説明

磁気粘性流体式トルクコンバータ

【課題】磁気粘性流体中の磁性粒子でトルクコンバータ中心部のワンウェイクラッチ等の機構部が損傷されることがないようにし、そのためのシール手段も磁性粒子で損傷されることのないようにする。
【解決手段】トルクコンバータ1の要求性能を満足させる量の磁性粒子が混入された磁気粘性流体を、シール手段11(シール部材11a,11b,11c)よりも外周のトルクコンバータ外周部に封入する。シール手段11は、シェル室12よりも径方向内方であって、ワンウェイクラッチ8(詳しくはスプラグ8c)よりも径方向外方である、矢印αで示す範囲内の径方向位置に配置する。トルクコンバータの伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けてシェル室12内に集まった時、シェル室12とシール手段11との間に、磁性粒子が存在しない環状の緩衝室13を出現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動媒体として磁気粘性流体を用い、これを介して動力伝達を行う磁気粘性流体式トルクコンバータに関し、特に、磁気粘性流体をトルクコンバータ内に封入する技術の改良提案に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータの作動媒体は通常、自動変速機に用いる場合に代表されるごとく、トルクコンバータに組み合わせた自動変速機などの作動媒体と共用するのが普通である。
しかし、作動媒体として磁気粘性流体を用いた磁気粘性流体式トルクコンバータを自動変速機などと組み合わせる場合、磁気粘性流体に比重増大用に混入させてある鉄粉などの磁性粒子が自動変速機などの変速伝動機構を損傷させてしまう。
【0003】
そこで、トルクコンバータと、これに組み合わせる自動変速機などとの間で作動媒体を分離させる必要があり、従来、例えば特許文献1に記載のような磁気粘性流体式トルクコンバータが提案されている。
この提案になる磁気粘性流体式トルクコンバータは、トルクコンバータ中心部にシール手段を設けてトルクコンバータ内に磁気粘性流体を封入し、トルクコンバータと自動変速機などとの間で作動媒体を分離させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平07−2663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の磁気粘性流体式トルクコンバータにあっては、磁気粘性流体の封入を司るシール手段をトルクコンバータ中心部に設けるため、当該トルクコンバータ中心部における機構部が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷される虞があるだけでなく、比重の大きな磁気粘性流体の量が多くなって、重量的にもコスト的に不利であった。
【0006】
本発明は、トルクコンバータの伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けて、トルクコンバータの入力要素回転翼および出力要素回転翼を内包するシェル室内に集まった時における磁気粘性流体の比重、つまりシェル室内の磁性粒子の含有量がトルクコンバータの要求性能から自ずと決まり、この要求を満足するように磁気粘性流体がトルクコンバータ内に封入されていればトルクコンバータの要求性能が得られ、トルクコンバータ中心部まで磁気粘性流体を封入させる必要がないとの観点から、
この着想に基づき、磁気粘性流体の封入を司るシール手段の径方向位置を適切に定めて、上記の問題を解消しつつ、シール手段が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷される事態も生ずることのないようにした磁気粘性流体式トルクコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明による磁気粘性流体式トルクコンバータは、これを以下のように構成する。
先ず前提となる磁気粘性流体式トルクコンバータを説明するに、これは、
入力要素および出力要素を、それぞれの回転翼が同軸に対向するよう配置して具え、入力要素の回転により磁気粘性流体に遠心力を付与し、該磁気粘性流体を入力要素回転翼による案内下で出力要素回転翼へ衝突させることにより動力伝達を行うものである。
【0008】
本発明は、かかる磁気粘性流体式トルクコンバータにおいて、
磁気粘性流体をシール手段でトルクコンバータ内に封入するが、
該シール手段を、磁気粘性流体内の磁性粒子が上記遠心力を受けて径方向外方へ集まるとき、該磁性粒子が存在しない緩衝室の出現を可能にするような径方向位置に配置した構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0009】
かかる本発明の磁気粘性式トルクコンバータによれば、シール手段を上記のような径方向位置に配置したため、磁気粘性流体がトルクコンバータ中心部にまで及ぶことがなく、
トルクコンバータ中心部における機構部が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷されることがないと共に、比重の大きな磁気粘性流体の量が多くなって重量的およびコスト的に不利になることがない。
【0010】
また、トルクコンバータの伝動作用中に磁気粘性流体内の磁性粒子が遠心力を受けて径方向外方へ集まるとき、当該磁性粒子が存在しない緩衝室の出現を可能にするような径方向位置に上記のシール手段を配置したため、
シール手段が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷されるような事態を発生することもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例になる磁気粘性流体式トルクコンバータの半部を、自動変速機の入力軸に結合して示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図示の実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になる磁気粘性流体式トルクコンバータ1を、自動変速機の入力軸2に結合して示す。
磁気粘性流体式トルクコンバータ1は、入力要素としてのポンプインペラ3と、出力要素としてのタービンランナ4と、反力要素としてのステータ5とを主たる構成要素とする。
【0013】
ポンプインペラ3は外周部にポンプインペラ回転翼(入力要素回転翼)3aを有し、タービンランナ4は外周部にタービンランナ回転翼(出力要素回転翼)4aを有し、
これらポンプインペラ3およびタービンランナ4を、それぞれの回転翼3a,4aが同軸に対向するよう配置する。
【0014】
ポンプインペラ3は、タービンランナ4を包囲するようポンプインペラ3の外周に結着されたコンバータカバー6を介して、図示せざるトルクコンバータ入力軸(通常はエンジンクランクシャフト)に結合する。
タービンランナ4は、内周部に鋲着したタービンハブ7を介し、トルクコンバータ出力軸としての変速機入力軸2に結合する。
【0015】
ステータ5は外周にステータ翼5aを有し、このステータ翼5aがポンプインペラ回転翼3aおよびタービンランナ回転翼4a間に位置するよう、ポンプインペラ3およびタービンランナ4に対し同軸に配置する。
そしてステータ5は、内周部に嵌着したワンウェイクラッチ8を介して、上記の自動変速機から延在する中空固定軸9上に支承する。
【0016】
ワンウェイクラッチ8は、アウターレース8aと、インナーレース8bと、これらレース8a,8b間に介在させた多数のスプラグ8cとから成る通常のものとし、
アウターレース8aの外周面をステータ5の内周部に嵌着し、インナーレース8bの内周面を中空固定軸9に結合して実用する。
【0017】
そしてワンウェイクラッチ8は、タービンランナ5がトルクコンバータの回転方向(エンジン回転方向)と逆の方向へ回転するのを、レース8a,8b間におけるスプラグ8cのロック作用により阻止し、タービンランナ5がトルクコンバータの回転方向(エンジン回転方向)と同じ方向へ回転するのを許容する向きに配置する。
【0018】
トルクコンバータ1の作動媒体としては、トルクコンバータ1の要求性能に応じた量の磁性粒子(鉄粉など)が混入されている磁気粘性流体を用い、この磁気粘性流体をシール手段11によりトルクコンバータ1内の外周部に封入して、自動変速機の作動媒体から分離させる。
【0019】
ここで、トルクコンバータ1の要求性能に応じた磁性粒子の量とは、トルクコンバータ1の後述する伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けて、トルクコンバータ1のポンプインペラ回転翼3aおよびタービンランナ回転翼4aを内包するシェル室12内に集まった時における磁気粘性流体の比重、つまりシェル室12内の磁性粒子(点々を付して示した)の含有量がトルクコンバータの要求性能を実現するのに丁度必要な量を意味する。
【0020】
従って、この要求を満足する量の磁性粒子を混入させた磁気粘性流体が、トルクコンバータ1のシェル室12を含む外周部に封入されていれば、トルクコンバータ1の要求性能が得られ、トルクコンバータ1の中心部まで磁気粘性流体を封入させる必要はない。
【0021】
そこで本実施例においては、磁気粘性流体をトルクコンバータ1内の外周部に封入する用をなすシール手段11を、シェル室12よりも径方向内方であって、ワンウェイクラッチ8(詳しくはスプラグ8c)よりも径方向外方である、矢印αで示す範囲内の径方向位置に配置し、
該シール手段11よりも径方向外方におけるトルクコンバータ外周部内に、前記の要求を満足する量の磁性粒子が混入された磁気粘性流体を充満させて封入する。
【0022】
シール手段11を本実施例においては、ポンプインペラ3およびステータ5間に介在させた第1シール部材11aと、ステータ5およびタービンランナ4間に介在させた第2シール部材11bと、タービンランナ4およびコンバータカバー6間に介在させた第3シール部材11cとで構成し、これらシール部材11a,11b,11cを、ほぼ同じ径方向位置に配置する。
なお、これらシール部材11a,11b,11cの径方向位置は、必ずしも同じである必要はなく、矢印αの範囲内であれば如何なる径方向位置であってもよい。
【0023】
トルクコンバータ1の後述する伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けて径方向外方へ移動することから、磁気粘性流体中における磁性粒子の含有量は矢印βで示すごとく、径方向外方ほど多くなる。
このため、上記したシール手段11の配置によれば、トルクコンバータ1の後述する伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けてシェル室12内に集まった時、このシェル室12とシール手段11との間に、磁性粒子が存在しない環状の緩衝室13を出現させ得ることとなる。
【0024】
<実施例の作用>
ポンプインペラ3がコンバータカバー6を介してエンジン駆動されると、磁気粘性流体が遠心力を受けて、ポンプインペラ回転翼3aにより案内されつつタービンランナ回転翼4aに衝突し、タービンランナ4(変速機入力軸2)への動力伝達を行うことができる。
【0025】
その後、磁気粘性流体はステータ翼5aによる案内下でポンプインペラ3に戻るが、このときステータ5は、ワンウェイクラッチ8によりエンジン回転と逆方向の回転を阻止されているため、磁気粘性流体に対し反力を付与してタービンランナ4(変速機入力軸2)への出力トルクを増大させることができる。
【0026】
<実施例の効果>
トルクコンバータ1の上記した伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子は遠心力を受けて径方向外方へ移動することから、磁気粘性流体中における磁性粒子の含有量は矢印βで示すごとく、径方向外方ほど多くなる。
このため、上記したシール手段11(シール部材11a,11b,11c)の配置によれば、トルクコンバータ1の上記伝動作用中、磁気粘性流体中の磁性粒子が遠心力を受けてシェル室12内に集まった時、このシェル室12とシール手段11との間に、磁性粒子が存在しない環状の緩衝室13を出現する。
【0027】
従って、磁気粘性流体がトルクコンバータ1中心部にまで及ぶことがなく、トルクコンバータ中心部におけるワンウェイクラッチ8が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷されることがないと共に、比重の大きな磁気粘性流体の量が多くなって重量的およびコスト的に不利になることがない。
【0028】
また、トルクコンバータ1の伝動作用中に磁気粘性流体内の磁性粒子が遠心力を受けて径方向外方のシェル室12内に集まるとき、当該磁性粒子が存在しない緩衝室13の出現を可能にするような径方向位置にシール手段11を配置したため、
シール手段11が磁気粘性流体中の磁性粒子に晒されて損傷されるような事態を発生することもない。
【符号の説明】
【0029】
1 磁気粘性流体式トルクコンバータ
2 変速機入力軸(トルクコンバータ出力軸)
3 ポンプインペラ(入力要素)
3a ポンプインペラ回転翼(入力要素回転翼)
4 タービンランナ(出力要素)
4a タービンランナ回転翼(出力要素回転翼)
5 ステータ(反力要素)
5a ステータ翼
6 コンバータカバー
7 タービンハブ
8 ワンウェイクラッチ
8a アウターレース
8b インナーレース
8c スプラグ
9 中空固定軸
11 シール手段
11a 第1シール部材
11b 第2シール部材
11c 第3シール部材
12 シェル室
13 緩衝室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力要素および出力要素を、それぞれの回転翼が同軸に対向するよう配置して具え、入力要素の回転により磁気粘性流体に遠心力を付与し、該磁気粘性流体を入力要素回転翼による案内下で出力要素回転翼へ衝突させることにより動力伝達を行う磁気粘性流体式トルクコンバータにおいて、
前記磁気粘性流体をシール手段でトルクコンバータ内に封入し、
該シール手段を、磁気粘性流体内の磁性粒子が前記遠心力を受けて径方向外方へ集まるとき、該磁性粒子が存在しない緩衝室の出現を可能にするような径方向位置に配置したことを特徴とする磁気粘性流体式トルクコンバータ。
【請求項2】
前記入力要素および出力要素間にあって、前記出力要素回転翼に衝突した磁気粘性流体に対し反力を付与する反力要素を有し、前記入力要素が、前記出力要素を包囲するよう入力要素に結着されたコンバータカバーを介し入力軸に結合されたものである、請求項1に記載の磁気粘性流体式トルクコンバータにおいて、
前記シール手段は、前記入力要素および反力要素間に介在させた第1シール部材と、前記反力要素および出力要素間に介在させた第2シール部材と、前記出力要素およびコンバータカバー間に介在させた第3シール部材とより成るものであることを特徴とする磁気粘性流体式トルクコンバータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気粘性流体式トルクコンバータにおいて、
前記シール手段は、前記入力要素回転翼および出力要素回転翼を内包するシェル室よりも径方向内方にあって、該シェル室との間に前記緩衝室の出現を可能にするものであることを特徴とする磁気粘性流体式トルクコンバータ。
【請求項4】
前記反力要素をトルクコンバータの回転方向と逆の方向へ回転しないように支持するワンウェイクラッチを具えた、請求項2または3に記載の磁気粘性流体式トルクコンバータにおいて、
前記第1シール部材および第2シール部材を、前記ワンウェイクラッチよりも径方向外方に配置したものであることを特徴とする磁気粘性流体式トルクコンバータ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−137109(P2012−137109A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287800(P2010−287800)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)