説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】遷移ノイズが低く、生産性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に、2以上の磁性領域が、非磁性無機物からなる非磁性領域によってそれぞれ物理的に独立した形で形成されており、前記磁性領域には、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層と、CuAu型またはCuAu型強磁性規則合金相を含む磁性層とが形成されていることを特徴とする磁気記録媒体である。上記磁気記録媒体の製造方法であって、支持体上に、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層をナノインプリントにより転写して形成する金属含有層形成工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、パターンドメディアと呼ばれる磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の高密度化においては、以下の点が課題となっている。まず、高記録密度化は、磁性体のサイズを小さくすることでなされてきたが、磁性体を小さくすると、熱揺らぎにより強磁性体でなくなるという懸念が生じている。一方、高記録密度化に伴い、遷移ノイズが問題となってきている。熱揺らぎに対しては、CuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金を用いることが提案されており、さらに、実質的に球形の磁性体のサイズ分布が変動係数10%以下であれば、自己組織化により磁性体が最密充填構造をとることが知られている。しかし、磁気記録媒体の全面が自己組織化することはなく、自己組織化した数μm径の領域が集まったドメイン構造をとり、ドメイン構造の境界はノイズ源となると考えられる。
【0003】
一方、遷移ノイズに対する有力な対策としてパターンドメディアが提案されている。パターンドメディアとしては、磁性体からなるパターンが支持体に対し凸になる形のものがまず提案された(特許第1888363号)。しかし、これでは、表面に突起が形成されることとなり、フライングヘッドが走行するのに不都合があると考えられる。
【0004】
これに対し、基板上に形成した凹状のトレンチに磁性層薄膜を形成する方法が特開2001−110050にて開示されている。平滑な表面が形成される点で本方法は優れている。当該方法は、(1)基板をマスクパターンで覆い、(2)凹状のトレンチをエッチング処理にて基板に形成した後、(3)磁性層薄膜をスパッタ等で形成し、(4)マスクパターンを除去することでパターンドメディアを形成するものである。当該方法はマスクパターンが支持体に対し凸であり、スパッタで磁性薄膜を形成する際、凸部に優先的に薄膜が形成され、凸部に形成された薄膜は、マスクパターンと共に除去することから、生産効率の点で不都合を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上から、本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、遷移ノイズが低く、生産性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、本発明者らは、下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、支持体上に、2以上の磁性領域が、非磁性無機物からなる非磁性領域によってそれぞれ物理的に独立した形で形成されており、前記磁性領域には、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層と、CuAu型またはCuAu型強磁性規則合金相を含む磁性層とが形成されていることを特徴とする磁気記録媒体である。前記磁性層の厚みは、3〜20nmであり、非磁性無機物により囲まれた一方向の距離が5nm〜5μmであることが好ましい。
【0007】
また、本発明は、上記磁気記録媒体の製造方法であって、支持体上に、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層をナノインプリントにより転写して形成する金属含有層形成工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遷移ノイズが低く、生産性の高い磁気記録媒体およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体における2以上の磁性領域は、支持体上に、非磁性無機物からなる非磁性領域によってそれぞれ物理的に独立した形で形成されている。このように、非磁性無機物からなる非磁性領域により、少なくとも一方向を囲み、隣接トラックのクロスライト、クロストークの影響を小さくするためには、磁性領域は、面内に1次元的にらせん状、円周状に形成されていることが好ましい。
磁性層の非磁性無機物により囲まれた一方向の距離とは、らせん状、円周状の溝に中に磁性領域が形成される場合には、磁性領域を囲む領域であり、磁性領域が長方形、正方形、三角形、六角形、ひし形、台形の場合は一辺の長さを意味する。磁性領域は三角形、六角形、ひし形、台形が好ましく、特に好ましいのは、正三角形、正三角形により構成される六角形、ひし形、台形である。
本発明の磁気記録媒体における磁性領域は、隣接トラックのクロスライト、クロストークの影響を小さくするためには広い方が好ましいが、高記録密度化のためには狭い方が好ましい。そこで、磁性領域、あるいは磁性領域の集合体として形成されるトラック間の距離は5nm〜5μmが好ましく、10nm〜5μmがより好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、最も好ましくは20〜200nmである。
【0010】
磁性領域は広い方が記録に寄与する粒子数が増え、SNRが高くなり好ましい一方、記録密度化のためには狭い方が好ましい。従って、幅は10nm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmである。
【0011】
次に、遷移ノイズを下げるためには、本発明の磁気記録媒体における磁性領域の形状は、長方形あるいは正方形あるいはこれらのコーナーが丸まったものでもよく、さらに円形状、楕円状でも構わない。
【0012】
これらの磁性領域間の距離は狭い方が高記録密度化には有利であるが隣接トラックの影響、遷移ノイズを下げる意味合いからは広い方が好ましい。従って、磁性領域間の距離は10nm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmである。非磁性無機物からなる非磁性領域の幅は10nm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmである。
【0013】
2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む層を、モールドを用いたナノインプリントで形成するにあたり、細かなパターンを形成するにはモールドの加工精度が問題となってくる。そこで、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む層上で磁性体を自己組織化することが、本発明の好ましい態様である。
【0014】
この際、磁性領域が狭い方が自己組織化には有利である。そこで、磁性領域の幅としては10nm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmである。非磁性無機物の幅は10nm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜200nmである。
【0015】
実質的に球形の磁性体の自己組織化は最密充填構造をとるので、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む領域で囲まれた磁性領域の形状は正三角形、正三角形を二つ合わせたひし形、正六角形、あるいはこれらのコーナーが丸まった形状であることが好ましい。
【0016】
本発明の磁気記録媒体は、支持体上に、(1)2〜5のいずれかの原子価を有する金属を含む表面処理剤をナノインプリントにより転写し、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む領域(金属含有層)を形成、その後、(2)CuAu型またはCuAu型強磁性規則合金あるいはこれらを形成する合金粒子を塗布、(3)必要であればCuAu型またはCuAu型強磁性規則合金を形成する処理(アニール処理)により製造することが好ましい。
【0017】
本発明で好ましく用いられる2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む表面処理剤は、下記一般式〔I〕で表わされるものであることが好ましい。
【0018】
(R)−M−(X)・・・一般式〔I〕

【0019】
一般式〔I〕において、Mは2価〜5価の原子価を有する金属を表わし、(m+n)は金属の原子価に相当する整数を表わす。Rは、疎水性官能基であり、ポリマーであってもよく、m個のRは同じでも異なっていてもよい。Xは反応性基を表し、n個のXは同じでも異なっていてもよく、少なくとも1つは基板または下層と反応して結合を形成する基である。
【0020】
Mは、2価〜5価の原子価を有する金属を表わすが、該金属としては、IIB族、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VA族、VB族から選ばれる。好ましい金属としては、Zn、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、V、Al、Ga、In、Sb、Biであり、特に好ましくはSi、Ti、Alである。
【0021】
Xで表わされる反応性基のうち、基板または下層と反応性を有する基としては、例えば、(1)ビニル基、アリルオキシ基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、イソシアナト基、ホルミル基、エポキシ基、スチリル基、ウレイド基、ハロゲンなどの反応性基、又はこれらを末端に有するアルキル基、(2)末端に−SH、−CN、−NH、−SOOH、−SOOH、−OPO(OH)、−COOHなどの吸着性の基を有するアルキル基、(3)メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基などアルコキシ基、及び(4)フェノキシ基が挙げられる。これらのアルキル基、アルコキシ基及びフェノキシ基としては、炭素数が8以下のものが望ましい。また、これらのアルキル基、アルコキシ基及びフェノキシ基はさらに置換基を有していてもよい。
【0022】
Rで表される有機性基のうち、疎水性を有する基としては、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリル基、複素環基、脂環式基などの炭化水素基やジメチルシロキサン基やフッ素基等が好ましい。これら疎水性有機基を有する表面処理剤は、基板または下層が親水性の場合に用いる。
【0023】
前記末端に疎水性基を持つ表面処理剤としては、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルメトキシジクロロシラン、3−ブテニルトリエトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリクロロシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリクロロシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリクロロシラン、n−デシルメチルジエトキシシラン、n−デシルメチルジメトキシシラン、n−デシルメチルジクロロシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、イソオクタデシルトリエトキシシラン、イソオクタデシルトリメトキシシラン、イソオクタデシルトリクロロシラン、
【0024】
ジヘキシルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジクロロシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジクロロシラン、1,3−ジオクチルテトラメチルジシラザン、ドコセニルトリエトキシシラン、ドコセニルトリメトキシシラン、ドコセニルトリクロロシラン、ドコシルメチルジエトキシシラン、ドコシルメチルジメトキシシラン、ドコシルメチルジクロロシラン、ドデシルメチルジエトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリクロロシラン、エイコシルトリエトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、エイコシルトリクロロシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリクロロシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリクロロシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリクロロシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、
【0025】
イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリクロロシラン、3−メトキシプロピルトリエトキシシラン、3−メトキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシプロピルトリクロロシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ノニルトリエトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、ノニルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリクロロシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリクロロシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリクロロシラン、ウンデシルトリエトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリクロロシラン、
【0026】
7−オクテニルトリエトキシシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリクロロシラン、ビニロキシトリエトキシシラン、ビニロキシトリメトキシシラン、ビニロキシトリ−t−ブトキシシラン、ビニロキシトリプロポキシシラン、ビニロキシトリクロロシラン、3−メルカプトプロピルチタニウムトリメトキシド、3−メルカプトプロピルトリエトキシゲルマン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシスズ、3−メタクリルオキシプロピルトリt−ブトキシスズ、ビニル−トリス(2−エトキシメトキシ)鉛(IV)、3−メタクリルオキシプロピルテトラメトキシアンチモン(V)、3−メルカプトプロピルビスマス(III)ジt−ペントキシド、などを挙げることができる。
【0027】
これらの化合物の中でも、取り扱い易さ及び安全性の点から、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、イソオクタデシルトリエトキシシラン、イソオクタデシルトリメトキシシランが好ましい。
【0028】
本発明の磁気記録媒体におけるCuAu型またはCuAu型強磁性規則合金相を形成している磁性粒子は、金属酸化物マトリックス中に含有された状態で磁性層となり、これが支持体上に形成されていることが好ましい。
金属酸化物マトリックス中に上記磁性粒子を含有する層を磁性層とすることで、高い保磁力を有しながら、当該磁性層の耐傷性を高め、支持体との密着性を高めることができる。
【0029】
これは、強磁性規則合金とするためのアニール処理を施しても、金属酸化物マトリックスがバインダーとしての役割を果たすため、支持体との密着性を高い状態に維持することが可能となるからである。また、アニール処理を行っても、金属酸化物マトリックスの構成が変化せずに、強固な磁性層が形成されるため、有機分散剤やポリマーの炭化による膜強度の低下が抑制され、耐傷性を向上させることができる。
【0030】
さらに、金属酸化物マトリックスに含有された磁性粒子は、互いに凝集することがなく、高分散な状態を維持することができるので、強磁性を効率よく発揮することができる。

【0031】
金属酸化物マトリックスは非磁性であることが好ましい。非磁性とすることで、単磁区構造を持つ磁性粒子間の接触がなくなり、磁気記録したときの遷移ノイズが減少するといった効果が得られる。
【0032】
非磁性の金属酸化物マトリックスは、シリカ、チタニアおよびポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス剤からなることが好ましく、具体的には、オルガノシリカゾル(例えば、日産化学製シリカゾル、シーアイ化成製ナノテックSiO)、オルガノチタニアゾル(例えば、シーアイ化成製ナノテックTiO)およびシリコーン樹脂(例えば、東レ製トレフィルR910)からなる群から選ばれる少なくとも1種のマトリックス剤からなることが好ましい。上記材料は、磁性層の耐傷性および密着性を高めるのに特に有効である。
なお、上記マトリックス剤が主成分となっていれば、これらの他に種々の公知の添加剤が磁性層中に添加されていてもよい。
【0033】
マトリックス剤の添加量は、磁性粒子の全体積に対して、1〜50体積%であり、好ましくは2〜30体積%、より好ましくは3〜20体積%である。なお、磁性層の形成方法については、後述の「磁気記録媒体の製造方法」で説明する。
【0034】
また、磁性層上に保護層を形成することで、耐磨耗性を改善し、さらにその保護層上に潤滑剤を塗布して滑り性を高めることによって、十分な信頼性を有する磁気記録媒体とすることができる。
【0035】
保護層の材質としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物;窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物;炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物;グラファイト、無定型カーボンなどの炭素(カーボン);等があげられるが、CおよびSiの少なくともいずれかを含有してなるものが好ましい。
【0036】
CおよびSiの少なくともいずれかを含有してなるものとしては、シリカ、窒化ケイ素等のSi化合物;炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物;グラファイト、無定型カーボンなどの炭素(カーボン)が挙げられる。特に好ましくは、ダイヤモンドライクカーボンと呼ばれる硬質の非晶質のカーボンである。また、SiあるいはCを含有するゾルゲル膜で構成しても良い。
【0037】
カーボンからなるカーボン保護層は、非常に薄い膜厚で十分な耐磨耗性を有し、摺動部材に焼き付きを生じ難いため、保護層の材料としては好適である。
カーボン保護層の形成方法として、ハードディスクにおいては、スパッタリング法が一般的であるが、ビデオテープ等の連続成膜を行う必要のある製品ではより成膜速度の高いプラズマCVDを用いる方法が多数提案されている。従って、これらの方法を適用することが好ましい。
【0038】
中でもプラズマインジェクションCVD(PI−CVD)法は成膜速度が非常に大きく、得られるカーボン保護層も硬質かつピンホールが少ない良質なものとなることが報告されている(例えば、特開昭61−130487号公報、特開昭63−279426号公報、特開平3−113824号公報等)。
【0039】
このカーボン保護層は、ビッカース硬度で1000kg/mm以上であることが好ましく、2000kg/mm以上であることがより好ましい。また、その結晶構造はアモルファス構造であり、かつ、非導電性であることが好ましい。
【0040】
そして、カーボン保護層として、ダイヤモンド状炭素(ダイヤモンドライクカーボン)膜を使用した場合、この構造はラマン光分光分析によって確認することができる。すなわち、ダイヤモンド状炭素膜を測定した場合には、1520〜1560cm−1にピークが検出されることによって確認することができる。炭素膜の構造がダイヤモンド状構造からずれてくるとラマン光分光分析により検出されるピークが上記範囲からずれるとともに、保護層としての硬度も低下する。
【0041】
このカーボン保護層を形成するための炭素原料としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン等のアルカン;エチレン、プロピレン等のアルケン;アセチレン等のアルキン;をはじめとした炭素含有化合物を用いることが好ましい。また、必要に応じてアルゴンなどのキャリアガスや膜質改善のための水素や窒素などの添加ガスを加えることができる。
【0042】
カーボン保護層の膜厚が厚いと、電磁変換特性の悪化や磁性層に対する密着性の低下が生じ、膜厚が薄いと耐磨耗性が不足する。従って、膜厚は、2.5〜20nmとすることが好ましく、5〜10nmとすることがより好ましい。
また、この保護層と基板となる磁性層の密着性を改善するために、あらかじめ磁性層表面を不活性ガスでエッチングしたり、酸素等の反応性ガスプラズマに曝して表面改質する事が好ましい。
【0043】
潤滑剤層は、走行耐久性および耐食性を改善するため、保護層上に形成される。潤滑剤層を形成するために添加する潤滑剤としては、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤などが使用できる。潤滑剤層としては、Fを含有していることが好ましい。
【0044】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類;ステアリン酸ブチル等のエステル類;オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類;リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類;ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類;ステアリルアミン等のアミン類;などが挙げられる。
【0045】
本発明において好ましく用いられるフッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。
【0046】
パーフルオロポリエーテル基としては、パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CFCFCFO)、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF)CFO)またはこれらの共重合体等である。
本発明の潤滑剤層は主にフッ素系潤滑剤から構成され、その塗布厚は2〜20nmが好ましく、さらに好ましくは5〜10nmである。
また、炭化水素系潤滑剤のアルキル基の末端や分子内に水酸基、エステル基、カルボキシル基などの極性官能基を有する化合物が、摩擦力を低減する効果が高く好適である。
【0047】
さらに、この分子量は、500〜5000、好ましくは1000〜3000である。500〜5000とすることで、揮発性を低く維持し、また潤滑性を高い状態に維持することが可能となり、また、スライダーとディスクと吸着を防ぎ、走行停止やヘッドクラッシュなどの発生を防ぐことができる。
【0048】
このパーフルオロポリエーテルは、具体例的には、アウジモンド社製のFOMBLIN、デュポン社製のKRYTOXなどの商品名で市販されている。
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類;トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類;二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤;などが挙げられる。
【0049】
前記潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用される。これらの潤滑剤を保護層上に付与する方法としては、潤滑剤を有機溶剤に溶解し、ワイヤーバー法、グラビア法、スピンコート法、ディップコート法等で塗布するか、真空蒸着法によって付着させればよい。
【0050】
また、潤滑剤とともに、防錆剤を使用してもよい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体;ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体;等が挙げられる。
【0051】
磁性層は電磁変換特性を改善するため重層構成としたり、磁性層の下に非磁性層や公知の中間層を有していてもよい。
【0052】
支持体と磁性層との間に非磁性層を形成する場合、当該非磁性層としては、金属アルコキシド化合物、金属フェノキシド化合物、カップリング剤からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0053】
上記金属アルコキシド化合物または上記金属フェノキシド化合物は、無機質と結合する反応基を分子中に2つ以上有しているものが好ましい。
上記カップリング剤は、分子中に反応基を2つ以上有し、その中の少なくとも一つが無機質と結合し、残りの少なくとも一つが有機質と結合することにより、無機質と有機質の橋かけを行なうものである。
以下、金属アルコキシド化合物、金属フェノキシド化合物、及びカップリング剤をまとめて「非磁性層用化合物」という。
【0054】
非磁性層用化合物は、下記一般式〔II〕で表わされる化合物が好ましい。
M−(R)n …一般式〔II〕
一般式〔II〕において、Mは3価ないし5価の原子価を有する金属を表わし、nは金属の原子価に相当する整数を表わす。Rは同じであっても異なっていてもよく、その中の少なくとも1つはアルコキシ基またはフェノキシ基を表わす。
【0055】
Mは3価ないし5価の原子価を有する金属を表わすが、該金属としては、IIIA族、IIIB族、IVA族、IVB族、VA族、VB族から選ばれる。好ましい金属としては、Si、Ge、Sn、Pb、Ti、V、Al、Ga、In、Sb、Biである。
【0056】
で表わされるアルコキシ基としては、炭素数が8以下のものが望ましく、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基などが挙げられ、化合物中の複数のアルコキシ基は同じでも異なってもよい。また、アルコキシ基やフェノキシ基はさらに置換基を有していてもよい。Rで表わされる残りの置換基としては任意のものでよいが、好ましくは末端に吸着性の基を有する炭素数が8以下のものである。吸着性の基としては、−SH、−CN、−NH、−SOOH、−SOOH、−OPO(OH)、−COOH等が挙げられる。
【0057】
以下に、非磁性層用化合物の具体例を列挙するが、これらの化合物に限定されるものではない。
テトラエトキシオルソシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノフェノキシジメチルビニルシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、チタニウムジクロライドジエトキシド、テトラエトキシチタン、テトラ−n−ブトキシゲルマン、3−メルカプトプロピルトリエトキシゲルマン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシゲルマン、アミノフェニルアルミニウムジメトキシド、3−アミノプロピルゲルマニウムジエトキシド、アミノプロピルインジウムジメトキシエトキシド、テトライソプロポキシスズ−イソプロパノール付加物、
【0058】
3−グリシドキシプロピルトリエトキシスズ、3−メタクリルオキシプロピルトリt−ブトキシスズ、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシスズ、ビニル−トリス(2−エトキシメトキシ)鉛(IV)、3−メタクリルオキシプロピルテトラメトキシアンチモン(V)、3−メルカプトプロピルビスマス(III)ジt−ペントキシド、3−アミノプロピルバナジウムジブトキシドオキシド、アミノプロピルインジウムジメトキシエトキシド、などである。
【0059】
非磁性層用化合物を、水とアルコール類との混合溶媒に溶解し塗布液を調製する。そして、この塗布液を支持体上に塗布し非磁性層を形成する。該塗布液中には必要に応じてpH調整剤やバインダーを含有してもよい。非磁性層用化合物の塗布量は任意に設定できるが、好ましくは0.1〜10g/mである。非磁性層用化合物は、アルコキシ基またはフェノキシ基の加水分解および脱水縮合により支持体表面を金属化合物が強く被覆し、同時にその上に塗布されるナノ粒子(磁性粒子)にも吸着する。そのため、磁性層との密着性が高い。
【0060】
本発明の磁気記録媒体は、磁性層のほかに必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば、ディスクの場合、磁性層の反対側の面にさらに磁性層や非磁性層を設けることが好ましい。テープの場合、磁性層の反対側の不溶性支持体面上にバック層を設けることが好ましい。
【0061】
磁気記録媒体が磁気テープ等の場合は、非磁性支持体の磁性層が形成されていない面にバックコート層(バッキング層)が設けられていてもよい。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が形成されていない面に、研磨材、帯電防止剤などの粒状成分と結合剤とを公知の有機溶剤に分散したバックコート層形成塗料を塗布して設けられる層である。
【0062】
粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができ、また結合剤としてはニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。
【0063】
また、合金粒子含有液の塗布面およびバックコート層が形成される面には、公知の接着剤層が設けられていてもよい。
【0064】
本発明の磁気記録媒体は、表面の中心線平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおいて、好ましくは0.1〜5nm、より好ましくは1〜4nmの範囲とする。このように、極めて優れた平滑性を有する表面とすることが、高密度記録用の磁気記録媒体として好ましいからである。
このような表面を得る方法として、磁性層を形成した後にカレンダー処理を施す方法が挙げられる。また、バーニッシュ処理を施してもよい。
得られた磁気記録媒体は、適宜、打ち抜き機で打ち抜いたり、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0065】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、強磁性規則合金相を形成し得る合金粒子を液相法もしくは気相法等により作製する合金粒子作製工程、作製した合金粒子に酸化処理を施す酸化処理工程、酸化処理後に非酸化性雰囲気下でアニール処理を施すアニール処理工程、を有するものである。
以下、上記各工程を説明しながら、本発明の磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0066】
<合金粒子作製工程>
アニール処理により磁性粒子となる合金粒子は、気相法や液相法により製造することができる。量産性に優れることを考慮すると、液相法が好ましい。液相法としては、従来から知られている種々の方法を適用することができるが、これらに改良を加えた還元法を適用することが好ましく、還元法のなかでも粒径が制御しやすい逆ミセル法が特に好ましい。
【0067】
(逆ミセル法)
上記逆ミセル法は、少なくとも、(1)2種の逆ミセル溶液を混合して還元反応を行う還元工程と、(2)還元反応後に所定温度で熟成する熟成工程と、を有する。
以下、各工程について説明する。
【0068】
(1)還元工程:
まず、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と還元剤水溶液とを混合した逆ミセル溶液(I)を調製する。
前記界面活性剤としては、油溶性界面活性剤が用いられる。具体的には、スルホン酸塩型(例えば、エーロゾルOT(和光純薬製))、4級アンモニウム塩型(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド)、エーテル型(例えば、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)などが挙げられる。
【0069】
非水溶性有機溶媒中の界面活性剤量は、20〜200g/リットルであることが好ましい。
【0070】
前記界面活性剤を溶解する非水溶性有機溶媒として好ましいものは、アルカン、エーテルおよびアルコール等が挙げられる。
アルカンとしては、炭素数7〜12のアルカン類であることが好ましい。具体的には、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等が好ましい。
エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等が好ましい。
アルコールとしては、エトキシエタノール、エトキシプロパノール等が好ましい。
【0071】
還元剤水溶液中の還元剤としては、アルコール類;ポリアルコール類;H;HCHO、S2−、HPO、BH、N、HPOなどを含む化合物;を単独で使用、または2種以上を併用することが好ましい。
水溶液中の還元剤量は、金属塩1モルに対して、3〜50モルであることが好ましい。
【0072】
ここで、逆ミセル溶液(I)溶液中の水と界面活性剤との質量比(水/界面活性剤)は、20以下となるようにすることが好ましい。質量比を20以下とすることで、沈殿の発生を抑えることができ、粒径を揃えやすい利点がある。質量比は、15以下とすることが好ましく、0.5〜10とすることがより好ましい。
【0073】
上記とは別に、界面活性剤を含有する非水溶性有機溶媒と金属塩水溶液とを混合した逆ミセル溶液(II)を調製する。
界面活性剤および非水溶性有機溶媒の条件(使用する物質、濃度等)については、逆ミセル溶液(I)の場合と同様である。
なお、上記条件の範囲内であれば、逆ミセル溶液(I)と同種のものまたは異種のものを使用することができる。また、逆ミセル溶液(II)溶液中の水と界面活性剤との質量比も逆ミセル溶液(I)の場合と同様であり、逆ミセル溶液(I)の質量比と同一としてもよく、異なっていてもよい。
【0074】
金属塩水溶液に含有される金属塩としては、作製しようとする磁性粒子がCuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金を形成し得るように、適宜選択することが好ましい。
【0075】
ここで、当該CuAu型強磁性規則合金としては、FeNi、FePd、FePt、CoPt、CoAuなどが挙げられ、なかでもFePd、FePt、CoPtであることが好ましい。
【0076】
CuAu型強磁性規則合金としては、NiFe、FePd、FePt、FePt、CoPt、NiPt、CrPt、NiMnが挙げられ、なかでもFePd、FePt、CoPt、FePd、FePt、CoPtが好ましい。
【0077】
金属塩の具体例としては、HPtCl、KPtCl、Pt(CHCOCHCOCH、NaPdCl、Pd(OCOCH、PdCl、Pd(CHCOCHCOCH、HAuCl、Fe(SO、Fe(NO、(NHFe(C、Fe(CHCOCHCOCH、NiSO、CoCl、Co(OCOCHなどが挙げられる。
【0078】
金属塩水溶液中の濃度(金属塩濃度として)は、0.1〜1000μmol/mlであることが好ましく、1〜100μmol/mlであることがより好ましい。
【0079】
前記金属塩を適宜選択することで、卑な金属と貴な金属とが合金を形成したCuAu型もしくはCuAu型強磁性規則合金を形成し得る合金粒子が作製される。
【0080】
合金粒子は後述するアニール処理によって合金相を不規則相から規則相へ変態させる必要があるが、当該変態温度を下げるために、前記2元系合金に、Sb、Pb、Bi、Cu、Ag、Zn、Inなどの第三元素を加えることが好ましい。これらの第三元素は、それぞれの第三元素の前駆体を、前記金属塩溶液に予め添加しておくことが好ましい。添加量としては、2元系合金に対し、1〜30at%であることが好ましく、5〜20at%であることがより好ましい。
【0081】
以上のようにして調製した逆ミセル溶液(I)と(II)とを混合する。混合方法としては、特に限定されるものではないが、還元の均一性を考慮して、逆ミセル溶液(I)を撹拌しながら、逆ミセル溶液(II)を添加していって混合することが好ましい。混合終了後、還元反応を進行させることになるが、その際の温度は、−5〜30℃の範囲で、一定の温度とすることが好ましい。
還元温度を−5℃〜30℃とすることで、水相が凝結して還元反応が不均一になることを防止することが可能となり、また、凝集または沈殿の発生を抑制することができる利点がある。好ましい還元温度は0〜25℃であり、より好ましくは5〜25℃である。
【0082】
ここで、前記「一定温度」とは、設定温度をT(℃)とした場合、当該TがT±3℃の範囲にあることをいう。なお、このようにした場合であっても、当該Tの上限および下限は、上記還元温度(−5〜30℃)の範囲にあるものとする。
【0083】
還元反応の時間は、逆ミセル溶液の量等により適宜設定する必要があるが、1〜30分とすることが好ましく、5〜20分とすることがより好ましい。
還元反応は、粒径分布の単分散性に大きな影響を与えるため、できるだけ高速攪拌しながら行うことが好ましい。
【0084】
好ましい攪拌装置は高剪断力を有する攪拌装置であり、詳しくは、攪拌羽根が基本的にタービン型あるいはパドル型の構造を有し、さらに、その羽根の端もしくは、羽根と接する位置に鋭い刃を付けた構造であり、羽根をモーターで回転させる攪拌装置である。具体的には、ディゾルバー(特殊機化工業製)、オムニミキサー(ヤマト科学製)、ホモジナイザー(SMT製)などの装置が有用である。これらの装置を用いることにより、単分散な合金粒子を安定な分散液として合成することができる。
【0085】
前記逆ミセル溶液(I)および(II)の少なくともいずれかに、アミノ基またはカルボキシ基を1〜3個有する少なくとも1種の分散剤を、作製しようとする合金粒子1モル当たり、0.001〜10モル添加することが好ましい。
かかる分散剤を添加することで、より単分散で、凝集の無い合金粒子を得ることが可能となる。
添加量を0.001〜10モルとすることで、合金粒子の単分散性をより向上させることが可能となり、また、凝集の発生を防ぐことができる。
【0086】
前記分散剤としては、合金粒子表面に吸着する基を有する有機化合物が好ましい。具体的には、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基またはスルフィン酸基を1〜3個有するものであり、これらを単独または併用して用いることができる。
【0087】
構造式としては、R−NH、NH−R−NH、NH−R(NH)−NH、R−COOH、COOH−R−COOH、COOH−R(COOH)−COOH、R−SOH、SOH−R−SOH、SOH−R(SOH)−SOH、R−SOH、SOH−R−SOH、SOH−R(SOH)−SOHで表される化合物であり、式中のRは直鎖、分岐または環状の飽和、不飽和の炭化水素である。
【0088】
分散剤として特に好ましい化合物はオレイン酸である。オレイン酸はコロイドの安定化において周知の界面活性剤であり、鉄等の金属粒子を保護するのに用いられてきた。オレイン酸の比較的長い(たとえば、オレイン酸は18炭素鎖を有し長さは〜20オングストローム(〜2nm)である。オレイン酸は脂肪族ではなく二重結合が1つある)鎖は粒子間の強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与える。
【0089】
エルカ酸やリノール酸など類似の長鎖カルボン酸もオレイン酸同様に(たとえば、8〜22の間の炭素原子を有する長鎖有機酸を単独でまたは組み合わせて用いることができる)用いられる。オレイン酸は(オリーブ油など)容易に入手できる安価な天然資源であるので好ましい。また、オレイン酸から誘導されるオレイルアミンもオレイン酸同様有用な分散剤である。
【0090】
以上のような還元工程では、CuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金相中のCo、Fe、Ni、Cr等の酸化還元電位が卑な金属(−0.2V(vs.N.H.E)程度以下の金属)が還元され、極小サイズで単分散な状態で析出するものと考えられる。その後、昇温段階および後述する熟成工程において、析出した卑な金属を核とし、その表面で、Pt、Pd、Rh等の酸化還元電位が貴な金属(−0.2V(vs.N.H.E)程度以上の金属)が卑な金属で還元されて置換、析出する。イオン化した卑な金属は還元剤で再度還元されて析出すると考えられる。このような繰返しによって、CuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金を形成し得る合金粒子が得られる。
【0091】
(2)熟成工程:
還元反応終了後、反応後の溶液を熟成温度まで昇温する。
前記熟成温度は、30〜90℃で一定の温度とすることが好ましく、その温度は、前記還元反応の温度より高くする。また、熟成時間は、5〜180分とすることが好ましい。熟成温度および時間が上記範囲より高温長時間側にずれると、凝集または沈殿が起きやすく、逆に低温短時間側にずれると、反応が完結しなくなり組成が変化することがある。好ましい熟成温度および時間は40〜80℃および10〜150分であり、より好ましい熟成温度および時間は40〜70℃および20〜120分である。
【0092】
ここで、前記「一定温度」とは、還元反応の温度の場合と同義(但し、この場合、「還元温度」は「熟成温度」となる)であるが、特に、上記熟成温度の範囲(30〜90℃)内で、前記還元反応の温度より5℃以上高いことが好ましく、10℃以上高いことがより好ましい。5℃以上高くすることで、処方通りの組成が得られやすくなる。
【0093】
以上のような熟成工程では、還元工程で還元析出した卑な金属上に貴な金属が析出する。
すなわち、卑な金属上でのみ貴な金属の還元が起こり、卑な金属と貴な金属とが別々に析出することが無いため、効率良くCuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金を形成し得る合金粒子を、高収率で処方組成比どおりに作製することが可能で、所望の組成に制御することができる。また、熟成の際の温度の撹拌速度を適宜調整することで、得られる合金粒子の粒径を所望なものとすることができる。
【0094】
前記熟成を行った後は、水と1級アルコールとの混合溶液で前記熟成後の溶液を洗浄し、その後、1級アルコールで沈殿化処理を施して沈殿物を生成させ、該沈殿物を有機溶媒で分散させる洗浄・分散工程を設けることが好ましい。
かかる洗浄・分散工程を設けることで、不純物が除去され、磁気記録媒体の磁性層を塗布により形成する際の塗布性をより向上させることができる。
上記洗浄および分散は、少なくともそれぞれ1回、好ましくは、それぞれ2回以上行う。
【0095】
洗浄で用いる前記1級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、メタノール、エタノール等が好ましい。体積混合比(水/1級アルコール)は、10/1〜2/1の範囲にあることが好ましく、5/1〜3/1の範囲にあることがより好ましい。
体積混合比を10/1〜2/1の範囲とすることで、界面活性剤が除去されやすくなり、凝集の発生を抑制することができる。
【0096】
以上のようにして、溶液中に分散した合金粒子(合金粒子含有液)が得られる。
当該合金粒子は、単分散であるため、支持体に塗布しても、これらが凝集することなく均一に分散した状態を保つことができる。従って、アニール処理を施しても、それぞの合金粒子が凝集することがないため、効率良く強磁性化することが可能で、塗布適性に優れる。
【0097】
後述する酸化処理前の合金粒子の粒径は、ノイズを下げる観点から小さいことが好ましいが、小さすぎるとアニール後に超常磁性となり、磁気記録に不適当となることがある。一般に、1〜100nmであることが好ましく、1〜20nmであることがより好ましく、3〜10nmであることがさらに好ましい。
【0098】
(還元法)
還元法でCuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金を形成し得る合金粒子を作製するには種々の方法があるが、少なくとも、酸化還元電位が卑な金属(以下、単に「卑な金属」ということがある)と、酸化還元電位が貴な金属(以下、単に「貴な金属」ということがある)と、を有機溶剤もしくは水、または有機溶剤と水との混合溶液中で還元剤等を使用して還元する方法を適用することが好ましい。
卑な金属と貴な金属との還元順序は、特に限定されず、同時に還元してもよい。
【0099】
前記有機溶剤としては、アルコール、ポリアルコール等を使用することが可能で、アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、ポリアルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
なお、CuAu型あるいはCuAu型強磁性規則合金の例としては、既述の逆ミセル法の場合と同様である。
また、貴な金属を先に析出させて合金粒子を調製する方法としては、特願2001−269255号の段落18〜30等に記載の方法等を適用することができる。
【0100】
酸化還元電位が貴な金属としては、Pt、Pd、Rh等が好ましく用いることができ、HPtCl・6HO、Pt(CHCOCHCOCH、RhCl・3HO、Pd(OCOCH、PdCl、Pd(CHCOCHCOCH等を溶媒に溶解して用いることができる。溶液中の金属の濃度は、0.1〜1000μmol/mlが好ましく、0.1〜100μmol/mlがより好ましい。
【0101】
また、酸化還元電位が卑な金属としては、Co、Fe、Ni、Crを好ましく用いることができ、特に好ましくは、Fe、Coである。このような金属は、FeSO・7HO、NiSO・7HO、CoCl・6HO、Co(OCOCH・4HO等を溶媒に溶解して用いることができる。溶液中の金属の濃度は、0.1〜1000μmol/mlが好ましく、0.1〜100μmol/mlがより好ましい。
【0102】
また、既述の逆ミセル法と同様に2元系合金に、第三元素を加える事で強磁性規則合金への変態温度を下げる事が好ましい。添加量としては逆ミセル法と同様である。
【0103】
例えば、還元剤を用いて卑な金属と貴な金属とをこの順に還元して析出させる場合、−0.2V(vs.N.H.E)より卑な還元電位を持つ還元剤を用いて卑な金属あるいは卑な金属と貴な金属の一部を還元したものを、貴な金属源に加え酸化還元電位が−0.2V(vs.N.H.E)より貴な還元剤を用いて還元した後、−0.2V(vs.N.H.E)より卑な還元電位を持つ還元剤を用いて還元する事が好ましい。
【0104】
酸化還元電位は系のpHに依存するが、酸化還元電位が−0.2V(vs.N.H.E)より貴な還元剤には、1,2−ヘキサデカンジオール等のアルコール類、グリセリン類、H、HCHOが好ましく用いられる。
−0.2V(vs.N.H.E)より卑な還元剤にはS2−、HPO、BH、N、HPOが好ましく用いる事ができる。
なお、卑な金属の原料として、Feカルボニル等の0価の金属化合物と用いる場合は、特に卑な金属の還元剤は必要ない。
【0105】
貴な金属を還元析出させる際に吸着剤を存在させる事で合金粒子を安定して調製することができる。吸着剤としてはポリマーや界面活性剤を使用することが好ましい。
【0106】
前記ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリN−ビニル−2ピロリドン(PVP)、ゼラチン等が挙げられる。なかでも、特に好ましくはPVPである。
【0107】
また、分子量は2万〜6万が好ましく、より好ましくは3万〜5万である。ポリマーの量は生成する合金粒子の質量の0.1〜10倍であることが好ましく、0.1〜5倍がより好ましい。
【0108】
吸着剤として好ましく用いられる界面活性剤は、一般式(III):R−X、で表される長鎖有機化合物である「有機安定剤」を含むことが好ましい。上記一般式中のRは、直鎖または分岐ハイドロカーボンまたはフルオロカーボン鎖である「テール基」であり、通常8〜22個の炭素原子を含む。また、上記一般式(III)中のXは、合金粒子表面に特定の化学結合を提供する部分(X)である「ヘッド基」であり、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(−SOOH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH))、カルボキシレート、およびチオールのいずれかであることが好ましい。
【0109】
前記有機安定剤としては、スルホン酸(R−SOOH)、スルフィン酸(R−SOOH)、ホスフィン酸(RPOOH)、ホスホン酸(R−OPO(OH))、カルボン酸(R−COOH)、チオール(R−SH)等のいずれかであることが好ましい。これらのなかでも、逆ミセル法と同様のオレイン酸が特に好ましい。
【0110】
前記ホスフィンと有機安定剤との組合せ(トリオルガノホスフィン/酸等)は、粒子の成長および安定化に対する優れた制御性を提供することができる。ジデシルエーテルおよびジドデシルエーテルも用いることができるが、フェニルエーテルまたはn−オクチルエーテルはその低コストおよび高沸点のため溶媒として好適に用いられる。
【0111】
反応は必要な合金粒子および溶媒の沸点により80℃〜360℃の範囲の温度で行うことが好ましく、80℃〜240℃がより好ましい。80℃〜360℃とすることで、粒子の成長を促進することが可能となり、望ましくない副産物の生成を抑制することができる。
【0112】
合金粒子の粒径は逆ミセル法と同様で、1〜100nmが好ましく、より好ましくは3〜20nmであり、さらに好ましくは3〜10nmである。
【0113】
粒子サイズ(粒径)を大きくする方法としては種晶法が有効である。磁気記録媒体として用いるには合金粒子を最密充填することが記録容量を高くする上で好ましく、そのためには、合金粒子のサイズの標準偏差は10%未満が好ましく、より好ましくは5%以下である。粒子サイズの変動係数は10%未満が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0114】
粒子サイズが小さすぎると超常磁性となり好ましくない。そこで粒子サイズを大きくするため既述のように、種晶法を用いることが好ましい。その際、粒子を構成する金属より貴な金属を析出させるケースが出てくる。このとき、粒子の酸化が懸念されるため、予め粒子を水素化処理することが好ましい。
【0115】
合金粒子の最外層は酸化防止の観点から貴な金属にすることが好ましいが、凝集しやすいため、本発明では貴な金属と卑な金属との合金であることが好ましい。かかる構成は、既述のような、液相法によれば容易かつ効率良く実現させることができる。
【0116】
合金粒子合成後に溶液から塩類を除くことは、合金粒子の分散安定性を向上させる意味から好ましい。脱塩にはアルコールを過剰に加え、軽凝集を起こし、自然沈降あるいは遠心沈降させ塩類を上澄みと共に除去する方法があるが、このような方法では凝集が生じやすいため、限外濾過法を採用することが好ましい。
【0117】
以上のようにして、溶液中に分散した合金粒子(合金粒子含有液)が得られる。
得られた合金粒子含有液に既述のマトリックス剤を添加して、磁性層を形成するための塗布液(磁性層塗布液)を調製する。このとき、必要に応じて種々の添加剤を添加してもよい。マトリックス剤は、既述のものを1種以上添加し、その含有量が、0.007〜1.0μg/mlなるようにすることが好ましく、0.01〜0.7μg/mlとなるようにすることがより好ましい。
【0118】
合金粒子の粒径評価には透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることができる。合金粒子もしくは磁性粒子の結晶系を決めるにはTEMによる電子回折でもよいが、X線回折を用いた方が精度が高いため好ましい。合金粒子もしくは磁性粒子の内部の組成分析には、電子線を細く絞ることができるFE−TEMにEDAXを付け評価することが好ましい。また、合金粒子もしくは磁性粒子の磁気的性質の評価はVSMを用いて行うことができる。
【0119】
<酸化処理工程>
作製した合金粒子に酸化処理を施すことで、後の非酸化性雰囲気下でアニール処理を施す際の温度を高くすることなく、強磁性を有する磁性粒子を効率よく製造することができる。これは、以下に説明する現象によると考えられる。
【0120】
すなわち、まず、合金粒子を酸化することで、その結晶格子上に酸素が進入する。酸素が進入した状態でアニール処理を行うと、熱により酸素が結晶格子上から脱離する。酸素が脱離することで欠陥が生じ、かかる欠陥を通じて合金を構成する金属原子の移動が容易になるため、比較的低温でも相変態が起こりやすくなると考えられる。
かかる現象は、例えば、酸化処理後の合金粒子とアニール処理を行った磁性粒子とをEXAFS(広範囲X線吸収微細構造)測定することで、推察される。
【0121】
例えば、Fe−Pt合金粒子で酸化処理を施さない合金粒子では、Fe原子と、Pt原子やFe原子との結合の存在が確認できる。
これに対し、酸化処理を施した合金粒子では、Fe原子と酸素原子との結合の存在を確認できる。しかし、Pt原子やFe原子との結合はほとんど見えなくなる。このことは、酸素原子によりFe−Pt、Fe−Feの結合が切られていることを意味する。これによりアニール時にPt原子やFe原子が動きやすくなったと考えられる。
そして、当該合金粒子にアニール処理を施した後は、酸素の存在を確認することができず、Fe原子の周りにはPt原子やFe原子との結合の存在が確認できる。
【0122】
上記現象を考慮すれば、酸化しないと相変態が進行しにくくなりアニール処理温度を高くする必要が生じることがわかる。しかし、過度に酸化するとFe等の酸化されやすい金属と酸素との相互作用が強くなりすぎて金属酸化物が生成してしまうことも考えられる。
よって、合金粒子の酸化状態を制御することが重要となり、そのためには酸化処理条件を最適なものに設定する必要がある。
【0123】
酸化処理は、例えば、既述の液相法などにより合金粒子を作製した場合は、作製した後の合金粒子含有液または磁性層塗布液に少なくとも酸素を含有するガスを供給すればよい。
このときの酸素分圧は、全圧の10〜100%とすることが好ましく、15〜50%とすることが好ましい。
また、酸化処理温度は、0〜100℃とすることが好ましく、15〜80℃とすることが好ましい。
【0124】
合金粒子の酸化状態は、EXAFS等で評価することが好ましく、Fe等の卑な金属と酸素との結合数は、酸素によりFe−Fe結合、Pt−Fe結合を切るという観点から、0.5〜4であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。
【0125】
また、酸化処理は、上記合金粒子を支持体上などに塗布もしくは固定した状態で、室温(0〜40℃)で空気中に暴露して行ってもよい。支持体上等で塗布した状態で行うことで、合金粒子の凝集を防ぐことができる。当該酸化処理の時間としては、1時間〜48時間とすることが好ましく、3時間〜24時間とすることがより好ましい。
【0126】
<アニール処理工程>
酸化処理を施した合金粒子は不規則相である。既述のように不規則相では強磁性は得られない。そこで、規則相とするためには、熱処理(アニール)を施す必要がある。前記熱処理は、示差熱分析(DTA)を用い、合金粒子を構成する合金が規則不規則変態する変態温度を求め、その温度以上で行う事が必要である。
【0127】
上記変態温度は、通常500℃程度であるが、第三元素の添加により下がることがある。また、既述の酸化処理やアニール処理の雰囲気を適宜変えることで、上記変態温度を下げることができる。従って、アニール処理温度は150℃以上とすることが好ましく、150〜450℃とすることがより好ましい。
【0128】
磁気記録媒体として代表的なものに磁気記録テープ、フロッピー(登録商標)ディスクがある。これらは有機物支持体上にウェブ状態で磁性層を形成した後、前者ではテープ状に加工し、後者ではディスク状に打ち抜き製造する。本発明は強磁性への変態温度を下げることができるという点において、有機物支持体を用いる際に有効であり、これらへの応用は好ましい対応である。
【0129】
ウェブ状態でアニール処理を施すには、アニール時間は短い方が好ましい。これはアニール時間が長いと装置が長大なものとなるためである。例えば、ウェブの搬送速度を50m/minでアニール時間を30分とした場合、ライン長は1500mmになってしまう。そこで、本発明の磁性粒子の製造方法において、好ましいアニール処理時間は10分以下とすることが好ましく、5分以下とすることがより好ましい。
【0130】
また、アニール処理時間を上記のように短縮するため、アニール処理の雰囲気は、後述するように、還元雰囲気とすることが好ましい。これは、支持体の変形を防止する上で有効であり、支持体からの不純物の拡散を防止する上でも有効である。
【0131】
また、粒子状態でアニール処理を施すと粒子の移動が起こりやすく融着が生じやすい。このため高い保磁力は得られるが粒子サイズが大きくなる欠点を有しやすい。従ってアニール処理は、合金粒子の凝集を防ぐ観点から、支持体上などで塗布した状態で行うことが好ましい。
さらに、支持体上で合金粒子をアニールして磁性粒子とすることで、かかる磁性粒子からなる層を磁性層とした磁気記録媒体に供することができる。
【0132】
支持体としては、磁気記録媒体に使用される支持体であれば、無機物および有機物のいずれでもよい。
無機物の支持体としては、Al、Al−Mg、Mg−Al−Zn等のMg合金、ガラス、石英、カーボン、シリコン、セラミックス等が用いられる。これらの支持体は耐衝撃性に優れ、また薄型化や高速回転に適した剛性を有する。また、有機物の支持体と比較して、熱に強い特徴を有している。
【0133】
有機物の支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類;ポリオレフィン類;セルロ−ストリアセテート、ポリカ−ボネート、ポリアミド(脂肪族ポリアミドやアラミド等の芳香族ポリアミドを含む)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン、ポリベンゾオキサゾール;等を用いる事ができる。
【0134】
支持体上に合金粒子を塗布するには、前記酸化処理を施した後の磁性層塗布液を支持体上に塗布すればよい。
このときの合金粒子の含有量は所望の濃度(0.01〜0.1mg/ml)とすることが好ましい。
【0135】
支持体上に塗布する方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。
アニール処理を施す際の雰囲気としては、相変態を効率良く進行させ合金の酸化を防ぐため、H、N、Ar、He、Ne等の非酸化性雰囲気下とする。
特に、酸化処理により格子上に存在する酸素を脱離させる観点から、メタン、エタン、H等の還元性雰囲気とすることが好ましい。さらに、粒径維持の観点から、還元性雰囲気下の磁場中でアニール処理を行うことが好ましい。なお、H雰囲気とする場合は防爆の観点から、不活性ガスを混合させることが好ましい。
【0136】
また、アニール時に粒子の融着を防止するために、変態温度以下、不活性ガス中で一旦アニール処理を行い、分散剤を炭化した後、還元性雰囲気中で変態温度以上でアニール処理を行うことが好ましい。このとき、必要に応じて変態温度以下の前記アニール処理後に、合金粒子からなる層上にSi系の樹脂等を塗布し、変態温度以上でアニール処理を行うことが最も好ましい態様である。
【0137】
以上のようなアニール処理を施すことで、合金粒子が不規則相から規則相に相変態し、強磁性を有する磁性粒子が得られる。
【0138】
以上のようにして製造される磁性粒子は、その保磁力が95.5〜398kA/m(1200〜5000Oe)であることが好ましく、磁気記録媒体に適用した場合、記録ヘッドが対応できることを考慮して95.5〜278.6kA/m(1200〜3500Oe)であることがより好ましい。
また、当該磁性粒子の粒径は1〜100nmであることが好ましく、3〜20nmであることがより好ましく、3〜10nmであることがさらに好ましい。
【0139】
支持体上に磁性層を形成した後は、既述のように、保護層、潤滑剤層等を形成して、本発明の磁気記録媒体が作製される。
【0140】
ところで、アニール処理により磁性層となる前のCuAu型またはCuAu型強磁性規則合金相を形成する層(合金層)の形成方法としては、所望の合金を支持体上に析出させて合金層を形成する方法を適用してもよい。当該方法としては、特に限定されないが、スパッタ製膜法を用いる方法が好ましい。
【0141】
スパッタ製膜法には、「RFマグネトロンスパッタ法(以下、「RFスパッタ法」ということがある)」、「DCマグネトロンスパッタ法」、「反応性スパッタ法」があり、いずれの方法を用いてもかまわない。
当該スパッタ製膜法により、磁性結晶粒の周囲を酸化物や窒化物等の非磁性物質の結晶粒が囲んだ構造(グラニュラー構造)の合金層が形成される。
【0142】
上記のスパッタ製膜により支持体上に層を形成した後は、既述の酸化処理(空気中等に晒す酸化処理)、アニール処理等を施せばよい。
一般にトラックは長手方向に記録ビットが並んで形で構成されているが、遷移ノイズはピットが直接接しているために互いに磁気的に影響を及ぼしあい、ピットの境界が乱れることにより生じる。
本発明の磁気記録媒体において、ピット間に非磁性物を入れ、磁気的に分断することで互いに磁気的に影響を及ぼしあうことがなく、ピットの境界が乱れないことから遷移ノイズを低下させることができる。
【実施例】
【0143】
以下、実施例をもとに本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
〔実施例1〕
(FePt合金粒子の作製)
高純度Nガス中で下記の操作を行った。
NaBH(和光純薬製)0.76gを水(脱酸素:0.1mg/リットル以下)16mlに溶解した還元剤水溶液に、エーロゾルOT(和光純薬製)10.8gとデカン(和光純薬製)80mlとオレイルアミン(東京化成製)2mlとを混合したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(I)を調製した。
【0145】
三シュウ酸三アンモニウム鉄(Fe(NH(C)(和光純薬製)0.46gと塩化白金酸カリウム(KPtCl)(和光純薬製)0.38gとを水(脱酸素)12mlに溶解した金属塩水溶液に、エーロゾルOT5.4gとデカン40mlとを混合したアルカン溶液を添加、混合して逆ミセル溶液(II)を調製した。
【0146】
逆ミセル溶液(I)を22℃でオムニミキサー(ヤマト科学製)で高速攪拌しながら、逆ミセル溶液(II)を瞬時に添加した。10分後、マグネチックスターラーで攪拌しながら、50℃に昇温して60分間熟成した。
【0147】
オレイン酸(和光純薬製)2mlを添加して、室温まで冷却した。冷却後大気中に取出した。逆ミセルを破壊するために、水100mlとメタノール100mlとの混合溶液を添加して水相と油相とに分離した。油相側に合金粒子が分散した状態が得られた。油相側を水600mlとメタノール200mlとの混合溶液で5回洗浄した。
【0148】
その後、メタノールを1100ml添加して合金粒子にフロキュレーションを起こさせて沈降させた。上澄み液を除去して、ヘプタン(和光純薬製)20mlを添加して再分散した。
さらに、メタノール100ml添加による沈降とヘプタン20ml分散との沈降分散を2回繰り返して、最後にヘプタン5mlを添加して、水と界面活性剤との質量比(水/界面活性剤)が2のFePt合金粒子を含有する合金粒子含有液を調製した。
【0149】
得られた合金粒子について、収率、組成、体積平均粒径および分布(変動係数)の測定を行ったところ、下記のような結果が得られた。
なお、組成および収率は、ICP分光分析(誘導結合高周波プラズマ分光分析)で測定により求めた。
体積平均粒径および分布は、TEM(透過型電子顕微鏡:日立製作所製 300kV)により撮影した粒子を計測して統計処理して求めた。
測定用合金粒子は、調製した合金粒子含有液から合金粒子を捕集し、十分乾燥させ、電気炉で加熱した後のものを使用した。
組成:Pt44.5at%のFePt合金、収率:85%、
平均粒径:4.2nm、変動係数:5%、
【0150】
(塗布液の作製)
合金粒子が12重量%となるように真空脱気を行って、合金粒子含有液を濃縮した。デカンを加え希釈し4重量%として、合金粒子含有液Aを調製した。
その後、マトリックス剤として、東レ製トレフィルR910をデカン溶液に溶解し1重量%とした液を、合金粒子分散液1mlあたり54μl加え、攪拌した後、クリーンルーム内でフィルターろ過を行い合金粒子含有液Bを調製した。
【0151】
作製手順
(1)ガラス基板にモールドによりシランカップリング剤を転写した。
(2)アセトンで洗浄し余分なシランカップリング剤を除去した。
(3)FePtナノ粒子を塗布・乾燥した(磁性層の形成)。
なお、塗布は、スピンコータ500rpmで滴下し、4000rpmに回転数を上げ余分な塗布液を除いた。また、乾燥は、空気中、250℃で25min間保持した。
(4)シリコンレジン(東レ ダウコーニング社製 R910)を塗布・乾燥した。
なお、塗布はスピンコータ500rpmで滴下し、4000rpmに回転数を上げ余分な塗布液を除いた。また、乾燥は、空気中250℃で25min間保持した。
(5)アニール処理を行った(磁性層の形成)。
アニール処理は、4%H+N雰囲気の赤外線イメージ炉で200℃/minで昇温し475℃で30min間保持して行った。その後、降温した。
(6)保護層・表面潤滑層で、磁性層を被覆した。
保護層は、400WのRFスパッタで厚さ5nmのカーボン保護層を形成した。表面潤滑層となる潤滑剤は、ディップコータでFomblin Z−dolを塗布した。
【0152】
−モールドの作製−
Si基板にEB加工でφ3μmパターンを形成して、マスタ基板を製造した。得られたマスタ基板上にPDMS前駆体(商品名:Sylgard 184、ダウコーニング社製)と架橋剤とを9:1の重量比で混合した混合物を塗布した。その後、60℃の温度で1時間重合させて硬化させた。重合が完了した後、PDMSモールドを前記マスタ基板から分離し、モールドを作製した。
【0153】
−シランカップリング剤液の調製−
シランカップリング剤(オクタデシルトリクロロシラン)を脱水したヘキサンで1mM液を調製した。
実施例で得られた磁気記録媒体における磁性層の厚みが10〜20nmの範囲内であり、非磁性無機物により囲まれた一方向の距離が5〜30nmの範囲内であった。
【0154】
〔比較例〕
(特開2001−110050号公報に開示されているパターンドメディアの形成方法)
(a)ガラス基板にマトリックス薄膜を形成した。
(b)マトリックス薄膜上にレジスト膜を塗布した。
(c)ビットパターンにしたがって光露光を行った。
(d)現像処理を行うことにより、パターンドマスクを形成した。
(e)マトリックス薄膜のみ反応性イオンエッチング法により、エッチングしレジストマスクに作り込んだビット配列パターンをマトリックス薄膜に転写した。
(f)スパッタリングにより、磁性層(CoCrPt)を形成した。
(g)適当な有機溶剤を用いて、レジストマスクとしてのパターンドマスクを溶解除去した。
(h)表面潤滑層で磁性層を被覆した。
【0155】
(パターンが形成されていることの確認)
TOF−SIMSによりPtを検出することで、実施例、比較例共にパターン化できていることを確認した。
【0156】
実施例は、比較例に対し工程数が少なく、簡便に作製することが出来た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、2以上の磁性領域が、非磁性無機物からなる非磁性領域によってそれぞれ物理的に独立した形で形成されており、
前記磁性領域には、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層と、CuAu型またはCuAu型強磁性規則合金相を含む磁性層とが形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性層の厚みが3〜20nmであり、非磁性無機物により囲まれた一方向の距離が5nm〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法であって、支持体上に、2〜5価のいずれかの原子価を有する金属を含む金属含有層をナノインプリントにより転写して形成する金属含有層形成工程を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2008−257791(P2008−257791A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98219(P2007−98219)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】