磁気計測装置および生体磁気計測方法
【課題】生体などの測定対象内に生じた微弱電流による磁場解析を行うにあたって、解析結果として得られる脳磁図や心磁図に、センサ位置ずれによるゴーストの発生を抑える。
【解決手段】磁気センサ32には冷却無し或いは簡易な冷却のみで前記微弱電流による磁界を計測できるTMR素子MI素子から成る磁気センサを用い、たとえば前記脳磁図の場合、その磁気センサ32を被験者2の頭部21に複数被着し、磁気計測の前または後に、各磁気センサ32間の相対位置関係を3次元計測装置8で計測し、得られた各磁気センサ32間の相対位置関係に基いて、計測装置本体で前記各磁気センサ32の計測結果を磁場解析する。したがって、解析結果として得られる前記脳磁図や心磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【解決手段】磁気センサ32には冷却無し或いは簡易な冷却のみで前記微弱電流による磁界を計測できるTMR素子MI素子から成る磁気センサを用い、たとえば前記脳磁図の場合、その磁気センサ32を被験者2の頭部21に複数被着し、磁気計測の前または後に、各磁気センサ32間の相対位置関係を3次元計測装置8で計測し、得られた各磁気センサ32間の相対位置関係に基いて、計測装置本体で前記各磁気センサ32の計測結果を磁場解析する。したがって、解析結果として得られる前記脳磁図や心磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳磁計測に代表される生体などの磁気計測のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前記脳磁計測に代表される生体磁気計測では、微弱な磁場を検出する高感度磁気センサであるSQUID(Superconducting QUantum Interference Device:超伝導磁束量子干渉計)が用いられていた。その概略的な測定メカニズムは、位相の異なる超伝導体を障壁層を介して接合(Josephson接合)すると、それらの超伝導体間にトンネル電流が流れ、そのトンネル電流は、接合面内を貫く磁束が磁束量子の整数倍のとき弱め合い、それ以外のとき強め合うというFraunhofer型の量子干渉効果を利用するものである。このような性質をJosephson効果と称し、1個以上のJosephson接合を超伝導ループでつないだデバイスを、前記SQUIDと称する。
【0003】
そして、現在のところ実用化されているほとんどのSQUID素子はニオブ(Nb)で作られており、SQUID素子として働かせるためにはこのニオブを上述のように超伝導状態にする必要があり、ニオブの超伝導転移温度が9.2Kであることから、液体ヘリウムでの冷却が必要となる。その為、実際の測定に際しては、ポットに液体ヘリウムを循環させて10K程の低温に冷却する一方、そのポットの底にある凹面内には前記SQUID素子を多数並べて固定しておき、その凹面に被験者の頭を入れて測定に供している。
【0004】
このようなSQUIDセンサおよびそれを用いた脳磁計測装置として、特許文献1〜5などが提案されている。特に特許文献1で示されるように、SQUIDは、液体ヘリウムによる冷却のため、冷凍機等、磁気センサ以外の付帯設備が多く、装置が高価であるとともに、スペースも嵩み、しかも高価なヘリウムガスが蒸散で消耗するので、ランニングコストも大変高いといった問題がある。また、前記Josephson素子の故障時には、一旦前記液体ヘリウムの抜き取りが必要になるなど、メンテナンスの負担も大きい。
【0005】
また、センサ部分の構造としては、被検者の頭に柔軟に沿う構造ではなく、単に硬い凹面部に頭を入れるだけの構造であるので、頭皮と凹面とは密着できず、隙間を生じる。しかも、凹面に頭が密着したとしても、冷却されているセンサと頭部との断熱のために、3〜4cmもの断熱層の厚みがあり、その分、SQUIDセンサは被検査部位から離れる。したがって、SQUIDセンサは、単体では磁場感度が高いにも関わらず、被検査部位から離れて配置されているためにセンサに入る磁場が弱くなり、かつ、隣接する磁場が交錯して1つのSQUIDに入力されるので、計測における位置分解能が大きく低下するという問題がある。また、計測毎に姿勢が変ったり、計測中に体動があると、脳とSQUIDセンサとの位置関係が変ってしまい、大きな計測誤差の発生要因となるので、被験者に静止を要求するという問題もある。
【0006】
一方、常温で微弱な磁気計測の可能なMI(磁気インピーダンス)素子を用いた心磁界計測の例が、非特許文献1で示されている。このような手法を用いると、センサの冷却が不要となるので、SQUIDのような制約がなくなり、直接人体にこれらの素子を密着させることが可能になる。密着することで位置ずれを回避でき、位置分解能の向上が達成され、かつ断熱層が不要になることから、近接しての測定が可能になり、隣接する磁場が交差する前の、より位置分解能の高い状態でかつ強い磁場での計測も可能となる。こうして、測定装置の分解能の向上を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−193364号公報
【特許文献2】特開2004−65605号公報
【特許文献3】特開2007−17248号公報
【特許文献4】特開平2−40578号公報
【特許文献5】特開平3−1839号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”A Measurement of Magnetocardiogram(MCG) by Planar Type Sensor using CoNbZr FILM”Y.Ohtomo,S.Yabukami,K.Kato,T.Ozwa and I,Arai(Journal of Magnetics Society of Japan Vol.33,No.3,2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術では、磁気センサの生体との密着性は向上するものの、複数の磁気センサは、SQUIDのように固定化されたセンサではなく、測定の度に生体に被着されるので、毎回正確に同じ位置に被着できるとは限らないという問題がある。そこで各磁気センサの位置関係にずれが生じると、磁気発生源を特定する際に大きな影響(誤差)を与えることになる。
【0010】
すなわち、たとえば図19(a)で示すように、1つの磁気発生源501を、2つのセンサユニット502,503で検出する場合、センサユニット502,503の被着位置が規定の位置からずれていると、図19(b)で示すように、個別の磁気発生源501a,501b、すなわち一方をゴーストのように捉えてしまう。前記センサユニット502,503は、アレイ状に配列された多数の磁気センサ504から成る。
【0011】
詳しくは、磁気センサは被験者の頭部の各方向に立体的に配置されているので、各磁気センサが貼付いている頭皮付近からの信号の分布だけでなく、より深い位置から出てくる信号を検知するが、その磁気センサの位置関係が間違って設定されると、磁気計測結果としては、深さ方向を始め、前記磁気発生源501の位置が誤って導出され、前記ゴーストとして誤った解析結果をもたらす原因となる。また、磁気発生源501の深さ方向が浅くとも、磁気センサの真下方向以外からの磁気信号を解析する際にも、位置情報がないと誤った解析結果をもたらす。
【0012】
本発明の目的は、磁気センサの位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な磁気解析を行うことができる磁気計測装置および生体磁気計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁気計測装置は、測定対象に被着される複数の磁気センサと、前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係を計測する3次元計測装置と、前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集する計測装置本体とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、生体などの測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集するために、前記磁気センサには、たとえばTMR(トンネル磁気抵抗)素子、GMR(巨大磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの冷却無し或いは簡易な冷却のみで、前記微弱電流による磁界を計測できる磁気センサが用いられ、その磁気センサが前記測定対象に複数被着され、計測装置本体で前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)が収集(描画)される。
【0015】
そして、磁気計測の前または後に、前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係が3次元計測装置で計測され、該3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果が磁場解析される。
【0016】
これによって、解析結果として得られる、たとえば前記測定対象が生体の場合の脳磁図や心磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【0017】
また、本発明の磁気計測装置では、前記測定対象を生体とすることで、前記脳磁図や心磁図を作成する。そして、その生体の3次元断層画像を撮影する断層撮影装置をさらに備え、前記計測装置本体は、前記断層撮影装置によって得られた前記3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成することを特徴とする。
【0018】
さらにまた、本発明の生体磁気計測方法は、生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集する生体磁気計測方法において、断層撮影装置によって前記生体の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像から特徴点を検出するステップと、前記微弱電流による磁界を検出する磁気センサを前記生体に複数被着するステップおよび3次元計測装置によって前記生体に被着された各磁気センサ間の相対位置関係および前記特徴点を計測するステップとを任意の順で行い、さらに前記各磁気センサによって前記磁界を検出するステップと、前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、計測装置本体が、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)するステップと、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、前記計測装置本体が、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、たとえば測定部位が脳の場合、実際の脳の様子を知るためには、空間の分解能が3mmの精度で測定することが求められているが、この精度を達成するためには、いわゆる標準脳モデルによる解析ではなく、CTスキャンやMRIを用いた実際の被験者の情報(3次元断層画像)を用いる必要がある。そこで、断層撮影装置が、被験者の実際の脳モデルを測定するとともに、そのモデル上で、眼球や耳の穴などの動かない人体の特徴的な点、或いは人工的に生体に被着したマーカなどを測定しておく一方、前記3次元計測装置においても、画像解析等で3次元画像上に前記特徴点を抽出し、前記計測装置本体において、それらの特徴点が対応付けられて、前記断層撮影装置による生体の3次元断層画像に、前記3次元計測装置から該計測装置本体に得られた前記微弱電流に関する情報を合成する。
【0020】
このように構成することで、前記各磁気センサ間の相対位置関係に加えて、生体と磁気センサとの間の相対位置関係、たとえば前記脳モデルに対する磁気センサの空間的な位置情報を正確に計測し、高精細な磁気測定を可能にすることができる。特に、脳磁計測の場合に有効であり、それは脳の形状も機能割付けの際には重要になるためである。
【0021】
また、本発明の磁気計測装置では、前記複数の磁気センサは、柔軟な材料から成る支持部材に搭載されることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、前記複数(多数)の磁気センサが、支持部材に纏めて搭載されるので、被験者への被着を容易にすることができるとともに、各磁気センサ間の位置関係を、或る程度一定に保つことができる。しかしながら、前記支持部材は、生体の表面への馴染みを良くするために柔軟な材料で形成されると、それが支持する磁気センサが、毎回同じ位置関係を保つとは限らず、各磁気センサ間の厳密な位置関係が測定のたびにずれる可能性がある。したがって、前述のように相対位置関係を測定することが有効である。
【0023】
また、本発明の磁気計測装置では、前記支持部材は、頭巾またはヘルメットの形状を呈していることを特徴とする。
【0024】
上記の構成によれば、測定対象を脳とし、解析結果として前記脳磁図を作成することができる。
【0025】
さらにまた、本発明の磁気計測装置では、前記支持部材は、胴部を覆う筒状体であることを特徴とする。
【0026】
上記の構成によれば、測定対象を心臓や胎児とし、解析結果として、たとえば前記心磁図を作成することができる。
【0027】
また、本発明の磁気計測装置では、前記計測装置本体による磁気センサからの信号の取り込みのタイミングが、心拍周期における同位相のタイミングであることを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、心臓の血流を送り出すポンプの作用は、自らの大きさや位置を周期的に変えることで機能が得られている。このため、磁気画像(前記心磁図)を作成する場合に、心臓が最も拡張したタイミング、または縮小したタイミング、或いはそれらのタイミングから任意にオフセットしたタイミング等、心臓の動作周期における任意のタイミングに規定して、毎回同じタイミングに計測を行うことで、正確な前記磁気画像を得ることができる。
【0029】
さらにまた、本発明の磁気計測装置では、前記生体に被着された磁気センサ上を覆い、外部磁場からシールドする被覆部材をさらに備えることを特徴とする。
【0030】
上記の構成によれば、前記のように特に液化ガスによる冷却を行わず、常温域で微弱な磁気計測が可能な磁気センサを生体上に複数設けて磁気測定を行う場合に、前記生体上には、該生体に被着された磁気センサ上を覆うように被覆部材が設けられ、磁気センサおよび被測定部を外部磁場からシールドする。
【0031】
このように構成することで、従来の生体内の微弱電流の測定装置であるSQUIDのような部屋全体を磁気シールドするのではなく、被測定部周辺のみをシールドするので、磁気シールドのコストを格段に削減することができるとともに、測定に係る自由度を向上することができる。
【0032】
また、本発明の磁気計測装置では、前記磁気センサは、強磁性体を用い、相互に等しい一対の磁気検出素子と、出力端とを有する磁気センサであって、前記一対の磁気検出素子は、その磁化容易軸の方向が検出磁束に対して直交し、かつ互いの磁化容易軸が直交するように、前記検出磁束の方向に互いに間隔を開けて配置され、前記出力端は、前記一対の磁気検出素子の検出結果の差分を得ることを特徴とする。
【0033】
上記の構成によれば、生体内に生じた微弱電流などによる微弱な磁束を計測する磁気センサにおいて、常温域で計測が可能な、たとえばTMR(トンネル磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの強磁性体を用いる磁気検出素子を、2つを一対で使用する。そして、その2つの磁気検出素子が、検出磁束の方向(生体の場合、生体表面から遠去かる方向)に互いに間隔を開けて積層され、前記検出磁束に対して磁化容易軸の方向が略直交しており、かつ互いの磁化容易軸が直交するように配置される。すなわち、生体の場合、該生体の内部で発生された検出磁束は、生体表面に対して略垂直に外部に放射され、前記磁気検出素子の磁化容易軸は、前記生体表面と平行に設けられることになる。ただし、前記2つの磁気検出素子の磁化容易軸は、前記生体表面と平行な面内で、互いに直交するように設けられる。一方、該磁気センサの出力としては、前記2つの磁気検出素子の検出結果の差分を取る。
【0034】
ここで、前記生体等、微弱な磁束の発生源が発生する検出磁束は、その表面から比較的近い位置で磁束のループを形成し、表面から比較的近い方の磁気検出素子は通過しても、前記ループによって比較的遠い方の磁気検出素子を通過する磁束の割合が少なくなる。これに対して、地磁気や環境磁場などの生体外の環境などによる比較的大きな磁束(ノイズ)は、前記2つの磁気検出素子を、ほぼ共通に通過する。したがって、前記2つの磁気検出素子の検出結果の差分を取ることで、入力初段で環境磁場(ノイズ)を効率良く低減してSN比を向上することができる。こうして、強磁性体を用いた常温磁気検出素子から成る該磁気センサでは、低コストかつ高感度に、微弱な磁束を測定することができる。また、外部磁界のシールドも不要或いは簡素化することができ、前記SQUIDのような部屋全体を磁気シールドする構成に比べて、コストやスペースを格段に削減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の磁気計測装置および生体磁気計測方法は、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の第1の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す図である。
【図2】前記生体磁気計測装置における3次元計測装置によって3次元位置測定された磁気センサ素子の配置を示す斜視図である。
【図3】図2に頭部モデルを合成した図である。
【図4】図2での測定結果の一例を示す図である。
【図5】前記生体磁気計測装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】図5におけるインタフェイスの電気的構成を示すブロック図である。
【図7】図5におけるセンサプラットフォームボードの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】図4で示すような計測結果を導く演算装置による微弱電流による磁界の発生源の特定方法を説明するための図である。
【図9】トンネル磁気抵抗素子における磁化容易軸の回転について説明するための図である。
【図10】本発明に係る磁気センサ素子の1素子の具体的構成を示す斜視図である。
【図11】図10で示す磁気センサ素子を実際の磁気センサに適用した場合の構造を示す図である。
【図12】前記生体磁気計測装置の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の実施の第2の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す正面図である。
【図14】本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す断面図である。
【図15】本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す断面図である。
【図16】本発明の実施の第4の形態に係る生体磁気計測装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図17】頭部のMRI画像に、図16の生体磁気計測装置で使用する位置マーカによるマーキング位置を重ね合わせて示す斜視図である。
【図18】図16で示す生体磁気計測装置の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【図19】生体磁気計測で生じるセンサ位置ずれによるゴースト発生メカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の第1の形態に係る生体磁気計測装置1の使用状態を模式的に示す図である。本実施の形態の生体磁気計測装置1は、被験者2の頭部21から発せられる磁気を計測して脳磁図を得るものとする。詳しくは、この生体磁気計測装置1は、脳の神経細胞が興奮したときに流れる電流から生じる磁場を測定し、たとえばてんかんの発作がどこで起っているか、脳の手術でどこまで切除してよいかなどを判定するために用いられる。
【0038】
この生体磁気計測装置1では、被験者2の頭部21には、センサユニット3が被せられる。センサユニット3は、非磁性で、柔軟な材料から成り、いわゆる目出し帽(頭巾、バラクダ)型に形成される支持部材31に、多数のセンサプラットフォームボード32が並べて搭載されて成る。これにより、被験者2がセンサユニット3を被るだけで、該被験者2に容易に多数のセンサプラットフォームボード32を被着することができる。そして、前記支持部材31の表裏何れかの面上に、多数のセンサプラットフォームボード32が、所定の間隔で分布し、支持部材31の内面を頭部21の表面に沿って押し当てるようにして、センサユニット3が被験者2の頭部21に被せられることで、前記頭部21の表面から等間隔に(密着或いは支持部材31の厚みを介して)、前記センサプラットフォームボード32のセンサ面が沿うことになる。
【0039】
前記センサプラットフォームボード32は、液化ガスによる冷却を必要とせず、常温域で、微弱な磁気計測が可能な、TMR(トンネル磁気抵抗)素子、GMR(巨大磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの各種の磁気センサ素子の集合体である。なお、特許請求の範囲における磁気センサとの用語は、このセンサプラットフォームボード32に搭載される単体の磁気センサ素子を示すものとし、以下、この磁気センサ素子として、トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子、主としてトンネル磁気抵抗素子が用いられることとする。
【0040】
前記支持部材31における被験者2の目22部分の開口33は、被験者2の心的影響等を考慮したもので、測定部位などの事情によっては、特に設けられなくてもよい。その場合、前頭部、後頭部および側頭部のほか、顔面部から発せられる脳磁気を計測することも可能となる。
【0041】
このようなセンサユニット3では、支持部材31が生体の表面への馴染みを良くするために柔軟な材料で形成されるので、それが支持する磁気センサ素子が、毎回同じ位置関係を保つとは限らず、各磁気センサ素子間の厳密な位置関係が測定のたびにずれる可能性がある。そこで、センサユニット3を被験者2の頭部21に装着した状態で、各センサプラットフォームボード32の位置関係が、3次元計測装置8によって測定される。
【0042】
この図1の例では、前記3次元計測装置8は、複数のステレオカメラ81を用いる光学式の3次元測定装置を例示している。その測定方法としては、図1で示すように、センサユニット3を装着した被験者2の頭部21を囲み、各センサプラットフォームボード32に漏れや隠れる部分の無いように配置された2台以上のステレオカメラ81からなるカメラ群により同時に画像撮影を行い、その撮像画像を、各カメラシステム内で画像処理し、撮像対象(各センサプラットフォームボード32)の3次元情報に置き換える。その後、この位置測定の前または後に行われた各センサプラットフォームボード32の磁気測定結果が、上述のようにして得られた各センサプラットフォームボード32の位置情報に基づいて解析され、前記脳磁図が作成される。
【0043】
図2は、前記3次元計測装置8によって3次元位置測定された磁気センサ素子の図である。この図2では、図面の煩雑化を避けるために、前記磁気センサ素子は大幅に間引いて示されるとともに、1素子当りの大きさが実際よりも大きく示されている。また、図2は、磁気センサ素子の相対位置関係のみを示しており、イメージし難いので、被験者2の頭部21のモデルに重ね合わせた例を図3に示す。実際の頭部21の形状は、上述の3次元光学測定では、磁気センサ素子の影になる部分は測定できないが、この図3は、センサユニット3の装着前、或いは後述の断層撮影などの画像に重ね合わせて示している。こうして3次元位置測定された磁気センサ素子で検出された磁界から求められた電流の発生源(患部位置)ならびに向きおよび大きさを示すベクトルを、前記図2に合成した脳磁図を、図4に示す。
【0044】
図5は、上述のように構成される生体磁気計測装置1の電気的構成を示すブロック図である。この生体磁気計測装置1は、前記センサユニット3および3次元計測装置8と、演算装置5と、インタフェイス6とを備えて構成される。演算装置5は、パーソナルコンピュータなどから成り、センサユニット3と、インタフェイス6を介して接続されるとともに、前記3次元計測装置8と接続される。センサユニット3とインタフェイス6との間は、ケーブル7で接続されており、ケーブル7の届く範囲でセンサユニット3を移動可能であり、向きを自由に変えることができる。ケーブル7は、電源線71と、信号線72とを備えている。
【0045】
図6は、インタフェイス6の電気的構成を示すブロック図である。インタフェイス6は、PCI・バス・コントローラ61と、コマンド変換・バッファ・コントローラ62と、SRAM63と、シリアルインタフェイスドライバ64とを備えて構成される。PCI・バス・コントローラ61は、演算装置5とコマンド変換・バッファ・コントローラ62との間の通信を行う。コマンド変換・バッファ・コントローラ62は、演算装置5からのコマンドを各センサユニット3へ送信するとともに、各センサユニット3からシリアル信号で送信されてきた計測結果を適宜展開し、SRAM63に書込んでゆくとともに、演算装置5からの読出し要求に応えて、SRAM63の記憶内容を読出して演算装置5へ送信する。シリアルインタフェイスドライバ64は、コマンド変換・バッファ・コントローラ62と、各センサプラットフォームボード32との間の通信を行う。
【0046】
図7は、各センサプラットフォームボード32の電気的構成を示すブロック図である。センサプラットフォームボード32には、アレイ状に配列された数mm角のTMR素子を複数個含むTMRアレイモジュール321,321,・・・が電気的に接続されるとともに、機械的に固定されている。そして、このセンサプラットフォームボード32はまた、コントローラ322と、RAM323と、増幅・変換回路324,324,・・・とを備える。増幅・変換回路324は、TMRアレイモジュール321毎に設けられ、TMRアレイモジュール321と1対1で接続されている。増幅・変換回路324は、TMRアレイモジュール321からの出力信号を増幅する増幅器324aと、増幅器324aの出力をデジタル信号に変換してコントローラ322に入力するA/D変換器324bとを有する。RAM323は、コントローラ322に入力された情報やコントローラ322が演算した情報を記憶する記憶装置である。
【0047】
コントローラ322は、演算装置5からのコマンドを受信して計測を開始し、TMRアレイモジュール321を稼動し、その出力信号を順次増幅・変換回路324を介して取込み、RAM323に記憶してゆく。その後、コントローラ322は、適宜のタイミングで(演算装置5からのポーリングに応答したり、各コントローラ322に予め定められている時刻に)、択一的に前記TMRアレイモジュール321の出力信号を、所定のフォーマットによるシリアル通信で、信号線72を介して演算装置5に送出する。
【0048】
計測装置本体である演算装置5は、前記各TMRアレイモジュール321の出力信号から、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報、たとえば発生位置から流れた位置や大きさなどの情報を収集する。ただし、各センサプラットフォームボード32の相対位置関係は、前記3次元計測装置8によってセンサプラットフォームボード32毎に予め測定され、さらに各センサプラットフォームボード32内における各TMRアレイモジュール321から各TMR素子の位置は、モジュールおよびアレイの配列から認識することができ、これらの情報は演算装置5で認識されている。
【0049】
前記3次元計測装置8では、各ステレオカメラ81で撮像された画像は、I/F82を通じてデジタル情報に変換され、位置測定部83にそれぞれ送られる。位置測定部83では、各撮像画像から、先ず特徴点抽出部831が、各センサプラットフォームボード32の画像内の位置を特定し、その後、位置計測部832が、各画像間における位置ずれ量から、3角法に基き位置情報を決定し、それぞれの空間位置情報を確定する。そのような空間位置情報の作成方法は、たとえば特開2008−90583号公報に示されている。
【0050】
そして、各ステレオカメラ81間の位置関係は固定されており、その位置関係については別途測定が行われ、合成部84の位置情報統合部841内に保存されている。こうして、各ステレオカメラ81で得られた情報は、前記位置計測部832から前記合成部84の特徴点照合部842に送られ、特徴点毎に整理された後、前記位置情報統合部841で情報の合成を受け、各センサプラットフォームボード32の位置情報として整理統合され、前記演算装置5へ送られる。
【0051】
図8は、前記演算装置5による微弱電流による磁界の発生源の特定方法を説明するための図である。前述のように、各トンネル磁気抵抗素子の相対位置関係は予め認識されており、この図8では、その認識されているトンネル磁気抵抗素子をセンサPa,Pbとする。このようにセンサの位置を反映し、解析を行う方法は、信号強度が距離の2乗に反比例して減衰することを利用する。すなわち、この解析方法では、多数のセンサで同時に受信した磁気信号のうち、最も強い信号を受信した2つのセンサの信号と受信したセンサの位置とを特定すれば、そのパルスの強度が距離の2乗に反比例して減衰することから、2つのセンサからの距離の比は、信号強度の平方根の逆数になることを利用する。したがって、磁界の発生源Pは、センサPa,Pbの2点から、信号強度Sa,Sbの平方根の逆数の比率で規定されるアポロニウスの円Rのどこかに存在する。
【0052】
前記円Rは、正確には空間であるので、センサPa,Pbを結ぶ2点を回転軸とした、回転体の球の表面である。たとえば、簡単のため、一方のセンサPaの座標をa(0, 0, 0)、もう一方のセンサPbの座標をb(0, d, 0)とし、信号強度をそれぞれ前記Sa,Sbとし、信号強度Sa,Sbの平方根の逆数の比をk (=(Sa/Sb)0.5 ) とおくと、中心は(0, d/(1−k2), 0)、半径 |(d2+k2)0.5/(1−k2)|で規定される球である。
【0053】
更に、一般的に、センサPa,Pbの座標をそれぞれ(xa, ya, za), (xb, yb, zb)とすると、中心は((−k2xa+xb)/1−k2,(−k2ya+yb)/1−k2,(−k2za+zb)/1−k2)と記述できる。半径dは、d=((xa−xb)2+(ya−yb)2+(za−zb)2)0.5とすることで、|(d2+k2)0.5/(1−k2)|と記述できる。
【0054】
このようにして信号源Pとして考えられる球を3つ用意し、それぞれの球と接する点を求めることで、信号源を特定することができる。3つの球を求める際に用いるセンサは、たとえば同時に受信した磁気信号のうち最も強い3つの信号を受信したセンサを用い、これらの3つのセンサのうち、2つセンサの組み合わせから得られる3組の情報を用いる。このとき、測定対象の外側にも発生源があるように見えることがあるが、それは除去する。さらに詳細には、様々な2組のセンサの位置と、信号強度とから多くの球を求め、その球表面の交点の集中する点を磁気発生源として捉えることで、位置精度の向上が期待できる。
【0055】
実際の生体磁気計測では、先ず、生体磁気計測装置1全体に電源が投入され、各磁気センサアレイモジュール321にも電流が印加される。これによって、被験者2の頭部21から発生される磁束の影響を受けて、前記磁気センサアレイモジュール321中の各磁気センサ素子から出力信号が導出される。次に、オペレータにより、演算装置5に計測実行コマンドが入力される。すると、演算装置5は、計測実行コマンドをn個のセンサプラットフォームボード32に送出する。各センサプラットフォームボード32にあっては、計測実行コマンドをコントローラ322が受信する。コントローラ322は、増幅・変換回路324を介して、デジタル化された各磁気センサアレイモジュール321からの出力信号を受け、これを各磁気センサアレイモジュール321のアドレス情報を特定する情報にリンクさせた所定のフォーマットで生体磁気計測情報として演算装置5に送出する。演算装置5は、各コントローラ322からの生体磁気計測情報を解析して、被検者2の頭部21上の位置と磁気の強さと方向との組み合わせからなる脳磁図を演算し、画像情報化して表示装置51に出力する。
【0056】
前記計測実行コマンドは、コマンドが入力される度に演算装置5が計測を実行するものであってもよいが、計測開始コマンドと計測終了コマンドとから構成されるものでもよい。その場合、演算装置5は、計測開始コマンドと計測終了コマンドとの間の期間において、一定の時間レートで計測を実行し、リアルタイムに変化する脳磁図や心磁図を表示装置51に表示することが有効である。また、生体磁気計測情報や、脳磁図や心磁図の情報、表示のために生成された画像情報は、演算装置5から読出可能に記録しておき、表示装置51に表示や再生を可能にしておくことが好ましい。
【0057】
一方、本実施の形態の磁気センサとしては、前述のように、磁気インピーダンス素子またはトンネル磁気抵抗素子を用いることができる。その検出原理においては、強磁性体を用いており、外部磁場を材料内に収束させて磁束密度を高め、以下に詳述するように、その強磁性体の磁化容易軸が回転するという現象を基本としている。前述の非特許文献1は、前記磁気インピーダンス素子の生体の磁気計測への適用例であるが、上述のような本実施の形態の特徴は備えていない。
【0058】
先ず、前記磁化容易軸の回転について説明する。スパッタなどで、図10で示されるように、数μm以下の厚みに成膜されたアモルファス金属(CoNbZr)などの強磁性体101(図9では、成膜に用いた基板を引き剥がしている)が、磁界104の中で加熱冷却されると、磁気モーメントを揃えて磁化容易軸102,103を設定することができる。検出すべき外部磁界Bに対して、この磁化容易軸102,103が直交する方向に配置されると、外部磁界Bに沿う方向へ磁化容易軸が参照符号102’,103’のように回転する。
【0059】
この現象によって、磁気インピーダンス方式の素子では、高周波電流Iにおいて発生する磁界の透磁率変化による回路インピーダンスの変化から、外部磁界Bを検出している。図9は、強磁性体101の中に高周波電流Iを流す方式を示しているが、高周波回路を別にして強磁性体薄膜を回路上に絶縁して貼り付ける方式もある。この場合も同様に、外部磁界Bによる強磁性体101の磁化容易軸102,103の回転により、誘導起電流が変化して高周波電流が変動することで、微弱な外部磁界Bが検出される。また、インピーダンス変化の検出は、直接インピーダンスを測定するのではなく、高周波電流Iの位相ズレをヘテロダイン検出することで行われており、これによって検出感度を向上することができる。どちらの場合の素子も、その磁化容易軸102,103が外部磁界Bに対して直交する向きに配置されて外部磁界Bを検出することで、最も感度が高くなる。
【0060】
また、トンネル磁気抵抗方式の素子は、磁化容易軸をもった強磁性体に酸化マグネシウムやアルミナなどの数nmの厚みの絶縁層を介して、磁化方向を固定した強磁性体を積層し、両強磁性体間に電圧をかけると、磁化固定軸と磁化容易軸との成す角度に応じて絶縁層を通るトンネル電流が大きく変動して流れ、この電流によって微小な外部磁界を検出できる。磁化容易軸と磁化固定軸との成す角度については、両方向が一致したときが最もトンネル電流が大きく、反対向きとなったときが最もトンネル電流が小さくなり、この180度の回転角でほぼ正弦波的にトンネル電流は変化する。したがって、磁化固定軸に対して磁化容易軸の向きが直交する場合が、最もトンネル電流の変化として感度良く捉えることができる。これらの磁気インピーダンス素子およびトンネル磁気抵抗素子は、板状の形態をした強磁性体の断面が透過磁束の開口部となる。
【0061】
しかしながら、これらの強磁性体を用いた常温磁気検出素子は、小型で感度が高いとはいえ、SQUID程の検出感度には達しておらず、これを単独で直接、生体磁気などの微弱な磁気検出に使うことはできない。そのため、地磁気や環境磁場などのノイズを低減することが、検出感度を相対的に高める上で特に重要となり、ノイズ低減の工夫が実使用においては不可避である。そこで本実施の形態の常温高感度磁気検出素子における、外部ノイズ磁界の除去方法を以下に詳述する。
【0062】
図10は、前記トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子の場合の磁気センサ素子の1素子の構成を示す斜視図である。本実施の形態の磁気センサ素子は、強磁性体を有する相互に等しい一対の磁気検出素子301,302を用い、該一対の磁気検出素子301,302は検出磁束Bと平行に、さらにその磁化容易軸3011,3021の方向が前記検出磁束Bと直交し、かつ互いの磁化容易軸3011,3021が直交するように、前記検出磁束Bの方向に互いに間隔を開けて配置される。さらにまた、前記磁化容易軸3011,3021に対して、磁化固定軸3012,3022は、検出磁束Bを最も感度良く検出するために、直交して、すなわち該磁化固定軸3012,3022が検出磁束Bと平行に設けられる。図10では、磁化固定軸3012,3022の方向は、互いに逆向きとなっているが、同じ方向でもよい。
【0063】
こうして、磁気検出素子301,302が検出磁束Bと略平行に、かつその磁化固定軸3012,3022も検出磁束Bと略平行に配置されることで、外部からのノイズとして、地磁気などの広範に均等に到来する環境磁場(外部磁束)BNがあると、両磁気検出素子301,302の磁化固定された強磁性体にはそれぞれほぼ等しい数の磁束(図では各5本)が入力する。ここで、前述のように磁化固定軸3012,3022の方向は一致しているが向きは逆となっていることで、誘導起電流やトンネル電流の変化量はそれぞれの検出素子間で逆向きかつ同じ大きさとなる。したがって、センサ出力端に2つの磁気検出素子301,302を直列に接続して出力を加算すれば、その抵抗平均値はほぼ一定となり、出力電流はほとんど変わらない。なお、磁化固定軸3012,3022の向きを同じにした場合、両磁気検出素子301,302の外部ノイズ磁場BNによる電流変化が同じ向きに現れるので、この場合は両磁気検出素子301,302の出力電流の差動をとって検出電流とすれば、ゼロとなって外部ノイズ磁場BNの影響をキャンセルすることができる。
【0064】
これに対して、検出すべき信号磁束BSは、生体に近い方の磁気検出素子301に磁束(図では9本)を吸収され、透磁路の出口で発散する。その直後にある生体から遠い方の磁気検出素子302には、発散した磁束の一部のみ(図では1本)が吸収されるだけなので、両磁気検出素子301,302間の出力電流には大きな差を生じる。したがって、これらの加算をとっても差動をとっても、信号電流として検出することができる。
【0065】
そして、磁気検出素子301,302間では、磁束の入力面(磁化固定軸3012,3022)を直交する配置とすることで、磁気感度を最大にすることができる。すなわち、生体から遠い方の磁気検出素子302において、近い方の磁気検出素子301に重ならない部分では、磁路を形成する部材が無いために生体からの微弱な磁束BSが届かず、前記磁気検出素子301との差分が顕著に現れるためである。
【0066】
このように構成することで、入力初段で環境磁場BN(ノイズ)を効率良く低減してSN比を向上することができ、低コストかつ高感度に、微弱な磁束BSを測定することができる。また、外部磁界BNのシールドも不要或いは簡素化することができ、前記SQUIDのような部屋全体を磁気シールドする構成に比べて、コストやスペースを格段に削減することができる。
【0067】
また、2つの磁気検出素子301,302における検出磁束B方向の間隔は、0.5〜20mmであることが好ましい。これは、該磁気検出素子301,302がトンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子である場合、検出磁束Bは強磁性体の中を通るので、SQUIDのような真空中を通る場合に比べて、減衰が1/2000程度に少なくなり、該2つの磁気検出素子301,302が近接し過ぎると、該2つの磁気検出素子301,302を通過する検出磁束が略等しくなるためである。そこで前記のように2つの磁気検出素子301,302の検出磁束B方向の間隔を前記0.5〜20mmとすることで、それらの磁気検出素子301,302は、検出磁束Bに対して、さらに良好な感度を得ることができる。
【0068】
こうして、液化ガスによる冷却を行わず、常温域で微弱な磁気計測が可能な前記磁気検出素子301,302として、トンネル磁気抵抗素子を用いることで、より高感度化することができ、また磁気インピーダンス素子を用いることで、構造を簡略化することができる。
【0069】
そして、前記トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子を用いる磁気検出素子301,302は、実際の前記磁気センサ素子に適用される際には、図11で示すように、ゴムなどの生体に密着し、非磁性の材料から成る柔軟な支持部材31に、相互に直交するように積層して埋め込まれる。そして、数mm角の一対の磁気検出素子301,302が、適宜複数対組み合わせられて、前記磁気センサアレイモジュール321を構成する。
【0070】
図12は、上述のように構成される生体磁気計測装置1の計測方法を説明するためのフローチャートである。先ずステップS1では、被験者2の頭部21にセンサユニット3が被せられることで、支持部材31に支持された複数のセンサプラットフォームボード32の各センサ面が、頭皮に密着する。ステップS2では、3次元計測装置8によって、前記被験者2の頭部21に被着された各センサプラットフォームボード32間の相対位置関係が計測される。ステップS3では、各磁気センサ素子によって磁界検出が行われる。ステップS4では、前記3次元計測装置8によって得られた各センサプラットフォームボード32内の磁気センサ素子の相対位置関係に基いて、演算装置5が、前述のようにして各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記頭部21内に生じた微弱電流による脳磁図を作成する。なお、ステップS2での位置関係の測定は、好ましくは上述のようにステップS3での脳磁計測前に行われるが、脳磁計測後や、磁気ノイズ上問題の無い測定方法であれば、脳磁測定中に行われてもよい。
【0071】
以上のように、本実施の形態の磁気計測装置1では、生体などの測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集するために、磁気センサ素子には、たとえばトンネル磁気抵抗素子、巨大磁気抵抗素子、或いは磁気インピーダンス素子などの冷却無し或いは簡易な冷却のみで、前記微弱電流による磁界を計測できる磁気センサ素子を用いる。そして、その磁気センサ素子が前記測定対象に複数被着され、磁気計測の前または後に、各磁気センサ素子間の相対位置関係が3次元計測装置8で計測され、得られた相対位置関係に基いて、演算装置5が前記各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)する。
【0072】
このように構成することで、複数の磁気センサ素子が、SQUIDのように固定化されたセンサではなく、測定の度に位置ずれの生じる可能性があっても、そのずれを正確に検出して解析を行うことができるので、解析結果として得られる、たとえば前記測定対象が生体の場合の脳磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【0073】
(実施の形態2)
図13は、本発明の実施の第2の形態に係る生体磁気計測装置1’の使用状態を模式的に示す正面図である。本実施の形態の生体磁気計測装置1’は、被験者2の胸部26や腹部27から発せられる磁気を計測するものである。被測定部が胸部26の場合、この生体磁気計測装置1’は、心臓28の筋電位(収縮のパルス)を測定し、心臓28の動作に異常が無いか確認することができる。また、被測定部が腹部27の場合、この生体磁気計測装置1’は、安静時の妊婦の胎児の心臓から発生する磁場などを計測でき、胎児の心臓の動きが分り、出産前検査などに用いることができ、或いは、脊髄の損傷を確認することができる。
【0074】
そのため、センサユニット3’は、胴部を覆う筒状体である腹巻き状の支持部材31’の表裏何れかの面上に、多数のセンサプラットフォームボード32が、所定の間隔で配置されて構成される。椅子に座った状態や立った状態など、被験者2の上体を起こして測定が行われる場合は、支持部材31‘に、肩紐状の固定具34が設けられ、ずり落ちないように構成されて、生体との密着を高めることが好ましい。センサユニット3’の構成は、前述のセンサユニット3と同様である。このようにして、心磁図などを作成することができる。なお、前記胸部26や腹部27の測定の場合は、簡易的に、多数のセンサプラットフォームボード32を板にアレイ状に固定したものをセンサユニット3’として、それを前記胸部26や腹部27に押し付け、密着させるようにしてもよい。
【0075】
このような生体磁気計測装置1’において、前記心磁図の作成のために、前記演算装置5に心拍周期を検出する装置89が接続され、各センサプラットフォームボード32には、前記演算装置5から、計測タイミングを規定する信号を与えるようにすることが好ましい。これは、測定対象である心臓28から発せられる磁場変化は弱く、積算が必要になるのに対して、心臓28のように、大きな形状変化を伴った測定対象からの情報をそのまま積算しては、得られた画像がそれぞれの大きさの状態での信号の平均値となってしまい、詳細な画像情報を得ることができないためである。
【0076】
ここで、心臓28の血流を送り出すポンプの作用は、自らの大きさや位置を周期的に変えることで機能が得られており、特に血液を全身に送り出す仕事をしている左心室は、最大の大きさになる拡張期と最小になる収縮期とで、正常値で30〜50%も変化を見せる。しかしながら、前記心磁図を作成する場合に、前記演算装置5が、心臓28の鼓動の周期に同期して磁気信号を取り込み積算することで、概ね同じ大きさの状態で情報を得ることができ、鮮明な画像情報を得ることができる。前記同期は、心臓28が最も拡張したタイミング、または縮小したタイミング、或いはそれらのタイミングから任意にオフセットしたタイミング等、心臓28の動作周期における任意のタイミングでよく、毎回同じタイミングであれば、正確な心磁図を作成することができる。
【0077】
ここで、前記のような心臓28の動作と磁気画像とを同期させる具体的な方法としては、心電図の信号と同期させる、心臓28付近の皮膚の上下動と同期させる等の方法が挙げられる。心電の伝播は非常に早く、体のどの位置で測定しても、心臓28の拍動に対して極端な位相ずれが生じず、好適である。その場合は、心電を取るための配線が、心磁計測に悪影響を及ぼす可能性が高いので、この図13のように左腋下付近、もしくは左腕で取ることが好ましい。皮膚の上下の測定も、機械的に測定するほか、レーザ変位計などによる光や、音の反射時間や位相ずれなど、測定する磁界に影響を与えない方法をとることで、測定結果に対する悪影響を回避できる。
【0078】
(実施の形態3)
図14および図15は、本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置1a,1a’の使用状態を模式的に示す断面図である。これらの生体磁気計測装置1a,1a’は、前述の生体磁気計測装置1,1’に類似しており、それぞれ脳磁図や心磁図を得ることができる。本実施の形態の生体磁気計測装置1a,1a’では、上述のようにしてセンサユニット3,3’を被験者2の頭部21や胸部26に装着した上に、磁気シールドを行う被覆部材4,4’を装着し、計測を実行することである。なお、この被覆部材4,4’に併用して、被験者2を囲むように、磁気シールド室を形成してもよい。ただし、その場合の磁気シールド室は、前述のSQUIDに用いられるような大掛かりなものではなく、簡易なものでよい。
【0079】
前記被覆部材4は、前頭部、後頭部および側頭部に加えて、頬、鼻、口、目、顎または頸の少なくとも1つを覆うこととする。図14の例では、前記被覆部材4は、それらの総てを覆う、いわゆるフルフェイスのヘルメット(頭部を衝撃などから保護するために被る防護帽)の形状を呈しているものとする。なお、目や口については、前述の支持体31の開口33に対応する。
【0080】
一方、センサユニット3’に対応して、被覆部材4’は、前記胸部26や腹部27に適した円筒形状に形成される。残余の演算装置5などの構成は、前述の生体磁気計測装置1,1’と同様であり、その説明を省略する。特に被覆部材4’には、前記センサプラットフォームボード32が内張りされている。そして、この被覆部材4’は、磁気シールドを行う外側の筒状体から成り、その内側に充填される緩衝用の内装体が前記支持体31’となる。また、このセンサユニット3’は、2つの部材3a’,3b’から構成されており、たとえば図15で示すように、楕円の軸直角断面の長径線で、すなわち被験者2の前後に分割可能となっている。分割された2つの部材3a’,3b’は、一端側がヒンジなどで連結され、他端側がフックなどで締着され、或いは両端共フックなどで締着されてもよい。
【0081】
したがって、必要に応じて被験者2がこれらの被覆部材4,4’を着用することで、該被覆部材4,4’が外乱磁束BNをより確実に遮断し、測定精度を向上することができる。また、該被覆部材4,4’は、従来の生体内の微弱電流の測定装置であるSQUIDのような部屋全体を磁気シールドするのではなく、被測定部周辺のみをシールドするので、磁気シールドのコストを格段に削減することができるとともに、測定に係る自由度を向上することができる。さらにまた、被測定部が頭部21である場合に、該被覆部材4が、いわゆるヘルメットの形状を呈していることで、被験者2は被覆部材4を被るだけで、磁気シールドを行うことができ、被覆部材4の装着が容易である。また、図15の被覆部材4’のように、図14の被覆部材4において、センサプラットフォームボード32を内貼りしてもよい。
【0082】
前記被覆部材4,4’としては、一般に用いられているパーマロイやミューメタルなどの透磁率の高いもので覆うシールドが好適である。前記パーマロイの場合、その薄層が鋳物で成型され、水素雰囲気下で焼き鈍ますことで歪みが除かれたものが複数層積層されて該被覆部材4,4’が形成される。このため、該被覆部材4,4’は、左右に半割れや上下に分離した状態などで成型されたパーツが、接着や他の支持体によって、前記ヘルメット形状などに組上げられて構成される。或いは、そのような生体に密着したシールドではなく、簡易な磁気無音室を形成した後、被験者2に帷子状もしくは板鎧状にした着脱できるシールドを着用させるようにしてもよい。
【0083】
(実施の形態4)
図16は、本発明の実施の第4の形態に係る生体磁気計測装置1’’ の電気的構成を示すブロック図である。この生体磁気計測装置1’’において、前述の図5で示す生体磁気計測装置1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。本実施の形態の生体磁気計測装置1’’では、計測装置本体である演算装置5’’には、3次元計測装置8’’とともに、断層撮影装置9がさらに接続される。前記断層撮影装置9は、生体の3次元断層画像を撮影するCTやMRIなどから成り、前記演算装置5’’は、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置8’’によって得られた特徴点とを一致させることで、該演算装置5’’によって得られた脳磁図を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0084】
このため、前記3次元計測装置8’’の位置測定部83’’では、特徴点抽出部831’’は、各撮像画像から、前記各センサプラットフォームボード32を抽出するとともに、センサユニット3を被着しても隠れず、動かない人体の特徴的な点、たとえば眼球や耳の穴、或いは意識的に被験者2に装着したマーカを抽出し、前記位置計測部832が、各画像間における位置のずれから、3角法に基き、それらの位置情報を決定する。また、合成部84’’の特徴点照合部842’’も、それらの特徴点毎の情報を整理した後、前記位置情報統合部841が情報の合成を行い、各センサプラットフォームボード32の位置情報として整理統合し、前記演算装置5’’へ出力する。
【0085】
一方、断層撮影装置9は、頭部21の3次元断層画像を撮像することで、各センサプラットフォームボード32および前記特徴点の位置計測を行うことができる。これによって、各センサプラットフォームボード32、すなわち各磁気センサ素子と生体との位置計測を行うことができる。図17には、前記頭部21のMRI画像に前記位置マーカによるマーキング位置を、重ね合わせて示す。
【0086】
そして、演算装置5’’は、前述のように、3次元計測装置8’’によって得られた各磁気センサ素子間の相対位置関係に基いて各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、頭部21内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)した後、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置8によって得られた特徴点とを一致させることで、前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0087】
ここで、多数のセンサを人体に貼り付けて人体内部の様子を観察する取組みは、脳に対する光トポグラフィーやEEG(Electroencephalogram:脳波)などで行われている。しかしながら、一般にこれらの取組みで得られる解像度は、貼り付けられるセンサの数に限りがあり、センサ間隔が数センチ程度離れているので、センサの詳細な位置情報を得ても、脳の機能分布に必要な解像度である3mmには程遠く、センサの位置情報を得る必然性は無かった。さらに、光トポグラフィーの場合には、脳や頭蓋骨の影響で信号が散乱し、非常にぼやけた画像になる。
【0088】
これに対して、前記磁気センサ素子としてのトンネル磁気抵抗素子や磁気インピーダンス素子のように、冷却なしあるいは簡易な冷却のみで計測できる磁気センサ素子は、小型化が可能で、かつパッシブに磁気信号を受取るので、センサ間の信号にコンタミが発生せず、沢山敷き詰めることで解像度を向上することが可能である。そのため、演算装置5’’が、脳の機能など詳細な位置情報と合わせて得られた情報を精査することにより、より高解像度で得られた情報の意味付けが可能になる。そして、センサの位置情報と同時に被測定部の位置情報を得る方法として、前記3次元計測装置8’’を用いることが有効である。
【0089】
図18は、上述のように構成される生体磁気計測装置1’’の計測方法を説明するためのフローチャートである。ステップS01では、被験者2の頭部21にマーカが貼付けられ、ステップS02では、MRIなどの断層撮影装置9によって被験者2の頭部21の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像を解析することで特徴点を検出する。続いて、前記ステップS1で、被験者2の頭部21にセンサユニット3が被せられ、ステップS2’では、3次元計測装置8によって、前記被験者2の頭部21に被着された各センサプラットフォームボード32および特徴点(マーカ)間の相対位置関係が計測される。
【0090】
その後、必要な場合はステップS5で前記マーカの取外しが行われ、前記ステップS3では各磁気センサ素子によって磁界検出が行われる。ステップS4では、前記3次元計測装置8によって得られた各センサプラットフォームボード32内の磁気センサ素子の相対位置関係に基いて、演算装置5’’が、前述のようにして各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記頭部21内に生じた微弱電流による脳磁図を作成する。
【0091】
本実施の形態では、続いて、ステップS6において、前記演算装置5’’が、断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点(マーカ)と、前記3次元計測装置8’’によって得られた特徴点(マーカ)とを一致させることで、該演算装置5’’によって得られた前記脳磁図を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0092】
このように構成することで、前記各磁気センサ素子間の相対位置関係に加えて、生体と磁気センサ素子との間の相対位置関係、たとえば前記脳モデルに対する磁気センサ素子の空間的な位置情報を正確に計測し、高精細な磁気測定を可能にすることができる。特に、脳磁計測の場合に有効であり、それは、脳の形状も機能割付けの際には重要になるためである。たとえば、測定部位が脳の場合、実際の脳の様子を知るためには、空間の分解能が3mmの精度で測定することが求められているが、本実施の形態では、いわゆる標準脳モデルによる解析ではなく、CTスキャンやMRIを用いた実際の被験者2の3次元断層画像を用いるので、この精度を達成することができる。
【0093】
なお、図18において、ステップS1,S2’を行った後、ステップS01,S02を行ってもよい。その場合は、断層撮影によっても、各センサプラットフォームボード32の位置測定を行うことができる。また、光学式3次元計測装置8’’を用いず、CTスキャンなどの断層撮影装置9によって同時に磁気センサ素子の位置と被験者2の位置とを測定することで、CTスキャン情報に磁気センサ素子もしくはセンサプラットフォームボード32の情報が得られるので、磁気センサ素子と人体との位置計測と、生体磁気計測とを連続的に行うことができ、正確な3次元情報として情報をリンクできる。また、光学式3次元計測装置8’’で撮像された3次元画像を、さらに合成するようにしてもよい。
【0094】
上述の例では、各センサプラットフォームボード32間の相対位置測定を行う3次元計測装置8,8’’としては、ステレオカメラ81を用いた光学式の3次元計測装置を用いており、好適であるが、それに限定されるものではなく、たとえばレーザスキャニングや磁気を利用する方法がある。
【0095】
先ず、前記光学式の3次元計測装置8,8’’において、撮像対象である各センサプラットフォームボード32と生体(頭部21)との判別には、各センサプラットフォームボード32の形状が用いられる。各センサプラットフォームボード32の外形が直方体をしていることから、この外側に向いた4つの頂点から各センサプラットフォームボード32の位置が特定される。その場合、各センサプラットフォームボード32と生体との見分けを補助する方法として、各センサプラットフォームボード32の背面に、球状のマーカを付ける、色を付ける、蛍光塗料を塗る、或いは反射率の異なるマーカを付けるなどの方法が挙げられ、たとえば文献(KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.6(2009) 阿部、山口、河野、向井 非接触3次元デジタイザRANGE7のコア技術)に示されている。
【0096】
一方、前記レーザスキャニングにおいても、各センサプラットフォームボード32にマーカを付与しておき、このマーカを検知することで、簡便および/または精密に位置測定を行うことができる。この場合には、被験者自身にもマーカを装着させることも可能である。
【0097】
また、各センサプラットフォームボード32の位置を測定する別法として、磁気を利用する方法がある。その方法は、磁気シールドで磁場遮蔽された磁気無音空間内に、測定者が任意の磁気発生源を設置し、その磁気の強度の比率などを各センサプラットフォームボード32で測定し、磁場発生源との相対位置を計算することによって、前記各センサプラットフォームボード32間の相対位置を測定するものである。この方法においては種々バリエーションがあり、磁気発生源を複数もつもの、磁気発生源を移動させるもの、磁気発生源を同一箇所で回転させるもの、電磁石などで磁界をOn・Offするもの、これらを複数組合わせた方法などが挙げられるが、本実施の形態ではこれらいずれの方法で計測しても構わない。
【0098】
さらにまた、各センサプラットフォームボード32は、被験者2の頭部21の形状、測定の都合などで必ずしも同じ場所には固定されないので、上述のようにして3次元計測装置8,8’’によって相対位置が測定されるのであるが、支持部材31,31’が所定の厚みおよび硬さを有するゴムなどの皺になり難い材料から成り、各センサプラットフォームボード32間の相対位置関係に狂いが生じ難い場合は、必ずしも総てのセンサプラットフォームボード32の位置関係を測定する必要はない。
【0099】
また、各センサプラットフォームボード32は、支持部材31,31’に搭載されず、生体に個別に貼付けられてもよい。その場合、センサプラットフォームボード32そのものを粘着性をもったシートを介して生体に張り付ける方法、吸盤によって貼り付ける方法等が考えられる。また、センサユニット3,3’としても、支持部材31,31’にアダプタやホルダを設け、被験者2が該支持部材31,31’を被ってから、各センサプラットフォームボード32を取付けるようにしてもよい。このように、センサプラットフォームボード32の生体への被着方法については、特に限定するものではない。
【0100】
前記アダプタやホルダを用いる場合、センサプラットフォームボード32そのものの位置を測定する代わりに、前記アダプタやホルダの位置を測定し、センサプラットフォームボード32の位置を、それらのアダプタやホルダの位置と略同一もしくはアダプタやホルダの位置から所定値だけずれた推定位置としてもよい。
【0101】
本実施の形態では、磁気センサ素子すべての位置と被験者2との位置関係を完全に計測することのみを重要とするのではなく、生体に密着できる磁気センサ素子を用いることによる高感度化と、磁気センサ素子の固定、磁気センサ素子と被験者2との相対位置情報取得による脳磁読影の高精度化、易読化を達成することを目的としている。このことから、本実施の形態では磁気センサ素子の位置すべてを測定せず、被験者2との位置関係に、上述のように磁気センサ素子の推定位置を利用することを否定しない。
【0102】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ充分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を著しく逸脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0103】
1,1’;1a,1a’;1’’ 生体磁気計測装置
2 被験者
21 頭部
22 目
26 胸部
27 腹部
28 心臓
3,3’ センサユニット
301,302 磁気検出素子
3011,3021 磁化容易軸
3012,3022 磁化固定軸
31,31’ 支持部材
32 センサプラットフォームボード
321 TMRアレイモジュール
322 コントローラ
323 RAM
324 増幅・変換回路
34 固定具
3a’,3b’ 部材
4,4’ 被覆部材
5,5’’ 演算装置
6 インタフェイス
61 PCI・バス・コントローラ
62 コマンド変換・バッファ・コントローラ
63 SRAM
64 シリアルインタフェイスドライバ
7 ケーブル
71 電源線
72 信号線
8,8’’ 3次元計測装置
81 ステレオカメラ
82 I/F
83,83’’ 位置測定部
831,831’’ 特徴点抽出部
832 位置計測部
84,84’’ 合成部
841 位置情報統合部
842,842’’ 特徴点照合部
89 心拍周期を検出する装置
9 断層撮影装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳磁計測に代表される生体などの磁気計測のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前記脳磁計測に代表される生体磁気計測では、微弱な磁場を検出する高感度磁気センサであるSQUID(Superconducting QUantum Interference Device:超伝導磁束量子干渉計)が用いられていた。その概略的な測定メカニズムは、位相の異なる超伝導体を障壁層を介して接合(Josephson接合)すると、それらの超伝導体間にトンネル電流が流れ、そのトンネル電流は、接合面内を貫く磁束が磁束量子の整数倍のとき弱め合い、それ以外のとき強め合うというFraunhofer型の量子干渉効果を利用するものである。このような性質をJosephson効果と称し、1個以上のJosephson接合を超伝導ループでつないだデバイスを、前記SQUIDと称する。
【0003】
そして、現在のところ実用化されているほとんどのSQUID素子はニオブ(Nb)で作られており、SQUID素子として働かせるためにはこのニオブを上述のように超伝導状態にする必要があり、ニオブの超伝導転移温度が9.2Kであることから、液体ヘリウムでの冷却が必要となる。その為、実際の測定に際しては、ポットに液体ヘリウムを循環させて10K程の低温に冷却する一方、そのポットの底にある凹面内には前記SQUID素子を多数並べて固定しておき、その凹面に被験者の頭を入れて測定に供している。
【0004】
このようなSQUIDセンサおよびそれを用いた脳磁計測装置として、特許文献1〜5などが提案されている。特に特許文献1で示されるように、SQUIDは、液体ヘリウムによる冷却のため、冷凍機等、磁気センサ以外の付帯設備が多く、装置が高価であるとともに、スペースも嵩み、しかも高価なヘリウムガスが蒸散で消耗するので、ランニングコストも大変高いといった問題がある。また、前記Josephson素子の故障時には、一旦前記液体ヘリウムの抜き取りが必要になるなど、メンテナンスの負担も大きい。
【0005】
また、センサ部分の構造としては、被検者の頭に柔軟に沿う構造ではなく、単に硬い凹面部に頭を入れるだけの構造であるので、頭皮と凹面とは密着できず、隙間を生じる。しかも、凹面に頭が密着したとしても、冷却されているセンサと頭部との断熱のために、3〜4cmもの断熱層の厚みがあり、その分、SQUIDセンサは被検査部位から離れる。したがって、SQUIDセンサは、単体では磁場感度が高いにも関わらず、被検査部位から離れて配置されているためにセンサに入る磁場が弱くなり、かつ、隣接する磁場が交錯して1つのSQUIDに入力されるので、計測における位置分解能が大きく低下するという問題がある。また、計測毎に姿勢が変ったり、計測中に体動があると、脳とSQUIDセンサとの位置関係が変ってしまい、大きな計測誤差の発生要因となるので、被験者に静止を要求するという問題もある。
【0006】
一方、常温で微弱な磁気計測の可能なMI(磁気インピーダンス)素子を用いた心磁界計測の例が、非特許文献1で示されている。このような手法を用いると、センサの冷却が不要となるので、SQUIDのような制約がなくなり、直接人体にこれらの素子を密着させることが可能になる。密着することで位置ずれを回避でき、位置分解能の向上が達成され、かつ断熱層が不要になることから、近接しての測定が可能になり、隣接する磁場が交差する前の、より位置分解能の高い状態でかつ強い磁場での計測も可能となる。こうして、測定装置の分解能の向上を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−193364号公報
【特許文献2】特開2004−65605号公報
【特許文献3】特開2007−17248号公報
【特許文献4】特開平2−40578号公報
【特許文献5】特開平3−1839号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”A Measurement of Magnetocardiogram(MCG) by Planar Type Sensor using CoNbZr FILM”Y.Ohtomo,S.Yabukami,K.Kato,T.Ozwa and I,Arai(Journal of Magnetics Society of Japan Vol.33,No.3,2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術では、磁気センサの生体との密着性は向上するものの、複数の磁気センサは、SQUIDのように固定化されたセンサではなく、測定の度に生体に被着されるので、毎回正確に同じ位置に被着できるとは限らないという問題がある。そこで各磁気センサの位置関係にずれが生じると、磁気発生源を特定する際に大きな影響(誤差)を与えることになる。
【0010】
すなわち、たとえば図19(a)で示すように、1つの磁気発生源501を、2つのセンサユニット502,503で検出する場合、センサユニット502,503の被着位置が規定の位置からずれていると、図19(b)で示すように、個別の磁気発生源501a,501b、すなわち一方をゴーストのように捉えてしまう。前記センサユニット502,503は、アレイ状に配列された多数の磁気センサ504から成る。
【0011】
詳しくは、磁気センサは被験者の頭部の各方向に立体的に配置されているので、各磁気センサが貼付いている頭皮付近からの信号の分布だけでなく、より深い位置から出てくる信号を検知するが、その磁気センサの位置関係が間違って設定されると、磁気計測結果としては、深さ方向を始め、前記磁気発生源501の位置が誤って導出され、前記ゴーストとして誤った解析結果をもたらす原因となる。また、磁気発生源501の深さ方向が浅くとも、磁気センサの真下方向以外からの磁気信号を解析する際にも、位置情報がないと誤った解析結果をもたらす。
【0012】
本発明の目的は、磁気センサの位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な磁気解析を行うことができる磁気計測装置および生体磁気計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁気計測装置は、測定対象に被着される複数の磁気センサと、前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係を計測する3次元計測装置と、前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集する計測装置本体とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、生体などの測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集するために、前記磁気センサには、たとえばTMR(トンネル磁気抵抗)素子、GMR(巨大磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの冷却無し或いは簡易な冷却のみで、前記微弱電流による磁界を計測できる磁気センサが用いられ、その磁気センサが前記測定対象に複数被着され、計測装置本体で前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)が収集(描画)される。
【0015】
そして、磁気計測の前または後に、前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係が3次元計測装置で計測され、該3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果が磁場解析される。
【0016】
これによって、解析結果として得られる、たとえば前記測定対象が生体の場合の脳磁図や心磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【0017】
また、本発明の磁気計測装置では、前記測定対象を生体とすることで、前記脳磁図や心磁図を作成する。そして、その生体の3次元断層画像を撮影する断層撮影装置をさらに備え、前記計測装置本体は、前記断層撮影装置によって得られた前記3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成することを特徴とする。
【0018】
さらにまた、本発明の生体磁気計測方法は、生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集する生体磁気計測方法において、断層撮影装置によって前記生体の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像から特徴点を検出するステップと、前記微弱電流による磁界を検出する磁気センサを前記生体に複数被着するステップおよび3次元計測装置によって前記生体に被着された各磁気センサ間の相対位置関係および前記特徴点を計測するステップとを任意の順で行い、さらに前記各磁気センサによって前記磁界を検出するステップと、前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、計測装置本体が、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)するステップと、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、前記計測装置本体が、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、たとえば測定部位が脳の場合、実際の脳の様子を知るためには、空間の分解能が3mmの精度で測定することが求められているが、この精度を達成するためには、いわゆる標準脳モデルによる解析ではなく、CTスキャンやMRIを用いた実際の被験者の情報(3次元断層画像)を用いる必要がある。そこで、断層撮影装置が、被験者の実際の脳モデルを測定するとともに、そのモデル上で、眼球や耳の穴などの動かない人体の特徴的な点、或いは人工的に生体に被着したマーカなどを測定しておく一方、前記3次元計測装置においても、画像解析等で3次元画像上に前記特徴点を抽出し、前記計測装置本体において、それらの特徴点が対応付けられて、前記断層撮影装置による生体の3次元断層画像に、前記3次元計測装置から該計測装置本体に得られた前記微弱電流に関する情報を合成する。
【0020】
このように構成することで、前記各磁気センサ間の相対位置関係に加えて、生体と磁気センサとの間の相対位置関係、たとえば前記脳モデルに対する磁気センサの空間的な位置情報を正確に計測し、高精細な磁気測定を可能にすることができる。特に、脳磁計測の場合に有効であり、それは脳の形状も機能割付けの際には重要になるためである。
【0021】
また、本発明の磁気計測装置では、前記複数の磁気センサは、柔軟な材料から成る支持部材に搭載されることを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、前記複数(多数)の磁気センサが、支持部材に纏めて搭載されるので、被験者への被着を容易にすることができるとともに、各磁気センサ間の位置関係を、或る程度一定に保つことができる。しかしながら、前記支持部材は、生体の表面への馴染みを良くするために柔軟な材料で形成されると、それが支持する磁気センサが、毎回同じ位置関係を保つとは限らず、各磁気センサ間の厳密な位置関係が測定のたびにずれる可能性がある。したがって、前述のように相対位置関係を測定することが有効である。
【0023】
また、本発明の磁気計測装置では、前記支持部材は、頭巾またはヘルメットの形状を呈していることを特徴とする。
【0024】
上記の構成によれば、測定対象を脳とし、解析結果として前記脳磁図を作成することができる。
【0025】
さらにまた、本発明の磁気計測装置では、前記支持部材は、胴部を覆う筒状体であることを特徴とする。
【0026】
上記の構成によれば、測定対象を心臓や胎児とし、解析結果として、たとえば前記心磁図を作成することができる。
【0027】
また、本発明の磁気計測装置では、前記計測装置本体による磁気センサからの信号の取り込みのタイミングが、心拍周期における同位相のタイミングであることを特徴とする。
【0028】
上記の構成によれば、心臓の血流を送り出すポンプの作用は、自らの大きさや位置を周期的に変えることで機能が得られている。このため、磁気画像(前記心磁図)を作成する場合に、心臓が最も拡張したタイミング、または縮小したタイミング、或いはそれらのタイミングから任意にオフセットしたタイミング等、心臓の動作周期における任意のタイミングに規定して、毎回同じタイミングに計測を行うことで、正確な前記磁気画像を得ることができる。
【0029】
さらにまた、本発明の磁気計測装置では、前記生体に被着された磁気センサ上を覆い、外部磁場からシールドする被覆部材をさらに備えることを特徴とする。
【0030】
上記の構成によれば、前記のように特に液化ガスによる冷却を行わず、常温域で微弱な磁気計測が可能な磁気センサを生体上に複数設けて磁気測定を行う場合に、前記生体上には、該生体に被着された磁気センサ上を覆うように被覆部材が設けられ、磁気センサおよび被測定部を外部磁場からシールドする。
【0031】
このように構成することで、従来の生体内の微弱電流の測定装置であるSQUIDのような部屋全体を磁気シールドするのではなく、被測定部周辺のみをシールドするので、磁気シールドのコストを格段に削減することができるとともに、測定に係る自由度を向上することができる。
【0032】
また、本発明の磁気計測装置では、前記磁気センサは、強磁性体を用い、相互に等しい一対の磁気検出素子と、出力端とを有する磁気センサであって、前記一対の磁気検出素子は、その磁化容易軸の方向が検出磁束に対して直交し、かつ互いの磁化容易軸が直交するように、前記検出磁束の方向に互いに間隔を開けて配置され、前記出力端は、前記一対の磁気検出素子の検出結果の差分を得ることを特徴とする。
【0033】
上記の構成によれば、生体内に生じた微弱電流などによる微弱な磁束を計測する磁気センサにおいて、常温域で計測が可能な、たとえばTMR(トンネル磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの強磁性体を用いる磁気検出素子を、2つを一対で使用する。そして、その2つの磁気検出素子が、検出磁束の方向(生体の場合、生体表面から遠去かる方向)に互いに間隔を開けて積層され、前記検出磁束に対して磁化容易軸の方向が略直交しており、かつ互いの磁化容易軸が直交するように配置される。すなわち、生体の場合、該生体の内部で発生された検出磁束は、生体表面に対して略垂直に外部に放射され、前記磁気検出素子の磁化容易軸は、前記生体表面と平行に設けられることになる。ただし、前記2つの磁気検出素子の磁化容易軸は、前記生体表面と平行な面内で、互いに直交するように設けられる。一方、該磁気センサの出力としては、前記2つの磁気検出素子の検出結果の差分を取る。
【0034】
ここで、前記生体等、微弱な磁束の発生源が発生する検出磁束は、その表面から比較的近い位置で磁束のループを形成し、表面から比較的近い方の磁気検出素子は通過しても、前記ループによって比較的遠い方の磁気検出素子を通過する磁束の割合が少なくなる。これに対して、地磁気や環境磁場などの生体外の環境などによる比較的大きな磁束(ノイズ)は、前記2つの磁気検出素子を、ほぼ共通に通過する。したがって、前記2つの磁気検出素子の検出結果の差分を取ることで、入力初段で環境磁場(ノイズ)を効率良く低減してSN比を向上することができる。こうして、強磁性体を用いた常温磁気検出素子から成る該磁気センサでは、低コストかつ高感度に、微弱な磁束を測定することができる。また、外部磁界のシールドも不要或いは簡素化することができ、前記SQUIDのような部屋全体を磁気シールドする構成に比べて、コストやスペースを格段に削減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の磁気計測装置および生体磁気計測方法は、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の第1の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す図である。
【図2】前記生体磁気計測装置における3次元計測装置によって3次元位置測定された磁気センサ素子の配置を示す斜視図である。
【図3】図2に頭部モデルを合成した図である。
【図4】図2での測定結果の一例を示す図である。
【図5】前記生体磁気計測装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】図5におけるインタフェイスの電気的構成を示すブロック図である。
【図7】図5におけるセンサプラットフォームボードの電気的構成を示すブロック図である。
【図8】図4で示すような計測結果を導く演算装置による微弱電流による磁界の発生源の特定方法を説明するための図である。
【図9】トンネル磁気抵抗素子における磁化容易軸の回転について説明するための図である。
【図10】本発明に係る磁気センサ素子の1素子の具体的構成を示す斜視図である。
【図11】図10で示す磁気センサ素子を実際の磁気センサに適用した場合の構造を示す図である。
【図12】前記生体磁気計測装置の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の実施の第2の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す正面図である。
【図14】本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す断面図である。
【図15】本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置の使用状態を模式的に示す断面図である。
【図16】本発明の実施の第4の形態に係る生体磁気計測装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図17】頭部のMRI画像に、図16の生体磁気計測装置で使用する位置マーカによるマーキング位置を重ね合わせて示す斜視図である。
【図18】図16で示す生体磁気計測装置の計測方法を説明するためのフローチャートである。
【図19】生体磁気計測で生じるセンサ位置ずれによるゴースト発生メカニズムを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の第1の形態に係る生体磁気計測装置1の使用状態を模式的に示す図である。本実施の形態の生体磁気計測装置1は、被験者2の頭部21から発せられる磁気を計測して脳磁図を得るものとする。詳しくは、この生体磁気計測装置1は、脳の神経細胞が興奮したときに流れる電流から生じる磁場を測定し、たとえばてんかんの発作がどこで起っているか、脳の手術でどこまで切除してよいかなどを判定するために用いられる。
【0038】
この生体磁気計測装置1では、被験者2の頭部21には、センサユニット3が被せられる。センサユニット3は、非磁性で、柔軟な材料から成り、いわゆる目出し帽(頭巾、バラクダ)型に形成される支持部材31に、多数のセンサプラットフォームボード32が並べて搭載されて成る。これにより、被験者2がセンサユニット3を被るだけで、該被験者2に容易に多数のセンサプラットフォームボード32を被着することができる。そして、前記支持部材31の表裏何れかの面上に、多数のセンサプラットフォームボード32が、所定の間隔で分布し、支持部材31の内面を頭部21の表面に沿って押し当てるようにして、センサユニット3が被験者2の頭部21に被せられることで、前記頭部21の表面から等間隔に(密着或いは支持部材31の厚みを介して)、前記センサプラットフォームボード32のセンサ面が沿うことになる。
【0039】
前記センサプラットフォームボード32は、液化ガスによる冷却を必要とせず、常温域で、微弱な磁気計測が可能な、TMR(トンネル磁気抵抗)素子、GMR(巨大磁気抵抗)素子、或いはMI(磁気インピーダンス)素子などの各種の磁気センサ素子の集合体である。なお、特許請求の範囲における磁気センサとの用語は、このセンサプラットフォームボード32に搭載される単体の磁気センサ素子を示すものとし、以下、この磁気センサ素子として、トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子、主としてトンネル磁気抵抗素子が用いられることとする。
【0040】
前記支持部材31における被験者2の目22部分の開口33は、被験者2の心的影響等を考慮したもので、測定部位などの事情によっては、特に設けられなくてもよい。その場合、前頭部、後頭部および側頭部のほか、顔面部から発せられる脳磁気を計測することも可能となる。
【0041】
このようなセンサユニット3では、支持部材31が生体の表面への馴染みを良くするために柔軟な材料で形成されるので、それが支持する磁気センサ素子が、毎回同じ位置関係を保つとは限らず、各磁気センサ素子間の厳密な位置関係が測定のたびにずれる可能性がある。そこで、センサユニット3を被験者2の頭部21に装着した状態で、各センサプラットフォームボード32の位置関係が、3次元計測装置8によって測定される。
【0042】
この図1の例では、前記3次元計測装置8は、複数のステレオカメラ81を用いる光学式の3次元測定装置を例示している。その測定方法としては、図1で示すように、センサユニット3を装着した被験者2の頭部21を囲み、各センサプラットフォームボード32に漏れや隠れる部分の無いように配置された2台以上のステレオカメラ81からなるカメラ群により同時に画像撮影を行い、その撮像画像を、各カメラシステム内で画像処理し、撮像対象(各センサプラットフォームボード32)の3次元情報に置き換える。その後、この位置測定の前または後に行われた各センサプラットフォームボード32の磁気測定結果が、上述のようにして得られた各センサプラットフォームボード32の位置情報に基づいて解析され、前記脳磁図が作成される。
【0043】
図2は、前記3次元計測装置8によって3次元位置測定された磁気センサ素子の図である。この図2では、図面の煩雑化を避けるために、前記磁気センサ素子は大幅に間引いて示されるとともに、1素子当りの大きさが実際よりも大きく示されている。また、図2は、磁気センサ素子の相対位置関係のみを示しており、イメージし難いので、被験者2の頭部21のモデルに重ね合わせた例を図3に示す。実際の頭部21の形状は、上述の3次元光学測定では、磁気センサ素子の影になる部分は測定できないが、この図3は、センサユニット3の装着前、或いは後述の断層撮影などの画像に重ね合わせて示している。こうして3次元位置測定された磁気センサ素子で検出された磁界から求められた電流の発生源(患部位置)ならびに向きおよび大きさを示すベクトルを、前記図2に合成した脳磁図を、図4に示す。
【0044】
図5は、上述のように構成される生体磁気計測装置1の電気的構成を示すブロック図である。この生体磁気計測装置1は、前記センサユニット3および3次元計測装置8と、演算装置5と、インタフェイス6とを備えて構成される。演算装置5は、パーソナルコンピュータなどから成り、センサユニット3と、インタフェイス6を介して接続されるとともに、前記3次元計測装置8と接続される。センサユニット3とインタフェイス6との間は、ケーブル7で接続されており、ケーブル7の届く範囲でセンサユニット3を移動可能であり、向きを自由に変えることができる。ケーブル7は、電源線71と、信号線72とを備えている。
【0045】
図6は、インタフェイス6の電気的構成を示すブロック図である。インタフェイス6は、PCI・バス・コントローラ61と、コマンド変換・バッファ・コントローラ62と、SRAM63と、シリアルインタフェイスドライバ64とを備えて構成される。PCI・バス・コントローラ61は、演算装置5とコマンド変換・バッファ・コントローラ62との間の通信を行う。コマンド変換・バッファ・コントローラ62は、演算装置5からのコマンドを各センサユニット3へ送信するとともに、各センサユニット3からシリアル信号で送信されてきた計測結果を適宜展開し、SRAM63に書込んでゆくとともに、演算装置5からの読出し要求に応えて、SRAM63の記憶内容を読出して演算装置5へ送信する。シリアルインタフェイスドライバ64は、コマンド変換・バッファ・コントローラ62と、各センサプラットフォームボード32との間の通信を行う。
【0046】
図7は、各センサプラットフォームボード32の電気的構成を示すブロック図である。センサプラットフォームボード32には、アレイ状に配列された数mm角のTMR素子を複数個含むTMRアレイモジュール321,321,・・・が電気的に接続されるとともに、機械的に固定されている。そして、このセンサプラットフォームボード32はまた、コントローラ322と、RAM323と、増幅・変換回路324,324,・・・とを備える。増幅・変換回路324は、TMRアレイモジュール321毎に設けられ、TMRアレイモジュール321と1対1で接続されている。増幅・変換回路324は、TMRアレイモジュール321からの出力信号を増幅する増幅器324aと、増幅器324aの出力をデジタル信号に変換してコントローラ322に入力するA/D変換器324bとを有する。RAM323は、コントローラ322に入力された情報やコントローラ322が演算した情報を記憶する記憶装置である。
【0047】
コントローラ322は、演算装置5からのコマンドを受信して計測を開始し、TMRアレイモジュール321を稼動し、その出力信号を順次増幅・変換回路324を介して取込み、RAM323に記憶してゆく。その後、コントローラ322は、適宜のタイミングで(演算装置5からのポーリングに応答したり、各コントローラ322に予め定められている時刻に)、択一的に前記TMRアレイモジュール321の出力信号を、所定のフォーマットによるシリアル通信で、信号線72を介して演算装置5に送出する。
【0048】
計測装置本体である演算装置5は、前記各TMRアレイモジュール321の出力信号から、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報、たとえば発生位置から流れた位置や大きさなどの情報を収集する。ただし、各センサプラットフォームボード32の相対位置関係は、前記3次元計測装置8によってセンサプラットフォームボード32毎に予め測定され、さらに各センサプラットフォームボード32内における各TMRアレイモジュール321から各TMR素子の位置は、モジュールおよびアレイの配列から認識することができ、これらの情報は演算装置5で認識されている。
【0049】
前記3次元計測装置8では、各ステレオカメラ81で撮像された画像は、I/F82を通じてデジタル情報に変換され、位置測定部83にそれぞれ送られる。位置測定部83では、各撮像画像から、先ず特徴点抽出部831が、各センサプラットフォームボード32の画像内の位置を特定し、その後、位置計測部832が、各画像間における位置ずれ量から、3角法に基き位置情報を決定し、それぞれの空間位置情報を確定する。そのような空間位置情報の作成方法は、たとえば特開2008−90583号公報に示されている。
【0050】
そして、各ステレオカメラ81間の位置関係は固定されており、その位置関係については別途測定が行われ、合成部84の位置情報統合部841内に保存されている。こうして、各ステレオカメラ81で得られた情報は、前記位置計測部832から前記合成部84の特徴点照合部842に送られ、特徴点毎に整理された後、前記位置情報統合部841で情報の合成を受け、各センサプラットフォームボード32の位置情報として整理統合され、前記演算装置5へ送られる。
【0051】
図8は、前記演算装置5による微弱電流による磁界の発生源の特定方法を説明するための図である。前述のように、各トンネル磁気抵抗素子の相対位置関係は予め認識されており、この図8では、その認識されているトンネル磁気抵抗素子をセンサPa,Pbとする。このようにセンサの位置を反映し、解析を行う方法は、信号強度が距離の2乗に反比例して減衰することを利用する。すなわち、この解析方法では、多数のセンサで同時に受信した磁気信号のうち、最も強い信号を受信した2つのセンサの信号と受信したセンサの位置とを特定すれば、そのパルスの強度が距離の2乗に反比例して減衰することから、2つのセンサからの距離の比は、信号強度の平方根の逆数になることを利用する。したがって、磁界の発生源Pは、センサPa,Pbの2点から、信号強度Sa,Sbの平方根の逆数の比率で規定されるアポロニウスの円Rのどこかに存在する。
【0052】
前記円Rは、正確には空間であるので、センサPa,Pbを結ぶ2点を回転軸とした、回転体の球の表面である。たとえば、簡単のため、一方のセンサPaの座標をa(0, 0, 0)、もう一方のセンサPbの座標をb(0, d, 0)とし、信号強度をそれぞれ前記Sa,Sbとし、信号強度Sa,Sbの平方根の逆数の比をk (=(Sa/Sb)0.5 ) とおくと、中心は(0, d/(1−k2), 0)、半径 |(d2+k2)0.5/(1−k2)|で規定される球である。
【0053】
更に、一般的に、センサPa,Pbの座標をそれぞれ(xa, ya, za), (xb, yb, zb)とすると、中心は((−k2xa+xb)/1−k2,(−k2ya+yb)/1−k2,(−k2za+zb)/1−k2)と記述できる。半径dは、d=((xa−xb)2+(ya−yb)2+(za−zb)2)0.5とすることで、|(d2+k2)0.5/(1−k2)|と記述できる。
【0054】
このようにして信号源Pとして考えられる球を3つ用意し、それぞれの球と接する点を求めることで、信号源を特定することができる。3つの球を求める際に用いるセンサは、たとえば同時に受信した磁気信号のうち最も強い3つの信号を受信したセンサを用い、これらの3つのセンサのうち、2つセンサの組み合わせから得られる3組の情報を用いる。このとき、測定対象の外側にも発生源があるように見えることがあるが、それは除去する。さらに詳細には、様々な2組のセンサの位置と、信号強度とから多くの球を求め、その球表面の交点の集中する点を磁気発生源として捉えることで、位置精度の向上が期待できる。
【0055】
実際の生体磁気計測では、先ず、生体磁気計測装置1全体に電源が投入され、各磁気センサアレイモジュール321にも電流が印加される。これによって、被験者2の頭部21から発生される磁束の影響を受けて、前記磁気センサアレイモジュール321中の各磁気センサ素子から出力信号が導出される。次に、オペレータにより、演算装置5に計測実行コマンドが入力される。すると、演算装置5は、計測実行コマンドをn個のセンサプラットフォームボード32に送出する。各センサプラットフォームボード32にあっては、計測実行コマンドをコントローラ322が受信する。コントローラ322は、増幅・変換回路324を介して、デジタル化された各磁気センサアレイモジュール321からの出力信号を受け、これを各磁気センサアレイモジュール321のアドレス情報を特定する情報にリンクさせた所定のフォーマットで生体磁気計測情報として演算装置5に送出する。演算装置5は、各コントローラ322からの生体磁気計測情報を解析して、被検者2の頭部21上の位置と磁気の強さと方向との組み合わせからなる脳磁図を演算し、画像情報化して表示装置51に出力する。
【0056】
前記計測実行コマンドは、コマンドが入力される度に演算装置5が計測を実行するものであってもよいが、計測開始コマンドと計測終了コマンドとから構成されるものでもよい。その場合、演算装置5は、計測開始コマンドと計測終了コマンドとの間の期間において、一定の時間レートで計測を実行し、リアルタイムに変化する脳磁図や心磁図を表示装置51に表示することが有効である。また、生体磁気計測情報や、脳磁図や心磁図の情報、表示のために生成された画像情報は、演算装置5から読出可能に記録しておき、表示装置51に表示や再生を可能にしておくことが好ましい。
【0057】
一方、本実施の形態の磁気センサとしては、前述のように、磁気インピーダンス素子またはトンネル磁気抵抗素子を用いることができる。その検出原理においては、強磁性体を用いており、外部磁場を材料内に収束させて磁束密度を高め、以下に詳述するように、その強磁性体の磁化容易軸が回転するという現象を基本としている。前述の非特許文献1は、前記磁気インピーダンス素子の生体の磁気計測への適用例であるが、上述のような本実施の形態の特徴は備えていない。
【0058】
先ず、前記磁化容易軸の回転について説明する。スパッタなどで、図10で示されるように、数μm以下の厚みに成膜されたアモルファス金属(CoNbZr)などの強磁性体101(図9では、成膜に用いた基板を引き剥がしている)が、磁界104の中で加熱冷却されると、磁気モーメントを揃えて磁化容易軸102,103を設定することができる。検出すべき外部磁界Bに対して、この磁化容易軸102,103が直交する方向に配置されると、外部磁界Bに沿う方向へ磁化容易軸が参照符号102’,103’のように回転する。
【0059】
この現象によって、磁気インピーダンス方式の素子では、高周波電流Iにおいて発生する磁界の透磁率変化による回路インピーダンスの変化から、外部磁界Bを検出している。図9は、強磁性体101の中に高周波電流Iを流す方式を示しているが、高周波回路を別にして強磁性体薄膜を回路上に絶縁して貼り付ける方式もある。この場合も同様に、外部磁界Bによる強磁性体101の磁化容易軸102,103の回転により、誘導起電流が変化して高周波電流が変動することで、微弱な外部磁界Bが検出される。また、インピーダンス変化の検出は、直接インピーダンスを測定するのではなく、高周波電流Iの位相ズレをヘテロダイン検出することで行われており、これによって検出感度を向上することができる。どちらの場合の素子も、その磁化容易軸102,103が外部磁界Bに対して直交する向きに配置されて外部磁界Bを検出することで、最も感度が高くなる。
【0060】
また、トンネル磁気抵抗方式の素子は、磁化容易軸をもった強磁性体に酸化マグネシウムやアルミナなどの数nmの厚みの絶縁層を介して、磁化方向を固定した強磁性体を積層し、両強磁性体間に電圧をかけると、磁化固定軸と磁化容易軸との成す角度に応じて絶縁層を通るトンネル電流が大きく変動して流れ、この電流によって微小な外部磁界を検出できる。磁化容易軸と磁化固定軸との成す角度については、両方向が一致したときが最もトンネル電流が大きく、反対向きとなったときが最もトンネル電流が小さくなり、この180度の回転角でほぼ正弦波的にトンネル電流は変化する。したがって、磁化固定軸に対して磁化容易軸の向きが直交する場合が、最もトンネル電流の変化として感度良く捉えることができる。これらの磁気インピーダンス素子およびトンネル磁気抵抗素子は、板状の形態をした強磁性体の断面が透過磁束の開口部となる。
【0061】
しかしながら、これらの強磁性体を用いた常温磁気検出素子は、小型で感度が高いとはいえ、SQUID程の検出感度には達しておらず、これを単独で直接、生体磁気などの微弱な磁気検出に使うことはできない。そのため、地磁気や環境磁場などのノイズを低減することが、検出感度を相対的に高める上で特に重要となり、ノイズ低減の工夫が実使用においては不可避である。そこで本実施の形態の常温高感度磁気検出素子における、外部ノイズ磁界の除去方法を以下に詳述する。
【0062】
図10は、前記トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子の場合の磁気センサ素子の1素子の構成を示す斜視図である。本実施の形態の磁気センサ素子は、強磁性体を有する相互に等しい一対の磁気検出素子301,302を用い、該一対の磁気検出素子301,302は検出磁束Bと平行に、さらにその磁化容易軸3011,3021の方向が前記検出磁束Bと直交し、かつ互いの磁化容易軸3011,3021が直交するように、前記検出磁束Bの方向に互いに間隔を開けて配置される。さらにまた、前記磁化容易軸3011,3021に対して、磁化固定軸3012,3022は、検出磁束Bを最も感度良く検出するために、直交して、すなわち該磁化固定軸3012,3022が検出磁束Bと平行に設けられる。図10では、磁化固定軸3012,3022の方向は、互いに逆向きとなっているが、同じ方向でもよい。
【0063】
こうして、磁気検出素子301,302が検出磁束Bと略平行に、かつその磁化固定軸3012,3022も検出磁束Bと略平行に配置されることで、外部からのノイズとして、地磁気などの広範に均等に到来する環境磁場(外部磁束)BNがあると、両磁気検出素子301,302の磁化固定された強磁性体にはそれぞれほぼ等しい数の磁束(図では各5本)が入力する。ここで、前述のように磁化固定軸3012,3022の方向は一致しているが向きは逆となっていることで、誘導起電流やトンネル電流の変化量はそれぞれの検出素子間で逆向きかつ同じ大きさとなる。したがって、センサ出力端に2つの磁気検出素子301,302を直列に接続して出力を加算すれば、その抵抗平均値はほぼ一定となり、出力電流はほとんど変わらない。なお、磁化固定軸3012,3022の向きを同じにした場合、両磁気検出素子301,302の外部ノイズ磁場BNによる電流変化が同じ向きに現れるので、この場合は両磁気検出素子301,302の出力電流の差動をとって検出電流とすれば、ゼロとなって外部ノイズ磁場BNの影響をキャンセルすることができる。
【0064】
これに対して、検出すべき信号磁束BSは、生体に近い方の磁気検出素子301に磁束(図では9本)を吸収され、透磁路の出口で発散する。その直後にある生体から遠い方の磁気検出素子302には、発散した磁束の一部のみ(図では1本)が吸収されるだけなので、両磁気検出素子301,302間の出力電流には大きな差を生じる。したがって、これらの加算をとっても差動をとっても、信号電流として検出することができる。
【0065】
そして、磁気検出素子301,302間では、磁束の入力面(磁化固定軸3012,3022)を直交する配置とすることで、磁気感度を最大にすることができる。すなわち、生体から遠い方の磁気検出素子302において、近い方の磁気検出素子301に重ならない部分では、磁路を形成する部材が無いために生体からの微弱な磁束BSが届かず、前記磁気検出素子301との差分が顕著に現れるためである。
【0066】
このように構成することで、入力初段で環境磁場BN(ノイズ)を効率良く低減してSN比を向上することができ、低コストかつ高感度に、微弱な磁束BSを測定することができる。また、外部磁界BNのシールドも不要或いは簡素化することができ、前記SQUIDのような部屋全体を磁気シールドする構成に比べて、コストやスペースを格段に削減することができる。
【0067】
また、2つの磁気検出素子301,302における検出磁束B方向の間隔は、0.5〜20mmであることが好ましい。これは、該磁気検出素子301,302がトンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子である場合、検出磁束Bは強磁性体の中を通るので、SQUIDのような真空中を通る場合に比べて、減衰が1/2000程度に少なくなり、該2つの磁気検出素子301,302が近接し過ぎると、該2つの磁気検出素子301,302を通過する検出磁束が略等しくなるためである。そこで前記のように2つの磁気検出素子301,302の検出磁束B方向の間隔を前記0.5〜20mmとすることで、それらの磁気検出素子301,302は、検出磁束Bに対して、さらに良好な感度を得ることができる。
【0068】
こうして、液化ガスによる冷却を行わず、常温域で微弱な磁気計測が可能な前記磁気検出素子301,302として、トンネル磁気抵抗素子を用いることで、より高感度化することができ、また磁気インピーダンス素子を用いることで、構造を簡略化することができる。
【0069】
そして、前記トンネル磁気抵抗素子または磁気インピーダンス素子を用いる磁気検出素子301,302は、実際の前記磁気センサ素子に適用される際には、図11で示すように、ゴムなどの生体に密着し、非磁性の材料から成る柔軟な支持部材31に、相互に直交するように積層して埋め込まれる。そして、数mm角の一対の磁気検出素子301,302が、適宜複数対組み合わせられて、前記磁気センサアレイモジュール321を構成する。
【0070】
図12は、上述のように構成される生体磁気計測装置1の計測方法を説明するためのフローチャートである。先ずステップS1では、被験者2の頭部21にセンサユニット3が被せられることで、支持部材31に支持された複数のセンサプラットフォームボード32の各センサ面が、頭皮に密着する。ステップS2では、3次元計測装置8によって、前記被験者2の頭部21に被着された各センサプラットフォームボード32間の相対位置関係が計測される。ステップS3では、各磁気センサ素子によって磁界検出が行われる。ステップS4では、前記3次元計測装置8によって得られた各センサプラットフォームボード32内の磁気センサ素子の相対位置関係に基いて、演算装置5が、前述のようにして各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記頭部21内に生じた微弱電流による脳磁図を作成する。なお、ステップS2での位置関係の測定は、好ましくは上述のようにステップS3での脳磁計測前に行われるが、脳磁計測後や、磁気ノイズ上問題の無い測定方法であれば、脳磁測定中に行われてもよい。
【0071】
以上のように、本実施の形態の磁気計測装置1では、生体などの測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集するために、磁気センサ素子には、たとえばトンネル磁気抵抗素子、巨大磁気抵抗素子、或いは磁気インピーダンス素子などの冷却無し或いは簡易な冷却のみで、前記微弱電流による磁界を計測できる磁気センサ素子を用いる。そして、その磁気センサ素子が前記測定対象に複数被着され、磁気計測の前または後に、各磁気センサ素子間の相対位置関係が3次元計測装置8で計測され、得られた相対位置関係に基いて、演算装置5が前記各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)する。
【0072】
このように構成することで、複数の磁気センサ素子が、SQUIDのように固定化されたセンサではなく、測定の度に位置ずれの生じる可能性があっても、そのずれを正確に検出して解析を行うことができるので、解析結果として得られる、たとえば前記測定対象が生体の場合の脳磁図に、位置ずれによるゴーストの発生を抑え、高精度な解析を行うことができる。
【0073】
(実施の形態2)
図13は、本発明の実施の第2の形態に係る生体磁気計測装置1’の使用状態を模式的に示す正面図である。本実施の形態の生体磁気計測装置1’は、被験者2の胸部26や腹部27から発せられる磁気を計測するものである。被測定部が胸部26の場合、この生体磁気計測装置1’は、心臓28の筋電位(収縮のパルス)を測定し、心臓28の動作に異常が無いか確認することができる。また、被測定部が腹部27の場合、この生体磁気計測装置1’は、安静時の妊婦の胎児の心臓から発生する磁場などを計測でき、胎児の心臓の動きが分り、出産前検査などに用いることができ、或いは、脊髄の損傷を確認することができる。
【0074】
そのため、センサユニット3’は、胴部を覆う筒状体である腹巻き状の支持部材31’の表裏何れかの面上に、多数のセンサプラットフォームボード32が、所定の間隔で配置されて構成される。椅子に座った状態や立った状態など、被験者2の上体を起こして測定が行われる場合は、支持部材31‘に、肩紐状の固定具34が設けられ、ずり落ちないように構成されて、生体との密着を高めることが好ましい。センサユニット3’の構成は、前述のセンサユニット3と同様である。このようにして、心磁図などを作成することができる。なお、前記胸部26や腹部27の測定の場合は、簡易的に、多数のセンサプラットフォームボード32を板にアレイ状に固定したものをセンサユニット3’として、それを前記胸部26や腹部27に押し付け、密着させるようにしてもよい。
【0075】
このような生体磁気計測装置1’において、前記心磁図の作成のために、前記演算装置5に心拍周期を検出する装置89が接続され、各センサプラットフォームボード32には、前記演算装置5から、計測タイミングを規定する信号を与えるようにすることが好ましい。これは、測定対象である心臓28から発せられる磁場変化は弱く、積算が必要になるのに対して、心臓28のように、大きな形状変化を伴った測定対象からの情報をそのまま積算しては、得られた画像がそれぞれの大きさの状態での信号の平均値となってしまい、詳細な画像情報を得ることができないためである。
【0076】
ここで、心臓28の血流を送り出すポンプの作用は、自らの大きさや位置を周期的に変えることで機能が得られており、特に血液を全身に送り出す仕事をしている左心室は、最大の大きさになる拡張期と最小になる収縮期とで、正常値で30〜50%も変化を見せる。しかしながら、前記心磁図を作成する場合に、前記演算装置5が、心臓28の鼓動の周期に同期して磁気信号を取り込み積算することで、概ね同じ大きさの状態で情報を得ることができ、鮮明な画像情報を得ることができる。前記同期は、心臓28が最も拡張したタイミング、または縮小したタイミング、或いはそれらのタイミングから任意にオフセットしたタイミング等、心臓28の動作周期における任意のタイミングでよく、毎回同じタイミングであれば、正確な心磁図を作成することができる。
【0077】
ここで、前記のような心臓28の動作と磁気画像とを同期させる具体的な方法としては、心電図の信号と同期させる、心臓28付近の皮膚の上下動と同期させる等の方法が挙げられる。心電の伝播は非常に早く、体のどの位置で測定しても、心臓28の拍動に対して極端な位相ずれが生じず、好適である。その場合は、心電を取るための配線が、心磁計測に悪影響を及ぼす可能性が高いので、この図13のように左腋下付近、もしくは左腕で取ることが好ましい。皮膚の上下の測定も、機械的に測定するほか、レーザ変位計などによる光や、音の反射時間や位相ずれなど、測定する磁界に影響を与えない方法をとることで、測定結果に対する悪影響を回避できる。
【0078】
(実施の形態3)
図14および図15は、本発明の実施の第3の形態に係る生体磁気計測装置1a,1a’の使用状態を模式的に示す断面図である。これらの生体磁気計測装置1a,1a’は、前述の生体磁気計測装置1,1’に類似しており、それぞれ脳磁図や心磁図を得ることができる。本実施の形態の生体磁気計測装置1a,1a’では、上述のようにしてセンサユニット3,3’を被験者2の頭部21や胸部26に装着した上に、磁気シールドを行う被覆部材4,4’を装着し、計測を実行することである。なお、この被覆部材4,4’に併用して、被験者2を囲むように、磁気シールド室を形成してもよい。ただし、その場合の磁気シールド室は、前述のSQUIDに用いられるような大掛かりなものではなく、簡易なものでよい。
【0079】
前記被覆部材4は、前頭部、後頭部および側頭部に加えて、頬、鼻、口、目、顎または頸の少なくとも1つを覆うこととする。図14の例では、前記被覆部材4は、それらの総てを覆う、いわゆるフルフェイスのヘルメット(頭部を衝撃などから保護するために被る防護帽)の形状を呈しているものとする。なお、目や口については、前述の支持体31の開口33に対応する。
【0080】
一方、センサユニット3’に対応して、被覆部材4’は、前記胸部26や腹部27に適した円筒形状に形成される。残余の演算装置5などの構成は、前述の生体磁気計測装置1,1’と同様であり、その説明を省略する。特に被覆部材4’には、前記センサプラットフォームボード32が内張りされている。そして、この被覆部材4’は、磁気シールドを行う外側の筒状体から成り、その内側に充填される緩衝用の内装体が前記支持体31’となる。また、このセンサユニット3’は、2つの部材3a’,3b’から構成されており、たとえば図15で示すように、楕円の軸直角断面の長径線で、すなわち被験者2の前後に分割可能となっている。分割された2つの部材3a’,3b’は、一端側がヒンジなどで連結され、他端側がフックなどで締着され、或いは両端共フックなどで締着されてもよい。
【0081】
したがって、必要に応じて被験者2がこれらの被覆部材4,4’を着用することで、該被覆部材4,4’が外乱磁束BNをより確実に遮断し、測定精度を向上することができる。また、該被覆部材4,4’は、従来の生体内の微弱電流の測定装置であるSQUIDのような部屋全体を磁気シールドするのではなく、被測定部周辺のみをシールドするので、磁気シールドのコストを格段に削減することができるとともに、測定に係る自由度を向上することができる。さらにまた、被測定部が頭部21である場合に、該被覆部材4が、いわゆるヘルメットの形状を呈していることで、被験者2は被覆部材4を被るだけで、磁気シールドを行うことができ、被覆部材4の装着が容易である。また、図15の被覆部材4’のように、図14の被覆部材4において、センサプラットフォームボード32を内貼りしてもよい。
【0082】
前記被覆部材4,4’としては、一般に用いられているパーマロイやミューメタルなどの透磁率の高いもので覆うシールドが好適である。前記パーマロイの場合、その薄層が鋳物で成型され、水素雰囲気下で焼き鈍ますことで歪みが除かれたものが複数層積層されて該被覆部材4,4’が形成される。このため、該被覆部材4,4’は、左右に半割れや上下に分離した状態などで成型されたパーツが、接着や他の支持体によって、前記ヘルメット形状などに組上げられて構成される。或いは、そのような生体に密着したシールドではなく、簡易な磁気無音室を形成した後、被験者2に帷子状もしくは板鎧状にした着脱できるシールドを着用させるようにしてもよい。
【0083】
(実施の形態4)
図16は、本発明の実施の第4の形態に係る生体磁気計測装置1’’ の電気的構成を示すブロック図である。この生体磁気計測装置1’’において、前述の図5で示す生体磁気計測装置1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して示し、その説明を省略する。本実施の形態の生体磁気計測装置1’’では、計測装置本体である演算装置5’’には、3次元計測装置8’’とともに、断層撮影装置9がさらに接続される。前記断層撮影装置9は、生体の3次元断層画像を撮影するCTやMRIなどから成り、前記演算装置5’’は、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置8’’によって得られた特徴点とを一致させることで、該演算装置5’’によって得られた脳磁図を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0084】
このため、前記3次元計測装置8’’の位置測定部83’’では、特徴点抽出部831’’は、各撮像画像から、前記各センサプラットフォームボード32を抽出するとともに、センサユニット3を被着しても隠れず、動かない人体の特徴的な点、たとえば眼球や耳の穴、或いは意識的に被験者2に装着したマーカを抽出し、前記位置計測部832が、各画像間における位置のずれから、3角法に基き、それらの位置情報を決定する。また、合成部84’’の特徴点照合部842’’も、それらの特徴点毎の情報を整理した後、前記位置情報統合部841が情報の合成を行い、各センサプラットフォームボード32の位置情報として整理統合し、前記演算装置5’’へ出力する。
【0085】
一方、断層撮影装置9は、頭部21の3次元断層画像を撮像することで、各センサプラットフォームボード32および前記特徴点の位置計測を行うことができる。これによって、各センサプラットフォームボード32、すなわち各磁気センサ素子と生体との位置計測を行うことができる。図17には、前記頭部21のMRI画像に前記位置マーカによるマーキング位置を、重ね合わせて示す。
【0086】
そして、演算装置5’’は、前述のように、3次元計測装置8’’によって得られた各磁気センサ素子間の相対位置関係に基いて各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、頭部21内に生じた微弱電流に関する情報(磁場(微弱電流)の発生源の分布状況)を収集(描画)した後、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置8によって得られた特徴点とを一致させることで、前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0087】
ここで、多数のセンサを人体に貼り付けて人体内部の様子を観察する取組みは、脳に対する光トポグラフィーやEEG(Electroencephalogram:脳波)などで行われている。しかしながら、一般にこれらの取組みで得られる解像度は、貼り付けられるセンサの数に限りがあり、センサ間隔が数センチ程度離れているので、センサの詳細な位置情報を得ても、脳の機能分布に必要な解像度である3mmには程遠く、センサの位置情報を得る必然性は無かった。さらに、光トポグラフィーの場合には、脳や頭蓋骨の影響で信号が散乱し、非常にぼやけた画像になる。
【0088】
これに対して、前記磁気センサ素子としてのトンネル磁気抵抗素子や磁気インピーダンス素子のように、冷却なしあるいは簡易な冷却のみで計測できる磁気センサ素子は、小型化が可能で、かつパッシブに磁気信号を受取るので、センサ間の信号にコンタミが発生せず、沢山敷き詰めることで解像度を向上することが可能である。そのため、演算装置5’’が、脳の機能など詳細な位置情報と合わせて得られた情報を精査することにより、より高解像度で得られた情報の意味付けが可能になる。そして、センサの位置情報と同時に被測定部の位置情報を得る方法として、前記3次元計測装置8’’を用いることが有効である。
【0089】
図18は、上述のように構成される生体磁気計測装置1’’の計測方法を説明するためのフローチャートである。ステップS01では、被験者2の頭部21にマーカが貼付けられ、ステップS02では、MRIなどの断層撮影装置9によって被験者2の頭部21の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像を解析することで特徴点を検出する。続いて、前記ステップS1で、被験者2の頭部21にセンサユニット3が被せられ、ステップS2’では、3次元計測装置8によって、前記被験者2の頭部21に被着された各センサプラットフォームボード32および特徴点(マーカ)間の相対位置関係が計測される。
【0090】
その後、必要な場合はステップS5で前記マーカの取外しが行われ、前記ステップS3では各磁気センサ素子によって磁界検出が行われる。ステップS4では、前記3次元計測装置8によって得られた各センサプラットフォームボード32内の磁気センサ素子の相対位置関係に基いて、演算装置5’’が、前述のようにして各磁気センサ素子の計測結果を磁場解析することで、前記頭部21内に生じた微弱電流による脳磁図を作成する。
【0091】
本実施の形態では、続いて、ステップS6において、前記演算装置5’’が、断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像における特徴点(マーカ)と、前記3次元計測装置8’’によって得られた特徴点(マーカ)とを一致させることで、該演算装置5’’によって得られた前記脳磁図を、前記断層撮影装置9によって得られた3次元断層画像に合成する。
【0092】
このように構成することで、前記各磁気センサ素子間の相対位置関係に加えて、生体と磁気センサ素子との間の相対位置関係、たとえば前記脳モデルに対する磁気センサ素子の空間的な位置情報を正確に計測し、高精細な磁気測定を可能にすることができる。特に、脳磁計測の場合に有効であり、それは、脳の形状も機能割付けの際には重要になるためである。たとえば、測定部位が脳の場合、実際の脳の様子を知るためには、空間の分解能が3mmの精度で測定することが求められているが、本実施の形態では、いわゆる標準脳モデルによる解析ではなく、CTスキャンやMRIを用いた実際の被験者2の3次元断層画像を用いるので、この精度を達成することができる。
【0093】
なお、図18において、ステップS1,S2’を行った後、ステップS01,S02を行ってもよい。その場合は、断層撮影によっても、各センサプラットフォームボード32の位置測定を行うことができる。また、光学式3次元計測装置8’’を用いず、CTスキャンなどの断層撮影装置9によって同時に磁気センサ素子の位置と被験者2の位置とを測定することで、CTスキャン情報に磁気センサ素子もしくはセンサプラットフォームボード32の情報が得られるので、磁気センサ素子と人体との位置計測と、生体磁気計測とを連続的に行うことができ、正確な3次元情報として情報をリンクできる。また、光学式3次元計測装置8’’で撮像された3次元画像を、さらに合成するようにしてもよい。
【0094】
上述の例では、各センサプラットフォームボード32間の相対位置測定を行う3次元計測装置8,8’’としては、ステレオカメラ81を用いた光学式の3次元計測装置を用いており、好適であるが、それに限定されるものではなく、たとえばレーザスキャニングや磁気を利用する方法がある。
【0095】
先ず、前記光学式の3次元計測装置8,8’’において、撮像対象である各センサプラットフォームボード32と生体(頭部21)との判別には、各センサプラットフォームボード32の形状が用いられる。各センサプラットフォームボード32の外形が直方体をしていることから、この外側に向いた4つの頂点から各センサプラットフォームボード32の位置が特定される。その場合、各センサプラットフォームボード32と生体との見分けを補助する方法として、各センサプラットフォームボード32の背面に、球状のマーカを付ける、色を付ける、蛍光塗料を塗る、或いは反射率の異なるマーカを付けるなどの方法が挙げられ、たとえば文献(KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.6(2009) 阿部、山口、河野、向井 非接触3次元デジタイザRANGE7のコア技術)に示されている。
【0096】
一方、前記レーザスキャニングにおいても、各センサプラットフォームボード32にマーカを付与しておき、このマーカを検知することで、簡便および/または精密に位置測定を行うことができる。この場合には、被験者自身にもマーカを装着させることも可能である。
【0097】
また、各センサプラットフォームボード32の位置を測定する別法として、磁気を利用する方法がある。その方法は、磁気シールドで磁場遮蔽された磁気無音空間内に、測定者が任意の磁気発生源を設置し、その磁気の強度の比率などを各センサプラットフォームボード32で測定し、磁場発生源との相対位置を計算することによって、前記各センサプラットフォームボード32間の相対位置を測定するものである。この方法においては種々バリエーションがあり、磁気発生源を複数もつもの、磁気発生源を移動させるもの、磁気発生源を同一箇所で回転させるもの、電磁石などで磁界をOn・Offするもの、これらを複数組合わせた方法などが挙げられるが、本実施の形態ではこれらいずれの方法で計測しても構わない。
【0098】
さらにまた、各センサプラットフォームボード32は、被験者2の頭部21の形状、測定の都合などで必ずしも同じ場所には固定されないので、上述のようにして3次元計測装置8,8’’によって相対位置が測定されるのであるが、支持部材31,31’が所定の厚みおよび硬さを有するゴムなどの皺になり難い材料から成り、各センサプラットフォームボード32間の相対位置関係に狂いが生じ難い場合は、必ずしも総てのセンサプラットフォームボード32の位置関係を測定する必要はない。
【0099】
また、各センサプラットフォームボード32は、支持部材31,31’に搭載されず、生体に個別に貼付けられてもよい。その場合、センサプラットフォームボード32そのものを粘着性をもったシートを介して生体に張り付ける方法、吸盤によって貼り付ける方法等が考えられる。また、センサユニット3,3’としても、支持部材31,31’にアダプタやホルダを設け、被験者2が該支持部材31,31’を被ってから、各センサプラットフォームボード32を取付けるようにしてもよい。このように、センサプラットフォームボード32の生体への被着方法については、特に限定するものではない。
【0100】
前記アダプタやホルダを用いる場合、センサプラットフォームボード32そのものの位置を測定する代わりに、前記アダプタやホルダの位置を測定し、センサプラットフォームボード32の位置を、それらのアダプタやホルダの位置と略同一もしくはアダプタやホルダの位置から所定値だけずれた推定位置としてもよい。
【0101】
本実施の形態では、磁気センサ素子すべての位置と被験者2との位置関係を完全に計測することのみを重要とするのではなく、生体に密着できる磁気センサ素子を用いることによる高感度化と、磁気センサ素子の固定、磁気センサ素子と被験者2との相対位置情報取得による脳磁読影の高精度化、易読化を達成することを目的としている。このことから、本実施の形態では磁気センサ素子の位置すべてを測定せず、被験者2との位置関係に、上述のように磁気センサ素子の推定位置を利用することを否定しない。
【0102】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ充分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を著しく逸脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0103】
1,1’;1a,1a’;1’’ 生体磁気計測装置
2 被験者
21 頭部
22 目
26 胸部
27 腹部
28 心臓
3,3’ センサユニット
301,302 磁気検出素子
3011,3021 磁化容易軸
3012,3022 磁化固定軸
31,31’ 支持部材
32 センサプラットフォームボード
321 TMRアレイモジュール
322 コントローラ
323 RAM
324 増幅・変換回路
34 固定具
3a’,3b’ 部材
4,4’ 被覆部材
5,5’’ 演算装置
6 インタフェイス
61 PCI・バス・コントローラ
62 コマンド変換・バッファ・コントローラ
63 SRAM
64 シリアルインタフェイスドライバ
7 ケーブル
71 電源線
72 信号線
8,8’’ 3次元計測装置
81 ステレオカメラ
82 I/F
83,83’’ 位置測定部
831,831’’ 特徴点抽出部
832 位置計測部
84,84’’ 合成部
841 位置情報統合部
842,842’’ 特徴点照合部
89 心拍周期を検出する装置
9 断層撮影装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に被着される複数の磁気センサと、
前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係を計測する3次元計測装置と、
前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集する計測装置本体とを含むことを特徴とする磁気計測装置。
【請求項2】
前記測定対象とする生体の3次元断層画像を撮影する断層撮影装置をさらに備え、
前記計測装置本体は、前記断層撮影装置によって得られた前記3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成することを特徴とする請求項1記載の磁気計測装置。
【請求項3】
前記複数の磁気センサは、柔軟な材料から成る支持部材に搭載されることを特徴とする請求項2記載の磁気計測装置。
【請求項4】
前記支持部材は、頭巾またはヘルメットの形状を呈していることを特徴とする請求項3記載の磁気計測装置。
【請求項5】
前記支持部材は、胴部を覆う筒状体であることを特徴とする請求項3記載の磁気計測装置。
【請求項6】
前記計測装置本体による磁気センサからの信号の取り込みのタイミングが、心拍周期における同位相のタイミングであることを特徴とする請求項5記載の磁気計測装置。
【請求項7】
前記生体に被着された磁気センサ上を覆い、外部磁場からシールドする被覆部材をさらに備えることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項8】
前記磁気センサは、
強磁性体を用い、相互に等しい一対の磁気検出素子と、出力端とを有する磁気センサであって、
前記一対の磁気検出素子は、その磁化容易軸の方向が検出磁束に対して直交し、かつ互いの磁化容易軸が直交するように、前記検出磁束の方向に互いに間隔を開けて配置され、
前記出力端は、前記一対の磁気検出素子の検出結果の差分を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項9】
生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集する生体磁気計測方法において、
断層撮影装置によって前記生体の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像から特徴点を検出するステップと、
前記微弱電流による磁界を検出する磁気センサを前記生体に複数被着するステップと、
3次元計測装置によって前記生体に被着された各磁気センサ間の相対位置関係および前記特徴点を計測するステップと、
前記各磁気センサによって前記磁界を検出するステップと、
前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、計測装置本体が、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集するステップと、
前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、前記計測装置本体が、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成するステップとを含むことを特徴とする生体磁気計測方法。
【請求項1】
測定対象に被着される複数の磁気センサと、
前記測定対象に被着された各磁気センサ間の相対位置関係を計測する3次元計測装置と、
前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記測定対象内に生じた微弱電流に関する情報を収集する計測装置本体とを含むことを特徴とする磁気計測装置。
【請求項2】
前記測定対象とする生体の3次元断層画像を撮影する断層撮影装置をさらに備え、
前記計測装置本体は、前記断層撮影装置によって得られた前記3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成することを特徴とする請求項1記載の磁気計測装置。
【請求項3】
前記複数の磁気センサは、柔軟な材料から成る支持部材に搭載されることを特徴とする請求項2記載の磁気計測装置。
【請求項4】
前記支持部材は、頭巾またはヘルメットの形状を呈していることを特徴とする請求項3記載の磁気計測装置。
【請求項5】
前記支持部材は、胴部を覆う筒状体であることを特徴とする請求項3記載の磁気計測装置。
【請求項6】
前記計測装置本体による磁気センサからの信号の取り込みのタイミングが、心拍周期における同位相のタイミングであることを特徴とする請求項5記載の磁気計測装置。
【請求項7】
前記生体に被着された磁気センサ上を覆い、外部磁場からシールドする被覆部材をさらに備えることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項8】
前記磁気センサは、
強磁性体を用い、相互に等しい一対の磁気検出素子と、出力端とを有する磁気センサであって、
前記一対の磁気検出素子は、その磁化容易軸の方向が検出磁束に対して直交し、かつ互いの磁化容易軸が直交するように、前記検出磁束の方向に互いに間隔を開けて配置され、
前記出力端は、前記一対の磁気検出素子の検出結果の差分を得ることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気計測装置。
【請求項9】
生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集する生体磁気計測方法において、
断層撮影装置によって前記生体の3次元断層画像を撮像し、その撮像画像から特徴点を検出するステップと、
前記微弱電流による磁界を検出する磁気センサを前記生体に複数被着するステップと、
3次元計測装置によって前記生体に被着された各磁気センサ間の相対位置関係および前記特徴点を計測するステップと、
前記各磁気センサによって前記磁界を検出するステップと、
前記3次元計測装置によって得られた各磁気センサ間の相対位置関係に基いて、計測装置本体が、前記各磁気センサの計測結果を磁場解析することで、前記生体内に生じた微弱電流に関する情報を収集するステップと、
前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像における特徴点と、前記3次元計測装置によって得られた特徴点とを一致させることで、前記計測装置本体が、該計測装置本体によって得られた前記微弱電流に関する情報を、前記断層撮影装置によって得られた3次元断層画像に合成するステップとを含むことを特徴とする生体磁気計測方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図3】
【図4】
【図17】
【図19】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図3】
【図4】
【図17】
【図19】
【公開番号】特開2012−152514(P2012−152514A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16700(P2011−16700)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
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