説明

磁気粘性流体装置

【課題】第1部材10の貫通孔12a,15aと第2部材31との間の隙間をシール材20で密封して磁気粘性流体が洩れ出ないようにした磁気粘性流体装置において、磁気粘性流体中の強磁性体粒子の分布を偏らせることなく、また、強磁性体粒子の分級精度を高めたり、第2部材31の表面に特別な加工処理を行うことなく、シール材20に到達する強磁性体粒子の量を低減することができ、もって、大幅なコストアップを招かないのみならず、磁気粘性特性および第2部材に対する潤滑性を共に損なうことなく、シール寿命を延ばして磁気粘性流体装置の耐久性の向上に寄与することができるようにする。
【解決手段】貫通孔12a,15a内におけるシール材20の内部空間側において第2部材31の表面に摺接する摺接面40aを有し、該第2部材31の表面上の磁気粘性流体中の強磁性体粒子に対し、該磁性体粒子を摺接面40a内に保持するように係合する1つ以上の係合部材40を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加される磁界に応じて剪断応力が変化する磁気粘性流体(MRF)を用いた減衰装置などの磁気粘性流体装置に関し、特に、相対移動する部材間の隙間における密封構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気粘性流体は、分散媒体であるシリコーンなどの作動油中に強磁性体粒子であるカルボニル鉄粉(粒径が5μm程度)を数十体積%の割合で均一に分散させてなるものであり、これを用いた装置としては、ダンパが挙げられる。
【0003】
この種のダンパは、例えば、シリンダチューブと、電磁石を有していて、シリンダチューブ内に軸方向に相対移動可能に設けられたピストンと、このピストンに該ピストンと一体となって移動するように連結されピストンロッドと、ピストンロッドが相対移動可能に貫通する貫通孔を有していて、シリンダチューブの開口部を密閉するカバーとを備えている。そして、電磁石に電流を供給することで、ピストンにより区画されたシリンダ本体内の2つの流体室を互いに連通する環状オリフィスを横断する磁気回路を形成し、オリフィスにおける磁気粘性流体の見掛け上の粘度(降伏剪断応力)を変化させることで、シリンダ本体に対するピストンの相対移動を減衰させるようになっており、自動車用セミアクティブサスペンションなどに適用され始めている。
【0004】
ところで、一般に、磁気粘性流体を用いたダンパでは、シリンダ本体の貫通孔と、ピストンロッドとの間に、リップ部を有するUパッキンなどのシール材が介装されていることから、そのシール材の摩耗が、磁気粘性流体中の鉄粉によって促進されることが懸念される。つまり、ピストンロッド表面の微細な凹部内に鉄粉が入り込み、ピストンロッドの伸縮移動の度にシール材のリップ部が鉄粉の攻撃を受け、その結果、ピストンが比較的頻繁に相対移動するショックアブソーバなどの用途ではシール材が摩耗しやすいことから、磁気粘性流体が早期に洩れ出すことが予想される。したがって、作動油中のコンタミという観点から考えても、一般的な油圧ダンパに用いられる作動油とは異なる磁気粘性流体を、そのような油圧ダンパの場合と同様のシール構造によって密封するようにした場合に、そのシール寿命が短くなることは明らかである。
【0005】
これに対し、特許文献1には、ピストンロッドの表面粗さRz(0.3〜0.5μm)と、鉄粉の公称粒径(1〜6μm)との関係を規定することが記載されている。これは、ピストンロッド表面の凹部の大きさを極力小さくしてその凹部に鉄粉が入り込まないようにすることで、シール材への攻撃性を小さくするという技術である。
【特許文献1】特表2000−514161号公報(第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の場合には、期待される効果を得る上で、鉄粉の粒径を極めて精度よく分級し、その粒度分布幅を小さくしなければならず、その結果、磁気粘性流体の材料コストが上昇することになり、さらに、ピストンロッドの表面加工コストも大きくなる。
【0007】
しかも、ピストンロッド表面の凹部を小さくするということは、潤滑性の保持という点において、好ましくない。
【0008】
尚、いわゆる磁性流体(MF)を用いた装置では、例えば特開2003−278821号公報に記載されているように、永久磁石又は電磁石によりシール材近傍の磁性流体中の鉄粉を引き付けてシール材に達する鉄粉の量を減らすことで、鉄粉によるシール材への攻撃性を低減するようにした技術が知られているが、これによれば、流体中における鉄粉の分布を偏らせることになるために、オリフィス中でクラスタを形成することで粘度変化する磁気粘性流体の場合には磁気粘性特性に悪影響を及ぼす虞があり、したがって、採用することはできない。
【0009】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、シリンダ本体などの第1部材の貫通孔とピストンロッドなどの第2部材との間の隙間をシール材により密封して磁気粘性流体が洩れ出ないようにした磁気粘性流体装置において、磁気粘性流体中の強磁性体粒子の分布を偏らせることなく、また、強磁性体粒子の分級精度を高めたり第2部材の表面に特別な加工処理を行うことなく、シール材に到達する強磁性体粒子の量を低減できるようにし、もって、大幅なコストアップを招かないのみならず、磁気粘性特性および第2部材に対する潤滑性を共に損なうことなく、シール寿命を延ばして磁気粘性流体装置の耐久性の向上に寄与できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成すべく、本発明では、磁性流体装置の場合のようにシール材近傍の流体中の粒子を集めるのではなく、第2部材の相対移動に伴ってシール材に移動する液体に対し、該液体中の粒子に係合して該粒子を移動しないように保持することとし、このことで、流体中の粒子の分布を偏らせたり、粒子の高精度の分級や第2部材の表面に対する特別加工をしなくても、シール材に到達する粒子の量を低減できるようにした。
【0011】
具体的には、本発明では、内部空間を有するとともに、この内部空間を外部空間に連通する貫通孔を有する第1部材と、この第1部材の貫通孔を貫通するように配置されていて、該貫通方向において第1部材に対し相対移動可能な第2部材と、第1部材の貫通孔内に設けられていて、第2部材の相対移動を許容しつつ該第1部材の内部空間を密封するシール材と、第1部材の内部空間に充填されていて、強磁性体粒子(以下、鉄粉という)を含有してなる磁気粘性流体とを備えた磁気粘性流体装置が前提である。
【0012】
そして、上記の貫通孔内におけるシール材の内部空間側において上記第2部材の表面に摺接する摺接面を有していて、該第2部材の表面上の磁気粘性流体中の鉄粉に対し、該鉄粉を上記摺接面内に保持するように係合する1つ以上の係合部材を備えるようにする。
【0013】
尚、上記の構成において、係合部材を、弾性材料により繊維を所定形状に保形しかつ該繊維の一部を摺接面に露出させるように設けられた繊維集合体とし、この繊維集合体の繊維が鉄粉に絡むことによって該鉄粉を摺接面内に保持させるようにすることができる。この場合に、第2部材の相対移動方向における繊維集合体の摺接面の寸法は、0.5mm以上とすることが好ましい。また、繊維集合体を、第2部材が挿通しかつ内壁面が上記摺接面を構成するように形成された挿通孔を有するリング状をなしていて、その内壁面が第2部材の表面に圧接するように設ける場合には、第2部材の相対移動方向に直交する方向における繊維集合体の上記圧接による広がり代を、0.1〜1.0mmとすることが好ましい。さらに、繊維集合体を複数とし、それら複数の繊維集合体を第2部材の相対移動方向に並ぶように配置することもできる。
【0014】
また、上記の構成において、係合部材を、柔軟な樹脂材料(例えば、PTFE)からなっていて摺接面が第2部材の表面に圧接するように設けられた樹脂体とし、この樹脂体の摺接面が該摺接面内に鉄粉を埋没させることによって該鉄粉を摺接面内に保持させるようにすることもできる。この場合に、樹脂体を、第2部材が挿通しかつ内壁面が上記摺接面を構成するように形成された挿通孔を有するリング状をなすものとする場合には、その樹脂体の外周に、該樹脂体を摺接面が第21部材の表面に圧接する方向に締め付ける締付部材(例えば、Oリング)を嵌着するようにしてもよい。また、樹脂体を複数とし、それら複数の樹脂体を、第2部材の相対移動方向に並ぶように配置することもできる。
【0015】
さらに、1つ以上の上記繊維集合体と、1つ以上の上記樹脂体とを併用し、これらを第2部材の相対移動方向に並ぶように配置することもできる。この場合に、1つ以上の繊維集合体のうちの1つを、シール材から最も離れた位置に配置することが好ましい。
【0016】
また、上記の磁気粘性流体装置を減衰装置に適用する場合には、第1部材の内部空間に該内部空間を第2部材の相対移動方向に分割された2つの流体室に区画するピストンを配置し、このピストンを上記相対移動方向において第1部材に対し相対移動可能に設けるとともに、上記2つの流体室を互いに連通する連通路を設け、これら2つの流体室および連通路内に磁気粘性流体を充填し、さらに、上記連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁界印加手段を備えるようにすればよい。この場合には、第2部材は、上記ピストンに移動一体に連結されたピストンロッドとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1部材の貫通孔と第2部材との間の隙間をシール材で密封して磁気粘性流体が洩れ出ないようにした磁気粘性流体装置において、第2部材の相対移動に伴ってシール材に移動する磁気粘性流体中の強磁性体粒子を、係合部材の摺接面内に保持することができるので、磁気粘性流体中の強磁性体粒子の分布を偏らせることなく、また、強磁性体粒子の分級精度を高めたり、第2部材の表面に特別な加工処理を行うことなく、シール材に到達する強磁性体粒子の量を低減することができ、もって、大幅なコストアップを招かないのみならず、磁気粘性特性および第2部材に対する潤滑性を共に損なうことなく、シール寿命を延ばして磁気粘性流体装置の耐久性の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係るMRFダンパの全体構成を模式的に示しており、このMRFダンパは、例えば該MRFダンパに直列又は並列に連結された別部材の直線運動を減衰させるために使用される。
【0020】
本MRFダンパは、内部空間を有する第1部材としてのシリンダ本体10を備えている。このシリンダ本体10は、軸方向一端側(図2の左端側)が閉じられている一方、軸方向他端側(同図の右端側)が開口された有底円筒状をなす鉄製のシリンダチューブ11を有する。
【0021】
上記シリンダチューブ11の底部外面には、本MRFダンパを取り付けるための取付片11aが突設されている。一方、シリンダチューブ11の開口部には、カバー12が嵌着されている。このカバー12の軸心部分には、該カバー12を軸方向に貫通する断面円形状の貫通孔12aが形成されている。また、カバー12のシリンダチューブ11側(図2の左側)には、該シリンダチューブ11の開口部内に嵌入する嵌入壁12bが周縁部に沿って円環状に形成されている。嵌入壁12bの外周には、周溝12cが設けられており、この周溝12c内には、シリンダチューブ11の内周面に弾接するOリング13が嵌着されている。また、シリンダチューブ11の開口端外周には、断面L字状をなす押えリング14が嵌着されている。この押えリング14は、カバー12の周縁部をシリンダチューブ11側に押圧固定している。一方、カバー12のシリンダチューブ11とは反対の側(同図の右側)には、該反対の側に向かって隆起する凸部12dが形成されている。このカバー12のシリンダチューブ11とは反対の側には、カバー12の凸部12dに嵌着されたキャップ15が配置されている。このキャップ15の軸心部分には、該キャップ15を軸方向に貫通する断面円形状の貫通孔15aが形成されている。また、カバー12の貫通孔12aと、キャップ15の貫通孔15aとは、互いに協働して、本発明における貫通孔を構成している。このキャップ15の貫通孔15aにおける外部空間側の部位は、内部空間側の部位よりも拡径されており、この拡径部には、略円筒状のロッドガイド16が配置されている。また、キャップ15のカバー12側の開口縁は略矩形状に切り欠かれており、この切欠部とカバー12とにより、半径方向内方に開放された断面凹字状の凹部17が形成されている。この凹部17内には、内周側にリップ部20aを有するU字形パッキン20(以下、Uパッキンという)が装着されている。
【0022】
上記シリンダ本体10内には、略円柱状をなすピストン30が配置されている。このピストン30はシリンダ本体10内において軸方向に移動可能に設けられている。また、このピストン30によりシリンダ本体10内には、軸方向に分割された2つの空間が区画形成されている。ピストン30の軸方向他端側(図2の右側)には、軸方向に延びる第2部材としてのピストンロッド31が移動一体に連結されている。このピストンロッド31は、カバー12の貫通孔12aおよびキャップ15の貫通孔15aを軸方向に貫通しており、該ピストンロッド31の表面には、上記Uパッキン20のリップ部20aおよび上記ロッドガイド16がそれぞれ摺接している。さらに、ピストンロッド31の軸方向他端側部分は外部空間に位置しており、その軸方向他端部には、本MRFダンパを取り付けるための取付片31aが設けられている。
【0023】
さらに、上記シリンダ本体10内には、ピストン30により区画された2つの空間のうち、ピストンロッド31とは反対側(図2の左側)の空間を、軸方向に分割された2つの空間に区画するフリーピストン32が配置されている。このフリーピストン32は、シリンダ本体10内を軸方向に移動可能に設けられている。フリーピストン32により区画された2つの空間のうち、ピストンロッド31とは反対側の空間はアキュムレータ室Acとされており、このアキュムレータ室Acには、例えば高圧の窒素ガスが充填されている。一方、ピストンロッド31側(同図の右側)の空間、すなわち、フリーピストン32とピストン30との間に形成された空間は第1流体室C1とされている。また、ピストン30により区画された2つの空間のうち、ピストンロッド31側の空間は第2流体室C2とされている。
【0024】
上記ピストン30の側周面と、シリンダチューブ11の内周面との間には、円環状の隙間が形成されており、この隙間は、第1流体室C1と第2流体室C2とを互いに連通する連通路34とされている。これら第1流体室C1,第2流体室C2および連通路34には、強磁性体粒子(以下、鉄粉という)を含有してなる磁気粘性流体が充填されている。これにより、シリンダ本体10に対するピストン30の相対移動に伴い、容積が小さくなる方向に変化する側の流体室C1(又はC2)の磁気粘性流体が、容積が大きくなる方向に変化する側の流体室C2(又はC1)に、連通路34を経由して移動するようになっている。
【0025】
さらに、上記ピストン30は、鉄製とされている。このピストン30の側周部には、断面略凹字状をなす凹溝30aが周設されており、この凹溝30a内には、導電線を軸心周りに巻き付けてなるコイル部35aが埋設されている。コイル部35aのリード線は、ピストン30およびピストンロッド31の内部を通ってシリンダ本体10の外部に引き延ばされている。このコイル部35aがピストン30の凹溝30a内に配置されていることにより、ピストン30を鉄心とする電磁石35が形成されていて、図外の電源供給部に接続されている。そして、電源供給部により電磁石35に電流が供給されると、電磁石35が磁力を発生し、この磁力により、ピストン30の軸心部分と、シリンダチューブ11と、連通路34内の各流体室C1,C2側の端部とを通る磁気回路Mが形成されるようになっている。
【0026】
そして、本実施形態では、図1(a)にも示すように、上記貫通孔12a,15a内におけるUパッキン20の内部空間側(同図の左側)に、ピストンロッド31の表面に摺接するように設けられていて、該ピストンロッド31との間の隙間に介在する磁気粘性流体中の鉄粉を保持するように係合する係合部材としての繊維集合体40を備えている。
【0027】
具体的には、繊維集合体40は、繊維を弾性材料としてのゴムで円板状に固めたものであり、図3(a)(b)に拡大して模式的に示すように、中央部分には、ピストンロッド31が挿通する円形状の挿通孔が形成されている。その挿通孔の内壁面は、ピストンロッド31の表面に摺接する摺接面40aとされており、この摺接面40aでは、繊維の一部がゴム表面から僅かに突き出た状態に露出している。この繊維集合体40は、キャップ15の凹溝15b内に該凹溝15bとピストンロッド31との間に半径方向に圧縮された状態に介装されている。具体例としては、ピストンロッド31の径φがφ=12mmである場合には、凹溝15bの溝底に対する外周側の潰し代(径方向寸法)は、0.2〜2.0mmとされており、ピストンロッド31に対する内周側の広がり代(径方向寸法)は、0.1〜1.0mmとされている。また、厚さ寸法(軸方向寸法)は、0.5mm以上とされている。このような繊維集合体40としては、「ソフトワイパ(商品名)」((株)阪上製作所製)が挙げられる。
【0028】
ここで、上記のように構成されたMRFダンパにおける繊維集合体40の作用について説明する。
【0029】
まず、MRFダンパでは、電源供給部から電磁石35に電流が供給されると、電磁石35が磁力を発生し、これにより、ピストン30とシリンダチューブ11の側周壁との間に磁気回路Mが形成される。すると、その磁気回路Mにより連通路34内の磁気粘性流体に磁界が印加されることになり、その結果、連通路34内における磁気粘性流体の見掛け上の粘度が高くなる。これにより、連通路34における磁気粘性流体の通過抵抗が増加するので、第1流体室C1および第2流体室C2間における連通路34を経由しての磁気粘性流体の移動が抑えられることになる。よって、ピストンロッド31に該ピストンロッド31を軸方向に移動させようとする運動が伝達されてピストン30が軸方向に移動する際に、ピストン30は、移動方向前側に位置する流体室C1(又はC2)の磁気粘性流体の圧力を受けてその移動が抑制される。これにより、ピストンロッド31に加わる運動は、減衰されることになる。
【0030】
そして、上記のピストンロッド31が伸長方向(図2の右方向)に移動するとき、ピストンロッド31の表面に付着している磁気粘性流体は、該ピストンロッド31と共に貫通孔12a,15aを経由して外部空間に洩れ出ようとする。このとき、Uパッキン20のリップ部20aがピストンロッド31の表面に摺接しているので、該表面に付着している磁気粘性流体が外部空間に洩れ出ることは抑えられる。ところが、磁気粘性流体は鉄粉を含有しており、しかも、ピストンロッド31が伸縮移動を繰り返すことから、その鉄粉によりリップ部20a摩耗が促進される虞がある。
【0031】
このとき、ピストンロッド31上の磁気粘性流体は、Uパッキン20の手前で繊維集合体40の摺接面40aに沿って通過する。そして、磁気粘性流体中の鉄粉は、繊維集合体40の摺接面40a上の繊維に絡み付いて該摺接面40a内に保持されるようになり、このことで、ピストンロッド31の伸長方向への移動が制限されることとなる。また、繊維に先に絡み付いた鉄粉は、後続の鉄粉を絡み取る役割を果たすので、鉄粉の移動を制限するという上記の作用は長期間に亘って発揮される。よって、図1(b)に模式的に示すように、Uパッキン20のリップ部20aに到達する鉄粉の量(鉄粉濃度)が低減されるので、その分、MRFダンパにおけるUパッキン20の寿命が延びることになる。
【0032】
しかも、貫通孔12a,15aを通過する磁気粘性流体のみが該磁気粘性流体中の鉄粉を繊維集合体40の摺接面40a内に保持されるので、磁気粘性流体中における鉄粉の分布が偏ることはなく、したがって、磁気粘性特性としての減衰特性が、そのような鉄粉の分布の偏りに起因して低下するという事態を招くことはない。
【0033】
さらに、従来の場合(特許文献1参照)に比べて、鉄粉の粒径を現状以上に高精度に分級する必要がないので、磁気粘性流体の材料コストの上昇を招かず、また、ピストンロッド31の表面粗さの値を現状以上に小さくする必要もないので、ピストンロッド31の加工コストの上昇を招かないのみならず、現状レベルの潤滑性が維持されることとなる。
【0034】
したがって、本実施形態によれば、シリンダ本体10の貫通孔12a15aとピストンロッド31との間の隙間をUパッキン20で密封して磁気粘性流体が洩れ出ないようにしたMRFダンパにおいて、ピストンロッド31の相対移動に伴ってUパッキン20のリップ部20aに移動する磁気粘性流体中の鉄粉を、繊維集合体40の摺接面40a内に保持することができるので、磁気粘性流体中の鉄粉の分布を偏らせることなく、また、鉄粉の分級精度を高めたり、ピストンロッド31の表面に特別な加工処理を行うことなく、Uパッキン20のリップ部20aに到達する鉄粉の量を低減することができ、もって、大幅なコストアップを招かないのみならず、磁気粘性特性およびピストンロッド31に対する潤滑性を共に損なうことなく、シール寿命を延ばしてMRFダンパの耐久性の向上に寄与することができる。
【0035】
尚、上記の実施形態では、1つの繊維集合体40を用いるようにしているが、図4(a)に模式的に示す変形例1のように、複数(図示する例では2つ)の繊維集合体40を軸方向に並べて配置するようにしてもよい。これにより、Uパッキン20のリップ部20aに到達する鉄粉の量(鉄粉濃度)は、同図(b)に模式的に示すように、更に低減することとなる。
【0036】
また、上記の実施形態では、本発明の係合部材を繊維集合体40とするようにしているが、係合部材としては、繊維集合体40に限定されるものではなく、例えば、ピストンロッド31に対する摺動抵抗が低くかつ硬さデュロメータD(ASTM D 2240)が60度程度の比較的柔らかいPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂リング50(図5(a)および(b)に示す変形例2参照)であってもよい。その際に、樹脂リング50のみではピストンロッド31表面に対する摺接面50aの十分な圧接力が得られない場合には、図6の拡大図にも示すように、樹脂リング50の外周にOリング51などの締付部材を嵌着することが好ましい。また、このような樹脂リング50は、1つ用いてもよいし、複数用いてもよい。さらに、このような1つ又は複数の樹脂リング50を、1つ又は複数の上記繊維集合体40と併せて用いるようにしてもよい。その場合には、Uパッキン20から最も離れた位置に繊維集合体40を配置することが好ましい。
【0037】
−実験例−
ここで、次に示す例1〜例5の5種類のMRFダンパにおけるUパッキンの寿命を調べるために行った実験について説明する。
【0038】
〔例1〕
繊維集合体および樹脂リングは装着されていない。
【0039】
〔例2〕
貫通孔内におけるUパッキンの内部空間側に、繊維集合体(厚さ寸法の設計値:1.5mm)が装着されている。尚、この繊維集合体には、広がり代および潰し代は共に設定されていないが、潰し代には、−0.2mmの公差が付いている。
【0040】
〔例3〕
貫通孔内におけるUパッキンの内部空間側に、広がり代を0.3mm,潰し代を0.9mmとする繊維集合体(厚さ寸法:3.2mm)が装着されている。
【0041】
〔例4〕
繊維集合体に代えて、樹脂リングが貫通孔内におけるUパッキンの内部空間側に装着されている。この樹脂リングにはOリングが嵌着されている。
【0042】
〔例5〕
例3の繊維集合体と、例4の樹脂リングとが貫通孔内におけるUパッキンの内部空間側に装着されている。但し、その配列は、内部空間側から繊維集合体,樹脂リング,Uパッキンの順である。
【0043】
本実験の要領は、各ダンパを伸縮(周波数:9Hz,ストローク:4mm)させてUパッキンから磁気粘性流体が洩れ出すようになるまでの伸縮回数をカウントした。尚、ピストンロッドについては、外径dをφ12f8(12−0.043mm≦d≦12+0mm)とした。また、表面粗さRz(JIS B 0601−2001「最大高さ」〔ISO 4287:1997準拠〕)は、3.2μm(例2の場合は、1.6μm)とした。
【0044】
以上の結果として、例1のダンパの場合にUパッキンから磁気粘性流体が洩れ出るようになったときの伸縮回数を1とする例2〜例5の同各伸縮回数を、次表に併せて示す。
【0045】
【表1】

上記の表から判るように、繊維集合体および樹脂リングの何れかを装着した例2〜例5では、Uパッキンの寿命が2倍以上になっている。
【0046】
また、共に繊維集合体が装着された例2と例3とを対比すると、繊維集合体の厚さ寸法を大きくするとともに、広がり代および潰し代を設定することで、寿命が数倍(本テストの場合には約4倍)に延びることが判る。しかも、例3では、ピストンロッドの表面粗さRzの値が例2の場合の2倍(=3.2/1.6)である。したがって、例3において、ピストンロッドの表面粗さRzが例2の場合と同程度であれば、更なる寿命の延びが期待できる。
【0047】
一方、例2と例4とを対比すると、繊維集合体が樹脂リングに代わっても、その樹脂リングがOリングにより締め付けられるなどして摺接面をピストンロッドの表面に圧接させることで、寿命が約2倍になることが判る。
【0048】
さらに、例3と例5とを対比すると、例3のダンパにおいて、Uパッキンと繊維集合体との間に樹脂リングを配置することで、更に寿命が延びることが判る。因みに、この例5の場合には、Uパッキンの寿命は、例1の場合の実に10倍である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】MRFダンパの要部を模式的に示す縦断面図(a)および軸方向位置における鉄粉濃度の変化を模式的に示す特性図(b)である。
【図2】本発明の実施形態に係るMRFダンパの全体構成を模式的に示す縦断面図である。
【図3】繊維集合体を模式的に示す平面図(a)および縦断面図(b)である。
【図4】本実施形態の変形例1に係るMRFダンパの要部および軸方向位置における鉄粉濃度の変化をそれぞれ模式的に示す図1相当図である。
【図5】本実施形態の変形例2に係るMRFダンパの要部および軸方向位置における鉄粉濃度の変化をそれぞれ模式的に示す図1相当図である。
【図6】変形例2に係るMRFダンパに用いられた樹脂リングを模式的に示す図3相当図である。
【符号の説明】
【0050】
10 シリンダ本体(第1部材)
12a 貫通孔
15a 貫通孔
20 U字形パッキン(シール材)
31 ピストンロッド(第2部材)
34 連通路
35 電磁石(磁力発生手段)
40 繊維集合体
40a 摺接面
50 樹脂リング(樹脂体)
50a 摺接面
51 Oリング(締付部材)
C1 第1流体室(流体室)
C2 第2流体室(流体室)
M 磁気回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間と、該内部空間を外部空間に連通する貫通孔とを有する第1部材と、
上記第1部材の貫通孔を貫通するように配置され、該貫通方向において第1部材に対し相対移動可能な第2部材と、
上記第1部材の貫通孔内に設けられ、上記第2部材の相対移動を許容しつつ該第1部材の内部空間を密封するシール材と、
上記第1部材の内部空間に充填され、強磁性体粒子を含有してなる磁気粘性流体とを備えた磁気粘性流体装置であって、
上記貫通孔内における上記シール材の内部空間側において上記第2部材の表面に摺接する摺接面を有し、該第2部材の表面上の磁気粘性流体中の強磁性体粒子に対し、該磁性体粒子を上記摺接面内に保持するように係合する1つ以上の係合部材を備えていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気粘性流体装置において、
係合部材は、弾性材料により繊維を所定形状に保形しかつ該繊維の一部を摺接面に露出させるように設けられた繊維集合体であり、
上記繊維集合体は、上記繊維を強磁性体粒子に絡めることによって該強磁性体粒子を上記摺接面内に保持するように構成されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置において、
第2部材の相対移動方向における繊維集合体の摺接面の寸法が、0.5mm以上とされていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項4】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置において、
繊維集合体は、第2部材が挿通しかつ内壁面が摺接面を構成するように形成された挿通孔を有するリング状をなしていて、上記内壁面が第2部材の表面に圧接するように設けられ、
上記第2部材の相対移動方向に直交する方向における上記繊維集合体の挿通孔の上記圧接による広がり代が、0.1〜1.0mmとされていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項5】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置において、
繊維集合体は、複数とされ、
上記複数の繊維集合体は、第2部材の相対移動方向に並ぶように配置されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気粘性流体装置において、
係合部材は、柔軟な樹脂材料からなっていて摺接面が第2部材の表面に圧接するように設けられた樹脂体であり、
上記樹脂体は、上記摺接面内に強磁性体粒子を埋没させることによって該強磁性体粒子を上記摺接面内に保持するように構成されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気粘性流体装置において、
樹脂体は、第2部材が挿通しかつ内壁面が摺接面を構成するように形成された挿通孔を有するリング状をなし、
上記樹脂体の外周に、該樹脂体を摺接面が上記第2部材の表面に圧接する方向に締め付ける締付部材が嵌着されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気粘性流体装置において、
樹脂体は、複数とされ、
上記複数の樹脂体は、第2部材の相対移動方向に並ぶように配置されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項9】
請求項2に記載の磁気粘性流体装置における1つ以上の繊維集合体と、請求項6に記載の磁気粘性流体装置における1つ以上の樹脂体とが、第2部材の相対移動方向に並ぶように配置されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気粘性流体装置において、
1つ以上の繊維集合体のうちの1つの繊維集合体は、シール材から最も離れた位置に配置されていることを特徴とする磁気粘性流体装置。
【請求項11】
請求項1に記載の磁気粘性流体装置を備えた減衰装置であって、
上記磁気粘性流体装置の第1部材内に該第1部材の内部空間を該磁気粘性流体装置の第2部材の相対移動方向に分割された2つの流体室に区画するように配置され、該相対移動方向に相対移動可能に設けられたピストンと、
上記2つの流体室を互いに連通する連通路とを備え、
上記磁気粘性流体装置の磁気粘性流体は、上記2つの流体室および上記連通路内に充填され、
上記連通路内の磁気粘性流体に磁界を印加する磁界印加手段を備え、
上記第2部材は、上記ピストンに移動一体に連結されたピストンロッドであることを特徴とする減衰装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−220265(P2006−220265A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36215(P2005−36215)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】