説明

磁気粘性流体

【課題】 長期に渡り磁性粒子が安定に分散し、生産性に優れた磁気粘性流体を提供する。
【解決手段】 アスペクト比が2以上で真比重が5以下の非粘土鉱物系の無機ウィスカー、分散媒及び磁性粒子を含有する磁気粘性流体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体、磁性流体又は磁気レオロジー材料と呼ばれる磁場に感応してその流体特性が変化する液状組成物に関する記述が非特許文献1に見られ、また、特許文献1では分散剤としてオレイン酸鉄等を含有する磁気粘性流体が開示され、その他、特許文献2〜5等にもその技術が開示されている。これらの磁気粘性流体は何れも、含有する磁性粒子(平均粒径:数十nm〜十数μm)が外部から印加された磁場によって配向して鎖状のクラスタを形成することにより、増粘又はゲル化し、その流動特性や降伏応力が著しく変化するものである。
【0003】
磁気粘性流体は、軸受け、シール材、センタリング装置、スピーカー、クラッチ、ブレーキ、ダンパー、緩衝装置、エンジンマウントや、昇降機能用部材、建築物制震装置等に利用されてきた。これらのうち、クラッチ、ブレーキ、ダンパー、緩衝装置等の用途においては、デバイスの作動中に磁気粘性流体が安定した特性を示すだけでなく、非作動状態(静止状態)においても磁性粒子の沈降を生じさせることなく、安定して分散媒中にこれを分散させることが要求されている。
【0004】
通常、磁気粘性流体を構成する磁性粒子の真比重は分散媒の真比重に比して著しく大きいため、磁性粒子の沈降を防止し、長期に渡り安定した分散性を維持させることは極めて困難である。一般に、磁気粘性流体中の磁性粒子の沈降を防止するためには、高粘度の分散媒を用いることが有効である。
【0005】
しかしながら、高粘度の分散媒を用いることは磁気粘性流体自身の粘度の上昇に帰結し、デバイスへの適用を考えた揚合、磁気粘性流体の注入操作が困難になるばかりか、磁力の印加時と非印加時での磁気粘性流体の粘度変化率が小さくなり、充分な性能を発揮することができるデバイスの構築ができなくなるという問題がある。
【0006】
一方、磁性粒子の沈降を防止する別の方策として、チキソトロピック剤(揺変剤)を配合する方法がある。これにより、磁気粘性流体中にチキソトロピック剤の水素結合力やvan der Waals力に由来する物理網目構造が形成され、静置状態において流体の見かけの粘度が上昇して磁性粒子の沈降を防止することができる。磁気粘性流体に力学的刺激が加えられた場合にはチキソトロピック剤による物理網目構造は破壊され、磁気粘性流体は低粘度流体としての挙動を示す。チキソトロピック剤による物理網目構造の形成と破壊は可逆であるため、再度磁気粘性流体を静置すれば、この見かけの粘度は上昇し磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0007】
このような効果を発現するチキソトロピック剤としては通常膨潤性粘土鉱物が用いられており、このような技術が特許文献6〜9に開示されている。膨潤性粘土鉱物は分散媒中で膨潤し、水素結合を形成して物理網目構造を形成することによりチキソトロピック性を発現するが、この効果を発現させるために高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を添加する必要があり、−30〜−40℃といった低温環境においては極性添加剤(邂膠剤)の粘度上昇に起因する磁気粘性流体の大幅な粘度上昇を招くという不具合があった。
【0008】
また一般に、粘土鉱物は親水性が高く、鉱物油や合成油、シリコン油中では充分に膨潤しないため、これら油類を分散媒として用いる場合には粘土鉱物を長鎖脂肪酸等の疎水性有機化合物等で変性処理する必要があった。更に、分散媒中での粘土鉱物の膨潤には時間を要するため、安定したチキソトロピック性を示すようになるまで長時間に渡って分散媒と粘土鉱物を混練する必要があり、磁気粘性流体の生産性向上を阻害する要因となっていた。
【0009】
【特許文献1】米国特許第2661596号明細書
【特許文献2】米国特許第3006656号明細書
【特許文献3】米国特許第4604229号明細書
【特許文献4】特開昭51−13995号公報
【特許文献5】特開昭51−44579号公報
【特許文献6】米国特許第5599474号明細書
【特許文献7】米国特許第6203717号明細書
【特許文献8】米国特許第6547986号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2004/84651号明細書
【非特許文献1】AIEE Transactions、「磁気流体の特性」、1955年2月、p.149−152(J.D.クーリッジJr.及びR.W.ハルバーグ著の論文第55−170)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、長期に渡り磁性粒子が安定に分散し、生産性に優れた磁気粘性流体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アスペクト比が2以上で真比重が5以下の非粘土鉱物系の無機ウィスカー、分散媒及び磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体である(第一の磁気粘性流体)。
上記第一の磁気粘性流体において、上記無機ウィスカーの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明は、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又はケイ酸カルシウムウィスカー、分散媒、並びに、磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体である(第二の磁気粘性流体)。
上記第二の磁気粘性流体において、上記塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又は上記ケイ酸カルシウムウィスカーの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の第一の磁気粘性流体は、アスペクト比が2以上で真比重が5以下の非粘土鉱物系の無機ウィスカー、分散媒及び磁性粒子を含有するものである。即ち、上記磁気粘性流体は、特定のアスペクト比及び真比重を有する非粘土鉱物系の無機ウィスカー(以下、単に「無機ウィスカー」ともいう)を含むものであるため、分散媒に充分なチキソトロピック性を付与することができ、その結果、静置状態の磁気粘性流体中に含まれる磁性粒子を長期間安定に分散させることができ、磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0014】
上記第一の磁気粘性流体は、上記無機ウィスカーを含むものであるため、高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を必須成分として添加しなくても、チキソトロピック性を発現させることができるものである。このため、−30〜−40℃の低温環境において、極性添加剤の粘度上昇に起因する磁気粘性流体の粘度上昇を防止することができる。
【0015】
磁気粘性流体において、チキソトロピック剤として膨潤性粘土鉱物、分散媒として油類を用いる場合、チキソトロピック性を付与するために、膨潤性粘土鉱物を疎水性有機化合物等で変性処理する必要がある。これに対して、上記第一の磁気粘性流体は、上記無機ウィスカーを含むものであるため、このような変性処理を無機ウィスカーに施さなくても、チキソトロピック性を充分に付与することができ、その結果、磁気粘性流体の静置状態において流体の見かけの粘土を上昇させることができるため、磁性粒子の沈降を防止することができる。
【0016】
磁気粘性流体において、チキソトロピック剤として膨潤性粘土鉱物を用いる場合、安定したチキソトロピック性を付与するために、分散媒と膨潤性粘土鉱物とを長時間混練する必要があるが、上記第一の磁気粘性流体は、上記無機ウィスカーを含むものであるため、無機ウィスカーと分散媒とを長時間混練しなくても、容易に安定したチキソトロピック性を付与することができる。このため、上記第一の磁気粘性流体は、簡便に製造することができるものである。
【0017】
上記第一の磁気粘性流体は、非粘土鉱物系の無機ウィスカーを含むものである。ウィスカーは、いわゆるヒゲ状結晶と称される極めて細い針状の結晶であり、上記無機ウィスカーとは、無機化合物からなるウィスカーを意味する。上記無機ウィスカーを用いることにより、磁気粘性流体にチキソトロピック性を付与することができるため、静置状態の流体中において、磁性粒子を長期間安定に分散させることができる。
【0018】
上記無機ウィスカーは、アスペクト比が2以上である。2未満であると、水素結合力やvan der Waals力に由来する物理網目構造の形成能が低くなり、分散媒に充分なチキソトロピック性を付与することができず、磁気粘性流体中の磁性粒子が早期に分離・沈降するという問題が生じるおそれがある。上記アスペクト比は、2〜200であることが好ましく、2〜100であることがより好ましい。
【0019】
上記アスペクト比(長径/短径)の値は、無機ウィスカー等の測定に用いられる従来公知の測定方法により得られる値であり、例えば、上記無機ウィスカーを撮影した電子顕微鏡写真上に、無作為に引いた直線上に存在する無機ウィスカーの粒子20個から得られる測定値である。
【0020】
上記無機ウィスカーは、平均長さが50μm以下であることが好ましい。50μmを超えると、分散媒に充分なチキソトロピック性を付与することができないおそれがある。0.1〜40μmがより好ましい。
【0021】
上記無機ウィスカーは、真比重が5以下である(g/cm)。5を超えると、無機ウィスカーと分散媒との比重差が大きくなりすぎて、無機ウィスカーが分散媒から分離したり、沈殿したりして分散媒に充分なチキソトロピック性を付与することができなくなるおそれがある。上記真比重は、0.2〜5であることが好ましく、0.8〜4であることがより好ましい。なお、上記真比重の値は、無機ウィスカー等の測定に用いられる従来公知の測定方法により得られる値である。
【0022】
上記無機ウィスカーとしては特に限定されず、例えば、チタン酸カリウムウィスカー、シリコーンカーバイトウィスカー、カーボングラファイトウィスカー、シリコンナイトライドウィスカー、α−アルミナウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、水酸化マグネシウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー〔マグネシウムオキシサルフェートウィスカーMgSO・5Mg(OH)・3HO〕、ケイ酸カルシウムウィスカー等を挙げることができる。
【0023】
上記無機ウィスカーのなかでも、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカーが好ましい。上述した特定のアスペクト比及び真比重を有する塩基性硫酸マグネシウムウィスカーやケイ酸カルシウムウィスカーを用いる場合は、特に好適にチキソトロピック性を付与することができるため、磁性粒子をより安定に分散させることができる。これらの無機ウィスカーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記無機ウィスカーは、特に表面処理を施さなくても、充分なチキソトロピック性を付与することができるが、別に表面処理を施したものを用いてもよい。
上記表面処理は、シラン系、チタネート系等のカップリング剤によって行うことができる。上記カップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)−シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(β−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルキャップトプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシ・シクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;ジイソステアロリルエチレンチタネート等のチタネートカップリング剤等を挙げることができる。
【0025】
上記カップリング剤での表面処理は、乾式法によって行うことができる。上記カップリング剤は、上記無機ウィスカー100質量部に対して、0.1〜2質量部(固形分質量部)添加するのが好ましく、より好ましくは0.5〜1質量部である。
【0026】
上記第一の磁気粘性流体において、上記無機ウィスカーの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%であることが好ましい。0.05質量%未満であると、充分なチキソトロピック性を発現させることができなくなり、磁性粒子が沈降して分散安定性に優れた磁気粘性流体を得ることができなくなるおそれがある。15質量%を超えると、磁性粒子の沈降は抑えられるものの磁気粘性流体は流動性を完全に失い、デバイスに適用した場合には充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。より好ましくは、0.1〜8質量%である。
【0027】
上記第一の磁気粘性流体は、分散媒を含むものである。
上記分散媒は、チキソトロピック剤や磁性粒子を分散させることが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、へキサン等の有機溶媒;石油系炭化水素からなる鉱物油類;アルキルベンゼン、ポリフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、ポリブテン、シリコン油、フッ素油等の合成油類;魚油、豚油、牛油等の動物性油;大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、やし油、綿実油、ひまわり油、ひまし油等の植物性油;水やグリコール誘導体類;エチルメチルイミダゾリウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−メチルピラゾリウム塩等に代表されるイオン性液体(常温溶融塩)類等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記第一の磁気粘性流体は、磁性粒子を含むものである。
上記磁性粒子としては磁性を有する物質であれば特に限定されず、例えば、鉄、窒化鉄、炭化鉄、カルボニル鉄、二酸化クロム、低炭素鋼、ニッケル、コバルト、アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金等の鉄合金、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体からなる常磁性、超常磁性又は強磁性化合物粒子及びこれらの混合物からなる粒子等を挙げることができる。これらの磁性粒子は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記磁性粒子のなかでも、僅かな磁場でも大きな応力を発現する点から、カルボニル鉄が好ましい。
上記磁性粒子は、これらの磁性粒子の表面に分散処理を施したものを用いてもよい。表面に分散処理を施すことにより磁性粒子の分散性が向上し、応答性に優れた磁気粘性流体を得ることができる。表面に分散処理が施された磁性粒子(表面処理磁性粒子)としては、磁性粒子の表面をシランカップリング剤で処理したもの等を挙げることができる。
【0030】
上記表面処理磁性粒子としては、磁性粒子の表面をエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤によって処理したもの等を挙げることができる。上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤としては、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤であれば特に限定されないが、下記式(1)で表される化合物が好適に用いられる。
【0031】
X−(Y)−SiR3−b (1)
式中、Xはエポキシ基、環状エポキシ基又はアミノ基を表す。Yは(CH、又は、エーテル結合、エステル結合又はケトン結合を含む炭化水素基を表す。kは1〜4の整数を表す。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基を表す。Lはハロゲン原子、水酸基、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基等のアルコキシル基、又は、ホルミル基、アセトキシル基、プロピオニルオキシル基、ブチリルオキシル基等のアシルオキシル基を表す。bは1〜3の整数を表す。
【0032】
上記磁性粒子の表面をエポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤によって処理する方法としては、例えば、上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤をアルコール等の溶剤に溶解させた溶液に、上記磁性粒子を浸漬するか、又は、上記シランカップリング剤溶液を上記磁性粒子に噴霧した後、溶剤を揮発させることにより行うことができる。更に、溶剤を揮発させた後に、40〜150℃で5分〜24時間加熱処理を行ってもよい。上記表面処理磁性粒子は、未処理の磁性粒子と比べて、遙に分散安定性に優れる。
【0033】
上記エポキシ基又はアミノ基を含有するシランカップリング剤の使用量としては、磁性粒子の比表面積により適宜調整することができるが、例えば、上記磁性粒子100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましい。
【0034】
上記磁性粒子の粒径は、0.01〜100μmであることが好ましい。0.01μm未満であると、粒径が小さすぎるために磁力印加時の磁気粘性流体の粘度上昇率が小さくなり、デバイスに応用した際に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。100μmを超えると、磁性粒子の凝集・沈降が起き易くなり、分散安定性に優れた磁気粘性流体を得ることができなくなるおそれがある。0.5〜20μmであることがより好ましい。
【0035】
上記第一の磁気粘性流体において、上記磁性粒子の含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、10〜95質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、磁気印加時に磁気粘性流体の粘度が充分に上昇せず、デバイスに適用した場合に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。95質量%を超えると、磁気粘性流体の粘度が上昇し過ぎて流体としての機能を発現しなくなり、デバイスに適用した場合に充分な性能を発揮することができなくなるおそれがある。50〜85質量%であることがより好ましい。
【0036】
上記第一の磁気粘性流体は、磁気粘性流体の特性、とりわけチキソトロピック性を阻害しない範囲において、油性向上剤、極圧添加剤、固体潤滑剤、洗浄分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、さび止め剤、消泡剤等の添加剤を含むものであってもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記油性向上剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪族アミン、脂肪族アミド、エステル類等を挙げることができる。
上記極圧添加剤としては、例えば、オレフィンポリサルファイド、ジベンジルジサルファイド、アルキルリン酸エステル、アリルリン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩、チオリン酸エステル及びこのアミン塩、ナフテン酸塩、塩素化パラフィン等を挙げることができる。
【0038】
上記固体潤滑剤としては、例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。
上記洗浄分散剤としては、例えば、金属スルファネート、金属ホスホネート、金属カルボキシレート、金属フェネート、こはく酸イミド、こはく酸エステル、ベンジルアミン、アルキルフェノールアミン類等をあげることができる。
【0039】
上記粘度指数向上剤としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリイソブチレン、オレフィン系共重合体、ポリアルキルスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、水素化スチレン−ジエン共重合体等を挙げることができる。
【0040】
上記流動点降下剤としては、例えば、低分子量のポリメタクリル酸エステル及びポリアクリル酸エステル、塩素化パラフィン−ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン−フェノール縮合物、ポリアルキルスチレン類等を挙げることができる。
【0041】
上記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系誘導体、アミン類、ベンゾトリアゾール、リン酸亜鉛誘導体、金属フェネート類、有機窒素化合物類等を挙げることができる。上記さび止め剤としては、例えば、金属石鹸のアミン塩、こはく酸誘導体、金属スルフォネート塩、オレイン酸誘導体、アルキルアミン類、リン酸エステル類等を挙げることができる。
【0042】
上記消泡剤としてはシリコン系化合物、脂肪族アルコール類、金属石験、こはく酸誘導体、ポリアクリル酸エステル等を挙げることができる。本発明においては、上記添加剤として、炭酸プロピレンやポリエチレングリコールベースの非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の磁気粘性流体は、上述したように高級アルコール、水、炭酸プロピレン等の極性添加剤(邂膠剤)を特に必須成分として用いなくてもよいものである。このため、上記極性添加剤を用いる場合、上記極性添加剤の含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05質量%以下であることが好ましい。
【0044】
上記第一の磁気粘性流体は、無機ウィスカー、分散媒、磁性粒子及び必要に応じてその他の添加剤を混錬すること等により製造することができる。混練手順としては、計量した総ての磁気粘性流体の構成材料を一度に混錬する方法も可能ではあるが、この方法によれば、均一分散させるために時間を要する上、混錬中に無機ウィスカーや磁性粒子の粉砕が起こりやすくなる。従って、予め磁性粒子以外の材料を予備混錬分散しておき、ここに磁性粒子を添加して再度混練を行う二段階混錬を行うことが望ましい。混練・分散の手段は特に限定されず、サンドミル、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、ニーダー、プラネタリーミキサー、ハイスピードミキサー、万能混合機、ホモジナイザー等を挙げることができる。また、混練・分散性を高めるために、加熱装置や超音波浴等を併用することも可能である。
【0045】
本発明の第二の磁気粘性流体は、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又はケイ酸カルシウムウィスカー、分散媒、並びに、磁性粒子を含有するものであるため、上述の第一の磁気粘性流体で述べた効果と同様の効果を得ることができる。
【0046】
上記第二の磁気粘性流体において、上記塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又は上記ケイ酸カルシウムウィスカーの含有量は、上記磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%であることが好ましい。0.05質量%未満である場合、15質量%を超える場合は、それぞれ上記第一の磁気粘性流体の無機ウィスカーの含有量で述べたことと同様の問題が生じるおそれがある。より好ましくは、0.1〜8質量%である。なお、上記塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又は上記ケイ酸カルシウムウィスカーの含有量は、これらの合計量である。
【0047】
上記第二の磁気粘性流体において、上記分散媒、上記磁性粒子は、上述の第一の磁気粘性流体で述べたものと同様のものを挙げることができる。また、上記磁性粒子の好ましい含有量も同様である。更に、上記第二の磁気粘性流体は、上述の第一の磁気粘性流体で述べた添加剤と同様のものを含むものであってもよい。上記第二の磁気粘性流体は、上述の第一の磁気粘性流体と同様の方法により製造することができる。
【0048】
本発明の第一の磁気粘性流体は、アスペクト比が2以上で真比重が5以下の非粘土鉱物系の無機ウィスカー、分散媒及び磁性粒子を含有するものである。また、第二の磁気粘性流体は、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又はケイ酸カルシウムウィスカー、分散媒、並びに、磁性粒子を含有するものである。よって、上記第一及び第二の磁気粘性流体は、充分なチキソトロピック性を付与することができるため、静置状態の磁気粘性流体中に含まれる磁性粒子を長期間安定に分散させることができ、磁性粒子の沈降を防止することができる。また、上記第一及び第二の磁気粘性流体は、簡便に製造することができるものである。従って、上記第一及び第二の磁気粘性流体は、磁力印加により発生応力の制御を良好に行うことができるものであり、ダンパーや緩衝装置、ブレーキやクラッチ等の応力制御装置に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の磁気粘性流体は、高いチキソトロピック性を示すため、磁性粒子の沈降防止能に優れており長期間安定した性能を持続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
実施例1 磁気粘性流体の作製
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒である合成オイル(綜研化学製NeOSK−OIL 1300)と、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー(宇部マテリアルズ製モスハイジ、アスペクト比:10〜60、真比重:2.3、平均長さ:15μm)をホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。ここに磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM、粒径D50≒7μm)を加え、1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで1.5時間混練して磁気粘性流体を作製した。
【0051】
実施例2
ポリエチレングリコールベースの非イオン性界面活性剤を添加し、表1に示した組成比に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により磁気粘性流体を作製した。なお、非イオン性界面活性剤は予備混合前に添加した。
【0052】
実施例3
塩基性硫酸マグネシウムウィスカーの代わりに、ケイ酸カルシウムウィスカー(宇部マテリアルズ製ゾノハイジ、アスペクト比:2〜50,真比重:2.5、平均長さ:4μm)を用い、表1に示した組成比に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により磁気粘性流体を作製した。
【0053】
比較例1
表1に示した組成比で、全量が430gとなるように磁気粘性流体の構成材料を計量した。分散媒である合成オイル(綜研化学製NeOSK−OIL 1300)と、チキソトロピック剤である有機化ベントナイト(Elementis Specialties製 BENTONE 57、粘土鉱物)及び添加剤である炭酸プロピレンをホモジナイザーにより7600rpmで10分間攪拌した。これを1/4インチのスチールボールをメディアとしたボールミルで24時間混錬してチキソトロピック性を示す予備混合物を得た。これに磁性粒子であるカルボニル鉄粉(BASF製カルボニル鉄粉CM)を加え、再度ボールミルにて1.5時間混練して磁気粘性流体を作製した。
【0054】
比較例2
チキソトロピック剤に有機化コロイダル炭酸カルシウム(粒径0.15μm球状、真比重:2.5)を用い、表1に示した組成比に変更したこと以外は、比較例1と同様の方法にて予備混合物を得たが、この段階で有機化コロイダル炭酸カルシウムが沈殿して全くチキソトロピック性を示さなかったため、磁気粘性流体を作製することはできなかった。
【0055】
〔磁気粘性流体の評価〕
実施例、比較例で得られた磁気粘性流体の沈降安定性及び粘度を以下の方法により評価した。
【0056】
(沈降安定性の評価)
磁気粘性流体を50mlの共栓付メスシリンダーに50ml入れて栓をし、25℃雰囲気に静置した。静置から3日後、3ケ月後の磁気粘性流体に生じた上澄み液の量を測定し、この体積分率(vol%)〔上澄み液の体積(ml)×100/50(ml)〕を評価した。
【0057】
(粘度の評価)
ビスコテック社製ストレスレオメーターRC20−CPSを用いて25℃、剪断速度1(1/s)及び500(1/s)における磁気粘性流体の粘度(Pa・s)を評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から、実施例で得られた磁気粘性流体は、優れた沈降安定性を有し、剪断速度1(1/s)及び500(1/s)において、好適な低粘度流体としての挙動を示すものであった。一方、比較例1で得られたものは、沈降安定性に劣るものであり、作製に長時間の混練を要した。また、球状の有機化コロイダル炭酸カルシウムを用いた比較例2では、磁気粘性流体を作製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の磁気粘性流体は、ダンパーや緩衝装置、ブレーキやクラッチ等の応力制御装置に好適に適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペクト比が2以上で真比重が5以下の非粘土鉱物系の無機ウィスカー、分散媒及び磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項2】
無機ウィスカーの含有量は、磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%である請求項1記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又はケイ酸カルシウムウィスカー、分散媒、並びに、磁性粒子を含有することを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項4】
塩基性硫酸マグネシウムウィスカー及び/又はケイ酸カルシウムウィスカーの含有量は、磁気粘性流体100質量%中に、0.05〜15質量%である請求項3記載の磁気粘性流体。




【公開番号】特開2006−193686(P2006−193686A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8980(P2005−8980)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】