算器(図示せず)によりPWM制御信号と加算され、電磁石電流にセンシングキャリア成分が重畳される。
【0012】
さらに換言すると、本実施の形態ではバイパスコンデンサCに流れるセンシングキャリア成分を電流検出回路4により検出しているが、その根拠は次の着目点によるものである。すなわち、電磁石電流のうちバイアス電流(DC)成分および比較的低周波の浮上制御電流成分は、バイパスコンデンサCの有無とは関係なく電源回路2から供給されるのに対して、より高周波のセンシングキャリア成分は主にバイパスコンデンサCから供給されるという点に着目したものである。このことにより、センシングキャリア成分のSN比を格段に向上させている。
【0013】
電流検出回路4により検出された電流成分には、センシングキャリア成分以外の帯域成分も含まれているので、バンドバスフィルタ16によりセンシングキャリア成分のみを抽出する。その後、抽出されたセンシングキャリア成分は浮上位置演算回路18に送られ、被支持体12と電磁石MGの間の距離xが演算される。その演算結果に基づいて、被支持体の目標浮上位置からのずれを補償するための電流指令値を電流指令値回路20で設定し、電磁石駆動回路60に送出する。
【0014】
次に、電流検出器4の具体的な回路構成を図2および図3を用いて説明する。図2では、電流検出用抵抗R20を用い、その端子間電圧を電流検出信号として用いている。なお、図2以降の図面において、電磁石駆動回路はDmn(m,nは数字)で表し、電磁石駆動回路の電源端子はTmnで表し、バイパスコンデンサはCmnで表し、電源回路はPmnで表している。電流検出用抵抗R20を用いることにより、回路全体の小型化を図ることができる。
【0015】
電流検出器4の他の具体的な回路構成は、図3に示すように、電流トランスCT3を用いる。この電流トランスCT3を用いることにより、電磁石駆動系と検出信号処理系とをアイソレートすることができるという利点が得られる。
【0016】
−実施の形態1による作用・効果−
本実施の形態によれば、以下のような作用・効果を奏することができる。
(1)電磁石MGの駆動信号中に混入されている所定周波数のセンシングキャリア成分を検出することにより、被支持体12と電磁石MGとの距離xを検出する磁気浮上装置において、電磁石MGを駆動する電磁石駆動回路6の電源端子(T(+),T(−))間に接続されているバイパスコンデンサCと、電磁石MGの駆動に伴ってバイパスコンデンサCに流れるセンシングキャリア成分を検出する電流検出器4およびバンドパスフィルタ16と、検出されたセンシングキャリア成分に基づいて被支持体の浮上位置を演算する浮上位置演算回路18と、演算された浮上位置に基づいて電磁石駆動回路6の電磁石駆動電流を制御する電流指令値設定回路20とを備えているので、電磁石駆動回路6の電源端子間に接続されているバイパスコンデンサCに流れるセンシングキャリア成分を検出することにより、位置検出信号のSN比を上げることができる。すなわち、電磁石電流のうちDCバイアス電流成分および比較的低周波の浮上制御電流成分は、バイパスコンデンサCの有無とは関係なく電源回路2から直接供給されるのに対して、より高周波のセンシングキャリア成分は主にバイパスコンデンサCから供給されるという点に着目することにより、位置検出信号のSN比を向上させ、もって被支持体12の浮上位置制御をより正確に行うことができる。
【0017】
(2)電磁石MGの駆動信号中に混入されている所定周波数のセンシングキャリア成分として、電磁石駆動回路6の外部にあるセンシングキャリア発生回路14から注入されたセンシングキャリア成分を用いるので、適切な周波数のキャリア信号を選択することができる。
【0018】
<実施の形態2>
上述した実施の形態1では、一つの電磁石駆動回路を用いる場合について述べたが、多くの磁気浮上装置では複数の電磁石駆動回路が装着されている。そこで、以下に述べる実施の形態2では、単一の電源回路から複数の電磁石駆動回路に電力を供給する場合について説明する。この実施の形態2に特有な部分以外の回路構成については、図1に示した回路構成を用いる。
【0019】
図4は、電磁石駆動回路を複数備えた実施の形態2を示すブロック図である。本図のバイパスコンデンサC40は電磁石駆動回路D46に対してセンシングキャリア成分を供給し、他方のバイパスコンデンサC41は電磁石駆動回路D47に対してセンシングキャリア成分を供給している。しかしながら、これらのセンシングキャリア成分が互いに混ざってしまうのを防止するために、電源回路P40の(+)側と各電磁石駆動回路D46,D47との間にローパスフィルタLP40,LP41を設けてある。いま、センシングキャリア成分の周波数がfsであるとすると、ローパスフィルタLP40,LP41のカットオフ周波数fcを上記fs以下に設定することにより、センシングキャリア成分の流出を防ぐことができる。
【0020】
バイパスコンデンサC40に流れる電流(センシングキャリア成分)は電流検出用抵抗R40で検出し、バイパスコンデンサC41に流れる電流(センシングキャリア成分)は電流検出用抵抗R41で検出する。このことにより、回路の小型化を図ることができる。
【0021】
また、先に図3を参照して説明した通り、電流検出用抵抗R40,R41の替わりに、電流トランス(図示せず)を用いることにより、後段側回路とのアイソレートを実現することができる。
【0022】
さらに、ローパスフィルタLP40,LP41を挿入することができない場合には、電流検出用抵抗R40,R41を用いたとしても、電磁石駆動回路D46のセンシングキャリア周波数と電磁石駆動回路D47のセンシングキャリア周波数とを異なった値に設定しておくことで、後段のバンドバス処理により両センシングキャリア成分を区別することができる。
【0023】
回転体を浮上させる場合には、回転体を挟んで対向配置した電磁石を用いることにより、回転体を目標位置に浮上させることができる。そこで、以下の説明では、分子ターボポンプの回転体を磁気浮上させる場合について説明していく。
【0024】
図5は、実施の形態2を適用したターボ分子ポンプの全体構成図である。図5の(A)に示すように、ポンプ本体100はシャフトを回転させるモータ160と、電磁石コイル51,52,53を備えている。これらモータ160および電磁石コイル51,52,53の機械的構成は、図6を参照して後に説明する。電磁石コイル51,52,53は、5軸制御型磁気軸受を構成するために5対の電磁石コイルLpiおよびLmi(i=1,2,3,4,5)から成っている。5軸制御型磁気軸受の詳細については、後に図7を参照して説明する。
【0025】
図5の(B)は、ターボ分子ポンプのシャフト130と電磁石コイルLpiおよびLmiの相対的位置関係を摸式的に示している。本図に示すように、シャフト130を挟んで対峙する位置に一対の電磁石コイルLpiおよびLmiが配置されている。電磁石コイルLpiおよびLmiに流れる電磁石電流は、これら両電磁石コイルに印加されるPWM電圧のデューティ比を変更することにより可変制御される。
【0026】
図6は、図5に示したターボ分子ポンプ本体の詳細な断面構成図である。ポンプ本体100に設けられたケーシング120の内部には、モータ160により回転駆動される回転体140が設けられている。回転体140の素材にはアルミ合金が用いられ、回転体140には複数段のロータ翼21およびネジ溝部22が形成されている。回転体140の中心部にはシャフト130がある。軸方向に配設された複数段のロータ翼21に対しては複数段のステータ翼23が交互に配設され、ネジ溝部22に対しては径方向に僅かな隙間を介して筒状部材24が配設されている。ロータ翼21およびステータ翼23は、タービン翼で構成されている。各ステータ翼23はスペーサ25によって所定の間隔に維持されており、最上段のスペーサ25の上端は、ケーシング120の上端内側に設けられた突起部分に当接している。ケーシング120をベース28に固定することにより、軸方向交互に重ねられたステータ翼23およびスペーサ25はケーシング20の上端部分とベース28との間に挟持される。
【0027】
モータ160により回転体140を高速回転すると、排気作用が生じる。その結果、吸気口側のガスが矢印G1のように排気され、排気口26に接続された補助ポンプ(図示せず)によってポンプ外へと排出される。ロータ翼21およびステータ翼23による排気作用は高真空側で有効に作用し、ネジ溝部22および筒状部材24による排気作用は低真空側で有効に作用するものであり、ガスの凝縮による生成物付着は低真空側においてより顕著に発生する。ポンプ本体のベース28にはヒータ29が設けられており、生成物が付着しやすいガスを排気する場合には、このヒータ29によりポンプ温度を上昇させて生成物の付着を抑制する。その際、冷却装置30による冷却とヒータ29による加熱とを制御してポンプ温度の制御を行う。冷却装置30は冷却水により冷却を行うものであり、電磁バルブ等により流量を調節することにより冷却効果の制御を行う。
【0028】
図5および図6に示したターボ分子ポンプは5軸制御型磁気軸受ターボ分子ポンプであり、回転体140はラジアル磁気軸受を構成する電磁石51,52とアキシャル磁気軸受を構成する電磁石53とにより非接触支持される。27は非常用のメカニカルベアリングであり、磁気軸受が作動していない時にはメカニカルベアリング27により回転体140が支持される。
【0029】
図7は、ターボ分子ポンプの5軸制御型磁気軸受について説明するための摸式図である。本図では、シャフト130の回転軸Jがz軸に一致するように示してある。図6に示したラジアル電磁石51は、図7に示すように4つの電磁石51a,51b,51c,51dで構成されている。電磁石51a,51bはそれぞれx軸に沿ったX1−方向,X1+方向に配設され、電磁石51c,51dはそれぞれy軸に沿ったY1−方向,Y1+方向に配設されている。同様に、ラジアル電磁石52も4つの電磁石52a,52b,52c,52dで構成されており、電磁石52a,52bはそれぞれx軸に沿ったX2−方向,X2+方向に配設され、電磁石52c,52dはそれぞれy軸に沿ったY2−方向,Y2+方向に配設されている。アキシャル電磁石53は、シャフト3の下端に設けられたディスク41をz軸に沿って挟むように対向して配設された電磁石53a,53bから成る。電磁石53a,53bは、それぞれz軸に沿ったZ−方向,Z+方向に配設される。
【0030】
対向配置された電磁石を駆動するためには、図4で述べた回路構成を用いことができるが、他の駆動回路について、以下に説明する。
【0031】
図8は、対向配置された電磁石を駆動するために電流トランスを用いた実施の形態2を示すブロック図である。被支持体を挟んで対向配置された電磁石を用いて被支持体を磁気浮上させる際に、周波数および位相が同一のセンシングキャリアをそれぞれの電磁石電流に重畳させる。そして、バイパスコンデンサC80およびC81に流れる各電流の差成分を電流トランスで検出し、後段の回路(図示せず)で同期検波することにより、目標浮上位置(中立位置)を零として正負に振れる位置信号を得ることができる。
【0032】
図9は、対向配置された電磁石を駆動するために一つのバイパスコンデンサと一つの電流検出用抵抗を用いた実施の形態2を示すブロック図である。本図では、対向配置した2つの電磁石について、周波数が同じであり且つ位相を反転させたセンシングキャリアを用いる。そして、2つの電磁石駆動回路D96およびD97で共用するバイパスコンデンサC90の電流を電流検出用抵抗R90で検出することにより、両センシングキャリア成分の差を得ることができる。その後、後段の回路(図示せず)で同期検波することにより、目標浮上位置(中立位置)を零として正負に振れる位置信号を得ることができる。
【0033】
−実施の形態2による作用・効果−
本実施の形態によれば、以下のような作用・効果を奏することができる。
(1)被支持体を挟んで対向配置された一対の電磁石をそれぞれ駆動する一対の電磁石駆動回路D86,D87またはD96,D97を備え、それら一対の電磁石駆動回路から各電磁石コイルにそれぞれ供給されるセンシングキャリア成分の差分を検出する差分検出手段として電流トランスCT80または電流検出用抵抗R90備えているので、簡易な回路構成にも拘わらず位置検出信号のSN比を向上させることができる。
【0034】
(2)一対の電磁石駆動回路D86,D87の電源端子間にそれぞれ接続されている各バイパスコンデンサC80,C81の電流差成分を検出する電流トランスCT80と、一対の電磁石駆動回路D86,D87にそれぞれ設けられている電源端子を介して電源側から流入する電流成分のうちセンシングキャリア周波数以下の電流成分のみを通過させるローパスフィルタLP80,LP81とを備えているので、センシングキャリア成分の差を電流トランス(CT)により直接検出することができる。
【0035】
(3)一対の電磁石駆動回路D96,D97から各電磁石に供給されるセンシングキャリアは同一周波数であって逆の位相関係を有しており、一対の電磁石駆動回路D96,D97にそれぞれ設けられている各プラス側電源端子と各マイナス側電源端子を接続し、電源側から流入する電流成分のうちキャリア周波数以下の電流成分のみを通過させるローパスフィルタLP90と、一対の電磁石駆動回路D96,D97と並列に接続された共用バイパスコンデンサC90に流れる電流を検出する電流検出用抵抗R90を備えているので、電流検出用抵抗を用いてキャリア信号の差成分を直接検出することができる。
【0036】
(4)同一の電源回路P40に対して複数の電磁石駆動回路D46,D47が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路D46,D47におけるセンシングキャリア成分が電源回路側に流出しないように、センシングキャリア周波数以下の電流成分のみを通過させるローパスフィルタLP40,LP41を各電磁石駆動回路に接続しているので、同一の電源に対して複数の電磁石駆動回路を並列に接続することができる。
【0037】
(5)同一の電源回路P40に対して複数の電磁石駆動回路D46,D47が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路におけるセンシングキャリアの周波数を異ならせることにより、ローパスフィルタLP40,LP41を不要とすることができる。
【0038】
<その他の変形例>
(1)実施の形態1では、電磁石駆動回路にセンシングキャリア発生回路14を接続していたが、二象限駆動電流アンプなどを用いて電磁石コイルをPWM駆動する場合には、外部からセンシングキャリア成分を注入する必要はない。すなわち、PWM駆動をする際に生じるリップル成分を検出することにより、センシングキャリア成分を外部から供給することなく位置検出信号を得ることができる。
【0039】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上述した実施の形態および変形例に限定されるものではない。
実施の形態と変形例の一つとを組み合わせること、もしくは、実施の形態と変形例の複数とを組み合わせることも可能である。
変形例同士をどのように組み合わせることも可能である。
さらに、本発明の技術的思想の範囲内で考えられる他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
2 電源回路
4 電流検出器
6 電磁石駆動回路
8 電磁石コイル
10 ヨーク
12 被支持体
14 センシングキャリア発生回路
16 バンドパスフィルタ
18 浮上位置演算回路
20 電流指令値設定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分を検出することにより、被支持体と前記電磁石との距離を検出する磁気浮上装置において、
前記電磁石を駆動する電磁石駆動回路の電源端子間に接続されているコンデンサと、
前記電磁石の駆動に伴って前記コンデンサに流れる前記信号成分を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された前記信号成分に基づいて前記被支持体の浮上位置を演算する位置演算手段と、
前記位置演算手段により演算された前記浮上位置に基づいて前記電磁石駆動回路の電磁石駆動電流を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上装置において、
前記電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分として、前記電磁石をPWM駆動する際に生じるリップル成分を用いることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気浮上装置において、
前記電磁石の駆動信号中に混入されている所定周波数の信号成分として、前記電磁石駆動回路の外部から注入されたセンシングキャリア成分を用いることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、
前記電磁石駆動回路は、前記被支持体を挟んで対向配置された一対の電磁石コイルをそれぞれ駆動する一対の電磁石駆動回路であって、
前記一対の電磁石コイルにそれぞれ流れる前記信号成分の差分を検出する差分検出手段をさらに備えることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気浮上装置において、
前記差分検出手段は、
前記一対の電磁石駆動回路の電源端子間にそれぞれ接続されている各コンデンサの電流差成分を検出する電流トランスと、
前記一対の電磁石駆動回路にそれぞれ設けられている電源端子を介して流出入する電流成分のうち前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段とを備えることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項6】
請求項4に記載の磁気浮上装置において、
前記一対の電磁石コイルにそれぞれ流れる前記信号成分は同一周波数であって逆の位相関係を有し、
前記差分検出手段は、
前記一対の電磁石駆動回路にそれぞれ設けられているプラス側電源端子とマイナス側電源端子を共通電位とするための並列接続手段と、
前記並列接続手段と電源側との間に接続されており、前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段と、
前記接続手段を介して接続されている前記一対の電磁石駆動回路と並列に接続されたコンデンサに流れる電流を検出する電流検出用抵抗を備えることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、
同一の電源に対して複数の前記電磁石駆動回路が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路における前記信号成分が前記電源側に流出しないように、前記所定周波数以下の電流成分のみを通過させるフィルタ手段を、それぞれの電磁石駆動回路に接続することを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気浮上装置において、
同一の電源に対して複数の前記電磁石駆動回路が並列に接続されている場合には、それぞれの電磁石駆動回路における前記信号成分の周波数を異ならせることを特徴とする磁気浮上装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−219991(P2012−219991A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89452(P2011−89452)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】