説明

磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体の製造装置

【課題】磁性層の磁気特性のむらに起因する磁気記録媒体へのパターンの転写不良を低減する。
【解決手段】垂直記録層を有する磁気記録媒体1を、サーボ・パターンが形成されたマスタ情報記録体200と対峙した位置に位置決めして固定する。マスタ情報記録体200および磁気記録媒体1を挟んで対向配置される第1磁石51および第2磁石61の、磁気記録媒体1に対する距離や取り付け角度を、磁気記録媒体1の第1面および第2面のそれぞれの保磁力Hcの分布を測定した結果に基づいて調整した後、第1磁石51および第2磁石61を磁気記録媒体1の周方向に同期して回転させることで、マスタ情報記録体200に形成されたサーボ・パターンを、マスタ情報記録体200に接触させた磁気記録媒体1に磁気的に転写する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法および磁気記録媒体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハード・ディスク・ドライブ等に代表される磁気記録装置では、回転する磁気記録媒体に対し、磁気ヘッドを用いたデータの書き込みおよび読み取りが行われる。
この種の磁気記録装置では、磁気記録媒体上の目的とする位置に磁気ヘッドを移動させ、且つ、その位置でのデータの書き込みおよび読み取りを行わせるために、磁気ヘッドの位置決めを行っている。このため、磁気記録媒体には、予め、磁気ヘッドによって読み取られるとともに磁気ヘッドの位置決めに使用される位置決めデータが記録されている。
【0003】
公報記載の従来技術として、磁気記録媒体に対する位置決めデータ等の記録を、所謂磁気転写方式にて行うことが提案されている(特許文献1参照)。磁気転写においては、記録すべきデータに対応したパターンが形成されたパターン形成体に磁気記録媒体を重ね合わせた状態で、パターン形成体と磁気記録媒体とを挟んで一方向に向かう磁力を加えることで、磁気記録媒体に設けられた磁性層に対するパターンの磁気的な転写を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−196120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体に設けられる磁性層には、領域によって磁気特性が変わってしまうことに起因した磁気特性のばらつきが発生することがある。このような磁気特性のばらつきが発生した場合には、磁性層において磁化の反転が容易な領域と磁化の反転が困難な領域とが存在することになり、特に磁化の反転が困難な領域において、パターンの転写不良が生ずるおそれがあった。
本発明は、磁性層の磁気特性のむらに起因する磁気記録媒体へのパターンの転写不良を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体における磁性層の保磁力の分布を測定する工程と、パターンが形成されたパターン形成体のパターンの形成面に磁性層を対峙させて磁気記録媒体を位置決めする工程と、パターン形成体および位置決めされた磁気記録媒体を挟んで対向配置された一対の磁石の位置関係を、磁性層の保磁力の分布の測定結果に基づいて調整する工程と、位置関係が調整された一対の磁石の間に発生する磁場を用いて、パターン形成体に形成されたパターンを磁気記録媒体に磁気的に転写する工程とを含んでいる。
【0007】
また、磁気記録媒体が円盤状の形状を有している場合において、測定する工程では、磁気記録媒体の磁性層における半径方向の保磁力の分布を測定し、調整する工程では、磁気記録媒体に対する一対の磁石の取り付け角度を調整し、転写する工程では、磁気記録媒体の周方向に沿って一対の磁石を移動させることを特徴とすることができる。
さらに、磁気記録媒体が円盤状の形状を有している場合において、測定する工程では、磁気記録媒体の磁性層における半径方向の保磁力の分布を測定し、調整する工程では、一対の磁石と磁気記録媒体との距離を調整し、転写する工程では、磁気記録媒体の周方向に沿って一対の磁石を移動させることを特徴とすることができる。
【0008】
また、他の観点から捉えると、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体における磁性層の保磁力の分布を測定する工程と、パターンが形成されたパターン形成体のパターンの形成面に磁性層を対峙させて磁気記録媒体を位置決めする工程と、磁性層の保磁力の分布の測定結果に基づいて、磁性層のうち保磁力の大きい領域に印加される磁場の強さが保磁力の小さい領域に印加される磁場の強さよりも強くなるように、パターン形成体と磁気記録媒体とを挟んで磁場を印加する工程とを含んでいる。
【0009】
このような磁気記録媒体の製造方法において、位置決めする工程では、パターンとして凹凸が形成されたパターン形成体と磁気記録媒体とを密着させることを特徴とすることができる。
【0010】
さらに、他の観点から捉えると、本発明の磁気記録媒体の製造装置は、パターンが形成されたパターン形成体と、パターンの形成面を露出させた状態でパターン形成体を保持する保持体と、基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体を、パターン形成体のパターンの形成面に接触させた状態で取り付ける取り付け部と、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体とパターン形成体とを挟むように配置される一対の磁石と、磁気記録媒体における磁性層の保磁力の分布に基づいて一対の磁石の位置関係を調整する調整部と、調整部によって位置が調整された一対の磁石を同期して移動するように駆動する磁石駆動部とを含んでいる。
【0011】
このような磁気記録媒体の製造装置において、磁気記録媒体は円盤状の形状を有し、一対の磁石は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体の半径方向に沿って配置され、調整部は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体に対する一対の磁石の取り付け角度を調整し、磁石駆動部は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体の周方向に沿って一対の磁石を移動させることを特徴とすることができる。
また、磁気記録媒体は円盤状の形状を有し、一対の磁石は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体の半径方向に沿って配置され、調整部は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体に対する一対の磁石の距離を調整し、磁石駆動部は、取り付け部によって取り付けられた磁気記録媒体の周方向に沿って一対の磁石を移動させることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁性層の磁気特性のむらに起因する磁気記録媒体へのパターンの転写不良を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態が適用される磁気記録媒体を備えた磁気記録再生装置の構成の一例を示した図である。
【図2】磁気記録媒体の断面構成の一例を示す図である。
【図3】磁気記録媒体の上面図である。
【図4】本実施の形態における磁気記録媒体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図5】表面検査および磁気転写を行うための検査・磁気転写装置の上面図である。
【図6】図5の矢印VI方向からみた検査・磁気転写装置の斜視図である。
【図7】磁気転写部における第1磁石部材、第2磁石部材の構成および両者の相互的な位置関係の一例を示す図である。
【図8】磁気転写部で用いられるマスタ情報記録体の構成の一例を示す図である。
【図9】磁気転写部における固定ホルダおよび可動ホルダの断面構成の一例を示す図である。
【図10】検査・磁気転写装置における制御ブロックの一例を示す図である。
【図11】保磁力分布検査工程における処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図12】転写前媒体における保磁力の分布の測定の概要を示す図である。
【図13】第1面の保磁力分布測定工程における処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図14】第1面の保磁力分布測定工程において得られるヒステリシス曲線の一例を示した図である。
【図15】第1面の保磁力分布測定工程あるいは第2面の保磁力分布測定工程によって得られる、第1面あるいは第2面の保磁力分布の測定結果の一例を示す図である。
【図16】磁気転写工程における転写前媒体、第1磁石および第2磁石の位置関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態が適用される磁気記録媒体1を備えた磁気記録再生装置の構成の一例を示した図である。
この磁気記録再生装置は、データを磁気的に記録する磁気記録媒体1と、磁気記録媒体1を回転駆動させる回転駆動部2と、磁気記録媒体1にデータを書き込むとともに磁気記録媒体1に記録されたデータを読み取る磁気ヘッド3と、磁気ヘッド3を搭載するキャリッジ4と、キャリッジ4を介して磁気記録媒体1に対して磁気ヘッド3を相対移動させるヘッド駆動部5と、外部から入力された情報を処理して得られた記録信号を磁気ヘッド3に出力し、磁気ヘッド3からの再生信号を処理して得られた情報を外部に出力する信号処理部6とを備えている。
ここで、本実施の形態では、磁気記録媒体1が円盤状の形状を有しており、後述するように、その両面にそれぞれデータを記録するための記録層が形成されている。そして、図1に示す例では、1台の磁気記録再生装置に複数(ここでは3枚)の磁気記録媒体1が取り付けられている。
【0015】
図2は、図1に示す磁気記録媒体1の断面構成の一例を示す図である。なお、磁気記録媒体1に対するデータの記録方式には面内記録方式と垂直記録方式とが存在するが、本実施の形態では、垂直記録方式において使用される磁気記録媒体1について説明を行う。
この磁気記録媒体1は、基板100と、基板100の上に形成された密着層110と、密着層110の上に形成された軟磁性下地層120と、軟磁性下地層120の上に形成された配向制御層130と、配向制御層130の上に形成された非磁性下地層140と、非磁性下地層140の上に形成された垂直記録層150と、垂直記録層150の上に形成された保護層160と、保護層160の上に形成された潤滑層170とを備えている。そして、本実施の形態では、基板100の両面のそれぞれに、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140、垂直記録層150、保護層160、および潤滑層170が形成されるようになっている。なお、以下の説明においては、必要に応じて、基板100の両面に密着層110から保護層160までを積層したもの、換言すれば、基板100に潤滑層170以外を形成したものを、積層基板180と称することがある。
【0016】
本実施の形態では、基板100として非磁性体が使用されており、例えばアルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよく、例えばガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いることもできる。
【0017】
これらのうち、ガラス基板としては、例えば、通常のガラスや結晶化ガラスなどを用いることができ、通常のガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。また、セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0018】
また、基板100は、後述するようにCo又はFeが主成分となる軟磁性下地層120と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。このため、基板100と軟磁性下地層120との間に密着層110を設けることが好ましい。なお、密着層110の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など適宜選択することが可能である。また、密着層110の厚みは2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0019】
軟磁性下地層120は、垂直記録方式を採用した場合において、記録再生時のノイズの低減を図るために設けられる。
本実施の形態において、軟磁性下地層120は、密着層110の上に形成される第1軟磁性層121と、第1軟磁性層121の上に形成されるスペーサ層122と、スペーサ層122の上に形成される第2軟磁性層123とを備えている。すなわち、軟磁性下地層120は、第1軟磁性層121と第2軟磁性層123とによってスペーサ層122を挟み込んだ構成を有している。
これらのうち、第1軟磁性層121および第2軟磁性層123は、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いるのが好ましく、またその透磁率や耐食性を高めるためTa、Nb、Zr、Crからなる群から選ばれる何れか1種を1原子%〜8原子%の範囲で含有させるのが好ましい。
また、スペーサ層122としては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、この中では特にRuを用いるのが好ましい。
【0020】
配向制御層130は、非磁性下地層140を介してこの上に積層される垂直記録層150の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するために設けられる。
配向制御層130を構成する材料については、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有するものが好ましい。特に、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金が好ましく、またこれらの合金を多層化したものを用いてもよい。例えば、基板100側からNi系合金とRu系合金との多層構造、Co系合金とRu系合金との多層構造、Pt系合金とRu系合金との多層構造を採用することが好ましい。
【0021】
非磁性下地層140は、この上に積層される垂直記録層150の初期積層部における結晶成長の乱れを抑制し、記録再生時のノイズの発生を抑制するために設けられる。ただし、非磁性下地層140については、必ずしも設ける必要はない。
本実施の形態において、非磁性下地層140は、Coを主成分とする金属に、さらに酸化物を含んだ材料からなることが好ましい。非磁性下地層140におけるCrの含有量は、25原子%〜50原子%とすることが好ましい。非磁性下地層140における酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。非磁性下地層140における酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0022】
本実施の形態における垂直記録層150は、非磁性下地層140の上に形成される第1磁性層151と、第1磁性層151の上に形成される第1非磁性層152と、第1非磁性層152の上に形成される第2磁性層153と、第2磁性層153の上に形成される第2非磁性層154と、第2非磁性層154の上に形成される第3磁性層155とを備えている。すなわち、垂直記録層150では、第1磁性層151と第2磁性層153とによって第1非磁性層152を挟み込み、第2磁性層153と第3磁性層155とによって第2非磁性層154を挟み込んだ構成を有している。
【0023】
これらのうち、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155は、磁気ヘッド3から供給される磁気エネルギーによって垂直記録層150の厚さ方向に磁化の向きを反転させ、その状態を維持することでデータを記憶するために設けられる。
これら第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155は、Coを主成分とする金属からなる磁性粒子と非磁性の酸化物とを含み、磁性粒子を酸化物で囲んだグラニュラ型構造を有するものを用いることが好ましい。
【0024】
ここで、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155を構成する酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを好適に用いることができる。また、垂直記録層150の中で最下層となる第1磁性層151については、2種類以上の酸化物からなる複合酸化物を含んでいることが好ましい。その中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0025】
また、第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155を構成する磁性粒子に適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの組成物を挙げることができる。
【0026】
また、第1非磁性層152および第2非磁性層154は、垂直記録層150を構成する第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155の個々での磁化反転を容易とし、磁性粒子全体での磁化反転の分散を小さくすることで、ノイズを低減するために設けられる。
本実施の形態において、第1非磁性層152および第2非磁性層154は、例えばRuおよびCoを含んでいることが好ましい。
【0027】
なお、この例では、垂直記録層150を構成する磁性層を3層(第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155)としていたが、これに限られるものではなく、4層以上の磁性層を備えた構成とすることも可能である。また、この例では、垂直記録層150を構成する各磁性層(第1磁性層151、第2磁性層153および第3磁性層155)の間に非磁性層(第1非磁性層152および第2非磁性層154)を設けていたが、これに限られるものではなく、例えば異なる組成を有する2つの磁性層を、重ねて配置するようにしてもかまわない。
【0028】
保護層160は、垂直記録層150の腐食を抑制するとともに、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に偶発的に接触したときに、磁気記録媒体1の表面の損傷を防いで保護するために設けられる。
保護層160としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO、ZrOを含むものを使用することが可能である。保護層160の厚みは、1〜10nmとすることが、図1に示す磁気記録再生装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を小さくできるので、高記録密度の点から好ましい。
【0029】
潤滑層170は、磁気ヘッド3が磁気記録媒体1に偶発的に接触したときに磁気ヘッド3および磁気記録媒体1の表面の摩耗を抑制するために設けられる。
潤滑層170としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。潤滑層170の厚さは、1〜2nmとすることが、図1に示す磁気記録再生装置において磁気ヘッド3と磁気記録媒体1との距離を小さくできるので、高記録密度の点から好ましい。
【0030】
図3は、図1に示す磁気記録媒体1の上面図である。また、図3には、磁気記録媒体1の表面に設けられる複数のデータ領域を模式的に示している。
本実施の形態における磁気記録媒体1は、上述したように円盤状の形状を有しており、その中央部には磁気記録媒体1の表裏を貫通する円形状の孔が形成されている。以下の説明では、磁気記録媒体1における円形状の孔の縁を内端1aと称し、磁気記録媒体1における外周の縁を外端1bと称する。
【0031】
図3に示す磁気記録媒体1の表面には、磁気ヘッド3(図1参照)を用いたデータの読み書きを行うための読み書きデータ記憶領域A1と、磁気ヘッド3を用いたデータの読み書きにおいて磁気ヘッド3の位置決めに用いられるデータ(位置決めデータという)を記憶する位置決めデータ記憶領域A2とが設けられている。この例において、位置決めデータ記憶領域A2は、磁気記録媒体1の表面に、放射状に複数設けられている。また、磁気記録媒体1の表面には、同心円状に、複数のトラックTが設けられる。なお、図示はしていないが、図3に示す磁気記録媒体1の裏面にも、同様にして、読み書きデータ記憶領域A1と位置決めデータ記憶領域A2とが設けられている。ただし、磁気記録媒体1の表裏面のそれぞれに設けられた位置決めデータ記憶領域A2は、表裏で位置を合わせなくてもかまわない。
【0032】
磁気記録媒体1の位置決めデータ記憶領域A2には、位置決めデータとして、例えば、磁気ヘッド3による読み取り時において検出信号の利得調整に用いられるAGC(Auto Gain Control)パターン、サーボ信号の検出に用いられる検出パターン、サーボ・トラックのシリンダ情報あるいはセクタ情報の検出に用いられるアドレス・パターン、そして目的とするトラックTに磁気ヘッド3を移動させた後にそのトラックT上に磁気ヘッド3を追従させるのに用いられるバースト・パターン(いずれも図示せず)等を含むサーボ・パターンが記憶されている。なお、サーボ・パターンは、磁気記録媒体1に設けられた垂直記録層150の厚み方向の磁化の向きを、位置決めデータに合わせて適宜反転させることで構成されている。
【0033】
図4は、本実施の形態における磁気記録媒体1の製造方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、磁気記録媒体1の製造過程において、上述した位置決めデータ記憶領域A2にサーボ・パターンの書き込みを行っていること、より具体的には、後述するマスタ情報記録体200(図8参照)を用いて、磁気記録媒体1にサーボ・パターンを磁気転写していることに特徴がある。
【0034】
磁気記録媒体1の製造に先立ち、予め円盤状に形成されるとともに中央部に表裏を貫通する円形状の孔が形成された基板100を準備し、予備洗浄を行った後、この基板100に対する研磨を行う(ステップ101)。ステップ101における基板100の研磨は、例えばダイヤモンドスラリーを用いたメカニカルポリッシュで行うことが望ましい。
【0035】
そして、研磨後の基板100は、その平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であるとことが、磁気ヘッド3(図1参照)を低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、研磨後の基板100の表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下。)であることが、磁気ヘッド3を低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、研磨後の基板100の端面のチャンファー部の面取り部と、側面部との少なくとも一方の平均表面粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下。)のものを用いることが、磁気ヘッド3の飛行安定性にとって好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの平均表面粗さとして測定することができる。
【0036】
次に、研磨が施された基板100に対し、前洗浄を行う(ステップ102)。ステップ102における基板100の前洗浄は、研磨が施された基板100を、純水あるいは超純水に浸漬して超音波振動を加えながら行うことが好ましい。そして、前洗浄がなされた基板100は、速やかにスピン法等で乾燥させることが好ましい。
【0037】
続いて、前洗浄が施された基板100に対し、密着層110、軟磁性下地層120、配向制御層130、非磁性下地層140、垂直記録層150および保護層160を順次積層する成膜工程を行う(ステップ103)。ここで、生産性を向上させるという観点からすれば、ステップ103における各層の形成を、例えばそれぞれが成膜機能を備えた複数のチャンバを直列に接続したインライン式成膜装置で行うことが好ましい。また、生産性を向上させるという観点からすれば、成膜工程で形成される各層をスパッタリング法で形成することが望ましい。ただし、保護層160の強度を確保しつつ薄膜化するという観点からすれば、密着層110から垂直記録層150についてはスパッタリング法で形成する一方、保護層160についてはCVD法で形成することが好ましい。このように、前洗浄が施された基板100に対し成膜工程を行うことで、積層基板180(図2参照)が得られる。
【0038】
そして、成膜工程によって得られた積層基板180に対し、後洗浄を行う(ステップ104)。ステップ104における積層基板180の後洗浄は、例えば水素水を用いて行うことができる。ここで、水素水とは、純水もしくは超純水に、高純度の水素ガスを溶解した水であり、水のクラスターを小さくして洗浄能力を高めたものである。
【0039】
本実施の形態の後洗浄工程は、後述するワイピング工程(ステップ107)、バーニッシュ工程(ステップ108)では除去しきれない積層基板180表面の汚染物を除去する目的で行われる。これらの汚染物は、後述する潤滑剤塗布工程(ステップ105)や上記ワイピング工程およびバーニッシュ工程の後では水素水による洗浄除去が困難となる場合がある。その理由は、推測ではあるが、汚染物が潤滑層170に覆われるとその撥水性により除去が困難となること、ワイピング工程およびバーニッシュ工程の後では汚染物が積層基板180の表面に塗り込められ、除去しにくくなってしまうことが考えられる。なお、水素水を用いた後洗浄工程によっても、スパッタダスト等の粉状物をある程度は除去することが可能ではあるが、ワイピング工程およびバーニッシュ工程のように積層基板180の表面をスクラブし、ワイプし、または削る効果が低いため、積層基板180の表面に強固に付着した粉状物を除去することは困難である。よって、この水素水を用いた後洗浄工程は、ワイピング工程やバーニッシュ工程と併用するのが好ましい。
【0040】
次に、後洗浄が施された積層基板180に対し、潤滑剤を塗布し(ステップ105)、積層基板180に潤滑層170を形成する。続いて、潤滑層170が塗布された積層基板180を100℃程度で数分間加熱するベークを行う(ステップ106)。これにより、潤滑層170に含まれる水分が揮発し、且つ、積層基板180の最表面側に設けられた保護層160と保護層160に接する潤滑層170との密着性が高まる。以上により、磁気記録媒体1が得られる。
【0041】
次いで、ベークが施された磁気記録媒体1の表面をワイピングする(ステップ107)。ワイピング工程は、磁気記録媒体1の表面に付着したスパッタダスト等を拭き取るために行われる。これは、上述したように、ステップ104の後洗浄工程は水素水への浸漬によるものであり、これだけでは、磁気記録媒体1の表面に強固に付着した粉状物を除去することが困難であるからである。
【0042】
ワイピング工程は、例えば布製のワイピングテープ等を用いて行なわれ、このワイピングテープを磁気記録媒体1の表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロールまたはパッドによってワイピングテープ表面を磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、磁気記録媒体1の表面を軽く拭くことによって行われる。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体1の表面に付着していたスパッタダスト等が除去されることになる。その結果、得られた磁気記録媒体1を図1に示す磁気記録再生装置に組み込んだ場合に、磁気記録媒体1に対する磁気ヘッド3の浮上量をより小さくすることが可能となる。
【0043】
ここで、ワイピング工程に用いられるワイピングテープとしては、超極細繊維よりなる布帛を帯状にスリットしたワイピングテープや、超極細繊維マルチフィラメント糸の織編物等が用いられる。
【0044】
また、このようなワイピングテープを用いる磁気記録媒体1のワイピング方法は、具体的には、磁気記録媒体1を回転させつつ、この磁気記録媒体1の磁性層側の面に、ワイピングテープの表面(拭き面)を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体1の表面のスパッタダスト等が拭き取られ、表面が清浄化する。ここで、ワイピングテープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、ワイピングテープは、拭き面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、その拭き面が磁気記録媒体1の表面に押し当てられる。
【0045】
そして、ワイピングが施された磁気記録媒体1の表面に対しバーニッシュを行う(ステップ108)。
バーニッシュ工程は、磁気記録媒体1の表面に形成または付着した突起物を除去するため、その表面を、研磨テープを用いて研磨する工程である。このような処理を行うことにより、得られた磁気記録媒体1を図1に示す磁気記録再生装置に組み込んだ場合に、磁気記録媒体1に対する磁気ヘッド3の浮上量をより小さくすることができる。また、後述する磁気転写工程において、磁気記録媒体1とマスタ情報記録体200との間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明となり、マスタ情報記録体200が損傷を受けるのを防ぐことができる。
【0046】
バーニッシュ工程は、アルミナ砥粒を塗布した研磨テープ等を用いて行なわれ、この研磨テープをゴム製のコンタクトロールによって磁気記録媒体1の表面に押し当てることにより、磁気記録媒体1の表面を軽く研磨することにより行われる。このような処理を行うことにより、磁気記録媒体1の表面の異常突起等が除去される。
【0047】
バーニッシュ工程に用いられる研磨テープ(バーニッシュテープ)としては、通常ポリエステル製のベースフィルム上に研磨材層を形成してなるテープを使用する。そして、この研磨材層が磁気記録媒体1の磁性層側の面と接触して摺動することによって、磁気記録媒体1の表面に付着した微小な塵埃が除去されると共に、その表面に存在する異常突起等が研磨・除去されて、その表面が平滑化される。研磨材としては、平均粒子径が0.05μm〜50μm程度の、酸化クロム、α−アルミナ、炭化珪素、非磁性酸化鉄、ダイヤモンド、γ−アルミナ、α,γ−アルミナ、熔融アルミナ、コランダム、人造ダイヤモンド等が用いられる。
【0048】
また、このような研磨テープを用いる磁気記録媒体1のバーニッシュ加工は、具体的には、磁気記録媒体1を回転させつつ、この磁気記録媒体1の磁性層側の面に、研磨テープの砥粒面を押し当てることにより行われる。これにより、磁気記録媒体1の表面の突起が研磨除去され平滑化される。ここで、研磨テープは、供給リールと巻取りリールとの間に掛け渡されており、供給リールから順次供給され、巻取りリールに巻き取られる。そして、この供給リール側から巻取りリール側に走行する途中で、研磨テープは、砥粒面と反対側の面(裏面)がゴム等のバッキングロールまたはフェルト等により押圧され、研磨テープの研磨面が磁気記録媒体1の表面に押し当てられる。
【0049】
次に、バーニッシュが施された磁気記録媒体1に対し、初期磁化を行う(ステップ109)。この例では、垂直記録方式で用いられる磁気記録媒体1を対象としているため、初期磁化工程は、磁気記録媒体1の表面に垂直方向に一方向の初期直流磁界を印加することによって行われる。その際に印加する初期直流磁界は永久磁石、電磁石によって発生させることが可能であり、好ましくは、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いて発生させるのが好ましい。また、初期磁化工程は磁気記録媒体1と磁石とを非接触状態で行うことが、磁気記録媒体1の表面の清浄性を維持する上で好ましい。
【0050】
ここで、本実施の形態の磁気記録媒体1における垂直記録層150(第1磁性層151、第2磁性層153、第3磁性層155)の保磁力Hcは、通常、320kA/m(約4000Oe)以上になっている。よって、初期磁化工程では、垂直記録層150の各磁性層を直流磁化することが可能な磁石を用いるとよい。
【0051】
その後、初期磁化が施された磁気記録媒体1に対し、転写前検査を行う(ステップ110)。転写前検査工程では、初期磁化後の磁気記録媒体1の表面への塵埃の付着や異常突起の有無についての検査(表面検査工程:ステップ110a)と、磁気記録媒体1における保磁力Hcの分布に関する検査(保磁力分布検査工程:ステップ110b)とを行う。なお、初期磁化工程を転写前検査の前に行ってもよい。
そして、転写前検査が完了した磁気記録媒体1に対し磁気転写を行い(ステップ111)、磁気記録媒体1にサーボ・パターンを記憶させた位置決めデータ記憶領域A2(図3参照)を設ける。
なお、ステップ110の転写前検査工程およびステップ111の磁気転写工程は、一連の動作として実行されるが、この詳細については後述する。
【0052】
続いて、磁気転写が施された磁気記録媒体1に対しグライド検査を行う(ステップ112)。グライド検査工程では、磁気転写済の磁気記録媒体1の表面に突起物が無いかどうかを検査する。磁気ヘッド3を用いて磁気記録媒体1をデータの書き込み(記録)および読み出し(再生)を実行する際に、磁気記録媒体1の表面に浮上量(磁気記録媒体1と磁気ヘッド3の間隔)以上の高さの突起があると、磁気ヘッド3が突起にぶつかって磁気ヘッド3が損傷したり、磁気記録媒体1に欠陥が発生したりする原因となる。このため、グライド検査では、検査ヘッドを磁気記録媒体1の表面で浮上走行させ、そのような高い突起の有無を検査する。
【0053】
次いで、グライド検査に合格した磁気記録媒体1に対し、サーティファイ検査を行う(ステップ113)。サーティファイ検査工程では、通常の磁気記録再生装置と同様に、磁気記録媒体1に対して磁気ヘッド3で予め決められた信号を記録した後、記録した信号を再生し、得られた再生信号によって磁気記録媒体1の記録不良を検出し、磁気記録媒体1の電気特性や欠陥の有無など磁気記録媒体1の品質を確かめる。上述した方法で製造した磁気記録媒体1には、既にサーボ・パターンが書き込まれているため、サーボ・パターンを用いない従来の方式でのサーティファイ検査を実施することが困難となっている。このため、本実施の形態では、磁気記録媒体1に磁気転写されたサーボ・パターン(位置決めデータ)を利用して磁気ヘッド3を特定箇所に位置づけし、データの読み書きを行う形式の検査を行う。
そして、サーティファイ検査に合格した磁気記録媒体1が、製品として出荷されることになる。
【0054】
では、上述したステップ110における転写前検査工程およびステップ111における磁気転写工程について、より詳細に説明する。
図5は、転写前検査および磁気転写を行うための検査・磁気転写装置10の上面図である。また、図6は、図5に示す矢印VI方向からみた検査・磁気転写装置10の斜視図である。なお、以下では、図5において、図中左側から右側に向かう方向をX方向、図中下側から上側に向かう方向をY方向、そして図中奥側から手前側に向かう方向をZ方向として説明を行う。
【0055】
検査・磁気転写装置10は、Y方向に対してX方向が長辺側となる矩形状の基台11と、ステップ109に示す初期磁化が施された磁気記録媒体1を収容する転写前媒体収容部12と、転写前媒体収容部12から取り出された磁気記録媒体1に対しステップ110に示す転写前検査(表面検査および保磁力分布検査)を行う転写前検査部13と、転写前検査がなされた磁気記録媒体1にサーボ・パターンを磁気転写する磁気転写部14と、サーボ・パターンの磁気転写がなされた磁気記録媒体1を収容する転写済媒体収容部15と、転写前検査部13による転写前検査のうち表面検査の結果が不合格となった磁気記録媒体1を収容する不具合品収容部16とを備える。また、検査・磁気転写装置10は、転写前検査がなされた磁気記録媒体1を磁気転写部14へと供給するとともに磁気転写がなされた磁気記録媒体1を磁気転写部14から回収するために磁気記録媒体1を移載する移載部17と、転写前媒体収容部12、転写前検査部13、転写済媒体収容部15、不具合品収容部16および移載部17の間で磁気記録媒体1の授受を行うスカラ(SCARA:Selective Compliance Assembly Robot Arm)・ロボット18とをさらに備える。そして、検査・磁気転写装置10は、移載部17に保持された磁気記録媒体1の磁気転写部14に対する位置決めに用いられる位置検出部19と、磁気転写部14に対する位置決めがなされた磁気記録媒体1の振動検出に用いられる振動検出部20とをさらに備える。
【0056】
検査・磁気転写装置10において、転写前媒体収容部12、転写前検査部13、磁気転写部14、転写済媒体収容部15、不具合品収容部16、移載部17、スカラ・ロボット18、位置検出部19および振動検出部20は、基台11の上部側に配置されている。これに対し、転写前検査部13、磁気転写部14、移載部17、スカラ・ロボット18、位置検出部19および振動検出部20の駆動系は、基台11よりも下部側に配置されている。また、本実施の形態の検査・磁気転写装置10は、ダウンフロー方式を採用したクリーンルーム内に配置されており、検査・磁気転写装置10には、上方から下方(図5において−Z方向)に空気が流れるようになっている。
【0057】
なお、以下の説明においては、転写前媒体収容部12から転写前検査部13を介して、磁気転写部14あるいは不具合品収容部16に供給される、磁気転写工程実行前の磁気記録媒体1を『転写前媒体』と称する。また、以下の説明では、磁気転写部14から転写済媒体収容部15に供給される、磁気転写工程実行後の磁気記録媒体1を『転写済媒体』と称する。
【0058】
転写前媒体収容部12は複数の転写前媒体を立てた状態で収容可能な収容容器12aを、転写済媒体収容部15は複数の転写済媒体を立てた状態で収容可能な収容容器15aを、そして、不具合品収容部16は複数の転写前媒体(不具合品)を立てた状態で収容可能な収容容器16aを、それぞれ備えている。ここで、これら収容容器12a、15a、16aには、共通の構造を有するものを用いている。そして、転写前媒体収容部12においては転写前媒体が空になったときに、転写済媒体収容部15においては転写済媒体がいっぱいになったときに、そして不具合品収容部16においては転写前媒体(不具合品)がいっぱいになったときに、それぞれ新たなものと交換されるようになっている。
【0059】
転写前検査部13は、スカラ・ロボット18によって転写前媒体収容部12から運ばれてきた転写前媒体の両面について表面検査を行う。転写前検査部13における表面検査の手法としては、例えば図示しないレーザ光源を用いて転写前媒体の両面を走査し、その反射光に基づいて表面における異常(突起等)の有無を検出するものが挙げられる。
また、転写前検査部13は、転写前媒体の両面について、各垂直記録層150における保磁力分布(保磁力Hcの面内分布)に関する検査を行う。なお、保磁力分布検査の詳細については後述する。
【0060】
移載部17は、基台11に搭載されるとともにX方向に伸びる直動案内部17aと、直動案内部17aの上部に搭載されて直動案内部17aに沿ってX方向および−X方向に移動する直動部17bとを備える。また、直動部17bは、−X方向に伸びる腕木部17cと、腕木部17cの自由端側から−Y方向に伸び、磁気転写部14に供給する転写前媒体を保持するための供給チャック部17dと、供給チャック部17dよりも直動部17bに近い側において腕木部17cから−Y方向に伸び、磁気転写部14から回収した転写後媒体を保持するための回収チャック部17eとを備える。
【0061】
スカラ・ロボット18は、基台11に搭載された基部18aと、基部18aの上部に取り付けられ水平方向(X方向およびY方向)への移動が許容されたアーム部18bとを備えている。そして、アーム部18bの自由端には、上下方向(Z方向および−Z方向)に移動するスライド軸(図示せず)が設けられており、このスライド軸には、磁気記録媒体1(転写前媒体および転写済媒体の両者)を保持するためのチャック部(図示せず)が取り付けられている。
【0062】
位置検出部19は、例えばレーザ等からなる光源とCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ等からなる受光部とを備えている。そして、位置検出部19は、磁気転写部14の近傍において移載部17の供給チャック部17dに保持された転写前媒体の位置を検出するようになっている。
【0063】
振動検出部20は、例えばレーザ等からなる光源とCCDイメージセンサ等からなる受光部とを備えている。そして、振動検出部20は、磁気転写部14の近傍において移載部17の供給チャック部17dに保持された転写前媒体の振動を検出するようになっている。
【0064】
次に、磁気転写部14について説明する。
磁気転写部14は、基台11に固定された状態で搭載され、サーボ・パターンが予め記録されたマスタ情報記録体200を固定した状態で保持する固定ホルダ30と、固定ホルダ30に対向して配置されるとともに、基台11に対しY方向および−Y方向に移動できるように配置され、サーボ・パターンが予め磁気的に記録されたマスタ情報記録体200を固定した状態で保持する可動ホルダ40とを備える。なお、保持体の一例としての固定ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200および可動ホルダ40に取り付けられたマスタ情報記録体200は、互いに対向した状態で配置されている。
【0065】
また、マスタ情報記録体200を保持した固定ホルダ30の背面側には、第1磁石51を備えた第1磁石部材50が配置されている。第1磁石部材50は、固定ホルダ30に対向配置される第1磁石51と、第1磁石51を保持する第1磁石保持部52と、第1磁石保持部52の背面側からY方向に沿って伸びる第1磁石支持部53とを備えている。第1磁石支持部53は、基台11に対しY方向および−Y方向に進退可能に支持され、且つ、図中矢印方向には回転可能に支持されている。これにより、第1磁石支持部53の進退に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が進退するとともに、第1磁石支持部53の回転に伴って第1磁石保持部52に保持された第1磁石51が回転するようになっている。
【0066】
一方、マスタ情報記録体200を保持した可動ホルダ40の背面側には、第2磁石61を備えた第2磁石部材60が配置されている。第2磁石部材60は、可動ホルダ40に対向配置される第2磁石61と、第2磁石61を保持する第2磁石保持部62と、第2磁石保持部62の背面側からY方向に沿って伸びる第2磁石支持部63とを備えている。第2磁石支持部63は、基台11に対しY方向および−Y方向に進退可能に支持され、且つ、図中矢印方向に回転可能に支持されている。これにより、第2磁石支持部63の進退に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が進退するとともに、第2磁石支持部63の回転に伴って第2磁石保持部62に保持された第2磁石61が回転するようになっている。
【0067】
図7は、磁気転写部14における第1磁石部材50、第2磁石部材60の構成および両者の相互的な位置関係の一例を示す図である。ここで、図7(a)はこれらの斜視図を示しており、図7(b)は側面図を示している。
第1磁石部材50において、第1磁石51は、第1磁石保持部52に対し、第1磁石支持部53の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第1磁石51は、固定ホルダ30と対向する側が一方の極性の磁極(例えばN極)となるように第1磁石保持部52に保持されている。
一方、第2磁石部材60において、第2磁石61は、第2磁石保持部62に対し、第2磁石支持部63の回転中心から偏倚した位置に放射方向に取り付けられている。また、第2磁石61は、可動ホルダ40と対向する側が他方の極性の磁極(例えばS極)となるように第2磁石保持部62に保持されている。
【0068】
そして、本実施の形態では、第1磁石51と第2磁石61とが、固定ホルダ30および可動ホルダ40を挟んで対向するように配置される。また、第1磁石部材50および第2磁石部材60は、第1磁石51と第2磁石61とを対向させた状態を維持しながら、ともに回転するように構成されている。
【0069】
また、第1磁石部材50において、第1磁石51は、長手方向の中央部に設けられた第1の軸51aによって第1磁石保持部52に回転可能に取り付けられている。これにより、第1磁石51は、例えば図中時計回り(図に示す破線矢印参照)に回転した場合に、回転中心となる第1磁石支持部53に近い側が固定ホルダ30から遠ざかる側に、第1磁石支持部53から遠い側が固定ホルダ30に近づく側に、それぞれ移動するようになっている。また、第1磁石51は、例えば図中反時計回り(図に示す一点鎖線矢印参照)に回転した場合に、回転中心となる第1磁石支持部53に近い側が固定ホルダ30に近づく側に、第1磁石支持部53から遠い側が固定ホルダ30から遠ざかる側に、それぞれ移動するようになっている。なお、第1磁石保持部52に対する第1磁石51の取り付け角度(第1磁石51の回転角度)は、図示しない駆動機構によって設定され、その取り付け角度において第1磁石保持部52に位置決め固定される。
【0070】
一方、第2磁石部材60において、第2磁石61も、長手方向の中央部に設けられた第2の軸61aによって第2磁石保持部62に回転可能に取り付けられている。これにより、第2磁石61は、例えば図中反時計回り(図に示す破線矢印参照)に回転した場合に、回転中心となる第2磁石支持部63に近い側が可動ホルダ40から遠ざかる側に、第2磁石支持部63から遠い側が可動ホルダ40に近づく側に、それぞれ移動するようになっている。また、第2磁石61は、例えば図中時計回り(図に示す一点鎖線矢印参照)に回転した場合に、回転中心となる第2磁石支持部63に近い側が可動ホルダ40に近づく側に、第2磁石支持部63から遠い側が可動ホルダ40から遠ざかる側に、それぞれ移動するようになっている。なお、第2磁石保持部62に対する第2磁石61の取り付け角度(第2磁石61の回転角度)は、図示しない駆動機構によって設定され、その取り付け角度において第2磁石保持部62に位置決め固定される。
【0071】
そして、本実施の形態では、第1磁石部材50における第1磁石51の取り付け角度および第2磁石部材60における第2磁石61の取り付け角度が、それぞれ独立して設定されるようになっている。また、本実施の形態では、第1磁石51および第2磁石61が一対の磁石として機能している。
【0072】
図8は、磁気転写部14で用いられるマスタ情報記録体200の構成の一例を示す図である。ここで、図8(a)はマスタ情報記録体200の上面図を、また、図8(b)は図8(a)におけるVIIIB−VIIIB断面図を、それぞれ示している。
【0073】
パターン形成体の一例としてのマスタ情報記録体200は、磁気記録媒体1よりも直径が大きい円盤状の形状を有している。また、マスタ情報記録体200の一方の面(形成面に対応)には、サーボ・パターンに対応する微細な凹凸が形成されたサーボ・パターン形成領域SPが設けられている。この例において、サーボ・パターン形成領域SPは、マスタ情報記録体200の一方の面に、中央部と外縁部とを除いて、放射状に複数設けられている。なお、図5等に示す固定ホルダ30あるいは可動ホルダ40にマスタ情報記録体200を取り付けた際には、サーボ・パターン形成領域SPを設けた面が、互いに露出した状態で対向することになる。
【0074】
また、固定ホルダ30に取り付けられる方のマスタ情報記録体200の中央部には、表裏を貫通する第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bが設けられている。これら第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bは、マスタ情報記録体200においてサーボ・パターン形成領域SPよりも内側(中心側)に設けられている。なお、可動ホルダ40に取り付けられる方のマスタ情報記録体200には、これら第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bは不要である。この理由については後述する。
【0075】
次に、マスタ情報記録体200の構造について説明すると、マスタ情報記録体200は、円盤状の基体201と、この基体201の一方の面に形成されたマスタ磁性層202と、マスタ磁性層202の上に形成されたマスタ保護層203とを備えている。ここで、図8(b)は、サーボ・パターン形成領域SPにおけるマスタ情報記録体200の断面構成を示しており、この部位には、サーボ・パターンに対応した凸部204および凹部205が存在している。なお、マスタ情報記録体200の一方の面のうち、サーボ・パターン形成領域SP以外の領域は、マスタ情報記録体200と磁気記録媒体1との吸着を防ぐため、サーボ・パターン形成領域SPにおける凹部205と同じ高さとなっている。
【0076】
マスタ情報記録体200は公知の方法によって製造できるが、例えば次の製造方法を掲げることができる。先ず、シリコンウェハの表面に電子線レジストをスピンコート法により塗布する。塗布後、このレジストに対し、電子線露光装置を用いて、サーボ・パターンに対応させて変調した電子ビームを照射し、レジストを露光する。その後、レジストを現像し、未露光部分を除去して、シリコンウェハ上にレジストのパターンを形成する。
【0077】
次いで、このレジストパターンをマスクとして用い、シリコンウェハに対して反応性エッチング処理を行い、レジストでマスクされていない箇所を掘り下げる。このエッチング処理後、シリコンウェハ上に残存するレジストを溶剤で洗浄除去する。その後、シリコンウェハを乾燥させてマスタ情報記録体200を作製するための原盤を得る。
【0078】
この原盤上に、Niからなる導電層をスパッタリング法により10nm程度形成する。その後、この導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、この原盤上に数μm厚のNi層を形成する。その後、Ni層を原盤から外し、このNi層を洗浄等して、表面に凸部を配設した基体201を得る。
【0079】
次いで、この基体201の表面にマスタ磁性層202を形成する。このマスタ磁性層202については磁気記録媒体1に用いられる磁性層(第1磁性層151等)と同じものが使用できる。またマスタ磁性層202の上には磁気記録媒体1と同様にマスタ保護層203を形成する。このマスタ保護層203は、マスタ情報記録体200の耐摩耗性すなわちマスタ情報記録体200の転写耐久性を高めるものであり、数nm程度の厚さの硬質炭素膜等を用いることができる。以上の製造工程によってマスタ情報記録体200を得ることができる。
なお、このようにして得られたマスタ情報記録体200は、例えば10万枚以上の磁気記録媒体の製造(磁気転写)に繰り返し使用される。
【0080】
図9は、磁気転写部14における固定ホルダ30および可動ホルダ40の断面構成の一例を示す図である。なお、図9では、固定ホルダ30に磁気記録媒体1を取り付けた状態を例示している。
これらのうち、固定ホルダ30は、マスタ情報記録体200の保持面と第1磁石部材50との対向面とを貫通し、マスタ情報記録体200の保持面においてマスタ情報記録体200の取り付け位置中央部に開口が設けられた2つの第1吸引路31と、マスタ情報記録体200の保持面と第1磁石部材50との対向面とを貫通し、マスタ情報記録体200の保持面においてマスタ情報記録体200の取り付け位置の外側に開口が設けられた2つの第2吸引路32とを備える。また、固定ホルダ30は、マスタ情報記録体200の保持面において第2吸引路32の開口よりも外側に周方向に沿って取り付けられたOリング33を備えている。なお、固定ホルダ30のマスタ情報記録体200の保持面での第1吸引路31の2つの開口には、固定ホルダ30にマスタ情報記録体200を取り付けた際に、マスタ情報記録体200側の第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bが重ね合わされるようになっている。
【0081】
これに対し、可動ホルダ40は、固定ホルダ30と対向する側の面にマスタ情報記録体200を保持するとともに、その背面側には第2磁石部材60が設けられた記録体保持部40aと、記録体保持部40aの周縁を覆うように設けられた筒状体40bとを備えている。また、可動ホルダ40は、筒状体40bの内周面に周方向に沿って取り付けられ、周方向にわたって記録体保持部40aの外周面に接触するOリング41とを備えている。ここで、可動ホルダ40を構成する記録体保持部40aおよび筒状体40bは、互いに独立して固定ホルダ30に対し進退可能に取り付けられている。また、筒状体40bの固定ホルダ30と対向する側の端部は、固定ホルダ30に設けられたOリング33に対し一周にわたって対向し且つ接触するようになっている。なお、可動ホルダ40の記録体保持部40aには、固定ホルダ30のような吸引路は設けられていない。このため、記録体保持部40aに取り付けられるマスタ情報記録体200には、第1貫通孔200aおよび第2貫通孔200bを設けておく必要がない。
【0082】
図10は、図5に示す検査・磁気転写装置10における制御ブロックの一例を示す図である。
検査・磁気転写装置10は、装置全体の動作を制御するためのコントローラ70を備えている。このコントローラ70には、転写前検査部13による転写前媒体の表面検査結果、位置検出部19による転写前媒体の位置検知結果、そして振動検出部20による転写前媒体の振動検知結果が入力されるようになっている。また、コントローラ70は、転写前検査部13、位置検出部19、振動検出部20、スカラ・ロボット18を駆動するロボット駆動部71、移載部17に設けられた直動部17bを駆動する直動駆動部72、移載部17に設けられた供給チャック部17dを駆動する供給チャック駆動部73、移載部17に設けられた回収チャック部17eを駆動する回収チャック駆動部74、磁気転写部14に設けられた可動ホルダ40(記録体保持部40a、筒状体40b)を駆動する可動ホルダ駆動部75、固定ホルダ30の第1吸引路31および第2吸引路32に接続された吸引機構(図示せず)を駆動する吸引駆動部76、第1磁石部材50を駆動する第1磁石駆動部77、そして第2磁石部材60を駆動する第2磁石駆動部78に、それぞれ制御信号を出力するようになっている。なお、本実施の形態では、第1磁石駆動部77および第2磁石駆動部78が、調整部および磁石駆動部として機能している。また、本実施の形態では、第1吸引路31および吸引駆動部76が、取り付け部として機能している。
【0083】
では、図5乃至図10を用いて、検査・磁気転写装置10による転写前検査工程および磁気転写工程について説明を行う。なお、以下に説明する動作は、コントローラ70によって制御される。また、初期状態において、検査・磁気転写装置10を構成する各部は、図5に示した位置に配置されているものとする。さらに、以下の説明では、図5に示した直動部17b(直動部17bに設けられた腕木部17c、さらに腕木部17cに設けられた供給チャック部17dおよび回収チャック部17eを含む)の位置を、待機位置と呼ぶ。
【0084】
動作の開始に伴い、スカラ・ロボット18のアーム部18bが、転写前媒体収容部12に収容される転写前媒体を1枚チャックして取り出し、チャックした転写前媒体を転写前検査部13に向けて移送する。続いて、移送されてきた転写前媒体を転写前検査部13に設けられたチャック機構(図示せず)が保持すると、アーム部18bが転写前媒体のチャックを解除し、転写前検査部13から待避する。
【0085】
次いで、転写前検査部13は、保持した転写前媒体の両面についてそれぞれ転写前検査(表面検査および保磁力分布検査)を行う。転写前検査部13による検査が完了すると、スカラ・ロボット18のアーム部18bが転写前検査部13側に移動し、アーム部18bが転写前検査部13に保持された転写前媒体をチャックした後、転写前検査部13がこの転写前媒体のチャックを解除する。
【0086】
ここで、表面検査の結果について、コントローラ70が少なくともいずれか一方の面が不合格であると判断した場合は、アーム部18bが、チャックした転写前媒体を不具合品収容部16に向けて移送し、チャックを解除して不具合品収容部16に収容させた後、不具合品収容部16から待避する。
一方、表面検査の結果について、コントローラ70が両面とも合格であると判断した場合は、アーム部18bが、チャックした転写前媒体を待機位置におかれた直動部17bの供給チャック部17dと対向する位置に向けて搬送する。そして供給チャック部17dがアーム部18bに保持された転写前媒体をチャックした後、アーム部18bがこの転写前媒体のチャックを解除し、供給チャック部17dと対向する位置から待避する。
また、表面検査の結果について、コントローラ70が両面とも合格であると判断した場合、転写前検査部13は、この転写前媒体の各面に関する保磁力分布検査の結果を、コントローラ70に出力する。そして、コントローラ70は、受け取った保磁力分布検査の結果に基づいて、この転写前媒体への磁気転写における第1磁石51の位置の設定情報(Y方向位置および取り付け角度:以下の説明では第1の設定情報と称する)および第2磁石61の位置の設定情報(Y方向位置および取り付け角度:以下の説明では第2の設定情報と称する)を、第1磁石駆動部77および第2磁石駆動部78に出力する。
【0087】
続いて、待機位置にある直動部17bが、−X方向に沿って移動を開始する。そして、直動部17bは、供給チャック部17dに保持された転写前媒体が、磁気転写部14において固定ホルダ30および可動ホルダ40に挟まれた状態となるように移動していく。
【0088】
この間、位置検出部19は、供給チャック部17dに保持された転写前媒体が、磁気転写部14に設けられた2枚のマスタ情報記録体200と正対する位置に到達したか否かを検出している。この位置の検出結果に基づき、コントローラ70は、供給チャック部17dに保持された転写前媒体が、磁気転写部14に設けられた2枚のマスタ情報記録体200と正対する位置に到達した時点で直動部17bの駆動を停止させる。なお、この期間が、「位置決めする工程」に対応している。そして、以下の説明においては、供給チャック部17dに保持された転写前媒体が2枚のマスタ情報記録体200と正対する際の直動部17bの位置を、供給位置と呼ぶ。
【0089】
なお、マスタ情報記録体200の中心に対する転写前媒体の中心の位置決めの要求精度は、±7.5μm、より好ましくは±5.0μmの範囲内であれば十分である。なぜなら、転写前媒体に磁気転写されるサーボ・パターンが、仮に転写前媒体の中心に対して偏心していたとしても、磁気転写後のサーボ・パターンを用いて磁気ヘッド3がトラックTに追従することができるのであれば、磁気記録媒体1に対するデータの読み書きは可能となるからである。
【0090】
また、振動検出部20は、位置決めに伴って供給位置に停止した直動部17bの供給チャック部17dに取り付けられた転写前媒体の振動の大きさを検出している。そして、コントローラ70は、振動検出部20によって検出された振動の大きさが磁気記録媒体1のデータ面に対して平行の方向、すなわちX軸およびZ軸を含む面において±1.0μm以下となった後に、第1吸引路31を介した吸引を開始させることで固定ホルダ30側に転写前媒体をチャックさせ、固定ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200に転写前媒体の一方の面を接触させる。そして、固定ホルダ30側に転写前媒体をチャックしてから、供給チャック部17dはこの転写前媒体のチャックを解除する。そして、転写前媒体の保持を解除した直動部17bは、X方向に向かって移動した後、待機位置で停止する。
【0091】
続いて、磁気転写部14において、可動ホルダ40(記録体保持部40a、筒状体40b)が固定ホルダ30側に近づく方向へと移動を開始する。これに伴い、まず、筒状体40bの周部端面が固定ホルダ30に設けられたOリング33に突き当たった後に停止する。また、記録体保持部40aは、筒状体40bが停止した後も固定ホルダ30側に近づく方向へと移動を続け、固定ホルダ30に設けられたマスタ情報記録体200と可動ホルダ40の記録体保持部40aに設けられたマスタ情報記録体200とによって転写前媒体を挟み込んだ後に停止する。なお、記録体保持部40aの停止位置は予め決められており、その結果、2枚のマスタ情報記録体200および1枚の転写前媒体には、予め設定された軽い荷重が加えられる。また、このとき、固定ホルダ30と記録体保持部40aと筒状体40bとの間には、固定ホルダ30に設けられたOリング33と筒状体40bに設けられたOリング41とを用いて、閉空間が形成される。続いて、第2吸引路32を介した吸引を開始させることで、閉空間内に存在する2枚のマスタ情報記録体200と1枚の転写前媒体との間に存在する隙間が真空引きされ、閉空間内外の差圧によって2枚のマスタ情報記録体200の各サーボ・パターン形成領域SPの形成面と1枚の転写前媒体の両面とがそれぞれ密着していく。
【0092】
また、第1磁石部材50では、コントローラ70から出力された第1の設定情報に基づき、第1磁石支持部53がY方向に移動・停止することにより第1磁石51のY方向位置決めを行い、且つ、第1磁石保持部52に設けられた第1磁石51が第1の軸51aを中心として回転・停止することにより取り付け角度の設定を行う。
一方、第2磁石部材60では、コントローラ70から出力された第2の設定情報に基づき、第2磁石支持部63がY方向に移動・停止することにより第2磁石61のY方向位置決めを行い、且つ、第2磁石保持部62に設けられた第2磁石61が第2の軸61aを中心として回転・停止することにより取り付け角度の設定を行う。
なお、これら第1磁石51および第2磁石61のそれぞれのY方向位置決めおよび角度設定が、「調整する工程」に対応している。
【0093】
次に、第1磁石部材50および第2磁石部材60は、第1磁石支持部53および第2磁石支持部63を軸とし、2枚のマスタ情報記録体200と1枚の転写前媒体とを挟んで、第1磁石51および第2磁石61を対向させた状態を維持しながら少なくとも1回転する。
第1磁石51および第2磁石61が1回転する間、2枚のマスタ情報記録体200に挟まれた転写前媒体では、第1磁石51および第2磁石61により、初期磁化工程とは逆向きの直流磁界が周方向に順次印加される。すると、転写前媒体のうち、固定ホルダ30側のマスタ情報記録体200と接する側では、このマスタ情報記録体200の凹部205と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化工程後の状態を維持するものの、凸部204と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。また、この転写前媒体のうち、可動ホルダ40側のマスタ情報記録体200と接する側でも、このマスタ情報記録体200の凹部205と対向する部位における磁性層の磁化の向きは初期磁化工程後の状態を維持するものの、凸部204と接する部位における磁性層の磁化の向きは反転した状態となる。このようにして、転写前媒体の両面には、それぞれ、マスタ情報記録体200に設けられた凹凸の配列からなるサーボ・パターンが、磁化の向きの配列からなるサーボ・パターンとして転写される。その結果、転写前媒体は、位置決めデータ記憶領域A2にサーボ・パターンが記憶された転写済媒体となる。なお、この期間が、「転写する工程」および「印加する工程」のそれぞれに対応している。
【0094】
このようにして磁気転写が完了すると、まず、第2吸引路32を介した吸引を停止して閉空間内を大気圧とし、次いで、第1磁石部材50および第2磁石部材60が元の状態への移行を開始し、さらに可動ホルダ40(記録体保持部40a、筒状体40b)が元の位置への移動を開始する。これにより、固定ホルダ30に保持された転写済媒体は、外部に露出した状態となる。
【0095】
ところで、直動部17bは、上述したように、供給チャック部17dに保持した転写前媒体を、供給位置において固定ホルダ30側に受け渡した後、待機位置に戻って停止している。そして、この検査・磁気転写装置10では、磁気転写部14で前の転写前媒体に磁気転写を行うのと並行して、次の転写前媒体の準備を行っている。すなわち、前の転写前媒体への磁気転写と並行して、スカラ・ロボット18を用いた転写前媒体収容部12からの次の転写前媒体の取り出し、転写前検査部13による次の転写前媒体の検査、そして、待機位置にある直動部17bの供給チャック部17dによる次の転写前媒体のチャックが行われる。なお、供給チャック部17dによる次の転写前媒体のチャックは、前の転写前媒体への磁気転写が完了するまで(転写前媒体が転写済媒体となるまで)に終了していることが、生産性の観点から好ましい。
【0096】
そして、磁気転写部14において前の転写前媒体への磁気転写が完了し、且つ、次の転写前媒体の供給チャック部17dへのチャックが完了した状態で、待機位置にある直動部17bが、−X方向に沿って移動を開始する。そして、直動部17bは、何も保持していない回収チャック部17eが、磁気転写部14において固定ホルダ30および可動ホルダ40に挟まれた状態となるように移動していく。その後、直動部17bは、回収チャック部17eが、固定ホルダ30に真空チャックされた転写済媒体と正対する位置に到達して停止する。このとき、コントローラ70が、位置検出部19による位置検出結果に基づく直動部17bの停止位置の制御を行うようにしてもよい。なお、以下の説明においては、回収チャック部17eが固定ホルダ30に保持された転写済媒体と正対する際の直動部17bの位置を、回収位置と呼ぶ。
【0097】
次に、回収チャック部17eが転写済媒体をチャックし、その後固定ホルダ30による転写済媒体の真空チャックを解除する。
続いて、回収位置におかれた直動部17bは、回収チャック部17eに転写済媒体を保持し、供給チャック部17dに次の転写前媒体を保持した状態で、X方向に移動を開始する。そして、直動部17bは、供給チャック部17dに保持された転写前媒体が、磁気転写部14において固定ホルダ30および可動ホルダ40に挟まれた状態となるように、再び供給位置に向かって移動していく。
【0098】
この間、位置検出部19は、供給チャック部17dに保持された次の転写前媒体が、磁気転写部14に設けられた2枚のマスタ情報記録体200と正対する位置に到達したか否かを検出している。この位置の検出結果に基づき、コントローラ70は、供給チャック部17dに保持された次の転写前媒体が、磁気転写部14に設けられた2枚のマスタ情報記録体200と正対する位置に到達した時点すなわち供給位置に到達した時点で直動部17bの駆動を停止させる。
【0099】
また、振動検出部20は、位置決めに伴って供給位置に停止した直動部17bの供給チャック部17dに取り付けられた次の転写前媒体の振動の大きさを検出している。そして、コントローラ70は、振動検出部20によって検出された振動の大きさが磁気記録媒体1のデータ面に対して平行の方向で±1.0μm以下となった後に、第1吸引路31を介した吸引を開始させることで固定ホルダ30側に次の転写前媒体を真空チャックし、固定ホルダ30に取り付けられたマスタ情報記録体200に次の転写前媒体の一方の面を接触させる。なお、固定ホルダ30側に次の転写前媒体を真空チャックしてから、供給チャック部17dはこの次の転写前媒体のチャックを解除する。なお、この間に、転写前検査部13による次の転写前媒体の保磁力分布検査結果に基づく、第1磁石51および第2の磁石61のそれぞれのY方向位置設定および取り付け角度設定が行われる。その後、この次の転写前媒体には、上述した手順を経てサーボ・パターンの磁気転写がなされる。これに対し、転写済媒体を保持する一方で次の転写前媒体の保持を解除した直動部17bは、X方向に向かって移動した後、待機位置で停止する。
【0100】
次いで、スカラ・ロボット18のアーム部18bが、待機位置で停止した直動部17bの回収チャック部17eに保持された転写済媒体と対向する位置に移動する。続いて、アーム部18bが、回収チャック部17eに保持された転写済媒体をチャックした後、回収チャック部17eが転写済媒体のチャックを解除する。そして、アーム部18bが、チャックした転写済媒体を転写済媒体収容部15に向けて移送し、チャックを解除して転写済媒体収容部15に収容させた後、転写済媒体収容部15から待避し、さらに次の転写前媒体の取り出しを開始する。
【0101】
以降、上述した手順を繰り返すことにより、転写前媒体の取り出し、転写前媒体に対する表面検査、転写前媒体に対するサーボ・パターンの磁気転写、サーボ・パターンが転写された転写済媒体の回収が順次行われていく。
【0102】
上述した磁気転写工程では、大きく振動した状態のままの転写前媒体をマスタ情報記録体200に接触させた場合、転写前媒体によってマスタ情報記録体200の接触面が傷つけられてしまい、結果として、マスタ情報記録体200の寿命(転写に使用しうる回数)が短くなってしまうおそれがある。特に本実施の形態では、マスタ情報記録体200に凹凸によるサーボ・パターンを形成しているため、転写前媒体との接触時に凹凸が欠けたり変形してしまったりした場合には、以降の磁気転写において転写不良が生じてしまうことになる。これに対し、本実施の形態では、供給されてくる転写前媒体を、磁気転写部14に設けられたマスタ情報記録体200に対して位置決めして停止させた後、転写前媒体の振動が減衰した状態で、マスタ情報記録体200に接触させるようにした。これにより、転写前媒体とマスタ情報記録体200との接触に起因するマスタ情報記録体200の機械的な破損および低寿命化を抑制することができる。
【0103】
では、上述した転写前工程における保磁力分布検査工程および磁気転写工程における第1磁石51および第2磁石61の位置(Y方向位置および取り付け角度)の設定について、より詳細に説明する。
【0104】
図11は、ステップ110bの保磁力分布検査工程における処理の手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明においては、転写前媒体のうち、磁気転写部14に装着された際に、第1磁石51と対向する側の面を第1面と呼び、また、第2磁石61と対向する側の面を第2面と呼ぶ。
【0105】
保磁力分布検査工程では、まず、転写前検査部13に取り付けられた転写前媒体における第1面の保磁力Hcの分布を測定し(ステップ201)、続いてこの転写前媒体における第2面の保磁力Hcの分布を測定する(ステップ202)。そして、転写前検査部13は、得られた第1面の保磁力Hcの分布の測定結果および第2面の保磁力Hcの分布の測定結果を、コントローラ70に出力する。なお、これらステップ201およびステップ202が、「測定する工程」に対応している。
【0106】
ここで、図12は、転写前媒体における保磁力Hcの分布の測定の概要を示す図である。磁気記録媒体1は回転対称の円盤状の外形を有し、通常は円盤の両面に磁性層を有する。磁気記録媒体1の垂直記録層150の形成は、通常は基板100の両面に対向して設けた円盤状のターゲットを用いたスパッタリング法による。そのため、基板100の表面に形成される垂直記録層150は基板100の半径方向に膜厚分布を有する場合が多く、また基板温度も半径方向に分布を持つ場合が多い。よって磁気記録媒体1がその垂直記録層150において保磁力Hcの面内分布を有する場合は、半径方向に沿って生ずる場合が多い。
【0107】
そこで、本実施の形態では、転写前媒体を固定した状態で、転写前媒体の内端1aから外端1bに向かう半径方向Rに沿って、N箇所(図に示す例ではN=8)の検査対象位置において保磁力Hcの測定を行う。そして、この測定を転写前媒体の両面についてそれぞれ行い、各箇所と各箇所で測定された保磁力Hcとを対応付けたものを、第1面あるいは第2面の保磁力Hcの分布の測定結果として出力している。なお、保磁力Hcの具体的な測定方法については後述する。
【0108】
では、図11に戻って説明を続ける。
次に、コントローラ70は、転写前検査部13から受け取った第1面の保磁力Hcの分布の測定結果に基づき、第1面における保磁力Hcの平均値を演算し(ステップ203)、得られた第1面における保磁力Hcの平均値に基づいて、この転写前媒体への磁気転写における第1磁石51のY方向位置(設定位置)を決定する(ステップ204)。また、コントローラ70は、受け取った第1面の保磁力Hcの分布の測定結果に基づき、第1面における保磁力Hcの傾きを演算し(ステップ205)、得られた第1面の保磁力Hcの傾きに基づいて、この転写前媒体への磁気転写における第1磁石51の取り付け角度(設定角度)を決定する(ステップ206)。ここで、ステップ205における保磁力Hcの傾きの演算は、転写前媒体における半径方向Rを正の向きとしてなされる。
【0109】
次いで、コントローラ70は、転写前検査部13から受け取った第2面の保磁力Hcの分布の測定結果に基づき、第2面における保磁力Hcの平均値を演算し(ステップ207)、得られた第2面における保磁力Hcの平均値に基づいて、この転写前媒体への磁気転写における第2磁石61のY方向位置(設定位置)を決定する(ステップ208)。また、コントローラ70は、受け取った第2面の保磁力Hcの分布の測定結果に基づき、第2面における保磁力Hcの傾きを演算し(ステップ209)、得られた第2面の保磁力Hcの傾きに基づいて、この転写前媒体への磁気転写における第2磁石61の取り付け角度(設定角度)を決定する(ステップ210)。ここで、ステップ209における保磁力Hcの傾きの演算は、ステップ205と同様、転写前媒体における半径方向Rを正の向きとしてなされる。
【0110】
その後、コントローラ70は、ステップ204で決定した第1磁石51の設定位置およびステップ206で決定した第1磁石51の設定角度を、第1の設定情報として第1磁石駆動部77に出力し、ステップ208で決定した第2磁石61の設定位置およびステップ210で決定した第2磁石61の設定角度を、第2の設定情報として第2磁石駆動部78に出力する(ステップ211)。以上により、保磁力分布検査工程が完了する。
【0111】
上述したステップ201およびステップ202では、磁気光学カー(Kerr)効果を利用して、転写前媒体の第1面の各検査対象位置における保磁力Hcの測定および第2面の各検査対象位置における保磁力Hcの測定を行っている。ここで、磁気光学カー効果とは、磁化した材料(この例では転写前媒体)の表面に直線偏光の光を入射させたときに、その反射光の偏光面が回転し楕円偏光となる現象をいう。このとき、反射光における偏光面の角度をカー回転角という。
【0112】
そして、各検査対象位置において、転写前媒体に対する印加磁場の大きさを変化させながらカー回転角を測定することによって、各検査対象位置での磁化量を求めることができる。ここで、カー回転角と磁化量との間には相関関係があり、磁性層(この例では垂直記録層150)の層厚さが一定であるものと仮定した場合、印加磁場の大きさとカー回転角との関係は、印加磁場の大きさと磁化量との関係に相似したヒステリシス曲線を描く。このため、印加磁場の大きさとカー回転角との関係から、印加磁場の大きさとカー回転角から算出した磁化量との関係を示すヒステリシス曲線を求めることができる。また、このようにして得られた各検査対象位置でのヒステリシス曲線から、各検査対象位置での保磁力Hcを求めることができる。
【0113】
本実施の形態のように垂直記録層150を有する転写前媒体に対しては、極カー効果を用いた測定を行う。極カー効果の測定においては、転写前媒体に対する印加磁場の向きを、光の入射方向に対し平行にし、且つ、転写前媒体の第1面および第2面に対し垂直にする。
【0114】
図13は、ステップ201における転写前媒体の第1面の保磁力分布測定工程での処理の手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、転写前検査部13において実行される。なお、ステップ202における転写前媒体の第2面の保磁力分布測定工程も、測定対象となる転写前媒体の面が異なるだけで、処理の手順自体は以下に説明するものと同じである。
【0115】
第1面の保磁力分布測定工程では、まず、検査対象位置の番号Nを1に設定する(ステップ301)。これに伴い、1番目の検査対象位置(図12において最も内端1aに近い位置)に直線偏光の光の照射を行う(ステップ302)。そして、転写前媒体への印加磁場の大きさを変化させながら、1番目の検査対象位置からの反射光を順次受光する(ステップ303)。
【0116】
次に、1番目の検査対象位置に対する印加磁場の変化と1番目の検査対象位置からの反射光におけるカー回転角の変化とを対応付けたヒステリシス曲線を作成し(ステップ304)、次いで、ステップ304で得られたヒステリシス曲線の傾きを補正する(ステップ305)。そして、ステップ305で得られた傾き補正後のヒステリシス曲線から、1番目の検査対象位置の保磁力Hcを決定する(ステップ306)。
【0117】
その後、第1面におけるすべての検査対象位置での測定が完了したか否か(この例では、N=8となっているか否か)を判定する(ステップ307)。ステップ307において否定の判断を行った場合は、検査対象位置の番号NをN+1に設定し(ステップ308)、ステップ302に戻って、次の検査対象位置におけるヒステリシス曲線の取得および保磁力Hcの決定を行う。一方、ステップ307において肯定の判断を行った場合は、各検査対象位置(8箇所)と各検査対象位置での保磁力Hc(8個)とを対応付けた第1面の保磁力分布の測定結果を、コントローラ70(図10参照)に出力し(ステップ309)、一連の処理を完了する。
【0118】
図14は、上述した第1面の保磁力分布測定工程において得られるヒステリシス曲線の一例を示した図である。ここで、図14(a)は上記ステップ304において作成されるヒステリシス曲線の一例を示しており、図14(b)は上記ステップ305において傾き補正がなされたヒステリシス曲線の一例を示している。なお、図14(a)および図14(b)において、横軸は印加磁場の大きさH(kOe)であり、縦軸は第1面側に設けられた磁性層(垂直記録層150)の磁化量M(a.u.)である。
【0119】
ここで、磁性層のヒステリシス曲線は、強磁場印加時に磁化が飽和することから、本来は、強磁場印加時において横軸と平行になる。しかしながら、磁性層には非磁性物質が含まれている場合がある。特に、本実施の形態のように磁性層である垂直記録層150がグラニュラ構造を有しているような場合には、磁性物質の粒界にSiO等の非磁性物質が存在することになる。そして、ステップ304で作成されるヒステリシス曲線は、このような非磁性物質による影響を受けやすく、非磁性物質に起因するノイズ分がヒステリシス曲線に重畳されると、図14(a)に例示したように、強磁場印加時での磁化の値が横軸と平行にならなくなる。
【0120】
そこで、本実施の形態では、ステップ305において、強磁場印加時のヒステリシス曲線の飽和値を横軸と平行にするための傾き補正を行っている。より具体的に説明すると、図14(a)に示すヒステリシス曲線を原点に対し回転させ、強磁場印加時のヒステリシス曲線の飽和値が横軸と平行になるようにすることで、図14(b)に示すヒステリシス曲線を得ている。そして、本実施の形態では、図14(b)に示す傾き補正後のヒステリシス曲線から、ステップ306において保磁力Hcを決定することで、非磁性物質の存在に起因する誤差が保磁力Hcに混入するのを抑制している。
【0121】
図15は、ステップ201の第1面の保磁力分布測定工程あるいはステップ202の第2面の保磁力分布測定工程によって得られる、第1面あるいは第2面の保磁力分布の測定結果の一例を示す図である。図15において、横軸は転写前媒体における半径方向Rの位置であり、縦軸は各位置(各検査対象位置)における保磁力Hc(Oe)の大きさである。なお、図15には、4つの例(第1パターン〜第4パターン)を示している。
【0122】
転写前媒体の両面側に設けられる垂直記録層150では、それぞれの面内における保磁力Hcのばらつきを小さくすることが望ましいが、実際には若干のばらつきが生じる。具体的に説明すると、各垂直記録層150の保磁力Hcは上述したように4000(Oe)以上程度であるが、実際には、これに対し150(Oe)程度のばらつきが生じ得る。
【0123】
図15に示す例において、第1パターンは、転写前媒体の半径方向Rに沿って保磁力Hcが順次増加する場合を例示しており、第2パターンは、転写前媒体の半径方向Rに沿って保磁力Hcが順次減少する場合を例示している。また、第3パターンおよび第4パターンは、転写前媒体の半径方向Rに対し保磁力Hcがほぼ一定となる場合を例示している。ただし、第3パターンでは保磁力Hcが全域で4000(Oe)程度となっているのに対し、第4パターンでは保磁力Hcが全域で3900(Oe)弱程度となっている。
【0124】
上述したように、ステップ111の磁気転写工程では、2枚のマスタ情報記録体200のそれぞれに形成されたサーボ・パターンを、2枚のマスタ情報記録体200に挟み込まれた転写前媒体(より具体的には各垂直記録層150)に、第1磁石51と第2磁石61とによって形成される磁場を用いて転写している。このとき、転写前媒体のうち保磁力Hcが小さい領域については、磁気転写において垂直記録層150の磁化の向きを反転させるために必要な磁場が弱くて済む。これに対し、転写前媒体のうち保磁力Hcが大きい領域については、磁気転写において垂直記録層150の磁化の向きを反転させるために強い磁場が必要になる。
【0125】
このような理由により、本実施の形態では、図11に示す手順に従って、転写前媒体の第1面、第2面のそれぞれの保磁力Hcの分布を測定し、得られた結果に合わせて、この転写前媒体に磁気転写を行う際の第1磁石51の位置(Y方向位置、取り付け角度)および第2磁石61の位置(Y方向位置、取り付け角度)の設定を行うことで、転写前媒体の第1面および第2面に対する印加磁場の強さの半径方向の分布を調整している。
【0126】
図16は、磁気転写工程における転写前媒体、第1磁石51および第2磁石61の位置関係の一例を示した図である。ここで、図16(a)は、転写前媒体の第1面側が第1のパターン(図15参照)の保磁力分布特性を有しており、第2面側が第2のパターン(図15参照)の保磁力分布特性を有している場合の位置関係を例示している。また、図16(b)は、転写前媒体の第1面側が第3のパターン(図15参照)の保磁力分布特性を有しており、第2面側が第4のパターン(図15参照)の保磁力分布特性を有している場合の位置関係を例示している。なお、図16(a)、(b)において、第1磁石51の第1の軸51aから転写前媒体の第1面に至る水平方向(Y方向)の長さを第1の距離G1と呼び、第2磁石61の第2の軸61aから転写前媒体の第2面に至る水平方向(Y方向)の長さを第2の距離G2と呼ぶ。
【0127】
まず、図16(a)に示した例について説明を行う。
転写前媒体の第1面が第1パターンの保磁力分布特性を有し、且つ、この転写前媒体の第2面が第2パターンの保磁力分布特性を有する場合、ステップ203で求められる第1面の保磁力Hcの平均値およびステップ207で求められる第2面の保磁力Hcの平均値は、ほぼ等しくなる。そして、ステップ204で決定された設定位置により第1磁石51は第1の距離G1の位置に配置され、ステップ208で決定された設定位置により第2磁石61は第2の距離G2の位置に配置されることになるが、この場合は、第1の距離G1と第2の距離G2とがほぼ等しくなる。
【0128】
また、転写前媒体の第1面が第1パターンの保磁力分布特性を有する場合、ステップ205で求められる第1面の保磁力Hcの傾きは正の値となる。一方、転写前媒体の第2面が第2のパターンの保磁力分布特性を有する場合、ステップ209で求められる第2面の保磁力Hcの傾きは負の値となる。また、この場合において、第1面の保磁力Hcの傾きの絶対値は、第2面の保磁力Hcの傾きの絶対値よりも大きくなっている。そして、ステップ206で決定された設定角度により、第1磁石51は、転写前媒体の内端1a側から外端1b側に向かって第1面に近づく側に傾斜して配置される。また、ステップ210で決定された設定角度により、第2磁石61は、転写前媒体の内端1a側から外端1b側に向かって第2面から遠ざかる側に傾斜して配置される。そして、第1磁石51は、第2磁石61よりも傾斜がきつい状態で配置される。
【0129】
このように、図16(a)に示す例では、転写前媒体における第1面側の保磁力Hcの平均値と第2面側の保磁力Hcの平均値とがほぼ等しいため、第1の距離G1および第2の距離G2をほぼ等しくさせることで、転写前媒体の第1面および第2面に対する印加磁場の全体的なレベルをほぼ等しくしている。
また、図16(a)に示す例では、転写前媒体の第1面側において内端1a側よりも外端1b側の保磁力Hcが大きい(第1パターン参照)ため、第1磁石51を図中時計方向に回転させて傾けた状態で停止させておくことで、転写前媒体の第1面側において内端1a側よりも外端1b側の磁場を強くしている。また、図16(a)に示す例では、転写前媒体の第2面側において内端1a側よりも外端1b側の保磁力Hcが小さい(第2パターン参照)ため、第2磁石61を図中時計方向に回転させて傾けた状態で停止させておくことで、転写前媒体の第2面側において内端1a側よりも外端1b側の磁場を強くしている。そして、図16(a)に示す例では、転写前媒体の第2面側における保磁力Hcの内外周差よりも第1面側における保磁力Hcの内外周差が大きいため、第2磁石61に比べて第1磁石51の傾斜をきつくすることで、転写前媒体の第2面側における磁場の強さの内外周差よりも第1面側における磁場の強さの内外周差を大きくしている。
【0130】
次に、図16(b)に示す例について説明を行う。
転写前媒体の第1面が第3パターンの保磁力特性を有し、且つ、この転写前媒体の第2面が第4パターンの保磁力分布特性を有する場合、ステップ203で求められる第1面の保磁力Hcの平均値は、ステップ207で求められる第2面の保磁力Hcの平均値よりも大きくなる。そして、ステップ204で決定された設定位置により第1磁石51は第1の距離G1の位置に配置され、ステップ208で決定された設定位置により第2磁石61は第2の距離G2の位置に配置されることになるが、この場合は、第1の距離G1が第2の距離G2よりも小さくなる。
【0131】
また、転写前媒体において、第1面が第3パターンの保磁力分布特性を有し、第2面が第4パターンの保磁力分布特性を有する場合、ステップ205で求められる第1面の保磁力Hcの傾きおよびステップ209で求められる第2面の保磁力分布Hcの傾きは、ともにほぼ0となる。そして、ステップ206で決定された設定角度によって第1磁石51は転写前媒体の第1面と平行に配置され、ステップ210で決定された設定角度によって第2磁石61は転写前媒体の第2面と平行に配置される。
【0132】
このように、図16(b)に示す例では、転写前媒体における第2面側の保磁力Hcの平均値よりも第1面側の保磁力Hcの平均値が高くなっているため、第2の距離G2に比べて第1の距離G1を短くさせることで、転写前媒体の第1面および第2面に対する印加磁場の全体的なレベルをほぼ等しくしている。
また、図16(b)に示す例では、転写前媒体の第1面において内端1a側から外端1b側に至る間で保磁力Hcがほぼ一定であるため、第1磁石51を第1面と平行にした状態で停止させておくことで、転写前媒体の第1面側における内端1a側から外端1b側に至る間の磁場の強さをほぼ一定にしている。また、図16(b)に示す例では、転写前媒体の第2面において内端1a側から外端1b側に至る間で保磁力Hcがほぼ一定であるため、第2磁石61を第2面と平行にした状態で停止させておくことで、転写前媒体の第2面側における内端1a側から外端1b側に至る間の磁場の強さをほぼ一定にしている。
【0133】
なお、本発明者の調査によれば、例えば150(Oe)程度の保磁力Hcのばらつきは、転写前媒体に対する第1磁石51あるいは第2磁石61の位置を、0.5mm程度ずらすことで、保磁力Hcの大きさのばらつきに起因するサーボ・パターンの転写むらを改善できることがわかっている。
【0134】
このように、本実施の形態では、転写前媒体の第1面および第2面のそれぞれの保磁力分布を測定した結果に基づいて、転写前媒体に対する第1磁石51の位置および傾きと第2磁石61の位置および傾きとを調整し、調整がなされた後に磁気転写を行うことで、転写前媒体の第1面および第2面のそれぞれにおけるサーボ・パターンの転写不良を抑制している。
【0135】
また、本実施の形態では、転写前媒体の保磁力分布の測定を1枚ごとに行い、1枚ごとの保磁力分布の測定結果に基づいて磁気転写工程における第1磁石51および第2磁石61の調整を行っているので、転写前媒体ごとにサーボ・パターンの磁気転写を適切に行うことが可能になる。ただし、前述のように、磁気記録媒体1のデータ面における保磁力分布は、垂直記録層150を形成するスパッタ装置の構造や製造条件に由来する場合が多い。よって転写前媒体の保磁力分布の測定は1枚ごとに行わなくとも、製造バッチごと、製造ラインごとの定期的な抜き取り測定によって行ってもよい。
【0136】
なお、本実施の形態では、第1磁石51および第2磁石61として永久磁石を用いていたが、これに限られるものではなく、例えば電磁石等を用いるようにしてもよい。そして、第1磁石51および第2磁石61として電磁石を用いるようにした場合には、転写前媒体と第1磁石51あるいは第2磁石61との距離を調整するのに代えて、例えば電磁石が発生する磁力の大きさを調整するようにしてもよい。そして、第1磁石51および第2磁石61として電磁石を用いるようにした場合には、転写前媒体に対する第1磁石51あるいは第2磁石61の角度を調整するのに代えて、電磁石が発生する磁力の大きさを転写前媒体の半径方向に調整するようにしてもよい。
【0137】
また、本実施の形態では、転写前媒体の第1面および第2面のそれぞれについて、内端1a側から外端1b側に向かう半径方向の保磁力Hcの分布を測定するようにしていたが、これに限られるものではなく、各面において全面にわたる保磁力Hcの分布を測定するようにしてもよい。また、このような構成を採用した場合には、各面の保磁力Hcの分布の測定結果に基づき、第1磁石51および第2磁石61を同期して回転させる間に、各磁石が対向する領域の保磁力Hcに応じて第1磁石51および第2磁石61の位置や取り付け角度を調整するようにしてもかまわない。
【0138】
さらに、本実施の形態では、検査・磁気転写装置10に設けられた転写前検査部13において保磁力検査工程を実行するようにしていたが、これに限られるものではなく、ステップ108のバーニッシュ工程完了後且つステップ111の磁気転写工程開始前の期間より実行時期を選択することが可能である。この場合において、印加磁場の強さとカー回転角とのヒステリシス曲線の測定には、例えばネオアーク社製のBH−810CPC(垂直磁気記録媒体記録層評価装置)を用いることができる。
【実施例】
【0139】
(磁気記録媒体の製造)
洗浄済みのガラス製の基板100(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)をDCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、この基板100の上に、60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層110を成膜した。また、この密着層110の上に、46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて、100℃以下の基板温度で、層厚34nmの第1軟磁性層121を成膜し、この上にRuからなるスペーサ層122を層厚0.76nmで成膜した後、さらに46Fe−46Co−5Zr−3Bの第2軟磁性層123を層厚34nmで成膜して、軟磁性下地層120を得た。
【0140】
次に、上記軟磁性下地層120の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層130とした。
【0141】
次に、配向制御層130の上に、多層構造の垂直記録層150として、84(Co12Cr16Pt)−16TiO(膜厚3nm)、91(Co5Cr22Pt)−4SiO−3Cr−2TiO(膜厚3nm)、Ru47.5Co(膜厚0.5nm)、Co15Cr16Pt6B(膜厚3nm)を積層した。
次に、CVD法により層厚2.5nmの炭素からなる保護層160を成膜し、積層基板180を得た。
【0142】
以上の方法で製造した積層基板180を水素水で洗浄した。洗浄は3段の洗浄工程からなり、各洗浄工程に用いた洗浄槽は何れもSUS製で容積が20リットル、その内部に500Wの超音波振動が加えられる。そして各洗浄槽に、超純水を用いて製造した溶存水素濃度1.5ppm、酸化還元電位−550mVの水素水15リットルを入れ、さらに1段目の洗浄槽には、KOHを0.1ppm添加した。この3段の洗浄槽に順に積層基板180を浸漬し各洗浄槽で30秒間洗浄した。洗浄後の積層基板180は速やかにドライエアを用いて引き上げ乾燥させた。
この積層基板180の表面に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑層170を厚さ15オングストロームで形成し、磁気記録媒体1を得た。
【0143】
潤滑剤を塗布した磁気記録媒体1に対してワイピング処理を施した。ワイピングテープには、ナイロン樹脂とポリエステル樹脂による線径2μmの剥離型複合繊維を用いた。ワイピング処理において、磁気記録媒体1の回転数は300rpm、ワイピングテープの送り速度は10mm/秒、ワイピングテープを磁気記録媒体1に押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。ワイピング処理に際してワイピングテープにパーフルオロポリエーテルを噴霧し、テープ表面に約0.01μmの潤滑剤層を形成した。
【0144】
ワイピング処理を施した磁気記録媒体1に対してバーニッシュ加工を施した。バーニッシュテープには、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上に、平均粒径0.5μmの結晶成長タイプのアルミナ粒子をエポキシ樹脂で固着したものを用いた。バーニッシュ加工において、磁気記録媒体1の回転数は300rpm、研磨テープの送り速度は10mm/秒、研磨テープを磁気記録媒体1に押し当てる際の押圧力は98mN、処理時間は5秒間とした。
【0145】
バーニッシュ加工を施した磁気記録媒体1についてネオアーク社製のBH−810CPCを用いて保磁力Hcを測定した。測定は磁気記録媒体1の最外周トラックから最内周トラックまで等間隔で8点測定し、その測定値を直線で近似した。その結果、一方のデータ面(A面)の最内周のトラックの保磁力は4350Oe、最外周のトラックの保磁力は4200Oeであり、他方の面(B面)の最内周のトラックの保磁力は4400Oe、最外周のトラックの保磁力は4250Oeであった。
この磁気記録媒体1について直流磁化による初期磁化を施した。具体的には、磁気記録媒体1の両データ面を貫通する10kOeの直流磁界を3秒間加えた。
【0146】
(マスタ情報記録体の準備)
マスタ情報記録体200には、271kトラック/インチのサーボ信号等のパターンが形成されており、トラックTは幅120nm、トラックT間の幅60nmで、パターンの段差は45nmである。マスタ情報記録体200には、凸部を構成するNi製の基体201の上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜、マスタ磁性層202として層厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜、および、層厚15nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜、マスタ保護層203として層厚20nmのCVD炭素膜を、この順で積層した。
【0147】
(磁気転写工程)
初期磁化を施した磁気記録媒体1に対して、上記のマスタ情報記録体200および図5に記載の構造の検査・磁気転写装置10を用いて磁気転写を行った。磁気転写に際しては、磁気記録媒体1の両データ面にマスタ情報記録体200を98mNの圧力で密着させ、マスタ情報記録体200の裏面から転写用の直流磁界を印加した。直流磁界の印加はマスタ情報記録体200の裏面で距離約3mmの位置に1.2テスラの残留磁束密度を有する焼結磁石(NdFeB系、長さ30mm、厚さ10mm、幅10mm)を、図16に示すように磁気記録媒体1の半径方向に設けて行った。そして、焼結磁石は前述の磁気記録媒体1の半径方向の保磁力分布に基づいて、A面では内周側の焼結磁石と磁気記録媒体1間の距離を2.5mm、外周側を3.0mm、B面では内周側の焼結磁石と磁気記録媒体1間の距離を2.4mm、外周側を2.9mmとした。焼結磁石の回転速度は1回/秒、磁気転写時間は3秒間とした。
【0148】
(特性評価)
上記方法で製造した磁気記録媒体1のサーボ信号の再生特性を、リードライトアナライザ(型番:RWA1632;米国GUZIK社製)、及び、スピンスタンド(型番:S1701MP)を用いて測定した。この装置では、磁気記録媒体1に記録されたサーボ信号等を読み込み、この信号を用いて磁気ヘッドの位置決めができる。この際、評価用の磁気ヘッドとして、TuMR(Tunneling Magneto-Resistive)を用いた磁気ヘッドを使用してサーボ信号の読み込み時のS/N比を評価した。サーボ信号の読み込みは、磁気記録媒体1の最内周のトラックTから最外周のトラックTまで等間隔に20トラックを評価し、その平均値を求めた。その結果、実施例の磁気記録媒体1のS/N比は16.3dBであった。
【0149】
<比較例>
実施例の磁気記録媒体1について同様に磁気転写を行ったが、焼結磁石の位置調整を行わず、焼結磁石と磁気記録媒体1との距離をA面、B面共に内周側3.0mm、外周側3.0mmとした。この磁気記録媒体1について、実施例と同様にサーボ信号の読み込み評価を行ったが、S/N比は16.0dBであった。
【符号の説明】
【0150】
1…磁気記録媒体、10…検査・磁気転写装置、11…基台、12…転写前媒体収容部、13…転写前検査部、14…磁気転写部、15…転写済媒体収容部、16…不具合品収容部、17…移載部、18…スカラ・ロボット、19…位置検出部、20…振動検出部、70…コントローラ、100…基板、110…密着層、120…軟磁性下地層、130…配向制御層、140…非磁性下地層、150…垂直記録層、160…保護層、170…潤滑層、180…積層基板、200…マスタ情報記録体、201…基体、202…マスタ磁性層、203…マスタ保護層、204…凸部、205…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体における当該磁性層の保磁力の分布を測定する工程と、
パターンが形成されたパターン形成体の当該パターンの形成面に前記磁性層を対峙させて当該磁気記録媒体を位置決めする工程と、
前記パターン形成体および位置決めされた前記磁気記録媒体を挟んで対向配置された一対の磁石の位置関係を、前記磁性層の保磁力の分布の測定結果に基づいて調整する工程と、
位置関係が調整された前記一対の磁石の間に発生する磁場を用いて、前記パターン形成体に形成された前記パターンを前記磁気記録媒体に磁気的に転写する工程と
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁気記録媒体が円盤状の形状を有している場合において、
前記測定する工程では、前記磁気記録媒体の当該磁性層における半径方向の保磁力の分布を測定し、
前記調整する工程では、前記磁気記録媒体に対する当該一対の磁石の取り付け角度を調整し、
前記転写する工程では、前記磁気記録媒体の周方向に沿って前記一対の磁石を移動させることを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁気記録媒体が円盤状の形状を有している場合において、
前記測定する工程では、前記磁気記録媒体の当該磁性層における半径方向の保磁力の分布を測定し、
前記調整する工程では、前記一対の磁石と前記磁気記録媒体との距離を調整し、
前記転写する工程では、前記磁気記録媒体の周方向に沿って前記一対の磁石を移動させることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体における当該磁性層の保磁力の分布を測定する工程と、
パターンが形成されたパターン形成体の当該パターンの形成面に前記磁性層を対峙させて前記磁気記録媒体を位置決めする工程と、
前記磁性層の保磁力の分布の測定結果に基づいて、当該磁性層のうち前記保磁力の大きい領域に印加される磁場の強さが当該保磁力の小さい領域に印加される磁場の強さよりも強くなるように、前記パターン形成体と前記磁気記録媒体とを挟んで磁場を印加する工程と
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記位置決めする工程では、前記パターンとして凹凸が形成された前記パターン形成体と前記磁気記録媒体とを密着させることを特徴とする請求項4記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
パターンが形成されたパターン形成体と、
前記パターンの形成面を露出させた状態で前記パターン形成体を保持する保持体と、
基板上に磁性層が積層された磁気記録媒体を、前記パターン形成体の前記パターンの形成面に接触させた状態で取り付ける取り付け部と、
前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体と前記パターン形成体とを挟むように配置される一対の磁石と、
前記磁気記録媒体における前記磁性層の保磁力の分布に基づいて前記一対の磁石の位置関係を調整する調整部と、
前記調整部によって位置が調整された前記一対の磁石を同期して移動するように駆動する磁石駆動部と
を含む磁気記録媒体の製造装置。
【請求項7】
前記磁気記録媒体は円盤状の形状を有し、
前記一対の磁石は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体の半径方向に沿って配置され、
前記調整部は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体に対する前記一対の磁石の取り付け角度を調整し、
前記磁石駆動部は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体の周方向に沿って前記一対の磁石を移動させること
を特徴とする請求項6記載の磁気記録媒体の製造装置。
【請求項8】
前記磁気記録媒体は円盤状の形状を有し、
前記一対の磁石は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体の半径方向に沿って配置され、
前記調整部は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体に対する前記一対の磁石の距離を調整し、
前記磁石駆動部は、前記取り付け部によって取り付けられた前記磁気記録媒体の周方向に沿って前記一対の磁石を移動させること
を特徴とする請求項6または7記載の磁気記録媒体の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate