説明

磁気記録媒体、磁気記録媒体の製造方法、磁気記憶装置、および電子機器

【課題】本件は、基板上に磁気記録層が形成された磁気記録媒体等に関し、ノイズを増加させることなく、分解能、オーバーライト特性の改善を図る。
【解決手段】磁性体と酸化物とを組成物とする第1の記録層218と、第1の記録層218上に積層された非磁性層219と、非磁性層219の上に積層された、磁性体と酸化物とを組成物とし、酸化物の比率が第1の記録層218における酸化物の比率よりも低い第2の記録層220と、上記第2の記録層220の上に積層された、磁性体からなり実質的に酸化物を含まない第3の記録層221とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、基板上に磁気記録層が形成された磁気記録媒体、その磁気記録媒体の製造方法、その磁気記録媒体を利用した磁気記憶装置、およびその磁気記憶装置を利用した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置等の磁気記憶装置ではトンネル型磁気抵抗素子を使用した再生ヘッドの適用や垂直磁気記録方式の採用により著しく記録密度が増大している。
【0003】
この垂直磁気記録媒体のさらなる高密度化を図るためには、磁気記録媒体の記録反転磁界を低減する必要がある。その打開策の一つとしてExchange Coupled Composite媒体(ECC媒体)技術が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ECC媒体技術とは、高Hk(異方性磁界)磁性記録層と低Hk磁性記録層を非磁性金属からなる交換結合力制御層で分断し、両磁性記録層間の結合力を制御することで、媒体の記録反転磁界を低減する技術である。
【0005】
しかしながら、ECC媒体技術を採用しても、更なる高記録密度化のためには磁気記録媒体の低ノイズ化が必要である。そのためには磁気記録媒体に用いられる磁性薄膜の微結晶化や結晶粒子間の磁気的な結合を低減させる必要がある。しかし、磁性粒子の微細化および磁気的な孤立化は熱擾乱に対する安定性を失い、記録磁化の方向を保つことが出来なくなるという問題がある。一方で、熱擾乱に対して十分に安定な磁気エネルギーを有する材料を用いると、記録磁化を書込む際の記録ヘッドからの外部磁界では磁化反転を行うことができずに、記録の書込みが出来ないという問題がある。磁気記録媒体の低ノイズ化を進めるにあたっては、これらの問題を発生させることなく、磁性粒子の磁気的な孤立化を促進させる必要がある。
【特許文献1】特開2006−209943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件開示の磁気記録媒体等の課題は、ノイズを増加させることなく分解能、オーバーライト特性の改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件開示の磁気記録媒体は、基板上に磁気記録層が形成された磁気記録媒体であって、
上記磁気記録層が、
磁性体と酸化物とを組成物とする第1の記録層と、
上記第1の記録層上に積層された非磁性層と、
上記非磁性層上に積層された、磁性体と酸化物とを組成物とし、酸化物の比率が第1の記録層における酸化物の比率よりも低い第2の記録層と、
上記第2の記録層上に積層された、磁性体からなり酸化物を含まない第3の記録層とを有する磁気記録媒体である。
【0008】
また、本件開示の磁気記録媒体の製造方法は、
基板上に、磁性体と酸化物とを組成物とする第1の記録層を積層し、
第1の記録層上に非磁性層を積層し、
非磁性層上に、磁性体と酸化物とを組成物とし、酸化物の比率が第1の記録層における酸化物の比率よりも低い第2の記録層を積層し、
第2の記録層上に、磁性体からなり酸化物を含まない第3の記録層を積層する磁気記録媒体の製造方法である。
【0009】
また、本件開示の磁気記憶装置は、本件開示の磁気記録媒体と、その磁気記録媒体に対し情報の書込み及び読出しを行なう磁気ヘッドとを備えた磁気記憶装置である。
【0010】
さらに本件開示の電子機器は、本件開示の磁気記憶装置が搭載されている電子機器である。
【発明の効果】
【0011】
本件開示の磁気記録媒体によれば、ノイズを増加させることなく、分解能、オーバーライト特性の改善が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本件の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本件の電子機器の一例としてのノート型パーソナルコンピュータ(以下、ノートPCと称する)の外観斜視図である。
【0014】
このノートPCには、本体ユニット11と表示ユニット12が備えられている。表示ユニット12は、ヒンジ13により本体ユニット11に開閉自在に取り付けられている。本体ユニット11の上面にはキーボード111等が備えられており、内部には、演算処理を行なうCPU(図示省略)や、磁気記憶装置の一例である磁気ディスク装置100などが備えられている。一方、表示ユニット12には、その前面に表示画面121が備えられており、そこには本体ユニット11からの指示に応じた画像が表示される。
【0015】
図2は、磁気記憶装置の一例である磁気ディスク装置を示す図である。
【0016】
この図1に示す磁気ディスク装置100のハウジング101内には、回転軸102の回りに回転する磁気ディスク媒体200が備えられている。また、このハウジング101内には、磁気ディスク媒体200に対して情報記録と情報再生とを行なう磁気ヘッド103を先端に保持したアーム104が備えられている。このアーム104は、アーム軸105に固定され、アーム軸105を中心に磁気ディスク媒体200の表面に沿って移動する。このアーム軸105は、アームアクチュエータ106によって駆動される。
【0017】
磁気ディスク媒体200に対する情報の記録や再生に当たっては、アームアクチュエータ106によってアーム104が駆動されて、磁気ヘッド103が、回転する磁気ディスク媒体200上の所望のトラック210に位置決めされる。この磁気ヘッド103は、磁気ディスク媒体200の回転に伴って、磁気ディスク媒体200の各トラック210に近接する。情報の記録時には、磁気ヘッド103に電気的な記録信号が入力され、磁気ヘッド103により、その記録信号に応じた磁界が印加されて、その記録信号に担持された情報が記録される。また、情報の再生時には、磁気ヘッド103によって、磁気ディスク媒体200に記録された情報が、発生する磁界の向きに応じた電気的な再生信号として取り出される。
【0018】
ここでは、磁気ディスク媒体200の層構造に着目しており、以下では、この磁気ディスク媒体200について説明する。
【0019】
図3は、磁気記録媒体の一実施形態としての磁気ディスク媒体の層構造を示す図である。
【0020】
ここには、非磁性基板211上に、第1の軟磁性下地層212、Ru層213、第2の軟磁性下地層214、Ni系合金中間層215、Ru中間層216、CoCr−酸化物層217、第1の記録層218、非磁性層219、第2の記録層220、第3の記録層221、および保護層222がこの順に積層されている。ここで、本実施形態は、第1の記録層218から第3の記録層221の構造に特徴があり、それより下層の部分(非磁性基板211上に順にCoCr−酸化物層217まで積層された部分)が本件にいう「基板」の一例に相当する。また、第1の記録層218から第3の記録層221までが本件にいう「磁気記録層」の一例に相当する。ここでは、本実施形態の特徴部分である第1の記録層218から第3の記録層221について説明する。
【0021】
第1の記録層218は、Co基合金と、Ti、SiおよびCoの3種類の元素それぞれの主酸化物とを組成物とし、主酸化物の合計が12mol%以上14mol%以下の層である。
【0022】
また、非磁性層219は、Ru、又はRu基合金からなる層である。
【0023】
また、第2の記録層220は、Co基合金と、Ti、SiおよびCoの3種類の元素それぞれの主酸化物とを組成物とし、主酸化物の合計が第1の記録層218における主酸化物の合計と比べ0.5mol%以上3.0mol%以下低い層である。
【0024】
さらに、第3の記録層221は、Co基合金からなり実質的に酸化物を含まない層である。
【0025】
ここで、第1の記録層218、第2の記録層220、第3の記録層221の磁気異方性磁界強度を、それぞれ、Hk,Hk,およびHkとしたとき、Hk>Hk、かつ、Hk>Hkの関係を満たす。また、非磁性層219を挟んで積層された、第1の記録層218と、第2および第3の記録層220,221との間に強磁性の交換結合が作用し、外部磁界に対し一斉に磁化反転が生じる。
【0026】
本実施形態では、第1および第2の記録層218,220はTiOとSiOならびにCoOを複合化した酸化物を用いている。さらに、それら第1および第2の記録層218,220を非磁性層219で分断することで低ノイズ化を行っている。複数の酸化物を混合することで磁性粒子の磁気的な分離を促進し、材料の保磁力を増加させるとともに磁気記録媒体の低ノイズ化を行うことができる。また、Hcが増加することで磁気ディスク媒体200の被ライト性が低下することに関しては第1の記録層218と第2および第3の記録層220,221を非磁性層219で隔てることで磁化反転磁界を制御することが可能となる。これにより、磁気ヘッドによる磁気ディスク媒体の磁化反転磁界の制御を可能としている。また、酸化物量は材料の飽和磁化Msを変化させる。すなわち、孤立化のために酸化物量を増加させると、Msの低下と記録層の膜厚を増加させることに繋がる。これは分解能やオーバーライト特性の劣化要因となる。このため、積層させた酸化物を含む記録層の酸化物量を調整し磁気ヘッドに近接する層の酸化物を低減させることで、ノイズを増加させることなく分解能、オーバーライト特性の改善を図っている。すなわち、積層させた記録層の酸化物量について上層側の酸化物量を低減させることでエラーレートの劣化無く、分解能、オーバーライト特性の改善を可能としている。
【0027】
以下、この磁気記録層(第1の記録層218から第3の記録層221)についてさらに具体的に説明する。
【0028】
第1および第2の記録層218,220は、いずれもCo基合金(ここでは、Co72CrPt19(CoCrPt(9−19)と表記する))と、TiO,SiO,CoOの3種類の酸化物を組成物とする層である。第3の記録層221は、Co基合金のみであり、酸化物は実質的に含まれていない。第1、第2、および第3の膜厚は、それぞれ、6mm,4mm,5mmである。
【0029】
磁気ディスク媒体の場合、信号出力は記録層の膜厚tと飽和磁束密度Bsの積t・Bsに比例するが、これらの層のt・Bsの比率は第1,第2および第3の記録層118,120,121に対してそれぞれ5:2:3の比率となるように作成されている。このような層構成において第1および第2の記録層218,220の酸化物量を変化させた磁気ディスク媒体を4種類作成し電磁変換特性の評価を行った。
【0030】
それぞれの磁気ディスク媒体について第1および第2の記録層218,220の酸化物量比を表1に示す。
【0031】
表1は、記録層に含まれる酸化物に含まれる酸化物種と分子量濃度(mol%)を示す表である。
【0032】
【表1】

【0033】
各酸化物の添加量としてサンプルAでは上層と下層の酸化物量を等しくしており、サンプルBでは上層側の酸化物量を0.5mol%低減させたサンプルであり、サンプルCは上層側の酸化物を3mol%低減させている。またサンプルDでは、上層側酸化物量を1.0mol%増加させている。
【0034】
表2に各磁気ディスク媒体の記録層各層の磁気異方性磁界(Hk)を示す。
【0035】
【表2】

【0036】
サンプルAからDのいずれにおいても第1、第2および第3の記録層218,220,221の順にHkを低減させている。サンプルA,Dは、サンプルB,Cと比べ第1の記録層218のHkが低い媒体となっており、サンプルBとサンプルCでは第3の記録層のHkに差があり、磁気ディスク媒体としてのHkはサンプルCが最も高い媒体となっている。
【0037】
表3は保磁力(Hc)と各種電磁変換特性を示した表である。
【0038】
【表3】

【0039】
この表3から、各磁気ディスク媒体ともほぼ同等のHcとなっていることがわかる。各磁気ディスク媒体の電磁変換特性を比較すると、以下の特徴がみえる。
(1)分解能
各サンプルとも膜厚tと飽和磁束密度(Bs)の積は同等としている。分解能はHcが同等である一方で、第2の記録層の酸化物量を低減させていくことによりA,B,Cの順に高くなり改善していることがわかる。サンプルDについては、表1に示すように、第2の記録層の酸化物量が第1の記録層の酸化物量を上回っており、分解能はサンプルAからD中で最低である。
(2)オーバーライト特性
オーバーライト特性はHcおよびHkに依存して特性が変化する。特に前述のようにt・Bsが3層の中で最も高い第1の記録層118のHkは磁化反転に大きく影響を及ぼす。第1の記録層118のHkが高い磁気ディスク媒体としてはサンプルBとサンプルCであるが、それぞれの磁気ディスク媒体を比較すると第2の記録層120の酸化物低減量が大きいサンプルCのオーバーライト特性が良化していることがわかる。
(3)VMM(エラーレート)特性
VMMに関してはサンプルDと比較してサンプルA,B,Cともに改善が確認できる。サンプルAに対してサンプルBはVMMが劣化しているが、これは第1の記録層のHkが高く媒体の被ライト性(オーバーライト特性)が低いことが原因である。一方で同様のオーバーライト特性を持つサンプルAとサンプルCを比較すると第2の記録層の酸化物を低減させたサンプルCのVMMが改善していることがわかる。
【0040】
一方で磁性膜の酸化物量については最適な範囲が存在する。表4は酸化物を複合化した材料の磁気特性を示したものである。
【0041】
【表4】

【0042】
また、図4は、TiO+SiOの酸化物量(mol%)に対するHc(Oe)を示した図である。
【0043】
図4のように酸化物を複合化した材料にて磁性粒子の磁気的な分離改善によるHcの向上が確認できる。また2種類の酸化物を複合化したもの(第一例)よりも3種類の酸化物を複合化したもの(第二例)の方がHcの更なる向上が認められる。
【0044】
実験範囲は酸化物の総量で12mol%から14mol%となっている。またこの材料は実施形態の第1の記録層118に対応する材料である。
【0045】
以上、ここでは電子機器の一例としてノートPCを示したが、本件は、ノートPCにのみ適用されるものではなく、磁気記憶装置が搭載された電子機器全般に適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ノートPCの外観斜視図である。
【図2】磁気ディスク装置を示す図である。
【図3】磁気ディスク媒体の層構造を示す図である。
【図4】TiO+SiOの酸化物量(mol%)に対するHc(Oe)を示した図である。
【符号の説明】
【0047】
10 ノートPC
11 本体ユニット
12 表示ユニット
13 ヒンジ
100 磁気ディスク装置
101 ハウジング
102 回転軸
103 磁気ヘッド
104 アーム
105 アーム軸
106 アームアクチュエータ
111 キーボード
200 磁気ディスク媒体
211 非磁性基板
218 第1の記録層
219 非磁性層
220 第2の記録層
221 第3の記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁気記録層が形成された磁気記録媒体であって、
前記磁気記録層が、
磁性体と酸化物とを組成物とする第1の記録層と、
前記第1の記録層上に積層された非磁性層と、
前記非磁性層上に積層された、磁性体と酸化物とを組成物とし、酸化物の比率が前記第1の記録層における酸化物の比率よりも低い第2の記録層と、
前記第2の記録層上に積層された、磁性体からなり酸化物を含まない第3の記録層とを有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第1の記録層が、Co基合金と、Ti、SiおよびCoの3種類の元素それぞれの主酸化物とを組成物とし、該主酸化物の合計が12mol%以上14mol%以下の層であることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記非磁性層が、Ru、又はRu基合金からなる層であることを特徴とする請求項1又は2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第2の記録層が、Co基合金と、Ti、SiおよびCoの3種類の元素それぞれの主酸化物とを組成物とし、該主酸化物の合計が前記第1の記録層における該主酸化物の合計と比べ0.5mol%以上3.0mol%以下低い層であることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第3の記録層が、Co基合金からなり酸化物を含まない層であることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記第1の記録層、前記第2の記録層、および前記第3の記録層の磁気異方性磁界強度を、それぞれ、Hk,Hk,およびHkとしたとき、Hk>Hk、かつ、Hk>Hkの関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記非磁性層を挟んで積層された、前記第1の記録層と、前記第2および第3の記録層との間に強磁性の交換結合が作用し、外部磁界に対し一斉に磁化反転が生じるものであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項1から6のうちのいずれか1項記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体に対し情報の書込み及び読出しを行なう磁気ヘッドとを備えたことを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項9】
請求項8記載の磁気記憶装置が搭載されていることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
基板上に、磁性体と酸化物とを組成物とする第1の記録層を積層し、
前記第1の記録層上に非磁性層を積層し、
前記非磁性層上に、磁性体と酸化物とを組成物とし、酸化物の比率が前記第1の記録層における酸化物の比率よりも低い第2の記録層を積層し、
前記第2の記録層上に、磁性体からなり酸化物を含まない第3の記録層を積層することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−123196(P2010−123196A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296206(P2008−296206)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】