説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】磁性層中の磁性体の分散性が高く、優れた電磁変換特性および優れた耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】非磁性支持体上に強磁性粉末および水溶性放射線硬化樹脂を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法。前記強磁性粉末、水溶性放射線硬化型化合物、および水を含む磁性層塗布液を調製し、前記磁性層塗布液を前記非磁性支持体上に塗布して乾燥させ、放射線照射によって前記水溶性放射線硬化型化合物を架橋重合させて前記水溶性放射線硬化樹脂を形成する。非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体。前記結合剤は、水溶性放射線硬化樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録用磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
録音用テープ、ビデオテープ、あるいはフロッピーディスク等として広く用いられている磁気記録媒体は、強磁性粉末が結合剤中に分散された磁性層を、非磁性支持体上に積層して構成されている。磁気記録媒体は、電磁変換特性、走行耐久性および走行性能などの諸特性において高いレベルにあることが要求される。
【0003】
優れた電磁変換特性および走行耐久性を得るために、例えば、特許文献1には、大容量かつ高記録密度の塗布型磁気記録媒体として、微粒子のメタル磁性体を結合剤で分散した薄層磁性層を、非磁性層上に設けた媒体が提案されている。しかし、近年の更なる高密度化に伴い、磁性体はますます微粒子化する傾向にある。
【0004】
しかるに、極めて微粒子の磁性体は、分散性が悪く凝集しやすい。従来一般に、磁気記録媒体では、非水系結合剤が使用されていたが、磁性体と非水系結合剤を有機溶媒に分散させて得られた磁性層塗布液は、乾燥時に乾燥凝集を起こし磁気的な凝集体を形成する。このことが、磁気記録媒体の高密度化を一層困難にしていた。
【0005】
一方、水系の微粒子分散系では、静電反発を利用した凝集低減技術が広く知られている。そこで、磁気記録媒体の結合剤として水溶性の樹脂を使用して、静電反発を利用して磁性体の乾燥凝集を低減することが考えられる。しかし、磁気記録媒体の結合剤として水溶性の樹脂を使用すると、水分により塗膜が可塑化されて媒体表面が柔らかくなり、摺動特性が劣化すると考えられる。そのため、磁気記録媒体の結合剤として水溶性の樹脂を使用することは行われていなかった。
【特許文献1】特開平11−259850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、磁性層中の磁性体の分散性が高く、優れた電磁変換特性および優れた耐久性を有する磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。前述のように、磁性層の結合剤として水溶性樹脂を使用すれば、静電反発によって磁性体の乾燥凝集が低減されることが期待されるが、塗膜耐久性が劣化すると考えられる。そこで、本発明者らは更に検討を重ねた結果、放射線硬化型の水溶性樹脂を使用することにより、放射線照射によって塗膜の耐久性を高めることができるため、優れた電磁変換特性と優れた耐久性を兼ね備えた磁気記録媒体が得られることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成された。
即ち、上記本発明の目的を達成する手段は、以下の通りである。
[請求項1]非磁性支持体上に強磁性粉末および水溶性放射線硬化樹脂を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記強磁性粉末、水溶性放射線硬化型化合物、および水を含む磁性層塗布液を調製し、
前記磁性層塗布液を前記非磁性支持体上に塗布して乾燥させ、
放射線照射によって前記水溶性放射線硬化型化合物を架橋重合させて前記水溶性放射線硬化樹脂を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[請求項2]前記磁性層塗布液が、絶対値で50mV以下のゼータ電位を示す、請求項1に記載の方法。
[請求項3]前記水が、前記磁性層塗布液が絶対値で50mV以下のゼータ電位を示すpHを有する、請求項1または2に記載の方法。
[請求項4]非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記結合剤は、水溶性放射線硬化樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
[請求項5]前記強磁性粉末が、平均粒径10〜35nmの六方晶フェライトまたは平均長軸長20〜50nmの強磁性金属粉末である、請求項4に記載の磁気記録媒体。
[請求項6]前記磁性層の厚みが0.01〜0.2μmの範囲である、請求項4または5に記載の磁気記録媒体。
[請求項7]前記磁性層の表面粗さは2.5nm以下である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた電磁変換特性と耐久性を兼ね備えた、高密度記録に好適な磁気記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について更に詳細に説明する。

[磁気記録媒体の製造方法]
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体上に強磁性粉末および水溶性放射線硬化樹脂を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記強磁性粉末、水溶性放射線硬化型化合物、および水を含む磁性層塗布液を調製し、前記磁性層塗布液を前記非磁性支持体上に塗布して乾燥させ、放射線照射によって前記水溶性放射線硬化型化合物を架橋重合させて前記水溶性放射線硬化樹脂を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明において使用される水溶性放射線硬化型化合物は、水に可溶性であり、放射線の照射により架橋重合する化合物である。
水溶性放射線硬化型化合物としては、一般に塗布型磁気記録媒体において結合剤として用いられている樹脂の基本骨格に、水に可溶性となる量の極性官能基を共重合または付加反応によって導入し、更に、例えばアクリレート化またはメタクリレート化して放射線硬化性官能基を導入したものを用いることができる。例えば、水に可溶性となる量の極性官能基および放射線硬化性官能基を導入した公知の熱可塑性樹脂、例えば、塩ビ酢ビ系共重合体、繊維素系樹脂、アセタール系樹脂、塩ビ−塩化ビニリデン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエン樹脂等を用いることができる。
【0011】
水溶性放射線硬化型化合物が含有する極性官能基としては、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(ここで、Mは水素原子またはアルカリ金属を示す)、−OH、−NR2、−N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、−SH、−CNを挙げることができる。本発明で使用される水溶性放射線硬化型化合物は、上記の極性官能基の少なくとも1つを共重合または付加反応で導入したものであることができる。本発明で使用される水溶性放射線硬化型化合物は、このような極性官能基を水に可溶性となる量で含むものであることができ、その量は、化合物の質量に対して、例えば0.5mmol/g以上であり、好ましくは0.5〜2mmol/g、より好ましくは0.7〜1.2mmolモル/gである。
【0012】
放射線硬化性官能基としては、アクリロイル基およびメタクロイル基を用いることが好ましい。放射線硬化性官能基は、公知のアクリレート化またはメタクリレート化によって導入することができる。本発明で使用される水溶性放射線硬化型化合物中の放射線硬化性官能基の含有量は、0.01〜20mmol/gであることが好ましく、0.5〜10mmol/gであることが更に好ましい。放射線硬化性官能基の含有量が上記範囲内であれば、高密度の架橋を形成し、塗膜強度を高め、走行耐久性を向上させることができる。
【0013】
本発明において、水溶性放射線硬化型化合物としては、水に可溶性となる量の極性官能基を含有する、分子中に2コ以上の放射線官能性二重結合を有する化合物であるアクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸アミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類などを用いることができる。中でも、2官能以上のアクリレート化合物、メタクリレート化合物を用いることが好ましい。
【0014】
2官能のアクリレート化合物、メタクリレート化合物の具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレートなどに代表される脂肪族ジオールにアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものを用いることができる。
【0015】
またポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオールにアクリル酸、メタクリル酸を付加したポリエーテルアクリレート、ポリエーテルメタクリレートや公知の二塩基酸、グリコールから得られたポリエステルポリオールにアクリル酸、メタクリル酸を付加させたポリエステルアクリレート、ポリエステルメタクリレートも用いることができる。
【0016】
公知のポリオール、ジオールとポリイソシアネートを反応させたポリウレタンにアクリル酸、メタクリル酸を付加させたポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレートを用いてもよい。ビスフェノールA、ビスフェノールF、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールFやこれらのアルキレンオキサイド付加物にアクリル酸、メタクリル酸を付加させたものやイソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性ジアクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性ジメタアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートなどの環状構造を有するものも用いることができる。
【0017】
3官能基のアクリレート化合物、メタクリレート化合物の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリアクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ヒドロシキピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリメタクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ヒドロシキピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリメタクリレートなどを用いることができる。
【0018】
4官能以上のアクリレート化合物、メタクリレート化合物の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサアクリレートなどを用いることができる。
【0019】
具体例として好ましいものは分子量200〜2000の3官能以上のアクリレート化合物である。更に好ましいものはトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、イソシアヌル酸のエチレンオキサイド変性トリアクリレ−トである。またこれらの化合物は任意の割合で混合して使用することができるとともに「低エネルギー電子線照射の応用技術(2000年 (株)シーエムシー発行)」、「UV・EB硬化技術(1982年 (株)総合技術センター発行)」などに記載されている公知の1官能アクリレートまたはメタクリレート化合物を併用してもよい。
【0020】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上記水溶性放射線硬化型化合物と強磁性粉末を水に混合して磁性層塗布液を調製する。ここで、水溶性放射線硬化型化合物は、一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
磁性層塗布液中の水溶性放射線硬化型化合物の含有量は、強磁性粉末1000gに対して20〜400、好ましくは100〜300gとすることができる。上記範囲で水溶性放射線硬化型化合物を使用して放射線照射により架橋重合することによって、高い塗膜強度を有する磁性層を形成することができる。
【0022】
本発明では、前述の水溶性放射線硬化型化合物に加えて、水溶性樹脂を磁性層に使用することもできる。併用可能な水溶性樹脂としては、一般に塗布型磁気記録媒体において結合剤として用いられている樹脂の基本骨格に、水に可溶性となる量の極性官能基を共重合または付加反応によって導入したものを挙げることができる。例えば、水に可溶性となる量の極性官能基導入した公知の熱可塑性樹脂、例えば、塩ビ酢ビ系共重合体、繊維素系樹脂、アセタール系樹脂、塩ビ−塩化ビニリデン系樹脂、ウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエン樹脂等を用いることができる。併用される水溶性樹脂中の極性基含有量は、先に水溶性放射線硬化型化合物について述べた通りである。磁性層に使用される水溶性放射線硬化型化合物と水溶性樹脂との割合は、質量基準で前者:後者=5:0〜1:4とすることができる。水溶性放射線硬化型化合物と水溶性樹脂とを併用する場合、磁性層中の両者の合計量は、強磁性粉末1000gに対して100〜300gとすることができる。
【0023】
前記強磁性粉末は、強磁性金属粉末または六方晶フェライト粉末であることが好ましい。強磁性金属粉末としては、α−Feを主成分とする強磁性合金粉末を用いることが好ましい。これらの強磁性金属粉末には所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、Bなどの原子を含んでもかまわない。特に、Al、Si、Ca、Y、Ba、La、Nd、Sm、Co、Ni、Bの少なくとも1つをα−Fe以外に含むことが好ましく、Co、Y、Al、Nd、Smの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。Coの含有量は、Feに対して0〜40原子%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜35原子%、より好ましくは20〜35原子%である。Yの含有量は、1.5〜12原子%であることが好ましく、さらに好ましくは3〜10原子%、より好ましくは4〜9原子%である。Alの含有量は、Feに対して1.5〜30原子%であることが好ましく、さらに好ましくは5〜20原子%、より好ましくは8〜15原子%である。
【0024】
これらの強磁性金属粉末には、後に述べる分散剤、潤滑剤、界面活性剤、帯電防止剤などで分散前にあらかじめ処理を行ってもかまわない。具体的には、特公昭44−14090号公報、特公昭45−18372号公報、特公昭47−22062号公報、特公昭47−22513号公報、特公昭46−28466号公報、特公昭46−38755号公報、特公昭47−4286号公報、特公昭47−12422号公報、特公昭47−17284号公報、特公昭47−18509号公報、特公昭47−18573号公報、特公昭39−10307号公報、特公昭46−39639号公報、米国特許第3026215号、同3031341号、同3100194号、同3242005号、同3389014号などに記載されている。
【0025】
強磁性金属粉末には少量の水酸化物、または酸化物が含まれてもよい。強磁性金属粉末は、公知の製造方法により得られたものを用いることができる。そのような方法としては、下記の製造方法を挙げることができる。すなわち、(1)複合有機酸塩(主としてシュウ酸塩)と水素などの還元性気体で還元する方法、(2)酸化鉄を水素などの還元性気体で還元してFeあるいはFe−Co粒子などを得る方法、(3)金属カルボニル化合物を熱分解する方法、(4)強磁性金属の水溶液に水素化ホウ素ナトリウム、次亜リン酸塩あるいはヒドラジンなどの還元剤を添加して還元する方法、(5)金属を低圧の不活性気体中で蒸発させて粉末を得る方法などである。このようにして得られた強磁性金属粉末は、公知の徐酸化処理(弱い酸化条件で粒子表面のみを酸化する処理)を施すことができる。徐酸化処理の方法としては、例えば有機溶剤に浸漬したのち乾燥させる方法、有機溶剤に浸漬したのち酸素含有ガスを送り込んで表面に酸化膜を形成したのち乾燥させる方法、有機溶剤を用いず酸素ガスと不活性ガスの分圧を調整して表面に酸化皮膜を形成する方法、などを用いることができる。
【0026】
強磁性金属粉末のBET法による比表面積(SBET)は、通常45〜80m2/gであり、好ましくは50〜70m2/gである。45m2/g以上であればノイズが低減され、80m2/g以下であれば良好な表面性を得ることができる。強磁性金属粉末の結晶子サイズは、通常8〜18Åであり、好ましくは10〜18Å、更に好ましくは11〜17.5Åである。強磁性金属粉末の平均長軸長は、好ましくは20〜50nmであり、さらに好ましくは30〜45nmである。強磁性金属粉末の平均長軸長が20nm以上であれば、高出力を達成でき、50nm以下であれば低ノイズである。強磁性粉末の針状比は、3〜15であることが好ましく、さらには5〜12であることが好ましい。強磁性金属粉末の飽和磁化(σs)は、通常100〜200A・m2/kg(emu/g)であり、好ましくは120A・m2/kg(emu/g)〜180A・m2/kg(emu/g) である。
【0027】
強磁性金属粉末の含水率は、0.01〜2質量%とすることが好ましく、結合剤の種類に応じて強磁性金属粉末の含水率を上記した範囲の中で最適化することがより好ましい。強磁性金属粉末のpHも、用いる結合剤との組合せにより最適化することが好ましく、その範囲は通常、4〜12であり、好ましくは6〜10である。強磁性金属粉末は、必要に応じてAl、Si、Pまたはこれらの酸化物などで表面処理を施してもよい。その量は強磁性金属粉末に対し通常、0.1〜10質量%である。表面処理を施すと脂肪酸などの潤滑剤の吸着量が100mg/m2 以下になり好ましい。強磁性金属粉末には、可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、Srなどの無機イオンを含む場合がある。これらは、本質的に無い方が好ましいが、200ppm以下であれば特に特性に影響を与えることは少ない。また、本発明に用いられる強磁性金属粉末は、空孔が少ない方が好ましく、その値は好ましくは20容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下である。また形状については先に示した粒子サイズについての特性を満足すれば針状、米粒状、紡錘状のいずれでもよい。
【0028】
強磁性金属粉末自体のSFD(switching field distribution) は小さい方が好ましく、0.8以下であることが好ましい。そのためには、強磁性粉末のHcの分布を小さくすることが好ましい。なお、SFDが0.8以下であると、電磁変換特性が良好で、出力が高く、また、磁化反転がシャープでピークシフトも少なくなり、高密度デジタル磁気記録に好適である。Hcの分布を小さくするためには、強磁性金属粉末においてはゲータイトの粒度分布を小さくしたり、焼結が起こりにくい条件を選ぶなどの方法がある。
【0029】
本発明において使用される六方晶フェライト粉末としては、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライトおよびこれらの各種の各置換体、Co置換体等を挙げることができる。具体的には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト、スピネルで粒子表面を被覆したマグネトプランバイト型フェライト、更に一部スピネル相を含有した複合マグネトプランバイト型のバリウムフェライトおよびストロンチウムフェライト等が挙げられ、その他所定の原子以外にAl、Si、S、Nb、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、W、Re、Au、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。一般にはCo−Zn、Co−Ti、Co−Ti−Zr、Co−Ti−Zn、Ni−Ti−Zn、Nb−Zn−Co、SnーZn−Co、Sn−Co−Ti、Nb−Zn等の元素を添加したものを使用することができる。原料・製法によっては特有の不純物を含有するものもある。平均板径は、10〜35nmであることが好ましく、より好ましくは15〜30nmである。特に、トラック密度を上げるため磁気抵抗ヘッド(MRヘッド)で再生する場合、低ノイズにする必要があり、平均板径は35nm以下であることが好ましいが、10nmより小さいと熱揺らぎのため安定な磁化が望めない。35nmより大きいとノイズが高く、いずれも高密度磁気記録には向かない。平均板厚は、4〜15nmであることが好ましい。平均板厚が4nm以上であれば、安定生産が可能であり、平均板厚が15nm以下であれば、十分な配向性を得ることができる。
【0030】
板状比(板径/板厚)は1〜15であることが好ましく、より好ましくは1〜7である。板状比が小さいと磁性層中の充填性は高くなり好ましいが、十分な配向性が得られない。15より大きいと粉体間のスタッキングによりノイズが大きくなる。この粉体サイズ範囲のBET法による比表面積は30〜200m2/gを示す。比表面積は概ね粉体板径と板厚からの算術計算値と符号する。粉体板径・板厚の分布は狭いほど好ましい。数値化は困難であるが、粉体TEM(透過型電子顕微鏡)写真より約500個を無作為に測定することで比較できる。分布は正規分布ではない場合が多いが、計算して平均サイズに対する標準偏差で表すとσ/平均粉体サイズ=0.1〜1.5である。粉体サイズ分布をシャープにするには粉体生成反応系をできるだけ均一にすると共に、生成した粉体に分布改良処理を施すことも行われている。例えば、酸溶液中で超微細粉体を選別的に溶解する方法等も知られている。ガラス化結晶法によれば、熱処理を複数回行い、核生成と成長を分離することでより均一な粉体を得ることができる。
【0031】
一般に、抗磁力Hcが500〜5000エルステッド(40〜398kA/m)程度の六方晶フェライト粉末は作製可能である。高Hcの方が高密度記録に有利であるが、記録ヘッドの能力で制限される。Hcは粉体サイズ(板径・板厚)、含有元素の種類と量、元素の置換サイト、粉体生成反応条件等により制御できる。飽和磁化σsは30〜70A・m2/kgであることができる。σsは、微粉体になるほど小さくなる傾向がある。σs改良のためには、結晶化温度、または熱処理温度時間を小さくする方法、添加する化合物を増量する、表面処理量を多くする方法等がある。またW型六方晶フェライトを用いることも可能である。六方晶フェライト粉末を分散する際に六方晶フェライト粉末表面を分散媒、ポリマーに合った物質で処理することも行われている。表面処理剤としては、無機化合物、有機化合物を使用することができる。主な化合物としてはSi、Al、P等の酸化物または水酸化物、各種シランカップリング剤、各種チタンカップリング剤が代表例である。量は六方晶フェライト粉末に対して0.1〜10質量%rとすることができる。六方晶フェライト粉末のpHも分散に重要である。通常4〜12程度で分散媒、ポリマーにより最適値があるが、媒体の化学的安定性、保存性から6〜11程度が選択される。六方晶フェライト粉末に含まれる水分も分散に影響する。分散媒、ポリマーにより最適値があるが通常0.1〜2.0質量%が選ばれる。
【0032】
六方晶フェライトの製法としては、(1)炭酸バリウム・酸化鉄・鉄を置換する金属酸化物とガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで再加熱処理した後、洗浄・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス化結晶法、(2)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後100℃以上で液相加熱後、洗浄・乾燥・粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法、(3)バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後乾燥し1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法等があるが、本発明は製法を選ばない。
【0033】
前記磁性層塗布液は、絶対値で50mV以下のゼータ電位を示すことが好ましい。強磁性粉末の乾燥凝集を低減するためには、粒子間の静電反発力によって強磁性粉末の分散性を高めることが好ましい。磁性層塗布液のゼータ電位の絶対値が50mV以下であれば、静電反発によって強磁性粉末の乾燥凝集を低減し、磁性層中の強磁性粉末の分散性を高めることができる。ゼータ電位は、電気泳動法、コロイド振動電流法等の方法で測定することができる。
【0034】
磁性層塗布液のゼータ電位は、公知の方法で調整することができ、例えば、磁性層塗布液に使用する水のpHによって調整することができる。磁性層塗布液のゼータ電位の絶対値を50mV以下に制御するためには、例えば、pH4以下、またはpH10以上の水を使用することができる。使用する水のpHは、公知の方法で調整することができる。
【0035】
磁性層塗布液には、上記成分以外に、研磨剤、カーボンブラックなどの各種添加剤を添加することもできる。研磨剤としては、公知のものを使用することができ、ダイヤモンド粒子またはアルミナ粒子を使用することが好ましい。
【0036】
研磨剤としてダイヤモンドを使用する場合、天然ダイアモンドは高価であるため、通常人工ダイヤモンドが使用される。ダイヤモンドの製法としては、黒鉛と鉄、Co、Ni等を介して高温高圧下で生成する方法、黒鉛またはフラン樹脂炭素を高温高圧下で反応させる静的合成法と呼ばれるものの他、動的合成法、気相合成法がある。本発明で用いるダイヤモンドは、これらのいずれの方法で作られたダイヤモンドであってもよい。ダイヤモンド粒子の平均粒径は、好ましくは0.05〜1μm、より好ましくは0.07〜0.5μmである。ダイヤモンドの配合量は、強磁性粉末に対して0.1〜5質量%とすることができ、好ましくは0.5〜3質量%である。工業的には、切削あるいは研磨用に使用したダイヤモンドから不純物を弁別洗浄したものを、2次使用することも可能である。ダイヤモンド粒子を分級する方法としては、分散液から遠心力を用いる方法、特殊なメッシュフィルターを用いる方法等がある。アルミナ粒子としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ等を用いることができる。アルミナ粒子の平均粒径は、好ましくは0.05〜1.0μm、より好ましくは0.1〜0.3μmである。アルミナ粒子の配合量は、強磁性粉末に対して1〜15質量%とすることができ、好ましくは5〜12質量%である。
【0037】
磁性層に配合されるカーボンブラックとしては、ゴム用の各種ファーネスブラック、ゴム用の各種サーマルブラック、カラー用カーボンブラック、導電性カーボンブラック、アセチレンブラックなどを用いることができる。比表面積は5〜500m2/g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、平均粒子径は5nm〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10質量%、タップ密度は0.1〜1g/cc、であることが好ましい。本発明に用いられるカ−ボンブラックの具体的な例としては、キャボット社製BLACKPEARLS−130、旭カーボン社製#55、#50、#35、三菱化成工業社製N660、コロンビアカーボン社製RAVEN 410、420、500、22などが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、また、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもよい。あるいは、カーボンブラックを磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもよい。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。磁性層にカーボンブラックを使用する場合は、強磁性粉末量に対して、0.1〜30質量%で用いることが好ましい。
【0038】
カーボンブラックは、磁性層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカーボンブラックにより異なる。従って、本発明では、これらのカーボンブラックを、磁性層と非磁性層とでその種類、量、組み合わせを変え、粒子サイズ、吸油量、電導度、pHなどの先に示した諸特性をもとに目的に応じて使い分けることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきものである。本発明において磁性層に使用できるカーボンブラックは、例えば「カーボンブラック便覧」(カーボンブラック協会編)を参考にすることができる。
【0039】
本発明では、所望により上記以外の研磨剤を併用することもできる。そのような研磨剤としては、酸化アルミ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上の公知の材料を単独または組合せで使用することができる。また、これらの研磨剤同士の複合体(研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を使用してもよい。これら研磨剤には主成分以外の化合物または元素が含まれる場合もあるが主成分が90質量%以上であれば効果にかわりはない。これらの併用される研磨剤の平均粒径は、通常0.01〜2μmであり、特に電磁変換特性を高めるためには、その粒度分布が狭い方が好ましい。また耐久性を向上させるには必要に応じて粒子サイズの異なるものを組み合わせたり、単独の研磨剤でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることも可能である。磁性層に使用する研磨剤は、ダイやモンド、アルミナを含めて、タップ密度が0.3〜2g/cc、含水率が0.1〜5質量%、pHが2〜11、比表面積が1〜30m2/gであることが好ましい。研磨剤の形状は針状、球状、サイコロ状、のいずれでもよいが、形状の一部に角を有するものが研磨性が高く好ましい。上記研磨剤としては、具体的には、住友化学社製AKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT−20、HIT−30、HIT−55、HIT−60、HIT−70、HIT−80、HIT−100、レイノルズ社製ERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、不二見研磨剤社製WA10000、上村工業社製UB20、日本化学工業社製G−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業社製TF100、TF140、イビデン社製ベータランダムウルトラファイン、昭和鉱業社製B−3などが挙げられる。これらの研磨剤は、必要に応じて後述の非磁性層に添加することもできる。非磁性層に研磨剤を添加することで、表面形状を制御したり、研磨剤の突出状態を制御したりすることができる。これら磁性層および非磁性層に使用される研磨剤の粒径、量は、むろん最適値に設定すべきものである。
【0040】
更に、添加剤としては、潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果などをもつものを使用することができる。例えば、二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フェニルホスホン酸、αナフチル燐酸、フェニル燐酸、ジフェニル燐酸、p−エチルベンゼンホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコール(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミンなどが挙げられる。
【0041】
これらの具体例としては下記のものが挙げられる。脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸など。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2ーエチルヘキシルステアレート、2ーオクチルドデシルパルミテート、2ーヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイルなどであり、アルコール類ではオレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコールなどである。
【0042】
アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加体などのノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類などのカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型などの両性界面活性剤なども使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤などは必ずしも完全に純粋である必要はなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物などの不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分の量は30質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0043】
本発明で使用されるこれらの潤滑剤、界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面への滲み出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面への滲み出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を下層で多くして潤滑効果を向上させるなど考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には潤滑剤の総量は、磁性層の強磁性粉末または非磁性層の非磁性粉末に対し、0.1質量%〜50質量%、好ましくは2質量%〜25質量%の範囲とすることができる。
【0044】
本発明において、磁性層塗布液は、前記強磁性粉末と水溶性放射線硬化型化合物、更に必要に応じて上記各種添加剤を水に添加して攪拌混合することによって調製することができる。磁性層塗布液中の強磁性粉末の濃度は、磁性層塗布液総量に対して10〜25質量%、好ましくは12〜20質量%とすることができる。
【0045】
磁性層塗布液を調製する工程は、混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなることができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。磁性層に使用する強磁性粉末、放射線硬化型化合物、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、水などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、放射線硬化型化合物を混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニーダを用いる場合は、強磁性粉末と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30質量%以上が好ましい)および強磁性粉末100部に対し15〜500部の範囲で混練処理することができる。これらの混練処理の詳細については、特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、塗布液を分散させるために、ガラスビーズを用いることができ、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。分散速度が異なる強磁性粉末、研磨剤、カーボンブラックをあらかじめ別々に分散し、混合し必要によりさらに微分散して塗布液とすることができる。
【0046】
次いで、本発明では、前述のように調製された磁性層塗布液を、非磁性支持体上に塗布して乾燥させる。磁性層塗布液は、乾燥後の磁性層の厚さが0.01〜0.2μm、好ましくは0.05〜0.1μmの範囲となるように塗布することができる。磁性層の厚さが0.01μm以上であれば、有効な磁化量を確保することができ、0.2μm以下であれば、厚み損失による高域出力の劣化を回避することができる。
【0047】
非磁性支持体としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、などのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロ−ストリアセテート、ポリカ−ボネート、ポリアミド(脂肪族ポリアミドやアラミドなどの芳香族ポリアミドを含む)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリベンゾオキサゾールなどの公知のフィルムが使用できる。ポリエチレンナフタレート、ポリアミドなどの高強度支持体を用いることが好ましい。また必要に応じ、磁性面とベース面の表面粗さを変えるため特開平3−224127号公報に示されるような積層タイプの支持体を用いることもできる。これらの支持体にはあらかじめコロナ放電処理、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、除塵処理などをおこなってもよい。また、支持体としてアルミまたはガラス基板を適用することも可能である。
【0048】
支持体のF−5値は、好ましくは49〜490N/mm2(5〜50kg/mm2)、また、支持体の100℃30分での熱収縮率は好ましくは3%以下、さらに好ましくは1.5%以下、80℃30分での熱収縮率は好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。破断強度は5〜980N/mm2(5〜100kg/mm2)、弾性率は980〜19600N/mm2(100〜2000kg/mm2)であることが好ましい。温度膨張係数は10-4〜10-8/℃であることが好ましく、より好ましくは10-5〜10-6/℃である。湿度膨張係数は10-4/%RH以下であることが好ましく、より好ましくは10-5/%RH以下である。これらの熱特性、寸法特性、機械強度特性は支持体の面内各方向に対し10%以内の差でほぼ等しいことが好ましい。
【0049】
非磁性支持体としては、好ましくは2.5〜8μm、より好ましくは2.5〜7.5μm、特に好ましくは3.0〜7μmの厚さのものを用いることができる。非磁性支持体と磁性層との間に密着性向上のための下塗り層を設けてもかまわない。本下塗層厚みは0.01〜0.5μmとすることができ、好ましくは0.02〜0.5μmである。これらの下塗層としては公知のものが使用できる。
【0050】
磁性層塗布液の塗布に用いられる塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。 これらについては、例えば株式会社総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。なお、磁性粒子の凝集による磁気ディスクの電磁変換特性などの低下を防止するため、特開昭62−95174号公報や特開平1−236968号公報に開示されているような方法により塗布ヘッド内部の塗布液にせん断を付与することが望ましい。さらに、塗布液の粘度については、特開平3−8471号公報に開示されている数値範囲を満足することが好ましい。
【0051】
塗布された磁性層塗布液は、塗布液中に含まれる強磁性粉末に磁場配向処理を施した後に乾燥されることが好ましい。磁気記録媒体は、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置したり、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。等方的な配向とは、一般的には面内2次元ランダムが好ましいが、垂直成分をもたせて3次元ランダムとすることもできる。また、スピンコートを用い円周配向してもよい。
【0052】
磁性層塗布液の乾燥工程において、乾燥ゾーンの温度は40℃以上であることが好ましく、より好ましくは100〜130℃となるように設定される。この際、乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できるようにすることが好ましい。塗布速度は20〜1000m/分、乾燥風の温度は40℃以上とすることが好ましく、より好ましくは100〜130℃である、また配向工程に入る前に適度の予備乾燥を行なうこともできる。
【0053】
乾燥後、ウェブは通常ロール状に巻き取られ、このロールが上記温度範囲に維持される。放射線照射がされていないこの段階では、ウェブは十分な柔軟性を有し、カレンダ加工処理がスムーズに行われる。その結果、カレンダ処理後の磁性層の表面は適度に平滑となり、強磁性粉末の充填度も高くなり、表面硬度も高くなる。なお、本明細書において、ウェブとは、支持体もしくは塗布済み支持体が塗布機に搬送中の状態もしくはロール状に巻かれた状態のことをいう。
【0054】
磁性層塗布液を乾燥させた後、カレンダ処理を行うことができる。放射線照射前の磁性層は柔らかくカレンダ処理により平滑化されやすい。一方、カレンダ処理した後に巻き取り、放射線を未照射の状態で長時間保存するとバック面の凹凸が転写して表面が粗くなることがある。従ってカレンダ処理後できるだけ早く放射線を照射し磁性層を硬化させることが好ましい。カレンダ処理と放射線照射工程を一貫で行うこともできる。
【0055】
カレンダ処理には、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミドなどの耐熱性のあるプラスチックロールまたは金属ロールを用いることができる。特に両面磁性層とする場合は金属ロ−ル同士で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは1960N/cm(200kg/cm)以上、さらに好ましくは2940N/cm(300kg/cm)以上である。
【0056】
支持体上に磁性層塗布液を塗布して乾燥させた後、好ましくはカレンダ処理後に、放射線照射が行われる。放射線としては、電子線や紫外線を用いることができる。紫外線を使用する場合には前記の化合物に光重合開始剤を添加することが必要となる。電子線硬化の場合は重合開始剤が不要であり、透過深さも深いので好ましい。
【0057】
電子線加速器としてはスキャニング方式、ダブルスキャニング方式あるいはカーテンビーム方式が採用でき、好ましいのは比較的安価で大出力が得られるカーテンビーム方式である。電子線特性としては、加速電圧が好ましくは30〜1000kV、より好ましくは50〜300kVであり、吸収線量は好ましくは0.5〜20Mrad、より好ましくは2〜10Mradである。加速電圧が30kV以上であれば十分なエネルギー透過量が得られ、300kV以下であれば、重合に使われるエネルギーの効率が高く経済的である。電子線を照射する雰囲気は窒素パージにより酸素濃度を200ppm以下にすることが好ましい。酸素濃度が高いと表面近傍の架橋、硬化反応が阻害される。
【0058】
紫外線光源としては、水銀灯を用いることができる。水銀灯は、発光面強度が20〜240W/cmのランプを用い、ウェブ搬送速度0.3m/分〜20m/分で使用することができる。ウェブと水銀灯との距離は一般に1〜30cmであることが好ましい。紫外線硬化に用いる光重合開始剤としては光ラジカル重合開始剤を用いることができる。詳細は、例えば「新高分子実験学第2巻、第6章、光・放射線重合」(共立出版1995年発行、高分子学会編)記載されている。具体例としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルメチルケタール、ベンジルエチルケタール、ベンゾインイソブチルケトン、ヒドロキシジメチルフエニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフエニルケトン、2−2ジエトキシアセトフエノン、などが挙げられる。光重合開始剤の混合比率は、水溶性放射線硬化型化合物100質量部に対し0.5〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部とすることができる。
【0059】
放射線硬化装置、照射条件などについては「UV・EB硬化技術」((株)総合技術センター発行)や「低エネルギー電子線照射の応用技術」(2000年、(株)シーエムシー発行)などに記載されている公知のものを用いることができる。
【0060】
本発明において、テープ状の磁気記録媒体を製造する場合は、このようにして硬化処理された積層体を、直接、または更なる層の形成を行った後に、所望の形状に裁断することにより、磁気テープを製造することができる。
また、ディスク状磁気記録媒体を製造する場合は、放射線照射処理後、デイスク形状に打ち抜き、ライナが内側に設置済みのカートリッジに入れ、所定の機構部品を付加することにより、磁気ディスクを製造することができる。また、必要に応じ、ディスク形状に打ち抜いた後、研磨テープでバーニッシュ処理を行い表面の突起を削るなどの後処理を行ってもよい。
【0061】
本発明では、非磁性支持体上に非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を形成し、その上に磁性層を設けることもできる。なお、非磁性層は、実質的に非磁性であれば、特に制限されるものではなく、実質的に非磁性である範囲で磁性粉末を含むこともできる。「実質的に非磁性である」とは、磁性層の電磁変換特性を実質的に低下させない範囲で非磁性層が磁性を有することを許容するということである。
【0062】
非磁性層に用いられる非磁性粉末としては、例えば、金属酸化物、含水金属酸化物、金属炭酸塩、金属窒化物、金属炭化物、等の無機質化合物を挙げることができる。無機質化合物としては、例えばα化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ゲータイト、窒化珪素、二酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、などを単独または組合せて使用することができる。特に好ましいものは、粒度分布の小ささ、機能付与の手段が多いこと等から、二酸化チタン、酸化亜鉛、α−酸化鉄、ゲータイト、硫酸バリウムであり、更に好ましいものは二酸化チタン、α−酸化鉄、ゲータイトである。α−酸化鉄は、粉体サイズがそろった磁性酸化鉄やメタル用原料を加熱脱水、アニール処理し空孔を少なくし、必要により表面処理をしたものが好ましい。通常、二酸化チタンは光触媒性を持っているので、光が当たるとラジカルが発生しバインダー、潤滑剤と反応する懸念がある。このため、本発明において二酸化チタンを使用する場合は、Al、Fe等を1〜10質量%固溶させ光触媒特性を低下させた二酸化チタンを用いることが好ましい。さらに表面をAlおよび/またはSi化合物で処理し、触媒作用を低下させることが好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、0.005〜1μmであることが好ましいが、必要に応じて粉体サイズの異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。非磁性粉末の平均粒径は、0.01μm〜0.5μmであることが特に好ましい。特に、非磁性粉末が粒状金属酸化物である場合は、平均粒径は0.08μm以下であることが好ましく、針状金属酸化物である場合は、平均長軸長が0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。タップ密度は通常、0.3〜1.5g/ml、好ましくは0.4〜1.3g/mlである。非磁性粉末の含水率は通常、0.2〜5質量%、好ましくは0.3〜3質量%、更に好ましくは0.3〜1.5質量%である。非磁性粉末のpHは通常、3〜12であり、5.5〜11の間であることが特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は通常、1〜100m2/gであり、好ましくは5〜80m2/g、更に好ましくは10〜80m2/gである。非磁性粉末の結晶子サイズは40〜1000Åであることが好ましく、40〜800Åであることが更に好ましい。DBP(ジブチルフタレート)を用いた吸油量は通常、5〜100ml/100gであり、好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は通常、1.5〜7であり、好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。非磁性粉末のSA(ステアリン酸)吸着量は通常、1〜20μmol/m2であり、好ましくは2〜15μmol/m2、さらに好ましくは3〜8μmol/m2である。ステアリン酸吸着量が多い非磁性粉末を使用する場合は、表面に強く吸着する有機物で非磁性粉末の表面を修飾して磁気記録媒体を作製することが好ましい。これらの非磁性粉末の表面にはAl、Mg、Si、Ti、Zr、Sn、Sb、Zn、Y化合物で表面処理することが好ましい。特に分散性に好ましいものはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、MgOおよびこれらの含水酸化物であり、更に好ましいものはAl23、SiO2、ZrO2およびこれらの含水酸化物である。これらは組み合わせて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナを被覆処理した後にその表層をシリカを被覆処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0063】
本発明において、非磁性層に用いられる非磁性粉末の具体的な例としては、昭和電工製ナノタイト、住友化学製HIT−100、HIT−82、戸田工業製α−酸化鉄DPN−250BX、DPN−245、DPN−270BX、DPN−550BX、DPN−550RX、DBN−650RX、DAN−850RX、石原産業製酸化チタンTTO−51B、TTO−55A、TTO−55B、TTO−55C、TTO−55S、TTO−55D、SN−100、チタン工業製酸化チタンSTT−4D、STT−30D、STT−30、STT−65C、α−酸化鉄α−40、テイカ製酸化チタンMT−100S、MT−100T、MT−150W、MT−500B、MT−600B、MT−100F、MT−500HD、堺化学製FINEX−25、BF−1、BF−10、BF−20、ST−M、同和鉱業製酸化鉄DEFIC−Y、DEFIC−R、日本アエロジル製AS2BM、TiO2 P25、宇部興産製100A、500A、およびそれを焼成したものが挙げられる。
【0064】
非磁性層にカーボンブラックを混合させて公知の効果である表面電気抵抗Rsを下げること、光透過率を小さくすること、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。また、非磁性層にカーボンブラックを含有させることで潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。非磁性層に使用するカーボンブラックは、所望する効果によって、以下のような特性を最適化すべきであり、併用することでより効果が得られることがある。非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は通常、50〜500m2/gであり、好ましくは70〜400m2/g、DBP吸油量は通常、20〜400ml/100gであり、好ましくは30〜400ml/100gである。カーボンブラックの平均粒子サイズは通常、5〜80nmであり、好ましく10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックのpHは2〜10、含水率は0.1〜10質量%、タップ密度は0.1〜1g/mlであることがそれぞれが好ましい。
【0065】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの具体的な例としては、キャボット製 BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、800、880、700、VULCAN XC−72、三菱化学製 #3050B、#3150B、#3750B、#3950B、#950、#650B、#970B、#850B、MA−600、MA−230、#4000、#4010、コロンビアンカーボン製 CONDUCTEX SC、RAVEN 8800、8000、7000、5750、5250、3500、2100、2000、1800、1500、1255、1250、アクゾー製ケッチェンブラックECなどが挙げられる。カーボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カーボンブラックを非磁性層塗布液に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは上記無機質化合物粉末に対して50質量%を越えない範囲、非磁性層総質量の40質量%を越えない範囲で使用できる。これらのカーボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。本発明で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧(カーボンブラック協会編)」を参考にすることができる。
【0066】
また非磁性層には、目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されているようなものが使用できる。
【0067】
非磁性層の結合剤樹脂(種類と量)、潤滑剤・分散剤・添加剤の量、種類、溶剤、分散方法に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。
【0068】
本発明において、非磁性層に使用される結合剤としては、前述の磁性層で使用される水溶性放射線硬化型化合物および水溶性樹脂を使用することができる。これらの結合剤を使用する場合の非磁性層塗布液の調製方法、塗布方法、硬化方法等の詳細は、先に磁性層について記載した通りである。
【0069】
また、非磁性層には、結合剤として、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を使用することもできる。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000、重合度が約50〜1000程度のものを使用することができる。このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂が挙げられる。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシーポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等が挙げられる。これらの樹脂については、朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコール共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネートを組み合わせたものが挙げられる。
【0070】
ポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2、N+3(Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくとも一つ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものを用いることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gとすることができ、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
【0071】
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカーバイト製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC、VMCC、XYHL、XYSG、PKHH、PKHJ、PKHC、PKFE、日信化学工業製MPR−TA、MPR−TA5、MPR−TAL、MPR−TSN、MPR−TMF、MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学製1000W、DX80、DX81、DX82、DX83、100FD、日本ゼオン製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バーノックD−400、D−210−80、クリスボン6109、7209、東洋紡製バイロンUR8200、UR8300、UR−8700、RV530、RV280、大日精化製ダイフェラミン4020、5020、5100、5300、9020、9022、7020、三菱化学製MX5004、三洋化成製サンプレンSP−150、旭化成製サランF310、F210などが挙げられる。
【0072】
本発明の非磁性層に用いられる結合剤は非磁性粉末に対し、通常、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いることができる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネートは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましい。但し、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が通常、−50〜150℃、好ましくは0〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)、降伏点は0.05〜10kg/mm2(0.49〜98MPa)のものを用いることが好ましい。
【0073】
本発明の製造方法によって製造される磁気記録媒体は二層以上からなるものであることができる。従って、結合剤量、結合剤中に占める塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート、あるいはそれ以外の樹脂の量、磁性層を形成する各樹脂の分子量、極性基量、あるいは先に述べた樹脂の物理特性などを必要に応じ各層とで変えることはもちろん可能であり、むしろ各層で最適化すべきであり、多層磁性層に関する公知技術を適用できる。例えば、各層でバインダー量を変更する場合、磁性層表面の擦傷を減らすためには磁性層のバインダー量を増量することが有効であり、ヘッドに対するヘッドタッチを良好にするためには、非磁性層のバインダー量を多くして柔軟性を持たせることができる。
【0074】
本発明に用いられるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等のイソシアネート類、また、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネート等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン製コロネートL、コロネートHL、コロネート2030、コロネート2031、ミリオネートMRミリオネートMTL、武田薬品製タケネートD−102、タケネートD−110N、タケネートD−200、タケネートD−202、住友バイエル製デスモジュールL、デスモジュールIL、デスモジュールNデスモジュールHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とも用いることができる。
【0075】
非磁性層上に磁性層を形成する場合、まず、非磁性支持体上に非磁性層塗布液を塗布・乾燥させた後、非磁性層上に磁性層塗布液を塗布・乾燥・放射線硬化させて磁性層を形成することができる。非磁性層にも水溶性放射線硬化型化合物を使用する場合には、非磁性支持体上に非磁性層塗布液を塗布・乾燥・放射線硬化させた後に、非磁性層上に磁性層を形成することができる。非磁性層の厚さは、例えば0.3〜3.0μmとすることができ、好ましくは1.0〜2.0μmとすることができる。
【0076】
本発明では、非磁性支持体の磁性層を設けた面とは反対の面に、バックコート層を設けることもできる。バックコート層は、微粒子で電気伝導性が優れたカーボンブラックを主なフィラーとし、平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックを含有させたり、必要により無機質粉末を含有してもよい。例えば、モース硬度5〜9の無機質粉末を含有させることができる。無機質粉末のバックコート層への配合量は、カーボンブラック100質量部に対して、通常、0.5〜150質量部であり、好ましくは0.5〜100質量部である。
【0077】
前述のように、バックコート層には、平均粒子サイズの異なる二種類のカーボンブラックを含有させることができる。例えば、平均粒子サイズが10〜30nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズが50〜500nm(好ましくは60〜400nm)の粗粒子状カーボンブラックを用いることができる。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録の装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは、一般に潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0078】
一方、平均粒子サイズ50〜500nm(好ましくは60〜400nm)の粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバックコート層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0079】
本発明で用いることができる微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。括弧内は、平均粒子サイズを示す。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINNTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化学(株)製)。
また粗粒子カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVENMTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。平均粒子サイズ50〜500nmのカーボンブラックは、ゴム用カーボンブラックや、カラー用カーボンブラックより選択することができる。
【0080】
本発明において、バックコート層における微粒子状カーボンブラックと粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲とすることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15である。
【0081】
バックコート層に添加することができる無機質粉末としては、平均粉体サイズが80〜250nmでモース硬度が5〜9の無機質粉末が挙げられる。無機質粉末としては、後述する非磁性層に使用される非磁性粉末や研磨剤などと同様のものを使用することができ、中でもα−酸化鉄、α−アルミナ等を用いることが好ましい。無機質粉末のバックコート層への添加量は、結合剤100質量部に対して、好ましくは0.5〜40質量部の範囲であり、更に好ましくは1〜30質量部の範囲である。
【0082】
バックコート層には、前述の成分以外に、他の任意の成分として、分散剤、潤滑剤を添加することもできる。分散剤としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH;Rは炭素数11〜17個のアルキル基、またはアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記の脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸エステル、銅フタロシアニン、沈降性硫酸バリウム等を使用することができる。分散剤は、結合剤樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲で添加することができる。
【0083】
バックコート層に含まれる結合剤としては、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂を挙げることができる。バックコート層中の全結合剤量は、バックコート層の全量に対して0.3〜0.7の範囲とすることができる。
【0084】
バックコート層は、通常の方法に従って非磁性支持体の磁性層が設けられている側とは反対側に設けることができる。即ち、前記の各成分を適当な有機溶媒に溶解、分散させた塗布液を調製し、これを常法の塗布方法に従い、塗布、乾燥することにより、非磁性支持体上にバック層を設けることができる。本発明において、バックコート層は、その表面粗さRaが、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD-2000によって測定される中心面平均表面粗さで、好ましくは2.0〜15nm、更に好ましくは2.0〜10nmの範囲にある。バックコート層の表面粗さは、テープが巻かれた状態でバックコート層の表面が磁性層の表面に転写されることで、再生出力に影響を与えたり、ガイドポールに対する摩擦係数に影響を与えるため、上記の範囲に調整することが好ましい。なお、この表面粗さRaの調整は、バックコート層を塗布形成後、カレンダーによる表面処理工程において、用いるカレンダーロールの材質、その表面性、圧力等の調整により行うことができる。本発明において、バックコート層は、その厚みが0.2〜0.8μmであることが好ましく、0.2〜0.7μmであることが更に好ましい。
【0085】
[磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、前記結合剤は、水溶性放射線硬化樹脂を含むことを特徴とする。また、本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末と結合剤とを含む非磁性層を有することもできる。
本発明の磁気記録媒体は、前述の本発明の磁気記録媒体の製造方法によって製造することができる。本発明の磁気記録媒体において、磁性層に結合剤として含まれる水溶性放射線硬化樹脂は、先に説明した水溶性放射線硬化型化合物を放射線照射により架橋重合することによって形成することができる。結合剤として水溶性放射線硬化樹脂を使用することにより、静電反発によって磁性体の乾燥凝集を低減することができ、更に、放射線照射により塗膜の耐久性を高めることができる。
一般的な水溶性樹脂は、吸水性が高いために、磁性層に使用すると空気中の水分の影響により塗膜が可塑化して耐久性が劣化すると考えられる。それに対して、本発明では、放射線硬化型の水溶性樹脂を使用することにより、放射線照射によって塗膜強度を向上させて、可塑化による耐久性の劣化を回避することができる。更に、前記放射線硬化樹脂は、熱硬化樹脂と比べて硬化率が高いため、熱硬化樹脂を使用する場合と比べて、顕著に優れた耐久性を有する磁性層を得ることができる。
【0086】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の表面粗さは、WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD-2000によって測定される中心面平均表面粗さで2.5nm以下であることが好ましい。より好ましくは0.5〜2.0nmの範囲である。磁性層の表面粗さが2.5nm以下であれば、高い電磁変換特性を得ることができる。本発明では、磁性層塗布液の溶媒として水を使用し、その中で強磁性粉末を分散させることにより、水系での静電反発を利用して、強磁性粉末の乾燥凝集を低減することができる。本発明では、これにより、高い表面平滑性を有する磁性層を形成することができる。
【0087】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層の飽和磁束密度は、0.2〜0.6テスラ(2000〜6000ガウス)であることが好ましい。抗磁力の分布は狭い方が好ましく、SFDおよびSFDrは0.6以下であることが好ましい。角形比は、通常、ランダム配向で0.45〜0.55、2次元ランダムの場合は、0.6〜0.67以下である。垂直配向した場合は、通常0.5以上である。
【0088】
本発明の磁気記録媒体のヘッドに対する摩擦係数は、温度−10℃〜40℃、湿度0%〜95%の範囲において、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下であり、表面固有抵抗は好ましくは磁性面104〜1012オーム/sqであり、帯電位は−500Vから+500V以内であることが好ましい。磁性層の0.5%伸びでの弾性率は、面内各方向で好ましくは980〜19600N/mm2(100〜2000kg/mm2)、破断強度は、好ましくは98〜686N/mm2(10〜70Kg/mm2)、磁気ディスクの弾性率は、面内各方向で好ましくは980〜14700N/mm2(100〜1500kg/mm2)、残留のびは、好ましくは0.5%以下、100℃以下のあらゆる温度での熱収縮率は、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、もっとも好ましくは0.1%以下である。磁性層のガラス転移温度(110Hzで測定した動的粘弾性測定の損失弾性率の極大点)は50℃〜120℃であることが好ましく、非磁性層のそれは0℃〜100℃であることが好ましい。損失弾性率は1×103〜1×104N/cm2(1×108 〜8×109dyne/cm2)の範囲にあることが好ましく、損失正接は0.2以下であることが好ましい。損失正接が大きすぎると粘着故障が発生しやすい。これらの熱特性や機械特性は媒体の面内各方向で10%以内でほぼ等しいことが好ましい。磁性層中に含まれる残留溶媒は、好ましくは100mg/m2以下、さらに好ましくは10mg/m2以下である。磁性層、非磁性層が有する空隙率は、それぞれ、好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは20容量%以下である。空隙率は高出力を果たすためには小さい方が好ましいが、目的によってはある値を確保した方が良い場合がある。例えば、繰り返し用途が重視されるディスク媒体では空隙率が大きい方が走行耐久性は好ましいことが多い。
【0089】
本発明の磁気記録媒体において、目的に応じ非磁性層と磁性層でこれらの物理特性を変えることができる。例えば、磁性層の弾性率を高くし走行耐久性を向上させると同時に非磁性層の弾性率を磁性層より低くして磁気記録媒体のヘッドへの当りを良くするなどである。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明の具体的実施例および比較例を挙げるが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。尚、実施例中の「部」の表示は、特に断らない限り、「質量部」を示す。

[実施例1]
磁性層塗布液
強磁性粉末(バリウムフェライト、平均粒径30nm) 100部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(表1の結合剤A) 20部
(SO3Na含有量:1.0mmol/g、アクリレート濃度10mmol/g)
αアルミナ(住友化学社製HIT55) 10部
カーボンブラック(旭カーボン社製#50) 1部
ブチルステアレート 1部
ブトキシエチルステアレート 1部
ステアリン酸 2部
水(pH4に調整) 250部
【0091】
上記強磁性粉末とpH4に調整した水を混合し、サンドミルを用いて分散させた後、その他の上記成分を混合した。得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0092】
バックコート層塗布液
微粒子状カーボンブラック 100部
(キャボット社製BP800、平均粒径17nm)
粗粒子状カーボンブラック 10部
(カーンカルブ社製サーマルブラック、平均粒径100nm)
α−アルミナ(平均粒径200nm) 5部
ニトロセルロース樹脂 140部
ポリウレタン樹脂 15部
ポリエステル樹脂 5部
分散剤
オレイン酸銅 5部
銅フタロシアニン 5部
メチルエチルケトン 1200部
【0093】
上記のバックコート層塗布液について、各成分を連続ニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート40部(コロネートL、日本ポリウレタン工業(株)製)、メチルエチルケトン1000部を添加した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、バックコート層塗布液を調製した。
【0094】
得られた磁性層塗布液を、厚さ6μmで中心線平均表面粗さ2nmのPEN支持体上に塗布した後、3000G(0.3T)の磁場強度中を通過させて長手方向に配向処理を行い乾燥させた。その後、支持体の磁性層を設けた面と反対の面にバックコート層塗布液を塗布し、乾燥させてバックコート層を形成した。
【0095】
こうして、支持体の一方の面に厚さ0.1μmの磁性層を、他方の面に厚さ0.5μmのバックコート層を有する積層体ロールを得た。その後、7段のカレンダで温度90℃、線圧300kg/cmにて処理を行った。次いで、吸収線量25kGyで電子線硬化処理を行った。その後、該ロールを1/2インチ幅にスリットした後、3000G(0.3T)の磁束密度を有するソレノイド中を通過させて消磁した。
【0096】
[実施例2]
表1に示す結合剤を使用した以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0097】
[比較例1]
以下に示す磁性層塗布液を用いた以外は実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。

磁性層塗布液
強磁性粉末(六方晶フェライト、平均粒径30nm) 100部
有機溶剤系塩ビアクリレート(表1の結合剤B) 5部
有機溶剤系ウレタンアクリレート(表1の結合剤C) 3部
有機溶剤系熱硬化型ポリイソシアネート(表1の結合剤D) 5部
αアルミナ(住友化学社製HIT55) 10部
カーボンブラック(旭カーボン社製#50) 1部
フェニルホスホン酸 2部
ブチルステアレート 10部
ブトキシエチルステアレート 5部
イソヘキサデシルステアレート 3部
ステアリン酸 2部
メチルエチルケトン 125部
シクロヘキサノン 125部
【0098】
上記磁性層塗布液の各成分を混練し、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液を、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。
【0099】
なお、上記有機溶剤系塩ビアクリレート、有機溶剤系ウレタンアクリレート、有機溶剤系熱硬化型ポリイソシアネートは、以下に示す樹脂に、メタクロイルオキシエチルイソシアネートまたはアクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加重合させてアクリレート化したものである。
(1)有機溶剤系塩ビアクリレート(表1の結合剤B)
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110)にアクリロイル基0.025mmol/gを導入した。
(2)有機溶剤系ウレタンアクリレート(表1の結合剤C)
ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200)にアクリロイル基0.025mmol/gを導入した。
(3)有機溶剤系熱硬化型ポリイソシアネート(表1の結合剤D)
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製コロネートL)にアクリロイル基5mmol/gを導入した。
【0100】
[比較例2]
表1に示す結合剤を使用した以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0101】
[比較例3]
表1に示す結合剤を使用した以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0102】
[比較例4]
表1に示す結合剤を使用した以外は、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0103】
[比較例5]
表1に示す結合剤を使用した以外は、比較例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0104】
ゼータ電位測定
実施例1および2の磁性層塗布液のゼータ電位を、U.S.Dispersion Technology社製粒度分布・ゼータ電位測定装置DT−1200を用いてコロイド振動電流法によって測定した。実施例1および2のいずれにおいても、磁性層塗布液のゼータ電位の絶対値は5mV以下であった。
【0105】
評価方法
(1)光散乱による塗布液の粒度分布測定(分散の評価)
磁性層塗布液を使用した各溶媒で100倍に希釈してHORIBA社製動的光散乱粒子サイズ分析機LB500を用いて、分散された強磁性粉末の平均粒子サイズを測定した。
(2)電磁変換特性(C/N)
リニアテスターで1/2インチ幅のテープを速度3m/secで走行させ、ヘッドを押し当てて記録再生を行った。飽和磁化1.4TのMIGヘッド(ヘッドギャップ長=0.2μm、トラック幅14μm)を使い、記録電流を各テープの最適記録電流に設定して記録を行った。再生ヘッドには素子厚み25nm、シールド間隔0.2μm(トラック幅7μm)の異方性型MRヘッド(A−MR)を用いた。上記測定系で140kfciの信号を記録した後、スペクトルアナライザーでのキャリア信号を出力(C)とし、−2MHzでのノイズレベル(N)としたときのC/Nを、比較例1の測定値を0dBとした相対値として求めた。
(3)摩擦係数
温度23℃湿度70%の環境下でIEC式μ値(SUSμ値)を測定した。
(4)磁性層表面粗さRa
WYKO社製光干渉式表面粗さ計HD−2000で測定した。
【0106】
【表1】

[結合剤]
A:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(SONa含有量:1.0mmol/g、アクリレート濃度10mmol/g)
B:有機溶剤系塩ビアクリレート
C:有機溶剤系ウレタンアクリレート
D:有機溶剤系熱硬化型ポリイソシアネート
E:有機溶剤系塩化ビニル共重合体(日本ゼオン社製MR110)
F:有機溶剤系ポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR8200)
G:水溶性ポリウレタン樹脂
(脂肪族ポリエステルポリウレタンにSONa基を0.85mmol/g導入)
H:水溶性熱硬化樹脂
(ポリイソシアネートにSONa基を1mmol/g導入)
【0107】
評価結果
磁性層塗布液の溶媒として水を使用し、磁性層の結合剤として水溶性放射線硬化樹脂を使用した実施例1および2では、比較例と比べて、磁性層塗布液の光散乱粒度分布に顕著な違いは見られなかった。このことから、実施例と比較例では、塗布液の状態では強磁性粉末の分散性に大きな違いはなかったことがわかる。
実施例1および2の磁気テープは、結合剤として有機溶剤系樹脂を使用し、溶媒として有機溶剤を使用した比較例1〜3の磁気テープよりも磁性層Raが低く、高い表面平滑性を有しており、C/Nが高く、優れた電磁変換特性を示した。
実施例2と同じ結合剤を使用したが、溶媒として有機溶剤を使用した比較例5は、実施例1および2と比べて、磁性層Raが高く、C/Nが劣っていた。
以上の結果から、溶媒として水を使用した系と有機溶剤を使用した系とでは、塗布液の状態での強磁性粉末の分散性に大きな違いはないが、塗布乾燥後の磁性層中の強磁性粉末の分散性は、溶媒として水を使用した系の方が優れていたことがわかる。これは、溶媒として水を使用した場合には、静電反発によって強磁性粉末の乾燥凝集が顕著に抑制されるためと考えられる。
また、水溶性放射線硬化樹脂を使用した実施例1および2の磁気テープは、水溶性熱硬化樹脂を使用した比較例4の磁気テープよりも摩擦係数が低く、優れた耐久性を示した。これは、放射線硬化によれば、熱硬化よりも高い硬化率で樹脂を硬化することができるからと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、高密度記録に好適な磁気記録媒体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体上に強磁性粉末および水溶性放射線硬化樹脂を含む磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記強磁性粉末、水溶性放射線硬化型化合物、および水を含む磁性層塗布液を調製し、
前記磁性層塗布液を前記非磁性支持体上に塗布して乾燥させ、
放射線照射によって前記水溶性放射線硬化型化合物を架橋重合させて前記水溶性放射線硬化樹脂を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性層塗布液が、絶対値で50mV以下のゼータ電位を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水が、前記磁性層塗布液が絶対値で50mV以下のゼータ電位を示すpHを有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記結合剤は、水溶性放射線硬化樹脂を含むことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項5】
前記強磁性粉末が、平均粒径10〜35nmの六方晶フェライトまたは平均長軸長20〜50nmの強磁性金属粉末である、請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁性層の厚みが0.01〜0.2μmの範囲である、請求項4または5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁性層の表面粗さは2.5nm以下である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。

【公開番号】特開2006−54018(P2006−54018A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236267(P2004−236267)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】