説明

磁気記録媒体および磁気記録カートリッジ

【課題】1TB以上の記録容量に対応しうる高記録密度特性に優れた磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】非磁性支持体、非磁性支持体の一方の面上に形成された、非磁性粉末とバインダ樹脂を含む少なくとも一層の下塗層と、この下塗層の上に形成された、磁性粉末とバインダ樹脂とを含む少なくとも一層の磁性層を有する磁気記録媒体であって、該磁性層の最上層磁性層に含まれる磁性粉末が、本質的に球状ないし楕円状であり、5〜50nmの数平均粒子径を有し、磁性粉末の外層部分に希土類元素が主体的に存在し、コアー部分が、鉄または鉄の一部が遷移金属元素で置換されたFe162相を含有し、かつ、該最上層磁性層の異方性磁界分布が0.51以下であり、保磁力が200〜400kA/mであることを特徴とする磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録密度特性に優れた磁気記録媒体、特に塗布型の磁気記録テープ(以下、単に「磁気テープ」あるいは「テープ」ともいう)、および磁気記録カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープなど種々の用途があるが、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数10〜100GBの記録容量のものが商品化されている。また、1TBを超える大容量バックアップテープも提案されており、磁気テープの高記録密度化は不可欠である。
【0003】
このような高記録密度化に対応した磁気テープを製造するにあたっては、磁性粉末の微粒子化とそれらの塗膜中への高密度充填、塗膜の平滑化、磁性層の薄層化に関する高度な技術が用いられている。
【0004】
また、記録密度を大きくするために、記録信号の短波長化と共に、トラックピッチの狭幅化も行われており、再生ヘッドがトラックを正確にトレースできるようにサーボトラックも併用されるシステムが登場している。
【0005】
磁性粉末の改良に関しては、主として、短波長記録に対応するために、年々、微粒子化とともに、磁気特性の改善がはかられており、従来は、高記録密度磁気テープにおいてもオーディオ用や家庭用ビデオテープに使用されていた強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロムなどの磁性粉末が主として使用されていたが、現在では、長軸方向の粒子サイズが100nm程度の針状の金属磁性粉末が提案されている。また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルトの合金化により、198.9kA/m程度の保磁力が実現されている(たとえば、特開平3−49026号公報、特開平5−234064号公報、特開平6−25702号公報、特開平6−139553号公報など)。
【0006】
また、媒体製造技術の改良に関しては、各種官能基を有するバインダ樹脂や、上記の磁性粉末を使用した場合の分散技術の改善、さらには塗布工程後に行われるカレンダ技術の向上により、磁性層の表面平滑性が著しく向上し、短波長出力の向上に大きく寄与している(たとえば、特公昭64−1297号公報、特公平7−60504号公報、特開平4−19815号公報など)。
【0007】
しかしながら、近年の高密度化に伴い、記録波長が短縮化されているため、磁性層の厚さが厚いと、最短記録波長領域においては、従来の磁性粉末の飽和磁化や保磁力のレベルでは出力が数分の1程度しか得られず、また極めて短い記録波長を使用するため、従来それほど問題とならなかった記録再生時の自己減磁損失や磁性層の厚さに起因する厚み損失の影響が大きくなり、十分な分解能が得られないという問題があった。このような問題に対しては、上記したような磁性粉末による磁気特性の改善や媒体製造技術による表面性向上だけでは克服できないため、磁性層の厚さを低減することが提案されている。
【0008】
すなわち、一般に、磁性層の有効厚さは、システムに利用される最短記録波長の1/3程度といわれているため、たとえば0.3μmの最短記録波長においては、磁性層の厚さは0.1μm程度が必要とされている。また、テープを収納するカセット(カートリッジともいう)の小型化に伴い、容積当たりの記録容量を向上するため、磁気記録媒体全体を薄層化する必要があり、このため、磁性層も必然的に薄層化する必要がある。さらに、記録密度を高めるためには、磁気ヘッドから発生する書き込み磁束を微小面積にしなければならず、また磁気ヘッドも小型化されてきているため、発生磁束量が低下することとなるが、上記のような微小な磁束により完全な磁化反転を生じさせるためにも、磁性層を薄層化することが必要となる。
【0009】
ところが、磁性層の厚さを低減すると、非磁性支持体の表面粗さが磁性層表面に影響を及ぼし、磁性層の表面平滑性を劣化させやすいという問題や、磁性層単層のみを薄層化する場合、磁性塗料の固形分濃度を低下するか、塗布量を低減する方法が考えられるが、これらの手法によっては、塗布時の欠陥や磁性粉末の充填性が向上せず、また塗膜強度を弱めるという問題がある。このため、媒体製造技術の改良により磁性層を薄層化する場合、非磁性支持体と磁性層との間に下塗層を設け、この下塗層が湿潤状態にあるうちに上層磁性層を塗布する、いわゆる同時重層塗布方式が提案されている(特開昭63−187418号公報、特開昭63−191315号公報、特開平5−73883号公報、特開平5−217148号公報、特開平5−298653号公報など)。
【0010】
記録トラック幅を狭くしてテープ幅方向の記録密度を高くすると、磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドに微小磁束でも高い出力が得られる磁気抵抗効果型素子を使用したMRヘッドを使用する必要がある。
【0011】
MRヘッド対応の磁気記録媒体には、例えば特開平11−238225号公報、特開2000−40217公報、特開2000−40218公報等に記載されたものがある。これらの公報に記載された磁気記録媒体では、その磁束(残留磁束密度と厚さの積)を特定の値以下にしてMRヘッドの出力の歪を防止したり、磁性層表面のへこみを特定の値以下にしてMRヘッドのサーマル・アスペリティを低減させたりしている。
【0012】
ところが、記録トラック幅を狭くすると、オフトラックによる再生出力の低下が問題になるので、これを避けるためにトラックサーボが必要になる。トラックサーボ方式には、光学トラックサーボ方式(特開平11−213384号公報、特開平11−339254号公報、特開2000−293836公報)や磁気サーボ方式があるが、いずれの方式を採用するにしても、箱状のケース本体の内部に磁気テープを収めた磁気テープカートリッジ(カセットテープともいう)においては、磁気テープ巻装用のリールを一つしか持たない1リール型(単リール型)にして、その上でカートリッジから引き出した磁気テープにトラックサーボを行う必要がある。これは、テープ走行速度を高める、例えば2.5m/秒以上にすると、テープ繰り出し用とテープ巻き取り用の2つのリールを持った2リール型では安定走行できないためである。また、2リール型ではカートリッジサイズが大きくなり、体積当たりの記録容量が小さくなる。
【0013】
先に述べたように、トラックサーボ方式には磁気サーボ方式と光学サーボ方式があるが、前者は、後述するサーボトラックバンドを磁気記録により磁性層に形成し、これを磁気的に読み取ってサーボトラッキングを行うものであり、後者は、凹部アレイからなるサーボトラックバンドをレーザー照射等でバックコート層に形成し、これを光学的に読み取ってサーボトラッキングを行うものである。なお、磁気サーボ方式にはバックコート層にも磁性を持たせ、このバックコート層に磁気サーボ信号を記録する方式(例えば特開平11−126327号公報)があり、また光学サーボ方式にはバックコート層に光を吸収する材料等で光学サーボ信号を記録する方式(例えば特開平11−126328号公報)もある。
【0014】
ここで、前者の磁気サーボ方式を例にとってトラックサーボの原理を簡単に説明しておく。
図7に示すように、磁気サーボ方式を採用する磁気テープ3では、磁性層にそれぞれテープ長手方向に沿って延びるトラックサーボ用のサーボバンド200とデータ記録用のデータトラック300とが設けられる。このうちサーボバンド200は、各々サーボトラック番号を磁気的に記録した複数のサーボ信号記録部201からなる。磁気テープに対してデータの記録・再生を行う磁気ヘッドアレイ(図示せず)は、一対(順走行用と逆走行用)のサーボトラック用MRヘッドと、例えば8×2対の記録・再生用ヘッド(記録ヘッドは磁気誘導型ヘッドで構成され、再生ヘッドはMRヘッドで構成される)とを有しており、サーボ信号を読み取ったサーボトラック用MRヘッドからの信号に基づいて磁気ヘッドアレイ全体が連動して動くことで、記録・再生用ヘッドがテープ幅方向に移動してデータトラック(例えば、8×2対の記録・再生ヘッドが搭載された磁気ヘッドアレイでは、サーボトラック1本に対応して8本のデータトラックが存在する)に到達する。
【0015】
しかるに、これら磁性粉末および媒体製造技術の向上も、現在では、ほぼ限界に達している。とくに磁性粉末の改良に関しては、針状の磁性粉末を使用する限り、長軸方向の粒子サイズは実用上100nm程度が限度である。なぜなら、これよりも微粒子化すると、比表面積が著しく大きくなり、飽和磁化が低下するのみならず、バインダ樹脂中で磁性粉末を分散させることが著しく困難になるためである。
【0016】
保磁力に関しては、磁気ヘッドの技術革新により、さらに高保磁力を有する媒体に対しても、記録は可能な状況にある。とくに長手記録方式においては、磁気ヘッドで記録消去が可能な限り、記録および再生減磁による出力低下を防止するため、保磁力はできる限り高くすることが好ましい。したがって、磁気記録媒体の記録密度を向上させるための現実的な方法で、最も効果的な方法は、磁気記録媒体を高保磁力化することである。
【0017】
また、長手記録の本質的な課題である、記録および再生減磁による出力低下の影響を低減するためには、磁性層の厚さはさらに薄くすることが有効であるが、前記した長軸方向の粒子サイズが100nm程度の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さにも限界が生じる。なぜなら、長手配向によって、針状粒子は平均的には針状方向が媒体の面内方向に並行になるように並ぶが、粒子の分散には分布があるため、針状方向が媒体面に垂直になるように並ぶ粒子も存在するためである。このような粒子が存在すると、媒体の表面平滑性を損ない、ノイズ増大の原因となる。このような問題は、磁性層の厚さが薄くなるほど、より深刻となる。
【0018】
さらに、磁性層を薄層化しようとする場合、磁性塗料を大量の有機溶剤で希釈する必要があるが、従来の微粒子化した針状の磁性粉末では磁性塗料の凝集を生じやすく、また乾燥時に大量の有機溶剤を蒸発させるため、磁性粉末の配向性が低下しやすく、長手記録であるテープ状媒体では配向性が悪く、薄層化しても、配向性の悪化と表面性の悪化のために、所期の電磁変換特性を得ることが困難になるという問題がある。したがって、長手記録においては、磁性層の厚さを薄くすることが、記録特性を向上させるうえで有効であることがわかっているにもかかわらず、従来の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さをさらに薄層化した塗布型磁気記録媒体を得ることは困難な状況にある。
【0019】
従来提案されている磁性粉末のうち、バリウムフェライト磁性粉末は、粒子形状が板状で、粒子サイズとして50nm程度の微粒子の磁性粉末が知られている(たとえば、特公昭60−50323号公報、特公平6−18062号公報など)。このバリウムフェライト磁性粉末の形状や粒子サイズは、針状の磁性粉末に比べて、薄層塗布型磁気記録媒体を得るのに適している。しかしながら、バリウムフェライト磁性粉末は酸化物であるため、飽和磁化は高々7.5μWb/g程度で、針状の金属または合金磁性粉末のような12.6μWb/g以上の飽和磁化を得ることは理論的に不可能である。このため、バリウムフェライト磁性粉末を用いると、磁性層の厚さの薄い塗布型磁気記録媒体を得ることはできても、磁束密度が低いために出力が低く、高密度磁気記録媒体には適さない。さらに、バリウムフェライト粉末は、板状粉末が磁気的相互作用のために強固に凝集し、分散工程で個々の板状粒子に解すことが難しいという問題点もある。このことが理由で、高記録密度磁気記録媒体用の磁性粉末としては、これまでは、前記したような針状の磁性粉末が主流となっていたのである。
【0020】
以上説明してきたように、磁気記録媒体の記録密度を向上させるための効果的な手法である磁性層の薄層化において、磁性粉末の保磁力、飽和磁化をできる限り高い値に維持して、かつ粒子サイズを小さくすることが極めて重要な課題となる。この課題を克服するため、まず、従来の磁性粉末の磁気特性に着目すると、現状の針状の磁性粉末は、保磁力の起源が針状形状による形状異方性に基づいているため、高保磁力化には理論的な限界が存在する。つまり、形状異方性では、磁気異方性の大きさが、2πIs(ここで、Isは飽和磁化)で表され、飽和磁化に比例する。したがって、保磁力の起源を形状異方性に基づいている針状の磁性粉末では、飽和磁化が大きくなるほど保磁力も大きくなる。
【0021】
金属および合金の飽和磁化は、スレータポーリング曲線からよく知られているように、たとえば、Fe/Co比が70/30付近のFe−Co合金において、最大値を示すことから、保磁力も上記の組成において最大値を示すことになる。このようなFe/Co比が70/30付近の針状のFe−Co合金磁性粉末は、すでに実用化されているが、既述したとおり、針状の磁性粉末を使用する限り、理論的に現在の保磁力である198.9kA/m程度が限界であり、さらに高保磁力を得ることは困難な状況にある。またこのような針状の磁性粉末では、薄層塗布の磁気記録媒体に適さないものとなる。
【0022】
また、形状異方性における磁気異方性の大きさは、上述のとおり、2πIsで表され、磁性粉末の針状比(粒子長さ/粒子直径)が約5以上のときは、係数はほぼ2πで表されるが、針状比が5未満になると係数は急激に小さくなり、球状になると異方性は消滅する。すなわち、磁性粉末として、Fe金属やFe−Co合金のような磁性材料を使用する限り、磁性粉末の形状としては、理論的にも針状形状にせざるを得ないのが実状である。
【0023】
前記したように短波長記録再生特性を向上させるために、膜厚2.0μm程度の下塗層を非磁性支持体の上に設け、その上に膜厚0.15〜0.2μm程度の磁性層を設けているが、さらなる記録密度の向上のためには、少なくとも1層の磁性層からなり、最上層磁性層(以下、簡単に磁性層と記載)の厚さを0.09μm以下、下塗層の厚さを0.9μm以下、非磁性支持体厚さを4.5μm以下、バック層厚さを0.5μm以下にして磁気記録媒体の全厚を6μm未満にまで低減することが好ましい。磁気記録媒体の全厚は、5μm以下がより好ましく、4.5μm以下がさらに好ましく、4μm以下がいっそう好ましい。なお、実用上は2.5μm以上である。磁性層の厚さを0.09μm以下とするためには、粒子径50nm以下(好ましくは30nm以下)の磁性粉末が必要となる。非磁性支持体上に厚さ0.9μm以下の下塗層を安定して塗布するために、さらに別の下塗層を設けることは、テープ全厚を薄くするという本来の目的からすると望ましくないので、このような手段を用いることはできず、根本的に安定な薄層を塗布する技術が必要となってきていた。
【0024】
さらに、狭幅化が進むトラックピッチに対応してトラックを正確にトレースするためには、テープエッジ−データトラック、サーボトラック−データトラック間の寸法が一定であることが必要であり、テープの温度、湿度に対する寸法安定性も一段と高いレベルのものが要求されつつある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、上記したような各課題を解決でき、1TB以上の記録容量に対応しうる高記録密度特性に優れた磁気記録媒体および磁気記録カートリッジを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記の目的に対し、薄層磁性層を有する塗布型磁気記録媒体の記録密度を飛躍的に高めるために必要な磁性粉末の特性は、下記の(1)〜(6)のとおりであるとの基本的指針の下、素材の探索ならびに磁気記録媒体に適した製造方法等についての研究開発を行った。
(1)磁気ヘッドでの記録消去が可能な範囲で、できる限り高保磁力である。
(2)単一元素の中で、最も大きい飽和磁化を有し、かつ資源的に豊富に存在する鉄を主体にした磁性粉末である。
(3)高い飽和磁化を得るために、金属、合金または化合物磁性粉末である。
(4)粒子形状は、比表面積が最小となる球状に近い形状である。
(5)飽和磁化を維持できる範囲で、できる限り微粒子である。
(6)一方向が磁化容易方向となる、一軸磁気異方性を有する磁性粉末である。
【0027】
本発明者らは、上記指針を全て満たす磁性粉末について、検討した結果、少なくとも希土類元素および鉄を構成元素として含む平均粒子サイズ5〜50nm(好ましくは5〜30nm)で、軸比[長軸長(長径)と短軸長(短径)との比]の平均値が1以上2以下(好ましくは1以上1.5以下)の、本質的に球状ないし楕円状の特定構成の希土類−鉄または窒化鉄系磁性粉末(以下、特に区別の必要がある場合以外は、これらをまとめて「希土類−鉄系磁性粉末」と記載する)が、これらの指針を全て満たし、この希土類−鉄系磁性粉末を用いて、薄層塗布型磁気記録媒体を構成させることにより、すぐれた高密度磁気記録媒体が得られることを見い出した。
【0028】
このような知見に基づいて、本発明は完成されたものであり、以下のような磁気記録媒体を提供する:
非磁性支持体、非磁性支持体の一方の面上に形成された、非磁性粉末とバインダ樹脂を含む少なくとも一層の下塗層と、この下塗層の上に形成された、磁性粉末とバインダ樹脂とを含む少なくとも一層の磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の最上層磁性層に含まれる磁性粉末が、本質的に球状ないし楕円状であり、5〜50nmの数平均粒子径を有し、磁性粉末の外層部分に希土類元素が主体的に存在し、コアー部分が、鉄または鉄の一部が遷移金属元素で置換されたFe16相を含有し、かつ、前記最上層磁性層の異方性磁界分布が0.51以下であり、保磁力が200〜400kA/mであることを特徴とする磁気記録媒体。
【0029】
前記最上層磁性層(以下、単に「磁性層」と記載する)の厚さは0.09μm以下が、高密度磁気記録が行えるのでより好ましい。但し、本質的に球状ないし楕円状の希土類−鉄系磁性粉末には、前記最上層の厚さ以下の粒子サイズのものを使用することはいうまでもない。
【0030】
上記特定構成の希土類−鉄系磁性粉末は、本質的に球状ないし楕円状の超微粒子の磁性粉末であるにもかかわらず、これを使用した磁気記録媒体においては、優れた異方性磁界分布、高保磁力および高磁束密度が容易に得られる。なお、本発明でいう「本質的に球状ないし楕円状」(または「本質的に球状ないし本質的に楕円状」)とは、図3等の写真に示すように、表面に凹凸のあるもの、及び若干の変形を有する「球状ないし楕円状」のものも含む。
【0031】
さらに、上記のような本質的に球状ないし楕円状で、かつ極めて粒子サイズの小さい微粒子の希土類−鉄系磁性粉末を使用した磁気記録媒体は、磁性粉末間の磁気的相互作用が小さく、したがって、急激な磁化反転が可能となり、磁化反転領域が狭くなるため、従来の針状形状の磁性粉末を使用した磁気記録媒体に比べて、よりすぐれた記録特性が得られることも見い出した。また、本発明の磁気記録媒体は、磁性層の厚さが0.09μm以下と薄いときに、とくに効果を発揮するが、このように磁性層の厚さが薄い媒体では、反磁界による減磁の影響も少なくなり、80kA/m(1005Oe)程度の保磁力でもすぐれた記録特性を示すことがわかった。
【0032】
しかしながら、磁石などの外部磁界による誤消去を考えると、本発明の場合でも磁気記録媒体の保磁力は、200kA/m(2010Oe)以上が好ましい。保磁力の上限は特にないが、磁気ヘッドの書き込み能力から考えて現状では400kA/m(5024Oe)以下である。
【0033】
また、磁気記録媒体中での磁性粉末の保磁力分布・分散・配向が良好なほど異方性磁界分布は小さくなることより、本発明の磁気記録媒体の異方性磁界分布は0.51以下が好ましい。異方性磁界分布がこのような値であると、電磁変換特性であるブロックエラーレートが小さくなり、より信頼性にすぐれた磁気記録媒体となる。
【0034】
下塗層の薄層化、温度、湿度に対する寸法安定性についても、鋭意検討を行った結果、数平均粒子径が10nm〜100nmの板状粒子(以下、板状粉末と記載する場合もある)を含ませることにより厚さが均一で表面平滑性の優れ、温度、湿度に対する寸法安定性に優れた下塗層が得られることを見い出した。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、リニアレコーディングのコンピュータ磁気テープは、優れた電磁変換特性(C,C/N)を有し、温度・湿度安定性に優れた磁気記録媒体が得られる。これにより、例えば1TB以上の記録容量に対応できるコンピュータ等用の磁気記録媒体および磁気記録カートリッジを提供することができる。また、ヘリキャルスキャンタイプのコンピュータ磁気テープにおいても、優れたブロックエラーレートを有し、これにより、高記録容量に対応できるコンピュータ等用のバックアップテープを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
高密度塗布型磁気記録媒体用として、従来使用されてきた針状の鉄コバルト合金磁性粉末では、前記した基本的指針のうち、(1)の保磁力の値が理論的限界に近づいており、また(5)の粒子サイズに関しても、現状のものより微粒子化すると均一分散することが極めて困難になり、しかも最大の問題点は、本質的に(4)と(6)の指針を同時に実現することが不可能なことである。なぜなら、保磁力の起源が針状形状とすることによる形状磁気異方性に基づいているため、その針状比は最小でも5程度までしか下げることができず、これよりも下げると一軸異方性が低下し、保磁力が小さくなるからである。
【0037】
本発明者らは、前記の基本的指針の下、上記従来の形状磁気異方性に基づく磁性粉末とは異なる観点から磁気特性の向上を目指すべく各種の磁性粉末を合成してその磁気異方性を調べた。その結果、希土類、鉄を少なくとも構成元素とした希土類−鉄系磁性粉末では、大きな結晶磁気異方性を有しているため、針状形状にする必要がなく、本質的に球状ないし楕円状の磁性粉末でも一方向に大きな保磁力を発現させうるものであることがわかった。なお、本発明にいう本質的に楕円状の磁性粉末とは、長軸径と短軸径の比が2以下(好ましくは1.5以下)のものを指し、従来の磁気記録媒体用の磁性粉末とは本質的にその形状が相違するものである。
【0038】
本質的に球状ないし楕円状の磁性粉末としては、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末(特開2001−181754号公報)、希土類−鉄系磁性粉末(特開2002−56518号公報)のような希土類−鉄系磁性粉末がある。これらの磁性粉末に使用する希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジム、サマリウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の元素が用いられるが、その中でも、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、イットリウム(Y)が、これらを用いたときに高い保磁力が得られやすいので、好ましく使用される。
【0039】
また、希土類元素は含有しないが、Fe162相を主相としたBET比表面積が10m2/g以上の本質的に球状の窒化鉄系磁性粉末(特開2000−277311号)が公知である。発明者らはこの磁性粉末に改良を加え、高密度磁気記録媒体として最適な本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末を作製した。
【0040】
主な改良点は、後述するように、焼結防止効果、高保磁力化効果、安定性(耐食性)向上効果の高い希土類元素を磁性粉末の外層部分に主体的に存在させることで、保磁力を200kA/m以上と高くするとともに、高密度記録に適したBET比表面積が40m2/g〜100m2/gの化学的に安定な微粒子磁性粉末にしたことである。また、希土類元素を磁性粉末の外層部分に主体的に存在させることと、酸化安定化処理を行うことにより、磁性粉末の飽和磁化を10〜20μWb/gに制御し、塗料分散性・酸化安定性に優れた希土類−窒化鉄系磁性粉末にできる。このような改良によって、本発明の最上層用磁性粉末として最適な特性を示す磁性粉末が得られる。このようにして得られた希土類−窒化鉄系磁性粉末は、200kA/m以上の保磁力を有し、微粒子で、かつ磁性塗料作成時の分散性や化学的安定性も高いので、上述の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末、希土類−鉄系磁性粉末、希土類元素を含有しないFe16相を主相とした窒化鉄系磁性粉末に比べて、特に本発明の最上層磁性層の磁性粉末として好適である。
【0041】
このような本質的に球状ないし楕円状の希土類−窒化鉄系磁性粉末を、薄層領域の塗布型磁気記録媒体、特に、全厚が6μm未満の塗布型磁気記録媒体に適用すると、最上層磁性層の高保磁力化、優れた異方性磁界分布、高飽和磁束密度化、塗料分散性向上による磁性粉末の均一分散化、および酸化安定性向上、とを同時に達成でき、高出力、高C/N化が実現できる。
【0042】
上述のように、本発明に使用する希土類−窒化鉄系磁性粉末は、コアー部分にFe16相(以下、単に「窒化鉄相」ということもある。)を主に含有する希土類−窒化鉄系磁性粉末である。
【0043】
コアー部分に窒化鉄相を含有する希土類−窒化鉄系磁性粉末は、鉄に対して0.05〜20原子%、好ましくは0.2〜20原子%の希土類元素で磁性粉末の外層部分を被覆すると、保磁力が200kA/m(2512Oe)以上と高くなり、BET比表面積が40m2/g〜100m2/gの化学的に安定な微粒子磁性粉末が得られる。また、希土類元素で磁性粉末を被覆することと、酸化安定化処理を行うことで、磁性粉末の飽和磁化を、10〜20μWb/g(79.6〜159.2Am2/kg、79.6〜159.2emu/g)に制御することができ、塗料分散性・酸化安定性に優れた希土類−窒化鉄系磁性粉末が得られる。この磁性粉末のコアー部分は、主にFe162相またはFe162相とα−Fe相とからなり、窒素の含有量は、鉄に対して1.0〜20原子%である。また、鉄の一部(40原子%以下)を他の遷移金属元素で置換してもよいが、コバルトを多量に添加すると、窒化反応に長時間を要するので通常10原子%以下である。このコアー部分に窒化鉄相を含有する希土類−窒化鉄系磁性粉末は、特に本発明の最上層磁性層の磁性粉末として好適である。
【0044】
本発明者らは、上記希土類−窒化鉄系磁性粉末の粒子サイズについて検討した結果、平均粒子サイズが5〜50nmであるときに、磁性層のすぐれた磁気特性を達成できることを見い出した。従来の針状の磁性粉末では、高い保磁力を維持するには、長軸方向の平均粒子サイズが100nm程度までがほぼ限界であったが、本発明の上記磁性粉末は、主に結晶異方性に保磁力の起源を有するため、平均粒子サイズが5nmまでの極めて微細な粒子とすることができ、このような微粒子としてもすぐれた磁気特性を発揮させることができる。とくに好ましい平均粒子サイズとしては8nm以上、より好ましくは10nm以上である。
【0045】
上記磁性粉末の平均粒子サイズが大きすぎると、磁性層中での磁性粉末の充填性が低下するとともに、磁性層を薄層化した場合に表面性を低下させ、さらに、磁気記録媒体とした際に粒子の大きさに起因する粒子ノイズが大きくなる。したがって、平均粒子サイズとしては50nm以下とする必要があり、好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下である。このように設定すると、極めて高い充填性が得られ、すぐれた飽和磁束密度を達成できる。平均粒子サイズを50nm以下、特に好ましくは30nm以下であることは、磁性層厚さが0.09μm以下の場合は特に重要である。
【0046】
なお、本明細書において、磁性粉末の平均粒子サイズとは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて倍率25万倍で撮影した顕微鏡写真において粒子サイズを実測して、500個の粒子サイズを平均して、または倍率20万倍で撮影した顕微鏡写真において粒子サイズを実測して、300個の粒子サイズを平均して求めたものである。特に記載がない場合は前者の方法による。
【0047】
本発明に使用する上記希土類−窒化鉄系磁性粉末において、鉄成分として鉄合金を用いる場合、鉄と合金を形成する金属種としては、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属を用いる。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。ただし、Co量は10原子%以下が好ましい。
【0048】
希土類−窒化鉄系磁性粉末の場合、希土類の量は、磁性粉末全体中、鉄に対して好ましくは0.05〜20原子%、より好ましくは0.2〜20原子%、さらに好ましくは0.5〜15原子%、いっそう好ましくは1.0〜10原子%である。
【0049】
つぎに、上記希土類−窒化鉄系磁性粉末の粒子形状について、磁性塗料の分散性や薄層磁性層を形成するための特性の観点より、説明する。まず、従来の針状の磁性粉末では、ノイズ低減などの記録特性向上のために、粒子サイズを小さくしているが、その結果、必然的に比表面積が大きくなって、バインダ樹脂との相互作用が大きくなり、バインダ樹脂への分散時に均一な分散体を得ることが困難になり、また薄層塗布のために大量の有機溶剤で希釈すると磁性粉末の凝集が生じやすくなり、配向性や表面平滑性が劣化する。このことから、塗布型磁気記録媒体として使用しうる磁性粉末の粒子サイズには限界がある。
【0050】
これに対して、本発明に使用する上記希土類−窒化鉄系磁性粉末は、粒子形状が本質的に球状ないし楕円状であり、比表面積が最小となる球形に近い形状をとることが可能である。このため、従来の磁性粉末と比べて、バインダ樹脂との相互作用が小さく、磁性塗料の流動性が良好で、磁性粉末どうしがたとえ凝集体を形成しても、分散が容易となり、磁性層を薄層塗布する場合にとくに適した磁性塗料を調製できる。また、その結果、平均粒子サイズを前記した5nm程度としても十分に実用可能である。
【0051】
また、長手記録の本質的な課題である、記録および再生減磁による出力低下の影響を低減するには、磁性層の厚さを薄くすることが有効であるが、長軸方向の粒子サイズが100nm程度の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さにも限界が生じる。なぜなら、磁界配向により、針状粒子は、平均的に針状方向が媒体の面内方向に並行になるように並ぶが、この配向には分布があるため、針状方向が媒体面に垂直になるように分布した粒子も存在する。このような粒子が存在すると、針状の磁性粉末が磁性層表面から突き出て、媒体の表面平滑性を損ない、ノイズを著しく増大させる原因となる。この問題は、磁性層の厚さが薄くなるほど顕著になるため、針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さが0.1μm程度以下で表面の平滑な塗膜を作製することは難しいのが現状である。
【0052】
磁性層の薄層化のために、非磁性支持体と磁性層との間に下塗層を設ける場合、下塗層が湿潤状態の内に針状磁性粉末を含有する磁性塗料を下塗層上に塗布する同時重層塗布方法では、磁性粉末が下塗層に引きずられるため、磁性層の界面で下塗層に針状磁性粉末が突出しやすくなり、さらに配向が乱れやすくなって、所望の角型比が得られないとともに、磁性層表面の平滑性を低下させることとなる。このことも、針状磁性粉末を用いた場合の薄層塗布で高密度化を行う妨げの要因のひとつとなっていると考えられる。
【0053】
これに対して、本発明に用いる希土類−窒化鉄系磁性粉末は、粒子サイズが小さいだけでなく、粒子形状が本質的に球状ないし楕円状であって、球形に近い形状をとることも可能であるため、針状の磁性粉末のように磁性層の表面から粒子が突き出るような現象は生じず、また下塗層を設ける場合に針状磁性粉末と比べて下塗層に磁性粉末が突出することを低減でき、表面平滑性が極めて良好な磁性層を形成できる。また、磁性層の厚さが薄くなると、磁性層からの磁束が小さくなり、その結果、出力が低下する問題を生じるが、本発明に使用する上記磁性粉末は、粒子形状が本質的に球状ないし楕円状で、球形に近い形状をとることも可能なため、針状の磁性粉末に比べて、磁性粉末を磁性層中に高充填しやすく、その結果、高磁束密度が得られやすいという大きな利点も有している。
【0054】
さらに、飽和磁化についていえば、金属または合金磁性粉末は、一般に、粒子サイズが小さくなると比表面積が大きくなって、飽和磁化に寄与しない表面酸化層の割合が大きくなり、飽和磁化に寄与する磁性体部分が小さくなる。つまり、粒子サイズが小さくなるにしたがい、飽和磁化も小さくなる。この傾向は針状の磁性粉末においてとくに顕著であり、長軸長が100nm付近を境として急激に飽和磁化が小さくなる。このような飽和磁化の減少も、使用可能な粒子サイズの限界を決める要因のひとつとなっている。これに対して、本発明に使用する上記希土類−窒化鉄系磁性粉末は、粒子形状が本質的に球状ないし楕円状であるため、同一体積で比較した場合、比表面積は最小となり、微粒子であるにもかかわらず、高い飽和磁化を維持することが可能となるのである。
【0055】
本発明において、希土類−窒化鉄系磁性粉末の形状を、「本質的に球状ないし楕円状」と表現しているのは、ほぼ球状のものから楕円状のものまでのすべて、つまり、ほぼ球状から楕円状までの中間的な形状のものも含み、その中に含まれるいずれの形状であってもよいことを意味する。つまり、従来の磁性粉末の形状である「針状」と区別するため、このような表現としたものである。上記形状の中でも、比表面積が最も小さい球状ないし楕円状のものが好ましい。この形状は、粒子サイズの場合と同様に、走査型電子顕微鏡により、観察できる。なお、すでに述べたように、本発明でいう「本質的に球状ないし楕円状」とは、図3等の写真に示すように、表面に凹凸のあるもの、及び若干の変形を有する「球状ないし楕円状」のものも含む。
【0056】
以上のように、本発明に使用する上記本質的に球状ないし楕円状の希土類−窒化鉄系磁性粉末は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層磁性層を得るのに本質的に適しており、これを使用して磁性層の平均厚さが0.09μm以下である磁気記録媒体を作製したときに、特にすぐれた記録再生特性が得られる。上記の磁性粉末の中でも、磁性層の平均厚さが0.09μm以下である磁気記録媒体において高記録密度領域での特性を向上するため、飽和磁化が10〜25μWb/g(79.6〜199.0Am2/kg)が好ましく、10〜20μWb/g(79.6〜159.2Am2/kg)がより好ましい。
【0057】
なお、本明細書において、磁性粉末の保磁力および飽和磁化は、試料振動型磁力計を使用して、25℃で印加磁界1273.3kA/m(16kOe)で測定したときの基準試料による補正後の値を意味するものである。
【0058】
平均粒子径が50nm以下の超微粒子磁性粉を塗膜中に高充填化し、かつ高分散させるためには、下記のような工程で塗料製造を行うことが好ましい。混練工程の前工程として、磁性粉の顆粒を解砕機を用いて解砕し、その後、混合機でリン酸系の有機酸等やバインダ樹脂と混合し、磁性粉の表面処理、バインダ樹脂との混合を行う工程を設ける。混練工程として、連続式2軸混練機により固形分濃度80〜85重量%、磁性粉に対するバインダ樹脂の割合が17〜30重量%で混練を行う。混練工程の後工程としては、連続式2軸混練機かまたは他の希釈装置を用いて、少なくとも1回以上のバインダ樹脂溶液および/または溶媒を加えて混練希釈する工程、サンドミル等の微小メデイア回転型分散装置による分散工程などにより塗料分散を行う。
【0059】
下塗層に使用する非磁性粒子としては、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等があるが、好ましくは酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が使用される。通常、長軸長0.05〜0.2μm、短軸長5〜200nmの非磁性の酸化鉄を主に、必要に応じて粒子径0.01〜0.1μmのカーボンブラック、粒子径0.1〜0.5μmの酸化アルミニウムを補助的に含有させることが多い。上記非磁性粒子およびカーボンブラックは特に粒度分布がシャープとは言えず、下塗層の厚さが1.0μm以上の場合はあまり問題にならなかったが、下塗層の厚さが0.9μm以下になると、粒度分布の大粒子径部分の粒子が下塗層の表面粗さに影響を与えるので0.9μm以下に薄層化することが難しかった。
【0060】
そこで、本発明では、超微粒子で粒度分布の小さい、下塗層に好適な酸化アルミニウム粒子として、数平均粒子径が10nm〜100nmの板状酸化アルミニウム粒子を用いる。なお、同板状酸化鉄粒子単独または同板状酸化鉄粒子と同板状酸化アルミニウム粒子との混合系でもよい。
【0061】
本発明に使用する粒子径が10nm〜100nmの板状酸化アルミニウム粒子には大きく二つの特徴がある。一つは、超微粒子の板状であるため、0.9μm以下の薄層塗布においても厚みむらが小さく、また表面の平滑性が低下することもない。二つ目の特徴は、板状の粒子が重なった状態で塗膜が形成されるので、塗膜の平面方向の補強効果が大きく、同時に温度、湿度の変化による寸法安定性も大きくなる。
【0062】
テープ長手方向の残留磁束密度と磁性層厚さの積は、0.0018〜0.05μTmが好ましく、0.0036〜0.05μTmがより好ましく、0.004〜0.05μTmがさらに好ましい。この積が0.0018μTm未満では、MRヘッドによる再生出力が小さく、0.05μTmを越えるとMRヘッドによる再生出力が歪みやすくなる。このような磁性層を有する磁気記録媒体は、記録波長を短くでき、加えて、MRヘッドで再生した時の再生出力を大きくでき、しかも再生出力の歪が小さく出力対ノイズ比を大きくできるので好ましい。
【0063】
次に、本発明の磁気記録媒体の構成要素についてさらに詳述する。
<本質的に球状ないし楕円状の希土類−鉄系磁性粉末>
・コアー部分に窒化鉄相を含有する希土類−窒化鉄系磁性粉末
ここで、希土類元素と、鉄または鉄を主体とする遷移金属元素からなり、かつ希土類元素が磁性粉末の外層部分に主体的に存在する磁性粒子で、磁性粉末のコアー部分が金属鉄、鉄合金あるいは鉄化合物の少なくとも一つからなり、鉄化合物がFe16または鉄の一部が遷移金属元素で置換されたFe16である本質的に球状ないし楕円状の希土類−鉄系磁性粉末の好ましい形態について詳述する。
【0064】
本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末は、希土類元素が磁性粉末の外層部分に主体的に存在する、本質的に球状ないし楕円状の磁性粉末であり、平均粒子サイズは5〜50nmが好ましい。8nm以上がより好ましく、10nmがさらに好ましい。また、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。平均軸比[長軸長(長径)と短軸長(短径)との比の平均]は2以下、特に1.5以下が好ましい。鉄に対する希土類元素の含有量は、0.05〜20原子%が好ましく、0.2〜20原子%がより好ましい。鉄に対する窒素の含有量は、1.0〜20原子%が好ましい。BET比表面積が40〜100m2/gが好ましい。
【0065】
また、本発明の上記希土類−窒化鉄系磁性粉末は、出発原料に鉄系酸化物または水酸化物を用い、これに希土類元素を被着したのち、加熱還元処理を行い、その後、還元処理温度以下の温度で窒化処理を行うことにより製造される。
【0066】
本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末の、鉄に対する希土類元素の含有量は、0.05〜20原子%が好ましく、0.2〜20原子%がより好ましく、0.5〜15原子%がさらに好ましく、1.0〜10原子%がいっそう好ましい。鉄に対する窒素の含有量は、1.0〜20原子%が好ましく、1.0〜12.5原子%がより好ましく、3〜12.5原子%がさらに好ましい。希土類元素が少なすぎると、希土類元素に基づく磁気異方性の寄与が小さくなり、また還元時に焼結などにより粗大粒子が生成しやすくなり、粒度分布が悪くなる。希土類元素が多すぎると、磁気異方性に寄与する希土類元素以外に、未反応な希土類元素が増加し、磁気特性とくに飽和磁化の過度な低下が起こりやすい。また、窒素が少なすぎると、Fe162相の形成量が少なく、保磁力増加の効果が少なくなり、多すぎると、Fe4NやFe3Nなどの保磁力の小さい窒化鉄や、さらに非磁性窒化物が形成されやすく、保磁力増加の効果が少なくなり、また飽和磁化が過度に低下しやすい。
【0067】
また、本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末の形状は、平均軸比が2以下の、本質的に球状ないし楕円状(特に1.5以下の本質的に球状)で、その平均粒子サイズは、5〜50nmが好ましい。8nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。粒子サイズが小さすぎると、磁性塗料調製時の分散性が悪くなり、また熱的にも不安定になり、さらに保磁力が経時的に変化しやすい。粒子サイズが大きすぎると、ノイズ増加の原因となるだけでなく、平滑な磁性層面を得にくくなる。
【0068】
なお、この希土類−窒化鉄系磁性粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)により倍率20万倍で撮影した写真の粒子サイズを実測し、300個の粒子サイズを平均して求めた。
【0069】
本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末の飽和磁化は、80〜160Am2/kg(80〜160emu/g、10.0〜20.1μWb/g)、がより好ましく、90〜155Am2/kg(90〜155emu/g、11.3〜19.5μWb/g)、がさらに好ましく、100〜145Am2/kg(100〜145emu/g、12.6〜18.2μWb/g)がいっそう好ましい。また、保磁力は、80〜400kA/m(1005〜5024Oe)が好ましい。119.4kA/m(1,500Oe)以上がより好ましく、159.2kA/m(2000Oe)以上がさらに好ましく、180kA/m(2261Oe)以上がいっそう好ましく、200kA/m(2512Oe)以上が最も好ましい。さらに、318.5kA/m(4000Oe)以下がより好ましく、278.6kA/m(3500Oe)以下がさらに好ましい。
【0070】
また、本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末のBET比表面積は、40〜100m2/gが好ましい。BET比表面積が小さすぎると、粒子サイズが大きくなるので、磁気記録媒体に適用すると、粒子性ノイズが高くなりやすく、また磁性層の表面平滑性が低下して、再生出力が低下しやすい。また、BET比表面積が大きすぎると、磁性粉末の凝集により磁性塗料中で均一な分散体を得ることが難しく、磁気記録媒体に適用すると、配向性の低下や、表面平滑性が低下やすい。
【0071】
上述のように、本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末は、磁気記録媒体用磁性粉として優れた特性を有するが、それとともに、この磁性粉末は、保存安定性にもすぐれ、これ自体、あるいは磁気記録媒体にしたものを高温多湿環境下に保存したとき、飽和磁化などの磁気特性の劣化が少ないので、高密度記録用磁気記録媒体に適している。
【0072】
このような効果が奏される理由については、必ずしも明らかではないが、希土類元素を含有する化合物の磁気異方性に、Fe16相の高い磁気異方性が加わることにより、従来の磁性粉末にはみられない特有の性能を示すと考えられる。とくに希土類元素が磁性粉末の外層部分(表面)に主体的に存在すると、表面磁気異方性のためにより高い保磁力が得られやすくなること、還元時などにおける磁性粉末の形状維持効果によって粒子サイズ分布がシャープになることなどの、多くの要因に基づくものと考えられる。
【0073】
本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末においては、希土類元素を磁性粉末の内部に存在させることを排除するものではないが、その場合でも磁性粉末を内層と外層との多層構成として、磁性粉末の外層部分(表面)に主体的に存在する構成とする。この場合、内層(コアー部分)のFe相をFe16相とするが、内相をすべてFe16相とする必要はなく、Fe16相とα−Fe相の混相としてもよい。むしろ、Fe16相とα−Fe相との割合を調整することにより、所望の保磁力に容易に設定できる利点がある。
【0074】
希土類元素としては、上述のイットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジム、ランタン、サマリウム、ユーロピウム、ネオジム、テルビウムなどが挙げられる。これらのうち、イットリウム、サマリウムまたはネオジムが、保磁力の向上効果、還元時の粒子形状の維持効果が大きいので、これらの少なくとも1種を選択使用するのが望ましい。
【0075】
また、このような希土類元素とともに、リン、シリコン、アルミニウム、炭素、カルシウム、マグネシウムのような元素を含有させてもよい。中でも、焼結防止効果のあるシリコン、アルミニムから選ばれた少なくとも1種の元素と、希土類元素と併用することにより、分散性が良好で、さらにより高い保磁力を得ることができる。
【0076】
本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末の製造には、上述のように、出発原料としてヘマタイト、マグネタイト、ゲータイトのような鉄系酸化物または水酸化物を使用する。原料の平均粒子サイズは、還元・窒化の際の体積変化を考慮して選定するが、通常5〜100nm程度である。
【0077】
この出発原料に希土類元素を被着する。通常は、アルカリまたは酸の水溶液中に出発原料を分散させ、これに希土類元素の塩を溶解させ、中和反応などにより原料粉末に希土類元素を含む水酸化物や水和物を沈殿析出させればよい。
【0078】
希土類元素の量は、磁性粉末中の鉄に対し0.05〜20原子%、好ましくは0.2〜20原子%、より好ましくは0.5〜15原子%、さらに好ましくは1.0〜10原子%になる量にする。
【0079】
また、希土類元素のほかに、シリコン、アルミニウムのように焼結防止効果のある元素で構成された化合物を溶解させ、これに原料粉末を浸漬して、原料粉末に対して、希土類元素とともにこれらの元素を同時または逐次被着させてもよい。これらの被着処理を効率良く行うため、還元剤、pH緩衝剤、粒径制御剤などの添加剤を混入させてもよい。これらの被着処理として、希土類元素を被着したのちに、これらの元素を被着させるようにしてもよい。
【0080】
つぎに、このように希土類元素または希土類元素と必要により他の元素を被着させた原料を、水素気流中で加熱還元する。還元ガスは、とくに限定されず、通常使用される水素ガス以外に、一酸化炭素ガスなどの還元性ガスを使用してもよい。
【0081】
還元温度としては、300〜600℃とするのが望ましい。還元温度が300℃より低くなると、還元反応が十分進まなくなり、また、600℃を超えると、粉末粒子の焼結が起こりやすくなる。
【0082】
加熱還元処理後、窒化処理を施すことにより、本発明の希土類−窒化鉄系磁性粉末が得られる。窒化処理としては、アンモニアを含むガスを用いて行うのが望ましい。アンモニアガス単体のほかに、水素ガス、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスなどをキャリアーガスとした混合ガスを使用してもよい。窒素ガスは安価なため、とくに好ましい。
【0083】
窒化処理温度は、100〜300℃とするのがよい。窒化処理温度が低すぎると、窒化が十分進まず、保磁力増加の効果が少ない。高すぎると、窒化が過剰に促進され、Fe4NやFe3N相などの割合が増加し、保磁力がむしろ低下し、さらに飽和磁化の過度な低下を引き起こしやすい。
【0084】
このような窒化処理にあたり、得られる希土類−窒化鉄系磁性粉末における、鉄に対する窒素の量が1.0〜20原子%、より好ましくは1.0〜12.5原子%、さらに好ましくは3〜12.5原子%となるように、窒化処理の条件を選択する。
【0085】
・コアー部分に金属鉄または鉄合金を主に含有する希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末
比較として使用する希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、たとえば、以下の方法により、製造できる。まず、ネオジムやサマリウムなどの希土類イオンおよび鉄イオンまたはこれと必要によりMn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属イオンを含有する水溶液とアルカリ水溶液とを混合して、希土類および鉄またはこれと上記遷移金属との共沈物を生成する。希土類イオンおよび鉄イオンや遷移金属イオンの原料には、硫酸鉄、硝酸鉄などが用いられる。つぎに、上記の共沈物に、ホウ素化合物を加え、これを60〜400℃で加熱処理して、ホウ素を含有する希土類と鉄(またはこれと上記遷移金属)との酸化物を生成する。
【0086】
上記ホウ素化合物は、ホウ素の供給元であると同時に、粒子の極度な焼結を防止しながら、目的とする粒子サイズに結晶成長させるための融剤(フラックス)としての作用も兼ねている。このようなホウ素化合物は、とくに限定されるものではないが、H3BO3、BO2などが好ましく用いられる。また、ホウ素化合物は、共沈物に固体状態で混合することもできるが、共沈物とホウ素が均一に混合されるように、共沈物の懸濁液中にホウ素を溶解混合し、乾燥させて水を除去したのち、加熱処理する方が良好な物性の磁性粉末が得られる。
【0087】
つぎに、上記加熱処理物を水洗し、余剰のホウ素を除去して、乾燥させ、水素などの還元雰囲気中、400〜800℃で加熱還元すると、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末が得られる。耐食性などの向上のため、他の元素を含ませてもよいが、この場合でも、磁性粉末全体中の希土類およびホウ素の量は、鉄に対しそれぞれ0.2〜20原子%および0.5〜30原子%であるのが望ましい。
【0088】
また、上記と異なる方法として、まず、鉄イオンまたはこれと必要によりMn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属イオンを含有する水溶液とアルカリ水溶液とを混合して、鉄またはこれと上記遷移金属との共沈物を生成する。この場合も、鉄イオンや遷移金属イオンの原料には硫酸鉄、硝酸鉄などが用いられる。つぎに、この共沈物にネオジムやサマリウムなどの希土類塩とホウ素化合物を加え、これを60〜400℃で加熱処理して、ホウ素を含有する希土類と鉄(またはこれと上記遷移金属)との酸化物を生成する。ついで、余剰のホウ素を除去し、前記同様に水素ガス中で加熱還元すると、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末が得られる。この方法は、コアー部分が主に金属鉄または上記遷移金属との鉄合金で、外層部分が主に希土類−鉄−ホウ素化合物である構造の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末を得るのに適している。なお、この方法においても、磁性粉末には、耐食性などの向上のため、他の元素を含ませることもできるが、この場合でも、磁性粉末全体中の希土類およびホウ素の量は、鉄に対しそれぞれ0.2〜20原子%および0.5〜30原子%であるのが望ましい。
【0089】
・コアー部分に金属鉄または鉄合金を主に含有する希土類−鉄系磁性粉末
コアー部分に金属鉄または鉄合金を主に含有する希土類−鉄系磁性粉末の製造方法はつぎのようである。すなわち、少なくとも希土類のイオンを含有する水溶液中に、マグネタイトあるいはコバルトフェライト粒子などの球状ないし楕円状である粒子を分散させ、希土類イオンを水酸化物とするために必要なモル数のアルカリ水溶液を加えて希土類の水酸化物としてマグネタイトあるいはコバルトフェライト粒子の表面層に形成し、その後ろ過、乾燥して、加熱還元することにより、目的とする磁性粉末が得られることを見出した。このマグネタイトあるいはコバルトフェライト粒子などの球状ないし楕円状である粒子は、特に限定されるものでないが、例えばマグネタイト粒子であれば、2価の鉄イオンを溶解した水溶液にアルカリを添加して2価の鉄の水酸化物を作り、この水酸化物を適当な温度やpHの元で、加熱反応させることにより、任意の大きさの粒子を得ることができる。またコバルトフェライト粒子であれば、2価のコバルトイオンと3価の鉄イオンの水溶液にアルカリを加え2価のコバルトと3価の鉄からなる水酸化物を作製し、この水酸化物を適当な温度、pHの元で加熱反応させることにより、任意の大きさのコバルトフェライト粒子をえることができる。また希土類の水酸化物としてマグネタイトあるいはコバルトフェライト粒子の表面層に形成し、その後ろ過、乾燥して、通常400〜800℃で加熱還元するが、この加熱還元も特に限定されるものではなく、還元性雰囲気下、適当な温度で過熱還元することにより、目的とする磁性粉末が得られる。また過熱還元後、安定化処理などを施すことにより、媒体としたときに、より信頼性の良好な磁性粉末となる。この方法で得られた、コアー部分に金属鉄または鉄合金を主に含有する希土類−鉄系磁性粉末では、希土類元素が磁性粉末の外層部分に主体的に存在する。
【0090】
<非磁性板状微粒子>
非磁性板状微粒子とその製造方法について、板状アルミナを一例として詳述する。
粒子径が100nm以下の結晶性が良好でかつ粒子径分布がシャープな微粒子の酸化アルミニウムが要求されてきたにもかかわらず、このような要求を満たす酸化アルミニウム粒子はこれまで開発されていなかった。
【0091】
本発明者らは、上記のような要求を満たす板状の酸化アルミニウム粒子等の粒子(微粒子)をあらたに開発したが、このような板状粒子を磁気テープの下塗層に使用すれば、薄層塗布における厚みむらの低減、表面平滑性の向上、塗膜平面方向の強度向上、温度変化や湿度変化に対する寸法安定性の向上等が可能になると考えた。
【0092】
ここで、上記の新たに開発した板状粒子の製造方法について、酸化アルミニウム粒子を例にとって説明する。下塗層に好適な酸化アルミニウムを得るに当たっては、まず第一工程として、アルカリ水溶液にアルミニウム塩の水溶液を添加し、得られたアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する水熱反応処理により、目的とする形状、粒子径に整える。
【0093】
このときに問題となるのは、アルカリ性溶液にも酸性溶液にも溶解し、中性付近のpHにおいてしか沈殿物を作らないという、アルミニウムの水酸化物あるいは水和物の特異な性質である。しかし、水熱反応により目的の形状、粒子径を有するアルミニウム水酸化物あるいは水和物にするためには、アルカリ溶液とする必要がある。本発明者らは、このトレードオフ関係にある性質を克服するために鋭意検討してきた結果、特定のpHにおいてのみ目的とする反応が進行することを見い出した。
【0094】
次に、第二工程として、前記のアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を空気中加熱処理する。これらの工程を経ることにより、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少なく、結晶性の良好な酸化アルミニウム粒子が得られる。
【0095】
このように酸化アルミニウム粒子の製造において、形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離するという、全く新規な発想により、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ平均粒子径が10nmから100nmの範囲にある酸化アルミニウム粒子の開発に成功したものである。ここで、板状とは、板状比(最大径/厚さ)が1を超えるものをいい、板状比が2を超え、100以下が好ましい。さらに、3以上50以下がより好ましく、5以上30以下が、よりいっそう好ましい。板状比が2以下では例えば下塗層に用いた時に、粒子が塗布面から立ち上がるものが存在し、ヘッド、ガイド等を傷つける場合があり、100を超えると、塗料製造時に粒子が破壊される場合がある。
【0096】
また、このように形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離する製造方法は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の、さらにはこれらの元素の混晶系の平均粒子径5〜100nmの各種の酸化物または複合酸化物にも適用できる。
【0097】
<非磁性支持体>
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、2〜5μmのものが使用される。好ましくは2〜4.5μm、より好ましくは2〜4μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、4.5μmを越えるとテープ全厚が6μm以上と厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0098】
非磁性支持体の長手方向のヤング率は9.8GPa(1000kg/mm2)以上が好ましく、10.8GPa(1100kg/mm2)以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が9.8GPa(1000kg/mm2)以上がよいのは、長手方向のヤング率が9.8GPa(1000kg/mm2)未満では、テープ走行が不安定になるためである。また、ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.60〜0.80の特異的範囲が好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.60〜0.80の特異的範囲がよいのは、0.60未満または0.80を越えると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.70付近で最小になる。さらに、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.70〜1.30が好ましい。このような特性を満足する非磁性支持体には二軸延伸の芳香族ポリアミドベースフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等がある。
【0099】
<下塗層>
下塗層の厚さは、0.3〜0.9μmの範囲に設定すればよい。下塗層の厚さが0.3μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果、耐久性向上効果が小さくなる。一方、下塗層の厚さが0.9μmを越えると、磁気記録媒体の全厚が厚くなり過ぎてテープ1巻当りの記録容量が小さくなる。
【0100】
下塗層には、膜厚の均一性、表面平滑性の確保、剛性、寸法安定性の制御のために、先に述べたような粒子径が10nm〜100nmの板状粒子を添加することが好ましい。板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子を添加してもよい。下塗層には必要に応じて、下塗層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子を、15〜95重量%となるように添加してもよい。必要に応じて導電性改良の目的でカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。また、さらに、従来公知の酸化鉄、酸化アルミニウムなどの酸化物粒子を添加してもよい。その場合、できるだけ微粒子のものを用いるのが好ましい。なお、下塗層に使用するバインダ樹脂は、磁性層と同様のものが用いられる。
【0101】
<潤滑剤>
下塗層には磁性層と下塗層に含まれる全粉体に対して0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸を含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、ヘッドとの摩擦係数が小さくなるので好ましい。高級脂肪酸の添加量が0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、一方、5.0重量%を越えると下塗層が可塑化してしまい強靭性が失われるおそれがある。また、高級脂肪酸のエステル添加量が0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えると磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付く等の副作用を生じるおそれがある。
【0102】
脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。磁性層における脂肪酸の添加量としては、下塗層と磁性層の間で脂肪酸が転移するので、特に限定されるものではなく、磁性層と下塗層を合わせた脂肪酸の添加量を上記の量とすればよい。下塗層に脂肪酸を添加すれば、必ずしも磁性層に脂肪酸を添加しなくてもよい。
【0103】
磁性層には磁性粉末に対して0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、テープ走行時の摩擦係数が小さくなるので好ましい。脂肪酸アミドの添加量が0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起りやすく焼付き防止効果が小さく、3.0重量%を越えるとブリードアウトしてしまい、ドロップアウトなどの欠陥が発生するおそれがある。
脂肪酸アミドとしてはパルミチン酸、ステアリン酸等のアミドが使用可能である。
なお、磁性層の潤滑剤と下塗層の潤滑剤の相互移動を排除するものではない。
【0104】
<磁性層>
磁性層(下塗層の場合も同様)に用いるバインダ樹脂(以下、単にバインダと記載)としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体樹脂(以下、単に共重合体と記載することがある)、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂とを組み合わせものが挙げられる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。
【0105】
官能基として−COOH、−SOM、−OSO2M、−P=O(OM)3、−O−P=O(OM)2[式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、
OH、NR12、N+345[式中、R1、R2、R3、R4およびR5は、同一または異なって、それぞれ水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等のバインダが使用される。このようなバインダを使用するのは、上述のように磁性粉等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SO3M基どうしの組み合わせが好ましい。
【0106】
これらのバインダは、磁性粉100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、バインダとして、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0107】
これらのバインダとともに、バインダ中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、バインダ100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。より好ましくは5〜20重量部である。しかし、下塗層の上にウエット・オン・ウエットで磁性層が塗布される場合には下塗塗料からある程度のポリイソシアネートが拡散供給されるので、ポリイソシアネートを併用しなくても磁性層はある程度架橋される。
【0108】
また、磁性層には、先に述べたような粒子径が10nm〜100nmの板状粒子を添加してもよい。また、必要に応じて、従来公知の研磨材を添加することができるが、これらの研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組合せで使用される。研磨材の粒径としては、0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常平均粒径で10nm〜150nmとすることが好ましい。添加量は磁性粉末に対して5〜20重量%が好ましい。より好ましくは8〜18重量%である。
【0109】
さらに、本発明の磁性層には導電性向上のために、既述した製法で作製した板状ITO粒子、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラック(CB)を添加することができるが、これらのカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。カーボンブラックの粒径が5nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、出力低下の原因になる。添加量は磁性粉末に対して0.2〜5重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜4重量%である。
【0110】
<バックコート層>
バック層の一例であるバックコート層について説明する。
本発明の磁気記録媒体を構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。0.5μm以下がより好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックを使用する。小粒径カーボンブラックには、粒子径が5nm〜200nmのものが使用されるが、粒径10nm〜100nmのものがより好ましい。粒径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、粒径が100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)原因になる。
【0111】
大粒径カーボンブラックとして、小粒径カーボンブラックの5〜15重量%、粒径300〜400nmの大粒径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量%が好ましく、70〜95重量%がより好ましい。表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。
【0112】
また、バックコート層には、強度向上を目的に、先に述べたような粒子径が10nm〜100nmの板状粒子を添加することができる。板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子を添加してもよい。バックコート層には、バックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子とカーボンブラックを、その合計量が60〜98重量%となるように添加する。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。また、必要に応じて、粒子径が0.1μm〜0.6μmの酸化鉄を添加してもよい。添加量はバックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。
【0113】
バックコート層には、バインダ樹脂として、前述した磁性層や下塗層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、通常、前記カーボンブラックと前記無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。バインダ樹脂の含有量が50重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、120重量部を越えると摩擦係数が高くなりやすい。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。また、さらにバインダ樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0114】
バックコート層には、前述した磁性層や下塗層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用する。架橋剤の量は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。架橋剤の量が10重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、35重量部を越えるとSUSに対する動摩擦係数が大きくなる。
【0115】
<有機溶剤>
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【0116】
<磁気テープ(記録)カートリッジ>
本発明に従った磁気テープを用いた磁気テープカートリッジを説明する。
図1は本発明の磁気テープカートリッジの一般的な構造を示し、図2はその内部構造を示す。図1において、磁気テープカートリッジは、上下ケース1a・1bを接合してなる角箱状のケース本体1を有し、ケース本体1の内部に配置した1個のリール2に磁気テープ3を巻装している。ケース本体1の前壁6の一側端には、テープ引出口4が開口してある。テープ引出口4は、スライド開閉可能なドア5で開閉できるようになっている。リール2に巻装した磁気テープ3をケース外へ引き出し操作するために、磁気テープ3の繰り出し端にテープ引出具7が連結されている。図1中の符号20は、ドア5を閉じ勝手に移動付勢するためのドアばねを示す。
【0117】
図2において、リール2は、上鍔部21と下鍔部22、および下鍔部22と一体に成形されて上向きに開口する有底筒状の巻芯部23とからなる。巻芯部23の底壁23cは、ケース底壁の駆動軸挿入口1c上に位置している。巻芯部23の底壁23cの外周には、テープ駆動装置(磁気記録再生装置)側の部材に係合するギヤ歯が形成されており、巻芯部23の底壁23cの中心には、テープ駆動装置側のロック解除ピン(図示せず)の挿入を可能にする底孔23dが設けられている。ケース本体1内には、不使用時にリール2の不用意な回転を阻止するリールロック機構が備えられている。図2中の符号12は、このリールロック機構を構成するブレーキボタンを示し、符号17は、同じくブレーキボタン12を図中の下方に付勢するスプリングを示している。
【実施例】
【0118】
以下に実施例を示し本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例中、部は重量部を示す。
【0119】
比較例1
超微粒子磁性粉末の合成:
0.074モルの硝酸鉄(III)と0.002モルの硝酸ネオジムを600ccの水に溶解した。この硝酸塩水溶液とは別に、0.222モルの水酸化ナトリウムを600ccの水に溶解した。この水酸化ナトリウムの水溶液に、上記の硝酸塩水溶液を加えて、5分間撹拌し、鉄とネオジムの水酸化物(共沈物)を生成した。この水酸化物を水洗したのち、ろ過して水酸化物を取り出した。この水酸化物(水を含んだ状態)に、さらに30ccの水と0.5モルのホウ酸(H3BO3)を加えて、ホウ酸水溶液中で60℃に加熱しながら鉄とネオジムの水酸化物を再分散させた。この分散液をバットに広げ、60℃で4時間乾燥して水を除去し、鉄とネオジムからなる水酸化物とホウ酸の均一混合物を得た。
【0120】
この混合物を解砕し、アルミナルツボに入れて、空気中、200℃で4時間加熱処理して、ホウ素が結合したネオジム鉄酸化物とした。この反応に際し、ホウ酸は、ホウ素の供給元であると同時に、粒子の極度な焼結を防止しながら、目的とする粒子サイズに結晶成長させるための融剤(フラックス)としての作用も兼ねている。この加熱処理物を水洗し、余剰のホウ素を除去し、ホウ素が結合したネオジム鉄酸化物粒子を取り出した。この酸化物粒子を、水素気流中、450℃で4時間加熱還元し、ネオジム鉄−ホウ素系磁性粉末とした。その後、水素ガスを流した状態で室温まで冷却し、窒素/酸素混合ガスに切り換えて、温度を再び60℃まで昇温し、窒素/酸素混合ガス気流中、8時間の安定化処理を行ったのち、空気中に取り出した。
【0121】
得られたネオジム鉄−ホウ素系磁性粉末は、蛍光X線による測定で、鉄に対するネオジムの含有量が2.4原子%、鉄に対するホウ素の含有量が9.1原子%であった。このネオジム鉄−ホウ素系磁性粉末の透過電子顕微鏡写真(25万倍)を図3に示す。この写真から分かるように、磁性粉末は、ほぼ球状ないし楕円状の粒子で、平均粒子サイズは25nm(軸比:1.2)であった。また、1273.3kA/mの磁界を印加して測定した飽和磁化は132.0Am2/kg(132.0emu/g)、保磁力は191.8kA/m(2410Oe)であった。
【0122】
板状アルミナ粒子の合成:
0.075モルの水酸化ナトリウムを90mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を調製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.0074モルの塩化アルミニウム(III)七水和物を40mlの水に溶解して、塩化アルミニウム水溶液を調製した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後塩酸を滴下することにより、pHを10.2に調整した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、約1000倍の水で水洗した。
【0123】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0124】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0125】
得られた酸化アルミニウム(アルミナ)粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜50nmの四角板状の粒子であることがわかった。
【0126】
得られた酸化アルミニウム粒子を、さらに空気中1250℃で1時間、加熱処理した。得られた酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、α−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が40〜60nmの四角板状の粒子(軸比:5〜10)であった。
【0127】
板状ITO粒子の合成:
0.75モルの水酸化ナトリウムを180mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を調製した。これとは別に、0.067モルの塩化インジウム(III)四水和物と0.007モルの塩化スズ(IV)五水和物を400mlの水に溶解して、塩化スズと塩化インジウムの水溶液を調製した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化スズと塩化インジウムの水溶液を滴下して、スズとインジウムから成る水酸化物あるいは水和物の沈殿物を作製した。このときのpHは10.2であった。この沈殿物を室温で懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.6になるまで水洗した。
次に、この沈殿物の懸濁液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、pHを10.8に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0128】
得られた水熱処理生成物を、pHが7.8になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってスズ含有酸化インジウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
得られたスズ含有酸化インジウム粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が30〜50nmの円板状あるいは四角形状の粒子(軸比:5〜10)であることがわかった。
このスズ含有酸化インジウム粒子のX線回折スペクトルを測定したところ、X線回折スペクトルは、単一構造の物質から構成されていることを示しており、インジウムがスズで置換されたスズ含有酸化インジウムとなっていることがわかった。
【0129】
板状酸化鉄粒子の合成:
0.75モルの水酸化ナトリウムを180mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化第二鉄(III)六水和物を400mlの水に溶解して塩化第二鉄水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化第二鉄水溶液を滴下して、水酸化第二鉄を含む沈殿物を作製した。このときのpHは11.3であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.5になるまで水洗した。
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、150℃で2時間、水熱処理を施した。
水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってα−酸化鉄粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
得られたα−酸化鉄粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、α−ヘマタイト構造のスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒子径が40〜60nmの六角板状の粒子(軸比:5〜10)であることがわかった。
【0130】
<下塗塗料成分>
(1)
・板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 10部
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 90部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3Na基:0.7×10−4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10−4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0131】
<磁性塗料成分>
(1)混練工程
・超微粒子粒状磁性粉 (Nd−Fe−B) 100部
(Nd/Fe:2.4原子%、
B/Fe:9.1原子%、
σs:16.6μWb/g(132emu/g)、
Hc:192kA/m(2410Oe)、
平均軸長:25nm)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 14部
(含有−SO3Na基:0.7×10−4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 5部
(含有−SO3Na基:1.0×10−4当量/g)
・板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 10部
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 5部
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 2部
・テトラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 9部
(2)希釈工程
・パルミチン酸アミド(PA) 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル(SB) 1部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 350部
(3)配合工程
・ポリイソシアネート 1.5部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 29部
【0132】
上記の下塗塗料成分のうち(1)を回分式ニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗塗料(下塗層用塗料)とした。
これとは別に、上記の磁性塗料の成分のうちの(1)混練工程成分を予め高速混合しておき、その混合粉末を連続式2軸混練機で混練し、さらに(2)希釈工程成分を加え連続式2軸混練機で少なくとも2段階以上に分けて希釈を行い、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに(3)配合工程成分を加え攪拌・濾過後、磁性塗料とした。
【0133】
上記の下塗塗料を、芳香族ポリアミドフイルム(厚さ3.3μm、MD=11GPa、MD/TD=0.70、商品名:ミクトロン、東レ社製)からなる非磁性支持体(ベースフィルム)上に、乾燥、カレンダ後の厚さが0.6μmとなるように塗布し、この下塗層上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理後の磁性層の厚さが0.06μmとなるようにウエット・オン・ウエットで塗布し、磁場配向処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを得た。なお、磁場配向処理ハードライヤ前にN−N対向磁石(5kG)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75cmからN−N対向磁石(5kG)を2基50cm間隔で設置して行った。塗布速度は100m/分とした。
【0134】
<バックコート層用塗料成分>
板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 80部
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 10部
板状酸化鉄粉末(平均粒径:50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂(−SO3Na基含有) 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバックコート層用塗料を調製し濾過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥、カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0135】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧200kg/cmの条件で鏡面化処理し、磁気シートをコアーに巻いた状態で70℃で72時間エージングしたのち、1/2インチ幅に裁断し、これを200m/分で走行させながら磁性層表面に対しラッピングテープ研磨、ブレード研磨そして表面拭き取りの後処理を行い、磁気テープを作製した。この時、ラッピングテープにはK10000、ブレードには超硬刃、表面拭き取りには東レ社製トレシー(商品名)を用い、走行テンション0.294Nで処理を行った。上記のようにして得られた磁気テープに、サーボライタで磁気サーボ信号を記録した後、図1に示すカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープの配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ226.4kA/mおよび0.019μTmであった。
【0136】
比較例2
磁性粉末を下記の合成法のものに変更したことを除き、比較例1と同様にして比較例2のコンピュータ用テープを作製した。
超微粒子磁性粉末の合成:
0.098モルの硝酸鉄(III)と0.042モルの硝酸コバルトと0.002モルの硝酸ネオジムを200ccの水に溶解した。この硝酸塩水溶液とは別に、0.42モルの水酸化ナトリウムを200ccの水に溶解した。上記の硝酸塩水溶液に、上記の水酸化ナトリウムの水溶液を加えて、5分間撹拌し、鉄とコバルトとネオジムの水酸化物を生成した。この水酸化物を水洗したのち、ろ過して水酸化物を取り出した。この水酸化物(水を含んだ状態)に、さらに150ccの水と0.1モルのホウ酸を添加して、ホウ酸水溶液中で鉄とコバルトとネオジムの水酸化物を再分散させた。この分散液を90℃で2時間加熱処理したのち、水洗して余剰のホウ酸を除去し、60℃で4時間乾燥して、ホウ酸を含有した鉄とコバルトとネオジムからなる水酸化物を得た。
【0137】
この水酸化物を、空気中、300℃で2時間加熱脱水したのち、水素気流中、450℃で4時間加熱還元し、ネオジム鉄−コバルト−ホウ素系磁性粉末とした。その後、水素ガスを流した状態で室温まで冷却し、窒素/酸素混合ガスに切り換えて、温度を再び60℃まで昇温し、窒素/酸素混合ガス気流中、8時間の安定化処理を行ったのち、空気中に取り出した。
【0138】
得られたネオジム鉄−コバルト−ホウ素系磁性粉末は、蛍光X線による測定で、鉄に対するネオジムの含有量が1.9原子%、鉄に対するコバルトの含有量が40.1原子%、鉄に対するホウ素の含有量が7.5原子%であった。この磁性粉末は、透過型電子顕微鏡(倍率:25万倍)で観察した結果、比較例1と同様にほぼ球状ないし楕円状の粒子で、平均粒子サイズは20nmであった。また、1273.3kA/mの磁界を印加して測定した飽和磁化は19.7μWb/g(157emu/g)、保磁力は174.3kA/m(2190Oe)であった。
【0139】
比較例3
磁性粉を比較例1と同様の方法で合成し、粒子径を15nmとした以外は、比較例1と同様にして比較例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0140】
比較例4
磁性塗料の成分中、板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm)10重量部および板状ITO粉末(平均粒径:40nm)5重量部を、粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm)10重量部およびカーボンブラック(平均粒径:75nm)2重量部にそれぞれ変更した以外は、比較例1と同様にして比較例4のコンピュータ用テープを作製した。
【0141】
比較例5
バックコート層用塗料の成分中、板状ITO粉末(粒径:40nm)80重量部を0重量部、カーボンブラック(粒径:25nm)10重量部を80重量部、板状酸化鉄(粒径:50nm)10重量部を0重量部にそれぞれ変更し、さらにカーボンブラック(粒径:0.35μm)10重量部、粒状酸化鉄(粒径:0.4μm)10重量部をそれぞれ添加した以外は、比較例4と同様にして比較例5のコンピュータ用テープを作製した。
【0142】
比較例6
比較例1の<下塗塗料成分>の組成を下記のように変更した以外は、比較例1と同様にして比較例6のコンピュータ用テープを作製した。
【0143】
<下塗塗料成分>
(1)
・針状酸化鉄粉末(平均粒径:100nm、軸比:5) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3Na基:0.7×10−4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10−4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0144】
比較例7
比較例1の<下塗塗料成分>および<バックコート層用塗料成分>の組成を下記のように変更した以外は、比較例1と同様にして比較例7のコンピュータ用テープを作製した。
【0145】
<下塗塗料成分>
(1)
・針状酸化鉄粉末(平均粒径:100nm、軸比:5) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3Na基:0.7×10−4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:1×10−4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0146】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒径:0.35μm) 10部
粒状酸化鉄粉末(平均粒径:50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂(SO3Na基含有) 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0147】
実施例1
比較例1の超微粒子磁性粉の合成において、ネオジム鉄−ホウ素系磁性粉末に換えて、希土類−窒化鉄系磁性粉末を使用した。この希土類としてイットリウムを用いた例について、以下に説明する。
0.419モルの硫酸鉄(II)七水塩と0.974モルの硝酸鉄(III)九水塩を1500gの水に溶解した。次に、3.76モルの水酸化ナトリウムを1500gの水に溶解した。次に、3.76モルの水酸化ナトリウムを1500gの水に溶解した。この2種類の鉄塩の水溶液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加し、20分間攪拌し、マグネタイト粒子を生成させた。
【0148】
このマグネタイト粒子をオートクレーブに入れ、200℃で4時間加熱した。水熱処理後水洗した。このマグネタイト粒子は、粒子サイズが25nmの球状ないし楕円状であった。
【0149】
このマグネタイト粒子10gを500ccの水に、超音波分散機を用いて、30分間分散させた。この分散液に2.5gの硝酸イットリウムを加えて溶解し、30分間撹拌した。これとは別に、0.8gの水酸化ナ8トリウムを100ccの水に溶解した。この水酸化ナトリウム水溶液を上記の分散液に約30分間かけて滴下し、滴下終了後、さらに1時間攪拌した。この処理により、マグネタイト粒子表面にイットリウムの水酸化物を被着析出させた。これを水洗し、ろ過後、90℃で乾燥して、マグネタイト粒子の表面にイットリウムの水酸化物を被着形成した粉末を得た。
【0150】
このようにマグネタイト粒子の表面にイットリウムの水酸化物を被着形成した粉末を水素気流中450℃で2時間加熱還元して、イットリウム−鉄系磁性粉末を得た。つぎに、水素ガスを流した状態で、約1時間かけて、150℃まで降温した。150℃に到達した状態で、ガスをアンモニアガスに切り替え、温度を150℃に保った状態で、30時間窒化処理を行った。その後、アンモニアガスを流した状態で、150℃から90℃まで降温し、90℃で、アンモニアガスから酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理を行った。
【0151】
ついで、混合ガスを流した状態で、90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出した。
【0152】
このようにして得られたイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ5.3原子%と10.8原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe16相を示すプロファイルを得た。図4は、このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末のX線回折パターンを示したものであり、Fe16に基づく回折ピークと、α−Feに基づく回折ピークが観察され、このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末がFe162相とα−Fe相との混合相から成り立っていることがわかった。
【0153】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、ほぼ球状の粒子で平均粒子サイズが20nmであることがわかった。図5は、この磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)である。また、BET法により求めた比表面積は、53.2m2/gであった。
【0154】
また、この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は135.2Am2/kg(135.2emu/g)、保磁力は226.9kA/m(2,850Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃、90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、118.2Am2/kg(118.2emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が87.4%であった。
【0155】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。
【0156】
さらに下層の組成を表1のように変更したことを除き、比較例1と同様にしてコンピュータ用のテープを作製した。
【0157】
比較例8:
比較例1の<磁性塗料成分>における(1)混練工程、<下塗塗料成分><バックコート層用塗料成分>中の組成を下記のように変更した以外は、比較例1と同様にして比較例8のコンピュータ用テープを作製した。ただし、磁性粉を粒子径(平均軸長)100nmの鉢状粉に変えたので、磁性層厚さは0.06μmにコントロールできず、0.11μmになった。
・鉢状強磁性鉄系金属粉末 100部
(Co/Fe:30原子%、
Y/(Fe+Co):3原子%、
Al/(Fe+Co):5wt%、
σs:145A/m2/kg(145emu/g)、
Hc:187kA/m(2350e)、
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 14部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 5部
(含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 10部
・カーボンブラック(平均粒径:75nm) 5部
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 2部
・テトロラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサン(MEK/A) 9部
【0158】
<下塗塗料成分>
(1)
・鉢状酸化鉄粉末(平均粒径:100nm、軸比5) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(Tg:40℃、含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃含有−SO3Na基:1.0×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0159】
<バックコート層用塗料成分>
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒径:0.35μm) 10部
粒状酸化鉄粉末(平均粒径:50nm) 10分
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂(−SO3Na基含有) 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0160】
評価の方法は、以下のように行った。
<磁性層の表面粗さ>
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた。
【0161】
<磁気特性>
磁気特性は、磁性粉末の場合と同様に、資料振動形磁束計を使用して、25℃、外部磁場1273.3kA/mで測定した値であり、磁気記録媒体20枚を張り合わせ、これを直径8mmに打ち抜いた飼料を測定したときの更正値である。
異方性磁界分布は、テープのヒステリシス曲線の第2象限(減磁曲線)の微分曲線を測定し、この微分曲線の半値幅に相当する磁界を、そのテープの保磁力の値で割った値で示した。即ち磁性粉末の保磁力分布が狭いほど、またテープ中での磁性粉末の分散・配向が良好なほどHaは小さくなり、同じ保磁力で比較した場合、Haが小さいほど、特に短波長での記録特性が良好になる。
【0162】
<出力と出力対ノイズ>
テープの電磁変換特性測定にハードラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)とMRヘッド(8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気テープはカートリッジに巻き込んだ状態から適切な量を引き出して廃棄し、更に60cmを切り出し、更に4mm幅に加工して回転ドラムの外周に巻き付けた。
【0163】
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより波長0.2μmの矩形波を書き込み、MRヘッドの出力をスペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、記録波長0.2μm以上に相当するスペクトルの成分から、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C、C/Nともにリファレンスとして用いている比較例8テープの値との相対値を求めた。
【0164】
<テープの温度、湿度膨張係数>
作製した磁気テープ原反の幅方向から、幅12.65mm、長さ150mmの試料を準備し、温度膨張係数は、20℃、60%RHと40℃、60%RHとの試料長の差から、求めた。湿度膨張係数は、20℃、30%RHと20℃、70RHとの試料長の差から、求めた。
【0165】
<オフトラック量>
オフトラック量は、改造したLTOドライブを用いて温度20℃、湿度45%RHで記録(記録波長0.55μm)を行い、温度20℃、湿度45%RHと温度35℃、湿度70%RHで再生した時の再生出力の比から求めた。記録ヘッドおよび再生ヘッド(MRヘッド)については、それぞれ、20μm、12μmのトラック幅のものを使用した。
表1に、上記実施例1および比較例1〜8の磁気テープ特性および各実施例および比較例で採用した条件をまとめて示す。
【0166】
【表1−1】

【0167】
【表1−2】

【0168】
【表1−3】

*)磁気シートを1/7インチ幅に裁断し、DDSカセットに組み込み、DDSドライブ(C1554A)を用いて、実施例2〜8、比較例9〜12と同様の方法にて、ブロックエラーレートを測定した。
【0169】
表1から明かなように、実施例1および比較例1〜7の、本質的に球状ないし楕円状の、希土類−鉄系磁性粉末を最上層磁性層に使用した、全厚が6μm未満のコンピュータ磁気テープ(磁気記録媒体)は、比較例8の、鉢状の金属磁性粉末を最上層磁性層に使用したコンピュータ用テープに比べて、電磁変換特性(C、C/N)が優れている。特に、本質的に球状ないし楕円状の、希土類−窒化鉄磁性粉末を最上層磁性層に使用したコンピュータ磁気テープ(実施例1)は、電磁変換特性(C、C/N)が優れている。 さらに、下塗層および/またはバックコート層に、板状非磁性粉末を含有する、本質的に球状ないし楕円状の、希土類−鉄系磁性粉末を最上層磁性層に使用した、リニアレコーディングタイプのコンピュータ磁気テープは、湿度・温度安定性が良好なため、温度、湿度が変化した場合でもオフトラック量が少ない。
【0170】
実施例2
出発原料である平均粒子サイズが25nmのマグネタイト粒子を、平均粒子サイズが20nmのマグネタイト粒子に変更した以外は、実施例1と同様にして、イットリウム−窒化鉄系磁性粉末を製造した。なおこのマグネタイト粒子は、実施例1におけるマグネタイト粒子の作製において、水熱処理条件を、200℃、4時間から180℃、4時間に変更し、その他の条件は同じにして作製したものである。
【0171】
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ5.5原子%と11.9原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe162相の存在を示すプロファイルを得た。
【0172】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、平均粒子サイズが17nmの球状ないし楕円状の粒子であった。また、BET法により求めた比表面積は、60.1m2/gであった。
【0173】
また、1,270kA/m(16KOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は130.5Am2/kg(130.5emu/g)、保磁力は211.0kA/m(2,650Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃,90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、106.9Am2/kg(106.9emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が81.9%であった。
【0174】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、下塗層の組織を実施例1のように変更したことを除き、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。さらに比較例1と同様にして、下塗塗料とバックコート層用塗料も作製した。またこれらの塗料には、比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、比較例1と同じ条件で磁気テープを作製した。
【0175】
ついで、比較例1と同様にして鏡面化処理、エージング処理を行った磁気シートを1/7インチ幅に裁断し、比較例1と同様のラッピングテープ研磨、ブレード研磨、表面拭き取りの後処理を行い、磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ278.5kA/mおよび0.019μTmであった。
【0176】
実施例3
出発原料である平均粒子サイズが25nmのマグネタイト粒子を、平均粒子サイズが30nmのマグネタイト粒子に変更した以外は、実施例1と同様にして、イットリウム−窒化鉄系磁性粉末を製造した。なおこのマグネタイト粒子は、実施例1におけるマグネタイト粒子の作製において、水熱処理条件を、200℃、4時間から220℃、4時間に変更し、その他の条件は同じにして作製したものである。
【0177】
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ4.8原子%と10.1原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe162相の存在を示すプロファイルを得た。
【0178】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、平均粒子サイズが27nmの球状ないし楕円状の粒子であった。図6は、この磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)である。また、BET法により求めた比表面積は、42.0m2/gであった。
【0179】
また、1,270kA/m(16KOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は155.1Am2/kg(155.1emu/g)、保磁力は235.4kA/m(2,957Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃,90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、140.1Am2/kg(140.1emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が90.3%であった。
【0180】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。さらに比較例1と同様にして、下塗塗料とバックコート層用塗料も作製した。またこれらの塗料には、比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ294.3kA/mおよび0.023μTmであった。
【0181】
実施例4
硝酸イットリウムの添加量を2.5gから7.4gに、水酸化ナトリウムの添加量を0.8gから2.3gに、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、イットリウム−窒化鉄系磁性粉末を製造した。
【0182】
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ14.6原子%と9.5原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe162相の存在を示すプロファイルを得た。
【0183】
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、平均粒子サイズが21nmの球状ないし楕円状の粒子であった。また、BET法により求めた比表面積は、64.3m2/gであった。
【0184】
また、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は105.8Am2/kg(105.8emu/g)、保磁力は232.5kA/m(2,920Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃,90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、95.8Am2/kg(95.8emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が90.5%であった。
【0185】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。さらに比較例1と同様にして、下塗塗料とバックコート層用塗料も作製した。またこれらの塗料には、比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ297.6kA/mおよび0.017μTmであった。
【0186】
実施例5
窒化処理温度を150℃から130℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、イットリウム−窒化鉄系磁性粉末を製造した。
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ5.3原子%と6.2原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe162相の存在を示すプロファイルを得た。
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は球状ないし楕円状の粒子であり、平均粒子サイズは20nmであった。また、BET法により求めた比表面積は、50.5m2/gであった。
【0187】
また、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は145.0Am2/kg(145.0emu/g)、保磁力は215.0kA/m(2,700Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃,90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、120.1Am2/kg(120.1emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が82.8%であった。
【0188】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。さらに比較例1と同様にして、下塗塗料とバックコート層用塗料も作製した。またこれらの塗料には、比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ266.6kA/mおよび0.022μTmであった。
【0189】
実施例6
窒化処理温度を150℃から170℃に変更した以外は、実施例8と同様にして、イットリウム−窒化鉄系磁性粉末を製造した。
このイットリウム−窒化鉄系磁性粉末は、そのイットリウムと窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、それぞれ5.1原子%と15.1原子%であった。また、X線回折パターンより、Fe162相の存在を示すプロファイルを得た。
さらに、高分解能分析透過電子顕微鏡で粒子形状を観察したところ、平均粒子サイズが21nmの球状ないし楕円状の粒子であった。また、BET法により求めた比表面積は、54.6m2/gであった。
また、1,270kA/m(16KOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は123.3Am2/kg(123.3emu/g)、保磁力は226.1kA/m(2,840Oe)であった。さらに、この磁性粉末を60℃,90%RH下で1週間保存したのちに、上記同様に飽和磁化を測定した結果、105.2Am2/kg(105.2emu/g)となり、保存前の飽和磁化の維持率が85.3%であった。
【0190】
上記のようにして作製した希土類−窒化鉄系磁性粉末を用いて、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。なお磁性塗料作製に当たって、希土類−窒化鉄系磁性粉末は、本実施例の作製方法を100倍にスケールアップして作製したものを使用した。さらに比較例1と同様にして、下塗塗料とバックコート層用塗料も作製した。またこれらの塗料には、比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ293.6kA/mおよび0.019μTmであった。
【0191】
比較例9
比較例1の超微粒子磁性粉末の合成において、硝酸ネオジムを添加することなく、鉄のみからなる酸化物を生成した。この水酸化物に比較例1と同様にして、ホウ酸を加えて、鉄の水酸化物とホウ酸の均一混合物を得た。この混合物を比較例1と同じ条件で加熱処理し、さらに水洗して、ホウ素が結合した鉄酸化物粒子を取り出した。この酸化物粒子を、比較例1と同じ条件で、加熱還元し、さらに安定化処理を行った。得られた磁性粉末は、透過型電子顕微鏡(倍率:10万倍)で観察した結果、形状はほぼ球状であるが、顕著な粒成長が認められ、粒子サイズの分布が広く、平均粒子サイズは約100nmであった。また、1273.3kA/mの磁界を印加して測定した飽和磁化は165.2Am2/kg(165.2emu/g)、保磁力は35.8kA/m(450Oe)であった。
【0192】
上記のようにして作製した磁性粉末をさらに100倍にスケールアップして作製し、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。この磁性塗料を用いて、実施例2と同様にして磁気テープを作製することを試みたが、粒子サイズが大きいのみならず粒子サイズ分布が広いため、塗付むらが著しく、実施例で示したような0.06μmの厚さで均一な厚さの磁性層を形成することはできなかった。これは、粒子形状が例え球状あるいは楕円状であっても、本発明のような粒子サイズ以外の粒子を用いた場合には、磁性層厚さが薄い領域においては均一な塗膜を形成することが不可能であることを示している。
この磁気テープについても配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δを測定したところ、それぞれ46.5kA/mおよび0.020μTmであった。
【0193】
比較例10
実施例1の超微粒子磁性粉末の合成において、イットリウムの被着処理を行うことなく、粒子サイズが25nmの球状ないし楕円状のマグネタイト粒子を水素気流中400℃で2時間加熱還元して、磁性粉末を得た。つぎに、水素ガスを流した状態で、90℃まで降温し、酸素と窒素の混合ガスに切り替え、2時間安定化処理し、さらに混合ガスを流した状態で、90℃から40℃まで降温し、40℃で約10時間保持したのち、空気中に取り出した。このようにして得られた磁性粉末の形状を高分解能分析透過電子顕微鏡で観察したところ、平均粒子サイズが70μmの球状ないし楕円状の粒子であった。またBET法により求めた比表面積は、15.6m2/gであった。また、この磁性粉末について、1,270kA/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は195.2Am2/kg(195.2emu/g)、保磁力は49.4kA/m(620Oe)であった。
【0194】
上記のようにして作製した磁性粉末をさらに100倍にスケールアップして作製し、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。この磁性塗料を用いて、実施例2と同様にして0.06μmの厚さの磁性層を有する磁気テープを作製することを試みたが、磁性層厚さの厚み変動が大きく、均一な磁性層厚さの磁気テープを作製することはできなかった。
この磁気テープについても配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δを測定したところ、それぞれ66.7kA/mおよび0.024μTmであった。
【0195】
比較例11
実施例1において、イットリウムの被着処理を行うことなく、平均粒径25nmのマグネタイトを水素気流中400℃で2時間加熱還元した後、アンモニア気流中150℃で30時間窒化処理を行い、窒化鉄粉末を作製した。
この磁性粉末の窒素の含有量を蛍光X線により測定したところ、8.9原子%であった。また高分解能分析透過電子顕微鏡で観察したところ、粒径75nmの球状ないし楕円状の粒子であった。BET法により求めた比表面積は14.9m2/gであった。X線回折パターンよりFe162相を示すプロファイルを得た。1273.9A/m(16kOe)の磁界を印加して測定した飽和磁化は186.4Am2/kg(186.4emu/g)、保磁力は183.1kA/m(2300Oe)であった。
【0196】
上記のようにして作製した磁性粉末をさらに100倍にスケールアップして作製し、比較例1と同様にして磁性塗料を作製した。この磁性塗料を用いて、実施例2と同様にして0.06μmの厚さの磁性層を有する磁気テープを作製することを試みたが、粒子サイズが大きいため、磁性層の厚さ変動が大きく、均一な磁性層厚さの磁気テープを作製することはできなかった。
【0197】
なおこの磁気テープについても配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δを測定したところ、それぞれ217.9kA/mおよび0.023μTmであった。
【0198】
上記の実施例1〜6および比較例9〜11の各磁性粉末の製造条件を、表2にまとめて示した。また、実施例1〜6および比較例9〜11の各磁性粉末の元素組成(希土類元素および窒素の原子%)、Fe162相の有無、平均粒子サイズおよびBET比表面積を、表3にまとめて示した。さらに、実施例1〜6および比較例9〜11の各磁性粉末の飽和磁化、保磁力および保存安定性(保存後の飽和磁化および維持率)を、表4にまとめて示した。
【0199】
【表2】

【0200】
【表3】

【0201】
【表4】

【0202】
実施例7
比較例1において、磁性粉末として実施例1に示したイットリウム−窒化鉄系磁性粉末(保磁力:226.9kA/m、飽和磁化:135.2Am2/kg、粒子サイズ:20nm、粒子形状:球状ないし楕円状)を使用して比較例1と同様にして磁性塗料を作製し、この磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理した。カレンダ処理後の磁性層の厚さは、比較例1の0.06μmから0.08μmとなるようにした。また比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、実施例2と同様にして各塗料を塗布し、比較例1と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ283.6kA/mおよび0.027μTmであった。
【0203】
実施例8
比較例1において、磁性粉末として実施例2に示したイットリウム−窒化鉄系磁性粉末(保磁力:211.0kA/m、飽和磁化:130.5Am2/kg、粒子サイズ:17nm、粒子形状:球状ないし楕円状)を使用して比較例1と同様にして磁性塗料を作製し、この磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダ処理した。カレンダ処理後の磁性層の厚さは、比較例1の0.06μmから0.08μmとなるようにした。また比較例1で説明したものと同じ板状アルミナや板状ITOなどの板状酸化物粒子を用いた。このようにして作製した磁性塗料、下塗塗料、バックコート層用塗料を用いて、比較例1と同様にして各塗料を塗布し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ280.6kA/mおよび0.024μTmであった。
【0204】
比較例12
磁性塗料成分における磁性粉末として、針状のFe−Co合金磁性粉末(Co/Fe:22.1重量%、保磁力:195.0kA/m、飽和磁化:108.7Am2/kg、平均長軸径:60nm、軸比:5)を使用して比較例1と同様にして磁性塗料を作製し、実施例2と同じ条件で磁気テープを作製した。磁気テープの厚さは0.06μmにコントロールできず、0.09μmになった。この磁気テープをDDSカートリッジに組み込み、コンピュータテープを作製した。
【0205】
この磁気テープ配向方向に測定した保磁力および残留磁束密度と磁性層厚さの積Br・δは、それぞれ200.8kA/mおよび0.017μTmであった。
上記の実施例2〜8および比較例9〜12の各磁気テープにつき、磁気特性として、保磁力(Hc)、飽和磁束密度(Bm)、角形比(Br/Bm)および異方性磁界分布(Ha)を測定した。
【0206】
異方性磁界分布は、テープのヒステリシス曲線の第2象限(減磁曲線)の微分曲線を測定し、この微分曲線の半値幅に相当する磁界を、そのテープの保磁力の値で割った値で示した。即ち磁性粉末の保磁力分布が狭いほど、またテープ中での磁性粉末の分散・配向が良好なほどHaは小さくなり、同じ保磁力で比較した場合、Haが小さいほど、特に短波長での記録特性が良好になる。
また、電磁変換特性として、ヒューレットパッカード社製のDDSドライブ(C1554A)を用いて、40℃,5%RHの条件下で5回走行後、最短波長0.33μmのランダムデータ信号を記録し、ブロックエラーレート測定装置により、ブロックエラーレート(BER)を測定した。この測定結果も、同じく下記表5に示す。
【0207】
【表5】

【0208】
上記の表3及び表4に示した結果より、実施例1〜6で製造した本発明の希土類−窒化鉄系の磁性粉末は、磁性層厚さが0.09μm以下と薄い磁気記録媒体に最適な本質的に球状ないし楕円状の粒子形状で、かつ5〜50nmの粒子サイズを有していることが分かる。またこのような球状ないし楕円状であるにもかかわらず、高い保磁力と高密度記録に最適な適度な飽和磁化を有し、同時に優れた飽和磁化の保存安定性を有していることがわかる。
【0209】
また表5の実施例2〜8の結果から分かるように、本発明の希土類−窒化鉄系の磁性粉末は、磁気記録媒体としたときに球状であるにもかかわらず、その高い磁気異方性により、優れた磁界配向性を示す。さらに本発明の磁気記録媒体は優れた異方性磁界分布を示すが、これは本発明の磁性粉末のシャープな保磁力分布を反映している。このような小さい異方性磁界分布は、その結果として電磁変換特性であるブロックエラーレートが小さくなり、より信頼性にすぐれた磁気テープとなる。
【0210】
またこのような高密度記録媒体としての本発明の磁気記録媒体の優れた特性は、磁性粉末にFe162で表される組成の窒化鉄を含有する希土類−窒化系の磁性粉末を使用したときに、より顕著に表れる。
【0211】
一方、比較例9〜11の磁性粉末は、球状に近い形状を有しているが、粒子サイズが50nm以上と大きいため、本質的に0.09μm以下と薄い磁性層厚さを有する磁気記録媒体に使用することができない。また比較例9〜10の磁性粉末では希土類元素含有しないため、保磁力も本発明の磁性粉末に比べて著しく小さい。また比較例11の磁性粉末は、窒化鉄とすることにより、比較的高保磁力が得られるが、やはり希土類元素を含有しないため、高密度磁気記録媒体に適した5〜50nmの粒子サイズにはならない。
【0212】
比較例12の針状の磁性粉末を用いた磁気テープでは、高保磁力、高配向性は得られるが、異方性磁界が本発明の磁気テープに比べて劣り、その結果としてブロックエラーレートも劣る。これは本発明の磁性粉末の形状が本質的に球状ないし楕円状であるのに対して、針状粒子では粒子サイズ分布が広くなり、その結果として磁性粉末の保磁力分布が広くなるためと考えられる。さらに、このような針状の磁性粉末は、磁性層厚さが薄い磁気記録媒体には本質的に不適で、このような薄い磁性層厚さになると、針状磁性粉末は、磁性層表面から突出する割合が多くなり、信号を記録するときに記録が不均一になり易く、また再生する時にノイズの原因となる。これは針状磁性粉末の本質的な問題点であり、ブロックエラーレートが大きい原因となっている。
【0213】
以上述べたように、希土類−鉄系磁性粉末は、球状ないし楕円状の形状でありながら一軸性の結晶磁気異方性に基づく高い保磁力を示し、また極めて微粒子であるにもかかわらず高密度記録に最適な飽和磁化を有する。特にこの希土類−鉄系磁性粉末として、Fe162で表される組成の窒化鉄を含有する希土類−窒化鉄系の磁性粉末は、優れた異方性磁界分布とより高い保磁力を示し、ヘリキャルスキャンタイプの高密度記録媒体用の磁性粉末としても、最適である。
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】一般的な本発明の磁気テープカートリッジの構造を示す斜視図である。
【図2】図1の磁気テープカートリッジの断面図である。
【図3】比較例1で製造したネオジム−鉄系磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真(倍率:25万倍)である。
【図4】実施例1で製造したイットリウム−窒化鉄系磁性粉末のX線回折パターンである。
【図5】実施例1で製造したイットリウム−窒化鉄系磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)である。
【図6】実施例3で製造したイットリウム−窒化鉄系磁性粉末の透過型電子顕微鏡写真(倍率:20万倍)である。
【図7】磁気テープに用いられるトラックサーボ方式の一例である磁気サーボ方式を説明するための図であり、磁気テープの磁気記録面(磁性層)にデータトラックとサーボバンドとを交互に設けた状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0215】
1:ケース本体 1a,1b:ケース
2:リール 3:磁気テープ
4:テープ引出口 5:ドア
6:前壁 7:テープ引出具
20:ドアばね
12:ブレーキボタン 17:スプリング
21: 上鍔部 22:下鍔部
23:巻芯部 23c:底壁
23d:底孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体、非磁性支持体の一方の面上に形成された、非磁性粉末とバインダ樹脂を含む少なくとも一層の下塗層と、この下塗層の上に形成された、磁性粉末とバインダ樹脂とを含む少なくとも一層の磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の最上層磁性層に含まれる磁性粉末が、本質的に球状ないし楕円状であり、5〜50nmの数平均粒子径を有し、磁性粉末の外層部分に希土類元素が主体的に存在し、コアー部分が、鉄または鉄の一部が遷移金属元素で置換されたFe16相を含有し、かつ、前記最上層磁性層の異方性磁界分布が0.51以下であり、保磁力が200〜400kA/mであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記最上層磁性層に含まれる磁性粉末が、さらにアルミニウムおよびシリコンからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
箱状のケース本体、該ケース本体の内部に配置された、請求項1または2に記載の磁気記録媒体を巻装したリールを有してなり、該磁気記録媒体に記録された磁気記録信号は磁気抵抗効果型磁気ヘッド(MRヘッド)で再生される磁気記録カートリッジ。
【請求項4】
箱状のケース本体、該ケース本体の内部に配置された、請求項1または2に記載の磁気記録媒体を巻装した1個のリールを有してなり、該磁気記録媒体に記録されたサーボ信号によってトラッキングされる磁気記録カートリッジ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−344379(P2006−344379A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265254(P2006−265254)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【分割の表示】特願2003−577248(P2003−577248)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】