磁気特性予測装置、磁気特性予測方法、及びコンピュータプログラム
【課題】 焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測できるようにする。
【解決手段】 解析された「焼鈍後の各結晶粒A」の<100>方向と磁界の方向とのなす最小角度αminを導出する。次に、<100>方向と磁界の方向とのなす最小角度αminを用いて、焼鈍後の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、それに対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を、「鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線」から導出する。次に、最小角度αminを用いて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。最後に、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、結晶粒Aの焼鈍後の面積SIによる加重平均を行う。
【解決手段】 解析された「焼鈍後の各結晶粒A」の<100>方向と磁界の方向とのなす最小角度αminを導出する。次に、<100>方向と磁界の方向とのなす最小角度αminを用いて、焼鈍後の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、それに対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を、「鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線」から導出する。次に、最小角度αminを用いて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。最後に、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、結晶粒Aの焼鈍後の面積SIによる加重平均を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性予測装置、磁気特性予測方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無方向性電磁鋼板等、軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、B50(磁界Hが5000[A/m]のときの磁束密度)等の磁気特性を推定する計算を行うことが実施されている。非特許文献1では、ベクトル法による三次元解析データを用いて、無方向性電磁鋼板の集合組織から、その磁気特性を計算するようにしている。この非特許文献1では、(1)それぞれの結晶粒においては、外部磁界の向きとのなす角が最も近い磁化容易軸に平行に磁化されていること、(2)相互に隣接し合う結晶粒の相互作用は無視できる程度に十分小さいこと、(3)結晶粒が単磁区構造であること、(4)板厚方向の集合組織が一定であること、の仮定の下で、無方向性電磁鋼板の磁気特性を計算している。
また、無方向性電磁鋼板を焼鈍して、無方向性電磁鋼板の結晶粒を成長させて、その磁気特性を改善することが行われている。本出願人が提案した特許文献1では、結晶の画像に対して、結晶粒の両端点・中間点に対応する三重点・二重点を設定し、それら三重点・二重点で発生する駆動力の時間変化を、その三重点・二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーと粒界易動度(温度に依存する)を用いて演算するようにしている。これにより、焼鈍による結晶(集合組織)の変化を正確に予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−191125号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】立野一郎,「無方向性電磁鋼板の集合組織に基づく磁化の異方性」,鉄と鋼,1990年,第76巻,第1号,p.81−88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無方向性電磁鋼板等、軟磁性材料からなる鋼板は、B50(磁界Hが5000[A/m]のときの磁束密度)等の磁気特性で評価されることが多い。したがって、このような鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することができれば、より高品質の鋼板を製造するための指標を与えることができる。
【0006】
前述したように、非特許文献1に記載の技術では、それぞれの結晶粒の構造が単磁区構造であるとして計算を行っている。よって、それぞれの結晶粒の磁区構造が実際に単磁区構造に近い材料では、集合組織を持つ材料の磁気特性を計算することができるが、それぞれの結晶粒の構造が実際に単磁区構造と近似できない材料や、それぞれの結晶粒の構造が単磁区構造とならない条件(磁束密度の小さい条件(B25等))では、集合組織を持つ材料の磁気特性を正確に計算することができなかった。
また、特許文献1に記載の発明がなされるまでは、焼鈍による集合組織の変化を正確に予測することが困難であった。さらに、集合組織から磁気特性を演算(解析)する技術が確立されていなかった。
以上のことから、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、当該鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測することが困難であるという問題点があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、当該鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気特性予測装置は、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測装置であって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得手段と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定手段と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算手段と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算手段による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得手段と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得手段前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定手段と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出手段と、磁束密度計算手段と、を有し、前記磁束密度計算手段は、前記磁界設定手段により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出手段と、前記磁界成分導出手段により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出手段と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出手段により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の磁気特性予測方法は、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測方法であって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程磁束密度計算工程と、を有し、前記磁束密度計算工程は、前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のコンピュータプログラムは、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、磁束密度計算工程と、をコンピュータに実行させ、前記磁束密度計算工程は、前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の集合組織(それぞれの結晶粒の配置と方位)を正確に予測し、且つ、その予測した集合組織(それぞれの結晶粒の配置と方位)に基づいて磁気特性を解析することができるので、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性予測装置の全体構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示し、結晶画像表示部により取得される結晶粒画像と、点設定部により設定される点(二重点及び三重点)と、ライン設定部、粒界設定部により設定されるライン、粒界の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示し、二重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示し、三重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【図7】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒情報記憶部における結晶粒情報の記憶構造の一例を概念的に示す図である。
【図8−1】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図8−2】本発明の第1の実施形態を示し、図8−1に続くフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性演算部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図10】本発明の第1の実施形態を示し、材料座標系と結晶座標系の一例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態を示し、B−H曲線記憶部に記憶されているB−H曲線の一例を概念的に示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態を示し、無方向性電磁鋼板の単位格子と、単位格子の1つの頂点がとり得る結晶座標系の一例を示す図である。
【図13】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒における結晶座標系と、材料座標系と、結晶粒に与えられる磁界との関係の一例を示す図である。
【図14】本発明の第1の実施形態を示し、磁界の結晶座標系の<100>方向の成分の一例を概念的に示す図である。
【図15】本発明の第1の実施形態を示し、磁束密度の磁界の方向の成分の一例を概念的に示す図である。
【図16】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性演算部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図17】本発明の第2の実施形態を示し、磁気特性演算部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図18】本発明の第2の実施形態の実施例を示し、磁界と圧延方向とのなす角度と、B50との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
[磁気特性予測装置1000の全体構成]
図1は、磁気特性予測装置1000の全体構成の一例を示す図である。尚、磁気特性予測装置1000のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。そして、特に断りのない限り、図1に示す磁気特性予測装置1000の各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。
【0013】
図1において、磁気特性予測装置1000は、結晶粒分布解析部100と、結晶粒情報記憶部200と、B−H曲線記憶部300と、磁気特性演算部400と、を有している。
結晶粒分布解析部100は、磁気特性の予測対象となる鋼板の結晶(結晶粒)の情報を外部から入力し、焼鈍によって、当該結晶(結晶粒)の分布が、どのように変化するのかを解析するためのものである。尚、以下の説明では、「磁気特性の予測対象となる鋼板」を、必要に応じて「予測対象の鋼板」と称する。
結晶粒情報記憶部200は、予測対象の鋼板の、焼鈍前後における「多数の結晶粒により構成される集合組織」の情報(以下の説明では、この情報を、必要に応じて、結晶粒情報と称する)を記憶するためのものである。ここで、焼鈍前の結晶粒情報は、後述するようにEBSP法による測定で得られた結晶粒情報である。焼鈍後の結晶粒情報は、結晶粒分布解析部100による解析で得られた結晶粒情報である。
【0014】
B−H曲線記憶部300は、予測対象の鋼板の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線を外部から入力して、当該鋼板の種類と、当該B−H曲線とを相互に関連付けて記憶するためのものである。
尚、結晶粒情報記憶部200と、B−H曲線記憶部300は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
磁気特性演算部400は、予測対象の鋼板の各結晶粒が単結晶の集合体であるとして、結晶粒情報記憶部200により記憶された結晶粒情報と、B−H曲線記憶部300により記憶されたB−H曲線とを用いて、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁気特性を演算するためのものである。ここで、磁気特性としては、例えばB50が挙げられる。しかしながら、磁気特性は、磁束密度、透磁率、及びこれらから得られる物性値であれば、B50に限定されるものではない。
以下に、これら各部の詳細な説明を行う。
【0015】
[結晶粒分布解析部100、結晶粒情報記憶部200]
図2は、結晶粒分布解析部100で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。尚、図2では、説明の都合上、予測対象の鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を構成する多数の結晶粒のうち、1つの結晶粒Aのみを示しているが、実際には、多数の結晶粒により無方向性電磁鋼板が形成されるということは言うまでもない。また、予測対象の鋼板は、軟磁性材料からなる鋼板であれば、無方向性電磁鋼板に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の結晶粒分布解析部では、図2に示すようにして、結晶粒をモデル化するようにしている。
まず、図2(a)に示すように、結晶粒Aの3つの粒界ua〜ucの両端点に対応する位置に三重点ia、ie、ifを設定し、粒界ua〜ucの中間点に対応する位置に二重点ib〜id、ig〜iiを設定する。ここで、三重点ia、ie、ifとは、3つの直線が交わる点をいい、二重点ib〜id、ig〜iiとは、2つの直線が交わる点をいう。そして、同一の粒界ua〜uc上で互いに隣接する点iを互いに結ぶ直線を設定する。
以上のように、本実施形態では、粒界ua〜ucの両端の位置だけでなく、粒界ua〜ucの途中の形状も出来るだけ忠実に表すことができるように、二重点ib〜id、ig〜iiを設定するようにしている。
【0017】
以上のようにしてモデル化された結晶の各点(二重点及び三重点)ia〜iiの夫々について、焼鈍中の時間tで生じる駆動力Fi(t)[N]を算出する。そして、算出した駆動力Fi(t)に基づいて、Δt[sec]が経過した後(時間t+Δt)における各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置を算出する。そうすると、図2(a)に示す各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置は、例えば、図2(b)に示す位置に移動する。
【0018】
本実施形態の結晶粒分布解析部では、以上のように、結晶粒Aに含まれる粒界ua〜ucの両端点に対応する三重点ia、ie、ifと、粒界ua〜ucの中間点に対応する二重点ib〜id、ig〜iiとの夫々に生じる駆動力Fi(t)を算出して、三重点ia、ie、ifと、二重点ib〜id、ig〜iiとが焼鈍中に移動する様子を解析する。これにより、例えば、図2(a)に示す結晶粒Aaが、図2(b)に示す結晶粒Abのように、時間の経過と共に変化する様子を、大きな計算負荷をかけることなく出来るだけ正確に解析することができる。
【0019】
以下に、結晶粒分布解析部100の構成について詳細に説明する。
図3は、結晶粒分布解析部100の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3において、結晶画像取得部101は、例えば、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法で得られた「予測対象の鋼板の結晶の画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξ(オイラー角(φ1、Φ、φ2))を示す信号」等を取得して、ハードディスク等に記憶するためのものである。尚、以下の説明では、予測対象の鋼板の結晶の画像を、必要に応じて、結晶粒画像と称する。
ここで、EBSP法は、後方散乱電子回折を利用して、結晶の方位を解析する手法である。電子プローブからの電子線を材料に照射すると、電子線が照射された部分の結晶方位に対応した電子回折パターンが得られる。この電子回折パターンから、方位解析を行いながら、電子プローブを材料上で走査すると、材料の各部における結晶の方位の情報が得られる。EBSP法の空間分解能は、数十nm程度である。これに対し、予測対象の鋼板である無方向性電磁鋼板の結晶粒の直径は、数十μm程度である。したがって、EBSP法を用いれば、結晶粒の形状の情報と、各結晶粒の方位の情報を正確に得ることができる。ここで、結晶粒の方位の情報として、材料座標系(圧延方向(RD)、板幅方向(TD)、板厚方向(ND)を軸とする3次元座標系)に対する結晶座標系(結晶主軸を軸とする3次元座標系)のオイラー角(φ1、Φ、φ2)の情報が得られる。オイラー角(φ1、Φ、φ2)については、図10を参照しながら後ほど別途説明する。
尚、結晶画像取得部101は、EBSP法による結晶分析を行う分析装置から、前述した信号を直接取得するようにしてもよいし、DVDやCD−ROM等のリムーバル記憶媒体から、前述した信号を間接的に取得してもよい。
【0020】
結晶画像表示部102は、例えば、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像の信号に基づく結晶粒画像を、表示装置2000に表示させる。尚、表示装置2000は、LCD(Liquid Crystal Display)等のコンピュータディスプレイを備えている。また、操作装置3000は、キーボードやマウス等のユーザインターフェースを備えている。
【0021】
点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像に対して、ユーザが操作装置3000を用いて指定した点(二重点及び三重点)iを取得し、取得した点(二重点及び三重点)iの数と、その点iの初期位置ri(0)を示すベクトルとを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、本実施形態では、ユーザは、点(二重点及び三重点)iの数と初期位置を、任意に指定することができるものとする。
また、点設定部103は、計算対象の点(二重点又は三重点)iにおけるΔt[sec]後の位置ri(t+Δt)を示すベクトルが、後述するようにして位置計算部116により計算されると、その点iの位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0022】
ライン設定部104は、点設定部103で設定された点(二重点及び三重点)iのうち、同一の粒界u上で相互に隣接する2つの点iにより特定されるラインpに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。このように、ラインpは、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iを両端とする直線である。
粒界設定部105は、ライン設定部104により設定されたラインpのうち、点設定部103により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
【0023】
図4は、結晶画像表示部102により取得される結晶粒画像と(図4(a))、点設定部103により設定される点(二重点及び三重点)iと(図4(b))、ライン設定部104、粒界設定部105により設定されるラインp、粒界u(図4(c))の一例を示す図である。尚、説明の都合上、図4(b)、図4(c)では、図4(a)に示す結晶粒画像31に含まれる多数の結晶粒Aのうち、破線で囲まれた結晶粒A1に対して設定された点i、ラインp、粒界uのみを示している。
【0024】
図4(a)に示すようにして結晶粒画像41が表示されると、ユーザは、マウス等の操作装置3000を用いて、粒界uの両端点に対応する位置を三重点iとして指定すると共に、粒界uの中間点の位置を二重点iとして指定する。そうすると、図4(b)に示すように、例えば、結晶粒A1に対して、二重点i2、i3、i5〜i8、i10〜i14、i16〜i18と、三重点i1、i4、i9、i15とが設定される。
【0025】
そして、これら二重点及び三重点i1〜i18に基づいて、図4(c)に示すように、ラインp1〜p18と、粒界u1〜u4とが設定される。ここで、例えば、ラインp1は、三重点i1と二重点i18とにより特定される。また、粒界u1は、三重点i1、i15を両端として相互に接続されるラインp1〜p4により特定される。
尚、図4(c)に示すように、粒界u1は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u2は、結晶粒A1、A5の粒界であり、粒界u3は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u4は、結晶粒A1、A3の粒界である。
【0026】
解析温度設定部106は、予測対象の鋼板(結晶粒A)の解析温度τ(t)[℃]を、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、解析温度設定部106が取得する解析温度τ(t)は、時間に依らない一定値であっても、時間に依存する値であっても(解析温度τ(t)が時間の経過と共に変化するようにしても)よい。本実施形態では、この解析温度τ(t)が焼鈍条件となる。
【0027】
方位設定部107は、結晶画像取得部101により取得された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。本実施形態では、結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号は、オイラー角(φ1、Φ、φ2)で定まる方位の情報であるとする。
【0028】
粒界エネルギー記憶部108は、例えば、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度τ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図4(c)に示した粒界u1における「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」は、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A1の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により設定された解析温度τ(t)とに対応した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」を、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、以下の説明では、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、必要に応じて粒界エネルギーγと略称する。また、粒界エネルギー記憶部108は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0029】
粒界エネルギー設定部109は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0030】
易動度記憶部110は、易動度Mi[cm2/(V・sec)]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度τ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図4(c)に示した粒界u1における易動度Miは、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに対応した易動度Miを、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、易動度記憶部110は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0031】
易動度設定部111は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0032】
解析時間設定部112は、例えば、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、解析完了時間T[sec]を取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。そして、解析時間設定部112は、解析完了時間Tが経過するまで、時間tを監視する。本実施形態では、解析完了時間Tは、焼鈍が完了する時間に対応する。
解析点判別部113は、点設定部103により設定された全ての点(二重点及び三重点)iを、計算対象の点として、重複することなく順番に指定する。そして、解析点判別部113は、指定した点iが、二重点であるのか、それとも三重点であるのかを判別する。
【0033】
二重点用駆動力計算部114は、解析点判別部113により、計算対象の点iが二重点であると判別された場合に、その二重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。図5は、二重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。図5では、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。
【0034】
図5において、二重点iと、その二重点に隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率半径をRi(t)[m]とする。また、二重点iが属する粒界uの粒界エネルギーの大きさ(絶対値)をγiとする。そうすると、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさは、以下の(1)式で表される。また、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向は、二重点iから曲率中心Oに向かう方向である。
【0035】
【数1】
【0036】
(1)式を用いて、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を求めるために、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。次に、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iに属する粒界uの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー設定部109から取得する。
【0037】
そして、二重点用駆動力計算部114は、曲率半径Ri(t)と、粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。
【0038】
図3の説明に戻り、三重点用駆動力計算部115は、解析点判別部113により、計算対象の点iが三重点であると判別された場合に、その三重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。図6は、三重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。尚、図6では、三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。また、図6では、三重点iに隣接する3つの点を夫々「1」、「2」、「3」で表記している。
【0039】
まず、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。また、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー設定部109から取得する。
そして、三重点用駆動力計算部115は、粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、以下の(2)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
【0040】
【数2】
【0041】
尚、(2)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
このように、本実施形態では、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、計算対象の三重点iから、その三重点iに隣接する点に向かう方向を有する3つのベクトルDi1(t)、Di2(t)、Di3(t)のベクトル和が、三重点iに生じる駆動力Fi(t)として計算される。
【0042】
図3の説明に戻り、位置計算部116は、二重点iと三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する。まず、二重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、二重点用駆動力計算部114により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。また、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miを、易動度設定部111から取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の二重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、以下の(3)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0043】
【数3】
【0044】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の二重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、予測対象となる鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0045】
【数4】
【0046】
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0047】
次に、三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から取得する。
【0048】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。具体的に、位置計算部116は、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)と、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3とを、以下の(5)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。
【0049】
【数5】
【0050】
尚、(5)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
また、位置計算部116は、三重点用駆動力計算部115により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の三重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、前述した(3)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0051】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、前述した(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の三重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、前述したように、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、予測対象の鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0052】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0053】
解析時間設定部112は、位置計算部116において、解析完了時間Tが経過したとき、又は解析完了時間Tが経過した後の位置ri(t+Δt)が、位置計算部116に計算されたか否かを判定することによって、解析完了時間Tまで解析が終了したか否かを判定する。
【0054】
結晶粒情報生成部117は、時間tが0(すなわち焼鈍前)における結晶粒情報と、時間tが解析完了時間T(すなわち焼鈍後)における結晶粒情報と、を生成する。
焼鈍前における結晶粒情報について説明する。
まず、結晶粒情報生成部117は、EBSP法で得られた結晶粒画像に対して粒界設定部105で設定された粒界に基づいて、各結晶粒の番号(結晶粒番号I)を、焼鈍前の結晶粒情報として設定する。また、結晶粒情報生成部117は、EBSP法で得られた「各結晶粒のオイラー角(φ1、Φ、φ2)」を、焼鈍前の結晶粒情報とし、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。また、結晶粒情報生成部117は、点設定部103で得られた「結晶粒画像に対する点(二重点及び三重点)の初期位置ri(0)」に基づいて、結晶粒画像に対する点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)を、焼鈍前の結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
【0055】
次に、焼鈍後における結晶粒情報について説明する。
まず、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」に基づき粒界設定部105で設定された粒界の情報から、焼鈍後に形成されている各結晶粒Aに対して、結晶粒番号Iを割り当て、この結晶粒番号Iを結晶粒情報として設定する。
また、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」に基づいて、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「解析完了時間Tにおける点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)」を結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
また、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」と、そのベクトルに基づいて粒界設定部105で設定された粒界の情報とを用いて、結晶粒番号Iの結晶粒Aのオイラー角(φ1、Φ、φ2)を、結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
【0056】
図7は、結晶粒情報記憶部200における結晶粒情報の記憶構造の一例を概念的に示す図である。
図7に示すように、結晶粒情報は、結晶粒番号Iと、結晶粒番号Iの結晶粒の3次元方位を示すオイラー角と、結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)とが相互に関連付けられたものである。尚、結晶粒番号Iは、整数であり、1から昇順に付けられるものとする。
ここで、結晶粒Aの点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)は、任意の点から一定の方向(ここでは反時計回りの方向)に順番に結晶粒情報記憶部200に記憶されるようにする。図4に示す例では、結晶粒情報生成部117は、結晶粒A1に含まれる二重点及び三重点の位置の情報として、三重点i1、二重点i2、i3、・・・の位置の座標を、この順番で結晶粒情報記憶部200に記憶するようにしている。
【0057】
次に、図8のフローチャートを参照しながら、結晶粒分布解析部100が行う処理動作の一例を説明する。尚、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、図8に示すフローチャートの処理が開始される。
【0058】
まず、図8−1のステップS1において、結晶画像取得部101は、予測対象の鋼板の結晶の画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されるまで待機する。予測対象の鋼板の結晶の画像信号(結晶粒画像信号)と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されると、ステップS2に進む。
【0059】
ステップS2に進むと、結晶画像表示部102は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像41を、表示装置2000に表示させる。このとき、結晶画像表示部102は、予測対象の鋼板の焼鈍条件の一例である解析温度τ(t)と、解析完了時間Tとの入力をユーザに促すための画像も表示装置2000に表示させる。ここでは、解析温度τ(t)と、解析完了時間Tとが順次入力された後に、結晶粒画像41を参照しながらユーザが点(二重点又は三重点)iを指定できるようにする場合を例に挙げて説明する。
【0060】
次に、ステップS3において、解析温度設定部106は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が入力されるまで待機する。そして、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が入力されると、ステップS4に進む。ステップS4に進むと、解析温度設定部106は、入力された予測対象の鋼板の解析温度τ(t)を、RAM又はハードディスクに設定する。尚、図8のフローチャートでは、説明を簡単にするために、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が、一定値である場合を例に挙げて説明する。
【0061】
次に、ステップS5において、解析時間設定部112は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、解析完了時間Tが入力されるまで待機する。そして、解析完了時間Tが入力されると、ステップS6に進む。ステップS6に進むと、解析時間設定部112は、入力された解析完了時間Tを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS7において、点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像に対して、点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。点(二重点又は三重点)iが指定されると、ステップS8に進む。ステップS8に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0062】
次に、ステップS9において、点設定部103は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、点(二重点又は三重点)iを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS7に戻り、既に指定された点(二重点又は三重点)iと別の点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。
一方、点iを指定する作業の終了指示がなされた場合には、ステップS10に進む。ステップS10に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点(二重点又は三重点)iの数(すなわち、ステップS7の処理を行った回数)Nを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0063】
次に、ステップS11において、ライン設定部104は、ステップS8で設定された点(二重点又は三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、ライン設定部104は、ラインpを、そのラインpを特定する2つの点iにより定義する。例えば、図4(c)に示したラインp1は、以下の(6)式のように定義される。
p1={i1,i2} ・・・(6)
【0064】
次に、ステップS12において、粒界設定部105は、ステップS11で設定されたラインpのうち、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、粒界設定部105は、粒界uを、その粒界uを特定する複数のラインpにより定義する。例えば、図4(c)に示した粒界u1は、以下の(7)式のように定義される。
u1={p1,p2,p3,p4} ・・・(7)
【0065】
次に、ステップS13において、方位設定部107は、ステップS1で入力されたと判定された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS14において、粒界エネルギー設定部109は、ステップS13で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0066】
次に、ステップS15において、易動度設定部111は、ステップS14で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度τ(t)とに基づいて、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの易動度Miを読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0067】
次に、図8−2のステップS16において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS17において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。
【0068】
次に、ステップS18において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、二重点か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、二重点でなく、三重点である場合には、後述するステップS31に進む。一方、計算対象の点iが、二重点である場合には、ステップS19に進む。
ステップS19に進むと、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点に隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。
【0069】
次に、ステップS20において、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iに属する粒界uの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー設定部109から読み出す。
次に、ステップS21において、二重点用駆動力計算部114は、ステップS19で計算した曲率半径Ri(t)と、ステップS20で読み出した粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。
【0070】
また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、ステップS19で計算した曲率中心Oとから、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。これにより、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルが得られる。
【0071】
次に、ステップS22において、位置計算部116は、計算対象の点(二重点)iが属する粒界uに対応する易動度Miを、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS23において、位置計算部116は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
【0072】
次に、ステップS24において、位置計算部116は、ステップS21(又は後述するステップS31)で得られた「計算対象の点(二重点又は三重点)iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS22で読み出された「計算対象の点(二重点又は三重点)iが属する粒界uの易動度Mi」とを、(3)式に代入して、計算対象の点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
【0073】
次に、ステップS25において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数Nより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数Nより小さい場合には、時間t+Δtにおける位置を、ステップS8で設定された全ての点iについて計算していないと判定し、ステップS26に進む。
【0074】
ステップS26に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS18以降の処理を再度行う。
一方、ステップS25において、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数N以上であると判定された場合には、時間t+Δtにおける位置を、ステップS8で設定された全ての点iについて計算したと判定し、ステップS27に進む。
【0075】
ステップS27に進むと、位置計算部116は、計算対象の点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。これにより、計算対象の点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定(又は更新)される。
次に、ステップS28において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)には、ステップ29に進む。ステップS29に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。そして、ステップS17以降の処理を再度行い、更新した時間tから時間Δtが経過した場合の点iの位置ri(t+Δt)を計算する。
【0076】
一方、ステップS28において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいと判定され場合(解析完了時間Tが経過した場合)には、ステップS30に進む。ステップS30に進むと、結晶粒情報生成部117は、時間tが0(ゼロ)における各結晶粒A(結晶粒番号I)の「方位(オイラー角)と点の座標」を焼鈍前の結晶粒情報として作成する。また、結晶粒情報生成部117は、時間tがTにおける各結晶粒A(結晶粒番号I)の「方位(オイラー角)と点の座標」を、焼鈍後の結晶粒情報として生成し、結晶粒情報記憶部200に記憶させる。そして、図6のフローチャートを終了する。
【0077】
ステップS18において、計算対象の点iが、二重点ではなく、三重点であると判定された場合には、ステップS31に進む。ステップS31に進むと、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー設定部109から読み出す。
また、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。
【0078】
次に、ステップS32において、三重点用駆動力計算部115は、ステップS31で読み出した「粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ」と、ステップS31で計算した「計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル」とを(2)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
【0079】
次に、ステップS33において、計算対象の点(三重点)iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS34において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、(5)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。尚、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルは、ステップS31で計算されたものを使用することができる。そして、前述したステップS23以降の処理を行い、時間t+Δtにおける三重点iの位置ri(t+Δt)のベクトルを前述したようにして計算する。
【0080】
尚、ステップS3で入力される解析温度τ(t)が時間に依存する場合、例えば、ステップS29の後に、ステップS29で設定された時間t+Δtにおける解析温度τ(t+Δt)を読み出し、その解析温度τ(t+Δt)における粒界エネルギーγと易動度Miとを再設定してから、ステップS17以降の処理を行うようにすればよい。
【0081】
[B−H曲線記憶部300、磁気特性演算部400]
図9は、磁気特性演算部400の機能構成の一例を示すブロック図である。
図9において、結晶粒情報取得部401は、結晶粒分布解析部100によって解析完了時間Tにおける(焼鈍後の)結晶粒情報が得られると、結晶粒情報記憶部200から、焼鈍前後における結晶粒情報を読み出す(図7を参照)。すなわち、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁気特性を演算する場合、結晶粒情報取得部401は、前述した焼鈍前における結晶粒情報を読み出す。一方、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁気特性を演算する場合、結晶粒情報取得部401は、前述した焼鈍後における結晶粒情報を読み出す。
【0082】
図10は、材料座標系と結晶座標系の一例を示す図である。本実施形態では、図10に示すように、材料座標系xyzのx軸を圧延方向(RD)に対応させ、y軸を板幅方向(TD)に対応させ、z軸を板厚方向(ND)に対応させる。また、結晶座標系XYZのX軸を<100>方向に対応させ、Y軸を<010>方向に対応させ、Z軸を<001>方向に対応させる。そして、結晶座標系XYZのオイラー角を(φ1、Φ、φ2)とする。このように本実施形態では、オイラー角を、Bungeによる手法で表記する。
【0083】
B−H曲線取得部402は、ユーザが操作装置3000を操作することによってB−H曲線記憶部300に予め記憶された「<100>方向における鉄の単結晶のB−H曲線」を読み出す。図11は、B−H曲線記憶部300に記憶されているB−H曲線の一例を概念的に示す図である。本実施形態では、無方向性電磁鋼板を予測対象の鋼板としている。そこで、本実施形態では、<100>方向における鉄の単結晶のB−H曲線をB−H曲線記憶部300に記憶している。B−H曲線記憶部300は、B−H曲線を、式として記憶していてもよいし、テーブルとして記憶していてもよい。
【0084】
ユーザは、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向とを1つずつ入力する。磁界設定部403は、このユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさ」と、「当該磁界Hの方向と予測対象の鋼板の圧延方向(RD)とのなす角度θ」とを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する(後述する図14を参照)。尚、以下の説明では、「磁界Hの方向と予測対象の鋼板の圧延方向(RD)となす角度θ」を、必要に応じて、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」と称する。尚、磁気特性として、B50を導出する場合には、磁界Hの大きさとして、5000[A/m]が設定される。また、磁界と圧延方向とのなす角度θの範囲は、0°≦θ≦180°である。
【0085】
結晶粒選択部404は、結晶粒情報取得部401により取得された結晶粒情報に含まれる結晶粒番号Iを昇順に順次選択する。
磁化容易軸導出部405は、結晶粒選択部404で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aの結晶座標系において、予測対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い所定の軸の情報を磁化容易軸の情報として導出する。
具体的に本実施形態では、まず、結晶粒選択部404で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、結晶座標系XYZにおけるX軸方向(<100>方向)と、磁界Hの方向とのなす角度αを導出する。尚、以下の説明では、「結晶座標系XYZにおけるX軸方向(<100>方向)と、磁界Hの方向とのなす角度α」を、必要に応じて、「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」と称する。
【0086】
図12は、無方向性電磁鋼板の基本単位格子(図12(a))と、基本単位格子の1つの頂点がとり得る結晶座標系XYZ(図12(b)〜図12(d))の一例を示す図である。
本実施形態では、予測対象の鋼板を無方向性電磁鋼板としている。無方向性電磁鋼板は、bcc(体心立方格子)を有するので、図12(a)に示す基本単位格子の8つの頂点1201〜1208に結晶座標系XYZを設けることができる。そして、図12(b)〜図12(d)に示すように、1つの頂点1201に対して、結晶座標系XYZとして3通りの座標系を取ることができる。このことは、他の頂点1202〜1208についても同じである。したがって、無方向性電磁鋼板の結晶粒Aの結晶座標系XYZとして、24(=3×8)通りの座標系で表現することができる。
【0087】
本実施形態では、磁化容易軸導出部405は、これら24個の結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」を導出する。そして、磁化容易軸導出部405は、導出した24個の「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択する。尚、以下の説明では、この角度αminを、必要に応じて「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」と称する。
図13を参照しながら、このようにして、「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」を求める理由を説明する。図13は、結晶粒Aにおける結晶座標系XYZと、材料座標系xyzと、結晶粒Aに与えられる磁界Hとの関係の一例を示す図である。
図13において、X軸、Y軸、Z軸の何れもが磁化容易軸の候補となり得る。したがって、結晶粒Aにおける結晶座標系XYZと、材料座標系xyzと、結晶粒Aに与えられる磁界Hとの関係が、図13に示す関係である場合、予測対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い磁化容易軸を導出しようとする場合、磁界Hの方向とのなす角度が最も小さい軸を磁化容易軸として選択することになる。したがって、本実施形態では、磁化容易軸の誤検出を防止するために、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択するようにしている。
【0088】
具体的に、磁化容易軸導出部405は、以下の(8)式によって、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α((8)式では、2つのベクトルa、bのなす角度)を導出し、この角度αのうち最も小さい角度αminを導出するようにしている。すなわち、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける磁化容易軸のうち、磁界Hの方向の方向余弦が最も大きくなる軸を、計算対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い磁化容易軸として導出するようにしている。
【0089】
【数6】
【0090】
尚、(8)式の最初の右辺の分子の「・」は内積を示す。
ここで、xH、yH、zHは、材料座標系xyzにおいて磁界Hの方向を示す単位ベクトルで、それぞれ以下の(9)式〜(11)式で表される。
xH=cos(θ) ・・・(9)
yH=sin(θ) ・・・(10)
zH=0 ・・・(11)
また、x100、y100、z100は、材料座標系xyzにおいて結晶座標系XYZの各軸の方向を表す単位ベクトルであり、それぞれ以下の(12)式〜(14)式で表される。
x100=cos(φ1)×cos(φ2)−sin(φ1)×sin(φ2)×cos(Φ) ・・・(12)
y100=sin(φ1)×cos(φ2)+cos(φ1)×sin(φ2)×cos(Φ) ・・・(13)
z100=sin(φ2)×sin(Φ) ・・・(14)
【0091】
図9の説明に戻り、磁界成分導出部406は、磁界設定部403で設定された「磁界Hの大きさ」と、磁化容易軸導出部405で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、以下の(15)式に代入して、磁界Hの磁化容易軸方向(<100>方向)の成分H<100>を導出する。
H<100>=Hcos(αmin) ・・・(15)
磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>は、概念的には図14に示すようになる。尚、磁気特性として、B50を導出する場合には、(15)式において、Hは、5000[A/m]となる。
【0092】
磁化容易軸方向磁束密度導出部407は、B−H曲線取得部402で取得されたB−H曲線(図11を参照)から、磁界成分導出部406で導出された「磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>」に対応する「磁化容易軸方向(<100>方向)の磁束密度B<100>」を導出する。B−H曲線において、あるHにおけるBをB(H)と表記すれば、B<100>は、以下の(16)式により導出される。
B<100>=B<100>(H<100>)=B<100>(Hcos(αmin)) ・・・(16)
磁界方向磁束密度導出部408は、磁化容易軸方向磁束密度導出部407で導出された「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」と、磁化容易軸導出部405で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、以下の(17)式に代入して、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。尚、ここでは、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)としてB50を導出するものとする。そして、磁界方向磁束密度導出部408は、導出した「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」を、RAM又はハードディスクに記憶する。
B<100>H=B<100>cos(αmin) ・・・(17)
磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hは、概念的には、図15に示すようになる。
【0093】
尚、本実施形態では、B−H曲線として、予測対象の鋼板を構成する材料として、無方向性電磁鋼板そのものではなく、鉄の単結晶のB−H曲線を用いている。そこで、磁界方向磁束密度導出部408は、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、無方向性電磁鋼板の種類に応じた補正情報を使って補正するようにしてもよい。この補正用の磁束密度は、例えば、無方向性電磁鋼板の飽和磁束密度と、鉄の飽和磁束密度との比に基づいて予め得ることができる。また、このようにする代わりに、鉄の単結晶のB−H曲線ではなく、予測対象の鋼板である無方向性電磁鋼板の単結晶のB−H曲線をB−H曲線記憶部300に記憶させるようにしてもよい。
【0094】
図9の説明に戻り、磁気特性導出部409は、結晶粒情報取得部401で取得された結晶粒情報に含まれる全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されると、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの焼鈍前(焼鈍後)の面積SIを、当該結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の焼鈍前(焼鈍後)の座標(粒界点座標)に基づいて導出する。
そして、磁気特性導出部409は、以下の(18)式に示すように、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、各結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行って、予測対象の鋼板の磁束密度Bを導出する(ここでは、B50を導出するものとする)。
【0095】
【数7】
【0096】
(18)式において、mは、結晶粒情報取得部401で取得された結晶粒情報に含まれる結晶粒番号Iの最大値である。
そして、磁気特性導出部409は、導出した「予測対象の鋼板の磁束密度B」を、ハードディスクに記憶する。以上のようにして、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度Bと、焼鈍後における磁束密度Bとが磁気特性として求められる。ここで、焼鈍後における磁束密度Bが、予測対象の鋼板をユーザによって指定された焼鈍条件で焼鈍した場合の磁束密度Bの予測値になる。
【0097】
また、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)から予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度B(B50)を減算して得られる差分ΔBを磁気特性として導出し、当該差分ΔBと、予測対象の鋼板の種類とを相互に関連付けてハードディスクに記憶する。
【0098】
さらに、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値を、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて入力し、ハードディスク等に記憶する。尚、磁束密度Bの測定は、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
そして、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度B(B50)の測定値に、差分ΔBを加算することにより、当該鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)の予測値を導出する。このようにして鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)の予測値を導出するようにすれば、同一種類の鋼板の磁束密度の測定値を入力すると、前述したような点(二重点及び三重点)の設定等を行うことなく、予測値を直ちに繰り返し導出することができる。
【0099】
磁気特性表示部410は、磁気特性導出部409で導出された「予測対象の鋼板の磁気特性」の情報を表示装置2000に表示させる。このとき、磁気特性表示部410は、焼鈍条件(解析温度τ(t))や、鋼板に与えた磁界Hの大きさや方向の情報等を、磁気特性の情報と共に表示装置2000に表示することができる。
【0100】
次に、図16のフローチャートを参照しながら、磁気特性演算部400が行う処理動作の一例を説明する。尚、図16のフローチャートは、図8に示したフローチャートによる処理が終了したら、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、自動的に開始されるものとする。また、ここでは、B−H曲線取得部402にB−H曲線が既に記憶されており、さらに、「磁界Hの大きさ」と「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とが既に磁界設定部403で設定されているものとする。
【0101】
まず、ステップS101において、結晶粒情報取得部401は、結晶粒情報記憶部200から、焼鈍前後における結晶粒情報を読み出す。尚、本実施形態では、まず、焼鈍前における結晶粒情報についての、以下のステップS102〜S114の処理と、焼鈍後における結晶粒情報についての、以下のステップS102〜S114の処理とを個別に行うことができるものとする。
次に、ステップS102において、B−H曲線取得部402は、B−H曲線記憶部300から、予測対象の鋼板に対応するB−H曲線を読み出す。
次に、ステップS103において、磁界設定部403は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界Hの大きさ」をRAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS104において、磁界設定部403は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」をRAM又はハードディスクに設定する。
【0102】
次に、ステップS105において、結晶粒選択部404は、結晶粒番号Iとして「1」を設定する。
次に、ステップS106において、磁化容易軸導出部405は、ステップS105で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度αを導出する。前述したように、本実施形態では、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度αは、24個導出される。
次に、ステップS107において、磁化容易軸導出部405は、ステップS106で導出された24個の「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択する。本実施形態では、このステップS107により、磁界Hの方向に最も近い所定の軸(ここでは<100>方向の軸)の情報が磁化容易軸の情報として導出される。
【0103】
次に、ステップS108において、磁界成分導出部406は、ステップS103で設定された「磁界Hの大きさ」と、ステップS107で選択された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、(15)式に代入して、磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出する。
次に、ステップS109において、磁化容易軸方向磁束密度導出部407は、ステップS102で読み出されたB−H曲線から、ステップS108で導出された「磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>」に対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を導出する。
【0104】
次に、ステップS110において、磁界方向磁束密度導出部408は、ステップS109で導出された「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」と、ステップS107で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、(17)式に代入して、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを導出する。
次に、ステップS111において、磁界方向磁束密度導出部408は、ステップS110で導出された「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H」を、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」としてRAM又はハードディスクに記憶する。
【0105】
次に、ステップS112において、結晶粒選択部404は、ステップS101で読み出された結晶粒情報に含まれる全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されたか否かを判定する。この判定の結果、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されていない場合には、ステップS113に進む。ステップS113に進むと、結晶粒選択部404は、結晶粒番号Iとして「I+1」を設定する(結晶粒番号Iをインクリメントする)。そして、ステップS106に戻り、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されるまで、ステップS106〜S113の処理を繰り返し行う。
【0106】
ステップS112において、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されたと判定されると、ステップS114に進む。ステップS114に進むと、磁気特性導出部409は、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの焼鈍前(焼鈍後)の面積SIを、当該結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の焼鈍前(焼鈍後)の座標(粒界点座標)に基づいて導出する。そして、磁気特性導出部409は、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、各結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行って、予測対象の鋼板の、焼鈍前と焼鈍後の磁束密度Bを磁気特性として導出する((18)式を参照)。
【0107】
また、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後から、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度Bを減算して、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度Bの差分ΔBを磁気特性として導出する。ここで、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値が入力された場合、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値に、当該鋼板に対応する差分ΔBを増減させて、当該鋼板の焼鈍後における磁束密度Bの予測値を導出する。
次に、ステップS115において、磁気特性表示部410は、ステップS114で導出された「予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度B」や「差分ΔB」や、「ユーザが所望する鋼板の焼鈍後における磁束密度Bの予測値」の情報を磁気特性として表示装置2000に表示させる。
【0108】
以上のように本実施形態では、予測対象の鋼板の結晶粒Aの粒界uの両端点に対応する三重点iに生じる駆動力Fi(t)と、結晶粒Aの中間点に対応する二重点iに生じる駆動力Fi(t)とを、解析温度τ(t)に依存する「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]を用いて計算し、計算した駆動力Fi(t)に基づいて、三重点及び二重点iの位置がどのように移動するかを計算することによって、焼鈍後における結晶粒Aの分布を解析した。したがって、結晶粒A(粒界u)の形状を出来るだけ正確に再現できるモデルを容易に構築することができる。よって、焼鈍後の結晶粒Aの分布を、従来よりも容易に且つ正確に解析(予測)することが可能になる。
【0109】
そして、焼鈍後の結晶粒Aの分布が解析されると、以下のようにして、予測対象の鋼板の磁化容易軸(<100>)方向における磁束密度Bを導出する。まず、解析された「焼鈍後の各結晶粒A」の結晶座標系XYZにおける<100>方向の情報として、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを導出する。次に、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを用いて、焼鈍後の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、それに対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を、予め記憶しておいた「予測対象の鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線」から導出する。次に、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを用いて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。最後に、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行い、その結果を予測対象の鋼板の磁界Hの方向における磁束密度Bとする。したがって、焼鈍後の鋼板の磁束密度Bを、複雑な計算を行うことなく、正確に演算(予測)することができる。ここで、本実施形態では、予測対象の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、予測対象の鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線を用いて、磁化容易軸方向の磁束密度B<100>を導出することにより、結晶粒の構造が多磁区構造であるとして取り扱うことができる。したがって、予測対象の鋼板のそれぞれの結晶粒の構造が単磁区構造ではない場合であっても、当該鋼板の磁束密度を正確に計算することができる。一方、非特許文献1の記載の技術では、鋼板のそれぞれの結晶粒の構造が単磁区構造であるとしているので、磁化容易軸方向の磁束密度B<100>は飽和領域の値となる。よって、非特許文献1に記載の技術では、このような飽和領域以外の磁束密度を正確に計算することが困難である。
【0110】
尚、本実施形態では、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択するようにした。しかしながら、磁界Hの方向に最も近い所定の軸を磁化容易軸として導出するようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の、(19)式〜(27)式で得られる、3つのベクトル(u v w)、(p q r)、(h k l)と、(−u −v −w)、(−p −q −r)、(−h −k −l)と磁界Hとのなす角度を求め、求めた6個の角度のうち、最も小さい角度を求めるようにしてもよい。
u=cosφ1×cosφ2−sinφ1×sinφ2×cosΦ ・・・(19)
v=cosφ1×sinφ2−sinφ1×cosφ2×cosΦ ・・・(20)
w=sinφ1×sinΦ ・・・(21)
p=sinφ1×cosφ2+cosφ1×sinφ2×cosΦ ・・・(22)
q=sinφ1×sinφ2+cosφ1×cosφ2×cosΦ ・・・(23)
r=cosφ1×sinΦ ・・・(24)
h=sinφ2×sinΦ ・・・(25)
k=cosφ2×sinΦ ・・・(26)
l=cosΦ ・・・(27)
尚、(19)式〜(27)式は、Bungeの式であり、(u p h)、(v q k)、(w r l)は、それぞれ、結晶座標系XYZのX軸、Y軸、Z軸を材料座標系xyzで方向余弦として表現したものである。
【0111】
また、本実施形態では、焼鈍前後における磁束密度Bを導出するようにしたが、これに加えて、焼鈍中の磁束密度Bを導出するようにしてもよい。焼鈍中の磁束密度Bを求める場合には、結晶粒分布解析部100で得られた焼鈍中の情報を使って、焼鈍後のときと同様に結晶粒情報を得ることができる。そして、この結晶粒情報を使用して、前述したのと同様の処理を磁気特性演算部400で行うことにより、予測対象の鋼板の焼鈍中における磁界Hの方向の磁束密度Bを導出することができる。
また、本実施形態では、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度の差分ΔBを導出する際に、焼鈍前における磁気特性を磁気特性演算部400で演算して求める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、焼鈍前における磁気特性の演算値の代わりに、測定値を用いるようにしてもよい。
【0112】
また、本実施形態では、ユーザが、結晶粒画像41を見ながら、操作装置3000を使用して、点iを指定する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、EBSP法で解析することにより得られた結晶粒画像信号に基づいて、結晶粒分布解析部100(コンピュータ)が自動的に、点iを指定するようにしてもよい。この場合、粒界uの長さに応じて二重点iの数を異ならせたり、粒界uの曲率に応じて二重点iの数を異ならせたり(例えば、直線的な部分よりも凸凹している部分に多くの二重点iを指定したり)することができる。
【0113】
また、本実施形態では、粒界設定部105により、粒界uを定義するようにしたが、点i、ラインp、及び結晶粒Aを用いれば、粒界uは自ずと定まるので、必ずしも粒界uを定義する必要はない。
また、本実施形態では、粒界エネルギー設定部109、易動度設定部111は、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値に基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしたが、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξそのものに基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしてもよい。
また、図8−2のフローチャートにおいて、ステップS29で時間を更新しているので、計算負荷を軽減するために、ステップS27の処理を行わないようにしてもよい。
【0114】
また、本実施形態では、(5)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしたが、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを求めるようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の(28)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしてもよい。
【0115】
【数8】
【0116】
尚、予測対象の鋼板が異なる場合には、粒界エネルギー記憶部108や易動度記憶部110に記憶されるグラフ等の内容等、結晶粒分布解析部100で使用される情報や、B−H曲線記憶部300に記憶されるB−H曲線等、磁気特性演算部400で使用される情報が、鋼板の種類に応じて異なることになる。
【0117】
また、本実施形態では、焼鈍条件が、焼鈍温度として設定される解析温度τ(t)と、焼鈍時間として設定される解析完了時間Tである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、焼鈍条件は、焼鈍後の平均結晶粒径であってもよい。ここで、平均結晶粒径(直径)は、例えば、以下のようにして求められる。結晶粒の移動の計算対象となっている領域の面積を、当該領域に含まれる結晶粒の数で割り、その値を更にπで割った値の平方根をとって2倍することにより得られる。尚、平均結晶粒径の求め方はこのような方法でなくてもよい。
また、このように、焼鈍条件を、焼鈍後の平均結晶粒径とする場合には、例えば、図8−2のステップS27、S28の間で、計算対象の点iの位置ri(t)を示すベクトルの更新値に基づき、例えば前述したようにして平均結晶粒径を求める。そして、ステップS28の代わりに、計算した平均結晶粒径が、焼鈍後の平均結晶粒径として予め設定された値よりも大きいか否かを判定する。この判定の結果、計算した平均結晶粒径が、焼鈍後の平均結晶粒径として予め設定された値よりも大きい場合には、焼鈍が完了したとしてステップS30に進み、そうでない場合には、ステップS29に進むようにする。
【0118】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとが一定である場合について説明した。これに対し、本実施形態では、これらを変えて、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁気特性を演算する。このように本実施形態は、前述した第1の実施形態に対し、予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとを、変更する構成が追加されたものである。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図16に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0119】
本実施形態では、例えば、ユーザは、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向との少なくとも何れか一方を複数入力する。磁気特性演算部400の磁界設定部403は、このユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方を、複数設定することができる。また、このようにする代わりに、次のようにしてもよい。すなわち、まず、ユーザは、第1の実施形態と同様に、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向とを1つずつ入力する。そして、磁界設定部403は、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方について、ユーザが入力した値を、所定値ずつ増加(又は減少)させることにより、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方を、複数設定することができる。
【0120】
そして、このようにして設定された「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とに基づいて、第1の実施形態と同様に、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁束密度B(H,θ)を導出する。この磁束密度B(H,θ)は、磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとの少なくとも何れか一方に応じたものとなる。磁気特性導出部409で、或る「磁界Hの大きさ」と、或る「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とに基づいた「予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)」が導出されると、磁界設定部403は、設定した「『磁界Hの大きさ』と、『磁界と圧延方向とのなす角度θ』」の中に、磁束密度B(H,θ)を導出するために使用していないものがあるか否かを判定する。そして、使用していないものがある場合、磁界設定部403は、使用していないものの情報を、磁界成分導出部406に出力する。そして、前述した処理を行うことにより、磁界設定部403に設定された「『磁界Hの大きさ』と、『磁界と圧延方向とのなす角度θ』」の全てに基づいて、磁束密度B(H,θ)が導出される。したがって、本実施形態の磁気特性演算部では、図9に示した機能構成に対し、結晶粒選択部404から磁界設定部403に向かう矢印線が追加されたものになる。
【0121】
次に、図17のフローチャートを参照しながら、磁気特性演算部400が行う処理動作の一例を説明する。図17において、ステップS101〜S114は、図16に示したフローチャートによる処理が実行される。
図17のステップS114において、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されたと判定すると、ステップS201に進む。ステップS201に進むと、磁界設定部403は、磁界と圧延方向とのなす角度θを変えて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)を導出するか否かを判定する。すなわち、ユーザによって指定された「磁界と圧延方向とのなす角度θ」のうち、ステップS104で設定していない「磁界と圧延方向とのなす角度θ」があるか否かを判定する。この判定の結果、磁界と圧延方向とのなす角度θを変える場合には、ステップS104に戻り、磁界設定部403は、未設定の「磁界と圧延方向とのなす角度θ」を設定する。そして、磁界と圧延方向とのなす角度θの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されるまで、ステップS104〜S114、S201の処理を繰り返し行う。
【0122】
そして、磁界と圧延方向とのなす角度θの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されると、ステップS202に進む。ステップS202に進むと、磁界設定部403は、磁界Hの大きさを変えて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)を導出するか否かを判定する。すなわち、ユーザによって指定された「磁界Hの大きさ」のうち、ステップS103で設定していない「磁界Hの大きさ」があるか否かを判定する。この判定の結果、磁界Hの大きさを変える場合には、ステップS103に戻り、磁界設定部403は、未設定の「磁界Hの大きさ」を設定する。そして、磁界Hの大きさの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されるまで、ステップS103〜S114、S201、S202の処理を繰り返し行う。
【0123】
そして、磁界Hの大きさの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されると、ステップS203に進む。ステップS203に進むと、磁気特性表示部410は、ステップS114で導出された「予測対象の鋼板の磁気特性」の情報を表示装置2000に表示させる。例えば、磁気特性表示部410は、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)の大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとの関係を示すグラフや、磁束密度B(H,θ)の大きさと、磁界Hの大きさとの関係を示すグラフを表示装置2000に表示することができる。また、磁気特性表示部410は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍後における磁束密度B(H,θ)の予測値(大きさ)や、差分ΔBについても、同様のグラフを表示装置2000に表示することができる。
以上のようにすることによって、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、焼鈍後における鋼板のより詳細な磁気特性を自動的に、且つ、正確に予測(演算)することができる。
【0124】
尚、前述した本発明の各実施形態では、例えば、結晶画像取得部101を用いるにより結晶画像取得手段の一例が実現され、解析温度設定部106を用いるにより解析温度設定手段の一例が実現され、点設定部103を用いるにより粒界点設定手段の一例が実現され、粒界エネルギー設定部109を用いるにより粒界エネルギー設定手段の一例が実現され、二重点用駆動力計算部114及び三重点用駆動力計算部115を用いるにより駆動力演算手段の一例が実現され、位置計算部116を用いることにより位置演算手段の一例が実現される。また、例えば、結晶粒情報生成部117及び結晶粒情報取得部401を用いることにより結晶粒情報取得手段の一例が実現され、磁界設定部403を用いることにより磁界設定手段の一例が実現され、磁化容易軸導出部405を用いることにより磁化容易軸導出手段の一例が実現され、磁界成分導出部406、磁化容易軸方向磁束密度導出部407、磁界方向磁束密度導出部408、及び磁気特性導出部409を用いることにより磁束密度計算手段の一例が実現される。また、例えば、B−H曲線記憶部300及びB−H曲線取得部402を用いることによりB−H曲線取得手段の一例が実現され、B−H曲線記憶部300に記憶されているB−H曲線によりB−H曲線の一例が実現される。また、例えば、磁界成分導出部406を用いることにより磁界成分導出手段の一例が実現され、磁化容易軸方向磁束密度導出部407を用いることにより磁化容易軸方向磁束密度導出手段の一例が実現され、磁界方向磁束密度導出部408を用いることにより磁界方向磁束密度導出手段の一例が実現される。
【0125】
(実施例)
図18は、磁界と圧延方向とのなす角度θと、B50との関係の一例を示す図である。ここでは、JIS C 2552で規定される50A1300材について調査した。
図18において、計算結果は、第2の実施形態で説明したようにして演算(予測)された焼鈍後の無方向性電磁鋼板のB50を示す。また、測定結果は、計算結果で示すものと同一の条件で焼鈍した後の無方向性電磁鋼板に対して、実測したB50を示す。ここで、焼鈍条件としては、雰囲気は窒素ガス、保持温度は750[℃]、保持時間は2時間である。図18に示すように、測定結果と、計算結果とは概ね一致しており、EBSP法で得られる「焼鈍前の無方向性電磁鋼板の情報」があれば、その他の実測情報がなくても、焼鈍後の無方向性電磁鋼板のB50を正確に予測できることが分かる。
尚、ここでは、B50について示したが、予測する磁束密度はB50に限定するものではなく、例えば、B25についても、B50と同様に正確に予測できるものである。
【0126】
以上説明した本発明の実施形態のうち、CPUが実行する部分は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。上記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0127】
100 結晶粒分布解析部
200 結晶粒情報記憶部
300 B−H曲線記憶部
400 磁気特性演算部
1000 磁気特性予測装置
2000 表示装置
3000 操作装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性予測装置、磁気特性予測方法、及びコンピュータプログラムに関し、特に、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無方向性電磁鋼板等、軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、B50(磁界Hが5000[A/m]のときの磁束密度)等の磁気特性を推定する計算を行うことが実施されている。非特許文献1では、ベクトル法による三次元解析データを用いて、無方向性電磁鋼板の集合組織から、その磁気特性を計算するようにしている。この非特許文献1では、(1)それぞれの結晶粒においては、外部磁界の向きとのなす角が最も近い磁化容易軸に平行に磁化されていること、(2)相互に隣接し合う結晶粒の相互作用は無視できる程度に十分小さいこと、(3)結晶粒が単磁区構造であること、(4)板厚方向の集合組織が一定であること、の仮定の下で、無方向性電磁鋼板の磁気特性を計算している。
また、無方向性電磁鋼板を焼鈍して、無方向性電磁鋼板の結晶粒を成長させて、その磁気特性を改善することが行われている。本出願人が提案した特許文献1では、結晶の画像に対して、結晶粒の両端点・中間点に対応する三重点・二重点を設定し、それら三重点・二重点で発生する駆動力の時間変化を、その三重点・二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーと粒界易動度(温度に依存する)を用いて演算するようにしている。これにより、焼鈍による結晶(集合組織)の変化を正確に予測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−191125号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】立野一郎,「無方向性電磁鋼板の集合組織に基づく磁化の異方性」,鉄と鋼,1990年,第76巻,第1号,p.81−88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無方向性電磁鋼板等、軟磁性材料からなる鋼板は、B50(磁界Hが5000[A/m]のときの磁束密度)等の磁気特性で評価されることが多い。したがって、このような鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することができれば、より高品質の鋼板を製造するための指標を与えることができる。
【0006】
前述したように、非特許文献1に記載の技術では、それぞれの結晶粒の構造が単磁区構造であるとして計算を行っている。よって、それぞれの結晶粒の磁区構造が実際に単磁区構造に近い材料では、集合組織を持つ材料の磁気特性を計算することができるが、それぞれの結晶粒の構造が実際に単磁区構造と近似できない材料や、それぞれの結晶粒の構造が単磁区構造とならない条件(磁束密度の小さい条件(B25等))では、集合組織を持つ材料の磁気特性を正確に計算することができなかった。
また、特許文献1に記載の発明がなされるまでは、焼鈍による集合組織の変化を正確に予測することが困難であった。さらに、集合組織から磁気特性を演算(解析)する技術が確立されていなかった。
以上のことから、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、当該鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測することが困難であるという問題点があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、当該鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気特性予測装置は、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測装置であって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得手段と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定手段と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算手段と、前記駆動力演算手段により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算手段と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算手段による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得手段と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得手段前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定手段と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出手段と、磁束密度計算手段と、を有し、前記磁束密度計算手段は、前記磁界設定手段により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出手段と、前記磁界成分導出手段により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出手段と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出手段により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の磁気特性予測方法は、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測方法であって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程磁束密度計算工程と、を有し、前記磁束密度計算工程は、前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のコンピュータプログラムは、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、磁束密度計算工程と、をコンピュータに実行させ、前記磁束密度計算工程は、前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の集合組織(それぞれの結晶粒の配置と方位)を正確に予測し、且つ、その予測した集合組織(それぞれの結晶粒の配置と方位)に基づいて磁気特性を解析することができるので、軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性予測装置の全体構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示し、結晶画像表示部により取得される結晶粒画像と、点設定部により設定される点(二重点及び三重点)と、ライン設定部、粒界設定部により設定されるライン、粒界の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を示し、二重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【図6】本発明の第1の実施形態を示し、三重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【図7】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒情報記憶部における結晶粒情報の記憶構造の一例を概念的に示す図である。
【図8−1】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒分布解析部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図8−2】本発明の第1の実施形態を示し、図8−1に続くフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性演算部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【図10】本発明の第1の実施形態を示し、材料座標系と結晶座標系の一例を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態を示し、B−H曲線記憶部に記憶されているB−H曲線の一例を概念的に示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態を示し、無方向性電磁鋼板の単位格子と、単位格子の1つの頂点がとり得る結晶座標系の一例を示す図である。
【図13】本発明の第1の実施形態を示し、結晶粒における結晶座標系と、材料座標系と、結晶粒に与えられる磁界との関係の一例を示す図である。
【図14】本発明の第1の実施形態を示し、磁界の結晶座標系の<100>方向の成分の一例を概念的に示す図である。
【図15】本発明の第1の実施形態を示し、磁束密度の磁界の方向の成分の一例を概念的に示す図である。
【図16】本発明の第1の実施形態を示し、磁気特性演算部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図17】本発明の第2の実施形態を示し、磁気特性演算部が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【図18】本発明の第2の実施形態の実施例を示し、磁界と圧延方向とのなす角度と、B50との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
[磁気特性予測装置1000の全体構成]
図1は、磁気特性予測装置1000の全体構成の一例を示す図である。尚、磁気特性予測装置1000のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。そして、特に断りのない限り、図1に示す磁気特性予測装置1000の各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。
【0013】
図1において、磁気特性予測装置1000は、結晶粒分布解析部100と、結晶粒情報記憶部200と、B−H曲線記憶部300と、磁気特性演算部400と、を有している。
結晶粒分布解析部100は、磁気特性の予測対象となる鋼板の結晶(結晶粒)の情報を外部から入力し、焼鈍によって、当該結晶(結晶粒)の分布が、どのように変化するのかを解析するためのものである。尚、以下の説明では、「磁気特性の予測対象となる鋼板」を、必要に応じて「予測対象の鋼板」と称する。
結晶粒情報記憶部200は、予測対象の鋼板の、焼鈍前後における「多数の結晶粒により構成される集合組織」の情報(以下の説明では、この情報を、必要に応じて、結晶粒情報と称する)を記憶するためのものである。ここで、焼鈍前の結晶粒情報は、後述するようにEBSP法による測定で得られた結晶粒情報である。焼鈍後の結晶粒情報は、結晶粒分布解析部100による解析で得られた結晶粒情報である。
【0014】
B−H曲線記憶部300は、予測対象の鋼板の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線を外部から入力して、当該鋼板の種類と、当該B−H曲線とを相互に関連付けて記憶するためのものである。
尚、結晶粒情報記憶部200と、B−H曲線記憶部300は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
磁気特性演算部400は、予測対象の鋼板の各結晶粒が単結晶の集合体であるとして、結晶粒情報記憶部200により記憶された結晶粒情報と、B−H曲線記憶部300により記憶されたB−H曲線とを用いて、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁気特性を演算するためのものである。ここで、磁気特性としては、例えばB50が挙げられる。しかしながら、磁気特性は、磁束密度、透磁率、及びこれらから得られる物性値であれば、B50に限定されるものではない。
以下に、これら各部の詳細な説明を行う。
【0015】
[結晶粒分布解析部100、結晶粒情報記憶部200]
図2は、結晶粒分布解析部100で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。尚、図2では、説明の都合上、予測対象の鋼板の一例である無方向性電磁鋼板を構成する多数の結晶粒のうち、1つの結晶粒Aのみを示しているが、実際には、多数の結晶粒により無方向性電磁鋼板が形成されるということは言うまでもない。また、予測対象の鋼板は、軟磁性材料からなる鋼板であれば、無方向性電磁鋼板に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の結晶粒分布解析部では、図2に示すようにして、結晶粒をモデル化するようにしている。
まず、図2(a)に示すように、結晶粒Aの3つの粒界ua〜ucの両端点に対応する位置に三重点ia、ie、ifを設定し、粒界ua〜ucの中間点に対応する位置に二重点ib〜id、ig〜iiを設定する。ここで、三重点ia、ie、ifとは、3つの直線が交わる点をいい、二重点ib〜id、ig〜iiとは、2つの直線が交わる点をいう。そして、同一の粒界ua〜uc上で互いに隣接する点iを互いに結ぶ直線を設定する。
以上のように、本実施形態では、粒界ua〜ucの両端の位置だけでなく、粒界ua〜ucの途中の形状も出来るだけ忠実に表すことができるように、二重点ib〜id、ig〜iiを設定するようにしている。
【0017】
以上のようにしてモデル化された結晶の各点(二重点及び三重点)ia〜iiの夫々について、焼鈍中の時間tで生じる駆動力Fi(t)[N]を算出する。そして、算出した駆動力Fi(t)に基づいて、Δt[sec]が経過した後(時間t+Δt)における各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置を算出する。そうすると、図2(a)に示す各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置は、例えば、図2(b)に示す位置に移動する。
【0018】
本実施形態の結晶粒分布解析部では、以上のように、結晶粒Aに含まれる粒界ua〜ucの両端点に対応する三重点ia、ie、ifと、粒界ua〜ucの中間点に対応する二重点ib〜id、ig〜iiとの夫々に生じる駆動力Fi(t)を算出して、三重点ia、ie、ifと、二重点ib〜id、ig〜iiとが焼鈍中に移動する様子を解析する。これにより、例えば、図2(a)に示す結晶粒Aaが、図2(b)に示す結晶粒Abのように、時間の経過と共に変化する様子を、大きな計算負荷をかけることなく出来るだけ正確に解析することができる。
【0019】
以下に、結晶粒分布解析部100の構成について詳細に説明する。
図3は、結晶粒分布解析部100の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3において、結晶画像取得部101は、例えば、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法で得られた「予測対象の鋼板の結晶の画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξ(オイラー角(φ1、Φ、φ2))を示す信号」等を取得して、ハードディスク等に記憶するためのものである。尚、以下の説明では、予測対象の鋼板の結晶の画像を、必要に応じて、結晶粒画像と称する。
ここで、EBSP法は、後方散乱電子回折を利用して、結晶の方位を解析する手法である。電子プローブからの電子線を材料に照射すると、電子線が照射された部分の結晶方位に対応した電子回折パターンが得られる。この電子回折パターンから、方位解析を行いながら、電子プローブを材料上で走査すると、材料の各部における結晶の方位の情報が得られる。EBSP法の空間分解能は、数十nm程度である。これに対し、予測対象の鋼板である無方向性電磁鋼板の結晶粒の直径は、数十μm程度である。したがって、EBSP法を用いれば、結晶粒の形状の情報と、各結晶粒の方位の情報を正確に得ることができる。ここで、結晶粒の方位の情報として、材料座標系(圧延方向(RD)、板幅方向(TD)、板厚方向(ND)を軸とする3次元座標系)に対する結晶座標系(結晶主軸を軸とする3次元座標系)のオイラー角(φ1、Φ、φ2)の情報が得られる。オイラー角(φ1、Φ、φ2)については、図10を参照しながら後ほど別途説明する。
尚、結晶画像取得部101は、EBSP法による結晶分析を行う分析装置から、前述した信号を直接取得するようにしてもよいし、DVDやCD−ROM等のリムーバル記憶媒体から、前述した信号を間接的に取得してもよい。
【0020】
結晶画像表示部102は、例えば、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像の信号に基づく結晶粒画像を、表示装置2000に表示させる。尚、表示装置2000は、LCD(Liquid Crystal Display)等のコンピュータディスプレイを備えている。また、操作装置3000は、キーボードやマウス等のユーザインターフェースを備えている。
【0021】
点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像に対して、ユーザが操作装置3000を用いて指定した点(二重点及び三重点)iを取得し、取得した点(二重点及び三重点)iの数と、その点iの初期位置ri(0)を示すベクトルとを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、本実施形態では、ユーザは、点(二重点及び三重点)iの数と初期位置を、任意に指定することができるものとする。
また、点設定部103は、計算対象の点(二重点又は三重点)iにおけるΔt[sec]後の位置ri(t+Δt)を示すベクトルが、後述するようにして位置計算部116により計算されると、その点iの位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0022】
ライン設定部104は、点設定部103で設定された点(二重点及び三重点)iのうち、同一の粒界u上で相互に隣接する2つの点iにより特定されるラインpに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。このように、ラインpは、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iを両端とする直線である。
粒界設定部105は、ライン設定部104により設定されたラインpのうち、点設定部103により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
【0023】
図4は、結晶画像表示部102により取得される結晶粒画像と(図4(a))、点設定部103により設定される点(二重点及び三重点)iと(図4(b))、ライン設定部104、粒界設定部105により設定されるラインp、粒界u(図4(c))の一例を示す図である。尚、説明の都合上、図4(b)、図4(c)では、図4(a)に示す結晶粒画像31に含まれる多数の結晶粒Aのうち、破線で囲まれた結晶粒A1に対して設定された点i、ラインp、粒界uのみを示している。
【0024】
図4(a)に示すようにして結晶粒画像41が表示されると、ユーザは、マウス等の操作装置3000を用いて、粒界uの両端点に対応する位置を三重点iとして指定すると共に、粒界uの中間点の位置を二重点iとして指定する。そうすると、図4(b)に示すように、例えば、結晶粒A1に対して、二重点i2、i3、i5〜i8、i10〜i14、i16〜i18と、三重点i1、i4、i9、i15とが設定される。
【0025】
そして、これら二重点及び三重点i1〜i18に基づいて、図4(c)に示すように、ラインp1〜p18と、粒界u1〜u4とが設定される。ここで、例えば、ラインp1は、三重点i1と二重点i18とにより特定される。また、粒界u1は、三重点i1、i15を両端として相互に接続されるラインp1〜p4により特定される。
尚、図4(c)に示すように、粒界u1は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u2は、結晶粒A1、A5の粒界であり、粒界u3は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u4は、結晶粒A1、A3の粒界である。
【0026】
解析温度設定部106は、予測対象の鋼板(結晶粒A)の解析温度τ(t)[℃]を、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、解析温度設定部106が取得する解析温度τ(t)は、時間に依らない一定値であっても、時間に依存する値であっても(解析温度τ(t)が時間の経過と共に変化するようにしても)よい。本実施形態では、この解析温度τ(t)が焼鈍条件となる。
【0027】
方位設定部107は、結晶画像取得部101により取得された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。本実施形態では、結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号は、オイラー角(φ1、Φ、φ2)で定まる方位の情報であるとする。
【0028】
粒界エネルギー記憶部108は、例えば、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度τ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図4(c)に示した粒界u1における「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」は、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A1の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により設定された解析温度τ(t)とに対応した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」を、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、以下の説明では、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、必要に応じて粒界エネルギーγと略称する。また、粒界エネルギー記憶部108は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0029】
粒界エネルギー設定部109は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0030】
易動度記憶部110は、易動度Mi[cm2/(V・sec)]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度τ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図4(c)に示した粒界u1における易動度Miは、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに対応した易動度Miを、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、易動度記憶部110は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0031】
易動度設定部111は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0032】
解析時間設定部112は、例えば、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、解析完了時間T[sec]を取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。そして、解析時間設定部112は、解析完了時間Tが経過するまで、時間tを監視する。本実施形態では、解析完了時間Tは、焼鈍が完了する時間に対応する。
解析点判別部113は、点設定部103により設定された全ての点(二重点及び三重点)iを、計算対象の点として、重複することなく順番に指定する。そして、解析点判別部113は、指定した点iが、二重点であるのか、それとも三重点であるのかを判別する。
【0033】
二重点用駆動力計算部114は、解析点判別部113により、計算対象の点iが二重点であると判別された場合に、その二重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。図5は、二重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。図5では、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。
【0034】
図5において、二重点iと、その二重点に隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率半径をRi(t)[m]とする。また、二重点iが属する粒界uの粒界エネルギーの大きさ(絶対値)をγiとする。そうすると、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさは、以下の(1)式で表される。また、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向は、二重点iから曲率中心Oに向かう方向である。
【0035】
【数1】
【0036】
(1)式を用いて、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を求めるために、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。次に、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iに属する粒界uの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー設定部109から取得する。
【0037】
そして、二重点用駆動力計算部114は、曲率半径Ri(t)と、粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。
【0038】
図3の説明に戻り、三重点用駆動力計算部115は、解析点判別部113により、計算対象の点iが三重点であると判別された場合に、その三重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。図6は、三重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。尚、図6では、三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。また、図6では、三重点iに隣接する3つの点を夫々「1」、「2」、「3」で表記している。
【0039】
まず、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。また、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー設定部109から取得する。
そして、三重点用駆動力計算部115は、粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、以下の(2)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
【0040】
【数2】
【0041】
尚、(2)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
このように、本実施形態では、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、計算対象の三重点iから、その三重点iに隣接する点に向かう方向を有する3つのベクトルDi1(t)、Di2(t)、Di3(t)のベクトル和が、三重点iに生じる駆動力Fi(t)として計算される。
【0042】
図3の説明に戻り、位置計算部116は、二重点iと三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する。まず、二重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、二重点用駆動力計算部114により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。また、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miを、易動度設定部111から取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の二重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、以下の(3)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0043】
【数3】
【0044】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の二重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、予測対象となる鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0045】
【数4】
【0046】
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0047】
次に、三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から取得する。
【0048】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。具体的に、位置計算部116は、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)と、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3とを、以下の(5)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。
【0049】
【数5】
【0050】
尚、(5)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
また、位置計算部116は、三重点用駆動力計算部115により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の三重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、前述した(3)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0051】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、前述した(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の三重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、前述したように、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、予測対象の鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0052】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0053】
解析時間設定部112は、位置計算部116において、解析完了時間Tが経過したとき、又は解析完了時間Tが経過した後の位置ri(t+Δt)が、位置計算部116に計算されたか否かを判定することによって、解析完了時間Tまで解析が終了したか否かを判定する。
【0054】
結晶粒情報生成部117は、時間tが0(すなわち焼鈍前)における結晶粒情報と、時間tが解析完了時間T(すなわち焼鈍後)における結晶粒情報と、を生成する。
焼鈍前における結晶粒情報について説明する。
まず、結晶粒情報生成部117は、EBSP法で得られた結晶粒画像に対して粒界設定部105で設定された粒界に基づいて、各結晶粒の番号(結晶粒番号I)を、焼鈍前の結晶粒情報として設定する。また、結晶粒情報生成部117は、EBSP法で得られた「各結晶粒のオイラー角(φ1、Φ、φ2)」を、焼鈍前の結晶粒情報とし、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。また、結晶粒情報生成部117は、点設定部103で得られた「結晶粒画像に対する点(二重点及び三重点)の初期位置ri(0)」に基づいて、結晶粒画像に対する点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)を、焼鈍前の結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
【0055】
次に、焼鈍後における結晶粒情報について説明する。
まず、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」に基づき粒界設定部105で設定された粒界の情報から、焼鈍後に形成されている各結晶粒Aに対して、結晶粒番号Iを割り当て、この結晶粒番号Iを結晶粒情報として設定する。
また、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」に基づいて、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「解析完了時間Tにおける点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)」を結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
また、結晶粒情報生成部117は、解析完了時間Tにおいて点設定部103で設定された「点(二重点及び三重点)の位置ri(t+Δt)を示すベクトル」と、そのベクトルに基づいて粒界設定部105で設定された粒界の情報とを用いて、結晶粒番号Iの結晶粒Aのオイラー角(φ1、Φ、φ2)を、結晶粒情報として導出し、この情報を結晶粒番号Iに関連付ける。
【0056】
図7は、結晶粒情報記憶部200における結晶粒情報の記憶構造の一例を概念的に示す図である。
図7に示すように、結晶粒情報は、結晶粒番号Iと、結晶粒番号Iの結晶粒の3次元方位を示すオイラー角と、結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)とが相互に関連付けられたものである。尚、結晶粒番号Iは、整数であり、1から昇順に付けられるものとする。
ここで、結晶粒Aの点(二重点及び三重点)の座標(粒界点座標)は、任意の点から一定の方向(ここでは反時計回りの方向)に順番に結晶粒情報記憶部200に記憶されるようにする。図4に示す例では、結晶粒情報生成部117は、結晶粒A1に含まれる二重点及び三重点の位置の情報として、三重点i1、二重点i2、i3、・・・の位置の座標を、この順番で結晶粒情報記憶部200に記憶するようにしている。
【0057】
次に、図8のフローチャートを参照しながら、結晶粒分布解析部100が行う処理動作の一例を説明する。尚、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、図8に示すフローチャートの処理が開始される。
【0058】
まず、図8−1のステップS1において、結晶画像取得部101は、予測対象の鋼板の結晶の画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されるまで待機する。予測対象の鋼板の結晶の画像信号(結晶粒画像信号)と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されると、ステップS2に進む。
【0059】
ステップS2に進むと、結晶画像表示部102は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像41を、表示装置2000に表示させる。このとき、結晶画像表示部102は、予測対象の鋼板の焼鈍条件の一例である解析温度τ(t)と、解析完了時間Tとの入力をユーザに促すための画像も表示装置2000に表示させる。ここでは、解析温度τ(t)と、解析完了時間Tとが順次入力された後に、結晶粒画像41を参照しながらユーザが点(二重点又は三重点)iを指定できるようにする場合を例に挙げて説明する。
【0060】
次に、ステップS3において、解析温度設定部106は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が入力されるまで待機する。そして、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が入力されると、ステップS4に進む。ステップS4に進むと、解析温度設定部106は、入力された予測対象の鋼板の解析温度τ(t)を、RAM又はハードディスクに設定する。尚、図8のフローチャートでは、説明を簡単にするために、予測対象の鋼板の解析温度τ(t)が、一定値である場合を例に挙げて説明する。
【0061】
次に、ステップS5において、解析時間設定部112は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、解析完了時間Tが入力されるまで待機する。そして、解析完了時間Tが入力されると、ステップS6に進む。ステップS6に進むと、解析時間設定部112は、入力された解析完了時間Tを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS7において、点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像に対して、点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。点(二重点又は三重点)iが指定されると、ステップS8に進む。ステップS8に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0062】
次に、ステップS9において、点設定部103は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、点(二重点又は三重点)iを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS7に戻り、既に指定された点(二重点又は三重点)iと別の点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。
一方、点iを指定する作業の終了指示がなされた場合には、ステップS10に進む。ステップS10に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点(二重点又は三重点)iの数(すなわち、ステップS7の処理を行った回数)Nを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0063】
次に、ステップS11において、ライン設定部104は、ステップS8で設定された点(二重点又は三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、ライン設定部104は、ラインpを、そのラインpを特定する2つの点iにより定義する。例えば、図4(c)に示したラインp1は、以下の(6)式のように定義される。
p1={i1,i2} ・・・(6)
【0064】
次に、ステップS12において、粒界設定部105は、ステップS11で設定されたラインpのうち、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、粒界設定部105は、粒界uを、その粒界uを特定する複数のラインpにより定義する。例えば、図4(c)に示した粒界u1は、以下の(7)式のように定義される。
u1={p1,p2,p3,p4} ・・・(7)
【0065】
次に、ステップS13において、方位設定部107は、ステップS1で入力されたと判定された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS14において、粒界エネルギー設定部109は、ステップS13で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度τ(t)とに基づいて、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0066】
次に、ステップS15において、易動度設定部111は、ステップS14で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度τ(t)とに基づいて、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの易動度Miを読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0067】
次に、図8−2のステップS16において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS17において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。
【0068】
次に、ステップS18において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、二重点か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、二重点でなく、三重点である場合には、後述するステップS31に進む。一方、計算対象の点iが、二重点である場合には、ステップS19に進む。
ステップS19に進むと、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点に隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧51の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。
【0069】
次に、ステップS20において、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iに属する粒界uの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー設定部109から読み出す。
次に、ステップS21において、二重点用駆動力計算部114は、ステップS19で計算した曲率半径Ri(t)と、ステップS20で読み出した粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。
【0070】
また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、ステップS19で計算した曲率中心Oとから、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。これにより、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルが得られる。
【0071】
次に、ステップS22において、位置計算部116は、計算対象の点(二重点)iが属する粒界uに対応する易動度Miを、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS23において、位置計算部116は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
【0072】
次に、ステップS24において、位置計算部116は、ステップS21(又は後述するステップS31)で得られた「計算対象の点(二重点又は三重点)iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS22で読み出された「計算対象の点(二重点又は三重点)iが属する粒界uの易動度Mi」とを、(3)式に代入して、計算対象の点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
【0073】
次に、ステップS25において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数Nより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数Nより小さい場合には、時間t+Δtにおける位置を、ステップS8で設定された全ての点iについて計算していないと判定し、ステップS26に進む。
【0074】
ステップS26に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS18以降の処理を再度行う。
一方、ステップS25において、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数N以上であると判定された場合には、時間t+Δtにおける位置を、ステップS8で設定された全ての点iについて計算したと判定し、ステップS27に進む。
【0075】
ステップS27に進むと、位置計算部116は、計算対象の点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。これにより、計算対象の点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定(又は更新)される。
次に、ステップS28において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)には、ステップ29に進む。ステップS29に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。そして、ステップS17以降の処理を再度行い、更新した時間tから時間Δtが経過した場合の点iの位置ri(t+Δt)を計算する。
【0076】
一方、ステップS28において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいと判定され場合(解析完了時間Tが経過した場合)には、ステップS30に進む。ステップS30に進むと、結晶粒情報生成部117は、時間tが0(ゼロ)における各結晶粒A(結晶粒番号I)の「方位(オイラー角)と点の座標」を焼鈍前の結晶粒情報として作成する。また、結晶粒情報生成部117は、時間tがTにおける各結晶粒A(結晶粒番号I)の「方位(オイラー角)と点の座標」を、焼鈍後の結晶粒情報として生成し、結晶粒情報記憶部200に記憶させる。そして、図6のフローチャートを終了する。
【0077】
ステップS18において、計算対象の点iが、二重点ではなく、三重点であると判定された場合には、ステップS31に進む。ステップS31に進むと、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー設定部109から読み出す。
また、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。
【0078】
次に、ステップS32において、三重点用駆動力計算部115は、ステップS31で読み出した「粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ」と、ステップS31で計算した「計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル」とを(2)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
【0079】
次に、ステップS33において、計算対象の点(三重点)iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS34において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、(5)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。尚、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルは、ステップS31で計算されたものを使用することができる。そして、前述したステップS23以降の処理を行い、時間t+Δtにおける三重点iの位置ri(t+Δt)のベクトルを前述したようにして計算する。
【0080】
尚、ステップS3で入力される解析温度τ(t)が時間に依存する場合、例えば、ステップS29の後に、ステップS29で設定された時間t+Δtにおける解析温度τ(t+Δt)を読み出し、その解析温度τ(t+Δt)における粒界エネルギーγと易動度Miとを再設定してから、ステップS17以降の処理を行うようにすればよい。
【0081】
[B−H曲線記憶部300、磁気特性演算部400]
図9は、磁気特性演算部400の機能構成の一例を示すブロック図である。
図9において、結晶粒情報取得部401は、結晶粒分布解析部100によって解析完了時間Tにおける(焼鈍後の)結晶粒情報が得られると、結晶粒情報記憶部200から、焼鈍前後における結晶粒情報を読み出す(図7を参照)。すなわち、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁気特性を演算する場合、結晶粒情報取得部401は、前述した焼鈍前における結晶粒情報を読み出す。一方、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁気特性を演算する場合、結晶粒情報取得部401は、前述した焼鈍後における結晶粒情報を読み出す。
【0082】
図10は、材料座標系と結晶座標系の一例を示す図である。本実施形態では、図10に示すように、材料座標系xyzのx軸を圧延方向(RD)に対応させ、y軸を板幅方向(TD)に対応させ、z軸を板厚方向(ND)に対応させる。また、結晶座標系XYZのX軸を<100>方向に対応させ、Y軸を<010>方向に対応させ、Z軸を<001>方向に対応させる。そして、結晶座標系XYZのオイラー角を(φ1、Φ、φ2)とする。このように本実施形態では、オイラー角を、Bungeによる手法で表記する。
【0083】
B−H曲線取得部402は、ユーザが操作装置3000を操作することによってB−H曲線記憶部300に予め記憶された「<100>方向における鉄の単結晶のB−H曲線」を読み出す。図11は、B−H曲線記憶部300に記憶されているB−H曲線の一例を概念的に示す図である。本実施形態では、無方向性電磁鋼板を予測対象の鋼板としている。そこで、本実施形態では、<100>方向における鉄の単結晶のB−H曲線をB−H曲線記憶部300に記憶している。B−H曲線記憶部300は、B−H曲線を、式として記憶していてもよいし、テーブルとして記憶していてもよい。
【0084】
ユーザは、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向とを1つずつ入力する。磁界設定部403は、このユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさ」と、「当該磁界Hの方向と予測対象の鋼板の圧延方向(RD)とのなす角度θ」とを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する(後述する図14を参照)。尚、以下の説明では、「磁界Hの方向と予測対象の鋼板の圧延方向(RD)となす角度θ」を、必要に応じて、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」と称する。尚、磁気特性として、B50を導出する場合には、磁界Hの大きさとして、5000[A/m]が設定される。また、磁界と圧延方向とのなす角度θの範囲は、0°≦θ≦180°である。
【0085】
結晶粒選択部404は、結晶粒情報取得部401により取得された結晶粒情報に含まれる結晶粒番号Iを昇順に順次選択する。
磁化容易軸導出部405は、結晶粒選択部404で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aの結晶座標系において、予測対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い所定の軸の情報を磁化容易軸の情報として導出する。
具体的に本実施形態では、まず、結晶粒選択部404で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、結晶座標系XYZにおけるX軸方向(<100>方向)と、磁界Hの方向とのなす角度αを導出する。尚、以下の説明では、「結晶座標系XYZにおけるX軸方向(<100>方向)と、磁界Hの方向とのなす角度α」を、必要に応じて、「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」と称する。
【0086】
図12は、無方向性電磁鋼板の基本単位格子(図12(a))と、基本単位格子の1つの頂点がとり得る結晶座標系XYZ(図12(b)〜図12(d))の一例を示す図である。
本実施形態では、予測対象の鋼板を無方向性電磁鋼板としている。無方向性電磁鋼板は、bcc(体心立方格子)を有するので、図12(a)に示す基本単位格子の8つの頂点1201〜1208に結晶座標系XYZを設けることができる。そして、図12(b)〜図12(d)に示すように、1つの頂点1201に対して、結晶座標系XYZとして3通りの座標系を取ることができる。このことは、他の頂点1202〜1208についても同じである。したがって、無方向性電磁鋼板の結晶粒Aの結晶座標系XYZとして、24(=3×8)通りの座標系で表現することができる。
【0087】
本実施形態では、磁化容易軸導出部405は、これら24個の結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」を導出する。そして、磁化容易軸導出部405は、導出した24個の「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択する。尚、以下の説明では、この角度αminを、必要に応じて「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」と称する。
図13を参照しながら、このようにして、「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」を求める理由を説明する。図13は、結晶粒Aにおける結晶座標系XYZと、材料座標系xyzと、結晶粒Aに与えられる磁界Hとの関係の一例を示す図である。
図13において、X軸、Y軸、Z軸の何れもが磁化容易軸の候補となり得る。したがって、結晶粒Aにおける結晶座標系XYZと、材料座標系xyzと、結晶粒Aに与えられる磁界Hとの関係が、図13に示す関係である場合、予測対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い磁化容易軸を導出しようとする場合、磁界Hの方向とのなす角度が最も小さい軸を磁化容易軸として選択することになる。したがって、本実施形態では、磁化容易軸の誤検出を防止するために、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択するようにしている。
【0088】
具体的に、磁化容易軸導出部405は、以下の(8)式によって、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α((8)式では、2つのベクトルa、bのなす角度)を導出し、この角度αのうち最も小さい角度αminを導出するようにしている。すなわち、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける磁化容易軸のうち、磁界Hの方向の方向余弦が最も大きくなる軸を、計算対象の鋼板に与えられた磁界Hの方向に最も近い磁化容易軸として導出するようにしている。
【0089】
【数6】
【0090】
尚、(8)式の最初の右辺の分子の「・」は内積を示す。
ここで、xH、yH、zHは、材料座標系xyzにおいて磁界Hの方向を示す単位ベクトルで、それぞれ以下の(9)式〜(11)式で表される。
xH=cos(θ) ・・・(9)
yH=sin(θ) ・・・(10)
zH=0 ・・・(11)
また、x100、y100、z100は、材料座標系xyzにおいて結晶座標系XYZの各軸の方向を表す単位ベクトルであり、それぞれ以下の(12)式〜(14)式で表される。
x100=cos(φ1)×cos(φ2)−sin(φ1)×sin(φ2)×cos(Φ) ・・・(12)
y100=sin(φ1)×cos(φ2)+cos(φ1)×sin(φ2)×cos(Φ) ・・・(13)
z100=sin(φ2)×sin(Φ) ・・・(14)
【0091】
図9の説明に戻り、磁界成分導出部406は、磁界設定部403で設定された「磁界Hの大きさ」と、磁化容易軸導出部405で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、以下の(15)式に代入して、磁界Hの磁化容易軸方向(<100>方向)の成分H<100>を導出する。
H<100>=Hcos(αmin) ・・・(15)
磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>は、概念的には図14に示すようになる。尚、磁気特性として、B50を導出する場合には、(15)式において、Hは、5000[A/m]となる。
【0092】
磁化容易軸方向磁束密度導出部407は、B−H曲線取得部402で取得されたB−H曲線(図11を参照)から、磁界成分導出部406で導出された「磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>」に対応する「磁化容易軸方向(<100>方向)の磁束密度B<100>」を導出する。B−H曲線において、あるHにおけるBをB(H)と表記すれば、B<100>は、以下の(16)式により導出される。
B<100>=B<100>(H<100>)=B<100>(Hcos(αmin)) ・・・(16)
磁界方向磁束密度導出部408は、磁化容易軸方向磁束密度導出部407で導出された「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」と、磁化容易軸導出部405で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、以下の(17)式に代入して、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。尚、ここでは、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)としてB50を導出するものとする。そして、磁界方向磁束密度導出部408は、導出した「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」を、RAM又はハードディスクに記憶する。
B<100>H=B<100>cos(αmin) ・・・(17)
磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hは、概念的には、図15に示すようになる。
【0093】
尚、本実施形態では、B−H曲線として、予測対象の鋼板を構成する材料として、無方向性電磁鋼板そのものではなく、鉄の単結晶のB−H曲線を用いている。そこで、磁界方向磁束密度導出部408は、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、無方向性電磁鋼板の種類に応じた補正情報を使って補正するようにしてもよい。この補正用の磁束密度は、例えば、無方向性電磁鋼板の飽和磁束密度と、鉄の飽和磁束密度との比に基づいて予め得ることができる。また、このようにする代わりに、鉄の単結晶のB−H曲線ではなく、予測対象の鋼板である無方向性電磁鋼板の単結晶のB−H曲線をB−H曲線記憶部300に記憶させるようにしてもよい。
【0094】
図9の説明に戻り、磁気特性導出部409は、結晶粒情報取得部401で取得された結晶粒情報に含まれる全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されると、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの焼鈍前(焼鈍後)の面積SIを、当該結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の焼鈍前(焼鈍後)の座標(粒界点座標)に基づいて導出する。
そして、磁気特性導出部409は、以下の(18)式に示すように、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、各結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行って、予測対象の鋼板の磁束密度Bを導出する(ここでは、B50を導出するものとする)。
【0095】
【数7】
【0096】
(18)式において、mは、結晶粒情報取得部401で取得された結晶粒情報に含まれる結晶粒番号Iの最大値である。
そして、磁気特性導出部409は、導出した「予測対象の鋼板の磁束密度B」を、ハードディスクに記憶する。以上のようにして、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度Bと、焼鈍後における磁束密度Bとが磁気特性として求められる。ここで、焼鈍後における磁束密度Bが、予測対象の鋼板をユーザによって指定された焼鈍条件で焼鈍した場合の磁束密度Bの予測値になる。
【0097】
また、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)から予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度B(B50)を減算して得られる差分ΔBを磁気特性として導出し、当該差分ΔBと、予測対象の鋼板の種類とを相互に関連付けてハードディスクに記憶する。
【0098】
さらに、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値を、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて入力し、ハードディスク等に記憶する。尚、磁束密度Bの測定は、公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
そして、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度B(B50)の測定値に、差分ΔBを加算することにより、当該鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)の予測値を導出する。このようにして鋼板の焼鈍後における磁束密度B(B50)の予測値を導出するようにすれば、同一種類の鋼板の磁束密度の測定値を入力すると、前述したような点(二重点及び三重点)の設定等を行うことなく、予測値を直ちに繰り返し導出することができる。
【0099】
磁気特性表示部410は、磁気特性導出部409で導出された「予測対象の鋼板の磁気特性」の情報を表示装置2000に表示させる。このとき、磁気特性表示部410は、焼鈍条件(解析温度τ(t))や、鋼板に与えた磁界Hの大きさや方向の情報等を、磁気特性の情報と共に表示装置2000に表示することができる。
【0100】
次に、図16のフローチャートを参照しながら、磁気特性演算部400が行う処理動作の一例を説明する。尚、図16のフローチャートは、図8に示したフローチャートによる処理が終了したら、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、自動的に開始されるものとする。また、ここでは、B−H曲線取得部402にB−H曲線が既に記憶されており、さらに、「磁界Hの大きさ」と「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とが既に磁界設定部403で設定されているものとする。
【0101】
まず、ステップS101において、結晶粒情報取得部401は、結晶粒情報記憶部200から、焼鈍前後における結晶粒情報を読み出す。尚、本実施形態では、まず、焼鈍前における結晶粒情報についての、以下のステップS102〜S114の処理と、焼鈍後における結晶粒情報についての、以下のステップS102〜S114の処理とを個別に行うことができるものとする。
次に、ステップS102において、B−H曲線取得部402は、B−H曲線記憶部300から、予測対象の鋼板に対応するB−H曲線を読み出す。
次に、ステップS103において、磁界設定部403は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界Hの大きさ」をRAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS104において、磁界設定部403は、ユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」をRAM又はハードディスクに設定する。
【0102】
次に、ステップS105において、結晶粒選択部404は、結晶粒番号Iとして「1」を設定する。
次に、ステップS106において、磁化容易軸導出部405は、ステップS105で選択された結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度αを導出する。前述したように、本実施形態では、<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度αは、24個導出される。
次に、ステップS107において、磁化容易軸導出部405は、ステップS106で導出された24個の「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択する。本実施形態では、このステップS107により、磁界Hの方向に最も近い所定の軸(ここでは<100>方向の軸)の情報が磁化容易軸の情報として導出される。
【0103】
次に、ステップS108において、磁界成分導出部406は、ステップS103で設定された「磁界Hの大きさ」と、ステップS107で選択された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、(15)式に代入して、磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出する。
次に、ステップS109において、磁化容易軸方向磁束密度導出部407は、ステップS102で読み出されたB−H曲線から、ステップS108で導出された「磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>」に対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を導出する。
【0104】
次に、ステップS110において、磁界方向磁束密度導出部408は、ステップS109で導出された「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」と、ステップS107で導出された「<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αmin」とを、(17)式に代入して、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを導出する。
次に、ステップS111において、磁界方向磁束密度導出部408は、ステップS110で導出された「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H」を、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」としてRAM又はハードディスクに記憶する。
【0105】
次に、ステップS112において、結晶粒選択部404は、ステップS101で読み出された結晶粒情報に含まれる全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されたか否かを判定する。この判定の結果、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されていない場合には、ステップS113に進む。ステップS113に進むと、結晶粒選択部404は、結晶粒番号Iとして「I+1」を設定する(結晶粒番号Iをインクリメントする)。そして、ステップS106に戻り、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されるまで、ステップS106〜S113の処理を繰り返し行う。
【0106】
ステップS112において、全ての結晶粒番号Iの結晶粒Aについて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)が導出されたと判定されると、ステップS114に進む。ステップS114に進むと、磁気特性導出部409は、各結晶粒番号Iの結晶粒Aの焼鈍前(焼鈍後)の面積SIを、当該結晶粒番号Iの結晶粒における点(二重点及び三重点)の焼鈍前(焼鈍後)の座標(粒界点座標)に基づいて導出する。そして、磁気特性導出部409は、結晶粒番号Iの結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、各結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行って、予測対象の鋼板の、焼鈍前と焼鈍後の磁束密度Bを磁気特性として導出する((18)式を参照)。
【0107】
また、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後から、予測対象の鋼板の焼鈍前における磁束密度Bを減算して、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度Bの差分ΔBを磁気特性として導出する。ここで、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値が入力された場合、磁気特性導出部409は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍前における磁束密度Bの測定値に、当該鋼板に対応する差分ΔBを増減させて、当該鋼板の焼鈍後における磁束密度Bの予測値を導出する。
次に、ステップS115において、磁気特性表示部410は、ステップS114で導出された「予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度B」や「差分ΔB」や、「ユーザが所望する鋼板の焼鈍後における磁束密度Bの予測値」の情報を磁気特性として表示装置2000に表示させる。
【0108】
以上のように本実施形態では、予測対象の鋼板の結晶粒Aの粒界uの両端点に対応する三重点iに生じる駆動力Fi(t)と、結晶粒Aの中間点に対応する二重点iに生じる駆動力Fi(t)とを、解析温度τ(t)に依存する「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]を用いて計算し、計算した駆動力Fi(t)に基づいて、三重点及び二重点iの位置がどのように移動するかを計算することによって、焼鈍後における結晶粒Aの分布を解析した。したがって、結晶粒A(粒界u)の形状を出来るだけ正確に再現できるモデルを容易に構築することができる。よって、焼鈍後の結晶粒Aの分布を、従来よりも容易に且つ正確に解析(予測)することが可能になる。
【0109】
そして、焼鈍後の結晶粒Aの分布が解析されると、以下のようにして、予測対象の鋼板の磁化容易軸(<100>)方向における磁束密度Bを導出する。まず、解析された「焼鈍後の各結晶粒A」の結晶座標系XYZにおける<100>方向の情報として、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを導出する。次に、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを用いて、焼鈍後の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、それに対応する「磁化容易軸方向の磁束密度B<100>」を、予め記憶しておいた「予測対象の鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線」から導出する。次に、<100>方向と磁界Hの方向とのなす最小角度αminを用いて、磁界Hの方向の磁束密度B<100>Hを、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」として導出する。最後に、各結晶粒Aの「磁界Hの方向の磁束密度B<100>H(I)」について、結晶粒Aの面積SIによる加重平均を行い、その結果を予測対象の鋼板の磁界Hの方向における磁束密度Bとする。したがって、焼鈍後の鋼板の磁束密度Bを、複雑な計算を行うことなく、正確に演算(予測)することができる。ここで、本実施形態では、予測対象の鋼板に与えられる磁界Hの磁化容易軸方向の成分H<100>を導出し、予測対象の鋼板を構成する材料の単結晶の<100>方向におけるB−H曲線を用いて、磁化容易軸方向の磁束密度B<100>を導出することにより、結晶粒の構造が多磁区構造であるとして取り扱うことができる。したがって、予測対象の鋼板のそれぞれの結晶粒の構造が単磁区構造ではない場合であっても、当該鋼板の磁束密度を正確に計算することができる。一方、非特許文献1の記載の技術では、鋼板のそれぞれの結晶粒の構造が単磁区構造であるとしているので、磁化容易軸方向の磁束密度B<100>は飽和領域の値となる。よって、非特許文献1に記載の技術では、このような飽和領域以外の磁束密度を正確に計算することが困難である。
【0110】
尚、本実施形態では、結晶粒Aがとり得る全ての結晶座標系XYZにおける「<100>方向と磁界Hの方向とのなす角度α」のうち、最も小さい角度αminを選択するようにした。しかしながら、磁界Hの方向に最も近い所定の軸を磁化容易軸として導出するようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の、(19)式〜(27)式で得られる、3つのベクトル(u v w)、(p q r)、(h k l)と、(−u −v −w)、(−p −q −r)、(−h −k −l)と磁界Hとのなす角度を求め、求めた6個の角度のうち、最も小さい角度を求めるようにしてもよい。
u=cosφ1×cosφ2−sinφ1×sinφ2×cosΦ ・・・(19)
v=cosφ1×sinφ2−sinφ1×cosφ2×cosΦ ・・・(20)
w=sinφ1×sinΦ ・・・(21)
p=sinφ1×cosφ2+cosφ1×sinφ2×cosΦ ・・・(22)
q=sinφ1×sinφ2+cosφ1×cosφ2×cosΦ ・・・(23)
r=cosφ1×sinΦ ・・・(24)
h=sinφ2×sinΦ ・・・(25)
k=cosφ2×sinΦ ・・・(26)
l=cosΦ ・・・(27)
尚、(19)式〜(27)式は、Bungeの式であり、(u p h)、(v q k)、(w r l)は、それぞれ、結晶座標系XYZのX軸、Y軸、Z軸を材料座標系xyzで方向余弦として表現したものである。
【0111】
また、本実施形態では、焼鈍前後における磁束密度Bを導出するようにしたが、これに加えて、焼鈍中の磁束密度Bを導出するようにしてもよい。焼鈍中の磁束密度Bを求める場合には、結晶粒分布解析部100で得られた焼鈍中の情報を使って、焼鈍後のときと同様に結晶粒情報を得ることができる。そして、この結晶粒情報を使用して、前述したのと同様の処理を磁気特性演算部400で行うことにより、予測対象の鋼板の焼鈍中における磁界Hの方向の磁束密度Bを導出することができる。
また、本実施形態では、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁束密度の差分ΔBを導出する際に、焼鈍前における磁気特性を磁気特性演算部400で演算して求める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、焼鈍前における磁気特性の演算値の代わりに、測定値を用いるようにしてもよい。
【0112】
また、本実施形態では、ユーザが、結晶粒画像41を見ながら、操作装置3000を使用して、点iを指定する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、EBSP法で解析することにより得られた結晶粒画像信号に基づいて、結晶粒分布解析部100(コンピュータ)が自動的に、点iを指定するようにしてもよい。この場合、粒界uの長さに応じて二重点iの数を異ならせたり、粒界uの曲率に応じて二重点iの数を異ならせたり(例えば、直線的な部分よりも凸凹している部分に多くの二重点iを指定したり)することができる。
【0113】
また、本実施形態では、粒界設定部105により、粒界uを定義するようにしたが、点i、ラインp、及び結晶粒Aを用いれば、粒界uは自ずと定まるので、必ずしも粒界uを定義する必要はない。
また、本実施形態では、粒界エネルギー設定部109、易動度設定部111は、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値に基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしたが、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξそのものに基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしてもよい。
また、図8−2のフローチャートにおいて、ステップS29で時間を更新しているので、計算負荷を軽減するために、ステップS27の処理を行わないようにしてもよい。
【0114】
また、本実施形態では、(5)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしたが、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを求めるようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の(28)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしてもよい。
【0115】
【数8】
【0116】
尚、予測対象の鋼板が異なる場合には、粒界エネルギー記憶部108や易動度記憶部110に記憶されるグラフ等の内容等、結晶粒分布解析部100で使用される情報や、B−H曲線記憶部300に記憶されるB−H曲線等、磁気特性演算部400で使用される情報が、鋼板の種類に応じて異なることになる。
【0117】
また、本実施形態では、焼鈍条件が、焼鈍温度として設定される解析温度τ(t)と、焼鈍時間として設定される解析完了時間Tである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、焼鈍条件は、焼鈍後の平均結晶粒径であってもよい。ここで、平均結晶粒径(直径)は、例えば、以下のようにして求められる。結晶粒の移動の計算対象となっている領域の面積を、当該領域に含まれる結晶粒の数で割り、その値を更にπで割った値の平方根をとって2倍することにより得られる。尚、平均結晶粒径の求め方はこのような方法でなくてもよい。
また、このように、焼鈍条件を、焼鈍後の平均結晶粒径とする場合には、例えば、図8−2のステップS27、S28の間で、計算対象の点iの位置ri(t)を示すベクトルの更新値に基づき、例えば前述したようにして平均結晶粒径を求める。そして、ステップS28の代わりに、計算した平均結晶粒径が、焼鈍後の平均結晶粒径として予め設定された値よりも大きいか否かを判定する。この判定の結果、計算した平均結晶粒径が、焼鈍後の平均結晶粒径として予め設定された値よりも大きい場合には、焼鈍が完了したとしてステップS30に進み、そうでない場合には、ステップS29に進むようにする。
【0118】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとが一定である場合について説明した。これに対し、本実施形態では、これらを変えて、予測対象の鋼板の焼鈍前後における磁気特性を演算する。このように本実施形態は、前述した第1の実施形態に対し、予測対象の鋼板に与える磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとを、変更する構成が追加されたものである。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図16に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0119】
本実施形態では、例えば、ユーザは、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向との少なくとも何れか一方を複数入力する。磁気特性演算部400の磁界設定部403は、このユーザによる操作装置3000の操作に基づいて、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方を、複数設定することができる。また、このようにする代わりに、次のようにしてもよい。すなわち、まず、ユーザは、第1の実施形態と同様に、操作装置3000を操作して、磁界H(外部磁界)の大きさと方向とを1つずつ入力する。そして、磁界設定部403は、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方について、ユーザが入力した値を、所定値ずつ増加(又は減少)させることにより、「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」との少なくとも何れか一方を、複数設定することができる。
【0120】
そして、このようにして設定された「磁界Hの大きさ」と、「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とに基づいて、第1の実施形態と同様に、磁気特性導出部409は、予測対象の鋼板の焼鈍後における磁束密度B(H,θ)を導出する。この磁束密度B(H,θ)は、磁界Hの大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとの少なくとも何れか一方に応じたものとなる。磁気特性導出部409で、或る「磁界Hの大きさ」と、或る「磁界と圧延方向とのなす角度θ」とに基づいた「予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)」が導出されると、磁界設定部403は、設定した「『磁界Hの大きさ』と、『磁界と圧延方向とのなす角度θ』」の中に、磁束密度B(H,θ)を導出するために使用していないものがあるか否かを判定する。そして、使用していないものがある場合、磁界設定部403は、使用していないものの情報を、磁界成分導出部406に出力する。そして、前述した処理を行うことにより、磁界設定部403に設定された「『磁界Hの大きさ』と、『磁界と圧延方向とのなす角度θ』」の全てに基づいて、磁束密度B(H,θ)が導出される。したがって、本実施形態の磁気特性演算部では、図9に示した機能構成に対し、結晶粒選択部404から磁界設定部403に向かう矢印線が追加されたものになる。
【0121】
次に、図17のフローチャートを参照しながら、磁気特性演算部400が行う処理動作の一例を説明する。図17において、ステップS101〜S114は、図16に示したフローチャートによる処理が実行される。
図17のステップS114において、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されたと判定すると、ステップS201に進む。ステップS201に進むと、磁界設定部403は、磁界と圧延方向とのなす角度θを変えて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)を導出するか否かを判定する。すなわち、ユーザによって指定された「磁界と圧延方向とのなす角度θ」のうち、ステップS104で設定していない「磁界と圧延方向とのなす角度θ」があるか否かを判定する。この判定の結果、磁界と圧延方向とのなす角度θを変える場合には、ステップS104に戻り、磁界設定部403は、未設定の「磁界と圧延方向とのなす角度θ」を設定する。そして、磁界と圧延方向とのなす角度θの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されるまで、ステップS104〜S114、S201の処理を繰り返し行う。
【0122】
そして、磁界と圧延方向とのなす角度θの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されると、ステップS202に進む。ステップS202に進むと、磁界設定部403は、磁界Hの大きさを変えて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)を導出するか否かを判定する。すなわち、ユーザによって指定された「磁界Hの大きさ」のうち、ステップS103で設定していない「磁界Hの大きさ」があるか否かを判定する。この判定の結果、磁界Hの大きさを変える場合には、ステップS103に戻り、磁界設定部403は、未設定の「磁界Hの大きさ」を設定する。そして、磁界Hの大きさの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されるまで、ステップS103〜S114、S201、S202の処理を繰り返し行う。
【0123】
そして、磁界Hの大きさの全てについて、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)が導出されると、ステップS203に進む。ステップS203に進むと、磁気特性表示部410は、ステップS114で導出された「予測対象の鋼板の磁気特性」の情報を表示装置2000に表示させる。例えば、磁気特性表示部410は、予測対象の鋼板の磁束密度B(H,θ)の大きさと、磁界と圧延方向とのなす角度θとの関係を示すグラフや、磁束密度B(H,θ)の大きさと、磁界Hの大きさとの関係を示すグラフを表示装置2000に表示することができる。また、磁気特性表示部410は、ユーザが所望する鋼板の焼鈍後における磁束密度B(H,θ)の予測値(大きさ)や、差分ΔBについても、同様のグラフを表示装置2000に表示することができる。
以上のようにすることによって、焼鈍前の軟磁性材料からなる鋼板の集合組織から、焼鈍後における鋼板のより詳細な磁気特性を自動的に、且つ、正確に予測(演算)することができる。
【0124】
尚、前述した本発明の各実施形態では、例えば、結晶画像取得部101を用いるにより結晶画像取得手段の一例が実現され、解析温度設定部106を用いるにより解析温度設定手段の一例が実現され、点設定部103を用いるにより粒界点設定手段の一例が実現され、粒界エネルギー設定部109を用いるにより粒界エネルギー設定手段の一例が実現され、二重点用駆動力計算部114及び三重点用駆動力計算部115を用いるにより駆動力演算手段の一例が実現され、位置計算部116を用いることにより位置演算手段の一例が実現される。また、例えば、結晶粒情報生成部117及び結晶粒情報取得部401を用いることにより結晶粒情報取得手段の一例が実現され、磁界設定部403を用いることにより磁界設定手段の一例が実現され、磁化容易軸導出部405を用いることにより磁化容易軸導出手段の一例が実現され、磁界成分導出部406、磁化容易軸方向磁束密度導出部407、磁界方向磁束密度導出部408、及び磁気特性導出部409を用いることにより磁束密度計算手段の一例が実現される。また、例えば、B−H曲線記憶部300及びB−H曲線取得部402を用いることによりB−H曲線取得手段の一例が実現され、B−H曲線記憶部300に記憶されているB−H曲線によりB−H曲線の一例が実現される。また、例えば、磁界成分導出部406を用いることにより磁界成分導出手段の一例が実現され、磁化容易軸方向磁束密度導出部407を用いることにより磁化容易軸方向磁束密度導出手段の一例が実現され、磁界方向磁束密度導出部408を用いることにより磁界方向磁束密度導出手段の一例が実現される。
【0125】
(実施例)
図18は、磁界と圧延方向とのなす角度θと、B50との関係の一例を示す図である。ここでは、JIS C 2552で規定される50A1300材について調査した。
図18において、計算結果は、第2の実施形態で説明したようにして演算(予測)された焼鈍後の無方向性電磁鋼板のB50を示す。また、測定結果は、計算結果で示すものと同一の条件で焼鈍した後の無方向性電磁鋼板に対して、実測したB50を示す。ここで、焼鈍条件としては、雰囲気は窒素ガス、保持温度は750[℃]、保持時間は2時間である。図18に示すように、測定結果と、計算結果とは概ね一致しており、EBSP法で得られる「焼鈍前の無方向性電磁鋼板の情報」があれば、その他の実測情報がなくても、焼鈍後の無方向性電磁鋼板のB50を正確に予測できることが分かる。
尚、ここでは、B50について示したが、予測する磁束密度はB50に限定するものではなく、例えば、B25についても、B50と同様に正確に予測できるものである。
【0126】
以上説明した本発明の実施形態のうち、CPUが実行する部分は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。上記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0127】
100 結晶粒分布解析部
200 結晶粒情報記憶部
300 B−H曲線記憶部
400 磁気特性演算部
1000 磁気特性予測装置
2000 表示装置
3000 操作装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測装置であって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得手段と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定手段と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算手段と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算手段による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得手段と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得手段と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定手段と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出手段と、
磁束密度計算手段と、を有し、
前記磁束密度計算手段は、
前記磁界設定手段により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出手段と、
前記磁界成分導出手段により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出手段と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出手段により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出手段と、を有することを特徴とする磁気特性予測装置。
【請求項2】
前記結晶粒情報取得手段は、更に、前記粒界点設定手段により設定された前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記結晶画像取得手段により取得された結晶粒のそれぞれの方位の情報と、に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む焼鈍前の結晶粒情報を取得し、
前記磁化容易軸導出手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍前の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行い、
前記磁束密度計算手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分を、前記磁界設定手段により設定された磁界の大きさと方向とに基づいて計算し、
前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁束密度を、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分に基づいて計算し、
当該磁化容易軸方向における磁束密度から、前記鋼板の当該磁界の方向における磁束密度を計算し、
前記焼鈍条件で焼鈍する前の、当該磁界の方向における磁束密度と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、当該磁界の方向における磁束密度と、の差分を計算することを特徴とする請求項1に記載の磁気特性予測装置。
【請求項3】
前記磁束密度計算手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向における磁束密度の測定値と、前記差分とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の、当該磁界の方向における磁束密度を計算することを特徴とする請求項2に記載の磁気特性予測装置。
【請求項4】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測方法であって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、
前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、
磁束密度計算工程と、を有し、
前記磁束密度計算工程は、
前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、
前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする磁気特性予測方法。
【請求項5】
前記結晶粒情報取得工程は、更に、前記粒界点設定工程により設定された前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記結晶画像取得工程により取得された結晶粒のそれぞれの方位の情報と、に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む焼鈍前の結晶粒情報を取得し、
前記磁化容易軸導出工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍前の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行い、
前記磁束密度計算工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分を、前記磁界設定工程により設定された磁界の大きさと方向とに基づいて計算し、
前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁束密度を、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分に基づいて計算し、
当該磁化容易軸方向における磁束密度から、前記鋼板の当該磁界の方向における磁束密度を計算し、
前記焼鈍条件で焼鈍する前の、当該磁界の方向における磁束密度と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、当該磁界の方向における磁束密度と、の差分を計算することを特徴とする請求項4に記載の磁気特性予測方法。
【請求項6】
前記磁束密度計算工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向における磁束密度の測定値と、前記差分とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の、当該磁界の方向における磁束密度を計算することを特徴とする請求項5に記載の磁気特性予測方法。
【請求項7】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、
前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、
磁束密度計算工程と、をコンピュータに実行させ、
前記磁束密度計算工程は、
前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、
前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項1】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測装置であって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得手段と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定手段と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算手段と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算手段による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得手段と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得手段と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定手段と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出手段と、
磁束密度計算手段と、を有し、
前記磁束密度計算手段は、
前記磁界設定手段により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出手段と、
前記磁界成分導出手段により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出手段と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出手段により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出手段と、を有することを特徴とする磁気特性予測装置。
【請求項2】
前記結晶粒情報取得手段は、更に、前記粒界点設定手段により設定された前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記結晶画像取得手段により取得された結晶粒のそれぞれの方位の情報と、に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む焼鈍前の結晶粒情報を取得し、
前記磁化容易軸導出手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定手段により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得手段により取得された焼鈍前の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行い、
前記磁束密度計算手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分を、前記磁界設定手段により設定された磁界の大きさと方向とに基づいて計算し、
前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁束密度を、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分に基づいて計算し、
当該磁化容易軸方向における磁束密度から、前記鋼板の当該磁界の方向における磁束密度を計算し、
前記焼鈍条件で焼鈍する前の、当該磁界の方向における磁束密度と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、当該磁界の方向における磁束密度と、の差分を計算することを特徴とする請求項1に記載の磁気特性予測装置。
【請求項3】
前記磁束密度計算手段は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記磁界設定手段により設定された磁界の方向における磁束密度の測定値と、前記差分とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の、当該磁界の方向における磁束密度を計算することを特徴とする請求項2に記載の磁気特性予測装置。
【請求項4】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測する磁気特性予測方法であって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、
前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、
磁束密度計算工程と、を有し、
前記磁束密度計算工程は、
前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、
前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とする磁気特性予測方法。
【請求項5】
前記結晶粒情報取得工程は、更に、前記粒界点設定工程により設定された前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記結晶画像取得工程により取得された結晶粒のそれぞれの方位の情報と、に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍する前の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む焼鈍前の結晶粒情報を取得し、
前記磁化容易軸導出工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍前の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行い、
前記磁束密度計算工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分を、前記磁界設定工程により設定された磁界の大きさと方向とに基づいて計算し、
前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁束密度を、前記結晶粒それぞれの磁化容易軸方向における磁界の成分に基づいて計算し、
当該磁化容易軸方向における磁束密度から、前記鋼板の当該磁界の方向における磁束密度を計算し、
前記焼鈍条件で焼鈍する前の、当該磁界の方向における磁束密度と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、当該磁界の方向における磁束密度と、の差分を計算することを特徴とする請求項4に記載の磁気特性予測方法。
【請求項6】
前記磁束密度計算工程は、更に、前記焼鈍条件で焼鈍する前の前記鋼板の、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向における磁束密度の測定値と、前記差分とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の、当該磁界の方向における磁束密度を計算することを特徴とする請求項5に記載の磁気特性予測方法。
【請求項7】
軟磁性材料からなる鋼板の焼鈍後の磁気特性を予測することをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記鋼板における焼鈍前の集合組織の画像の情報と、当該集合組織を構成する結晶粒のそれぞれの方位の情報と、を取得する結晶画像取得工程と、
前記鋼板の焼鈍条件として、焼鈍温度と焼鈍時間、或いは焼鈍後の平均結晶粒径を設定する焼鈍条件設定工程と、
前記画像に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ3つの直線が交わる三重点と、前記画像に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ2つの直線が交わる二重点とを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界点設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーであって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する単位長さ当たりの粒界エネルギーを、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界エネルギー設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点が属する粒界における粒界易動度であって、温度と、相互に隣接する2つの結晶粒の方位の差分とに大きさが依存する粒界易動度を、前記粒界のそれぞれについて設定する粒界易動度設定工程と、
前記粒界点設定工程により設定された三重点及び二重点の夫々で発生する駆動力を、当該三重点及び二重点が属する粒界に対して設定された単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算工程と、
前記駆動力演算工程により演算された駆動力と前記粒界易動度とに基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置を演算する位置演算工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記三重点及び二重点の位置の情報と、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における結晶粒のそれぞれの方位の情報とを含む、焼鈍後の結晶粒情報を、前記位置演算工程による演算の結果に基づいて取得する結晶粒情報取得工程と、
前記鋼板を構成する材料の単結晶の、結晶座標系における磁化容易軸方向の、磁束密度と磁界との関係を示すB−H曲線を取得するB−H曲線取得工程と、
前記鋼板に外部から与える磁界の大きさと方向とを設定する磁界設定工程と、
前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板の結晶粒に対して設定される結晶座標系において、複数の磁化容易軸のうち前記磁界設定工程により設定された磁界の方向に最も近い軸として当該磁界の方向の方向余弦が最も大きい軸を磁化容易軸として導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、当該鋼板の結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸導出工程と、
磁束密度計算工程と、をコンピュータに実行させ、
前記磁束密度計算工程は、
前記磁界設定工程により設定された磁界の、前記磁化容易軸方向の成分を導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁界成分導出工程と、
前記磁界成分導出工程により導出された、磁界の前記磁化容易軸方向の成分に対応する、前記磁化容易軸方向における磁束密度を、前記B−H曲線から導出することを、前記結晶粒情報取得工程により取得された焼鈍後の結晶粒情報に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の前記鋼板における結晶粒のそれぞれについて行う磁化容易軸方向磁束密度導出工程と、
前記磁化容易軸方向磁束密度導出工程により導出された、前記結晶粒のそれぞれにおける、前記磁化容易軸方向における磁束密度に基づいて、前記焼鈍条件で焼鈍した後の、前記鋼板における、前記磁界設定工程により設定された磁界の方向の磁束密度を導出する磁界方向磁束密度導出工程と、を有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8−1】
【図8−2】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−173116(P2012−173116A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34981(P2011−34981)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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